説明

コメスラリー製造装置

【課題】コメを湿式粉砕して得られるコメ粒子の分散体(コメスラリー)を、効率良く製造することができるコメスラリー製造装置を提供することを課題とする。
【解決手段】コメスラリー製造装置1において、粉砕装置20は、1.5時間以上6時間以下で水に浸漬されたコメを、石臼21を用いて湿式粉砕して、コメスラリー51を生成する。粉砕装置30は、コメスラリー51に含まれるコメ粒子を、石臼31を用いて粉砕して、コメスラリー52を生成する。粉砕装置40は、コメスラリー52に含まれるコメ粒子を、石臼41を用いて粉砕して、コメスラリー53を生成する。石臼31に形成される溝は、石臼21に形成される溝よりも深い。石臼42に形成される溝は、石臼31に形成される溝と同じ深さであるか、石臼31に形成される溝よりも深い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コメを湿式粉砕することにより、コメ粒子の分散体(コメスラリー)を製造するコメスラリー製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コメの消費量を増加させることを目的として、コメの様々な利用方法が検討されている。コメの利用方法の一つとして、米粉の製造が挙げられる。米粉からパン、麺類、菓子などを製造することにより、コメの利用を促進することができる。米粉は、コメを粉砕することにより製造される。
【0003】
非特許文献1には、コメなどの食品を粉砕する方法として、湿式粉砕が記載されている。湿式粉砕は、原料に4〜5%の水を加えた上で、原料を粉砕する方法である。湿式粉砕には、以下の特徴がある。第1の特徴は、消費電力が少ないことである。第2の特徴は、粉砕時の発熱を原因とした粉砕物の変質を防止できることである。第3の特徴は、防塵効果があることである。
【0004】
非特許文献2には、コメから米粉を製造するための製粉機械として、水挽粉砕機、気流粉砕機、高速粉砕機(ピンミル)などが記載されている。水挽粉砕機は、予め水に浸漬したコメを、石臼を用いて粉砕する。石臼には、浸漬したコメとともに、水が供給される。気流粉砕機は、ファンが高速回転している粉砕室内で、コメを粉砕室の内壁に衝突させたり、コメ同士を衝突させたりすることにより、コメを粉砕する。ピンミルは、ピン上の突起物が取り付けられた円盤を高速回転させることにより、コメを粉砕する。
【0005】
特許文献1には、コメを12時間で水に浸漬し、このコメを適量の水とともに粉砕することにより、米粉を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−268890号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「食品工学ポケットブック」,293ページ,種谷 真一著,株式会社工業調査会,1994年11月21日発行
【非特許文献2】「米粉の利用促進について」,[online],農林水産省,[2011年11月7日検索],インターネット<URL:http://www.maff.go.jp/j/soushoku/keikaku/komeko/k_suisin_kaigi/07/pdf/090317_suisin.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水挽粉砕機を用いて米粉を製造する場合、原料のコメを水に長時間で浸漬しなければならないため、米粉の製造に時間を要するという問題がある。気流式粉砕機又は高速粉砕機(ピンミル)を用いて、コメを湿式粉砕することも可能であるが、これらの機器では、消費電力が大きく、高価である。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、コメを湿式粉砕して得られるコメ粒子の分散体(コメスラリー)を、効率良く製造することができるコメスラリー製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、コメスラリー製造装置であって、第1の引き臼を回転することにより水に浸漬されたコメを粉砕して、第1のコメスラリーを生成する第1粉砕装置と、前記浸漬されたコメとともに、水を前記第1の引き臼に投入する原料供給装置と、を備え、前記浸漬されたコメは、1.5時間以上6時間以下の期間で、水に浸漬されたコメであるコメスラリー製造装置である。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のコメスラリー製造装置であって、さらに、第2の引き臼を回転することにより前記第1のコメスラリーに含まれるコメ粒子を粉砕して、第2のコメスラリーを生成する第2粉砕装置、を備えるコメスラリー製造装置である。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載のコメスラリー製造装置であって、さらに、第3の引き臼を回転することにより前記第2のコメスラリーに含まれるコメ粒子を粉砕して、第3のコメスラリーを生成する第3粉砕装置、を備えるコメスラリー製造装置である。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載のコメスラリー製造装置であって、前記第1の引き臼は、円盤形の第1の下臼と、前記第1の下臼の上に載置され、前記第1の下臼と同軸に配置される円盤形の第1の上臼と、を備え、前記第2の引き臼は、円盤形の第2の下臼と、前記第2の下臼の上に載置され、前記第2の下臼と同軸に配置される円盤形の第2の上臼と、を備え、前記第3の引き臼は、円盤形の第3の下臼と、前記第3の下臼の上に載置され、前記第3の下臼と同軸に配置される円盤形の第3の上臼と、を備え、前記第1の下臼の上面と、前記第1の上臼の下面とに、第1の溝が形成され、前記第2の下臼の上面と、前記第2の上臼の下面とに、前記第1の溝よりも深い第2の溝が形成され、前記第3の下臼の上面と、前記第3の上臼の下面とに、前記第2の溝と同じ深さであるか又は前記第2の溝よりも深い第3の溝が形成されるコメスラリー製造装置である。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載のコメスラリー製造装置であって、前記第1の溝は、前記第1の下臼の上面の中心部又は前記第1の上臼の下面の中心部から放射状に形成され、深さが0.3〜0.5mmである第1の主溝、を含み、前記第2の溝は、前記第2の下臼の上面の中心部又は前記第2の上臼の下面の中心部から放射状に形成され、深さが0.5〜0.7mmである第2の主溝、を含み、前記第3の溝は、前記第3の下臼の上面の中心部又は前記第3の上臼の下面の中心部から放射状に形成され、深さが0.5〜0.7mmである第3の主溝、を含むコメスラリー製造装置である。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項5に記載のコメスラリー製造装置であって、前記第1の溝は、前記第1の主溝と平行であり、深さが0.3〜0.5mmである第1の副溝、を含み、前記第2の溝は、前記第2の主溝と平行であり、深さが0.4〜0.6mmである第2の副溝、を含み、前記第3の溝は、前記第3の主溝と平行であり、深さが0.6〜0.8mmである第3の副溝、を含むコメスラリー製造装置である。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のコメスラリー製造装置であって、前記第1の引き臼に供給される前記浸漬されたコメの量は、1分間あたり25g以上40g以下であるコメスラリー製造装置である。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のコメスラリー製造装置であって、前記第1の引き臼に供給される水の量は、前記第1の引き臼に供給される前記浸漬されたコメの量の24倍以上41倍以下であるコメスラリー製造装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコメスラリー製造装置は、水に1.5時間以上6時間以下で浸漬されたコメを、第1の石臼に水を供給しながら、第1の石臼を用いて粉砕することにより、第1のコメスラリーを生成する。コメの浸漬時間を短縮することができるため、コメスラリーを効率良く製造することができる。
【0019】
本発明のコメスラリー製造装置は、第1のコメスラリーに含まれるコメ粒子を第2の石臼を用いて粉砕することにより第2のコメスラリーを生成する。第2のコメスラリーに含まれるコメ粒子が第3の石臼によりさらに粉砕されることにより、第3のコメスラリーが生成される。このように、コメ粒子の粉砕を繰り返すことにより、コメ粒子の粒径が非常に小さいコメスラリーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態によるコメスラリー製造装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図1に示すコメスラリー製造装置において、コメを最初に粉砕する石臼を構成する下臼の上面図である。
【図3】図2に示す下臼の拡大上面図である。
【図4】図1に示すコメスラリー製造装置において、コメを最初に粉砕する石臼を構成する上臼の下面図である。
【図5】図1に示すコメスラリー製造装置において、コメを2番目に粉砕する石臼を構成する下臼の拡大上面図である。
【図6】図1に示すコメスラリー製造装置において、コメを3番目に粉砕する石臼を構成する下臼の拡大上面図である。
【図7】図1に示すコメスラリー製造装置を用いたときのコメスラリーの製造手順を示す図である。
【図8】実施例1におけるコメ粒子のメディアン径と平均径とを示す図である。
【図9】実施例1におけるコメ粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図10】実施例2において調製したアイスクリームミックスの組成を示す図である。
【図11】実施例2において調製したコメアイスクリームの採点結果を示す図である。
【図12】実施例3において測定したコメの含水率の経時変化を示すグラフである。
【図13】実施例4でコメの供給量を変化させたときにおける、コメの供給量とコメ粒子の粒径との対応を示すグラフである。
【図14】実施例5で水の供給量を変化させたときにおける、水の供給量とコメの供給量とコメ粒子の粒径との対応を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
{1.コメスラリー製造装置の構成}
図1は、本発明の実施の形態に係るコメスラリー製造装置1の構成を示す図である。図1に示すコメスラリー製造装置1は、予め水に浸漬したコメを、石臼を用いて湿式粉砕することにより、コメスラリーを製造する装置である。コメスラリーは、水に浸漬したコメを湿式粉砕して得られる分散体である。図1に示す石臼21,31,41及び回転軸26,36,46については、説明の便宜上、断面で示している。
【0023】
コメスラリー製造装置1は、原料供給装置10と、粉砕装置20,30,40とを備える。原料供給装置10は、コメスラリーの原料(水及びコメ)を粉砕装置20に供給する。粉砕装置20は、原料供給装置10から供給されたコメを湿式粉砕して、コメスラリー51を生成する。コメスラリー51は、粉砕装置30に供給される。粉砕装置30は、コメスラリー51に含まれるコメ粒子を粉砕して、コメスラリー52を生成する。コメスラリー52は、粉砕装置40に供給される。粉砕装置40は、コメスラリー52に含まれるコメ粒子を粉砕して、コメスラリー53を生成する。
【0024】
コメスラリー53は、液状の食品材料として使用される。例えば、砂糖、大豆タンパク質、ヌカ油などをコメスラリー53に添加することにより、植物由来の原料のみを用いたアイスクリームミックスを製造することができる。また、コメスラリー53を用いた発酵飲料やデザートなどを製造することができる。このように、牛乳や乳製品に代えて、コメスラリーを用いることにより、牛乳アレルギーの消費者に対して、様々な食品を提供することが可能となる。
【0025】
原料供給装置10は、ホッパ11と、原料供給スクリュ12と、モータ13と、原料供給ビーカ14と、送液ポンプ15と、送液管16とを備える。ホッパ11には、予め水に浸漬されたコメが投入される。原料供給スクリュ12は、モータ13により回転し、ホッパ11に投入されたコメを粉砕装置20に供給する。送液ポンプ15は、原料供給ビーカ14内の水を、送液管16を通して粉砕装置20に供給する。
【0026】
モータ13及び送液ポンプ15は、図示しない制御装置(PCなど)により制御される。これにより、粉砕装置20へ供給されるコメ及び水の量を制御することができる。
【0027】
粉砕装置20は、石臼21と、シュラウド24と、モータ25とを備える。石臼21は、下臼22と、上臼23とを備える。下臼22は、円盤形であり、モータ25により回転軸26を中心に回転する。上臼23は、円盤形であり、下臼22の上に載置される。上臼23は、下臼22と同軸に配置され、回転しないように固定される。
【0028】
上臼23には、上臼23を上下方向に貫通する貫通孔23aが形成される。原料供給装置10から供給されるコメおよび水は、貫通孔23aに投入される。下臼22が、モータ26により回転することで、原料供給装置10から供給されるコメが粉砕される。シュラウド24は、下臼22と上臼23との隙間から流出するコメスラリー51を集め、粉砕装置30に供給する。
【0029】
粉砕装置30は、石臼31と、シュラウド34と、モータ35とを備える。石臼31は、下臼32と、上臼33とを備える。下臼32は、円盤形であり、モータ35により回転軸36を中心に回転する。上臼33は、円盤形であり、下臼32の上に載置される。上臼33は、下臼22と同軸に配置され、回転しないように固定される。
【0030】
上臼23と同様に、上臼33には、貫通孔33aが形成される。貫通孔33aには、シュラウド24から排出されたコメスラリー51が投入される。下臼32が、モータ35により回転することで、コメスラリー51に含まれるコメ粒子が粉砕される。シュラウド34は、下臼32と上臼33との隙間から流出するコメスラリー52を集め、粉砕装置40に供給する。
【0031】
粉砕装置40は、石臼41と、シュラウド44と、モータ45とを備える。石臼41は、下臼42と、上臼43とを備える。下臼42は、円盤形であり、モータ45により回転軸46を中心に回転する。上臼43は、円盤形であり、下臼42の上に載置される。上臼43は、下臼42と同軸に配置され、回転しないように固定される。
【0032】
上臼23,33と同様に、上臼43には、貫通孔43aが形成される。貫通孔43aには、シュラウド34から排出されたコメスラリー52が投入される。下臼42がモータ45により回転することで、コメスラリー52に含まれるコメ粒子が粉砕される。シュラウド44は、下臼42と上臼43との隙間から流出するコメスラリー53を集める。
【0033】
{2.石臼21,31,41の詳細}
以下、石臼21,31,41に形成される溝について説明する。下臼22,32,42の下面及び上臼23,33,43の上面には、溝が形成されている。石臼21,31,41に投入されたコメ又はコメ粒子は、回転する下臼と、固定された上臼とによって生じる摩砕力及びせん断力によって微細化される。下臼の上面及び上臼の下面に形成される溝の深さなどを変更することにより、コメ粒子の微細化の度合いを変えることができる。
【0034】
最初に、石臼21に形成される溝について説明する。図2は、下臼22の上面図である。図2に示すように、8本の主溝22cが、下臼22の上面22bに形成される。8本の主溝22cは、回転軸26から下臼22の外縁22eに向かって放射状に形成される。
【0035】
副溝22d,22d,・・・が、上面22bに形成される。図2では、一部の副溝のみに符号を付している。副溝22dは、8本の主溝22cのうち、いずれか一つに対して平行である。一つの主溝22cに対して、8本の平行な副溝22dが形成される。主溝22c及び副溝22dの深さは、0.3〜0.5mmであり、好ましくは0.4mmである。
【0036】
図3は、下臼22の拡大上面図である。図3において、主溝22c及び副溝22dの端を一点鎖線(仮想線)で結んでいる。図3に示すように、下臼22の外縁22eから、主溝22c及び副溝22dまでの距離d1は、3〜5mmである。図3では、距離d1は、各溝で同じである。しかし、距離d1は、溝ごとに異なっていてもよい。距離d1は、3〜5mmの範囲であればよい。
【0037】
図4は、上臼23の下面図である。図4に示すように、上臼23の下面23bに形成される溝のパターンは、下臼22の上面22bに形成される溝のパターン(図2参照)と同じである。8本の主溝23cが、下面23bに形成される。副溝23d,23d,・・・が、下面23bに形成される。主溝23cの配置及び深さは、主溝22cと同様であり、副溝23dの配置及び深さは、副溝22dと同様である。
【0038】
次に、石臼31に形成される溝について、図5を参照しながら説明する。図5は、下臼32の拡大上面図である。8本の主溝32cが、主溝22cと同様に、下臼32の上面32bに放射状に形成される。図5では、一部の主溝32cを示している。主溝32cの深さは、0.5〜0.7mmであり、好ましくは0.6mmである。複数の副溝32d,32d,・・・が、上面32bに形成される。副溝32dは、8本の主溝32cのいずれか一つに平行である。一つの主溝32cに対して、8本の副溝32dが形成される。副溝32dの深さは、0.4〜0.6mmであり、好ましくは0.5mmである。
【0039】
図5において、主溝32c及び副溝32dの端を一点鎖線(仮想線)で結んでいる。下臼32の外縁32eから、主溝32c及び副溝32dまでの距離d2は、3〜8mmである。図5では、各溝の距離d2が一致している。しかし、距離d2は、溝ごとに異なっていてもよい。距離d2は、3〜8mmの範囲内であればよい。
【0040】
上臼33の上面にも、下臼32の下面32bと同じ主溝及び副溝が形成されるが、その詳細な説明は省略する。
【0041】
次に、石臼41に形成される溝について、図6を参照しながら説明する。図6は、下臼42の拡大上面図である。8本の主溝42cが、主溝22cと同様に、下臼42の上面42bに放射状に形成される。図6では、一部の主溝42cを示している。主溝42cの深さは、0.5〜0.7mmであり、好ましくは0.6mmである。複数の副溝42d,42d,・・・が、上面42bに形成される。副溝42dは、8本の主溝42cのいずれか一つに平行である。副溝22d,32dと異なり、一つの主溝42cに対して、6本の副溝42dが形成される。副溝42dの深さは、0.6〜0.8mmであり、好ましくは0.7mmである。
【0042】
図6において、主溝42c及び副溝42dの端を一点鎖線で結んでいる。下臼42の外縁42eから、主溝42c及び副溝42dまでの距離d3は、11〜12mmである。図6では、各溝の距離d3が一致している。しかし、距離d3は、溝ごとに異なっていてもよい。距離d3は、11〜12mmの範囲内であればよい。
【0043】
上臼43の上面にも、下臼42の下面42bと同じ主溝及び副溝が形成されるが、その詳細な説明は省略する。
【0044】
以上説明したように、主溝22c,32c,42cのそれぞれの深さとして、好ましくは0.4mm、0.6mm、0.6mmである。副溝22d,32d,42dのそれぞれの深さとして、好ましくは0.4mm、0.5mm、0.7mmである。つまり、石臼31に形成される溝は、石臼21に形成される溝よりも深い。石臼41に形成される溝は、石臼31に形成される溝と同じ深さであるか、石臼31に形成される溝よりも深い。このように、コメ粒子の粉砕が進むにつれて、石臼に形成される溝の深さを大きくすることにより、石臼内でのコメ粒子の滞留時間を長くすることができる。したがって、粒径の小さいコメスラリーを製造することができる。
【0045】
なお、下臼の上面に形成される溝のパターンと、上臼の下面に形成される溝のパターンとは、同じでなくてもよい。石臼21,31,41の上臼及び下臼に形成される溝のパターンは、それぞれ異なってもいてもよい。たとえば、石臼21,31,41のうち、いずれか一つの石臼において、主溝の数が異なっていてもよい。また、主溝及び副溝は、曲線であってもよい。
【0046】
{コメスラリーの製造}
コメスラリー製造装置1を用いたコメスラリーの製造手順を詳しく説明する。図7は、コメスラリーの製造手順を示すフローチャートである。
【0047】
まず、コメをホッパ11に投入する前に、コメを水に浸漬する(ステップS1)。浸漬時間として、好ましくは1.5時間以上6時間以下であり、より好ましくは1.5時間以上4時間以下であり、さらに好ましくは1.5時間以上2時間以下である。従来に比べて浸漬時間を短縮することができるため、コメスラリーを効率良く製造することができる。
【0048】
次に、浸漬されたコメを粉砕装置20に供給する。具体的には、浸漬されたコメをホッパ11に投入する。原料供給スクリュ12を回転させることにより、浸漬されたコメを、粉砕装置20に供給する。浸漬されたコメの供給量として、好ましくは1分あたり27g以上40g以下であり、より好ましくは1分あたり32g以上40g以下である。コメの供給量を27〜40(g/min)とすることにより、石臼21内におけるコメの滞留時間を長くすることができる。この結果、コメが石臼21に接触する回数と、コメ同士が接触する回数が増加するため、コメスラリー51に含まれるコメ粒子の微細化を促進することができる。
【0049】
また、送液ポンプ15を用いて、原料供給ビーカ14内の水を粉砕装置20に供給する。コメの供給量に対して、水の供給量が少なすぎる場合、石臼21,31,41内で、コメの流動性が低くなり、粉砕効率が低下する。一方、コメの供給量に対して、水の供給量が多すぎる場合、石臼21,31,41内で、コメが浮遊するため、粉砕効率が低下する。したがって、水の供給量として、好ましくは浸漬されたコメの供給量の24倍以上41倍以下であり、より好ましくは浸漬されたコメの供給量の32倍以上36倍以下である。また、水の供給量を変更することにより、コメスラリー51〜53中の固形分濃度(コメ粒子の濃度)を調整することができる。
【0050】
粉砕装置20において、下臼22を回転させることにより、供給されたコメを湿式粉砕する(ステップS2)。これにより、コメスラリー51が生成される。下臼22の回転速度は、特に限定されないが、好ましくは、20〜50rpm(Round Per Minute)である。
【0051】
コメスラリー51に含まれるコメ粒子を、粉砕装置30を用いて、さらに粉砕する(ステップS3)。具体的には、コメスラリー51を、上臼33に形成された貫通孔33aに投入する。下臼32を回転させることにより、コメスラリー51に含まれるコメ粒子を粉砕する。これにより、コメスラリー52が生成される。下臼32の回転速度は、粉砕装置20の下臼22の回転速度と同じである。
【0052】
コメスラリー52に含まれるコメ粒子を、粉砕装置40を用いて、さらに粉砕する(ステップS4)。具体的には、コメスラリー52を、上臼43に形成された貫通孔43aに投入する。下臼42を回転させることにより、コメスラリー52に含まれるコメ粒子を粉砕する。これにより、コメスラリー53が生成される。下臼42の回転速度は、粉砕装置20の下臼22の回転速度と同じである。
【0053】
このように、コメスラリー製造装置1を用いることにより、短い浸漬時間で、乳白色のコメスラリー53を製造することができる。コメスラリー製造装置1は、コメの湿式粉砕を繰り返すことにより、コメ粒子の平均粒径が5μm以下であるコメスラリー53を製造することができる。
【0054】
なお、コメスラリー53を均質化したり、加熱殺菌したりしてもよい。コメスラリー53を加熱殺菌することにより、コメ粒子が糊化したコメスラリーを得ることができる。
【0055】
コメスラリー53の用途は特に限定されない。たとえば、植物由来の大豆タンパク質、酒粕、ヌカ油、砂糖などを、コメスラリー53に添加することにより、ミルク状の食材を生成することができる。ミルク状の食材は、牛乳や乳製品に代わる食材として使用できるため、牛乳アレルギーを有する消費者に対して、様々な食品を提供することができる。
【0056】
コメスラリー53を発酵飲料等の飲料やデザート等の食品の原料として使用してもよい。加熱されていないコメ粒子は、人体に吸収されない。このため、コメスラリー53を使用して、低カロリーの飲料や食品を製造することができる。また、コメスラリー53に含まれるコメ粒子の平均径が、5μm以下であるため、消費者は、コメ粒子のザラザラとした存在を感じることなく、コメスラリー53を含む飲料を飲用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0058】
{実施例1(コメスラリーの製造)}
実施例1では、コメスラリー製造装置1を用いて試料米を粉砕し、コメスラリー51〜53に含まれるコメ粒子の粒径を測定した。
【0059】
最初に、試料米(北陸193号玄米)を、2℃の蒸留水に1.5時間で浸漬した。一定量(1分あたり20g)の浸漬された試料米が、粉砕装置20に供給されるように、スクリュ12の回転数を調整した。また、1分あたり85mlの水が粉砕装置20に供給されるように、給水ポンプ15を制御した。下臼22,32,42の回転数を50rpmに設定して、コメスラリー51〜53を製造した。コメスラリー51〜53に含まれるコメ粒子の粒度分布、メディアン径及び平均径を、レーザー回折粒度分布計(株式会社島津製作所製、SALD−2200)を用いて測定した。
【0060】
図8に、コメスラリー51,52,53におけるコメ粒子のメディアン径と、平均径とを示す。図9に、コメスラリー51,52,53におけるコメ粒子の粒度分布を示す。
【0061】
図8に示すように、粉砕回数の増加に応じて、コメ粒子のメディアン径と、平均径とが小さくなる。特に、コメスラリー53に含まれるコメ粒子の平均粒径は、4.218μmである。水に浸漬されたコメを、石臼21,31,41を用いて繰り返し湿式粉砕することにより、平均粒径が5μm以下のコメスラリー53を製造できることが明らかとなった。
【0062】
図9に示すように、粉砕回数の増加に応じて、粒径が100μm以上である粒子の出現頻度が低下している。特に、コメスラリー53において、粒径が100μm以上であるコメ粒子が存在しない。水に浸漬されたコメを、石臼21,31,41を用いて繰り返し湿式粉砕することにより、粒径の大きい(100μm以上の)コメ粒子が、コメスラリー中に残存することを防止できることが明らかとなった。
【0063】
図8に示すように、コメスラリー51に含まれるコメ粒子の平均径は、10.567μmであり、従来の湿式粉砕により得られるコメ粒子よりも平均径は小さい。このことから、石臼21のみを用いた湿式粉砕でも、従来よりも粒径の小さいコメ粒子を含むコメスラリーを製造できることが明らかとなった。
【0064】
{実施例2(コメスラリーを用いたアイスクリームの製造)}
実施例2では、コメスラリー53を原料としたアイスクリーム(コメアイスクリーム)の感応検査を行った。
【0065】
図10に、コメアイスクリームの製造に用いたアイスクリームミックスの組成を示す。図10に示すように、酒粕パウダー27g、米ぬか51g、砂糖299g、乳化剤0.4g、水416g、及び米ぬか油187mlを、コメスラリー53(1020g)に添加することにより、アイスクリームミックスを調製した。この調製されたアイスクリームミックスの重さは、2000gである。この調製されたアイスクリームミックスをフリージングすることにより、コメアイスクリームを製造した。
【0066】
男女を合わせて127名の評価者が、コメアイスクリームを試食して、コメアイスクリームを採点した。最低点は0点であり、最高点は100点である。なお、各評価者が好みのアイスクリームを食べた場合における好みのアイスクリームの評価を50点としている。
【0067】
図11に、各評価者の採点の平均点を示す。図11に示すように、コメアイスクリームの評価は、男女ともに、通常のアイスクリームと同等であった。図11に示す結果から、コメスラリー製造装置1を用いて製造したコメスラリーから、牛乳アイスクリームと同等の食感を有するコメアイスクリームを製造できることが明らかとなった。
【0068】
{実施例3(コメの浸漬条件)}
実施例3では、水に浸漬された試料米(北陸193号玄米)の含水率の変化を確認することにより、コメの浸漬条件を確認した。具体的には、試料米を温度2℃の蒸留水に浸漬して、試料米の含水率の時間的な変化を測定した。試料米と水との重量比は、2:1である。
【0069】
図12に、試料米の含水率の経時変化を示す。図12に示すように、含水率は、試料を水に漬けてから急激に上昇する。含水率が25%程度となった後に、含水率の上昇は、緩やかとなる。含水率は、6時間の経過後に30.6%となり、その後、ほとんど上昇しない平衡状態となった。このことから、コメを水に浸漬する時間は、6時間以内であればよいことが明らかとなった。
【0070】
また、実施例1で説明したように浸漬時間を1.5時間とした場合において、コメスラリー51、52、53に含まれるコメ粒子の平均径は、それぞれ、10.567μm、7.215μm、4.218μmであった(図8参照)。つまり、浸漬時間が1.5時間程度で、コメ粒子の平均粒径が10μm以下のコメスラリーを得ることができる。このことから、浸漬時間は、1.5時間以上であればよいことが明らかとなった。
【0071】
{実施例4(浸漬されたコメの供給条件)}
実施例4では、粉砕装置20に供給するコメの量と、コメスラリー51に含まれるコメ粒子の粒径との対応関係を調べることにより、コメの供給条件を確認した。
【0072】
具体的には、北陸193号玄米(試料米)を、2℃の蒸留水に6時間で浸漬した。この浸漬したコメの供給量を、7.31〜36.2(g/min)の範囲で変化させた場合における、コメスラリー51に含まれるコメ粒子の粒径の変化を測定した。このとき、粉砕装置20への水の供給量は、130(ml/min)で一定であり、下臼22の回転速度は、20(rpm)である。
【0073】
図13に、コメの供給量と、コメスラリー51に含まれるコメ粒子の粒径との対応を示す。図13に示すように、コメの供給量が26.5(g/min)よりも大きくなった場合、コメ粒子のメディアン径が、急激に小さくなる(2μm以下となる)ことが明らかとなった。
【0074】
また、コメの供給量が26.5(g/min)よりも大きくなるにつれて、メディアン径が小さくなる傾向にあることも確認できた。このことから、コメの供給量を増加させることにより、コメ粒子の粒径を小さくすることができると予想される。しかし、コメの供給量が多すぎる場合、石臼内でのコメの流動性が低くなり、粉砕効率が低下すると予想される。したがって、コメの供給量の上限は、40(g/min)程度であることが望ましい。
【0075】
以上のことから、コメの供給量が、26.5〜40(g/min)であれば、コメスラリー中のコメ粒子を、より微細化できると考えられる。
【0076】
コメ粒子の25%径の変化は、メディアン径の変化に比べて小さい。しかし、コメの供給量が26.5(g/min)よりも大きい場合、コメ粒子の25%径が小さくなる傾向にあることを確認できた。
【0077】
{実施例5(水の供給条件)}
実施例5では、粉砕装置20に供給する水の量と、コメスラリー51に含まれるコメ粒子の粒径との対応関係を調べることにより、水の供給条件を確認した。
【0078】
具体的には、北陸193号玄米(試料米)を、2℃の蒸留水に6時間で浸漬した。この浸漬したコメの供給量を、7.31(g/min)に維持しながら、水の供給量を130〜370(ml/min)の範囲で変化させた場合における、コメスラリー51に含まれるコメ粒子の粒径の変化を測定した。下臼22の回転速度は、20(rpm)である。
【0079】
図14に、水の供給量と、コメスラリー51に含まれるコメ粒子の粒径との対応を示す。図14に示すように、水の供給量が180〜300(ml/min)の範囲で、コメ粒子のメディアン径が小さくなることを確認できた。水の供給量が180mlである場合、コメの供給量(7.31(g/min))と水の供給量との比は、1:24.6倍である。水の供給量が300mlである場合、コメの供給量(7.31(g/min))と水の供給量との比は、1:41.06である。したがって、コメの供給量の24〜41倍の水を粉砕装置30に供給することにより、コメスラリー51に含まれるコメ粒子を微細化できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0080】
1 コメスラリー製造装置
10 原料供給装置
20,30,40 粉砕装置
21,31,41 石臼
22,32,42 下臼
22c,23c,32c,42c 主溝
22d,23d,32d,42d 副溝
23,33,43 上臼
51,52,53 コメスラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の引き臼を回転することにより水に浸漬されたコメを粉砕して、第1のコメスラリーを生成する第1粉砕装置と、
前記浸漬されたコメとともに、水を前記第1の引き臼に投入する原料供給装置と、
を備え、
前記浸漬されたコメは、1.5時間以上6時間以下の期間で、水に浸漬されたコメであるコメスラリー製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコメスラリー製造装置であって、さらに、
第2の引き臼を回転することにより前記第1のコメスラリーに含まれるコメ粒子を粉砕して、第2のコメスラリーを生成する第2粉砕装置、
を備えるコメスラリー製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載のコメスラリー製造装置であって、さらに、
第3の引き臼を回転することにより前記第2のコメスラリーに含まれるコメ粒子を粉砕して、第3のコメスラリーを生成する第3粉砕装置、
を備えるコメスラリー製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載のコメスラリー製造装置であって、
前記第1の引き臼は、
円盤形の第1の下臼と、
前記第1の下臼の上に載置され、前記第1の下臼と同軸に配置される円盤形の第1の上臼と、
を備え、
前記第2の引き臼は、
円盤形の第2の下臼と、
前記第2の下臼の上に載置され、前記第2の下臼と同軸に配置される円盤形の第2の上臼と、
を備え、
前記第3の引き臼は、
円盤形の第3の下臼と、
前記第3の下臼の上に載置され、前記第3の下臼と同軸に配置される円盤形の第3の上臼と、
を備え、
前記第1の下臼の上面と、前記第1の上臼の下面とに、第1の溝が形成され、
前記第2の下臼の上面と、前記第2の上臼の下面とに、前記第1の溝よりも深い第2の溝が形成され、
前記第3の下臼の上面と、前記第3の上臼の下面とに、前記第2の溝と同じ深さであるか又は前記第2の溝よりも深い第3の溝が形成されるコメスラリー製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のコメスラリー製造装置であって、
前記第1の溝は、
前記第1の下臼の上面の中心部又は前記第1の上臼の下面の中心部から放射状に形成され、深さが0.3〜0.5mmである第1の主溝、
を含み、
前記第2の溝は、
前記第2の下臼の上面の中心部又は前記第2の上臼の下面の中心部から放射状に形成され、深さが0.5〜0.7mmである第2の主溝、
を含み、
前記第3の溝は、
前記第3の下臼の上面の中心部又は前記第3の上臼の下面の中心部から放射状に形成され、深さが0.5〜0.7mmである第3の主溝、
を含むコメスラリー製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載のコメスラリー製造装置であって、
前記第1の溝は、
前記第1の主溝と平行であり、深さが0.3〜0.5mmである第1の副溝
を含み、
前記第2の溝は、
前記第2の主溝と平行であり、深さが0.4〜0.6mmである第2の副溝、
を含み、
前記第3の溝は、
前記第3の主溝と平行であり、深さが0.6〜0.8mmである第3の副溝、
を含むコメスラリー製造装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のコメスラリー製造装置であって、
前記第1の引き臼に供給される前記浸漬されたコメの量は、1分間あたり25g以上40g以下であるコメスラリー製造装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のコメスラリー製造装置であって、
前記第1の引き臼に供給される水の量は、前記第1の引き臼に供給される前記浸漬されたコメの量の24倍以上41倍以下であるコメスラリー製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−99732(P2013−99732A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245998(P2011−245998)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、農林水産省、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】