コロイダルシリカの製造方法
【課題】本発明は、金属不純物がより少なくかつ緻密なシリカ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、41gシリカ/時/kg母液以下であることを特徴とする製造方法。
【解決手段】1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、41gシリカ/時/kg母液以下であることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダルシリカ及びその製造方法に関する。特に、研磨剤として好適なコロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイダルシリカは、シリカ微粒子を水等の媒体に分散させたものであり、紙、繊維、鉄鋼等の分野で物性改良剤として使用されているほか、半導体ウエハ等の電子材料の研磨剤としても使用されている。
【0003】
これまでのコロイダルシリカの製造方法としては、水ガラス法とアルコキシド法の2つの方法が主流である。
【0004】
水ガラス法は、ケイ酸ソーダをイオン交換し、活性ケイ酸を調製後、これを加熱下において、NaOHでpH調整した種粒子含有水溶液中に添加し、粒子成長させるものである(特許文献1)。この方法によれば、比較的緻密な構造を有する粒子を得ることができる。
【0005】
アルコキシド法は、いわゆるStoeber法であり、ケイ酸アルキル(テトラアルコキシシラン)を塩基性触媒の存在下で加水分解すると同時に縮合・粒子成長を行いながらシリカ粒子を製造する。この方法によれば、ナノスケールのコロイド粒子からミクロンスケールのコロイド粒子まで調製することが可能である。例えば、ケイ酸メチル(テトラメトキシシラン)又はケイ酸メチルとメタノールとの混合物を水、メタノール及びアンモニア又はアンモニアとアンモニウム塩からなる混合溶媒中に攪拌下に10〜40分間で滴下し、ケイ酸メチルと水とを反応させて10〜200nmの短径と1.4〜2.2の長径/短径比を有するコロイダルシリカを生成することを特徴とする繭型コロイダルシリカの製造方法が提案されている(特許文献2)。また、テトラメトキシシラン4量体をメタノール、水、アンモニア混合液中に滴下しながら加水分解することを特徴とする繭型コロイダルシリカの製造方法が知られている(特許文献3)。
【0006】
その他にも、アルコキシド法によりシリカ粒子を製造する方法等が数多く提案されている(例えば、特許文献4〜10)。
【0007】
また、テトラエチルシリケートやエチルシリケートオリゴマーを酸触媒で加水分解後、pHが7以上となるようにアルカリ触媒を加え、加熱して重合させる方法で細長い形状の非晶質シリカ粒子が液状分散体中に分散されているシリカゾルの製法が開示されている(特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−158810号公報
【特許文献2】特開平11−60232号公報
【特許文献3】国際公開WO2004/074180
【特許文献4】特開2004−91220号公報
【特許文献5】特開2002−50594号公報
【特許文献6】特開2005−162533号公報
【特許文献7】特開2005−60219号公報
【特許文献8】特開2002−45681号公報
【特許文献9】特開2005−312197号公報
【特許文献10】特開2005−60217号公報
【特許文献11】特開2001−48520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特にコロイダルシリカを研磨剤として使用する場合は、緻密な構造を有するシリカ粒子を調製することが必要となる。より具体的には、シロキサン結合がより完全に形成された粒子を作ることが求められる。逆に言えば、残存するシラノール基が少ない粒子を作り出すことが好ましいと言える。
【0010】
しかしながら、特に研磨剤として使用できるコロイダルシリカを従来の方法で製造しようとする場合には、次のような問題がある。
【0011】
前記の水ガラス法では、コロイダルシリカが緻密な構造を持つ故に研磨剤として優れた特性を得ることができるものの、ナトリウム分の除去を完全に行うことができないため、ナトリウム等の金属不純物の存在が問題となる半導体プロセスへの適用は限定的なものとならざるを得ない。
【0012】
これに対し、前記のアルコキシド法では、ナトリウム等の混在を回避することができる反面、粒子径、形状等をコントロールしようとすると粒子成長速度が高速になり、それ故にシリカが安定な配置をとる余裕のないまま粒子成長することになり、緻密な構造をもつ粒子が得られないという問題がある。アルコキシド法でも添加速度を極端に遅くすることにより、成長速度を制御することは可能だが、反応温度が低い為、OH量を十分減らすことはできない。また、成長速度を変化させると、粒径、形状等他の因子も変化する。
【0013】
従って、本発明の主な目的は、金属不純物がより少なくかつ緻密なシリカ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルがシリカ粒子の緻密さを評価する指標として有効であり、従来の水ガラス法により得られるコロイダルシリカとStoeber法により得られるコロイダルシリカのスペクトルを比較すると表1のようになり、ピーク面積値に大きな差があることを見出した。
【0015】
【表1】
【0016】
*Si(OH)2: Si(OH)2(OSi)2, Si(OH)1: Si(OH)(OSi)3, Si(OH)0: Si(OSi)4, ピーク面積値:内部標準ピーク面積で規格化した3ピークの合計面積
この知見を元に、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の工程からなる製法を採用する場合は、水ガラス法で得られるシリカ粒子の利点とStoeber法で得られるシリカ粒子の利点とを兼ね備えた特異な性質を有するシリカ粒子が得られ、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、下記のコロイダルシリカ及びその製造方法に係る。
1. ケイ酸アルキルを原料として得られるコロイダルシリカであって、
前記コロイダルシリカの乾固物に対して内部標準としてポリジメチルシラン1重量%を添加した試料において、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合におけるコロイダルシリカピーク面積/ポリジメチルシランピーク面積の計算式で求められるピーク面積値が15以下であることを特徴とするコロイダルシリカ。
2. ケイ酸アルキルがテトラメチルオルトシリケートである、上記項1に記載のコロイダルシリカ。
3. 固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合において、コロイダルシリカ由来ピークの合計強度(面積値)を100とした場合のSi(OH)0のピーク強度比が40以上である、上記項1に記載のコロイダルシリカ。
4. 1)ナトリウム、2)カルシウム及びマグネシウムから選ばれるアルカリ土類金属並びに3)鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトから選ばれる重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下である、上記項1に記載のコロイダルシリカ。
5. 上記項1に記載のコロイダルシリカを含む研磨剤。
6. 1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、41gシリカ/時/kg母液以下であることを特徴とする製造方法。
7. 1)アルカリ触媒、水及び種粒子を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、4.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以下であることを特徴とする製造方法。
8. ケイ酸アルキルを無触媒下で加水分解することによって前記加水分解液を調製する工程をさらに含む、上記項6又は7に記載の製造方法。
9. ケイ酸アルキルがテトラメチルオルトシリケートである、上記項6又は7に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法では、従来のシリカ粒子又はコロイダルシリカの製造方法とは異なり、別途に調製されたケイ酸アルキルの加水分解液を母液に添加するという工程を採用する。即ち、ケイ酸アルキルの加水分解液の添加速度を調節することによって、シリカ粒子の成長速度をコントロールすることができる。特に、粒子成長を比較的ゆっくり行う場合には、残存シラノール基がより低減されたシリカ粒子を作ることができる。
【0019】
また、本発明の製造方法では、上記添加速度の調節等により、得られるコロイダルシリカの単分散性も高めることができる。特に、動的光散乱法による粒度分析装置で測定される標準偏差SD、平均粒径(二次粒子径)Dを用いて、下記式(1)によって計算されるCV値が40以下という特性をもつコロイダルシリカも提供することができる。
【0020】
CV=(SD/D)×100 …(1)
なお、動的光散乱法による粒度分析装置として市販品「ELS8000」(大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。測定用サンプルとしては、コロイダルシリカ200μLを0.05重量%デシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液10mLに加えて均一化したものを用いる。
【0021】
本発明の製造方法では、金属不純物が混入する機会がなく、それ故に比較的高純度のコロイダルシリカを提供することも可能となる。
【0022】
加えて、酸性条件化で予め加水分解する為、塩基性条件では残存する未反応ケイ酸アルキル(「ゾルゲル法の技術的課題とその対策」、8ページ、50ページ、アイピーシー、1990年)が残存することがなく、pHを下げて反応完結させる操作が不要である。即ち、高いpHで使用する用途に対しては、工程が簡素化される利点もある。
【0023】
本発明のコロイダルシリカによれば、残存シラノール基が比較的少なくなっているので、それだけシロキサン骨格の完成度が高くなっている。即ち、緻密な粒子となっているため、研磨剤としてより高い研磨性能を発することができる。とりわけ、電子材料(特に半導体ウエハ)を研磨するための研磨剤として有効である。これらの材料に本発明のコロイダルシリカを研磨剤として使用することにより、研磨レート(速度)を高められる。
【0024】
また、残存シラノール基が多い場合や歪の大きいシロキサン骨格を有する場合はアルカリの攻撃を受けやすくなるが、本発明のコロイダルシリカは残存シラノール基が少なく、シロキサン骨格が安定しているので、高い耐アルカリ性を発揮する。耐アルカリ性が劣る場合には、高pHの研磨剤では保存中に変質し、一定の研磨速度が得られない。このような問題も本発明によって回避可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られたコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図2】比較例1のコロイダルシリカ(扶桑化学工業製従来品製品名「PL−2L」)の乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図3】比較例2のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図4】実施例1のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図5】比較例2のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図6】実施例2のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図7】実施例2のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図8】実施例3のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図9】実施例3のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図10】実施例4のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図11】実施例4のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図12】実施例5のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図13】実施例5のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図14】実施例6のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図15】実施例6のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図16】比較例3のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図17】比較例3のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.コロイダルシリカ
本発明のコロイダルシリカは、ケイ酸アルキルを原料として得られ、前記コロイダルシリカの乾固物に対して内部標準としてポリジメチルシラン1重量%を添加した試料において、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合におけるコロイダルシリカピーク面積/ポリジメチルシランピーク面積の計算式で求められるピーク面積値が15以下であることを特徴とする。原料のケイ酸アルキルとしては、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)が好ましい。
【0027】
本発明のコロイダルシリカは、前記ピーク面積値が15以下であり、特に12以下であり、更には10以下であることが望ましい。下限値は限定されないが8程度である。
【0028】
前記ピーク面積値は、コロイダルシリカにおける残存シラノール基の多さを示す(例えば、「第43回 熱硬化性樹脂講演討論会講演要旨集」,p45(1993)参照))。即ち、Si(OH)2、Si(OH)1は、Siに直接OH基が結合したSi原子をカウントし、Si(OH)0は、直接には結合したOHはないものの、近傍にOHが存在するSi原子をカウントしている。上記比が小さいほど残存シラノール基の絶対数が少ないことを示し、本発明のコロイダルシリカとして望ましい。図1には本発明の乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを示す。図2には従来品の乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを示す。図1及び図2において、A−Aの高低差がポリジメチルシランピーク面積を示し、B−Bの高低差がコロイダルシリカピーク面積を示す。この場合、ポリジメチルシランピーク面積を「1」とした規格化値がピーク面積値となり、それがNMRチャートに該当ピークの右上付近に表示される。両者を対比すると、図1ではピーク面積値が9.747であるのに対し、図2ではピーク面積値が47.795であり、本発明のコロイダルシリカが絶対数として残存シラノール基が極めて少ないことを示している。なお、上記ピーク面積値は、公知のNMRスペクトル分析装置に備えられているデータ処理回路により作成される積分曲線の高さの比から算出できる。
【0029】
また、本発明のコロイダルシリカは、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合において、コロイダルシリカ由来ピークの合計強度(面積値)を100とした場合のSi(OH)0のピーク強度比が40以上であることが望ましい。更に好ましくは、50以上であることが望ましい。これは、コロイダルシリカを研磨用として用いる際、直接被研磨面と接する表面近傍の緻密性が高いことを意味する。後記の表2中の実施例1ではSi(OH)0の強度比が48であるのに対し、後記の表2中の比較例1では46である。即ち、図1では、特にシリカ粒子表層部において、残存シラノール基の割合がより少ないことを示している。なお、上記強度比は、公知のNMRスペクトル分析装置に備えられている波形分離処理の結果得られるコロイダルシリカ由来ピークのSi(OH)2、Si(OH)1、Si(OH)0の各ピークの強度比を百分率として算出した値である。
【0030】
本発明における乾固物とは、本発明のコロイダルシリカをシリカ分10重量%に調整したもの10gを50ml磁性るつぼに入れ、150℃にセットされたホットプレート上で、10時間熱処理することにより得られたものを言う。
【0031】
なお、本発明で使用するポリジメチルシランは、重量平均分子量が2000のものを使用する。
【0032】
本発明のコロイダルシリカの平均粒子径は限定されないが、通常は5〜200nm程度、特に10〜100nmが望ましい。尚、平均粒子径は、2727/比表面積値によって換算される一次粒子径を表す。また、別に、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELS8000」)で測定した平均粒子径を二次粒子径として示す。動的光散乱法での測定用サンプルとしては、コロイダルシリカ200μLを0.05重量%デシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液10mLに加えて均一化したものを用いる。
【0033】
また、本発明のコロイダルシリカは、1)ナトリウム、2)カルシウム及びマグネシウムからなる群から選ばれるアルカリ土類金属並びに3)鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトからなる群から選ばれる重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下であることが好ましい。特に、電子材料を研磨する研磨剤として使用する場合、電子材料に悪影響を及ぼすナトリウムの含有量がより少ないか又は含まれていないことが好ましい。より好ましくは、ナトリウム、アルカリ土類金属及び重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下であることが好ましい。なお、本発明において、重金属類は、密度が4g/cm3以上の金属元素を示す。アルカリ土類金属及び重金属類の含有量は、金属元素ごとの含有量を意味する。
【0034】
本発明は、本発明コロイダルシリカを含む研磨剤も包含する。特に、電子材料を研磨する電子材料研磨材として好適に用いることができる。例えば、シリコンウエハ研磨、LSI製造プロセスに於ける化学的機械的研磨(CMP)、フォトマスクブランクス研磨、ハードディスク研磨等が挙げられる。
【0035】
研磨剤の使用に際しては、公知の研磨剤と同様にして実施すれば良い。例えば、シリコンウエハを研磨する際は、用途等に応じて濃度を調整した上、研磨機の常盤にセットされた研磨パッド上に滴下すればよい。
2.コロイダルシリカの製造方法
本発明のコロイダルシリカは、蒸留精製により高純度に精製可能なケイ酸アルキルをシリカ原料として製造する。好ましくは、シリカ原料として、高純度に精製可能で、かつ反応性が高く、無触媒でも容易に加水分解されるテトラメチルオルトシリケートが望ましい。
【0036】
具体的には、下記2種類の製造方法、即ち母液に種粒子を含まない場合(製造方法1)と母液に種粒子を含む場合(製造方法2)のいずれかで製造することが好ましい。
(製造方法1:種粒子無し)
1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程(母液調製工程)及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程(添加工程)を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、41gシリカ/時/kg母液以下であることを特徴とする製造方法。
(製造方法2:種粒子有り)
1)アルカリ触媒、水及び種粒子を含む母液を調製する工程(母液調製工程)及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程(添加工程)を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、4.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以下であることを特徴とする製造方法。
【0037】
以下、上記製造方法1、製造方法2の各工程について説明する。
【0038】
母液調製工程
母液調製工程では、アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する。例えば、水にアルカリ触媒を添加することにより母液を調製すれば良い。
【0039】
アルカリ触媒は、公知のアルカリ触媒を用いることができるが、特に金属不純物の混入を回避するという点で金属成分を含まない有機系塩基触媒が好適である。このような有機系塩基触媒としては、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラメチルグアニジン等の含窒素有機系塩基触媒が挙げられる。好ましくは、添加工程の温度範囲(加熱)で揮散しない、揮発性の低い有機系塩基触媒が好ましい。揮散する塩基の場合、連続的に添加して系内pHを維持してもよい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。例外的に、研磨剤用途では、KOHを成分として配合することがあり、このような配合組成の研磨剤向けには、KOHをアルカリ触媒として用いることもできる。
【0040】
アルカリ触媒の添加量は、母液のpHが通常7〜14の範囲内になるように適宜設定すれば良い。より好ましいpHは7〜12である。更に好ましくは7〜9である。
【0041】
本発明では、前記母液中に種粒子を存在させても良い(製造方法2)。種粒子を存在させることにより、後記の添加工程において加水分解液からの粒子析出を促進でき、大粒子径のコロイダルシリカを短時間に得ることができる。種粒子の平均粒子径は、所望のコロイダルシリカの粒子径にもよるが、一般的には5〜200nm程度が好ましい。このような種粒子としては、市販のコロイダルシリカ、シリカゾル等を用いることができる。また、シリカ以外の粒子を種粒子としてもよい。例えば、チタニア、ジルコニア、アルミナ等の無機粒子、表面に親シリカ処理を施した有機粒子が考えられる。なお、母液中の種粒子の含有量は特に制限されない。
【0042】
本発明では、後記のケイ酸アルキルの加水分解液を添加する際に、母液を加熱しておくことが好ましい。特に、母液を加熱することにより水リフラックス(水還流)状態とすることが望ましい。リフラックスは、公知の装置を用いて実施することができる。反応温度は、より高温であるほど緻密粒子が得られる。従って、添加工程は、より高温度でリフラックスできるよう加圧状態で実施しても良い。この場合には、例えばオートクレーブ等の公知の装置を使用することができる。
【0043】
添加工程
添加工程では、ケイ酸アルキル(好ましくはテトラメチルオルトシリケート)の加水分解液(以下単に「加水分解液」ともいう。)を前記母液に添加する。
【0044】
加水分解液は、ケイ酸アルキルを純水で加水分解して調製する。具体的には、ケイ酸アルキルとしてテトラメチルオルトシリケートを用いる場合には、メトキシ基に対し1倍当量以上の水を加えて、下記反応を行わせて活性ケイ酸アルキル溶液を調製する。
【0045】
Si(OMe)4+4H2O → Si(OH)4+4MeOH
(但し、Meは、メチル基を示す。)
ケイ酸アルキルの加水分解液は、公知の方法によって調製することができる。例えば、水にケイ酸アルキルを加え、攪拌すれば良い。このようにして得られた反応液では、1〜2時間程度で加水分解が進行し、所定の加水分解液を得ることができる。
【0046】
ケイ酸アルキルの水への添加量は、最終的に得られる加水分解液のシリカ濃度が通常1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜6重量%となるように設定する。これにより、ケイ酸アルキル加水分解液のゲル化を防止しつつ、効率的にシリカ粒子を成長させることが可能となる。
【0047】
また、本発明では、必要に応じてケイ酸アルキルと水を相溶させるために、反応液中に相溶化溶媒として一部の水に代えて水溶性有機溶媒を含有させることもできる。水溶性有機溶媒の一例としては、アルコール類が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール(特に炭素数1〜3のアルコール)を例示することができる。水溶性有機溶剤の含有量は特に限定的ではないが、通常は反応液中0〜90重量%、好ましくは0〜50重量%程度とすれば良い。
【0048】
ケイ酸アルキル加水分解液は保存性が低いので、固形分濃度に応じて2〜10時間毎に調製するか又は連続調製しながら加水分解液の供給を継続すれば良い。保存性は、前記の相溶化溶媒の添加で改善されるので、この面も考慮して相溶化溶媒の添加量を決定する。
【0049】
本発明では、加水分解は、触媒の存在下であっても良いし、無触媒下で実施しても良い。触媒を使用する場合は、酸触媒として硫酸、塩酸、硝酸、酢酸等の無機酸又は有機酸、強酸性陽イオン交換樹脂等の固体酸を使用すれば良い。特に、本発明では、不純物の混入を回避するという見地より、無触媒下で加水分解することが望ましい。特にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)は無触媒でも加水分解され易い。
【0050】
ケイ酸アルキルの加水分解液の母液への添加は、所望の粒径のコロイド粒子に成長するまで継続する。加水分解液の添加速度は、加水分解液の濃度、所望のコロイド粒子の粒径等によって異なるが、緻密なシリカ粒子が形成されるのに十分な速度とすれば良い。好ましくは、種粒子を用いない場合(製造方法1)には、41gシリカ/時/kg母液以下、また、種粒子を用いる場合(製造方法2)には、4.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以下である。ここで、「gシリカ」はシリカの重量を示し、「kg母液」は母液の重量を示し、「m2種粒子表面積」は種粒子の表面積を示す。
【0051】
種粒子を用いない場合、水とアルカリ触媒からなる母液中で、種粒子が先ず形成され、その後粒子成長が開始すると考えられる。種粒子の形成個数は、初期に添加されるケイ酸アルキルの加水分解液の量(濃度)によって決定されることから、母液仕込み重量とケイ酸アルキルの加水分解液の添加速度の比がパラメーターとなる。一方、種粒子を用いる場合、仕込まれた種粒子の表面にシリカが堆積して行くと考えられる。従って、種粒子の持つ表面積とケイ酸アルキルの加水分解液の添加速度の比がパラメーターとなる。
【0052】
添加速度が速すぎる場合は、粒子が緻密にならない状態(シラノール基が残存した状態)で粒子が成長してしまい、ピーク面積値が増大する。また、粒子表面への析出が間に合わず、新しく微粒子が形成され粒度分布が広くなりCV値が増加するか、全体がゲル化することが考えられる。従って、濾過性等他の物性が悪化する弊害もある。一方、遅い場合は、より緻密で均一粒子となるが、生産性が低下し、不経済である。実用的には、0.7gシリカ/時/kg母液以上又は0.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以上である。
【0053】
ケイ酸アルキルの加水分解液の添加に伴い、反応液のpHは徐々に低下する。反応液のpHは、7〜10に保たれるよう常に監視し、適宜アルカリ触媒を添加して、pHを維持する必要がある。pHが酸性領域まで低下するとゲル化するおそれがある。中性付近の製品が求められる場合、pHを徐々に低下させながら反応させても良い。
【0054】
所定の粒径をもつコロイド粒子が生成すれば、加水分解液の添加を中止する。必要に応じて、反応液内に残存するアルコールを蒸留等により除去しても良い。この場合、連続的に水溶性有機溶媒(アルコール等)を除去することにより、反応温度の低下を回避することができる。また、添加工程における多量の水溶性有機溶媒(アルコール等)の存在は、ケイ酸アルキルを溶解させる等、シリカの析出を妨げる現象が観察されるため、余分な水溶性有機溶媒(アルコール等)は速やかに系外に留去することが好ましい。系外に留去することで、後述する濃縮を同時に進行させることもできる。反応終了時点で、固形分濃度を25%以上に濃縮することが可能である。
【0055】
次いで、必要に応じて、反応液を濃縮する。濃縮に先立って、必要に応じて、系内に残存する微量の水溶性有機溶媒(アルコール等)を予め除去することもできる。
【0056】
反応液を濃縮する場合は、温度(系内温度)が100℃に達し、蒸気温度も100℃に達し、水溶性有機溶媒の除去終了を確認したら、そのまま所定の固形分濃度になるまで濃縮する。濃縮方法としては、例えば蒸留濃縮法、膜濃縮法等の公知の濃縮方法を採用することができる。なお、蒸留濃縮法を採用する場合は、乾燥粒子の発生を防ぐため、所定の容量の容器にフィード(供給)する方式で壁面での空焚きの発生を回避することが望ましい。濃縮物は、所定のフィルターでろ過し、粗大粒子、異物等を除去した後、そのまま各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0058】
実施例1
三角フラスコ(容量1L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)51.3gを計り取り、純水623.7gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.4であった。
【0059】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(3リットル)に純水891g、1N-TMAH(テトラメチルアンモミウムヒドロキシド)0.1gを加え、母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は3.3mL/分(6.9gシリカ/時/kg母液)とした。
【0060】
TMOS加水分解液は、4回調製してフィードした。フィード所要時間は合計で13.1時間であった。フィード中は、pHを8程度に維持するように1N-TMAHを添加した。添加量は、6.1gであった。
【0061】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管(トの字形状の管)、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:0.5L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的とするコロイダルシリカ474gを得た。
【0062】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表2に示す。比較例1として、市販のコロイダルシリカ(扶桑化学工業製 PL−2L)の固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルの結果を併せて示す。また、実施例1及び比較例1のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図1(実施例1)及び図2(比較例1)に示す。走査型電子顕微鏡(SEM)写真(実施例1)を図4にそれぞれ示す。
【0063】
【表2】
【0064】
*会合比は、二次粒子径/一次粒子径により得られる値を示す(以下同様)。
【0065】
比較例2
特許文献11に記載の実施例2の方法に従ってシリカゾルを調製した。得られたシリカゾルの物性を調べた。その結果を表3に示す。また、比較例2のシリカゾルを150℃で10時間熱処理することにより得られた乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図3に示す。なお、シリカ添加速度は、46.7gシリカ/時/kg母液である。
【0066】
表3のように、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルの結果、ピーク面積値は18.3と大きくなっていることがわかる。また、金属分析結果及び電導度データから金属不純物、陰イオン不純物が多いことがわかる。これは、原料として、最終的に蒸留精製できないエチルシリケートオリゴマーを用いた為、また硝酸を酸触媒として添加した為と考えられる。会合度は大きく、図5のSEM像から明らかなように、特許文献11の目的とする細長い粒子が形成されていると考えられる。
【0067】
【表3】
【0068】
実施例2
三角フラスコ(容量1L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)68.4gを計り取り、純水831.6gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.5であった。
【0069】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(2リットル)に純水594g、1N-TMAH0.05gを加えて母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は5.0mL/分で14.0gシリカ/時/kg母液とした。
【0070】
TMOS加水分解液は、2回調製してフィードした。フィード所要時間は合計で6.4時間であった。フィード中は、pHを9程度に維持するように1N-TMAHを添加した。添加量は、13.0gであった。
【0071】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:0.5L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的のコロイダルシリカ529gを得た。
【0072】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表4に示す。実施例2のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図6に示す。実施例2のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図7に示す。
【0073】
種粒子を使用せず、添加速度を実施例1の場合の約2倍とした。この結果ピーク面積値が若干増大し、シラノール量が増加することが分かる。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例3
三角フラスコ(容量3L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)205.2gを計り取り、純水2494.8gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.4であった。
【0076】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(2リットル)に純水891g、1N-TMAH0.16gを加え、母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は11.3mL/分で20.0gシリカ/時/kg母液とした。
【0077】
TMOS加水分解液は、1回調製してフィードした。フィード所要時間は合計で4.5時間であった。フィード中は、pHを8程度に維持するように1N-TMAHを添加した。添加量は、10.0gであった。
【0078】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:0.5L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的のコロイダルシリカ487.3gを得た。
【0079】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表5に示す。実施例3のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図8に示す。実施例3のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図9に示す。
【0080】
種粒子を使用せず、添加速度を実施例1の場合の約3倍とした。この結果、粒径が小さくなり、ピーク面積値が若干増大し、シラノール量が増加することが分かる。添加速度の増大で、種粒子生成数が増加した為とシリカの成長速度が増大し、シラノール基が残りやすくなった事が考えられる。
【0081】
【表5】
【0082】
実施例4
三角フラスコ(容量1L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)34.2gを計り取り、純水415.8gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.1であった。
【0083】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(2リットル)に純水594g、1N-KOH0.1gを加えて母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は2.5mL/分で7.81gシリカ/時/kg母液とした。
【0084】
TMOS加水分解液は、4回調製してフィードした。フィード所要時間は合計で11.5時間であった。フィード中は、pHが8程度に維持されるよう、1N-KOHを1g単位で添加した。添加量は、2.1gであった。
【0085】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:0.5L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的のコロイダルシリカ501gを得た。
【0086】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表6に示す。実施例4のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図10に示す。実施例4のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図11に示す。
【0087】
1N-TMAHでpH調整した場合同様、ピーク面積値が11程度のコロイダルシリカが得られた。Si(OH)0ピーク強度が45と小さくなった。
【0088】
【表6】
【0089】
実施例5
三角フラスコ(容量2L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)57gを計り取り、純水693gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.3であった。
【0090】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(5リットル)に種粒子としてシリカ粒子(扶桑化学工業株式会社製「PL−06L」、粒子径:6.0nm、比表面積452.3m2/g、固形分6.3wt%)150gを純水で2倍希釈し、これにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)1N水溶液を滴下し、pH11.6に調整し、母液としてフラスコに仕込んだ。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。フィード速度は4mL/分とした。TMOS加水分解液のフィードにより、系内にメタノールが入るため、塔頂温度は徐々に低下した。塔頂温度が90℃まで低下した時点で留分を抜き取る。これを繰り返しながらフィードを継続して粒子成長をさせた。これにより系内温度は終始99℃以上という高温に保たれた。
【0091】
TMOS加水分解液は不安定であるため、約3時間ごとに調製し、4回に分けて加水分解液をフィードした。フィード所要時間は合計で19.7時間であった(1.06×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積)。
【0092】
TMOS加水分解液フィード中は、pH変化を監視し、pHが低下しすぎないよう、1N−TMAH水溶液を1g単位で添加した。添加量は、合計13gであった。最終pHは、8程度となるよう調整した。
【0093】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:2L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的のコロイダルシリカ1,263gを得た。
【0094】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表7に示す。また、実施例5のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図12に示す。実施例5のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図13に示す。
【0095】
【表7】
【0096】
実施例6
添加速度を8ml/分とし、ケイ酸アルキル水溶液をTMOS114g、水1386gで2回調製した以外は実施例5と同じ操作を行った。フィード所要時間は、10.1時間であった(2.07×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積)。濃縮後の収量は、643gであった。
【0097】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表8に示す。また、実施例6のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図14に示す。実施例6のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図15に示す。
【0098】
【表8】
【0099】
比較例3
添加速度を16ml/分とし、活性ケイ酸水溶液をTMOS228g、水2772gで1回調製した以外は実施例5と同じ操作を行った。フィード所要時間は、4.7時間であった(4.44×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積)。濃縮後の収量は、638gであった。
【0100】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表9に示す。また、比較例3のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図16に示す。比較例3のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図17に示す。
【0101】
【表9】
【0102】
以上のデータをまとめると表10、表11のとおりである。シリカの堆積速度が速いほど、シロキサン骨格を完全に形成できず、ピーク面積値が大きくなり、シラノールを残した形で粒子形成される傾向がある事が分かる。
【0103】
種粒子無しの場合、添加速度によって生成する種粒子の数が影響される。遅くなると、種粒子発生数が減少し、速くなると増大する。種粒子数の増大は、シリカの堆積が分散され、粒子成長速度が遅くなるように働く。種粒子数が少ないと集中して堆積するので、粒子成長速度は増大する。この効果によって、添加速度が増大しても粒子数の増加でNMRピーク面積値の増大は緩和され、添加速度が低下した場合には、粒子数の低下でピーク面積値の縮小が阻害される。この結果、ピーク面積値の変化が小さくなる。
【0104】
一方、種粒子が母液に元々存在する場合には、シリカが堆積する粒子数が一定の為、純粋に添加速度だけの効果が反映され、ピーク面積値の変化が大きくなる。比較例3の4倍速では、15を超えるピーク面積値となった。また、比較例3の4倍速では、微量の微粉がSEMで確認することができ、添加速度としてはこの程度が限界であると考えられる。
【0105】
【表10】
【0106】
【表11】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダルシリカ及びその製造方法に関する。特に、研磨剤として好適なコロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイダルシリカは、シリカ微粒子を水等の媒体に分散させたものであり、紙、繊維、鉄鋼等の分野で物性改良剤として使用されているほか、半導体ウエハ等の電子材料の研磨剤としても使用されている。
【0003】
これまでのコロイダルシリカの製造方法としては、水ガラス法とアルコキシド法の2つの方法が主流である。
【0004】
水ガラス法は、ケイ酸ソーダをイオン交換し、活性ケイ酸を調製後、これを加熱下において、NaOHでpH調整した種粒子含有水溶液中に添加し、粒子成長させるものである(特許文献1)。この方法によれば、比較的緻密な構造を有する粒子を得ることができる。
【0005】
アルコキシド法は、いわゆるStoeber法であり、ケイ酸アルキル(テトラアルコキシシラン)を塩基性触媒の存在下で加水分解すると同時に縮合・粒子成長を行いながらシリカ粒子を製造する。この方法によれば、ナノスケールのコロイド粒子からミクロンスケールのコロイド粒子まで調製することが可能である。例えば、ケイ酸メチル(テトラメトキシシラン)又はケイ酸メチルとメタノールとの混合物を水、メタノール及びアンモニア又はアンモニアとアンモニウム塩からなる混合溶媒中に攪拌下に10〜40分間で滴下し、ケイ酸メチルと水とを反応させて10〜200nmの短径と1.4〜2.2の長径/短径比を有するコロイダルシリカを生成することを特徴とする繭型コロイダルシリカの製造方法が提案されている(特許文献2)。また、テトラメトキシシラン4量体をメタノール、水、アンモニア混合液中に滴下しながら加水分解することを特徴とする繭型コロイダルシリカの製造方法が知られている(特許文献3)。
【0006】
その他にも、アルコキシド法によりシリカ粒子を製造する方法等が数多く提案されている(例えば、特許文献4〜10)。
【0007】
また、テトラエチルシリケートやエチルシリケートオリゴマーを酸触媒で加水分解後、pHが7以上となるようにアルカリ触媒を加え、加熱して重合させる方法で細長い形状の非晶質シリカ粒子が液状分散体中に分散されているシリカゾルの製法が開示されている(特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−158810号公報
【特許文献2】特開平11−60232号公報
【特許文献3】国際公開WO2004/074180
【特許文献4】特開2004−91220号公報
【特許文献5】特開2002−50594号公報
【特許文献6】特開2005−162533号公報
【特許文献7】特開2005−60219号公報
【特許文献8】特開2002−45681号公報
【特許文献9】特開2005−312197号公報
【特許文献10】特開2005−60217号公報
【特許文献11】特開2001−48520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特にコロイダルシリカを研磨剤として使用する場合は、緻密な構造を有するシリカ粒子を調製することが必要となる。より具体的には、シロキサン結合がより完全に形成された粒子を作ることが求められる。逆に言えば、残存するシラノール基が少ない粒子を作り出すことが好ましいと言える。
【0010】
しかしながら、特に研磨剤として使用できるコロイダルシリカを従来の方法で製造しようとする場合には、次のような問題がある。
【0011】
前記の水ガラス法では、コロイダルシリカが緻密な構造を持つ故に研磨剤として優れた特性を得ることができるものの、ナトリウム分の除去を完全に行うことができないため、ナトリウム等の金属不純物の存在が問題となる半導体プロセスへの適用は限定的なものとならざるを得ない。
【0012】
これに対し、前記のアルコキシド法では、ナトリウム等の混在を回避することができる反面、粒子径、形状等をコントロールしようとすると粒子成長速度が高速になり、それ故にシリカが安定な配置をとる余裕のないまま粒子成長することになり、緻密な構造をもつ粒子が得られないという問題がある。アルコキシド法でも添加速度を極端に遅くすることにより、成長速度を制御することは可能だが、反応温度が低い為、OH量を十分減らすことはできない。また、成長速度を変化させると、粒径、形状等他の因子も変化する。
【0013】
従って、本発明の主な目的は、金属不純物がより少なくかつ緻密なシリカ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルがシリカ粒子の緻密さを評価する指標として有効であり、従来の水ガラス法により得られるコロイダルシリカとStoeber法により得られるコロイダルシリカのスペクトルを比較すると表1のようになり、ピーク面積値に大きな差があることを見出した。
【0015】
【表1】
【0016】
*Si(OH)2: Si(OH)2(OSi)2, Si(OH)1: Si(OH)(OSi)3, Si(OH)0: Si(OSi)4, ピーク面積値:内部標準ピーク面積で規格化した3ピークの合計面積
この知見を元に、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の工程からなる製法を採用する場合は、水ガラス法で得られるシリカ粒子の利点とStoeber法で得られるシリカ粒子の利点とを兼ね備えた特異な性質を有するシリカ粒子が得られ、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、下記のコロイダルシリカ及びその製造方法に係る。
1. ケイ酸アルキルを原料として得られるコロイダルシリカであって、
前記コロイダルシリカの乾固物に対して内部標準としてポリジメチルシラン1重量%を添加した試料において、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合におけるコロイダルシリカピーク面積/ポリジメチルシランピーク面積の計算式で求められるピーク面積値が15以下であることを特徴とするコロイダルシリカ。
2. ケイ酸アルキルがテトラメチルオルトシリケートである、上記項1に記載のコロイダルシリカ。
3. 固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合において、コロイダルシリカ由来ピークの合計強度(面積値)を100とした場合のSi(OH)0のピーク強度比が40以上である、上記項1に記載のコロイダルシリカ。
4. 1)ナトリウム、2)カルシウム及びマグネシウムから選ばれるアルカリ土類金属並びに3)鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトから選ばれる重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下である、上記項1に記載のコロイダルシリカ。
5. 上記項1に記載のコロイダルシリカを含む研磨剤。
6. 1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、41gシリカ/時/kg母液以下であることを特徴とする製造方法。
7. 1)アルカリ触媒、水及び種粒子を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、4.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以下であることを特徴とする製造方法。
8. ケイ酸アルキルを無触媒下で加水分解することによって前記加水分解液を調製する工程をさらに含む、上記項6又は7に記載の製造方法。
9. ケイ酸アルキルがテトラメチルオルトシリケートである、上記項6又は7に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法では、従来のシリカ粒子又はコロイダルシリカの製造方法とは異なり、別途に調製されたケイ酸アルキルの加水分解液を母液に添加するという工程を採用する。即ち、ケイ酸アルキルの加水分解液の添加速度を調節することによって、シリカ粒子の成長速度をコントロールすることができる。特に、粒子成長を比較的ゆっくり行う場合には、残存シラノール基がより低減されたシリカ粒子を作ることができる。
【0019】
また、本発明の製造方法では、上記添加速度の調節等により、得られるコロイダルシリカの単分散性も高めることができる。特に、動的光散乱法による粒度分析装置で測定される標準偏差SD、平均粒径(二次粒子径)Dを用いて、下記式(1)によって計算されるCV値が40以下という特性をもつコロイダルシリカも提供することができる。
【0020】
CV=(SD/D)×100 …(1)
なお、動的光散乱法による粒度分析装置として市販品「ELS8000」(大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。測定用サンプルとしては、コロイダルシリカ200μLを0.05重量%デシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液10mLに加えて均一化したものを用いる。
【0021】
本発明の製造方法では、金属不純物が混入する機会がなく、それ故に比較的高純度のコロイダルシリカを提供することも可能となる。
【0022】
加えて、酸性条件化で予め加水分解する為、塩基性条件では残存する未反応ケイ酸アルキル(「ゾルゲル法の技術的課題とその対策」、8ページ、50ページ、アイピーシー、1990年)が残存することがなく、pHを下げて反応完結させる操作が不要である。即ち、高いpHで使用する用途に対しては、工程が簡素化される利点もある。
【0023】
本発明のコロイダルシリカによれば、残存シラノール基が比較的少なくなっているので、それだけシロキサン骨格の完成度が高くなっている。即ち、緻密な粒子となっているため、研磨剤としてより高い研磨性能を発することができる。とりわけ、電子材料(特に半導体ウエハ)を研磨するための研磨剤として有効である。これらの材料に本発明のコロイダルシリカを研磨剤として使用することにより、研磨レート(速度)を高められる。
【0024】
また、残存シラノール基が多い場合や歪の大きいシロキサン骨格を有する場合はアルカリの攻撃を受けやすくなるが、本発明のコロイダルシリカは残存シラノール基が少なく、シロキサン骨格が安定しているので、高い耐アルカリ性を発揮する。耐アルカリ性が劣る場合には、高pHの研磨剤では保存中に変質し、一定の研磨速度が得られない。このような問題も本発明によって回避可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られたコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図2】比較例1のコロイダルシリカ(扶桑化学工業製従来品製品名「PL−2L」)の乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図3】比較例2のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図4】実施例1のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図5】比較例2のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図6】実施例2のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図7】実施例2のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図8】実施例3のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図9】実施例3のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図10】実施例4のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図11】実施例4のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図12】実施例5のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図13】実施例5のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図14】実施例6のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図15】実施例6のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図16】比較例3のコロイダルシリカの乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルである。
【図17】比較例3のコロイダルシリカを走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.コロイダルシリカ
本発明のコロイダルシリカは、ケイ酸アルキルを原料として得られ、前記コロイダルシリカの乾固物に対して内部標準としてポリジメチルシラン1重量%を添加した試料において、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合におけるコロイダルシリカピーク面積/ポリジメチルシランピーク面積の計算式で求められるピーク面積値が15以下であることを特徴とする。原料のケイ酸アルキルとしては、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)が好ましい。
【0027】
本発明のコロイダルシリカは、前記ピーク面積値が15以下であり、特に12以下であり、更には10以下であることが望ましい。下限値は限定されないが8程度である。
【0028】
前記ピーク面積値は、コロイダルシリカにおける残存シラノール基の多さを示す(例えば、「第43回 熱硬化性樹脂講演討論会講演要旨集」,p45(1993)参照))。即ち、Si(OH)2、Si(OH)1は、Siに直接OH基が結合したSi原子をカウントし、Si(OH)0は、直接には結合したOHはないものの、近傍にOHが存在するSi原子をカウントしている。上記比が小さいほど残存シラノール基の絶対数が少ないことを示し、本発明のコロイダルシリカとして望ましい。図1には本発明の乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを示す。図2には従来品の乾固物における固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを示す。図1及び図2において、A−Aの高低差がポリジメチルシランピーク面積を示し、B−Bの高低差がコロイダルシリカピーク面積を示す。この場合、ポリジメチルシランピーク面積を「1」とした規格化値がピーク面積値となり、それがNMRチャートに該当ピークの右上付近に表示される。両者を対比すると、図1ではピーク面積値が9.747であるのに対し、図2ではピーク面積値が47.795であり、本発明のコロイダルシリカが絶対数として残存シラノール基が極めて少ないことを示している。なお、上記ピーク面積値は、公知のNMRスペクトル分析装置に備えられているデータ処理回路により作成される積分曲線の高さの比から算出できる。
【0029】
また、本発明のコロイダルシリカは、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合において、コロイダルシリカ由来ピークの合計強度(面積値)を100とした場合のSi(OH)0のピーク強度比が40以上であることが望ましい。更に好ましくは、50以上であることが望ましい。これは、コロイダルシリカを研磨用として用いる際、直接被研磨面と接する表面近傍の緻密性が高いことを意味する。後記の表2中の実施例1ではSi(OH)0の強度比が48であるのに対し、後記の表2中の比較例1では46である。即ち、図1では、特にシリカ粒子表層部において、残存シラノール基の割合がより少ないことを示している。なお、上記強度比は、公知のNMRスペクトル分析装置に備えられている波形分離処理の結果得られるコロイダルシリカ由来ピークのSi(OH)2、Si(OH)1、Si(OH)0の各ピークの強度比を百分率として算出した値である。
【0030】
本発明における乾固物とは、本発明のコロイダルシリカをシリカ分10重量%に調整したもの10gを50ml磁性るつぼに入れ、150℃にセットされたホットプレート上で、10時間熱処理することにより得られたものを言う。
【0031】
なお、本発明で使用するポリジメチルシランは、重量平均分子量が2000のものを使用する。
【0032】
本発明のコロイダルシリカの平均粒子径は限定されないが、通常は5〜200nm程度、特に10〜100nmが望ましい。尚、平均粒子径は、2727/比表面積値によって換算される一次粒子径を表す。また、別に、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELS8000」)で測定した平均粒子径を二次粒子径として示す。動的光散乱法での測定用サンプルとしては、コロイダルシリカ200μLを0.05重量%デシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液10mLに加えて均一化したものを用いる。
【0033】
また、本発明のコロイダルシリカは、1)ナトリウム、2)カルシウム及びマグネシウムからなる群から選ばれるアルカリ土類金属並びに3)鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトからなる群から選ばれる重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下であることが好ましい。特に、電子材料を研磨する研磨剤として使用する場合、電子材料に悪影響を及ぼすナトリウムの含有量がより少ないか又は含まれていないことが好ましい。より好ましくは、ナトリウム、アルカリ土類金属及び重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下であることが好ましい。なお、本発明において、重金属類は、密度が4g/cm3以上の金属元素を示す。アルカリ土類金属及び重金属類の含有量は、金属元素ごとの含有量を意味する。
【0034】
本発明は、本発明コロイダルシリカを含む研磨剤も包含する。特に、電子材料を研磨する電子材料研磨材として好適に用いることができる。例えば、シリコンウエハ研磨、LSI製造プロセスに於ける化学的機械的研磨(CMP)、フォトマスクブランクス研磨、ハードディスク研磨等が挙げられる。
【0035】
研磨剤の使用に際しては、公知の研磨剤と同様にして実施すれば良い。例えば、シリコンウエハを研磨する際は、用途等に応じて濃度を調整した上、研磨機の常盤にセットされた研磨パッド上に滴下すればよい。
2.コロイダルシリカの製造方法
本発明のコロイダルシリカは、蒸留精製により高純度に精製可能なケイ酸アルキルをシリカ原料として製造する。好ましくは、シリカ原料として、高純度に精製可能で、かつ反応性が高く、無触媒でも容易に加水分解されるテトラメチルオルトシリケートが望ましい。
【0036】
具体的には、下記2種類の製造方法、即ち母液に種粒子を含まない場合(製造方法1)と母液に種粒子を含む場合(製造方法2)のいずれかで製造することが好ましい。
(製造方法1:種粒子無し)
1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程(母液調製工程)及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程(添加工程)を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、41gシリカ/時/kg母液以下であることを特徴とする製造方法。
(製造方法2:種粒子有り)
1)アルカリ触媒、水及び種粒子を含む母液を調製する工程(母液調製工程)及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程(添加工程)を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、4.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以下であることを特徴とする製造方法。
【0037】
以下、上記製造方法1、製造方法2の各工程について説明する。
【0038】
母液調製工程
母液調製工程では、アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する。例えば、水にアルカリ触媒を添加することにより母液を調製すれば良い。
【0039】
アルカリ触媒は、公知のアルカリ触媒を用いることができるが、特に金属不純物の混入を回避するという点で金属成分を含まない有機系塩基触媒が好適である。このような有機系塩基触媒としては、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラメチルグアニジン等の含窒素有機系塩基触媒が挙げられる。好ましくは、添加工程の温度範囲(加熱)で揮散しない、揮発性の低い有機系塩基触媒が好ましい。揮散する塩基の場合、連続的に添加して系内pHを維持してもよい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。例外的に、研磨剤用途では、KOHを成分として配合することがあり、このような配合組成の研磨剤向けには、KOHをアルカリ触媒として用いることもできる。
【0040】
アルカリ触媒の添加量は、母液のpHが通常7〜14の範囲内になるように適宜設定すれば良い。より好ましいpHは7〜12である。更に好ましくは7〜9である。
【0041】
本発明では、前記母液中に種粒子を存在させても良い(製造方法2)。種粒子を存在させることにより、後記の添加工程において加水分解液からの粒子析出を促進でき、大粒子径のコロイダルシリカを短時間に得ることができる。種粒子の平均粒子径は、所望のコロイダルシリカの粒子径にもよるが、一般的には5〜200nm程度が好ましい。このような種粒子としては、市販のコロイダルシリカ、シリカゾル等を用いることができる。また、シリカ以外の粒子を種粒子としてもよい。例えば、チタニア、ジルコニア、アルミナ等の無機粒子、表面に親シリカ処理を施した有機粒子が考えられる。なお、母液中の種粒子の含有量は特に制限されない。
【0042】
本発明では、後記のケイ酸アルキルの加水分解液を添加する際に、母液を加熱しておくことが好ましい。特に、母液を加熱することにより水リフラックス(水還流)状態とすることが望ましい。リフラックスは、公知の装置を用いて実施することができる。反応温度は、より高温であるほど緻密粒子が得られる。従って、添加工程は、より高温度でリフラックスできるよう加圧状態で実施しても良い。この場合には、例えばオートクレーブ等の公知の装置を使用することができる。
【0043】
添加工程
添加工程では、ケイ酸アルキル(好ましくはテトラメチルオルトシリケート)の加水分解液(以下単に「加水分解液」ともいう。)を前記母液に添加する。
【0044】
加水分解液は、ケイ酸アルキルを純水で加水分解して調製する。具体的には、ケイ酸アルキルとしてテトラメチルオルトシリケートを用いる場合には、メトキシ基に対し1倍当量以上の水を加えて、下記反応を行わせて活性ケイ酸アルキル溶液を調製する。
【0045】
Si(OMe)4+4H2O → Si(OH)4+4MeOH
(但し、Meは、メチル基を示す。)
ケイ酸アルキルの加水分解液は、公知の方法によって調製することができる。例えば、水にケイ酸アルキルを加え、攪拌すれば良い。このようにして得られた反応液では、1〜2時間程度で加水分解が進行し、所定の加水分解液を得ることができる。
【0046】
ケイ酸アルキルの水への添加量は、最終的に得られる加水分解液のシリカ濃度が通常1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜6重量%となるように設定する。これにより、ケイ酸アルキル加水分解液のゲル化を防止しつつ、効率的にシリカ粒子を成長させることが可能となる。
【0047】
また、本発明では、必要に応じてケイ酸アルキルと水を相溶させるために、反応液中に相溶化溶媒として一部の水に代えて水溶性有機溶媒を含有させることもできる。水溶性有機溶媒の一例としては、アルコール類が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール(特に炭素数1〜3のアルコール)を例示することができる。水溶性有機溶剤の含有量は特に限定的ではないが、通常は反応液中0〜90重量%、好ましくは0〜50重量%程度とすれば良い。
【0048】
ケイ酸アルキル加水分解液は保存性が低いので、固形分濃度に応じて2〜10時間毎に調製するか又は連続調製しながら加水分解液の供給を継続すれば良い。保存性は、前記の相溶化溶媒の添加で改善されるので、この面も考慮して相溶化溶媒の添加量を決定する。
【0049】
本発明では、加水分解は、触媒の存在下であっても良いし、無触媒下で実施しても良い。触媒を使用する場合は、酸触媒として硫酸、塩酸、硝酸、酢酸等の無機酸又は有機酸、強酸性陽イオン交換樹脂等の固体酸を使用すれば良い。特に、本発明では、不純物の混入を回避するという見地より、無触媒下で加水分解することが望ましい。特にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)は無触媒でも加水分解され易い。
【0050】
ケイ酸アルキルの加水分解液の母液への添加は、所望の粒径のコロイド粒子に成長するまで継続する。加水分解液の添加速度は、加水分解液の濃度、所望のコロイド粒子の粒径等によって異なるが、緻密なシリカ粒子が形成されるのに十分な速度とすれば良い。好ましくは、種粒子を用いない場合(製造方法1)には、41gシリカ/時/kg母液以下、また、種粒子を用いる場合(製造方法2)には、4.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以下である。ここで、「gシリカ」はシリカの重量を示し、「kg母液」は母液の重量を示し、「m2種粒子表面積」は種粒子の表面積を示す。
【0051】
種粒子を用いない場合、水とアルカリ触媒からなる母液中で、種粒子が先ず形成され、その後粒子成長が開始すると考えられる。種粒子の形成個数は、初期に添加されるケイ酸アルキルの加水分解液の量(濃度)によって決定されることから、母液仕込み重量とケイ酸アルキルの加水分解液の添加速度の比がパラメーターとなる。一方、種粒子を用いる場合、仕込まれた種粒子の表面にシリカが堆積して行くと考えられる。従って、種粒子の持つ表面積とケイ酸アルキルの加水分解液の添加速度の比がパラメーターとなる。
【0052】
添加速度が速すぎる場合は、粒子が緻密にならない状態(シラノール基が残存した状態)で粒子が成長してしまい、ピーク面積値が増大する。また、粒子表面への析出が間に合わず、新しく微粒子が形成され粒度分布が広くなりCV値が増加するか、全体がゲル化することが考えられる。従って、濾過性等他の物性が悪化する弊害もある。一方、遅い場合は、より緻密で均一粒子となるが、生産性が低下し、不経済である。実用的には、0.7gシリカ/時/kg母液以上又は0.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以上である。
【0053】
ケイ酸アルキルの加水分解液の添加に伴い、反応液のpHは徐々に低下する。反応液のpHは、7〜10に保たれるよう常に監視し、適宜アルカリ触媒を添加して、pHを維持する必要がある。pHが酸性領域まで低下するとゲル化するおそれがある。中性付近の製品が求められる場合、pHを徐々に低下させながら反応させても良い。
【0054】
所定の粒径をもつコロイド粒子が生成すれば、加水分解液の添加を中止する。必要に応じて、反応液内に残存するアルコールを蒸留等により除去しても良い。この場合、連続的に水溶性有機溶媒(アルコール等)を除去することにより、反応温度の低下を回避することができる。また、添加工程における多量の水溶性有機溶媒(アルコール等)の存在は、ケイ酸アルキルを溶解させる等、シリカの析出を妨げる現象が観察されるため、余分な水溶性有機溶媒(アルコール等)は速やかに系外に留去することが好ましい。系外に留去することで、後述する濃縮を同時に進行させることもできる。反応終了時点で、固形分濃度を25%以上に濃縮することが可能である。
【0055】
次いで、必要に応じて、反応液を濃縮する。濃縮に先立って、必要に応じて、系内に残存する微量の水溶性有機溶媒(アルコール等)を予め除去することもできる。
【0056】
反応液を濃縮する場合は、温度(系内温度)が100℃に達し、蒸気温度も100℃に達し、水溶性有機溶媒の除去終了を確認したら、そのまま所定の固形分濃度になるまで濃縮する。濃縮方法としては、例えば蒸留濃縮法、膜濃縮法等の公知の濃縮方法を採用することができる。なお、蒸留濃縮法を採用する場合は、乾燥粒子の発生を防ぐため、所定の容量の容器にフィード(供給)する方式で壁面での空焚きの発生を回避することが望ましい。濃縮物は、所定のフィルターでろ過し、粗大粒子、異物等を除去した後、そのまま各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0058】
実施例1
三角フラスコ(容量1L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)51.3gを計り取り、純水623.7gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.4であった。
【0059】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(3リットル)に純水891g、1N-TMAH(テトラメチルアンモミウムヒドロキシド)0.1gを加え、母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は3.3mL/分(6.9gシリカ/時/kg母液)とした。
【0060】
TMOS加水分解液は、4回調製してフィードした。フィード所要時間は合計で13.1時間であった。フィード中は、pHを8程度に維持するように1N-TMAHを添加した。添加量は、6.1gであった。
【0061】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管(トの字形状の管)、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:0.5L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的とするコロイダルシリカ474gを得た。
【0062】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表2に示す。比較例1として、市販のコロイダルシリカ(扶桑化学工業製 PL−2L)の固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルの結果を併せて示す。また、実施例1及び比較例1のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図1(実施例1)及び図2(比較例1)に示す。走査型電子顕微鏡(SEM)写真(実施例1)を図4にそれぞれ示す。
【0063】
【表2】
【0064】
*会合比は、二次粒子径/一次粒子径により得られる値を示す(以下同様)。
【0065】
比較例2
特許文献11に記載の実施例2の方法に従ってシリカゾルを調製した。得られたシリカゾルの物性を調べた。その結果を表3に示す。また、比較例2のシリカゾルを150℃で10時間熱処理することにより得られた乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図3に示す。なお、シリカ添加速度は、46.7gシリカ/時/kg母液である。
【0066】
表3のように、固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルの結果、ピーク面積値は18.3と大きくなっていることがわかる。また、金属分析結果及び電導度データから金属不純物、陰イオン不純物が多いことがわかる。これは、原料として、最終的に蒸留精製できないエチルシリケートオリゴマーを用いた為、また硝酸を酸触媒として添加した為と考えられる。会合度は大きく、図5のSEM像から明らかなように、特許文献11の目的とする細長い粒子が形成されていると考えられる。
【0067】
【表3】
【0068】
実施例2
三角フラスコ(容量1L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)68.4gを計り取り、純水831.6gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.5であった。
【0069】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(2リットル)に純水594g、1N-TMAH0.05gを加えて母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は5.0mL/分で14.0gシリカ/時/kg母液とした。
【0070】
TMOS加水分解液は、2回調製してフィードした。フィード所要時間は合計で6.4時間であった。フィード中は、pHを9程度に維持するように1N-TMAHを添加した。添加量は、13.0gであった。
【0071】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:0.5L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的のコロイダルシリカ529gを得た。
【0072】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表4に示す。実施例2のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図6に示す。実施例2のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図7に示す。
【0073】
種粒子を使用せず、添加速度を実施例1の場合の約2倍とした。この結果ピーク面積値が若干増大し、シラノール量が増加することが分かる。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例3
三角フラスコ(容量3L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)205.2gを計り取り、純水2494.8gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.4であった。
【0076】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(2リットル)に純水891g、1N-TMAH0.16gを加え、母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は11.3mL/分で20.0gシリカ/時/kg母液とした。
【0077】
TMOS加水分解液は、1回調製してフィードした。フィード所要時間は合計で4.5時間であった。フィード中は、pHを8程度に維持するように1N-TMAHを添加した。添加量は、10.0gであった。
【0078】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:0.5L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的のコロイダルシリカ487.3gを得た。
【0079】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表5に示す。実施例3のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図8に示す。実施例3のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図9に示す。
【0080】
種粒子を使用せず、添加速度を実施例1の場合の約3倍とした。この結果、粒径が小さくなり、ピーク面積値が若干増大し、シラノール量が増加することが分かる。添加速度の増大で、種粒子生成数が増加した為とシリカの成長速度が増大し、シラノール基が残りやすくなった事が考えられる。
【0081】
【表5】
【0082】
実施例4
三角フラスコ(容量1L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)34.2gを計り取り、純水415.8gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.1であった。
【0083】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(2リットル)に純水594g、1N-KOH0.1gを加えて母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は2.5mL/分で7.81gシリカ/時/kg母液とした。
【0084】
TMOS加水分解液は、4回調製してフィードした。フィード所要時間は合計で11.5時間であった。フィード中は、pHが8程度に維持されるよう、1N-KOHを1g単位で添加した。添加量は、2.1gであった。
【0085】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:0.5L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的のコロイダルシリカ501gを得た。
【0086】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表6に示す。実施例4のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図10に示す。実施例4のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図11に示す。
【0087】
1N-TMAHでpH調整した場合同様、ピーク面積値が11程度のコロイダルシリカが得られた。Si(OH)0ピーク強度が45と小さくなった。
【0088】
【表6】
【0089】
実施例5
三角フラスコ(容量2L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)57gを計り取り、純水693gを攪拌下に加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3wt%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.3であった。
【0090】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(5リットル)に種粒子としてシリカ粒子(扶桑化学工業株式会社製「PL−06L」、粒子径:6.0nm、比表面積452.3m2/g、固形分6.3wt%)150gを純水で2倍希釈し、これにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)1N水溶液を滴下し、pH11.6に調整し、母液としてフラスコに仕込んだ。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。フィード速度は4mL/分とした。TMOS加水分解液のフィードにより、系内にメタノールが入るため、塔頂温度は徐々に低下した。塔頂温度が90℃まで低下した時点で留分を抜き取る。これを繰り返しながらフィードを継続して粒子成長をさせた。これにより系内温度は終始99℃以上という高温に保たれた。
【0091】
TMOS加水分解液は不安定であるため、約3時間ごとに調製し、4回に分けて加水分解液をフィードした。フィード所要時間は合計で19.7時間であった(1.06×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積)。
【0092】
TMOS加水分解液フィード中は、pH変化を監視し、pHが低下しすぎないよう、1N−TMAH水溶液を1g単位で添加した。添加量は、合計13gであった。最終pHは、8程度となるよう調整した。
【0093】
得られたコロイダルシリカ液をトの字管、温度計、フィード管を付けたフラスコ(容量:2L)にフィードしながら蒸留濃縮を行い、目的のコロイダルシリカ1,263gを得た。
【0094】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表7に示す。また、実施例5のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図12に示す。実施例5のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図13に示す。
【0095】
【表7】
【0096】
実施例6
添加速度を8ml/分とし、ケイ酸アルキル水溶液をTMOS114g、水1386gで2回調製した以外は実施例5と同じ操作を行った。フィード所要時間は、10.1時間であった(2.07×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積)。濃縮後の収量は、643gであった。
【0097】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表8に示す。また、実施例6のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図14に示す。実施例6のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図15に示す。
【0098】
【表8】
【0099】
比較例3
添加速度を16ml/分とし、活性ケイ酸水溶液をTMOS228g、水2772gで1回調製した以外は実施例5と同じ操作を行った。フィード所要時間は、4.7時間であった(4.44×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積)。濃縮後の収量は、638gであった。
【0100】
得られたコロイダルシリカの物性を調べた。その結果を表9に示す。また、比較例3のコロイダルシリカを150℃で10時間熱処理することにより得られる乾固物についての固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを図16に示す。比較例3のコロイダルシリカの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図17に示す。
【0101】
【表9】
【0102】
以上のデータをまとめると表10、表11のとおりである。シリカの堆積速度が速いほど、シロキサン骨格を完全に形成できず、ピーク面積値が大きくなり、シラノールを残した形で粒子形成される傾向がある事が分かる。
【0103】
種粒子無しの場合、添加速度によって生成する種粒子の数が影響される。遅くなると、種粒子発生数が減少し、速くなると増大する。種粒子数の増大は、シリカの堆積が分散され、粒子成長速度が遅くなるように働く。種粒子数が少ないと集中して堆積するので、粒子成長速度は増大する。この効果によって、添加速度が増大しても粒子数の増加でNMRピーク面積値の増大は緩和され、添加速度が低下した場合には、粒子数の低下でピーク面積値の縮小が阻害される。この結果、ピーク面積値の変化が小さくなる。
【0104】
一方、種粒子が母液に元々存在する場合には、シリカが堆積する粒子数が一定の為、純粋に添加速度だけの効果が反映され、ピーク面積値の変化が大きくなる。比較例3の4倍速では、15を超えるピーク面積値となった。また、比較例3の4倍速では、微量の微粉がSEMで確認することができ、添加速度としてはこの程度が限界であると考えられる。
【0105】
【表10】
【0106】
【表11】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、41gシリカ/時/kg母液以下であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
1)アルカリ触媒、水及び種粒子を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、4.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以下であることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
ケイ酸アルキルを無触媒下で加水分解することによって前記加水分解液を調製する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ケイ酸アルキルがテトラメチルオルトシリケートである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項1】
1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、41gシリカ/時/kg母液以下であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
1)アルカリ触媒、水及び種粒子を含む母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が、4.2×10−3gシリカ/時/m2種粒子表面積以下であることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
ケイ酸アルキルを無触媒下で加水分解することによって前記加水分解液を調製する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ケイ酸アルキルがテトラメチルオルトシリケートである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−211080(P2012−211080A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152849(P2012−152849)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2009−509176(P2009−509176)の分割
【原出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000238164)扶桑化学工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2009−509176(P2009−509176)の分割
【原出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000238164)扶桑化学工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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