説明

コロイド分散液

【課題】無機粒子と、無機粒子の表面の少なくとも一部に付着している有機物(分散剤)と、分散媒と、を含むコロイド分散液において、分散媒の最適な組合せによって分散性に優れるコロイド分散液を提供する。
【解決手段】無機粒子と、前記無機粒子の表面の少なくとも一部に付着しているアミン及びカルボン酸を含む有機物と、炭化水素及びアルコールを含み、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である分散媒と、を含むこと、を特徴とするコロイド分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散媒と分散媒中に分散された無機粒子とを含むコロイド分散液に関し、インクジェット方式、スーパーインクジェット方式、エアロゾル方式、フレキソ方式、グラビア方式、オフセット方式、コーター方式等の種々の印刷方式に適合し得るコロイド分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
分散媒と分散媒中に分散された無機粒子とを含むコロイド分散液は、無機粒子を微粒子化させることでインク化して印刷に用いることができるため、薄膜の形成等に広く用いられている。このように特に無機微粒子を用いたコロイド分散液には、従来から、良好な分散性を有することが求められている。分散性に劣るコロイド分散液では、保管している際や使用している際に、無機微粒子が容器、インクタンク又はインク経路等で沈降し、印刷に不具合を発生させてしまうためである。
【0003】
ここで、無機微粒子(特に金属微粒子)を含むコロイド分散液の分散性を向上させる方法として、例えば、分散剤や保護コロイドと称される有機物で無機微粒子の表面を被覆すること等が行われ、当該有機物について種々の検討がなされており、例えば特許文献1(特開2010−37574号公報)及び特許文献2(再表第WO2005/088652号公報)においては、いわゆる有機溶媒系のコロイド分散液の有機物として、アミンとカルボン酸との組合せを用いることが提案されている。
【0004】
より具体的には、上記特許文献1においては、バインダー樹脂を用いなくても、流動性と粘性又は曳糸性とのバランスに優れ、凹版オフセット印刷によっても微細なパターンを明瞭に形成できる金属ナノ粒子ペーストを提供することを意図して、金属ナノ粒子ペーストにおいて、アミン類とカルボン酸類とを含む保護コロイドを添加することが提案されている。
【0005】
また、特許文献2においては、低温の焼成でも気化可能な分散剤によって表面被覆された、良好な分散安定性を有する金属含有微粒子、該金属微粒子が分散した微粒子分散液および該微粒子分散液を用いて形成される体積抵抗値に優れた導電性金属含有材料の提供を意図して、気化温度の異なる少なくとも2種の分散剤により表面被覆された金属含有微粒子が提案されており、分散剤としてはアミン類及び/又はカルボン酸等の化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−37574号公報
【特許文献2】再表第WO2005/088652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アミンとカルボン酸との組合せを有機物として含む金属ナノ粒子ペーストを提案する特許文献1においては、種々の分散媒を用い得ることが開示されているものの、分散性の観点から複数の分散媒を用いること等については検討されておらず、未だ改善の余地があった。
【0008】
また、気化温度の異なる少なくとも2種の分散剤により表面被覆された金属含有微粒子を含む微粒子分散液を提案する特許文献2においては、種々の分散媒を用い得ることが開示されており、複数の分散媒を用いることについても示唆はあるものの、実施例でも具体的な分散媒の組合せは用いられていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、無機粒子と、無機粒子の表面の少なくとも一部に付着している有機物(分散剤)と、分散媒と、を含むコロイド分散液において、分散媒の最適な組合せによって分散性に優れるコロイド分散液を提供することにある。加えて、本発明の目的は、インクジェット方式の印刷方法においてインクとして用いた場合に、インクジェット吐出性に優れるコロイド分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく分散媒について鋭意研究を重ねた結果、十分な分散性と優れたインクジェット吐出性を有するコロイド分散液を得るためには、分散媒として、炭化水素及びアルコールを含み、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である分散媒を用いることが、上記目的を達成する上で極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。また、本発明者らは、上記コロイド分散液を用いれば、密着性に優れる被膜が得られることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、
無機粒子と、
前記無機粒子の表面の少なくとも一部に付着しているアミン及びカルボン酸を含む有機物と、
炭化水素及びアルコールを含み、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である分散媒と、
を含むこと、
を特徴とするコロイド分散液を提供する。
【0012】
上記の本発明のコロイド分散液は、言い換えると、無機粒子と有機物とで構成されるコロイド粒子を主成分とする固形分と、当該固形分を分散する分散媒とを含むものであり、「分散媒」は上記固形分をコロイド分散液中に分散させるものであるが、上記固形分の一部は「分散媒」に溶解していてもよい。なお、「主成分」とは、構成成分のうちの最も含有量の多い成分のことをいう。
【0013】
このような構成を有する本発明のコロイド分散液においては、メカニズム等の明確な理由は定かではないが、アミンとカルボン酸という性質が異なる2種類の有機物を含む場合、それらの有機物は複雑に作用すると考えられる。これらのような有機物の一分子内におけるアミノ基及びカルボキシル基は、比較的高い極性を有し、水素結合による相互作用を生じ易いが、これら官能基以外の部分は比較的低い極性を有する。更に、アミノ基及びカルボキシル基は、それぞれアルカリ性的性質及び酸性的性質を示し易い。したがって、これらのような有機物が、複雑に混合した状態で、無機粒子の表面の少なくとも一部に局在化(付着)すると(即ち、無機粒子の表面の少なくとも一部を被覆すると)、その無機粒子の分散媒中における分散状態は、分散媒の性質によって敏感に変化すると考えられる。そして、性質の異なる2種類の分散媒を用いることにより、有機物と分散媒と無機粒子とが十分に親和させることができ、有機物との組合せにおいて2種類の分散媒が無機粒子の分散性を著しく向上させるものと推測される。即ち、本発明のコロイド分散液によれば、特定の組合せの有機物と特定の組合せの分散媒を含んでいるので、コロイド分散液中での無機粒子の分散性を向上させることができ、したがって、例えばコロイド分散液中の無機粒子の含有量を増やしてもコロイド粒子が凝集しにくく、良好な分散性及びインクジェット吐出性を発揮することができる。
【0014】
また、本発明のコロイド分散液は無機粒子の分散性及びインクジェット吐出性に優れるため、当該コロイド分散液を基材上に塗布した場合(特にインクジェット方式により塗布した場合)には、無機粒子が凝集しにくく良好に分散した状態で基材上に吐出されるため、無機粒子と基材の接触点が増し、更に、乾燥、焼成によって、無機粒子同士がより緻密にパッキングされた状態で含まれる被膜が形成され、よって、当該被膜は基材への密着性に優れるものと考えられる。
【0015】
本発明における「分散性」とは、コロイド分散液中での無機粒子(乃至はコロイド粒子。以下、同様。)の分散状態が優れているか否か(均一か否か)を示すものであり、更には、24時間経過後にコロイド分散液中での無機粒子の分散状態が維持されているか否かを示し、「低沈降凝集性」ともいえる指標である。
【0016】
この「分散性」の評価方法は、後述の実施例において詳細に説明するが、調製した金属粒子を含む分散液乃至は金属コロイド分散液から、無機粒子と有機物とで構成されるコロイド粒子を主成分とする固形分を取り出し、当該固形分と分散媒とを混合して得た混合物を容器中に、例えば1週間程度静置し、沈殿の有無及び上澄みの状態を目視で観察することにより評価することができる。
【0017】
コロイド分散液の「固形分」とは、コロイド分散液(乃至は金属粒子を含む分散液)から、例えばアルコール添加や遠心分離による凝集、沈降及びデカンテーションによるアルコールや分散媒の除去の後に得られ、無機粒子と有機物とで構成されるコロイド粒子を主成分とし、通常は、無機粒子、残存有機物及び残留還元剤等を含む。
【0018】
また、本発明における「インクジェット吐出性」とは、市販のインクジェット式プリンタを用いて、本発明のコロイド分散液を、均一な間隔で前後左右において重ならないドットパターンで吐出させた場合に、再現良く吐出するか否かと、液滴の周囲に微小な飛散(サテライト)が無いか否か、を示すものである。
【0019】
より具体的には、富士フイルム(株)製のダイマティックス・マテリアル・プリンターDMP−2831において、専用の10pLインクカートリッジを用い、富士フイルム(株)製のインクジェット専用光沢紙上に吐出し、上記のように、均一な間隔で前後左右において重ならないドットパターンで吐出させた場合に、再現良く吐出するか否かと、液滴の周囲に微小な飛散(サテライト)が無いか否か、を目視により評価した。
【0020】
また、本発明における被膜の「密着性」とは、テープ剥離試験によって評価することができる。詳細は下記の実施例において述べるが、本発明のコロイド分散液を基材上に塗布して形成した被膜にテープを貼り付け、当該テープを90度の角度で剥がし、剥がした後のテープへの被膜の付着状態によって評価することができる。
【0021】
上記の本発明のコロイド分散液においては、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物であること、が好ましく、少なくとも一方が脂環式化合物であること、更に好ましくは、いずれもが脂環式であることがさらに好ましい。
【0022】
このような構成によれば、有機物との組合せにおいて2種類の分散媒が無機粒子の分散性をより確実に向上させ、本発明のコロイド分散液を基材上に塗布した場合には、無機粒子が良好に分散した状態で被膜が形成され、よって、より確実に基材への密着性に優れる被膜を得ることができる。
【0023】
前記無機粒子が、金、銀、銅又は白金のうちの少なくとも1種の金属の粒子であること、が好ましい。このような構成によれば、分散性に優れる金属コロイド分散液が得られ、これを用いれば優れた導電性を有する導電性被膜を得ることができる。
【0024】
また、本発明は、上記の本発明のコロイド分散液を含むインクジェット式用インクにも関する。本発明のコロイド分散液は、上記のように分散性及びインクジェット吐出性に優れるため、インクジェット式用インクに用いた場合には、安定した印字が可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、無機粒子と、無機粒子の表面の少なくとも一部に付着している有機物(分散剤)と、分散媒と、を含むコロイド分散液において、分散媒の最適な組合せによって分散性及びインクジェット吐出性に優れるコロイド分散液を提供することができる。加えて、本発明によれば、上記のコロイド分散液を用いることにより、基材への密着性に優れる被膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、(1)本発明のコロイド分散液の好適な一実施形態としての金属コロイド分散液、(2)前記金属コロイド分散液の製造方法の好適な一実施形態、並びに(3)前記金属コロイド分散液を用いた被膜の製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、本発明の一実施形態を示すに過ぎずこれらによって本発明が限定されるものではなく、また、重複する説明は省略することがある。
【0027】
(1)金属コロイド分散液
まず、本発明のコロイド分散液の好適な実施形態について説明する。本実施形態の金属コロイド分散液は、
金属粒子と、
前記金属粒子の表面の少なくとも一部に付着しているアミン及びカルボン酸を含む有機物と、
炭化水素及びアルコールを含み、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である分散媒と、
を含むこと、
を特徴とする金属コロイド分散液を提供する。
【0028】
このような構成を有する本実施形態の金属コロイド分散液においては、メカニズム等の明確な理由は定かではないが、アミンとカルボン酸という性質が異なる2種類の有機物を含む場合、それらの有機物は複雑に作用すると考えられる。これらのような有機物の一分子内におけるアミノ基及びカルボキシル基は、比較的高い極性を有し、水素結合による相互作用を生じ易いが、これら官能基以外の部分は比較的低い極性を有する。更に、アミノ基及びカルボキシル基は、それぞれアルカリ性的性質及び酸性的性質を示し易い。したがって、これらのような有機物が、複雑に混合した状態で、無機粒子の表面の少なくとも一部に局在化(付着)すると(即ち、無機粒子の表面の少なくとも一部を被覆すると)、その金属粒子の分散媒中における分散状態は、分散媒の性質によって敏感に変化すると考えられる。そして、性質の異なる2種類の分散媒を用いることにより、有機物と分散媒と無機粒子とが十分に親和させることができ、有機物との組合せにおいて2種類の分散媒が無機粒子の分散性を著しく向上させるものと推測される。即ち、本実施形態の金属コロイド分散液によれば、特定の組合せの有機物と特定の組合せの分散媒を含んでいるので、金属コロイド分散液中での金属粒子の分散性を向上させることができ、したがって、例えば金属コロイド分散液中の金属粒子の含有量を増やしても金属コロイド粒子が凝集しにくく、良好な分散性及びインクジェット吐出性を発揮することができる。
【0029】
ここで、従来の金属コロイド分散液では、上述のように、有機物の組合せによって金属コロイド分散液の分散性等を向上させようとする提案がなされており、一定の効果は得られていたものの、更に、分散媒の組合せについては具体的には提案されておらず、未だ改善の余地があった。
【0030】
これに対し、本実施形態の金属コロイド分散液は、「金属粒子の表面の少なくとも一部に付着しているアミン及びカルボン酸を含む有機物」に加えて、上記のような「炭化水素及びアルコールを含み、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である分散媒」を含むことから、金属粒子の分散性に著しく優れ、良好なインクジェット吐出性を発揮することができる。また、本実施形態の金属コロイド分散液は金属粒子の分散性及びインクジェット吐出性に優れるため、当該金属コロイド分散液を基材上に塗布した場合(特にインクジェット方式により塗布した場合)に、金属粒子が凝集しにくく良好に分散した状態で基材上に吐出されるため、金属粒子と基材の接触点が増し、更に、乾燥、焼成によって、金属粒子同士がより緻密にパッキングされた状態で含まれる被膜が形成され、よって基材への密着性に優れた被膜が得られる。
【0031】
例えば、本発明者らは、金属粒子を含む分散液から、金属粒子と有機物とで構成される金属コロイド粒子を主成分とする固形分を取り出し、当該固形分と分散媒とを混合して本実施形態の金属コロイド分散液を調製して容器中に静置し、沈殿の有無及び上澄みの状態を目視で観察する評価方法により、従来の金属コロイド分散液に比較して、本実施形態の金属コロイド分散液(具体的には、後述する実施例の金属コロイド分散液)が分散性に優れることを確認している。
【0032】
また、本発明者らは、市販のインクジェット式プリンタを用いて、均一な間隔で前後左右において重ならないドットパターンで、本実施形態の金属コロイド分散液を吐出させる評価方法により、従来の金属コロイド分散液に比較して、本実施形態の金属コロイド分散液(具体的には、後述する実施例の金属コロイド分散液)がインクジェット吐出性に優れることを確認している。
【0033】
更に、本発明者らは、テープ剥離試験によって、従来の金属コロイド分散液により得られる被膜に比較して、本実施形態の金属コロイド分散液により得られる被膜(具体的には、後述する実施例の被膜)が基材への密着性に優れることを確認している。
【0034】
本実施形態の金属コロイド分散液には、固形分の一部として、後述する金属粒子がコロイド化した金属コロイド粒子が含まれるが、かかる金属コロイド粒子の形態に関しては、例えば、金属粒子の表面に有機物が付着して構成されている金属コロイド粒子、上記金属粒子をコアとして、その表面が有機物で被覆されて構成されている金属コロイド粒子、金属粒子と有機物とが均一に混合されて構成されている金属コロイド粒子等が挙げられるが、特に限定されない。なかでも、金属粒子をコアとして、その表面が有機物で被覆されて構成されている金属コロイド粒子、又は金属粒子と有機物とが均一に混合されて構成されている金属コロイド粒子が好ましい。当業者は、上述した形態を有する金属コロイド粒子を、当該分野における周知技術を用いて適宜調製することができる。
【0035】
本実施形態の金属コロイド分散液において、好ましい固形分の濃度は1〜70質量%である。固形分の濃度が1質量%以上であれば、金属コロイド分散液における金属の含有量を確保することができ、導電効率が低くならない。また、固形分の濃度が70質量%以下であれば、金属コロイド分散液の粘度が増加せず取り扱いが容易で、工業的に有利である。より好ましくは、固形分の濃度が10〜65質量%である。
【0036】
なお、ここでいう金属コロイド分散液の「固形分」とは、金属コロイド分散液(乃至は金属粒子を含む分散液)から、例えばアルコール添加や遠心分離による凝集、沈降及びデカンテーションによるアルコールや分散媒の除去の後に得られ、無機粒子と有機物とで構成されるコロイド粒子を主成分とし、通常は、金属粒子、残存有機物及び残留還元剤等を含むものである。
【0037】
本実施形態の金属コロイド分散液の粘度は、1〜1000cpsの粘度範囲であることが望ましく、5〜900cpsの粘度範囲がより好ましく、30〜800cpsの粘度範囲で、あることが特に好ましい。当該粘度範囲とすることにより、基材上に金属コロイド分散液を塗布する方法、又は、金属コロイド分散液を用いて基材上に描画する方法として幅広い方法を適用することができる。例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー方式、バーコート法、スピンコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、刷毛による塗布方式、流延法、フレキソ法、グラビア法、又はシリンジ法等のなかから適宜選択して採用することができるようになる。なお、粘度の調整は、固形分濃度の調整、各成分の配合比の調整、増粘剤の添加等によって行うことができる。インクジェット法の場合、2〜100cpsが好ましく、3〜50cpsがより好ましい。
【0038】
ここで、本実施形態の金属コロイド分散液の粘度は、振動式粘度計(例えばCBC(株)製のVM−100A−L)により測定されるものである。測定は振動子に液を浸漬させて行い、測定温度は常温(20〜25℃)とすればよい。
次に、本実施形態の金属コロイド分散液の各成分について説明する。
【0039】
(1−1)金属粒子について
本実施形態の金属コロイド分散液の金属粒子としては、特に限定されるものではないが、本実施形態の金属コロイド分散液を用いて得られる被膜の導電性を良好にすることができるため、亜鉛よりもイオン化傾向が小さい(貴な)金属であるのが好ましい。
【0040】
かかる金属としては、例えば金、白金、銀、銅、パラジウム、スズ、ニッケル及び鉄のうちの少なくとも1種が挙げられる。上記金属としては、更には、銅又は銅よりもイオン化傾向が小さい(貴な)金属、即ち、金、白金、銀及び銅のうちの少なくとも1種であるのが好ましい。これらの金属は単独で、用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。併用する方法としては、複数の金属を含む合金粒子を用いる場合や、コア−シェル構造や多層構造を有する金属粒子を用いる場合がある。
【0041】
例えば、上記金属コロイド分散液として銀コロイド分散液を用いる場合、本実施形態の金属コロイド分散液を用いて形成した被膜の導電率は良好となるが、マイグレーションの問題を考慮して、銀及びその他の金属からなる混合コロイド分散液を用いることによって、マイグレーションを起こりにくくすることができる。当該「その他の金属」としては、上述のイオン化列が水素より貴である金属、即ち金、銅、白金、パラジウムが好ましい。
【0042】
ここで、本実施形態の金属コロイド分散液における金属粒子(乃至は金属コロイド粒子)の平均粒径は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、粒径で、0.7〜1000nmであればよく、1〜200nmであるのが好ましく、更には、2〜100nmであるのがより好ましい。金属粒子の平均粒径が0.7nm以上であれば、良好な被膜を形成可能な金属コロイド分散液が得られ、金属粒子製造がコスト高とならず実用的である。また、1000nm以下であれば、金属粒子の分散性が経時的に変化しにくく、好ましい。インクジェット法で吐出する場合には、大きな粒子が吐出の妨げになることがあるため、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
【0043】
なお、本実施形態の金属コロイド分散液における金属粒子の粒径は固形分濃度によって変動し、一定とは限らない。また、金属コロイド分散液が、任意成分として、後述する樹脂成分、有機溶剤、増粘剤又は表面張力調整剤等を含む場合、平均粒径が1000nm超の金属コロイド粒子成分を含む場合があるが、沈降を生じたり、特にインクジェットの吐出の妨げになったりせず、本発明の効果を著しく損なわない成分であればかかる1000nm超の平均粒径を有する粒子成分を含んでもよい。
【0044】
ここで、本実施形態の金属コロイド分散液における金属粒子の粒径は、動的光散乱法又は小角X線散乱法で測定することができる。後述する実施例においては、小角X線散乱法を用い、より具体的には、理学電機(株)製のRINT−UltimaIIIを用いて、透過法で2θが0.1〜4°の範囲で測定した。この場合、試料は、X線が透過する薄いポリイミドを貼ったアクリル樹脂製の自家製セルに金属コロイド分散液を入れて作製した。また、理学電機(株)製のNanoSolver(Ver.3.4)を用い、得られた散乱スペクトルを用いて、球を散乱体モデルとしてフィッティングすることにより算出された平均サイズを粒径とした。
【0045】
(1−2)金属粒子の表面の少なくとも一部に付着している有機物
本実施形態の金属コロイド分散液において、金属粒子の表面の少なくとも一部に付着している有機物、即ち、金属コロイド粒子中の「有機物」は、上記金属粒子とともに実質的に金属コロイド粒子を構成する。当該有機物には、金属中に最初から不純物として含まれる微量有機物、後述する製造過程で混入して金属成分に付着した微量有機物、洗浄過程で除去しきれなかった残留還元剤、残留分散剤等のように、金属粒子に微量付着した有機物等は含まれない概念である。なお、上記「微量」とは、具体的には、金属コロイド粒子中1質量%未満が意図される。
【0046】
本実施形態における金属コロイド粒子は、当該有機物を含んでいるため、金属コロイド分散液中での分散性が高い。そのため、金属コロイド分散液中の金属粒子の含有量を増大させても金属コロイド粒子が凝集しにくく、その結果、良好な分散性が保たれる。
【0047】
上記有機物としては、金属粒子を被覆して金属粒子の凝集を防止するとともに金属コロイド粒子を形成することが可能な有機物であり、被覆の形態については特に規定しないが、本実施形態においては、分散性および導電性等の観点から、アミン及びカルボン酸を含む有機物を用いる。なお、これらの有機物は、金属粒子と化学的あるいは物理的に結合している場合、アニオンやカチオンに変化していることも考えられ、本実施形態においては、これらの有機物に由来するイオンや錯体等も上記有機物に含まれる。
【0048】
アミンとしては、モノアミン及びポリアミンが挙げられる。
モノアミンとしては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン等のアルキルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等のシクロアルキルアミン、アニリン等のアリルアミン等の第1級アミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン等の第2級アミン、トリプロピルアミン、ジメチルプロパンジアミン、シクロヘキシルジメチルアミン、ピリジン、キノリン等の第3級アミン等が挙げられる。
【0049】
ポリアミンとしては、上記モノアミンに対応するポリアミン、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ピペラジン、ピリミジン等に対応するポリアミンが挙げられる。
【0050】
上記アミンは、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、アミン以外の官能基を含む化合物であってもよい。この場合、アミンに由来するチッ素原子の数が、アミン以外の官能基の数以上であるのが好ましい。また、上記アミンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加えて、常温での沸点が300℃以下、更には250℃以下であるのが好ましい。
【0051】
カルボン酸としては、少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物を広く用いることができ、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸、ヘキサン酸、アクリル酸、オクチル酸、オレイン酸等が挙げられる。カルボン酸の一部のカルボキシル基が金属イオンと塩を形成していてもよい。なお、当該金属イオンについては、2種以上の金属イオンが含まれていてもよい。
【0052】
上記カルボン酸は、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、カルボキシル基以外の官能基を含む化合物であってもよい。この場合、カルボキシル基の数が、カルボキシル基以外の官能基の数以上であるのが好ましい。また、上記カルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加えて、常温での沸点が300℃以下、更には250℃以下であるのが好ましい。
【0053】
金属コロイド分散液中の有機物の含有量は、0.5〜50質量%であるのが好ましい。有機物の含有量が0.5質量%以上であれば、得られる金属コロイド分散液の貯蔵安定性が良くなる傾向があり、50質量%以下であれば、金属コロイド分散液の導電性が良い傾向がある。有機物のより好ましい含有量は0.5〜30質量%であり、更に好ましい含有量は1〜15質量%である。
【0054】
アミンとカルボン酸とを併用する場合の組成比(質量)としては、1/99〜99/1の範囲で任意に選択することができるが、好ましくは10/90〜90/10であり、更に好ましくは20/80〜80/20である。なお、アミン又はカルボン酸は、それぞれ複数種類のアミン又はカルボン酸を用いてもよい。
【0055】
(1−3)分散媒
本実施形態の金属コロイド分散液に含まれる分散媒は、「炭化水素及びアルコールを含み、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である分散媒」である。確実に分散性を向上させるという観点から、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が脂環式化合物であるのが好ましく、更により確実に分散性を向上させるという観点からは、前記炭化水素及び前記アルコールのいずれもが脂環式化合物であること(即ち、脂環式炭化水素及び脂環式アルコールの組合せを用いること)が好ましい。
【0056】
炭化水素としては、脂肪族炭化水素、環状炭化水素及び脂環式炭化水素等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
脂肪族炭化水素としては、例えば、テトラデカン、オクタデカン、ヘプタメチルノナン、テトラメチルペンタデカン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トリデカン、メチルペンタン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。
【0058】
環状炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0059】
更に、脂環式炭化水素としては、例えば、リモネン、ジペンテン、テルピネン、ターピネン(テルピネンともいう。)、ネソール、シネン、オレンジフレーバー、テルピノレン、ターピノレン(テルピノレンともいう。)、フェランドレン、メンタジエン、テレベン、ジヒドロサイメン、モスレン、イソテルピネン、イソターピネン(イソテルピネンともいう。)、クリトメン、カウツシン、カジェプテン、オイリメン、ピネン、テレビン、メンタン、ピナン、テルペン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0060】
また、アルコールは、OH基を分子構造中に1つ以上含む化合物であり、脂肪族アルコール、環状アルコール及び脂環式アルコールが挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、OH基の一部は、本発明の効果を損なわない範囲でアセトキシ基等に誘導されていてもよい。
【0061】
脂肪族アルコールとしては、例えば、ヘプタノール、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等)、デカノール(1−デカノール等)、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、オクタデシルアルコール、ヘキサデセノール、オレイルアルコール等の飽和又は不飽和C6−30脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0062】
環状アルコールとしては、例えば、クレゾール、オイゲノール等が挙げられる。
【0063】
更に、脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール等のシクロアルカノール、テルピネオール(α、β、γ異性体、又はこれらの任意の混合物を含む。)、ジヒドロテルピネオール等のテルペンアルコール(モノテルペンアルコール等)、ジヒドロターピネオール、ミルテノール、ソブレロール、メントール、カルベオール、ペリリルアルコール、ピノカルベオール、ソブレロール、ベルベノール等が挙げられる。
【0064】
金属コロイド分散液中の分散媒の含有量は、粘度などの所望の特性によって調整すれば良く、金属コロイド分散液中の分散媒の含有量は、1〜99質量%であるのが好ましい。分散媒の含有量が1質量%以上であれば、金属微粒子を分散させることができ、99質量%以下であれば、金属微粒子の添加の効果を得ることができる。分散媒のより好ましい含有量は5〜95質量%であり、更に好ましい含有量は10〜90質量%である。
【0065】
炭化水素とアルコールとの組成比(質量)としては、1/99〜99/1の範囲で任意に選択することができるが、好ましくは3/97〜97/3であり、更に好ましくは5/95〜95/5である。なお、炭化水素又はアルコールは、それぞれ複数種類の炭化水素又はアルコールを用いてもよい。
【0066】
(1−4)その他の成分
本実施形態の金属コロイド分散液には、上記の成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、密着性、乾燥性又は印刷性等の機能を付与するために、例えばバインダーとしての役割を果たすオリゴマー成分、樹脂成分、有機溶剤(固形分の一部を溶解又は分散していてよい。)、界面活性剤、増粘剤又は表面張力調整剤等の任意成分を添加してもよい。かかる任意成分としては、特に限定されない。
【0067】
樹脂成分としては,例えば、ポリエステル系樹脂、ブロックドイソシアネート等のポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン系樹脂又はテルペン系樹脂等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
有機溶剤としては、上記(1−3)分散媒として挙げられたものを除き、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、重量平均分子量が200以上1,000以下の範囲内であるポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、重量平均分子量が300以上1,000以下の範囲内であるポリプロピレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、グリセリン又はアセトン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
増粘剤としては、例えば、クレイ、ベントナイト又はヘクトライト等の粘土鉱物、例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂又はブロックドイソシアネート等のエマルジョン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム又はグアーガム等の多糖類等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
上記有機物とは異なる界面活性剤を添加してもよい。多成分溶媒系の金属コロイド分散液においては、乾燥時の揮発速度の違いによる被膜表面の荒れ及び固形分の偏りが生じ易い。本実施形態の金属コロイド分散液に界面活性剤を添加することによってこれらの不利益を抑制し、均一な導電性被膜を形成することができる金属コロイド分散液が得られる。
【0071】
本実施形態において用いることのできる界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れを用いることができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。少量の添加量で効果が得られるので、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0072】
(2)金属コロイド分散液の製造方法
本実施形態の金属コロイド分散液を製造するためには、まず、(2−1)分散剤としての有機物で被覆された金属粒子(金属コロイド粒子)を調製し、ついで,(2−2)この金属粒子に本発明の分散媒を添加、混合することにより、本実施形態の金属コロイド分散液を得ることができる。
【0073】
(2−1)分散剤としての有機物で被覆された金属粒子の調製方法
本実施形態の分散剤としての有機物で被覆された金属粒子を調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、金属粒子を含む分散液を調製し、次いで、その分散液の洗浄を行う方法等が挙げられる。金属粒子を含む分散液を調製する工程としては、例えば、下記のように、溶媒中に溶解させた金属塩(又は金属イオン)を還元させればよく、還元手順としては、化学還元法に基づく手順を採用すればよい。
【0074】
即ち、上記のような分散剤としての有機物で被覆された金属粒子は、金属粒子を構成する金属の金属塩と、分散剤としての有機物と、溶媒(基本的にトルエン等の有機系であるが、水を含んでいてもよい。)と、を含む原料液(成分の一部が溶解せず分散していてもよい。)を還元することにより調製することができる。この還元によって、分散剤としての有機物が金属粒子の表面の少なくとも一部に付着している金属コロイド粒子が得られ、これを後述する工程において分散媒に添加すると、本実施形態の所望する金属コロイド分散液が得られる。
【0075】
分散剤としての有機物で被覆された金属粒子を得るための出発材料としては、種々の公知の金属塩又はその水和物を用いることができ、例えば、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等の銀塩;例えば、塩化金酸、塩化金カリウム、塩化金ナトリウム等の金塩;例えば、塩化白金酸、塩化白金、酸化白金、塩化白金酸カリウム等の白金塩;例えば、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、酸化パラジウム、硫酸パラジウム等のパラジウム塩等が挙げられるが、適当な分散媒中に溶解し得、かつ還元可能なものであれば特に限定されない。また、これらは単独で用いても複数併用してもよい。
【0076】
また、上記原料液においてこれらの金属塩を還元する方法は特に限定されず、例えば、還元剤を用いる方法、紫外線等の光、電子線、超音波又は熱エネルギーを照射する方法等が挙げられる。なかでも、操作の容易の観点から、還元剤を用いる方法が好ましい。
【0077】
上記還元剤としては、例えば、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニドン、ヒドラジン等のアミン化合物;例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヨウ素化水素、水素ガス等の水素化合物;例えば、一酸化炭素、亜硫酸等の酸化物;例えば、硫酸第一鉄、酸化鉄、フマノレ酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸スズ、塩化スズ、二リン酸スズ、シュウ酸スズ、酸化スズ、硫酸スズ等の低原子価金属塩;例えば、エチレングリコール、グリセリン、ホルムアルデヒド、ハイドロキノン、ピロガロール、タンニン、タンニン酸、サリチル酸、D−グルコース等の糖等が挙げられるが、分散媒に溶解し上記金属塩を還元し得るものであれば特に限定されない。上記還元剤を使用する場合は、光及び/又は熱を加えて還元反応を促進させてもよい。
【0078】
上記金属塩、分散剤としての有機物、溶媒及び還元剤を用いて、分散剤としての有機物で被覆された金属粒子を調製する具体的な方法としては、例えば、上記金属塩を有機溶媒(例えばトルエン等)に溶かして金属塩溶液を調製し、当該金属塩溶液に分散剤としての有機物を添加し、ついで、ここに還元剤が溶解した溶液を徐々に滴下する方法等が挙げられる。
【0079】
上記のようにして得られた分散剤としての有機物で被覆された金属粒子を含む分散液には、金属粒子の他に、金属塩の対イオン、還元剤の残留物や分散剤が存在しており、液全体の電解質濃度が高い傾向にある。このような状態の液は、電導度が高いので、金属粒子の凝析が起こり、沈殿し易い。あるいは、沈殿しなくても、金属塩の対イオン、還元剤の残留物、又は分散に必要な量以上の過剰な分散剤が残留していると、導電性を悪化させるおそれがある。そこで、上記金属粒子を含む溶液を洗浄して余分な残留物を取り除くことにより、分散剤としての有機物で被覆された金属粒子を確実に得ることができる。
【0080】
上記洗浄方法としては、例えば、分散剤としての有機物で被覆された金属粒子を含む分散液を一定時間静置し、生じた上澄み液を取り除いた上で、アルコール(メタノール等)を加えて再度撹枠し、更に一定期間静置して生じた上澄み液を取り除く工程を幾度か繰り返す方法、上記の静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過装置やイオン交換装置等により脱塩する方法等が挙げられる。このような洗浄によって有機溶媒を除去することにより、本実施形態の分散剤としての有機物で被覆された金属粒子を得ることができる。
【0081】
(2−2)金属コロイド分散液の製造方法
本実施形態の金属コロイド分散液は、上記(2−1)において得た分散剤としての有機物で被覆された金属粒子と、上記本実施形態で説明した分散媒(炭化水素及びアルコールを含み、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である分散媒)と、を混合することにより得られる。
【0082】
かかる金属粒子と分散媒との混合方法は特に限定されるものではなく、攪拌機やスターラー等を用いて従来公知の方法によって行うことができる。スパチュラのようなもので撹拌したり、適当な出力の超音波ホモジナイザーを当ててもよい。
【0083】
複数の金属を含む金属コロイド分散液を得る場合、その製造方法としては特に限定されず、例えば、銀とその他の金属とからなる金属コロイド分散液を製造する場合には、上記(2−1)における分散剤としての有機物で被覆された金属粒子の調製において、銀粒子を含む分散液と、その他の金属粒子を含む分散液とを別々に製造し、その後混合してもよく、銀イオン溶液とその他の金属イオン溶液とを混合し、その後に還元してもよい。
【0084】
(3)被膜(被膜付基材)及びその製造方法
本実施形態の金属コロイド分散液を用いれば、上記金属コロイド分散液を基材に塗布する金属コロイド分散液塗布工程と、前記基材に塗布した前記金属コロイド分散液を300℃以下の温度で焼成して導電性被膜を形成する導電性被膜形成工程と、により、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成される導電性被膜と、を含む導電性被膜付基板を製造することができる。
【0085】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、前記金属コロイド分散液塗布工程での金属コロイド分散液として、上述した本実施形態の金属コロイド分散液を用いれば、基材に対して優れた密着性を有する導電性被膜がより確実に得られることを見出した。
【0086】
ここで、本実施形態の「金属コロイド分散液を基材に塗布する金属コロイド分散液塗布工程」における「基材に塗布」とは、金属コロイド分散液を面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗布されて、加熱により焼成される前の状態の金属コロイド分散液からなる塗膜の形状は、所望する形状にすることが可能である。したがって、加熱による焼成後の本実施形態の導電性被膜は、面状の導電性被膜及び線状の導電性被膜のいずれも含む概念であり、これら面状の導電性被膜及び線状の導電性被膜は、連続していても不連続であってもよく、連続する部分と不連続の部分とを含んでいてもよい。
【0087】
本実施形態において用いることのできる基材としては、金属コロイド分散液を塗布して加熱により焼成して導電性被膜を搭載することのできる、少なくとも1つの主面を有するものであれば、特に制限はないが、耐熱性に優れた基材であるのが好ましい。
【0088】
このような基材を構成する材料としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、セラミックス、ガラス又は金属等を挙げることができる。また、基材は、例えば板状又はストリップ状等の種々の形状であってよく、リジッドでもフレキシブルでもよい。基材の厚さも適宜選択することができる。接着性若しくは密着性の向上又はその他の目的ために、表面層が形成された基材や親水化処理等の表面処理を施した基材を用いてもよい。
【0089】
金属コロイド分散液を基材に塗布する工程では、種々の方法を用いることが可能であるが、上述のように、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー式、バーコート式、スピンコート式、インクジェット式、ディスペンサー式、刷毛による塗布方式、流延式、フレキソ式、グラビア式、又はシリンジ式等のなかから適宜選択して用いることができる。なかでも、本実施形態の金属コロイド分散液は、上述のようにインクジェット吐出性に優れるため、インクジェット式を用いるのが好ましい。
【0090】
上記のように塗布した後の塗膜を、基材を損傷させない範囲で、例えば300℃以下の温度に加熱することにより焼成し、本実施形態の導電性被膜(導電性被膜付基材)を得ることができる。本実施形態においては、先に述べたように、本実施形態の金属コロイド分散液を用いるため、基材に対して優れた密着性を有する導電性被膜がより確実に得られる。
【0091】
本実施形態においては、金属コロイド分散液がバインダー成分を含む場合は、導電性被膜の強度向上及び基材との接着力向上等の観点から、バインダー成分も焼結することになるが、場合によっては、各種印刷法へ適用するために金属コロイド分散液の粘度を調整することをバインダー成分の主目的として、焼成条件を制御してバインダー成分を全て除去してもよい。
【0092】
上記焼成を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知のギアオーブン等を用いて、基材上に塗布または描画した上記金属コロイド分散液の温度が、例えば300℃以下となるように焼成することによって導電性被膜を形成することができる。上記焼成の温度の下限は必ずしも限定されず、基材上に導電性被膜を形成できる温度であって、かつ、本発明の効果を損なわない範囲の温度であることが好ましい(本発明の効果を損なわない範囲で一部が残存していてもよいが、望ましくは全て除去されるのが好ましい。)。
【0093】
本実施形態の金属コロイド分散液によれば、例えば150℃程度の低温加熱処理でも高い導電性を発現する導電性被膜を形成することができるため、比較的熱に弱い基材上にも導電性被膜を形成することができる。また、焼成時間は特に限定されるものではなく、焼成温度に応じて、基材上に導電性被膜を形成できる焼成時間であればよい。
【0094】
本実施形態においては、上記基材と導電性被膜との密着性を更に高めるため、上記基材の表面処理を行ってもよい。上記表面処理方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等のドライ処理を行う方法、基材上にあらかじめプライマー層や導電性ペースト受容層を設ける方法等が挙げられる。
【0095】
このようにして本実施形態の導電性被膜(導電性被膜付基材)を得ることができる。このようにして得られる本実施形態の導電性被膜は、例えば、0.1〜5μm程度、より好ましくは0.1〜1μmである。本実施形態の金属コロイド分散液を用いれば、厚さが0.1〜5μm程度であっても、十分な導電性を有する導電性被膜が得られる。なお、本実施形態の導電性被膜の体積抵抗値は、15μΩ・cm以下である。
【0096】
なお、本実施形態の導電性被膜の厚みtは、例えば、下記式を用いて求めることはできる(導電性被膜の厚さtは、レーザー顕微鏡(例えば、キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9510)で測定することも可能である。)。
式:t=m/(d×M×w)
m:導電性被膜重量(スライドガラス上に形成した導電性被膜の重さを電子天秤で測定)
d:導電性被膜密度(g/cm)(銀の場合は10.5g/cm
M:導電性被膜長(cm)(スライドガラス上に形成した導電性被膜の長さをJIS1級相当のスケールで測定)
w:導電性被膜幅(cm)(スライドガラス上に形成した導電性被膜の幅をJIS1級相当のスケールで測定)
【0097】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、無機粒子として金属粒子を採用した金属コロイド分散液について説明したが、例えば、導電性、熱伝導性、誘電性、イオン伝導性等に優れたスズドープ酸化インジウム、アルミナ、チタン酸バリウム、鉄リン酸リチウム等の無機粒子を用いることもできる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の金属コロイド分散液及び本発明の導電性被膜(導電性被膜付基材)の製造方法について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0099】
≪実施例1≫
トルエン400mLとヘキシルアミン100gとを混合してマグネティックスターラーで十分に攪拌した。ここに、攪拌を行いながら硝酸銀(和光純薬工業(株)製の試薬特級)50gを添加し、硝酸銀が溶解した後に、オレイン酸20gとトルエン100mL及びヘキサン酸40gを順次添加し、硝酸銀のトルエン溶液を得た。この硝酸銀のトルエン溶液に、イオン交換水100mLに水素化ホウ素ナトリウム5gを添加して調製した5g/mLの水素化ホウ素ナトリウム水溶液を滴下し、銀微粒子(12nm)を含む分散液を得た。なお、銀微粒子の粒径は上述の方法で測定した。
【0100】
銀粒子を含む分散液の攪拌を一時間続けた後、メタノール1000mLを添加して銀微粒子を凝集、沈降させた。更に、遠心分離にて銀微粒子を完全に沈降させた後、上澄みであるトルエン及びメタノールをデカンテーションで除去した。残った沈降物に更にヘキサンを添加して銀微粒子を分散させ、再度メタノールを添加して上記操作を繰り返し、最終的にヘキサン及びメタノールを除去し、過剰の有機物を除去して、銀微粒子10gを得た。
【0101】
メンタジエンの異性体混合物であるジペンテンT(日本テルペン化学(株)製)及びα,β,γ−テルピネオールの異性体混合物であるテルピネオールC(日本テルペン化学(株)製)の40:60(質量比)混合分散媒1.8gを、上記の銀微粒子1.2gに添加し、攪拌により混合することによって本発明の銀コロイド分散液1を得た。銀コロイド分散液1の粘度を、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表1に示した。
【0102】
≪実施例2≫
ジペンテンTとテルピネオールCとの混合比を95:5(質量比)とした以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液2を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0103】
≪実施例3≫
ジペンテンTとテルピネオールCとの混合比を5:95(質量比)とした以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液3を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0104】
≪実施例4≫
テルピネオールCに代えて、テルピネオールの二重結合部分に水素添加を行った構造を有する化合物の異性体混合物であるジヒドロテルピネオール(日本テルペン化学(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液4を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0105】
≪実施例5≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、メンタジエン及びテルペンアルコールの混合分散媒であり、総アルコール量が70質量%であるパインオイルNT−10(日本テルペン化学(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液5を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0106】
≪実施例6≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、メンタジエン及びテルペンアルコールの混合分散媒であり、総アルコール量が90質量%であるパインオイルNT−20(日本テルペン化学(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液6を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0107】
≪実施例7≫
ジペンテンTに代えて、トルエンを用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液7を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0108】
≪実施例8≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとベンジルアルコールの90:10(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液8を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0109】
≪実施例9≫
ジペンテンTに代えて、テトラデカンを用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液9を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0110】
≪実施例10≫
ベンジルアルコールに代えて、オクタノールを用いた以外は、実施例8と同様にして、本発明の銀コロイド分散液10を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0111】
≪実施例11≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、トルエンとオクタノールの80:20(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液11を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0112】
≪実施例12≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テトラデカンとベンジルアルコールの80:20(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液12を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0113】
≪実施例13≫
トルエン400mLとブチルアミン100gとを混合してマグネティックスターラーで十分に攪拌した。ここに、攪拌を行いながら硝酸銀(和光純薬工業(株)製の試薬特級)50gを添加し、硝酸銀が溶解した後に、オレイン酸60g及びトルエン100mLを添加し、硝酸銀のトルエン溶液を得た。この硝酸銀のトルエン溶液に、イオン交換水100mLに水素化ホウ素ナトリウム5gを添加して調製した5g/mLの水素化ホウ素ナトリウム水溶液を滴下し、その他は実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液13を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0114】
≪実施例14≫
トルエン400mLとブチルアミン100gとを混合してマグネティックスターラーで十分に攪拌した。ここに、攪拌を行いながら硝酸銀(和光純薬工業(株)製の試薬特級)50gを添加し、硝酸銀が溶解した後に、オレイン酸20gとトルエン100mL及びヘキサン酸40gを順次添加し、硝酸銀のトルエン溶液を得た。この硝酸銀のトルエン溶液に、イオン交換水100mLに水素化ホウ素ナトリウム5gを添加して調製した5g/mLの水素化ホウ素ナトリウム水溶液を滴下し、その他は実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液14を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0115】
≪実施例15≫
トルエン400mLとブチルアミン100gとを混合してマグネティックスターラーで十分に攪拌した。ここに、攪拌を行いながら硝酸銀(和光純薬工業(株)製の試薬特級)50gを添加し、硝酸銀が溶解した後に、オレイン酸20gとトルエン100mL及び2−エチルヘキサン酸40gを順次添加し、硝酸銀のトルエン溶液を得た。この硝酸銀のトルエン溶液に、イオン交換水100mLに水素化ホウ素ナトリウム5gを添加して調製した5g/mLの水素化ホウ素ナトリウム水溶液を滴下し、その他は実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液15を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0116】
≪実施例16≫
ジペンテンT及びテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒0.9gを、上記の銀微粒子2.1gに添加した以外は実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液16を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0117】
≪実施例17≫
ジペンテンT及びテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒2.7gを、上記の銀微粒子0.3gに添加した以外は実施例1と同様にして、本発明の銀コロイド分散液17を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表1に示した。
【0118】
≪比較例1≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テルピネオールCのみを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較用銀コロイド分散液1を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表2に示した。
【0119】
≪比較例2≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTのみを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較用銀コロイド分散液2を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表2に示した。
【0120】
≪比較例3≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジヒドロテルピネオール(日本テルペン化学(株)製)のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較用銀コロイド分散液3を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表2に示した。
【0121】
≪比較例4≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、トルエンのみを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較用銀コロイド分散液4を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表2に示した。
【0122】
≪比較例5≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ヘキサンのみを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較用銀コロイド分散液5を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表2に示した。
【0123】
≪比較例6≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テトラデカンのみを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較用銀コロイド分散液5を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表2に示した。
【0124】
≪比較例7≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ヘキサンとオクタノールの90:10(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較用銀コロイド分散液5を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表2に示した。
【0125】
≪実施例18≫
和光純薬工業(株)製のヘキシルアミン5.8g、ドデシルアミン0.89g、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン3.9g及びオレイン酸0.25gを、混合してマグネティックスターラーで十分に攪拌した。ここにしゅう酸銀(和光純薬工業(株)製の試薬特級)7.6gを添加し、マグネティックスターラーで十分に攪拌した。約1時間攪拌すると、得られた混合物は、粘性を有する固形物に変化した。更にこの固形物を100℃で10分間加熱・攪拌すると、ヘキシルアミン、ドデシルアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン及びオレイン酸を有機物(分散剤)とする銀微粒子が得られた。
【0126】
これにメタノール10mLを加え、銀微粒子を凝集及び沈降させた。更に遠心分離にて銀微粒子を完全に沈降させた後、上澄みであるメタノールと過剰な有機物を除去した。再びメタノールを加えて沈降物を攪拌し、上記の操作を繰返し、最終的にメタノールと過剰な有機物を取り除いて銀微粒子を得た。
【0127】
メンタジエンの異性体混合物であるジペンテンT(日本テルペン化学(株)製)及びα,β,γ−テルピネオールの異性体混合物であるテルピネオールC(日本テルペン化学(株)製)の40:60(質量比)混合分散媒4.9gを、上記の銀微粒子5.3gに添加し、攪拌により混合することによって本発明の銀コロイド分散液18を得た。なお、ここで銀微粒子の粒径を上述の方法で測定した。また、銀コロイド分散液18の粘度を、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表3に示した。
【0128】
≪実施例19≫
ジペンテンTとテルピネオールCとの混合比を95:5(質量比)とした以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液19を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表3に示した。
【0129】
≪実施例20≫
ジペンテンTとテルピネオールCとの混合比を5:95(質量比)とした以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液20を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表3に示した。
【0130】
≪実施例21≫
テルピネオールCに代えて、テルピネオールの二重結合部分に水素添加を行った構造を有する化合物の異性体混合物であるジヒドロテルピネオール(日本テルペン化学(株)製)を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液21を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表3に示した。
【0131】
≪実施例22≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、メンタジエン及びテルペンアルコールの混合分散媒であり、総アルコール量が70質量%であるパインオイルNT−10(日本テルペン化学(株)製)を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液22を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表3に示した。
【0132】
≪実施例23≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テトラデカンとテルピネオールCの70:30(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液23を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表3に示した。
【0133】
≪実施例24≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テトラデカンとテルピネオールCの30:70(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液24を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表3に示した。
【0134】
≪実施例25≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テトラデカンとジヒドロテルピネオールの70:30(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液25を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表3に示した。
【0135】
≪実施例26≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テトラデカンとジヒドロテルピネオールの30:70(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液26を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表3に示した。
【0136】
≪実施例27≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとノナノールの50:50(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液27を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表3に示した。
【0137】
≪実施例28≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとデカノールの50:50(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液28を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表3に示した。
【0138】
≪実施例29≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとテルピネオールCと1,3−ブチレングリコールの65:20:15(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液29を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0139】
≪実施例30≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとテルピネオールCと1,3−ブチレングリコールの50:25:25(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液30を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0140】
≪実施例31≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとテルピネオールCと1,3−ブチレングリコールの45:45:10(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液31を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0141】
≪実施例32≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとジヒドロテルピネオールと1,3−ブチレングリコールの65:20:15(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液32を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0142】
≪実施例33≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとジヒドロテルピネオールと1,3−ブチレングリコールの50:25:25(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液33を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0143】
≪実施例34≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとジヒドロテルピネオールと1,3−ブチレングリコールの45:45:10(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液34を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0144】
≪実施例35≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとジヒドロテルピネオールと1,3−ブチレングリコールの60:25:15(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液35を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0145】
≪実施例36≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとジヒドロテルピネオールと1,3−ブチレングリコールの50:30:20(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液36を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0146】
≪実施例37≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTとテルソルブTHA−90(日本テルペン化学(株)製、アセトキシ基を持つシクロヘキサノール誘導体を含む混合物)の50:50(質量比)混合分散媒を用いた以外は、実施例18と同様にして、本発明の銀コロイド分散液37を得、振動式粘度計を用いて測定した。結果は表4に示した。
【0147】
≪比較例8≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テルピネオールCのみを用いた以外は、実施例18と同様にして、比較用銀コロイド分散液8を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表5に示した。
【0148】
≪比較例9≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジペンテンTのみを用いた以外は、実施例18と同様にして、比較用銀コロイド分散液9を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表5に示した。
【0149】
≪比較例10≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ジヒドロテルピネオールのみを用いた以外は、実施例18と同様にして、比較用銀コロイド分散液10を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表5に示した。
【0150】
≪比較例11≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、トルエンのみを用いた以外は、実施例18と同様にして、比較用銀コロイド分散液11を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表5に示した。
【0151】
≪比較例12≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、ヘキサンのみを用いた以外は、実施例18と同様にして、比較用銀コロイド分散液12を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表5に示した。
【0152】
≪比較例13≫
ジペンテンTとテルピネオールCの40:60(質量比)混合分散媒に代えて、テトラデカンのみを用いた以外は、実施例18と同様にして、比較用銀コロイド分散液13を得、振動式粘度計を用いて粘度を測定した。結果は表5に示した。
【0153】
[評価試験]
(1)分散性
上記のようにして調製した各銀コロイド分散液を容器中に静置し、24時間経過後、沈殿の有無及び上澄みの状態を目視で観察することにより、金属コロイド分散液の分散性を評価した。容器下部に沈降物がほとんど認められない場合を「1」、少しでも沈降物が認められた場合を「2」と評価した。結果は表1〜表5に示した。
【0154】
(2)インクジェット吐出性及び連続吐出性
上記のようにして調製した各銀コロイド分散液を、富士フイルム(株)製のダイマティック・マテリアルプリンタを使用し、ドット(直径約40ミクロン)を前後左右に重ならないパターンになるように縦横1cmの均一な間隔で吐出するように設定して、連続的に30分間描画した。
【0155】
初期の描画でドット間隔がほとんど一定で、各ドットの周囲にサテライトと呼ばれるような微小なドットの飛散がほとんど見られない場合は、インクジェット吐出性を「1」と評価し、ドット間隔が多少でもばらつく場合は、インクジェット吐出性を「2」と評価し、ドットを安定に吐出することがほとんど困難な場合は、インクジェット吐出性を「3」と評価した。さらに、30分経過後でもサテライトと呼ばれるような微小なドットの飛散がほとんど見られない場合は、連続吐出性を「1」と評価し、30分経過後にドット間隔が多少でもばらつく場合は、連続吐出性を「2」と評価した。インクジェット吐出性が「3」のものは連続吐出性は評価しなかった。結果は表1〜表5に示した。
【0156】
(3)フィルタ透過性
上記のようにして調製した各銀コロイド分散液を、市販のメンブレンフィルタ(0.45ミクロン)でろ過した。このときスムースにろ過できるかどうか、凝集物が見られるかどうかで銀コロイド分散液のフィルタ透過性を評価した。スムースにろ過でき、ろ過後のフィルタ表面に凝集物がほとんど見られない場合を、「1」と評価し、少しでも凝集物が認められた場合を、「2」と評価した。結果は表1〜表5に示した。
【0157】
なお、小角X線散乱で測定した粒径がフィルタの孔径よりもかなり小さいにもかかわらず、フィルタを透過しないレベルの凝集物が生じていた理由は、比較例1〜3及び比較例8〜10の金属粒子が分散性に劣り二次凝集をしているためと考えられる。また、比較例1〜3及び比較例8〜10の粒径がその他のものと比べて大きいことは、比較例1〜3及び比較例8〜10で用いた分散媒が特に金属粒子の凝集を招きやすいことを示唆している。
【0158】
(4)密着性
上記のようにして調製した各銀コロイド分散液を、市販のスライドガラス表面に、刷毛で幅約0.5〜1cm、膜厚約0.1〜0.5μmになるようにストライプ状に塗布し、200℃の電気炉で30分間加熱して取り出し、十分に冷やした後、住友スリーエム(株)製のスコッチテープ(登録商標)を被膜に貼り付け、スコッチテープの一端を除いて指の腹で十分に密着させた。
【0159】
その後、スコッチテープの一端を、被膜の表面の法線方向に(即ち、被膜に対して90°の角度で)引っ張り、スコッチテープを一気に剥がした。被膜がほとんどスコッチテープに付着せず、スライドガラス状に密着している場合は、密着性を「1」と評価し、被膜のほとんどがスコッチテープに付着し、スライドガラスから剥がれてしまった場合は、密着性を「2」と評価した。結果は表1〜表5に示した。
【0160】
【表1】

【0161】
【表2】

【0162】
【表3】

【0163】
【表4】

【0164】
【表5】

【0165】
表1〜表5に示した結果から明らかなように、本発明の金属コロイド分散液1〜37は、高い分散性、インクジェット吐出性及び連続吐出性を有していた。無機粒子の表面の少なくとも一部に付着している2種類以上(特に、アミン1種及びカルボン酸2種、又は、アミン3種及びカルボン酸1種)の有機物が、炭化水素及びアルコールを含み前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である2種類の分散媒と、親和し、高い分散性、インクジェット吐出性及び連続吐出性をもたらすと推測される。
【0166】
比較用金属コロイド分散液4〜7及び11〜13が、分散性及びフィルタ透過性に優れるにもかかわらずインクジェット吐出性に劣るのは、マクロ的には、十分な分散性が得らえており、フィルタ透過性も良好ではあるが、ミクロ的には、銀微粒子と分散媒とが十分には親和しておらず、分散性が不十分で、インクジェットで吐出する際に、液滴が真っ直ぐ飛ばなくなるためであると考えられる。
【0167】
また、本発明の金属コロイド分散液1〜37を用いて作製した被膜は、高い密着性を発揮した。この理由は、おそらく、塗布した金属コロイド分散液を加熱した際、分散媒のほぼ全てと分散剤の大半が蒸発、揮発するが、その際、2種類の有機物が2種類の分散媒と強く親和し、上述のようなミクロ的な分散性が得られ、吐出した際に基材に均一に金属粒子が付着するために金属粒子の基材の接触点が増し、かつ金属粒子が緻密にパッキングされたため、その後の乾燥、焼成過程においても緻密な被膜が得られ、高い密着性が発現したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明により得られるコロイド分散液は、例えば、太陽電池パネル配線、フラットパネルディスプレイの電極、回路基板又はICカードの配線を形成するための導電性材料、スルーホール又は回路自体、ブラウン管やプラズマディスプレイの電磁波遮蔽用コーティング剤、建材又は自動車の赤外線遮蔽用コーティング剤、電子機器や携帯電話の静電気帯電防止剤、曇ガラスの熱線用コーティング剤、又は樹脂材料に導電性を付与するためのコーティング材等として好適に利用することができる。また、本発明のコロイド分散液により、高い導電性を発現する被膜を形成することができるため、基材の種類に制約を受けることなく導電性に優れた導電パターンを形成することができることに加えて、耐レベリング性に優れ、様々な粘度範囲に調整できるため、幅広い描画装置や印刷機械等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と、
前記無機粒子の表面の少なくとも一部に付着しているアミン及びカルボン酸を含む有機物と、
炭化水素及びアルコールを含み、前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が環状化合物である分散媒と、
を含むこと、
を特徴とするコロイド分散液。
【請求項2】
前記炭化水素及び前記アルコールのうちの少なくとも一方が脂環式化合物であること、
を特徴とする請求項1に記載のコロイド分散液。
【請求項3】
前記炭化水素及び前記アルコールのいずれもが脂環式化合物であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のコロイド分散液。
【請求項4】
前記無機粒子が、金、銀、銅又は白金のうちの少なくとも1種の金属の粒子であること、
を特徴とする請求項1〜3のうちのいずれかに記載のコロイド分散液。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれかに記載のコロイド分散液を含むこと、
を特徴とするインクジェット用インク。



【公開番号】特開2012−52225(P2012−52225A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169667(P2011−169667)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】