説明

コフィリン結合剤、及びコフィリン結合剤を有効成分とする抗癌剤

【課題】新規な抗癌剤(癌の増殖抑制剤又は癌の転移抑制剤)、コフィリン結合剤、コフィリン検出剤、コフィリンの検出方法、アクチンフィラメント代謝制御剤、アクチンフィラメント代謝の制御方法を提供すること。
【解決手段】(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを含む抗癌剤(癌の増殖抑制剤又は癌の転移抑制剤)、コフィリン結合剤、コフィリン検出剤、アクチンフィラメント代謝制御剤、及び前記コフィリン検出剤を使用したコフィリンの検出方法、前記アクチンフィラメント代謝制御剤を使用したアクチンフィラメント代謝の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コフィリン結合剤、及びコフィリン結合剤を有効成分とする抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性新生物と称される癌・腫瘍に起因する疾患は、各種臓器・骨・筋肉・皮膚など全身において無秩序な増殖を繰り返すことにより、宿主たる人間の生命を脅かし、主要な死亡原因疾患として脳血管系疾患の合計と1位・2位を争う深刻な状況が続いている。
【0003】
アクチンへの結合性及び脱重合性を持つコフィリンは、LIMキナーゼによりリン酸化を受けることにより、細胞骨格性の変化が誘導される。従って、LIMキナーゼによりコフィリンがリン酸化を受けると、細胞の可動性が増加し、腫瘍細胞の増殖・転移が引起されることが知られている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。このため、LIM キナーゼによるコフィリンのリン酸化に関する調節機構の解明には、悪性新生物により引起される致命的な癌疾患の治療や転移防止のための治療薬開発への寄与が期待されている。
【0004】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンは、PDE3阻害剤であり、血栓性疾患や動脈硬化性疾患の治療、予防に有用であることが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特許2964029号公報
【非特許文献1】R Bagheri−Yarmand, Int. J. Cancer. 2005, Dec 27, Ahead of Print.
【非特許文献2】Y Nishimura, Eur. J. Cell. Biol. 2004,83(7):369-380.
【非特許文献3】3R Stierum, Biochim. Biophys. Acta 2003, 1650’1-2):733−91.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明の目的は、コフィリンが癌の増殖、転移に関与するとの知見を生かして、コフィリン関与に着目した新規な抗癌剤(癌の増殖抑制剤又は癌の転移抑制剤)を提供することにある。
さらに本願発明の目的は、癌の増殖、転移に関与するコフィリンを検出(同定及び定量を含む)するために使用できるコフィリン検出剤、及びコフィリンの検出方法を提供することにもある。
さらに本願発明の目的は、上記をはじめとする種々の用途に使用可能なコフィリン結合剤を提供することにもある。
さらに本願発明の目的は、アクチンフィラメント代謝を制御するコフィリンを制御することによって、アクチンフィラメント代謝を制御可能な制御剤、及び該制御剤によってアクチンフィラメント代謝を制御する方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実状に鑑み鋭意研究した結果、PDE3阻害剤として知られている次式、
【0007】
【化1】

【0008】
で表される(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンが、コフィリンに対して結合能を有することを見出して、以下の本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とする抗癌剤にある。
【0010】
また、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とする癌の増殖抑制剤にもある。
【0011】
また、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とする癌の転移抑制剤にもある。
【0012】
また、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とするコフィリン結合剤にもある。
【0013】
また、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを含むコフィリン検出剤にもある。
【0014】
また、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とするコフィリン結合剤を使用して、コフィリンを検出する方法にもある。
【0015】
また、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを含む、アクチンフィラメント代謝制御剤にもある。
【0016】
また、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とするコフィリン結合剤を使用して、アクチンフィラメント代謝を制御する方法にもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の抗癌剤、癌の増殖抑制剤、及び癌の転移抑制剤は、各種悪性新生物即ち、各種固形癌、粘膜性癌、血液及び造血器癌、皮膚癌、骨癌などの各種癌、皮膚癌及び腫瘍の癌治療、癌の増殖抑制及び癌の転移抑制(防止)に有用である。
また本発明のコフィリン結合剤及びコフィリン検出剤は、コフィリンとの結合特性を使用して、コフィリンの局在や生理学的意義を解明するためのツールとして使用することができ、癌の治療のための標的化に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノン(以下、薬物)は、PDE3阻害剤として公知の化合物であり、その製造は公知の技術、例えば特許文献1記載の製造方法等により行うことができる。
本発明において、悪性新生物である癌とは、各種固形癌、粘膜性癌、血液及び造血器癌、皮膚癌、骨癌及び各種腫瘍その他が挙げられる。また、本発明における化合物は悪性新生物による癌治療、癌の増殖抑制、及び癌の転移抑制に有用である。
【0019】
本発明の薬物は通常、一般的な医薬製剤の形態で用いられる。製剤は通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、潤沢剤等の稀釈剤或いは賦形剤を用いて調製される。この医薬製剤としては各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)等が挙げられる。錠剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等が例示できる。更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠或いは二重錠、多層錠とすることができる。丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナランカンテン等の崩壊剤等が例示できる。坐剤の形態に成形するに際しては、担体として従来公知のものを広く使用でき、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を挙げられる。注射剤として調製される場合には液剤及び懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これら液剤、丸剤及び懸濁剤の形態に成形するのに際しては、稀釈剤としてこの分野において慣用されているものを全て使用でき、例えば水、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を挙げられる。尚、この場合等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖或いはグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を該製剤中に含有せしめてもよい。
【0020】
本発明の悪性新生物による癌治療のための抗癌剤、癌の増殖抑制剤、又は癌の転移抑制剤に含有される(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンの量は特に限定されず広範囲に選択されるが、通常全組成物中1〜70重量%、好ましくは1〜30重量%である。
本発明の癌治療のための抗癌剤、癌の増殖抑制剤、又は癌の転移抑制剤の投与方法には特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じた方法で投与される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤の場合には経口投与される。また注射剤の場合には単独で或いはブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更には必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤の場合には直腸内投与される。
本発明の癌治療のための抗癌剤、癌の増殖抑制剤、又は癌の転移抑制剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択されるが、通常有効成分である(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンの量は1日当り体重1kg当り約0.1〜10mgとするのがよい。また、投与単位形態中に有効成分を1〜200mg含有するのがよい。
【0021】
また、本発明の抗癌剤、癌の増殖抑制剤、又は癌の転移抑制剤を使用して、癌治療、癌の増殖抑制、及び癌の転移抑制を行うことができる。すなわち、本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを使用して、癌治療、癌の増殖抑制、及び癌の転移抑制を行う方法にもある。
【0022】
本発明のコフィリン結合剤は、コフィリンの生理学的意義解明手段としてプローブに適用でき、例えば(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノン(以下、薬物)標識体を用いて、細胞・組織表面等への結合を確認することにより、生体局所でのコフィリンの発現確認を行うことが出来る。すなわち、本発明のコフィリン結合剤は、コフィリンに対する結合能を有し、コフィリンの局在や生理学的意義を解明するためのツールとして使用することができる。
【0023】
本発明のコフィリン結合剤をプローブとして使用する場合には、例えば(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノン(以下、単に「薬物」という。)を適当なリンカー基を介して標識可能な物質と結合させた標識体を用いて、細胞・組織表面等への結合を確認することにより、生体局所でのコフィリンの発現確認を行うことが出来る。標識可能な物質としては、ビオチン、蛍光錯体などが挙げられる。リンカー基としては、本発明の薬物と標識可能な物質を結合させることができ、かつ両者の距離を適度に離せることができることができ、生理的に不活性であるものであれば特に制限はないが、例えば標識可能な物質としてビオチンを使用する場合には、薬物のシクロヘキシル基に結合している水酸基を3−アミノプロピル基でアルコキシ化できる基が挙げられる。このようなリンカー基が導入された化合物としては、例えば、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−(3’−アミノプロポキシ)−シクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノン等が挙げられる。そして、当該3’−アミノ基においてビオチンのカルボキシル基とアミド結合させることにより、ビオチン化薬物とすることができる。
また、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノン(薬物)は、標識のために公知の物質を結合して使用できるほか、コフィリン結合能を保持する範囲内で、所望に応じて化学的に修飾して使用することができる。
本発明のコフィリン結合剤はコフィリンに対する結合能を有し、コフィリンの機能解析におけるリサーチツールとして有用である。
【0024】
また、本発明のコフィリン結合剤は、そのコフィリン結合能から、コフィリン検出剤として使用することができ、コフィリンのインビボ及びインボトロでのコフィリンの検出、局在の決定、同定、定量に使用することができる。
【0025】
また、本発明のコフィリン結合剤は、そのコフィリンの結合能から、アクチンフィラメント代謝制御剤として使用することができる。すなわち、コフィリンはアクチンとの結合能によってアクチンフィラメントを変化させて、その結果としてアクチンフィラメントの代謝速度に影響を与えるが、本発明のコフィリン結合剤はこのアクチンフィラメントの形状や代謝の制御因子であるコフィリンに結合することにより、アクチンフィラメント代謝制御に使用可能なアクチンフィラメント代謝制御剤として使用することができる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
以下の実施例において使用した試薬類は次の通りである。
[研究材料]
コフィリン-2(大腸菌由来組み換え蛋白):Upstate社製, カタログ番号 12-454。
HRP標識avidin抗体:PIERCE社製, カタログ番号31001。
o-フェニレンジアミン:Sigma Aldrich社製, カタログ番号P23938。
薬物調製法:薬物はジメチルホルムアミドに溶かして10 mmol/Lに調製し、-30℃で保存した。
【0027】
[実施例1]
薬物-biotinプローブとコフィリン−2との結合
以下の実験ではビオチン化薬物プローブとして、次式、
【0028】
【化2】

【0029】
で表されるビオチン化薬物プローブを使用した。
【0030】
コフィリン-2を0.1 mol/Lの炭酸緩衝液(pH 9.6)で希釈して8 μg/mLに調製し、96穴マイクロプレートに1ウェルあたり150 μL加え、4℃で終夜コーティングした。PBSでウェルを洗った後、1% スキムミルク/PBS溶液を加えて1時間、37℃で静置することによりブロッキングした。ウェルをPBSで洗った後、PBST(0.1 % Tween-20)で調製した薬物-biotinプローブ(1 μmol/L)、又は、薬物-biotinプローブ(1 μmol/L)と非標識薬物の混合溶液を加えて37℃、4時間インキュベーションした。ウェルをPBSTで3回洗った後、HRP標識avidin抗体を加えて37℃、3時間インキュベーションした。ウェルをPBSTで4回洗った後、28.4 mmol/L のo-phenylenediamine/ 0.025% H溶液を100μL加え、室温で35分間反応させた。HSO(1mol/L)を25 μL加えることで反応を停止させ、450 nmでの吸光度(対照波長は620 nm)をプレートリーダーで測定した。
結果を図1に示す。図1は、ビオチン化薬物プローブとコフィリン−2との結合を450nmでの吸光度をプレートリーダーで測定した結果をグラフにして示したものである。グラフの横軸はビオチン化薬物プローブの薬物濃度(μM)を示し、縦軸は吸光度を示す。各々の濃度で3回の実験を行い、その平均値をグラフにして図1に示した。グラフ中の線は3回の実験における標準偏差を示している。
この結果、コフィリン-2をコーティングしたマイクロプレートに薬物-biotinプローブを加えることにより、プローブの濃度依存的に吸光度の増加が認められた。従って、薬物-biotinプローブはコフィリン−2と濃度依存的に結合することが示された。
【0031】
[実施例2]
ビオチン化薬物プローブ(3μmol/L)の薬物濃度を一定にし、さらに種々の濃度(0μmol/L、3μmol/L、10μmol/L、30μmol/L、100μmol/L、又は300μmol/L)の非標識の薬物を加えた以外は、実施例1と同様にして450nmでの吸光度をプレートリーダーで測定した。
結果を図2に示す。図2は、3μmol/Lのビオチン化薬物プローブの存在したにおける、各濃度の非標識化薬物との競合アッセイを、450nmでの吸光度をプレートリーダーで測定した結果を示すグラフである。図2の横軸は非標識の薬物の濃度(μM)を示す。縦軸は非標識の薬物の非存在下での吸光度を100%とした時の非標識の薬物の存在下における吸光度の割合(%)を示す。各々の濃度で3回の実験を行い、その平均値をグラフにして図2に示している。グラフ中の線は、3回の実験における標準偏差を示している。
この競合アッセイの結果、非標識の薬物の濃度依存的に吸光度の減少が認められ、このことはビオチン化薬物プローブのコフィリン−2に対する結合量が、非標識の薬物の濃度依存的に減少したことを示し、この結果から、ビオチン化薬物プローブとコフィリン−2との結合がビオチンではなく、薬物を介した結合であることが確認された。すなわち、実施例1及び実施例2で観察された結合は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンとコフィリンとの特異的結合であることが示された。なお、コフィリン−2の代わりにコフィリン−1を用いた場合にも同様の結果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とする悪性新生物による癌の治療と癌の転移抑制に関するものであり、従来からの抗癌剤が十分な治療効果を発揮できていない現状において、新たな薬剤を提供し、且つ(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とするコフィリン結合剤は、LIMキナーゼによりリン酸化を受けるコフィリンの生理学的意義解明においてプローブとして、産業上の極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、各濃度のコフィリン結合剤(ビオチン化薬物プローブ)のコフィリン−2への結合実験の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、各濃度のコフィリン結合剤(非ビオチン化薬物プローブ)による、コフィリン結合剤(ビオチン化薬物プローブ)のコフィリン−2への結合阻害実験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とする抗癌剤。
【請求項2】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とする癌の増殖抑制剤。
【請求項3】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とする癌の転移抑制剤。
【請求項4】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とするコフィリン結合剤。
【請求項5】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを含むコフィリン検出剤。
【請求項6】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とするコフィリン結合剤を使用して、コフィリンを検出する方法。
【請求項7】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを含む、アクチンフィラメント代謝制御剤。
【請求項8】
(−)−6−[3−[3−シクロプロピル−3−[(1R,2R)−2−ヒドロキシシクロヘキシル]ウレイド]プロポキシ]−2−(1H)−キノリノンを有効成分とするコフィリン結合剤を使用して、アクチンフィラメント代謝を制御する方法(人体内での実施を除く)。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−290984(P2007−290984A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118479(P2006−118479)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(599118539)株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 (8)
【Fターム(参考)】