コバルトの検出用試薬及び検出用試験材、並びにコバルトの検出方法

【課題】呈色反応を利用し、検査試料に付着するコバルトの有無を検出するのに有用な検出用試薬を提供することにある。
【解決手段】コバルトの検出用試薬は、ニトロソR塩、pH緩衝剤及びコバルトをイオン化させる酸を含有し、pHが4〜8に調整されている。また、この試薬は、pH緩衝剤として、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、リン酸及びホウ酸から選択された少なくとも一つを含有することが好ましい。この試薬を使用することで、例えば検査試料にこの試薬を塗布、噴霧、滴下、添加したり、或いは検査試料をこの試薬中に浸漬するなどの簡便な操作により、その場で検査試料に付着するCoの有無を迅速に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトの検出用試薬及び検出用試験材、並びにコバルトの検出方法に関する。更に詳しくは、呈色反応を利用し、検査試料に付着するコバルトの有無を検出するのに有用な検出用試薬、及びこの試薬を試薬担体に染み込ませてなる検出用試験材、並びにこの試薬を使用して、検査試料に付着するコバルトの有無を簡便に検出する検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密な半導体部品、自動車部品、電子材料の分野では、微量付着異物の影響により、その性能が低下する恐れがある。例えば付着異物中の金属成分は、製品の電気的な性能に悪影響を及ぼす場合がある。しかし、末端の部品に至るまで全てを高度なクリーンルームなどの管理された環境下で製造、保管することは困難である。また、全ての異物ではなく、特定の元素(例えばCo)の存在を検出するだけでも、品質管理上有益である場合もある。
【0003】
ところで、試料中に含まれるCoを定量分析する方法として、ニトロソR塩吸光光度法、原子吸光法、ICP発光分光法などのCoの定量方法が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。また、Coを検出する方法としては、蛍光X線分析法やEDX、EPMAなどの特性X線を利用した分析法といったCoの検出方法が知られている。
【0004】
例えば、ニトロソR塩吸光光度法は、Coと反応して水に可溶の赤色錯体を生成するニトロソR塩を使用して行うCoの定量方法であり、その一般的な操作手順は次のとおりである。試料を酸やアルカリで全量を完全に分解・溶解する。この溶液にクエン酸溶液、リン酸・ホウ酸緩衝溶液などを加え、溶液のpHを調整する。ニトロソR塩溶液を加え、煮沸してCoを呈色させた後、硝酸を加えて再び煮沸する。室温に冷却後、光度計を用いて吸光度を測定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】無機応用比色分析編集委員会、「無機応用比色分析2」、共立出版株式会社、1974年、p.34‐38
【非特許文献2】「銅及び銅合金中のコバルト定量方法」、日本工業規格、JIS H 1060:2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したCoが製品性能に及ぼす悪影響の具体例としては、次のものが挙げられる。まず、電池内部へのCoの付着・混入は、電池寿命の低下などの問題を引き起こす場合がある。そのため、電池及び構成部品の製造工程において、Coを管理する必要がある。
【0007】
次に、金型や切削工具におけるCo成分の露出による性能の低下が挙げられる。金型や切削工具の母材として、タングステンカーバイト(WC)とCoの粉末を混合し、これを成形し焼結したWC‐Co超硬合金が知られている。WC‐Co超硬合金は、その表面にセラミックなどの被覆層を被覆することで、金型における型離れ性や切削工具における耐摩耗性の改善が図られている。
【0008】
ところで、表面にセラミックなどの被覆層を有する超硬合金製の金型や切削工具において、被覆層に部分的剥離或いは亀裂などの欠陥が生じていると、上記したような改善効果が十分に得られない。そのため、品質保証の観点から、被覆層の欠陥、即ち母材の超硬合金に含まれるCoが露出しているか否かを非破壊で簡易に検出したい要望がある。また、超硬合金製の金型や切削工具では、表面の被覆層の摩滅に気付かずにそのまま使用し続けると、加工対象となる製品の表面品質に悪影響を及ぼす他、工作機械本体に悪影響を及ぼす可能性もある。
【0009】
このような事情から、簡便な操作により、作業現場においてCoの有無を迅速に検出することができれば、非常に有用であると考えられる。
【0010】
しかし、ニトロソR塩吸光光度法を含めて、上記したCoの定量方法では、その操作手順からして、試料中のCoを定量するに先立ち、いずれも前処理として試料を酸などで全量を完全に分解・溶解する溶解作業が必要である。そのため、操作手順が多く、複雑であり、その場で即時に検査結果を提供することが難しい。
【0011】
さらに、上記したCoの定量方法、特に原子吸光法やICP発光分光法では、原子吸光光度計やICP発光分光装置といった特殊な装置を使用しており、高度な専門知識が必要であり、費用もかかる。また、上記したCoの検出方法である、蛍光X線分析法やEDX、EPMAなどの特性X線を利用した分析法においても、特殊な装置、高度な専門知識、多大な費用が必要である。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、呈色反応を利用し、検査試料に付着するコバルトの有無を検出するのに有用な検出用試薬及び検出用試験材を提供することにある。また、別の目的は、その試薬を使用して、検査試料に付着するコバルトの有無を簡便に検出する検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のコバルトの検出用試薬は、ニトロソR塩、pH緩衝剤及びコバルトをイオン化させる酸を含有し、pHが4〜8に調整されていることを特徴とする。
【0014】
この試薬は、例えば検査試料に試薬を塗布、噴霧、滴下、添加したり、或いは検査試料を試薬中に浸漬するなどして、試薬と検査試料とを接触させるだけの簡便な操作により、その場で検査試料に付着するCoの有無を迅速に検出することができる。この試薬は、試薬中に含まれるニトロソR塩がCoイオンと反応して赤色錯体を生成することによる呈色反応を利用し、試薬の色変化を肉眼又は顕微鏡にて目視観察して赤色の発色が認められた場合には、検査試料にCoが存在していると判定するのに有用である。ニトロソR塩自体は黄色である。また、この試薬は、ニトロソR塩にpH緩衝剤を予め添加して、pHが規定範囲内となるように調整されており、CoとニトロソR塩との反応を促進させて発色度合いを高め、色変化の判定が行い易い。なお、コバルトをイオン化させる酸としては、例えばクエン酸、酒石酸、シュウ酸などが挙げられ、これらを単独で又は組み合せて用いてもよい。
【0015】
本発明のコバルトの検出用試験材は、ニトロソR塩、pH緩衝剤及びコバルトをイオン化させる酸を含有し、pHが4〜8に調整された試薬と、多孔質材からなる試薬担体とを有し、この試薬担体に試薬を染み込ませたことを特徴とする。
【0016】
この試験材は、上記した本発明の試薬を試薬担体に染み込ませた構成である。試薬担体は、多孔質材からなり、染み込ませた試薬を担持することができる。多孔質材としては、高分子からなるもの、例えば紙、布、スポンジなどが挙げられる。また、試験担体は、試薬の色変化の判定が行い易いように白色であることが好ましく、例えば市販のろ紙を用いてもよい。試験担体の形状は、特に限定されず、シート状やブロック状とすることができる。
【0017】
本発明のコバルトの検出方法は、次の工程を備えることを特徴とする。
(1)ニトロソR塩、pH緩衝剤及びコバルトをイオン化させる酸を含有し、pHを4〜8に調整した試薬を用意する工程
(2)試薬と検査試料とを接触させ、呈色反応を行わせる工程
(3)試薬の色の変化から、検査試料に付着するCoの有無を判定する工程
【0018】
この方法は、上記した本発明の試薬を使用して、検査試料に付着するCoの有無を検出する方法であり、従来必須であった試料の溶解作業を不要とし、Coの有無をその場で迅速且つ簡便に検出することができる。試薬と検査試料とを接触させる時間は、CoとニトロソR塩との反応が十分に進行する程度の範囲内で調節すればよく、例えば1分以上とすることが好ましい。また、検査試料は、固体であってもよいし、液体であってもよい。
【0019】
試薬と検査試料とを接触させる一つの手段として、検査試料に対する試薬の塗布、噴霧、滴下、添加のいずれか又は検査試料の試薬への浸漬のうち少なくとも一つを用いることができる。
【0020】
例えば作業環境中の浮遊粉塵に付着するCoを検出する場合、採取した粉塵を検査試料とし、この粉塵を試薬中に浸漬する、或いは粉塵が吸着されたエアフィルタに試薬をスプレーなどで噴霧することが挙げられる。また、例えば製品表面に付着するCoを検出する場合、製品を検査試料とし、製品の検査面に試薬をスポイトなどで滴下したり、スプレーなどで噴霧したり、筆や刷毛或いはスポンジローラなどで塗布する、或いは製品の検査面を試薬中に浸漬することが挙げられる。一方、検査試料が液体の場合は、例えばこの液体試料に試薬を添加することが挙げられる。
【0021】
試薬と検査試料とを接触させる別の手段としては、試薬を染み込ませた多孔質材からなる試薬担体を用意し、この試薬担体と検査試料とを接触させることが挙げられる。
【0022】
この手段は、上記した本発明の試験材を活用したCoの検出方法である。検査試料に対して試薬を塗布するなどの上述した手段では、検査試料が有色の場合にこの色が背景色となって試薬の色変化の判定が行い難いケースが考えられる。しかし、この手段によれば、試薬を染み込ませた試薬担体(試験材)と検査試料とを接触させて試薬を発色させることで、検査試料の色に左右されることなく、色変化の判定が行い易くなる。試薬担体と検査試料とを接触させる具体的な手段としては、例えば試薬担体を検査試料に押し付けたり、或いは検査試料を試薬担体に載置することが挙げられる。
【0023】
その他、多孔質材からなる試薬担体を用意し、試薬中に検査試料を浸漬した後、この検査試料の浸漬面を試薬担体に押し付けて、試薬を試薬担体に転写し、この試薬担体に転写された試薬の色の変化から、検査試料に付着するCoの有無を判定してもよい。
【0024】
このように、試薬中に検査試料を浸漬して検査試料に塗布した試薬を、試験担体に転写することでも、検査試料の色に左右されることなく、色変化の判定が行い易くなる。なお、この試験担体には、上記した本発明の試験材で説明した試薬担体と同じものを用いることができる。
【0025】
本発明において、試薬は、pH緩衝剤として、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、リン酸及びホウ酸から選択された少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0026】
これら列挙したpH緩衝剤は、CoとニトロソR塩の反応を妨害することがない或いは少ないため、好適である。中でもクエン酸は、コバルトをイオン化させる酸としても機能することから選択することが望ましい。pH緩衝剤は、単独で又は組み合せて用いてもよい。また、pH緩衝剤としてクエン酸、水酸化ナトリウム、リン酸及びホウ酸を選択するときは、pHは中性に近い値に調整することが好ましく、特に8前後が好適である。一方、pH緩衝剤として酢酸を選択するときは、pHは4に近い値に調整することが好ましい。
【0027】
試薬中におけるニトロソR塩の濃度は、目視にて色変化の度合いを観察できる程度であればよく、例えば0.1mg/mL以上5mg/mL以下が好ましい。また、試薬中におけるコバルトをイオン化させる酸の濃度は、0.01mole/L以上0.1mole/L以下が好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のコバルトの検出用試薬及び試験材は、簡便な操作により、その場で検査試料に付着するCoの有無を迅速に検出することができる。また、本発明のコバルトの検出方法は、上記した本発明の試薬を使用して、検査試料に付着するCoの有無をその場で迅速且つ簡便に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実験例4で用いた切削チップを説明するための模式図である。
【図2】実験例4の実験手順1で切削チップの上面に押し付けた試験材の変色結果を示す観察図である。
【図3】実験例4の実験手順1で切削チップの下面に押し付けた試験材の変色結果を示す観察図である。
【図4】実験例4の実験手順2を説明するための模式図である。
【図5】実験例4の実験手順2で切削チップの上面を浸漬面としたときの、ろ紙に転写された試薬の変色結果を示す観察図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実験例1)
下記の試薬を用いて以下に示す手順によって、Coの有無を検出することができるか否かの実験を行った。
[使用する試薬]
ニトロソR塩溶液:ニトロソR塩0.2gを水100mLに溶解したもの
クエン酸溶液:クエン酸を水に溶解し、濃度を0.2M(=0.2mole/L)に調整したもの
リン酸・ホウ酸緩衝溶液:ホウ酸0.62g、リン酸水素二ナトリウム(二水塩)3.56g、水酸化ナトリウム2gを水に溶かし、100mLとしたもの
【0031】
[実験手順]
(1)シャーレにCo粉末(平均粒度0.5μm)10mgを入れ、これにクエン酸溶液1mLを加える。
(2)次に、リン酸・ホウ酸緩衝溶液を1〜2mL加えてpHを8に調整する。pHの調整・確認は市販のユニバーサル試験紙を用いて行う。
(3)pH調整後、ニトロソR塩溶液0.5mLを加えて3分間放置して、これを試験液とする。このとき試験液のpHはほとんど変動することがなく、8である。
(4)Co粉末を入れずに同様の手順を行って作製した標準液と試験液とを肉眼にて目視観察して、比色する。
【0032】
実験の結果、標準液は黄色であったが、試験液ではオレンジ色に変色していることが認められた。これは、ニトロソR塩がCoと反応して錯体を生成し、赤色に発色したことが原因と考えられ、このような手順を採ることで、試薬の色変化からCoの有無を目視で判定することができ、Coの検出が可能であることが分かる。
【0033】
(実験例2)
実験例1に記載の試薬を用いて、発泡状ニッケルに付着するCoの有無を検出することができるか否かの実験を行った。また、発泡状ニッケルには、住友電気工業株式会社製のセルメット(登録商標)を用いた。
【0034】
ところで、発泡状ニッケルは、例えばニッケル‐水素電池やニッケル‐カドミウム電池などのアルカリ二次電池の正極として広く使用されているが、Coが付着していると電池性能に悪影響を及ぼす。そのため、発泡状ニッケルに付着するCoの有無を検出して健全性を検査することは、品質保証の観点から重要であると考えられる。
【0035】
本実験では、市販のセルメットを比較試料、このセルメットの表面にCo粉末を刷り込んだものを検査試料とし、次の手順により実験を行った。クエン酸溶液5mL中に比較試料を浸漬し10分経過後、リン酸・ホウ酸緩衝溶液を5〜7mL加えてpHを8に調整したのち、ニトロソR塩溶液3mlを加える。このとき最終的なpHは8であった。また、検査試料についても、同様の手順を行う。そして、比較試料を浸漬した場合と、検査試料を浸漬した場合のそれぞれの場合において、1分間放置した後の試薬の色変化を肉眼にて目視観察する。
【0036】
実験の結果、比較試料では、実験例1の標準液と比べて試薬の黄色が若干濃くなることが認められたが、赤色の発色は認められなかった。これに対し、検査試料では、試薬がオレンジ色に変色し、赤色の発色が認められた。つまり、このような手順を採ることで、試薬の色変化から検査試料に付着するCoの有無を目視で判定することができ、Coの検出が可能であることが分かる。また、この実験結果からニッケルが固体金属状態で共存していても、試薬の色変化の判定には影響がないことが分かる。
【0037】
(実験例3)
本発明のCoの検出用試薬及び検出用試験材を用いて、Coの有無を検出する実験を行った。
【0038】
実験例3の実験手順1では、実験例1に記載のクエン酸溶液10mLにリン酸・ホウ酸緩衝溶液を10〜15mL加えてpHを8に調整したのち、ニトロソR塩溶液5mLを混合した試薬Aを用意し、この試薬A中に実験例1と同じCo粉末を投入して浸漬することを行った。その結果、試薬Aが1分以内に黄色からオレンジ色に変色することが肉眼で認められた。なお、試薬AのpHは8であった。
【0039】
また、実験例3の実験手順2では、試薬Aをろ紙(試薬担体)に染み込ませた試験材Aを用意し、この試験材Aに実験例2で用いた検査試料(表面にCo粉末を刷り込んだセルメット)を載置することを行った。その結果、試験材Aにおける検査試料を載置した部分の試薬Aが1分以内に黄色からオレンジ色に変色することが肉眼で認められた。
【0040】
以上の実験結果から、試薬Aを使用して、この試薬と検査試料とを接触させた後、試薬の色変化を目視観察することにより、その色変化から検査試料に付着するCoの有無を目視により簡単に判定できることが分かる。そして、試薬Aを使用することで、検査試料に付着するCoの有無を迅速且つ簡便に検出することができ、例えば作業環境中のCoを検出したり、発泡状ニッケルの健全性を非破壊で検査することができる。また、試験材Aを使用することで、発泡状ニッケルの色が試薬の色変化の判定に及ぼす影響をなくすことができ、色変化の判定が行い易くなる。
【0041】
(実験例4)
実験例3の試薬A及び試験材Aを用いて、表面にセラミック被覆層(母材側:TiCN(厚さ約5μm)、表面側:Al2O3(厚さ約2μm)の二層構造)を有するWC‐Co超硬合金製の刃先交換型切削チップにおける被覆層の健全性を検査する実験を行った。
【0042】
本実験では、表面被覆刃先交換型切削チップとして、住友電工ハードメタル株式会社製の菱形形状のものを用い、図1に示すように、切削チップ1の上面10におけるエッジ部分(図中、ハッチングを施した部分)を研磨して、この部分において母材の超硬合金を露出させた。また、このチップを蒸留水中で60分間超音波洗浄した後、乾燥させて検査試料とした。
【0043】
実験例4の実験手順1では、検査試料とした切削チップ1の上面10に試験材Aを1分間押し付けて剥がした後、試験材Aの色変化を肉眼にて目視観察することを行った。その結果、試験材Aにおける切削チップ上面の超硬合金を露出させたエッジ部分を押し付けた部分が黄色からオレンジ色に変色していることが認められた(図2参照)。次いで、切削チップの下面についても、同様の手順を行ったところ、試験材Aには変色が認められなかった(図3参照)。
【0044】
また、実験例4の実験手順2では、検査試料とした切削チップ1の上面10を試薬A中に浸漬した後(図4(A)参照)、この浸漬面をろ紙Pに1分間押し付けて試薬Aをろ紙Pに転写した(図4(B)参照)。そして、ろ紙に転写された試薬Aの色変化を肉眼にて目視観察することを行った。その結果、試薬Aが転写されたろ紙における切削チップ上面の超硬合金を露出させたエッジ部分に対応する部分がオレンジ色に変色していることが認められた(図5参照)。次いで、切削チップの下面についても、同様の手順を行ったところ、転写された試薬Aには変色が認められなかった。
【0045】
以上の実験結果から、試薬Aを使用して、この試薬と表面被覆超硬合金製切削チップの表面とを接触させた後、試薬の色変化を目視観察することにより、試薬の色変化から切削チップにおける母材の露出の有無を目視により簡単に判定できることが分かる。つまり、試薬Aを使用することで、被覆層の剥離或いは亀裂などの欠陥を非破壊で迅速且つ簡便に検出することができ、切削チップにおける被覆層の健全性を検査することができる。また、試薬A中に切削チップを浸漬した後、この浸漬面をろ紙に押し付けて試薬Aをろ紙に転写することでも、試薬の色変化の判定を行うことができる。
【0046】
なお、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、試薬中におけるニトロソR塩の濃度、及び使用するpH緩衝剤とコバルトをイオン化させる酸の種類並びにこれらの試薬中における濃度を適宜変更してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のコバルトの検出用試薬及び検出用試験材、並びにコバルトの検出方法は、検査試料に付着するCoの有無をその場で迅速且つ簡便に検出することができる。例えば、作業環境中のCoの検出や、発泡状ニッケルの健全性又は表面被覆超硬合金製切削チップにおける被覆層の健全性の検査に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 切削チップ 10 上面 P ろ紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロソR塩、pH緩衝剤及びコバルトをイオン化させる酸を含有し、pHが4〜8に調整されていることを特徴とするコバルトの検出用試薬。
【請求項2】
前記pH緩衝剤が、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、リン酸及びホウ酸から選択される少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1に記載のコバルトの検出用試薬。
【請求項3】
ニトロソR塩、pH緩衝剤及びコバルトをイオン化させる酸を含有し、pHが4〜8に調整された試薬と、多孔質材からなる試薬担体とを有し、
前記試薬担体に前記試薬を染み込ませたことを特徴とするコバルトの検出用試験材。
【請求項4】
ニトロソR塩、pH緩衝剤及びコバルトをイオン化させる酸を含有し、pHを4〜8に調整した試薬を用意する工程と、
前記試薬と検査試料とを接触させ、呈色反応を行わせる工程と、
前記試薬の色の変化から、前記検査試料に付着するコバルトの有無を判定する工程とを備えることを特徴とするコバルトの検出方法。
【請求項5】
前記試薬と前記検査試料とを接触させる手段として、前記検査試料に対する前記試薬の塗布、噴霧、滴下、添加のいずれか又は前記検査試料の前記試薬への浸漬のうち少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項4に記載のコバルトの検出方法。
【請求項6】
前記試薬を染み込ませた多孔質材からなる試薬担体を用意し、
前記試薬担体と前記検査試料とを接触させることで、前記試薬と前記検査試料とを接触させることを特徴とする請求項4に記載のコバルトの検出方法。
【請求項7】
多孔質材からなる試薬担体を用意し、
前記試薬中に前記検査試料を浸漬した後、この検査試料の浸漬面を前記試薬担体に押し付けて、前記試薬を前記試薬担体に転写し、
この試薬担体に転写された前記試薬の色の変化から、前記検査試料に付着するコバルトの有無を判定することを特徴とする請求項4に記載のコバルトの検出方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−160113(P2010−160113A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3889(P2009−3889)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】