説明

コレステロール産生酵母株及びその使用

本発明は、真菌界の生物中でのコレステロールの生産に関する。より具体的には、本発明は、単純な炭素源からコレステロールを独立に産生する遺伝的に修飾された真菌類に関する。本発明は、標識されていないコレステロール及び標識されたコレステロールを生産するための本発明の真菌類の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌界の生物中でのコレステロールの産生に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロール(図1参照)は、最も重要な動物性ステロールである。コレステロールは、細胞膜の基本的な成分で、細胞膜の流動性を調節しており、全ての動物組織中、特に神経組織中に存在する。
【0003】
コレステロールは、多大な産業的関心が寄せられている生産物である。このため、コレステロールは、化粧品産業において一般的に使用されている。コレステロールは、製薬産業において、例えば、薬物送達においても使用されており、細胞培養においても使用されている。
【0004】
コレステロールは、ビタミンDの産業的合成においても使用されている。その後、このビタミンは、ヒトの食物(例えば、酪農製品)及び動物の食物を強化するために使用される。コレステロールは、動物の食物、特に、養殖エビを対象とした食物中の添加物としても有利に使用される。
【0005】
現在、市場で販売されているコレステロールの圧倒的多数は、動物組織から抽出されている(ごく少量は、化学的合成によって生産されている。)。コレステロールの抽出のために、ウシから得た脊髄及びラノリン(羊毛の天然脂肪である。)という2つの主要な出発源が使用されている。
【0006】
出発産物としての動物組織の使用は、問題を引き起こす。このため、ヒツジのスクレイピーの原因であるプリオンのウシへの伝染(ウシでは、BSE(牛海綿状脳症)と呼ばれる疾病)に付随する最近の問題は、動物組織を出発材料として使用する場合には、注意が必要であることを改めて想起させた。しかしながら、措置が講じられたとしても、病原性因子の伝達のリスクを完全に除外することはできない。従って、動物組織由来でないコレステロール源を有することは極めて有利であろう。
【0007】
本発明の目的は、健康の観点から安全である豊富なコレステロール源を提供することである。本発明者らは、驚くべきことに、コレステロールを生産するために、真菌中でのエルゴステロールの天然産生を逸らせることが可能なことを示した。
【発明の開示】
【0008】
本発明の第一の側面は、自律的にコレステロールを産生する真菌界の生物に関する。
【0009】
本発明の第二の側面は、遺伝的に修飾された上記真菌界の生物に関する。
【0010】
本発明の第三の側面は、単純な炭素源からコレステロールを産生する上記真菌界の生物に関する。
【0011】
本発明は、7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素を発現する、上記真菌界の生物にも関する。より具体的には、本発明は、ステロール24−C−メチル転移酵素が不活化されており、及び/又はC−22ステロールデサチュラーゼ酵素が不活化されている、上記生物に関する。
【0012】
本発明の別の側面は、7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24還元酵素の発現が生物の形質転換によって得られる、上記真菌界の生物に関する。
【0013】
本発明は、ステロール24−C−メチル転移酵素の不活化が遺伝子の不活化によって実施され、及び/又はC−22ステロールデサチュラーゼ酵素の不活化が遺伝子不活化によって実施される、上記真菌界の生物にも関する。
【0014】
本発明の別の側面は、子嚢菌(Ascomycetes)門から、より具体的には、サッカロミケス菌(Saccharomycotina)亜門、さらに具体的には、サッカロミケス菌(Saccharomycetes)綱又はシゾサッカロミケス菌(Schizosaccharomycetes)綱、さらに具体的には、サッカロミケス(Saccharomycetales)目又はシゾサッカロミケス(Shizosaccharomycetales)目、さらに具体的には、サッカロミケス(Saccharomycetaceae)科又はシゾサッカロミケス(Schizosaccharomycetaceae)科、さらに具体的にはサッカロミケス(Saccharomyces)属又はシゾサッカロミケス(Schizosaccharomyces)属から選択される、上記真菌界の生物に関する。
【0015】
本発明の別の側面は、サッカロミケス・セレビシアエ種又はシゾサッカロミケス・ポンベ種の酵母である上記真菌界の生物に関する。
【0016】
本発明は、上記生物の培養を含む、非動物起源のコレステロールを生産する方法にも関する。より具体的には、本方法では、生物を培養する工程の後に、コレステロールを抽出する工程が続く。好ましくは、コレステロールの抽出は、非水混和性溶媒を用いて実施される。
【0017】
より具体的には、上記定義の方法では、コレステロールの抽出の前に、鹸化工程が実施される。より具体的には、上記定義の方法では、鹸化又はコレステロールの抽出の前に、細胞の機械的破砕を行う工程が実施される。
【0018】
本発明の別の側面は、13C若しくは14Cで標識された、コレステロール又はその代謝的中間体の1つ又はステロールの混合物を生産するための、上記真菌界の生物の使用に関する。
【0019】
本発明は、
13C標識又は14C標識された基質上で、上記真菌界の生物を培養する工程と;及び
−コレステロール又はその代謝的中間体の1つ又はステロールの混合物を抽出する工程と;
を含む、13C又は14Cで標識された、コレステロール又はその代謝的中間体の1つ又はステロールの混合物を生産するための方法にも関する。
【0020】
本発明は、標識された基質上で、次いで、非標識基質上で上記真菌界の生物を培養することを含み、所定の同位体プロファイルを得るためにこれらの基質の各々の上での培養回数が選択される、放射性標識を用いて様々な位置で標識された、コレステロールの、コレステロール中間体の、又はコレステロール代謝物の同位体混合物を生産するための方法にも関する。本発明は、所定の同位体プロファイルを有し、且つこの生産方法を用いて取得することが可能である、同位体標識を用いて様々な位置に標識された、コレステロールの、コレステロール中間体の、又はコレステロール代謝物の分子の試料にも関する。
【0021】
本発明は、同位体標識を用いて様々な位置で標識され、且つ所定の同位体プロファイルを有する、コレステロールの、コレステロール中間体の、又はコレステロール代謝物の同位体混合物を、追跡可能標識として含有する組成物にも関する。より具体的には、該組成物は、ヒト又は動物の食物又は治療の分野を対象とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、真菌界の生物中でのコレステロールの産生に関する。真菌中には、自然の状態でコレステロールは見られず、後者は、動物性ステロールである。これらの生物の細胞膜の主なステロールは、エルゴステロールである。
【0023】
本発明によって、真菌の増殖を通じて、単純な炭素源の存在下で、コレステロール合成を実施することが可能となる。本発明によって提案される方法は、真菌界の生物の培養及び容易に商業的に入手可能な単純な炭素源の添加を使用するので、本発明によって提案される方法により、低価格で、大量のコレステロールを取得することが可能となる。
【0024】
本発明において、「単純な炭素源」という用語は、真菌、特に酵母の正常な増殖のために当業者によって使用可能な炭素源を意味するものとする。本用語は、特に、グルコース、ガラクトース又はスクロース又は糖蜜又はこれらの糖の副産物など、様々な同化可能な糖を表すものとする。最も好ましい単純な炭素源は、エタノール及びグリセロールである。
【0025】
生産が自律的に行われるという事実は、コレステロールを取得するために基質を添加する必要がなく、生物が、単純な出発炭素源のみからコレステロールを産生可能であることを意味する。本発明に係る生物の株がコレステロール産生のための代謝経路を完結させるために必要とされる全ての遺伝子を含有している限り、この株は代謝経路中の上流に位置する基質を用いてコレステロールを産生可能であることも明らかである。
【0026】
本発明は、具体的には、単純な炭素源からコレステロールを自律的に産生する、遺伝的に修飾された真菌界の生物(真菌類(Fungus))に関する。
【0027】
エルゴステロール産生の天然の代謝経路を、コレステロールの産生の方向に逸らせるために、真菌の遺伝的修飾の一定数を施すことが可能である。このため、本発明は、7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素を発現する真菌界の遺伝的に修飾された生物に関する。このようにして修飾された真菌界の生物の株は、コレステロールを産生する。本出願人は、実際に、得られた結果(本発明の実施例の部を参照)を用いて、エルゴステロールをもたらす代謝経路及びその誘導体の幾つかをモデル化することができた(図2)。真菌S.セレビシアエ中での7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24還元酵素の発現は、エルゴステロールに対する生合成系経路の一部を逸らせることによって、コレステロールの産生を可能とすることができる。
【0028】
7−デヒドロコレステロール還元酵素は、国際酵素分類で番号EC:1.3.1.21を有する。7−デヒドロコレステロール還元酵素は、本文書の残りの箇所で、デルタ−5,7−ステロール−デルタ−7−還元酵素、7−DHC還元酵素又はステロールデルタ−7−還元酵素とも称され、デルタ−7ステロール還元酵素、デルタ−7Red、デルタ7還元酵素又はΔ7−還元酵素とも称される。この酵素は、植物中の天然状態で、例えば、デルタ−5,7−コレスタジエノールの、デルタ−5−コレスタエノールへのNADPH依存性還元又は7−8位に二重結合を有するステロール中間体の還元を触媒する(Taton and Rahier,1991)。7−デヒドロコレステロール還元酵素をコードする遺伝子は、植物アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)中で、初めて単離され、対応する遺伝子の単離及び酵母サッカロミケス・セレビシアエ中での本酵素の発現は、特許第EP727 489号に記載されている。本遺伝子及び本タンパク質の配列は、以下のGenBank受託番号:U49398で入手可能である(Lecain et al.,1996)。
【0029】
本遺伝子の相同体の一定数は、他の種に記載されている。これらは、例えば、ヒトでの相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号AF034544で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号AAC05086で入手可能である。)(Moebius et al.,1998);ラット(ラッタス・ノルベジカス(Rattus norvegicus))中の相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号:AB016800で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号BAA34306で入手可能である。)である。相同遺伝子は、ニワトリ ガルス・ガルス(Gallus gallus)中(Genbank参照番号はBM490402)、又はヒキガエル ゼノパス・ラエビス(Xenopus laevis)中(Genbank参照番号BI315007)、又はゼブラフィッシュダニオ・レリオ(Danio rerio)中(Genbank参照番号はBQ132664)にも同定されている。デルタ7ステロール還元酵素活性をコードする遺伝子は、コメ、オリザ・サティバ(Oryza sativa)(Genbank参照番号CA753545号である。)、又はイモ、ソラナム・ツベロサム(Solanum tuberosum)(Genbank参照番号BF342071)などの植物中にも見出される。デルタ7ステロール還元酵素活性をコードするこの遺伝子は、原生生物マスティガモエバ・バラムチ(Mastigamoeba balamuthi)中に見出すことも可能である(Genbank参照番号BE636562)。
【0030】
当業者は、他の生物中に、7−デヒドロコレステロール還元酵素をコードする他の相同遺伝子を容易に単離することが可能であろう。当業者は、特に、デルタ−5,7−ステロール−デルタ−7−還元酵素を有するタンパク質をコードするcDNAを単離するためのクローニング方法を記載する、特許EP727 489号の実施例1に記載されているクローニング方法を参照してもよい。当業者は、特に、特許EP 727 489号の実施例1にも記載されている活性アッセイを用いて、対応するタンパク質の7−デヒドロコレステロール還元酵素活性を容易に決定してもよい。
【0031】
本発明に従う真菌界の生物中での7−デヒドロコレステロール還元酵素の発現は、当業者に公知の任意の手段によって取得することが可能である。これは、特に、当業者に公知の通常の規則に従って、転写プロモーター(好ましくは、相同的な転写プロモーター)、7−デヒドロコレステロール還元酵素をコードするオープンリーディングフレーム及び適切な転写ターミネーターからなる発現カセットを含む構築物によって生物を形質転換することを含んでもよい。相同的プロモーターとしては、一般に、異種タンパク質の十分且つ機能的な発現を可能にするのに適したプロモーターが使用されるであろう。プロモーターは、例えば、PGKプロモーター、ADHプロモーター、CYC1プロモーター、GAL10CYC1プロモーター、TDH3プロモーター又はTPIプロモーターであってもよい。ターミネーターは、例えば、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)遺伝子のターミネーターであってもよい。前記発現カセットは、1若しくは複数のコピーの形態で、宿主の核若しくはミトコンドリアゲノム中に組み込むことが可能であり、又は、酵母人工染色体(YAC)タイプの人工構造によって担持され、若しくは、プラスミドなどのエピソーム遺伝因子によって担持されることが可能である。この種の発現を実施するために、例えば、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolitica)、クルイベロミケス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)タイプの酵母を使用することが可能である。
【0032】
好ましくは、発現される7−デヒドロコレステロール還元酵素は、植物アラビドプシス・サリアナの酵素である(酵母サッカロミケス・セレビシアエ中で本酵素を発現する方法の例は、特許727 489号に記載されている。)。しかしながら、これは、同じ酵素活性を示す、相同的又は非相同的な、天然又は人工の任意の酵素であってもよい。
【0033】
3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素(DHCR24又は24−デヒドロコレステロール還元酵素とも称される。)は、天然には、デスモステロール(コレスタ−5,24−ジエノール)の還元又は側鎖上の24−25位に二重結合を有するラノステロール誘導体(例えば、14−デスメチル−ラノステロール、ジモステロール又はコレスタ−7,24−ジエノール)の還元を触媒し、この還元は、特に、ヒトでのコレステロールの生合成に必要である(HR. Waterham et al.,2001)。この酵素は、本文書の残りの部分において、デルタ24−(25)ステロール還元酵素、デルタ24ステロール還元酵素又はΔ24−還元酵素とも称されるであろう。
【0034】
3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素をコードする遺伝子は、ヒトで初めて単離され、対応する遺伝子の単離及び酵母サッカロミケス・セレビシアエ中での本酵素の発現は、刊行物「HR. Waterham et al.,2001」に記載されている。この遺伝子及びタンパク質の配列は、以下のGenBank受託番号:NM_014762及びNP_055577で入手可能である。
【0035】
本遺伝子の相同体の一定数は、他の種に記載されている。それらは、例えば、マウス(ムス・ムスカラス(Mus musculus))での相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号NM_053272で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号NP_444502で入手可能である。)。相同体が、寄生虫シーノラブディティス・エレガンス中に記載されており、特に、Genbank参照番号AF026214の相補的DNAが記載されている。相同的配列は、ワタ、ゴッシピウム・ヒルスツム(Gossypium hirsutum)(Genbank参照番号AAM47602.1)、コメ、オリザ・サティバ(Orysa sativa)(Genbank参照番号AAP53615)又はマメ、ピサム・サティバム(Pisum sativum)(Genbank参照番号AAK15493)などの植物中にも記載されている。
【0036】
当業者であれば、他の生物中に、3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素をコードする他の相同遺伝子を容易に単離することが可能であろう。当業者は、特に、刊行物「HR. Waterham et al.,2001」に記載されているクローニング方法を参照してもよい。当業者は、特に刊行物(Waterham et al.,2001)にも記載されている活性アッセイを用いて、対応するタンパク質の3β−デヒドロキシステロールΔ24−還元酵素活性を容易に決定することも可能であろう。
【0037】
本発明に従う、真菌界の生物中での3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素の発現は、当業者に公知の任意の手段によって取得することが可能である。これは、特に、7−デヒドロコレステロール還元酵素の発現に関して上述されている手段を含んでもよい。
【0038】
好ましくは、発現された3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素は、ヒト酵素である。対応する遺伝子の単離及び酵母サッカロミケス・セレビシアエ中での本酵素の発現の例は、刊行物「HR.Waterham et al.,2001」に記載されている。しかしながら、これは、同じ酵素活性を示す、相同的又は非相同的な、天然又は人工の任意の酵素であってもよい。
【0039】
有利に、本発明の真菌界の生物は、7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素を発現し、ステロール24−C−メチル転移酵素の不活化も示す。
【0040】
ステロール24−C−メチル転移酵素は、国際酵素分類で番号EC−2.1.1.41を有する。ステロール24−C−メチル転移酵素は、ERG6p、デルタ(24)−メチル転移酵素、デルタ(24)−ステロールメチル転移酵素、ジモステロール−24−メチル転移酵素、S−アデノシル−4−メチオニン:ステロールデルタ(24)−メチル転移酵素、SMT1、24−ステロールC−メチル転移酵素、S−アデノシルL−メチオニン:デルタ(24(23))−ステロールメチル転移酵素又はフィトステロールメチル転移酵素とも称される。この酵素は、天然では、ジモステロールのC−24メチル化を触媒し、フェコステロールの形成をもたらす。
【0041】
ステロール24−C−メチル転移酵素をコードする遺伝子は、酵母サッカロミケス・セレビシアエではErg6と命名された。該遺伝子の配列は、以下のGenBank受託番号:NC_001145で入手可能である。対応するタンパク質の配列は、以下のGenBank受託番号:NP_013706で入手可能である(Bowman et al.,1997)(Goffeau et al.,1996)。
【0042】
該遺伝子の相同体の一定数が、他の真菌に記載されている。これらは、例えば、シゾサッカロミケス・ポンベでの相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号Z99759で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号:CAB16897で入手可能である。)(Wood et al.,2002);ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)中の相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号:NCB24P7で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号:CAB97289で入手可能である。);カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)中の相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号:AF031941で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号:AAC26626で入手可能である。)(Jensen−Pergakes et al.,1998)である。ERG6に相同的な酵素をコードする遺伝子は、カンジダ・ルシタニアエ(Candida lusitaniae)中にも記載されており(Genbank参照番号はAA021936.1)、及びニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii)(Kaneshiro et al.,2002)又はクルベロミケス・ラクティス(Ozier−Kalogeropoulos et al.,1998)にも記載されている。
【0043】
当業者であれば、真菌界の生物中のErg6遺伝子に相同な他の遺伝子を容易に単離することが可能であろう。当業者は、特に、これらの遺伝子について破壊された酵母株の機能的相補を活性アッセイとして用いて、対応するタンパク質のステロール24−C−メチル転移酵素活性を容易に測定することも可能であろう。次いで、24位で分岐されているステロールの形成によって、特に、24−28位にメチレン基を有するエルゴスタ型のステロールの形成によって、相補性が証明される。ERG6型ステロール24−C−メチル転移酵素の生物学的活性の存在は、(McCammon et al.,1984)によって、又はTaylor及びParks(Taylor and Parks,1978)によって開発された技術を用いて、インビトロでも測定されるであろう。さらに、産生されたステロール及びERG6酵素に対する酵素は、(Methods in Enzymology Steroids and Isoprenoids Volume 111 part B,1985,“A comparison of Methods for the Identification of Sterols”,pp.3−37)において、Nesによって開発された技術に従って、ガスクロマトグラフィーによって分離されるであろう。
【0044】
7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素を発現し、且つステロール24−C−メチル転移酵素の不活化も示す本発明の真菌界の生物の株は、コレステロールを産生する。出願人は、実際、驚くべきことに、ステロール24−C−メチル転移酵素の不活化が、エルゴステロールへの生合成経路を上流で遮断し、真菌株によるコレステロールの産生を増加させることができることを決定することができた(本出願の実施例の部を参照)。
【0045】
7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24還元酵素は、上述のように発現される。
【0046】
ステロール24−C−メチル転移酵素の不活化は、当業者に公知である任意の手段によって実施することができる。ステロール24−C−メチル転移酵素の不活化は、特に、突然変異導入によって、ナンセンス変異、前記タンパク質をコードする遺伝子中のリーディングフレーム中に変化を引き起こす挿入又は欠失を導入することを含んでもよい。ステロール24−C−メチル転移酵素の不活化は、前記タンパク質をコードするメッセンジャーRNAに対して相補的なアンチセンスRNAの発現又はRNAi(小分子干渉RNA)として当業者に公知の遺伝子サイレンシング系及び関連する酵素系(自然の状態で、これらが宿主中に存在しない場合)を含んでもよい。突然変異導入は、コードされるタンパク質を不活性にするために、又はコードされるタンパク質の発現若しくはその翻訳を抑制するために、コード配列中又は非コード配列中に実施することが可能である。突然変異導入は、検討されている遺伝子中の1以上の塩基の抑制、置換、欠失及び/又は付加によって、又は遺伝子の不活化によって、インビトロ又はインシチュにおいて実施することが可能である。
【0047】
これは、特に、コード配列又はプロモーター配列(例えば、相同的プロモーター及び/又はターミネーター並びに異種のコーディング部分を有する発現カセット)中に外来DNAを導入することを含んでもよい。発現カセットは、選択マーカーの発現を有利に可能とする。発現のレベルを低減するために、遺伝子のプロモーターを修飾することも可能である。真菌の場合、不活化は、異種又は相同マーカー遺伝子のコーディング配列によって、コーディング配列を中断することによっても実施される。真菌から遺伝子を中断するための主な技術は、Johnstonら(2002)(Methods inEnzymology Volume 350 Edited by Christine Guthrie and Gerry Fink;“Gene Disruption”;M. Johnston, L.Riles,J.Hegemann,pp.290−315)による論文に記載されている。
【0048】
有利に、本発明の真菌界の生物は、7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素を発現し、C−22ステロールデサチュラーゼ酵素の不活化も示す。
【0049】
C−22ステロールデサチュラーゼ酵素は、ERG5p、Cyp61、シトクロムp−45061又はステロールデルタ22−デサチュラーゼとも称される。この酵素は、自然の状態では、C22の位置に二重結合を付加することによって、エルゴスタ−5,7,24(28)−トリエノールのエルゴスタ−5,7,22,24(28)−テトラエノールへの変換を触媒する(図2参照)。
【0050】
C−22ステロールデサチュラーゼ酵素をコードする遺伝子は、酵母サッカロミケス・セレビシアエではErg5と命名された。本遺伝子の配列は、以下のGenBank受託番号:U34636で入手可能である。対応するタンパク質の配列は、以下のGenBank受託番号:AAB06217(Skaggs et al.,1996)又はP54781(Bowman et al.,1997)で入手可能である。
【0051】
本遺伝子の相同体の一定数は、他の真菌に記載されている。それらは、例えば、シゾサッカロミケス・ポンベでの相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号Z98974で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号CAB11640で入手可能である。)(Wood et al.,2002);シンビオタフリナ・ブフネリ(Symbiotaphrina buchneri)中の相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号:AB086896で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号:BAC01142で入手可能である。)(Noda and Koizumi,2003);シンビオタフリナ・コチイ(Symbiotaphrina kochii)中の相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号:AB086890で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号:BAC01139で入手可能である。);(Noda and Koizumi,2003);カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)中の相同遺伝子(そのヌクレオチド配列はGenBank番号:AL033396で入手可能であり、そのタンパク質配列はGenBank番号:CAA21953で入手可能である。)(Tait et al.,1997)である。ERG5遺伝子は、Genbank参照番号AAO48601で、カンジダ・ルシタニアエ(Candida lusitaniae)中にも記載されている。
【0052】
当業者であれば、真菌界の生物中のErg5遺伝子に相同な他の遺伝子を容易に単離することが可能であろう。当業者は、特に「B.A.Skaggs et al.,1996」によって記載されている活性アッセイを用いて、対応するタンパク質のC−22ステロールデサチュラーゼ活性を容易に決定することも可能であろう。この活性は、erg5遺伝子が予め破壊されたS.セレビシアエ酵母の機能的相補によって実証してもよい。この相補は、相補された株において、エルゴスタ−5,7,22−トリエノールの存在によって確認されるであろう。C22ステロールデサチュラーゼ活性は、「Kelly and Baldwin et al.,JBC(1997)」によって記載された方法を用いて、酵母の溶解後に(Kelly et al.,1997)、インビトロで測定することも可能である。
【0053】
7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素を発現し、C−22ステロールデサチュラーゼ酵素の不活化も示す本発明の真菌界の生物の株は、コレステロールを産生する。出願人は、実際に、C−22ステロールデサチュラーゼ酵素の不活化が、コレステロールのコレスタ−5,22−ジエノールへの変換を有利に遮断し、コレステロールの産生の安定化を可能とすることを決定することができた(本出願の実施例の部を参照)。この遮断は、コレスタ−5,7−ジエノール(コレステロールの前駆体)の、コレスタ−5,7,22−トリエノール(コレスタ−5,22−ジエノールの前駆体)への変換のレベルでも起こる。驚くべきことに、C−22ステロールデサチュラーゼ酵素は、実際に、コレステロールを基質として受容し、コレステロールをコレスタ−5,22−ジエノールへと変換する。この寄生性反応は、出願人が測定可能であったように、C−22ステロールデサチュラーゼ酵素を不活化することによって除去することが可能である。
【0054】
7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24還元酵素の発現は、上述のように実施される。C−22ステロールデサチュラーゼ酵素の不活化は、当業者に公知である任意の手段によって実施することができる。それらは、特に、ステロール24−C−メチル転移酵素の不活化に関して上述されている方法であってもよい。
【0055】
有利に、本発明の真菌界の生物は、7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素を発現し、C−22ステロールデサチュラーゼ酵素の不活化及びステロール24−C−メチル転移酵素の不活化も示す。これらの菌株は、実際、2つの不活化の累積的な利点を示し、コレステロール産生菌株である。
【0056】
7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24還元酵素の発現並びにC−22ステロールデサチュラーゼの不活化及びステロール24−C−メチル転移酵素の不活化は、上述のように実施される。
【0057】
一実施形態において、コレステロールは、本発明の生物の株によって産生される総ステロール(特に、合成中間体)の20%超、好ましくは35%超、最も好ましくは50%以上の割合で、本発明の生物の株中に存在する。
【0058】
好ましくは、本発明の真菌界の生物は子嚢菌門から選択され、より好ましくは、それらはサッカロミケス菌(Saccharomycotina)亜門から選択され、さらに好ましくは、それらはサッカロミケス菌(Saccharomycetes)綱又はシゾサッカロミケス菌(Schizosaccharomycetes)綱から選択され、さらに好ましくは、それらはサッカロミケス(Saccharomycetales)目又はシゾサッカロミケス(Shizosaccharomycetales)目から選択され、さらに好ましくは、それらはサッカロミケス(Saccharomycetaceae)科又はシゾサッカロミケス(Schizosaccharomycetaceae)科から選択され、さらに好ましくは、それらはサッカロミケス(Saccharomyces)属又はシゾサッカロミケス(Schizosaccharomyces)属から選択され、極めて好ましくは、本発明の真菌界の生物はサッカロミケス・セレビシアエ又はシゾサッカロミケス・ポンベに属する。
【0059】
本発明は、
−上記真菌界の生物が培養される工程と、
−該生物によって産生されたコレステロールが抽出される工程と、
を含む、非動物性起源のコレステロールを製造する方法にも関する。
【0060】
抽出は、コレステロールのための溶媒、好ましくは非水混和性溶媒による真菌の処理に基づく。この処理は、好ましくは、細胞の機械的破砕のあらゆる方法と組み合わせることが可能である。より好ましくは、溶媒での抽出の前に、特に、脂肪酸などの他の細胞成分に結合されている可能性があるコレステロールを放出することを目的とした鹸化混合物で、真菌が処理されるであろう。この鹸化混合物は、塩基、例えば、アンモニア水、水の中に、又は、より好ましくは、例えば、メタノール若しくはエタノールなどの水混和性有機溶媒中若しくは溶媒−水混合物中に溶解された水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムからなってもよい。鹸化は、60ないし120℃の温度に加熱せずに、又は、好ましくは60ないし120℃の温度に加熱しながら、大気圧又は低圧で実施してもよい。非水混和性溶媒による抽出は、疎水性樹脂上での固相抽出と置き換えてもよい。ステロール抽出法は、L.Parksら(1985)(Methods in Enzymology 111 Edited by L Rilling, L. Parks, C. Bottema, R. Rodriguez and Thomas Lewis pp333−339)によって記載されている。
【0061】
このようにして得られた未精製コレステロールは、当業者に公知の任意の方法、特に、「Boselli E, Velazco V, Caboni Mf and Lercker G J,Chromatogr A. 2001 May 11;917(l−2):239−44」によって記載されている方法によって精製してもよい。
【0062】
羊毛からコレステロールを抽出するために記載されている方法など、他の方法を使用してもよい。当業者は、特に、米国特許2,688,623号若しくは米国特許2,650,929号又は英国特許GB690879号、GB646227号若しくはGB613778号に記載されている方法を参照してもよい。
【0063】
本発明の別の側面は、コレステロール又はその代謝中間体の1つ又はステロールの標識された混合物を得るための、本発明の株の使用に関する。「コレステロールの代謝中間体」という用語は、特に、図2に明記されているステロールを意味するものとする。それらは、特に、コレスタ−8,24(25)−ジエノール、コレスタ−7,24(25)−ジエノール、コレスタ−5,7,24(25)−トリエノール、コレスタ−5,24(25)−ジエノール又はコレスタ−5,22−ジエノールであってもよい。
【0064】
標識されたコレステロールを得るための原理は、図10に記載されている。この操作では、まず、完全に標識された基質上で真菌株を増殖させる。次いで、非標識基質上で細胞を培養する。このため、炭素源の同位体標識の変化が存在する。代謝中間体の新規合成、次いで、コレステロールを含むステロールの合成が行われ、標識の漸次の変化を含む。従って、これは、複雑であるが実験的に完全に測定可能なプロファイルであり、同時に、以下に依存する特有の同位体シグナチャを呈するプロファイルを伴う。
【0065】
−1)標識プロトコール、並びに、特に、標識及び非標識基質を用いた培養時間及び条件、
−2)使用した株の正確な遺伝的構造、
−3)培養を停止する正確な時間。
【0066】
(例えば、細胞溶解によって、又は細胞毒性若しくは細胞分裂停止抗真菌産物の致死未満濃度の存在下で培養を停止することによって)一旦、培養が停止されたら、上述されているように、標識されたコレステロール又はその代謝中間体の1つ又はステロールの標識された混合物を抽出及び精製する。
【0067】
標識されたコレステロールの、又はその代謝中間体の1つの、又はステロールの標識された混合物の同位体プロファイルは、幾つかの特有の性質を有している。
【0068】
−1)溶媒条件、使用される株及び選択されるステロールを調整することによって、所望に応じて調節することが可能である。従って、特有の標識登録を作製することが可能である。
【0069】
−2)「組み合わせ可能」である、すなわち、それら自体調節可能である同位体プロファイルで標識された幾つかの特有のステロールに対応するに対応する幾つかの同位体サインは、「分子アルファベット」を形成するために組み合わせることが可能である。
【0070】
−3)再現性があり、実験的に測定することが容易。
【0071】
−4)単離が容易で、安定、無色及び無臭、不揮発性及び無毒であり、食物、医薬品、添加物又はヒトによって同化されることが可能な他の製品中に取り込まれることができる分子追跡混合物に相当する。
【0072】
−5)特異的な組換え株並びに極めて正確な標識、培養及び抽出条件を有することなしに改ざんすることができない。さらに、同位体サインが明らかとなっても、同位体サインの作製を可能とするパラメータへ遡ることはできない。
【0073】
このため、本発明を使用することによって、改ざんが不可能で、且つあらゆる種類の製品(消耗品を含む。)中に取り込むことが可能な一般的用途のための「同位体アルファベット」を容易に取得することが可能である。標識プロファイルとステロールの様々な種類の双方を使用することによって、このようなアルファベットから構成されることが可能な実質的に無限の数の「同位体ワード」が存在する。従って、多くの多様な製品中にこのようなサインを取り込むことは、例えば、一旦、知られてしまえば再現が可能となるDNAサインとは異なり偽造が不可能な特有の標識方法を構成する。さらに、サインは、例えば、レーザーイオン化後の質量分析(MALDI−TOFなど)によって、非破壊的に読み取ることが可能である。
【0074】
本発明の真菌株を培養するための非標識炭素源に代えて、13C標識基質を使用することによって、(13C炭素を少なくとも95%含む)極めて高度に標識されたステロール、特に、コレステロールを合成することが可能となる。同じアプローチによって、14C放射性ステロール及びコレステロールの調製も可能である。この方法は、例えばRIAアッセイ用に、13C−標識又は14C−標識されたステロイドを生産するために、ステロイド、特にヒドロコルチゾン(特許出願WO02/061109号を参照)を産生する酵母株に取り入れることも可能である。
【0075】
以下の実施例を用いて本発明を説明するが、以下の実施例は、非限定的な例示と解釈しなければならない。
【0076】
使用された分子生物学の技術は、Ausubelらによって記載されており、酵母の取り扱いの幾つかは、Adamsら(Adams and Holm,1996)によって記載されている。
【実施例1】
【0077】
erg6遺伝子中に中断を有するS.serevisiae酵母株の構築(WGIF01株):
ERG6遺伝子がTRP1遺伝子で中断されたS.セレビシアエ酵母株WGIF01は、ERG6遺伝子に対して相同な末端に隣接した機能的TRP1遺伝子を有するPCR産物によってBM64株を形質転換することによって得られた。
【0078】
(遺伝子型MATa;ura3−52;trp1Δ2;leu2−3_112;his3−11;ade2−1;can1−100の)BM64株は、TRP1遺伝子の完全な欠失によるS.セレビシアエ酵母株W303 MATαの誘導物である。BMA64株及びW303 MATα株は、Baudin−Baillieuらによる刊行物に記載されている(Baudin−Baillieu et al.,1997)。
【0079】
TRP1遺伝子を単離するために、Takara社(PanVera LLC 501 Charmany Drive,Madison,WI 53719 USA)によって供給されているZ−TaqI(DNA依存性DNAポリメラーゼ)を用いて、プラスミドpFL44のTRP1遺伝子(Bonneaud et al.,1991)を増幅した。使用したプライマーの対によって、DNAポリメラーゼを用いて、ERG6遺伝子に対応する配列が隣接したTRP1遺伝子を増幅することが可能となる。
【0080】
これらのプライマーの配列は、以下のとおりである。
【0081】
【化1】

【0082】
予想されたサイズに対応する断片の電気溶出(electroelution)によって、このようにして得られたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)産物を精製し、(Gietz et al.,1995)によって記載されているとおりに、塩化リチウム技術によってBM64株を形質転換するために使用する。
【0083】
形質転換後、トリプトファンを含有しない最小培地上に、処理した酵母を播種する(Gietz et al.,1995)。このようにして、トリプトファンに対して原栄養性である形質転換された41個のBM64コロニーが得られる。次いで、ナイスタチンに対する感受性、TRP1遺伝子の挿入のゲノム構造及びコロニーが産生する総ステロールのガスクロマトグラフィーによるプロファイルという3つの特性について、コロニーを調べる。
【0084】
このために、それぞれ、ナイスタチン10、20又は50μg/mLを含有する最小培地上に41個のコロニーを移し、約10個のコロニーが、ナイスタチン50μg/mLの用量を含有する培地上で増殖させることが可能である。それらの遺伝子構造及びそれらのステロール組成を確認するために、これらの耐性コロニーを選択する。
【0085】
ERG6遺伝子中へのTRP1遺伝子の挿入は、機能的TRP1遺伝子と破壊されたERG6間の連結部を包含するオリゴヌクレオチドの対を使用するPCRによって確認する。オリゴヌクレオチドのこの対は、以下の通りである。OERG6trp3:AGGGCCGAACAAAGCCCCGATCTTC(配列番号3)及びOERG6trp4:GGCAAACCGAGGAACTCTTGG(配列番号4)。
【0086】
幾つかの株は、予想されたPCRプロファイル、すなわち、ERG6中へのTRP1挿入について予想されるサイズに対応する800塩基対の断片を示す。
【0087】
これらの株でERG6遺伝子が実際に不活化されていることを確認する目的で、ガスクロマトグラフィー及び高圧液体クロマトグラフィーによるこれらの株のステロール組成の分析を行った(Duport et al.,2003;Szczebara et al.,2003)。
【0088】
これらの分析によって、エルゴステロール合成の不存在及び破壊された株中の生合成経路の予測された破壊と合致した異常なステロールの蓄積が確認される。1つの株が、より具体的に選択され、WGIF01と名付けられた。
【実施例2】
【0089】
CA10、CA14及びCA23株の構築。
【0090】
(遺伝子型:MATα、rho、GAL2、ura3−52、trp1−Δ63、his3−Δ200、erg5::HYGRO、ade2::GAL10/CYC1::Δ7還元酵素::PGK1、LEU2::GAL10/CYC1::matADR::PGK1の)CA10株、(遺伝子型:MATα、rho、GAL2、ura3−52、trp1−Δ63、his3−Δ200、erg5::HYGRO、atf2::G418、ade2::GAL10/CYC1::Δ7還元酵素::PGK1、LEU2::GAL10/CYC1::matADR::PGK1)のCA14株及び(遺伝子型:MATα、rho、GAL2、ura3−52、trp1−Δ63、his3−Δ200、erg5::HYGRO、are1::G418、are2::HIS3、ade2::GAL10/CYC1::Δ7還元酵素::PGK1、LEU2::GAL10/CYC1::matADR::PGK1の)CA23株並びにこれらの構築は、参考文献Duportらに記載されており、これらの株の構築に関するその技術内容は、参照により、本出願中に組み込まれる。
【0091】
これらの株は、それらの膜内に、非天然ステロール(欧州特許出願EP 0727 489)及び特にエルゴスタ−5−エノール(キャンペステロール)を産生し、含有する。
【0092】
これら3つの株は、ハイグロマイシン耐性遺伝子のそのコード配列中に挿入するために非機能的であるERG5遺伝子の産物を発現しない。さらに、これらの株は、植物Δ7還元酵素をコードするcDNAを発現する(欧州特許出願EP 0727 489は、特に、植物アラビドプシス・サリアナのΔ7還元酵素のクローニングを記載しており、参照により、本出願中に組み込まれる。この配列のGenBank受託番号は、ATU49398である。)。
【0093】
CA14株は、ATF2遺伝子の破壊によって、CA10株から得られる。この遺伝子の産物は、(特許出願WO99/40203中に記載されているように)プレグネノロンの3位にアセチル化をもたらす。
【0094】
CA23株は、ARE1及びARE2遺伝子の欠失によって、CA10株から得られる株である。2つのタンパク質Are1p及びAre2pは、哺乳動物中でのコレステロールのエステル化に必要とされる酵素(ACAT)に相同的であるので、これら2つのタンパク質は、エルゴステロールのエステル化にとって必要であり(Sturley,2000)、コレステロールのエステル化におそらく必要である。
【実施例3】
【0095】
ヒト起源のΔ24−25還元酵素を発現するためのプラスミドの構築(プラスミドpYES_Delta24)
本プラスミドの構築は、Waterham et al.,2001によって記載された。この構築では、デルタ24ステロール還元酵素をコードするcDNAを、ベクターpYES2(Invitrogen SARL,Cergy Pontoise,France)中で、pGAL1プロモーターの調節下及びtCYC1ターミネーターの調節下に置く。このプラスミドは、E.コリ/Sセレビシアエシャトルプラスミドであり、2ミクロンの複製起点及びURA3遺伝子を含有しており、酵母中での該プラスミドの複製を可能とし、このプラスミドで形質転換された酵母の選択を容易にする。
【0096】
さらに、GAL1プロモーターは、ガラクトース誘導性である。
【実施例4】
【0097】
Δ7−還元酵素を発現するA.サリアナを発現するプラスミドpAG1の構築
単一コピーベクター上で、A.サリアナのデルタ7−還元酵素の発現のために特別にプラスミドを構築した。この構築のために、プラスミドpAM1を使用した。このプラスミド(その構築は、PCT出願WO02/061109号に記載されている。(この出願の実施例9.bを参照。この出願は、参照により、本出願中に組み込まれる。)は、自己複製配列と動原体(ARS CEN)を基礎としたE.コリ/S.セレビシアエシャトルプラスミドである。選択マーカーは、ADE2遺伝子である。このプラスミドは適合性であり、従って、2ミクロン複製起点に基づくプラスミドと同時に複製することが可能である。このプラスミドは、特に、上記PCT出願に記載されているように、発現カセットをクローニングするための唯一のNotI部位を有する。
【0098】
CA10株に由来するA.サリアナのデルタ7−還元酵素発現カセットをクローニングするために、この部位を使用した。実際、この発現カセットは極めて有効であり、同じくERG5が破壊されているCA10が、主なステロールとしてカンペステロール(エルゴスタ−5−エノール)を産生することを可能とする(Duport et al.,1998)。デルタ7−還元酵素遺伝子を含有するCA10株のゲノムDNA断片は、以下のプライマーを用いて増幅される。
【0099】
【化2】

【0100】
Adamsら(Adams and Holm,1996)によって記載されているように、迅速フェノール/クロロホルム抽出技術によって調製されたCA10株のゲノムDNAに対して増幅を実施する。
【0101】
プライマーOSA72及びOSA77を用いた増幅のためのマトリックスとして、CA10ゲノムDNA50ngを使用する。Taq DNAポリメラーゼ及び酵素的条件は、Stratagene社から得られる。増幅条件は、以下のとおりであった。95℃で5分間の初期変性、その後、続いて、95℃での30秒間の変性、50℃での30秒間のハイブリダイゼーション、次いで、72℃で1分間の伸長からなる30サイクルを実施した。72℃での10分間の最終伸長によって、反応を停止する。
【0102】
次いで、NotI酵素を用いてPCR断片を消化し、アガロースゲル上で精製した後、プラスミドpAM1の唯一のNotI部位中に、慣用の方法でクローニングする。このようにして得られた化合物は、pAG1と名付けられた。
【0103】
これは、A.タリアナのデルタ7−還元酵素を酵母中で発現するための単一コピーベクターであり、デルタ7−還元酵素遺伝子がGAL10/CYC1プロモーターの調節下に配置されている(Lecain et al.,1996)。
【実施例5】
【0104】
分析のための、酵母中の遊離ステロール及びエステル化されたステロールの抽出:
1)酵母中の遊離ステロール及びエステル化されたステロールを抽出するための条件(手順1)
a)遊離ステロールを抽出するための条件:
ガラスチューブ中で、脱イオン化及びろ過された水500μLにより細胞ペレットを2回洗浄する。
【0105】
次いで、チューブ中の液体150μLに対応する、0.5mmのガラスビーズを含有する水500μL中に細胞を再懸濁する。
【0106】
ボルテックス上で、10分間激しく撹拌しながら、1,2−ジクロロエタン2mLで抽出を2回行う。最初の抽出後、2つの相を分離するために、1500gで5分間、細胞、ガラスビーズ及び溶媒の混合物を遠心する。
【0107】
2つの連続する抽出から得られた2つの有機画分を合わせて、窒素流の下で、数時間乾燥させる。高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)によって分析するために、アセトニトリル100μL中にステロール抽出物を懸濁し(Szczebara et al.,2003)、又はガスクロマトグラフィー(GC)分析のためにヘキサン100μL中に懸濁する(Duport et al.,2003)。
【0108】
b)総ステロールを抽出するための条件:エステル化されたステロールの鹸化及び抽出、定性的分析手順1:
精製された水500μL中に、細胞ペレットを再懸濁する。メタノール中の10%水酸化カリウムKOH2mLを、この懸濁液に添加する。閉鎖されたチューブ中、60℃で1時間、混合物を加熱する。インキュベーション後、チューブが周囲温度に戻ったら、ヘキサン2mLで、混合物を3回抽出する。各抽出間で、1500gでの5分間の遠心によって、2つの相を分離する。各抽出後、新しいチューブ中に有機相を移し、次いで、3つの有機相を合わせた後、窒素流の下で乾燥させる。
【0109】
高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)によって分析するために、100%アセトニトリル100μL中にステロール残留物を再懸濁し(Szczebara et al.,2003)、又はガスクロマトグラフィー(GC)分析のためにヘキサン100μL中に再懸濁する(Duport et al.,2003)。
【0110】
2)定性分析のために、酵母中の遊離ステロール及びエステル化されたステロールを抽出するための条件(手順2)
凍結乾燥された細胞500mgを得るために、炭素源として2%グルコースを加えた富栄養培地(バクトペプトン10g/L及び酵母抽出物10g/L)中で、前記株を培養する。KOH1g及びピロガロール少量を含有するメタノール3mL(100%)中に、これらの乾燥された細胞を採取し、次いで、90℃で45分間、混合物をインキュベートする。周囲温度まで戻った後、ヘキサン5mLでステロールを抽出する。有機相を、同じ容量を有する3つの試料に分け、空気流の下で乾燥させる。ガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフィー/質量分析GC/MSによる分析のために、抽出されたステロールの試料のうち2つをヘキサン100μL中に採取し、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)研究のために、3つ目の試料をメタノール150μL中に採取する。
【実施例6】
【0111】
ガスクロマトグラフィー(GC)による、酵母中の遊離ステロール及びエステル化されたステロールの分析:
1) FID(炎イオン化検出)を用いたガスクロマトグラフィー
手順1(実施例5 1) a)及びb)参照)に従って、ヘキサン中に懸濁された(遊離又は総)ステロール抽出物を調製する。ステロール混合物(一般的には、10ないし50ng/μLの濃度のコレステロール)に、注入対照を添加する。
【0112】
次いで、以下の条件下で、ガスクロマトグラフィー装置上に試料1から3μLまでを注入する。Alltech SE30タイプのカラム(カラム参照:30m×0.32mm IDX0.25μm)上に、1ないし3μLを注入した。気体ベクターはヘリウムである。分割比は、50と80の間である。カラムヘッドの圧力は30psiである。インジェクターは280℃に設定する。カラムの初期温度は、0.5分間、130℃である。温度は、40℃/分の速度で230℃まで増加し、次いで、3℃/分の速度で230℃から280℃まで増加する。次いで、カラムを290℃に維持する。検出器の温度は310℃である。
【0113】
2)質量分析を連結した、FID(炎イオン化検出)を用いたガスクロマトグラフィー(GC)(GC/MS)
手順2に従って、ヘキサン中に懸濁された総ステロール抽出物を調製する。使用したGCには、長さ30メートル及び直径0.25mmである慣用のDB5カラムとともに慣用の「スプリット/スプリットレス」注入口が装着されている。
【0114】
注入は、2mL/分の流速で、ヘリウムを気体ベクターとして、230℃で実施する。カラムは、4段階で、130から290℃になる。カラムは、注入前には130℃に維持され、次いで、40℃/分の傾斜で230℃まで増加し、次いで、3℃/分の傾斜で230℃から280℃まで、次いで、30℃/分の傾斜で280℃から290℃まで増加する。カラムは、5分間、290℃を保つ。
【0115】
次いで、ガスクロマトグラフィーカラムの排出口で、Perkin ElmerのTurbo Massタイプの装置のイオン化チャンバーなどのイオン化チャンバー中において、スプレー質量分析を用いて分子を分析する。高エネルギーの電子ビームによって、分子を断片化する。次いで、四重極フィルター上で、様々な断片を分離した後、イオン検出器上で検出する。M+イオンの断片化の全産物の質量を含む質量スペクトルは、イオン電流グラフ上に位置する各質量に対応する。カラム上で所定の保持時間で得られたこの質量スペクトルを断片化された産物のライブラリーと比較し、Quailとkellyによってステロールについて記載されている断片化された産物のライブラリーとも比較する(Methods in Molecular Biology Vol.53 Yeast Protocols Edited by Evans; M, Quail and S, Kelly “The Extraction and Analysis of Sterols from Yeast”pp 123−131 (1996))。
【0116】
このようにして、WGIF01株中でのERG6遺伝子の検出の効果を実証し、特に、エルゴスタ−8,24(28)−ジエノールの不存在及び24(25)位に二重結合を有するコレスタ型のステロールの存在を実証することができた。
【実施例7】
【0117】
UV検出又は質量分析による検出を用いた高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)による、酵母中の遊離ステロール及びエステル化されたステロールの分析
1)UV検出HPLCによる分析:
(アセトニトリル又はメタノール中に懸濁され、手順1又は2(実施例5参照)に従って調製された)ステロール抽出物10ないし30μLを、X terra RP18タイプ4.6×100mmカラム(Waters,Milford,MA01757 USA)上に注入する。
【0118】
分離は、0.02%TFA(トリフルオロ酢酸)(緩衝液A)及び純粋なアセトニトリル(緩衝液B)を含有する水から構成されるグラジエントで、分離を行う。分析の間、カラムは60℃に維持される。
【0119】
使用したHPLC装置は、「Waters 600E System Controller」タイプ(Waters,Milford,MA01757 USA)のHPLC装置である。UV検出は、206nmから350nmまでの波長をカバーするダイオードアレイ検出器で実施した。緩衝液A(アセトニトリル)20%(v/v)と緩衝液B(0.02%TFA(トリフルオロ酢酸)を含有する水)80%とを含有する緩衝液でカラムを平衡化した。緩衝液A50%及び緩衝液Bを含有する溶液から線形グラジエントが形成される。10分後に、溶出緩衝液の組成は、緩衝液Aが25%、緩衝液Bが75%である。次いで、30分の時点で、グラジエントが緩衝液B 100%の値に達するように、新たな線形グラジエントが適用される。カラムを清浄にするために、この値を5分間維持する。
【0120】
2)HPLCによる分析、質量分析による検出(HPLC/MS):
質量分析による分析の場合、分析の間、試料を30℃に維持し、カラムを60℃に維持する。使用したHPLC装置は、「Waters MicroMass ZQ」質量検出器に連結された「Alliance HT Waters 2790」タイプのHPLC装置である。先述の検出方法とは異なり、溶出緩衝液AはTFAを全く含有しないが、2つの緩衝液A及びBは、ギ酸0.01%(v/v)を含有する。
【0121】
緩衝液A’(ギ酸0.01%(v/v)を含有する水)80%及び緩衝液B’(ギ酸0.01%(v/v)を含有するアセトニトリル)20%を含有する緩衝液でカラムを平衡化した。
【0122】
注入は、これら2つの緩衝液を50%含有する緩衝液から始まる。緩衝液A’50%及び緩衝液B’50%を含有する溶液から、2つの傾斜を有する線形グラジエントが形成される。
【0123】
10分後に、溶出緩衝液の組成は、緩衝液A’が25%、緩衝液B’が75%である。次いで、グラジエントの傾斜は、25分間の分析後に、緩衝液A’12.5%及び緩衝液B’87.5%に達し、30分で緩衝液B 100%に達するように修正される。カラムを再生するために、この値を5分間維持する。
【0124】
正の電気スプレーイオン化スキャニングのために、「Waters MicroMass ZQ」質量検出器を設定する。m/zの値は、295と450の間にある。スキャニングのために「連続」収集モードを選択する。さらに、分析すべきステロールに対する天然の同位体存在量によって、全ての予測される質量で、「SIR」モードでのシグナル抽出を平行して行う。m/zが1単位異なる分子からの妨害なしに完全に分割できるように、検出器を設定する。スキャニングに相当する総収集時間及び全てのSIRの収集のための総時間が2秒未満に保たれるように、全ての収集をパラメーター化する。
【実施例8】
【0125】
13C標識あり又はなしのステロール含量を分析するための酵母株の培養:
通常のD−グルコース又はD−グルコース−U−13の2%を含有するKappeli培地(Kappeli et al.,1985)50mLの容量中で、分析すべき株を培養した(標識実験については、図10を参照)。
【0126】
出発培地の光学密度は、600nmで0.1である。200rpmで振盪しながら、30℃の温度で72時間、この培地をインキュベートする。
【0127】
次いで、600gで10分間の培地の遠心によって細胞を回収する。次いで、実施例5に記載されている分析技術によって、細胞ペレットを直接分析する(ガラクトースでの誘導を必要としない研究の場合)。
【0128】
しかしながら、デルタ7−還元酵素及びデルタ24−還元酵素の発現の誘導の速度論の研究の場合(プラスミドpYES_Delta24及び/又はpAG1で形質転換された株)、2%ガラクトース(13C炭素で標識されていない)を含有する新鮮なKappeli培地50mL中にペレットを再懸濁する。
【0129】
200rpmで振盪しながら、30℃の温度で、この培地をインキュベートする。
【0130】
培養の0時間、2時間、4時間、8時間及び24時間後に、培地10mLを回収する。
【0131】
800gで10分間、これらの培養試料を遠心し、細胞ペレットを凍結し、実施例5に記載されている方法によるステロール抽出の前に−20℃で保存する。
【実施例9】
【0132】
分析された株の中に存在するステロールの同定:
ステロールの同定は、以下の原理の組み合わせに基づいている。
【0133】
−カンペステロール(エルゴスタ−5−エノール)、エルゴステロール(エルゴスタ−5,7,22−トリエノール)、コレステロール(コレスタ−5−エノール)、デスモステロール(コレスタ−5,24−ジエノール)、コレスタ−5,22−ジエノール及びジモステロール(コレスタ−8,24−ジエノール)の場合に、GC、HPLC、GC/MS及びHPLC/MSによって、真正標準と挙動を比較。
【0134】
−HPLC及びダイオードアレイUV検出による吸収スペクトルの分析(実施例7−1参照):
この方法によって、スペクトルに基づいて、ステロールの5つのクラスを明確に同定することが可能となる。1)クラスSA1:非共役ジエン系、2)クラスSA2:5,7−ジエン系の存在;3)クラスSA3:22,24(25)−ジエン系の存在;4)クラスSA4:8,14−ジエン系の存在;5)クラスSA5:22,24(28)−ジエン系の存在。クラスSA3及びSA5は、構造的な理由のため、共存することができない。クラスSA2とSA4は、生合成的な理由のために、共存することができず、クラスSA2は、クラスSA1、SA3、SA5の構造単位と組み合わされて、追加の複合スペクトルを形成し得る。
【0135】
−不飽和の各種類に、及びエルゴスタ又はコレスタ型の骨格の存在に伴う保持時間のシフトが概ね加算的であることに基づいて、GC及びHPLC中で保持時間を分析する。この基準は絶対的なものではないので、同定の補助として、及び曖昧さを取り除くために使用されるが、単独で使用した場合には、誤りが生じる危険性がある。従って、他の基準と組み合わせて使用されるにすぎない。
【0136】
−スペクトルライブラリーと比較することが可能な分子質量及び断片化プロファイルを与える、GC/MS分析(実施例6−2参照)。
【0137】
−3−ヒドロキシステロールの場合には、分子質量−17(プロトン化(+1)及び水分子の喪失(−18))に主要なシグナルを与えるHPLC/電気スプレー−MS分析(実施例7−2参照)
−生合成の様々な点で破壊された様々な参照酵母株のステロール組成の、上記全ての系を用いた分析
−様々な生合成酵素を用いた相補中のステロール組成の変動の分析及びこの相補の誘導中におけるこの相補の速度論の分析
−炭素−13同位体を有する様々なステロールの標識のためのプロファイルの分析。
【0138】
−ある保持時間でHPLCによって分離されたステロールのUVスペクトルの分析。2つの5,7−共役二重結合は、265と280nmの間に2つの吸収ピークを有する典型的なスペクトルを示すのに対して、2つの22,24−共役二重結合は、235nmに吸収ピークを示す。最後の8,14−共役、二重結合は、245nmの吸収ピークによって同定することが可能である。
【実施例10】
【0139】
BMA64株の中に存在するステロールの同定:
ステロールの定量的及び比較的分析のために、D−グルコース2%を含有するKappeli培地50mLの容量中でBMA64株を培養する。
【0140】
出発培養物の光学密度は、600nmで0.1である。200rpmで振盪しながら、30℃の温度で72時間、この培養物をインキュベートする。
【0141】
次いで、600gで10分間、培地を遠心することによって細胞を回収し、実施例5に示されている技術によって細胞ペレットを分析する。記載されている様々な分析によって、この株によって産生されるステロールを同定することが可能となる。
【0142】
この株は、その遊離ステロールの80%超を、エルゴステロール(エルゴスタ−5,7,22−トリエノール)の形態で蓄積することがこのようにして決定された(図8参照)。他の微少な検出可能な2つのステロールがこの株によって産生される。これらは、エルゴスタ−5,7−ジエノール(ERG5遺伝子の産物に対する基質)(12%)及びジモステロール(エルゴスタ−8,24−ジエノール)(5%)である。コレステロールの痕跡は全く検出できない(この方法の検出の限界は、観察可能なステロールの約0.5%である。)。(総ステロールの分析においてのみ)少量のラノステロールも検出可能である。
【実施例11】
【0143】
WGIF01株の中に存在するステロールの同定:
ステロールの定量的及び比較的分析のために、D−グルコース2%を含有するKappeli培地(Kappeli et al.,1985)50mLの容量中でWGIF01株(実施例1参照)を培養した。
【0144】
出発培養物の光学密度は、600nmで0.1である。200rpmで振盪しながら、30℃の温度で72時間、この培養物をインキュベートする。
【0145】
次いで、600gで10分間、培地を遠心することによって細胞を回収し、実施例5に示されている技術によって細胞ペレットを分析する。記載されている様々な分析によって、この株によって産生されるステロールを同定することが可能となった。
【0146】
クロマトグラム中での、エルゴスタ−5,7,22−トリエノール(エルゴステロール)又はエルゴスタ−5,7−ジエノールの探索は、質量分析に連結されたHPLCでは否定的である(BMA64で得られた値の0.5%未満)。遊離ステロールに関しては、この株は、ERG6遺伝子の産物に対する基質である総ジモステロール(コレスタ−8,24−ジエノール)の50%、並びに、それぞれ、コレスタ−5,7,24−トリエノール及びコレスタ−5,7,22,24−テトラエノール(おそらくは、親株中でエルゴスタ−5,7−ジエノール及びエルゴスタ−5,7,22−トリエノールをもたらすものと同じ合成機序から生じる。)の30%及び20%を蓄積する(図3及び8参照)。ERG6p酵素(S−アデノシルメチオニンデルタ24ステロールC−メチル−転移酵素)は、コレスタ−8,24(25)−ジエノールをエルゴスタ−8,24(28)−ジエノールへと変換するので(図2参照)、このことは、生合成経路がerg6のレベルで遮断されていることを明確に示している。この蓄積は、WGIF01株がerg6遺伝子の機能的コピーを保有していないことを明確に示している。酵母中のエルゴステロールに対する正常な生合成経路、特に、ステロール8,7−イソメラーゼ、ステロール5−デサチュラーゼ及びステロールデルタ22−デサチュラーゼが、かなり残存している活性を有するコレスタ型基質を変換することが可能であることも、この結果は示している。
【実施例12】
【0147】
WGIF02株の構築及びこの株中に存在するステロールの同定:
Δ24−還元酵素発現カセットを有するプラスミドpYES2(pYES_Delta24、実施例3参照)によるWGIF01株の形質転換によって、WGIF02株を得た。ウラシルを欠く培地上でクローンを選択し、手順1を用いて、これらの形質転換体のステロールを分析することによって、Δ24−還元酵素cDNAの存在及び発現を確認する(実施例5−1参照)。
【0148】
WGIF01株とは異なるステロールプロファイルを有していたので、WGIF02と名付けられたクローンを選択した。さらに、さらなるステロールが、コレステロールの保持時間と類似する保持時間を有していた(図7参照)。ステロールの定量的及び比較的分析のために、D−グルコース2%を含有するKappeli培地(Kappeli et al.,1985)50mLの容量中にWGIF02株を培養する。
【0149】
出発培養物の光学密度は、600nmで0.1である。200rpmで振盪しながら、30℃の温度で72時間、この培養物をインキュベートする。
【0150】
次いで、600gで10分間、培地を遠心することによって細胞を回収し、実施例5に示されている技術によって細胞ペレットを分析する。記載されている様々な分析によって、この株によって産生されるステロールを同定することが可能となった。
【0151】
その質量、その保持時間及びその共役二重結合によって、コレスタ−5,7,22−トリエノールとして同定された新しいピーク(図2、3及び7)の出現を除いて、WGIF01株及びWGIR02株に対する2つのステロール抽出物プロファイルは類似している。この化合物の存在は、コレスタ−5,7,22,24(25)−テトラエノールの24(25)位中の二重結合に対する、24,25−ステロール還元酵素活性の存在が予想されることを示唆している。さらに、WGIF02株中へのコレスタ−5,7,22−トリエノールの出現とともに、コレスタ−5,7,24−トリエノールの量が減少している(図7及び8)。WGIF01株中では30%に相当し、WGIF02では僅かに12%に相当するコレスタ−5,7,24−トリエノールの変換によって、この酵素の活性が実証され、その差、すなわち18%は、WGIF02株中では、完全に、コレスタ−5,7,22−トリエノールの形態である。デルタ24−還元酵素によるコレスタ−5,7,24の変換の産物が、WGIF02中には存在しないコレスタ−5,7であり、従って、定量的にコレスタ−5,7,22へと変換される限りにおいて、これは予想外の結果である。これは、別の予想外の結果、すなわち、コレスタ−5,7がステロール22−デサチュラーゼに対する基質であるのに対して、WGIF01株に対するステロールプロファイルによれば、コレスタ−5,7,24は優れた基質でないということを示している。
【実施例13】
【0152】
WGIF03株の構築及びこの株中に存在するステロールの同定
プラスミドpAG1でWGIF01株を形質転換することによって、WGIF03株を得た。E.コリとS.セレビシアエとの間のこのシャトルプラスミドは、Δ7−還元酵素に対する発現カセットを保有しており、この酵素の対応するcDNAは、GAL10/CYC1プロモーターの調節下にある。塩化リチウム技術によって、WGIF01株を形質転換し、アデニンを含有しない培地上で、形質転換体を選択した。正しいクローンのステロールプロファイル中にコレスタ−5,24(25)−ジエノールが出現することによって、デルタ7−還元酵素の発現を確認した。これらの基準を満たすクローンを、より具体的に選択し、WGIF03と名付けた。
【0153】
ステロールの定量的及び比較的分析のために、D−グルコース2%を含有するKappeli培地(Kappeli et al.,1985)50mLの容量中でWGIF03株を培養した。
【0154】
出発培養物の光学密度は、600nmで0.1である。200rpmで振盪しながら、30℃の温度で72時間、この培養物をインキュベートする。
【0155】
次いで、600gで10分間、培地を遠心することによって細胞を回収し、実施例5に示されている技術によって細胞ペレットを分析する。記載されている様々な分析によって、この株によって産生されるステロールを同定することが可能となった。
【0156】
(WGIF03株を与えるための)WGIF01株中でのデルタ7−ステロール還元酵素の発現は、デルタ24−ステロール還元酵素の発現とは異なり、この株のステロールプロファイルに多大な変化をもたらし、コレスタ−5,7,22,24−テトラエノール、コレスタ−7,24−ジエノール及びコレスタ−8,24−ジエノールがほぼ完全に消滅する。
【0157】
この活性は、コレスタ−5,24−ジエノール又はデスモステロールとして以前に記載されているように同定された主要ピークの出現も特徴とする。コレスタ−8,24−ジエノールの量は、12から48%まで変化する。WGIF及びWGIF03株の場合、それぞれ、検出されたコレスタ−5,7,24−トリエノールは、30から3%まで変化し、検出されたコレスタ−5,7,22,24−テトラエノールは23から4%まで変化する。これらの観察は、ステロールの側鎖によって保有される飽和の性質とはほぼ独立した様式で、ステロールデルタ7−還元酵素がコレスタ−5,7−ジエノールを還元することを予想外に示している。この結果は、ステロールデルタ24−還元酵素で観察された結果とは逆である。予想外のことに、ステロールデルタ7−還元酵素の発現は、コレスタ−5,7−ジエノールと一緒に移動する分子の蓄積(12%)ももたらす。しかしながら、この分子がコレスタ−5,7−ジエノールである可能性は、不可能ではないが、比較的低いようであり、コレスタ−5,7−ジエノールの理論的なレベルは、これらの条件下では減少し、増加しないはずである。コレスタ−5,22,24−トリエノールが少量(8%)出現することも興味深い。後者のステロールは、WGIF03株中での主要なステロール(60%)であるコレスタ−5,24−ジエノール(ステロールデルタ7−還元酵素による、コレスター5,7,24−トリエノールの還元によって生じる。)に対するステロール22−デサチュラーゼの作用の予想される産物である。コレスタ−5,22,24−トリエノールの少量の蓄積は、コレスタ−5,24−ジエノールがステロール22−デサチュラーゼに対する優れた基質でないことを予想外に示している。WGIF02株で得られた結果により(実施例12参照)、24位中の不飽和の存在によって(コレスタ−5,24−ジエノール又はコレスタ−5,7,24−トリエノール)、ステロール22−デサチュラーゼがステロールを代謝することが困難になるものと推測することができる。従って、24位が不飽和のコレスタを、エルゴスタへと変換するERG6p酵素の作用は、ERG5遺伝子(22−デサチュラーゼ)に対する不良な基質を、優れた基質へと変換する。
【実施例14】
【0158】
WGIF04の構築及びこの株中に存在するステロールの同定
塩化リチウム技術によってプラスミドpAG1でWGIF02株を形質転換することによって、WGIF04株を取得し、アデニン及びウラシルを含有しない培地上で、形質転換体を選択した。次いで、コレステロール蓄積の検出に基づいて、正しい形質転換体を確認した。これらの基準を満たすクローンを、より具体的に選択し、WGIF04と名付けた。登録番号I−3203で、2004年4月22日に、Institut Pasteur, 25 rue du Docteur Roux 75724 Paris Cedex 15, Franceにある、微生物の培養の国立収集所(CNCM;Collection Nationale de Cultures de Microorganismes[National Collection of Microorganism Cultures])にWGIF04株の試料を寄託した。
【0159】
pYES_Delta24でWGIF03株を形質転換し、同じ選択を適用することによって、WGIF04と区別できない株を取得することも可能である。
【0160】
ステロールの定量的及び比較的分析のために、D−グルコース2%を含有するKappeli培地50mLの容量中でWGIF04株を培養した。
【0161】
出発培養物の光学密度は、600nmで0.1である。200rpmで振盪しながら、30℃の温度で72時間、この培養物をインキュベートする。
【0162】
次いで、600gで10分間、培地を遠心することによって細胞を回収し、実施例5に示されている技術によって細胞ペレットを分析する。記載されている様々な分析によって、この株によって産生されるステロールを同定することが可能となった。
【0163】
コレステロールは、WGIF04株の遊離ステロールの25%に相当する(図9参照)。この株中でのコレステロールの形成は、真正な標準との同時移動によって、並びにGC/MS及びHPLC/MSの両方で確認することによって、GC及びHPLC中で独立に実証される。デルタ7−還元酵素及びデルタ24−還元酵素を同時に発現しない全ての株で、コレステロールは検出できない(総ステロールの0.5%未満)。
【0164】
erg6遺伝子中に破壊を有しない株は、コレステロールを産生することが可能であるが、これは、総遊離コレステロールの5%未満に相当する。このため、pYes_Delta24及びpAG1で同時形質転換されたBMA64から得られたBMA64−pYES_Delta24−pAG1株を構築することが可能であった。この株はコレステロールを産生し、コレステロールは総ステロールの数%に相当する。
【0165】
CA10株は、プラスミドpYES_Delta24で形質転換した。この株もコレステロールを産生し、コレステロールは総ステロールの数%に相当する。
【0166】
さらに、コレステロールの形成には、デルタ7−還元酵素及びデルタ24−還元酵素プロモーターの誘導が明らかに必要であることを実証することができた(図4及び5参照)。これらの遺伝子を含有する株は、誘導の不存在下でコレステロールを産生しない。図5は、約24時間の誘導後に、コレステロールのレベルが最大に達することを示している。コレステロール(コレスタ−5−エノール)の形成と平行して、コレスタ−5,22−ジエノールの形成も観察される。図4及び図5の分析は、後者の化合物の形成が、誘導後に、コレステロールの形成よりさらに素早く起こることを示しており、誘導前にさえ開始することを示している(図5A:m/z=367参照)。しかしながら、この株が2つのプラスミドpAG1及びpYES_Delta24を保有していなければ、この化合物は完全に存在しない。従って、22−デヒドロコレステロールの形成は、コレステロール形成のプロセスよりさらに迅速なプロセスであるが、このプロセスには、誘導後に急速に消滅する前駆体が伴い、コレステロールの形成に対する余地が残される。コレステロールは、Δ24−還元酵素を介してコレスタ−5,24から、又はΔ7−還元酵素を介してコレスタ−5,7から形成されることが可能である。コレスタ−5,7−ジエノールはコレスタ−5,7,22−トリエノールへと直ちに変換されるという事実のために、コレスタ−5,7−ジエノールは蓄積できないということが本実施例において示された。従って、誘導時には存在せず、24時間付近で減少する前に、誘導の4ないし8時間付近で蓄積するコレスタ−5,24−ジエノールが、コレステロール源である(図5)。コレスタ−5,24−ジエノールの事前の合成が必要なので、このことは、コレステロールの遅い出現を説明する。逆に、コレスタ−5,22−ジエノールに対する2つの前駆体となり得るのは、コレスタ−5,7,22−トリエノール及びコレスタ−5,22,24−トリエノールである。誘導の開始時には、後者は存在しない(図4)のに対して、前者は存在し、次いで、コレスタ−5,22−ジエノールの形成の安定化と平行して急速に減少する。このことから、コレステロール源は、Δ24−還元酵素による5,24−ジエノールの還元であるのに対して、コレスタ−5,22−ジエノールの形成は、Δ7−還元酵素による5,7,22−トリエノールの還元から生じると結論付けてもよい。コレステロールに対するΔ22−デサチュラーゼの作用を用いたコレスタ−5,22−ジエノールの形成は、完全に問題にならないわけではないが、速度論の長い時点(24h)におけるコレスタ−5,22−ジエノールと比べて、コレステロールが優先的に蓄積されることに基づき、主要なプロセスでないと思われる(図4及び5)。
【実施例15】
【0167】
コレステロールに対する生合成経路の最適化、Δ22−デサチュラーゼの役割:
WGIF04株に対する24時間のオーダーの誘導時間の場合、コレスタ−5,22−ジエノールの蓄積は、遊離ステロールに関して、コレステロールの蓄積の約50%に相当する(図4)。Δ22−デサチュラーゼ遺伝子の破壊は、コレステロール産生を最適化するための選択肢である。Δ22−デサチュラーゼ(erg5遺伝子)とerg6遺伝子が二重に破壊され、且つΔ7−還元酵素とΔ24−還元酵素を発現する株の構築を完全に想定することができる。Δ22−デサチュラーゼの破壊、Δ7−還元酵素の発現及びΔ24−還元酵素の発現というサブセットを保有する株を作製した。塩化リチウム技術によってプラスミドpYES_Delta24でCA10株を形質転換することによって、及びウラシルに関する原栄養性について選択することによってこの株を取得した。得られた株をCA10/Δ24と名付けた。
【0168】
Δ24ステロール還元酵素を発現するCA10株は、コレステロールを比較的少量産生し(図6及び7参照)、主に、エルゴスタ−5−エノールを蓄積し、エルゴスタ−5,7−ジエノールの中間量を蓄積する。コレスタ−5,7−ジエノールの蓄積は、このような株では極めて少量であり、erg6遺伝子の破壊が、コレスタ系列の誘導体の大量蓄積にとって不可欠であることを示している。従って、Δ24−還元酵素の活性は、驚くべきことに、erg6遺伝子の産物の活性と比較的僅かに競合する。従って、これらの結果から、コレステロールの産生を最適化するためには、erg5及びerg6遺伝子の同時破壊が重要であると結論付けてもよい。
【0169】
WGIF04株中のerg5遺伝子の破壊によって、当業者は、コレステロールの産生をかなり増加させることが可能であろう。このような株の実現可能性は、WGIF04及びCA10/Δ24株の構築によって、及び、この株が先行する2つの株から産生されるべき明らかな遺伝子の組み合わせに過ぎないという事実によって確定される。WGIF04から得られたデータは、Δ24−還元酵素が発現されると(WGIF03を用いて得られた結果及びWGIF04を用いて得られた結果を比較して)、コレスタ−5,24が急速に消滅することを示している。このことから、erg5及びerg6遺伝子が同時に破壊され、且つΔ7−還元酵素とΔ24−還元酵素を同時発現する株において、コレステロールが極めて効率的に合成され得ることを予想することが可能となり、その後、コレステロールは唯一の最終ステロールとなる。
【0170】
結論として、総ステロールの20%以上の閾値でコレステロールを産生するための最小要件は、erg6遺伝子の破壊並びにΔ7−還元酵素及びΔ24−還元酵素の発現である。Δ22−デサチュラーゼの相補的破壊によって、コレステロールの生産性を向上させ、最終ステロールとして、コレスタ−5,22−ジエノールが寄生的に形成されないようにすることが可能となるであろう。
【実施例16】
【0171】
コレステロールの同位体標識及び同位体サインの定義:
標識されたコレステロールの生産原理は、図10に記載されている。この操作では、まず、30℃で72時間培養する間、13Cで完全に標識されたグルコース上で酵母を増殖する。
【0172】
次いで、600gでの10分間、培地を遠心することによって、細胞を回収する。次いで、13C炭素で標識されていない2%ガラクトースを含有する新鮮なKappeli培地50mL中に細胞ペレットを懸濁する。ガラクトースに切り替えてから2時間、4時間、8時間又は24時間後に、培養を停止し、ステロールを抽出し、次いで分析する(実施例7参照)。グルコースからガラクトースへの切り替えによって、Δ7−還元酵素遺伝子及びΔ24−還元酵素遺伝子の両方を調節するGAL10/CYC1プロモーターが誘導される。同時に、炭素源の同位体標識の変化が存在する。代謝中間体の新規合成、次いで、コレステロールを含むステロールの合成が行われ、標識の漸次の変化を含む。標識のこの変化は、各中間ステロールの質量プロファイルによって特徴付けることが可能である。実際に、各13C原子の取り込みは、1原子質量単位(AMU)の質量シフトを誘導する。このため、例えば、標識の程度に応じて、386から413ダルトンまでのモル質量を有するコレステロールが現れる。正の電気スプレーイオン化を用いてたHPLC−質量分析による分析では、これは、369から396までのm/z(質量/電荷)値に相当する(イオンM+H−HO、すなわち、M+1−18=385−17=369)。HPLC中でのステロールの保持時間は、標識の程度に、検出可能には依存しない。単一のステロール「X」に対応するHPLCピークの質量スペクトルは、質量分布に対応する(この質量分布は、従って、標識後の様々な時点で合成されたステロール「X」に対する質量分布の重ね合わせ(合計)である。)。従って、これは、複雑だが(図11)、実験的に完全に測定可能であり、同時に、以下に依存するユニークな同位体サインを呈するプロファイルである。
【0173】
−1)標識プロトコール、並びに、特に、12Cグルコース及び13Cガラクトースを用いた培養時間及び条件、
−2)使用した菌株の正確な遺伝的構造、
−3)培養を停止する正確な時間。
【0174】
この同位体プロファイルは、幾つかのユニークな特性を有する。
【0175】
−1)溶媒条件、使用される株及び選択されるステロールを調整することによって、所望に応じて調節することが可能である。従って、特有の標識登録を作製することが可能である。
【0176】
−2)「組み合わせ可能」である、すなわち、それら自体調節可能である同位体プロファイルで標識された幾つかの特有のステロールに対応するに対応する幾つかの同位体サインは、「分子アルファベット」を形成するために組み合わせることが可能である。
【0177】
−3)再現性があり、プロファイルの再現性を示す二重又は三重プロットを実験的に測定することが容易(図11及び12参照)。
【0178】
−4)単離が容易で、安定、無色及び無臭、不揮発性及び無毒であり、食物、医薬品、添加物又はヒトによって同化されることが可能な他の製品中に取り込まれることができる分子追跡混合物に相当する。
【0179】
−5)特異的な組換え株並びに極めて正確な標識、培養及び抽出条件を有することなしに改ざんすることができない。さらに、同位体サインが明らかとなっても、同位体サインの作製を可能とするパラメータへ遡ることはできない。
【0180】
要約すれば、本発明を使用することによって、改ざんが不可能で、且つあらゆる種類の製品(消耗品を含む。)中に取り込むことが可能な一般的用途のための「同位体アルファベット」を容易に取得することが可能である。標識プロファイルとステロールの様々な種類の両方を使用することによって、このようなアルファベットから構成することが可能な実質的に無限の数の「同位体ワード」が存在する。従って、最も多様な製品中にこのようなサインを取り込むことは、例えば、一旦、知られてしまえば再現が可能となるDNAサインとは異なり偽造が不可能な特有の標識方法を構成する。さらに、サインは、例えば、レーザーイオン化後の質量分析(MALDI−TOFなど)によって、非破壊的に読み取ることが可能である。
【実施例17】
【0181】
13Cで高度に標識された非動物性コレステロールの作製:
ステロール分析について上記した条件下でWGIF04株を培養するための非標識炭素源に代えて、13Cガラクトース又は13Cエタノール及びグルコースを使用することによって、(13C炭素を少なくとも95%含む)極めて高度に標識されたステロール、特に、コレステロールを合成することが可能となる。同じアプローチによって、14C放射性ステロール及びコレステロールの調製も可能である。この方法は、例えば、RIAアッセイ用に、13C−標識又は14C−標識されたステロイドを生産するために、ステロイド、特にヒドロコルチゾン(特許出願WO02/061109号を参照)を産生する酵母株中に導入することも可能である。
【実施例18】
【0182】
主にコレステロールを産生する株の構築:
CDR07 Mata株は、WO02/061109号に公開されている特許出願に記載されており、CNCMにおいて、登録番号I−2616で、2001年1月24日に、ブダペスト条約の規定に従って、rue du Docteur Roux 75724 Paris Cedex 15, Franceにある、微生物の培養の国立収集所(CNCM;Collection Nationale de Cultures de Microorganismes[National Collection of Microorganism Cultures])に寄託した。
【0183】
CDR07 MATa株(関連マーカー:ade2::GAL10/CYP1::Δ;erg5::PKG1::hygro;ERG6)を、実施例1に記載されているWGIF01株(相対マーカー:ERG5;erg6::TRP1)と掛け合わせた。
【0184】
二倍体の芽胞形成後、実施例6に記載されているように、コレステロールの前駆体であるデスモステロールを産生する芽胞を発見するために、芽胞のステロール組成を決定する。PCR分析によって示されるように、機能的TRP1遺伝子を有し、及びアラビドプシス・サリアナのΔ7−還元酵素cDNAを担持するデスモステロールを産生する芽胞を、このようにして同定した。さらに、YIM59と称されるこの株は、ハイグロマイシンに対して感受性であり、ERG5遺伝子が機能的であることを示している。
【0185】
実施例6及び9に記載されているとおりに調製されたステロール調製物は、このYIM59株がジモステロール及びデスモステロールと同じ保持時間を有するステロールを産生することを示した。YIM59株は、アデニン、ロイシン、ウラシル及びヒスチジンに対して栄養要求性であることも示した。デスモステロールの存在は、この株がステロールΔ7還元酵素を発現すること、及びこの株が非機能的erg6対立遺伝子を保有することを示す。
【0186】
ヒトDHCR24の発現のレベルを改善する目的で、DHCR24 cDNAのヌクレオチド配列を修飾した。開始ATGでの翻訳を改善させるために、DHCR24の発現を調節するプロモーターも修飾した。選択された新たなプロモーターは、プラスミドpYES_Delta24のGAL1誘導性プロモーターに対する置換として、シトクロムc1のCYC1プロモーターである(実施例3参照)。
【0187】
CYC1プロモーターとの融合物として、DHCR24還元酵素の末端NH2に対応する配列を、以下のように修飾した。
【0188】
【化3】

【0189】
小文字は、AttB1組換え配列がその後に続き、次いで、開始ATGの前にAAAA配列が先行するCYC1プロモーターの部分的ヌクレオチド配列を表す。最初の2つのコドンの配列も修飾した(ATG開始コドン後の配列GAA−CCT)。
【0190】
CYC1プロモーターの調節下にあるDCHR24 cDNAを保有し、S.セレビシアエの2μ複製起点及びURA3−d選択マーカーも保有する最終プラスミドをpIM331と称した。DHCR24 cDNAを持たないその同等物をpIM303と称した。
【0191】
プラスミドpIM303及びpIM331によって、YIM59株を独立に形質転換し、プラスミドpIM303(YIM59/pIM303株)又はpIM331(YIM59/pIM331株)を保有する2つの形質転換体を、より具体的に選択する。
【0192】
600nmで40の吸光度を達成するために、Kappeliタイプの再構成された富栄養培地中、28℃で72時間、これらの株を培養する。YIM59/pIM303株(DHCR24 cDNAを保有していない。)の、及びYIM59/pIM331株(DHCR24 cDNAを保有している。)の総ステロール抽出物(エステル化されたステロール及び遊離ステロール)が、メタノール性の水酸化カリウムの存在下で産生される(実施例5及び6参照)。これら2つの株がコレステロールを産生する能力について検査する。結果の幾つかが(GC)、図13に示されている。表示されている保持時間は、2つのクロマトグラム上で、分で表されている。
【0193】
このように、DHCR24(YIM59/pIM303株)の発現用ベクターを保有しない株はコレステロールを産生しないが(パートA)、主にデスモステロール(パートA)を産生することを示すことができた。逆に、DHCR24 cDNA(YIM59/pIM331株)を保有する株は、コレステロールの保持時間を有するステロールを産生する(パートB)。電子衝撃質量分析に連結されたガスクロマトグラフィーの技術によって(実施例6に記載されているように)、このステロールが実際にコレステロールであることを実証することができた。ステロールピークの各々の表面積を用いて、YIM59/pIM331株によって産生されたコレステロールの量がステロールの57%であることを推測することができた。
【0194】
生物学的材料の寄託
ブダペスト条約の規定に従って、2004年4月22日に、25 rue du Docteur Roux 75724 Paris Cedex 15, Franceにある、微生物の培養の国立収集所(CNCM)(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes[National Collection of Microorganism Cultures])に、以下の生物を寄託した。
【0195】
−登録番号I−3203で寄託されたWGIF04株。
【0196】
記載されている全ての刊行物及び特許は、参照により、本出願中に組み込まれる。
【0197】
【表1】


【0198】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】コレステロールの化学式、並びに様々な炭素に付番するために一般的に使用される命名法及び様々な環の名称。コレステロール分子の4つの環は、それぞれ、A、B、C及びDと名付けられており、炭素には、1から27までの番号が付番されている。
【図2】天然酵母又は改変された酵母における、エルゴスタ及びコレスタ類のステロールに対する生合成経路の後半部分を簡略化したスキーム。本スキームは、網羅的ではないが、本文書に明記されている酵素が関与する段階を確定することが可能である。ERG2p、ERG3p、ERG5p及びERG6pタンパク質は、真菌又は酵母タンパク質であるのに対して、デルタ−7Red(デルタ−7ステロール還元酵素)及びデルタ−24(25)Red(デルタ24−(25)ステロール還元酵素)タンパク質は哺乳動物又は植物に由来する異種タンパク質である。
【図3】BMA64株から得られた株の遊離ステロールの比較されたHPLCプロファイル(206nmでUV検出)及びこれらのステロールの同定。調べた株は、以下のとおりである。WGIF01(erg6遺伝子が破壊されたBMA64株(実施例1参照))、WGIF02(erg6遺伝子が破壊されており、Δ24還元酵素を発現するBMA64株、実施例12)、WGIF03(erg6遺伝子が破壊されており、Δ7還元酵素を発現するBMA64株、実施例13)、WGIF04(erg6遺伝子が破壊されており、Δ7還元酵素及びΔ24還元酵素を発現するBMA64株、実施例14)。C5:コレスタ−5−エノール(コレステロール);C5,22:コレスタ−5,22−ジエノール;C5,24:コレスタ−5,24−ジエノール(デスモステロール);C8,24:コレスタ−8,24−ジエノール(ジモステロール);C5,7,22:コレスタ−5,7,22−トリエノール;C5,7,24:コレスタ−5,7,24−トリエノール;C5,22,24:コレスタ−5,22,24−トリエノール;C5,7,22,24:コレスタ−5,7,22,24−テトラエノール;lan:ラノステロール。
【図4】ガラクトースでの誘導から0、2、4、8及び24時間後の、WGIF04株(erg6遺伝子が破壊され、且つΔ7−還元酵素とΔ24−還元酵素を発現しているBMA64株、実施例14)の遊離ステロールの比較されたHPLCプロファイル(206nmでUV検出)。Δ:WGIF01株(実施例1)。WGIF04株については、炭素源をガラクトースに切り替えた後0、2、4、8及び24時間後に試料を採取する。erg6破壊を有するBMA64株(WGIF01)に対して提示されているプロファイルは、ガラクトースに切り替えた直後に得られたプロファイルである。このプロファイルは、誘導中(0−24時間)、実質的に変化しない状態を保つ。206nmでの吸収シグナルは、ステロールごとに変化する吸光係数に対応する。C5:コレスタ−5−エノール(コレステロール);C5,22:コレスタ−5,22−ジエノール;C5,24:コレスタ−5,24−ジエノール(デスモステロール);C8,24:コレスタ−8,24−ジエノール(ジモステロール);C5,7,22:コレスタ−5,7,22−トリエノール;C5,7,24:コレスタ−5,7,24−トリエノール;C5,22,24:コレスタ−5,22,24−トリエノール;C5,7,22,24:コレスタ−5,7,22,24−テトラエノール;lan:ラノステロール。
【図5】ガラクトースによる誘導から0、2、4、8及び24時間後における、正のイオン化電気スプレー検出(質量分析)を用いた、WGIF04株の遊離ステロール(実施例14)の比較されたHPCLプロファイル。Δ:WGIF01株。C5:コレスタ−5−エノール(コレステロール);C5,22:コレスタ−5,22−ジエノール;C5,24:コレスタ−5,24−ジエノール(デスモステロール);C8,24:コレスタ−8,24−ジエノール(ジモステロール)。HPLCプロファイルは、図4のアッセイと同一のアッセイから得られる。図5A(左):m/z=367で検出、図5B(右):m/z=369で検出。y軸:計数されたイオンの数/秒。x軸:分で表した溶出時間。
【図6】3つの株:WGIF01、デルタ24ステロール還元酵素に対する発現プラスミドを有するCA10及びWGIF04に対する、HPLCによるm/z=369でのプロファイルの詳細。内部標準として、コレステロールが注入されている。3つの株に対して注入された総ステロールの量は、600nmでの吸光度によって測定された培養の同一量に対して実施された抽出に対応する。
【図7】WGIF01(erg6の欠失)、WGIF02(erg6の欠失、Δ24−還元酵素を発現)、WGIF03(erg6の欠失、Δ7−還元酵素を発現)、WGIF04(erg6の欠失、Δ24−還元酵素及びΔ7−還元酵素を発現)及びCA10 pYES_Delta24(FY1679遺伝的背景、erg5の欠失、Δ24−還元酵素、Δ7−還元酵素、erg5を発現)株の、ガスクロマトグラフィーによる、総ステロール(遊離及びエステル)の比較されたプロファイル。反応のスケール(炎イオン化電流)は任意である。これらのプロファイルは、株ごとに定性的にのみ比較すべきである。しかしながら、保持時間のスケールは、全ての株について同一である(保持時間は、分で表されている。)。ステロールは、本出願に記載されている基準に従って同定される。
【図8】UVスペクトルに基づいて評価された、酵母株(BMA64(図8A)、WGIF01(図8B)、WGIF02(図8C)及びWGIF03(図8D))中の主な遊離ステロールの定量的分布。分布は、図面に記されている全ての種(全ての種のみが大量に検出できる。)の%で表されている。中間体ステロールの幾つかに対する標準の不存在下において、以下に記されている評価された吸光係数を用いて、HPLCクロマトグラムのピークの各々に付随するUVスペクトルに基づいて定量を行う(表1参照、吸光係数は、mM/L及び/cmで表されている。)。これを実施するために、あるステロールの構造中に存在する不飽和構造単位に対応する吸光係数が表1中に求められ、ステロールの各種類の吸光係数を評価するために、(数個の単位が、同一分子中に存在する場合には)必要に応じて追加される。HPLCによる各吸収シグナルから各ステロールの濃度を評価するために、280nmの波長で吸収性である少なくとも1つの単位が存在する場合には、280nmでの値を用いて評価を行い、これが不可能である場合には、波長235nmを使用し、235nmの波長での吸収が行われない場合には、206nmの波長を使用する。
【図9】UVスペクトルに基づいて評価が行われた、WGIF4酵母株中の主な遊離ステロールの定量的分布。定量は、図8に記載されている方法と同様に行われる。
【図10】炭素源の置換による、ステロールの同位体標識の原理。
【図11】誘導から4、8及び24時間後にWGIF04株中で産生されたコレステロールに対する同位体標識プロファイルの評価。遊離ステロールを抽出し、記載されているとおりにHPLCによって分離する。溶出の間、0.2秒ごとに、m/z300とm/z=450の値の間で質量分析を収集する。ついで、1.8秒の時間枠にわたってこれらのスペクトルを平均した後、検討されているベクトルに応じて0と1の間を変化する各炭素上での標識確率を有する、分子の27の位置の各々に存在する炭素13のランダムな取り込みにつき、標識されたコレステロールの理論的質量分布を代表する24のベクトル群を、独立した選択によって、回帰の基礎として使用する多重線形回帰に供する。基礎として使用される様々なベクトルに対する標識確率は、その基礎の2つの連続するベクトルの分布に対する相互相関係数が0.92であるように選択される(基礎は、炭素12上の全ての位置において、100%の存在確率に対応するベクトルから始まる。)。多重線形調整は、最小二乗統計基準に基づいて行われ、ガウス法(最大数値フィルタリング)の偏導関数の積の行列の非対角項をゼロにする。分析後、次いで、最適化された基礎に対して、質量スペクトルを再構築する。従って、図面に表されている曲線は、最大振幅を値100に標準化した後の、フィルタリングされた最適な再構築の結果を表している。 各誘導時間について、2つの曲線は、1.8秒異なる溶出時間に対応し、及びコレステロール溶出ピークの中央ゾーンに位置するスペクトルに対応する2つの独立したプロファイルを表している。図は、分析が高度に再現性があることを示している。
【図12】様々なステロール又は様々な誘導時間を有する様々な同位体サインの例。図11と同じ計算及び表現であるが、様々なステロール及び様々な誘導時間に対する。RTの値は、計算に対して使用された保持時間(分)の範囲を示している。この範囲に対する値は、以下のとおりである。 図12A:RT=12.25−12.42、 図12B:RT=12.2−12.7、 図12C:RT=12.25−12.35、 図12D:RT=13.3−13.6。 誘導時間は、8又は24時間である。 m/zの値は、m/zの値の左及び右限界を表す。各ボックスに対するm/zの最小値は、完全に炭素12から構成されたステロールに対するm/zに対応する。
【図13】ガスクロマトグラフィーにおける、YIM59/pIM303株(図の部分A)及びYIM59/pIM331株(図の部分B)の総ステロール(遊離及びエステル)の比較されたプロファイル(実施例18参照)。応答のスケールは任意である。保持時間のスケールは、両株について同一である(保持時間は、分で表されている。)。ステロールは、本出願に記載されている基準に従って同定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律的にコレステロールを産生する真菌界の生物。
【請求項2】
遺伝的に修飾されていることを特徴とする、請求項1に記載の生物。
【請求項3】
単純な炭素源からコレステロールを産生することを特徴とする、請求項1又は2に記載の生物。
【請求項4】
7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24−還元酵素を発現することを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の生物。
【請求項5】
ステロール24−C−メチル転移酵素が不活化されている、請求項4に記載の生物。
【請求項6】
C−22ステロールデサチュラーゼ酵素が不活化されている、請求項4又は5に記載の生物。
【請求項7】
7−デヒドロコレステロール還元酵素及び3β−ヒドロキシステロールΔ24還元酵素の発現が生物の形質転換によって得られることを特徴とする、請求項4ないし6の何れか1項に記載の生物。
【請求項8】
ステロール24−C−メチル転移酵素の不活化が遺伝子不活化によって実施されることを特徴とする、請求項5から7の何れか1項に記載の生物。
【請求項9】
C−22ステロールデサチュラーゼ酵素の不活化が遺伝子不活化によって実施されることを特徴とする、請求項5から8の何れか1項に記載の生物。
【請求項10】
サッカロミケス属又はシゾサッカロミケス属から選択されることを特徴とする、先行する請求項1ないし9の1項に記載の生物。
【請求項11】
登録番号I−3203で、2004年4月22日に、微生物の培養の国立収集所(CNCM[Collection Nationale de Cultures de Microogranismes])に寄託されたWGIF04株であることを特徴とする、サッカロミケス・セレビシアエ酵母株。
【請求項12】
先行する請求項1ないし11の1項に記載の生物の培養を含む、非動物起源のコレステロールを生産する方法。
【請求項13】
生物を培養する工程の後にコレステロールを抽出する工程が続くことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
コレステロールの抽出が非水混和性溶媒を用いて実施されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
コレステロールの抽出の前に、鹸化工程が実施されることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
コレステロールの鹸化又は抽出の前に、細胞の機械的破砕を行う工程が実施されることを特徴とする、請求項13、14又は15に記載の方法。
【請求項17】
13C若しくは14Cで標識された、コレステロール又はその代謝的中間体の1つ又はステロールの混合物を生産するための、請求項1ないし11の1項に記載の生物の使用。
【請求項18】
13C標識又は14C標識された基質上で、請求項1ないし11の1項に記載の生物を培養する工程と;及び
−コレステロール又はその代謝中間体の1つ又はステロールの混合物を抽出する工程と;を含む、13C若しくは14Cで標識された、コレステロール又はその代謝中間体の1つ又はステロールの混合物を生産するための方法。
【請求項19】
標識された基質上で、次いで、非標識基質上で、請求項1ないし9の1項に記載の生物を培養することを含み、所定の同位体プロファイルを得るためにこれらの基質の各々の上での培養時間が選択される、同位体標識を用いて様々な位置で標識された、コレステロールの、コレステロール中間体の、又はコレステロール代謝物の同位体混合物を生産するための方法。
【請求項20】
同位体標識を用いて様々な位置で標識され、且つ所定の同位体プロファイルを有する、コレステロールの、コレステロール中間体の、又はコレステロール代謝物の同位体混合物を、追跡可能標識として含有する組成物。
【請求項21】
ヒト又は動物の食物又は治療の分野を対象とすることを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
所定の同位体プロファイルを有し、且つ請求項19に記載の生産方法を用いて取得することが可能である、同位体標識を用いて様々な位置に標識された、コレステロールの、コレステロール中間体の、又はコレステロール代謝物の分子の試料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−535960(P2007−535960A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512255(P2007−512255)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001090
【国際公開番号】WO2005/121315
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(500152119)アバンテイス・フアルマ・エス・アー (65)
【Fターム(参考)】