説明

コリネ型細菌による化学品の製造方法

【課題】
コリネ型細菌を用いた好気発酵下で発酵した発酵液を分離膜でろ過する際にろ過性を改善させることを課題とする。
【解決手段】
化学品を生産する能力を有するコリネ型細菌を培養し、得られた発酵培養液を分離膜で濾過処理し、濾液から生産物を回収する化学品の製造法であって、発酵培地に細胞壁合成抑制剤を添加することで、従来よりも発酵培養液のろ過性が改善され化学品の生産性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学品を生産する能力を有するコリネ型細菌を培養し、得られた発酵培養液を分離膜で濾過処理し、濾液から生産物を回収する化学品の製造法であって、発酵培地に細胞壁合成抑制剤を添加することを特徴とする化学品の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コリネ型細菌は従来からL−リジンまたはL−グルタミン酸またはL−トリプトファンなどのL−アミノ酸の製造とカダベリンなどのポリアミンの製造、コハク酸などの有機酸製造などの化学品製造に良く用いられている(特許文献1〜5参照。)。コリネ型細菌を用いた化学品の製造方法である発酵法は、大きくバッチ発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と、連続発酵法とに分類される。
【0003】
バッチ発酵法および流加発酵法は、設備的には簡素であり短時間で培養が終了し、雑菌汚染による被害が少ないという利点がある。ただし、バッチ発酵法および流加発酵法において発酵終了後の発酵液から化学品を回収するためには、後続の精製プロセスに移すため発酵液中の菌体細胞を除去する必要があり、従来から発酵液から菌体細胞を除去する固液分離方法として遠心または分離膜によるろ過分離が必要になる。なお、遠心分離による発酵液の固液分離は時間を要し、固液分離に時間が長くなるほど発酵プロセスの稼働率は低下しうることと、外来からの雑菌汚染の可能性が高く得られる化学品の品質の変化が起こりうることから、近来は発酵プロセスの効率化と雑菌汚染防止につながる固液分離の時間を短縮できる分離膜によるろ過分離の検討が進められている。
【0004】
一方、連続発酵、特に分離膜を用いた連続発酵は、目的化学品を含む発酵液の分離膜を用いた連続的にろ過することにより長時間にわたり安定して効率良く培養製造が可能であり、連続的な発酵により高生産性を維持することができるという利点がある(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−514439号公報
【特許文献2】特開2008−212138号公報
【特許文献3】特開2008−200046号公報
【特許文献4】特開2004−222569号公報
【特許文献5】特開2008−067629号公報
【特許文献6】特開2008−104453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は分離膜を用いた発酵法による化学品の製造方法において発酵液の固液分離の時間短縮及び化学品の生産性の向上させるためには、膜の目詰まり改善による発酵液のろ過性を向上させる必要があることを見出した。そこで本発明は、コリネ型細菌の発酵による化学品の製造方法において、簡便な方法でコリネ型細菌を用いた発酵液を分離膜でろ過する際にろ過性を改善させることにより、発酵液の固液分離の時間短縮及び生産性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、発酵培地に細胞壁合成抑制剤を添加することで、本発明の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の(1)〜(8)で構成される。
【0008】
(1)化学品を生産する能力を有するコリネ型細菌を細胞壁合成抑制剤を含む発酵培地で培養し、得られた発酵培養液を分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用いて濾過処理し、濾液から生産物を回収することを特徴とする、化学品の製造方法。
【0009】
(2)細胞壁合成抑制剤が、ミコール酸合成抑制剤または細胞壁へのミコール酸付着を抑制する薬剤である、(1)に記載の化学品の製造方法。
【0010】
(3)細胞壁合成抑制剤がイソニコチン酸ヒドラジド(INH)またはエタンブトールである、(1)または(2)に記載の化学品の製造方法。
【0011】
(4)発酵培地中の細胞壁合成抑制剤の含有量が0.1〜20g/Lであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【0012】
(5)コリネ型細菌の培養が、前記濾過処理の未濾過液を前記発酵培養液に保持または還流し、かつ、前記発酵原料を連続的に添加する連続発酵培養であることを特徴とする、請求項(1)〜(4)のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【0013】
(6)コリネ型細菌がコリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属である、請求項(1)〜(5)のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【0014】
(7)化学品がアミノ酸またはポリアミンである、(1)〜(6)のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【0015】
(8)化学品がL−リジンまたはカダベリンである、(1)〜(7)のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発酵培地に細胞壁合成抑制剤を添加することによりコリネ型細菌の発酵の際、発酵液のろ過性を大きく改善させることができる。発酵液のろ過性の向上は、発酵液から細胞の固液分離の際、分離膜が詰りにくくなり発酵液の時間短縮またはろ過量の向上ができる。また、コリネ型細菌を用いた化学品の連続製造の際、分離膜が詰りにくくなることで長期運転による化学品の生産性を向上させるか連続発酵に用いる分離膜の面積を減らせることにより、発酵装置をコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1と比較例1のろ過時間と膜間差圧を比較したグラフである。
【図2】図2は、実施例2と比較例2のろ過時間と膜間差圧を比較したグラフである。
【図3】図3は、実施例3と比較例3のろ過時間と膜間差圧を比較したグラフである。
【図4】図4は、実施例4と比較例4のろ過時間と膜間差圧を比較したグラフである。
【図5】図5は、実施例5と比較例5の培養時間と膜間差圧を比較したグラフである。
【図6】図6は、実施例6と比較例6の培養時間と膜間差圧を比較したグラフである。
【図7】図7は、実施例7と比較例7の培養時間と膜間差圧を比較したグラフである。
【図8】図8は、実施例8と比較例8の培養時間と膜間差圧を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、化学品を生産する能力を有するコリネ型細菌を培養して化学品を含む発酵培養液を得ることを特徴としている。
【0019】
コリネ型細菌とは、1950年代にアミノ酸生産菌として分離されたグラム陽性に属する細菌である。本発明で使用されるコリネ型細菌としては、通常の好気的条件下で生育し、本発明の目的とする化学品を生産するものであれば特に限定されないが、具体例として、アグロコッカス(Agrococcus)属、グロマイセス(Agromyces)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、オーレオバクテリウム(Aureobacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、クラビバクター(Clavibacter)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、ラサイバクター(Rathayibacter)属、テラバクター(Terrabacter)属、ツリセラ(Turicella)属に属する細菌が挙げられ、好ましくはコリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属する細菌、より好ましくはコリネバクテリウム属に属する細菌が挙げられる。また、コリネバクテリウム属に属する細菌の具体例としては、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13870、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806が挙げられる。
【0020】
本発明では所望の化学品を効率的に製造できるよう、当業者にとって公知の手法である変異株スクリーニングや遺伝子組換えによって育種されたコリネ型細菌が好ましく用いられる。そのように育種されたコリネ型細菌が好ましく生産しうる化学品としては、アミノ酸または有機酸、核酸、ポリアミン、ビタミン、各種酵素などのタンパク質、ペプチド、糖、糖アルコール、アルコール、脂質などが挙げられるが、好ましくはアミノ酸またはポリアミンである。
【0021】
コリネ型細菌が生産しうるアミノ酸の具体例としてはトリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、ヒスチジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、セリン、アスバラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシンであり、L−アミノ酸またはD−アミノ酸、DL−アミノ酸であっても良い。
【0022】
アミノ酸はコリネ型細菌の発酵により生産される。これらのアミノ酸生産できるコリネ型細菌は、自然界よりスクリーニングで単離したコリネ型細菌、あるいは特定遺伝子を破壊させたり、または発現を増強または減少させたりなどの変異操作[例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)またはエチルメタンスルフォネート(EMS)を用いる方法またはUV照射による変異導入法あるいは試験管内変異法(「Molecular and General Genetics」,1978年,第145巻,p.101)]によって該遺伝子に変異を誘起するまたは遺伝子組み換えによりアミノ酸合成能力を増強または導入する等によるコリネ型細菌などが挙げられる。
【0023】
変異操作あるいは遺伝子組み換えによりコリネ型細菌のアミノ酸合成能力を増強または導入する例として、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)をコーディングする遺伝子に一つ以上の塩基を導入もしくは欠失させる突然変異法、ナンセンス突然変異の導入、または上記ポリペプチドの活性を低下する法などによるコリネバクテリウムを成長させる段階、培地または細胞中にL−アミノ酸を濃縮する段階、L−アミノ酸を分離する段階を含むL−アミノ酸を製造する方法(米国特許6872553号)、またL−アミノ酸の生産能を向上させる方法としてL−アミノ酸の細胞内への取り込み系の欠失またはその系の活性低下またはL−リジン、L−アルギニンの排出遺伝子(LysE)などのL−アミノ酸の排出系の強化などが挙げられる(欧州特許出願公開1038970号、WO01/005959号、J Mol Microbiol Biotechnol 1999 Nov;1(2):327−36、WO97/23597号)。
【0024】
L−リジン生産においては、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)活性を増大、マレート・キノン・オキシドレダクターゼ(malate quinone oxidoreductase)を欠損するなどによりL−リジンの生産などが挙げられる(特表2002−508921号、WO2003/0044943号)。また、S−(2−アミノエチル)−システイン(AEC)耐性を有する変異株などを用いる生産、その生産にL−ホモセリンなどのアミノ酸を一つ以上要求する株またはAECとアミノ酸一つ以上を要求する株を用いる生産などが挙げられる(特公昭56−1914号、特公昭56−1915号、特公昭57−14157号、特公昭57−14158号、特公昭57−30474号、特公昭58−10075号、特公昭59−4993号、特公昭61−35840号、特公昭62−24074号、特公昭62−36673号、特公平5−11958号、特公平7−112437号、特公平7−112438号、特公昭48−28078号、特公昭56−6499号、米国特許第3708395号及び第3825472号)。また、DL−α−アミノ−ε−カプロラクタム、α−アミノ−ラウリルラクタム、アスパラギン酸−アナログ、スルファ剤、キノイド、N−ラウロイルロイシンに耐性を示すように変異を導入した株、オキザロ酢酸脱炭酸酵素または呼吸系酵素阻害剤の耐性を示す変異株が挙げられる(特開昭50−53588号、特開昭50−31093号、特開昭52−102498号、特開昭53−9394号、特開昭53−86089号、特開昭55−9783号、特開昭55−9759号、特開昭56−32995号、特開昭56−39778号、特公昭53−43591号、特公昭53−1833号)。また、イノシトールまたは酢酸、フルオロピルビン酸などのビタミンまたは有機酸の一つ以上の組み合わせの要求性を示す変異株、または34℃以上の温度に対して温度感受性を示す変異株、エチレングリコール耐性株などが挙げられる(特開昭55−9784号、特開昭56−8692号、特開昭55−9783号、特開昭53−86090号、米国特許第4411997号)。また、L−リジン生合成経路に関わる酵素の活性を増強させることによっても、L−リジン生産能が付与された微生物を得ることができる。これらの酵素活性の上昇は、酵素をコードする遺伝子のコピー数を細胞内で増やすこと、発現調節配列を変えることによって、達成できる。さらに、L−リジン以外の物質を生成する反応を触媒する酵素の活性とL−リジン生産に負に機能する酵素活性が低下または欠損していてもよい(WO95/23864号、WO96/17930号、WO2005/010175号)。
【0025】
L−グルタミン生産においては、培地中にビオチンを含有する培養によるL−グルタミン生産するコリネ型細菌、プリンアナログ耐性および/又はメチオニンスルホキサイド耐性を有するL−グルタミン生産コリネ型細菌、L−グルタミン生産能を有し、グルタミンシンテターゼ活性が増強されたコリネ型細菌、または細胞内のグルタミナーゼ活性が低下し、さらに細胞内のグルタミンシンテターゼ活性が増強するように改変されたコリネ型細菌などが挙げられる(特開昭62−186796号、特開昭61−202694号、特開2002−300887号、特開2004−187684号)。さらに、L−グルタミン酸濃度を上昇させる方法としては、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を欠損する方法(WO95/34672号)またはグルタミンシンテターゼをコードする遺伝子を増強させる方法(特開2002−300887号)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(gdh)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(icdA)、アコニット酸ヒドラターゼ遺伝子(acnA, acnB)、及びクエン酸シンターゼ遺伝子(gltA)を増強するなどが掲示されている(特開昭63−214189号)。その他に、ビオチン制限、または界面活性剤添加、またはペニシリン添加等によってL−グルタミン酸生成を誘導した状態で行われるか、界面活性剤温度感受性またはペニシリン感受性株などによりグルタミン酸生産が行われる(欧州特許出願公開1002866号、特開平4−088994号)。
【0026】
L−アラニン発酵においては、L−アラニンデヒドロゲナーゼ遺伝子の相同組換えを行うことによりアラニンの生産量を増大させた株、H−ATPase活性の欠損株、アスパラギン酸β−デカルボキシラーゼ遺伝子を増幅させた株などが挙げられる(特開平6−277082号、Appl Microbiol Biotechnol. 2001 Nov;57(4):534−40、特開平7−163383号)。
【0027】
L−トリプトファン生産においては、L−フェニルアラニンとL−チロシン要求性を持ち、4−メチル‐トリプトフアン、6−フルオロ‐トリプトフアン、4−アミノ−フェニルアラニン、4−フルオロ‐フェニルアラニン、チロシン‐ヒドロキサメート、フェニルアラニン−ヒドロキサメート耐性を有するコリネバクテリウム・グルタミクムATCC21851でのトリプトファン生産が挙げられる(特公平7−59199号)。またトリプトファンシンターゼ活性、アントラニル酸合成酵素活性、ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ活性の増強の内1つ以上の活性が増強されたコリネ型細菌などが挙げられる(WO94/08031号または米国特許第4371614号)。更にトリプトファンオペロンを含む組み換えDNAを導入することによってもL−トリプトファン生産能を付与またはトリプトファンオペロンのリプレッサーをコードする遺伝子を欠損させるか、またはそのリプレッサーの活性の低下を引き起こす変異の導入によるL−トリプトファン生産の付与することができる(特開昭57−71397号、特開昭62−244382号、米国特許第4371614号、WO2005/056776号)。また、マレートシンターゼ、イソシトレートリアーゼ、イソシトレートデヒドロゲナーゼキナーゼ/フォスファターゼオペロンが構成的に発現または同オペロンの発現が強化されことが挙げられる。サルフアグアニジンに耐性株、トリプトファンオペロンが導入された株、シキミ酸キナ−ゼをコ−ドする遺伝子を導入した株を用いることができる(特公平3−14436号、特開昭63−240794号、特開昭61−78378号)。
【0028】
L−アルギニン生産においては、変異導入によりサルファ剤、2−チアゾールアラニン、α−アミノ−β−ヒドロキシ吉草酸等の薬剤耐性を有し、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−スレオニン、L−イソロイシン、L−メチオニンまたはL−トリプトファン要求性を有する株、またはケトマロン酸、フルオロマロン酸またはモノフルオロ酢酸に耐性を有する株、アルギニン耐性を有する株によるL−アルギニン生産などが挙げられる(特開昭54−44096号、特開昭57−18989号、特開昭62−24075号)。また、大腸菌由来のアセチルオルニチンデアセチラーゼ、N−アセチルグルタミン酸−γ−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、N−アセチルグルタモキナーゼ、及びアルギニノサクシナーゼの遺伝子を含むDNA断片をコリネ型細菌に導入することによりL−アルギニンの生合成酵素の増強など挙げられる(特公平5−23750号)。更に、L−アルギニン生産するコリネ型細菌としては、ヒスチジンまたはトリプトファンなどのアナログに耐性を有するように変異を導入した株、アミノ酸またはその前駆体の一つ以上に要求性を有するように変異を導入した株、コハク酸要求性または核酸塩基アナログに耐性な変異株、アザピリミジン誘導体等に耐性を有するように変異を導入した株、アルギニンヒドロキサメート、または/及び2−チオウラシルに耐性を有するように変異を導入した株、アルギニン分解能を欠損し、アルギニンのアンタゴニスト及びカナバニンに耐性を有し、リジンを要求する変異株、また上記耐性能と要求性の一つ以上の組み合わせを持つ変異株へ育種したコリネ型細菌などが挙げられる(特開昭52−114092号、特開昭52−99289号、特開昭58−9692号、特開昭49−126819号、特公昭51−6754号、特開昭52−8729号、特開昭53−143288号、特開昭53−3586号)。
【0029】
L−スレオニン生産においては、スレオニンオペロンを組み換えることによるスレオニン生産方法(特公平第1−38475号)またはセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の減衰後に改善された方法(特開第2001−190296号)等が挙げられる。
【0030】
L−ロイシン生産においては、2−チアゾールアラニンかつβ−ハイドロキシロイシン耐性、またはバリンアナログ耐性、またはバリン要求性、またはS−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)耐性、またはフェニルアラニン、バリンおよびイソロイシン要求性を示すコリネ型細菌による生産が挙げられる(特開平8−266295号、特開昭63−248392号、特公昭38−4395号、特公昭51−37347号、特公昭54−36233号)。
【0031】
L−イソロイシン生産においては、分枝アミノ酸の排出をコードするヌクレオチド配列を増幅、プロトプラスト融合によりL−イソロイシン生産能を付与、代謝経路のホモセリンデヒドロゲナーゼ強化、薬剤耐性を示すコリネ型細菌による生産が挙げられる(特開2001−169788号、特開昭62−74293号、特開昭62−91193号、特開昭62−195293号、特開昭61−15695号、特開昭61−15696号)。
【0032】
L−バリンの生産においては、L−バリン生合成経路に関わる酵素をコーディングする遺伝子の発現強化または変異導入などが挙げられる(WO00/50624号、アミノ酸発酵、学会出版センター、397〜422頁、1986年)。
【0033】
L−フェニルアラニン生産としては、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼまたはピルビン酸キナーゼ活性が低下した株(特開平1−317395号)、チロシン要求性株(特開昭63−105688号)等を使用することができる。
【0034】
L−メチオニン生産においては、メチルキャップスルフィド化合物の存在かでメチオニンを生産する株、またはaskfbr、homfbr、metX、metY、metB、metH、metE、metF、およびzwfから選択される少なくとも5つ以上の遺伝子のそれぞれに遺伝子改変を含む組換えであって、該遺伝子改変が該少なくとも5つ以上の遺伝子の過剰発現を引き起こした株などが挙げられる(特表2009−501548号、特表2009−501550号)。または異種metI遺伝子を発現するように組換えた株などが挙げられる(特表2009−501547号)。
【0035】
L−セリン生産においては、アザセリンまたはβ−(2−チエニル)−DL−アラニンに耐性を有するL−セリン生産可能な株、ホスホセリンホスファターゼ活性又はホスホセリントランスアミナーゼ活性の少なくとも一方が増強された株、アザセリンまたはβ−(2−チエニル)−DL−アラニンに耐性を示し、かつL−セリン分解能を欠失しL−セリンを生産する株、グリシンをL−セリンに転化することができる微生物の改良された株を好気的条件下で培養することからなり、改良された株が(1)セリンデヒトラターゼ陰性および(2)アミノ酸類似体のセリンヒドロキサメート、グリシンヒドロキサメートおよびメチオニンヒドロキサメートの少なくとも1種に対する抵抗性がある株などが挙げられる(特開平11−266881号、特開平11−253187号、特開平10−248588号、特開昭60−120996号)。
【0036】
L−システイン生産においては、セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子で形質転換されたこと、又は細胞内のセリンアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現が増強されるように同遺伝子の発現調節配列が改変されたこと等により、細胞内のセリンアセチルトランスフェラーゼ活性が上昇したコリネ型細菌、好ましくはさらに、L−システイン分解系が抑制されたコリネ型細菌などが挙げられる(特開2002−233384号)。
【0037】
L−プロリン生産においては、ヒボキサンチンおよび、イノシトールの少なくとも一種を生育に必要とするまたはプリンアナログ、または、ピリミジンアナログに耐性を有するL一プロリン生産するコリネ型細菌などが挙げられる(特開昭59−120094号、特開昭59−109188号)。
【0038】
L−チロシン生産においては、フェニルアラニンを要求し、3−アミノチロシン、p−アミノフェニルアラニン、p−フルオロフェニルアラニン、チロシンヒドロキサメートに耐性を有する変異株、m−フルオロフェニルアラニンに耐性を示す変異株、L−チロシン要求性が消去された組み換えコリネ型細菌などが挙げられる。 (H.Hagino, K. Nakayama;Agric.Biol.Chem.37、2001(1973)、Sugimoto、Nakamura、Tsuchida、Shiio;Agric.Biol.Chem.37、2327(1973)、特開昭60−70093号)。
【0039】
コリネ型細菌が生産しうるポリアミンの具体例としては、カダベリン、スペルミン、スペルミジンまたはプトレシンあるいはそれらの塩が挙げられるが、好ましくはカダベリンまたはその塩である。カダベリンは1,5−ペンタンジアミンともいう。また、カダベリン塩とは、塩基性のカダベリンを酸で中和する際に生じる塩であり、具体例としてカダベリン二塩酸塩、カダベリン硫酸塩、またはカダベリンジカルボン酸塩が挙げられる。カダベリンまたはその塩(以下、単にカダベリンと称する。)はポリマー原料として有用な化合物である。
【0040】
ポリアミンはコリネ型細菌の発酵により生産される。これらのポリアミン生産できるコリネ型細菌は、自然界よりスクリーニングで単離したコリネ型細菌または特定遺伝子を破壊させたり、または発現を増強または減少させたりなどの変異操作[例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)またはエチルメタンスルフォネート(EMS)を用いる方法またはUV照射による変異導入法あるいは試験管内変異法(「Molecular and General Genetics」,1978年,第145巻,p.101)]によって該遺伝子に変異を誘起するまたは遺伝子組み換えによりポリアミン合成能力を増強または導入する等によるコリネ型細菌などが上げられる。
【0041】
変異操作あるいは遺伝子組み換えによりコリネ型細菌のポリアミン合成能力を増強または導入する例として、例えば、オルニチンデカルボキシラーゼ活性(増加したODC活性)を有する微生物におけるプトレシンの生産、またODC活性が増加し、増加した活性のN−アセチルグルタミン酸形成の存在によるプトレシンの生産が挙げられる(特表2008−505652号、特表2008−505651号)、またスペルミジンアセチルトランスフェラーゼ欠乏細胞におけるスペルミジンの生産、スペルミジン合成経路によるプトレシンの生産などが挙げられる。
【0042】
なおカダベリンの場合、コリネ型細菌は本来L−リジン脱炭酸酵素活性を有していないため、L−リジンからカダベリンを生産する菌株をコリネ型細菌の変異株スクリーニングにより得ることはできない。したがって、カダベリンを生産する能力を有するコリネ型細菌を得るためには、遺伝子組換えによりコリネ型細菌にL−リジン脱炭酸酵素活性を付与する必要がある。コリネ型細菌にL−リジン脱炭酸酵素活性を付与する方法としては特に限定はないが、例えば特開2004−222569号に開示される方法が挙げられる。
【0043】
また、コリネ型細菌の野生型株にはホモセリン栄養要求性はないが、ホモセリン栄養要求性の変異株(以下、ホモセリン栄養要求性株とも言う。)はカダベリンの前駆体となるL−リジンの生産性が高いため、本発明において好ましく用いられる。ホモセリン栄養要求性株を取得する方法としては、突然変異誘発法により野生型株に突然変異を誘発し、ホモセリン栄養要求性を指標に選抜する方法や、相同組換えによって野生型株の染色体中のホモセリンデヒドロゲナーゼ遺伝子(以下、HOM遺伝子とも言う。)にその他の遺伝子を挿入する方法等によりホモセリンデヒドロゲナーゼ活性を欠損させる方法が挙げられるが、相同組換えによりHOM遺伝子を欠損させる方法が好ましく、特開2004−222569号に開示されるようにL−リジン脱炭酸酵素遺伝子(以下、LDC遺伝子とも言う。)によりHOM遺伝子を欠損させることでコリネ型細菌にL−リジン脱炭酸酵素活性とホモセリン栄養要求性を同時に付与できるためより好ましい。
【0044】
また、コリネ型細菌の野生型株はカダベリンの前駆体であるL−リジン、あるいはL−リジンとL−スレオニンによるフィードバック阻害がかかる、フィードバック阻害の解除された菌株を取得する方法としては、特開2004−222569号に開示される方法が挙げられる。例えば、野生型株に、変異操作[例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)を用いる方法;微生物実験マニュアル、1986年、131頁、講談社サイエンティフィック社]を施した後、AEC耐性を指標に選択され、L−リジン生産性となった変異株から取得する方法をあげることができる。好適な変異株としては、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型株ATCC13032より変異処理により誘導されたL−リジン生産菌、あるいは野生型AK遺伝子を取得した後、上記NTG法あるいは試験管内変異法(「Molecular and General Genetics」,1978年,第145巻,p.101)によって該遺伝子に変異を誘起し、AEC耐性を有し、かつL−リジン生産性を指標に脱感作した脱感作型AK遺伝子を含む株等をあげることができる。野生型株にAEC耐性を付与する更に好ましい方法として、特開2004−222569号に開示されるように遺伝子工学的手法を用いる方法である。遺伝子工学的手法を用いる方法に特に制限はなく、例えばコリネ型細菌で複製可能な組み換え体DNAを用いる方法、または相同組換えによって染色体中の目的遺伝子を組み換える方法である。配列番号15記載のアミノ酸配列において311番目のアミノ酸残基がThr以外のアミノ酸に置換された変異アスパルトキナーゼ遺伝子を有することによりS−(2−アミノエチル)−L−システイン耐性を獲得することができる。更に好ましい遺伝子工学的手法は、コリネ型細菌の染色体にあるAK遺伝子を脱感作型AK遺伝子に相同組み換えにより組み換える方法である。さらに、脱感作型AK遺伝子は、AK遺伝子に望みの変異導入する技法(例えば、ストラタジーン社QuikChangeサイトダイレクテッド・ミュータジェネシス・キットを用いる方法)で取得することが好ましい。
【0045】
前記コリネ型細菌の発酵原料は、発酵培養するコリネ型細菌の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地等が好ましく用いられる。
【0046】
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、果糖、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉、ジャガイモ、コムギ、トウモロコシ、サツマイモ、コメ、キャッサバ、タピオカ、クズ、カタクリ、緑豆、サゴヤシ、ワラビなどからの澱粉加水分解物、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、甜菜、ケーンジュース、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの抽出物もしくは濃縮液、甜菜糖蜜またはケーンジュースの濾過液、シラップ(ハイテストモラセス)、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖または粗糖、菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された精製糖、更には酢酸やフマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
【0047】
本発明で使用される発酵原料における炭素源の使用濃度は特に制限されず、化学品の製造を阻害しない範囲であれば可能な限り高い濃度であることが好ましい。通常、炭素源の濃度は、発酵培地中に1(w/v)%以上50(w/v)%以下が好ましく、より好ましくは3(w/v)%以上30(w/v)%以下である。前記炭素源は、水により濃縮または希釈して使用できる。
【0048】
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
【0049】
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。
【0050】
その他、必要に応じて、ビオチン、チアミン、ビタミンB6等の微量栄養源を加えることができる。これら微量栄養源は、肉エキス、酵母エキス、ポリペプトン、ポリペプトンS、コーンスティープリカー、カザミノ酸等の培地添加物で代用することもできる。
【0051】
本発明で使用される微生物や培養細胞が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加することができる。また、消泡剤も必要に応じて添加使用することができる。
【0052】
本発明において発酵培養液とは、発酵原料にコリネ型細菌が増殖した結果得られる液のことを言う。追加する発酵原料の組成は、目的とする化学品の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更することができる。
【0053】
コリネ型細菌の培養条件にも特に制限はなく、振とう培養、深部通気撹拌培養等の好気的条件下で行う。化学品生産性評価に用いる培養形態にも特に制限はなく、試験管培養、フラスコ培養、バッチ培養、流加発酵、連続培養などで行う。培養温度は25〜42℃、好ましくは28〜38℃である。培養時間に特に制限はなく、通常のバッチ培養は1日から9日間である。
【0054】
コリネ型細菌培養時の培養pH調整にはアンモニア、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの二価イオンの水酸化物、塩酸、硫酸またはジカルボン酸などを使用することができ、これら中和剤を用いて培養pHを好ましくはpH5.0〜8.0に、より好ましくはpH5.5〜7.5に制御すればよい。なお中和剤の状態に制限はなく、気体、液体、固体または水溶液で使用されうるが、好ましくは水溶液またはスラリ状である。
【0055】
本発明の培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を好適には21%以上に保つ、発酵培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要があれば、炭酸ガス、窒素およびアルゴンなど酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
【0056】
また本発明は、化学品を生産する能力を有するコリネ型細菌の発酵培養液を分離膜により濾過処理することを特徴としている。
【0057】
本発明において用いられる分離膜は、発酵に使用されるコリネ型細菌による目詰まりが起こりにくく、そして、菌体や汚泥などがリークすることのない高い排除率と、高い透水性を長時間保持することにより、高い精度と再現性で濾過性能が安定に継続する性能を有する必要がある。そのため、本発明ではそのような性質を持つ分離膜として、平均細孔径の下限が0.01μm以上、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μ以上、さらに好ましくは0.04μm以上で、上限が1μm未満、好ましくは0.4μm以下、より好ましくは0.2μm以下の多孔性膜が使用される。
【0058】
なお、多孔性膜の平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
【0059】
また、多孔性膜の平均細孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。更に、平均細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができ、発酵運転管理が容易になることから、平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が好ましい。平均細孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXkとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
【0060】
【数1】

【0061】
また、本発明で用いられる多孔性膜では、発酵培養液の透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができるが、本発明においては、多孔性膜の純水透過係数は、25℃の温度の逆浸透膜による精製水を用いてヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したときの多孔性膜の純水透過係数が2×10−9/m/s/pa以上であることが好ましく、また、純水透過係数が2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。
【0062】
また、多孔性膜の膜表面粗さは、多孔性膜の目詰まりに影響を与える因子であり、多孔性膜の膜表面粗さを低くすることで目詰まりを抑えることで、安定した連続発酵が可能になる。また、多孔性膜の膜表面粗さを低くすることで、微生物の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることが期待でき、微生物の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になると考えられる。具体的には、膜表面粗さが0.1μm以下であれば、多孔性膜の剥離係数や膜抵抗を好適に低下させることができ、より低い膜間差圧で濾過が実施可能である。
【0063】
ここで、膜表面粗さは、膜表面に対して垂直方向の高さの平均値であり、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の条件で測定することができる。
・装置 原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件 探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
走査範囲 10μm、25μm四方(気中測定)
5μm、10μm四方(水中測定)
走査解像度 512×512
・試料調製 測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、濾過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いて濾過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
【0064】
膜表面粗さdroughは、上記AFMにより各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
【0065】
【数2】

【0066】
本発明で分離膜として用いられる多孔性膜の構成について説明する。多孔性膜は被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものであり、阻止性能および透水性能や耐汚れ性という分離性能の点からは、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。このような多孔性膜は、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与えるものである。
【0067】
多孔質基材の素材は、有機材料および/または無機材料等からなり、中でも有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布であり、中でも、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が好ましく用いられる。
【0068】
また、多孔質樹脂層は、上述したように分離機能層として作用するものであり、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の素材としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられ、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。
【0069】
中でも、有機高分子膜の膜素材としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂がより好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
【0070】
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられるが、フッ化ビニリデンの単独重合体の他、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三フッ化塩化エチレンなどが例示される。
【0071】
また、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンまたは塩素化ポリプロピレンが挙げられるが、塩素化ポリエチレンが好ましく用いられる。
【0072】
本発明で用いられる多孔性膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択されるが、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。
【0073】
本発明で用いられる分離膜は、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されている多孔性膜であることが好ましい。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。
【0074】
また、多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は好ましくは200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は好ましくは20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸の内部に含んでいても良い。
【0075】
本発明で用いられる多孔性膜は、支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。多孔性膜を有する分離膜エレメントの形態は特に限定されないが、支持体として支持板を用い、その支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態で、膜面積を大きくすることが困難な場合には、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性膜を配することも好ましい態様である。
【0076】
本発明で用いられる多孔性膜は、特開2008−131931号に記載の多孔性膜の作成方法により作成することができる。
【0077】
本発明において、コリネ型細菌を分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが好ましく、より好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記膜間差圧の範囲を外れた場合、微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、濾過運転に不具合を生じることがある。
【0078】
濾過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔性膜に膜間差圧を発生させることが可能である。また、濾過の駆動力として多孔性膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性膜の発酵培養液側に加圧ポンプを設置することも可能である。膜間差圧は、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差を変化させることにより制御することができるから、特別に発酵反応槽内を加圧状態に保つ必要がなく、化学品を生産する能力が低下しない。また、発酵反応槽内を加圧状態に保つ必要がないことから、膜分離槽と発酵反応槽間で発酵培養液を循環させる動力手段が不要となり、多孔性膜を発酵反応槽内に設置することも可能となる。
【0079】
また、膜間差圧を発生させるためにポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができ、更に発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0080】
なお本発明では、前記濾過処理の未濾過液を発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を連続的に発酵培養液に添加することによって、コリネ型細菌を連続発酵培養することができる。分離膜を用いたコリネ型細菌の連続発酵培養は、バッチ発酵培養よりも細胞の高密度化が可能であるため生産速度を向上させることができ、また、向上された生産速度を長時間にわたり維持することができるため、本発明の好ましい態様である。
【0081】
連続発酵を実施する場合、WO2007/097260号に開示される連続発酵法が好ましく採用される。培養初期にバッチ培養または流加培養を行って微生物濃度を高くした後に連続培養を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から発酵原料の供給、濾過および微生物もしくは培養細胞の発酵培養液からの抜き出しを行うことが可能である。発酵原料供給、濾過および微生物もしくは培養細胞の発酵培養液からの抜き出しの開始時期は、必ずしも同じである必要はない。また、発酵原料の供給、濾過および微生物もしくは培養細胞の発酵培養液からの抜き出しは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。発酵原料には、上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。
【0082】
さらに本発明は、化学品を生産する能力を有するコリネ型細菌を細胞壁合成抑制剤を含む発酵培地中で培養して、化学品を含む発酵培養液を得ることを特徴としている。ここでいう細胞壁合成抑制剤とは、コリネ型細菌がコリネ型細菌の細胞壁の構成成分として知られているミコール酸を合成することを抑制または阻害する、あるいは細胞壁へのミコール酸付着抑制するなどによりコリネ型細菌の細胞壁の合成を阻害する薬剤であり、本発明者は細胞壁合成抑制剤を発酵培地中に添加しながら培養することで、得られる発酵培養液のろ過分離性能が著しく向上することを見出した。
【0083】
発酵培地に添加する細胞壁合成抑制剤は、特に限定されないが、イソニコチン酸ヒドラジド(INH、イソニアジドとも呼ばれる)などのミコール酸合成抑制剤、エタンブトールなどの細胞壁へのミコール酸付着を抑制する薬剤、ピラジンアミド、リファンピシン、エチオナミド、セルレニン、シクロセリンまたはペニシリンなどの細胞壁合成抑制抗生物質、Tween40あるいはTween60が具体例としてあげられ、好ましくはミコール酸合成抑制剤または細胞壁へのミコール酸付着を抑制する薬剤であり、より好ましくはINHまたはエタンブトールである。
【0084】
INH等のミコール酸合成抑制剤は結核症治療薬として知られており、コリネ型細菌であるグラム陽性バクテリアの細胞壁構成成分であるミコール酸合成を阻害するために使用されたり、コリネ型細菌の形質変換効率の向上に使用されたりする(特開2007−508840号、J.BIOSCI.BIOENG.92(3)、201−213、2001)。
【0085】
エタンブトールなどの細胞壁へのミコール酸付着を抑制する薬剤についても結核治療薬として知られており、細胞壁のアラビノガラクタンの構成要素であるアラビナンの生合成に関連し、アラビナンの合成を抑制することでミコール酸の蓄積を低下させることによってミコール酸が細胞壁のアラビノガラクタンに付着するのを抑制する(Biochimica et Biophysica Acta 1437、 325―332、1999)。
【0086】
発酵培地への細胞壁合成抑制剤の添加は、コリネ型細菌の発酵培養による化学品の製造を阻害しない範囲においては特に限定されないが、発酵培地中における細胞壁合成抑制剤濃度が0.1〜20g/Lになるように添加されることが好ましい。
【0087】
細胞壁合成抑制剤としてINHなどのミコール酸合成抑制剤を使用する場合、発酵培地中のミコール酸合成抑制剤の添加濃度としては、微生物の良好な生育と化学品の生産、トータルコストの観点から、0.1g/L以上であることが好ましく、0.3g/L以上であることがより好ましく、0.5g/L以上であることがさらに好ましい。
【0088】
細胞壁合成抑制剤としてエタンブトールなどの細胞壁へのミコール酸付着を抑制する薬剤を使用する場合、発酵培地中の細胞壁へのミコール酸付着を抑制する薬剤の添加濃度としては、微生物の良好な生育と化学品の生産、トータルコストの観点から、0.1g/L以上であることが好ましく、0.2g/L以上であることがより好ましく、0.3g/L以上であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0089】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0090】
[L−リジンおよびカダベリン濃度のHPLCによる分析方法]
・使用カラム CAPCELL PAK C18(資生堂)
・移動相 0.1%(w/w)リン酸水溶液:アセトニトリル=4.5:5.5
・検出 UV360nm
・サンプル前処理 分析サンプル25μlに内標として1,4−ジアミノブタン(0.03M)を25μl、炭酸水素ナトリウム(0.075M)を400μlおよび2,4−ジニトロフルオロベンゼン(0.2M)のエタノール溶液を添加混合し37℃で1時間保温する。上記反応溶液50μlを1mlアセトニトリルに溶解後、10,000rpmで5分間遠心した後の上清10μlをHPLC分析した。
【0091】
[グルコース濃度のHPLCによる分析方法]
・使用カラム Luna NH2 250×4.6mm(Phenomenex社製)
・移動相 ミリQ水:アセトニトリル=25:75
・検出 RI(示差屈折率)
・サンプル前処理 採集したサンプルを0.2μmのフィルターによりろ過処理した後10μlをHPLC分析した。
【0092】
[参考例1]S−(2−アミノエチル)−L−システイン耐性を有するコリネバクテリウム・グルタミカムの作製
特開2004−222569号の実施例2に開示される方法によりコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株に脱感作型AK遺伝子を染色体上で発現可能ように導入し、TR−AK株を作製した。TR−AK株のAEC耐性は特開2004−222569号公報の実施例2に開示されるAEC耐性確認方法によりAEC耐性を確認した。
【0093】
[参考例2]L−リジン脱炭酸活性を有し、かつホモセリンデヒドロゲナーゼ活性を欠損し、かつS−(2−アミノエチル)−L−システイン耐性を有するコリネバクテリウム・グルタミカムの作製
特開2004−222569号の実施例1および実施例2に開示される方法によりTR−CAD2株を作製した。
【0094】
[実施例1、比較例1]TR−AK株を用いた化学品の生産
TR−AK株(実施例1、比較例1)を滅菌LB培地(クロラムフェニコール(10μg/ml)添加)10mlに1白金耳植菌し、30℃で24時間振とうして前々培養を行った。この前々培養液を前々培養と同じ培地100mlに全量植菌し、30℃、振幅30cmで、180rpmの条件下で24時間培養して前培養を行った。次に表1に示す発酵培地3900mlに前培養液全量を植菌し、滅菌した空気を0.5vvmで通気しながら、30℃、攪拌翼回転数800rpm、pHを7に調整しながら60時間培養を行った。実施例1は表1の発酵培地に1g/LのINHを添加(以下、MI1とする)し、比較例1は表1の発酵培地にINH添加しなかった。中和剤として塩酸水溶液(3M)およびアンモニア水(3M)で行った。培養終了後、一部の培養液を取り出し4℃、8,000rpmで10分間遠心分離することで菌体を除去し、培養上清を回収した。この培養上清中のL−リジン、カダベリンをHPLCにより分析した。実施例1でのL−リジンの濃度は約9.4g/L、カダベリン濃度は約0g/L生産された。比較例1でのL−リジンの濃度は約9.4g/L、カダベリン濃度は約0g/L生産された。表2に実施例1と比較例1の発酵終了後の発酵液を用い、最速濾過時間を調べた結果を示す。また、図1は実施例1と比較例1の発酵終了後の発酵液を用い、同等な濾過フラックスで濾過処理を行った時のろ過時間と膜間差圧を比較したグラフである。表2と図1から、本発明の化学品の製造方法により、INH添加は、分離膜が詰りにくくなる効果があり、膜のろ過性が改善されるために濾過時間の短縮あるいはろ過量の向上による化学品の生産性が向上されることが明らかになった。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
[実施例2、比較例2]TR−AK株を用いた化学品の生産
TR−AK株(実施例2、比較例2)を滅菌LB培地(クロラムフェニコール(10μg/ml)添加)10mlに1白金耳植菌し、30℃ で24時間振とうして前々培養を行った。この前々培養液を前々培養と同じ培地100mlに全量植菌し、30℃ 、振幅30cmで、180rpmの条件下で24時間培養して前培養を行った。次に表1に示す発酵培地3900mlに前培養液全量を植菌し、滅菌した空気を0.5vvmで通気しながら、30℃、攪拌翼回転数800rpm、pHを7に調整しながら60時間培養を行った。実施例2は表1の発酵培地に5g/LのINHを添加(以下、MI5とする)し、比較例2は表1の発酵培地にINH添加しなく抑泡のため消泡剤PE−Lを0.05%添加した。中和剤として塩酸水溶液(3M)およびアンモニア水(3M)で行った。培養終了後、一部の培養液を取り出し4℃、8,000rpmで10分間遠心分離することで菌体を除去し、培養上清を回収した。この培養上清中のL−リジン、カダベリンをHPLCにより分析した。実施例2でのL−リジンの濃度は約9.4g/L、カダベリン濃度は約0g/L生産された。比較例2でのL−リジンの濃度は約9.4g/L、カダベリン濃度は約0g/L生産された。表2に実施例2と比較例2の発酵終了後の発酵液を用い、最速濾過時間を調べた結果を示す。また、図2は実施例2と比較例2の発酵終了後の発酵液を用い、同等な濾過フラックスで濾過処理を行った時のろ過時間と膜間差圧を比較したグラフである。表2と図2から、本発明の化学品の製造方法により、INH添加は、分離膜が詰りにくくなる効果があり、膜のろ過性が改善されるためにろ過量の向上による化学品の生産性が向上されることが明らかになった。
【0098】
[実施例3、比較例3]TR−CAD2株を用いた化学品の生産
TR−CAD2株(実施例3、比較例3)を滅菌LB培地(クロラムフェニコール(10μg/ml)添加)10mlに1白金耳植菌し、30℃ で24時間振とうして前々培養を行った。この前々培養液を前々培養と同じ培地100mlに全量植菌し、30℃ 、振幅30cmで、180rpmの条件下で24時間培養して前培養を行った。次に表1に示す発酵培地3900ml(実施例3は表1の発酵培地に10g/LのINHを添加(以下、MI10とする)、比較例3はINH添加なし)に前培養液全量を植菌し、滅菌した空気を0.5vvmで通気しながら、30℃、攪拌翼回転数800rpm、pHを7に調整しながら60時間培養を行った。中和剤として塩酸水溶液(3M)およびアンモニア水(3M)で行った。培養終了後、一部の培養液を取り出し4℃、8,000rpmで10分間遠心分離することで菌体を除去し、培養上清を回収した。この培養上清中のL−リジン、カダベリンをHPLCにより分析した。実施例3でのL−リジンの濃度は約0g/L、カダベリン濃度は約9.4g/L生産された。比較例3でのL−リジンの濃度は約0g/L、カダベリン濃度は約9.4g/L生産された。表2に実施例3と比較例3の発酵終了後の発酵液を用い、最速濾過時間を調べた結果を示す。また、図3は実施例3と比較例3の発酵終了後の発酵液を用い、同等な濾過フラックスで濾過処理を行った時のろ過時間と膜間差圧を比較したグラフである。表2と図3から、本発明の化学品の製造方法により、INH添加は、分離膜が詰りにくくなる効果があり、膜のろ過性が改善されるためにろ過量の向上による化学品の生産性が向上されることが明らかになった。
【0099】
[実施例4、比較例4]TR−CAD2株を用いた化学品の生産
TR−CAD2株(実施例4、比較例4)を滅菌LB培地(クロラムフェニコール(10μg/ml)添加)10mlに1白金耳植菌し、30℃ で24時間振とうして前々培養を行った。この前々培養液を前々培養と同じ培地100mlに全量植菌し、30℃ 、振幅30cmで、180rpmの条件下で24時間培養して前培養を行った。次に表1に示す発酵培地3900ml(実施例4は表1の発酵培地に5g/Lのエタムブトールを添加(以下、ET5とする)、比較例4はエタムブトール添加なし)に前培養液全量を植菌し、滅菌した空気を0.5vvmで通気しながら、30℃、攪拌翼回転数800rpm、pHを7に調整しながら60時間培養を行った。中和剤として塩酸水溶液(3M)およびアンモニア水(3M)で行った。培養終了後、一部の培養液を取り出し4℃、8,000rpmで10分間遠心分離することで菌体を除去し、培養上清を回収した。この培養上清中のL−リジン、カダベリンをHPLCにより分析した。実施例4でのL−リジンの濃度は約0g/L、カダベリン濃度は約9.4g/L生産された。比較例4でのL−リジンの濃度は約0g/L、カダベリン濃度は約9.4g/L生産された。表2に実施例4と比較例4の発酵終了後の発酵液を用い、最速濾過時間を調べた結果を示す。また、図4は実施例4と比較例4の発酵終了後の発酵液を用い、同等な濾過フラックスで濾過処理を行った時のろ過時間と膜間差圧を比較したグラフである。表2と図4から、本発明の化学品の製造方法により、エタムブトール添加は、分離膜が詰りにくくなる効果があり、膜のろ過性が改善されるためにろ過量の向上による化学品の生産性が向上されることが明らかになった。
【0100】
[実施例5、比較例5]TR−AK株を用いた化学品の連続生産
WO2007/097260号の図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−リジンが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。発酵培地(実施例5にはMI5培地、比較例4には表1に示す培地)を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメントとしてはWO2007/097260に掲示の図3に示される形態を採用し、分離膜には、WO2007/097260の参考例2に従って作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜、分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。この多孔性膜の特性を調べたところ、平均細孔径が0.1μmであり、純水透過係数が50×10-9/m/s/paであった。この実施例5と比較例5における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
【0101】
[運転条件]
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.5vvm
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20分のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌
・pH調整:塩酸水溶液(3M)およびアンモニア水(3M)によりpHを7.0に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
【0102】
TR−AK株(実施例5、比較例5)を滅菌LB培地(クロラムフェニコール(10μg/ml)添加)10mlに1白金耳植菌し、30℃で24時間振とうして前々々培養を行った。この前々々培養液を前々々培養と同じ培地100mlに全量植菌し、30℃、振幅30cmで、180rpmの条件下で24時間培養して前々培養を行った。前々培養液を、WO2007/097260号の図1に示す連続発酵装置の滅菌した空気を0.5vvmで通気しながら、1Lの発酵培地(実施例5にはMI5倍地、比較例5には表1に示す培地)に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と30℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、MI5培地(実施例5)または表1に示す培地(比較例5)の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量を1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、30℃での連続発酵によるL−リジンの製造を行った。このとき、気体供給装置から滅菌した空気を発酵反応槽1内に供給した。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたL−リジン濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0103】
その結果、比較例5の220時間の連続発酵に対し、実施例5では340時間の連続発酵となり(図5)、発酵培地にINH添加することによって膜のろ過性が改善されることにより長時間連続発酵が可能となり、L−リジンの生産性が向上した(表3)。
【0104】
[実施例6、比較例6]TR−CAD2株を用いた化学品の連続生産
WO2007/097260の図2に示す連続発酵装置を稼働させることにより、カダベリンが連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。発酵培地(実施例6にはMI1培地、比較例6には表1に示す培地)を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜と分離膜エレメントとしては実施例5と比較例5のものを使用した。この実施例6と比較例6における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
【0105】
[運転条件]
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120cm
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.5vvm
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20分のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌
・pH調整:塩酸水溶液(3M)およびアンモニア水(3M)によりpHを7.0に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
【0106】
まずTR−CAD2株( 実施例6、比較例6 )を滅菌L B 培地(クロラムフェニコール(10μg/ml)添加)10mlに1白金耳植菌し、30℃ で24時間振とうして前々々培養を行った。この前々々培養液を前々々培養と同じ培地100mlに全量植菌し、30℃ 、振幅30cmで、180rpmの条件下で24時間培養して前々培養を行った。前々培養液を、WO2007/097260の図2に示す連続発酵装置の滅菌した空気を0.5vvmで通気しながら、1Lの発酵培地(実施例6にはMI1倍地、比較例6には表1に示す培地)に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と30℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、MI1培地(実施例6)または表1に示す培地(比較例6)の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量を1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、30℃での連続発酵によるカダベリンの製造を行った。このとき、気体供給装置から滅菌した空気を発酵反応槽1内に供給した。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたカダベリン濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0107】
その結果、比較例6の200時間の連続発酵に対し、実施例6では320時間の連続発酵となり(図6)、発酵培地にINH添加することによって膜のろ過性が改善されることにより長時間連続発酵が可能となり、カダベリンの生産性が向上した(表3)。
【0108】
[実施例7、比較例7]TR−CAD2株を用いた化学品の連続生産
実施例5で使用した多孔性膜の代わりに、分離膜としてWO2007/097260の参考例13に従って作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする中空糸膜を用いた。分離膜エレメントとしてはWO2007/097260号の図4に示される形態を採用した。また実施例7のためのMI5培地を用いた他は、実施例6と同様にして、連続発酵試験を行った。その結果、比較例7の210時間の連続発酵に対し、実施例7では330時間の連続発酵となり(図7)、発酵培地にINHを添加することによって膜のろ過性が改善されることにより長時間連続発酵が可能となり、カダベリンの生産性が向上した(表3)。
【0109】
[実施例8、比較例8]TR−CAD2株を用いた化学品の連続生産
実施例5で使用した多孔性膜の代わりに、分離膜としてWO2007/097260の参考例13に従って作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする中空糸膜を用いた。分離膜エレメントとしてはWO2007/097260の図4に示される形態を採用した。また実施例8のためのET5培地を用いた他は、実施例5と同様にして、連続発酵試験を行った。その結果、比較例8の220時間の連続発酵に対し、実施例7では340時間の連続発酵となり(図8)、発酵培地にエタムブトールを添加することによって膜のろ過性が改善されることにより長時間連続発酵が可能となり、カダベリンの生産性が向上した(表3)。
【0110】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学品を生産する能力を有するコリネ型細菌を細胞壁合成抑制剤を含む発酵培地で培養し、得られた発酵培養液を分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用いて濾過処理し、濾液から生産物を回収することを特徴とする、化学品の製造方法。
【請求項2】
前記細胞壁合成抑制剤が、ミコール酸合成抑制剤または細胞壁へのミコール酸付着を抑制する薬剤である、請求項1に記載の化学品の製造方法。
【請求項3】
前記細胞壁合成抑制剤がイソニコチン酸ヒドラジド(INH)またはエタンブトールである、請求項1または2に記載の化学品の製造方法。
【請求項4】
前記発酵培地中の細胞壁合成抑制剤の含有量が0.1〜20g/Lであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【請求項5】
前記コリネ型細菌の培養が、前記濾過処理の未濾過液を前記発酵培養液に保持または還流し、かつ、前記発酵原料を連続的に添加する連続発酵培養であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【請求項6】
前記コリネ型細菌がコリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属である、請求項1〜5のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【請求項7】
前記化学品がアミノ酸またはポリアミンである、請求項1〜6のいずれかに記載の化学品の製造方法。
【請求項8】
前記化学品がL−リジンまたはカダベリンである、請求項1〜7のいずれかに記載の化学品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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