説明

コポリマー混合物

本発明は、(a)2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸の少なくとも1種のビニルエステル(i)、および少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸の少なくとも1種のビニルエステル(ii)を、重合形で含むコポリマー、ならびに(b)コポリマー(a)とは異なりかつ酢酸ビニルおよびエチレンを重合形で含むコポリマー、を含むポリマー組成物を提供する。加えて、本発明は、無機水硬性結合剤および前記のポリマー組成物を含む組成物;ならびに前記のポリマー組成物の特にタイル接着剤における使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエステルコポリマーと酢酸ビニル/エチレンコポリマーとの混合物を含むポリマー組成物;無機水硬性結合剤および前記ポリマー組成物を含む組成物;ならびに前記ポリマー組成物の特にタイル接着剤における使用;に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー分散体または再分散性ポリマー粉末は、特に建築部門において、水硬性の系、塗料および接着剤を改良するために長年採用されてきた。特性(例えば接着、耐摩耗性、耐引っ掻き性および曲げ強度)における本質的な改善は、前記ポリマーをこのような系に添加することによって実現される。水性ポリマー分散体(ポリマーラテックスとしても知られる)は、典型的には、乳化重合により製造され、そして再分散性ポリマー粉末は、このような水性ポリマー分散体を続けて乾燥させることにより形成される。分散体粉末の、水性ポリマー分散体に対する大きな利点は、とりわけ、粉状乾燥混合物の、保存料の添加なしでの高い貯蔵安定性および耐霜性である。
【0003】
米国特許(US−B)第6,242,512号は、水不溶性ベースポリマーと水溶性保護コロイドとの混合物を基にする再分散性ポリマー粉末を記載する。水不溶性ベースポリマーは、ビニルエステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンおよび塩化ビニル、およびこれらの混合物のホモ−およびコポリマーからなる群から選択される。
【0004】
米国出願(US−A)第2004/0097645号は、任意に分岐したアルキルカルボン酸のビニルエステル、アルコールの(メタ)アクリルエステル、ビニル芳香族、オレフィン、ジエン、およびハロゲン化ビニルから選択される1種以上のモノマーのホモ−またはコポリマーを含む保護コロイド安定化ベースポリマー(水性分散体またはその水再分散性粉末の形状のもの)を開示し、ここで、酢酸ビニル単位の加水分解度が80〜95モル%である一部加水分解された酢酸ビニル/エチレンコポリマーが保護コロイドとして存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
再分散性ポリマー粉末の1つの主要な用途は、タイル接着剤においてである。再分散性ポリマー粉末は、セメント系タイル接着剤の種々の特性,例えば作業性(より容易な混合および適用、より良好な湿潤、低減された水の必要性)、作業時間、接着(改善された引張強度および剪断強度)、エージング特性、ならびに可撓性を改善する。従来のタイル接着剤用の再分散性ポリマー粉末は、典型的には、酢酸ビニル/エチレンコポリマーである。
【0006】
タイル接着剤の1つの鍵となる性能は、タイルの基材に対する接着強度(水浸漬の後およびより高温への曝露の後でも)である。従来の再分散性ポリマー粉末で変性されたタイル接着剤の接着強度は、特に水浸漬またはより高温への曝露の後には不十分であることがあることが示されてきた。
【0007】
従って、本発明の目的は、水硬的に硬化する組成物、主にタイル接着剤における添加剤として使用でき、および硬化した組成物の全体の接着強度(特に耐水性および/または耐熱性)を改善する、新規なポリマー組成物を提供することである。
【0008】
該目的は、(a)2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸の少なくとも1種のビニルエステル(i)、および少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸の少なくとも1種のビニルエステル(ii)、を重合形で含むコポリマー、ならびに(b)コポリマー(a)とは異なりかつ酢酸ビニルおよびエチレンを重合形で含むコポリマー、を含むポリマー組成物によって達成される。
【0009】
本発明はまた、前記ポリマー組成物を含む再分散性(redispersible)ポリマー粉末および水性分散体に関する。
【0010】
本発明の更なる側面は、無機水硬性結合剤および前記ポリマー組成物を含む組成物である。
【0011】
更に、本発明は、前記ポリマー組成物の、タイル接着剤、構造物接着剤、接合モルタル、漆喰、こて組成物、フロア充填組成物、または塗料における使用に関する。
【0012】
本発明の別の側面は、前記ポリマー組成物の、コーティング組成物または接着剤における、任意の無機水硬性結合剤の不存在下でのバインダーとしての使用である。
【0013】
本発明の更に別の側面は、前記ポリマー組成物の、木材、紙または布地のコーティングまたは結合のための、使用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らによって、上記のコポリマー(a)および(b)を含むポリマー組成物であって硬化性組成物中の添加剤として使用されるものが、驚くべきことに硬化した組成物の接着特性を改善することが見出された。
【0015】
本ポリマー組成物のコポリマー(a)は、2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸の少なくとも1種のビニルエステル(i)、および少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸の少なくとも1種のビニルエステル(ii)、および任意のコモノマー(iii)、を重合形で含む。典型的には、コポリマー(a)は、0〜30質量%の任意のコモノマー(iii)を含む。好ましくは、コポリマー(a)は、20〜95質量%、より好ましくは40〜85質量%、および最も好ましくは50〜75質量%の、2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸の1種以上のビニルエステル(i);5〜80質量%、より好ましくは15〜60質量%、および最も好ましくは25〜50質量%の、少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸の1種以上のビニルエステル(ii)、ならびに0〜30質量%、より好ましくは0〜25質量%、および最も好ましくは0質量%の、1種以上の任意のコモノマー(iii)、を重合形で含む。典型的には、コポリマー(a)は、重合形で、2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸の1種類のビニルエステル(i)、少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸の1種類のビニルエステル(ii)、を含み、および、任意のコモノマーを含まないか1種類の任意のコモノマーを含むかのいずれかである。
【0016】
2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(i)は、共重合してコポリマー(a)を形成するものであり、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびイソ酪酸のビニルエステルが挙げられ、好ましい、2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(i)は、酢酸のビニルエステル、すなわち酢酸ビニルである。
【0017】
少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)は、共重合してコポリマー(a)を形成するものであり、直鎖モノカルボン酸,例えばラウリン酸、および分岐鎖モノカルボン酸が挙げられる。好ましくは、モノカルボン酸は、分岐鎖、より好ましくはα−分岐モノカルボン酸,例えば2−エチルヘキサン酸、または3級カルボキシ基を含むモノカルボン酸である。コポリマー(a)の最も好ましいビニルエステル(ii)は、3級カルボキシ基を含むモノカルボン酸のビニルエステルである。炭素原子の数に関し、モノカルボン酸(分岐鎖または直鎖のいずれか)は、好ましくは、5〜15個、より好ましくは5〜13個、更により好ましくは5〜10個、更により好ましくは8〜10個、および最も好ましくは10個の炭素原子を有する。
【0018】
1つの好ましい態様において、少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)は、共重合してコポリマー(a)を形成するものであって、バーサチック酸,好ましくは5〜10炭素原子を有するもの、のビニルエステルである。典型的には、バーサチック酸のビニルエステルは、式(I):
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、R1およびR2は、独立に、少なくとも1個の炭素原子を有するアルキル基を表す)で表される。バーサチック酸の例としては、バーサチック酸5(ピバル酸)、バーサチック酸6、バーサチック酸7、バーサチック酸8、バーサチック酸9、およびバーサチック酸10が挙げられる。好ましくは、ビニルエステル(ii)は、式(I)で表され、式中、R1およびR2は、独立に、10個の炭素原子を有するモノカルボン酸単位を与えるように選択される、バーサチック酸10のビニルエステルである。一態様において、R1はメチルであり、そしてR2はヘキシルである。バーサチック酸10のビニルエステルは、Hexion Speciality Chemicals,The Netherlandsから商標VEOVA(登録商標)10にて市販で入手可能である。
【0021】
コモノマー(iii)は、任意に共重合してコポリマー(a)を形成できるものであり、これらに限定するものではないが、アクリル酸のエステル,例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、および2−エチルヘキシルアクリレート;、マレイン酸のエステル,例えばジエチルエステル、イソプロピルエステル、および2−エチルヘキシルエステル;ならびにエチレンが挙げられる。一態様において、コポリマー(a)は、重合エチレンを含まない。
【0022】
好ましい態様において、コポリマー(a)のガラス転移温度は、+5〜+40℃、より好ましくは+10〜+30℃(示差走査熱量計(DSC)で測定したとき)である。
【0023】
本ポリマー組成物のコポリマー(b)は、重合形で、酢酸ビニルおよびエチレン、ならびに任意のコモノマーを含む。典型的には、コポリマー(b)は、0〜25質量%の任意のコモノマーを含む。好ましくは、コポリマー(b)は、重合形で、70〜95質量%、より好ましくは80〜90質量%、および最も好ましくは83〜87質量%の酢酸ビニル;5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%、および最も好ましくは13〜17質量%のエチレン;ならびに0〜25質量%、より好ましくは0〜20質量%および最も好ましくは0質量%の、1種以上の任意のコモノマーを含む。
【0024】
任意に共重合してコポリマー(b)を形成できるコモノマーとしては、これらに限定されるものではないが、アクリル酸のエステル,例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、および2−エチルヘキシルアクリレート;、マレイン酸のエステル,例えばジエチルエステル、イソプロピルエステル、および2−エチルヘキシルエステル;ならびに上記のバーサチック酸のビニルエステルが挙げられる。
【0025】
最も好ましい態様において、コポリマー(b)は、いずれの更なるコモノマーも有さない酢酸ビニル/エチレンコポリマーである。
【0026】
本明細書で用いる用語「酢酸ビニル」は、本質的に加水分解されていない(すなわちこれらの加水分解度が、通常10mol%未満、および典型的には5mol%未満である)酢酸ビニル単位を意味すると理解される。しかし、極めて塩基性の条件下(例えば、pH12以上の強塩基水性分散体中)では、加水分解が起こる場合があるが、通常加水分解度はなお70mol%未満である。一般的に、コポリマー(a)およびコポリマー(b)の両者の酢酸ビニル単位の加水分解度は80mol%未満である。
【0027】
好ましい態様において、コポリマー(b)のガラス転移温度は、−10〜+35℃、より好ましくは+5〜+30℃(示差走査熱量計(DSC)で測定したとき)である。
【0028】
本発明において使用するためのコポリマー(a)および(b)は、当業者に周知であるようにして調製できる。典型的には、これらは、乳化重合によって調製され、そして従って、水性ポリマー分散体(ポリマーラテックスとしても知られる)の形で得られる。
【0029】
乳化重合プロセス(これによりコポリマー(a)および(b)を調製できる)は、一般的に、重合温度40〜90℃、好ましくは60〜80℃で実施する。ガス状のコモノマー(例えばエチレン)の共重合の場合、プロセスはまた、超大気圧、一般的には5〜100barで実施できる。
【0030】
重合は、水溶性またはモノマー可溶性の開始剤またはレドックス開始剤の組合せを用いて開始させ、これらは、乳化重合用に一般的に使用されるものである。水溶性の開始剤の例は、パーオキソ二硫酸、過酸化水素、tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、カリウムパーオキシジホスフェート、tert−ブチルパーオキシピバレート、クメンヒドロパーオキサイド、イソプロピルベンゼンモノヒドロパーオキサイド、およびアゾビスイソブチロニトリルのナトリウム、カリウム、およびアンモニウムの塩である。
【0031】
モノマー可溶性開始剤の例は、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、およびジベンゾイルパーオキサイドである。一般的に使用する開始剤の量は、0.01〜0.5質量%(モノマーの総質量基準)である。
【0032】
レドックス開始剤としては、還元剤で前記した開始剤の組合せが挙げられる。好適な還元剤は、アルカリ金属およびアンモニウムのサルファイトおよびビサルファイト,例えば亜硫酸ナトリウム、スルホキシル酸の誘導体,例えば亜鉛ホルムアルデヒドスルホキシレート、またはアルカリ金属ホルムアルデヒドスルホキシレートであり、例は、ナトリウムヒドロキシメタンスルフィネート、およびアスコルビン酸である。還元剤の量は、好ましくは0.01〜0.5質量%(モノマーの総質量基準)である。
【0033】
分子量を制御するために、調節物質を重合プロセス中に使用できる。調節剤を使用する場合、これらの通常使用する量は、一般的に、0.01〜5.0質量%(重合されることになるモノマーの質量基準)であり、これらは別個および/または反応用の成分との予混合後に供給できる。これらの物質の例は、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸、メチルメルカプトプロピオネート、イソプロパノール、およびアセトアルデヒドである。いずれの調節物質も使用しないことが好ましい。
【0034】
重合プロセスは、好ましくは乳化剤の添加なしで行なう。例外的な場合において、少量の乳化剤の使用が有利であることもでき、適切には1〜5質量%(モノマーの量基準)である。好適な乳化剤としては、アニオン性、カチオン性、およびノニオン性の乳化剤,例えばアニオン性界面活性剤,例えばアルキルスルフェート(この鎖長は8〜18炭素原子である)、または、アルキルもしくはアルキルアリールエーテルスルフェート(疎水性基中に8〜18個の炭素原子を有し、40個以下のエチレンもしくはプロピレンオキサイド単位を有するもの)、アルキルもしくはアルキルアリールスルホネート(8〜18個の炭素原子を有するもの)、スルホコハク酸の、1価アルコールとのもしくはアルキルフェノールとのエステルおよび半エステル、または非イオン性界面活性剤,例えばアルキルポリグリコールエーテルもしくはアルキルアリールポリグリコールエーテル(8〜40個のエチレンオキサイド単位を有するもの)が挙げられる。全てのモノマーは初期充填物を形成でき、または全てのモノマーは供給物を形成でき、またはモノマーの一部が初期充填物を形成でき、重合が開始した後に残りが供給物を形成できる。手順は、好ましくは、50〜100質量%(モノマーの総質量基準)が初期充填物を形成し、そして残りが供給物を供給する。供給物は、別個(空間的および時間的)に、または供給する成分の全てまたは幾らかかを予乳化後に供給できる。
【0035】
重合プロセスが終了した時点で、公知の方法を用いて後重合を実施して残存モノマーを除去できる。好適な方法の1つの例は、レドックス触媒によって開始する後重合である。揮発性の残存モノマーはまた、蒸留によって、好ましくは大気圧未満で除去でき、そして、適切には、不活性同伴ガス,例えば空気、窒素、または水蒸気に、物質の中または上を通過させることによって除去する。
【0036】
乳化重合で得られる水性ポリマー分散体(ポリマーラテックス)は、再分散性ポリマー粉末を得るために、典型的にはスプレー乾燥プロセスを用いることにより乾燥できる。
【0037】
本発明に係るポリマー組成物は、コポリマー(a)とコポリマー(b)とを混合することにより製造する。本発明について、コポリマー(a)および(b)をどのようにどの時点で混合するかは重大ではない。例えば、コポリマー(a)および(b)は、乳化重合から直接得られるこれらの水性分散体として混合でき、またはコポリマー(a)および(b)は、これらの再分散性ポリマー粉末を混合することによってドライブレンドでき、またはコポリマー(a)および(b)は、再分散性粉末を再分散させることによって得られるこれらの水性分散体の形で混合できる。最も好適な混合方法は、当業者が容易に選択でき、例えばポリマー組成物の意図される最終用途に左右される。混合手順は、従来の混合設備を用いることによって実施できる。
【0038】
典型的には、本発明に係るポリマー組成物は、コポリマー(a)および(b)を、質量比10:90〜90:10、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは40:60〜60:40、および最も好ましくは約50:50で含む。
【0039】
本発明に係るポリマー組成物は、追加の成分,例えば有機溶媒、可塑剤、フィルム形成剤、追加のポリマー、更に重合プロセスによって生じる不純物(例えば未反応モノマー、残存開始剤、殺生物剤および消泡剤)を含むことができる。典型的には、コポリマー(a)およびコポリマー(b)の組合せの質量は、ポリマー組成物の乾燥質量の、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも75質量%、および最も好ましくは少なくとも85質量%を構成する。好ましい態様において、本発明に係るポリマー組成物は、25質量%未満、より好ましくは20質量%未満、および最も好ましくは15質量%未満の追加の成分を含む。本発明はまた、上記したポリマー組成物を含む再分散性ポリマー粉末および水性分散体を対象とする。再分散性ポリマー粉末は、コポリマー(a)および(b)の水性分散体を乾燥させること(コポリマー(a)および(b)を混合する前または後のいずれかで)によって得られる。本発明に係る水性分散体は、ポリマー粉末の乾燥前および再分散後のコポリマー(a)および(b)を含む水性分散体の両者を網羅する。
【0040】
再分散性ポリマー粉末は、コポリマーの水性分散体から製造される。前記の水性分散体の固形分量は、一般的に、30〜75質量%である。再分散性ポリマー粉末を製造するために、水性分散体を、例えばスプレー乾燥、凍結乾燥または流動床乾燥により乾燥させる。好ましくは、水性分散体はスプレー乾燥される。スプレー乾燥は、典型的には、1種以上の保護コロイドをスプレー助剤として分散体に、好ましくは水性溶液形状で添加した後に行なう。添加は、均一分散体混合物が得られる限りは任意の様式で進めることができる。更なる添加剤(例えば界面活性剤および消泡剤)を使用でき(所望ならば)、そして前記の更なる添加剤は、好ましくは水性分散体に乾燥前に添加する。使用する1種または複数種の保護コロイドの総量は、一般的に、2〜30質量%(分散体のポリマー成分基準)である。保護コロイドの例としては、これらに限定されるものではないが、ポリビニルアルコール、水溶性ポリサッカライド、セルロース誘導体、タンパク(例えばカゼイネート)、リグノスルホネートおよび幾つかの水溶性ポリマーが挙げられる。好ましい保護コロイドは、ポリビニルアルコールの、加水分解度が80〜95モル%で、Hoeppler粘度が1〜30mPa・s(4質量%水性溶液として20℃でDIN 53015に従って測定したとき)であるものである。ポリビニルアルコールは、任意に疎水的に変性される。ポリビニルアルコールの量は、好ましくは2〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%(ポリマー構成成分の総質量基準)である。
【0041】
スプレー乾燥は従来のスプレー乾燥システム内で実施でき、例えば分散体は、単一、2つもしくは多数の流体ノズルまたは回転ディスクを、加熱されてもよい乾燥ガスの流れの中で用いることによって霧化できる。一般的に、空気、窒素、または窒素に富む空気を乾燥ガスとして使用し、乾燥ガス温度は典型的には250℃を超えない。乾燥温度は、好ましくは120℃〜180℃、より好ましくは150〜170℃である。生成物出口温度は、好ましくは30〜80℃である。
【0042】
耐ケーキング剤(耐ブロッキング剤)をポリマー粉末に添加して貯蔵安定性を増大させる(例えばケーキングおよびブロッキングを防止するため、ならびに/または粉末の流動特性を改善するために)ができる。この添加は、好ましくは、粉末がなお微分散している(例えば乾燥ガス中になお懸濁している)限り実施する。耐ケーキング剤は、好ましくは鉱物由来である。これは、好ましくは30質量%以下(ポリマー構成成分の総質量基準)の量で添加する。耐ケーキング剤の例としては、これらに限定されるものではないが、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、石膏(ジプサム)、シリカおよびシリケートが挙げられ、耐ケーキング剤の粒子サイズは、好ましくは10nm〜10μmの範囲である。好ましい耐ケーキング剤はカオリンである。
【0043】
本発明の好ましい態様において、再分散性ポリマー粉末は、保護コロイドまたは耐ケーキング剤を更に含み、より好ましくは両者を含む。1種より多い保護コロイドおよび1種より多い耐ケーキング剤を使用できることが理解される。
【0044】
本発明のポリマー組成物の主な用途は、無機水硬性結合剤を更に含む硬化性組成物における接着剤としてである。本発明のポリマー組成物および無機水硬性結合剤を含む硬化した(cured(set))組成物は、従来技術の同様の組成物と比べて改善された接着特性を示す。特に、本ポリマー組成物の硬化性組成物における(例えばタイル接着剤の)使用は、以下の特性のうち少なくとも1つの改善をもたらす:水中の浸漬後の接着強度(耐水性)、より高温への曝露後の接着強度(耐熱性)、および水和した硬化性組成物の最終適用前の所定の「オープンタイム」後の接着強度。
【0045】
硬化性組成物の殆どは粉状であり、そして水は最終使用者によって添加されるのみであり、本発明に係るポリマー組成物は、典型的には組成物中に、再分散性ポリマー粉末の形状で含有される。
【0046】
本発明に係るポリマー組成物の例示的な用途は、タイル接着剤、構造物接着剤、接合モルタル、漆喰、こて組成物、フロア充填組成物(例えば自己レベリングフローリングコンパウンド)である。水硬性結合剤の例としては、セメント,例えばポートランドセメント、アルミナセメント、ポゾランセメント、スラグセメント、マグネシアセメントおよびホスフェートセメント;半水石膏および水ガラスが挙げられる。
【0047】
本発明に係るポリマー組成物はまた、バインダーとして、好ましくは単独バインダーとして、コーティング組成物および接着剤において、任意の無機水硬性結合剤の不存在下で使用できる。例えば、ポリマー組成物は、布地、紙、および木材のための結合剤として、典型的には実質量の無機水硬性結合剤の不存在下で使用できる。
【0048】
ポリマー組成物の好ましい用途は、タイル接着剤においてであり、より好ましくはセメント系タイル接着剤においてである。セメント系タイル接着剤は、典型的には、5〜50質量部のセメント、好ましくはポートランドセメントを水硬性バインダーとして;40〜70質量部の石英砂(好ましくは粒子サイズ0.1〜0.5mmを有するもの)を主フィラーとして、および0.1〜10質量%、好ましくは1〜6質量%(タイル接着剤の乾燥質量基準)の本発明に係る再分散性ポリマー粉末を含む。更なる任意の成分としては、1種以上のセルロースエーテル(総量で好ましくは0.05〜1質量%、より好ましくは0.2〜0.5質量%(タイル接着剤の乾燥質量基準))を、レオロジー制御、水保持、耐スリップおよび作業性の改善のために;石英砂または石灰石の粉末(粒子サイズ30〜60μmを有するもの)を、稠度および作業性を改善するための微細共フィラーとして;ならびにセルロースまたは鉱物繊維を、耐スリップ性の改善のために;挙げられる。
【0049】
本発明の原理は種々の変更および代替の形態に従うことができ、特定の種を記載した。本記載の意図は、本発明を記載した特定態様に限定することではなく、本開示の精神および範囲の範囲内である全ての変更、均等のもの、および代替を網羅することを理解すべきである。用語「含む("comprising", "comprises")」およびその変化形の使用はオープンエンドを意図する。よって、明示的に列挙または記載されていない要素、ステップまたは特徴は排除されない。
【0050】
以下の例は例示の目的のみで与えられ、そして特許請求の範囲の範囲の限定は意図しない。
【0051】

例において与えられる全てのパーセントおよび部は特記がない限り質量基準である。
【0052】
コポリマーE1は、82.6%の酢酸ビニル単位および17.4%のエチレン単位を含む酢酸ビニル/エチレンコポリマーの再分散性ポリマー粉末である。これは、最低フィルム形成温度約0℃、およびガラス転移温度約6℃を有する。
【0053】
コポリマーE2は、90.5%の酢酸ビニル単位および9.5%のエチレン単位を含む酢酸ビニル/エチレンコポリマーの再分散性ポリマー粉末である。これは、最低フィルム形成温度約3℃、およびガラス転移温度約17℃を有する。
【0054】
コポリマーV1は、酢酸ビニルとバーサチック酸10のビニルエステルとのコポリマーの再分散性ポリマー粉末であり、60%の酢酸ビニル単位、および40%の、バーサチック酸10のビニルエステル由来の単位を含む。これは、最低フィルム形成温度約2.5℃、およびガラス転移温度約17℃を有する。
【0055】
コポリマーV2は、酢酸ビニルとバーサチック酸10のビニルエステルとのコポリマーの再分散性粉末であり、90%の酢酸ビニル単位、および10%の、バーサチック酸10のビニルエステル由来の単位を含む。これは、最低フィルム形成温度約5℃、およびガラス転移温度約30℃を有する。
【0056】
再分散性ポリマー粉末E1,E2,V1およびV2は、これらの対応する水性ポリマー分散体から得られる。それぞれ前述に係るコポリマーE1,E2,V1およびV2を含む4つの水性ポリマー分散体は、一般的に前述した従来の乳化重合法により調製する。4つの水性ポリマー分散体の各々を、後述のように再分散性粉末に加工する。残存モノマーをポリマー分散体から除去した後、ポリビニルアルコールの水中の水性溶液を、水性ポリマー分散体の各々に、ポリビニルアルコールの量が10質量%(ポリマー質量基準)であるように添加する。ポリビニルアルコールは、加水分解度88モル%およびHoeppler粘度4mPa・s(4質量%水性溶液として20℃でDIN 53015に従って測定して)を有する。ポリマー分散体とポリビニルアルコールとのブレンド物を次いでスプレー乾燥させる。乾燥温度は160℃である。生成物出口温度は65℃である。12質量%のカオリン(ポリマーの質量基準)を乾燥プロセス中に添加する。
【0057】
4つの異なるセメント系タイル接着剤組成物を、表中に示す固体成分のドライブレンド、そして次いで水の添加により調製する。タイル接着剤の種々の特性(これらの性能に対して本質的であるもの)を試験し、そして結果も表中に示す。
【0058】
試験方法
初期強度、水浸漬後の強度および加熱エージング後の強度を、欧州基準EN 1348に従って測定する。タイル接着剤を、コンクリートスラブ上に適用し、非吸収性セラミックタイル(Winckelmann,50×50mm)をタイル接着剤上に貼り付けて、異なる条件下で貯蔵した後の強度の引き:初期強度(28d)、水浸漬後の強度(7d基準気候環境+21日水浸漬)および熱貯蔵後の強度(14d基準気候環境+14日70℃)を測定する。
【0059】
20分のオープンタイム後の強度を、EN 1346に従って測定する。タイル接着剤をコンクリートスラブ上に適用し、所定「オープンタイム」の20分後、セラミック吸収性タイルをタイル接着剤上に貼り付け、28dの貯蔵後に強度を測定する。
【0060】
スライド:耐スライド性は、垂直壁上で使用されることになるタイル接着剤の極めて重要な特性である。これは、非吸収性セラミックタイル10×10cm(200gの質量を有するもの)を、コンクリートスラブ上に適用されたタイル接着剤上に貼り付けることにより測定する。次いで、これに30s(秒間)5kgの負荷をかける。その後、スラブを垂直位置に持って行き、10分後にタイルが滑り落ちる状態を測定する。
【0061】
リブ変形:スライド試験を上記のように行なう。試験を終了させてスライドを測定した時点で、タイルを手で引き剥がす(可能な限りまっすぐ)。試験による材料で覆われたタイルのパーセントを次いで目で判定して記録する。
【0062】
粘度:粘度はBrookfield Helipathスタンドと組合せてブルックフィールド粘度計で得られる。熟成時間13分の後、タイル接着剤をカップ内に充填して粘度計の軸(F−T)を2分間0.5rpmで、別に2分間5rpmで、そして別に2分間50rpmで回転させる。5rpmおよび50rpmの回転の間、粘度計を上下に動かしてその回転軸がサンプルを通じてらせん経路を示すようにする。0.5rpm、5rpmおよび50rpmでの動的粘度を表中に与える。
【0063】
作業性:作業性は、主観的に評価して基準1(極めて悪い)から5(極めて良好)で評定する。
【0064】
【表1】

【0065】
表から、本発明に係る各々のセメント系タイル接着剤(例1,2および3)は、耐水性のかなりの改善との組合せ(例1)または例2および3の場合では比較タイル接着剤例4と同様の耐水特性とともに、顕著に改善された耐熱性および20分オープンタイム後の強度を示すことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸の、少なくとも1種のビニルエステル(i)、および、少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸の、少なくとも1種のビニルエステル(ii)、を重合形で含むコポリマー、ならびに
(b)コポリマー(a)とは異なりかつ酢酸ビニルおよびエチレンを重合形で含むコポリマー
を含む、ポリマー組成物。
【請求項2】
コポリマー(a)が、20〜95質量%の、2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸の1種以上のビニルエステル(i)、5〜80質量%の、少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸の1種以上のビニルエステル(ii)、および0〜30質量%の1種以上の任意のコモノマー(iii)、を重合形で含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
コポリマー(b)が、70〜95質量%の酢酸ビニル、5〜30質量%のエチレン、および0〜25質量%の1種以上の任意のコモノマー、を重合形で含む、前掲の請求項のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項4】
コポリマー(a)のコポリマー(b)に対する質量比が、10:90〜90:10である、前掲の請求項のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項5】
コポリマー(a)のコポリマー(b)に対する質量比が、40:60〜60:40の範囲である、請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
2〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(i)が、酢酸ビニルである、前掲の請求項のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項7】
少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)が、5〜15個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステルである、前掲の請求項のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項8】
少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)が、分岐鎖モノカルボン酸のビニルエステルである、前掲の請求項のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項9】
少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)が、α−分岐モノカルボン酸のビニルエステルである、請求項8に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)が、3級カルボキシ基を含むモノカルボン酸のビニルエステルである、請求項9に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)が、バーサチック酸のビニルエステルである、請求項10に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)が、式(I):
【化1】

(式中、R1およびR2は、独立に、少なくとも1個の炭素原子を有するアルキル基を表す)で表される、請求項11に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
少なくとも5個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(ii)が、式(I)(式中、R1およびR2は、独立に、10個の炭素原子を有するモノカルボン酸を与えるように選択される)で表されるバーサチック酸10のビニルエステルである、請求項12に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
(a)酢酸ビニルと、バーサチック酸10のビニルエステルとのコポリマー、および(b)酢酸ビニル/エチレンコポリマーを含む、請求項13に記載のポリマー組成物。
【請求項15】
前掲の請求項のいずれかに記載のポリマー組成物を含む、再分散性ポリマー粉末。
【請求項16】
保護コロイドおよび/または耐ケーキング剤を更に含む、請求項15に記載の再分散性ポリマー粉末。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに記載のポリマー組成物を含む、水性分散体。
【請求項18】
無機水硬性結合剤および請求項1〜14のいずれかに記載のポリマー組成物を含む、組成物。
【請求項19】
セメント系タイル接着剤である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1〜14のいずれかに記載のポリマー組成物の使用であって、タイル接着剤、構造物接着剤、接合モルタル、漆喰、こて組成物、フロア充填組成物、または塗料における、使用。
【請求項21】
請求項1〜14のいずれかに記載のポリマー組成物の使用であって、コーティング組成物または接着剤における任意の無機水硬性結合剤の不存在下でのバインダーとしての、使用。
【請求項22】
請求項1〜14のいずれかに記載のポリマー組成物の使用であって、木材、紙または布地のコーティングまたは結合のための、使用。

【公表番号】特表2010−527397(P2010−527397A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508464(P2010−508464)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/055275
【国際公開番号】WO2008/140852
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】