コルチコステロイド定量方法
【課題】脳海馬由来のコルチコステロイドを正確に定量できるコルチコステロイド定量方法を提供する。
【解決手段】脳海馬の抽出物から、順相クロマトグラフィーにより、定量の対象とするコルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する精製工程30と、前記分画に含まれる前記コルチコステロイドを、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)を用いて質量分析する分析工程40と、を含むコルチコステロイド定量方法とする。
【解決手段】脳海馬の抽出物から、順相クロマトグラフィーにより、定量の対象とするコルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する精製工程30と、前記分画に含まれる前記コルチコステロイドを、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)を用いて質量分析する分析工程40と、を含むコルチコステロイド定量方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルチコステロイド定量方法に関し、特に、脳海馬由来のコルチコステロイドを定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、副腎皮質で生成されることが知られているコルチコステロイドの定量は、主に生体から採取した血液や唾液を用いて行われており(例えば、特許文献1)、また、脳組織内のコルチコステロイドについては、ガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)による測定を試みた例が報告されている(例えば、非特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−038004号公報
【非特許文献1】M. J. Ebneret al., Endocrinology, 147(1):179-190(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、脳組織は脂質等の夾雑物を大量に含み、また、脳組織に含まれるコルチコステロンは微量であることから、上記従来技術においては、脳海馬由来のコルチコステロイドを正確に定量することは困難であった。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、脳海馬由来のコルチコステロイドを正確に定量できるコルチコステロイド定量方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法は、脳海馬の抽出物から、順相クロマトグラフィーにより、定量の対象とするコルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する精製工程と、前記分画に含まれる前記コルチコステロイドを、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)を用いて質量分析する分析工程と、を含むことを特徴とする。
【0006】
また、前記精製工程において、長鎖アルキル基を有する固定相と、水とアルコール系溶媒とを混合した移動相と、を用いた逆相クロマトグラフィーにより、前記抽出物から、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より大きい溶離液で溶出した第一分画と、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より小さい溶離液で溶出した第二分画と、を取得して、前記第一分画と前記第二分画とを含む混合分画から、前記順相クロマトグラフィーにより、前記コルチコステロイドを含む分画を選択的に取得することとしてもよい。
【0007】
また、前記分析工程において、前記コルチコステロイドに由来するフラグメントイオンの質量/電荷比におけるイオン強度を経時的に検出することとしてもよい。
【0008】
また、前記脳海馬は、脳外における前記コルチコステロイドの生合成が抑制された動物から取り出した脳海馬であることとしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。また、本定量方法によって定量できるコルチコステロイドは、特に限られないが、例えば、コルチコステロン、デオキシコルチコステロン、テトラヒドロデオキシコルチコステロンを挙げることができる。
【0010】
図1は、本実施形態に係るコルチコステロイド定量方法(以下、「本定量方法」という)に含まれる主な工程についてのフロー図である。図1に示すように、本定量方法は、動物準備工程10と、抽出工程20と、精製工程30と、質量分析工程40と、を含む。
【0011】
動物準備工程10においては、脳海馬を摘出する対象となる動物を準備する。この動物としては、特に限られないが、例えば、ラット、マウス、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の非ヒト動物を好ましく用いることができる。
【0012】
また、この動物準備工程10では、脳外における、本定量方法による定量の対象となるコルチコステロイドの生合成が抑制された動物を準備することとしてもよい。このような動物としては、脳以外の臓器や組織で生合成されたコルチコステロイドの脳への流入が抑制された動物であれば特に限られず用いることができる。すなわち、例えば、脳以外であって、コルチコステロイドが生合成されることが知られている、又は生合成される可能性のある臓器や組織を外科的に摘出した動物を用いることができ、具体的には、副腎皮質や性腺(オス動物の精巣、メス動物の卵巣)を予め摘出した動物を好ましく用いることができる。
【0013】
抽出工程20においては、動物準備工程10で準備した動物から脳海馬を取り出し、当該脳海馬の抽出物を取得する。すなわち、この抽出工程20においては、まず、動物の頭部から脳全体を摘出し、当該摘出した全脳のうち、海馬部分を、商業的に利用可能なホモジナイザー等を用いて破砕する。
【0014】
そして、有機溶媒を用いた抽出処理により、この破砕物から、精製工程30において精製の対象となる脳海馬抽出物を取得する。なお、動物から摘出した脳海馬を、商業的に利用可能な組織切片作製装置等を用いて、いったん所定の厚さにスライスした後、当該脳海馬スライスをホモジナイザーにより破砕して抽出処理に用いることとしてもよい。
【0015】
抽出用の有機溶媒としては、特に限られないが、例えば、酢酸エチルとヘキサンとを所定の体積比率で混合したものを好ましく用いることができ、特に、酢酸エチルとヘキサンとを3:2で混合したものを好ましく用いることができる。そして、この抽出工程20においては、抽出用有機溶媒と脳海馬破砕物とを混合し、当該混合液のうち、有機相のみを回収して、脳海馬抽出物とする。
【0016】
精製工程30においては、抽出工程20で得られた脳海馬抽出物から、順相クロマトグラフィーにより、コルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する。すなわち、例えば、順相シリカゲルカラムを備えた高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)を用いて、脳海馬抽出物のうち、コルチコステロイドに特有の保持時間及びそのごく近傍で溶出してくる分画を選択的に回収し、質量分析工程40における分析の対象となる分析用試料とする。
【0017】
このように、本定量方法においては、質量分析に先立って、脳海馬抽出物に含まれるコルチコステロイドを順相カラムクロマトグラフィーにより高度に精製しておくことにより、脳海馬に含まれる微量なコルチコステロイドを正確に定量することが可能となる。なお、この順相クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、特に限られないが、例えば、ヘキサンとイソプロパノールと酢酸とを混合したものを好ましく用いることができる。
【0018】
また、この精製工程30においては、抽出工程20で得られた脳海馬抽出物から、長鎖アルキル基を有する固定相と、水とアルコール系溶媒とを混合した移動相と、を用いた逆相クロマトグラフィーにより、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より大きい移動相で溶出した第一分画と、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より小さい移動相で溶出した第二分画と、を取得して、前記第一分画と前記第二分画とを含む混合分画から、順相クロマトグラフィーにより、コルチコステロイドを含む分画を選択的に取得することとしてもよい。
【0019】
すなわち、この場合、例えば、順相クロマトグラフィーによる精製に先立って、表面に炭素数18のオクタデシル基が化学結合したシリカゲルを固定相として有する逆相カラムと、水とメタノールとを混合した溶離液と、を用いた逆相クロマトグラフィーにより、脳海馬抽出物から夾雑物を除去する前精製を行う。
【0020】
そして、この前精製においては、まず、抽出工程20で得られた脳海馬抽出物を、水の体積比率がメタノールより大きい第一溶離液で溶出することにより第一分画を回収し、次いで、逆に水の体積比率がメタノールより小さい第二溶離液でさらに溶出することにより第二分画を回収する。
【0021】
このようにして順次得られる第一分画と第二分画とを合わせた混合分画を、上述の順相クロマトグラフィーによる精製に用いることにより、脳海馬からのコルチコステロンの収量を向上させることができる。
【0022】
質量分析工程40においては、精製工程30で得られた分析用試料に含まれるコルチコステロイドを、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(Liquid Chromatography/Mass Spectrometry/Mass Spectrometry:LC/MS/MS)を用いて質量分析する。
【0023】
図2は、この質量分析工程40で用いられるLC/MS/MSシステム50の一例について、その主な構成を示すブロック図である。図2に示すように、このLC/MS/MSシステム50は、LC部51と、イオン化部52と、第一MS部53と、衝突部54と、第二MS部55と、検出部56と、を含む。
【0024】
LC部51は、例えば、逆相カラムを備えたHPLCシステムであり、その上流端から精製工程30で得られた分析用試料を受け入れて逆相クロマトグラフィーを実施し、下流端から溶出する試料を順次、イオン化部52に導入する。
【0025】
イオン化部52は、LC部51から受け入れた試料に含まれるコルチコステロイドに対して、質量分析に必要なイオン化処理を施し、当該イオン化されたコルチコステロイドを第一MS部53に導入する。なお、イオン化部52で用いられるイオン化法は、特に限られないが、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ElectroSpray Ionization:ESI)法を好ましく用いることができる。
【0026】
第一MS部53は、イオン化部52から受け入れたイオン化されたコルチコステロイドを、その質量及び電荷に基づいて分離し、衝突部54に導入する。衝突部54は、第一MS部53から受け入れたコルチコステロイドに対して不活性ガス等を衝突させて、コルチコステロイド分子に特有のフラグメントイオンを生成し、当該フラグメントイオンを第二MS部55に導入する。第二MS部55は、衝突部54から受け入れたコルチコステロイド由来のフラグメントイオンを、その質量及び電荷に基づいて分離し、分析部56に導入する。分析部56は、第二MS部55から受け入れたフラグメントイオンを検出する。なお、このようなLC/MS/MSシステム50としては、特に限られないが、例えば、トリプルステージ四重極型のシステムを好ましく用いることができる。
【0027】
また、この質量分析工程40においては、定量の対象とするコルチコステロイドに由来するフラグメントイオンの質量/電荷比におけるイオン強度を経時的に検出することとしてもよい。このように、コルチコステロイドに特有のフラグメントイオンの質量/電荷比に着目し、当該フラグメントイオンの検出強度をモニタリングすることにより、脳由来試料に含まれる微量の当該コルチコステロイドを高精度に定量することができる。
【0028】
そして、本定量方法においては、この質量分析工程40で得られた質量分析結果に基づいて、脳由来試料に含まれるコルチコステロイドを正確に定量することができる。すなわち、本定量方法においては、脳海馬抽出物からコルチコステロイドを高度に精製し、当該精製されたコルチコステロイド試料を質量分析することにより、脳海馬に含まれる微量なコルチコステロイドを高精度に定量することができる。
【0029】
次に、本定量法により脳由来のコルチコステロイドを定量した実施例について説明する。
【0030】
[実施例]
[動物の準備]
本実施例においては、12週齢のオスのウィスター(Wistar)ラット(株式会社埼玉実験動物供給所)(以下、「正常ラット」という)を準備した。また、12週齢のオスのラットの副腎皮質を財団法人動物繁殖研究所において摘出することにより、副腎皮質を有しないラット(以下、「ADXラット」という)を準備した。これら正常ラット及びADXラットは、使用するまでの間、12時間、12時間の明、暗周期が保たれた飼育室で飼育した。また、ADXラットは、副腎皮質が摘出されてから1週間飼育したものを使用した。
【0031】
[脳海馬の摘出]
正常ラット及びADXラットをジエチルエーテル(昭和エーテル株式会社)で麻酔した後、ギロチンで断頭し、当該頭部から全脳を摘出した。摘出した全脳は、氷冷したインキュベーションバッファー中に保持した。インキュベーションバッファーとしては、136.6mMのNaCl、2.5mMのCaCl2−2H2O、0.6mMのMgCl2−6H2O、0.6mMのMgSO4−7H2O、1.0mMのNaHCO3、0.34mMのNa2HPO4−12H2O、0.44mMのKH2PO4、5.36mMのKCl、22.2mMのD−グルコース、5mMのHEPESを2次蒸留水(Deionized Distilled Water:DDW)に溶解した緩衝液(pH7.2)を用いた。
【0032】
次に、十分に冷却したインキュベーションバッファーを満たしたシャーレの中で、全脳から、左右の海馬を取り出した。これら左海馬及び右海馬の湿重量をそれぞれ測定し、当該一対の左右海馬を1サンプルとした。その後、各海馬をチョッパー(MTC/2、ミックルラボラトリーエンジニアリング株式会社)でスライスした。切り出された海馬スライスは、インキュベーションバッファー中に保持した。
【0033】
また、海馬においてコルチコステロイドが独自に生合成されるか否かを確認することを目的の一つとして、海馬の1サンプルあたり5×106cpm(count per minute)のトリチウム標識プロゲステロン(以下、「3H−PROG」という)(株式会社パーキンエルマージャパン)を、海馬スライスに代謝させる基質ステロイドとして準備した。1サンプル分の3H−PROGは、予め1つのガラス管に分取し、溶媒を揮発させておいた。そして、正常ラットから調製した1サンプル分の海馬スライスを、3H−PROGの入ったガラス管に、4mlのインキュベーションバッファーと共に移し入れた。このガラス管内の溶液に混合ガス(95%O2、5%CO2)を通気しながら、当該ガラス管を30℃の恒温水槽中にて5時間インキュベーションすることにより、当該ガラス管内で、海馬スライスに3H−PROGを代謝させた。
【0034】
[抽出]
上述のようにして準備した海馬スライスを、4mLのインキュベーションバッファーと共にテフロンホモジナイザーに移し、氷上でホモジネートすることにより、海馬スライスの破砕物を得た。このホモジネートした破砕物溶液に4mLの抽出溶媒を加えて、5分間撹拌した。抽出溶媒としては、酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(酢酸エチル:ヘキサン=3:2(体積比))を用いた。その後、この溶液を2000×gで5分間遠心分離し、有機相のみを回収した。
【0035】
この撹拌から有機相の回収までの処理を3回繰り返し、回収された全ての有機相を1つにまとめた後、抽出溶媒を揮発させた。そして、このようにして抽出したステロイドを、1mLのメタノール/DDW混合溶媒(メタノール:DDW=40:60(体積比))に溶解することにより、脳海馬抽出液を得た。
【0036】
[第一の精製]
さらに、このようにして得られた脳海馬抽出液から、精製カラム(C18 Amprep minicolumns、アマシャムバイオサイエンス株式会社)を用いて、夾雑物を除去した。すなわち、この精製カラムを5mLのメタノール、5mLのDDW、及び5mLの第一混合溶媒(メタノール:DDW=40:60(体積比))で前洗浄した後、当該精製カラムに海馬抽出液を導入した。そして、まず、5mLの第一混合溶媒で溶出した後、さらに、第二混合溶媒(メタノール:DDW=85:15(体積比))で溶出した。
【0037】
この第一混合溶媒を用いた溶出によって回収された第一分画と、第二混合溶媒を用いた溶出によって回収された第二分画と、をまとめて1つの試験管に回収し、当該第一分画と当該第二分画とを含む混合分画とした。
【0038】
また、3H−PROGを代謝させた海馬スライスから回収された混合分画については、その5μLを取り出し、1.5mlのクリアゾル(和光純薬工業株式会社)と混合した後、液体シンチレーションカウンターを用いて、当該混合分画に含まれる3Hのカウント数を測定した。そして、この測定結果に基づいて、3Hのカウント数が1×106cpmとなるように混合分画をエッペンドルフチューブに分注し、さらに、マーカーとして14C標識されたプロゲステロンを加えた。
【0039】
このようにして得られた混合分画の溶媒を、遠心式濃縮機(タイテック株式会社)を用いて完全に乾燥させた後、200μLのHPLC用溶離液を加え、第一精製試料とした。溶離液としては、ヘキサン/イソプロピルアルコール/酢酸混合溶媒(ヘキサン:イソプロピルアルコール:酢酸=98:2:1〜80:20:1(体積比))を用いた。
【0040】
[第二の精製]
上述のようにして調製した第一精製試料を、さらに、順相シリカゲルカラム(0.46×15cm、Cosmosil 5SL、ナカライテスク株式会社)を備えたHPLCシステムにより精製した。このHPLCシステムとしては、オートサンプラー(AS−2055、日本分光株式会社)、UV検出器(MD−1510、日本分光株式会社)、ミキサー(MX−2080−32、日本分光株式会社)、ポンプ(PU−2080、日本分光株式会社)、ペンレコーダー(SS−250F、株式会社セコニック)、フラクションコレクター(FC−202、ギルソン株式会社)を備えたものを用いた。
【0041】
また、溶離液としては、溶離液A(ヘキサン:イソプロパノール:酢酸=100:0:1(体積比))と溶離液B(ヘキサン:イソプロパノール:酢酸=80:20:1(体積比))を予め定められたポンププログラムに従って混合したものを用いた。すなわち、HPLCシステムへの第一精製試料の注入後、0分から40分の間は、溶離液Aと溶離液Bとを混合したヘキサン:イソプロパノール:酢酸=98:2:1の溶離液で、さらに、40分から55分の間に15分かけてより極性が大きい溶離液Bのみに移行するように溶離液を流した。この溶離液の流速は1mL/minとした。
【0042】
この第二の精製においては、まず、3H−PROGを代謝させた海馬スライスから得られた第一精製試料をオートサンプラーによりHPLCシステムに導入し、順相カラムにより分離した後、フラクションコレクターを用いて、保持時間1分間隔で分画を回収した。
【0043】
こうして回収された各分画に、1.5mLのクリアゾルを加えて、液体シンチレーションカウンターで、3H及び14Cのカウント数を測定することにより、3H−PROG、及び海馬スライスによる当該3H−PROGの代謝によって生成されたトリチウム標識デオキシコルチコステロン(以下、「3H−DOC」という)のそれぞれの保持時間を決定した。
【0044】
また、トリチウム標識されたコルチコステロン(以下、「3H−CORT」という)のみを含む試料を、同様にして順相カラムを備えたHPLCシステムで分離した結果に基づき、3H−CORTの保持時間を決定した。
【0045】
そして、このようにして決定された3H−DOC及び3H−CORTのそれぞれの保持時間を、以下の測定において、デオキシコルチコステロン及びコルチコステロンのそれぞれの保持時間として決定した。すなわち、正常ラットの海馬及びADXラットの海馬から得られた第一精製試料をHPLCに導入し、順相カラムによって分離した後、上述のようにして決定されたデオキシコルチコステロンの保持時間及びコルチコステロンの保持時間のそれぞれで溶出される分画を選択的に回収した。このようにして回収された分画を、後述の質量分析に用いる第二精製試料とした。
【0046】
[血液の採取]
また、本実施例においては、血液中に含まれるコルチコステロイドの定量も行った。すなわち、正常ラット及びADXラットをジエチルエーテルで麻酔した後、ギロチンで断頭し、切断した体側の切断面から流出する血液をシャーレに回収した。このとき、血液の凝固を防ぐため、回収された血液にEDTA−4Na(和光純薬工業株式会社)を0.1%になるように加えてよく撹拌した。この血液を3000rpm(round per minute)で10分間遠心分離し、上清血漿を回収した。この回収された上清血漿を血液由来の試料として質量分析に用いた。
【0047】
[質量分析]
上述のようにして得られた第二精製試料及び血液由来試料に、内部標準物質として、1000pgの重水素化コルチコステロン(Corticosterone−d8、株式会社シグマ)又は重水素化デオキシコルチコステロン(Deoxycorticosterone−d8、株式会社シグマ)を加えた。そして、この内部標準物質を含む試料液を1mLの精製水で希釈した後、余分な油脂分を除くため、C18カラム(Bond Elut C18:バリアン株式会社)に負荷し、2mLの70%アセトニトリル(ナカライテスク株式会社)で溶出した。溶出液の溶媒を遠心エバポレーターで乾固した後、質量分析を行った。
【0048】
質量分析には、トリプルステージ四重極型のLC/MS/MSシステム(Agilent1100、アジレントテクノロジー株式会社)を用いた。LC部には、HPLC用カラム(Symmetry C18、3.5μm、2.1×150mm、ウォーターズ株式会社)を備えたHPLCシステム(Agilent1100、アジレントテクノロジー株式会社)を用いた。また、試料の導入部には、オートサンプラー(HTC PAL、CTC Analytics)を用いた。
【0049】
このLC/MS/MSシステムを用いた質量分析においては、1サンプルあたり6分のポンププログラムに従って、20mmol/Lのギ酸アンモニウム溶液(以下、「溶離液C」という)と、アセトニトリル/メタノール混合溶液(アセトニトリル:メタノール=10:3(体積比))(以下、「溶離液D」という)と、を組み合わせた溶離液により溶出を行った。すなわち、溶出時間0〜0.75分では溶離液C:溶離液D=40:60で混合した溶離液を流し、溶出時間0.76〜3.0分では溶離液C:溶離液D=0:100(すなわち、溶離液Dのみ)を流し、溶出時間3.01〜6.0分では溶離液C:溶離液D=40:60で混合した溶離液を流した。溶離液の流速は0.5mL/minとした。
【0050】
また、定量の方法としては、MRM(Multiple Reaction Monitoring)法を採用した。このMRM法は、1つ目の質量分析器(第一MS部)を通過させる質量を、目的分子の親イオンの質量(m/z)に固定し、衝突部でイオンを開裂させて生じる特徴的なフラグメントイオンの強度を、2つ目の質量分析器(第二MS部)で測定して、定量する方法である。
【0051】
すなわち、イオン化部で正イオンESI法により、コルチコステロンやデオキシコルチコステロンの親イオンを生成し、上流側の第一MS部で当該親イオンを分離し、衝突部では当該親イオンからフラグメントイオンを生成し、さらに下流側の第二MS部では当該フラグメントイオンを分離し、最下流の検出部で当該フラグメントイオンを検出した。
【0052】
なお、コルチコステロンについては、親イオンのm/z値は347.1、フラグメントイオンのm/z値は121.0であり、デオキシコルチコステロンについては、親イオンのm/z値は331.1、フラグメントイオンのm/z値は121.0であった。
【0053】
測定結果の統計処理においては、平均値±標準誤差(Standard Error of Mean:SEM)で表記し、等分散を仮定しないt検定を行い、有意水準0.05で有意差を確定した。
【0054】
[結果]
図3には、上述の第二の精製において、順相カラムを備えたHPLCシステムにより回収された分画の放射活性を測定した結果を示す。図3において、横軸は保持時間(分)、縦軸は放射活性(cpm)をそれぞれ示し、四角印は対応する各保持時間で溶出された分画についての実測値を示す。
【0055】
図3に示すように、3H−PROGが溶出されたことを示す第一のピークP1と、海馬スライスが当該3H−PROGを代謝することによって生成された3H−DOCが溶出されたことを示す第二のピークP2と、が現われた。そこで、この3H−DOCのピークに対応する保持時間(図3における20分の保持時間)をデオキシコルチコステロンの保持時間として決定した。また、同様にして得られた3H−CORTについての測定結果(図示せず)に基づいて、当該3H−CORTが溶出されたことを示すピークに対応する保持時間をコルチコステロンの保持時間として決定した。
【0056】
図4〜図8は、LC/MS/MSシステムを用いて試料中のコルチコステロンを質量分析した結果を示すクロマトグラムである。図4は内部標準物質として用いたコルチコステロン、図5は正常ラットの海馬から得られた試料中のコルチコステロン、図6は正常ラットの血漿から得られた試料中のコルチコステロン、図7はADXラットの海馬から得られた試料中のコルチコステロン、図8はADXラットの血漿から得られた試料中のコルチコステロン、についての測定結果である。図4〜図8において、横軸は保持時間(分)、縦軸はイオン強度(cps:count per second)をそれぞれ示し、m/z値121.0にて検出されたコルチコステロン由来フラグメントイオンのピークを黒く塗りつぶして示している。
【0057】
図4〜図8に示すように、いずれの試料についても、周囲のピークから明確に区別される、コルチコステロン由来フラグメントイオンに特異的な鋭いピークが現われた。すなわち、本実施例においては、従来にない高い精度で脳由来のコルチコステロンを定量することができた。特に、図7に示すように、ADX海馬試料については、脳内において独自に生合成された極めて微量のコルチコステロンを明確なピークとして検出し、定量することができた。また、各試料に含まれるデオキシコルチコステロンについても、同様の質量分析結果(図示せず)を得ることができた。
【0058】
図9には、本実施例におけるコルチコステロン及びデオキシコルチコステロンの定量結果を示す。図9に示す濃度(nM)は、LC/MS/MSシステムを用いた質量分析で得られた1試料あたりの測定値、各試料の調製に用いられた海馬や血漿の重量、コルチコステロン及びデオキシコルチコステロンの分子量、に基づいて算出した。
【0059】
図9に示すように、正常ラットについては、血漿におけるコルチコステロン濃度は1024±412nM、海馬におけるコルチコステロン濃度は464±224nMであり、海馬中の濃度は血漿中の濃度に比べて顕著に低かった。これに対し、ADXラットについては、血漿におけるコルチコステロン濃度は3.2±1.0nM、海馬におけるコルチコステロン濃度は10.0±2.0nMであり、海馬中の濃度が血漿中の濃度に比べて有意に高かった。
【0060】
すなわち、本実施例においては、副腎皮質由来のコルチコステロンを含まないADXラット海馬由来の試料において、約10nMという極めて微量のコルチコステロンを定量することができた。この定量結果の信頼性は、ADXラットの血漿由来の試料においてコルチコステロン濃度が有意に低いという定量結果によって裏付けられた。
【0061】
また、正常ラットについて、血漿におけるデオキシコルチコステロン濃度は26.4±13.4nM、海馬におけるデオキシコルチコステロン濃度は33.3±18.6nMであり、海馬中の濃度は血漿中の濃度に比べて僅かに高かった。これに対し、ADXラットについては、血漿におけるデオキシコルチコステロン濃度は1.8±0.4nM、海馬におけるデオキシコルチコステロン濃度は6.8±1.9nMであり、海馬中の濃度が血漿中の濃度に比べて有意に高かった。
【0062】
すなわち、本実施例においては、コルチコステロンの場合と同様、副腎皮質由来のデオキシコルチコステロンを含まないADXラット海馬由来の試料において、約7nMという極めて微量のデオキシコルチコステロンを定量することができ、この定量結果の信頼性は、ADXラットの血漿由来の試料においてデオキシコルチコステロン濃度が有意に低いという定量結果によって裏付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法に含まれる主な工程を示すフロー図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法で用いられるLC/MS/MSシステムの主な構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法における順相クロマトグラフィーによる測定結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図4】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において内部標準物質として用いたコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図5】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において正常ラット海馬由来のコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図6】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において正常ラット血漿由来のコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図7】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において副腎皮質摘出ラット海馬由来のコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図8】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において副腎皮質摘出ラット血漿由来のコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図9】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法におけるコルチコステロン及びデオキシコルチコステロンの質量分析結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
10 動物準備工程、20 抽出工程、30 精製工程、40 質量分析工程、50 LC/MS/MSシステム、51 LC部、52 イオン化部、53 第一MS部、54 衝突部、55 第二MS部、56 検出部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルチコステロイド定量方法に関し、特に、脳海馬由来のコルチコステロイドを定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、副腎皮質で生成されることが知られているコルチコステロイドの定量は、主に生体から採取した血液や唾液を用いて行われており(例えば、特許文献1)、また、脳組織内のコルチコステロイドについては、ガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)による測定を試みた例が報告されている(例えば、非特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−038004号公報
【非特許文献1】M. J. Ebneret al., Endocrinology, 147(1):179-190(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、脳組織は脂質等の夾雑物を大量に含み、また、脳組織に含まれるコルチコステロンは微量であることから、上記従来技術においては、脳海馬由来のコルチコステロイドを正確に定量することは困難であった。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、脳海馬由来のコルチコステロイドを正確に定量できるコルチコステロイド定量方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法は、脳海馬の抽出物から、順相クロマトグラフィーにより、定量の対象とするコルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する精製工程と、前記分画に含まれる前記コルチコステロイドを、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)を用いて質量分析する分析工程と、を含むことを特徴とする。
【0006】
また、前記精製工程において、長鎖アルキル基を有する固定相と、水とアルコール系溶媒とを混合した移動相と、を用いた逆相クロマトグラフィーにより、前記抽出物から、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より大きい溶離液で溶出した第一分画と、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より小さい溶離液で溶出した第二分画と、を取得して、前記第一分画と前記第二分画とを含む混合分画から、前記順相クロマトグラフィーにより、前記コルチコステロイドを含む分画を選択的に取得することとしてもよい。
【0007】
また、前記分析工程において、前記コルチコステロイドに由来するフラグメントイオンの質量/電荷比におけるイオン強度を経時的に検出することとしてもよい。
【0008】
また、前記脳海馬は、脳外における前記コルチコステロイドの生合成が抑制された動物から取り出した脳海馬であることとしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。また、本定量方法によって定量できるコルチコステロイドは、特に限られないが、例えば、コルチコステロン、デオキシコルチコステロン、テトラヒドロデオキシコルチコステロンを挙げることができる。
【0010】
図1は、本実施形態に係るコルチコステロイド定量方法(以下、「本定量方法」という)に含まれる主な工程についてのフロー図である。図1に示すように、本定量方法は、動物準備工程10と、抽出工程20と、精製工程30と、質量分析工程40と、を含む。
【0011】
動物準備工程10においては、脳海馬を摘出する対象となる動物を準備する。この動物としては、特に限られないが、例えば、ラット、マウス、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の非ヒト動物を好ましく用いることができる。
【0012】
また、この動物準備工程10では、脳外における、本定量方法による定量の対象となるコルチコステロイドの生合成が抑制された動物を準備することとしてもよい。このような動物としては、脳以外の臓器や組織で生合成されたコルチコステロイドの脳への流入が抑制された動物であれば特に限られず用いることができる。すなわち、例えば、脳以外であって、コルチコステロイドが生合成されることが知られている、又は生合成される可能性のある臓器や組織を外科的に摘出した動物を用いることができ、具体的には、副腎皮質や性腺(オス動物の精巣、メス動物の卵巣)を予め摘出した動物を好ましく用いることができる。
【0013】
抽出工程20においては、動物準備工程10で準備した動物から脳海馬を取り出し、当該脳海馬の抽出物を取得する。すなわち、この抽出工程20においては、まず、動物の頭部から脳全体を摘出し、当該摘出した全脳のうち、海馬部分を、商業的に利用可能なホモジナイザー等を用いて破砕する。
【0014】
そして、有機溶媒を用いた抽出処理により、この破砕物から、精製工程30において精製の対象となる脳海馬抽出物を取得する。なお、動物から摘出した脳海馬を、商業的に利用可能な組織切片作製装置等を用いて、いったん所定の厚さにスライスした後、当該脳海馬スライスをホモジナイザーにより破砕して抽出処理に用いることとしてもよい。
【0015】
抽出用の有機溶媒としては、特に限られないが、例えば、酢酸エチルとヘキサンとを所定の体積比率で混合したものを好ましく用いることができ、特に、酢酸エチルとヘキサンとを3:2で混合したものを好ましく用いることができる。そして、この抽出工程20においては、抽出用有機溶媒と脳海馬破砕物とを混合し、当該混合液のうち、有機相のみを回収して、脳海馬抽出物とする。
【0016】
精製工程30においては、抽出工程20で得られた脳海馬抽出物から、順相クロマトグラフィーにより、コルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する。すなわち、例えば、順相シリカゲルカラムを備えた高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)を用いて、脳海馬抽出物のうち、コルチコステロイドに特有の保持時間及びそのごく近傍で溶出してくる分画を選択的に回収し、質量分析工程40における分析の対象となる分析用試料とする。
【0017】
このように、本定量方法においては、質量分析に先立って、脳海馬抽出物に含まれるコルチコステロイドを順相カラムクロマトグラフィーにより高度に精製しておくことにより、脳海馬に含まれる微量なコルチコステロイドを正確に定量することが可能となる。なお、この順相クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、特に限られないが、例えば、ヘキサンとイソプロパノールと酢酸とを混合したものを好ましく用いることができる。
【0018】
また、この精製工程30においては、抽出工程20で得られた脳海馬抽出物から、長鎖アルキル基を有する固定相と、水とアルコール系溶媒とを混合した移動相と、を用いた逆相クロマトグラフィーにより、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より大きい移動相で溶出した第一分画と、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より小さい移動相で溶出した第二分画と、を取得して、前記第一分画と前記第二分画とを含む混合分画から、順相クロマトグラフィーにより、コルチコステロイドを含む分画を選択的に取得することとしてもよい。
【0019】
すなわち、この場合、例えば、順相クロマトグラフィーによる精製に先立って、表面に炭素数18のオクタデシル基が化学結合したシリカゲルを固定相として有する逆相カラムと、水とメタノールとを混合した溶離液と、を用いた逆相クロマトグラフィーにより、脳海馬抽出物から夾雑物を除去する前精製を行う。
【0020】
そして、この前精製においては、まず、抽出工程20で得られた脳海馬抽出物を、水の体積比率がメタノールより大きい第一溶離液で溶出することにより第一分画を回収し、次いで、逆に水の体積比率がメタノールより小さい第二溶離液でさらに溶出することにより第二分画を回収する。
【0021】
このようにして順次得られる第一分画と第二分画とを合わせた混合分画を、上述の順相クロマトグラフィーによる精製に用いることにより、脳海馬からのコルチコステロンの収量を向上させることができる。
【0022】
質量分析工程40においては、精製工程30で得られた分析用試料に含まれるコルチコステロイドを、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(Liquid Chromatography/Mass Spectrometry/Mass Spectrometry:LC/MS/MS)を用いて質量分析する。
【0023】
図2は、この質量分析工程40で用いられるLC/MS/MSシステム50の一例について、その主な構成を示すブロック図である。図2に示すように、このLC/MS/MSシステム50は、LC部51と、イオン化部52と、第一MS部53と、衝突部54と、第二MS部55と、検出部56と、を含む。
【0024】
LC部51は、例えば、逆相カラムを備えたHPLCシステムであり、その上流端から精製工程30で得られた分析用試料を受け入れて逆相クロマトグラフィーを実施し、下流端から溶出する試料を順次、イオン化部52に導入する。
【0025】
イオン化部52は、LC部51から受け入れた試料に含まれるコルチコステロイドに対して、質量分析に必要なイオン化処理を施し、当該イオン化されたコルチコステロイドを第一MS部53に導入する。なお、イオン化部52で用いられるイオン化法は、特に限られないが、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ElectroSpray Ionization:ESI)法を好ましく用いることができる。
【0026】
第一MS部53は、イオン化部52から受け入れたイオン化されたコルチコステロイドを、その質量及び電荷に基づいて分離し、衝突部54に導入する。衝突部54は、第一MS部53から受け入れたコルチコステロイドに対して不活性ガス等を衝突させて、コルチコステロイド分子に特有のフラグメントイオンを生成し、当該フラグメントイオンを第二MS部55に導入する。第二MS部55は、衝突部54から受け入れたコルチコステロイド由来のフラグメントイオンを、その質量及び電荷に基づいて分離し、分析部56に導入する。分析部56は、第二MS部55から受け入れたフラグメントイオンを検出する。なお、このようなLC/MS/MSシステム50としては、特に限られないが、例えば、トリプルステージ四重極型のシステムを好ましく用いることができる。
【0027】
また、この質量分析工程40においては、定量の対象とするコルチコステロイドに由来するフラグメントイオンの質量/電荷比におけるイオン強度を経時的に検出することとしてもよい。このように、コルチコステロイドに特有のフラグメントイオンの質量/電荷比に着目し、当該フラグメントイオンの検出強度をモニタリングすることにより、脳由来試料に含まれる微量の当該コルチコステロイドを高精度に定量することができる。
【0028】
そして、本定量方法においては、この質量分析工程40で得られた質量分析結果に基づいて、脳由来試料に含まれるコルチコステロイドを正確に定量することができる。すなわち、本定量方法においては、脳海馬抽出物からコルチコステロイドを高度に精製し、当該精製されたコルチコステロイド試料を質量分析することにより、脳海馬に含まれる微量なコルチコステロイドを高精度に定量することができる。
【0029】
次に、本定量法により脳由来のコルチコステロイドを定量した実施例について説明する。
【0030】
[実施例]
[動物の準備]
本実施例においては、12週齢のオスのウィスター(Wistar)ラット(株式会社埼玉実験動物供給所)(以下、「正常ラット」という)を準備した。また、12週齢のオスのラットの副腎皮質を財団法人動物繁殖研究所において摘出することにより、副腎皮質を有しないラット(以下、「ADXラット」という)を準備した。これら正常ラット及びADXラットは、使用するまでの間、12時間、12時間の明、暗周期が保たれた飼育室で飼育した。また、ADXラットは、副腎皮質が摘出されてから1週間飼育したものを使用した。
【0031】
[脳海馬の摘出]
正常ラット及びADXラットをジエチルエーテル(昭和エーテル株式会社)で麻酔した後、ギロチンで断頭し、当該頭部から全脳を摘出した。摘出した全脳は、氷冷したインキュベーションバッファー中に保持した。インキュベーションバッファーとしては、136.6mMのNaCl、2.5mMのCaCl2−2H2O、0.6mMのMgCl2−6H2O、0.6mMのMgSO4−7H2O、1.0mMのNaHCO3、0.34mMのNa2HPO4−12H2O、0.44mMのKH2PO4、5.36mMのKCl、22.2mMのD−グルコース、5mMのHEPESを2次蒸留水(Deionized Distilled Water:DDW)に溶解した緩衝液(pH7.2)を用いた。
【0032】
次に、十分に冷却したインキュベーションバッファーを満たしたシャーレの中で、全脳から、左右の海馬を取り出した。これら左海馬及び右海馬の湿重量をそれぞれ測定し、当該一対の左右海馬を1サンプルとした。その後、各海馬をチョッパー(MTC/2、ミックルラボラトリーエンジニアリング株式会社)でスライスした。切り出された海馬スライスは、インキュベーションバッファー中に保持した。
【0033】
また、海馬においてコルチコステロイドが独自に生合成されるか否かを確認することを目的の一つとして、海馬の1サンプルあたり5×106cpm(count per minute)のトリチウム標識プロゲステロン(以下、「3H−PROG」という)(株式会社パーキンエルマージャパン)を、海馬スライスに代謝させる基質ステロイドとして準備した。1サンプル分の3H−PROGは、予め1つのガラス管に分取し、溶媒を揮発させておいた。そして、正常ラットから調製した1サンプル分の海馬スライスを、3H−PROGの入ったガラス管に、4mlのインキュベーションバッファーと共に移し入れた。このガラス管内の溶液に混合ガス(95%O2、5%CO2)を通気しながら、当該ガラス管を30℃の恒温水槽中にて5時間インキュベーションすることにより、当該ガラス管内で、海馬スライスに3H−PROGを代謝させた。
【0034】
[抽出]
上述のようにして準備した海馬スライスを、4mLのインキュベーションバッファーと共にテフロンホモジナイザーに移し、氷上でホモジネートすることにより、海馬スライスの破砕物を得た。このホモジネートした破砕物溶液に4mLの抽出溶媒を加えて、5分間撹拌した。抽出溶媒としては、酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(酢酸エチル:ヘキサン=3:2(体積比))を用いた。その後、この溶液を2000×gで5分間遠心分離し、有機相のみを回収した。
【0035】
この撹拌から有機相の回収までの処理を3回繰り返し、回収された全ての有機相を1つにまとめた後、抽出溶媒を揮発させた。そして、このようにして抽出したステロイドを、1mLのメタノール/DDW混合溶媒(メタノール:DDW=40:60(体積比))に溶解することにより、脳海馬抽出液を得た。
【0036】
[第一の精製]
さらに、このようにして得られた脳海馬抽出液から、精製カラム(C18 Amprep minicolumns、アマシャムバイオサイエンス株式会社)を用いて、夾雑物を除去した。すなわち、この精製カラムを5mLのメタノール、5mLのDDW、及び5mLの第一混合溶媒(メタノール:DDW=40:60(体積比))で前洗浄した後、当該精製カラムに海馬抽出液を導入した。そして、まず、5mLの第一混合溶媒で溶出した後、さらに、第二混合溶媒(メタノール:DDW=85:15(体積比))で溶出した。
【0037】
この第一混合溶媒を用いた溶出によって回収された第一分画と、第二混合溶媒を用いた溶出によって回収された第二分画と、をまとめて1つの試験管に回収し、当該第一分画と当該第二分画とを含む混合分画とした。
【0038】
また、3H−PROGを代謝させた海馬スライスから回収された混合分画については、その5μLを取り出し、1.5mlのクリアゾル(和光純薬工業株式会社)と混合した後、液体シンチレーションカウンターを用いて、当該混合分画に含まれる3Hのカウント数を測定した。そして、この測定結果に基づいて、3Hのカウント数が1×106cpmとなるように混合分画をエッペンドルフチューブに分注し、さらに、マーカーとして14C標識されたプロゲステロンを加えた。
【0039】
このようにして得られた混合分画の溶媒を、遠心式濃縮機(タイテック株式会社)を用いて完全に乾燥させた後、200μLのHPLC用溶離液を加え、第一精製試料とした。溶離液としては、ヘキサン/イソプロピルアルコール/酢酸混合溶媒(ヘキサン:イソプロピルアルコール:酢酸=98:2:1〜80:20:1(体積比))を用いた。
【0040】
[第二の精製]
上述のようにして調製した第一精製試料を、さらに、順相シリカゲルカラム(0.46×15cm、Cosmosil 5SL、ナカライテスク株式会社)を備えたHPLCシステムにより精製した。このHPLCシステムとしては、オートサンプラー(AS−2055、日本分光株式会社)、UV検出器(MD−1510、日本分光株式会社)、ミキサー(MX−2080−32、日本分光株式会社)、ポンプ(PU−2080、日本分光株式会社)、ペンレコーダー(SS−250F、株式会社セコニック)、フラクションコレクター(FC−202、ギルソン株式会社)を備えたものを用いた。
【0041】
また、溶離液としては、溶離液A(ヘキサン:イソプロパノール:酢酸=100:0:1(体積比))と溶離液B(ヘキサン:イソプロパノール:酢酸=80:20:1(体積比))を予め定められたポンププログラムに従って混合したものを用いた。すなわち、HPLCシステムへの第一精製試料の注入後、0分から40分の間は、溶離液Aと溶離液Bとを混合したヘキサン:イソプロパノール:酢酸=98:2:1の溶離液で、さらに、40分から55分の間に15分かけてより極性が大きい溶離液Bのみに移行するように溶離液を流した。この溶離液の流速は1mL/minとした。
【0042】
この第二の精製においては、まず、3H−PROGを代謝させた海馬スライスから得られた第一精製試料をオートサンプラーによりHPLCシステムに導入し、順相カラムにより分離した後、フラクションコレクターを用いて、保持時間1分間隔で分画を回収した。
【0043】
こうして回収された各分画に、1.5mLのクリアゾルを加えて、液体シンチレーションカウンターで、3H及び14Cのカウント数を測定することにより、3H−PROG、及び海馬スライスによる当該3H−PROGの代謝によって生成されたトリチウム標識デオキシコルチコステロン(以下、「3H−DOC」という)のそれぞれの保持時間を決定した。
【0044】
また、トリチウム標識されたコルチコステロン(以下、「3H−CORT」という)のみを含む試料を、同様にして順相カラムを備えたHPLCシステムで分離した結果に基づき、3H−CORTの保持時間を決定した。
【0045】
そして、このようにして決定された3H−DOC及び3H−CORTのそれぞれの保持時間を、以下の測定において、デオキシコルチコステロン及びコルチコステロンのそれぞれの保持時間として決定した。すなわち、正常ラットの海馬及びADXラットの海馬から得られた第一精製試料をHPLCに導入し、順相カラムによって分離した後、上述のようにして決定されたデオキシコルチコステロンの保持時間及びコルチコステロンの保持時間のそれぞれで溶出される分画を選択的に回収した。このようにして回収された分画を、後述の質量分析に用いる第二精製試料とした。
【0046】
[血液の採取]
また、本実施例においては、血液中に含まれるコルチコステロイドの定量も行った。すなわち、正常ラット及びADXラットをジエチルエーテルで麻酔した後、ギロチンで断頭し、切断した体側の切断面から流出する血液をシャーレに回収した。このとき、血液の凝固を防ぐため、回収された血液にEDTA−4Na(和光純薬工業株式会社)を0.1%になるように加えてよく撹拌した。この血液を3000rpm(round per minute)で10分間遠心分離し、上清血漿を回収した。この回収された上清血漿を血液由来の試料として質量分析に用いた。
【0047】
[質量分析]
上述のようにして得られた第二精製試料及び血液由来試料に、内部標準物質として、1000pgの重水素化コルチコステロン(Corticosterone−d8、株式会社シグマ)又は重水素化デオキシコルチコステロン(Deoxycorticosterone−d8、株式会社シグマ)を加えた。そして、この内部標準物質を含む試料液を1mLの精製水で希釈した後、余分な油脂分を除くため、C18カラム(Bond Elut C18:バリアン株式会社)に負荷し、2mLの70%アセトニトリル(ナカライテスク株式会社)で溶出した。溶出液の溶媒を遠心エバポレーターで乾固した後、質量分析を行った。
【0048】
質量分析には、トリプルステージ四重極型のLC/MS/MSシステム(Agilent1100、アジレントテクノロジー株式会社)を用いた。LC部には、HPLC用カラム(Symmetry C18、3.5μm、2.1×150mm、ウォーターズ株式会社)を備えたHPLCシステム(Agilent1100、アジレントテクノロジー株式会社)を用いた。また、試料の導入部には、オートサンプラー(HTC PAL、CTC Analytics)を用いた。
【0049】
このLC/MS/MSシステムを用いた質量分析においては、1サンプルあたり6分のポンププログラムに従って、20mmol/Lのギ酸アンモニウム溶液(以下、「溶離液C」という)と、アセトニトリル/メタノール混合溶液(アセトニトリル:メタノール=10:3(体積比))(以下、「溶離液D」という)と、を組み合わせた溶離液により溶出を行った。すなわち、溶出時間0〜0.75分では溶離液C:溶離液D=40:60で混合した溶離液を流し、溶出時間0.76〜3.0分では溶離液C:溶離液D=0:100(すなわち、溶離液Dのみ)を流し、溶出時間3.01〜6.0分では溶離液C:溶離液D=40:60で混合した溶離液を流した。溶離液の流速は0.5mL/minとした。
【0050】
また、定量の方法としては、MRM(Multiple Reaction Monitoring)法を採用した。このMRM法は、1つ目の質量分析器(第一MS部)を通過させる質量を、目的分子の親イオンの質量(m/z)に固定し、衝突部でイオンを開裂させて生じる特徴的なフラグメントイオンの強度を、2つ目の質量分析器(第二MS部)で測定して、定量する方法である。
【0051】
すなわち、イオン化部で正イオンESI法により、コルチコステロンやデオキシコルチコステロンの親イオンを生成し、上流側の第一MS部で当該親イオンを分離し、衝突部では当該親イオンからフラグメントイオンを生成し、さらに下流側の第二MS部では当該フラグメントイオンを分離し、最下流の検出部で当該フラグメントイオンを検出した。
【0052】
なお、コルチコステロンについては、親イオンのm/z値は347.1、フラグメントイオンのm/z値は121.0であり、デオキシコルチコステロンについては、親イオンのm/z値は331.1、フラグメントイオンのm/z値は121.0であった。
【0053】
測定結果の統計処理においては、平均値±標準誤差(Standard Error of Mean:SEM)で表記し、等分散を仮定しないt検定を行い、有意水準0.05で有意差を確定した。
【0054】
[結果]
図3には、上述の第二の精製において、順相カラムを備えたHPLCシステムにより回収された分画の放射活性を測定した結果を示す。図3において、横軸は保持時間(分)、縦軸は放射活性(cpm)をそれぞれ示し、四角印は対応する各保持時間で溶出された分画についての実測値を示す。
【0055】
図3に示すように、3H−PROGが溶出されたことを示す第一のピークP1と、海馬スライスが当該3H−PROGを代謝することによって生成された3H−DOCが溶出されたことを示す第二のピークP2と、が現われた。そこで、この3H−DOCのピークに対応する保持時間(図3における20分の保持時間)をデオキシコルチコステロンの保持時間として決定した。また、同様にして得られた3H−CORTについての測定結果(図示せず)に基づいて、当該3H−CORTが溶出されたことを示すピークに対応する保持時間をコルチコステロンの保持時間として決定した。
【0056】
図4〜図8は、LC/MS/MSシステムを用いて試料中のコルチコステロンを質量分析した結果を示すクロマトグラムである。図4は内部標準物質として用いたコルチコステロン、図5は正常ラットの海馬から得られた試料中のコルチコステロン、図6は正常ラットの血漿から得られた試料中のコルチコステロン、図7はADXラットの海馬から得られた試料中のコルチコステロン、図8はADXラットの血漿から得られた試料中のコルチコステロン、についての測定結果である。図4〜図8において、横軸は保持時間(分)、縦軸はイオン強度(cps:count per second)をそれぞれ示し、m/z値121.0にて検出されたコルチコステロン由来フラグメントイオンのピークを黒く塗りつぶして示している。
【0057】
図4〜図8に示すように、いずれの試料についても、周囲のピークから明確に区別される、コルチコステロン由来フラグメントイオンに特異的な鋭いピークが現われた。すなわち、本実施例においては、従来にない高い精度で脳由来のコルチコステロンを定量することができた。特に、図7に示すように、ADX海馬試料については、脳内において独自に生合成された極めて微量のコルチコステロンを明確なピークとして検出し、定量することができた。また、各試料に含まれるデオキシコルチコステロンについても、同様の質量分析結果(図示せず)を得ることができた。
【0058】
図9には、本実施例におけるコルチコステロン及びデオキシコルチコステロンの定量結果を示す。図9に示す濃度(nM)は、LC/MS/MSシステムを用いた質量分析で得られた1試料あたりの測定値、各試料の調製に用いられた海馬や血漿の重量、コルチコステロン及びデオキシコルチコステロンの分子量、に基づいて算出した。
【0059】
図9に示すように、正常ラットについては、血漿におけるコルチコステロン濃度は1024±412nM、海馬におけるコルチコステロン濃度は464±224nMであり、海馬中の濃度は血漿中の濃度に比べて顕著に低かった。これに対し、ADXラットについては、血漿におけるコルチコステロン濃度は3.2±1.0nM、海馬におけるコルチコステロン濃度は10.0±2.0nMであり、海馬中の濃度が血漿中の濃度に比べて有意に高かった。
【0060】
すなわち、本実施例においては、副腎皮質由来のコルチコステロンを含まないADXラット海馬由来の試料において、約10nMという極めて微量のコルチコステロンを定量することができた。この定量結果の信頼性は、ADXラットの血漿由来の試料においてコルチコステロン濃度が有意に低いという定量結果によって裏付けられた。
【0061】
また、正常ラットについて、血漿におけるデオキシコルチコステロン濃度は26.4±13.4nM、海馬におけるデオキシコルチコステロン濃度は33.3±18.6nMであり、海馬中の濃度は血漿中の濃度に比べて僅かに高かった。これに対し、ADXラットについては、血漿におけるデオキシコルチコステロン濃度は1.8±0.4nM、海馬におけるデオキシコルチコステロン濃度は6.8±1.9nMであり、海馬中の濃度が血漿中の濃度に比べて有意に高かった。
【0062】
すなわち、本実施例においては、コルチコステロンの場合と同様、副腎皮質由来のデオキシコルチコステロンを含まないADXラット海馬由来の試料において、約7nMという極めて微量のデオキシコルチコステロンを定量することができ、この定量結果の信頼性は、ADXラットの血漿由来の試料においてデオキシコルチコステロン濃度が有意に低いという定量結果によって裏付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法に含まれる主な工程を示すフロー図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法で用いられるLC/MS/MSシステムの主な構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法における順相クロマトグラフィーによる測定結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図4】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において内部標準物質として用いたコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図5】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において正常ラット海馬由来のコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図6】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において正常ラット血漿由来のコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図7】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において副腎皮質摘出ラット海馬由来のコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図8】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法において副腎皮質摘出ラット血漿由来のコルチコステロンを質量分析した結果の一例を示すクロマトグラムである。
【図9】本発明の一実施形態に係るコルチコステロイド定量方法におけるコルチコステロン及びデオキシコルチコステロンの質量分析結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
10 動物準備工程、20 抽出工程、30 精製工程、40 質量分析工程、50 LC/MS/MSシステム、51 LC部、52 イオン化部、53 第一MS部、54 衝突部、55 第二MS部、56 検出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳海馬の抽出物から、順相クロマトグラフィーにより、定量の対象とするコルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する精製工程と、
前記分画に含まれる前記コルチコステロイドを、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)を用いて質量分析する分析工程と、
を含む
ことを特徴とするコルチコステロイド定量方法。
【請求項2】
前記精製工程において、長鎖アルキル基を有する固定相と、水とアルコール系溶媒とを混合した移動相と、を用いた逆相クロマトグラフィーにより、前記抽出物から、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より大きい溶離液で溶出した第一分画と、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より小さい溶離液で溶出した第二分画と、を取得して、前記第一分画と前記第二分画とを含む混合分画から、前記順相クロマトグラフィーにより、前記コルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する
ことを特徴とする請求項1に記載のコルチコステロイド定量方法。
【請求項3】
前記分析工程において、前記コルチコステロイドに由来するフラグメントイオンの質量/電荷比におけるイオン強度を経時的に検出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のコルチコステロイド定量方法。
【請求項4】
前記脳海馬は、脳外における前記コルチコステロイドの生合成が抑制された動物から取り出した脳海馬である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコルチコステロイド定量方法。
【請求項1】
脳海馬の抽出物から、順相クロマトグラフィーにより、定量の対象とするコルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する精製工程と、
前記分画に含まれる前記コルチコステロイドを、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)を用いて質量分析する分析工程と、
を含む
ことを特徴とするコルチコステロイド定量方法。
【請求項2】
前記精製工程において、長鎖アルキル基を有する固定相と、水とアルコール系溶媒とを混合した移動相と、を用いた逆相クロマトグラフィーにより、前記抽出物から、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より大きい溶離液で溶出した第一分画と、水の体積比率が前記アルコール系溶媒より小さい溶離液で溶出した第二分画と、を取得して、前記第一分画と前記第二分画とを含む混合分画から、前記順相クロマトグラフィーにより、前記コルチコステロイドを含む分画を選択的に取得する
ことを特徴とする請求項1に記載のコルチコステロイド定量方法。
【請求項3】
前記分析工程において、前記コルチコステロイドに由来するフラグメントイオンの質量/電荷比におけるイオン強度を経時的に検出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のコルチコステロイド定量方法。
【請求項4】
前記脳海馬は、脳外における前記コルチコステロイドの生合成が抑制された動物から取り出した脳海馬である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコルチコステロイド定量方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2008−26184(P2008−26184A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199886(P2006−199886)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成17年度理学系研究科 物理学専攻 修士論文発表会 開催者 国立大学法人東京大学 開催日 平成18年1月23日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成17年度理学系研究科 物理学専攻 修士論文発表会 開催者 国立大学法人東京大学 開催日 平成18年1月23日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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