説明

コメットアッセイ解析方法およびコメットアッセイ画像解析装置およびコメットアッセイ解析装置

【課題】コメットアッセイ解析方法において、標本の撮影画像から自動的にかつ迅速にコメットアッセイの各評価指標を算出することで、より正確なコメットアッセイ評価ができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】コメット画像1はヘッド画像2とテール画像3とからなっており、そのコメット画像1に外接する外接長方形4を求め、コメット画像1の面積と外接長方形4の面積比が所定の範囲であれば、1つの細胞のコメット画像と判断する方法であり、複数の細胞が重なりあったコメット画像や蛍光ノイズなどによる1つの細胞以外のコメット画像を排除することができ、市販のソフトなどを用いて簡単にかつ自動的に判断することができ、迅速にコメットアッセイ評価を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝毒性作用や薬物、環境汚染物質などのDNAに対する作用を定量的に評価するコメットアッセイ解析方法およびコメットアッセイ画像解析装置およびコメットアッセイ解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コメットアッセイ法は、単一細胞ゲル電気泳動法とも呼ばれ、単離した細胞をアガースゲル中に封入して、細胞膜および核酸を溶解した後、電気泳動することにより、DNA損傷をDNAの泳動パターンとして観察あるいは定量する方法である。高感度に細胞のゲノムへの影響を検出できるために、遺伝毒性物質の検出、抗酸化成分の定量および放射線の影響の評価などに用いられている。コメットアッセイ法は、DNAの損傷が生じた核から断片化したゲノムDNAがすい星(コメット)のように尾を引くように泳動することから命名された。このDNAを染色して撮影した画像は一般的にすい星状の画像になるため、以下総称としてコメット画像という。
【0003】
従来この種のコメットアッセイ方法は、環境汚染物質による生態に対する毒性を評価する場合に、環境中に生息する微生物の細胞を溶解した後、アルカリ条件下でDNAのまき戻しと電気泳動を行い、DNA移動距離および/またはDNAモーメントを計測することにより、前記環境汚染物質による細胞のDNA損傷程度を定量し、定量結果から環境物質による生態に対する毒性を評価しているものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、従来この種のコメットアッセイ解析装置は、コメットアッセイ法によって作成した標本を所定の染色試薬で染色した後、撮影部で画像を撮影する。その画像には複数のコメット画像が撮影されており、それぞれのコメット画像に対して画像処理を行い、DNAの損傷程度を評価して、その結果を表示するものである。細胞のDNAの損傷が大きい場合、電気泳動によって流れ広がった断片化したDNAのすい星状のコメット画像が得られる。このコメット画像において、流れ広がる部分が大きいほどDNAの損傷が大きい。DNAの損傷の度合いを定量的に評価するために各種の指標が提案されており、例えば、テイル・レングス、DNAミグレーション、シェイプ・ファクター、テイル・インテンシティ、レシオ、テイル・モーメントなどの指標があり、それぞれ値が大きいほどDNAの損傷が大きいことを意味しているが、それぞれ異なった意味合いを有しており、その研究目的に応じて使い分けられている。それらの指標をコメット画像から求め、DNAの損傷度合いを解析しているものもある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−083120号公報
【特許文献2】特開2003−210155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来のコメットアッセイ方法やコメットアッセイ解析装置は、まず輪郭が鮮明であるコメット画像を得ることが重要であるが、DNAの濃淡や輪郭の鮮明な画像を得ることが難しいために、鮮明なコメット画像を得て、そのコメット画像を元にコメットアッセイによる評価を実施することが要求されている。
【0006】
また、通常非常に多くの細胞を用いて、それぞれのコメット画像からコメットアッセイの指標を算出するが、細胞とそれ以外の物質との区別や複数の細胞が重なり合うことがあるため、まずそのコメット画像が1つの細胞であることを判断することに非常に多くの労力を用いているという課題があり、1つの細胞のコメット画像であることを迅速に判断することが要求されている。
【0007】
さらに1つの細胞であることを認識することが難しいために、画像処理などでコメットアッセイの各種指標を自動的に算出しにくいという課題があり、各コメット画像から指標を算出するために1つの細胞のコメット画像を選定し、自動的に指標を算出できることが要求されている。
【0008】
また、DNA損傷の発現の形態は様々であるため、ストレスとして与えるもの濃度やストレスの度合いや暴露時間、用いる細胞の種類などによって、DNAの損傷を表す所謂コメット画像のパターンが大きく異なるという課題があり、それぞれのパターンによって、個々に細胞と判断するための条件を可変したいことが要求されている。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、コメットアッセイ法で得られた画像から、1つの細胞のコメット画像と判断して、その判断したコメット画像のみからコメットアッセイの各種指標を画像処理で求めることででき、また、鮮明で且つ輪郭や濃淡が明確にわかるコメット画像を得ることで、精度良くかつ迅速にコメットアッセイの評価ができるコメットアッセイ解析方法およびコメットアッセイ画像解析装置およびコメットアッセイ解析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のコメットアッセイ解析方法は上記目的を達成するために、コメットアッセイ法によって作成した標本の画像から、DNA損傷の度合いを評価するための各評価指標を算出するコメットアッセイ解析方法において、1つまたは複数のコメット画像を含んだ前記画像の中から1つの細胞からなるコメット画像であると判断するコメット画像判断工程を含むことを特徴としたものである。
【0011】
本発明のコメットアッセイ解析方法は上記目的を達成するために、前記コメット画像の形状から、形状特徴量を算出して、その形状特徴量から1つの細胞のコメット画像と判断するコメット画像判断工程を備えたことを特徴したものである。
【0012】
本発明のコメットアッセイ解析方法は上記目的を達成するために、前記コメット画像に対して外接長方形を求め、前記コメット画像の面積と前記外接長方形の面積から面積比を求め、前記面積比が所定の範囲であるときに1つの細胞のコメット画像と判断する面積比判断工程を備えたコメット画像判断工程を含むことを特徴したものである。
【0013】
本発明のコメットアッセイ解析方法は上記目的を達成するために、前記コメット画像の相対的な高輝度部分を求め、その高輝度部分の個数および/または形状特徴量から1つの細胞のコメット画像と判断する高輝度判断工程を備えたコメット画像判断工程を含むことを特徴したものである。
【0014】
本発明のコメットアッセイ解析方法は上記目的を達成するために、前記面積比判断工程と前記高輝度判断工程の両方を備えたコメット画像判断工程を含むことを特徴したものである。
【0015】
本発明のコメットアッセイ画像解析装置は上記目的を達成するために、前記コメットアッセイ法によって作成した標本の画像から、DNA損傷の度合いを評価するための各評価指標を算出するコメット画像のコメットアッセイ画像解析装置において、コメット画像判断手段によって1つの細胞と判断したコメット画像に対して、元の核の部分であるヘッド画像を抽出するヘッド画像抽出手段と損傷を受けて流れたDNAの部分であるテール画像を抽出するテール画像抽出手段と抽出したヘッド画像の画像の濃淡から重心を算出するヘッド重心算出手段と抽出したテール画像の濃淡から重心を算出するテール重心算出手段と算出したヘッド画像の重心とテール画像の重心からコメットアッセイの各評価指標を算出する評価指標算出手段とを備えたしたものである。
【0016】
本発明のコメットアッセイ解析装置は上記目的を達成するために、前記コメットアッセイ解析方法を行うための装置であって、コメットアッセイ法で作成した標本を蛍光染色試薬で染色し、前記蛍光染色試薬の励起波長に対応した光源と、前記蛍光染色試薬の蛍光波長に対応した光を受光する撮影部と、前記コメット画像判断手段とヘッド画像抽出手段とテール画像抽出手段とヘッド重心算出手段とテール重心算出手段と評価指標算出手段とを備えた画像処理部とを備えたものである。
【0017】
本発明のコメットアッセイ解析装置は上記目的を達成するために、前記コメット画像判断手段が面積比判断手段および/または高輝度判断手段であることを特徴としたものである。
【0018】
本発明のコメットアッセイ解析装置は上記目的を達成するために、前記面積比判断手段および/または前記高輝度判断手段において、面積比および/または高輝度部分の輝度値および/または形状特徴量の設定を任意に可変できることを特徴としたものである。
【0019】
本発明のコメットアッセイ解析装置は上記目的を達成するために、2本鎖DNAと反応して蛍光発光する蛍光染色試薬としたものである。
【0020】
本発明のコメットアッセイ解析装置は上記目的を達成するために、400nm以上の励起波長に対応した前記蛍光染色試薬と光源とを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、得られた複数のコメット画像の中から、1つの細胞であるコメット画像を判断し、その判断したコメット画像についてのみ、コメットアッセイの各指標を求めることができるため、非常に精度良く測定できるコメットアッセイ解析方法を提供できる。
【0022】
また、得られたコメット画像の形状特徴量より、目視で確認するよりも一定の考え方で区別することができ、非常に精度良く測定できるコメットアッセイ解析方法を提供できる。
【0023】
また、コメット画像の面積と外接長方形の面積比が所定の範囲であるときに1つの細胞のコメット画像と判断することで、得られた複数のコメット画像から簡単に1つの細胞のコメット画像と判断できるため、迅速に評価を行うことができるコメットアッセイ解析方法を提供できる。
【0024】
また、得られたコメット画像に高輝度の部分の個数が1つしかないものと、およびその高輝度部分の形状特徴量からも1つの細胞と判断することで、より精度良く1つの細胞と認識することができ、迅速に評価を行うことができるコメットアッセイ解析方法を提供できる。
【0025】
また、面積比と高輝度部分の個数および/または形状特徴量から、より精度良く1つの細胞のコメット画像と判断できるために、より精度良く1つの細胞のコメット画像と判断でき、結果的にバラツキが少なく、正確な各コメット評価指標を算出できるコメットアッセイ解析方法を提供できる。
【0026】
また、コメット画像判断手段によって1つの細胞のコメット画像と判断できるため、得られた複数のコメット画像から、市販や公知の画像処理ソフトなどを用いて、簡単に1つの細胞のコメット画像と判断し、そのコメット画像のみを選定できることから、そのコメット画像からのコメットアッセイの各指標も自動的に計算できるので、個人差などが生じにくく、かつバラツキも小さいコメットアッセイ評価を行うコメットアッセイ画像解析装置を提供できる。
【0027】
また、蛍光染色試薬で染色し、その蛍光染色試薬の励起波長に対応した光源と蛍光波長に対応した撮影部とを設け、その撮影部によって撮影したコメット画像をもとに1つの細胞と判断するコメット画像判断手段を設けることで、通常のコメットアッセイ法に基づく電気泳動などの標本を作成すれば、後は自動的にコメットアッセイの各評価指標算出し、表示するために、個人の経験や技能に依存しない自動的に各指標を算出するコメットアッセイ解析装置を提供できる。
【0028】
また、面積比や高輝度部分の個数および/または形状特徴量によって1つの細胞のコメット画像と判断できるという、今までの経験に基づいて判断していたものと同様に区別され、かつ簡単の論理であるために、市販や公知の画像処理ソフトなどに簡単に組み込みなどができるコメットアッセイ解析装置を提供できる。
【0029】
また、面積比および/または高輝度部分の輝度値および/または形状特徴量を任意に設定できることで、色々な要因や試験条件に応じて変化するコメット画像のパターンに対応できるために、より精度良く各指標を求めることができるコメットアッセイ解析装置を提供できる。
【0030】
また、2本鎖のDNAと反応する蛍光染色試薬を用いることで、断片化した1本鎖のDNAと反応して発光することが防止できるために、鮮明なコメット画像が得られるコメットアッセイ解析装置を提供できる。
【0031】
また、400nm以上の励起波長に対応する蛍光染色試薬と光源とを用いることで、標本自体からの蛍光発光を防止することができ、より鮮明なコメット画像が得られるコメットアッセイ解析装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の請求項1記載の発明は、得られたコメット画像の中から、1つの細胞のコメット画像と判断するコメット画像判断工程を設けることで、それ以外の複数の細胞が重なりあったコメット画像や蛍光ノイズなどによる1つの細胞以外のコメット画像を排除することができ、1つの細胞のコメット画像のみからコメットアッセイの各評価指標を算出できるという作用を有する。
【0033】
本発明の請求項2記載の発明は、コメット画像の形状特徴量から1つの細胞のコメット画像と判断できるから、市販の画像処理ソフトなどを用いて、非常に簡単に判断ができるという作用を有する。
【0034】
本発明の請求項3記載の発明は、得られたコメット画像に対して外接長方形を求め、そのコメット画像面積と外接長方形の面積比を求め、その面積比が所定の範囲であるか否かから1つの細胞のコメット画像であるかを判断できるという作用を有する。
【0035】
本発明の請求項4記載の発明は、電気泳動をかけるときの初期のDNAの位置が通常一番高い輝度になっており、その高輝度部分が2つ以上ある場合は、2つ以上の細胞が重なっていると判断でき、また、その高輝度部分が1つであっても、形状特徴量から2つが重なっているものは削除できるという作用を有する。
【0036】
また、請求項5記載の発明は、面積比と高輝度部分の個数および/または形状特徴量と両方から判断することによって、より正確に1つの細胞のコメット画像が判断できるという作用を有する。
【0037】
また、請求項6記載の発明は、得られた複数のコメット画像の中から簡単に1つの細胞のコメット画像と判断でき、その判断したコメット画像のみを選定し、選定したコメット画像からヘッド画像とテール画像の抽出やヘッド重心およびテール重心などコメットアッセイ評価指標に必要な値を求めるのに、市販や公知の画像処理を用いて算出できるという作用を有する。
【0038】
また、請求項7記載の発明は、1つの細胞と判断する細胞判断手段を備えた画像処理部有したコメットアッセイ解析装置にすることで、コメットアッセイ法に基づいた標本を作成すれば、個人の経験や技能に依存しない自動的に各指標を算出できるという作用を有する。
【0039】
また、請求項8記載の発明は、1つの細胞と判断する細胞判断手段を面積比および/または高輝度部分の個数および/または形状特徴量で判断することで、簡単な論理で判断可能であり、また、自動的に解析ができるという作用を有する。
【0040】
また、請求項9記載の発明は、色々な条件によって、コメット画像の形態の形や輝度が色々なパターンで生じるので、そのパターンに対応して任意に対応でき、より詳細に1つの細胞のコメット画像と判断できるという作用を有する。
【0041】
また、請求項10記載の発明は、1本鎖のDNAと反応しない蛍光染色試薬を用いることで、1本鎖との反応による発光を防止し、より鮮明なコメット画像を得ることができるという作用を有する。
【0042】
また、請求項11記載の発明は、400nm以上の励起光に対応した蛍光染色試薬と光源を用いることで、標本からの自家蛍光を防止し、より鮮明なコメット画像を得ることができるという作用を有する。
【0043】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0044】
(実施の形態1)
コメットアッセイ法は、遺伝毒性物質の検出、抗酸化成分や環境汚染物質の定量および放射線の影響の評価に公知の評価方法として用いられている。単一細胞ゲル電気泳動法とも呼ばれ、DNAの損傷度合いを評価するために、遺伝毒性物質など上記評価する物質や影響度を評価する放射線などのストレスを(以下被検体という)、特定の単離した細胞に接触あるいは暴露した後、その細胞をアガースゲル中に封入して、細胞膜および核酸を溶解した後、電気泳動を行う。そして、その標本をDNAと反応することによって蛍光発光する蛍光染色試薬で染色し、蛍光染色試薬に対応した励起光を照射することで、蛍光発光させ、その波長に対応した光を蛍光顕微鏡などで観察することによって、DNA損傷の影響を確認することができる。また、その蛍光発光した光をCCDなどで画像して撮影すると、DNAの損傷が生じた核から断片化したゲノムDNAがすい星(コメット)のように尾を引くように泳動するため、すい星状の所謂コメット画像を得ることができ、そのコメット画像から各種指標を算出して、被検体の細胞に対する影響度などを評価することができる。
【0045】
コメットアッセイ法で評価を実施する場合、通常、複数の細胞を被検体に暴露して行う。したがって、顕微鏡で複数のコメット画像が観察され、複数のコメット画像がCCDで撮影される。これらの複数のコメット画像について、それぞれ各指標を算出し、指標ごとに平均などをして評価を行う。しかしながら、精度よく評価を行うためには、得られたコメット画像が1つの細胞であることを1つ1つの画像ごとに判断し、その1つ細胞からと判断した画像のみに指標を算出することが必要である。この1つの細胞のコメット画像であるか否かは、作業者が今までの経験に基づき、1つ1つのコメット画像を目視で確認し、その形や大きさ、輝度の程度などにより、1つ1つ判別しており、個人の経験や技能の差によって、判別の仕方、判別し選定したコメット画像は、個人差が生じていた。なぜなら、実際に得られるコメット画像は、複数の細胞が重なり合った画像であったり、電気泳動を行う際にゲルや支持体が必要であるが、それらに励起光を照射すると支持体などから自家蛍光が生じ、その画像も映りこむため、この1つ細胞のコメット画像であるかを判断するのに、非常に多くの労力と時間がかかり、結果的には1つの細胞からではないコメット画像からも指標を算出して、正確ではない評価を行うこともある。また、1つの細胞と判断するためには、今までの経験などに基づいて判断しているために個人差が生じやすいとともに、画像処理などのアルゴリズムを用いて自動的に算出しようとしても、1つの細胞であるかの判断は、試験者が実施する必要があり、精度良い評価を行うためには、自動的に算出するのが困難であった。本発明者らは、コメットアッセイ法によって、標本を作成し、この標本を蛍光染色試薬で染色し、蛍光染色試薬に対応した励起波長によって蛍光発光したコメット画像を撮影し、このコメット画像からコメットアッセイの各指標で評価を行うにあたって、法則または基準を持って1つの細胞のコメット画像と判断するコメット画像判断工程を設けることで、個人的な経験や技能に左右されない、より精度良くかつ正確なコメットアッセイ評価を行うことができることを見出した。
【0046】
図1に、得られたコメット画像をもとに2値化後の典型的な1つの細胞のコメット画像1を示す。コメット画像1はヘッド画像2とテール画像3とからなっており、外接長方形4はコメット画像1、すなわちヘッド画像2とテール画像3に外接する長方形である。電気泳動をかける前の出発点にあたる、もとのDNAの位置の部分が通常は最も輝度が高い部分(高輝度部分5)であり、その周りのエリアをヘッド画像2といい、電気泳動により損傷したDNAが流れ出した部分の画像をテール画像3という。このヘッド画像2の最も高輝度の部分5をDNAの中心位置としてヘッドセンター、ヘッド画像2の最初に蛍光が見られた位置をヘッドトップ、ヘッド画像2の泳動端(流れ方向)をヘッドエンドといい、テール画像3の重心位置をテールセンター、テール画像3の泳動端(流れ方向)をテールエンドといい、それぞれコメットアッセイの各評価指標を算出する上で重要な位置であり、1つの細胞のコメット画像1からのみ算出しないと結果はバラツキの大きい評価指標が得られ、精度の悪い評価を行う恐れがある。ヘッドセンターおよびテールセンターは、ヘッド画像2およびテール画像3の重心の位置を示す。
【0047】
1つの細胞のコメット画像1と判断するための手法として、コメット画像1の形状特徴量から1つの細胞からなるコメット画像1と判断することである。形状特徴量とは、外接長方形、複雑度(円形度の逆数)、円形度、モーメント特徴量、包絡線(閉曲線)などがある。外接長方形4は、コメット画像1に外接する長方形で、その長方形の大きさや形状の特徴あるいはコメット画像との面積比などから判断する方法である。複雑度あるいは円形度は、コメット画像1が真円と比較してどの程度離れているのか、あるいは近づいているのかから判断する方法である。また、モーメント特徴量は、コメット画像1の重心を求めて、重心を中心としてどの程度傾いているのかを求めるものである。その他、コメット画像1から包絡線を求め、例えば、包絡線と周囲長の差や包絡線で囲んだ面積と実際の面積の差あるいは比などから1つの細胞のコメット画像1と判断するものである。形状特徴量から1つの細胞のコメット画像1と判断する方法として、一つは目視で判断している基準や考え方を形状特徴量として表すようにすることである。例えば、ある大きさや楕円形状のものが1つの細胞のコメット画像1としている場合に、その大きさや形状を表す数式や論理を用いて、コメット画像1を解析し、その数式や論理に当てはまるかどうかで判断する方法である。二つ目は、最終の目的としては、1つの細胞のコメット画像1であるかどうかを判断することであるから、形状特徴量から区別がつけば良いという方法である。例えば、モーメント特徴量を用いて、水平からの傾きで判断する場合、電気泳動を行っている方向は一定であるため、コメット画像1も一定の傾きになっている。しかし、その傾きと異なっている画像は、1つの細胞のコメット画像と判断しないこともできる。目視で判断している画像と同じかどうかの手段ではないが、このような方法を用いることで、結果的に判断ができれば良い。即ち、実験方法によって発現するコメット画像1は異なるため、そのコメット画像1に合わせて、かつ、市販の画像処理ソフトなどを用いて簡単に判断できる形状特徴量を見出すことで、結果的に1つの細胞のコメット画像1と判断ができる方法を選択すればよい。
【0048】
その形状特徴量による一つの方法として、外接長方形を用いた場合について説明する。コメット画像1に外接する外接長方形4を求め、コメット画像1の面積と外接長方形4の面積比が所定の範囲であれば、1つの細胞のコメット画像1と判断する方法である。コメット画像1は、すい星の形状を示すものが一般的であるが、色々な条件によって、図2に示すように、円形、楕円形、ひょうたん形などの複雑な形状になる。しかしながら、面積比という簡単な手段で、複雑な形状に対応でき、個人差などもなく容易に1つの細胞のコメット画像1と判断できる。評価に用いる細胞は、球状に近い形状で、ストレスが非常に小さい時には、図2(オ)に示す円状に近いコメット画像1が得られる。コメット画像1が、円の場合の面積比は、0.785である。また、コメット画像が正楕円形の場合も0.785になる。実際のコメット画像1は、もっと複雑な形状であるが、DNAの損傷が少ない元の細胞に近いコメット画像1の面積比は、0.785を中心にある範囲を有した値になる場合が多い。また、実際のコメット用サンプルにおいては、通常、細胞は一層に播かれ、細胞が重なる可能性は低い。核は細胞よりも小さいため、細胞が密集している場合でも、溶解された核の領域間にはスペースが生じる。しかしながら、DNAが流れ出したテール画像3の部分が重なる可能性がある。この場合には、0.785よりも低い値を中心にある範囲を有した値になることが多い。一例として、図2の(ク)に示す2つの正楕円形の一部が重なった図をもとに面積比を計算した。詳細な計算方法は省略するが、面積比は、0.785よりもかなり小さく、0.637であった。もちろん、この値は、重なり合う形状や形態によって異なると考えられるが、0.785よりは低い値になることが容易に推測される。少なくとも面積比が0.637よりも低い場合には、極端な流滴状かコメット像が重なったものと考えられるため、いずれの場合についても解析対象から除くことが適切である。なお、これらの具体的な数値は、計算方法によって異なる。具体的には、画像をもとに計算するため、ひとつのヒクセルに縦横の長さをもっており、その長さやどの部分を用いて面積とするかは自由に設定でき、また、円状の画像であっても、四角のピクセルの集合体であるため、理論的に算出した値とは異なる。したがって、実際に得られた画像を元に面積比を算出して、1つの細胞からのコメット画像1とそれ以外のコメット画像1とのそれぞれ面積比を算出して、相対的な比較で1つの細胞からなるコメット画像1と判断できる面積比を設定すれば良い。この面積比は、実験条件が一定の場合には、ある程度同様の形態のコメット画像1が得られるため、1つの細胞のコメット画像1であれば、ほぼ同様の値になる。したがって、まず明らかに1つの細胞のコメット画像1と考えられるコメット画像1をいくつか選び出し、その外接長方形4を求め、そして面積比を求める。その範囲を含めた数値を用いることで、その他のコメット画像1が設定した範囲内であれば、その実験条件に適した1つの細胞のコメット画像1として、判断および選定を行うことができ、結果的により正確なコメットアッセイ評価を行うことができる。このようなコメット画像1の面積の算出および外接長方形を求め、その面積を算出することは、市販あるいは公知の画像処理ソフトを用いることで簡単に算出することができる。また、この面積比の範囲は、狭いほど、より正確にコメット画像1と判断することができ、得られる指標もバラツキが少なく、より正確な評価を得ることができるため、都度、実験条件に応じて、この値を任意に設定できることが望ましい。この面積比の所定の範囲を狭くすればするほど、1つの撮影画像(1視野)において、複数のコメット画像1が得られても、評価して算出できる画像が少なくなる。しかし、1つの標本からは、複数の撮影画像が取得できるため、複数の撮影画像についてこの作業を繰り返せば、サンプル数も多くなり、評価としても問題はない。このような面積比で1つの細胞からのコメット画像1と判断できることで、例えば市販や公知の画像処理ソフトを用いて、簡単に面積比を求めることが可能であるため、複数の撮影画像を用いて、自動的に評価をするために使用するコメット画像1を選び出すことができる。また、コメット画像1から、各指標を算出することも、市販や公知の画像処理ソフトを用いて算出することが可能であるから、複数の撮影画像から自動的に1つの細胞のコメット画像1を選定し、そして、この選定したコメット画像1から算出できる。従来、このような作業を実施しようとすると、例えば、得られたコメット画像1に対して、まず、目視で1つの細胞からのコメット画像1であるかどうかを人が1つ1つ判断して、1つの細胞と判断した画像から指標算出という、非常に労力と時間を有していたが、本発明によれば、このような作業なしに、短時間でかつ精度よくコメットアッセイ指標を得て、より精度良く評価を行うことができる。
【0049】
図1のヘッドセンターは、流れ出す前のDNAの位置である初期の位置の部分の輝度が、DNAの量としては一番多いため、蛍光した光量が多く、撮影された画像の輝度が高輝度になる。したがって、高輝度部分5は、1つの細胞からのコメット画像1であれば、1つしかなく、2つ以上あれば、2つの細胞が重なり合ってできたコメット画像1と判断でき、たとえ、面積比が1つの細胞からのコメット画像1と判断できる値であっても、指標を求める画像としては、削除する必要がある。例えば、図2(イ)、(カ)は面積比で削除できるが、(キ)の2つの細胞が、非常に隣接しているコメット画像1は、面積比では削除できない可能性がある。この場合は、高輝度部分5が2つ以上あるか否かを判断することで、削除すべきコメット画像1として判断することが可能である。また、DNAの損傷が非常に大きい場合、DNAの流れ出す量が非常に多いため、コメット画像1の全体に対して、相対的に非常に高輝度である部分がない画像が得られる可能性もある。したがって、1つ以下であれば、1つの細胞のコメット画像1と判断して良い。なお、蛍光ノイズが非常に多い撮影画像で、かつ、1つの細胞のコメット画像1の場合には、1つの高輝度部分がある場合には、この高輝度部分を1つと限定することで、より正確に1つの細胞のコメット画像1を判断および選定することができる。図3に一例として、コメット画像1の断面での各位置(長さ)毎の輝度値を示す。高輝度部分とは、図3(ア)に示すように、ある設定した狭い範囲で輝度値が極大化している部分である(実際には、2次元の画像で判断する)。この輝度値の絶対値や狭い範囲の設定は、用いている細胞、実験条件、励起光量などによって大きく異なるが、この高輝度部分が1つであれば、1つの細胞のコメット画像1と判断できる。図3(イ)のように、流れ出したDNA量が多い場合には、高輝度部分が極大化していないこともあり、高輝度部分の個数の判断は、最も高輝度値と比較して、設定した範囲に入れば、2つ以上の高輝度部分があると判断できる。
【0050】
また、高輝度部分の個数だけでなく、形状特徴量からも1つの細胞のコメット画像1と判断することが可能である。通常、この高輝度部分は、円状あるいは楕円形であることが多い。したがって、ひょうたん形状であったり、非常に長い楕円形状である場合には、2つの細胞が重なり合った画像であると判断できる。また、電気泳動をかけた方向(線)に対して、傾きが大きい場合には同様に2つの細胞が重なり合った画像と判断できる。この高輝度部分の形状特徴量から単独で1つの細胞のコメット画像1であるか判断することに用いることができるが、個数による判断と併用して用いることで、より精度よく1つの細胞であるコメット画像1と判断することができる。
【0051】
得られたコメット画像1に対して、1つの細胞のコメット画像1と判断するために、面積比と高輝度部分の個数および形状特徴量に判断は、それぞれ単独で用いても良いし、組合せて実施しても良い。コメット画像1は、被検体の種類、暴露時間、与えるストレスの強弱や選定した細胞の種類などによって、その形状や高輝度の部分の輝度値などは大きく異なる。しかしながら、一旦設定した実験条件さえ一定であれば、1つの細胞からのコメット画像1はほぼ近い画像(形態や輝度の濃淡など)として得られる。また、1つの細胞として判断する面積比や高輝度部分と判断する輝度のレベルや形状特徴量は、範囲が狭いほどより正確に1つの細胞からのコメット画像1として判断できるために、その範囲は任意に設定できることが望ましい。例えば、ストレスとして与える放射線などの暴露時間が短い場合は、流れ出すDNAが少ないために楕円形であるが、暴露時間が長い場合には、DNAの損傷度合いが大きく、流れ出すDNAも多くなり、所謂すい星状の画像になり、また画像の輝度の濃淡も異なるため、それぞれ1つの細胞からのコメット画像1と判断する面積比、輝度の設定値や形状特徴量も最適な値にそれぞれ設定した方が、より正確にコメット画像1と判断でき、また、場合によっては、面積比、高輝度のどちらかで十分に判断できる場合は、単独で用いることで、結果的に迅速でかつ、より精度良く評価を行うことができる。
【0052】
なお、1つの細胞のコメット画像1と判断する方法として、典型的な形態・形状の画像をつくり、その画像と比較して同様の大きさ、形状か否かということでも、判断することができる。また、照射した放射線量が異なる細胞でのコメットアッセイなど実験条件が異なるコメット画像1を評価する場合、照射線量が少ないときはコメット画像1あるいは高輝度部分が真円に近い画像になるため、円形度のみで判断し、放射線量が多いときには、DNAが多く流れ出した画像になるため、コメット画像1の外接長方形4との面積比と高輝度部分5の個数から判断する。更に放射線量が多いときは、非常に大きなコメット画像1になり、高輝度部分5がなくなることがあるため、コメット画像1の外接長方形4の面積比あるいは典型的な画像との比較で判断するなど、それぞれのコメット画像1に合わせて、判断するための形状特徴量の選定や組合せなど適宜選択することで、より迅速に精度よい1つの細胞のコメット画像1と判断することが可能である。
【0053】
(実施の形態2)
面積比および高輝度部分の個数で1つの細胞のコメット画像であるかを判断することで、従来、人の目視で判断していたものをなくすことができるため、得られた複数のコメット画像1から、市販あるいは公知の画像処理ソフトあるいはそのソフトを搭載した装置で、簡単におよび自動的にコメットアッセイの各評価指標を算出することができる。その処理フローであるコメット画像判断工程6の処理フローの一例を図4に示す。
【0054】
公知の方法でコメットアッセイの標本を作成し、その標本を核酸染色試薬で染色し、画像を撮影する。その複数のコメット画像が撮影されている標本の画像を図4に示すフローに基づいて実施する。コメット画像判断工程6の処理フローは、基本的な処理の手順を示したものであり、処理結果に影響を及ぼさなければ順番や機能を限定するものではない。撮像した画像を取り込み、必要に応じて、平滑化、メディアンフィルタ処理などを施しノイズの除去を行う。その後、自動あるいは設定値を閾値とした2値化処理によりコメット画像1と背景を分離した2値画像を取得する。2値化処理後の画像をラベリング処理によりコメット画像1である塊画像毎に分ける。この塊画像毎に1つの細胞からなるコメット画像1か否かを判断する処理を画像処理などで実施する。フローには示していないが、塊画像画素値の最大値、最小値を設定することで、その範囲外の塊画像は、ノイズや重複したコメット画像1として、解析から除去する。また、画像縁周辺に接触した塊画像は、欠けていることが多く、解析に適さないため、この塊画像も除去する。このような処理を行うことで、まずおおまかに塊画像の中から1つの細胞のコメット画像1を判断する処理が必要な画像を選び出すことができ、処理時間などを短縮かつ効率的に行える。もちろん、コメット画像1以外の画像が写りこまない、ノイズがほとんどない画像に対しては実施する必要はなく、また、ノイズの現われ方も撮像の条件によって大きく変わるので、その画像の特性に合わせて、大まかにコメット画像でない画像の除去を行う処理を入れることで、その後の処理を効率的に行うことができる。
【0055】
次に、コメット画像と認識した画像毎にコメット画像判断手段7によって、1つの細胞のコメット画像であるかを判断する。コメット画像判断手段7は、面積比判断工程8と高輝度判断工程9を備えている。1つの細胞のコメット画像1と判断した画像について、ヘッド画像2を抽出するヘッド画像抽出手段10と抽出したヘッド画像2の画像の濃淡から重心を算出するヘッド重心算出手段11と損傷を受けて流れたDNAの部分であるテール画像3を抽出するテール画像抽出手段12と抽出したテール画像3の濃淡から重心を算出するテール重心算出手段13によって、図1に示すヘッドトップ、ヘッドセンター、ヘッドエンド、テールセンター、テールエンドをそれぞれ算出し、評価指標算出手段14によって、各コメットアッセイ評価指標を算出する。フローには示していないが、必要に応じて、1つの細胞のコメット画像1と判断した画像毎に算出した各コメット評価指標を平均した値やグラフ化した値を表示する表示手段を設けても良い。評価指標算出手段14はテールモーメントを求めることであり、プログラムされたマイコンなどがある。
【0056】
コメット画像判断手段7は、面積比判断工程8と高輝度判断工程9を備えており、塊画像が1つの細胞のコメット画像1であるか判断し、それぞれ設定した範囲以外の塊画像であれば、評価指標を算出する処理は行わず、次の塊画像に移り、1つの細胞のコメット画像1であるか判断する。最後の塊画像を終わった時点で処理は終わるようになっている。コメット画像判断手段7としては、上記フロー、図4のフローにしたがってプログラムされたマイコンなどがある。
【0057】
本実施形態の形状特徴量の一実施例である面積比判断工程8では、塊画像の外接長方形を算出し、その外接長方形と塊画像の各面積を求め、その面積比(塊画像面積÷外接長方形)として形状評価値とする。その面積比が設定した範囲内であれば、1つの細胞のであると判断して、次の処理を行う。ここでは面積比で記述したが、形状評価値として、複雑度、円形度、モーメント特徴量や包絡線などから形状特徴量を評価して1つの細胞のコメット画像1と判断できる数式や論理を用いても良い。面積比判断工程8としては、上記フローにしたがってプログラムされたマイコンによる処理工程などがある。
【0058】
次に高輝度判断工程9を説明する。面積比が設定した範囲内である塊画像について、設定した輝度値以上の値を有している高輝度画素を抽出する。この高輝度画素をラベリング処理により塊図形(高輝度図形)として、コメット画像1の中で、高輝度図形が何個あるかを計数する。1個以下であれば、最終的に1つの細胞のコメット画像1と判断して、コメットアッセイの各評価指標を算出する処理を行う。1つの細胞のコメット画像1であれば、この高輝度図形は通常1個であるため、1個のみの場合をコメット画像1と判断することもできるが、ピントなどの撮像状態により、コントラストが低い画像などがあるため、得られたコメット画像1から個数を実験条件毎に決めても良い。また、高輝度図形の個数だけでなく、フローには示していないが、高輝度図形の形状特徴量である外接長方形図形面積比、複雑度、円形度、モーメント特徴量や包絡線などを用いて更に厳密に1つの細胞のコメット画像1である判断するための数式や論理を用いても良い。ただし、良好な撮像条件等によって、形状特徴量判断手段と高輝度判断手段のどちらか一方の処理で一つの細胞と判断が可能な場合には、効果的な片方の手段だけでも良い。高輝度判断工程9としては、上記フローにしたがってプログラムされたマイコンによる処理工程などがある。
【0059】
このように1つの細胞のコメット画像1と判断した画像について、図1を用いて各コメット指標を算出する方法を説明するが、コメット画像1の流滴の方向は必ずしも図1と同じとは限らない。まず、高輝度図形からその図形の重心を求めることでヘッドセンターを算出する。次にテールの評価方法としては幾通りかの評価値を算出できる。その1つには、コメット画像1の図形重心を算出し、ヘッドセンターと図形重心間距離を評価値とする方法である。この方法では、演算が簡単で、DNAの損傷の度合いに対する評価値が明確に求められる。もう一つとして、テールモーメントを求める方法がある。図1のコメット画像1の左端がヘッドトップであり、ヘッドセンターの垂直方向にヘッドセンターの左側の画像を折り返した画像と合わせて、ヘッド領域であるヘッド画像2として、そのヘッド画像2の右端をヘッドエンドとして算出する。次にコメット画像1からヘッド画像2を除外したものをテール領域であるテール画像3とする。テール濃淡(輝度値)画像から重心を算出し、その重心位置をテールセンターとする。テール領域の右端をテールエンドとして求める。
【0060】
また、ヘッド画像2の面積、テール画像3の面積も求めることで、各コメットアッセイ評価指標を算出することができる。評価指標算出手段14は、例えば、DNAの移動距離として、テールセンターとヘッドセンターの距離の算出や、テールの部分の面積をA、ヘッドの面積をBとしたときに、レシオは、A/(A+B)の計算式で求める。さらに、上記DNAの移動距離Cを用いて、コメットアッセイ法でのDNAの損傷の度合いを表す1つの指標であるテールモーメントは、レシオ×Cの計算式で求めることができる。1つの細胞のコメット画像1と判断した画像に対して、上記以外のコメットアッセイ評価指標についても算出することができる。評価指標算出手段14は上記計算式などがプログラムされたマイコンなどがある。
【0061】
図4に示したフローおよび上述した内容は、市販や公知のプログラムなどを用いて、簡単に処理を行うことができる。2値化処理、形状特徴量、濃淡から重心を算出する方法などの一つ一つの処理は、従来の画像処理のプログラムなどを用いることで実施できるので、例えば、ビジュアルベーシックなどを使用して簡単にプログラムを作成することができる。このプログラムを用いて、画像の取り込み、コメット画像1の判断から各コメットアッセイ評価指標の算出および各指標の平均値の算出・表示や実験条件なども入力できるようにすれば、変化量(例えば照射線量)に対する各指標などをグラフ化して表示させたりすることも可能である。したがって、プログラムを作成すれば、標本を撮影した画像があれば、その画像の取り込みから各コメットアッセイ評価指標の表示まで自動的にかつ短時間で行うことができる。従来は、1つの細胞のコメット画像1であるか否かを得られたコメット画像1毎に1つ1つ目視で判断して、1つのコメット画像1と判断した画像を切り取り、その画像毎にコメットアッセイ評価指標を求めていたために、この1つの細胞のコメット画像1と判断する部分で、非常に多くの労力と時間がかかっており、かつ疲労や個人差などにより、精度を欠いていたが、形状特徴量などのパラメータや設定値を決めることで、個人差もなく、より正確なコメットアッセイ評価指標を短時間で求めることができる。
【0062】
なお、コメット画像1の形状、大きさなどに応じて、形状特徴量の選定、各設定値の設定などは、個々に合わせて選定、設定をすれば良く、実験条件が一定であれば、同じようなコメット画像1を得られるので、実験条件によって、どの形状特徴量を選定するのか、あるいは組合せ方法、および設定値など適宜選択、選定し、その条件を決めておくことで、実験条件によって得られたコメット画像1の解析の方法も決めておくことができ、より簡便に自動的にコメットアッセイ評価を行うことができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0064】
図5に本発明のコメットアッセイ解析装置を示す。光源15から蛍光染色試薬の励起波長に対応した波長を照射するために、励起光分光フィルタ16で分光する。検査台17の台座18の上には、コメットアッセイ法で作成され、蛍光染色試薬で染色された標本19が設置されている。光源15から照射された光は、プリズム20を経て、この標本19へ照射される。この標本19の染色されたDNAは、蛍光を発する。蛍光発光した光は、レンズ21で集光され、再びプリズム20を経て、受光分光フィルタ22で目的の波長のみが光電変換素子23に受光され、画像が撮影部24で撮影される。撮影部24は通常CCDカメラが使用される。撮影部24では、標本の染色されたDNAの蛍光発光した画像が撮影され、パソコン25に画像として保存される。また、パソコン25には、実施形態2で記述したコメットアッセイ画像解析装置であるプログラムも保存されており、撮影された画像は、パソコン25のコメットアッセイ画像解析プログラムで1つの細胞のコメット画像1と判断されたものに対して、各コメットアッセイ評価指標を算出し、パソコン25のディスプレイに表示される。
【0065】
上記コメットアッセイ解析装置を用いて、コメットアッセイ評価を行った。細胞は、マウス由来のリンパ腫株化細胞を用いた。アガロースゲルをリン酸緩衝液で加熱溶解し、フィルム状の支持体の上に適量引き伸ばし馴染ませた。乾燥後、アガロースゲルを100μl滴下して、直ちにカバーガラスを載せることで引き伸ばし、室温で固化させた。固化後、カバーガラスを引き剥がし、乾燥させた。その上に、細胞懸濁液とアガロースゲルを1:1で混合したものを60μl滴下して、直ちにカバーガラスを載せ、同様に広げ、固化させた。固化した後、カバーガラスを引き剥がし、乾燥する前にアガロールゲルを100μl滴下して、カバーガラスを載せ、固化させた。このようにして、細胞をアガロースゲルに封入した検体を複数用意した。このアガロースゲルに封入された状態で、X線を照射した。照射にあたっては、カバーガラスを剥がし、2〜10Gy線量を任意に変化させ、照射線量毎のサンプルを作成した。その後、サンプルをAlkaline Lysis Solutionに漬け込み、細胞膜および核膜を溶解させた。次に、サンプルを電気泳動槽の電気泳動用バッファーに浸るように入れ、0.5V/cmで25分間定電圧で電気泳動を行った。電気泳動後、サンプルを引き上げ、中和液に浸して、中和した。このサンプルを次に蛍光染色試薬で染色した。蛍光染色液は、DNAあるいはRNAを染色する核酸染色用の蛍光染色試薬として、各種市販されており、研究目的に応じて適宜選択することが可能である。一般的にはエチジウムブロマイドが用いられているが、2本鎖のDNAと特異的に反応する試薬として、ピコグリーンなどがあり、1本鎖に特異的に染色する試薬として、Hoechist33342などがある。また、各励起波長毎に各種蛍光染色試薬も市販されている。Hoechist33342は、励起光がUV、蛍光がブルーで、ピコグリーンは、励起光がブルー、蛍光がグリーンである。本実施例では、蛍光染色試薬として、Hoechist33342とピコグリーンの両方を用いて実施した。Hoechist33342は5μg/mlになるように希釈し、ピコグリーンは原液を中和液で200倍に希釈し、Hoechist33342希釈液あるいはピコグリーン希釈液は、各々20μlをサンプル上に滴下して、その上にフィルムを載せ、試薬を全面に広がるようにして20分間静置して染色させた。以上のようにして、コメットアッセイの標本19を作成した。
【0066】
この標本19を台座18の上に載せ、Hoechist33342で染色した標本19には、UVを照射して、ブルーで蛍光した画像を撮影部24で撮影し、測定した画像をパソコン25に保存した。また、ピコグリーンで染色した標本19は、ブルー光を照射して、グリーンで蛍光した画像を撮影部24で撮影し、測定した画像をパソコン25に保存した。その測定した画像の一例を図6に示す。Hoechist33342で染色した画像は、UVの照射によって、アガロースゲルも若干ではあるが発光し、コメット画像1の周りの背景が白っぽくなっている。ピコグリーンで染色した画像は、アガロースゲルの発光がなく、コメット画像1もより鮮明な画像として得ることができた。この理由としては、コメットアッセイ時に用いるアガロースゲルが、UVを照射したときに自家蛍光をしやすく、ブルー光のときは、自家蛍光しにくい点が挙げられる。また、ピコグリーンは、2本鎖DNAに特異的に反応して染色することに対して、Hoechist33342は、1本鎖のDNAにも反応するため、断片化したDNAにも反応することが考えられ、背景が発光しやすい要因にもなっている。したがって、コメットアッセイ解析装置としては、2本鎖のDNAと反応する蛍光染色試薬と、励起波長はブルー光である400nm以上の長い波長で励起する蛍光染色試薬を用いることで、より鮮明なコメット画像1を得ることができる。コメット画像1は、鮮明であればあるほどよりバラツキが少なく、正確なコメットアッセイ評価指標を得ることができる。
【0067】
ピコグリーンで染色したサンプルの撮影画像を実施の形態2で示した処理(プログラム)を用いて、コメットアッセイ評価指標を求めた。具体的には、得られたコメット画像1の外接長方形を求め、その長方形とコメット画像1の面積比から、1つの細胞のコメット画像1と認識し、その画像についてコメットアッセイ評価指標を算出した。各画像について、面積比を算出した結果、放射線を照射しないサンプルの場合は面積比を0.727〜0.851のものを、放射線量10Gyの場合は面積比を0.667〜0.795と1つの細胞のコメット画像1であると設定した。また、重なり合ったコメット画像1と判断できた画像の面積比は、0.598〜0.601であり、0.667よりも小さい値は、重なり合った画像と判断できる。その後、1つの細胞のコメット画像1と判断したものについて、コメットアッセイ評価指標として、テールモーメントを算出した。その結果を図7に示す。各点(●)は1つの細胞のコメット画像1と判断した100個から求めた値の平均値で、その上下に標準誤差を示す。この標準誤差は、目視で判断して指標を求めた場合よりも非常に小さくより正確な値を求めることができた。目視で実施する場合には、個人差が当然あり、また、100個のコメット画像1を得るためには、その倍以上のコメット画像1を目視でひとつひとつ判断していくために、その労力と時間は非常に多大であり、かつ長時間に渡ると疲れてきて、結果的にバラツキの大きい結果を得ることになる。この処理は、画像さえ撮影すれば、その後の処理は自動的にかつ10〜20分の短時間でコメットアッセイ指標まで算出することができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
定量的に評価するコメットアッセイ解析方法およびコメットアッセイ画像解析装置およびコメットアッセイ解析装置により、遺伝毒性作用や薬物、環境汚染物質などのDNAに対する作用を評価することができ、医薬品や食品衛生分野でDNAに対する作用の定量的評価の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態1のコメット画像を示す図
【図2】同コメット画像例を示す図
【図3】同コメット画像の断面での各位置(長さ)毎の輝度値を示す図
【図4】同実施の形態2のコメット画像判断工程の処理フローを示す図
【図5】本発明の実施例のコメットアッセイ解析装置を示す図
【図6】同画像の一例を示す図
【図7】同テールモーメントを算出した結果を示す図
【符号の説明】
【0070】
1 コメット画像
2 ヘッド画像
3 テール画像
4 外接長方形
5 高輝度部分
6 コメット画像判断工程
7 コメット画像判断手段
8 面積比判断工程
9 高輝度判断工程
10 ヘッド画像抽出手段
11 ヘッド重心算出手段
12 テール画像抽出手段
13 テール重心算出手段
14 評価指標算出手段
15 光源
16 励起光分光フィルタ
17 検査台
18 台座
19 標本
20 プリズム
21 レンズ
22 受光分光フィルタ
23 光電変換素子
24 撮影部
25 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コメットアッセイ法によって作成した標本の画像から、DNA損傷の度合いを評価するための各評価指標を算出するコメットアッセイ解析方法において、1つまたは複数のコメット画像を含んだ前記画像の中から1つの細胞からなるコメット画像であると判断するコメット画像判断工程を含むことを特徴としたコメットアッセイ解析方法。
【請求項2】
前記コメット画像の形状から、形状特徴量を算出して、その形状特徴量から1つの細胞のコメット画像と判断するコメット画像判断工程を備えたことを特徴とした請求項1記載のコメットアッセイ解析方法。
【請求項3】
前記コメット画像に対して外接長方形を求め、前記コメット画像の面積と前記外接長方形の面積から面積比を求め、前記面積比が所定の範囲であるときに1つの細胞のコメット画像と判断する面積比判断工程を備えたコメット画像判断工程を含むことを特徴とした請求項1、2いずれか記載のコメットアッセイ解析方法。
【請求項4】
前記コメット画像の相対的な高輝度部分を求め、その高輝度部分の個数および/または形状特徴量から1つの細胞のコメット画像と判断する高輝度判断工程を備えたコメット画像判断工程を含むことを特徴とした請求項1記載のコメットアッセイ解析方法。
【請求項5】
請求項3記載の面積比判断工程と請求項4記載の高輝度判断工程の両方を備えたコメット画像判断工程を含むことを特徴とした請求項1、2いずれか記載のコメットアッセイ解析方法。
【請求項6】
コメットアッセイ法によって作成した標本の画像から、DNA損傷の度合いを評価するための各評価指標を算出するコメット画像のコメットアッセイ画像解析装置において、請求項1記載のコメット画像判断手段によって1つの細胞と判断したコメット画像に対して、元の核の部分であるヘッド画像を抽出するヘッド画像抽出手段と損傷を受けて流れたDNAの部分であるテール画像を抽出するテール画像抽出手段と抽出したヘッド画像の画像の濃淡から重心を算出するヘッド重心算出手段と抽出したテール画像の濃淡から重心を算出するテール重心算出手段と算出したヘッド画像の重心とテール画像の重心からコメットアッセイの各評価指標を算出する評価指標算出手段とを備えたコメットアッセイ画像解析装置。
【請求項7】
請求項1記載のコメットアッセイ解析方法を行うための装置であって、コメットアッセイ法で作成した標本を蛍光染色試薬で染色し、前記蛍光染色試薬の励起波長に対応した光源と、前記蛍光染色試薬の蛍光波長に対応した光を受光する撮影部と、前記コメット画像判断手段と前記ヘッド画像抽出手段と前記テール画像抽出手段と前記ヘッド重心算出手段と前記テール重心算出手段と前記評価指標算出手段とを備えた画像処理部とを備えたコメットアッセイ解析装置。
【請求項8】
前記コメット画像判断手段が面積比判断手段および/または高輝度判断手段であることを特徴とした請求項7記載のコメットアッセイ解析装置。
【請求項9】
前記面積比判断手段および/または前記高輝度判断手段において、面積比および/または高輝度部分の輝度値および/または形状特徴量の設定を任意に可変できることを特徴とした請求項8記載のコメットアッセイ解析装置。
【請求項10】
2本鎖DNAと反応して蛍光発光する蛍光染色試薬とした請求項7〜9いずれか記載のコメットアッセイ解析装置。
【請求項11】
400nm以上の励起波長に対応した前記蛍光染色試薬と光源であることを特徴とした請求項7〜10いずれか記載のコメットアッセイ解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−24612(P2007−24612A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205181(P2005−205181)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000006242)松下エコシステムズ株式会社 (36)
【出願人】(503096591)学校法人酪農学園 (13)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】