説明

コバルト含有ガラス、青色フィルタおよび放射線画像読取装置

【課題】励起光遮断特性を高めることにより、励起光カットフィルタの厚みを従来の色ガラス材よりも薄くできる色ガラス材を提供する。
【解決手段】 陽イオンとして、陽イオン%表示で、
Si4+ 25〜60%
Al3+ 3〜19%
3+ 18〜38%
9〜31%
Co2+ 0.1〜1.5%
を含み、陰イオンとして、O2−を主成分として含み、さらに陰イオン%表示で、
1〜12%
Cl 0.01〜2%
を含むことを特徴とするコバルト含有ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト含有ガラス、青色フィルタおよび放射線画像読取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病気の診断等に広く用いられている放射線画像読取装置は、放射線画像が記録された輝尽性蛍光体プレートに励起光を照射する走査光学系と、励起光により発生する輝尽性蛍光体プレートからの輝尽光を光電変換素子に導く集光光学系とを備ており、放射線画像が記録された輝尽性蛍光体プレートに励起光を照射することにより生じた輝尽光を光電変換素子で電気信号に変換し、変換された電気信号を写真フィルムやディスプレイ上に放射線画像として再生するものである(特許文献1および2参照)。
【0003】
励起光は輝尽光を生じさせないために必要であるが、輝尽性蛍光体プレート面で拡散された励起光が光電変換素子まで到達すると、ノイズとなって画像を劣化させるため、輝尽光を採取する導光板と光電変換素子との間に、励起光を吸収するための励起光カットフィルタが設けられており、励起光カットフィルタとして色ガラス材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−163895号公報
【特許文献2】特開2008−83477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、放射線画像読取装置のサイズの小型化のためには放射線画像変換パネルと輝尽光検出手段との間の間隔をできるだけ短くしたいという要請があった。特に結像光学系を通して輝尽発光光を検出する手段を備えた装置の場合には、輝尽光検出手段を放射線画像変換パネルに接近させて結像光学系の開口数(NA)を大きくすることが、より解像力を高めることになる。そのようにするための方策のひとつとして、放射線画像変換パネルと輝尽光検出手段との間に配置された励起光カットフィルタの厚みを薄くすることが挙げられる。
しかしながら、励起光カットフィルタを構成している色ガラス材の材質を改良して、色ガラス材の励起光を遮断する特性を高めることにより、励起光カットフィルタの厚さを薄くすることは難しいとされてきた。
【0006】
本発明は、励起光遮断特性を高めることにより、励起光カットフィルタの厚みを従来の色ガラス材よりも薄くできる色ガラス材を提供することを第1の目的とするものである。
また本発明は、上記色ガラス材からなるフィルタおよび該フィルタを用いた放射線画像読取装置を提供することを第2および第3の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の第1、第2および第3の目的を達成する本発明は、下記の(1)〜(7)からなるものである。
(1)陽イオンとして、陽イオン%表示で、
Si4+ 25〜60%
Al3+ 3〜19%
3+ 18〜38%
9〜31%
Co2+ 0.1〜1.5%
を含み、陰イオンとして、O2−を主成分として含み、さらに陰イオン%表示で、
1〜12%
Cl 0.01〜2%
を含むことを特徴とするコバルト含有ガラス(以下、「コバルト含有ガラスI」という)、
(2)重量%表示で、
SiO 25〜65%
Al 3〜18%
10〜27%
O 9〜23%
CoO 0.1〜1.5%
1〜13%
Cl 0.1〜5.5%
を含むガラス原料を熔解してなることを特徴とするコバルト含有ガラス(以下、「コバルト含有ガラスII」という)、
(3)上記(1)または(2)項に記載のコバルト含有ガラスからなることを特徴とする青色フィルタ、
(4)ガラスの厚みが5mmの場合の波長660nmの内部透過率が1×10−10以下であることを特徴とする上記(3)項に記載の青色フィルタ、
(5)励起光カット用であることを特徴とする上記(3)または(4)項に記載の青色フィルタ、
(6)放射線画像読取装置に用いられることを特徴とする上記(3)〜(5)項のいずれかに記載の青色フィルタ、および
(7)上記(3)〜(6)項のいずれかに記載の青色フィルタからなる励起光カットフィルタを含むことを特徴とする放射線画像読取装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、励起光遮断特性が高められ、励起光カットフィルタの厚みを従来の色ガラスよりも薄くすることができるコバルト含有ガラスを提供することができた。
また本発明によれば、上記コバルト含有ガラスからなる青色フィルタおよび該青色フィルタを用いた放射線画像読取装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1a】従来の市販フッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材(厚さ10mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図1b】従来の市販フッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材(厚さ10mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図2a】実施例1〜3のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図2b】実施例1〜3のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図3a】実施例4〜6のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図3b】実施例4〜6のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図4a】実施例7〜9のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図4b】実施例7〜9のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図5a】実施例10〜12のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図5b】実施例10〜12のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図6a】実施例13〜15のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図6b】実施例13〜15のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図7a】実施例16〜18のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図7b】実施例16〜18のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図8a】実施例19〜21のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図8b】実施例19〜21のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図9a】実施例22〜24のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図9b】実施例22〜24のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図10a】実施例25〜28のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図10b】実施例25〜28のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図11a】比較例1〜4のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図11b】比較例1〜4のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図12a】比較例5および6のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長300〜800nmにおける内部透過率曲線を示す。
【図12b】比較例5および6のコバルト含有ガラス(厚さ5mm)の波長600〜750nmにおける内部透過率曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[コバルト含有ガラスI]
本発明のコバルト含有ガラスIは、
陽イオンとして、陽イオン%表示で、
Si4+ 25〜60%
Al3+ 3〜19%
3+ 18〜38%
9〜31%
Co2+ 0.1〜1.5%
を含み、陰イオンとして、O2−を主成分として含み、さらに陰イオン%表示で、
1〜12%
Cl 0.01〜2%
を含むことを特徴とするものである。
【0011】
(ガラスの組成)
先ず、本発明のコバルト含有ガラスIの組成限定理由について説明する。
SiOはガラス内で、ガラス形成酸化物として働く。一般的に、SiO量が多くなるに従って、ガラスとしてより安定していくが、粘性は極端に増加していく。Si4+が60陽イオン%より多くなると、660nmの吸収が減少し、励起光遮断特性を高めることが困難になる。また、粘性が大きく増加するので、ガラス熔解性が極端に悪化する。一方、Si4+が25陽イオン%より少なくなると、低粘性化しガラス熔解性は良化するが、化学的耐久性が悪化する。従って、本発明のコバルト含有ガラスIにおいて、Si4+量は25〜60陽イオン%に限定される。
Si4+量は、30〜51陽イオン%が好ましく、34〜40陽イオン%がより好ましい。
【0012】
Alはガラス内で、ガラス中間酸化物として働く。一般的に、多成分系ガラスにおいて、化学的耐久性を上げる役目をAlが担う。Al3+が19陽イオン%より多いときには、分相傾向を増す。一方、Al3+が3陽イオン%より少ないときにも、分相傾向が増し、化学的耐久性が減少し、660nmの吸収が減少する。従って、本発明のコバルト含有ガラスIにおいて、Al3+量は、3〜19陽イオン%に限定される。
Al3+量は、5〜17陽イオン%が好ましく、7〜13陽イオン%がより好ましい。
【0013】
はガラス内で、ガラス形成酸化物として働く。一般的に、Bはガラス熔解性を向上させる役目を担う。B3+が38陽イオン%より多いときには、透過率において、660nmの吸収が増加するが、化学的耐久性が大きく減少する。一方、B3+が18陽イオン%より少ないときには、660nmの吸収が減少する。従って、本発明のコバルト含有ガラスIにおいて、B3+量は18〜38陽イオン%に限定される。
3+量は、21〜35陽イオン%が好ましく、24〜35陽イオン%がより好ましい。
【0014】
Oはガラス内で、ガラス修飾酸化物として働く。一般的に、KOはガラス粘性を下げてガラスを安定化させる役目を担う。Kが31陽イオン%より多いときには、分相傾向が増し、化学的耐久性を減少させる。一方、Kが9陽イオン%より少ないときには、粘性が高くなり熔解性を減少させる。従って、本発明のコバルト含有ガラスIにおいて、K量は9〜31陽イオン%に限定される。
量は、11〜28陽イオン%が好ましく、13〜26陽イオン%がより好ましい。
【0015】
CoOは本ガラスでは塩素イオンと一緒になって、着色を担う。コバルト含有ガラスにおいて、コバルトイオン(Co2+)に塩素イオン(Cl)が4個配位した錯イオンがあたかも形成されたかのような着色部分と、CoOが単独で発色した着色部分とが共存して500−750nmの吸収帯を形成する。Co2+が1.5陽イオン%より多いときには、500−600nmの吸収が増加し、励起光カットフィルタに必要な厚みのガラスにしたとき、400nm付近までその吸収が裾を引き、400nm付近の透過率を悪化させる。一方、Co2+が0.1陽イオン%より少ないときには、 660nmの吸収を減少させる。従って、本発明のコバルト含有ガラスIにおいて、Co2+量は0.1〜1.5陽イオン%に限定される。
Co2+量は、0.1〜1.2陽イオン%が好ましく、0.1〜0.7陽イオン%がより好ましい。
【0016】
上述したように、コバルト含有ガラスにおいては、コバルトイオン(Co2+)に塩素イオン(Cl)が4個配位した錯イオンがあたかも形成されたかのような着色部分が形成されるが、Fは、この着色部分の発色性を補助する役目がある。Fが少ないと十分な吸収の大きさやピーク値が得られない。また、Fは粘性を下げる効果があり、粘性を上げるClと共存させることにより、熔解に適した粘性を生み出すことができる。Fが12陰イオン%より多いときには、650〜700nmの吸収帯はより急峻な透過率カーブを示し、透過率特性は良化するが、化学的耐久性が減少し、極薄い分相を示すようにもなる。一方、Fが1陰イオン%より少ないときには、粘性が高くなり熔解性が落ち、660nmの吸収も減少して、500−600nmの吸収が増加し、励起光カットに必要な厚みのガラスにしたとき、400nm付近までその吸収が裾を引き、400nm付近の透過率を悪化させたる。従って本発明のコバルト含有ガラスIにおいて、F量は1〜12陰イオン%に限定される。
量は、2〜11陰イオン%が好ましく、3〜9陰イオン%がよりに好ましい。
【0017】
Clは、コバルトイオンと一緒になって着色を担い、コバルトイオンにClが4個配位した錯イオンがあたかも形成されたかのような着色部分を作り出す。Clが2.0陰イオン%より多いときには、650〜700nmの吸収帯はより急峻な透過率カーブを示し、透過率特性は良化するが、粘性が高くなり熔解性が減少し、化学的耐久性も減少する。一方、Clが0.01陰イオン%より少ないときには、660nmの吸収が減少し、500−600nm領域では吸収が増加し、励起光カットに必要な厚みのガラスにしたとき、400nm付近までその吸収が裾を引き、400nm付近の透過率を悪化させる。従って本発明のコバルト含有ガラスIにおいて、Cl量は0.01〜2.0陰イオン%に限定される。
Cl量は、0.05〜1.3陰イオン%が好ましく、0.1〜0.8陰イオン%がよりに好ましい。
【0018】
本発明のコバルト含有ガラスIは、他の陽イオンとして、P5+、Na、Cs、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、La3+、Ti4+、Y3+、Zr4+、Nb5+、Ta5+、W6+、Bi3+、Fe3+、Sb3+、As3+を、他の陰イオンとしてBr、Iを本発明の目的を損わない範囲で含むことができる。
【0019】
特に、P5+、Na、Cs、Ba2+、Zr4+の好ましい含有量は下記のとおりである。
5+としては、0〜8陽イオン%
Naとして、0〜6陽イオン%
Csとして、0〜1陽イオン%
Ba2+として、0〜1陽イオン%
Zr4+として、0〜2陽イオン%
【0020】
本発明のコバルト含有ガラスIは、P5+、Na、Cs、Ba2+、Zr4+などを含有しても、300〜500nmの透過範囲および600〜700nmの吸収範囲における透過率をほとんど悪化させることがない。
【0021】
(ガラスの特性)
次に本発明のコバルト含有ガラスIの特性について説明する。
1.励起光遮断特性
本発明のコバルト含有ガラスIは、これに限定されるものではないが、励起光カットフィルタ、特に放射線画像読取装置に設けられる励起光カットフィルタに用いられるものであるため、必須の特性として励起光遮断特性を有する。
【0022】
本発明のコバルト含有ガラスIは励起光遮断特性に優れており、これを励起光カットフィルタに用いたときに厚みを従来より励起光カットフィルタとして用いられている市販フッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材に比べて薄くできる。このことを以下に説明する。
【0023】
励起光カットフィルタが励起光強度をどの程度減衰できれば、放射線像読取装置に適用できるかは、特許文献1によれば、励起光カットフィルタの透過率を1×10−10に、すなわち励起光強度を10桁程度減衰させることが適当であると例示されており、特許文献2には、励起光カットフィルタの透過率を1×10−8に、すなわち励起光強度を8桁減衰させることが適当であると例示されているが、これ以降では、より厳しい前者の透過率1×10−10に、すなわち励起光強度を10桁減衰させ得るものが必要特性であるとして述べていく。
【0024】
市販フッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材の10mm厚での内部透過率曲線を図1aに示す。横軸は波長を表し、波長範囲を300nmから800nmとし、縦軸は対数表示の内部透過率を表したものである。図1bは、波長範囲及び透過率範囲を狭めて、吸収帯を拡大して示したものである。図1aおよび図1bによれば、660nmの内部透過率は、1×10−10以下に、すなわち励起光強度は10桁以上減衰している。そして、輝尽発光光が存在する300〜500nmは十分な透過特性を示す。よって、輝尽性蛍光体を励起させる励起光波長が、特に650〜700nmの範囲であるとき、その波長範囲に吸収ピークを持つ10mm厚の市販フッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材は、励起光強度を10桁以上減衰させる能力を持つ励起光カットフィルタとして有用である。
【0025】
本発明のコバルト含有ガラスIは、後述する実施例1〜28(表1〜表5および図2a、図2b〜図10a、図10b参照)で実証されているように、厚みが市販フッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材の厚み10mmの1/2である5mmであっても波長660nmの内部透過率を市販フッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材と同様に1×10−10以下とすることができ、励起光強度を10桁以上減衰させることができる。
【0026】
2.化学的耐久性
本発明のコバルト含有ガラスIは、励起光カットフィルタとして用いたときの長時間使用可能性を確保するために化学的耐久性を有することが好ましい。
本発明のコバルト含有ガラスIのうちのあるものは、後述する実施例1〜19および28(表1〜3および表5参照)で実証されているように、市販フッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材と同等ないしそれ以上の化学的耐久性を有する。
【0027】
[コバルト含有ガラスII]
本発明のコバルト含有ガラスIIは、重量%表示で、
SiO 25〜65%
AlO 3〜18%
O 10〜27%
O 9〜23%
CoO 0.1〜1.5%
1〜13%
Cl 0.1〜5.5%
を含むガラス原料を熔解してなることを特徴とするものである。
【0028】
本発明のコバルト含有ガラスIIは、ガラスを作製するために熔解されるガラス原料である金属酸化物およびハロゲン分子の各成分を含有量(重量%)で規定したものであり、ガラス原料であるSiO、AlO、BO、KO、CoO、FおよびClの含有量(重量%)は、ガラスを構成する陽イオン成分であるSi4+、Al3+、B3+、K、Co2+および陰イオン成分であるFおよびClの含有量を陽イオン%および陰イオン%で規定した本発明のコバルト含有ガラスIと同様の組成が得られるように定められているものである。
【0029】
上記のガラス原料の熔解によるガラスの製造は、ガラス原料である各成分を所定の含有量となるように秤量したのち混合し、例えば1200〜1450℃に保持された熔解炉中で3〜10時間加熱して熔解し、清澄することにより行われる。
【0030】
なお、実際のガラス原料の熔解によるガラスの製造においては、ガラス原料としてAl(OH)などの金属水酸化物、HBOなどの酸、KCO、KSiF、KClなどの金属塩が用いられ、AlO、BO、KOなどの金属酸化物やF、Clなどのハロゲン分子がガラス原料として直接用いられることは少ないが、本発明のコバルト含有ガラスIIにおけるAlO、BO、KO、F、Clの含有量(重量%)は上記の対応する金属水酸化物、酸、金属塩の含有量(重量%)からの換算値である。
【0031】
上記したように本発明のコバルト含有ガラスIIは、本発明のコバルト含有ガラスIと同様の組成を有するものであるので、本発明のコバルト含有ガラスIと同様の特性、例えば優れた励起光遮断特性および優れた化学的耐久性を有する。
【0032】
[青色フィルタ]
本発明の青色フィルタは、上述の本発明のコバルト含有ガラスIまたは上述の本発明のコバルト含有ガラスIIからなることを特徴とするものである。
本発明の青色フィルタは、その好ましい態様において、ガラスの厚みが5mmの場合の波長660nmの内部透過率が1×10−10以下であり、励起光カットフィルタ、特に放射線画像読取装置に設けられる励起光カットフィルタとして好ましく用いられる。
【0033】
[放射線画像読取装置]
本発明の放射線画像読取装置は、上述の本発明の青色フィルタからなる励起光カットフィルタを含むことを特徴とするものである。
本発明の放射線画像読取装置は、励起光カットフィルタが本発明の青色フィルタからなるという構成に特徴があり、他の構成は従来公知の放射線画像読取装置をそのまま採用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例1〜28により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
a.ガラス原料バッチの作製
表1に示すように、ガラス原料組成が、重量基準でSiO 48.1%、Al 9.7%、B 18.8%、KO 16.0%、CoO 0.328%、 F 4.4%、 Cl 2.7%となるように、SiO、Al(OH)、HBO、KCO、CoO、KSiF、KClを所定量秤量し、これらを調合してガラス原料バッチ100gを作製した。
【0035】
b.熔解によるガラスの製造
200ccのシリカビーカーをガラス原料熔解容器として用い、このシリカビーカーに、ガラス原料バッチ100gを入れ、シリカビーカーを1350℃に保持された炉の中に入れた。約1時間熟成させた後、シリカビーカーを取り出し、直径6mmのシリカ棒で熔融ガラスを撹拌し、撹拌後、炉に戻した。1時間後、同じ撹拌を繰り返し、その1時間後、鉄板の上にガラスをキャストした。ある程度、ガラスが固まるのを待ち、450℃のアニール炉の中にキャストしたガラスを入れ、1時間その温度で保持し、50℃/時間の速度で温度を下げて、表1に示すようにSi4+ 42.7%、Al3+ 10.1%、B3+ 28.8%、K 18.1%、Co2+ 0.233%、 F 5.4%、 Cl 0.55%、O2− 94.0%のガラス組成を有する実施例1のコバルト含有ガラスを得た。
【0036】
実施例2〜28
実施例1において、ガラス原料組成(重量%)を表1〜表5に示すように変動させた以外は実施例1−aと同様にガラス原料バッチを作製し、得られたガラス原料バッチを実施例1−bと同様に熔解して、表1〜表5に示すガラス組成(陽イオン%、陰イオン%)を有する実施例2〜28のコバルト含有ガラスを得た。
【0037】
比較例1〜6
実施例1において、ガラス原料組成(重量%)を表6〜表7に示すように変動させた以外は実施例1−aと同様にガラス原料バッチを作製し、得られたガラス原料バッチを実施例1−bと同様に熔解して、表6〜表7に示すガラス組成(陽イオン%、陰イオン%)を有する比較例1〜6のコバルト含有ガラスを得た。
【0038】
比較例1〜6のガラスは、コバルトを含有するものの、ガラス組成が本発明のコバルト含有ガラスIの組成(陽イオン%、陰イオン%)を満足しない比較のガラスである。
【0039】
ガラスの物性測定試験
a.透過率測定用試料の加工
アニール後の実施例1〜28および比較例1〜6のガラスを、ダイヤモンドカッターを用いて、厚み3mm程度、約2cm四方の大きさに切り出し、研磨加工を行い、最終厚み0.5mmに揃えた透過率測定用試料を作製した。
【0040】
b.透過率測定
上記aで得られた厚み0.5mmの透過率測定用試料について、透過率を分光光度計(メーカ名:(株)島津製作所、型番:UV−3600)を用いて測定した。
【0041】
c.5mm厚内部透過率の計算
通常、内部透過率は、同一ガラスから3種の厚みの異なる透過率測定用サンプルを用意し、3種の厚みのサンプルをそれぞれ透過率測定し、計算により反射率を取り除いて、厚みに対する内部透過率の直線を最小二乗法で求め、この直線から、その厚みについての内部透過率が計算される。
【0042】
ここでは簡易方法を用いて内部透過率を算出することにする。すなわち、反射係数を93%と仮定して算出する方法をここでは採用する。例えば、0.97mm厚で外部透過率8.1%であれば、10mm厚の内部透過率は、(8.1/93)^(10/0.97)で求まり、1.18E−11となる。これは、上記市販の色ガラス材が10mm厚で励起光を10桁以上減衰させる性能をもつことを意味する。本発明は、上記市販の色ガラス材の厚み10mmの半分の厚み5mmで上記市販の色ガラス材と同等の性能を有するコバルト含有ガラスを提供することを目的としているので、実施例1〜28のコバルト含有ガラスは厚みを5mmに統一して、10mm厚の上記市販のフッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材と透過率を比較した。なお、実際の透過率測定に用いたガラス厚みは前述の0.5mmとした。
【0043】
10mm厚の上記市販のフッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材の内部透過率曲線を図1a、図1bに、5mm厚の実施例1〜28のコバルト含有ガラスの内部透過率曲線を図2a、図2b〜図10a、図10bに、5mm厚の比較例1〜6のコバルト含有ガラスの内部透過率曲線を図11a、図11b〜図12a、図12bに示した。
【0044】
表1〜表7に示す実施例1〜28のコバルト含有ガラスおよび比較例1〜6のコバルト含有ガラスの660nm透過率(5mm厚)において、10mm厚の上記市販の色ガラス材と同等である1×10−10以下の内部透過率であれば、記号「○」を表記し、1×10−10を上まわる内部透過率であれば、記号「×」を表記した。
【0045】
d.2.5mm厚外部透過率の計算
上述した計算法により、5mm厚内部透過率はすでに計算されて求められており、この値をもとに2.5mm厚の外部透過率を算出した。例えば、5mm厚で内部透過率が79.7%であれば、2.5mm厚の外部透過率は、93×0.797^(2.5/5)で求まり、83.0%となる。波長−透過率の数値データからTmax、λS1、λ15を導き出した。
【0046】
ここにTmaxは、2.5mm厚のガラスの波長300〜500nmにおける最高外部透過率であり、λS1は、透過帯域の短波長側で透過率が1%以下になる波長であり、λ15は、透過帯域の長波長側で透過率が15%以下になる波長である。
【0047】
表1〜表7に示す実施例1〜28のコバルト含有ガラスおよび比較例1〜6のコバルト含有ガラスの2.5mm厚300〜500nm外部透過率において、Tmaxが83%以上であれば、記号「○」と表記し、83%を下まわれば、記号「×」を表記した。λs1が250nm以上に存在するときには、記号「○」を表記し、250nmより短波長側に出現したときには、記号「×」を表記した。最後にλ15が600nmより短波長側に存在したときには、記号「○」を表記し、600nmを上まわったときには、記号「×」を表記した。
【0048】
e.化学的耐久性
化学的耐久性を評価するための耐候性試験は、ガラスを65℃、90%RHの環境下に100〜1000時間放置し、放置後の表面状態を観察することにより行った。用いた耐候性試験器はメーカ名:エスペック(株)、型番:PR−3KPである。耐久性がかなり悪いものは、表面に結晶が析出したり、表面に割れが出現したりし、耐久性が少し悪いものは、雨上がり後のガラス窓表面に現れる様な「曇り」がサンプル表面に出現する。この曇りが少ないほど耐久性が高いと判断できる。更に、耐久性が良くなれば、その曇りがサンプル表面の一部に薄く出現するようになる。上記市販の色ガラス材はこのレベルの耐久性に相当する。そして、更に耐久性が良いものは、まったく曇らないのである。実施例1〜28のコバルト含有ガラスおよび比較例1〜6のコバルト含有ガラスについて、上記市販の色ガラス材をリファレンスとして試験を行い、上記市販の色ガラス材との比較を行った。
【0049】
表1〜表7に示す実施例1〜28のコバルト含有ガラスおよび比較例1〜6のコバルト含有ガラスの耐候性試験において、ガラス表面の変化が上記市販の色ガラス材と同等もしくはそれより小さければ、記号「○」を表記した。ガラス表面の変化が上記市販の色ガラス材より大きければ、記号「×」を表記した。評価をしなかったものについては、記号「−」を表記した。例えば、分相性が現れたものについては「化学的耐久性」の評価をしなかった。
【0050】
f.分相性
実施例1〜28のコバルト含有ガラスおよび比較例1〜6のコバルト含有ガラスについて、キャストしたガラスを観察して、分相現象の出現の程度で分相性を評価した。
表1〜表7に示す実施例1〜28のコバルト含有ガラスおよび比較例1〜6のコバルト含有ガラスにおいて、キャストしたガラスに分相現象が現れなければ、記号「○」を表記し、キャストしたガラスに分相現象が現れれば、記号「×」を表記した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
図2a、図2b〜図12a、図12bおよび表1〜表7の結果より、次のことが明らかとなった。
(i)本発明のコバルト含有ガラスIに相当する実施例1〜28のコバルト含有ガラスは、分相性を示さず、また厚みが5mmであっても、厚みが10mmである市販のフッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材と同様に660nmの内部透過率を1×10−10以下とすることができ、励起光強度を10桁以上減衰させることができた。
(ii)本発明のコバルト含有ガラスIに相当する実施例1〜19および28のコバルト含有ガラスは、上記市販のフッ素、塩素含有ホウケイ酸系色ガラス材と同等それ以上の化学的耐久性を有していた。
(iii)比較例1〜4のコバルト含有ガラスは、ガラス組成(陽イオン%)が本発明のコバルト含有ガラスIのガラス組成を満足しないので、必要な透過率特性が得られず、比較例5〜6のコバルト含有ガラスは、分相性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、励起光遮断特性が高められ、励起光カットフィルタの厚みを従来の色ガラスよりも薄くすることができるコバルト含有ガラスを提供することができた。
また本発明によれば、上記コバルト含有ガラスからなる青色フィルタおよび該青色フィルタを用いた放射線画像読取装置を提供することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオンとして、陽イオン%表示で、
Si4+ 25〜60%
Al3+ 3〜19%
3+ 18〜38%
9〜31%
Co2+ 0.1〜1.5%
を含み、陰イオンとして、O2−を主成分として含み、さらに陰イオン%表示で、
1〜12%
Cl 0.01〜2%
を含むことを特徴とするコバルト含有ガラス。
【請求項2】
重量%表示で、
SiO 25〜65%
Al 3〜18%
10〜27%
O 9〜23%
CoO 0.1〜1.5%
1〜13%
Cl 0.1〜5.5%
を含むガラス原料を熔解してなることを特徴とするコバルト含有ガラス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコバルト含有ガラスからなることを特徴とする青色フィルタ。
【請求項4】
ガラスの厚みが5mmの場合の波長660nmの内部透過率が1×10−10以下であることを特徴とする請求項3に記載の青色フィルタ。
【請求項5】
励起光カット用であることを特徴とする請求項3または4に記載の青色フィルタ。
【請求項6】
放射線像読取装置に用いられることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の青色フィルタ。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれかに記載の青色フィルタからなる励起光カットフィルタを含むことを特徴とする放射線画像読取装置。


【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12a】
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【図12b】
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【公開番号】特開2012−140262(P2012−140262A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292668(P2010−292668)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(592032430)HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社 (44)
【Fターム(参考)】