説明

コバルト膜の形成方法

【課題】コバルト前駆体の使用効率の高い、化学気相成長によるコバルト膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】上記方法は、オクタカルボニルジコバルトを含むコバルト前駆体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルト前駆体をコバルトに変換して基体表面上にコバルト膜を形成する方法において、コバルト前駆体を炭素数5〜8の脂肪族炭化水素、炭素数5〜8の脂環族炭化水素及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素よりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒に溶解した溶液を準備し、上記基体上に供給されるコバルト前駆体は上記溶液に由来するコバルト前駆体の昇華物であり、そしてコバルト膜形成後のコバルト前駆体の残存率が12重量%以下であることを特徴とする方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト膜の形成方法に関する。更に詳しくは前駆体として使用するコバルト錯体のコバルト膜への変換率が高く、資源の利用効率に優れるコバルト膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の電子デバイスにおいて、更なる高性能化を目的として配線や電極の構造の微細化、複雑化が進んでおり、これらの形状に精度の向上が要求されるようになってきた。
電子デバイスに電極、配線を形成するには、基体上の配線又は電極となるべき部位にトレンチを形成し、当該トレンチ内に配線又は電極となるべき金属材料を埋め込み、余剰の部分を化学機械研磨等により除去する方法が一般的である。
従来からトレンチ埋め込みにおける電極材料、配線材料として、高い導電性を持つ利点を有する銅が広く用いられてきた。トレンチへ銅を埋め込む方法としては、アスペクト比の大きいトレンチに対しても高い充填率をもって銅の埋め込みを行うことができる利点を有するメッキ法によることが有利である(特許文献1及び2)。
ここで、トレンチを有する基板が導電性を持たない絶縁体である場合(例えば酸化ケイ素等を材料とする基板である場合)には、メッキを行うに先立って基板表面にメッキの下地膜となるべき導電性膜(シード層)を形成しておくことが必要となる。また、酸化ケイ素に代表される絶縁体と銅が接触すると、銅原子が銅層から絶縁体へとマイグレーション(migration)する現象が知られている。電子デバイスにおける銅と絶縁体の界面でこのような銅原子のマイグレーションが起こると、デバイスの電気特性を害することとなるため、電子デバイスにおける絶縁体と銅との界面にはバリア層を設ける必要がある。
【0003】
近年、トレンチへのメッキ法による銅埋め込みのためのシード層となり、同時に絶縁体と銅との界面におけるバリア層としても機能する材料としてコバルトを使用し、特殊な化学気相成長方法を用いることにより上記目的を達成しようとする技術が提案された(特許文献3)。この技術は、コバルト膜を形成すべき第一の基体とコバルト前駆体を乗せた第二の基体とを近接して対向配置し、前記第二の基体から昇華したコバルト前駆体を第一の基体上に供給し、該第一の基体上でコバルト前駆体をコバルトに変換することにより、コバルト膜を形成するものである。そして、特許文献3にはコバルト前駆体として、オクタカルボニルジコバルト等が記載されている。この技術により、アスペクト比の高いトレンチを有する基体の場合であっても、トレンチの内部まで均一な厚さであり、且つ高い密着性を有するコバルト膜を容易に形成することが可能となり、上記目的は一応達成された。
しかし、オクタカルボニルジコバルト等の一般的なコバルト前駆体を用いる化学気相成長法においては、化学気相成長工程中に前駆体が徐々に分解して昇華性の低い安定錯体に変換されて残存物となるため、前駆体は、形成するべきコバルト膜の重量から逆算した理論値の少なくとも3倍程度以上、通常は10倍程度以上の量を準備することが必要となる。そして、前記残存物は、コバルト前駆体として再利用することができないから、化学気相成長法によるコバルト膜の形成には、必要以上のコストがかかることとなる。
【特許文献1】特開2000−80494号公報
【特許文献2】特開2003−318258号公報
【特許文献3】特開2006−328526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コバルト前駆体の使用効率の高い、化学気相成長によるコバルト膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、本発明の上記目的及び利点は、
オクタカルボニルジコバルトを含むコバルト前駆体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルト前駆体をコバルトに変換して基体表面上にコバルト膜を形成する方法において、
コバルト前駆体を炭素数5〜8の脂肪族炭化水素、炭素数5〜8の脂環族炭化水素及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素よりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒に溶解した溶液を準備し、
上記基体上に供給されるコバルト前駆体は上記溶液に由来するコバルト前駆体の昇華物であり、そして
コバルト膜形成後のコバルト前駆体の残存率が12重量%以下であることを特徴とする、コバルト膜の形成方法によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、コバルト前駆体のコバルトへの変換率の高い、化学気相成長によるコバルト膜の形成方法が提供される。この方法は、アスペクト比の高いトレンチを有する基体に対しても、トレンチの内部まで均一な厚さであり、且つ高い密着性を有するコバルト膜を容易に形成することが可能であり、しかもコバルト前駆体の使用効率に優れるから、高品位のコバルト膜を安価に形成できる利点を有する。
本発明の方法により形成されたコバルト膜は、トレンチへのメッキ法による銅埋め込みのためのシード層及び絶縁体と銅との界面におけるバリア層として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のコバルト膜の形成方法は、オクタカルボニルジコバルトを含むコバルト前駆体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルト前駆体をコバルトに変換して基体表面上にコバルト膜を形成する方法である。上記コバルト前駆体は、炭素数5〜8の脂肪族炭化水素、炭素数5〜8の脂環族炭化水素及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素よりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒に溶解して使用される。
【0008】
<基体>
本発明の方法によりコバルト膜を形成されるべき基体を構成する材料としては、例えばガラス、金属、金属窒化物、シリコン、樹脂、絶縁膜等を挙げることができる。上記ガラスとしては、例えば石英ガラス、ホウ酸ガラス、ソーダガラス、鉛ガラス等を挙げることができる。上記金属としては、例えば金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄等を挙げることができる。上記金属窒化物としては、例えば窒化チタン、窒化タンタル、窒化タングステン等を挙げることができる。上記樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルスルホン等を挙げることができる。上記絶縁膜としては、例えば酸化シリコン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、「SOG」と呼ばれる絶縁膜、CVD法により形成された低誘電率の絶縁膜等を挙げることができる。
【0009】
上記酸化シリコンとしては、例えば熱酸化膜、PETEOS(Plasma Enhanced TEOS)膜、HDP(High Density Plasma Enhanced TEOS)膜、BPSG(ホウ素リンシリケート)膜、FSG(Fluorine Doped Silicate Glass)膜等を挙げることができる。上記熱酸化膜は、シリコンを高温の酸化性雰囲気に置くことにより形成される。PETEOS膜は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)を原料とし、促進条件としてプラズマを利用した化学気相成長法によって成膜される。HDP膜は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)を原料とし、促進条件として高密度プラズマを利用した化学気相成長によって成膜される。BPSG膜は、例えば常圧CVD法または減圧CVD法により得ることができる。FSG膜は、促進条件として高密度プラズマを利用した化学気相成長によって成膜される。上記「SOG」とは、「Spinon Glass」の略称であり、一般に、前駆体たるケイ酸化合物を有機溶剤に溶解又は分散した液状の混合物をスピンコート法等により基体に塗布した後、加熱処理して得られる低誘電率の絶縁膜をいう。前駆体たるケイ酸化合物としては、例えばシルセスキオキサン等を挙げることができる。「SOG」と呼ばれる絶縁膜の市販品としては、例えばCoral(NuvellusSystem社製)、Aurola(日本エーエスエム(株)製)、Nanoglass(Honeywell社製)、LKD(JSR(株)製)等を挙げることができる。
【0010】
上記のうち、基体を構成する材料としては、酸化シリコン、「SOG」と呼ばれる絶縁膜又はCVD法により形成された低誘電率の絶縁膜が好ましく、酸化シリコンがより好ましく、PETEOS膜、BPSG膜又はFSG膜が更に好ましい。
上記基体は、その表面にバリア層が形成されたものであってもよい。ここで、バリア層を構成する材料としては、例えばタンタル、チタン、窒化タンタル、窒化チタン等を挙げることができ、このうち、タンタル又は窒化タンタルが好ましい。
【0011】
コバルト膜が形成される基体は、トレンチを有している場合に本発明の有利な効果がより発揮される。トレンチは、上記の如き材質からなる基体に、公知の方法、例えばフォトリソグラフィー等によって形成される。
トレンチは、どのような形状、大きさのものであってもよいが、トレンチの開口幅(基体表面に開口した部分の最小距離)が10〜300nmであり、かつトレンチのアスペクト比(トレンチの深さをトレンチの開口幅で除した値)が3以上である場合に、本発明の有利な効果が最大限に発揮される。上記トレンチの開口幅は、更に10〜200nmであることができ、特に10〜100nmであることができ、就中10〜50nmであることができる。上記トレンチのアスペクト比は、更に3〜40であることができ、特に5〜25であることができる。
【0012】
<コバルト前駆体>
本発明のコバルト膜の形成方法におけるコバルト前駆体は、オクタカルボニルジコバルトを含むものである。
本発明におけるコバルト前駆体としては、オクタカルボニルジコバルトのみを使用してもよく、あるいはオクタカルボニルジコバルトと他のコバルト前駆体とを混合して使用してもよい。
ここで使用することのできる他のコバルト前駆体としては、例えば下記式(1)乃至(5)のそれぞれで表されるコバルト錯体を挙げることができる。

Co(CO) (1)

(ここで、Lは下記式(1)−1

(RCp (1)−1

(ここで、Cpはη−シクロペンタジエニル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、そしてnは0〜5の整数である。)
で表される基又はインデニル基であるか、あるいは1,3−シクロオクタジエン、1,4−シクロオクタジエン、1,5−シクロオクタジエン、1,3−ブタジエン、ノルボルナジエン、アリル、一酸化炭素及びトリフェニルホスフィンよりなる群から選択される配位子であり、Yはハロゲン原子、水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基又はシアノ基であり、cは1又は2であり、dは0、1、2又は4であり、eは0又は2であり、c+d+eは2、3、4又は5であり、ただしcが2のときは、2のLは同一であっても互いに異なっていてもよい。)
【0013】
Co(CO) (2)

(ここで、Lは上記式(1)−1で表される基であるか、あるいは1,3−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、アリル、ノルボルナジエン及びシクロオクテンよりなる群から選択される配位子であり、Rはハロゲン原子、PhC:::CPh(ここで、:::は三重結合を意味する。)、CCH、CH、CH、CH又はCPhであり、fは0、1、2又は4であり、gは1、2、4、6又は8であり、hは0、1又は2であり、f+g+hは4、6、7又は8であり、ただし、オクタカルボニルジコバルトは除く。)

Co(CO)CZ (3)

(ここで、Zは水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシル基又はトリフルオロメチル基である。)

Co(CO)12 (4)

Co(CO)12 (5)
【0014】
上記式(1)で表される錯体としては、例えばシクロペンタジエニルジカルボニルコバルト、シクロペンタジエニルカルボニルコバルトジフルオライド、シクロペンタジエニルカルボニルコバルトジクロライト、シクロペンタジエニルカルボニルコバルトジブロマイド、シクロペンタジエニルカルボニルコバルトジヨーダイド、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト、ビス(シクロペンタジエニル)カルボニルコバルト、ビス(シクロペンタジエニル)ジカルボニルコバルト、メチルシクロペンタジエニルジカルボニルコバルト、メチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジフルオライド、メチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジクロライト、メチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジブロマイド、メチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジヨーダイド、ビス(メチルシクロペンタジエニル)コバルト、ビス(メチルシクロペンタジエニル)カルボニルコバルト、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジカルボニルコバルト、テトラメチルシクロペンタジエニルジカルボニルコバルト、テトラメチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジフルオライド、テトラメチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジクロライト、テトラメチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジブロマイド、テトラメチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジヨーダイド、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)コバルト、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)カルボニルコバルト、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ジカルボニルコバルト、1,5−シクロオクタジエンジカルボニルコバルト、1,5−シクロオクタジエンカルボニルコバルトジフルオライド、1,5−シクロオクタジエンカルボニルコバルトジクロライド、1,5−シクロオクタジエンカルボニルコバルトジブロマイド、1,5−シクロオクタジエンカルボニルコバルトジヨーダイト、ビス(1,5−シクロオクタジエン)コバルト、ビス(1,5−シクロオクタジエン)カルボニルコバルト、1,3−シクロオクタジエンジカルボニルコバルト、1,3−シクロオクタジエンカルボニルコバルトジフルオライド、1,3−シクロオクタジエンカルボニルコバルトジクロライド、1,3−シクロオクタジエンカルボニルコバルトジブロマイド、1,3−シクロオクタジエンカルボニルコバルトジヨーダイト、ビス(1,3−シクロオクタジエン)コバルト、ビス(1,3−シクロオクタジエン)カルボニルコバルト、
【0015】
インデニルジカルボニルコバルト、インデニルカルボニルコバルトジフルオライド、インデニルカルボニルコバルトジクロライド、インデニルカルボニルコバルトジブロマイド、インデニルカルボニルコバルトジヨーダイド、ビス(インデニル)コバルト、ビス(インデニル)カルボニルコバルト、η−アリルトリカルボニルコバルト、η−アリルカルボニルコバルトジフルオライド、η−アリルカルボニルコバルトジクロライド、η−アリルカルボニルコバルトジブロマイド、η−アリルカルボニルコバルトジヨーダイド、ビス(η−アリル)カルボニルコバルト、シクロペンタジエニル(1,5−シクロオクタジエン)コバルト、シクロペンタジエニル(テトラメチルシクロペンタジエニル)コバルト、テトラメチルシクロペンタジエニル(1,5−シクロオクタジエン)コバルト、シクロペンタジエニル(メチルシクロペンタジエニル)コバルト、メチルシクロペンタジエニル(テトラメチルシクロペンタジエニル)コバルト、メチルシクロペンタジエニル(1,5−シクロオクタジエン)コバルト、シクロペンタジエニル(1,3−シクロオクタジエン)コバルト、テトラメチルシクロペンタジエニル(1,3−シクロオクタジエン)コバルト、メチルシクロペンタジエニル(1,3−シクロオクタジエン)コバルト、シクロペンタジエニル(シクロオクタテトラエニル)コバルト、シクロペンタジエニル(1,3−ブタジエン)コバルト、シクロペンタジエニル(ノルボルナジエン)コバルト、テトラカルボニルコバルトハイドライド、シクロペンタジエニルカルボニルコバルトジハイドライド、メチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジハイドライド、テトラメチルシクロペンタジエニルカルボニルコバルトジハイドライド、メチルテトラカルボニルコバルト、エチルテトラカルボニルコバルト、トリカルボニルニトロシルコバルト、アセチルテトラコバルトカルボニル、テトラカルボニル(ヒドロキシアセチル)コバルト、テトラカルボニル(メトキシメチル)コバルト、テトラカルボニル(メトキシアセチル)コバルト、テトラカルボニル(2−メチル−1−オキソプロピル)コバルト、テトラカルボニル(1−オキソブチル)コバルト、テトラカルボニル(トリメチルシリル)コバルト、テトラカルボニル(トリメチルシリル)コバルト、テトラカルボニル(トリフルオロメチル)コバルト、テトラカルボニル(ペンタフルオロエチル)コバルト等を挙げることができる。
【0016】
上記式(2)で表される錯体としては、例えばビス(シクロペンタジエニル)ジカルボニルジコバルト、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ジカルボニルジコバルト、ノルボルネン)ヘキサカルボニルジコバルト、シクロオクチンヘキサカルボニルジコバルト、ビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジカルボニルジコバルト、テトラ(η−アリル)ジコバルトジヨーダイド、ビス(1,3−シクロヘキサジエニル)テトラカルボニルジコバルト、ビス(ノルボルネン)テトラカルボニルジコバルト、ビス(シクロペンタジエニル)ジカルボニルジコバルト及び下記式(i)〜(iv)のそれぞれで表される錯体等を挙げることができる。
【0017】
【化1】

【0018】
(上記式(iii)中、Rは、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、CHOH基又はCHOCOCH基である。)
上記式(3)で表される錯体としては、例えば下記式(v)で表される錯体を挙げることができる。
【0019】
【化2】

【0020】
本発明における他のコバルト前駆体としては、上記のうちの上記式(1)及び(2)のそれぞれで表される錯体よりなる群から選択される少なくとも一種の錯体が好ましい。
本発明のコバルト前駆体においてオクタカルボニルジコバルトの占める割合は、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上である。本発明のコバルト前駆体におけるコバルト前駆体としては、オクタカルボニルジコバルトのみを使用することが最も好ましい。
【0021】
<溶媒>
本発明のコバルト膜の形成方法においては、上記の如きコバルト前駆体は、炭素数5〜8の脂肪族炭化水素、炭素数5〜8の脂環族炭化水素及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素よりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒に溶解して、コバルト前駆体溶液として使用される。
上記炭素数5〜8の脂肪族炭化水素としては、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等を;
上記炭素数5〜8の脂環族炭化水素としては、例えばシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等を;
上記炭素数6〜8の芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等を、それぞれ挙げることができる。
これらのうち、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、キシレン及びトルエンよりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒を使用することが好ましく、n−ヘキサン及びトルエンよりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒を使用することが特に好ましい。これら溶媒は、一種のみを使用してもよく、また二種以上を混合して使用してもよい。
コバルト前駆体溶液におけるコバルト前駆体の濃度は、好ましくは0.1〜50重量%であり、より好ましくは1〜30重量%である。
コバルト前駆体溶液は、コバルト前駆体及び溶媒のほか、必要に応じて界面活性剤、シランカップリング剤、ポリマー等を含有していてもよい。
【0022】
<コバルト膜の形成方法>
本発明のコバルト膜の形成方法は、上記の如きコバルト前駆体溶液を準備し、
上記基体上に該コバルト前駆体溶液に由来するコバルト前駆体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルト前駆体をコバルトに変換して基体表面上にコバルト膜を形成する方法である。これにより、使用したコバルト前駆体溶液に含まれていたコバルト前駆体の残存率を12重量%以下とすることができる。この値は、更に10重量%以下とすることができ、特に5重量%以下とすることができる。すなわち、原料として使用するコバルト前駆体のうちの88重量%以上、更に90重量%以上、特に95重量%以上が昇華することとなる。このような高い昇華効率は、従来知られている方法では達成できなかったものである。
本発明のコバルト膜の形成方法においては、使用したコバルト前駆体の使用効率が非常に高いので、使用するコバルト前駆体の量は僅かでよい。具体的には、基体状の形成されるべきコバルト膜の重量から算出されるコバルト前駆体の必要量の理論値に対して、好ましくは100〜150重量%、より好ましくは100〜140重量%、特に好ましくは100〜130重量%のコバルト前駆体を使用すれば足りる。
上記のようにして計算された量のコバルト前駆体を含有するコバルト前駆体溶液を準備するには、所望のコバルト膜の重量から計算される必要量の理論値のコバルト前駆体を秤量してこれを上記の如き溶媒に溶解してもよく、予め調製された多量のコバルト前駆体溶液のうちの、必要量の理論値とコバルト前駆体の濃度とから計算される量を小分けして使用してもよい。
【0023】
上記コバルト前駆体溶液に由来するコバルト前駆体を昇華するには、該溶液から溶媒を除去した後にその残存物からコバルト前駆体を昇華してもよく、あるいは該溶液から溶媒を気化するとともにコバルト前駆体を昇華してもよい。
前者の方法による場合、上記溶液からの溶媒の除去は、上記溶液を好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜50℃の温度に、好ましくは0.1〜60分、より好ましくは1〜20分置くことにより、行うことができる。溶媒除去の際の雰囲気としては、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素、一酸化炭素等の還元性ガスの雰囲気が好ましい。続いて行われるコバルト前駆体の昇華は、溶媒除去後の残存物を、好ましくは50℃以上、より好ましくは50〜500℃、更に好ましくは100〜300℃に加熱することにより行うことができる。
上記溶液から溶媒を気化するとともにコバルト前駆体を昇華するには、例えば該溶液中に不活性ガス又は還元性ガスを通気する方法、該溶液を加熱する方法、該溶液を減圧下におく方法等を挙げることができる。これらのうち、コバルト前駆体溶液中に不活性ガス又は還元性ガスを通気する方法が好ましい。ここで使用される不活性ガス及び還元性ガスとしては、それぞれ上記と同じものを挙げることができる。通気の際の溶液の温度は、10〜50℃に維持することが好ましい。
上記のうち、コバルト前駆体溶液から溶媒を除去した後にその残存物からコバルト前駆体を昇華することが好ましい。この場合において、コバルト前駆体溶液から除去された溶媒は、系外に排出されることが好ましい。
【0024】
上記コバルト前駆体の昇華物を基体上に供給するには、上記のコバルト前駆体の昇華を基体の近傍で行う方法、基体の遠方又は別の反応器(チャンバー)内でコバルト前駆体の昇華を行い、発生した昇華物を適当なキャリアガスで基体の近傍まで運搬する方法等を挙げることができる。
上記コバルト前駆体の昇華を基体の近傍で行う方法は、具体的には例えばコバルト前駆体溶液を適当な船形容器に入れた状態で基体の近傍に置いた状態でコバルト前駆体を昇華する方法、コバルト膜を形成するべき基体とは別の基体の表面上に上記溶液を配置したうえで、コバルト膜を形成すべき基体の面と上記別の基体の溶液を配置した面とを対向配置した状態でコバルト前駆体を昇華する方法等によることができる。
これらのうち、後者の別の基体を用いる方法が好ましい。上記別の基体としては、上記コバルト前駆体溶液を塗布法により形成でき、且つコバルト前駆体を昇華するための加熱に耐えるものであれば特に限定はなく、上記コバルト膜が形成される基板と同様の材料からなるものを使用することができる。別の基体の形状に特に制限はないが、コバルト膜が形成される基体のコバルト膜が形成される部分(面)の少なくとも一部と契合する面を有する形状が好ましい。基体のコバルト膜を形成すべき面と上記別の基体の上記溶液を配置した面との距離は、0.1〜10mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。
上記の如き別の基体の表面にコバルト前駆体溶液を配置するには、別の基体に、コバルト前駆体溶液を塗布する方法によることができる。
一方、基体の遠方又は別の反応器(チャンバー)内でコバルト前駆体の昇華を行い、発生した昇華物を適当なキャリアガスで基体の近傍まで運搬する方法による場合、使用されるキャリアガスとしては、不活性ガス、還元性ガス等を挙げることができ、これらの具体例としては、それぞれ上記と同じものを挙げることができる。
【0025】
基体上に供給されたコバルト前駆体は、基体上でコバルトに変換され、これにより基体上にコバルト膜が形成される。基体上におけるコバルト前駆体のコバルトへの変換は、基体表面を加熱することにより行うことができる。
コバルト前駆体をコバルトへ変換するための基体表面の温度としては、好ましくは50〜300℃であり、より好ましくは50〜250℃であり、更に50〜150℃であることが好ましい。
本発明の方法により形成されるコバルト膜の膜厚は、1〜1,000nmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましい。
上記の如き本発明のコバルト膜の形成方法は、後述の実施例から明らかなように、コバルト前駆体を高効率でコバルトに変換することができ、しかも基体上に形成されるコバルト膜は、均一な膜厚を有する高品位のものである。
【実施例】
【0026】
実施例1
<基体及びコバルト前駆体溶液の準備>
コバルト膜が形成されるべき基体(第一の基体)として、片方の表面に厚さ10nmの窒化タンタル膜を有する直径4インチのシリコン基板を用意した。コバルト前駆体溶液を配置する別の基体(第二の基体)として、直径4インチのシリコン基板を用意した。
コバルト前駆体溶液として、オクタカルボニルジコバルト10gをn−ヘキサン90gに溶解した溶液を用意した。
<コバルト膜の形成及び評価>
(1)別の基体上へのコバルト前駆体溶液の配置及び溶媒の除去
窒素雰囲気中で、上記第二の基体であるシリコン基板の片面に、上記オクタカルボニルジコバルトのn−ヘキサン溶液をディッピング法により塗布した後、25℃で3分間静置して溶媒を除去することにより、第二の基体上に厚さ約3μmのコバルト前駆体の均一な膜を得た。この膜の重量は30mgであった。
【0027】
(2)コバルト膜の形成及び評価
次いで、窒素雰囲気下で上記第一の基体の窒化タンタル膜を有する面と、上記第二の基体のコバルト前駆体の膜を有する面とを距離2.0mmで対向させて配置した。このとき、第一の基体が上側になり、第二の基体が下側になるように配置した。第一の基体の背面をホットプレート面に接触させて、この基体を120℃で10分間加熱した。加熱された第一の基体からの輻射熱により、第二の基体上のコバルト前駆体が加熱されて昇華し、第一の基体上に厚さ200nmの銀白色の膜が形成された。この膜につき、SIMS分析を行ったところ、この膜はコバルト金属からなる膜であることがわかった。このコバルト膜の比抵抗は18μΩcmであった。
また、コバルト膜形成後に、第二の基体上に残存したコバルト前駆体の重量は0mgであり、残存率は0%であった。
<コバルト前駆体溶液の安定性評価>
上記コバルト前駆体溶液を、40℃の窒素雰囲気下で24時間静置した。24時間静置後の溶液を使用して、上記<コバルト膜の形成及び評価>と同様にして、コバルト膜の形成と評価を行った。
厚さ200nmのコバルト膜が得られ、その比抵抗は15μΩcmであった。
このとき、第二の基体上に残存したコバルト前駆体の残存率は0%であった。
【0028】
実施例2
上記実施例1において、コバルト前駆体溶液の溶媒としてn−へキサンの代わりにトルエンを使用した以外は実施例1と同様に実施して、評価を行った。
評価結果は表1に示した。
実施例3
上記実施例1において、コバルト前駆体溶液を塗布して溶媒を除去する操作を繰り返し、第二の基体上に厚さ約9μm(重量90mg)のコバルト前駆体の均一な膜を形成したこと以外は実施例1と同様に実施して、評価を行った。
評価結果は表1に示した。
実施例4
上記実施例1の「(2)コバルト膜の形成及び評価」における第一の基体の加熱温度を200℃としたこと以外は実施例1と同様に実施して、評価を行った。
評価結果は表1に示した。
【0029】
比較例1
上記実施例1の「(1)別の基体上へのコバルト前駆体溶液の配置及び溶媒の除去」において、溶媒を使用せず、第二の基体上にオクタカルボニルジコバルト30mgを直接散布し、この第二の基体を使用したこと以外は実施例1と同様に実施して、評価を行った。ただし、本比較例ではコバルト前駆体溶液を調製していないので、溶液の安定性評価は行わなかった。
評価結果は表1に示した。
比較例2
上記比較例1において、第一の基体の加熱温度を200℃としたこと以外は比較例1と同様に実施して、評価を行った。ただし、本比較例ではコバルト前駆体溶液を調製していないので、溶液の安定性評価は行わなかった。
評価結果は表1に示した。
比較例3
上記実施例1において、コバルト前駆体溶液の溶媒としてn−へキサンの代わりにアセトンを使用した以外は実施例1と同様に実施して、評価を行った。
評価結果は表1に示した。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクタカルボニルジコバルトを含むコバルト前駆体を昇華して基体上に供給し、該基体上で該コバルト前駆体をコバルトに変換して基体表面上にコバルト膜を形成する方法において、
コバルト前駆体を炭素数5〜8の脂肪族炭化水素、炭素数5〜8の脂環族炭化水素及び炭素数6〜8の芳香族炭化水素よりなる群から選択される少なくとも一種の溶媒に溶解した溶液を準備し、
上記基体上に供給されるコバルト前駆体は上記溶液に由来するコバルト前駆体の昇華物であり、そして
コバルト膜形成後のコバルト前駆体の残存率が12重量%以下であることを特徴とする、コバルト膜の形成方法。
【請求項2】
上記溶液から溶媒を除去する工程と、その残存物からコバルト前駆体を昇華する工程とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コバルト膜を形成するべき基体とは別の基体の表面上に上記溶液を配置し、そして上記基体のコバルト膜を形成すべき面と上記別の基体の上記溶液を配置した面とを対向配置してコバルト前駆体を昇華する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記基体のコバルト膜を形成すべき面と上記別の基体の上記溶液を配置した面との距離が0.1〜10mmである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記基体上に形成されるコバルト膜の膜厚が1〜1,000nmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−84215(P2010−84215A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257138(P2008−257138)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】