説明

コメ油脱臭スカム中の不ケン化物の濃縮方法

【課題】コメ油脱臭スカム中の不ケン化物を、不ケン化物中の有用成分を劣化させることなく、しかも食品素材、化粧品原料等として安全に使用できる不ケン化物の濃縮物が得られる方法を提供すること。
【解決手段】コメ油脱臭スカムから、不ケン化物を、亜臨界流体又は超臨界流体を用いて、シリカゲルの存在下に抽出することを特徴とするコメ油脱臭スカム中の不ケン化物の濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コメ油脱臭スカム中の不ケン化物の濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コメ油は、米糠から、ヘキサン抽出又は圧搾抽出することによって得られる粗コメ油を、脱ガム、脱蝋、脱酸、脱色、脱臭することによって得られる。
【0003】
この最終脱臭工程で副生成物として多量に発生する脱臭スカムは、脂肪酸等のケン化物と脂溶性成分等の不ケン化物とを主に含んでおり、この不ケン化物は、ビタミンE類、植物ステロール、スクアレン等の機能性食品素材、化粧品原料等として有用な成分を含んでいるが、それらの含有量が低いため、その利用が困難である。従って、この不ケン化物中の有用成分を有効に利用するためには、不ケン化物を濃縮することが必要である。
【0004】
従来、コメ油脱臭スカムからの不ケン化物の濃縮方法としては、有機溶剤中でアルカリ処理を行った後、ケン化された脂肪酸部分を除去し、次いで蒸留により有機溶媒を除去する方法が公知である(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、蒸留時に有用成分が高温にさらされるため、該成分の熱による劣化が懸念される。また、有機溶剤が濃縮された不ケン化物中に残留する危険性があり、更に食品素材として利用する場合には、使用できる有機溶剤が制限される。
【特許文献1】特開2005−255746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コメ油脱臭スカム中の不ケン化物を、不ケン化物中の有用成分を劣化させることなく、しかも食品素材、化粧品原料等として安全に使用できる不ケン化物の濃縮物が得られる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、コメ油脱臭スカム中から、亜臨界流体又は超臨界流体を用いて有用成分を含む不ケン化物を抽出することによって、低温で抽出できるので、有用成分の劣化が起こらないこと、亜臨界流体又は超臨界流体が二酸化炭素である場合には、不活性ガスであるため有用成分の酸化や変質が起こり難く、又抽出物中に残存したりせず、安全性にも問題がないこと等を見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、完成されたものである。
【0007】
本発明は、以下に示す、コメ油脱臭スカム中の不ケン化物の濃縮方法を提供する。
【0008】
1.コメ油脱臭スカムから、不ケン化物を、亜臨界流体又は超臨界流体を用いて、シリカゲルの存在下に抽出することを特徴とするコメ油脱臭スカム中の不ケン化物の濃縮方法。
【0009】
2.亜臨界流体又は超臨界流体が、二酸化炭素である上記項1に記載の濃縮方法。
【0010】
3.シリカゲルの存在量が、コメ油脱臭スカムの仕込み量の1〜10倍重量である上記項1に記載の濃縮方法。
【0011】
4.シリカゲル存在下での抽出操作を複数回行う上記項1に記載の濃縮方法。
【0012】
5.不ケン化物を抽出する前に、脱臭スカムをアルカリ処理しておく上記項1に記載の濃縮方法。
【0013】
本発明方法は、コメ油脱臭スカム中に含まれる脂溶性成分等の不ケン化物を、亜臨界流体又は超臨界流体で抽出することにより、該脱臭スカム中の脂肪酸、トリグリセリド等を除去し、食品素材や化粧品原料として利用価値が高いビタミンE類、植物ステロール、スクアレン等の有用成分を含む不ケン化物を劣化させずに濃縮するものである。
【0014】
本発明方法において、原料として用いるコメ油脱臭スカムは、通常、20〜50重量%程度の脂肪酸を含有している。また、脂肪酸以外に、トコフェロールやトコトリエノールの混合物であるビタミンE類;植物ステロール、スクアレン、トリグリセリド等を多く含んでいる。また、コメ油脱臭スカムは、米糠から抽出された粗コメ油を精製する際の条件にもよるが、通常、酸価が40〜100程度であり、ケン化価が80〜140程度である。
【0015】
トコフェロール及びトコトリエノールのビタミンE類は、α、β、γ、δの4種類があり、α−トコフェロールは人体内で抗酸化作用を担う重要な成分である。また、最近、トコトリエノールの抗腫瘍効果や心臓の機能に対する効果が確認され注目されている。
【0016】
また、脱臭スカム中に含まれる植物ステロールには、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール等があり、これら以外にトリテルペンアルコールとしてシクロアルテノールや24−メチレンシクロアルテノールなどが含まれている。
【0017】
本発明方法における原料として用いるコメ油脱臭スカムは、亜臨界流体又は超臨界流体で、不ケン化物を抽出する前に、必要に応じて、該スカムをアルカリ処理することによって、脂肪酸を水溶性の石鹸にして分離除去しておいてもよい。これによって、亜臨界流体又は超臨界流体による不ケン化物の抽出による濃縮をより効率良く行うことが出来る。
【0018】
本発明においては、コメ油脱臭スカムから、不ケン化物を、シリカゲル存在下で、亜臨界流体又は超臨界流体で抽出することを必須とする。超臨界流体は、状態図で温度、圧力、エントロピー線図の臨界点より少し上の温度・圧力下にある状態の流体を意味する。また、亜臨界流体は、臨界点近傍乃至臨界点より少し下の温度・圧力下にある状態の流体を意味する。
【0019】
本発明において使用することができる亜臨界流体又は超臨界流体としては、限定されるものではないが、二酸化炭素を用いることが、不ケン化物の抽出温度を低くできるので有用成分を劣化させないこと、不活性ガスであるため有用成分を酸化、変質させないこと、安全性が高いこと等の点から、特に好ましい。亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素としては、圧力が70〜220kg/cm程度で、温度が25〜50℃程度であることが、好ましく、圧力が100〜140kg/cm程度で、温度が30〜40℃程度であることが、より好ましい。
【0020】
本発明において、コメ油脱臭スカムから、不ケン化物を、亜臨界流体又は超臨界流体を用いて抽出する場合、先ず、コメ油脱臭スカムとシリカゲルとを、均一になるまで混合する。シリカゲルの使用量としては、コメ油脱臭スカム仕込み量の1〜10倍重量程度とするのが好ましく、2〜5倍重量程度とするのがより好ましい。シリカゲルとしては、粉末状のシリカゲルを、活性化してから使用するのが好ましい。シリカゲルの活性化は、通常、110〜140℃程度の温度で、1〜5時間程度加熱することにより、行うことができる。シリカゲルとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、「シリカゲル60」(商品名、メルク社製、粒径0.063〜0.200mm)等を挙げることができる。
【0021】
上記で得たコメ油脱臭スカムとシリカゲルとの混合物を、例えば、円筒形状のステンレス製耐圧抽出容器に入れる。この抽出容器には、亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素等の流体を導入するためのステンレス製チューブと抽出後の抽出物を含む該流体を排出するためのステンレス製チューブとを取り付けておく。
【0022】
次に、該抽出容器を一定温度に保ったオーブンに入れ、ボンベから冷却器を通して二酸化炭素等を−7.5℃程度まで冷却して液化させ、加圧ポンプを用い、上記導入用チューブを通して圧送し、該抽出容器内の圧力を高め、二酸化炭素等を亜臨界又は超臨界状態とし、コメ油脱臭スカムとシリカゲルの混合物に接触させ、該スカム中の不ケン化物を抽出する。亜臨界又は超臨界状態となった二酸化炭素等の流体の使用量は、通常、上記混合物中のコメ油脱臭スカム1g当たり、35〜3300mL程度であるのが好ましい。
【0023】
抽出物の取り出しは、上記排出用チューブに取り付けた自動圧力制御弁を用いて、設定圧力に達したときに、抽出物を含む二酸化炭素等の流体を排出させることにより、行うことが出来る。
【0024】
この様にして、二酸化炭素等の流体の導入と、抽出物を含む該流体の排出とを、連続的に行うことが出来る。排出された抽出物を含む該流体は、流体が二酸化炭素である場合は、容易に、無害の二酸化炭素ガスとなって、放出され、抽出物のみを容易に得ることができる。
【0025】
上記の一連の抽出操作は、例えば、超臨界クロマトグラフィー装置を利用して、行うことも出来る。
【0026】
本発明方法においては、コメ油脱臭スカムから、不ケン化物を、シリカゲル存在下で、超臨界流体で抽出することにより、脂肪酸等の極性物質がシリカゲルに吸着除去され、且つ抽出容器内に留まるために、有用成分を効率よく濃縮することができる。
【0027】
また、本発明方法においては、シリカゲル存在下での抽出操作は、1回でも複数回でもよい。抽出操作を複数回行う場合には、不ケン化物を更に効率よく濃縮できるという利点が得られる。抽出操作の回数としては、1〜5回程度であるのが好ましく、1回又は2回であるのがより好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のコメ油脱臭スカム中の不ケン化物濃縮方法によれば、次のような顕著な効果が奏される。
【0029】
(1)コメ油脱臭スカム中から、亜臨界流体又は超臨界流体を用いて、ビタミンE類、植物ステロール、スクアレン等の有用成分を含む不ケン化物を、劣化させることなく、容易に濃縮することができる。
【0030】
(2)特に、亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素を用いて、不ケン化物を抽出する場合には、25〜50℃程度という低温で抽出でき、有用成分の熱劣化が起こらない。二酸化炭素は不活性ガスであるため有用成分の酸化や変質が起こり難い。二酸化炭素は、大気圧下では気体状態であるため、得られた濃縮物の中に残存しない。二酸化炭素は、無味無臭で毒性が無く、不燃性で安全なガスであるので、得られた濃縮物を食品にも利用可能である。
【0031】
(3)更に、コメ油脱臭スカム中にシリカゲルを混合させてから亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素等で抽出を行うと、除去したい油脂類(特に脂肪酸)がシリカゲルに吸着し、かつ抽出容器内に留まるため、有用成分を含む不ケン化物を効率良く濃縮する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより一層具体的に説明する。
【0033】
各実施例及び比較例において、原料のコメ油脱臭スカムとしては、スクアレン含有率8.5重量%、脂肪酸含有率36.5重量%のものを用いた。このスクアレン含有率は、濃縮の程度の指標とした。また、シリカゲルとしては、130℃で3時間活性化処理したシリカゲル(商品名「シリカゲル60」、メルク社製、粒径0.063〜0.200mm)を用いた。
【0034】
また、各実施例及び比較例において、一連の抽出操作は、超臨界クロマトグラフィー装置(商品名「SUPER-200」、日本分光(株)製)を用いて、行った。
【0035】
実施例1
コメ油脱臭スカム6g及びその3倍重量のシリカゲル18gを、ガラスビーカーに入れ、均一になるまで混ぜ合わせた。
【0036】
このコメ油脱臭スカムとシリカゲルとの混合物を、二酸化炭素流体を導入するためのステンレス製チューブと抽出後の抽出物を含む該流体を排出するステンレス製チューブとを取り付けた円筒形状の容量50mLのステンレス製耐圧抽出容器に入れた。この抽出容器を30℃に保ったオーブンに入れ、ボンベから冷却器を通して二酸化炭素を−7.5℃程度まで冷却して液化させ、加圧ポンプを用い、上記導入用チューブを通して圧送し、該抽出容器内の圧力を100kg/cm迄高めて亜臨界状態となった二酸化炭素流体を、コメ油脱臭スカムとシリカゲルの混合物に接触させることにより、該スカム中の不ケン化物を抽出した。抽出は、亜臨界状態の二酸化炭素流体の流速7mL/minで5時間行った。上記排出用チューブに取り付けた自動圧力制御弁から、抽出物を含む二酸化炭素流体を排出させ、二酸化炭素ガスを放出させて、不ケン化物の濃縮物1.08gを得た。
【0037】
得られた不ケン化物の濃縮物におけるスクアレン含有率は、49.9重量%であった。
【0038】
実施例2
コメ油脱臭スカム6g及びその3倍重量のシリカゲル18gを、ガラスビーカーに入れ、均一になるまで混ぜ合わせた。
【0039】
このコメ油脱臭スカムとシリカゲルとの混合物を、実施例1と同様の抽出容器に入れた。以下、実施例1と同様にして、該混合物から不ケン化物を抽出し、不ケン化物の濃縮物1.07gを得た。
【0040】
上記で得られた濃縮物1.07g及びその3倍重量のシリカゲル3.21gを、ガラスビーカーに入れ、均一になるまで混ぜ合わせた。この濃縮物とシリカゲルとの混合物を、実施例1と同様の抽出容器に入れた。この抽出容器を30℃に保ったオーブンに入れ、ボンベから冷却器を通して二酸化炭素を−7.5℃程度まで冷却して液化させ、加圧ポンプを用い、上記導入用チューブを通して圧送し、該抽出容器内の圧力を100kg/cm迄高めて亜臨界状態となった二酸化炭素流体を、上記混合物に接触させることにより、該濃縮物中の不ケン化物を抽出した。抽出は、亜臨界状態の二酸化炭素流体の流速7mL/minで5時間行った。上記排出用チューブに取り付けた自動圧力制御弁から、抽出物を含む二酸化炭素流体を排出させ、二酸化炭素ガスを放出させて、不ケン化物の濃縮物0.44gを得た。
【0041】
得られた不ケン化物の濃縮物におけるスクアレン含有率は、68.3重量%であった。
【0042】
実施例3
実施例1において、シリカゲルの使用量をコメ油脱臭スカム6gの2倍重量のシリカゲル12gとした以外は、実施例1と同様にして、不ケン化物の濃縮物1.95gを得た。得られた不ケン化物の濃縮物におけるスクアレン含有率は、29.3重量%であった。
【0043】
比較例1
実施例1において、抽出圧力を50kg/cmとした他は、実施例1と同様にして、コメ油脱臭スカムから、二酸化炭素による不ケン化物の抽出を行ったが、不ケン化物の濃縮物は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コメ油脱臭スカムから、不ケン化物を、亜臨界流体又は超臨界流体を用いて、シリカゲルの存在下に抽出することを特徴とするコメ油脱臭スカム中の不ケン化物の濃縮方法。
【請求項2】
亜臨界流体又は超臨界流体が、二酸化炭素である請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項3】
シリカゲルの存在量が、コメ油脱臭スカムの仕込み量の1〜10倍重量である請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項4】
シリカゲル存在下での抽出操作を複数回行う請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項5】
不ケン化物を抽出する前に、脱臭スカムをアルカリ処理しておく請求項1に記載の濃縮方法。


【公開番号】特開2009−57513(P2009−57513A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227857(P2007−227857)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(390014557)ボーソー油脂株式会社 (4)
【Fターム(参考)】