説明

コルク質成形体の製造方法およびその方法により得られるコルク質成形体

【課題】 コルク質材料からバインダーを用いることなくプラスチック様の表面を有し、かつ型に合わせた種々の形状の成形体を作ることができるコルク質成形体の製造方法およびその方法により得られるコルク質成形体を提供すること。
【解決手段】 粒子径を1mm以下としたコルク質材料を成形型内に充填した後、120〜250℃、5MPa以上で加熱・加圧することにより該コルク質材料を熱流動させて、表面が型面に添ったプラスチック様のコルク質成形体を得る。なお、コルク質材料に木質系あるいは無機系材料あるいは有機系材料を30重量%以下添加してもよい。また、コルク質材料は未処理のものの他、煮沸処理や蒸煮処理を施したものでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルク質材料からバインダーを用いることなくプラスチック様の表面を有し、かつ型に合わせた種々の形状の成形体を作ることができるコルク質成形体の製造方法と、その方法により得られるコルク質成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コルク質材料は、低密度で弾力性に富み、熱や震動等の伝導率も低く、更には液体に対して不浸透性である等の優れた特性を有しているため、釣りの浮きやボトルの栓等に古くから利用されている。また、独特の外観を呈するため、装飾を兼ねた各種のコルクボード等としても広く利用されている。更には、コルクチップを300℃以上で加圧成形することにより黒く炭化した炭化コルクと称されるコルクブロック等も建築用板材などの使用に供されている。以上のようなコルク質材料からなる成形体は、資源の有効利用、自然や人体に悪影響を与える化学物質の使用の低減、有害物質の廃棄やCO排出の低減などを達成することができるため、地球環境に優れたものである。
【0003】
しかしながら、コルクボードの場合はコルクチップを成形型内でバインダーを介して接着一体化するものであり、板状等の単純な形状のものしか成形することができないという問題点があった。また、炭化コルクの場合はバインダーを使用しないものの、同様に板状等の単純な形状のものしか成形することができないという問題点があった。
【特許文献1】実公昭56−35454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような従来の問題点を解決して、コルク質材料からバインダーを用いることなくプラスチック様の表面を有し、かつ型に合わせた種々の形状の成形体を作ることができる新規なコルク質成形体の製造方法と、その方法により得られるコルクを提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明は、粒子径を1mm以下としたコルク質材料を成形型内に充填した後、120〜250℃、5MPa以上で加熱・加圧することにより該コルク質材料を熱流動させて、表面が型面に添ったプラスチック様のコルク質成形体とすることを特徴とするコルク質成形体の製造方法と、この製造方法により得られるコルク質成形体であって、コルク質材料を熱流動させてプラスチック様の表面を有するものとしたことを特徴とするコルク質成形体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコルク質成形体の製造方法は、粒子径を1mm以下としたコルク質材料を成形型内に充填した後、120〜250℃、5MPa以上で加熱・加圧することにより該コルク質材料を熱流動させて液状物とし、コルク質材料でありながらプラスチックのような成形を可能として、複雑な形状であっても型面に添ってプラスチック様のコルク質成形体を成形することを可能とするのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の好ましい形態を示す。
本発明のコルク質成形体の製造方法は、粒子径を1mm以下としたコルク質材料を成形型内に充填した後、120〜250℃、5MPa以上で加熱・加圧する点に特徴を有する。
ここでコルクとは、コルク樫やアベマキ等のコルク質の組織あるいは樹皮内部組織をさす一般名称であり、組成的にはスベリン、リグニン、セルロース、タンニン、多糖類、灰分からなるものである。コルクは、種々の優れた特長を有するが、本発明者は特にコルクの弾力性および液体に対する不浸透性に着目し、靭性および耐水性に優れた全く新規なプラスチック様のコルク質成形体を得るのである。
【0008】
コルク質材料の粒子径としては、1mm以下のものを用いることができ、特に0.01〜1mmの範囲とすることが好ましい。0.01mm未満となるまで細かくする必要はなく、またコスト的にも高くなるからである。一方、1mmより大きいと後述する成形型内における熱流動が起こりにくくなり、プラスチック様の平滑面が得られなくなるおそれがあるからである。従来のコルクボードや炭化コルクの場合はコルク質材料の粒子径が1〜3mmであり、本発明では従来のものに比べて粒径の小さいものを使用している。
【0009】
次いで、コルク質材料を成形型内に充填した後は、120〜250℃、5MPa以上で加熱・加圧する。これにより、コルク質材料を熱流動させてプラスチックのような成形を可能とするのである。なお、ここでいう「熱流動」とは、加熱により、流動を起こすという意味である。
成形温度を120〜250℃、好ましくは150〜200℃とするのは、120℃未満では十分な熱流動を生じさせないおそれがあり、一方、250℃より高いとコルク質材料が炭化するおそれがあるからである。従来のコルクボードの成形温度は室温〜100℃未満、炭化コルクの成形温度は300〜400℃であり、いずれの成形温度とも異なるものである。
【0010】
成形圧を5MPa以上、好ましくは10〜100MPaとするのは、これより小さい圧力では十分な熱流動を生じさせないおそれがあるからである。従来のコルクボードや炭化コルクの場合は、成形圧はいずれも0.1〜3MPa程度の範囲内であり、本発明はそれらに比べて高い圧力で成形するものである。
【0011】
また、コルク質材料としては100%純粋なものを使用する他、無機フィラーおよび/または有機フィラーを30重量%以下添加したものを使用することもできる。
無機フィラーまたは有機フィラー、あるいは無機フィラーと有機フィラーの混合物を添加することにより、曲げ強さを高めることが可能となる。ただし、これらの添加によりたわみ量は小さくなって靭性は劣ることになる。よって、無機フィラーおよび/または有機フィラーの添加量は30重量%以下が適当であって、特に30重量%未満が好ましい。
【0012】
無機フィラーとしては、シリカ、珪藻土、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化スズ、酸化アンチモン、フェライト類等の酸化物や、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム等の水酸化物や、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト等の炭酸塩や、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、石膏繊維等の硫酸塩や、クレー、タルク、ケイ酸カルシウム、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサリト、ガラス繊維、シラスバルーン、シリカ系バルン等のケイ酸塩や、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の窒化物や、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素中空球、無煙炭粉末、木炭粉末等の炭素類や、その他の各種金属粉、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、ウィスカー等の1種または2種以上を用いることができる。
また、有機フィラーとしては、木粉、竹粉、ココナッツヤシ殻粉、胡桃粉、木質パルプ、竹パルプ、紙、布、セルロースパウダー、再生ゴム、ゴム粉末、フッ素化合物粉、エボナイト粉、熱硬化性樹脂中空球、アラミド繊維等の1種または2種以上を用いることができる。
【0013】
コルク質材料は、煮沸処理や蒸煮処理等を何ら施してないものを用いることができる。ここで煮沸処理とは、100℃以下の湯中で加熱することをいう。また蒸煮処理とは、飽和水蒸気あるいは過熱水蒸気下で加熱することをいう。具体的には、耐圧容器内で高圧下において加熱水蒸気にコルク質材料を曝すことによって行う。処理温度は110〜260℃である。
また、コルク質材料として、未煮沸で未蒸煮のもの、煮沸処理し未蒸煮のもの、未煮沸で蒸煮処理したもの、煮沸処理し蒸煮処理したもののいずれも用いることが可能である。しかしながら、本発明者の実験によれば、蒸煮処理したコルク質材料を用いた場合には未蒸煮コルク質材料を用いた場合に比べて熱流動性が劣る傾向が見られ、また靭性も悪くなるので、コルク質材料としては未蒸煮のものを用いる方が好ましい。
【0014】
コルク質材料は、成形型内に充填する前に乾燥・粉砕しておくことが好ましい。
乾燥処理するのは、水分が多量にあると、加熱・加圧成形して熱流動させる場合に水分が気化して、あるいは分解成分が水分の蒸発とともに移動して、プラスチックのような流動性および成形性を得ることが難しくなるからである。具体的には、含水率(乾量基準)が28%以下、好ましくは10%以下となるまで乾燥する。乾燥手段としては、高温下での乾燥や常温下での送風等による乾燥等いずれであってもよい。
【0015】
粉砕処理するのは、加熱・加圧した場合に均一かつ効率的に熱流動を起こさせるためである。粒子径は前記したように、1mm以下の範囲、好ましくは300μm以下であり、粒子形状は薄片状、球状、繊維状、不定形状等いずれでもよい。また、粉砕には一般的なボールミルやミキサー等を利用することができる。
【0016】
次に、コルク質材料を用いてプラスチック様の成形体を成形する工程につき説明する。
図1は、成形工程を示す説明図である。未処理あるいは煮沸および/または蒸煮処理を行ったコルク質材料を粉砕機に投入して所定の粒子径に粉砕・乾燥処理する。得られたコルク質材料を、加熱・加圧(120〜250℃、5MPa以上で10分程度)した後、100℃以下まで冷却し、最後に型から取り出してコルク質成形体を得る。
成形型による加熱・加圧工程においては、コルク質材料が熱流動してプラスチックのような流動性および成形性を発揮することとなる。この結果、コルク質材料は成形型の成形用キャビティ内において、熱流動により表面が型面に添ったプラスチック様のものとして成形処理され、型面に添った複雑な形状のコルク質成形体が得られることとなる。
【0017】
このように本発明の成形体は、靭性および耐水性に優れており、しかもコルク質材料からなるため、潤滑性に優れ、摩擦により熱を発生しにくいという特性も有する。更には、機械的強度にも優れており、切削加工等を施すことも可能である。従って、歯車、シャフト、ボルト、ナット等の各種機械部品や、ケーシング、床材、壁材等の家具・建築材料や、皿、容器等の台所用品や、ドアトリム、コンソールボックス等の自動車内装材など種々の用途に適用することができる。また、本発明の成形体は熱可塑性であるため、製品が不要になった場合は再度加熱すれば再び成形材料として再利用に供することができるという利点もある。更には、植物資源を利用するため、資源の有効利用、自然や人体に悪影響を与える化学物質の使用の低減、有害物質の廃棄やCO排出の低減など種々の利点も発揮できるという利点もある。
【実施例】
【0018】
粒子径を125μm以下としたコルク質材料(100重量%)、粒子径を125μm以下としたコルク質材料(80重量%)と粒子径を90〜250μmとした蒸煮ブナ(20重量%)の混合物、粒子径を125μm以下としたコルク質材料(80重量%)と粒子径を0.1〜10μmとしたシリカ(20重量%)の混合物、粒子径を125μm以下としたコルク質材料(70重量%)と粒子径を90〜250μmとした蒸煮ブナ(30重量%)の混合物を、それぞれ成形型内に充填し、下記の成形条件下で厚さ4mmのボード状に成形してプラスチック様の表面を有するコルク質成形体を得た。得られたコルク質成形体の物性値は、表1に示すとおり、従来にない優れたものであることが確認できた。
また比較例として、蒸煮ブナ100重量%からなる材料を同様の成形方法により成形した場合に得られる成形体の物性値を表1の最下欄に示す。これからも明らかなように、本発明のコルク質成形体は最大荷重たわみ量や吸水率などが大幅に向上しており、靭性および耐水性に優れたものであることが確認できた。
[成形条件]成形:160℃/30MPa/10min
【0019】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の成形体の成形工程を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径を1mm以下としたコルク質材料を成形型内に充填した後、120〜250℃、5MPa以上で加熱・加圧することにより該コルク質材料を熱流動させて、表面が型面に添ったプラスチック様のコルク質成形体とすることを特徴とするコルク質成形体の製造方法。
【請求項2】
コルク質材料に、無機フィラーおよび/または有機フィラーを30重量%以下添加したものを使用する請求項1に記載のコルク質成形体の製造方法。
【請求項3】
コルク質材料として、未煮沸かつ未蒸煮のものを用いる請求項1または2に記載のコルク質成形体の製造方法。
【請求項4】
コルク質材料として、煮沸処理したものを用いる請求項1または2に記載のコルク質成形体の製造方法。
【請求項5】
コルク質材料として、蒸煮処理したものを用いる請求項1または2に記載のコルク質成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のコルク質成形体の製造方法により得られるコルク質成形体であって、コルク質材料を熱流動させてプラスチック様の表面を有するものとしたことを特徴とするコルク質成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−27213(P2006−27213A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212995(P2004−212995)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(599087844)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)
【Fターム(参考)】