説明

コラゲナーゼ阻害剤及び老化防止用皮膚外用剤

【課題】新規なコラゲナーゼ阻害剤、及びしわ及びたるみを防止又は改善し得る新規な老化防止用皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】イザヨイバラ果実の抽出物からなるコラゲナーゼ阻害剤、及び前記コラゲナーゼ阻害剤を含有する老化防止用皮膚外用剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイザヨイバラ果実の抽出物を利用したコラゲナーゼ阻害剤、及びそれを用いた老化防止用皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴い発生するしわやたるみを予防・改善することは、美容上の重要な課題である。しわやたるみは日光に曝される部分に著しく、日光に曝された皮膚にしわやたるみが発生する現象を特に光老化と呼んでいる。光老化したしわ部分では、真皮中のコラーゲン量が著しく減少していることが知られている。一方、コラーゲンは真皮マトリックスの90%以上を占め、紫外線によって活性化されるコラゲナーゼによって分解が亢進されることも知られている。これらのことから、皮膚中のコラーゲンの減少が、皮膚のしわやたるみを引き起す主な原因であると考えられている。従って、コラーゲンの減少を抑制し得る剤を提供できれば、光老化のみならず、加齢に伴うしわやたるみを予防・改善することができる。
【0003】
一方、皮膚外用剤の有効成分として、天然物由来の成分が種々提案されている。例えば、イザヨイバラの抽出物を含有する皮膚外用剤が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかし、イザヨイバラの抽出物とコラーゲンやコラゲナーゼとの関連性については記載がない。
【0004】
【特許文献1】特開2002−241299号公報
【特許文献2】特開2002−370963号公報
【特許文献3】特開2003−012495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コラゲナーゼの作用による生体内で生じるコラーゲン等のマトリックス線維の加水分解を防止することにより、コラーゲンの減少を有効に防止して皮膚の老化症状の進行、特に皮膚のしわ及びたるみ、を防ぐことのできるコラゲナーゼ阻害剤及び皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明者は安全性が高く、しかも高活性のコラゲナーゼ阻害剤のスクリーニングを行った。その結果、イザヨイバラ果実の抽出物に優れたコラゲナーゼ阻害活性を見出し、これを皮膚外用剤に含有させることによって、皮膚の老化症状の軽減及び進行防止が認められた。
【0007】
即ち、本発明は、前記課題を解決するため、イザヨイバラ果実の抽出物からなるコラゲナーゼ阻害剤、及びイザヨイバラ果実の抽出物をコラゲナーゼ阻害剤として含有する老化防止用皮膚外用剤を提供する。
また、別の観点から、本発明によって、イザヨイバラ果実の抽出物を適用することによって真皮細胞中のコラーゲンの減少を抑制する方法;及びイザヨイバラ果実の抽出物を適用することによってコラゲナーゼを阻害する方法;が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、イザヨイバラ果実の抽出物からなるコラゲナーゼ阻害剤に関する。本発明に使用可能なイザヨイバラ(Rosa roxburghii Traff. F. normalis Rehd. Et Wils. (Rosaceae))はバラ科の植物で、別名トゲナシとも呼ばれ、その果実はシリ(Cili)と呼ばれている。本発明で用いられるイザヨイバラ果実の抽出物は、イザヨイバラ果実に含まれるいずれの成分であってもよく、果肉、果汁、果皮等から得られる成分、又はこれらの混合物が挙げられる。なお、イザヨイバラ果実の抽出物は、「トゲナシ抽出液」として市販されていて、本発明ではかかる市販品を利用することもできる。
【0009】
イザヨイバラ果実の抽出物の調製方法については特に制限されず、一般的な抽出方法を利用することができる。果実はそのまま抽出操作に供してもよいが、抽出効率を考えると、細切、乾燥、粉砕等の処理を行った後抽出を行うことが好ましい。例えば、所望により乾燥等の前処理をした果実を、抽出溶媒に1〜5日間浸漬することで得られる。抽出は室温又は加熱下で行われるのが一般的であり、抽出温度について特に制限はないが、一般的には0〜100℃程度が適切である。また浸漬中に液を攪拌してもよい。
【0010】
抽出溶媒としては、水、ならびにメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール;1、3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;エチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;及びアセトン、エチルメチルケトン等のケトン類;などの極性有機溶媒を用いることができ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。中でも水、1,3−ブチレングリコール、上記例示した低級アルコールが好ましい。また、皮膚外用剤への配合を考えて、リン酸緩衝液等を用いてもよい。
【0011】
上記方法で得られたイザヨイバラ果実の抽出物は、そのままでもコラゲナーゼ阻害剤として外用剤基剤に添加できるが、濃縮、乾固したものを水や極性溶媒に再度溶解したり、あるいは脱色、脱臭、脱塩等の精製処理を行った後に添加しても良い。また保存のためには、精製処理の後、凍結乾燥し、使用時に溶媒に溶解させてもよい。
【0012】
本発明のコラゲナーゼ阻害剤の皮膚外用剤への配合量は、イザヨイバラ果実を十分浸漬し得る量の溶媒にて抽出して得た粗抽出物の状態で、0.001〜10.0質量%程度とするのが適当である。
【0013】
さらに本発明に係る皮膚外用剤には、活性酸素消去剤、抗炎症剤、美白剤、皮膚細胞賦活剤、殺菌剤の他、油類、界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、粉体、香料、防腐剤等、一般的な外用剤及び化粧料原料をも含有させることができる。
【0014】
本発明に係る皮膚外用剤は、液状、ゲル状、クリーム状又は粉末状の形態で提供することができる。また本発明に係る皮膚外用剤は、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏等の剤型で提供することができ、さらに化粧水、乳液、クリーム、パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、液状又はクリーム状或いは軟膏型のファンデーションといったメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディローション等の身体用化粧料などとしても提供することができる。
【実施例】
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[実施例1:コラゲナーゼ阻害効果の評価]
下記(1)〜(6)を準備した。なお、下記(1)〜(4)は、I型コラゲナーゼ活性測定キット(ヤガイ社製)を用いた。
(1)I型コラゲナーゼ(ヒト細胞由来、0.5unit/mL)100μL(0.3〜0.5unit/mL)
(2)蛍光(フルオレセインイソチオシアネート)標識I型コラーゲン溶液1μg/μL 45μL
(3)0.1mol/Lのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5) 50μL
(4)酵素反応停止剤(o−フェナントロリンを含む0.05mol/Lのトリス−塩酸緩衝液(pH9.5)とエタノールの混合液)200μL
(5)イザヨイバラ果実の抽出物溶液(1,3−ブチレングリコール50%水溶液、丸善製薬社製) 乾燥固形分2%
(6)1,3−ブチレングリコール50%水溶液
【0016】
まず、上記の(1)〜(3)、(5)及び(6)を混合して、37℃で3時間加熱後、(4)の酵素反応停止剤を添加した。(5)の量は、目的の固形分濃度に応じて決定した。(6)は(5)との合計が5μLになるように添加した。次に、溶液を遠心分離して未反応のコラーゲンを沈殿させ、コラゲナーゼの分解活性により蛍光標識がはずれた上清を採取して蛍光強度を測定した。蛍光強度は蛍光分光光度計を用い(励起光495nm、蛍光強度520nm)、試料添加及び試料無添加における吸光度Er及びEsをそれぞれ測定した。さらに、コラゲナーゼを用いずに(即ち(1)を混合しないで)、同じ操作を行った際の吸光度Ebr及びEbsをそれぞれ測定した。これらの測定値を下記数式に代入してコラゲナーゼ阻害率(%)を算出した。また、参考例として、コラゲナーゼ阻害作用が知られているエチレンジアミン四酢酸(EDTA)について、同様に試験を行った。
コラゲナーゼ阻害率(%)
=[{(Es−Ebs)−(Er−Ebr)}/(Es−Ebs)]×100
結果を下記表1に併せて示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果より、イザヨイバラ果実の抽出物には、既にコラゲナーゼ阻害効果が知れられているエチレンジアミン四酢酸(EDTA)と同等もしくはそれ以上のコラゲナーゼ阻害効果があることが明らかである。
【0019】
[実施例2:化粧水の調製]
(成分) (%)
(1)グリセリン 10.0
(2)1,3−ブチレングリコール 6.0
(3)トゲナシ抽出液*1 1.0
(4)クエン酸 0.1
(5)クエン酸ナトリウム 0.3
(6)精製水 残量
(7)ポリオキシエチレン(40E.O.)硬化ヒマシ油 0.5
(8)エチルアルコール 8.0
(9)防腐剤 適量
(10)香料 適量
*1:丸善製薬社製
【0020】
A. 成分(1)〜(6)を混合溶解した。
B. 成分(7)〜(10)を混合溶解した。
C. AとBを混合して均一にし、化粧水を得た。
【0021】
[実施例3:乳液の調製]
(成分) (%)
(1)新油型モノステアリン酸グリセリル 0.3
(2)ステアリン酸 0.5
(3)セトステアリルアルコール 0.5
(4)スクワラン 3.0
(5)流動パラフィン 5.0
(6)トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 2.0
(7)防腐剤 適量
(8)カルボキシビニルポリマー 0.1
(9)精製水 残量
(10)水酸化ナトリウム 0.05
(11)グリセリン 10.0
(12)トゲナシ抽出物*1 0.01
(13)茶抽出物*2 0.01
(14)リン酸−L−アスコルビルマグネシウム*3 0.01
(15)香料 適量
*1:丸善製薬社製
*2:新日本薬業社製
*3:日光ケミカルズ社製
【0022】
(製法)
A.成分(8)〜(11)を加熱混合し、70℃に維持した。
B.成分(1)〜(7)を加熱混合し、70℃に維持した。
C.AとBを混合し、均一に乳化した。
D.Cを冷却後、(12)〜(15)を加え、均一に混合して乳液を得た。
【0023】
[実施例4:美容液の調製]
(成分) (%)
(1)コレステロール 0.5
(2)水素添加大豆リン脂質 2.0
(3)グリセリン 10.0
(4)1,3−ブチレングリコール 5.0
(5)ジメチルポリシロキサン 1.0
(6)ワセリン 1.0
(7)防腐剤 適量
(8)アルキル変性カルボキシビニルポリマー 0.2
(9)水酸化ナトリウム 0.08
(10)精製水 残量
(11)トゲナシ抽出物*1 2.0
(12)ヨクイニン抽出物*2 0.5
(13)メロスリア抽出物*3 0.5
(14)L−セリン 0.5
*1:丸善製薬社製
*2:丸善製薬社製
*3:丸善製薬社製
【0024】
(製法)
A.成分(1)〜(7)を加熱混合し、70℃に維持した。
B.成分(8)〜(10)を加熱混合し、70℃に維持した。
C.AとBとを混合し、均一に乳化した。
D.Cを冷却後(11)〜(14)を加え、均一に混合して乳液を得た。
【0025】
[実施例5:クリームの調製]
(成分) (%)
(1)モノステアリン酸ソルビタン 0.3
(2)セトステアリルアルコール 3.0
(3)スクワラン 5.0
(4)ワセリン 3.0
(5)トリ2−エチルへキサン酸グリセリル 3.0
(6)防腐剤 適量
(7)N−ステアロイルグルタミン酸ナトリウム 0.5
(8)キサンタンガム 0.05
(9)カルボキシビニルポリマー 0.1
(10)精製水 残量
(11)水酸化ナトリウム 0.03
(12)グリセリン 10.0
(13)ジプロピレングリコール 3.0
(14)トゲナシ抽出物*1 0.01
(15)茶抽出物*2 0.01
(16)リン酸−L−アスコルビルマグネシウム*3 0.01
(17)香料 適量
*1:丸善製薬社製
*2:新日本薬業社製
*3:日光ケミカルズ社製
【0026】
(製法)
A.成分(8)〜(13)を加熱混合し、70℃に維持した。
B.成分(1)〜(7)を加熱混合し、70℃に維持した。
C.AとBを混合し、均一に乳化した。
D.Cを冷却後、(14)〜(17)を加え、均一に混合して乳液を得た。
【0027】
[実施例6:含浸パックの調製]
(成分) (%)
(1)エチルアルコール 6.0
(2)ポリオキシエチレン(40E.O.)硬化ヒマシ油 0.5
(3)香料 適量
(4)乳酸ナトリウム液(50%) 0.5
(5)乳酸 0.02
(6)防腐剤 適量
(7)精製水 残量
(8)グリセリン 8.0
(9)トゲナシ抽出物*1 0.02
(10)水溶性コラーゲン液*2 2.0
(11)ヒアルロン酸液*3 3.0
*1:丸善製薬社製
*2:片倉チッカリン社製
*3:日光ケミカルズ社製
【0028】
(製法)
A.成分(1)〜(3)を混合溶解した。
B.成分(4)〜(11)を混合溶解した。
C.AとBとを混合して均一にし、得られた化粧水を不織布に含有させパック化粧料を得た。
【0029】
[実施例7:マッサージジェルの調製]
(成分) (%)
(1)グリセリン 10.0
(2)エチルアルコール 0.5
(3)トゲナシ抽出物*1 1.0
(4)ドクダミ抽出物*2 0.5
(5)ユキノシタ抽出物*3 0.1
(6)精製水 残量
(7)ヒドロキシメチルセルロース 0.1
(8)カルボキシビニルポリマー 0.1
(9)水酸化ナトリウム 0.04
(10)ジメチルポリシロキサン 0.1
(11)ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン 0.1
(12)香料 適量
*1:丸善製薬社製
*2:一丸ファルコス社製
*3:一丸ファルコス社製
【0030】
(製法)
A.成分(1)〜(9)を混合溶解した。
B.成分(10)〜(12)を混合溶解した。
C.AとBとを混合して均一にし、マッサージジェルを得た。
【0031】
実施例2〜7で調製した種々のタイプの皮膚外用剤は、いずれも皮膚に適用することにより、肌をみずみずしく保ち、しわやたるみの防止・改善に寄与する剤であった。また、いずれの剤も成分による変色・変臭などの問題は生じていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に用いるイザヨイバラ果実の抽出物は、優れたコラゲナーゼ阻害作用を示し、且つ安全性にも優れた成分である。従って、化粧料、医薬部外品、医薬品等の皮膚外用剤のための幅広い製剤への配合が可能である。本発明の皮膚外用剤は、イザヨイバラ果実の抽出物を含有しているので、皮膚の老化防止効果に優れ、老化によって生じるしわやたるみを防止又は改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イザヨイバラ果実の抽出物からなるコラゲナーゼ阻害剤。
【請求項2】
請求項1に記載のコラゲナーゼ阻害剤を含有する老化防止用皮膚外用剤。

【公開番号】特開2006−241148(P2006−241148A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27930(P2006−27930)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】