説明

コラーゲンペプチドの製造方法

【課題】短時間でコラーゲンペプチドが大量に得られ、しかも着色していないコラーゲンペプチドが得られる、コラーゲンペプチドの製造方法を提供する。
【解決手段】コラーゲン含有原料またはコラーゲンを過酸化水素の存在下で加熱することを特徴とする、着色が抑制された、あるいは着色していないコラーゲンペプチドの製造方法。該過酸化水素処理の前にコラーゲン含有原料またはコラーゲンを加熱し、蛋白分解酵素で処理することにより、コラーゲンペプチドをより短時間で得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンペプチドの新規製造方法、およびそれにより得られるコラーゲンペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンペプチドはコラーゲンを酵素等で処理して低分子化したものであり、生体において様々な作用をするといわれている。例えば、コラーゲンペプチドは健康食品として美肌効果(非特許文献1等参照)を目的として売り出され、その後、変形性関節症にも効果がある(非特許文献2等参照)ことが証明されて商品価値を高めている。これらの効果は、体内においてプロテオグリカン合成促進効果を有していることに起因するといわれている。また、コラーゲンペプチドは皮膚への浸透もよく、保湿性を有するので化粧品の成分としても用いられている。
【0003】
このようなコラーゲンペプチドの作用は、コラーゲンを低分子化することによって生じるものである。体内への吸収を考えると、これらの作用は分子量が10000以下のコラーゲンペプチドのほうが大きいと考えられる。そのため、コラーゲンの低分子化方法についてもいろいろと検討されている。しかしながら、従来から用いられているコラーゲンペプチドの製造方法は、原料からコラーゲンペプチドを煮沸によって抽出する、あるいはコラーゲンを酵素分解する(特許文献1〜3等参照)のが主流である。しかし、これらの方法では、コラーゲンの低分子化に長時間を要する、得られるコラーゲンペプチドの分子量が数万程度と大きい、コラーゲンペプチドが褐変などにより着色してしまう等の問題があった。上述のような作用のあるコラーゲンペプチドは分子量10000以下のものが多く、このようなコラーゲンペプチドを迅速かつ大量に得ることが必要である。また、着色の問題は、特に化粧品などへの利用においてネックになっている。
【特許文献1】特開2003−284586号公報
【特許文献2】特開2004−57196号公報
【特許文献3】特開2006−89号公報
【非特許文献1】菊池数晃、又平芳春:「ヒトの乾燥肌および肌荒れに対する海洋性コラーゲンペプチド含有飲料の有用性」 FRAGRANCE JOURNAL 31, 97-102 (2003)
【非特許文献2】Hashida, M., Miyatake, K., Okamoto, Y., FUJITA, K., MATUMOTO, T., MORIMATSU, F., SAKAMOTO, K, and MINAMI, S. Synergistic effects of D-glucosamine and collagen peptides on healing experimental cartilage injury. Macromol. Biosci., 3: 596-603, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
着色が抑制されている、あるいは着色していないコラーゲンペプチドを効率的に短時間で得るための製造方法を提供することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意研究を重ね、コラーゲンを過酸化水素存在下で加熱処理すると低分子化が起こること、得られたコラーゲンペプチドが着色しないこと、さらにはプロテアーゼ処理および加熱処理を行うことによりコラーゲンペプチド製造時間を短縮することができること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち本発明は:
(1)コラーゲン含有原料またはコラーゲンを過酸化水素存在下で加熱することを特徴とする、着色が抑制された、あるいは着色していないコラーゲンペプチドの製造方法;
(2)さらにコラーゲン含有原料またはコラーゲンを蛋白分解酵素で処理することを特徴とする(1)記載の方法;
(3)さらにコラーゲン含有原料またはコラーゲンを加熱処理することを特徴とする(1)または(2)記載の方法;
(4)蛋白分解酵素がパパインまたはプロテアーゼMである(2)または(3)に記載の方法;
(5)過酸化水素濃度が6〜10%であり、過酸化水素での処理温度が90〜105℃であり、過酸化水素での処理時間が2〜4時間であり、得られるコラーゲンペプチドが着色しておらず、分子量が40000以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の方法;
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により得られるコラーゲンペプチド;
(7)(5)記載の方法により得られるコラーゲンペプチド
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、着色が抑制された、あるいは着色していないコラーゲンペプチド(特に分子量約40000以下のもの)が効率的に短時間で得られる。したがって、本発明方法により、化粧品、健康食品などに利用価値が高いコラーゲンペプチドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書の用語「コラーゲンペプチド」とは、加水分解等の方法にてコラーゲンを低分子化して得られるペプチドをいう。コラーゲンペプチドの数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル濾過や高速液体クロマトグラフィーなどの当業者に公知の手段および公知の方法を用いて、容易に決定することができる。本明細書において、単に「分子量」という場合には、後ほど説明するようにHPLCを用いて分析した際の最大ピークのリテンションタイムから求められる分子量を意味する。
【0009】
本発明は、1の態様において、コラーゲン含有原料またはコラーゲンを過酸化水素存在下で加熱することを特徴とするコラーゲンペプチドの製造方法を提供するものである。本発明において、過酸化水素処理によってコラーゲンを低分子化させると、得られるコラーゲンペプチドの着色が抑制され、後述のごとく、着色していないコラーゲンペプチドを得ることもできる。コラーゲンペプチドの「着色が抑制されている」とは、得られたコラーゲンペプチドの溶液またはコラーゲンペプチド粉末が肉眼で確認した場合に、従来法(例えば、本発明系の比較例1)により得られたコラーゲンペプチドよりも着色が薄いことを意味する。好ましくは、「着色が抑制されている」とは、褐変などによる着色がほとんど認められないことを意味する。着色が抑制されたコラーゲンペプチドは、化粧品、飲食物などに利用価値が高い。
【0010】
本発明のコラーゲンペプチドの原料となるコラーゲンはいずれの生物に由来するものであってもよく、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジなどの陸生動物や鳥類の骨、結合組織、真皮などに由来するものであってもよく、あるいは魚類などの水棲動物の骨、結合組織、ヒレ、ウロコなどに由来するものであってもよい。本発明の好ましいコラーゲンペプチドの原料たるコラーゲンは魚類のウロコに由来するものである。好ましい魚類はタイ、テラピアなどである。
【0011】
これらのコラーゲン含有原料またはコラーゲンを、直接本発明の方法により過酸化水素存在下で加熱処理してもよいが、コラーゲンペプチドの収量の増加、得られたコラーゲンペプチドの純度の増加、得られたコラーゲンペプチドの風味の向上などの観点から、これらの原料を脱灰してから、そして/あるいは、これらの原料からコラーゲンを抽出してから過酸化水素存在下で加熱処理することが好ましい。例えば、脱灰した魚類のウロコを直接過酸化水素存在下で加熱してもよい。これらの原料からのコラーゲンの抽出は、熱水抽出、高圧抽出などの公知方法により行うことができる。必要な場合には、抽出したコラーゲンを精製してから本発明の方法を適用してもよい。コラーゲンの精製方法としては公知の蛋白精製方法を適用することができ、硫安沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0012】
過酸化水素でのコラーゲン含有原料またはコラーゲンの処理条件は、例えば、コラーゲン含有原料またはコラーゲンの由来、純度、量、必要とされるコラーゲンペプチドの分子量、過酸化水素での処理条件、蛋白分解酵素での処理条件、過酸化水素濃度、処理温度、処理時間などに応じて適宜選択し変更しうる。過酸化水素濃度は通常約2%ないし約20%であり、好ましくは約6%〜約12%であり、例えば約6%、約8%、約10%、約12%などであってもよい。本明細書において、過酸化水素濃度の%表示は特に断らないかぎり、体積/体積%である。過酸化水素水中でのコラーゲン含有原料またはコラーゲンの処理温度は通常約70〜約120℃であり、例えば約80〜約115℃、好ましくは約90〜約105℃、さらに好ましくは約95〜約100℃(100℃以下だと加圧の必要なし)である。過酸化水素水中でのコラーゲン含有原料またはコラーゲンの処理時間は数十分〜数時間が適当であり、例えば、約30分、約1時間、約2時間、3約時間、約4時間、約5時間、約6時間などであってよい。かかる過酸化水素処理は滅菌の意味合いもあり、蛋白分解酵素処理後の過酸化水素での処理には蛋白分解酵素の失活(蛋白分解酵素の種類によっては失活しないものもある)と滅菌の両方の意味合いもある。
【0013】
また本発明は、さらにコラーゲン含有原料またはコラーゲンを蛋白分解酵素で処理することを特徴とするコラーゲンペプチドの製造方法を提供する。コラーゲン含有原料またはコラーゲンを蛋白分解酵素で処理することにより、本発明によりコラーゲンペプチドの製造の所要時間を大幅に短縮することができる(同じ分子量のコラーゲンペプチドを得るのに数分の1の時間で済むこともある)。
【0014】
蛋白分解酵素での処理において、いずれの蛋白分解酵素であっても使用できるが、コラーゲンペプチドの用途が飲食物や医薬品であることが多いので、有毒な生物由来の蛋白分解酵素は避けた方がよい。また、エンド型の蛋白分解酵素が好ましい。本発明に使用可能な蛋白加水分解酵素の典型例としては、パパイン、ブロメライン、ペプシン、トリプシン、麹菌由来の酵素、納豆菌由来の酵素などが挙げられるが、これらに限らない。蛋白分解酵素は市販もされており、プロテアーゼM、プロテアーゼA「アマノ」G、プロチンSD−PC10F、デナチームAP、オリエンターゼONSなどの商品名で販売されている。好ましい蛋白分解酵素はプロテアーゼM、パパインなどである。これらの蛋白分解酵素を1種またはそれ以上を組み合わせて用いることができる。なお、本明細書では、プロテアーゼのほか、プロテイナーゼ、ペプチダーゼに分類される酵素もプロテアーゼに含めるものとする。
【0015】
蛋白分解酵素での処理は、過酸化水素での処理の前、後、あるいは過酸化水素での処理中または同時に行うことができる。過酸化水素による蛋白分解酵素の酸化による失活を考慮すると、コラーゲン含有原料またはコラーゲンを過酸化水素存在下で加熱する前に、コラーゲン含有原料またはコラーゲンを蛋白分解酵素で処理することが好ましい。ただし、プロテアーゼM、プロテアーゼA「アマノ」G、プロテアーゼS「アマノ」Gなどのプロテアーゼは酸化剤の影響を受けないかあるいは受けにくいので、過酸化水素での処理の前、あるいは過酸化水素での処理中または処理後に、これらの蛋白分解酵素を用いてコラーゲン含有原料またはコラーゲンを処理することができる。これらの蛋白分解酵素での処理条件は、蛋白分解酵素の使用条件(例えば、温度、pH、反応時間、酵素量など)、コラーゲン含有原料またはコラーゲンの由来、純度、量、必要とされるコラーゲンペプチドの分子量、過酸化水素での処理条件、蛋白分解酵素での処理条件などに応じて適宜選択し、変更することができる。パパインを蛋白分解酵素として用いる場合、例えば、常温〜約70℃(最適温度は約60℃)にて、例えば、約30分〜約2時間作用させることができる。また、プロテアーゼMを蛋白分解酵素として用いる場合、例えば、約30℃〜約55℃にて(最適温度は約60℃)、例えば、約30分〜約2時間作用させることができる。
【0016】
上記の蛋白分解酵素および/または過酸化水素の作用を促進するために、部分的にコラーゲンの構造を破壊することも好ましい。かかる部分的破壊は酸処理、アルカリ処理、加熱処理などにより行うことができるが、加熱処理によるのが好ましい。したがって、本発明は、さらにコラーゲン含有原料またはコラーゲンを加熱処理することを特徴とするコラーゲンペプチドの製造方法に関する。
【0017】
本発明におけるコラーゲン含有原料またはコラーゲンの加熱処理は、過酸化水素での処理の前、後、あるいは過酸化水素での処理中または同時に行うことができる。また、本発明におけるコラーゲン含有原料またはコラーゲンの加熱処理は、蛋白分解酵素での処理の前、後、あるいは蛋白分解酵素での処理中または同時に行うことができる。好ましくは、蛋白分解酵素での処理の前に加熱処理を行うことによって、適度に変性され、蛋白分解酵素の作用を受けやすくなったコラーゲン含有原料またはコラーゲンを得ることができる。
【0018】
本発明におけるコラーゲン含有原料またはコラーゲンの加熱処理は、水、塩の水溶液、緩衝液、希酸水溶液、希アルカリ水溶液などの水性溶媒にコラーゲン含有原料またはコラーゲンを懸濁または溶解させ、約100℃前後にて、通常は約70〜約120℃で加熱処理を数分〜数時間行うことができる。例えば、コラーゲン含有原料またはコラーゲンを水に懸濁または溶解させて加熱処理を行う場合、通常には、約90℃〜120℃、好ましくは約95℃〜約105℃、さらに好ましくは約95〜約100℃(100℃以下だと加圧の必要なし)で数分〜数時間、好ましくは約20分〜約60分、例えば95℃で30分の加熱処理を行うことにより、コラーゲンの構造を部分的に破壊することができる。加熱処理のpHは特に限定されないが、中性付近が好ましい。これらの条件は、コラーゲン含有原料またはコラーゲンの由来、純度、量、必要とされるコラーゲンペプチドの分子量、過酸化水素での処理条件、蛋白分解酵素での処理条件などに応じて適宜選択し、変更することができる。
【0019】
本発明の方法において得られるコラーゲンペプチドの分子量は、本発明の方法における様々なパラメータを適宜選択・変更することにより調節することができる。コラーゲンペプチドの分子量を調節するために、例えば、過酸化水素濃度、過酸化水素での処理温度、処理時間などを適宜選択してもよく、蛋白分解酵素の種類や量、反応条件を適宜選択してもよく、その前の加熱工程の温度、時間を適宜選択してもよい。例えば、本発明によるコラーゲンペプチドの製造法を用いれば、例えば、分子量約10000あるいは数千の着色していないコラーゲンペプチドを、数時間以内で得ることも可能である。
【0020】
本発明は、さらなる態様において、着色していないコラーゲンペプチドの製造方法を提供する。本明細書において「着色していない」とは、得られたコラーゲンペプチドの溶液またはコラーゲンペプチド粉末が肉眼で確認した場合に、褐変などによる着色が認められないことを意味する。着色していないコラーゲンペプチドは、化粧品、飲食物などに利用価値が非常に高い。
【0021】
本発明において着色していないコラーゲンペプチドを得るためには、過酸化水素存在下での加熱工程における条件、すなわち過酸化水素濃度、過酸化水素処理時間および過酸化水素処理温度を選択する必要がある。過酸化水素での処理時間が長すぎると低分子化が進みすぎ、また実用的でない。過酸化水素での処理時間が短すぎると低分子化が不十分である。過酸化水素濃度が高いほどコラーゲンの低分子化が早くなるが、あまり濃度が高すぎても実用的でなく、除去も難しくなる。また過酸化水素濃度が低すぎると低分子化に時間がかかりすぎ、着色が抑制されにくくなる。例えば、約30分〜6時間の過酸化水素処理で着色していないコラーゲンペプチドを得るには、過酸化水素濃度を約2〜約20%とすることができ、好ましくは約5〜約15%、より好ましくは約6〜約10%とすることができる。過酸化水素での処理温度が高すぎると低分子化が進みすぎて分子量制御が困難となり、着色の心配もある。処理温度が低すぎると低分子化が不十分となり、処理時間も長くかかり、実用的でない。例えば、上記過酸化水素濃度および処理時間で着色していないコラーゲンペプチドを得るには、過酸化水素での処理温度を約80〜約115℃とすることができ、好ましくは約90〜約105℃、さらに好ましくは約95〜約100℃(100℃以下だと加圧の必要なし)とすることができる。例えば、過酸化水素濃度約6〜約10%、過酸化水素での処理温度約90〜約105℃、過酸化水素での処理時間約2〜約4時間で、分子量約40000以下の着色していないコラーゲンペプチドが得られる(実施例4参照)。
【0022】
本発明により得られたコラーゲンペプチドは溶液状態、粉末状態など、用途に応じた形態にすることができる。本発明により得られたコラーゲンペプチドから過酸化水素を除去する必要がある場合には、凍結乾燥やスプレードライなどの方法によりコラーゲンペプチドを乾燥させることにより、これを行うことができる。
【0023】
本発明の方法はバッチ方式で行うこともでき、あるいは連続プロセスにて行うこともできる。連続プロセスは、例えば、低分子化反応で得られたコラーゲンペプチドを一定の分子量カットオフ値を有する膜で分離する工程を含んでいてもよい。本発明の方法は単純な方法であるため、スケールアップが容易で、所望の分子量の、しかも用途によっては着色していないコラーゲンペプチドを大量生産するのに適している。
【0024】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【0025】
本発明の方法において得られるコラーゲンペプチドの分子量は、本発明の方法における様々なパラメータを適宜選択・変更することにより調節することができる。コラーゲンペプチドの分子量を調節するために、例えば、過酸化水素濃度、過酸化水素での処理温度、処理時間などを適宜選択してもよく、蛋白分解酵素の種類や量、反応条件を適宜選択してもよく、その前の加熱工程の温度、時間を適宜選択してもよい。
【0026】
本発明により得られたコラーゲンペプチドは溶液状態、粉末状態など、用途に応じた形態にすることができる。本発明により得られたコラーゲンペプチドから過酸化水素を除去する必要がある場合には、凍結乾燥やスプレードライなどの方法によりコラーゲンペプチドを乾燥させることにより、これを行うことができる。
【0027】
本発明の方法はバッチ方式で行うこともでき、あるいは連続プロセスにて行うこともできる。連続プロセスは、例えば、低分子化反応で得られたコラーゲンペプチドを一定の分子量カットオフ値を有する膜で分離する工程を含んでいてもよい。本発明の方法は単純な方法であるため、スケールアップが容易で、所望の分子量の、着色が抑制された、あるいは着色していないコラーゲンペプチドを大量生産するのに適している。
【0028】
以下に比較例および実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【0029】
なお、下記実施例および比較例におけるコラーゲンおよびコラーゲンペプチドの分子量は、Superdex peptideを用いたゲルろ過クロマトグラフィー(HPLC)におけるピークトップのリテンションタイムを基に算出した。プルランを分子量スタンダードとして使用した。HPLC条件は、移動相:20mM CHCOONa+200mM NaCl(pH5.0)、流速:1.0ml/分、検出:210nmで行った。
【実施例1】
【0030】
過酸化水素存在下での加熱処理によるコラーゲンの低分子化について検討した。濃塩酸にて脱灰したテラピアのウロコ(2g)を20mlの10%過酸化水素水中で煮沸した。10分間煮沸した場合のコラーゲンペプチドの分子量は70000、1時間煮沸した場合のコラーゲンペプチドの分子量は50000であった。
【0031】
この実験において、過酸化水素存在下で加熱することによりコラーゲンペプチドの低分子化が起こることが初めて見出された。しかも、過酸化水素存在下で加熱しても(2時間煮沸しても)溶液に着色が見られなかった。過酸化水素非存在下では2時間の煮沸により溶液が黄色に変色した(図1)。
【0032】
次に、ウロコ(2g)を20mlの10%過酸化水素中、95℃で処理することとし、加熱時間を延長して実験を行った。加熱はオートクレーブ装置を95℃に設定して行った。加熱1時間後〜8時間後に経時的にサンプリングし、分子量を測定した。結果を図2および図3に示す。対照系では分子量がほとんど低下していないのに対し、10%過酸化水素添加系ではコラーゲンペプチドの分子量の低下が見られ、8時間で分子量7000となった。対照系では加熱時間とともに溶液が褐変したのに対し、過酸化水素処理した実験系では全く褐変は認められなかった。残存ウロコを目視で確認したところ、過酸化水素添加により抽出率も上昇したことがわかった。
【実施例2】
【0033】
上記実施例ではコラーゲンペプチドの低分子化に比較的長時間を要したので、プロテアーゼ処理の併用を試みた。濃塩酸にて脱灰したテラピアのウロコ(1g)を10gの水に添加し、95℃で30分加熱処理を行った。次に、パパイン(アサヒフードアンドヘルスケア製)153mg(タンパク質を28mg含む)を添加し、60℃で1時間処理した。パパインで1時間処理した後、10%になるように過酸化水素を添加し、95℃で4時間加熱した。遠心分離にて上清を得て、これを凍結乾燥したところ、分子量480で白色の低分子化コラーゲンペプチド0.9gを得た。
【実施例3】
【0034】
実施例2のパパイン153mgをプロテアーゼM(天野エンザイム製)100mg(タンパク質を28mg含む)に変えた以外は実施例2と同じ条件で実験を行った。その結果、分子量7000で白色の低分子化コラーゲンペプチド0.87gを得た。
【実施例4】
【0035】
実施例1の実験系において、過酸化水素での処理条件およびコラーゲンペプチドの着色について検討した。先ず、10%過酸化水素の存在下において、処理温度とコラーゲンの低分子化および着色の度合いについて調べた。結果を図4および表1に示す。過酸化水素処理温度については、115℃までは温度が高いほど低分子化に要する時間は短縮された。目視による処理溶液の着色の度合いは以下のとおりであった(処理時間4時間で観察)。90℃から105℃の範囲では着色が全く認められず、110℃以上でもわずかに黄色〜褐色を呈した程度であった。過酸化水素を添加しない場合はすべての試験温度において明らかな黄色〜褐色を呈した。
【表1】

Xは着色が全く検知できなかったこと、一重丸はわずかに黄色〜褐色を呈したこと、二重丸は明らかに黄色〜褐色を呈したことを示す。
【0036】
次に、過酸化水素濃度について検討した。処理温度は95℃および121℃とした。結果を図5(95℃)および図6(121℃)に示す。95℃、121℃で過酸化水素の濃度を10%まで変えて加熱処理を行った。その結果、95℃処理の場合、6%以上過酸化水素を添加することにより、2時間で低分子化反応が進行した。一方、121℃処理の場合は過酸化水素濃度を上げるにつれ、低分子化速度は速くなった。ただし、過酸化水素無添加の場合は分子量40000以下にはならなかった。
【実施例5】
【0037】
過酸化水素存在下でのプロテアーゼ処理を行う実験系でコラーゲンペプチドを得た。濃塩酸にて脱灰したテラピアのウロコ(1g)を10mlの10%過酸化水素水に添加し、これにプロテアーゼM(天野エンザイム製)100mgを添加し、30℃で3時間撹拌した。その後、95℃にセットしたオートクレーブ装置にて1〜4時間加熱した。10%過酸化水素およびプロテアーゼM添加系では、95℃で2時間加熱するとコラーゲンペプチドの分子量が4100にまで低下した。プロテアーゼMを添加しなかった系では、2時間の加熱で分子量は約40000であった。過酸化水素処理した実験系では溶液の褐変は全く認められなかった。
【0038】
比較例1
従来法によるコラーゲンペプチドの製造
テラピアのウロコ4gを濃塩酸にて脱灰し、2gの脱灰ウロコを得て、20mlの水に添加し、3時間煮沸した。煮沸後のコラーゲンの分子量は67000であった。煮沸後の上清にプロテアーゼ(パパイン、20mg)を添加し、60℃で1.5時間反応させた後、10分間煮沸してプロテアーゼを失活させてから乾燥させ、分子量2000のコラーゲンペプチドを得た。上記従来法によれば最終産物に明らかな褐変が見られた。また、煮沸時間が長いことも従来法の欠点と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、短時間でコラーゲンペプチドが大量に得られ、しかも着色が抑制された、あるいは着色していないコラーゲンペプチドを得ることができる。したがって、本発明は化粧品、飲食物(特に健康食品)などの分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、コラーゲンを過酸化水素存在下(左)および非存在下(右)で煮沸処理した場合のコラーゲンペプチド溶液の着色の有無を示す図である。
【図2】図2は、過酸化水素(10%)存在下での加熱処理および過酸化水素不存在下での加熱処理によるコラーゲンペプチドの経時的低分子化を示すアクリルアミドゲル電気泳動のパターンを示す図である。左の2h〜8hのセットは過酸化水素(10%)存在下での2時間〜8時間の低分子化、右の1h〜8hのセットは過酸化水素不存在下での1時間〜8時間の低分子化の結果を示す。markerは分子量マーカーである。
【図3】図3は、過酸化水素存在下での加熱処理によるコラーゲンペプチドの経時的低分子化(分子量変化)を示す図である。
【図4】過酸化水素処理の温度とコラーゲンペプチドの低分子化の関連を示す図である。
【図5】95℃で処理した場合の過酸化水素濃度とコラーゲンペプチドの低分子化の関係を示す図である。
【図6】121℃で処理した場合の過酸化水素濃度とコラーゲンペプチドの低分子化の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲン含有原料またはコラーゲンを過酸化水素存在下で加熱することを特徴とする、着色が抑制された、あるいは着色していないコラーゲンペプチドの製造方法。
【請求項2】
さらにコラーゲン含有原料またはコラーゲンを蛋白分解酵素で処理することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらにコラーゲン含有原料またはコラーゲンを加熱処理することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
蛋白分解酵素がパパインまたはプロテアーゼMである請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
過酸化水素濃度が6〜10%であり、過酸化水素での処理温度が90〜105℃であり、過酸化水素での処理時間が2〜4時間であり、得られるコラーゲンペプチドが着色しておらず、分子量が40000以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により得られるコラーゲンペプチド。
【請求項7】
請求項5記載の方法により得られるコラーゲンペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−219430(P2009−219430A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67178(P2008−67178)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省都市エリア産学官連携促進事業「染色体工学技術等による生活習慣病予防食品評価システムの構築と食品等の開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(302052127)有限会社カンダ技工 (6)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【Fターム(参考)】