説明

コラーゲンゲル収縮促進剤

【課題】腐植土抽出物を有効成分とするコラーゲンゲル収縮促進剤およびこれを含有する皮膚外用剤ならびにコラーゲンゲル収縮促進剤の提供。
【解決手段】腐植抽出物を有効成分とするコラーゲンゲル収縮促進剤;。水及びアルコール類から選ばれる1種以上のもので抽出し得られるものが好適である;前記腐植土抽出物が、フミン質を100mg/L以上含有したものが好適である;前記腐植土抽出物の配合量が、固形分濃度として0.0001〜0.1質量%であるのが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐植土抽出物を有効成分とするコラーゲンゲル収縮促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は外側から順に表皮、真皮、皮下組織の3つの層から構成されており、その中でも真皮は最も広い領域を占めている。真皮層は線維芽細胞とその周囲を密に取り囲むように存在するコラーゲンやエラスチンなどのタンパク質、フィブロネクチンなどの糖タンパク質、ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン等から成る細胞外マトリックスから構成されている。線維芽細胞は必要に応じて細胞外マトリックス構成成分の生成と分解を行い、あるいは細胞外マトリックス構成成分と物理的に相互作用してその状態をコントロールし、皮膚の弾力やハリなどを保っている。加齢に伴い皮膚は弾力の低下やたるみやシワの発生等のいわゆる老徴を示すが、これらの形態的あるいは物理的変化は、皮膚の物理的構造やハリ、弾力を主に担っているゲル状の真皮細胞外マトリックスの分解生成バランスおよび構造変化に伴って収縮力が低下することが原因のひとつと考えられている。
【0003】
I型コラーゲンゲル中に線維芽細胞を包埋し通常の培養条件下で培養を行うと、コラーゲンゲルの体積が収縮する現象が観察される。(非特許文献1等)。コラーゲンゲル収縮の程度は細胞数が多いほど、あるいは培地中の血清濃度が高いほど大きいことが知られている。また、高齢者由来の線維芽細胞では若齢者由来の線維芽細胞と比較してゲルの収縮能力が低下することが明らかになっている。したがって真皮線維芽細胞包埋コラーゲンゲルの収縮促進能力の測定は、加齢に伴う真皮の弾力やハリ、たるみ予防改善用薬剤の評価方法として用いられている。
【0004】
コラーゲンゲルの収縮を促進する薬剤としては、りんご由来のポリフェノールやイチョウ、カミツレ、ローズマリーなどが開示されている(例えば特許文献1および2)。しかしながらいずれも、効果、安全性、安定性、経皮吸収性、価格等の観点において必ずしも十分であるとは言えなかった。
【0005】

ところで、腐植土は、地上植物、大型・微細藻類などの植物(広義)や魚介類及びその他無機物が、海、沼、池や湖の底部に堆積したものやこれが地表に隆起したもの、また森林の地表部に堆積したもの等のように植物(広義)などやこれを含む堆積物が、長い年月の間に嫌気性微生物等により分解、有機化を受けたものである。
この腐植土の水抽出物製造法に関する技術が知られている(特許文献3及び特許文献4参照)。また、腐植土抽出液には、殺菌の効用や毛髪の損傷低減の効用が知られている(特許文献5及び特許文献6参照)。しかしながら、腐植土抽出物の効用は、未だ不明な点が多く、コラーゲンゲル収縮促進作用を持つことや、皮膚のたるみ又はシワ予防改善用途に好適であることに関してはこれまで開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−254667
【特許文献2】特開2003−176208
【特許文献3】特開2000−136140号公報
【特許文献4】特開2006−181460号公報
【特許文献5】特開2003−267821号公報
【特許文献6】特開2010−270063号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E.Bell et al. J. Invest. Dermatol.,81,2s(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、コラーゲンゲルの収縮を促進する薬剤を提供することを課題とする。また本発明は、皮膚に適用することによって皮膚のたるみやシワを予防及び/又は改善しうる化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情に鑑み前記課題を解決するため発明者らは鋭意検討を行った結果、腐植土抽出物に優れたコラーゲンゲル収縮促進能力を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明のコラーゲンゲル収縮促進剤は、真皮に見られるようなコラーゲンゲル構造の収縮を促進することが可能である。また本発明のコラーゲンゲル収縮促進剤を含有する皮膚外用剤や化粧料は、加齢に伴う皮膚の弾力およびハリの低下、シワ、たるみの予防及び/又は改善に利用することができる
【0010】
【発明の効果】
【0011】
本発明のコラーゲンゲル収縮促進剤または、コラーゲンゲル収縮促進剤を配合した皮膚外用剤や化粧料を皮膚に塗布することによって、線維芽細胞―コラーゲンマトリクスゲル構造の収縮を促し、加齢に伴う皮膚の弾力およびハリの低下や、シワ、たるみを予防及び/又は改善することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用する腐植土抽出物の腐植土は、産地、状態を問わずいずれのものも使用することができる。具体的には、この腐植土として、例えば、森林、河川、湖沼、海洋などを起源とするものを使用することが可能であり、この腐植土とは、そこで生息していた地上植物、大型・微細藻類などの植物(広義)などやこれを含む堆積物が、嫌気性微生物などにより分解、合成、有機化を受けたものである。このうち、海洋でできた堆積物を起源とする腐植土、より好ましくは海洋でできた堆積物が隆起してなったような日本列島由来の腐植土であり、更に九州由来の腐植土が好ましい。
この腐植土の腐植の程度も特に限定されないが、腐植が進行し、高分子有機化合物であるフルボ酸やフミン酸が含まれるものが好ましい。
【0013】
本発明で使用する腐植土抽出物は、抽出手段にて前記腐植土を抽出溶媒に接触させて、皮膚のたるみ又はシワの予防改善およびコラーゲンゲル収縮促進に作用効果のある成分を得、これを回収することによって得られる。更に、不要物除去や除菌のため、ろ過手段を行うのが好ましい。
斯様にして得られた腐植土抽出物は、必要に応じて、希釈、濃縮や乾燥を行ったり、また不純物除去等のため分離や精製等を行ってもよい。
前記腐植土抽出物の形態としては、特に限定されず、例えば、固体状、半固体状や液状が挙げられる。具体的には、例えば、溶液、懸濁液、濃縮液、エマルジョン、スラリー、粉末、顆粒及び固形などの状態が挙げられる。
【0014】
好適な腐植土抽出物を製造する方法の一例として、前記腐植土に、抽出溶媒を加えて混合攪拌後、有効成分を分離することなどによって腐植土抽出物を得ることなどが挙げられる。
【0015】
前記抽出手段としては、固液抽出、液液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超臨界流体抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、混合攪拌等が挙げられる。これらを適宜組み合わせてもよい。
また、前記分離手段としては、特に限定されないが、例えば、ろ過分離手段や遠心分離手段などが挙げられる。これらを単独で又は組み合わせて使用してもよい。
ろ過分離手段としては、自然ろ過、減圧ろ過及び加圧ろ過などが挙げられる。このとき、セルロースフィルター、ガラス繊維フィルター、メンブランフィルターなどのろ材を用い、必要に応じてセライト、砂利及び活性炭などのろ過助剤を用いる。孔径は特に限定されないが、例えば0.1〜1μmが好適である。これらを適宜組み合わせてもよい。
また、抽出に先立って行う腐植土の乾燥や前処理の有無及び方法に特に限定はなく、また腐植土と溶媒との割合、抽出時間などといった抽出手段に特に限定はない。
【0016】
前記抽出溶媒としては、特に限定されず、極性溶媒又は非極性溶媒の何れも使用してもよい。この抽出溶媒としては、例えば、水(温泉水、海洋深層水などのミネラル分を含む水や精製水等);直鎖、分岐鎖又は環状のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテルなどの炭化水素類;トルエンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;及び超臨界二酸化炭素などが挙げられる。なお、これらは単独で又は2種以上組み合わせた混合溶媒として使用してもよい。また、有機溶媒は水溶性のものが、好適である。
【0017】
前記抽出溶媒のうち、水、アルコール類、ケトン類及び超臨界二酸化炭素から選ばれる1種以上のものが好ましい。それらのうちでも、水及びアルコール類から選ばれる1種以上のものが好ましく、例えば、水、アルコール類及び水とアルコール類との混液が挙げられる。
【0018】
ここで、前記アルコール類は、一価又は多価アルコール類の何れでもよく、一価アルコル類としては、例えば、メタノール、エタノール及びプロパノールなどが挙げられ、多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、グリセリン及びジプロピレングリコールなどが挙げられる。
前記アルコール類のうち、例えば、エタノール及び1,3−ブチレングリコールなどの炭素数1〜5の低級アルコール類が好ましく、このうち低級一価アルコール類が好ましく、このうち更にエタノールが好ましい。
【0019】
このうち、更に、水及び水アルコール類混液が好適である。具体的には、アルコール類を0〜90容量%含む水溶液が好適であり、好ましくは0〜70容量%、より好ましくは0〜50容量%、更に好ましくは0〜20容量%を含む水溶液が好適である。
【0020】
前記溶媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、腐植土(乾燥状態)100kgに対して、100〜1000Lとするのが好ましく、200〜600Lとするのがより好ましく、腐植土成分の抽出効率及び作業効率の点で、好適である。
【0021】
前記抽出期間は、特に限定されないが、好ましくは1日〜3年間、より好ましくは10〜180日間とする。
このときの腐植土と抽出溶媒との混合攪拌は、特に限定されないが、例えば、0.5〜48時間程度行えばよい。これにより腐植土と抽出溶媒が接触し、有効成分を抽出しやすくなる。また、連続又は不連続に混合攪拌を行えばよい。
例えば、混合撹拌した後、更に一定期間混合攪拌する若しくは一定期間混合攪拌後放置するか、又は放置して熟成させるのが、抽出効率の点で、好適である。混合攪拌後に放置することで腐植土が沈降し、分離の際に有利であるため、好ましい。
例えば、前記抽出期間内(例えば1日〜3年間)、連続又は不連続に混合攪拌を行う;1〜24時間混合攪拌後、1〜60日間(好適には20〜40日間)放置する;1〜24時間混合攪拌後、引き続き1〜20日間(好適には3〜9日間)混合攪拌した後、1日〜3年間(好適には6ヶ月〜2年間)放置するなどが挙げられる。
【0022】
前記抽出温度は、特に限定されず、好ましくは低温〜高温(例えば、0〜100℃程度)、より好ましくは低温(例えば、0〜9℃程度)〜常温(例えば、10〜40℃程度)とするのが、腐植土を熱変性させないために、好適である。
【0023】
なお、抽出に先立って行う腐植土の乾燥としては、天日乾燥、自然乾燥、風乾燥、熱乾燥、凍結乾燥などが挙げられ、腐植土が熱変性しない乾燥であれば好適である。このとき、腐植土が微粉砕できる程度に乾燥するのが望ましく、粉砕することによって腐植土の抽出効率が向上するので、好適である。
【0024】
前記腐植土抽出物には、フルボ酸、フミン酸などの腐植土壌特有の構成物質(フミン質など)や、脂肪酸、有機酸、アミノ酸、タンパク質、ミネラルなどが含まれている。なお、腐植土抽出物は、除菌用フィルターを用いてろ過されているものが、腐植土が熱変性されず、また不溶性物質などが除去されているので、好ましい。
【0025】
前記腐植土抽出物には、固形分濃度0.5質量%水溶液換算したときに、フミン質が、少なくとも100mg/L以上、好ましくは100〜1000mg/L、より好ましくは200〜700mg/L、更に350〜650mg/L含まれているのが好適である。
ここで、フミン質(腐植質)とは、例えば、植物成分などが土壌中に分解、縮合して生成する高分子物質を指す。ここで、フミン質は、鉱泉試験法の腐植質測定法記載の方法で測定した場合の値である。
【0026】
前記腐植土抽出物には、固形分濃度0.5質量%水溶液換算したときに、フミン酸が、好ましくは0.1〜15mg/L、より好ましくは1〜10mg/L、更に好ましくは2〜8mg/L、より更に好ましくは5〜8mg/L含まれているのが好適である。
前記腐植土抽出物には、固形分濃度0.5質量%水溶液換算したときに、フルボ酸が、好ましくは1〜20mg/L、より好ましくは5〜15mg/L、更に好ましくは5〜13mg/L、より更に好ましくは8〜13mg/L含まれているのが好適である。
このときのフミン酸:フルボ酸の混合割合は、特に限定されないが、好ましくは1:10〜10:1とするのが好適である。
【0027】
ここで、フミン酸は、腐植物質のうちアルカリ可溶で酸性領域で沈殿するものを指す。詳細な化学構造は不明であるが、多価フェノール形の芳香族化合物と含チッ素化合物との縮合物であり、フェノール性水酸基およびカルボキシル基を有するとされている。
また、フルボ酸とは、植物などが微生物により分解される最終生成物である腐植物質のうち、酸によって沈殿しない無定形高分子有機酸を指すものであり、重金属などを吸着、放出するキレート作用をもつものである。
また、フミン酸及びフルボ酸の定量方法は、「Soil Science Plant Nutrition, 38巻, 23-30頁(Kuwatsuka A et al. 1992);
Soil Science Plant Nutrition, 40巻, 601-608頁(Watanabe A. et al. 1994);Humic
Substances Reseacrh, 1巻, 18-28頁(Watanabe A. et al. 2004)」等の参考文献に従って行えばよい。
【0028】
前記腐植土抽出物のpHは、酸性領域、好ましくはpH1〜6、より好ましくはpH2〜5とするのが、薬理活性及び安定性の点で、好適である。このとき、固形分濃度0.1〜1質量%水溶液とし、20℃で適宜pH調整剤にて調整してもよい。
前記pH調整剤としては、通常使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、リン酸などの無機酸類;クエン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、尿素、ε−アミノカプロン酸、ピロリドンカルボン酸などの有機酸類;グリシンベタイン、リジンベタインなどのベタイン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物(アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物など)などの無機アルカリ類;グアニジン、2−アミノ−2−メチルプロパンなどの有機アミン類;アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン;アルギニン、リジンなどの塩基性アミノ酸など、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
本発明のコラーゲンゲル収縮促進剤を単独で、又は1種以上の公知の外用医薬用添加剤又は化粧料用添加剤とともに常法に従って配合することによって、皮膚用外用剤又は化粧料を調製することができる。本発明のコラーゲンゲル収縮促進剤の配合量は、外用剤、化粧料の剤形、使用目的等によって異なるが一般的には最終組成物中に乾燥固形分濃度0.5%水溶液換算で0.01質量%〜20質量%(以下単に%とする)が好ましく、さらに好ましくは0.1%〜10%であり、最も好ましくは1〜5%である。この範囲内であれば皮膚への安全性や、保存安定性、使用感等を損なうことなく、コラーゲンゲル収縮促進効果を発揮し、皮膚のシワ、たるみの予防改善に十分な効果を得ることができる。
【0030】
本発明の皮膚外用剤又は化粧料には、本発明のコラーゲンゲル収縮促進剤以外に、本発明の効果を妨げない質的、量的範囲で、化粧料や外用医薬品の製剤に一般的に用いられる、水(精製水、温泉水、深層水等)、アルコール、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、肌荒れ抑制または改善剤、刺激緩和剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等が挙げられる。皮膚外用剤の調製は、常法に従って行うことができ、前記添加剤の配合量も本発明の効果を損なわない範囲で、常法に従って決定することができる。
【0031】
前記皮膚用外用剤又は化粧料の形態については限定されず、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、ジェル、洗顔料、メーキャップ化粧料等の皮膚用化粧料に属する形態;及び分散液、軟膏、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等の外用医薬品の形態;のいずれであってもよい。
【0032】
前記腐植土抽出物の配合量は、前記製剤中、固形分濃度として0.0001〜1質量%、好ましくは0.0001〜0.1質量%とするのが、効用の点で好適である。このような量で使用するのが、好適である。
また、 前記製剤のpH(25℃)は、好ましくは、酸性〜中性領域であり、より好ましくは2〜7、更に好ましくは3〜7とするのが、効用の点で好適である。このようなpHにて肌に使用するのが、好適である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例
に限定されることはない。
【0034】
<腐植土抽出物の製造例1>
地中(九州地方海岸付近土壌)から採取した腐食土壌を乾燥させた後、微粉砕した。この粉砕物5kgと、精製水20リットルを2時間混合攪拌し、更に常温(10〜30℃程度)で7日間撹拌し、20日間静置した。静置後、メンブランフィルター(孔径0.45μm)を用いてろ過し、腐植土抽出物(原液)を得た。このときのpH(20℃)は3.0であった。また、この乾燥固形分(固形分濃度)は0.4質量%であった。
この原液に含まれるフミン質の総量は520mg/L(乾燥固形分5g/水1Lの水溶液換算としたとき、650mg/L)であり、フミン酸及びフルボ酸の含有量は、それぞれ6mg/L及び10mg/L(乾燥固形分5g/水1Lの水溶液換算としたとき、それぞれ7.5mg/L及び12.5mg/L)であった。この水溶液を、製造例1の腐植土抽出物とした。
【0035】
<腐植土抽出物の製造例2>
地中(長崎県水田)から採取した腐食土壌を乾燥させた後、微粉砕した。この粉砕物5kgと、20%(v/v)エタノール含有のエタノール水溶液20リットルを2時間混合攪拌し、更に冷暗所(4℃程度)にて20日静置して、熟成させた。静置後、メンブランフィルター(孔径0.3μm)を用いてろ過し、腐食土抽出物(原液)を得た。このときのpH(20℃)は2.6であった。また、この乾燥固形分(固形分濃度)は0.5質量%であった。
この原液に含まれるフミン質の総量は350mg/L(乾燥固形分5g/水1Lの水溶液換算としたとき、350mg/L)、フミン酸及びフルボ酸の含有率は、それぞれ5mg/L及び8.5mg/L(乾燥固形分5g/水1Lの水溶液換算としたとき、それぞれ5mg/L及び8.5mg/L)であった。この水溶液を、製造例2の腐植土抽出物とした。
【0036】
これらのフミン酸及びフルボ酸の定量方法は、上述の参考文献「Soil Science Plant Nutrition, 40巻, 601-608頁(Watanabe A. et al. 1994)に従って、行った。
【0037】
コラーゲンゲルの作成は新田ゼラチン社製Cellmatrixを用い常法に従って行った。すなわち、(a)0.3%タイプIコラーゲン溶液、(b)5倍濃度のDMEM2(10%FBS含有 ニッスイ製薬製)、(c)22mg/ml炭酸水素ナトリウムと20mM HEPESを含有する0.05N水酸化ナトリウム溶液を調整し、氷冷下で(a)〜(c)を混合してコラーゲンゲル溶液を作成した。次いで氷冷下で、コラーゲンゲル溶液にヒト由来真皮線維芽細胞(クラボウ社製)を最終細胞濃度5×10個/mlになるように加え、6穴プレートに1.5mlづつ分注した。これを37℃、5%COの細胞培養環境下に静置しコラーゲン溶液をゲル化させた。ゲル化1時間後に製造例2の腐植土抽出物液含有DMEM培地(1%FBS含有)を静かに加え、さらに24時間後にプレート壁面からゲルを剥離し培地中に線維芽細胞包埋コラーゲンゲルを浮遊させた状態で培養を行った。また、コントロールとして、腐植土抽出物液を添加しない通常の1%FBS含有DMEMを用いた。試験は実施例、コントロールそれぞれN=3で行い培養8日目のコラーゲンゲルの直径を測定し、両側t検定を行った。また、N=3の平均値を用いて以下の式からコラーゲンゲル収縮促進率(%)を算出した。

コラーゲンゲル収縮促進率(%)=(1−S/C)×100
(S)=腐植土抽出物含有培地で培養した線維芽細胞包埋コラーゲンゲルの直径
(C)=コントロール培地で培養した線維芽細胞包埋コラーゲンゲルの直径
【0038】
線維芽細胞包埋コラーゲンゲルをそれぞれ腐植土抽出物液含有培地およびコントロール培地で培養した場合の培養8日目のゲル直径および、上記計算式から算出したコラーゲンゲル収縮促進率を表1に示した。腐植土抽出物液は線維芽細胞包埋コラーゲンゲルの収縮を統計的有意に促進した。したがって、腐植土抽出物液はコラーゲンゲル収縮促進効果を有し、老化に伴う皮膚の弾力低下やたるみ、シワの予防改善に好適であることが示された。
【0039】
【表1】

【0040】
[例3:化粧水]
(成分) (%)
1 グリセリン 5.0
2 1,3−ブチレングリコール 10.0
3 乳酸 0.05
4 乳酸ナトリウム 0.1
5 モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.2
6 エタノール 8.0
7 パラオキシ安息香酸メチル 0.1
8 香料 0.05
9 製造例1の腐植土抽出物 10.0
10 精製水 残量

【0041】
(製造方法)
A:成分(5)〜(8)を混合溶解する。
B:成分(1)〜(4)及び(9)〜(10)を混合溶解する。
C:BにAを添加混合し、化粧水を得た。
【0042】
[例4:乳液]
(成分) (%)
1 モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.0
2 トリオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.5
3 グリセリルモノステアレート 1.0
4 ステアリン酸 0.5
5 ベヘニルアルコール 0.5
6 スクワラン 8.0
7 カルボキシビニルポリマー 0.1
8 パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9 水酸化ナトリウム 0.05
10 エタノール 5.0
11 製造例2の腐植土抽出物 5.0
12 精製水 残量
13 香料 0.05

【0043】
(製造方法)
A:成分(12)に成分(7)〜(9)を加えて70℃で均一に混合する
B:成分(1)〜(6)を70℃で均一に混合する。
C:AにBを加えて乳化し、室温まで冷却する。
D:(10)、(11)、(13)をそれぞれ加えて均一に混合し、乳液を得た。
【0044】
[例5:リキッドファンデーション(水中油型クリーム状)]
(成分) (%)
1 アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体(注1) 0.5
2 トリエタノールアミン 1.5
3 精製水 残量
4 グリセリン 5.0
5 パラオキシ安息香酸エチル 0.1
6 1,3ブチレングリコール 5.0
7 水素添加大豆リン脂質 0.5
8 酸化チタン 5.0
9 ベンガラ 0.1
10 黄酸化鉄 1.0
11 黒酸化鉄 0.05
12 ステアリン酸 0.9
13 モノステアリン酸グリセリン 0.3
14 セトステアリルアルコール 0.4
15 モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.2
16 トリオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.2
17 パラメトキシケイ皮酸2―エチルヘキシル 5.0
18 製造例1の腐植土抽出物 0.01
19 香料 0.02
(注1)ペミュレンTR−2(NOVEON社製)
【0045】
(製造方法)
A:成分(6)〜(11)を分散する。
B:Aに成分(12)〜(17)を加え70℃で均一に混合する。
C:成分(1)〜(5)を70℃で均一に混合する。
D:CにBを加え乳化し、室温まで冷却する。
E:Dに成分(18)、(19)を添加し均一に混合して水中油型クリーム状リキッドファンデーションを得た。
【0046】
[例6:日焼け止め化粧料(油中水型クリーム状)]
(成分) (%)
1 モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.2
2 POE(60)硬化ヒマシ油 0.1
3 精製水 残量
4 製造例2の腐植土抽出物 0.1
5 ジプロピレングリコール 10.0
6 硫酸マグネシウム 0.5
7 シリコーン化合物(注2) 3.0
8 デカメチルシクロペンタシロキサン 20.0
9 イソノナン酸イソトリデシル 5.0
10 パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル 8.0
11 グリチルレチン酸ステアリル 0.5
12 ジメチルステアリルアンモニウムヘクトライト 1.2
(注2)KF−6028(信越化学工業社製)
【0047】
(製造方法)
A:成分(1)〜(6)を均一に分散する。
B:成分(7)〜(12)を均一に分散する。
C:Bを攪拌しながら徐々にAを加えて乳化し、油中水型クリーム状日焼け止め化粧料を得た。
【0048】
[例7:軟膏剤]
(成分) (%)
1 ステアリン酸 18
2 セタノール 4
3 グリチルリチン酸ステアリル 0.5
4 酢酸dl−α―トコフェロール(注3) 0.2
5 パラオキシ安息香酸メチル 0.1
6 トリエタノールアミン 2
7 グリセリン 5
8 精製水 残量
9 製造例1の腐植土抽出物 1
(注3)エーザイ社製
【0049】
(製造方法)
A.成分(6)〜(8)を加熱混合し、75℃に保つ。
B.成分(1)〜(5)を加熱混合し、75℃に保つ。
C.AにBを徐々に加え、これを冷却しながら成分(9)を加えて混合し、軟膏剤を得た。
【0050】
[例8:ローション剤]
(成分) (%)
1 ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタンモノラウリン酸エステル 1.2
2 エチルアルコール 8.0
3 パラオキシ安息香酸メチル 0.2
4 グリセリン 5.0
5 1,3−ブチレングリコール 6.5
6 製造例2の腐植土抽出物 20.0
7 アラントイン(注4) 0.2
8 精製水 残量
(注4) メルク社製
【0051】
(製造方法)
A.成分(1)〜(3)を混合溶解する。
B.成分(4)〜(8)を混合溶解する。
C.AとBを混合して均一にし、ローション剤を得た。
【0052】
調製した化粧水、乳液、リキッドファンデーション、日焼け止め化粧料、軟膏剤、ローション剤は、いずれも変色・変臭および沈殿物などがなく、安定であり、皮膚に適用可能であった。これらの化粧料は線維芽細胞包埋コラーゲンゲルの収縮を促進し、皮膚のたるみやシワの予防改善に有効であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のたるみ又はシワ予防改善用化粧料ならびにコラーゲンゲル収縮促進剤コラーゲンゲル収縮促進剤又はこれを含有する皮膚外用剤ならびに化粧料は、コラーゲンゲルを収縮し、加齢に伴う皮膚の弾力低下やたるみ、シワの予防及び/又は改善用に用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐植土抽出物を有効成分とするコラーゲンゲル収縮促進剤。
【請求項2】
皮膚のたるみ又はシワ予防改善用化粧料である請求項2記載のコラーゲンゲル収縮促進剤。
【請求項3】
前記腐植土抽出物が、水及びアルコール類から選ばれる1種以上のもので抽出して得られる請求項2又は3記載のコラーゲンゲル収縮促進剤。
【請求項4】
前記腐植土抽出物が、水溶液としたときにフミン質を100mg/L以上含有するものである請求項2〜4の何れか1項記載のコラーゲンゲル収縮促進剤。
【請求項5】
前記腐植土抽出物の配合量が、固形分濃度として0.0001〜0.1質量%である請求項2〜5の何れか1項記載のコラーゲンゲル収縮促進剤。


【公開番号】特開2012−171921(P2012−171921A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35564(P2011−35564)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】