説明

コラーゲンペプチド含有粉体組成物及びその製造方法

【課題】水への溶解適性等の品質に優れ、飲食品や化粧品への配合に有利な、コラーゲンペプチド含有粉体組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉末化して、コラーゲンペプチド含有粉体組成物を得る。前記糖類は、多糖類、オリゴ糖、二糖類、及び単糖類からなる群より選ばれた1種以上であることが好ましい。また、コラーゲンペプチド含有粉体組成物は、8メッシュ(開口2,380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水への溶解適性等の品質に優れ、飲食品や化粧品への配合に有利な、コラーゲンペプチド含有粉体組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の主要構成タンパク質であるコラーゲンは、生体内において細胞と細胞の隙間を埋めている「細胞外マトリックス」成分として、水に不溶の繊維状や膜状の構造体を形成している。コラーゲンやコラーゲンを熱変性して水溶性にしたゼラチンは、古くから接着剤(いわゆる膠)として利用されているほか、写真乳剤、製紙、染色、食品、化粧品、医薬品等の幅広い分野で利用されている。特に、コラーゲンの加水分解物であるコラーゲンペプチドは、高分子のコラーゲンに比べて水への溶解度が高く低粘度であり、生体内への吸収性が高く、様々な生理効果が期待できることから、機能性素材として飲食品や化粧品分野で盛んに利用されるようになっている。
【0003】
コラーゲンペプチドは、工業的には牛や豚等の家畜や魚を解体、加工する際に副生する骨、腱、皮等から抽出して製造されており、例えば、特許文献1には、魚皮及び/又は魚骨に水を加えて加熱抽出又は加圧加熱抽出し、コラーゲンを含む抽出物を調製する工程と、前記抽出物をタンパク加水分解酵素で酵素分解する工程と、前記抽出物の酵素分解物を食塩阻止率10〜50%の逆浸透膜を用いて濃縮、精製し、固形分中の遊離アミノ酸含量が1.0質量%以下、ヒ素含量が2ppm以下とする工程とを含むことを特徴とする魚類由来のコラーゲンペプチドの製造方法が記載されている。また、コラーゲンペプチドの粉末化方法としては、特許文献2に魚鱗を脱灰した粗コラーゲンを、アルカリ塩を溶解したアルカリ水溶液中、加圧雰囲気下で適度に加水分解したコラーゲンペプチド含有溶液を噴霧乾燥により粉末化するコラーゲンペプチド含有粉末の製造方法が記載されているほか、特許文献3や特許文献4などには、噴霧乾燥に加えてドラム乾燥が適用できることが記載されている。また、特許文献5にはN−アセチルグルコサミン又はN−アセチルグルコサミンを含有する糖組成物にコラーゲンを添加して混合溶液とし、この混合溶液をスプレードライヤーによって乾燥することが記載されている。
【0004】
現在市場で流通しているコラーゲンペプチドは、その殆どが噴霧乾燥で粉末化した製品であるが、水に溶解する際、水中への沈降性が悪く、著しくダマを生じ、微小気泡が発生する等、必ずしも水への溶解適性に優れるものではなかった。
【0005】
そこで、水への溶解適性を高めたコラーゲンペプチドとして、例えば、特許文献6にはドラム乾燥によって得られた非多孔質で薄片状のコラーゲンペプチド粉末と結着剤とを造粒したことを特徴とする顆粒状造粒物が記載されている。また、特許文献7には噴霧乾燥によって得られたコラーゲン粉末及びショ糖と結着剤とを造粒して得られる顆粒状造粒物が口腔内における溶解性に優れていることから水無で食するのに好適なものであることが記載されており、このような造粒物は溶解性に優れていることから水に溶解して飲料等にする用途においても利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−238597号公報
【特許文献2】特開2004−141007号公報
【特許文献3】特開2008−194010号公報
【特許文献4】国際公開WO2008/059927号公報
【特許文献5】特開2006−262752号公報
【特許文献6】特開2009−171903号公報
【特許文献7】特開2006−34183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、粉体化の手段として噴霧乾燥による場合、その特徴としては、(i)連続操作により大量生産可能、(ii)乾燥速度が速く熱に不安定な物質の乾燥も可能、(iii)球形度が高く自由流動性に富む、(iv)多孔性(ポーラス)になりやすく溶解性に富むことなどが挙げられる。このため、食品業界においても多く利用されており、現在市場で流通しているコラーゲンペプチドの多くが噴霧乾燥により粉末化されている。しかしながら、噴霧乾燥により得られるコラーゲンペプチド粉末は、水への溶解適性に乏しく、飲食品や化粧品への配合において、水に溶解させるのが困難であった。
【0008】
また、粉体化の手段としてドラム乾燥による場合、その特徴としては、(i)幅広い濃度・性状の原液に対して処理が可能、(ii)乾燥速度が速く熱に不安定な物質の乾燥も可能、(iii)伝導受熱式であるため熱効率が良いことなどが挙げられる。このため、比較的分子量が高く噴霧乾燥に適さないコラーゲンペプチドやゼラチンの乾燥方法としてドラム乾燥が用いられることもある。しかしながら、ドラム乾燥は、一般的に処理能力が低いので、乾燥効率を上げるためにドラム上の薄膜をより薄くして原液の加熱効率を高める。このため、ドラム乾燥により得られるコラーゲンペプチド粉末は、水への溶解適性については前述の噴霧乾燥により得られるコラーゲンペプチド粉末よりも優れているが、熱による着色や風味劣化により品質が低下し、飲食品や化粧品への配合において最適ではなかった。
【0009】
また、上記特許文献6や特許文献7記載のコラーゲンペプチド顆粒は、噴霧乾燥やドラム乾燥により得られたコラーゲンペプチド粉末を、単独又は複数の造粒用原材料と混合したものを用いて造粒を行うことにより得られるものであるが、造粒工程の分、手間とコストがコラーゲンペプチド粉末よりも余分にかかるという問題があった。
【0010】
上記の従来技術にかんがみ、本発明の目的は、水への溶解適性等の品質に優れ、飲食品や化粧品への配合に有利な、コラーゲンペプチド含有粉体組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明者らが鋭意研究した結果、コラーゲンペプチドに糖類を含有せしめて真空乾燥することより得られたコラーゲンペプチド含有粉体組成物が水への溶解適性等の品質に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、コラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉末化して得られることを特徴とする。本発明においては、前記糖類が多糖類、オリゴ糖、二糖類、及び単糖類からなる群より選ばれた1種以上であることが好ましい。また、前記糖類として多糖類、オリゴ糖、二糖類、及び単糖類からなる群より選ばれた1種以上を含む植物エキスを用いてもよい。また、コラーゲンペプチド100質量部に対して糖類0.01〜80質量部を含有することが好ましい。また、8メッシュ(開口2, 380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが好ましい。
【0013】
本発明のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、コラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化するので、通常噴霧乾燥によるコラーゲンペプチド含有粉体化物に見られる、外部の被膜から成る内部に空間をもつ構造、いわゆる中空構造をとらない。これにより、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド含有粉体組成物となる。更に、コラーゲンペプチドのみを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化して得られるコラーゲンペプチドの粉体化物よりも水中での分散性が向上し、より一層、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド含有粉体組成物となる。
【0014】
一方、本発明のコラーゲンペプチド含有粉体組成物の製造方法は、コラーゲンペプチドと糖類を混合溶解し、これにより得られるコラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉末化することを特徴とする。本発明においては、コラーゲンペプチド又は糖類のいずれか一方を含有する溶液に、他方を含有する溶液を混合、または他方を含有する乾燥物を溶解し、これにより得られるコラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉末化してもよい。
【0015】
本発明のコラーゲンペプチド含有粉体組成物の製造方法によれば、コラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化するので、前述したように、その結果得られるコラーゲンペプチド含有粉体化物が、通常噴霧乾燥によるコラーゲンペプチド含有粉体化物に見られる、外部の被膜から成る内部に空間をもつ構造、いわゆる中空構造をとらない。これにより、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド含有粉体組成物となる。更に、コラーゲンペプチドのみを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化して得られるコラーゲンペプチドの粉体化物よりも水中での分散性が向上し、より一層、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド含有粉体組成物となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化するので、その結果得られるコラーゲンペプチド含有粉体化物が、通常噴霧乾燥によるコラーゲンペプチド含有粉体化物に見られる、外部の被膜から成る内部に空間をもつ構造、いわゆる中空構造をとらない。これにより、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド含有粉体組成物が得られる。
【0017】
また、コラーゲンペプチドのみを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化して得られるコラーゲンペプチドの粉体化物よりも水中での分散性が向上し、より一層、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド含有粉体組成物となる。
【0018】
更に、本発明において用いられる真空乾燥は、噴霧乾燥やドラム乾燥よりも低温で、一連の工程がほぼ真空状態で行われるため、着色や風味劣化を低減させることができ、更に、コラーゲンペプチド由来の臭気を低減させることができる。したがって、これらの品質の面でも優れたコラーゲンペプチド含有粉体組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、コラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化してなるものである。
【0020】
コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化すると、その粉体化物は、噴霧乾燥によるコラーゲンペプチド含有粉体化物に見られる、外部の被膜から成る内部に空間をもつ構造、いわゆる中空構造をとらずに非中空構造となる。そして、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等、溶解適性に優れている。しかし一方で、水中で凝集して解離し難いことから十分な溶解適性とはいえない。本発明においては、コラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化するので、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等の溶解適正に加えて、水中での凝集が抑制され解離し易くなることにより分散性が向上し、より一層、溶解適正に優れたコラーゲンペプチド含有粉体組成物となる。これは、コラーゲンペプチドの分子間に糖類が入り込んだ状態で、その粉化物が非中空構造となる為であると考えられる。
【0021】
本発明において用いられるコラーゲンペプチドは、コラーゲン又はゼラチンを加水分解して得られるペプチドであり、その平均分子量としては、例えばプルランを標準物質としたGPC法での測定による重量平均分子量で、1,000〜10,000であることが好ましく、1,500〜5,000であることがより好ましく、2,000〜4,000であることが特に好ましい。その由来原料は特に限定されず、例えば、哺乳動物や鳥類の骨、皮、もしくは魚類の骨、皮、鱗等が挙げられる。
【0022】
一方、本発明において用いられる糖類としては、水溶性のものであれば特に問わず、例えば増粘多糖類や食物繊維等の多糖類や、オリゴ糖、二糖類、単糖類が挙げられ、より具体的には多糖類としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、フコイダン、又はこれらの塩、並びにデキストリン、ペクチン、キサンタンガム、グァーガム、カラギーナンなど、オリゴ糖としては、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖など、二糖類としてはスクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ジフラクトースなど、単糖類としてはグルコース、フルクトース、グルコサミン又はこれらの塩、N−アセチルグルコサミン、マルチトール、キシリトールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
また、本発明においては、上記糖類として、これらを含む植物エキスを用いることもできる。このような植物エキスとしては、野菜エキス、茶エキス、果汁等が挙げられ、具体的には、野菜エキスとしてはトマト、人参、大根、玉ねぎ、葱、キャベツ、ごぼう、しいたけ、セロリ、白菜、かぼちゃ、黒豆、なす、ピーマン、ブロッコリー、青紫蘇、バジル、麦若葉、ケール、モロヘイヤ等の圧搾汁など、茶エキスとしては緑茶、紅茶、ウーロン茶、プーアル茶、微生物醗酵茶の抽出エキスなど、果汁としてはリンゴ、オレンジ、イチゴ、レモン、グレープフルーツ、ナシ、ブドウ、パイナップル、パパイヤ、サクランボ、モモ、メロン、キウイフルーツ、バナナ、ブルーベリー、マンゴー等の果実の果汁、ペースト及びピューレなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
真空乾燥に供するためのコラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液(以下、コラーゲンペプチド糖類混合溶液という。)は、上記コラーゲンペプチド及び糖類を混合溶解させることにより調製すればよく、例えば、それらの乾燥物を水性液体に添加混合して、溶解することにより調製することができる。また、コラーゲンペプチドまたは糖類のいずれか一方を含有する溶液に、他方を含有する溶液を混合、または他方を含有する乾燥物を溶解して調製してもよい。また、糖類が植物エキスとして供給される場合には、その植物エキスを混合、溶解、又は分散して、コラーゲンペプチドと糖類が混合溶解するようにすればよい。
【0025】
その形態の一例として、コラーゲンペプチドを含有する溶液(以下、コラーゲンペプチド含有溶液という。)に糖類を溶解させる場合について説明する。まず、コラーゲンペプチド含有溶液の調製方法としては、由来原料や目的等に応じて、当業者に周知の方法を適宜採用すればよいが、例えば、魚皮や魚骨を原料とする場合には、特開2003−238597号公報に記載の方法を好ましく採用することができる。すなわち、魚皮及び/又は魚骨に水を加えて加熱抽出又は加圧加熱抽出し、コラーゲンを含む抽出物を調製した後、その抽出物をタンパク加水分解酵素で酵素分解し、これを食塩阻止率10〜50%の逆浸透膜を用いて濃縮、精製し、コラーゲンペプチド含有エキスを得ることができる。このようにして得られたコラーゲンペプチド含有エキスは、魚特有の味や臭い成分(例えば、アミノ酸、オリゴペプチド、核酸、有機酸、ミネラル、揮発性の含硫化合物、脂肪酸、窒素化合物、カルボニル化合物等)やヒ素が除去されている。具体的には、その好ましい条件においては、固形分中の遊離アミノ酸含量が1.0質量%以下、ヒ素含量が2ppm以下となっている。そして、このコラーゲンペプチド含有エキスを、そのまま、又は適宜濃縮、希釈したものを、上記コラーゲンペプチド含有溶液として用いることができる。次いで、上記コラーゲンペプチド含有溶液に糖類を溶解させる。
【0026】
本発明においては、コラーゲンペプチド100質量部に対して糖類0.01〜80質量部を含有することが好ましく、0.05〜50質量部を含有することがより好ましく、0.05〜20質量部を含有することが最も好ましい。コラーゲンペプチドに対して糖類が少ないと糖類の効果が得にくくなり、多いとコラーゲンペプチドの粉体組成物中の含有量を抑えなければならないので、好ましくない。また、本発明においては、コラーゲンペプチド含有粉体組成物の溶解適性等の品質を損なわない範囲において、その他、魚介、家畜、家禽などの動物エキス、乳及び大豆たんぱく質、アミノ酸、植物性油脂、動物性油脂、乳化剤、電解質、微量ミネラル、ビタミン類、香料等の副原料をコラーゲンペプチド糖類混合溶液に更に含有させてもよい。
【0027】
本発明においては、上記のようにしてコラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を得、これを真空乾燥により乾燥し、粉体化する。その方法としては、既存の方法を採用すればよく、真空バンド型乾燥機や真空凍結乾燥機、真空ドラム乾燥機等で行うことができる。特に、生産能力に優れている点で、真空バンド型乾燥機であるCVD(連続真空乾燥装置)で行うことが好ましい。
【0028】
真空乾燥の条件については、適宜設定すればよいが、例えば、CVDを用いた場合には次のような態様で行う。
【0029】
まず、乾燥原液となる上記コラーゲンペプチド糖類混合溶液は、ノズルからの吐出、吐出後の乾燥室内への飛散を考慮し、その粘度は1,000〜10,000cpsに調整することが好ましい。通常、CVDを用いた乾燥においては、乾燥原液の粘度を調整するために、増粘剤等の添加剤を使用する。本発明においては、同様に添加剤による粘度調整を行ってもよいが、コラーゲンペプチド含有溶液はその分子量に応じた粘性を有するので、添加剤を使用しなくとも濃縮または希釈を適宜行うことにより粘度の調整が可能である。
【0030】
CVDの乾燥室内部の圧力は30mmHg以下であることが好ましく、10mmHg以下であることがより好ましい。供給する原液の温度は、CVDの乾燥室内部の圧力における沸点以下に設定し、供給後に原液の加熱により温度を上げ、乾燥させることが好ましい。CVDの乾燥室の加熱、冷却は4つの区間で行われ、第1区間での加熱は90〜140℃の条件で、以降の区間では徐々に温度を下げることが好ましい。
【0031】
以上のようにして、多孔性フレーク状のコラーゲンペプチド組成物が得られるので、これを適宜解砕又は粉砕する。解砕又は粉砕の方法に特に制限はなく、当業者に周知の方法によって行うことができる。その際、前述した溶解適性の向上の観点から、その粒度が、JIS規格による標準篩を用いて8メッシュ(開口2,380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが好ましく、16メッシュ(開口990μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることがより好ましく、32メッシュ(開口504μm)をパスし、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが最も好ましい。
【0032】
従来の噴霧乾燥による乾燥方法は、その原理上、高温の空気と接触するため、風味の劣化を伴い、また、ドラム乾燥は高温のドラム上にコラーゲンペプチド溶液の薄膜を形成するため、着色や風味の劣化を伴うが、真空乾燥は、噴霧乾燥やドラム乾燥よりも低温で、一連の工程がほぼ真空状態で行われるため、着色や風味劣化を低減させるだけでなく、コラーゲンペプチド由来の臭気を低減したコラーゲンペプチド含有粉体組成物となる。その為、例えば、副原料として、植物エキスや畜肉エキス、魚介エキスを含有させた場合、これらの着色や風味劣化を低減させることになり、溶解性と風味に優れたコラーゲンペプチド含有エキスパウダーとすることができる。
【0033】
本発明においては、コラーゲンペプチドをその粉体組成物中に50質量%以上含有するものであることが好ましく、80質量%以上含有するものであることがより好ましい。
【0034】
本発明のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、そのまま単独で用いてもよく、また、当業者に周知の造粒加工を行い、水への溶解適性を更に高めることもできる。
【0035】
本発明のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、溶解適性に優れ、着色や原料由来の臭気のが少ないので、飲食品や化粧品の配合原料として好適に用いられる。特に、その製造時又は喫食時に水に溶解する飲食品や、その製造時又は使用時に水に溶解する化粧品に好ましく配合することができる。飲食品としては、例えば、飲料、焼き菓子、冷菓、錠菓、キャンディー、グミ、ゼリー、キャラメル、ジャム、チョコレート、ガム、和菓子(羊羹、モナカなど)、スープ類、パン、各種レトルト食品、魚肉練製品、ハム、ソーセージ類、調味料(出汁つゆ、醤油、味噌など)、サプリメント(カプセル剤、錠剤、顆粒、シロップなど)等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下に例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。なお、これらの例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0037】
<実施例1>
特開2003−238597号公報に記載の方法に準じて、魚皮に含まれるコラーゲンを抽出、低分子化処理、濃縮して、固形分約60質量%のコラーゲンペプチド含有エキスを調製した。そのコラーゲンペプチドの重量平均分子量(プルランを標準物質としたGPC法での測定)は、約3,000であった。これにヒアルロン酸ナトリウム(乾燥品)を0.05質量%となる量で添加して混合溶解した。その溶液をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、コラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0038】
<実施例2>
実施例1と同様に、魚皮からコラーゲンペプチド含有エキスを調製し、これにN−アセチルグルコサミン(乾燥品)を5質量%となる量で添加して混合溶解した。その溶液をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、コラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0039】
<比較例1>
実施例1と同様に、魚皮からコラーゲンペプチド含有エキスを調製し、CVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得た。これをミルで粉砕して、コラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0040】
<比較例2>
実施例1と同様に、魚皮からコラーゲンペプチド含有エキスを調製し、噴霧乾燥装置により乾燥粉末化してコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0041】
<比較例3>
実施例1と同様に、魚皮からコラーゲンペプチド含有エキスを調製し、流動造粒装置により乾燥粉末化してコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0042】
<比較例4>
実施例1と同様に、魚皮からコラーゲンペプチド含有エキスを調製し、これにN−アセチルグルコサミン(乾燥品)を5質量%となる量で添加して混合溶解した。その溶液を噴霧乾燥装置により乾燥粉末化してコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0043】
<試験例1>(溶解試験)
実施例1及び比較例1〜4で得られたコラーゲンペプチド含有粉体組成物の各5gを水(25℃)95mlが入った200ml容ビーカーにそれぞれ添加し、同一の条件で攪拌を行いその全部が溶解するまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
その結果、コラーゲンペプチドとヒアルロン酸ナトリウムを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化した実施例1の溶解時間は1分であったのに対して、コラーゲンペプチドのみを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化した比較例1や、流動造粒装置により乾燥粉末化した比較例3では1.5分であり、コラーゲンペプチドのみを含有する溶液を噴霧乾燥装置により乾燥粉末化した比較例2では3分であった。また、ラーゲンペプチドとヒアルロン酸ナトリウムを含有する溶液を噴霧乾燥装置により乾燥粉末化した比較例4でも3分であり、比較例2と同様であった。よって、コラーゲンペプチドとヒアルロン酸ナトリウムを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化して得られたコラーゲンペプチド含有粉体組成物が、最も良好な溶解性を示した。
【0046】
<試験例2>(分散試験)
実施例1、2、及び比較例1、2で得られたコラーゲンペプチド含有粉体組成物の各5gを水(25℃)95mlが入った200ml容ビーカーにそれぞれ添加し、その分散性を、◎;添加後20秒以内に分散し、水面及び底部にダマが残らない性状、○;添加後40秒以内に分散し、水面及び底部にダマにやや残る性状、△;添加後60秒以内に分散し、水面及び底部にダマが残る性状の3段階で評価した。その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
その結果、コラーゲンペプチドとヒアルロン酸ナトリウムを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化した実施例1や、コラーゲンペプチドとN−アセチルグルコサミンを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化した実施例2では、分散性は添加後20秒以内に分散するレベルで水面及び底部にダマが残らない結果(◎)であり、コラーゲンペプチドのみを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化した比較例1では、分散性は添加後40秒以内に分散するレベルで水面及び底部にダマがやや残る結果(○)であり、コラーゲンペプチドのみを含有する溶液を噴霧乾燥装置により乾燥粉末化した比較例2では、分散性は添加後60秒以内に分散するレベルで水面及び底部にダマが残る結果(△)であった。よって、コラーゲンペプチドと、ヒアルロン酸ナトリウム又はN−アセチルグルコサミンとを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し粉体化して得られたコラーゲンペプチド含有粉体組成物が、最も良好な分散性を示した。
【0049】
<実施例3>
コラーゲンペプチド(乾燥品)99.5gとヒアルロン酸ナトリウム(乾燥品)0.5gを水100mlに添加混合し、溶解した。その溶液をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、下記表3に示す組成を有する配合例1のコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0050】
【表3】

【0051】
この配合例1のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、コラーゲンペプチド由来の臭気が低減された白色粉末で、水への溶解に際し、素早く沈降し、分散性が良好であり、溶解に伴う泡立ちを生じなかった。
【0052】
<実施例4>
コラーゲンペプチド(乾燥品)95gとN−アセチルグルコサミン(乾燥品)5gを水100mlに添加混合し、溶解した。その溶液をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、下記表4に示す組成を有する配合例2のコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0053】
【表4】

【0054】
この配合例2のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、コラーゲンペプチド由来の臭気が低減された白色粉末で、水への溶解に際し、素早く沈降し、分散性が良好であり、溶解に伴う泡立ちを生じなかった。
【0055】
<実施例5>
青汁粉末59.7g、コラーゲンペプチド(乾燥品)40g、ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥品)0.3gを水100mlに添加混合し、溶解した。その溶液をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、下記表5に示す組成を有する配合例3のコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0056】
【表5】

【0057】
この配合例3のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、青汁の風味が良好に維持された緑色の粉末で、水への溶解に際し、素早く沈降し、分散性が良好であり、溶解に伴う泡立ちを生じなかった。
【0058】
<実施例6>
コラーゲンペプチド(乾燥品)74.5g、ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥品)0.5g、マンゴーパウダー25g(90質量%で糖類を含む)を水100mlに添加混合し、溶解した。その溶液をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、下記表6に示す組成を有する配合例4のコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0059】
【表6】

【0060】
この配合例4のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、マンゴーの風味が良好に維持された橙色の粉末で、水への溶解に際し、素早く沈降し、分散性が良好であり、溶解に伴う泡立ちを生じなかった。
【0061】
<実施例7>
コラーゲンペプチド(乾燥品)84.9g、N−アセチルグルコサミン(乾燥品)10g、難消化性デキストリン5g、コンドロイチン硫酸0.1gを水100mlに添加混合し、溶解した。その溶液をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、下記表7に示す組成を有する配合例5のコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0062】
【表7】

【0063】
この配合例5のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、コラーゲンペプチド由来の臭気が低減された白色粉末で、水への溶解に際し、素早く沈降し、分散性が良好であり、溶解に伴う泡立ちを生じなかった。
【0064】
<実施例8>
コラーゲンペプチド(乾燥品)80g、リンゴパウダー20g(90質量%で糖類を含む)を水100mlに添加混合し、溶解した。その溶液をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、下記表8に示す組成を有する配合例6のコラーゲンペプチド含有粉体組成物を得た。
【0065】
【表8】

【0066】
この配合例6のコラーゲンペプチド含有粉体組成物は、リンゴの風味が良好に維持された白色の粉末で、水への溶解に際し、素早く沈降し、分散性が良好であり、溶解に伴う泡立ちを生じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉末化して得られることを特徴とするコラーゲンペプチド含有粉体組成物。
【請求項2】
前記糖類が多糖類、オリゴ糖、二糖類、及び単糖類からなる群より選ばれた1種以上である請求項1記載のコラーゲンペプチド含有粉体組成物。
【請求項3】
前記糖類として多糖類、オリゴ糖、二糖類、及び単糖類からなる群より選ばれた1種以上を含む植物エキスを用いる請求項1記載のコラーゲンペプチド含有粉体組成物。
【請求項4】
コラーゲンペプチド100質量部に対して糖類0.01〜80質量部を含有する請求項1〜3のいずれか1つに記載のコラーゲンペプチド含有粉体組成物。
【請求項5】
8メッシュ(開口2, 380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物である請求項1〜4のいずれか1つに記載のコラーゲンペプチド含有粉体組成物。
【請求項6】
コラーゲンペプチドと糖類を混合溶解し、これにより得られるコラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉末化することを特徴とするコラーゲンペプチド含有粉体組成物の製造方法。
【請求項7】
コラーゲンペプチド又は糖類のいずれか一方を含有する溶液に、他方を含有する溶液を混合、または他方を含有する乾燥物を溶解し、これにより得られるコラーゲンペプチドと糖類を含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉末化する、請求項6記載のコラーゲンペプチド含有粉体組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−196156(P2012−196156A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61489(P2011−61489)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】