説明

コヒーレント光受信装置およびコヒーレント光受信方法

【課題】コヒーレント光受信装置においては、多重信号光を局部発振光の波長により選択的に受信することとすると、劣化、破壊が起きる可能性がある。
【解決手段】本発明のコヒーレント光受信装置は、波長が互いに異なる信号光が波長数だけ多重された多重信号光を一括して受信するコヒーレント光受信器と、コヒーレント光受信器に接続され、多重信号光の中の少なくとも一の信号光と干渉する局部発振光を出力する局部発振器と、コヒーレント光受信器と局部発振器に接続された制御部、とを有し、コヒーレント光受信器は、多重信号光の一部を受光する受光部と、90度ハイブリッド回路と、光電変換器とを備え、90度ハイブリッド回路は多重信号光と局部発振光を入力し、多重信号光と局部発振光を干渉させた干渉信号光を光電変換器に出力し、制御部は、受光部の出力と光電変換器の出力とから導出されるコヒーレント光受信器の電流変換効率に基づいて局部発振器の出力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント光受信装置およびコヒーレント光受信方法に関し、特に、多重信号光をコヒーレント検波により受信するコヒーレント光受信装置およびコヒーレント光受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長距離光伝送システムでは、1本の光ファイバー中に複数の波長の光信号を多重化して伝送する波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)伝送技術を用いて、大容量の情報伝送を実現している。さらなる大容量化技術の一つに、コヒーレント光受信方式がある。
【0003】
コヒーレント光受信方式は直接検波方式と比較して、高い受信感度を実現することが可能であることから、以前は活発に研究開発が行われていた。しかし、コヒーレント光受信方式の実現に必要な光PLL(Phase Locked Loop)や狭スペクトル光源などの開発が技術的に困難であった。一方、光増幅器が開発されたことにより直接検波方式においても光通信の長距離化が可能になったため、コヒーレント光受信方式の実用化開発は停滞していた。
【0004】
しかし近年、100Gbps級の伝送速度の実現には、偏波多重4相位相変調(Dual Polarization − Quadrature Phase Shift Keying:DP−QPSK)方式が有望と考えられるようになった。そのため、以下の理由からコヒーレント光受信方式の研究開発が再び活発になっている。その理由は、第1に、CMOS−LSI技術の進歩によりデジタル信号処理技術が向上し、光源周波数のズレを補償することが可能となったため、高精度な光PLLが不要となったことである。第2に、デジタル信号処理技術により波長分散(Chromatic Dispersion:CD)や偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion:PMD)の補償が可能となったことである。また、第3に、高いビットレート(Bit Rate)であるため、狭スペクトル光源が不要となったことである。さらに、第4に、コヒーレント光受信方式の特徴である高感度、高光信号雑音比(Optical Signal−to−Noise Ratio:OSNR)耐力が高ビットレートでのマージン不足を改善することである。
【0005】
一方、光分岐挿入技術であるROADM(Reconfigurable Optical Add−Drop Multiplexer)にコヒーレント光受信方式の波長選択性を用いたノンブロッキングROADM構成が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この構成により、波長分岐のためのアレイ導波路回折格子(Arrayed Waveguide Grating:AWG)や光スイッチなど高価な光学部品が不要となる。本構成では波長分岐は行わず、全チャンネルの信号光が受信器に入力されるが、検出チャンネルの信号光と局部発振光の干渉成分のみを取り出すこと、すなわち波長選択が可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L. Nelson et al., ”Real-Time Detection of a 40 Gbps Intradyne Channel in the Presence of Multiple Received WDM Channels,” in Optical Fiber Communication Conference, OSA Technical Digest (CD) (Optical Society of America, 2010), paper OMJ1.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数波長の中から所望の波長の信号のみを取り出す波長選択型のコヒーレント光受信方式においては、チャンネル信号として使用しない不要チャンネルの信号光も含めた複数チャンネルの信号光が一括して関連するコヒーレント光受信装置に入力される。そのため、関連するコヒーレント光受信装置における信号光の平均入力パワーが増大し、関連するコヒーレント光受信装置を構成するフォトディテクタ(Photo Detecter:PD)に流れる電流がPDの絶対最大定格を超えてしまう場合が発生し得る。その結果、関連するコヒーレント光受信装置の劣化、破壊が起きる可能性がある、という問題があった。
【0008】
このように、関連するコヒーレント光受信装置においては、多重信号光を局部発振光の波長により選択的に受信することとすると、劣化、破壊が起きる可能性がある、という問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上述した課題である、関連するコヒーレント光受信装置においては、多重信号光を局部発振光の波長により選択的に受信することとすると、劣化、破壊が起きる可能性がある、という課題を解決するコヒーレント光受信装置およびコヒーレント光受信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のコヒーレント光受信装置は、波長が互いに異なる信号光が波長数だけ多重された多重信号光を一括して受信するコヒーレント光受信器と、コヒーレント光受信器に接続され、多重信号光の中の少なくとも一の信号光と干渉する局部発振光を出力する局部発振器と、コヒーレント光受信器と局部発振器に接続された制御部、とを有し、コヒーレント光受信器は、多重信号光の一部を受光する受光部と、90度ハイブリッド回路と、光電変換器とを備え、90度ハイブリッド回路は多重信号光と局部発振光を入力し、多重信号光と局部発振光を干渉させた干渉信号光を光電変換器に出力し、制御部は、受光部の出力と光電変換器の出力とから導出されるコヒーレント光受信器の電流変換効率に基づいて局部発振器の出力を制御する。
【0011】
本発明のコヒーレント光受信方法は、信号光を入力し、信号光を光電変換することによって第1の光電流を取得し、信号光の強度と第1の光電流とから第1の電流変換効率を取得し、信号光と干渉する局部発振光を入力し、局部発振光を光電変換することによって第2の光電流を取得し、記局部発振光の強度と第2の光電流とから第2の電流変換効率を取得し、第1の電流変換効率と第2の電流変換効率の少なくとも一方に基づいて局部発振光の強度である局部発振光強度を制御する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコヒーレント光受信装置およびコヒーレント光受信方法によれば、多重信号光を局部発振光の波長により選択的に受信する場合であっても、コヒーレント光受信装置の劣化、破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るコヒーレント光受信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るコヒーレント光受信装置を用いたノンブロッキングROADMシステムの構成を示すブロック図である。
【図3】関連するROADMシステムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るコヒーレント光受信装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るコヒーレント光受信装置が備える90度ハイブリッド回路の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るコヒーレント光受信方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るコヒーレント光受信装置の別の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るコヒーレント光受信方法における電流変換効率の導出方法を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るコヒーレント光受信装置における、許容される局部発振光強度と波長数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係るコヒーレント光受信装置100の構成を示すブロック図である。コヒーレント光受信装置100は、コヒーレント光受信器110、コヒーレント光受信器110に接続された局部発振器120、およびコヒーレント光受信器110と局部発振器120に接続された制御部130を有する。
【0016】
コヒーレント光受信器110は、波長が互いに異なる信号光が波長数だけ多重された多重信号光を一括して受信する。そして多重信号光の一部を受光する受光部111と、90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)112と、光電変換器113とを備える。ここで光電変換器113はフォトディテクタ(Photo Detecter:PD)等により構成される。
【0017】
局部発振器120は多重信号光の中の少なくとも一の信号光と干渉する局部発振光をコヒーレント光受信器110に出力する。90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)112は多重信号光と局部発振光を入力し、両者を干渉させた干渉信号光を光電変換器113に出力する。このとき光電変換器113には局部発振光と干渉した干渉信号光、それ以外の多重信号光、および局部発振光が入力される。そしてコヒーレント光受信器110は局部発振光と干渉する信号光を多重信号光の中から選択的にコヒーレント検波し、検波後の信号を出力する。
【0018】
制御部130は、受光部111の出力と光電変換器113の出力とから導出されるコヒーレント光受信器110の電流変換効率に基づいて局部発振器の出力を制御する。このとき、多重信号光を構成する各信号の最大強度が予め定められている場合は、電流変換効率と波長数を用いて局部発振器の出力を制御することができる。これに限らず、電流変換効率と受光部111の出力から導出される多重信号光強度を用いて局部発振器の出力を制御する構成としてもよい。
【0019】
本実施形態のコヒーレント光受信装置100によれば、コヒーレント光受信器110の電流変換効率に基づいて局部発振器の出力を制御することとしているので、光電変換器113に入力される全光強度を抑制することができる。その結果、多重信号光を局部発振光の波長により選択的に受信する場合であっても、コヒーレント光受信装置100の劣化、破壊を防止することができる。
【0020】
具体的には、例えば、制御部130においてまず、電流変換効率と波長数と局部発振光の光強度である局部発振光強度とから、多重信号光と局部発振光を共に光電変換することによって得られる光電流の最大値である最大光電流を導出する。その後に制御部130が、このときの最大光電流が光電変換器の最大定格値を超えないように局部発振器の出力を制御する構成とすることができる。
【0021】
なお、波長数が「1」の場合、すなわち単一波長信号光を受信する場合であっても、コヒーレント光受信器の電流変換効率が高いと光電変換器に流れる電流が過大となり、劣化、破壊に至るという同様の問題が発生し得る。しかしこの場合であっても本実施形態のコヒーレント光受信装置100によれば、光電変換器113に入力される全光強度を抑制することができるので、かかる問題の発生を回避することができる。
【0022】
図2に、本発明の実施形態によるコヒーレント光受信装置を用いたノンブロッキングROADMシステム1000の一例を示す。光スプリッター1−1は波長多重された多重信号光を波長ブロッカー2及びコヒーレント光受信器RX4−1〜4−Nにパワー分岐する。波長ブロッカー2に分岐された多重信号光の中で、特定の波長の信号光はブロックされる。その他の波長の信号光は透過し、光アンプ7で増幅された後に光スプリッター1−2に送られる。光スプリッター1−1で分岐された多重信号光は、局部発振器LO3−1〜3−Nが出力する局部発振光と各々合波されてコヒーレント光受信器RX4−1〜4−Nで受信される。その後、光−電気変換されてからクライアント6−1〜6−Nに各々送られる。一方クライアント6−1〜6−Nからの信号は各々送信器TX5−1〜5−Nで電気−光変換された後に光スプリッター1−2に送られる。制御部8は波長ブロッカー2、局部発振器LO3−1〜3−N、コヒーレント光受信器RX4−1〜4−N、および送信器TX5−1〜5−Nを制御する。ここで、コヒーレント光受信器RXと、局部発振器LOと、制御部8の一部が本実施形態によるコヒーレント光受信装置100を構成する。
【0023】
このような構成とすることにより、本実施形態のコヒーレント光受信装置100を用いたノンブロッキングROADMシステム1000によれば、波長選択性を備えたROADMシステムが得られる。
【0024】
比較のため図3に、関連するROADMシステム2000の構成の一例を示す。アレイ導波路回折格子であるAWG21−1は多重信号光を各波長に分岐し、光スイッチであるAdd−Drop−SW22に送る。Add−Drop−SW22は分岐(ドロップ)する波長の信号光は関連するコヒーレント光受信器RX24−1〜24−Nに送り、通過(スルー)する波長の信号光はAWG21−2に送る。分岐(ドロップ)された信号光は局部発振器LO23−1・・・23−Nが出力する局部発振光と各々合波されて関連するコヒーレント光受信器RX24−1・・・24−Nで受信される。その後、光−電気変換されてからクライアント26−1・・・26−Nに各々送られる。一方、分岐(ドロップ)された信号光の波長に対応するチャンネルのクライアント26−1・・・26−Nからの信号は、各々送信器TX25−1・・・25−Nで電気−光変換された後にAdd−Drop−SW22に送られる。Add−Drop−SW22は挿入された信号光をAWG21−2に送信する。
【0025】
図2と図3から明らかなように、図2に示した本実施形態によるノンブロッキングROADMシステム1000によれば、図3に示した構成に不可欠なアレイ導波路回折格子AWGや光スイッチAdd−Drop−SWは不要となる。これらの光学装置は高価であることからコスト増加の要因となり、またWDM光伝送システムにおける設計の自由度を制限する、という問題があった。それに対して、本実施形態によるノンブロッキングROADMシステム1000においては、かかる問題を生じることなく、多重信号光を局部発振光の波長により選択的に受信することが可能となる。
【0026】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図4は、本発明の第2の実施形態に係るコヒーレント光受信装置200の構成を示すブロック図である。本実施形態では、偏波多重4相位相変調(Dual Polarization − Quadrature Phase Shift Keying:DP−QPSK)方式に用いられる場合について説明する。
【0027】
コヒーレント光受信装置200に入力される多重信号光の一部は受光部(PD)32に分岐され、パワーモニタとして用いられる。他の多重信号光は偏光ビームスプリッタ(Polarizing Beam Splitter)であるPBS34でX偏波およびY偏波に分離され、各々90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)36−1、36−2に入力される。一方、局部発振器LO33から出力される局部発振光は光カプラ35で2分岐され各々90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)36−1、36−2に入力される。90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)36−1、36−2の内部で信号光と局部発振光との干渉光を取得し、バランス型フォトディテクタであるバランスPD37−1〜37−4に入力される。バランスPDで光電変換された信号光は、インピーダンス変換増幅器(Transimpedance Amplifier:TIA)と自動利得制御(Automatic Gain Control:AGC)回路からなるTIA/AGC38−1〜38−4で振幅調整される。その後、AC(Alternating Current)結合を通してアナログ−デジタル変換器(Analog−to−Digital Converter:ADC)であるADC39−1〜39−4に入力され、デジタル信号処理部(Digital Signal Processor:DSP)であるDSP30−1でデジタル信号処理される。そして各部の動作は監視制御部30−2によってモニタされ、あるいは制御される。なお、コヒーレント光受信装置200のうち、局部発振器LO33および監視制御部30−2以外の部分がコヒーレント光受信器210を構成する。
【0028】
図5に、90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)36−1、36−2の具体的な構成の一例を示す。信号光は光カプラ41−1、41−2、41−4で4分岐される。一方、局部発振光は光カプラ41−3、41−5、41−6で4分岐された後、π/2位相シフタ43及びπ位相シフタ42−1、42−2によって、位相をそれぞれ0、π、π/2、3π/2だけシフトされる。その後、局部発振光と信号光との干渉光が光ミキサー44−1〜44−4によって生成され、光電変換器としてのフォトディテクタPD45−1〜45−4に出力される。従って信号光及び局部発振光には、90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)において4分岐分に対応する6dBの光損失が生じる。
【0029】
次に、フォトディテクタPD45−1〜45−4の出力について説明する。多重信号光をS(t)、局部発振光をL(t)とすると、それぞれ下記のように表わされる。


【0030】
ここで、ω、ωはそれぞれ信号光、局部発振光の周波数(=光速/波長)を示す。また、φは信号光の位相であり、位相変調方式ではこの位相に送信情報が乗せられる。例えば、QPSK方式ではφは0、π、π/2、3π/2のいずれかの値である。
【0031】
抽出する信号光ωと局部発振光ωの波長が一致している(ω=ω)とすると、各フォトディテクタPD45−1〜4の出力は次のように表される。


【0032】


【0033】


【0034】


【0035】
式(1)〜式(4)における、a、b、c、dはそれぞれコヒーレント光受信器の電流変換効率であり、ここでは信号光ポートと局部発振光ポートにおいて等しいものとしている。このとき、k=1以外の信号光は通常、局部発振光から50GHz以上離れているので、これらの信号光と局部発振光との干渉成分は各フォトディテクタPDの帯域外となる。そのため、これらの干渉成分は式(1)〜式(4)中には現れない。
【0036】
次に、電流変換効率について具体的に説明する。フォトディテクタPDの電流変換効率とは、フォトディテクタPDに1Wの強度の光を入力した時に何Aの電流が流れるかを示す値である。フォトディテクタPDにおける入力光強度と光電流の関係は次式で表される。

【0037】
ここで、I[A]は光電流、eは電荷密度、hはプランク定数、λは波長、cは光速、ηは量子効率、P[W]は入力光強度をそれぞれ表わす。上式からフォトディテクタPDの電流変換効率は下記のように求まる。

【0038】
これに対して、コヒーレント光受信器の電流変換効率とは、光受信器の入力ポートに1Wの強度の光を入力した時、フォトディテクタPDに何Aの電流が流れるかを示す。コヒーレント光受信器210の信号光ポートに入力された信号光は、PBS34で2分岐、90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)36−1(36−2)で4分岐、合計8分岐される。そのため、8分岐分に対応する9dBの光損失が生じる。したがって、コヒーレント光受信器210の信号光ポートへの入力パワーをPsig[dBm]とすると、フォトディテクタPDへの入力強度P[dBm]は次式で表わされる。

【0039】
ここで、Lsigは信号光ポートの過剰損失を示す。なお過剰損失とは、導波路の損失や導波路と各フォトディテクタPDとの結合損である。上記2式より、コヒーレント光受信器210の信号光ポートにおける電流変換効率は次式により表わされる。

【0040】
具体的には例えば、フォトディテクタPDの電流変換効率を0.8[A/W]、信号光ポートの過剰損失Lsig[dB]を2dBとすると、コヒーレント光受信器の信号光ポートの電流変換効率は

【0041】
と求まる。
【0042】
次に、コヒーレント光受信器をROADMシステムに用いる場合について説明する。図3に示した関連するROADMシステム2000においては、上述したように、AWG21−1を用いて波長分岐する。そして、Add−Drop−SW22において分岐(Drop)するか通過(Through)するかによってスイッチし、特定の波長の信号光を取り出して受信する。また、分岐(Drop)された信号光の波長に対応する信号はAdd−Drop−SW22に挿入(Add)され、AWG21−2において合波された後に伝送路に送信される。
【0043】
それに対して図2に示した本実施形態によるコヒーレント光受信器を用いたノンブロッキングROADMシステム1000においては、上述したように、波長多重された多重信号光はまず光スプリッター1−1でパワー分岐される。その後、各コヒーレント光受信器RX4−1〜4−Nによって受信される。局部発振器LO3−1〜3−Nからの局部発振光もそれぞれコヒーレント光受信器RX4−1〜4−Nに入力され、信号光と干渉させられる。抽出したい波長の信号光と同一波長の局部発振光と干渉させることによって、波長分岐せずに全波長のチャンネルを受信するにも関わらず、特定の波長の信号光のみ取り出すことができる。信号光を通過(Through)させるチャンネルは送信器TX5−kおよびコヒーレント光受信器RX5−kを設置しないでおくか、あるいは設置していても動作させないこととする。このとき、波長ブロッカー2は通過(Through)させるチャンネルの信号のみを通す。なお、これらの制御は制御部8が行う。
【0044】
しかし、波長分割多重(WDM)システムでは、複数波長の信号光が同時に入力するため高強度の光がコヒーレント光受信器RX4−1〜4−Nに入力する。例えば、1チャンネル当りの最大光強度が0dBmである信号光が32チャンネル入力されるとすると、合計で+15.1dBmの強度の光がコヒーレント光受信器に入力されることになる。コヒーレント光受信器の内部では、上述したように、X偏波とY偏波の分離で2分岐、90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)内で4分岐、合計8分岐されるため、分岐損が9dB生じる。それ他に過剰損失が存在する。これらの損失を2dBとすると、1個のフォトディテクタPD当り+4.1dBmの強度の光が入力することになる。これに加えて、局部発振光の強度を+15dBmとすると、さらに+4dBmの強度の光が入力し、合わせて+7.1dBmの強度の光が入力されることになる。フォトディテクタPDの電流変換効率を0.8A/Wとすると、フォトディテクタPDに平均して約4mAの電流が流れることになるが、これはフォトディテクタPDの絶対最大定格を超えてしまう。そのため、コヒーレント光受信器の劣化、破壊が起こる可能性がある。
【0045】
しかしながら、本実施形態によるコヒーレント光受信方法によれば、以下に述べるように、多重信号光を局部発振光の波長により選択的に受信する場合であっても、コヒーレント光受信装置の劣化、破壊を防止することができる。
【0046】
図6は、本実施形態によるコヒーレント光受信方法を説明するためのフローチャートである。まず、コヒーレント光受信器は信号光を入力し(ステップS11)、信号光を光電変換することによって第1の光電流を取得する(ステップS12)。そして、信号光の強度と第1の光電流とから、信号光に対する電流変換効率である第1の電流変換効率を取得する(ステップS13)。
【0047】
次に、コヒーレント光受信器は信号光と干渉する局部発振光を入力し(ステップS14)、局部発振光を光電変換することによって第2の光電流を取得する(ステップS15)。そして、局部発振光の強度と第2の光電流とから、局部発振光に対する電流変換効率である第2の電流変換効率を取得する(ステップS16)。
【0048】
最後に、コヒーレント光受信器は第1の電流変換効率と第2の電流変換効率の少なくとも一方に基づいて局部発振光の強度である局部発振光強度を制御する(ステップS17)。上記説明では、第1の電流変換効率を取得した後に第2の電流変換効率を取得するとしたが、これに限らず、第2の電流変換効率を取得した後に第2の電流変換効率を取得することとしてもよい。
【0049】
ここで、本実施形態によるコヒーレント光受信方法によって予め第1の電流変換効率および第2の電流変換効率を取得しておき(ステップS11〜S16)、その値をコヒーレント光受信器が備える記憶部(メモリ等)に記憶させておくことができる。この場合、コヒーレント光受信器は実稼動時において、記憶部(メモリ等)に保存されている第1の電流変換効率および第2の電流変換効率の値を参照することにより、局部発振光強度を制御する(ステップS17)。
【0050】
また、本実施形態によるコヒーレント光受信装置200を用いる場合には、コヒーレント光受信装置200が備える受光部(PD)32によって、信号光である多重信号光の強度を実稼動時においても取得することができる。そのため、実稼動時における電流変換効率を取得することができ、それに基づいて局部発振光強度を制御することが可能になる。
【0051】
次に、局部発振光強度の制御についてコヒーレント光受信装置200を用いた場合を例として説明する。したがって信号光は、波長が互いに異なる信号光が波長数だけ多重された多重信号光である。まず、第1の電流変換効率と第2の電流変換効率の少なくとも一方と、波長数と、局部発振光強度とから、多重信号光と局部発振光を共に光電変換することによって得られる光電流の最大値である最大光電流を導出する。そして、この最大光電流が所定の値を超えないように局部発振光強度を制御する。このとき、多重信号光の波長数の増減に応じて局部発振光強度を制御することとしてもよい。
【0052】
これらの局部発振光強度の制御は、監視制御部30−2が局部発振器LO33の駆動電流を制御することにより局部発振器LO33の出力を制御することにより行うことができる。これに限らず、図7に示したコヒーレント光受信装置300のように、監視制御部30−2が可変光減衰器VOA31を制御することにより局部発振器LO33の出力である局部発振光を制御することとしてもよい。ここで可変光減衰器VOA31は、局部発振器LOとコヒーレント光受信器310との間の局部発振光の光路中に配置される。
【0053】
次に、本実施形態によるコヒーレント光受信方法についてさらに詳細に説明する。図8は、電流変換効率の導出方法を説明するためのフローチャートである。まず、局部発振光を遮断(OFF)した状態において(ステップS21)、多重信号光を光電変換することによって第1の光電流を取得する(ステップS22)。具体的には、局部発振光の出力をOFF状態とし、信号光ポートから信号光群を入力する。この時、受光部(PD)32及びバランスPD37−1〜37−4の光電流を測定する。受光部(PD)32の入力光強度に対する光電流の関係は予め測定することにより取得できるので、これにより受光部(PD)32における信号群強度である多重信号光強度が得られる。この多重信号光強度と第1の光電流であるバランスPD37−1〜37−4の光電流から、信号光ポートにおける多重信号光に対する電流変換効率が算出される(ステップS23)。
【0054】
次に、局部発振光を所定の強度で出力(ON)状態とする(ステップS24)。ここで所定の局部発振光強度は信号光群強度と合わせても、フォトディテクタPDの絶対最大定格を超えない範囲とする。この時、バランスPD37−1〜37−4の光電流を測定することにより、多重信号光と局部発振光を共に光電変換することによって得られる第3の光電流を取得する(ステップS25)。そして、第1の光電流と第3の光電流との差分と、局部発振光強度とから、局部発振光ポートにおける局部発振光に対する電流変換効率を導出する(ステップS26)。以上のステップにより、多重信号光および局部発振光に対する電流変換効率を導出することができる。
【0055】
図9は、許容される局部発振光強度と波長数との関係を異なる電流変換効率に対して示した図である。ここで、フォトディテクタPDの絶対最大定格を2mA、1チャンネル当たりの最大受信強度を0dBmとし、簡単のため信号光ポートと局部発振光ポートにおける電流変換効率は等しいとした。
【0056】
上述の式(1)より、フォトディテクタPD45−1に流れる光電流の最大値は以下の式で表わされる。

【0057】
図9は、この光電流の最大値がフォトディテクタPDの絶対最大定格とした2mAを超えないように局部発振光強度Bを求めたものである。フォトディテクタPD45−2〜45−4についても、式(2)−(4)を用いて同様に求めることができる。電流変換効率は上述の導出方法により取得でき、チャンネル数の情報は外部装置から通知されるので、この2つの情報に基づいて局部発振光強度を決定することができる。
【0058】
なお、局部発振器LO33に用いられる波長可変レーザモジュール(Integrable Tunable Laser Assembly:ITLA)の出力強度の上限は通常+15dBm程度である。したがって、図9で+15dBm以上が許容される場合であっても、局部発振器LO33の出力は+15dBmに設定することになる。
【0059】
局部発振器LO33の出力を制御するために、波長可変レーザモジュールITLAに流す電流を変化させると局部発振光の位相も変化し、信号光の受信が遮断される可能性がある。それを回避するために、予め受信する最大の波長数を想定し、その波長数に応じた局部発振光強度を設定することができる。また、図7に示したコヒーレント光受信器300を用いて、局部発振器LO33の後段に配置された可変光減衰器VOA31の減衰率を制御することにより、局部発振光強度を変化させることとしても良い。この場合は局部発振光の位相は変化しないので、信号光の受信が遮断されることはない。
【0060】
局部発振器LO33の駆動電流を制御する場合は、コヒーレント光受信装置を導入した当初は受信チャンネル数が少ない場合であっても、その後のチャンネル数の増加を見込んで局部発振光強度を低く設定しておく必要がある。そのため、受信チャンネル数が少ない時は最小受信感度の面では不利になる。一方、可変光減衰器VOA31を用いる場合は、部品点数が増え、可変光減衰器VOA31における損失量だけ局部発振光強度が低下することになるが、波長数の増減に対して最適な局部発振光強度を設定することが可能になる。
【0061】
具体的には例えば、上述した電流変換効率の導出方法(図8)により電流変換効率が0.03A/Wと求まり、チャンネル数は最終的に24チャンネルまで増加するとした場合、図9より局部発振光強度は+15dBmに設定しておけばよいことがわかる。
【0062】
また、同様にして電流変換効率が0.05A/Wと求まり、波長数は最終的に24波長まで増加するとした場合、局部発振光強度は+9.8dBmに設定しておけばよい。可変光減衰器VOA31を用いる場合には、波長数が1である時は局部発振光強度を+14.5dBmに設定し、波長数が増加するに従って局部発振光強度を低減させる。そして、24波長の時には+9.8dBmとなるように可変光減衰器VOA31を制御する。これにより、各波長数に対して最適な局部発振光強度を設定することができる。
【0063】
なお、可変光減衰器VOA31を用いる場合は、波長数を用いることなく、電流変換効率と受光部(PD)32によってモニタする多重信号光強度とを用いて、適応的に局部発振光強度を変化させる構成としてもよい。
【0064】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0065】
100、200、300 コヒーレント光受信装置
110、210、310 コヒーレント光受信器
111 受光部
112 90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)
113 光電変換器
120 局部発振器
130 制御部
1−1、1−2 光スプリッター
2 波長ブロッカー
3−1〜3−N、23−1〜23−N 局部発振器LO
4−1〜4−N コヒーレント光受信器RX
5−1〜5−N、25−1〜25−N 送信器TX
6−1〜6−N、26−1〜26−N クライアント
7 光アンプ
8 制御部
21−1、21−2 AWG
22 Add−Drop−SW
24−1〜24−N 関連するコヒーレント光受信器RX
30−1 DSP
30−2 監視制御部
31 可変光減衰器VOA
32 受光部(PD)
33 局部発振器LO
34 PBS
35 光カプラ
36−1、36−2 90度ハイブリッド回路(90°Hybrid)
37−1〜37−4 バランスPD
38−1〜38−4 TIA/AGC
39−1〜39−4 ADC
41−1〜41−6 光カプラ
42−1、42−2 π位相シフタ
43 π/2位相シフタ
44−1〜44−4 光ミキサー
45−1〜45−4 フォトディテクタPD
1000 ノンブロッキングROADMシステム
2000 関連するROADMシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が互いに異なる信号光が波長数だけ多重された多重信号光を一括して受信するコヒーレント光受信器と、
前記コヒーレント光受信器に接続され、前記多重信号光の中の少なくとも一の信号光と干渉する局部発振光を出力する局部発振器と、
前記コヒーレント光受信器と前記局部発振器に接続された制御部、
とを有し、
前記コヒーレント光受信器は、前記多重信号光の一部を受光する受光部と、90度ハイブリッド回路と、光電変換器とを備え、
前記90度ハイブリッド回路は前記多重信号光と前記局部発振光を入力し、前記多重信号光と前記局部発振光を干渉させた干渉信号光を前記光電変換器に出力し、
前記制御部は、前記受光部の出力と前記光電変換器の出力とから導出される前記コヒーレント光受信器の電流変換効率に基づいて前記局部発振器の出力を制御する
コヒーレント光受信装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電流変換効率と前記波長数と前記局部発振光の光強度である局部発振光強度とから、前記多重信号光と前記局部発振光を共に光電変換することによって得られる光電流の最大値である最大光電流を導出し、
前記最大光電流が前記光電変換器の最大定格値を超えないように前記局部発振器の出力を制御する
請求項1に記載したコヒーレント光受信装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記多重信号光と前記局部発振光の少なくとも一方に対する電流変換効率を導出する
請求項1または2に記載したコヒーレント光受信装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記局部発振器の駆動電流を制御することにより前記局部発振器の出力を制御する
請求項1から3のいずれか一項に記載したコヒーレント光受信装置。
【請求項5】
前記局部発振器と前記コヒーレント光受信器との間の前記局部発振光の光路中に配置された可変光減衰器をさらに備え、
前記制御部は、前記可変光減衰器を制御することにより前記局部発振器の出力を制御する
請求項1から3のいずれか一項に記載したコヒーレント光受信装置。
【請求項6】
信号光を入力し、
前記信号光を光電変換することによって第1の光電流を取得し、
前記信号光の強度と前記第1の光電流とから第1の電流変換効率を取得し、
前記信号光と干渉する局部発振光を入力し、
前記局部発振光を光電変換することによって第2の光電流を取得し、
前記局部発振光の強度と前記第2の光電流とから第2の電流変換効率を取得し、
前記第1の電流変換効率と前記第2の電流変換効率の少なくとも一方に基づいて前記局部発振光の強度である局部発振光強度を制御する
コヒーレント光受信方法。
【請求項7】
前記信号光は、波長が互いに異なる信号光が波長数だけ多重された多重信号光であり、
前記第1の電流変換効率と前記第2の電流変換効率の少なくとも一方と、前記波長数と、前記局部発振光強度とから、前記多重信号光と前記局部発振光を共に光電変換することによって得られる光電流の最大値である最大光電流を導出し、
前記最大光電流が所定の値を超えないように前記局部発振光強度を制御する
請求項6に記載したコヒーレント光受信方法。
【請求項8】
前記波長数の増減に応じて前記局部発振光強度を制御する
請求項7に記載したコヒーレント光受信方法。
【請求項9】
前記多重信号光の一部を受信することによって多重信号光強度を取得し、
前記局部発振光を遮断した状態において前記多重信号光を光電変換することによって第1の光電流を取得し、
前記多重信号光強度と前記第1の光電流とから前記第1の電流変換効率を導出する
請求項7から9のいずれか一項に記載したコヒーレント光受信方法。
【請求項10】
前記局部発振光を遮断した状態において前記多重信号光を光電変換することによって第1の光電流を取得し、
前記多重信号光と前記局部発振光を共に光電変換することによって第3の光電流を取得し、
前記第1の光電流と前記第3の光電流との差分と、前記局部発振光強度とから前記第2の電流変換効率を導出する
請求項7から9のいずれか一項に記載したコヒーレント光受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−46162(P2013−46162A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181689(P2011−181689)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】