説明

コバルト含有黒色顔料

【課題】
プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用の黒色顔料粉として具備すべき黒色度と高電気抵抗とを兼ね備え、一次粒子平均径および凝集粒子径が小さいことによる初期分散性に優れた材料を提供する。
【解決手段】
一次粒子平均径が0.03μm以上、0.5μm以下、かつレーザー回折散乱法による個数基準に基づく粒度測定におけるD50が0.05μm以上、1.5μm未満であることを特徴とするコバルト含有黒色顔料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト含有黒色顔料に関し、更に詳しくは、一次粒径かつ凝集粒径が小さく、初期分散性に優れることを特徴とする、特にブラックマトリックス用着色組成物、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用等に用いられる黒色度に優れ、かつ高電気抵抗のコバルト含有黒色顔料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料用、インキ用、トナー用、ゴム・プラスチック用等に用いられる黒色顔料は、黒色度、色相、着色力、隠ぺい力等の特性に優れ、かつ安価であることが求められており、カーボンブラックやマグネタイトをはじめとする酸化鉄系顔料、その他複合酸化物顔料が用途に応じて利用されている。
【0003】
金属酸化物を主成分とする黒色顔料の代表例としては、酸化マンガン、酸化銅といった単独組成の金属酸化物粒子や、それら金属元素の複合酸化物粒子が挙げられる。
【0004】
さらに、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等のブラックマトリックスオンアレイ型高遮光性膜形成においては、電極間の導通防止の為、高電気抵抗であることが要求されており、必然的に用いられる黒色顔料も高電気抵抗であることが好ましいのは言うまでもない。しかしながら、黒色度、高電気抵抗を両立した黒色顔料は未だ提案されていない。また、遮光性膜形成においては、緻密かつ薄膜が求められており、それに伴い、黒色顔料にも粒度の微細性が求められるが、顔料一次粒子の微粒化にともない凝集粒子を形成しやすくなる欠点がある。一方、従来から、電池材料、顔料としていくつかの酸化コバルト粒子が提案されている(特許文献1および2)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−68750号公報
【特許文献2】特開2001−354428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には湿式合成による四酸化三コバルト粒子が提案されているが、焼成工程を経ていないために、結晶が不安定で高温加熱されるような条件下では色変化を引き起こしてしまうおそれがある。また、湿式で合成しているために、粒子内部に反応液に由来するアルカリ金属塩等夾雑物を取り込みやすい。また、特許文献2には粒形がほぼ球形であり、50%粒径(D50)が1.5μm〜15μm、D90がD50の2倍以下、D10がD50の1/5以上であり、かつ比表面積が2m/g〜15m/gであることを特徴とする酸化コバルト粉が提案されているが、粒子の凝集度が大きく、微細化の進んだ遮光性膜形成用途等に使用しても、満足する特性を得ることが困難である。
【0007】
従って本発明は、上記従来技術が有する種々の欠点を解消しうるコバルト含有黒色顔料を提供することを目的とする。
【0008】
すなわち、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用の黒色顔料粉として具備すべき黒色度と高電気抵抗とを兼ね備え、一次粒子平均径および凝集粒子径が小さいことによる初期分散性に優れた材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一次粒子平均径が0.03μm以上、0.5μm以下、かつレーザー回折散乱法による個数基準に基づく粒度測定におけるD50が0.05μm以上、1.5μm未満であることを特徴とするコバルト含有黒色顔料を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコバルト含有黒色顔料は全コバルト中に2価のコバルトが占める割合が40〜70%であり、黒色度に優れ、かつ高電気抵抗を有し、一次粒子平均径および凝集粒径が小さいため、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用の黒色顔料粉等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を、その好ましい形態に基づき説明する。
【0012】
本発明で言うコバルト含有黒色顔料とは、少なくともその主成分がコバルトである黒色粒子であり、必要な特性に応じてSi、Al、Mn、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、W、Mo、P等を少なくとも1種以上を選択し、含有させても良い。
【0013】
本発明のコバルト含有黒色顔料は、一次粒子平均径が0.03μm以上、0.5μm以下、かつレーザー回折散乱法による個数基準に基づく粒度測定におけるD50が0.05μm以上、1.5μm未満であることが重要である。一次粒子平均径が0.03μm未満の場合、顔料の色味が赤みを呈するのみならず、分散性に問題が生じやすくなり好ましくない。また、逆に0.5μm超の場合、塗料化し、膜形成した際の色味は十分なものの、隠ぺい力や着色力が不足する等の問題が生じやすい。上記一次粒子平均径は、好ましくは0.05μm以上、0.35μm以下、更に好ましくは0.1μm以上、0.25μm以下であると、粒度も粗大となることなく、色相、着色力、隠ぺい力のバランスがとりやすい。この一次粒子平均径はSEM観察により測定される。
【0014】
また、上記レーザー回折散乱法による個数基準に基づく粒度測定における凝集粒子のD50は0.05μm以上、1.5μm未満である。このD50は粒子の凝集度合いを示す粒度分布特性値であり、一次粒子径が微細なだけでは、分散性に優れた顔料粉末とはいえない。このD50が0.05μm未満の場合、一次粒子径も0.03μmより微細となるようなレベルとなるため、顔料の色味が赤みを呈するのみならず、分散性に問題が生じやすくなり好ましくない。また、逆に1.5μm超の場合、凝集が強すぎて、塗料化時の分散に支障をきたす他、隠ぺい力や着色力不足の要因となりやすい。上記D50は、好ましくは0.08μm以上、1.2μm以下、更に好ましくは0.1μm以上、1μm以下であると分散性を損なうことなく、色相、着色力、隠ぺい力のバランスも取りやすい。
【0015】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づくDMAXが3μm以下であるのが好ましい。このDMAXは凝集粒子中の粗大粒子の度合いを示す粒度分布特性値であり、この数値は顔料を塗料化して用いる際の塗膜特性に影響を及ぼす。このDMAXが3μm超の場合、粗大粒子の影響で顔料を塗料化して用いる際の塗膜に外観不良等を生じる。上記DMAXは、好ましくは2.5μm以下、更に好ましくは2μm以下であると、塗料化して用いる際の塗膜が、より平滑性に優れたものとなる。
【0016】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づくD90が0.5μm以上、2μm以下であるのが好ましい。このD90は凝集粒子全体における粒度大側の凝集度合いを示す粒度分布特性値であり、D50やD10値と比較したりして、凝集の度合いをみることができる。このD90が0.5μm未満の場合、一次粒子径もより微細となるようなレベルとなるため、顔料の色味が赤みを呈するのみならず、分散性に問題が生じやすくなり好ましくない。また、逆に2μm超の場合、凝集が強すぎて、塗料化時の分散に支障をきたす他、隠ぺい力や着色力不足の要因となりやすい。上記D90は、好ましくは0.8μm以上、1.8μm以下、更に好ましくは1μm以上、1.6μm以下であると分散性を損なうことなく、色相、着色力、隠ぺい力のバランスも取りやすい。
【0017】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、D50/一次粒子平均径の比が4以下であることが好ましい。このD50/一次粒子平均径の比は一次粒子サイズからみた凝集度合いを示す粒度分布特性値であり、この数値が大きいほど凝集が著しく、逆に理論的には1未満の数値となることはない(1は単分散)。この数値が4を超える場合、凝集が著しく、塗料化時の分散に支障をきたす他、隠ぺい力や着色力不足の要因となりやすい。
【0018】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、含まれる粒子の形状が粒状であることが好ましい。粒状以外、たとえば板状や針状等の形状を呈した粒子は分散性、流動性の点で劣るのみならず、そのような粒子の場合、厚み方向の粒子サイズが数十nm程度となり、光の吸収波長に偏りが生じ、黒色顔料としての色相が悪化してしまい、黒色度を重要視するプラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用途として不十分である。ここで言う粒状とは球状、多面体状、紡錘状等を意味し、板状粒子を除外する。
【0019】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、粒子中の全コバルトに対する2価のコバルトの比率が40〜70%であることが好ましい。全コバルト含有量に占める2価コバルトの比率とは粒子全体に含有される2価のコバルト含有量を粒子全体に含有される全コバルト含有量で除した値に100を乗じた値である。酸化コバルトの一般的な形態としては四酸化三コバルト(Co)、酸化コバルト(CoOやCo)がある。CoOは全コバルト中の2価のコバルトが占める割合は33%である。またCoOは全コバルト全てが2価のコバルトであり、Coは全コバルトが全てが3価である。そのような酸化コバルトに対して、全コバルト中に占める2価コバルトの割合が大きいと、本発明の効果である黒色性、高電気抵抗性をより向上できる。全コバルト中の2価のコバルトが占める割合が40%未満の場合、黒色度が不十分となり、また、70%超の場合黒色顔料ではなく青緑色を呈した顔料となるおそれがある。この全コバルト含有量に占める2価コバルトの比率は、更に好ましくは40%〜60%であると良い。
【0020】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、粒子全体に対する全コバルト含有量が60〜80質量%であることが好ましい。粒子全体に対する全コバルト含有量が60質量%未満の場合、コバルト以外の成分量が過多となり、本発明の効果が低くなり好ましくない。また、80質量%超の場合、コバルトと酸素の電荷バランスがとりにくくなり不安定な物質となってしまうため好ましくない。この粒子全体に対する全コバルト含有量は、65質量%〜75質量%であると良い。
【0021】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、粒子全体に対する2価のコバルト含有量が25〜50質量%であることが好ましい。粒子全体に対する2価のコバルト含有量が25質量%未満の場合、黒色度が不十分となり、また、50質量%超の場合においても同様に黒色度が不十分となり好ましくない。この粒子全体に対する2価のコバルト含有量は、更に好ましくは30質量%〜45質量%である。
【0022】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、粒子中のアルカリ金属量が粒子全体に対して100ppm以下であることが好ましい。この粒子中、特に粒子表面のアルカリ金属とは、主に湿式反応で得られる従来技術のコバルト含有黒色顔料では、残留不純物として高いものであるが、この含有量が100ppm以下に抑えられていると、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成にはガラスフリットが使用される際に、ガラス中でイオン伝導的に振る舞うアルカリ金属が少ないことにより、電気抵抗の低下を抑制することが出来る。
【0023】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、着色力評価時のL値が38以下、b値が0以下であることが好ましい。着色性の評価方法は、黒色粒子0.5gと酸化チタン(石原産業社製R800)1.5gにヒマシ油1.3ccを加え、フーバー式マーラーで練り込む。この練り込んだサンプル2.0gにラッカー4.5gを加え、さらに練り込んだ後、これをミラーコート紙上に4milのアプリケータを用いて塗布し、乾燥後、色差計(東京電色社製カラーアナライザーTC−1800型)にて黒色度(L値)及び色相(a値、b値)を測定することにより得られる。L値が37よりも高い場合、十分な着色性とは言えず、また、b値が0よりも高い場合、色相が黄色みを呈していることとなり好ましくない。更に好ましくはL値が36以下、b値が−0.5以下である。
【0024】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、膜形成時の耐熱性を十分有している、具体的には600℃1hr前後の黒色度の変化(デルタE)が1.0以内であることが好ましい。
【0025】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、塗料化した際の20°入射角における鏡面反射率が70%以上であることが好ましい。この鏡面反射率が70%未満の場合、顔料中一次粒子の凝集が著しいので、塗料化時の分散に支障があり、形成膜にムラが生じる等、不味である。
【0026】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は電気抵抗が高いものである。具体的には電気抵抗値が1×10Ωcm以上であることが好ましい。電気抵抗が1×10Ωcmよりも低い場合、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等のブラックマトリックスオンアレイ型高遮光性膜形成の材料としてはその機能を十分に高めることができなくなり、好ましくない。更に好ましくは5×10Ωcm以上、より更に好ましくは1×10Ωcmである。
【0027】
また、本発明のコバルト含有黒色顔料は、粒子の表面に疎水化性薬剤が被覆されていることが好ましい。このように疎水化性薬剤が被覆されたコバルト含有黒色顔料であると、塗料化した際に有機成分とのなじみが良好で、分散性が向上するのみならず、多湿な環境下でも性能の経時劣化を起こしにくい。
【0028】
用いられる疎水化性薬剤としては、疎水基を有する有機化合物であり、例えばチタネート系のカップリング剤,シラン系のカップリング剤,アルミネート系のカップリング剤等,シリコンオイル等のシリコーン化合物,汎用的な界面活性剤、高級脂肪酸およびその塩類等を挙げることができる。ここでチタネート系のカップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート,イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート,イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート,ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート,ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート等を挙げることができ、シラン系等のカップリング剤としては、例えばビニルトリクロロシラン,ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリス(β−メトキリエトキシ)シラン等を挙げることができる。汎用的な界面活性剤としては、例えばリン酸エステル系のアニオン界面活性剤、脂肪酸エステル系のノニオン界面活性剤、アルキルアミン等の天然油脂誘導体等を挙げることができる。高級脂肪酸としては、例えばオレイン酸,ステアリン酸,イソステアリン酸,パルミチン酸,イソパルミチン酸等を挙げることができ、その塩類も使用できる。
【0029】
また、疎水化性薬剤の被覆量<TXF LY="0300"
LX="1100" WI="080" HE="250"
FR="0002">は、炭素に換算して0.01質量%〜2質量%とするのが好ましい。これは0.01質量%未満ではその効果が少なく、2質量%を超える場合には、添加量に見合った効果の向上は見られず、不経済である。
【0030】
次に、本発明のコバルト含有黒色顔料の好ましい製造方法について説明する。
【0031】
本発明のコバルト含有黒色顔料は、コバルト(2価)塩水溶液とアルカリ溶液とを、pH10〜13にて混合中和し、混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、反応スラリーの温度を10℃〜40℃に維持しながら、酸素含有ガスを連続的にバブリングすることにより得られた水酸化コバルト前駆体をろ過、洗浄、乾燥、解砕し、密閉された大気中、500℃〜850℃にて0.5〜3時間焼成後、湿式解粒の装置を用いて解粒処理を行うことによって製造できる。
【0032】
本発明のコバルト含有黒色顔料の製造に際しては、一次粒子が微細で黒色度の高い酸化コバルト粒子とするために、水酸化コバルト前駆体を湿式中和法を用いて得る必要がある。
【0033】
通常、水酸化コバルト前駆体を得るには、水溶性のコバルト塩水溶液を適当な水酸化アルカリで中和すれば良いが、最終的なコバルト含有黒色顔料の黒色度を高めるためには、混合中和する際のpHを特定の範囲で制御する必要がある。具体的には、コバルト(2価)塩水溶液とアルカリ溶液とを混合中和する際のpHを10〜13にて行う。
【0034】
上記中和pHが10よりも低い場合、中和の際、3価のコバルト水酸化物を生じ易く、水酸化物コバルト前駆体生成に障害をきたすのみならず、水酸化コバルト前駆体の粒度が微細となり、ろ過性が悪化したり、後述する焼成を行う際に粒子同士の焼結が起こりやすい等の不具合が生じるため好ましくない。
逆にpHが13よりも高い場合は、コバルト(2価)塩が過度の酸化を受けやすく、3価のコバルト水酸化物を生成するおそれがあり、好ましくない。このような水酸化コバルト前駆体を用いて、次工程以降の処理を行うと、均整な形状や酸化の制御が困難であり、2価のコバルト含有量の高い酸化コバルト粒子が得られない。水酸化コバルト前駆体のより安定的な生成を考慮すると、中和時のpHは11〜12であると、さらに好ましい。
【0035】
また、上記のようにpHを10〜13に制御することに加え、反応スラリーの温度を10℃〜40℃に維持するのが良い。この温度が40℃を超える場合、酸素含有ガスを連続的にバブリングしていることもあいまって、水酸化コバルト(2価)の酸化が進み、3価のオキシ水酸化コバルト(3価)が析出しやすいばかりか、特許文献1に開示されているように、この時点で四酸化三コバルトが生成することもあり得るため、本発明が目的するところの、2価のコバルト含有比率の高く、かつ均整な酸化コバルト粒子を得るための、安定した水酸化コバルト前駆体が得られない。逆に、温度が10℃未満の場合は、水酸化コバルト生成の妨げとなるし、液温を下げることによる効果は何らなく、実用的でもない。
【0036】
また、上記混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、反応スラリー中に酸素含有ガスを連続的にバブリングすることにより、一次粒子が微細な酸化コバルトを得るのに好適な水酸化コバルト前駆体が得られる。この操作を行わない場合、得られる生成物である水酸化コバルト前駆体が凝集しやすく、微粒かつ粒度が揃ったものとならない。
【0037】
この理由は十分究明されていないが、低温度域で酸素含有ガスを連続的にバブリングすることにより、反応スラリー中のコバルト(2価)塩から2価の水酸化コバルト前駆体を生成させる際に、バブリング酸素含有ガスが、凝集しようとする前駆体粒子間に入り込み、薄層の酸化膜が粒子間に形成され、粒子の凝集を妨げる役割を果たしているものとみられる。この効果は単なる機械攪拌では得られない。
【0038】
なお、バブリング酸素含有ガスは空気を用いても良いが、中和温度は10℃〜40℃と低いものの、酸化の調整をより良く制御するために、酸素濃度5体積%以上、22体積%未満の不活性ガス富化空気を使用するのが好ましい。この際、用いる不活性ガスは、実用上窒素が好ましい。この範囲で空気中の酸素を低減することにより、バブリングガス量やバブリング時間の精密な制御なしに、目的とする水酸化コバルト前駆体を生成させることが容易となる。バブリング酸素含有ガスに空気を用いた場合、反応スラリー量当たり0.01Nリットル/L・分〜0.3Nリットル/L・分で1時間〜3時間程度バブリングするのが好ましく、不活性ガス富化空気を使用する場合、上記バブリングガス中総酸素量に応じて、バブリングガス速度、バブリング時間を調整すれば良い。
【0039】
なお、出発原料として用いられるコバルト(2価)塩としては硫酸コバルト(2価)、塩化コバルト(2価)、硝酸コバルト(2価)等、水に可溶な塩であることが好ましい。また、中和に用いられるアルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリが工業的に用いられる。また、反応の際に使用される酸素含有ガスは、実用上空気が好ましい。
【0040】
また、水酸化コバルト前駆体を生成させる際に主成分がコバルト(2価)塩である水溶液とアルカリ溶液とを単に混合しただけでは、混合開始当初の混合液量が少ないときに十分な撹拌ができず、均一な水酸化コバルト前駆体を得ることが難しい場合がある。このようなときには、撹拌するに十分な量のpH10〜13の範囲に調製したアルカリ溶液を準備しておき、そのアルカリ溶液に、コバルト(2価)塩水溶液を添加して水酸化コバルト前駆体を生成させても良い。そのような場合であっても、更にアルカリ溶液を追加しながら、水酸化コバルト前駆体スラリーのpHを10〜13に維持することが重要である。
【0041】
このようにして得られた水酸化コバルト前駆体スラリーは、常法のろ過、洗浄を行い、含有している水分を蒸発させる。
【0042】
ろ過、洗浄は副生成物や未反応物、過剰なアルカリ成分が除去するために行われる。副生成物、未反応物、過剰なアルカリが残留した場合、最終的に生成するコバルト含有黒色顔料の黒色性、電気抵抗等に影響を及ぼす恐れがある。
【0043】
また、水分を蒸発した乾燥体の水分量は1質量%以下であることが好ましい。含有水分量のコントロールは乾燥温度および乾燥時間を適宜調整することで行われる。含有する水分量が1質量%より多い場合は後述する焼成工程で多量の水蒸気が発生し、焼成効率が低下するため好ましくない。更に好ましくは水分量を0.1質量%〜0.6質量%に調整することである。
【0044】
また、水分量を1質量%以下に調製された乾燥体は解砕操作を行う。解砕操作を行わない場合、乾燥体が凝集した状態で後述する焼成工程へと供給することとなり、焼成によって更に凝集が促進される等の不具合を生じる。解砕装置としては高速回転型のハンマーミル、インパクトミル、ディスクミル等が好ましい。
【0045】
このようにして得られた乾燥体は、密閉された大気中、500℃〜850℃にて0.5〜3時間焼成する。焼成する際の雰囲気は、大気中でも構わないが、密閉された容器内で外部からの空気導入を行わない方が良い。これは、過剰な空気を導入することによる過酸化を抑制するためである。焼成装置内の空気容量は、乾燥体質量に対し、0.5m/kg以下程度に調整すれば良い。
【0046】
一方、焼成時間と焼成温度は、生成する粒状酸化コバルト黒色顔料の焼結を抑制しつつ、水酸化コバルトの脱水を促進し、2価酸化物の結晶性向上を図るために、調整した方が良い、焼成温度が500℃未満の場合、その形態変化が十分でなく、十分な黒色性、高電気抵抗が得られない。逆に850℃超の場合、粒子同士の焼結が進み、後工程でも凝集・固化を解除できなくなるおそれがあり、好ましくない。この焼成温度の更に好ましい温度範囲は、600℃〜800℃である。
【0047】
また、焼成時間は、0.5時間未満では、上記温度範囲内で高温度域を選択しても、その形態変化が十分でなかったり、ムラが生じたりして、十分な黒色性、高電気抵抗が得られないおそれがあり、3時間を超える場合、上記温度範囲内で低温度域を選択しても、焼結が進み、後工程でも凝集・固化を解除できなくなるばかりか、焼成工程でコバルトの酸化が進行し、2価のコバルト含有量が低くなるおそれがあり、好ましくない。
【0048】
こうして得られた焼成品は、このまま、あるいは解砕操作を施した程度では、焼成に起因した凝集・固化が著しいので、解粒処理を行う必要がある。ここでいう解粒処理とは、前記した水酸化コバルト乾燥体に施すような解砕操作とは異なる。解砕操作は、単に凝集粒子同士をほぐす程度のものなので、焼成後の凝集粒子内における一次粒子同士の凝集を解除するものではない。
【0049】
これに対し、解粒処理は、一次粒子同士の凝集を強制的に解除する処理を指すものである。この解粒処理には、気流衝突式のターボクラシファイア等を用いる乾式法を採用しても良いが、好ましくは、たとえば、焼成品を一旦水でスラリー化して、このスラリーをメディアを用いたビーズミルやアトライタ、あるいは凝集粒子同士を衝突させるアルティマイザー等の装置等にて処理する湿式法を採用するのが良い。この解粒処理は装置の機能能力に応じて処理条件を選び、スラリー中の粒度分布をチェックしながら処理程度を調整すれば良い。また、この解粒処理にて、凝集粒子間に介在していた湿式反応由来のアルカリ金属の除去も進むが、その程度は、分散媒として用いた水の電導度をチェックすれば良い。
【0050】
こうして適宜、解粒処理を終えたスラリーに、常法のろ過、洗浄、乾燥、解砕を行うことにより、最終的なコバルト含有黒色顔料粉末が得られる。
【0051】
また、コバルト含有黒色顔料粉末粒子表面に疎水化性薬剤を被覆する場合は、一般的な、薬剤を適当な溶媒に希釈した処理液中で処理する湿式法、マスターバッチ法等の乾式法いずれを用いても良い。具体的には、湿式法では、反応終了後に添加しても、洗浄後のケーキ又は乾燥粉砕後の粉体を再度スラリー化して添加してもよい。乾式法ではヘンシルミキサー,ホイール形混練機又はらいかい機等による処理を挙げることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。
【0053】
〔実施例1〕
pH12の水酸化ナトリウム水溶液80リットルを、200リットルの反応容器に投入した。次いで1.2mol/リットルのコバルト(2価)を含有する硫酸コバルト(2価)水溶液60リットルを1リットル/分の速度で前記反応容器に連続投入した。同時に水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応スラリーのpHが12となるように適宜調節した。その間、スラリー温度は35℃を維持し、常時、5Nリットル/分の速度で空気バブリングを行った。
混合が終了した後、撹拌を継続しながら空気バブリングを15Nリットル/分の速度で90分間行った。
【0054】
得られた水酸化コバルト前駆体スラリーをろ過、洗浄し、得られたケーキを80℃にて乾燥させた。こうして得られた乾燥体は水分量が0.5質量%であった。水分量の測定は、JIS K 5101-1991の加熱減量測定法に準じて行った。更に、この乾燥体をハンマーミルで解砕した。
【0055】
こうして得られた解砕済み乾燥体を、密閉された大気中で700℃にて2時間焼成し、酸化コバルト粒子粉末を得た。
【0056】
この酸化コバルト粒子粉末400gに水2Lを加えリスラリーしたものを、φ0.6mm径のジルコニアビーズ0.4kgを充填したスーパーアペックスミルSAM−1(壽工業株式会社製)にて、回転速度4000rpmで30分間解粒処理を行った後、常法のろ過、洗浄、乾燥、解砕を行い、コバルト含有黒色顔料を得た。
【0057】
得られたコバルト含有黒色顔料は、以下に示す方法で評価した。評価した結果を表1に示す。
【0058】
〔評価方法〕
(a)粒子形状、一次粒子平均径
走査型顕微鏡(倍率4万倍)により、粒子形状を観察した。同時に、任意に200個の粒子のフェレ径を計測し、その個数平均値を持って一次粒子平均径とした。
(b)レーザー回折散乱式粒度分布測定法によるD50、D90、DMAX
0.1%に調整したヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100mlに試料0.1gを添加して、BRANSON2200(商品名)超音波バス浴中で3分間分散させた。その分散液をベックマンコールター社製LS-230(商品名)で測定した。
(c)粒子全体に対する全コバルト含有量
試料を酸に完全に溶解し、ICPにてコバルトの含有量を求めた。
(d)粒子中の全コバルトに対する2価のコバルトの比率、および粒子全体に対する2価のコバルト含有量
硫酸アンモニウム鉄(2価)溶液へ試料を加え、酸で完全に溶解し、溶液中の2価の鉄イオン濃度をジフェニルアミンスルフォン酸ナトリウムを指示薬として二クロム酸カリウム標準液を用いた滴定により求めた。
次に、あらかじめ添加した2価の鉄イオン濃度と、滴定によって求められた2価の鉄イオン濃度の差を計算によって求め、3価の鉄イオン濃度を求めた。
3価の鉄イオンは以下の化学反応によって生成するため、この濃度を試料に含有されていた3価のコバルトイオン濃度とした。
Co3+ + Fe2+ → Co2+ + Fe3+
これより粒子全体に対する3価のコバルト含有量を求め、全コバルト含有量から粒子全体に対する3価のコバルト含有量を差し引いて、粒子全体に対する2価のコバルト含有量を求めた。
そして、(2価のコバルト含有量)/(全コバルト含有量)×100にて粒子中の全コバルトに対する2価のコバルトの比率を求めた。
(e)粒子中のアルカリ金属量
試料を酸に完全に溶解し、ICPにてNa含有量を求めた。
(f)黒色度、色相
粉体の黒色度測定はJIS K5101−1991に準拠して行った。
試料2.0gにヒマシ油1.4ccを加え、フーバー式マーラーで練りこむ。この練り込んだサンプル2.0gにラッカー7.5gを加え、さらに練り込んだ後これをミラーコート紙上に4milのアプリケーターを用いて塗布し、乾燥後、色差計(東京電色社製、カラーアナライザーTC-1800型)にて、黒色度(L値)及び色相(a値、b値)を測定した。
(g)着色力(塗料化時分散性と色相の評価)
黒色粒子0.5gと酸化チタン(石原産業社製R800)1.5gにヒマシ油1.3ccを加え、フーバー式マーラーで練り込む、この練り込んだサンプル2.0gにラッカー4.5gを加え、さらに練り込んだ後、これをミラーコート紙上に4milのアプリケータを用いて塗布し、乾燥後、色差計(東京電色社製カラーアナライザーTC−1800型)にて黒色度(L値)及び色相(a値、b値)を測定した。
(h)電気抵抗
試料10gをホルダーに入れ、58.9MPaの圧力を加えて25mmφの錠剤型に成形後、電極を取り付け14.7MPaの加圧状態で測定した。測定に使用した試料の厚さ及び断面積かと抵抗値から電気抵抗値を算出した。
(i)鏡面反射率
JIS K 5101のフーバーマーラー法に準じて調製した分散ペーストと硝化綿クリヤーラッカーとの混練物を1milのフィルムアプリケーターを用いて白紙に展色した塗布膜面における20°の反射率を測定した。
(j)比表面積
島津−マイクロメリティックス製2200型BET計にて測定した。
【0059】
〔実施例2〕
解粒処理に使用するジルコニアビーズをφ0.3m径品に変更した以外は、実施例1と同様に行い、コバルト含有黒色顔料を得た。得られたものを実施例1と同様の方法で評価した。評価した結果を表1に示す。
【0060】
〔実施例3〕
解粒処理条件を、φ5mm径の磁器性ボール11kgを充填したアトライタMA1SE(三井鉱山社製)にて、回転速度200rpmで30分間処理に変更した以外は、実施例1と同様に行い、コバルト含有黒色顔料を得た。得られたものを実施例1と同様の方法で評価した。評価した結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例4〕
実施例1の試料5kgを用意し、これにデシルトリメトキシシランを顔料に対し0.5質量%添加して、ヘンシェルミキサーFM20B型(三井三池化工機株式会社製)にて、回転数2000rpmで30分間処理し、疎水化性薬剤被覆コバルト含有黒色顔料を得た。得られたものを実施例1と同様の方法で評価した。評価した結果を表1に示す。
【0062】
〔比較例1〕
解粒処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に行い、コバルト含有黒色顔料を得た。得られたものを実施例1と同様の方法で評価した。評価した結果を表1に示す。
【0063】
〔比較例2〕
解粒処理の代わりに、常法のハンマーミル解砕を行った以外は、実施例1と同様に行い、コバルト含有黒色顔料を得た。得られたものを実施例1と同様の方法で評価した。評価した結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1からみても明らかなとおり、実施例のコバルト含有黒色顔料は一次粒子平均径が小さく、かつ凝集度合いを示すD50、D90、DMAXいずれも比較的小さく、塗料化後の鏡面反射率が高く、分散性に優れていることがうかがえる。また、粒子が微細にもかかわらず、黒色度に優れ、電気抵抗は高い水準にあり、黒色顔料として優れた特徴を有している。
【0066】
これに対し、比較例のコバルト含有黒色顔料は一次粒子平均径の程度は実施例相当だが、凝集度合いを示すD50、D90、DMAXが大きく、一次粒子同士の凝集が大きいことがわかる。それに起因して塗料化後の鏡面反射率が低く、分散性に劣っていることがわかる。また、黒色度にも劣り、電気抵抗は低い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子平均径が0.03μm以上、0.5μm以下、かつレーザー回折散乱法による個数基準に基づく粒度測定におけるD50が0.05μm以上、1.5μm未満であることを特徴とするコバルト含有黒色顔料。
【請求項2】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づくDMAXが3μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のコバルト含有黒色顔料。
【請求項3】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づくD90が0.5μm以上、2μm以下であることを特徴とする請求項1または2いずれかに記載のコバルト含有黒色顔料。
【請求項4】
粒子中の全コバルトに対する2価のコバルトの比率が40〜70%であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のコバルト含有黒色顔料。
【請求項5】
粒子全体に対する全コバルト含有量が60〜80質量%であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のコバルト含有黒色顔料。
【請求項6】
粒子全体に対する2価のコバルト含有量が25質量%〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のコバルト含有黒色顔料。
【請求項7】
粒子中のアルカリ金属量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1から6に記載のコバルト含有黒色顔料。
【請求項8】
請求項1から7に記載のコバルト含有黒色顔料の粒子表面に疎水化性薬剤が被覆されていることを特徴とするコバルト含有黒色顔料。


























【公開番号】特開2007−302798(P2007−302798A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133267(P2006−133267)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】