説明

コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法、導電性インク、導電膜の製造方法、及び導体配線

【課題】平均粒径が50nm以下かつ耐酸化性及び分散安定性に優れた銅ナノ粒子を提供すること。
【解決手段】平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子が重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドで被覆されたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドで表面を被覆された平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子、該粒子を媒体中に分散させてなるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物、及びコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法に関する。更に、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を用いた導電性インク、及び該導電性インクを用いた導電膜の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属微粒子は種々の用途に用いられており、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷等により配線を形成するための導電性ペーストや導電性インクとして、金属微粒子を媒体中に分散させた分散物が知られている。このような金属微粒子分散物は、金属の酸化物や塩を反応液中で還元させることで得ることができる。
近年、印刷性や配線の緻密性、更なる焼成温度の低下などの観点から、導電性ペーストや導電性インクに含まれる金属微粒子として、粒子径が更に小さいものが求められている。特にインクジェット用インクへの適用を考えると、ヘッドの目詰りを防ぎ、良好な吐出性やインクの保存安定性を付与するために、平均粒径が50nm以下のナノ粒子が求められている。
配線用の導電性ペーストや導電性インクに含まれる金属微粒子としては、銀粒子や銅粒子が用いられる場合が多いが、より安価であるという理由などから、銅粒子を用いたものが注目されている。しかし、銅は銀に比べて酸化されやすい性質があり、特に粒子径が100nm以下のナノ粒子にすると酸化の問題が顕著になる。銅粒子が酸化されると、分散液としたときの分散安定性の低下や、導電性の低下を招くので、耐酸化性の向上が望まれる。また、平均粒径の小さな銅ナノ粒子は粒子間相互作用が強く、酸化されなくとも粒子の凝集や合一などで分散状態が維持できなくなる問題もある。そこで、耐酸化性や分散安定性を向上させるため、銅粒子を作製する際に保護剤(分散剤)を添加し、銅粒子の表面を保護剤(分散剤)で被覆することが知られている。
特許文献1及び2には、銅粒子の分散安定性の向上や粒子径の調整のために、ゼラチンを用いることが記載されているが、導電性ペーストや導電性インクの更なる性能向上のために、より粒径が小さく、かつ耐酸化性及び分散安定性に優れた銅ナノ粒子が望まれている。
【0003】
また、銅ナノ粒子の製造方法として、有機溶媒中で還元するポリオール法などが知られている(例えば特許文献3参照)が、例えば銅ナノ粒子の酸化による発熱で発火する懸念などがあり、より安全な水系媒体中で耐酸化性に優れた銅ナノ粒子を簡便に製造する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第06/019144号
【特許文献2】特開2011−52284号公報
【特許文献3】特開2005−330552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、平均粒径が50nm以下かつ耐酸化性及び分散安定性に優れた銅ナノ粒子を提供することである。また、本発明の別の目的は、平均粒径が50nm以下かつ耐酸化性及び分散安定性に優れた銅ナノ粒子の水系媒体中での簡便な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するため、特に銅ナノ粒子を被覆する保護剤について詳細に検討した結果、重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチド(以下、「低分子コラーゲンペプチド」とも言う)を用いることにより、水系媒体中において、平均粒径50nm以下であり、かつ分散安定性や耐酸化性に優れる銅ナノ粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
低分子コラーゲンペプチドを用いることで粒径が小さく耐酸化性及び分散安定性に優れた銅ナノ粒子が得られる理由は明らかではないが、本発明者は以下のように推測している。
すなわち、従来のゼラチンやポリビニルピロリドン(PVP)のような高分子を保護剤として用いた場合、該保護剤は銅ナノ粒子に吸着する吸着点を多数有し、銅ナノ粒子から遊離しにくい状態で被覆するため分散安定性は高くなる。しかしながら、ゼラチンのような高分子は主鎖の運動性が低く、また、分子鎖自体がかさ高いため、銅ナノ粒子表面における吸着した保護剤の密度は上がりにくい。そのため、保護剤で被覆されていても、酸素分子が銅ナノ粒子表面と接触する機会が増え、結果的に銅ナノ粒子の酸化を招く。また、従来公知の低分子のアルキルアミンのような保護剤を用いた場合、該保護剤は銅ナノ粒子から遊離する吸脱着が存在すると考えられ、分散安定性が低くなり、また耐酸化性も高めるのは困難である。
一方、本発明においては、重量平均分子量が10000以下のコラーゲンペプチドを保護剤として用いることで、保護剤の分子の運動性を向上させたり、分子のかさを少なくすることで銅ナノ粒子表面における密度を高くして耐酸化性を向上させ、かつ銅ナノ粒子との吸着点を確保することで銅ナノ粒子から遊離しにくい状態で被覆し、分散安定性を向上させることができたと考えられる。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
[1]
平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子が重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドで被覆されたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
[2]
銅ナノ粒子の質量に対するコラーゲンペプチドの質量の比が0.05以上0.8以下である、[1]に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
[3]
銅ナノ粒子の質量に対するコラーゲンペプチドの質量の比が0.06以上0.6以下である、[1]又は[2]に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
[4]
銅ナノ粒子が、金、銀、パラジウム、白金、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の金属を、銅に対して質量比で0.001以上0.1以下の範囲で含有する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
[5]
銅ナノ粒子が、銀又はパラジウムを、銅に対して質量比で0.001以上0.1以下の範囲で含有する、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
[6]
コラーゲンペプチドの重量平均分子量が1000以上5000以下である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
[7]
[1]〜[6]のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を媒体中に分散させてなるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物。
[8]
水系媒体中において、錯化剤、及び重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドの存在下、銅の酸化物又は塩を還元剤と反応させることにより、銅の酸化物又は塩を還元し、平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子が重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドで被覆されたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を製造する、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法。
[9]
[1]〜[6]のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を含む導電性インク。
[10]
[9]に記載の導電性インクを基材に付与する工程と、導電性インクにエネルギーを付与して、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を焼結するエネルギー付与工程と、を含む導電膜の製造方法。
[11]
エネルギー付与工程が、導電性インクに光照射を行なう工程を含む、[10]に記載の導電膜の製造方法。
[12]
光照射が、フラッシュランプによる光照射である、[11]に記載の導電膜の製造方法。
[13]
導電性インクを基材に付与する工程が、インクジェット法により導電性インクを吐出させて基材上に導電性インクを塗布する工程である、[10]〜[12]のいずれか一項に記載の導電膜の製造方法。
[14]
[10]〜[13]のいずれか一項に記載の導電膜の製造方法により得られた金属膜から形成された導電配線。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、平均粒径が50nm以下かつ耐酸化性及び分散安定性に優れた銅ナノ粒子を提供することができる。また、本発明によれば、平均粒径が50nm以下かつ耐酸化性及び分散安定性に優れた銅ナノ粒子の水系媒体中での簡便な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における平均粒径約20nm程度の銅ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】実施例6における平均粒径約30nm程度の銅ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
本発明のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子は、平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子が重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドで被覆されたものである。
本発明のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子は、平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子の表面の少なくとも一部に低分子コラーゲンペプチドが吸着している銅ナノ粒子のことを指す。また、本発明においては、前記銅ナノ粒子は、低分子コラーゲンペプチドと更にもう一種以上のコラーゲンペプチド以外の保護剤で被覆されている形態も含まれる。なお、前記被覆とは、銅ナノ粒子の一部が覆われていてもよく、銅ナノ粒子全体が覆われていてもよく、銅ナノ粒子全体が覆われていることが好ましい。
【0013】
本発明におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子は、好ましくは、媒体中において、重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドの存在下、銅の酸化物又は塩を還元させることにより製造される。
【0014】
[低分子コラーゲンペプチド]
本発明におけるコラーゲンペプチドは、重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドである。本発明において、重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドは銅ナノ粒子の保護剤としてはたらき、銅ナノ粒子の耐酸化性及び分散安定性を付与するものである。コラーゲンペプチドの重量平均分子量を10000以下とすることにより、耐酸化性と分散安定性のバランスに優れ、粒径の小さい銅ナノ粒子を得ることができると考えられる。
分子の運動性向上させたり、分子のかさを少なくすることで銅ナノ粒子表面における密度を高くして耐酸化性を向上させるという理由から、コラーゲンペプチドの重量平均分子量は7000以下であることが好ましく、6800以下であることがより好ましく、5000以下であることが更に好ましく、3000以下であることが特に好ましい。
銅ナノ粒子との吸着点を多くすることで銅ナノ粒子から遊離しにくい状態で被覆し、分散安定性を向上させるという理由から、コラーゲンペプチドの重量平均分子量は1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、2700以上であることが更に好ましい。
コラーゲンペプチドの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて確認できる。即ち、GPCでコラーゲンペプチドの重量平均分子量を求めるには、あらかじめ分子量が既知でそれぞれ異なる複数のポリマー(例えばポリエチレングリコール:PEG)数種を同条件で測定して得られたリテンションタイムと分子量との関係の検量線を元に算出すればよい。本発明における平均分子量とは、この手法に従ってGPCより算出した重量平均分子量を指す。
【0015】
コラーゲンペプチドは、ゼラチンを酵素や酸、アルカリなどで加水分解して得られたものであり、グリシンを多く含むタンパク質であり、市販品としても入手可能である。ゼラチンを加水分解する方法には特に制限がなく、従来公知の方法を用いて行うことが出来る。
【0016】
また、コラーゲンペプチドを構成するアミノ酸組成及びアミノ酸数については、上記分子量の範囲内であれば特に制限はなく、例えば、アミノ酸を3残基(ペプチド結合2個)有するコラーゲントリペプチドなど、ペプチド結合を2〜6個有するオリゴペプチドが挙げられる。
【0017】
本発明における低分子コラーゲンペプチドとして市販品を用いる場合、ナチコール1000(WEISHARDT製、重量平均分子量2700)、ナチコール4000(WEISHARDT製、重量平均分子量6800)などを用いることができる。
【0018】
本発明におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子において、低分子コラーゲンペプチドの含有割合は、銅ナノ粒子の質量に対する低分子コラーゲンペプチドの質量の比(低分子コラーゲンペプチドの質量/銅ナノ粒子の質量)が0.05以上0.8以下であることが好ましく、0.06以上0.63以下であることがより好ましく、0.06以上0.6以下であることが更に好ましく、0.06以上0.315以下であることが特に好ましく、0.06以上0.3以下であることがよりいっそう好ましく、0.063以上0.158以下であることが最も好ましい。銅ナノ粒子に対する低分子コラーゲンペプチドの質量比が0.05以上であればコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子が沈降しにくく、分散安定性に優れ、0.8以下であればコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の平均粒径を小さくすることができる。
【0019】
[銅ナノ粒子]
低分子コラーゲンペプチドにより表面を被覆される、平均粒径が50nm以下の銅ナノ粒子について説明する。
【0020】
本発明においては、銅ナノ粒子とは、銅のみから構成されるナノ粒子、又は銅を主成分としてなるナノ粒子である。銅を主成分としてなるとは、銅ナノ粒子に含まれる金属成分中、銅が90質量%以上含まれることを指し、銅ナノ粒子における銅の含有割合は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上である。
【0021】
本発明にかかる銅ナノ粒子は、銅の酸化物又は塩に含まれる銅イオンを還元させることにより得られるが、得ようとする銅ナノ粒子の種類に応じて、例えば、銅の酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、臭化物、水酸化物、酸化物などの金属化合物を水系溶剤あるいは有機溶剤に溶解あるいは分散させるようにする。
その中でも、水に可溶な銅の塩又は水酸化物を原料として好ましく用いることができる。そのような化合物としては酢酸銅、硫酸銅、塩化銅、水酸化銅などが挙げられる。また、これらの水和物(例えば硫酸銅五水和物など)でもよい。
【0022】
本発明にかかる銅ナノ粒子の平均粒径(平均一次粒径)は50nm以下であるが、導電性インクとしたときの描画性や配線形成時の焼成温度低下の観点から、好ましくは40nm以下であり、より好ましくは30nm以下であり、更に好ましくは20nm以下である。また、粒子凝集の抑止の観点から、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは3nm以上であり、更に好ましくは5nm以上である。
本発明にかかる銅ナノ粒子の平均粒径は透過型電子顕微鏡(TEM)観察より求めた平均粒径を指す。
【0023】
本発明においては、銅ナノ粒子の平均粒径をより小さくすることができ、耐酸化性も向上させることができるという理由から、前記銅ナノ粒子が、金、銀、パラジウム、白金、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の金属を、銅に対して質量比で0.001以上0.1以下の範囲で含有することが好ましく、0.005以上0.05以下の範囲で含有することがより好ましく、0.01以上0.03以下の範囲で含有することが更に好ましく、0.01以上0.02以下の範囲で含有することが特に好ましい。特に、前記銅ナノ粒子が、銀又はパラジウムを、銅に対して前記質量比で含有することが好ましい。
これらの銅以外の金属は、該金属の酸化物又は塩からなる添加剤を適量添加することで銅ナノ粒子に含有させることができる。
【0024】
[コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子]
本発明におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子は、前記低分子コラーゲンペプチドが前記平均粒径が50nm以下の銅ナノ粒子を被覆してなる粒子である。コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子において、低分子コラーゲンペプチドは銅ナノ粒子の表面の少なくとも一部に吸着していると考えられる。低分子コラーゲンペプチドが銅ナノ粒子に被覆していることは、例えばTEMなどで銅ナノ粒子を観察することで確認することができる。
【0025】
[コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法]
本発明におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法は、媒体中において、重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドの存在下、銅の酸化物又は塩を還元させる還元処理工程を有することが好ましい。
【0026】
前記媒体としては、低分子コラーゲンペプチドや銅の酸化物又は塩を溶解又は分散する溶媒であることが好ましく、水系媒体でも有機系媒体(例えばアルコールなど)でもよいが、銅ナノ粒子の酸化による発熱で発火する懸念があるため、より安全な水系媒体が好ましい。水系媒体とは水のみからなる溶媒でも、水以外の水溶性溶媒を50質量%以下含有する混合溶媒でもよい。
【0027】
[錯化剤]
本発明におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法においては、錯化剤を用いることが好ましい。錯化剤を用いることにより、粒子形状及び粒子径の制御がより容易になるという効果が得られる。
錯化剤としては、銅イオンと錯体を形成するものであれば限定されないが、酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含む配位性の官能基を有するものが好ましい。そのような官能基としては水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、アミノ基、チオール基などが挙げられ、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基が好ましい。また、前記官能基を同一分子内に二種類以上含有する形態も好ましい。
錯化剤としては、例えば、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などのオキシカルボン酸又はこれらの塩、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン(DHEG)、グリコールエーテルジアミン四酢酸、アスパラギン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、グルタミン酸二酢酸、エチレンジアミンジコハク酸などのアミノカルボン酸又はこれらの塩、トリエタノールアミン、グリセリンが挙げられ、酒石酸、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン(DHEG)が好ましい。また、これらの塩(例えば酒石酸ナトリウムなど)でもよく、水和物(例えば酒石酸ナトリウム二水和物など)でもよい。
【0028】
錯化剤の添加量は、銅の酸化物又は塩に対してモル比で0.5以上2.0以下が好ましく、1.0以上1.8以下がより好ましく、1.1以上1.5以下が更に好ましい。
【0029】
[還元処理]
銅ナノ粒子の還元処理としては、特に限定されず、例えば、還元剤を添加することによって行ってもよいし、還元剤を用いない電解還元などによる還元処理であってもよいが、好ましくは還元剤を用いた還元処理である。
【0030】
還元剤としては、特に限定されず、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジンなどのヒドラジン系還元剤や、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、アルデヒド類、アルコール類、アミン類、糖類などが挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。還元剤としてはヒドラジン系還元剤が好ましい。
還元剤の還元作用を促すために、必要に応じて、温度やpHを調整するようにしても良い。例えば、還元温度は10〜80℃が好ましく、10〜60℃がより好ましい。pHは11.5〜14.0が好ましい。また、還元剤の使用量は、銅イオンを還元するのに適した量であれば、特に限定されず、例えば、銅の酸化物又は塩に含まれる銅1モルに対し0.2〜5モルの範囲とすることができる。
【0031】
前記pH調整には、公知の塩基性化合物を用いることが出来る。例えば水溶性アルカリ金属化合物、アンモニア、アンモニウム塩化合物、あるいは、これら二種以上を併用してなるアルカリ性化合物の群より選択されるものを利用することが好ましい。その際、水溶性アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水酸化物塩など、得られる水溶液が高い塩基性を示すものが好適に利用される。
【0032】
電解還元を行う場合、陰極材料としては、白金、カーボンなどの棒状、板状電極、ドット電極のようなナノ構造電極が例示でき、陽極としては、銅、カーボン、白金などの棒状・板状・網状の形状電極が例示できる。なお、陰極表面付近に析出した粒子を脱離、回収するために陰極に超音波振動などの揺動を与えることが可能な構造とすることもできる。電流密度は好ましくは0.01〜100kA/dm、より好ましくは0.1〜50kA/dm程度であり、直流のほかパルス電流とすることもできる。還元温度は、10〜70℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。還元温度は、高温になるほど還元反応速度は速くなり、低温になるほど析出する粒子の粒径は小さくなる傾向がある。
具体的には、例えば、上記した電極を有する浴中に、金属イオン、低分子コラーゲンペプチド、錯化剤などを含む溶液を調製し、上記した条件で電解還元反応を行い、還元反応終了後、カソード表面付近に析出した銅ナノ粒子を回収する。
【0033】
いずれの還元処理を採用する場合においても、ハロゲンイオン存在下で行うことにより、デンドロイト状の凝集を抑制し、粒子径分布の狭い金属微粒子が得られやすいので、これにより、銅ナノ粒子の粒子径分布を制御することができる。ハロゲンイオンは、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンおよび沃素イオンから選択される1種または2種以上であり、イオン性ハロゲン化物が該ハロゲンイオンの供給源となることができ、その具体例としては、塩化水素、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化水素、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化第一銅、臭化第二銅、沃化水素、沃化カリウム、沃化ナトリウム、沃化第一銅、沃化第二銅、フッ化水素、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第一銅、フッ化第二銅、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化アンモニウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、臭化アンモニウム、沃化カルシウム、沃化バリウム、沃化アンモニウム、弗化アンモニウムなどが挙げられる。これらは2種以上であってもよい。上記ハロゲンイオンのうち特に好ましいのは、塩素イオンである。ハロゲンイオンの濃度は、溶液中において0.002〜1.0モル/リットル(L)が好ましい。ハロゲンイオンの濃度が前記0.002モル/L以上であれば一価ないし二価の銅イオン性化合物の混入が抑制できるため好ましく、1.0モル/L以下であればハロゲンイオンの除去が容易であるため好ましい。より好ましいハロゲンイオンの濃度は、0.005〜0.2モル/Lである。
また、いずれの還元処理を採用した場合においても、銅ナノ粒子を析出させた後は、ろ過や遠心分離、デカンテーション、限外ろ過などによる銅ナノ粒子の回収、洗浄、乾燥などの通常の処理を行うことができる。
【0034】
本発明におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法は、水系媒体中において、錯化剤、及び重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドの存在下、銅の酸化物又は塩を還元剤と反応させることにより、該銅の酸化物又は塩を還元し、平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子が前記重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドで被覆されたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を製造する方法であることが好ましい。
このような方法で合成することによって、一次粒子の平均粒径が50nm以下のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を効率良く得ることができる。
【0035】
本発明におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法においては、錯化剤、還元剤、pH調整剤以外のその他の成分を用いてもよい。その他の成分としては、例えば界面活性剤、消泡剤などが挙げられる。
【0036】
[コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物]
本発明におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物は、前記コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を媒体中に分散させてなるものである。
前記媒体としては公知の導電性インク又は導電性ペーストに用いられる媒体ならば特に限定なく用いることが出来る。
【0037】
前記媒体としては溶媒が好ましく、溶媒としては水、アルコール類、エーテル類、エステル類などの有機溶媒を幅広く用いることが可能であり、特に限定は要さないが、分散安定性の観点から、水、1〜3価のヒドロキシル基を有する脂肪族アルコール、前記アルコール由来のアルキルエーテル、及び前記アルコール由来のアルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0038】
溶媒として、水を用いる場合には、イオン交換水等のレベルの純度を有するものが好ましい。
【0039】
1〜3価のヒドロキシル基を有する脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、グリシドール、メチルシクロヘキサノール、2−メチル1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、イソプロピルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、2−フェノキシエタノール、カルビトール、エチルカルビトール、n−ブチルカルビトール、ジアセトンアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールトリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、へキシレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
中でも、1〜3価のヒドロキシル基を有する炭素数1〜4の脂肪族アルコールが沸点が高すぎず焼結後に残存しにくいことからより好ましく、具体的には、メタノール、エチレングリコール、グリセリン、2−メトキシエタノール、ジエチレングリコールであることが好ましい。
【0040】
エーテル類としては、前記アルコール由来のアルキルエーテルが挙げられ、ジエチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン等が例示される。中でも、1〜3価のヒドロキシル基を有する炭素数1〜4の脂肪族アルコール由来の炭素数2〜8のアルキルエーテルであることが好ましく、具体的には、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランであることが好ましい。
【0041】
エステル類としては、前記アルコール由来のアルキルエステルが挙げられ、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトン等が例示される。中でも1〜3価のヒドロキシル基を有する炭素数1〜4の脂肪族アルコール由来の炭素数2〜8のアルキルエステルであることが好ましく、具体的には、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチルであることが好ましい。
【0042】
上記溶媒の中でも、沸点が高すぎないことから、特に水を主溶媒として用いることが好ましい。主溶媒とは、溶媒の中で含有率が最も多い溶媒である。
【0043】
コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物におけるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の濃度は、分散物の全質量に対して、1質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を媒体中に分散させる方法としては特に制限なく、公知の方法(例えば、超音波ホモジナイザーなど)で行うことが出来る。
【0044】
コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物は、種々の用途に用いることができるが、特に導電性インク又は導電性ペーストとして、導電膜形成材料や導体配線形成材料として好適に利用できる。本発明における銅ナノ粒子は粒径が非常に小さく、かつ分散安定性及び耐酸化性に優れるため、特に導電性インクとして好ましく使用できる。
コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物からなる導電性インクを用いた配線形成方法としては、該導電性インクをインクジェット法により吐出して基板等に着弾させ、着弾したインク滴を焼成して配線を形成させる方法が好ましい。
【0045】
[導電膜の製造方法]
本発明においては、基材上にコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を含む導電性インクをを付与し、該付与された導電性インクの少なくとも一部に対してエネルギーを加えて、銅ナノ粒子を焼結させ、導電膜(導電性の金属銅膜)を製造することができる。
すなわち、本発明の導電膜の製造方法は、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を含む導電性インクを基材に付与する工程と、前記導電性インクにエネルギーを付与して、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を焼結するエネルギー付与工程と、を含む。
【0046】
(基材)
本発明の導電膜の製造方法において、基材としては、公知のものを用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、樹脂、紙、ガラス、シリコン系半導体、化合物半導体、金属酸化物、金属窒化物、木材等からなる一種又は二種以上、若しくは二種以上の複合基材が挙げられる。
【0047】
具体的には、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂)、アクリル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂(好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリアセタール樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、セルロース誘導体等の樹脂基材;非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙(アート紙、コート紙)、特殊印刷用紙、コピー用紙(PPC用紙)、未晒包装紙(重袋用両更クラフト紙、両更クラフト紙)、晒包装紙(晒クラフト紙、純白ロール紙)、コートボール、チップボール、段ボール等の紙基材;ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカガラス、石英ガラス等のガラス基材;アモルファスシリコン、ポリシリコン等のシリコン系半導体;CdS、CdTe、GaAs等の化合物半導体;銅板、鉄板、アルミ板等の金属基材;アルミナ、サファイア、ジルコニア、チタニア、酸化イットリウム、酸化インジウム、ITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、ネサ(酸化錫)、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、フッ素ドープ酸化錫、酸化亜鉛、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、ガリウムドープ酸化亜鉛、窒化アルミニウム基材、炭化ケイ素等のその他無機基材;紙−フェノール樹脂、紙−エポキシ樹脂、紙−ポリエステル樹脂等の紙−樹脂複合物、ガラス布−エポキシ樹脂、ガラス布−ポリイミド系樹脂、ガラス布−フッ素樹脂等のガラス−樹脂複合物等の複合基材等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、紙基材、ガラス基材が好ましく使用される。
【0048】
(導電性インクの基材への付与工程)
本発明の導電膜の製造方法において、導電性インクを基材に付与する方法としては、塗布法が好ましい。塗布法としては、特に限定するものではないが、例えば、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法、ディスペンサーでの塗布法等が挙げられ、インクジェット法が、オンデマンド性の観点から好ましい。塗布の形状としては面状であっても、ドット状であっても、問題は無く、特に限定されない。導電性インクを基材に塗布する塗布量としては、所望する導電膜の膜厚に応じて適宜調整すればよいが、通常、乾燥後の液状組成物の膜厚が0.01〜5000μmの範囲、好ましくは0.1〜1000μmの範囲となるよう塗布すれば良い。
【0049】
(乾燥)
本発明の導電膜の製造方法においては、導電性インクは基材へ塗布した後に乾燥を行い、焼結させる前に液体成分が存在しないものとすることが望ましい。液体成分が残存していないと、焼成工程において液体成分が気化膨張して微小なクラックや空隙を発生させることがないため、導電膜の基材との密着性、導電率の観点で好ましい。
乾燥させる方法としては、温風乾燥機などを用いることができ、温度としては、40℃〜200℃で行なうことが好ましく、50℃〜150℃で行なうことがより好ましい。
【0050】
(エネルギー付与工程)
本発明の導電膜の製造方法においては、基材上に付与され、必要に応じて乾燥された導電性インク(焼結前の銅膜)に、エネルギーを与えることで上記導電性インク中のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を融着させ、金属銅膜とする。
前記エネルギーを付与する手段としては特に制限が無く、従来公知の方法を用いることが出来る。例としては、電気炉、マイクロ波などの電磁波、赤外線、ホットプレート、レーザービーム、電子ビーム、イオンビーム、熱線などが挙げられる。前記エネルギー付与としては加熱又は光照射によるエネルギー付与が好ましく(すなわち、加熱焼結、又は光焼結が好ましく)、光照射によるものがより好ましい。また、加熱と光照射を組み合わせても良い。
光照射によりエネルギーを付与することで、より短時間で焼結可能となり生産性が向上する。また、長時間の加熱による基板の劣化を抑制でき、金属膜と基材との密着性が良好となる。
加熱焼結の場合の加熱温度は、加熱による支持体の劣化抑止の観点から、100℃〜350℃が好ましく、200℃〜350℃がより好ましい。
【0051】
光照射する際の光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、等がある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。また、g線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。
具体的な態様としては、赤外線レーザーによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光、赤外線ランプ露光などが好適に挙げられる。
【0052】
光照射は、フラッシュランプによる光照射が好ましく、フラッシュランプによるパルス光照射であることがより好ましい。高エネルギーのパルス光の照射は、導電性インクを付与した部分の表面を、極めて短い時間で集中して加熱することができるため、基材への熱の影響を極めて小さくすることができるためである。
【0053】
パルス幅としては1μ秒〜100m秒であることが好ましい。
【0054】
パルス光の照射時間は、1〜100m秒が好ましく、1〜50m秒がより好ましく、1〜20m秒が更に好ましい。光照射エネルギーは1〜30J/cmが好ましく、3〜25J/cmがより好ましく、5〜20J/cmが更に好ましい。
【0055】
<導体配線>
本発明は、上記導電性インクにより得られる導体配線にも関する。
導体配線は、上記液状組成物をパターン状に印刷する方法や、上記導電性インクから得られた金属膜をパターン状にエッチングすることなどで得られる。
【0056】
(エッチング工程)
本工程は、上記金属膜をパターン状にエッチングする工程である。即ち、本工程では、基材表面全体に形成された金属膜の不要部分をエッチングで取り除くことで、所望の金属パターンを形成することができる。
この金属パターンの形成には、如何なる手法も使用することができ、具体的には一般的に知られているサブトラクティブ法、セミアディティブ法が用いられる。
【0057】
サブトラクティブ法とは、形成された金属膜上にドライフィルムレジスト層を設けパターン露光、現像により金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジストパターンをマスクとしてエッチング液で金属膜を除去し、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジストとしては如何なる材料も使用でき、ネガ型、ポジ型、液状、フィルム状のものが使用できる。また、エッチング方法としては、プリント配線基板の製造時に使用されている方法が何れも使用可能であり、湿式エッチング、ドライエッチング等が使用可能であり、任意に選択すればよい。作業の操作上、湿式エッチングが装置などの簡便性の点で好ましい。エッチング液として、例えば、塩化第二銅、塩化第二鉄等の水溶液を使用することができる。
【0058】
また、セミアディティブ法とは、形成された金属膜上にドライフィルムレジスト層を設け、パターン露光、現像により非金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジソトパターンをマスクとして電気めっきを行い、ドライフィルムレジソトパターンを除去した後にクイックエッチングを実施し、金属膜をパターン状に除去することで、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジスト、エッチング液等はサブトラクティブ法と同様な材料が使用できる。また、電気めっき手法としては上記記載の手法が使用できる。
以上の工程を経ることにより、所望の金属パターンを有する導体配線が製造される。
【0059】
一方、上記導電性インクをパターン状に形成し、パターン状の導電性インクに対してエネルギーを付与し、焼結を行うことで、導体配線を製造することもできる。
具体的には、例えば、インクジェット方式により、基材上にパターン状に導電性インクを吐出して、該液状組成物成形部分に対してエネルギーを付与することにより導体化させればよい。
【0060】
本発明の導体配線は、本発明の金属膜と同様、空隙が少ない緻密な微細構造となり、導電性が良好となる。また、焼結を上述の光照射で行うことにより、基材密着性の高い導体配線となる。
本発明における導体配線を多層配線基板として構成する場合、金属パターン材料の表面に、さらに絶縁層(絶縁樹脂層、層間絶縁膜、ソルダーレジスト)を積層して、その表面にさらなる配線(金属パターン)を形成してもよい。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0062】
(実施例1)
攪拌機、冷却管を備えた500mlの三口フラスコに、銅原料である硫酸銅五水和物(和光純薬製)2.5g、添加剤である酢酸パラジウム(和光純薬製)27mg、錯化剤である酒石酸ナトリウム二水和物(和光純薬製)2.3g、オルフィンE1010(日信化学製、アセチレン系界面活性剤)0.1g、水酸化ナトリウム3.0g、保護剤であるナチコール1000(WEISHARDT製、重量平均分子量2700のコラーゲンペプチド)40mg、純水200mLを入れ、室温で30分攪拌した。次いで、反応容器内温を45℃にした。還元剤であるヒドラジン一水和物1.0gを水49gに溶解し、得られた水溶液を前記反応容器に滴下し、更に2時間反応を行った。
以上のようにして、実施例1のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を得た。
銅ナノ粒子の生成は電子回折により確認した。合成した銅ナノ粒子の電子回折パターンより、Cu−fccの結晶構造を有する銅ナノ粒子であることが確認できた。
得られた銅ナノ粒子のTEM観察より400個の一次粒子を無作為に抽出して粒径を測定することで平均粒径を求めた。実施例1において得られた銅ナノ粒子の平均粒径は、約20nmであった。結果を表1に示した。
また、表1に、銅ナノ粒子に対する保護剤の質量比、及び、銅に対する添加剤中の金属の質量比を示した。
図1に、実施例1における平均粒径約20nm程度の銅ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真の図を示した。
【0063】
(実施例2〜9)
用いる銅原料、錯化剤、保護剤、添加剤およびその比率を表1に示すとおりにした以外は実施例1と同様の方法によりコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を合成した。実施例2〜9においてはいずれも銅の使用量が10mmolとなるようにした。
表1において、ナチコール4000は、WEISHARDT製の重量平均分子量6800のコラーゲンペプチドであり、水酸化銅は関東化学製のものを使用し、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン(DHEG)は東京化成製のものを使用し、酢酸銀は和光純薬のものを使用した。
図2に、実施例6における平均粒径約30nm程度の銅ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真を示す図を示した。
【0064】
(比較例1)
保護剤としてポリエチレンイミン(和光純薬製、重量平均分子量約1800)を用いた以外は実施例1と同様の方法で銅粒子を合成した。
【0065】
(比較例2)
保護剤としてポリビニルピロリドン(aldrich製、重量平均分子量約8000)を用いた以外は実施例1と同様の方法で銅粒子を合成した。
【0066】
(比較例3)
保護剤としてゼラチン(新田ゼラチン製、重量平均分子量約20000)を用いた以外は実施例1と同様の方法で銅粒子を合成した。
【0067】
[評価]
(銅ナノ粒子の平均粒径)
得られた銅ナノ粒子のTEM観察より400個の一次粒子を無作為に抽出して粒径を測定することで平均粒径を求めた。
なお、平均粒径に関して、粒子の合一のため一次粒子がTEMで確認できない場合は、「測定不可」とした。
【0068】
銅ナノ粒子の分散安定性及び耐酸化性の評価は、以下の方法で行った。結果を表1に示す。
【0069】
(分散安定性)
得られた銅ナノ粒子を水で希釈し、銅ナノ粒子の濃度を約0.25質量%とした後、15mLのガラス瓶に分散液10mLをはかりとり、大気下、室温で保管して室温で経時させ沈降の有無を観察した。
A:室温経時1週間後、沈降物がほとんど確認されない
B:室温経時1週間後、沈降物が確認されるが攪拌で容易に再分散する
C:室温経時1週間後、沈降物が確認されるが攪拌しても再分散しない
D:室温経時1週間後、固形分が完全に沈降し攪拌しても分散状態とならない
【0070】
(耐酸化性)
得られた銅ナノ粒子を水で希釈し、銅ナノ粒子の濃度を約0.25質量%とした後、15mLのガラス瓶に分散液10mLをはかりとり、大気下、室温で保管して室温で長時間経時させ、耐酸化性を評価した。耐酸化性はまず銅ナノ粒子分散液のプラズモン吸収に由来する特異な色の変化を観察し、更にX線回折により確認した。
A:室温経時2週間後でも、分散液の色に変化が見られずX線回折でも酸化銅が確認されない
B:室温経時1週間後、分散液の色に変化が見られずX線回折でも酸化銅が確認されないが、2週間経時後にはX線回折で酸化銅を確認できる
C:室温経時1週間以内で分散液が青黒くなり、X線回折で酸化銅が確認される
評価不可:銅のかたまりが生じ、ナノ粒子化できないため、銅ナノ粒子が得られず、銅ナノ粒子の耐酸化性を評価できない
【0071】
【表1】

【0072】
保護剤として重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドを用いた実施例のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物は、いずれも室温で少なくとも一週間以上安定な分散液であり、経時による分散液の色調の変化がみられず、X線回折で銅ナノ粒子の酸化が確認されなかった。一方、保護剤としてポリエチレンイミンやポリビニルピロリドンを用いた比較例1及び2は、還元後に着色性の固形分が速やかに沈降し、安定な銅ナノ粒子分散液を得ることができなかった。
また、重量平均分子量約20000のゼラチンを用いた場合、銅ナノ粒子分散液は得られたものの、室温経時で比較的容易に酸化され全て沈降した。
【0073】
(実施例10)
実施例1において得られたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子20g、純水64g、エチレングリコール10g、グリセリン6gを混合し、超音波ホモジナイザーで15分間処理し、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散液を得た。このコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散液を導電性インクとして使用した。
(基板への塗布・乾燥)
スライドガラス(プレクリン水縁磨(MATSUNAMI製))に、上記コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散液をインクジェット(IJ)印刷装置(DMP2831(Dimatix製))にて1cm角の面状に印刷し、温風乾燥機にて120℃、30分間乾燥し、焼結前の銅膜を有するスライドガラスを作成した。乾燥後の焼結前の銅膜の膜厚は、レーザーマイクロスコープにより測定したところ、0.8μmであった。
(加熱による焼結)
焼結前の銅膜を有するスライドガラスを、窒素雰囲気下ホットプレートで加熱して金属銅膜を得た。加熱温度は300℃、加熱時間は1時間であった。また、酸素濃度は100ppmであった。
(体積抵抗率)
金属銅膜の表面抵抗値を、(ロレスタEP MCP−T360(三菱化学アナリテック製))を用いて、四探針法にて測定した。得られた表面抵抗値に膜厚を乗算して体積抵抗率を算出した。
体積抵抗値は8×10−4Ωcmであった。
【0074】
(実施例11)
実施例10と同様に、実施例1において得られたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を用いたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散液をスライドガラスにインクジェット(IJ)印刷装置にて塗布し、温風乾燥機にて乾燥させて焼結前の銅膜を得た。
(光照射による焼結)
焼結前の銅膜に、Xeフラッシュランプ(Sinteron2000(Xenon製)、設定電圧3kV、照射エネルギー7J/cm、パルス幅2msec.)を照射し、焼結させて、金属銅膜を得た。
(体積抵抗率)
金属銅膜の表面抵抗値を、(ロレスタEP MCP−T360(三菱化学アナリテック製))を用いて、四探針法にて測定した。得られた表面抵抗値に膜厚を乗算して体積抵抗率を算出した。
体積抵抗値は2×10−4Ωcmであった。
【0075】
(実施例12)
実施例11において、基板としてスライドガラスの代わりにPET基板(東山フイルム製)を用いた以外は同様にして塗布、乾燥、光照射を行い金属銅膜を得た。体積抵抗値は6×10−4Ωcmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子が重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドで被覆されたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
【請求項2】
前記銅ナノ粒子の質量に対する前記コラーゲンペプチドの質量の比が0.05以上0.8以下である、請求項1に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
【請求項3】
前記銅ナノ粒子の質量に対する前記コラーゲンペプチドの質量の比が0.06以上0.6以下である、請求項1又は2に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
【請求項4】
前記銅ナノ粒子が、金、銀、パラジウム、白金、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の金属を、銅に対して質量比で0.001以上0.1以下の範囲で含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
【請求項5】
前記銅ナノ粒子が、銀又はパラジウムを、銅に対して質量比で0.001以上0.1以下の範囲で含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
【請求項6】
前記コラーゲンペプチドの重量平均分子量が1000以上5000以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を媒体中に分散させてなるコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子分散物。
【請求項8】
水系媒体中において、錯化剤、及び重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドの存在下、銅の酸化物又は塩を還元剤と反応させることにより、該銅の酸化物又は塩を還元し、平均粒径50nm以下の銅ナノ粒子が前記重量平均分子量10000以下のコラーゲンペプチドで被覆されたコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を製造する、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のコラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を含む導電性インク。
【請求項10】
請求項9に記載の導電性インクを基材に付与する工程と、前記導電性インクにエネルギーを付与して、コラーゲンペプチド被覆銅ナノ粒子を焼結するエネルギー付与工程と、を含む導電膜の製造方法。
【請求項11】
前記エネルギー付与工程が、前記導電性インクに光照射を行なう工程を含む、請求項10に記載の導電膜の製造方法。
【請求項12】
前記光照射が、フラッシュランプによる光照射である、請求項11に記載の導電膜の製造方法。
【請求項13】
前記導電性インクを基材に付与する工程が、インクジェット法により導電性インクを吐出させて前記基材上に前記導電性インクを塗布する工程である、請求項10〜12のいずれか一項に記載の導電膜の製造方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか一項に記載の導電膜の製造方法により得られた金属膜から形成された導電配線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−64191(P2013−64191A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148536(P2012−148536)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】