説明

コラーゲンの製造方法

【課題】 従来、コラーゲン原料として利用されていなかったイカ表皮を原料とし、食品等に幅広く利用可能な高純度で白色度の高いコラーゲンを得ること。
【解決手段】 アメリカオオアカイカ表皮を、色素を含む表皮上層と色素を含まない表皮下層とに分離し、色素を含まない表皮下層のみを水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液に浸漬することにより蛋白質等の夾雑物を溶出除去し、不溶性コラーゲンを回収する。得られるコラーゲンのハンター白色度は70以上を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アメリカオオアカイカ表皮からのコラーゲンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、人を含む動物に広く含まれている蛋白質であり、特に、動物の皮膚を形成する重要な構造蛋白質として知られている。分子量およそ10万のポリペプチド鎖3本が螺旋状に撚り合わさったコラーゲンヘリックスと呼ばれる特徴的な基本構造を有し、これらがさらに架橋した柔軟かつ強固な細胞間マトリックスとして機能している。
【0003】
コラーゲンはこれまで、そのほとんどが牛や豚を原料とし、その加熱変性物であるゼラチンとして食品等に広く用いられてきたが、近年に至って、未変性のコラーゲンや、コラーゲンまたはゼラチンの分解物であるペプチド(以下、コラーゲンペプチド)について各種の有用な生理機能が報告され、機能性食品、香粧品、医療資材などとして幅広く利用されるようになってきている。特に、健康補助食品や香粧品用の生理機能性素材として注目を集めており、これらの分野におけるコラーゲンの需要は急速に拡大している。
【0004】
しかしながら、現在、ヒトの近縁であるほ乳類を原料とするコラーゲンは、ほ乳類からヒトへの病気感染、たとえば、牛海綿状脳症の原因物質といわれる異常プリオンの感染の可能性などが消費者から問題視されている状況にある。そのため、ほ乳類由来のコラーゲンに代わる、安全で、より機能性の高い高純度のコラーゲンの開発が強く望まれている。このような背景から、ほ乳類以外の、特には、原料として豊富な魚類や水産無脊椎動物由来のコラーゲンの開発が期待されており、既に、魚類由来のコラーゲンが開発、製造されている。これらの開発事例は、従来は廃棄されていた魚皮や魚鱗を原料としていることから、廃棄物の有効活用による環境保全への寄与という重要な効果を派生するものである(特許文献1〜5)。
【0005】
軟体動物門頭足綱に属するイカ類も、その表皮の主成分はコラーゲンであることが明らかにされている。イカ類表皮のコラーゲン分子は、アミノ酸組成や基本的な構造も脊椎動物と同様であることが知られている。また、イカ類は古来から日常的に、我が国では特に大量に食されてきた食材であり、食品としての安全性に疑問を挟む余地はない。よってイカ類は、新たな水産物由来コラーゲンの原料として有望であり、その利用可能性が検討されているが、実用化には至っていない。イカ類表皮のコラーゲンは、分子間の架橋度において、脊椎動物とは異なる(非特許文献1)。すなわち、脊椎動物コラーゲンの抽出において通常用いられる酢酸抽出法ではほとんど抽出されず、蛋白質分解処理によって、コラーゲン分子の末端にあり分子間架橋に関わっているテロペプチド部分を取り除くことによって、3本鎖を保持したアテロコラーゲンとなり、酸可溶性となることが知られている。
【0006】
【特許文献1】特許第2722014号「無色素の魚の皮から天然コラーゲンを抽出する方法、無色素の魚の皮から得られる天然コラーゲン及び生体材料」
【特許文献2】特許第2931814号「魚類コラーゲンの製造方法」
【特許文献3】特開2003−238597「魚類由来のコラーゲンペプチド及びその製造方法、該コラーゲンペプチドを含有する飲食品及び化粧品」
【特許文献4】特開2004−91418「コラーゲンペプチド含有溶液、コラーゲンペプチド含有粉末、コラーゲンペプチド含有溶液の製造方法及びコラーゲンペプチド含有粉末の製造方法」
【特許文献5】特開2006−217876「魚鱗由来のゼラチンまたはコラーゲンペプチドの製造方法」
【非特許文献1】木村 茂編,魚介類の細胞外マトリックス,恒星社厚生閣(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、コラーゲン、ゼラチンまたはそれらの分解物であるコラーゲンペプチドを、食品、香粧品等に幅広く利用するには、白色度の高いことが望ましい。濃厚な色調の食品の場合は着色していても構わない場合もあるが、白色度が高ければ、食品の色調を問わず利用することができる。また香粧品の場合は、特にその色調が積極的に必要とされる場合以外には、およそ着色素材の利用は考えられず、食品の場合以上に強く白色度の高さが求められる。しかしながらイカ類表皮には、オモクロム色素が多量に含まれており、その完全除去は多段階かつ長期間の洗浄処理を必要とする。また、イカ類表皮は非常に強靱な組織であり、効率的な裁断、あるいは破砕が困難である。これらは、製品の高価格化を招くという非常に困難な問題となっている。これらの問題を解決した高純度コラーゲンの製造技術は、前掲各特許文献等開示技術も含めて、未だ開発されていない。
【0008】
本発明の課題は、特にアメリカオオアカイカ表皮を原料として、上述したコラーゲン製造に係る従来の問題を解決し、短期間かつ簡易な方法によって、高純度で白色度の高いイカ表皮由来コラーゲンを製造可能とする方法を新たに提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、イカ類表皮の特徴的な構造、すなわち、これが多層構造となっており、色素を含有している色素胞が表皮の上層部分に集中している点に着目した。鋭意研究を重ねた結果、アメリカオオアカイカ表皮からこの色素含有層(以下、表皮上層)を取り除き、残る色素胞を含有していない下層部分(以下、表皮下層)のみをコラーゲン製造の出発原料として、前述のイカ類表皮のコラーゲンの性質に基づいて、アルカリ水溶液に浸漬することにより組織を脆弱化し、コラーゲン以外の蛋白質等の夾雑物質を除去すれば白色度の高い天然構造のままの不溶性コラーゲンが容易に得られることを見出した。
【0010】
この不溶性コラーゲンは、このまま食品等に用いることも可能であるが、さらにペプシン分解処理を行うことによって、コラーゲンをアテロ化して酸可溶性とし、透析あるいは限外ろ過等、蛋白質の精製法を適用することによって、より高純度で酸可溶性のイカ表皮由来コラーゲンが製造可能であることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。つまり、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
(1) アメリカオオアカイカ表皮から表皮上層を取り除いて表皮下層のみを原料とし、該表皮下層をアルカリ水溶液により洗浄することによって不溶性コラーゲンを得ることを特徴とする、アメリカオオアカイカ表皮からのコラーゲン製造方法。
(2) アメリカオオアカイカ表皮から表皮上層を取り除いて表皮下層のみを原料とし、該表皮下層をアルカリ水溶液により洗浄することによって不溶性コラーゲンを得、さらに、該不溶性コラーゲンに対してペプシン分解処理を行ってアテロ化することにより可溶性のコラーゲンとして回収することを特徴とする、アメリカオオアカイカ表皮からのコラーゲン製造方法。
【0011】
すなわち、(1)に記載の発明は、アメリカオオアカイカ表皮から、色素を含有する部分である表皮上層を取り除き、残る色素胞を含有していない部分である表皮下層のみをコラーゲン製造の原料とすることを特徴とする、アメリカオオアカイカ表皮からのコラーゲン製造方法である。
また、(2)に記載の発明は、アメリカオオアカイカ表皮から色素を含有する部分である表皮上層を取り除き、残る色素を含有していない部分である表皮下層のみをコラーゲン製造の出発原料とし、表皮下層をアルカリ水溶液により洗浄して不溶性コラーゲンを得、さらに、該不溶性コラーゲンに対してペプシン分解処理を行ってアテロ化することにより可溶性のコラーゲンとして回収する工程からなることを特徴とする、アメリカオオアカイカ表皮からのコラーゲン製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アメリカオオアカイカ表皮由来のコラーゲンを色素の洗浄工程を必要としない、簡易かつ短期間で済む製造法により、白色度の高い新規のコラーゲンを、従来よりも安価に提供することができる。さらに、アテロ化することによって、抗原性を低下させた可溶性コラーゲンを提供することができ、食品等の素材としての利用範囲を拡大することができる。また、本発明により、これまで産業廃棄物として焼却処分されてきたイカ表皮を新規の産業資源として活用することができ、産業廃棄物の減量が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明をより詳細に説明する。
1.イカ表皮の処理
イカ表皮由来のコラーゲンを製造するためのアメリカオオアカイカは、鮮度の高いものであれば、生のままでもあるいは冷凍状態のものでもよい。
表皮をイカから剥離し、さらに、色素胞を含む表皮上層と色素胞を含まない表皮下層に分離する。表皮、表皮上層および表皮下層は、凍結保存することにより、長期間保存することが可能である。なお凍結保存温度は、−20℃以下が好ましい。
【0014】
2.表皮下層を原料とする不溶性コラーゲンの調製
白色度の高いコラーゲンを調製する際の出発原料としては、上記の表皮下層を用いる。表皮下層は、このまま用いてもよいが、当該原料の表面積を大きくするために、細断し、もしくは破砕処理を施した後にコラーゲン調製に用いても差し支えない。
【0015】
不溶性コラーゲンの調製は、以下のように行う。まず、表皮下層を水で洗浄した後、所定濃度の水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム水溶液に浸漬する。水酸化ナトリウム等の濃度は0.1〜1M程度とし、また浸漬処理に用いる水溶液量は、表皮下層湿重量の2倍以上、好ましくは5倍量程度とする。浸漬処理により、混入した色素、可溶性蛋白質等のコラーゲン以外の夾雑成分を溶出させる。浸漬はコラーゲンの変性を防ぐのに充分な低温で行うことが望ましい。たとえば、15℃以下で12時間以上行う、などである。また、浸漬液を数時間毎に新しい溶液に替えながら洗浄を行うことによって、洗浄効果を高めることができる。
【0016】
水酸化ナトリウム水溶液等による洗浄を施した表皮下層は、さらに水で洗浄して水酸化ナトリウム等を除去し、コラーゲンを不溶物として回収する。以上の処理により、天然の構造を有する不溶性のイカ表皮由来のコラーゲンが得られる。得られた不溶性コラーゲンは、凍結乾燥などの適宜の技術を用いて粉末化することができる。
【0017】
3.不溶性コラーゲンの可溶化、精製
上記2.で得られた不溶性コラーゲンに対して、その出発原料として用いた表皮下層の湿重量以上の量の0.1〜0.5M酢酸水溶液を加え、ミキサー等で破砕する。ついで、表皮下層湿重量の1/1000量のペプシンを加え、撹拌しながら、不溶物が消失するまで分解処理を行う。このペプシン処理はコラーゲンの変性を抑えるために15℃以下で行う。この処理により、コラーゲン分子末端にあり、コラーゲン分子間の架橋に関わっているテロペプチド部分が分解され、分子量およそ30万のアテロコラーゲンとして可溶化される。
【0018】
得られた処理物は、そのままで、凍結乾燥などの適宜の技術を用いて粉末化することができる。また、処理終了後、水酸化ナトリウム等を用いてpH8〜9に調整し、ペプシンを不活性化することができる。この不活性化処理もコラーゲンの変性を防ぐのに充分な低温で行うことが望ましい。たとえば、15℃以下で12時間以上行う、などである。また、アルカリ性とした後、1時間以上放置することが望ましい。
【0019】
さらには、可溶化した処理物に対して、透析、分画分子量1万〜10万の限外ろ過膜を用いた限外ろ過あるいは各種クロマトグラフィー等といった蛋白質精製技術のいずれかを、もしくは適宜これらを組み合わせて適用することにより、残存するテロペプチドやペプシン、塩類が除去されたより高純度のアテロコラーゲンとすることも可能である。得られた精製アテロコラーゲンも上記と同様に凍結乾燥などの適宜の乾燥技術を用いることによって粉末化することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
<1−1 アメリカオオアカイカ表皮下層の分離>
漁獲後、冷凍保存されたアメリカオオアカイカから表皮を剥離し、さらに、色素胞を含む表皮上層と色素胞を含まない表皮下層に分離して、それぞれ回収した。表皮湿重量中、表皮上層および表皮下層の湿重量は同程度であった。
表皮下層および表皮上層を水で洗浄後、凍結乾燥した結果、いずれも湿重量のおよそ13%の乾燥物が得られた。それぞれの凍結乾燥粉末を酸加水分解後、アミノ酸を分析した。酸加水分解は、試料を6M塩酸に懸濁し、減圧脱気した後封管し、110℃で20時間加熱して行い、アミノ酸分析装置(日本電子製JLCー500/V)により分析した。
表1に、アメリカオオアカイカ表皮下層乾燥粉末の蛋白質構成アミノ酸の量と組成を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示したように、表皮下層および表皮上層のいずれも、凍結乾燥粉末のおよそ68%が蛋白質であることがわかった。また、いずれもコラーゲンに特徴的なアミノ酸であるグリシン、ハイドロキシリジン、ハイドロキシプロリンが同程度検出されていることから、表皮上層、表皮下層に同程度のコラーゲンが含まれていることが推定された。
【0023】
<1−2 不溶性コラーゲンの調製>
前記1−1の方法によって回収したアメリカオオアカイカ表皮下層を原料として、以下のように不溶性コラーゲンの調製を行った。
調製は、全て4℃で行った。表皮下層(湿重量200g)を5Lの1M水酸化ナトリウム水溶液に16時間浸漬し、水道水で洗浄して水酸化ナトリウムを除去した後、1Lの0.5M酢酸を加えて酢酸酸性とし、不溶物としてコラーゲンを得た。この不溶物に湿重量と等量の0.5M酢酸水溶液を加えてミキサーにより破砕した。
【0024】
得られた表皮下層の破砕物(不溶性コラーゲン)は、目視観察により色素の混入が認められなかった。また、測色色差計を用いて定法によりハンター白色度を測定した。
表2に、実施例1と後述する各比較例について、測色色差計により測定された明度L、彩度a、bおよびハンター白色度を示す。表2に示すように実施例1の不溶性コラーゲンでは、ハンター白色度は70以上もの高い値を示した。後述する各比較例が30前後であり、本発明方法による白色度が著しく高いものであることが示された。
【0025】
【表2】

【0026】
得られた不溶性コラーゲンを凍結乾燥したところ7%の乾燥物が得られた。この乾燥物について、<1−1>に記載の方法と同様に、加水分解後アミノ酸組成を分析した。
表3に、表皮下層不溶性コラーゲンの蛋白質構成アミノ酸の量と組成を示す。表に示されるように、得られた不溶性コラーゲンからは、コラーゲンに特徴的なアミノ酸であるグリシン、ハイドロキシリジン、ハイドロキシプロリンが検出された。回収されたアミノ酸の総量から不溶物中の蛋白質はおよそ70%であった。また、ハイドロキシプロリン含量を指標としたコラーゲンの回収率は90%であり、このことから、イカ表皮コラーゲンはこの浸漬処理条件ではほとんど溶出せず、不溶物として効率良く回収されたことがわかった。蛋白質量に占めるコラーゲンの割合が上昇しており、これらの工程が、容易にイカ表皮コラーゲンを高純度化できる手法として有効であることがわかった。
【0027】
【表3】





















【0028】
<実施例2>
<2−1 アテロコラーゲンの調製>
前記の方法で調製した不溶物(不溶性コラーゲン)に湿重量と等量の0.5M酢酸水溶液を加えてミキサーにより破砕した。ついで、2gのペプシンを加え、撹拌しながら3日間分解処理を行った。得られた処理物を分画分子量10万の限外ろ過膜(VIVAFLOW)を用いてろ過した。膜を通過しない高分子画分(アテロコラーゲン)に0.5M酢酸水溶液を加えて、再度、上記の限外ろ過を行うことにより洗浄した。この洗浄をさらに5回繰り返した後、洗浄液を0.5M酢酸水溶液から蒸留水に替えて、同様に6回繰り返した。膜を通過しない高分子画分を回収し、凍結乾燥した結果、13gの乾燥物が得られた。
【0029】
この乾燥物について、<1−1>に記載の方法と同様にアミノ酸分析を行った。
表4に、表皮下層アテロコラーゲンの蛋白質構成アミノ酸の量と組成を示す。表に示されるように、アテロコラーゲンからは、コラーゲンに特徴的なアミノ酸であるグリシン、ハイドロキシリジン、ハイドロキシプロリンが検出された。回収されたアミノ酸の総量から、不溶物中の蛋白質は少なくとも75%であった。また、ハイドロキシプロリン含量を指標としたコラーゲンのもとの表皮下層からの回収率は90%であり、高収率でアテロコラーゲンが回収されたことがわかった。
【0030】
【表4】





















【0031】
回収されたアテロコラーゲンについて、4−15%濃度勾配ゲルを用いてSDSーポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE、 アマシャム製PhastSystem)による蛋白質成分の分析を行った。泳動後の染色はCBB染色とした。
図1は、実施例1により得られたアテロコラーゲンのタンパク質成分分析のため行ったSDS−PAGEにおける電気泳動パターンの写真である。図示されるように、分子量およそ11万と20万のバンドが主要なバンドとして観察された。分子量11万付近のバンドはアテロコラーゲンを構成するα鎖(単量体)であり、20万付近のバンドはβ鎖(2量体)と推定された。この泳動像およびアミノ酸組成から、高純度で白色度の高いイカ表皮コラーゲンが調製されたことが明らかとなった。
【0032】
<比較例1 アメリカオオアカイカ表皮全体を原料とするコラーゲンの調製>
アメリカオオアカイカ表皮を表皮上層と表皮下層に分離せず、表皮全体を原料として、実施例1の<1−1>に記載の手法で不溶性コラーゲンを調製した。調製は全て4℃で行った。1M水酸化ナトリウム水溶液浸漬によって、色素胞を含む表皮上層から色素は次第に溶出するが、溶出した色素は、色素を含まない表皮下層にも浸透している様子が観察された。1M水酸化ナトリウム水溶液に浸漬したことによって、浸漬液への色素の溶出は見られたが、不溶性コラーゲンに残存する色素のため、色調は濃い赤紫色となった。前掲表2に示したハンター白色度の値も約30と、低かった。
【0033】
また、実施例1の<1−3>に記載の手法で不溶性コラーゲンからアテロコラーゲンを調製し、分画分子量10万の限外ろ過膜を用いてろ過することにより色素の除去を試みたが、色素のろ過膜透過はみられず、高分子画分(アテロコラーゲン)の色調にも変化はみられなかった。このことは、色素とコラーゲンの結合状態は不明であるが、両者は溶液中で挙動を共にし、色素のみの除去は困難であることを示すものである。
【0034】
<比較例2 アメリカオオアカイカ表皮からの色素の除去>
アメリカオオアカイカ表皮のコラーゲン調製に際して、色素の除去を目的として0.1M水酸化ナトリウム水溶液を使用した例(後掲参考文献)があることから、その効果の如何を確認するため、該文献開示の方法に則り、アメリカオオアカイカ表皮を表皮上層と表皮下層に分離せず、表皮全体を原料として色素の除去を試みた。すなわち、湿重量の5倍量の0.1M水酸化ナトリウム水溶液を3度交換しながら、延べ8日間浸漬した。そして、実施例1記載の方法により不溶性コラーゲンを調製した。しかし、0.1M水酸化ナトリウム水溶液浸漬によって色素は除かれているものの、前掲表2に示したようにハンター白色度は約26しかなく、得られたコラーゲンの白色度は低いものであった。
(参考文献:E.Mendis et al., Life Sciences, 77(2005)2166−2178)
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、高純度で白色度の高いアメリカオオアカイカ表皮由来の未変性高分子コラーゲンを簡易に、かつ安価に製造可能であり、未変性高分子のコラーゲン、熱変性したゼラチンあるいは低分子化したコラーゲンペプチドの状態で健康食品、香粧品等の素材として利用できる。また、原料となるアメリカオオアカイカ表皮は、食品廃棄物として処分されている現状にあり、食品廃棄物の減量、ひいては環境保全に貢献するものであり、産業上利用性が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1により得られたアメリカオオアカイカ表皮下層アテロコラーゲンのタンパク質成分分析のため行ったSDS−PAGEにおける電気泳動パターンの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アメリカオオアカイカ表皮から表皮上層を取り除いて表皮下層のみを原料とし、該表皮下層をアルカリ水溶液により洗浄することによって不溶性コラーゲンを得ることを特徴とする、アメリカオオアカイカ表皮からのコラーゲン製造方法。
【請求項2】
アメリカオオアカイカ表皮から表皮上層を取り除いて表皮下層のみを原料とし、該表皮下層をアルカリ水溶液により洗浄することによって不溶性コラーゲンを得、さらに、該不溶性コラーゲンに対してペプシン分解処理を行ってアテロ化することにより可溶性のコラーゲンとして回収することを特徴とする、アメリカオオアカイカ表皮からのコラーゲン製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−220264(P2008−220264A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63038(P2007−63038)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(591005453)青森県 (52)
【出願人】(502043237)あけぼの食品株式会社 (3)
【出願人】(507082002)中水青森中央水産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】