説明

コモンモードチョークコイルおよびその製造方法

【課題】導体コイル間でのマイグレーションが効果的に防止され、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性層の比抵抗の低下の双方が効果的に防止されたコモンモードチョークを提供する。
【解決手段】第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイル(10)において、非磁性層(3)が焼結ガラスセラミックスから成り、導体コイル(2、4)が銅を含む導体から成り、第1磁性層(1)および第2磁性層(5)の少なくとも一方が、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成る。この焼結フェライト材料中、CuのCuO換算含有量5mol%以下とし、およびFeのFe換算含有量25〜47mol%かつMnのMn換算含有量1〜7.5mol%とするか、FeのFe換算含有量35〜45mol%かつMnのMn換算含有量7.5〜10mol%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンモードチョークコイルに関し、より詳細には、第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、この非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルに関する。また、本発明は、かかるコモンモードチョークコイルの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
コモンモードチョークコイルは、コモンモードノイズフィルタとも呼ばれ、各種電子機器の使用に際して発生し得るコモンモードノイズを低減し、好ましくは除去するために使用される。特に、差動伝送方式による高速データ通信においてコモンモードノイズが問題となり、コモンモードチョークコイルはかかる用途に多く利用されている。
【0003】
従来、コモンモードチョークコイルとして、第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、この非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含む構成が知られている。非磁性層の材料には、ガラスセラミックスが使用され得、これにより、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂などの樹脂を使用する場合に比べて、非磁性層の耐湿性および非磁性層を含む積層体と外部端面電極との接続強度を向上させることができる(特許文献1を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−319009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コモンモードチョークコイルにおいて、導体コイルの材料には、通常、銀が使用されている。例えば特許文献1では、導体コイルの材料に銀を使用し、非磁性層に、ガラスセラミックスを使用し、第1および第2磁性層に、Fe、NiO、ZnO、CuOを主成分として含むNi−Zn−Cu系フェライト材料を使用してグリーンシート積層体を得、これを一体焼成している(特許文献1の第0018段落、第0031段落を参照のこと)。
【0006】
しかしながら、銀は、コモンモードチョークコイルの使用状況によって、非磁性層(焼結ガラスセラミックス)中の2つの対向する導体コイル間においてマイグレーションを生じ易いという難点がある。このため、得られる非磁性層中の導体コイル間の絶縁抵抗が低下し、ひいてはコモンモードチョークコイルの信頼性が低下するという問題がある。かかる問題に対処するには、2つの対向する導体コイル間の距離を大きくとることが考えられるが、その場合には、コイル間の磁気的結合性が低下するなどして、コモンモードチョークコイルの性能が低下するという新たな難点を生じることとなる。
【0007】
そこで、銀に代えて、マイグレーションし難い銅を導体コイルの材料に使用することが考えられ得る。しかしながら、銅は、銀より酸化されやすいため、焼成工程中にCuがCuOに酸化されて、導体コイルの配線抵抗が上昇するという別の問題がある。CuがCuOに酸化されるのを防止するには、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成を実施することが考えられ得る。しかしながら、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成を実施すると、今度は、Ni−Zn−Cu系フェライト材料中のCuOがCuOに還元され、また、FeがFeに還元されることとなる。CuOがCuOに還元され、FeがFeに還元されると、いずれも、焼成によって得られる磁性層の比抵抗の低下をもたらし、コモンモードチョークコイルの電気特性(コモンモードインピーダンスなど)の低下を招く恐れがある。特にFeについては、エリンガム図などから理解されるように、800℃以上の温度では、Cu−CuO平衡酸素分圧がFe−Fe平衡酸素分圧より低くなり、CuがCuOより支配的な酸素分圧範囲とFeがFeより支配的な酸素分圧範囲とはオーバーラップしない。そして、非磁性層を形成するためのガラスセラミックスおよび第2の磁性層を形成するためのNi−Zn−Cu系フェライト材料の焼成は、800℃未満では実施できない。従って、焼成時の酸素分圧を調整することによっては、CuのCuOへの酸化およびFeのFeへの還元の双方を同時に防止することはできず、導体コイルの配線抵抗と磁性層の比抵抗のいずれかを犠牲にせざるを得ない。
【0008】
上述の問題は、非磁性層となるガラスセラミックスを、第1磁性層および第2磁性となるNi−Zn−Cu系フェライト材料と一体焼成する場合に限らず、これらを逐次焼成する場合にも、導体コイルとなる銅が焼成工程にて高温雰囲気に曝されることは同じであるから、回避することはできない。
【0009】
本発明の目的は、非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用しつつも、導体コイル間でのマイグレーションが効果的に防止され、信頼性の高いコモンモードチョークコイルであって、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性層の比抵抗の低下の双方が効果的に防止されたコモンモードチョークを提供することにある。また、本発明の更なる目的は、かかるコモンモードチョークコイルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの要旨によれば、第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、該非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルであって、
非磁性層が焼結ガラスセラミックスから成り、
導体コイルが銅を含む導体から成り、
第1磁性層および第2磁性層の少なくとも一方(以下、本明細書において説明を簡素化するために第2磁性層とする)が、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成り、
該焼結フェライト材料において、
CuのCuO換算含有量が5mol%以下であり、および
FeのFe換算含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMnのMn換算含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、FeのFe換算含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMnのMn換算含有量が7.5mol%以上10mol%以下である、コモンモードチョークコイルが提供される。
なお、本発明において、「第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層されている」とは、単に、これらの層の相対的な上下関係を言うものとして理解されるべきである。
【0011】
本発明のコモンモードチョークコイルにおいては、非磁性層が焼結ガラスセラミックスから成り、導体コイルが銅を含む導体から成っている。換言すれば、非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用しつつも、導体コイルの材料に銅を使用しているので、導体コイルの材料に銀を使用した場合に比べて、導体コイル間でのマイグレーションを効果的に防止することができ、よって、信頼性の高いコモンモードチョークコイルが提供される。
【0012】
本発明のコモンモードチョークコイルでは、その製造方法において後述するように、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成することにより、導体コイルの材料に使用したCuがCuOに酸化されることを防止でき、導体コイルの配線抵抗の上昇を防止することができる。
【0013】
更に、本発明のコモンモードチョークコイルにおいては、第1磁性層および第2磁性層の少なくとも一方が、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成り、この焼結フェライト材料におけるCuのCuO換算含有量を5mol%以下(ゼロmol%を除く)としている。このように、CuのCuO換算含有量を5mol%以下の低含有量とすることにより、フェライト材料が焼結される際の耐還元性が高まり、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成しても、CuOがCuOに還元されることによる磁性層の比抵抗の低下を許容可能な範囲に抑えることができる。
【0014】
また更に、本発明のコモンモードチョークコイルにおいては、上記焼結フェライト材料において、FeのFe換算含有量を25mol%以上47mol%以下とし、かつMnのMn換算含有量を1mol%以上7.5mol%未満とするか、FeのFe換算含有量を35mol%以上45mol%以下とし、かつMnのMn換算含有量を7.5mol%以上10mol%以下としている。このように、FeをMnと共存させて、FeのFe換算含有量をMnのMn換算含有量と組み合わせて各範囲を上記の通り選択することにより、フェライト材料の焼結時にFeがFe(FeO・Fe)に還元されることを効果的に回避でき、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成しても、FeがFeに還元されることによる磁性層の比抵抗の低下を防止することができる。
【0015】
要するに、本発明のコモンモードチョークコイルによれば、非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用しつつも、導体コイル間でのマイグレーションを効果的に防止することができ、かつ、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性層の比抵抗の低下の双方を効果的に防止することができる。
【0016】
なお、磁性層の成分は、コモンモードチョークコイルを破断し、磁性層の破断面を波長分散型X線分析法(WDX法)で定量分析することにより確認できる。CuのCuO換算含有量は、磁性層中のCuの全てがCuOの形態であると仮定して、CuをCuOに換算した場合のCuO含有量を意味し、具体的には、磁性層中のCuを上記WDX法で定量分析することにより調べられる。その他の「・・・換算含有量」の表現も同様である。
【0017】
本発明の1つの態様において、非磁性層中に配置された2つの導体コイルのコイル内部を通って、第1磁性層と第2磁性層とが接続されていてよい。かかる態様によれば、コイル間の磁気的結合性を高めることができ、コモンモードインピーダンスがより高いコモンモードチョークコイルを提供することができる。
【0018】
本発明のもう1つの要旨によれば、第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、該非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルの製造方法であって、
銅を含む導体により上記導体コイルを形成すること、
銅を含む導体の存在下にて、ガラスセラミックスをCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、上記非磁性層を少なくとも部分的に形成すること、
Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、
CuO含有量が5mol%以下であり、および
Fe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料を用いて、銅を含む導体の存在下にて、該フェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、上記第2磁性層を形成すること
を含む製造方法もまた提供される。
【0019】
本発明の上記製造方法によれば、導体コイルの材料に銅を使用しているので、導体コイルの材料に銀を使用した場合に比べて、導体コイル間でのマイグレーションを効果的に防止することができ、よって、信頼性の高いコモンモードチョークコイルが提供される。
【0020】
本発明の上記製造方法によれば、銅を含む導体の存在下にて、ガラスセラミックスをCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、非磁性層を少なくとも部分的に形成しているので、導体コイルの材料に使用したCuがCuOに酸化されることを防止でき、導体コイルの配線抵抗の上昇を防止することができる。
【0021】
更に、本発明の上記製造方法によれば、銅を含む導体の存在下にて、Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、第2磁性層を形成しており、このフェライト材料におけるCuO含有量を5mol%以下(ゼロmol%を除く)としているので、CuOがCuOに還元されることによる磁性層の比抵抗の低下を許容可能な範囲に抑えることができる。一般的に、CuOは他の主成分に比較して低融点であることから、CuO含有量を5mol%以下とすると、通常実施されている大気雰囲気での焼成の場合、焼成温度を1050〜1250℃程度に上げないと、焼結性(または焼結密度)の高い焼結体を得ることはできない。これに対して、本発明の上記製造方法によれば、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成しているので、Cuの融点以下の温度、例えば950〜1000℃で、焼結性の高い焼結体を得ることができる。
【0022】
また更に、本発明の上記製造方法によれば、銅を含む導体の存在下にて、Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、第2磁性層を形成しており、上記フェライト材料において、Fe含有量を25mol%以上47mol%以下とし、かつMn含有量を1mol%以上7.5mol%未満とするか、Fe含有量を35mol%以上45mol%以下とし、かつMn含有量を7.5mol%以上10mol%以下としているので、FeがFeに還元されることによる磁性層の比抵抗の低下を防止することができる。
【0023】
本発明の1つの態様において、上記第1磁性層として、焼結フェライト材料を使用してよい。かかる態様において、焼結フェライト材料は、任意のフェライト材料を用いて、任意の適切な条件下にて予め焼成されたものであってよい。
【0024】
本発明のもう1つの態様において、本発明の上記方法は、
Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、
CuO含有量が5mol%以下であり、および
Fe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料を用いて、銅を含む導体の存在下にて、該フェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、上記第1磁性層を形成することを更に含み、
上記非磁性層を形成するための焼成、上記第2磁性層を形成するための焼成、および上記第1磁性層を形成するための焼成を同時に実施するものであってよい。かかる態様によれば、第2磁性層を形成するための焼成および第1磁性層を形成するための焼成をいずれも低温で実現できる。しかも、かかる態様においては、これらの焼成を非磁性層を形成するための焼成と同時に実施しているので、導体コイルの材料に使用したCuがCuOに酸化されることを一層抑制することができ、その結果、導体コイルの配線抵抗の上昇を一層効果的に防止することができる。また、本発明の上記態様によれば、第2磁性層および第1磁性層の比抵抗および焼結密度を高く維持できるので、得られるコモンモードチョークコイルの絶縁抵抗および信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用しつつも、導体コイル間でのマイグレーションが効果的に防止され、信頼性の高いコモンモードチョークコイルであって、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性層の比抵抗の低下の双方が効果的に防止されたコモンモードチョークを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の1つの実施形態におけるコモンモードチョークコイルを示す図であって、(a)はコモンモードチョークコイルの概略斜視図、(b)は、(a)のX−X’線に沿って見たコモンモードチョークコイルの概略断面図である。
【図2】図1の実施形態におけるコモンモードチョークコイルの概略分解斜視図であって、外部電極を省略した図である。
【図3】Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料におけるFe含有量(mol%)およびMn含有量(mol%)を示すグラフである。
【図4】図1の実施形態の改変例におけるコモンモードチョークコイルを示す図であって、図1(b)に対応する図である。
【図5】磁性層の比抵抗を測定するための試料として作製した積層コンデンサの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のコモンモードチョークコイルおよびその製造方法について、以下、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
(実施形態1)
図1〜2に示すように、本実施形態のコモンモードチョークコイル10は、第1磁性層1ならびにその上に順次積層された非磁性層3および第2磁性層5より構成される積層体7を含んで成る。非磁性層3の内部には、2つの導体コイル2、4が対向するように埋設される。積層体7の周囲には外部電極9a〜9dが設けられ得、導体コイル2の両端は外部電極9a、9cに、導体コイル4の両端は外部電極9b、9dにそれぞれ接続され得る。
【0029】
本発明を限定するものではないが、より詳細には、非磁性層3は、焼結ガラスセラミックスの非磁性サブ層3a〜3eから構成され得る(図1(b))。また、導体コイル2は、引出し部2aおよび本体部2bから構成され、引出し部2aおよび本体部2bは、非磁性サブ層3bのビア6aを通じて一体的に形成されている。導体コイル4は、引出し部4aおよび本体部4bから構成され、引出し部4aおよび本体部4bは、非磁性サブ層3dのビア6bを通じて一体的に形成されている。各本体部2bおよび4bは渦巻状の形状を有し(図2)、非磁性サブ層3cを間に挟んで対向配置されており、引出し部2aは、非磁性サブ層3aにより第1磁性層1から離間して配置されており、引出し部4aは、非磁性サブ層3eにより第2磁性層5から離間して配置されている(図1(b))。但し、本実施形態の導体コイル2、4の構成、形状、巻回数および配置等は、図示する例に限定されないことに留意されたい。
【0030】
本実施形態において、コモンモードチョークコイル10は、以下のようにして製造される。本実施形態の製造方法は、概略的には、第1磁性層1に焼結フェライト材料を使用し、非磁性サブ層3a〜3eを各層毎に焼成により形成して非磁性層3を得た後、その上に第2磁性層5を焼成により形成するものである(非磁性層および第2磁性層の個別逐次焼成)。
【0031】
(a)第1磁性層の準備
まず、第1磁性層1として、焼結フェライト材料から成る磁性基板を準備する。焼結フェライト材料から成る磁性基板は、所定のインダクタンスを得ることができる限り、任意の適切なフェライト材料を焼結したものであってよい。フェライト材料には、例えば、FeおよびNiOを主成分として含むNi系フェライト材料、Fe、NiOおよびZnOを主成分として含むNi−Zn系フェライト材料、Fe、NiO、ZnOおよびCuOを主成分として含むNi−Zn−Cu系フェライト材料などを使用してよい。かかる磁性基板は、フェライト材料を焼結したものから所望の形状に切り出したものであってよいが、これに限定されない。
【0032】
(b)非磁性サブ層3aの形成
次に、第1磁性層1上にガラスセラミックスを積層し、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3aを形成する。原料のガラスセラミックスには、感光性または非感光性のガラスセラミックスを使用してよいが、非磁性サブ層3bと同じ(感光性の)ガラスセラミックスを使用することが好ましい。例えば、ガラスセラミックスには、ホウケイ酸ガラス(二酸化ケイ素を主成分として含み、更にホウ酸および必要に応じて他の化合物を含むガラス)、無ホウケイ酸ガラス(二酸化ケイ素を主成分として含み、ホウ酸を含まず、必要に応じて他の化合物を含むガラス)などを使用してよい。第1磁性層1上へのガラスセラミックスの積層は、ガラスセラミックスを任意の適切な他の絶縁性成分と一緒にペースト状にしたもの(以下、単にガラスペーストと言う)を印刷等の方法で第1磁性層1上に塗膜することや、ガラスセラミックスを任意の適切な他の絶縁性成分と一緒にグリーンシート状にしたもの(以下、単にガラスセラミックグリーンシートと言う)を第1磁性層1上に重ね合わせることによって実施できる。非磁性サブ層3aを形成するための焼成(熱処理)は、ガラスセラミックスを焼結できれば特に限定されない。この工程において、積層体には銅を含む導体は未だ存在していないので、積層体を空気中で熱処理することによりガラスセラミックスを焼成してよい。焼成温度は、ガラスの軟化点以上の温度であれば特に限定されないが、例えば800〜1000℃とし得る。
【0033】
(c)導体コイル2の引出し部2aの形成
次に、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3a上に、銅を含む導体をパターン形成して、引出し部2aを形成する。銅を含む導体は、銅を主成分として含み、場合により他の導電性成分を含むものであってよい。銅を含む導体のパターン形成は、銅(および必要に応じて他の導電性成分、以下も同様)の粉末をガラスなどと一緒にペースト状にしたものを非磁性サブ層3a上に所定のパターンでスクリーン印刷することや、銅をスパッタリング法で非磁性サブ層3a上に成膜し、フォトリソグラフィ法により所定のパターンにエッチングすることや、銅を所定のパターンに選択メッキすることによって実施できる。選択メッキは、例えばフルアディティブ法(レジストパターン形成、無電解メッキ、およびレジスト剥離による方法)や、セミアディティブ法(無電解メッキによるシード層の成膜、レジストパターン形成、電気メッキ、レジスト剥離、シード層除去による方法)などを利用できる。
【0034】
(d)非磁性サブ層3bの形成
その後、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3aおよび引出し部2a上に、上記工程(b)と同様にしてガラスセラミックスを積層する。但し、本工程においては、原料のガラスセラミックスには、感光性のガラスセラミックスを使用し、この層にビア6aをフォトリソグラフィ法により形成して、引出し部2aを部分的に露出させる。そして、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3bを形成する。非磁性サブ層3bを形成するための焼成(熱処理)は、積層体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスを該雰囲気で焼成することにより実施する。この工程において、積層体には銅を含む導体が存在しており、ガラスセラミックスをCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成することにより、CuがCuOに酸化されることを防止できる。焼成雰囲気の酸素分圧はCu−CuO平衡酸素分圧以下であればよい。焼成温度は、ガラスの軟化点以上の温度であれば特に限定されないが、例えば800〜1000℃とし得る。Cu−CuO平衡酸素分圧は温度によって異なり、エリンガム図から求めることができる。Cu−CuO平衡酸素分圧は、例えば、温度900℃では4.3×10−3Paであり、温度950℃では1.8×10−2Paであり、温度1000℃では6.7×10−2Paである。
【0035】
(e)導体コイル2の本体部2bの形成
次に、ビア6a内部および非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3b上に、銅を含む導体をパターン形成して、本体部2bを渦巻状に形成する。銅を含む導体のパターン形成は、上記工程(c)と同様にして行い得るが、ビア6a内部に銅を含む導体を埋設して本体部2bと引出し部2aを接続するものとし、これらが一体となって導体コイル2を構成するようにする。
【0036】
(f)非磁性サブ層3cの形成
その後、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3bおよび本体部2b上に、上記工程(b)と同様にしてガラスセラミックスを積層し、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3cを形成する。非磁性サブ層3cを形成するための焼成(熱処理)は、上記工程(d)と同様、積層体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスを該雰囲気で焼成することにより実施する。
【0037】
(g)導体コイル4の本体部4bの形成
次に、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3c上に、銅を含む導体をパターン形成して、本体部4bを渦巻状に形成する。銅を含む導体のパターン形成は、上記工程(c)と同様にして行い得る。
【0038】
(h)非磁性サブ層3dの形成
その後、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3cおよび本体部4b上に、上記工程(b)と同様にしてガラスセラミックスを積層する。但し、本工程においては、原料のガラスセラミックスには、感光性のガラスセラミックスを使用し、この層にビア6bをフォトリソグラフィ法により形成して、本体部4bを部分的に露出させる。そして、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3dを形成する。非磁性サブ層3dを形成するための焼成(熱処理)は、上記工程(d)と同様、積層体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスを該雰囲気で焼成することにより実施する。
【0039】
(i)導体コイル4の引出し部4aの形成
次に、ビア6b内部および非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3d上に、銅を含む導体をパターン形成して、引出し部4aを形成する。銅を含む導体のパターン形成は、上記工程(c)と同様にして行い得るが、ビア6b内部に銅を含む導体を埋設して本体部4bと引出し部4aを接続するものとし、これらが一体となって導体コイル4を構成するようにする。
【0040】
(j)非磁性サブ層3eの形成
その後、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3dおよび引出し部4a上に、上記工程(b)と同様にしてガラスセラミックスを積層し、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3eを形成する。非磁性サブ層3eを形成するための焼成(熱処理)は、上記工程(d)と同様、積層体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスを該雰囲気で焼成することにより実施する。非磁性サブ層3eの形成により、非磁性サブ層3a〜3eが全部焼結され、これらは全体として非磁性層3(焼結ガラスセラミックス層)を成すものとなる。
【0041】
(k)第2磁性層5の形成
別途、Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料であって、CuO含有量、Fe含有量およびMn含有量が所定範囲にあるフェライト材料を準備する。これは、Ni−Zn−Cu系フェライト材料において、Feの所定量をMnで置換したものと理解してよい。
【0042】
このフェライト材料は、Fe、Mn、ZnO、NiOおよびCuOを主成分として含み、必要に応じてBiなどの添加成分を更に含んでいてよい。通常、フェライト材料は、素原料として、これら成分の粉末を所望の割合で混合および仮焼して調製され得るが、これに限定されるものではない。
【0043】
このフェライト材料におけるCuO含有量は、5mol%以下(主成分合計基準)とする。CuO含有量を5mol%以下として、後述する熱処理によりフェライト材料を焼成することによって、第2磁性層5において高い比抵抗を確保することができる。フェライト材料中のCuO含有量は5mol%以下であればよいが、十分な焼結性を得るためには0.2mol%以上であることが好ましい。
【0044】
このフェライト材料におけるFe含有量およびMn含有量(主成分合計基準)は、図3に示す領域Zの範囲以内とする。図3は、Fe含有量をx軸にとり、Mn含有量をy軸にとったグラフであり、図中の各点(x,y)は、A(25,1)、B(47,1)、C(47,7.5)、D(45,7.5)、E(45,10)、F(35,10)、G(35,7.5)、H(25,7.5)である。即ち、これら点A〜Hで囲まれた領域Zの範囲は、Fe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満である領域と、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下である領域を合わせたものに一致する。Fe含有量およびMn含有量を図3に示す領域Zの範囲以内として、後述する熱処理によりフェライト材料を焼成することによって、第2磁性層5において高い比抵抗を確保することができる。
【0045】
このフェライト材料におけるZnO含有量は、6〜33mol%(主成分合計基準)とすることが好ましい。ZnO含有量を6mol%以上とすることによって、例えば35以上の高い透磁率を得ることができ、大きなインダクタンスを取得できる。また、ZnO含有量を33mol%以下とすることによって、例えば130℃以上のキュリー点を得ることができ、高いコイル動作温度を確保することができる。
【0046】
このフェライト材料におけるNiO含有量は、特に限定されず、上述した他の主成分であるCuO、Fe、ZnOの残部とし得る。
【0047】
また、フェライト材料におけるBi含有量(添加量)は、主成分(Fe、Mn、ZnO、NiO、CuO)の合計100重量部に対して、0.1〜1重量部とすることが好ましい。Bi含有量を0.1〜1重量部とすることによって、低温焼成がより促進されると共に、異常粒成長を回避することができる。Bi含有量が高すぎると、異常粒成長が起こり易く、異常粒成長部位にて比抵抗が低下し、外部電極形成時のめっき処理の際に、異常粒成長部位にめっきが付着するので好ましくない。
【0048】
かかるNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を使用して、上記工程(j)により得られた積層体の非磁性層3上に、フェライト材料を積層し、得られた積層体を熱処理に付して、このフェライト材料を焼成して第2磁性層5を形成する。非磁性層3上へのフェライト材料の積層は、上述したフェライト材料を任意の適切な他の成分と一緒にペースト状にしたものを印刷等の方法で非磁性層3上に塗膜することや、フェライト材料を任意の適切な他の成分と一緒にグリーンシート状にしたものを非磁性層3上に重ね合わせることによって実施できる。第2磁性層5を形成するための焼成(熱処理)は、積層体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気中で熱処理してフェライト材料を該雰囲気で焼成することにより実施する。
【0049】
フェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成することにより、フェライト材料を空気中で焼成する場合よりも低温で焼結でき、例えば、焼成温度を950〜1000℃とし得る。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、このような低酸素分圧雰囲気で焼成した場合、結晶構造中に酸素欠陥が形成され、結晶中に存在するFe、Mn、Ni、Cu、Znの相互拡散が促進され、低温焼結性を高めることができるものと考えられる。この工程において、積層体には銅を含む導体が存在しているが、フェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で低温焼成することにより、CuがCuOに酸化されることを防止でき、導体コイル2、4の配線抵抗を低く維持することができる。
【0050】
加えて、CuO含有量が5mol%以下であるNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を使用することにより、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成しても、第2磁性層5において高い比抵抗を確保することができる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、これは、CuO含有量を小さくすることによりCuOの還元によるCuOの生成を抑制でき、これにより比抵抗の低下が抑制されるものと考えられる。
【0051】
また、Fe含有量およびMn含有量を図3に示す領域Zの範囲以内であるNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を使用することにより、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成しても、第2磁性層5において、高い比抵抗を確保することができる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、これは、Mn−Mn平衡酸素分圧のほうがFe−Fe平衡酸素分圧より高く、MnのほうがFeより還元され易いため、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧では、Feに比べてMnに対してより強い還元性雰囲気となり、この結果、FeよりもMnが優先的に還元され、Feが還元される前に焼成を終了できるためであると考えられる。
【0052】
焼成雰囲気の酸素分圧はCu−CuO平衡酸素分圧以下であればよいが、第2磁性層の比抵抗を確保するにはCu−CuO平衡酸素分圧(Pa)の0.01倍以上であることが好ましい。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、酸素濃度があまり低すぎると、酸素欠陥が必要以上に生成されて第2磁性層5の比抵抗が低下するおそれがあり、酸素をある程度存在させることにより、酸素欠陥の生成が過剰となるのを回避でき、これにより高い比抵抗を確保できるものと考えられる。
【0053】
これにより、第1磁性層1上に非磁性層3および第2磁性層5が積層され、非磁性層3中に2つの対向する導体コイル2、4を含む積層体7が得られる。この積層体7は、個々に作製したものであってもよいが、複数個をマトリクス状に一度に作製した後に、ダイシング等により個々に分割して(素子分離して)個片化したものであってもよい。
【0054】
(l)外部電極9a〜9dの形成
積層体7の対向する側部に、外部電極9a〜9dを形成する。外部電極9a〜9dの形成は、例えば、銅の粉末をガラスなどと一緒にペースト状にしたものを所定の領域に塗布し、得られた構造体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気中で、例えば850〜900℃で熱処理して銅を焼き付けることによって実施し得る。
【0055】
以上のようにして、本実施形態のコモンモードチョークコイル10が製造される。コモンモードチョークコイル10において、第2磁性層5は、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成るが、焼結前のフェライト材料と組成が異なり得、例えば、CuO、Fe、Mnは焼成によりそれらの一部がそれぞれCuO、Fe、Mnに変化していることが起り得る。しかし、かかる焼結フェライト材料におけるCuのCuO換算含有量、FeのFe換算含有量、MnのMn換算含有量は、それぞれ、焼結前のフェライト材料におけるCuO含有量、Fe含有量、Mn含有量と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0056】
本実施形態によれば、導体コイル2、4の材料に銅を使用しているので、導体コイル2、4間でのマイグレーションを効果的に防止することができ、高信頼性のコモンモードチョークコイルを得ることができる。更に、導体コイル2、4の配線抵抗を低く維持できると共に、第2磁性層5の低温焼結性が良好で、かつ、第2磁性層5の比抵抗を高く維持することができ、例えば、比抵抗ρをlog ρで7以上の大きさで得ることができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、上述の通り、導体コイル2、4間でのマイグレーションを効果的に防止できることから、導体コイル2、4間の磁気的結合性(または結合係数)を強めることができ、コモンモードインピーダンスがより高いコモンモードチョークコイルを得ることができる。また、導体コイル2、4間の距離を小さくすることもでき、よって、コモンモードチョークコイルの薄層化が可能となる。
【0058】
(実施形態2)
本実施形態は、実施形態1にて上述したコモンモードチョークコイル10を別の方法で製造するものであり、以下、実施形態1と同様の部材を同じ符号により説明するものとする。本実施形態の製造方法は、概略的には、基板レス工法により、保持層上に第1磁性層1の材料を積層し、非磁性層3の材料を(導体コイル2、4を形成しながら)積層し、その上に、第2磁性層5の材料を積層した後、得られた積層体を一括焼成して、第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5を形成するものである(第1磁性層、非磁性層および第2磁性層の共焼成)。
【0059】
(m)第1磁性層1の材料層の形成
任意の適切な保持層(図示せず)上に、所定のフェライト材料を積層して、第1磁性層1の材料層を形成する。このフェライト材料には、実施形態1にて工程(k)で第2磁性層5について上述したものと同様のNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を使用する。保持層上へのフェライト材料の積層は、フェライト材料を任意の適切な他の成分と一緒にペースト状にしたものを印刷等の方法で保持層上に塗膜し、乾燥させることや、フェライト材料を任意の適切な他の成分と一緒にグリーンシート状にしたものを保持層上に重ね合わせることによって実施できる。
【0060】
(n)非磁性サブ層3a〜3eの材料の積層および導体コイル2、4の形成
この第1磁性層1の材料層(未焼結Ni−Mn−Zn−Cu系フェライト材料層)上に、非磁性サブ層3a〜3eを形成するために各工程にて焼成を実施しなかったこと以外は、実施形態1にて上述した工程(b)〜(j)と同様にして、非磁性サブ層3a〜3eの材料層(未焼結ガラスセラミックス材料層)を、導体コイル2、4を形成しながら積層する。これにより、非磁性層3の材料層が、その内部に導体コイル2、4を埋設した状態で形成される。
【0061】
(o)第2磁性層5の材料層の形成
その後、非磁性層3の材料層上に、上記工程(m)と同様にして、所定のフェライト材料を積層して、第2磁性層5の材料層を形成する。このフェライト材料にも、実施形態1にて工程(k)で第2磁性層5について上述したものと同様のNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を使用する。かかる条件を満たす限り、第1磁性層1の材料および第2磁性層5の材料は同じであっても、異なっていてもよい。
【0062】
これにより、未焼成の積層体が得られる。未焼成の積層体は、個々に作製したものであってもよいが、複数個をマトリクス状に一度に作製した後に、ダイシング等により個々に分割して(素子分離して)個片化したものであってもよい。
【0063】
(p)第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5の形成
以上のようにして得られた未焼成の積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性層3を形成すると共に、フェライト材料を焼成して第1磁性層1および第2磁性層5を形成する。これら第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5を形成するための焼成(熱処理)は、積層体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスおよびフェライト材料を該雰囲気で同時に焼成することにより実施する。
【0064】
これにより、第1磁性層1上に非磁性層3および第2磁性層5が積層され、非磁性層3中に2つの対向する導体コイル2、4を含む積層体7が得られる。
【0065】
(q)外部電極9a〜9dの形成
その後、実施形態1にて上述した工程(l)と同様にして、積層体7の対向する側部に、外部電極9a〜9dを形成する。
【0066】
以上のようにして、本実施形態のコモンモードチョークコイル10が製造される。本実施形態によれば、実施形態1の製造方法とは異なり、非磁性層3および第2磁性層を形成するための焼成(熱処理)が1回で完了するため、導体コイルの材料に使用したCuがCuOに酸化されることを一層抑制することができ、より信頼性の高いコモンモードチョークコイルを得ることができる。そのほか、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0067】
以上、本発明の二つの実施形態について説明したが、これら実施形態は種々の改変が可能である。例えば、実施形態1および2のコモンモードチョークコイルは、図4に示すように、非磁性層3を貫通する貫通孔11を、非磁性層3から導体コイル2、4が露出しないように、サンドブラスト工法やエッチング工法などにより形成し、その貫通孔を、実施形態1にて工程(k)で第2磁性層5について上述したものと同様のNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料で埋め込んでよく、このフェライト材料は、第2磁性層5の材料(および実施形態2の場合には第1磁性層1の材料)と同じであっても、異なっていてもよい。かかる構成によれば、導体コイル2、4間の磁気的結合性を強めることができ、コモンモードインピーダンスがより高いコモンモードチョークコイルを得ることができる。
【実施例】
【0068】
(実験)
第2磁性層の材料として使用するのに適したフェライト材料を調べるために、以下の実験を行って、種々の組成を有するフェライト材料の耐還元性を評価した。
【0069】
フェライト材料の素原料として、Fe、Mn、ZnO、NiOおよびCuOの各粉末を用意し、フェライト材料の組成が表1〜5に示す割合となるように、これらの粉末を秤量した。なお、表中、試料No.に記号「*」を付して示したものは、フェライト材料組成が本発明の範囲外にあり、試料No.に記号「*」が付されていないものは、フェライト材料組成が本発明の範囲以内にある。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
次いで、各試料について、上記の秤量物を、純水およびPSZ(Partial Stabilized Zirconia; 部分安定化ジルコニア)ボールと共に、塩化ビニル製のポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕した。粉砕処理物を蒸発乾燥させた後、750℃の温度で2時間仮焼した。これにより得られた仮焼物を、ポリビニルブチラール系バインダ(有機バインダ)、エタノール(有機溶媒)およびPSZボールと共に、再び塩化ビニル製のポットミルに入れ、十分に混合粉砕し、フェライト材料を含むスラリー(セラミックスラリー)を得た。
【0076】
次に、ドクターブレード法を使用して、上記で得たフェライト材料のスラリーを、厚さ25μmのシート状に成形した。得られた成形体を縦50mm、横50mmの大きさに打ち抜いて、フェライト材料のグリーンシートを作製した。
【0077】
(透磁率測定)
上述のようにして作製したフェライト材料のグリーンシートを、厚さが総計で1.0mmとなるように複数枚積層した後、60℃の温度で100MPaの圧力で60秒間圧着し、圧着ブロックを作製した。そして、この圧着ブロックを、外径20mmおよび内径12mmのリング状に切断してリング状成形体を作製した。
【0078】
上記で得られたリング状成形体を、大気中で400℃に加熱して十分に脱脂した。そして、N−H−HO混合ガスを焼成炉に供給して、焼成炉内の温度および酸素分圧を予め調整した後、このリング状成形体を焼成炉に投入し、温度950〜1000℃および酸素分圧1.8×10−2Pa(950℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)〜6.7×10−2Pa(1000℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)にて2〜5時間保持して焼成し、これによりリング状試料を得た。
【0079】
そして、各リング状試料について、軟銅線を20ターン巻回し、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製、E4991A)を使用し、周波数1MHzでのインダクタンスを測定し、その測定値から透磁率μ(−)を求めた。結果を表1〜5に併せて示す。
【0080】
また、表5に示す試料No.301〜309から作製したリング状試料については、振動試料型磁力計(東英工業株式会社製、VSM−5−15型)を使用し、1T(テスラ)の磁界を印加し、飽和磁化の温度依存性を測定し、この飽和磁化の温度依存性からキュリー点Tcを求めた。結果を表5に併せて示す。
【0081】
(比抵抗測定)
別途、銅粉末に、有機溶剤および樹脂から成るビヒクルを加え、一緒に混練することにより銅を含む導体ペースト(以下、「内部導体用銅ペースト」と言う)を用意した。この内部導体用銅ペーストを、上述のようにして作製したフェライト材料のグリーンシートの表面にスクリーン印刷して、導体ペースト層を形成した。ここで、導体ペースト層は、積層コンデンサ40の内部電極33に対応するパターンとした(図5)。
【0082】
次いで、導体ペースト層を所定のパターンで形成したフェライト材料のグリーンシートを所定枚数適切に積層した後、これらを、導体ペースト層の形成されていないフェライト材料のグリーンシートで挟持し、60℃の温度で100MPaの圧力で圧着し、圧着ブロックを作製した。そして、この圧着ブロックを所定のサイズに切断して積層体を作製した。
【0083】
上記で得られた積層体を、銅が酸化しない酸素分圧下で400℃に加熱して十分に脱脂した。そして、N−H−HO混合ガスを焼成炉に供給して、焼成炉内の温度および酸素分圧を予め調整した後、この積層体を焼成炉に投入し、温度950〜1000℃および酸素分圧1.8×10−2Pa(950℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)〜6.7×10−2Pa(1000℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)にて2〜5時間保持して焼成し、これにより焼結積層体を得た。
【0084】
この焼結積層体を水と共に、遠心バレル機のバレルポットに入れて遠心バレル処理を施して、焼結積層体から内部電極(導体ペースト層)を露出させた。
【0085】
その後、銅粉末、ガラスフリットおよびビヒクルから成る導電ペースト(以下、「外部電極用銅ペースト」と言う)を用意し、この外部電極用銅ペーストを、上記で遠心バレル処理した焼結積層体の両端部(内部電極を露出させた端面)をディップ法により塗布した後、温度900℃および酸素分圧4.3×10−3Pa(900℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)で焼き付けて、外部電極を形成した。これにより、比抵抗測定用試料として、図5に示す積層コンデンサ40を作製した。積層コンデンサ40は、磁性層(焼結フェライト材料)31内に内部電極33が埋設され、外部電極35a、35bに接続されて成る。
【0086】
そして、各比抵抗測定用試料(積層コンデンサ40)について、外部電極35a、35b間に50Vの電圧を30秒間印加したときに流れる電流値を測定して抵抗値を求め、試料形状から比抵抗ρ(Ω・cm)をlog ρで算出した。結果を表1〜5に併せて示す。
【0087】
表1〜5から明らかなように、Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料の組成において、Fe含有量およびMn含有量が、図3に示す領域Zの範囲以内にあり、かつ、CuOが5mol%以下である試料では、比抵抗ρが、log ρで7以上の大きさとなり、十分大きな比抵抗が得られた。これに対し、Fe含有量およびMn含有量が、図3に示す領域Zの範囲外にあるか、または、CuOが5mol%を超える試料では、比抵抗ρが、log ρで7未満となった。
【0088】
また、表1〜5を参照して、Fe含有量およびMn含有量が、図3に示す領域Zの範囲以内にあり、かつ、ZnO含有量を6mol%以上とした試料では、透磁率μが35以上となり、磁性層として実用的な大きさの透磁率が得られた。また、Fe含有量およびMn含有量が、図3に示す領域Zの範囲以内にあり、かつ、ZnO含有量を33mol%以下とした試料では、キュリー点が130℃以上となり、十分なコイル動作温度が得られた。
【0089】
(実施例1)
実施形態1の製造方法に従って、図1〜2に示すコモンモードチョークコイル10を作製した。本実施例においては、以下の条件を適用した。
【0090】
上述の工程(a)において、第1磁性層1として、焼結済のNi−Zn−Cu系フェライト材料から成る基板(FeのFe換算含有量 44.0mol%、MnのMn換算含有量 5.0mol%、ZnのZnO換算含有量 30.0mol%、NiのNiO換算含有量 19.0mol%、CuのCuO換算含有量 2.0mol%)を用いた。
【0091】
上述の工程(b)において、感光性のホウケイ酸ガラス(SiO−Bi−CaO−KO、以下も同様)を用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、その後、900℃にて30分間の熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3aを形成した。
【0092】
上述の工程(c)において、セミアディティブ法により選択メッキして引出し部2aを形成した。具体的には、非磁性層3aの主面全域にシード層(本実施例ではCuとしたが、Cu/TiまたはCu/Crでもよい)をスパッタリング法で形成し、シード層上に感光性フォトレジストをフォトリソグラフィ法によりパターン形成した後、レジストに被覆されずに露出しているシード層を利用して、レジストパターンの開口部に銅を電解メッキにより形成し、レジストを剥離し、これにより露出したシード層部分をエッチングにより除去した。上述の工程(e)における本体部2bの形成、工程(g)における本体部4bの形成、工程(i)における引出し部4aの形成も、これと同様とした。
【0093】
上述の工程(d)において、感光性のホウケイ酸ガラスを用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、フォトリソグラフィ法によりビア6aを形成し、その後、酸素分圧を1.8×10−2Paに調整したN−H−HO混合ガス雰囲気にて、950℃にて30分間の熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3bを形成した。上述の工程(f)における非磁性サブ層3cの形成、工程(h)における非磁性サブ層3dおよびビア6bの形成、工程(j)における非磁性サブ層3eの形成も、これと同様とした。
【0094】
上述の工程(k)において、Ni−Mn−Zn−Cu系フェライト材料(Fe 44.0mol%、Mn 5.0mol%、ZnO 30.0mol%、NiO 19.0mol%、CuO 2.0mol%)の仮焼物を粉砕し、これに有機バインダおよび有機溶剤からなるビヒクルを添加して混練することで磁性体ペーストを準備し、非磁性層3上に磁性体ペーストを印刷工法により塗膜し、その後、酸素分圧を1.8×10−2Paに調整したN−H−HO混合ガス雰囲気にて、950℃にて2時間の熱処理に付して、フェライト材料を焼成して第2磁性層5を形成した。なお、ここで使用したNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料は、表4中に示すNo.203の組成に一致するものである。
【0095】
これにより得られた積層体7をダイシングして個片化した。1個の素子の寸法は、縦 0.5mm、横 0.65mm、高さ 0.3mmとした。
【0096】
上述の工程(l)において、外部電極用銅ペーストを塗布し、得られた構造体を酸素分圧4.3×10−3Pa雰囲気中で、900℃にて5分間の熱処理に付して銅を焼き付け、これにより外部電極9a〜9dを形成した。以上により、本実施例のコモンモードチョークコイル10を作製した。
【0097】
(比較例1)
導体コイル2、4を銅に代えて銀を用いて(シード層および電解メッキを銀として)作製したこと、非磁性層3b〜3eを形成するための各焼成および第2磁性層5を形成するための焼成を900℃にて空気中で実施したこと、外部電極9a〜9dを、外部電極用銅ペーストにおける銅粉末を銀粉末で置換して成る外部電極用銀ペーストを用いて空気中で焼成することにより作製したこと、ならびに第2磁性層5の材料としてNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料(Fe 44.0mol%、Mn 5.0mol%、ZnO 30mol%、NiO 13.0mol%、CuO 8.0mol%)を用いた磁性体ペーストで置換したこと以外は、実施例1と同様にしてコモンモードチョークコイルを作製した。なお、ここで使用したNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料は、表4中に示すNo.209の組成に一致するものである。
【0098】
以上により作製した実施例1および比較例1のコモンモードチョークコイルに対して耐湿負荷試験を行った。具体的には、70℃および95%RH(相対湿度)の条件下にて、コモンモードチョークコイルの導体コイル2、4間に直流電圧5Vを印加して、試験初期および1000時間印加したときの絶縁抵抗(IR)を、アドバンテスト社製エレクトロメータR8340Aを用いて測定し、log IRおよびその変化率を算出した。結果を表6に示す。
【0099】
【表6】

【0100】
表6から明らかなように、実施例1のコモンモードチョークコイルでは、耐湿負荷試験を行っても、絶縁抵抗の変化が、比較例1のコモンモードチョークコイルに比べて顕著に低減され、信頼性が高いことが確認された。また、実施例1のコモンモードチョークコイルでは、試験初期の絶縁抵抗を、比較例1のコモンモードチョークコイルと同程度に維持することができた。
【0101】
(実施例2)
実施形態2の製造方法に従って、図1〜2に示すコモンモードチョークコイル10を作製した。本実施例においては、以下の条件を適用した。
【0102】
上述の工程(m)において、アルミナ基板上にアルミナ粉をバインダおよび溶剤と一緒にしてペースト状にしたものを印刷工法で塗布後、溶媒分を乾燥し塗膜して保持層(図示せず)として用いた。この保持層上にNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料(Fe 44.0mol%、Mn 5.0mol%、ZnO 30.0mol%、NiO 19.0mol%、CuO 2.0mol%)の仮焼物を粉砕し、これに有機バインダおよび有機溶剤からなるビヒクルを添加して混練することで磁性体ペーストを準備し、非磁性層3上に磁性体ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させた。なお、ここで使用したNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料は、表4中に示すNo.203の組成に一致するものである。
【0103】
上述の工程(n)において、感光性のホウケイ酸ガラス(SiO−Bi−CaO−KO、以下も同様)を用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、非磁性サブ層3aの材料層を形成した。その上に、内部導体用銅ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、引出し部2aを形成した。その上に、感光性のホウケイ酸ガラスを用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、フォトリソグラフィ法によりビア6aを形成し、乾燥させて、非磁性サブ層3bの材料層を形成した。その上に、内部導体用銅ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、本体部2bを形成した。その上に、感光性のホウケイ酸ガラスを用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、非磁性サブ層3cの材料層を形成した。その上に、内部導体用銅ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、本体部4bを形成した。その上に、感光性のホウケイ酸ガラスを用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、フォトリソグラフィ法によりビア6bを形成し、乾燥させて、非磁性サブ層3dの材料層を形成した。その上に、内部導体用銅ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、引出し部4aを形成した。
【0104】
上述の工程(o)において、非磁性層3の材料層上に、上記工程(m)にて使用したものと同じNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を用いた磁性体ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させた。
【0105】
これにより得られた未焼成の積層体をダイシングして個片化した。1個の素子の寸法は、縦 0.5mm、横 0.65mm、高さ 0.3mmとした。
【0106】
上述の工程(p)において、酸素分圧を1.8×10−2Paに調整したN−H−HO混合ガス雰囲気にて、950℃にて2時間の熱処理に付して、ガラスセラミックスおよびフェライト材料を該雰囲気で同時に焼成して第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5を形成した。
【0107】
上述の工程(q)において、外部電極用銅ペーストを塗布し、得られた構造体を酸素分圧4.3×10−3Pa雰囲気中で、900℃にて5分間の熱処理に付して銅を焼き付け、これにより外部電極9a〜9dを形成した。以上により、本実施例のコモンモードチョークコイル10を作製した。
【0108】
(比較例2)
導体コイル2、4を銅に代えて銀を用いて(内部導体用銅ペーストにおける銅粉末を銀粉末で置換して成る内部導体用銀ペーストを用いて)作製したこと、第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5を形成するための同時焼成を900℃にて空気中で実施したこと、外部電極9a〜9dを、外部電極用銅ペーストにおける銅粉末を銀粉末で置換して成る外部電極用銀ペーストを用いて空気中で焼成することにより作製したこと、ならびに第2磁性層5の材料としてNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料(Fe 44.0mol%、Mn 5.0mol%、ZnO 30mol%、NiO 13.0mol%、CuO 8.0mol%)を用いた磁性体ペーストで置換したこと以外は、実施例2と同様にしてコモンモードチョークコイルを作製した。なお、ここで使用したNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料は、表4中に示すNo.209の組成に一致するものである。
【0109】
以上により作製した実施例2および比較例2のコモンモードチョークコイルに対して、実施例1および比較例1のコモンモードチョークコイルと同様にして、耐湿負荷試験を行ったところ、実施例2のコモンモードチョークコイルは、比較例2のコモンモードチョークコイルに比べて信頼性が高いことが確認された。また、実施例1のコモンモードチョークコイルでは、導体コイル2、4そのものの配線抵抗(直流抵抗)を、実施例1のコモンモードチョークコイルより小さくできることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の製造方法によって得られるコモンモードチョークコイルは、差動伝送方式による高速データ通信など、コモンモードノイズの低減および除去が要求される様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0111】
1 第1磁性層
2 導体コイル
2a 引出し部
2b 本体部
3 非磁性層
3a〜3e 非磁性サブ層
4 導体コイル
4a 引出し部
4b 本体部
5 第2磁性層
6a、6b ビア
7 積層体
9a〜9d 外部電極
10 コモンモードチョークコイル
11 貫通孔
31 磁性層
33 内部電極
35a、35b 外部電極
40 積層コンデンサ(磁性層の比抵抗測定用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、該非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルであって、
非磁性層が焼結ガラスセラミックスから成り、
導体コイルが銅を含む導体から成り、
第1磁性層および第2磁性層の少なくとも一方が、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成り、
該焼結フェライト材料において、
CuのCuO換算含有量が5mol%以下であり、および
FeのFe換算含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMnのMn換算含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、FeのFe換算含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMnのMn換算含有量が7.5mol%以上10mol%以下である、コモンモードチョークコイル。
【請求項2】
非磁性層中に配置された2つの導体コイルのコイル内部を通って、第1磁性層と第2磁性層とが接続されている、請求項1に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項3】
第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、該非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルの製造方法であって、
銅を含む導体により前記導体コイルを形成すること、
銅を含む導体の存在下にて、ガラスセラミックスをCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、前記非磁性層を少なくとも部分的に形成すること、
Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、
CuO含有量が5mol%以下であり、および
Fe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料を用いて、銅を含む導体の存在下にて、該フェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、前記第2磁性層を形成すること
を含む製造方法。
【請求項4】
前記第1磁性層として、焼結フェライト材料を使用する、請求項3に記載のコモンモードチョークコイルの製造方法。
【請求項5】
Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、
CuO含有量が5mol%以下であり、および
Fe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料を用いて、銅を含む導体の存在下にて、該フェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより、前記第1磁性層を形成することを更に含み、
前記非磁性層を形成するための焼成、前記第2磁性層を形成するための焼成、および前記第1磁性層を形成するための焼成を同時に実施する、請求項3に記載のコモンモードチョークコイルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−65845(P2013−65845A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−192170(P2012−192170)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】