コロナウィルスを同定するための方法
本発明は、細菌の核酸部分を増幅し、その後質量分析法により解析することによる、細菌を迅速に同定しそして定量するための方法を提供する。組成物は、細菌を迅速に同定するために使用される細菌の核酸の分子量および塩基組成を特性するために提供される。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は:1)U.S.出願シリアル番号No. 60/466,009(2003年4月26日出願);2)U.S.出願シリアル番号No. 60/467,768(2003年5月2日出願);3)U.S.出願シリアル番号No. 60/468,743(2003年5月7日出願);および4)U.S.出願シリアル番号No. 60/542,510(2004年2月6日出願)に基づく優先権の利益を主張し、これらそれぞれは、全体を参考文献として本明細書中に援用する。
【0002】
コンパクトディスクで提出された配列についての言及
配列表は、“COPY 1-SEQUENCE LISTING PART”と名前を付けた別のCD-Rの、2004年4月23日に作成され、2,445キロバイトを含有する“IBIS0075-500.SEQ”と名付けられたファイル中に存在し、そして本明細書中ではその全体を参照として援用する。添付して提出した複写(3コピー)を含むコンパクトディスクの全数は4部であり、そして提出したコンパクトディスクそれぞれに一つのファイルが存在する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般的に、コロナウィルスの遺伝的同定および定量についての分野に関し、そして分子量解析と組み合わせた場合のこの目的のために有用な方法、組成物およびキットを提供する。
【0004】
発明の背景
コロナウィルスは、コロナウィルス科(Coronoviridae)の属であるが、ヒトおよび家畜動物において非常に一般的な疾患を引き起こす、大型でエンベロープをもったRNAウィルスである。コロナウィルス粒子は、不規則な形状をしており、直径が60〜220 nmで、特徴的な“棍棒状(club-shaped)”ペプロマーを保持する外部エンベロープを有している。この“王冠様”外観により、その科の名称が付けられている。コロナウィルスは、すべてのRNAウィルスの中でも最大のゲノムを有し、そして高頻度の組換えを結果として生じる独特なメカニズムにより複製する。ビリオンは、細胞内膜に出芽することにより成熟し、そしていくつかのコロナウィルスによる感染により、細胞融合が誘導される。
【0005】
ほとんどのヒトコロナウィルス(HcoVs)は、培養細胞中では増殖せず、従って、それらについては比較的わずかしか知られていない。しかし、2系統(229EおよびOC43)は、いくつかの細胞株中で増殖し、そしてモデルとして使用されてきた。複製は、その他のエンベロープを有するウィルスと比較してゆっくりとしている。ウィルスの侵入は、エンドサイトーシスと膜融合(おそらくはE2を介している)を介して生じ、そして複製は細胞質中で生じる。
【0006】
最初は、5'の20 kbの(+)センスゲノムが翻訳されて、ウィルスのポリメラーゼが生成され、これが完全長の(-)センス鎖を生成するものと考えられており、次にこの完全長の(-)センス鎖を鋳型として使用して、転写物の“入れ子セット(nested set)”としてmRNAを生成するが、これらのすべては、72ヌクレオチドの同一の5'非翻訳リーダー配列および同時に生じる3'ポリアデニル化末端を有する。各mRNAは、モノシストロン性であり、遺伝子は5'末端にて最長のmRNAから翻訳される。これらの異常な細胞質構造は、スプライシング(転写後修飾)によって生成されるのではなく、転写中にポリメラーゼにより生成される。
【0007】
コロナウィルスは、様々な哺乳動物および鳥類に感染する。多くのものが培養中では増殖することができないため、ヒト単離株の正確な数は知られていない。ヒトにおいては、それらは:重症急性呼吸器症候群(SARS)を含む呼吸器感染(一般)、および腸管感染症を引き起こす。
【0008】
コロナウィルスは、呼吸器分泌物のエアロゾルにより、糞便-経口経路により、そして機械的伝播により、伝播する。ほとんどのウィルスの増殖は、上皮細胞中で生じる。たまに、肝臓、腎臓、心臓または眼、ならびにマクロファージなどのその他の細胞型に感染する場合がある。感冒型呼吸器感染においては、増殖は上部気道の上皮に局在している様であるが、しかしながら、現在のところ、ヒト呼吸器コロナウィルスについての適切な動物モデルは存在していない。臨床的には、ほとんどの感染は、穏やかで限定された過程を経る疾患(古典的な“感冒”または胃のむかつき)を引き起こす。しかしながら、稀に神経学的合併症となる場合がある。コロナウィルス感染は、非常に一般的であり、そして全世界的に発生する。感染の発生は、非常に季節的なものであり、冬季に子供において最も発生する。成人の感染は、あまり一般的ではない。コロナウィルス血清型の数および抗原性変異の程度は知られていない。再感染は、生涯にわたって生じる可能性があり、このことは複数の血清型(少なくとも4種が知られている)および/または抗原性変異を示唆しており、従って免疫化についての見通しは、あまりないようである。
【0009】
SARS(重症急性呼吸器症候群;Severe Acute Respiratory Syndrome)は、新たに認められたタイプのウィルス性肺炎であり、発熱、乾性咳、呼吸困難(息切れ)、頭痛、および低酸素血症(低血液酸素濃度)を含む症状を伴う。典型的な研究室レベルの知見には、リンパ球減少症(リンパ球数の減少)およびアミノトランスフェラーゼレベルの穏やかな上昇(肝臓損傷が示唆される)が含まれる。肺胞損傷による進行性呼吸不全のために死に至る可能性がある。
【0010】
病気の発生は、2003年2月、中国広東省に端を発していると考えられている。パラミクソウィルスが原因であるとの最初の報告の後、研究者たちは現在、SARSがいくつかの異常な特徴を有するある種の新規なコロナウィルスと因果関係を有すると考えている。例えば、SARSウィルスは、Vero細胞(霊長類の線維芽細胞株)中で増殖することができ、これは、ほとんどが培養することができないHCoVsの新しい特徴である。これらの細胞中で、ウィルス感染の結果、細胞変性性作用が引き起こされ、そして感染細胞中の小胞体からコロナウィルス様粒子が出芽する。
【0011】
ポリメラーゼ遺伝子の短い領域(コロナウィルスゲノムの最も強力に保存された部分)を逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により増幅し、そしてヌクレオチド配列決定することにより、SARSウィルスの現在のところ評価された事例が、ヒト個体群中には以前は存在しなかった新規なコロナウィルスのものであることが示された。
【0012】
SARSと因果関係を有するコロナウィルスの別の単離株が、BCCA Genome Sciences Center(Vancouver, Canada);the Institute of Microbiology and Epidemiology, Academy of Military Medical Sciences/Beijing Genomics Institute, Chinese Academy of Sciences(Beijing, China);the Centers for Disease Control and Prevention(CDC)(Atlanta);the Chinese University of Hong Kong;およびthe University of Hong Kong;により、独自に配列決定された。新たなSARS-関連コロナウィルスサンプルが得られそして配列決定されるにつれて、そして初期のSARSコロナウィルスが変異を起こすにつれて、SARSと因果関係を有するその他のコロナウィルス配列が発生しうる。
【0013】
SARS流行がまだ初期段階である時に、Ruanらは、存在するSARS CoV単離株中に、新しい遺伝子型の出現を示唆する多数の変異を同定した(Y. Ruan et al., Lancet, May 9, (2003))。この現象は、ヒト個体群を通じてSARS CoVが伝播していく場合には継続される様であり、そして検出および治療に対して不利益な影響を有している。高い変異性を有する領域に隣接する追加のプライマーは、系統変異株を疫学的に追跡する際に利用価値があるだろう。さらに、毒性に対して重要な遺伝子座が同定されるようになるにつれて、これらの場所に隣接するプライマーは利用価値のある情報を提供するだろう。
【0014】
複数の診断テストが現在利用可能であるが、しかしながらすべてはこの大発生を迅速にコントロール下におくためのツールとしての制限を有している。ELISA試験は抗体を信頼性高く検出するが、しかしながら臨床的症候の発生後約20日以降にのみ可能である。したがって、それを使用して、この感染の他者への拡大の前に、初期段階に事例を検出することができない。2つ目の試験は、免疫蛍光アッセイ(IFA)であるが、この方法は、感染後10日の時点で抗体を信頼性高く検出する。この方法は、被験者がIFA-に基づく診断の前に感染性となってしまう点で、ELISAテストと欠点を共有している。さらに、IFA試験は過大な労力を必要とするものであり、細胞培養中でのウィルスの増殖を必要とする比較的遅速の試験である。3番目の試験は、SARSウィルス遺伝物質の検出のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分子テストであり、感染の初期段階において有用であるが、しかしながら望ましくないことに偽陰性を生成する。したがって、PCR試験では、臨床的診断評価と組み合わせたとしても、ウィルスを実際に保有しているヒトを検出することができず、緊密なヒトとヒトとの接触で容易に拡大することが知られているウィルスの潜在的な流行に直面する際の偽安全性の危険な認識を生み出す(WHO. Severe acute respiratory syndrome (SARS). Wkly Epidemiol. Rec. 2003, 78, 121-122)。
【0015】
感染性疾患についての核酸試験は、大部分は、特定の病原体を検出するように設計したプライマーおよびプローブを使用する増幅に基づいている。核酸配列情報についての事前の知識がこれらの試験を開発するために必要とされるため、それらの試験は、予期しない感染性病原体、新たに発生した感染性病原体、または以前に未知の感染性病原体を同定することはできない。したがって、感染性病原体の最初の発見は、未だに、大部分は、培養および顕微鏡に依存しており、それらは、20年前のヒト免疫不全症ウィルスの発見においても重要であったのと同様に、SARSコロナウィルスの細菌の同定においても重要であった。
【0016】
1-物質試験に代わるものとしては、病原体(bioagent)の群にわたって保存されている遺伝子標的の広範囲コンセンサスプライミングを行うことである。広範囲プライミングは、属の全体にわたって、科の全体にわたって、または細菌に関して、生命全体にわたって、増幅産物を生成する潜在力を有している。この戦略は、細菌多様性を決定するためのコンセンサス16SリボソームRNAプライマーを使用することにより、環境サンプル(T.M. Schmidt, T.M., DeLong, E.F., Pace, N.R. J. Bact. 173, 4371-4378 (1991))および天然のヒトフローラ(Kroes, I., Lepp, P.W., Relman, D.A. Proc Nat Acad Sci (USA) 96, 14547-14552 (1999))の両方において、うまく利用された。未知の病原体の検出および疫学のためのこのアプローチの障害は、PCR生成物の解析にサンプルあたり数百〜数千のコロニーをクローニングしそして配列決定することが必要であるということであり、このことは、迅速に行うためもしくは極めて多くのサンプルに対して行うためには実用的ではない。
【0017】
コンセンサスプライミングもまた、コロナウィルス(Stephensen, C.B., Casebolt, D.B. Gangopadhyay, N.N. Vir. Res. 60, 181-189 (1999))、エンテロウィルス(M.S. Oberste, K. Maher, M.A. Pallansch, J. Virol. 76, 1244-51 (2002);M.S. Oberste, W.A. Nix, K. Maher, M.A. Pallansch, J. Clin. Virol. 26, 375-7 (2003);M.S. Oberste, W.A. Nix, D.R. Kilpatrick, M.R. Flemister, M.A. Pallansch, Virus Res. 91, 241-8 (2003))、レトロイドウィルス(retroid viruses)(D.H. Mack, J.J. Sninsky, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85, 6977-81 (1988);W. Seifarth et al., AIDS Res. Hum. Retroviruses 16, 721-729 (2000);L.A. Donehower, R.C. Bohannon, R.J. Ford, R.A. Gibbs, J. Vir. Methods 28, 33-46 (1990))、およびアデノウィルス(M. Echavarria, M. Forman, J. Ticehurst, S. Dumler, P. Charache, J. Clin. Micro. 36, 3323-3326 (1998))を含む、いくつかのウィルス科を検出するため、記載された。しかしながら、細菌に関しては、ウィルス病原体の存在を同定するためには、配列決定以外に適切な解析方法は存在しない。病原体の同定方法は、U.S.特許出願シリアル番号:09/798,007(2001年3月3日に出願);10/405,756(2003年3月31日に出願);10/660,122(2003年9月11日に出願);および10/728,486(2003年12月5日に出願)中に記載されており、これらのすべては共有されており、そして本明細書中に本質的な文献として全体を参考文献として援用される。
【0018】
質量分析は、解析される分子について、高い質量正確性を含む詳細な情報を提示する。これは、容易に自動化することができるプロセスでもある。しかしながら、高解像度のMSのみでは、未知の物質または生物工学的処理された物質に対しては行うことができず、または病原体のバックグラウンドレベルが高い環境(“整っていない(cluttered)”バックグラウンド)においては行うことができない。低解像度のMSは、それらのスペクトル線が十分に弱くまたはサンプル中の他の生きている生物由来のスペクトル線と十分に近いものである場合、いくつかの既知の物質を検出するためには使用できない。特異的プローブを伴うDNAチップは、特異的に予想されている生物の存在または不在を決定することのみが可能である。非常に多数の良性細菌種が存在するため、脅威となる生物と配列において非常に類似する数種のものは、10,000個のプローブを用いたアレイであっても、特定の生物を検出するために必要とされる幅を欠失している。
【0019】
抗体は、アレイよりもより厳格な多様性の制限に直面する。抗体を、非常に保存的な標的に対して設計し、多様性を増大させる場合、誤認警報の問題が幅をきかせるだろう。言い換えれば、脅威となる生物は、良性のものと非常に類似しているためである。抗体は、比較的整った環境下で、既知の物質を検出することのみができる。
【0020】
いくつかのグループは、高解像度エレクトロスプレイイオン化-フーリエ変換-イオンサイクロトロン共鳴マススペクトロメトリー(ESI-FT-ICR MS)を用いたPCR産物の検出について記載した。正しい質量の正確な測定を少なくとも1つのヌクレオチドの数の知見と組み合わせることにより、約100塩基対のPCR二重鎖生成物についての全塩基組成の計算を可能にする(Aaserud et al., J. Am. Soc. Mass Spec., 7, 1266-1269, 1996;Muddiman et al., Anal. Chem., 69, 1543-1549,1997;Wunschel et al.,Anal. Chem., 70, 1203-1207, 1998;Muddiman et al., Rev. Anal. Chem., 17, 1-68, 1998)。エレクトロスプレイイオン化-フーリエ変換-イオンサイクロトロン共鳴(ESI-FT-ICR)MSを使用して、二本鎖の500塩基対PCR産物の質量を平均分子量を介して決定することができる(Hurst et al., Rapid Commun. Mass Spec., 10, 377-382, 1996)。PCR産物の特性決定のために、マトリックス支援レーザーイオン化-飛行時間(MALDI-TOF)マススペクトロメトリー使用することが、記載された(Muddiman et al., Rapid Commun. Mass Spec., 13, 1201-1204, 1999)。しかしながら、この方法の用途に限定されたMALDIを用いた場合に、約75ヌクレオチド以上のDNAの分解が観察された。
【0021】
U.S.特許No. 5,849,492は、2つの高度に保存された部分に囲まれたゲノムDNAの非常に発散性の部分について検索すること、非常に発散的な領域のPCR増幅のためのユニバーサルプライマーを設計すること、ユニバーサルプライマーを用いてPCR技術によりゲノムDNAを増幅すること、そしてその後遺伝子を配列決定して、生物の正体を決定すること、を含む、系統発生的に情報を提供するDNA配列の採取についての方法を記載する。
【0022】
U.S.特許No. 5,965,363は、質量分析技術を用いて増幅された標的核酸を解析することにより、多型に関する核酸のスクリーニング方法およびこれらの方法の質量解像度および質量正確性を改善するための手順について開示する。
【0023】
WO 99/14375は、予め選択されたDNAタンデムヌクレオチドリピートアリルをマススペクトロメトリーにより解析する際に使用するための方法、PCRプライマーおよびキットについて記載する。
【0024】
WO 98/12355は、質量分析解析により、標的核酸を切断して長さを短くし、標的一本鎖を作成して、そしてMSを使用して一本鎖短縮化標的の質量を決定することにより、標的核酸の質量を決定する方法を開示する。同様に、標的核酸の増幅を含むMS解析用の二本鎖標的核酸を調製し、鎖の一方を固相に結合させ、第二の鎖を放出させ、その後第一の鎖を放出させ、これをその後MSにより解析する方法を開示した。標的核酸調製のためのキットもまた、開示する。
【0025】
PCT W097/33000は、標的を一群の一本鎖非ランダム長断片に非ランダムに断片化すること、そしてそれらの質量をMSにより決定することにより、標的核酸中の変異を検出するための方法を開示する。
【0026】
U.S.特許No. 5,605,798は、診断用途のために、生物学的サンプル中の特定の核酸の存在を検出するための、高速で非常に正確な質量分析器に基づく方法を記載する。
WO 98/21066は、特定の標的核酸の配列をマススペクトロメトリーにより決定する方法を記載する。標的を制限酵素部位とタグとを含有するプライマーを用いて増幅し、増幅核酸を伸長しそして切断し、そして伸長生成物の存在を検出することにより、サンプル中の標的核酸を検出する方法と同様に、生物学的サンプル中に存在する標的核酸をPCR増幅とマススペクトロメトリー検出により検出するための方法が、開示される。ここで、野生型とは異なる質量のDNA断片の存在が、変異を意味する。マススペクトロメトリー方法を介した核酸の配列決定の方法もまた、開示する。
【0027】
WO 97/37041、WO 99/31278およびU.S.特許No. 5,547,835は、マススペクトロメトリーを用いて核酸を配列決定する方法を記載する。U.S.特許Nos. 5,622,824、5,872,003および5,691,141は、エキソヌクレアーゼ媒介性質量分析的配列決定のための方法、システムおよびキットを記載する。
【0028】
本発明は、コロナウィルスを迅速で、感度が高く、そしてハイスループットに同定するための新しいアプローチを提供し、そしてこれまでに観察も特性決定もされていないコロナウィルスを同定する性能を含む。記載された方法を、さらなるウィルス科に適用して、潜在的な新たに発生する幅広いウィルスをカバーし、そして将来的な流行性疾患サーベイランスのために、細菌性病原体、原虫性病原体、または真菌性病原体をカバーすることができる。
【0029】
発明の概要
本発明は、とりわけ、サンプルからコロナウィルスRNAを取得し、このRNAから対応するDNAを取得し、コロナウィルスゲノムの可変領域に隣接するコロナウィルスゲノムの保存的領域に結合する1またはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対を使用してDNAを増幅し、1またはそれ以上の増幅産物の分子量または塩基組成を決定し、そしてこの分子量または塩基組成を、計算で決定したかまたは実験的に決定した分子量または塩基組成と比較する(ここで、1またはそれ以上のマッチにより未知のコロナウィルスを同定する)ことにより、サンプル中における1またはそれ以上の未知のコロナウィルスを同定する方法に関するものである。
【0030】
本発明はまた:複数の異なる場所から特定のコロナウィルスを含有する複数のサンプルを取得し、上の段落において記載される方法を使用して、複数のサンプルの一部において特定のコロナウィルスを同定する(ここで、一部の構成物の対応する場所が、当該対応する場所への特定のコロナウィルスの拡大を示す)ことを含む、特定のコロナウィルスの拡大を追跡する方法に関するものである。
【0031】
本発明はまた、各対の各プライマー構成物が、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか1つの対応する構成物の配列と、少なくとも70%の配列同一性を有するプライマー対にも関するものである。本発明はまた、本明細書中で記載するプライマー対のそれぞれにおける個別のプライマーにも関するものである。
【0032】
本発明はまた、プライマー対を用いてコロナウィルスゲノム由来の核酸を増幅するプロセスにより生成される約45〜約150核酸塩基の長さの単離ポリヌクレオチドを含むコロナウィルスの同定のための病原体同定用アンプリコンであって、ここでプライマー対の各プライマーが約12〜約35核酸塩基の長さのものでありそして病原体同定用アンプリコンがコロナウィルスについての同定用情報を提供するもの、にも関するものである。
【0033】
本発明はまた:サンプルをプライマー対および較正配列を含む既知量の較正ポリヌクレオチドと接触させ、プライマー対を用いて未知のコロナウィルスから核酸を増幅させることとプライマー対を用いてサンプル中の較正ポリヌクレオチドから核酸を増幅させることとを同時に行い、病原体同定用アンプリコンを含む第一の増幅産物および較正アンプリコンを含む第二の増幅産物を得ること、サンプルを分子量解析に供すること(ここで、質量解析の結果は、病原体同定用アンプリコンおよび較正アンプリコンについての分子量データと存在量データを含む)、そして分子量に基づいて病原体同定用アンプリコンを較正アンプリコンから識別する(ここで、病原体同定用アンプリコンの分子量はコロナウィルスを同定し、病原体同定用アンプリコンの存在量データと較正アンプリコンの存在量データとの比較は、サンプル中のコロナウィルスの量を示す)ことを含む、サンプル中の未知のコロナウィルスの正体および量の同時的決定のための方法にも関するものである。
【0034】
本発明はまた、SEQ ID NO: 102、および103、ならびにSEQ ID NO: 102、103および104を含むベクターを含む、サンプル中の病原体の量を決定するための単離ポリヌクレオチドにも関するものである。
【0035】
本発明はまた、1またはそれ以上のプライマー対、または個別のプライマー(ここで、各プライマー対の各構成物は、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか一つの対応する構成物の配列と、少なくとも70%の配列同一性を有する)を含むキットにも関するものである。
【0036】
態様の説明
A. イントロダクション
本発明は、“病原体同定用アンプリコン”を使用して、バイアスのかからない様式で病原体を検出しそして同定する方法を提供する。“インテリジェントプライマー”を選択して、病原体由来の核酸の保存的配列領域にハイブリダイズさせ、そしてそれが、可変配列領域を挟んで、増幅することができそして容易に分子量決定することができる病原体同定用アンプリコンを得る。その後、分子量は、病原体の可能性のある正体についての事前の知識を必要とすることなく、病原体をただ一つに同定する手段を提供する。次いで、増幅産物の分子量または対応する“塩基組成の特徴”(BCS)を、分子量または塩基組成の特徴のデータベースに対して適合させる。さらに、この方法を、迅速なパラレル“多重”解析に適用することができ、その結果を三角法的(triangulation)同定戦略において利用することができる。本発明の方法は、迅速スループットを提供し、そして病原体の検出および同定のために増幅標的配列の核酸配列決定を必要としない。
【0037】
B. 病原体
本発明の文脈において、“病原体”は、生きているものであっても死んでいるものであっても、いずれかの生物、細胞、またはウィルス、あるいはそのような生物、細胞またはウィルス由来の核酸である。病原体の例には、細胞(ヒト臨床サンプル、細菌細胞またはその他の病原体(pathogen)を含むが、これらには限定されない)、ウィルス、真菌、および原生生物、寄生虫、および病原性マーカー(病原性島、抗生物質耐性遺伝子、ビルレンス因子、トキシン遺伝子、およびその他の生物制御性化合物を含むが、それらに限定されない)が含まれるが、それらには限定されない。サンプルは、生きていても、死んでいても、植物状態であってもよく(例えば、植物状態の細菌または胞子)そしてカプセル化されていてもまたはバイオ操作されていてもよい。本発明の文脈において、“病原体(pathogen)”は、疾患または症状を引き起こす病原体である。
【0038】
莫大な生物学的多様性にも関わらず、地球上のすべての生命体は、ゲノム中に本質的で共通する特徴の組み合わせを共有している。例えば、細菌は、ゲノム上の様々な位置に非常に保存的な配列を有する。最も顕著なものは、リボソームの普遍的に保存された領域である。RNAse Pを含むその他の非コードRNA中(図3)やシグナル認識粒子(SRP)にも、保存された要素が存在する。細菌は、絶対的に必要とされる遺伝子の共通する組み合わせを有する。約250遺伝子が、すべての細菌種において存在し(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1996, 93, 10268;Science, 1995, 270, 397)、これには、Mycoplasma、UreaplasmaおよびRickettsiaなどの小ゲノムが含まれる。これらの遺伝子は、翻訳、複製、組換え、および修復、転写、ヌクレオチド代謝、アミノ酸代謝、脂質代謝、エネルギー産生、取り込み、分泌などに関与するタンパク質をコードする。これらのタンパク質の事例は、DNAポリメラーゼIIIβ、エロンゲーション因子TU、ヒートショックタンパク質groEL、RNAポリメラーゼβ、ホスホグリセレートキナーゼ、NADHデヒドロゲナーゼ、DNAリガーゼ、DNAトポイソメラーゼおよびエロンゲーション因子Gである。本発明の方法を使用して、オペロンを標的化することもできる。オペロンの一例は、腸管病原性E. coli由来のbfpオペロンである。複数コア染色体遺伝子を使用して、属または属種レベルで細菌を分類し、生物が脅威となる可能性のあるものであるかどうかを決定することができる。この方法を使用して、病原性マーカー(プラスミド性または染色体性)および抗生物質耐性遺伝子を検出し、生物の脅威となる可能性を確認し、そして対策を講じることができる。
【0039】
C.“病原体同定用アンプリコン”の選択
遺伝的データは、本発明の方法により病原体を同定するための裏付けとなる基礎を提供するため、理想的には各々の個別の病原体を識別するために十分な多様性を提供し、そしてその分子量が分子量決定になじみやすい、核酸の部分を選択することが必要である。本発明の一態様において、少なくとも1つのポリヌクレオチド部分を増幅して、病原体を同定するプロセスにおいて、検出および解析を容易にする。このように、各々の個別の病原体を識別するために十分な多様性を提供しそしてその分子量が分子量決定になじみやすい核酸部分を、本明細書中では、“病原体同定用アンプリコン”として記載する。本明細書中で使用する場合の用語“アンプリコン”は、増幅反応で増幅されるポリヌクレオチドの部分のことをいう。
【0040】
一態様において、病原体同定用アンプリコンは、約45核酸塩基〜約150核酸塩基の長さのものである。
前-病原体同定用アンプリコンは、約45〜約150核酸塩基の長さを大きく超えていてもよく、そして所定の前-病原体同定用アンプリコンの断片であり分子量分析になじみやすい病原体同定用アンプリコンを得るための切断部位(例えば、制限エンドヌクレアーゼによる)のための部位を含有する、アンプリコンである。
【0041】
本明細書中で使用する場合、“インテリジェントプライマー”は、介在性可変領域に隣接し、理想的には各々の個別の病原体を識別するために十分な多様性を提供し、そして分子量解析になじみやすい増幅産物を得る、病原体同定用アンプリコンの非常に保存的な配列領域に結合するように設計されるプライマーである。用語“非常に保存的な”により、配列領域が、約80〜100%の同一性、または約90-100%の同一性、または約95-100%の同一性を示すことを意味する。所定の増幅産物の分子量により、可変領域の多様性のため、それを得た由来の病原体を同定する手段が提供される。このように、インテリジェントプライマーの設計には、適切な多様性を有する可変領域を選択し、所定の病原体の正体を解決することが必要とされる。病原体同定用アンプリコンは、病原体の正体について理想的には特異的である。インテリジェントプライマーの同一の対の、ハイブリダイゼーションのための同一の保存配列を含有する異なる病原体のために平行して選択された複数の病原体同定用アンプリコンは、本明細書中で、“相関的な病原体同定用アンプリコン”として定義される。
【0042】
一態様において、病原体同定用アンプリコンは、リボゾームRNA(rRNA)遺伝子配列の部分である。現在利用可能な多数の最小の微生物ゲノムの完全な配列を用いて、“最小の生命”を規定する一組の遺伝子を同定し、そして各遺伝子および生物を唯一のものとして同定する組成物の特徴を同定することができる。DNA複製、転写、リボソーム構造、翻訳、および輸送などの中心的な生命機能をコードする遺伝子は、細菌ゲノム中に幅広く分布しており、そして病原体同定用アンプリコンの選択のために適した領域である。リボゾームRNA(rRNA)遺伝子は、有用な塩基組成の特徴を提供する領域を含む。中心的な生命機能に関与する多くの遺伝子と同様に、rRNA遺伝子は、それぞれの種に対して、より特異的な高い多様性の領域が点在する微生物ドメインにわたって非常に保存されている配列を含有する。可変領域を利用して、塩基組成の特徴についてのデータベースを構築することができる。このストラテジーは、rRNA遺伝子の小サブユニット(16S)および大サブユニット(23S)の配列の構造ベースのアラインメントを作製することに関連する。たとえば、Robin Gutell(University of Texas at Austin)により作成されそして維持されて、そしてInstitute for Cellular and Molecular Biologyのウェブページで、インターネットのワールドワイドウェブを介して、たとえば、“rna.icmb.utexas.edu/”で公衆に利用可能である、リボゾームRNAデータベース中には、現在のところ13,000以上の配列が存在する。University of Antwerp(Belgium)により作成されそして維持され、インターネットのワールドワイドウェブを介して、たとえば、“rrna.uia.ac.be”で公開される公衆に利用可能なrRNAデータベースも存在する。
【0043】
これらのデータベースを解析して、病原体同定用アンプリコンとして有用な領域を決定した。そのような領域の特徴としては:a)配列増幅プライマー部位として機能する上流のヌクレオチド配列、および下流のヌクレオチド配列の、目的とする特定の病原体の種の間での、約80〜100%のあいだ、または約95%より高い同一性;b)上記種との間で約5%以下の同一性を示す介在性可変領域;およびc)保存された領域との間で、約30〜1000ヌクレオチド、またはわずか約50〜250ヌクレオチド、またはわずか約60〜100ヌクレオチドの分離;が含まれる。
【0044】
限定的ではない例として、Bacillus種の同定のため、選択された病原体同定用アンプリコンの保存的な配列領域は、すべてのBacillus種間で非常に保存的なものに違いなく、一方、Bacillusのすべての種の増幅産物の分子量を識別できるように、病原体同定用アンプリコンの可変領域は十分に多様である。
【0045】
分子量決定になじみやすい病原体同定用アンプリコンは、分子量決定の特定の様式に適合性の長さの予測可能な断片を得るため、分子量決定の特定の様式と適合性のまたは予測可能な断片化パターンを得る手段と適合性の長さ、サイズ、または質量のいずれかを有するものである。増幅産物の予測可能な断片化パターンを得るためのそのような方法には、たとえば、制限酵素による切断またはプライマーによる切断が含まれるが、それらには限定されない。
【0046】
病原体の同定は、各々個別のレベルの同定の解像度に適したインテリジェントプライマーを使用して、異なるレベルで達成することができる。“広範囲サーベイ”インテリジェントプライマーは、特定の区分の病原体の構成物として、病原体を同定する目的で設計される。“病原体の区分”は、種レベル以上の病原体の群として定義され、そして:目、科、綱、分岐群(clade)、属、または種レベル以上のその他の病原体のグループ化が含まれるが、これらには限定されない。限定的ではない例として、Bacillus/Clostridia群またはγ-プロテオバクテリア群の構成生物を、16Sまたは23SリボゾームRNAを標的とするプライマーなどの広範囲サーベイインテリジェントプライマーを使用することにより、同定することができる。
【0047】
いくつかの態様において、広範囲サーベイインテリジェントプライマーは、種レベルで、病原体を同定することを可能にする。本発明の検出方法の一つの主要な利点は、広範囲サーベイインテリジェントプライマーが、特定の細菌種またはBacillusまたはStreptomycesなどの特定の細菌属に対してまでも特異的であることを必要としない点である。その代わり、プライマーは、本明細書中に記載される種を含む(しかしこれらには限定されない)、数百種の細菌種にわたる非常に保存的な領域を認識する。このように、同一の広範囲サーベイインテリジェントプライマー対を使用して、いずれかの所望の細菌を特定することができる。単一種に特異的な可変領域に隣接するか、または数種の細菌種に共通する可変領域に隣接する保存された領域に結合することができ、それにより介在性配列の無作為の核酸増幅およびその分子量および塩基組成の決定が可能になるからである。たとえば、16S_971〜1062、16S_1228〜1310および16S_1100〜1188領域は、約900種の細菌において98〜99%保存されている(16S=16S rRNA、数字は、ヌクレオチド位置を示す)。本発明の一態様において、本発明の方法において使用されたプライマーは、一またはそれ以上のこれらの領域またはその部分に結合する。
【0048】
それらが全体的に保存されているため、隣接するrRNAプライマー配列は、良好なインテリジェントプライマー結合部位として機能し、すべてではないにしても、ほとんどの細菌種の目的とする核酸領域を増幅する。プライマーの組み合わせ間の介在性領域は、長さおよび/または組成が異なり、そしてしたがって、独特の塩基組成の特徴を提示する。16Sおよび23S rRNAの領域を増幅するインテリジェントプライマーの例は、図1A〜1Hに示される。16S rRNA中の典型的なプライマー増幅領域は、図2に示される。矢印は、16S rRNAドメインIIIにおける可変領域に隣接するこれらの領域をコードするDNAの非常に保存的な領域に結合するプライマーを示す。増幅領域は、“1100〜1188”ではステム-ループ構造に対応する。解析に必要とされるプライマー数を最小にし、そして1つの組み合わせのプライマーを使用して病原体区分の複数の構成物の検出を可能にする広範囲サーベイインテリジェントプライマーを設計することが好ましい。広範囲サーベイインテリジェントプライマーを使用することの利点は、一旦病原体が幅広く同定されれば、種レベルおよび亜種レベルでさらに同定するプロセスが、追加的なインテリジェントプライマーを選択することにより促進される、という点である。
【0049】
“ディビジョン-ワイド”インテリジェントプライマーを、種レベルで病原体を同定することを目的として設計する。限定的ではない例として、Bacillus anthracis、Bacillus cereusおよびBacillus thuringiensisを、ディビジョン-ワイドインテリジェントプライマーを使用して、互いに識別することができる。ディビジョン-ワイドインテリジェントプライマーは、種レベルでの同定に必ずしも必要という訳ではない。というのも、広範囲サーベイインテリジェントプライマーにより、目的とするこの同定を達成する程度の十分な同低解像度が得られる場合があるからである。
【0050】
“ドリル-ダウン”インテリジェントプライマーは、病原体の亜種の特徴を同定することを目的として設計される。“亜種の特徴”は、核酸の特定の部分の存在または不存在の結果、亜種レベルの同定で、病原体に付与される特性として同定される。そのような亜種の特徴には、系統、亜型、ならびに抗生物質耐性遺伝子、病原性島、トキシン遺伝子およびビルレンス因子などの病原性マーカーが含まれるが、これらには限定されない。このような亜種の特徴の同定は、病原体感染の適切な臨床的治療を決定するために、しばしば重要である。
【0051】
D.インテリジェントプライマーの選択と最適化
プライマー選択および確認方法のために使用される代表的なプロセスフロー図は、図6に概説する。生物兵器物質として最大の関心を持たれている生物を含む多数の重要な病原体が、完全に配列決定された。この努力により、細菌の検出のためのプライマーおよびプローブの設計が非常に促進された。225以上の細菌ゲノムから部分配列または完全長配列が得られ、そしてすべての生物間で幅広く保存されているか、または特定の関連する系統発生群の構成物中で保存されている重要な遺伝子について、配列アラインメントが作成された。例えば、細菌においては、ほとんどすべての主要な細菌門において存在する170種以上のハウスキーピング遺伝子から、アラインメントを作成した。これらの遺伝子は、広範囲診断用プライマーの同定のために使用された。PCRプライマーの選択および最適化は、多くは自動化された。16S rRNAに加えて、多数の遺伝子が、“広範囲”プライマーの標的であり、したがって検出および分類の冗長性が増大するが、一方間違った同定の可能性を最小にする。これらの遺伝子の多くが、期待されている様に、情報プロセッシングに対して重要なものであり、半分以上のものは、伸長因子、リボソームタンパク質、およびtRNA合成酵素などの翻訳装置に関連したものである。保存的タンパク質をコードする遺伝子のその他のクラスには、RNAポリメラーゼなどの転写関連遺伝子およびDNAジャイレースおよびDNAポリメラーゼ等のDNA複製に関連する遺伝子が含まれる。広範囲プライミングと分岐群(clade)特異的なおよび種特異的なプライミングとのこの組み合わせは、生物戦争に脅威を与える物質についての環境サーベイランスおよび医学的に重要な病原体に対する臨床的なサンプル解析を含む、当該技術のいくつかの用途において、非常にうまく利用された。
【0052】
理想的には、インテリジェントプライマーのハイブリダイゼーション部位は、プライマーのハイブリダイゼーションを容易にするために、非常に保存的である。配列の保存性がより低いレベルであるためにプライマーハイブリダイゼーションがあまり効率的では無い場合、インテリジェントプライマーを化学的に修飾して、ハイブリダイゼーションの効率を向上させることができる。
【0053】
本発明のいくつかの態様において、インテリジェントプライマーは、1またはそれ以上のユニバーサル塩基を含有していてもよい。種間でのその保存的領域におけるいずれかの変異(3番目位置でのコドンの揺らぎによる)が、DNAトリプレットの3番目位置で生じやすいため、この位置に対応するヌクレオチドが、本明細書中では“ユニバーサル核酸塩基”と呼ぶ、1より多いヌクレオチドに結合することができる塩基となるように、オリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。たとえば、この“揺らぎ”対合の下では、イノシン(I)は、U、CまたはAと結合し;グアニン(G)はUまたはCと結合し、そしてウリジン(U)はUまたはCと結合する。ユニバーサル核酸塩基のその他の事例には、5-ニトロインドールまたは3-ニトロピロールなどのニトロインドール類(Loakes et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14, 1001-1003)、縮重ヌクレオチドdPまたはdK(Hill et al.)、5-ニトロインダゾールを含有する非環式ヌクレオシド類似体(Van Aerschot et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14, 1053-1056)またはプリン類似体1-(2-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-イミダゾール-4-カルボキサミド(Sala et al., Nucl. Acids Res., 1996, 24, 3302-3306)が含まれる。
【0054】
本発明の別の態様においては、“揺らぎ”塩基によるいくらか弱い結合を補償するため、オリゴヌクレオチドプライマーを、各トリプレットの1番目および2番目の位置が非修飾ヌクレオチドよりも高い親和性で結合するヌクレオチド類似体により占有される様に、設計する。これらの類似体の例には、チミンに結合する2,6-ジアミノプリン、アデニンに結合する5-プロピニルウラシル、およびGに結合するG-クランプを含むフェノキサジン類、および5-プロピニルシトシンが含まれるが、これらには限定されない。プロピニル化ピリミジンは、U.S.特許Nos. 5,645,985、5,830,653および5,484,908に記載され、そのそれぞれは、共有されそして本明細書中に全体を参考文献として援用される。プロピニル化プライマーは、U.SシリアルNo. 10/294,203(これも共有されそして本明細書中に全体を参考文献として援用される)のクレームに記載される。フェノキサジン類は、U.S.特許Nos. 5,502,177、5,763,588、および6,005,096中に記載され、そのそれぞれは、本明細書中に全体を参考文献として援用される。G-クランプは、U.S.特許Nos. 6,007,992および6,028,183中に記載され、そのそれぞれは、本明細書中に全体を参考文献として援用される。
【0055】
その他の態様において、非-鋳型プライマータグを使用して、増幅効率を向上させるため、プライマー-鋳型二重鎖の溶融温度(Tm)を上昇させる。非-鋳型タグは、鋳型に相補的なプライマー上の少なくとも3個の連続したAまたはTヌクレオチド残基にハイブリダイズするように設計する。いずれかの所定の非-鋳型タグにおいて、AをCまたはGにより置換することができ、そしてTもまた、CまたはGにより置換することができる。A-T対と比較してG-C対における1つ余分の水素結合により、プライマー-鋳型二重鎖の安定性が増加し、そして増幅効率が向上する。
【0056】
その他の態様において、非-鋳型タグと同様な方法で、プロピニル化タグを使用することができる。ここで、2またはそれ以上の5-プロピニルシチジンまたは5-プロピニルウリジン残基を、プライマー上の鋳型適合残基に置換する。
【0057】
その他の態様において、プライマーは、たとえばホスホロチオエート結合などの修飾ヌクレオシド間結合を含有している。
E.病原体同定用アンプリコンの特性決定
理論的に理想的な病原体検出装置は、センサに到達したすべての病原体の完全な核酸配列を同定し、定量し、そして報告するものである。病原体の核酸構成成分の完全な配列は、その正体や薬剤耐性マーカーまたは病原性マーカーの存在を含む脅威についてのすべての対応する情報を提供するだろう。この理想は、未だ完成されていない。しかしながら、本発明は、分子量決定による病原体同定用アンプリコンの解析に基づく同一の実際値を用いて情報を得るための、簡便な戦略を提供する。
【0058】
いくつかの場合において、所定の病原体同定用アンプリコンの分子量のみでは、所定の病原体を明確に同定するためには十分な解像度を提供しない。たとえば、インテリジェントプライマー対“16S_971”を使用して得られた病原体同定用アンプリコンの分子量は、E. coliおよびSalmonella typhimuriumの両方について、55622 Daであろう。しかしながら、追加的なインテリジェントプライマーを使用して、追加的な病原体同定用アンプリコンを解析する場合には、“三角法的(triangulation)同定”プロセスが可能になる。たとえば、“16S_1100”インテリジェントプライマー対により、E. coliおよびSalmonella typhimuriumについて、それぞれ、55009および55005 Daの分子量を得る。さらに、“23S_855”インテリジェントプライマー対により、E. coliおよびSalmonella typhimuriumについて、それぞれ、42656および42698 Daの分子量を得る。この基本的な例において、第2および第3のインテリジェントプライマー対は、2種の病原体を識別するための、追加的な“フィンガープリンティング”能力または解像度を提供した。
【0059】
別の態様において、三角法的(triangulation)同定プロセスは、複数のコア遺伝子内で選択される複数の病原体同定用アンプリコンに由来するシグナルを測定することにより、追跡される。このプロセスを使用して、偽陰性または偽陽性のシグナルを減少させ、そしてハイブリッドの起源の再構築を可能にし、そうでなければ操作された病原体の起源の再構築を可能にする。このプロセスにおいて、複数のコア遺伝子の同定の後、アラインメントを核酸配列データベースから作成する。次いで、このアラインメントを、保存領域または変異領域について解析し、病原体同定用アンプリコンを、特異的なゲノム相違に基づいて病原体を識別するために選択する。たとえば、B. anthracisのゲノムから予想される特徴を持たない、B. anthracisに典型的な3つの部分のトキシン遺伝子の同定(Bowen et al., J. Appl. Microbiol., 1999, 87, 270-278)は、遺伝子操作現象を示唆するだろう。
【0060】
三角法的(triangulation)同定プロセスを、多重PCRなどのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)や質量分析(MS)法を使用して、実質的に並行的様式で病原体同定用アンプリコンを同定することにより、追求することができる。十分な量の核酸が、MSによる病原体の検出のためには存在すべきである。大量の精製核酸またはその断片を調製するための非常に幅広い技術が、当業者に周知である。PCRは、増幅される(1または複数の)標的配列に隣接する領域に結合する、一またはそれ以上の対のオリゴヌクレオチドプライマーを必要とする。これらのプライマーは、一方のプライマーから他方のプライマーの方向に生じる合成により、DNAの異なる鎖の合成を開始する。プライマー、増幅されるDNA、耐熱性DNAポリメラーゼ(たとえば、Taqポリメラーゼ)、4種のデオキシヌクレオチド三リン酸、およびバッファーを組み合わせて、DNA合成を開始する。溶液を加熱することにより変性させ、その後冷却して新たに添加されたプライマーのアニーリングを可能にし、その後さらにDNA合成を行う。このプロセスを、典型的には、約30サイクル繰り返し、結果として標的配列の増幅を行う。
【0061】
PCRを使用することが適切ではあるが、リガーゼ連鎖反応(LCR)および鎖置換増幅(SDA)を含む、その他の核酸増幅技術もまた使用することができる。高解像度のMS技術により、非常に不明瞭な環境において、バックグラウンドスペクトル線から、病原体スペクトル線を分離することが可能になる。
【0062】
別の態様において、(1または複数の)病原体から生成されたPCR産物についての検出スキームは、少なくとも3つの特徴を取り込む。第一に、この技術は、複数(一般的には約6〜10)のPCR産物を同時に検出しそして分離する。第二に、この技術は、可能性のあるプライマー部位由来の病原体を、ただ一つに同定する分子量を提供する。最後に、この検出技術は迅速であり、複数のPCR反応を同時並行的に可能にする。
【0063】
F.病原体同定用アンプリコンの質量分析による特性決定
PCR産物の質量分析法(MS)に基づく検出により、いくつかの利点を有するBCSの決定のための手段が提供される。MSは、放射性標識または蛍光標識を使用することのない、本質的には、同時並行的な検出スキームである。というのも、すべての増幅産物を、その分子量で同定するためである。マススペクトロメトリーの分野の現状は、フェムトモル量以下の物質を、容易に解析し、サンプルの分子含量についての情報を得ることができる、というものである。物質の分子量の正確な評価は、サンプルの分子量が数百であっても、100000原子質量単位(amu)またはDaltonsを超える場合であっても関係なく、迅速に得ることができる。無傷の分子イオンは、様々なイオン化技術の一つを使用してサンプルをガス相に転換することにより、増幅産物から生成することができる。これらのイオン化方法には、エレクトロスプレイイオン化(ES)、マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、および高速原子衝撃(FAB)が含まれるが、これらには限定されない。たとえば、核酸のMALDIは、核酸のMALDIにおいて使用するためのマトリクスの例と共に、WO 98/54751中に記載される。
【0064】
いくつかの態様において、大型のDNAやRNA、またはそれ由来の大型の増幅産物を、制限エンドヌクレアーゼで消化してから、イオン化することができる。このように、たとえば、10 kDaであった増幅産物を、一連の制限エンドヌクレアーゼにより消化して、たとえば、100 Da断片のパネルを生成することができる。制限エンドヌクレアーゼおよびそれらの活性部位は、当業者に周知である。この方法において、マススペクトロメトリーを、制限酵素マッピングの目的で行うことができる。
【0065】
イオン化に際して、異なる電荷を持つイオンが形成されるため、いくつかのピークが1サンプルから得られる。1回のマススペクトルから得られた分子量の複数の読み取り値を平均することにより、病原体の分子量の推定が可能になる。エレクトロスプレイイオン化マススペクトロメトリー(ESI-MS)は、10 kDa以上の分子量を有するタンパク質および核酸などの非常に高分子量のポリマーについては特に有用である。というのも、それにより、顕著な量の断片化を引き起こすことなく、サンプルの多価荷電分子の分布がえられるからである。
【0066】
本発明の方法において使用される質量検出器には、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴マススペクトロメトリー(FT-ICR-MS)、イオン捕捉、四極子、磁気セクタ、飛行時間(TOF)、Q-TOF、三対四極子が含まれるが、これらには限定されない。
【0067】
一般的には、本発明において使用することができる質量分析技術には、タンデムマススペクトロメトリー、赤外線多光子解離および熱分解ガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(PGC-MS)が含まれるが、これらには限定されない。本発明の一態様において、病原体検出システムは、バイオマスの増加(たとえば、飲料水または細菌兵器剤の糞便汚染の増加)の迅速な検出のためのPCRを行うことなく、熱分解GC-MSを使用して、病原体検出モードにおいて継続的に操作する。潜伏期を最小にするため、連続的サンプル流が、直接的にPGC-MS燃焼チャンバー中に流れ込む。バイオマスの増加が検出される場合、PCRプロセスが自動的に開始される。病原体の存在は、たとえば、PGC-MSスペクトルで観察される約100〜7,000 Daに由来する大型の分子断片のレベルの上昇を生み出す。観察されたマススペクトルを、閾値レベルと比較し、そしてバイオマスレベルがあらかじめ設定された閾値を超えることが検出される場合、以下に記載する病原体の分類プロセス(PCRとMSの組み合わせ、たとえばFT-ICR MS)を開始する。場合により、警告またはその他のプロセスは(換気流の停止、物理的単離)、この検出されたバイオマスレベルによっても開始される。
【0068】
大型のDNAについての分子量の正確な測定は、各鎖に対するPCR反応由来のカチオンの提示、天然存在量13Cおよび15N同位体由来の同位体ピークの分析、そして荷電状態のいずれかのイオンへの割り当て、により制限される。PCR産物を含有する溶液を、酢酸アンモニウムを含有する溶液に、流れに対して直交する電場勾配の存在下にて接触させるフロースルーチップを用いて、カチオンを、直列的透析により取り除く。後者の2つの問題には、>100,000の解像度で操作することにより、そして同位体的に劣化したヌクレオチド三リン酸をDNA中に取り込ませることにより、対処する。装置の解像度もまた、考慮すべき事柄である。10,000の解像度では、[M-14H+]14-の荷電状態の84merのPCR産物由来のモデル化シグナルは、あまり特定されておらず、そして荷電状態または正確な質量の割り当ては不可能である。33,000の解像度では、個別の同位体構成成分由来のピークを見ることができる。100,000の解像度では、同位体ピークが、ベースラインから分離され、そしてイオンについての荷電状態の割り当ては、直接的なものである。たとえば、枯渇培地上で微生物を増殖させ、そしてヌクレオチドを回収することにより、[13C,15N]-枯渇三リン酸が、得られる。(Batey et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20, 4515-4523)。
【0069】
無傷核酸領域の質量測定は、ほとんどの病原体を調べるために適していると考えられるが、一方、タンデムマススペクトロメトリー(MSn)技術により、分子の正体または配列に関連する、より明確な情報を提供することができる。タンデムMSは、分離工程および検出工程の両方がマススペクトロメトリーに基づいている場合の、2またはそれ以上の質量解析段階と組み合わせて使用されることに関連する。第一段階を使用して、さらなる構造情報を得ることになるサンプルのイオンまたは構成成分を選択する。次いで、選択されたイオンを、たとえば、黒体放射(blackbody irradiation)、赤外多光子解離、または衝突活性化を用いて、断片化する。たとえば、エレクトロスプレイイオン化(ESI)により生成されるイオンを、IR多光子解離を用いて断片化することができる。この活性化により、グリコシド結合およびホスフェート骨格の解離が引き起こされ、w系列(内部切断の後、無傷3'末端および5'ホスフェートを有する)およびa-Base系列(無傷5'末端および3'フランを有する)と呼ばれる、2系列のフラグメントイオンが生成される。
【0070】
次いで、質量解析の第二段階を使用して、生成物イオンのこれらの得られた断片の質量を検出しそして測定する。このようなイオンの選択の後、断片化の一般的作業を複数回行うことにより、サンプルの分子配列を本質的に完全に詳細に分析することができる。
【0071】
同様の分子量の2またはそれ以上の標的が存在する場合、または1回の増幅反応で、2またはそれ以上の病原体参照標準と同一の質量を有する生成物が得られる場合、それらは、質量修飾性の“タグ”を使用することにより識別することができる。本発明のこの態様において、非修飾塩基とは異なる分子量を有し、その結果、質量の相違を改善する、ヌクレオチド類似体または“タグ”(たとえば、5-(トリフルオロメチル)デオキシチミジン三リン酸)を、増幅の間に取り込ませる。このようなタグは、たとえば、PCT WO97/33000(その全体が、本明細書中に参考文献として援用される)中に記載される。このことは、いずれかの質量と一致する可能性のある塩基組成の数をさらに限定する。たとえば、5-(トリフルオロメチル)デオキシチミジン三リン酸を、別の核酸増幅反応中でdTTPの代わりに使用することができる。従来からの増幅産物とタグ付け生成物との間の質量シフトの測定を使用して、各一本鎖におけるチミジンヌクレオチドの数を定量する。鎖が相補的であるため、各鎖におけるアデノシンヌクレオチドの数もまた、決定される。
【0072】
別の増幅反応において、各鎖におけるG残基およびC残基の数は、たとえば、シトシン類似体5-メチルシトシン(5-meC)または5-プロピニルシトシンを用いて、決定される。A/T反応およびG/C反応を組み合わせ、次いで、分子量決定を行うことにより、独自の塩基組成が得られる。この方法を、図4および表1にまとめる。
【0073】
【表1】
【0074】
質量タグホスホロチオエートA(A*)を使用して、Bacillus anthracisのクラスターを識別した。ESI-TOF MSで測定した場合、B. anthracis(A14G9C14T9)は、14072.26の平均MWを有し、そしてB. anthracis(A1A*13G9C14T9)は、14281.11の平均分子量を有し、そしてホスホロチオエートAは、+16.06の平均分子量を有した。逆重畳化(deconvoluted)スペクトルを、図5中に示す。
【0075】
別の例において、各鎖の測定分子量がそれぞれ、30,000.115 Daおよび31,000.115 Daであると仮定し、そしてdTおよびdA残基の測定数は、(30、28)および(28、30)である。分子量が正確に100 ppmである場合、各鎖に対して可能性のあるdG+dCの組み合わせには7種の可能性が存在する。しかしながら、測定分子量が正確に10 ppmである場合、dG+dCの組み合わせはわずか2種しか存在せず、そして1 ppmの正確さの場合、各鎖についての塩基組成はわずか1つの可能性しか存在しない。
【0076】
質量分析器からのシグナルを、レーダーシグナルプロセッシングにおいて広く使用されているものなどの、最尤(maximum-likelihood)検出および分類アルゴリズムに入力することができる。検出プロセッシングは、質量-塩基カウント数空間(mass-basecount space)において観察されたBCSの適合性フィルタリングを使用し、そして既知の無害の生物由来の特徴の検出および差し引き、および未知の病原体の脅威の検出、を可能にする。脅威のレベルを推定するために、それらのBCSを既知生物のものと比較し、そして抗生物質耐性遺伝子またはトキシン遺伝子の挿入などの既知の形の病原性亢進と比較することにより、新たに観察された病原体と既知の病原体との比較もまた、可能である。
【0077】
プロセッシングは、観察シグナルおよび平均バックグラウンドレベルから展開された対数尤度比を使用するベイズ識別器(Bayesian classifier)で終了することができる。プログラムは、天然に存在する生物と環境汚染物質の複合バックグラウンドに関する条件について、最終的に検出確率vs擬陽性確率プロットとなる性能予測を強調する。病原体それぞれについて使用されるプライマーのセットが与えられれば、適合したフィルターは、シグナル値の推測的な予測からなる。ゲノム配列データベース(例えばGenBank)を使用して、質量塩基カウント数適合性フィルターを規定する。このデータベースは、既知の脅威を与える因子および良性のバックグラウンド生物を含有する。後者を使用して、バックグラウンド生物により生成される特徴を推定しそして差し引く。既知のバックグラウンド生物の最大尤度検出は、適合性フィルターおよびノイズ共分散の累計(running-sum)推定を使用することにより実行される。バックグラウンドシグナル強度は、適合性フィルターと共に推定されそして使用され、特徴を形成し、次いでそれが差し引かれる。最大尤度プロセスは、生物についての適合性フィルターおよび整理されたデータについてのノイズ共分散の累計(running-sum)推定を使用する、同様の方法におけるこの“整理された”データに対して適用される。
【0078】
G.病原体同定用アンプリコンの指標としての塩基組成特性
インテリジェントプライマーを使用して得られた増幅産物の分子量により、病原体の同定の手段が提供されるが、分子量データを塩基組成の特徴に変換することは、特定の解析に有用である。本明細書中で使用する場合、“塩基組成の特徴”(BCS)は、病原体同定用アンプリコンの分子量から決定された正確な塩基組成決定である。一態様において、BCSにより、特定の生物中の特定の遺伝子の指標を提示する。
【0079】
塩基組成は、配列と同様に、種内の単離物ごとに少しずつ変化する。それぞれの種についての組成物の拘束性の周辺に“塩基組成確率雲”を構築することにより、この多様性を保持することができる。このことにより、配列解析に類似する様式で、生物の同定が可能になる。“偽4次元プロット”を使用して、塩基組成確率雲の概念を可視化することができる。最適なプライマー設計のためには、病原体同定用アンプリコンの最適な選択が必要とされ、そしてそれは個々の病原体の塩基組成の特徴のあいだでの分離を最大にする。雲が重複する範囲は、結果として誤判別を引き起こす可能性がある領域を示すが、これの問題は、異なる病原体同定用アンプリコンから情報を得るプライマーを選択し、理想的には塩基組成の分離を最大にすることにより、解消される問題である。このように、塩基組成確率雲の解析の有用性の一つの側面は、BCSおよび病原体の正体についての可能性のある誤判別を避けるために、スクリーニングプライマーセット用の手段を提供することである。
【0080】
塩基組成確率雲の有用性の別の側面は、その核酸配列内に進化的な遷移が存在するために、正確な測定BCSが以前には観察されておらずおよび/またはBCSデータベース中に載せられていない、病原体の正体を予想するための手段をそれらが提供する、というものである。
【0081】
ただ結果を解釈するためには、プローブベースの技術と比較して、塩基組成のマススペクトロメトリー測定は、測定を行うために、組成についての事前の知見を必要としないことは、注目すべき重要なことである。この点では、本発明は、所定の病原体を検出し同定するために十分なレベルで、DNA配列決定および系統発生的解析と同様の病原体分類用情報を提供する。さらに、所定の病原体についてのそれまで未知のBCSについての測定のプロセス(たとえば、配列情報が利用できない場合)は、BCSデータベースに移植される追加的な病原体掲載情報を提供することにより、下流の有用性を有する。より多くのBCS指標がBCSデータベース中で利用可能になるにつれて、将来的な病原体同定のプロセスが大幅に改善される。
【0082】
本発明の別の態様は、12個の広範囲インテリジェントPCRプライマーを使用して、配列情報が利用可能なすべての細菌の検出および同定を可能にする病原体サンプルを調べる方法である。12個のプライマーのうち6個は、細菌(たとえば、Bacillus/Clostridia群あるいはγ-プロテオバクテリア)の広範囲の門(division)を標的とするプライマーとして本明細書中で定義される“広範囲サーベイプライマー”である。12個のプライマーの群のその他の6個のプライマーは、より焦点を絞った適用範囲およびより高い解像度を提供するプライマーとして本明細書中では定義される、“ディビジョン-ワイド”プライマーである。この方法により、種レベルで既知の細菌のほぼ100%の同定が可能になる。本発明のこの態様のさらなる例は、“サーベイ/ドリル-ダウン”と本明細書中では示す方法であり、ここで検出された病原体についての亜種の特徴は、追加的なプライマーを使用して得られる。そのような亜種の特徴の事例には、抗生物質耐性、病原性島、ビルレンス因子、系統型、亜種型、および分岐群(clade group)が含まれるが、これらには限定されない。サーベイ/ドリル-ダウン法を使用して、病原体の検出、確認および亜種の特徴を、数時間以内に提示することができる。さらに、サーベイ/ドリル-ダウン法は、通常はトキシンを製造していない細菌種中へのトキシン遺伝子の挿入など、生物工学的現象を同定することに焦点を絞ることができる。
【0083】
H. RNAウィルスの同定のための病原体同定用アンプリコンの使用
コロナウィルスは、本発明の方法により同定することができる病原体のRNAウィルスの例を代表する。
【0084】
(-)鎖RNAウィルス属の例には、アレナウイルス、ブニヤウィルス、およびモノネガウィルス(mononegavirales)が含まれる。アレナウイルス属の種には、サビア(sabia)ウィルス、ラッサ熱ウイルス、マクポウイルス、アルゼンチン出血熱ウィルス、およびフレクサル(flexal)ウィルスが含まれるが、これらに限定されない。ブニヤウィルス属の種には、ハンタ(hanta)ウィルス、ナイロ(nairo)ウィルス、フレボ(phlebo)ウィルス、ハンタン(hantaan)ウィルス、コンゴ‐クリミヤ出血熱ウィルス、およびリフトバレー熱ウィルスが含まれるが、これらに限定されない。モノネガウィルス(mononegavirales)属の種には、フィロウィルス、パラミクソウィルス、エボラウィルス、マールブルグウィルス、およびウマ麻疹ウイルスが含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
(+)鎖RNAウィルス属の例には、ピコルナウィルス、アストロウイルス、カリシウィルス、ニド(nido)ウィルス、フラビウィルス、およびトガウィルスが含まれる(しかし、それらに限定されない)。ピコルナウィルス属の種には、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、ヒトコクサッキーウイルスA、ヒトエコーウイルス、ヒトエンテロウィルス、ヒトポリオウィルス、A型肝炎ウィルス、ヒトパーエコー(parecho)ウィルス、およびヒトライノウィルスが含まれるが、これらに限定されない。アストロウイルス属の種には、ヒトアストロウイルスが含まれるが、これには限定されない。カリシウィルス属の種には、チバ(chiba)ウィルス、ヒトカリシウィルス、ノーウォークウィルスが含まれるが、これらに限定されない。ニド(nido)ウィルス属の種には、コロナウィルス、トロウィルスが含まれるが、これらに限定されない。フラビウィルス属の種には、Alfuyウィルス、Alkhurmaウィルス、アポイウィルス、Aroaウィルス、Bagazaウィルス、バンジウィルス、Batu caveウィルス、Boubouiウィルス、Bukalasaコウモリウィルス、Bussliquaraウィルス、Cacipacoreウィルス、Carey島ウィルス、カウボーンリッジウィルス、ダカールコウモリウィルス、シカダニウィルス、デングウィルス1、デングウィルス2、デングウィルス3、デングウィルス4、エッジヒルウィルス、エンテベコウモリウィルス、フラビウィルスsp.、Gadgets gullyウィルス、C型肝炎ウィルス、Iguapeウィルス、イルヘウスウィルス、イスラエル七面鳥髄膜脳炎ウィルス、日本脳炎ウィルス、Jugraウィルス、Jutiapaウィルス、Kadamウィルス、Kedougouウィルス、ココベラウィルス、Koutangoウィルス、クンジンウィルス、キャサヌール森林疾患ウィルス、ランガトウィルス、跳躍病ウィルス、Maeban ウィルス、モドックウィルス、モンタナ筋炎白質脳炎ウィルス、マーレーバレー脳炎ウィルス、Naranjalウィルス、ネギシウィルス、ウンタヤウィルス、オムスク出血性熱ウィルス、Phnom-Penhコウモリウィルス、Potiskumウィルス、ポワサンウィルス、リオブラボーウィルス、ロシオ(Rocio)ウィルス、Royal farmウィルス、ロシア春夏脳炎ウィルス、Saboyaウィルス、セントルイス脳炎ウィルス、Sal viejaウィルス、San perlitaウィルス、Saumarez reefウィルス、Sepikウィルス、Sitiawanウィルス、Sokulukウィルス、Spondweniウィルス、ストラトフォードウィルス、Tembusuウィルス、ダニ媒介性脳炎ウィルス、Tyulenlyウィルス、ウガンダ5ウィルス、ウスツウィルス、西ナイルウィルス、および黄熱ウィルスが含まれるが、これらに限定されない。トガウィルス属の種には、チクングンヤ熱ウィルス、東部ウマ脳炎ウィルス、マヤロウィルス、オニョン-ニョンウィルス、ロスリバーウィルス、ベネズエラウマ脳炎ウィルス、風疹ウィルス、E型肝炎ウィルスが含まれるが、これらに限定されない。C型肝炎ウィルスは、340ヌクレオチドの5'-非翻訳領域、3010アミノ酸を有する9タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム、そして240ヌクレオチドの3'-非翻訳領域を有する。5'-UTRおよび3'-UTRは、C型肝炎ウィルスにおいて99%保存されている。
【0086】
レトロウィルスの種には、ヒト免疫不全ウィルスおよびB型肝炎ウィルスが含まれるが、これらには限定されない。
本発明の一態様において、標的遺伝子は、RNA-依存性RNAポリメラーゼまたは(+)鎖RNAウィルスによりコードされるヘリカーゼ、または(-)鎖RNAウィルス由来のRNAポリメラーゼである。(+)鎖RNAウィルスは、二本鎖RNAであり、そしてRNA依存性RNAポリメラーゼおよび鋳型としての(+)鎖を使用するRNA指向性RNA合成により複製する。ヘリカーゼは、RNA二重鎖を巻き戻し、一本鎖RNAの複製を可能にする。これらのウィルスには、ピコルナウィルス属、トガウィルス属、フラビウィルス属、アレナウィルス属、コロナウィルス科(たとえば、ヒト呼吸器ウィルス)およびA型肝炎ウィルス由来のウィルスが含まれる。これらのタンパク質をコードする遺伝子は、可変領域および可変領域に隣接する非常に保存的な領域を含む。この遺伝子を使用して、このウィルス種を同定することができ、そして必要であれば、ウィルス種の系統を同定することができる。
【0087】
本発明のいくつかの態様において、RNAウィルスは、まずRNAウィルスからRNAを取得し、逆転写によりRNAから対応するDNAを取得し、ゲノムの可変領域に隣接するRNAウィルスゲノムの保存的領域に結合する1またはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対を使用してDNAを増幅して1またはそれ以上の増幅産物を取得し、1またはそれ以上の増幅産物の分子量または塩基組成を決定し、そしてその分子量または塩基組成を、計算して決定したかまたは実験的に決定した既知RNAウィルスの分子量または塩基組成と比較すること(ここで、少なくとも1つの適合により、RNAウィルスを同定する)により、同定される。
【0088】
本発明の一態様において、RNAウィルスは、コロナウィルスである。別の態様において、コロナウィルスには、以下の群のコロナウィルスの構成物:トリ伝染性気管支炎、ウシコロナウィルス、イヌコロナウィルス、ネコ感染性腹膜炎ウィルス、ヒトコロナウィルス229E、ヒトコロナウィルスOC43、マウス肝炎ウィルス、ブタ流行性下痢ウィルス、ブタ赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ラット唾液腺涙腺炎コロナウィルス、SARSコロナウィルス、伝染性胃腸炎ウイルスおよび七面鳥コロナウィルス、が含まれるが、これらには限定されない。
【0089】
本発明のその他の態様において、インテリジェントプライマーは、コロナウィルスのゲノムの安定でそして高度に保存的な領域中に、病原体同定用アンプリコンを生成する。高度に保存的な領域中のアンプリコンの特徴を明らかにする利点は、この領域がプライマー認識の時点の後に進化しうる可能性が低い、という点であり、この場合、増幅工程が生じないだろう。そのようなプライマーセットは、したがって、広範囲サーベイ-型プライマーとして有用である。本発明の一態様において、コロナウィルスの高度に保存的な領域の例としては、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)をコードする遺伝子がある。本発明の別の一態様において、インテリジェントプライマーは、上述した安定な領域よりも素早く進化する領域中に病原体同定用アンプリコンを生成する。進化性のゲノム領域に対応する病原体同定用アンプリコンの特徴を明らかにする利点は、発生する系統変異株を識別するために有用である、という点である。別の態様においては、コロナウィルス進化性のゲノム領域の例としては、nsp11をコードする遺伝子がある。
【0090】
本発明は、発生するコロナウィルスにより引き起こされる疾患を同定するためのプラットフォームとして、顕著な利点もまた有する。本発明により、ハイブリダイゼーションプローブを生成するために、配列を事前に知っておく必要がなくなる。このように、別の態様においては、本発明は、コロナウィルスの同定のプロセスを臨床的設定において行う場合、およびコロナウィルスが以前に全く見いだされたことがない新しい種である場合においても、コロナウィルス感染の病因を決定する手段を提供する(本明細書で使用する場合、“病因”という用語は、疾患または異常な生理学的症状の原因または起源のことをいう)。この方法が、病原体同定用アンプリコンの生成のための鋳型として作用する配列中で生じる天然に存在する進化性の変異株(素早く進化するウィルスの特徴付けのための主要な関心事)により、混乱されるため、このことが可能になる。分子量の測定および塩基組成の決定は、配列についての先入観なしに、バイアスのない方法において達成することができる。
【0091】
本発明の別の態様は、異なる場所から入手した複数のサンプルを、疫学的設定において上述した方法により解析する場合、コロナウィルスのいずれかの種または系統の拡大を追跡する手段もまた提供する。一態様において、複数の異なる場所から入手した複数のサンプルを、病原体同定用アンプリコンを生成するプライマーにより解析するが、そのサブセットは、特定のコロナウィルスを含有する。コロナウィルス-含有サブセットの構成物の対応する場所は、特定のコロナウィルスの対応する場所への拡大を示す。
【0092】
別の態様において、本発明は、本明細書中で記載する方法を実行するためのキットもまた提供する。いくつかの態様において、このキットは、病原体由来の標的ポリヌクレオチドに対する増幅反応を行って、病原体同定用アンプリコンを形成するため、十分な量の1またはそれ以上のプライマー対を含んでいてもよい。いくつかの態様において、このキットは、1〜50種のプライマー対、1〜20種のプライマー対、1〜10種のプライマー対、または1〜5種のプライマー対を含んでいてもよい。いくつかの態様において、このキットは、表2に記載する1またはそれ以上のプライマー対を含んでいてもよい。いくつかの態様において、このキットは、広範囲サーベイプライマー、ディビジョン-ワイドプライマー、またはドリル-ダウンプライマー、またはそれらのいずれかの組み合わせを含んでいてもよい。キットは、特定の病原体の同定のための特定のプライマー対を含むように設計することができる。例えば、広範囲サーベイプライマーキットを最初に使用して、未知の病原体をコロナウィルスと同定することができる。別のキットを使用して、いずれかのコロナウィルスを、何か他のコロナウィルスと識別することができる。いくつかの態様において、これらのキットのいずれかを、未知の病原体の種を同定することができるように、広範囲サーベイプライマーとディビジョン-ワイドプライマーの組み合わせを含むように組み合わせることができる。
【0093】
このキットは、上述した増幅プロセスのため、十分量の逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、適切なヌクレオシド三リン酸(上述したもののいずれかを含む)、DNAリガーゼ、および/または反応バッファー、あるいはこれらのいずれかの組み合わせを含んでいてもよい。キットはさらに、キットの特定の態様に関連する指示書を含んでいてもよく、そのような指示書には、方法の操作のためのプライマー対および増幅条件を記載する。キットはまた、マイクロ遠心チューブなどの増幅反応容器を含んでもよい。キットはまた、例えば界面活性剤を含む、病原体核酸を単離するための試薬を含んでもよい。キットは、キットのプライマー対を使用して、測定されたかまたは計算された病原体の分子量および/または塩基組成表を含んでもよい。
【0094】
本発明はまた:被検体から得たサンプル由来の核酸を、コロナウィルスの保存された配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーの第一の対と接触させること(ここでコロナウィルスの前記保存された配列は、可変核酸配列に隣接する);サンプル由来の核酸を、推定される第2の(1または複数の)病原体の保存された配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーの第二の対と接触させること(ここで推定される第2の病原体の配列は、可変配列に隣接する);第一のプライマー対と第二のプライマー対との間の可変核酸配列を増幅して、コロナウィルス増幅産物および第2の病原体増幅産物を生成すること;増幅産物のそれぞれの塩基組成の特徴を決定すること;増幅産物のそれぞれの塩基組成の特徴を使用して、SARS-関連コロナウィルスおよび第2の病原体の組み合わせを、SARSの少なくとも1つの症候の推定原因として特定すること;を含む、SARSの少なくとも1つの症候を提示する被検体の2つの病因を特徴づけるための方法にも関する。いくつかの態様において、第2の病原体はSARSの少なくとも1つの症候の重症度の増加と関連する。いくつかの態様において、第2の病原体は、SARSの少なくとも1つの症候を提示している被検体の死亡率の指標が増加することと相関する。いくつかの態様において、SARSの少なくとも1つの症候は、高熱(>38℃)、空咳、息切れ、頭痛、筋肉の凝り、食欲喪失、倦怠、錯乱、発疹、または下痢、またはこれらのいずれかの組み合わせである。いくつかの態様において、二重の病因は、SARS-関連コロナウィルスと第2のウィルスとの相乗的ウィルス感染を含む。いくつかの態様において、第2のウィルスは、アデノウィルス、パラインフルエンザウィルス、呼吸器合包体ウイルス、麻疹ウイルス、ニワトリポックスウィルス、またはインフルエンザウィルス、またはこれらのいずれかの組み合わせである。いくつかの態様において、二重の病因は、SARS-関連コロナウィルスと第2の細菌病原体の相乗的ウィルス/細菌感染を含む。いくつかの態様において、第2の細菌病原体は、Streptococcus pneumoniae、Mycoplasma pneumoniae、またはChlamydia trachomatis、またはこれらのいずれかの組み合わせを含む。いくつかの態様において、複数の接触工程を平行して行う。いくつかの態様において、複数の接触工程を同時に行う。
【0095】
本発明は:上述した方法を使用して、サンプル中のSARS-関連コロナウィルスの存在を除外すること(ここで第一のプライマー対によりSARS-関連コロナウィルスの増幅がないことがSARS-関連コロナウィルスが存在しないことを示唆し、そしてここで、第二のプライマー対の増幅産物の塩基組成の特徴が第2の病原体を同定する);それによりSARSの少なくとも1つの症候の病因が示される、ことを含むSARSの少なくとも1つの症候を提示する被検体の病因を特定する方法にも関する。いくつかの態様において、第2の病原体は、急性呼吸器感染の原因である。いくつかの態様においては、第2の病原体は、例えばStreptococcus pneumoniae、Mycoplasma pneumoniaeまたはChlalmydia trachomatisなどの細菌性物質である。いくつかの態様においては、第2の病原体は、例えばアデノウィルス、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウィルス、麻疹ウィルス、ニワトリポックスウィルス、またはインフルエンザウィルスなどのウィルス性物質である。
【実施例】
【0096】
実施例1:コロナウィルスサンプル、核酸単離および増幅
HRT-18およびMRC5細胞株に、HCoV-OC43およびHcoV-229E(University of Colorado and Naval Health Research Center, San Diego, CA)、HcoV-229Eを接種した。SARS RNAは、TRIzol抽出バッファー中での1 mLのSARSコロナウィルス抽出物として、CDC(Atlanta, GA)から得た。SARS CoV-Tor2系統は、感染Vero-E6細胞からの細胞培養上清としてUniversity of Manitobaから得た。
【0097】
RNAは、250μLのコロナウィルス感染細胞または培養上清から、TrizolまたはTrizol LS(Invitrogen Inc., Carlsbad, CA)をそれぞれ製造者のプロトコルにしたがって使用して単離した。5μgの剪断poly A DNAをRNAの沈殿のために添加した。ペレットになった核酸を70%エタノール中で洗浄し、そして20 unitsのSuperase・InTM(Ambion, Austin, TX)を含有する100μLのDEPC処理水中に再懸濁した。再懸濁したRNAを、Qiagen RNAeasyミニキットを製造者のプロトコルにしたがって使用して精製した。RNAを30μLのDEPC処理水中でRNAeasyTMカラムから溶出し、そして-70℃にて保存した。
【0098】
精製RNAを、10μLの精製RNAを500 ngのランダムプライマー、1μgの剪断poly-A DNAおよび10 unitsのSuperase・InTMを含有する5μLのDEPC処理水と混合することにより、逆転写のためにプライミングした。混合物を60℃で5分間加熱し、そしてその後4℃に冷却した。ランダムプライマーをRNAに対してアニーリングした後、15μLのファーストストランド反応混合物(2×ファーストストランドバッファー(Invitrogen Inc., Carlsbad, CA)、10 mM DTT、500μM dNTP、および75 unitsのSuperScript IIからなる)を、RNAプライマー混合物に対して添加した。RNAを45℃にて45分間、逆転写処理した。逆転写反応混合物の種々の希釈物をPCR反応において直接使用した。
【0099】
すべてのPCR反応は、96-ウェルマイクロタイタープレートおよびM.J. Dyadサーモサイクラー(MJ research, Waltham, MA)を使用して50μL中で行った。PCR反応バッファーは、4 unitsのAmplitaq Gold、1×バッファーII(Applied Biosystems, Foster City, CA)、2.0 mMのMgCl2、0.4 Mのベタイン、800μMのdNTPミックス、およびPCRプライマーを含有する250 nMのプロピンからなる。以下のPCR条件を使用して、コロナウィルス配列を増幅した:95℃にて10分間、その後、95℃にて30秒間、50℃にて30秒間、および72℃にて30秒間のサイクルを50サイクル。
【0100】
20μLの各PCR粗生成物を96-ウェルプレート中に移した。前処理したアニオン交換ZipTipsTM(Millipore)を96-チップのEvolution P3(Perkin Elmer)のヘッドにロードし、その後20μLのPCR粗生成物の一部を繰り返し吸引・放出することにより、20μLのPCR粗生成物の一部を各チップ上にロードした。サンプルのローディングの後、40 mM NH4HCO3の一部分を使用して、各サンプルを6回洗浄し、消費されなかったプライマーおよびdNTPを除去した。この工程の後、20%MeOH溶液の10μLの部分を使用してすすぎ、ポリメラーゼまたはPCRバッファーに由来するすべての残存するポリマー性物質を除去した。最終的な精製/脱塩PCR生成物の溶出物を、各チップを10μL容量の0.4 M NH4OHですすぎ、そして10μLの溶出液を96-ウェルプレートのウェル中に入れることにより達成する。ESI-MSによる解析の前に、溶出液を50%MeOHおよび50 mMピペリジン/イミダゾールを含有する溶液で1:1に希釈した。SH2(CGTGCATGGCGG;SEQ ID NO: 105, Synthetic Genetics, San Diego, California)と呼ばれる低分子のオリゴヌクレオチドを、内部質量標準として、最終濃度50 nMで添加した。
【0101】
実施例2:分子量決定
質量分析器は、積極的にシールドされた7 Tesla超伝導マグネットを使用するBruker Daltonics(Billerica, MA)Apex II 70eエレクトロスプレイイオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析器(ESI-FTICR-MS)に基づく。パルス配列コントロールおよびデータ取得のすべての側面は、Bruker's Xmassソフトウェアを実行する1.1 GHz Pentium IIデータステーションで行った。20μL容量のサンプルを、96-ウェルマイクロタイタープレートから、データステーションにより制御されているCTC HTS PAL自動サンプリング装置(LEAP Technologies, Carrboro, NC)を使用して直接抽出した。サンプルを、75μL/時間の流速でESI供給源中に直接的に注入した。イオンは、ガラス脱溶媒和キャピラリの金属被覆末端から約1.5 cmの所に位置する軸外のアースされたエレクトロスプレイプローブを使用して、改変Analytica(Branford, CT)供給源中でエレクトロスプレイイオン化を介して形成された。ガラスキャピラリの気圧末端は、データ取得の間、ESI針に対して6000 Vのバイアスをかける。乾式N2/O2の逆流を使用して、脱溶媒和プロセスに助力した。イオンは、質量分析が行われる捕捉イオンセル中に注入される前に、rf-のみの六重局、スキマーコーン(skimmer cone)、および補助ゲート電極を含む外部イオン貯蔵容器中で蓄積された。スペクトル取得は、連続的負荷サイクルモードで行い、それによりイオンは六重局イオン貯蔵容器中に蓄積され、そして同時に捕捉イオンセル中でイオン検出された。イオンが捕捉イオンセルに移動される1.2 msの移動現象の後、イオンを8000〜500 m/zに対応する1.6 msの周波数掃引励起(chirp excitation)に供した。データを500〜5000のm/z範囲にわたって取得した(225K Hz帯域幅にわたって、1Mデータポイント)。各スペクトルは、同時に付加した32の過渡電流の結果であった。過渡電流を、振幅モード(magnitude mode)フーリエ変換の前、そして内部質量標準を使用した較正後に、いったんゼロ詰めした。ICR-2LSソフトウェアパッケージ(G.A. Anderson, J.E. Bruce. (Pacific Northwest National Laboratory, Richland, WA, 1995))を使用して、質量スペクトルを解析し、そしてDNA用に改変した“平均化”調整ルーチンを使用して、単一モノアイソトピック種の質量を計算した(M.W. Senko, S.C. Beu, F.W. McLafferty, Journal of the American Society for Mass Spectrometry 6, 229 (1995))。このアプローチを使用して、モノアイソトピック分子量を計算した。
【0102】
実施例3:プライマーの選択
すべての既知のコロナウィルス種を増幅するプライマーを設計するため、そして新たな構成物を同定するため、完全なゲノムおよび個別の遺伝子を含むGenBankから入手可能なすべてのコロナウィルス配列を使用してアラインメントを行い、そしてPCRプライマー対が約150またはそれよりも少ない核酸塩基の長さの病原体同定用アンプリコンを生成しうる領域についてスキャンした。約150核酸塩基という現在の長さの制限は、エレクトロスプレイ質量分析により、十分な正確性でPCR増幅産物の質量を決定し、塩基組成を明瞭に決定する能力により、決定される。当業者は、この制限は、核酸の分子量決定の分野における改良にしたがって、増大する可能性があることを理解するだろう。
【0103】
2つの標的領域を、コロナウィルスorf-1b中に選択した。その一つは、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)中のものであり、そしてもう一方はNsp11中のものである(図7)。これらの領域内部のプライマーの場所は、複数の多様なコロナウィルスの限界希釈を行うことにより、感度および広範囲プライミング能力について同時的に最適化した。表2中に示されるプライマー対の名前は、所定の領域のためのフォワードプライマーおよびリバースプライマーのことである。各プライマーを、5'末端にチミジン(T)ヌクレオチドを含み、PCRのあいだに非-鋳型アデノシン(A)の追加を最小限にするように設計した。
【0104】
表2は、本発明の方法を使用してコロナウィルスを同定する様に設計されたインテリジェントプライマー(SEQ ID NO: 5〜11)のコレクションを示す。フォワードプライマーまたはリバースプライマーの名前は、参照配列、この場合には、ヒトコロナウィルス229E配列、に関して、プライマーがハイブリダイズするコロナウィルスゲノムの遺伝子領域を示す。SEQ ID NO: 5および6により示されるプライマーは、GenBankアクセションNo: NC_002645(本明細書中ではSEQ ID NO: 30として援用される)を参照して、コロナウィルスnsp11遺伝子から作製したアンプリコンを生じる様に設計した。SEQ ID NO: 7〜11により示されるプライマーは、GenBankアクセッションNo: AF304460(本明細書中ではSEQ ID NO: 31として援用される)を参照して、コロナウィルスRNA-依存性RNAポリメラーゼ遺伝子から作製したアンプリコンを生じる様に設計した。表2中において、@は5-プロピニルウラシル(これは、Tを化学的に修飾したもの);&は5-プロピニルシトシン(これは、Cを化学的に修飾したもの)を示す。
【0105】
【表2】
【0106】
実施例4:コロナウィルス用の病原体同定用アンプリコンのデータベース
病原体同定用アンプリコンの予想分子量および予想塩基組成のデータベースを、電気的PCR検索アルゴリズム(ePCR)を使用して作成した。存在するRNA構造検索アルゴリズム(T. Macke et al., Nuc. Acids Res. 29, 4724 (2001))は、ハイブリダイゼーション条件、ミスマッチ、および熱力学的計算などのPCRパラメータを含むように修飾した(J. SantaLucia, Proc. Natl. Acad.Sci. U.S.A 95, 1460 (1998))。ePCRは、最初、プライマー特異性をチェックするために使用され、そして選択されたプライマー対を、プライマー配列に対する適合性についてGenBankヌクレオチド配列データベースに関して検索した。コロナウィルスプライマーは、GenBank中のすべての既知のコロナウィルスをプライミングしたが、細菌、ウィルス、またはヒトDNA配列をプライミングしないことが、ePCRにより示された。それぞれの適合性に関して、予想アンプリコン配列のA塩基、G塩基、C塩基、およびT塩基のカウント数を計算し、そしてコロナウィルス病原体同定用アンプリコンのデータベースを作成した(表3)。
【0107】
プライマーセットCV_NC002645_18190_18215P_F(nsp11プライマーセット、SEQ ID NO: 5および6)およびVPOL_AF304460_1737_1755P_F(RdRpプライマーセット、SEQ ID NO: 9および10)を使用して得た一連の異なるコロナウィルスについての病原体同定用アンプリコンの両方の鎖の分子量および塩基組成が、表3に示される。
【0108】
【表3−1】
【0109】
【表3−2】
【0110】
【表3−3】
【0111】
【表3−4】
【0112】
【表3−5】
【0113】
【表3−6】
【0114】
“社内で配列決定”という記載は、GenBankの記録が表3のデータベースのアッセンブリの時には存在しなかったことを意味している。実験的に測定された塩基組成を確認するため、本研究で使用される各標的領域に隣接する約500塩基対(bp)の領域を配列決定した。標的領域を取り巻く領域(nsp11について615 bp、そしてRdRpについて454 bp)を、5'M13配列決定用タグを含有するプライマーを使用して増幅した。配列決定の方法は、当業者に周知である。
【0115】
実施例5:コロナウィルス用の病原体同定用アンプリコンの特性決定
すべてのコロナウィルスについての広範囲の検出のため、orf-1b中の2種類のPCRプライマー標的領域(一方は、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)中の領域、および他方はNsp11中の領域)を、実施例3および4に記載の解析に基づいて同定した。これらの領域中のプライマーの場所を、複数の多様なコロナウィルスの限界希釈を行うことにより、感度および広範囲プライミング能力の両方に関して同時的に最適化した。GenBankヌクレオチドデータベース配列のePCRによる、最終的なプライマー対の解析により、これらのプライマーがすべての既知のコロナウィルスを増幅するが、その他のウィルス、細菌、またはヒトのDNAは増幅しないことが期待されうることが、示された。表4に列挙された各ウィルスについてのPCR生成物が生成され、脱塩され、そして実施例1および2において示されたエレクトロスプレイイオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析法(FTICR-MS)により解析された。スペクトルシグナルを、アルゴリズムにより処理して、塩基組成データを得た。図8は、エレクトロスプレイイオン化、鎖分離、および分離されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の実際の電荷状態分布、およびSARSコロナウィルスに対するRdRpプライマー対由来のPCR生成物の分子量および塩基組成の決定についてのスキーム図である。
【0116】
FTICR-MSの正確性のおかげで(質量測定誤差、±1 ppm)、すべての検出された質量を、センス鎖およびアンチセンス鎖の塩基組成に対して明瞭にマッピングすることができた。14種のコロナウィルス単離株の解析に基づく結果を、表4中に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
両方のプライマー領域について、測定されたシグナルは、GenBank中の既知のコロナウィルス配列から予想された組成と一致した。この研究で使用されたいくつかの単離株は、GenBank中にゲノム配列記録を有していなかった。それにもかかわらず、病原体同定用アンプリコンがすべての試験ウィルスについて得られ、そしてそれらの塩基組成を実験的に決定した。これらの実験的に決定された塩基組成を、配列決定により確認した。したがって、ここで記載したストラテジーにより、事前に配列を知る必要なく、ウィルスの同定が可能になる。
【0119】
同一サンプル中の複数のウィルスを検出する能力を示すため、同時-感染のあいだに生じる可能性がある様に、3種のヒトコロナウィルス、HCoV-229E、HCoV-OC43、およびSARS CoV由来のウィルス抽出物を蓄積し、そして混合物を本発明の方法により解析した。3種類すべてのウィルス由来のシグナルは、質量スペクトルにおいて明瞭に検出され、そして分離されたことから(図9)、1種以上のコロナウィルス種の同時-感染を同定することができることが示された。このシステムにおける信頼性のある複数種検出についてのダイナミック・レンジは、104である(それぞれの方向で100:1、データは示していない)。この実施例は、コロナウィルス感染の病因が、本発明の方法を用いて解析できることを示す。さらに、コロナウィルスの同定方法は、細菌の広範囲かつドリル-ダウン同定の一般的方法と組み合わせて、ウィルスおよび細菌の同時-感染を含むより複雑な病因を解析することができる。
【0120】
RdRpおよびnsp11病原体同定用アンプリコンについての5種の異なるコロナウィルスの塩基組成の空間表示を、図10に示す。各塩基組成のG含量は、円錐系の傾斜角により示され、それは、実験的に決定した塩基組成を示す。計算された塩基組成は、標識された球面により示される。図10は、実験的に決定された塩基組成が計算された塩基組成と一般的には適合することを示す。一つの例外は、イヌコロナウィルスの解析であり、それは、1箇所のTからCへの置換(1ヌクレオチド多型)がアンプリコン中に存在することを示した。
【0121】
病原体同定用アンプリコンの特性決定は、配列を事前に知っておく必要がない。この特徴は、nsp11プライマーセットを用いて得られた病原体同定用アンプリコンについて例示される。5種のウィルス種のうち3種(FIPV、CcoVおよびHcoV OC43)に関しては、nsp11領域中に利用可能な配列がなかった。それにもかかわらず、3種の病原体同定用アンプリコンの塩基組成が決定され、それはコロナウィルスnsp11病原体同定用アンプリコンの塩基組成の予想された境界の十分内部にあった。したがって、これら3種のコロナウィルスの正体は未知であったし、そしてもしそれらが同一のプライマーセットを用いて試験された場合には、それらは新たに発見されたコロナウィルスとして同定されるだろう。
【0122】
実施例6:内部較正化PCRによる、SARSコロナウィルスの定量
SARSコロナウィルスは、強制換気呼吸装置を装着した研究者により、P3施設中で取り扱われた。施設および補給品は、10%次亜塩素酸漂白溶液で少なくとも30分間、または10%ホルマリン中に少なくとも12時間浸漬することにより除染し、そしてウィルスを具体的なScripps Research Institute指針に厳密にしたがって取り扱った。SARS CoVを、最終濃度10%ウシ胎仔血清(Hyclone)、292μg/mL L-グルタミン、100 U/mLペニシリンGナトリウム、100μg/mL硫酸ストレプトマイシン(Invitrogen)、および10 mM HEPES(Invitrogen)を添加した完全DMEM中で、まだコンフルエントになっていない状態のVero-E6細胞上で、37℃、5%CO2にて培養した。ウィルス含有培養液は、ウィルス細胞変性作用のピークのあいだ、2回継代のストックウィルスから約10 PFU/cellのSARS CoVを接種してから48時間後に、回収した。感染性ウィルスプラークアッセイにより力価測定した。Vero-E6細胞の単層を組織培養プレート中で70〜80%コンフルエントで調製した。ウィルスの10倍連続希釈物を、完全DMEM中で調製した。培養液を、細胞から吸引し、200μLの接種物により置換し、そして細胞を37℃、5%CO2にて1時間インキュベートした。細胞に2〜3 mL/ウェルの0.7%アガロースを重層させ、2%ウシ胎児血清を含有する1×DMEMを重層させた。アガロースを室温で凝固させ、その後、37℃、5%CO2にて72時間インキュベートした。プレートを、一晩ホルマリン浸漬することにより除染し、アガロースプラグを取り除き、そして細胞を0.1%クリスタルバイオレットで染色して、ウィルス斑を目立たせた。
【0123】
臨床的に対応する液体中におけるSARSコロナウィルスの検出を示すため、力価測定したSARSウィルスの様々な希釈物を、ヒト血清に対して添加した。SARSウィルスの10倍連続希釈物(100〜10-15)を、完全DMEM中で調製した。ウィルスの50μLの各希釈物を200μLヒト血清に添加し、ウェルを混合し、そして0.75 mLのTrizol Reagent LS(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用して、室温にて10分間処理した。その後、内容物をきれいなチューブに移し、それを10%漂白液で外側を滅菌し、そしてP2設備に移した。RNAを上述したプロトコルにしたがって抽出した。単離RNAの100%を逆転写した。PCR反応当たり1/40倍のRT反応を使用した。RT-PCRを、実施例2に記載する様に行った。
【0124】
PFUと核酸標的のコピー数との関係を決定するため、SARSコロナウィルスストック溶液を、内部較正化PCRを使用して解析した。各アンプリコンの内部に5塩基の欠失がある以外は、SARS CoV由来の各PCR標的領域のすべてに関して同一な核酸配列を伴う合成DNA鋳型を、pCR-Bluntベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中にクローニングした。較正プラスミドをOD260測定を使用して定量し、連続希釈し(10倍希釈)、そして固定量のウィルスストックの逆転写酵素後cDNA調製物と混合し、そして競合的PCRおよびエレクトロスプレイ質量分析法により解析した。各PCR反応により、2セットのアンプリコンが生成され、一つは較正DNAに対応し、もう一方はSARS cDNAに対応した。合成DNA較正物上のプライマー標的およびウィルスDNA上のプライマー標的がほぼ同一であったため、2種の生成物の増幅については類似のPCR効率が存在していると考えられた。較正物の各希釈物について、結果として得られた合成DNAおよびウィルスcDNAの質量スペクトルのピーク高の比の解析を使用して、逆転写酵素処理後のPFU当たりに存在する核酸コピー量(較正分子により測定される)を決定した。PFU(プレート形成ユニット)は、各感染性ウィルス粒子が細菌の連続的“芝生”または培養細胞の連続的シートの感染に際して、一つのきれいなプラークを生じさせることができるため、所定のサンプル中の感染性ウィルス粒子数の定量的測定値として定義される。抽出RNAのすべてを逆転写酵素工程で使用して、ウィルスcDNAを生成したため、元々のウィルス調製物中の感染性ウィルス粒子に関連する核酸のおよその量が推定された。
【0125】
PFUと核酸のコピー数との関係を調べるため、ウィルスストックを、内部較正化PCRを使用して解析した。各アンプリコンの内部に5塩基の欠失を有する以外はSARS CoV由来の各PCR標的領域のすべてに関して同一な核酸配列を有する合成DNA鋳型を、pCR-Bluntベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中にクローニングした。較正プラスミド OD260測定を使用して定量し、連続希釈し(10倍希釈)、そして固定量のウィルスストックの逆転写酵素後cDNA調製物と混合し、そして競合的PCRおよびエレクトロスプレイ質量分析法により解析した。各PCR反応により、2セットのアンプリコンが生成され、一つは較正DNAに対応し、もう一方はSARS cDNAに対応した。合成DNA較正物(較正アンプリコン)から生成されたアンプリコンおよびウィルスcDNAから生成されたアンプリコン(病原体同定用アンプリコン)はほぼ同一であったため、2種の生成物の増幅についてのPCR効率は、同様であると考えられた。較正物の各希釈物について、結果として得られた合成DNAおよびウィルスcDNAの質量スペクトルのピーク高の比の解析を使用して、逆転写酵素後のPFU当たりに存在する核酸コピーの量(較正用分子により測定された)を決定した。抽出されたRNAのすべてを逆転写酵素工程で使用して、ウィルスcDNAを生成したため、もとのウィルス調製物中の感染性ウィルス粒子と関連するおよその核酸量を推定することができた。質量分析法解析により、3×104コピー数の希釈物での較正ピークとRdRpプライマーセットについての病原体同定用アンプリコンピークとの間で、約1:1のピーク発生量が示された(図11)。このように、PFUと核酸のコピー数の間の関係は、1 PFU = 300コピー数の核酸と計算された。
【0126】
本明細書中に記載されているものに加えて、上述の記載から、当業者にとって、本発明の様々な修飾は明らかなものである。そのような修飾はまた、添付した特許請求の範囲の範囲内のものであることが意図される。本明細書において言及されまたは引用されたそれぞれの特許、特許出願、印刷物、およびその他の参考文献は、その全体を参考文献として本明細書中に援用する。当業者は、多数の改変および修飾を本発明の態様に対して行うことができ、そしてそのような改変および修飾を本発明の概念から離れることなく行うことができることを理解するだろう。したがって、添付される請求の範囲が、本発明の文言的な概念または範囲に収まるものとして、すべてのそのような均等なバリエーションをカバーすることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1A】図1Aは、16S rRNA由来の保存的領域(図1A-1、1A-2、1A-3、1A-4、および1A-5)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1B】図1Bは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1C】図1Cは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1D】図1Dは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1E】図1Eは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1F】図1Fは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1G】図1Gは、23S rRNAドメインI由来の保存的領域(図1G)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1H】図1Hは、23S rRNAドメインIV由来の保存的領域(図1H)の事例を示す、コンセンサス図である。これらの領域をコードするDNA部分は、病原体同定用アンプリコンの生成のための鋳型として使用するために適している。矢印は、PCR用のインテリジェントプライマー対を設計した領域(DNAに対応させた場合)の例である。それぞれのプライマー対用の標識は、コンセンサス図上の増幅領域の最初の塩基番号および最後の塩基番号を示す。大文字の塩基は、95%より高く保存されているものである;小文字の塩基は、90〜95%保存されているものである;黒丸は80〜90%保存されているものである;そして白丸は80%未満保存されているものである。それぞれのプライマー対の標識は、コンセンサス図上の増幅領域の最初の塩基番号および最後の塩基番号を示す。16S rRNAコンセンサス配列のヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 3であり、そして23S rRNAコンセンサス配列のヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 4である。
【図2】図2は、図1A-1において示された16S rRNAドメインIII由来の典型的なプライマー増幅領域を示す。
【図3】図3は、RNase Pにおける保存領域を示すスキーム図である。大文字の塩基は、90%より高く保存されているものである;小文字の塩基は、80〜90%保存されているものである;黒丸は、70〜80%保存されている塩基を示す;そして白丸は、70%未満保存されている塩基を示す。
【図4】図4は、ヌクレオチド類似体“タグ”を使用して塩基組成の特徴を決定した、塩基組成の特徴決定のスキーム図である。
【図5】図5は、質量タグホスホロチオエートA(A*)を有するBacillus anthracis領域および質量タグホスホロチオエートA(A*)を有しないBacillus anthracis領域の簡略化マススペクトルを示す。2種のスペクトルは、質量タグ含有配列の測定分子量が、被修飾配列と比べて大きい点で異なる。
【図6】図6は、プライマー選択プロセスを説明するプロセス図である。各群の生物に関して、候補標的配列を同定し(200)、そこからヌクレオチドアラインメントを作成し(210)、そして解析する(220)。その後、適切なプライミング領域を選択することによりプライマーを設計し(230)、そしてそれにより候補プライマー対の選択が可能になる(240)。次いで、プライマー対を電子的PCR(ePCR)によるin silico解析に供し(300)、ここでは病原体同定用アンプリコンをGenBankまたはその他の配列コレクションなどの配列データベースから入手し(310)、そして特異性につきin silicoでチェックする(320)。GenBank配列から入手した病原体同定用アンプリコン(310)を、所定のアンプリコンが未知の病原体を同定する能力を予測する確率モデルにより解析することができ、その結果、その後、好ましい確率スコアを有するアンプリコンの塩基組成を、塩基組成データベース中に保存する(325)。あるいは、プライマーおよびGenBank配列から入手した病原体同定用アンプリコンの塩基組成を、直接的に塩基組成データベース中に入力することができる(330)。候補プライマー対(240)は、生物のコレクション由来の核酸(410)のPCR解析などの方法によるin vitro増幅により確認される(400)。このようにして入手された増幅生成物を解析して、増幅産物を入手するために使用されたプライマーの感度、特異性、および再現性を確認する(420)。
【図7】図7は、コロナウィルスについての病原体同定用アンプリコンを生成するために使用された2種のコロナウィルスゲノム領域を示す。2つのプライマー対領域は、SARS CoV(TOR2、NC_004718.3:SEQ ID NO: 85)ゲノム位置にマッピングされる。RdRpアンプリコンは、位置15,132〜15,218に対応し、そしてnsp11アンプリコンは、同一配列の位置19,098〜19,234に対応する。これら2種の増幅領域に対応するさらに利用可能なコロナウィルス配列の複数配列アラインメントが示される。本研究の一部として配列決定されたコロナウィルス単離株を、アスタリスクを付して示す。すべてのその他の配列を、GenBankから入手した。PHEVおよびTCoVについてのnsp11配列は利用することができず、点線で示される。フォワードおよびリバースプライマー領域を目立たせてある。すべてのプライマーの5'末端を、PCRのあいだに非-鋳型化A残基の付加を最小限にするように作用するチミジン(T)ヌクレオチドにより設計した。それぞれの具体的なコロナウィルスについて、プライマー配列と比較してミスマッチである位置が示される。実際のプライマーの相補物が、リバースプライマーについて示される。各ウィルスについてのフォワードプライマーとリバースプライマーとの間の領域は、異なるコロナウィルスごとに異なり(示していない)、そして分子量または塩基組成によりそれらを解析するための特徴を提供する。プロピン基により化学的に修飾されたプライマー位置を目立たせてある。プライマー中で使用した5-プロピニルデオキシシチジンヌクレオチドおよび5-プロピニルデオキシウリジンヌクレオチドの構造を示す。
【図8】図8は、プロピニル化RdRpプライマー対を使用して取得されたSARSコロナウィルス由来のPCRアンプリコンのESI-FTICR質量スペクトル測定値である。エレクトロスプレイイオン化条件により、PCR生成物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を分離する(500)。複数の荷電状態は、(510)に示されるm/z範囲を通じて観察され、そこから(M-27H+)27-種の同位体エンベロープの拡張された観点が得られる(520)。センスアンプリコン鎖についての誘導された分子量(530)は、27298.518であり、そこからセンス鎖についてA27G19C14T28の明確な塩基組成が計算される(540)(表4にも示される)。この塩基組成は、SARSコロナウィルスのゲノム配列の病原体同定用アンプリコンに基づいて計算された塩基組成に対応する。
【図9】図9は、混合物中の3種のヒトコロナウィルスを同定するために使用された一連の質量スペクトルを示す。個別にそして混合物中で試験した3種のヒトコロナウィルス、HCoV-229E、HCoV-OC43およびSARS CoVについて、RdRpプライマーのために取得された、解析された(中性質量)質量スペクトルが示される。フォワードおよびリバースアンプリコンが、各鎖についてのモノアイソトピック質量測定値を伴って示される。
【図10】図10は、RdRpプライマーセットおよびnsp11プライマーセットを使用して取得されたコロナウィルスの病原体同定用アンプリコンに関する、実験的に決定された塩基組成(黒円錐)および計算された塩基組成(丸)の三次元プロットを示す。塩基組成の位置は、各塩基組成中のA、C、およびT含量の切片を示し、G含量は円錐の回転角により示される“偽-第四”次元で示される。RdRpセットに関して、実験的に決定された塩基組成は、1箇所のTからCへの置換(点線により示される)により、利用可能な配列情報に基づいて計算された組成と異なる組成を有することが見いだされたイヌコロナウィルス単離株(CcoV)以外は、計算された塩基組成と一致していた。
【図11】図11は、3×104の核酸コピー数に対応する希釈でのPCR内部標準較正アンプリコン、およびSARSコロナウィルス病原体同定用アンプリコンに対応する質量ピークを含有する質量スペクトルを示す。2つのピークのピーク存在度の比較により、1 PFUのSARSコロナウィルス = 300 コピー数の核酸と決定することが可能になる。
【図1A−1】
【図1A−2】
【図1A−3】
【図1A−4】
【図1A−5】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は:1)U.S.出願シリアル番号No. 60/466,009(2003年4月26日出願);2)U.S.出願シリアル番号No. 60/467,768(2003年5月2日出願);3)U.S.出願シリアル番号No. 60/468,743(2003年5月7日出願);および4)U.S.出願シリアル番号No. 60/542,510(2004年2月6日出願)に基づく優先権の利益を主張し、これらそれぞれは、全体を参考文献として本明細書中に援用する。
【0002】
コンパクトディスクで提出された配列についての言及
配列表は、“COPY 1-SEQUENCE LISTING PART”と名前を付けた別のCD-Rの、2004年4月23日に作成され、2,445キロバイトを含有する“IBIS0075-500.SEQ”と名付けられたファイル中に存在し、そして本明細書中ではその全体を参照として援用する。添付して提出した複写(3コピー)を含むコンパクトディスクの全数は4部であり、そして提出したコンパクトディスクそれぞれに一つのファイルが存在する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般的に、コロナウィルスの遺伝的同定および定量についての分野に関し、そして分子量解析と組み合わせた場合のこの目的のために有用な方法、組成物およびキットを提供する。
【0004】
発明の背景
コロナウィルスは、コロナウィルス科(Coronoviridae)の属であるが、ヒトおよび家畜動物において非常に一般的な疾患を引き起こす、大型でエンベロープをもったRNAウィルスである。コロナウィルス粒子は、不規則な形状をしており、直径が60〜220 nmで、特徴的な“棍棒状(club-shaped)”ペプロマーを保持する外部エンベロープを有している。この“王冠様”外観により、その科の名称が付けられている。コロナウィルスは、すべてのRNAウィルスの中でも最大のゲノムを有し、そして高頻度の組換えを結果として生じる独特なメカニズムにより複製する。ビリオンは、細胞内膜に出芽することにより成熟し、そしていくつかのコロナウィルスによる感染により、細胞融合が誘導される。
【0005】
ほとんどのヒトコロナウィルス(HcoVs)は、培養細胞中では増殖せず、従って、それらについては比較的わずかしか知られていない。しかし、2系統(229EおよびOC43)は、いくつかの細胞株中で増殖し、そしてモデルとして使用されてきた。複製は、その他のエンベロープを有するウィルスと比較してゆっくりとしている。ウィルスの侵入は、エンドサイトーシスと膜融合(おそらくはE2を介している)を介して生じ、そして複製は細胞質中で生じる。
【0006】
最初は、5'の20 kbの(+)センスゲノムが翻訳されて、ウィルスのポリメラーゼが生成され、これが完全長の(-)センス鎖を生成するものと考えられており、次にこの完全長の(-)センス鎖を鋳型として使用して、転写物の“入れ子セット(nested set)”としてmRNAを生成するが、これらのすべては、72ヌクレオチドの同一の5'非翻訳リーダー配列および同時に生じる3'ポリアデニル化末端を有する。各mRNAは、モノシストロン性であり、遺伝子は5'末端にて最長のmRNAから翻訳される。これらの異常な細胞質構造は、スプライシング(転写後修飾)によって生成されるのではなく、転写中にポリメラーゼにより生成される。
【0007】
コロナウィルスは、様々な哺乳動物および鳥類に感染する。多くのものが培養中では増殖することができないため、ヒト単離株の正確な数は知られていない。ヒトにおいては、それらは:重症急性呼吸器症候群(SARS)を含む呼吸器感染(一般)、および腸管感染症を引き起こす。
【0008】
コロナウィルスは、呼吸器分泌物のエアロゾルにより、糞便-経口経路により、そして機械的伝播により、伝播する。ほとんどのウィルスの増殖は、上皮細胞中で生じる。たまに、肝臓、腎臓、心臓または眼、ならびにマクロファージなどのその他の細胞型に感染する場合がある。感冒型呼吸器感染においては、増殖は上部気道の上皮に局在している様であるが、しかしながら、現在のところ、ヒト呼吸器コロナウィルスについての適切な動物モデルは存在していない。臨床的には、ほとんどの感染は、穏やかで限定された過程を経る疾患(古典的な“感冒”または胃のむかつき)を引き起こす。しかしながら、稀に神経学的合併症となる場合がある。コロナウィルス感染は、非常に一般的であり、そして全世界的に発生する。感染の発生は、非常に季節的なものであり、冬季に子供において最も発生する。成人の感染は、あまり一般的ではない。コロナウィルス血清型の数および抗原性変異の程度は知られていない。再感染は、生涯にわたって生じる可能性があり、このことは複数の血清型(少なくとも4種が知られている)および/または抗原性変異を示唆しており、従って免疫化についての見通しは、あまりないようである。
【0009】
SARS(重症急性呼吸器症候群;Severe Acute Respiratory Syndrome)は、新たに認められたタイプのウィルス性肺炎であり、発熱、乾性咳、呼吸困難(息切れ)、頭痛、および低酸素血症(低血液酸素濃度)を含む症状を伴う。典型的な研究室レベルの知見には、リンパ球減少症(リンパ球数の減少)およびアミノトランスフェラーゼレベルの穏やかな上昇(肝臓損傷が示唆される)が含まれる。肺胞損傷による進行性呼吸不全のために死に至る可能性がある。
【0010】
病気の発生は、2003年2月、中国広東省に端を発していると考えられている。パラミクソウィルスが原因であるとの最初の報告の後、研究者たちは現在、SARSがいくつかの異常な特徴を有するある種の新規なコロナウィルスと因果関係を有すると考えている。例えば、SARSウィルスは、Vero細胞(霊長類の線維芽細胞株)中で増殖することができ、これは、ほとんどが培養することができないHCoVsの新しい特徴である。これらの細胞中で、ウィルス感染の結果、細胞変性性作用が引き起こされ、そして感染細胞中の小胞体からコロナウィルス様粒子が出芽する。
【0011】
ポリメラーゼ遺伝子の短い領域(コロナウィルスゲノムの最も強力に保存された部分)を逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により増幅し、そしてヌクレオチド配列決定することにより、SARSウィルスの現在のところ評価された事例が、ヒト個体群中には以前は存在しなかった新規なコロナウィルスのものであることが示された。
【0012】
SARSと因果関係を有するコロナウィルスの別の単離株が、BCCA Genome Sciences Center(Vancouver, Canada);the Institute of Microbiology and Epidemiology, Academy of Military Medical Sciences/Beijing Genomics Institute, Chinese Academy of Sciences(Beijing, China);the Centers for Disease Control and Prevention(CDC)(Atlanta);the Chinese University of Hong Kong;およびthe University of Hong Kong;により、独自に配列決定された。新たなSARS-関連コロナウィルスサンプルが得られそして配列決定されるにつれて、そして初期のSARSコロナウィルスが変異を起こすにつれて、SARSと因果関係を有するその他のコロナウィルス配列が発生しうる。
【0013】
SARS流行がまだ初期段階である時に、Ruanらは、存在するSARS CoV単離株中に、新しい遺伝子型の出現を示唆する多数の変異を同定した(Y. Ruan et al., Lancet, May 9, (2003))。この現象は、ヒト個体群を通じてSARS CoVが伝播していく場合には継続される様であり、そして検出および治療に対して不利益な影響を有している。高い変異性を有する領域に隣接する追加のプライマーは、系統変異株を疫学的に追跡する際に利用価値があるだろう。さらに、毒性に対して重要な遺伝子座が同定されるようになるにつれて、これらの場所に隣接するプライマーは利用価値のある情報を提供するだろう。
【0014】
複数の診断テストが現在利用可能であるが、しかしながらすべてはこの大発生を迅速にコントロール下におくためのツールとしての制限を有している。ELISA試験は抗体を信頼性高く検出するが、しかしながら臨床的症候の発生後約20日以降にのみ可能である。したがって、それを使用して、この感染の他者への拡大の前に、初期段階に事例を検出することができない。2つ目の試験は、免疫蛍光アッセイ(IFA)であるが、この方法は、感染後10日の時点で抗体を信頼性高く検出する。この方法は、被験者がIFA-に基づく診断の前に感染性となってしまう点で、ELISAテストと欠点を共有している。さらに、IFA試験は過大な労力を必要とするものであり、細胞培養中でのウィルスの増殖を必要とする比較的遅速の試験である。3番目の試験は、SARSウィルス遺伝物質の検出のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分子テストであり、感染の初期段階において有用であるが、しかしながら望ましくないことに偽陰性を生成する。したがって、PCR試験では、臨床的診断評価と組み合わせたとしても、ウィルスを実際に保有しているヒトを検出することができず、緊密なヒトとヒトとの接触で容易に拡大することが知られているウィルスの潜在的な流行に直面する際の偽安全性の危険な認識を生み出す(WHO. Severe acute respiratory syndrome (SARS). Wkly Epidemiol. Rec. 2003, 78, 121-122)。
【0015】
感染性疾患についての核酸試験は、大部分は、特定の病原体を検出するように設計したプライマーおよびプローブを使用する増幅に基づいている。核酸配列情報についての事前の知識がこれらの試験を開発するために必要とされるため、それらの試験は、予期しない感染性病原体、新たに発生した感染性病原体、または以前に未知の感染性病原体を同定することはできない。したがって、感染性病原体の最初の発見は、未だに、大部分は、培養および顕微鏡に依存しており、それらは、20年前のヒト免疫不全症ウィルスの発見においても重要であったのと同様に、SARSコロナウィルスの細菌の同定においても重要であった。
【0016】
1-物質試験に代わるものとしては、病原体(bioagent)の群にわたって保存されている遺伝子標的の広範囲コンセンサスプライミングを行うことである。広範囲プライミングは、属の全体にわたって、科の全体にわたって、または細菌に関して、生命全体にわたって、増幅産物を生成する潜在力を有している。この戦略は、細菌多様性を決定するためのコンセンサス16SリボソームRNAプライマーを使用することにより、環境サンプル(T.M. Schmidt, T.M., DeLong, E.F., Pace, N.R. J. Bact. 173, 4371-4378 (1991))および天然のヒトフローラ(Kroes, I., Lepp, P.W., Relman, D.A. Proc Nat Acad Sci (USA) 96, 14547-14552 (1999))の両方において、うまく利用された。未知の病原体の検出および疫学のためのこのアプローチの障害は、PCR生成物の解析にサンプルあたり数百〜数千のコロニーをクローニングしそして配列決定することが必要であるということであり、このことは、迅速に行うためもしくは極めて多くのサンプルに対して行うためには実用的ではない。
【0017】
コンセンサスプライミングもまた、コロナウィルス(Stephensen, C.B., Casebolt, D.B. Gangopadhyay, N.N. Vir. Res. 60, 181-189 (1999))、エンテロウィルス(M.S. Oberste, K. Maher, M.A. Pallansch, J. Virol. 76, 1244-51 (2002);M.S. Oberste, W.A. Nix, K. Maher, M.A. Pallansch, J. Clin. Virol. 26, 375-7 (2003);M.S. Oberste, W.A. Nix, D.R. Kilpatrick, M.R. Flemister, M.A. Pallansch, Virus Res. 91, 241-8 (2003))、レトロイドウィルス(retroid viruses)(D.H. Mack, J.J. Sninsky, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85, 6977-81 (1988);W. Seifarth et al., AIDS Res. Hum. Retroviruses 16, 721-729 (2000);L.A. Donehower, R.C. Bohannon, R.J. Ford, R.A. Gibbs, J. Vir. Methods 28, 33-46 (1990))、およびアデノウィルス(M. Echavarria, M. Forman, J. Ticehurst, S. Dumler, P. Charache, J. Clin. Micro. 36, 3323-3326 (1998))を含む、いくつかのウィルス科を検出するため、記載された。しかしながら、細菌に関しては、ウィルス病原体の存在を同定するためには、配列決定以外に適切な解析方法は存在しない。病原体の同定方法は、U.S.特許出願シリアル番号:09/798,007(2001年3月3日に出願);10/405,756(2003年3月31日に出願);10/660,122(2003年9月11日に出願);および10/728,486(2003年12月5日に出願)中に記載されており、これらのすべては共有されており、そして本明細書中に本質的な文献として全体を参考文献として援用される。
【0018】
質量分析は、解析される分子について、高い質量正確性を含む詳細な情報を提示する。これは、容易に自動化することができるプロセスでもある。しかしながら、高解像度のMSのみでは、未知の物質または生物工学的処理された物質に対しては行うことができず、または病原体のバックグラウンドレベルが高い環境(“整っていない(cluttered)”バックグラウンド)においては行うことができない。低解像度のMSは、それらのスペクトル線が十分に弱くまたはサンプル中の他の生きている生物由来のスペクトル線と十分に近いものである場合、いくつかの既知の物質を検出するためには使用できない。特異的プローブを伴うDNAチップは、特異的に予想されている生物の存在または不在を決定することのみが可能である。非常に多数の良性細菌種が存在するため、脅威となる生物と配列において非常に類似する数種のものは、10,000個のプローブを用いたアレイであっても、特定の生物を検出するために必要とされる幅を欠失している。
【0019】
抗体は、アレイよりもより厳格な多様性の制限に直面する。抗体を、非常に保存的な標的に対して設計し、多様性を増大させる場合、誤認警報の問題が幅をきかせるだろう。言い換えれば、脅威となる生物は、良性のものと非常に類似しているためである。抗体は、比較的整った環境下で、既知の物質を検出することのみができる。
【0020】
いくつかのグループは、高解像度エレクトロスプレイイオン化-フーリエ変換-イオンサイクロトロン共鳴マススペクトロメトリー(ESI-FT-ICR MS)を用いたPCR産物の検出について記載した。正しい質量の正確な測定を少なくとも1つのヌクレオチドの数の知見と組み合わせることにより、約100塩基対のPCR二重鎖生成物についての全塩基組成の計算を可能にする(Aaserud et al., J. Am. Soc. Mass Spec., 7, 1266-1269, 1996;Muddiman et al., Anal. Chem., 69, 1543-1549,1997;Wunschel et al.,Anal. Chem., 70, 1203-1207, 1998;Muddiman et al., Rev. Anal. Chem., 17, 1-68, 1998)。エレクトロスプレイイオン化-フーリエ変換-イオンサイクロトロン共鳴(ESI-FT-ICR)MSを使用して、二本鎖の500塩基対PCR産物の質量を平均分子量を介して決定することができる(Hurst et al., Rapid Commun. Mass Spec., 10, 377-382, 1996)。PCR産物の特性決定のために、マトリックス支援レーザーイオン化-飛行時間(MALDI-TOF)マススペクトロメトリー使用することが、記載された(Muddiman et al., Rapid Commun. Mass Spec., 13, 1201-1204, 1999)。しかしながら、この方法の用途に限定されたMALDIを用いた場合に、約75ヌクレオチド以上のDNAの分解が観察された。
【0021】
U.S.特許No. 5,849,492は、2つの高度に保存された部分に囲まれたゲノムDNAの非常に発散性の部分について検索すること、非常に発散的な領域のPCR増幅のためのユニバーサルプライマーを設計すること、ユニバーサルプライマーを用いてPCR技術によりゲノムDNAを増幅すること、そしてその後遺伝子を配列決定して、生物の正体を決定すること、を含む、系統発生的に情報を提供するDNA配列の採取についての方法を記載する。
【0022】
U.S.特許No. 5,965,363は、質量分析技術を用いて増幅された標的核酸を解析することにより、多型に関する核酸のスクリーニング方法およびこれらの方法の質量解像度および質量正確性を改善するための手順について開示する。
【0023】
WO 99/14375は、予め選択されたDNAタンデムヌクレオチドリピートアリルをマススペクトロメトリーにより解析する際に使用するための方法、PCRプライマーおよびキットについて記載する。
【0024】
WO 98/12355は、質量分析解析により、標的核酸を切断して長さを短くし、標的一本鎖を作成して、そしてMSを使用して一本鎖短縮化標的の質量を決定することにより、標的核酸の質量を決定する方法を開示する。同様に、標的核酸の増幅を含むMS解析用の二本鎖標的核酸を調製し、鎖の一方を固相に結合させ、第二の鎖を放出させ、その後第一の鎖を放出させ、これをその後MSにより解析する方法を開示した。標的核酸調製のためのキットもまた、開示する。
【0025】
PCT W097/33000は、標的を一群の一本鎖非ランダム長断片に非ランダムに断片化すること、そしてそれらの質量をMSにより決定することにより、標的核酸中の変異を検出するための方法を開示する。
【0026】
U.S.特許No. 5,605,798は、診断用途のために、生物学的サンプル中の特定の核酸の存在を検出するための、高速で非常に正確な質量分析器に基づく方法を記載する。
WO 98/21066は、特定の標的核酸の配列をマススペクトロメトリーにより決定する方法を記載する。標的を制限酵素部位とタグとを含有するプライマーを用いて増幅し、増幅核酸を伸長しそして切断し、そして伸長生成物の存在を検出することにより、サンプル中の標的核酸を検出する方法と同様に、生物学的サンプル中に存在する標的核酸をPCR増幅とマススペクトロメトリー検出により検出するための方法が、開示される。ここで、野生型とは異なる質量のDNA断片の存在が、変異を意味する。マススペクトロメトリー方法を介した核酸の配列決定の方法もまた、開示する。
【0027】
WO 97/37041、WO 99/31278およびU.S.特許No. 5,547,835は、マススペクトロメトリーを用いて核酸を配列決定する方法を記載する。U.S.特許Nos. 5,622,824、5,872,003および5,691,141は、エキソヌクレアーゼ媒介性質量分析的配列決定のための方法、システムおよびキットを記載する。
【0028】
本発明は、コロナウィルスを迅速で、感度が高く、そしてハイスループットに同定するための新しいアプローチを提供し、そしてこれまでに観察も特性決定もされていないコロナウィルスを同定する性能を含む。記載された方法を、さらなるウィルス科に適用して、潜在的な新たに発生する幅広いウィルスをカバーし、そして将来的な流行性疾患サーベイランスのために、細菌性病原体、原虫性病原体、または真菌性病原体をカバーすることができる。
【0029】
発明の概要
本発明は、とりわけ、サンプルからコロナウィルスRNAを取得し、このRNAから対応するDNAを取得し、コロナウィルスゲノムの可変領域に隣接するコロナウィルスゲノムの保存的領域に結合する1またはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対を使用してDNAを増幅し、1またはそれ以上の増幅産物の分子量または塩基組成を決定し、そしてこの分子量または塩基組成を、計算で決定したかまたは実験的に決定した分子量または塩基組成と比較する(ここで、1またはそれ以上のマッチにより未知のコロナウィルスを同定する)ことにより、サンプル中における1またはそれ以上の未知のコロナウィルスを同定する方法に関するものである。
【0030】
本発明はまた:複数の異なる場所から特定のコロナウィルスを含有する複数のサンプルを取得し、上の段落において記載される方法を使用して、複数のサンプルの一部において特定のコロナウィルスを同定する(ここで、一部の構成物の対応する場所が、当該対応する場所への特定のコロナウィルスの拡大を示す)ことを含む、特定のコロナウィルスの拡大を追跡する方法に関するものである。
【0031】
本発明はまた、各対の各プライマー構成物が、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか1つの対応する構成物の配列と、少なくとも70%の配列同一性を有するプライマー対にも関するものである。本発明はまた、本明細書中で記載するプライマー対のそれぞれにおける個別のプライマーにも関するものである。
【0032】
本発明はまた、プライマー対を用いてコロナウィルスゲノム由来の核酸を増幅するプロセスにより生成される約45〜約150核酸塩基の長さの単離ポリヌクレオチドを含むコロナウィルスの同定のための病原体同定用アンプリコンであって、ここでプライマー対の各プライマーが約12〜約35核酸塩基の長さのものでありそして病原体同定用アンプリコンがコロナウィルスについての同定用情報を提供するもの、にも関するものである。
【0033】
本発明はまた:サンプルをプライマー対および較正配列を含む既知量の較正ポリヌクレオチドと接触させ、プライマー対を用いて未知のコロナウィルスから核酸を増幅させることとプライマー対を用いてサンプル中の較正ポリヌクレオチドから核酸を増幅させることとを同時に行い、病原体同定用アンプリコンを含む第一の増幅産物および較正アンプリコンを含む第二の増幅産物を得ること、サンプルを分子量解析に供すること(ここで、質量解析の結果は、病原体同定用アンプリコンおよび較正アンプリコンについての分子量データと存在量データを含む)、そして分子量に基づいて病原体同定用アンプリコンを較正アンプリコンから識別する(ここで、病原体同定用アンプリコンの分子量はコロナウィルスを同定し、病原体同定用アンプリコンの存在量データと較正アンプリコンの存在量データとの比較は、サンプル中のコロナウィルスの量を示す)ことを含む、サンプル中の未知のコロナウィルスの正体および量の同時的決定のための方法にも関するものである。
【0034】
本発明はまた、SEQ ID NO: 102、および103、ならびにSEQ ID NO: 102、103および104を含むベクターを含む、サンプル中の病原体の量を決定するための単離ポリヌクレオチドにも関するものである。
【0035】
本発明はまた、1またはそれ以上のプライマー対、または個別のプライマー(ここで、各プライマー対の各構成物は、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか一つの対応する構成物の配列と、少なくとも70%の配列同一性を有する)を含むキットにも関するものである。
【0036】
態様の説明
A. イントロダクション
本発明は、“病原体同定用アンプリコン”を使用して、バイアスのかからない様式で病原体を検出しそして同定する方法を提供する。“インテリジェントプライマー”を選択して、病原体由来の核酸の保存的配列領域にハイブリダイズさせ、そしてそれが、可変配列領域を挟んで、増幅することができそして容易に分子量決定することができる病原体同定用アンプリコンを得る。その後、分子量は、病原体の可能性のある正体についての事前の知識を必要とすることなく、病原体をただ一つに同定する手段を提供する。次いで、増幅産物の分子量または対応する“塩基組成の特徴”(BCS)を、分子量または塩基組成の特徴のデータベースに対して適合させる。さらに、この方法を、迅速なパラレル“多重”解析に適用することができ、その結果を三角法的(triangulation)同定戦略において利用することができる。本発明の方法は、迅速スループットを提供し、そして病原体の検出および同定のために増幅標的配列の核酸配列決定を必要としない。
【0037】
B. 病原体
本発明の文脈において、“病原体”は、生きているものであっても死んでいるものであっても、いずれかの生物、細胞、またはウィルス、あるいはそのような生物、細胞またはウィルス由来の核酸である。病原体の例には、細胞(ヒト臨床サンプル、細菌細胞またはその他の病原体(pathogen)を含むが、これらには限定されない)、ウィルス、真菌、および原生生物、寄生虫、および病原性マーカー(病原性島、抗生物質耐性遺伝子、ビルレンス因子、トキシン遺伝子、およびその他の生物制御性化合物を含むが、それらに限定されない)が含まれるが、それらには限定されない。サンプルは、生きていても、死んでいても、植物状態であってもよく(例えば、植物状態の細菌または胞子)そしてカプセル化されていてもまたはバイオ操作されていてもよい。本発明の文脈において、“病原体(pathogen)”は、疾患または症状を引き起こす病原体である。
【0038】
莫大な生物学的多様性にも関わらず、地球上のすべての生命体は、ゲノム中に本質的で共通する特徴の組み合わせを共有している。例えば、細菌は、ゲノム上の様々な位置に非常に保存的な配列を有する。最も顕著なものは、リボソームの普遍的に保存された領域である。RNAse Pを含むその他の非コードRNA中(図3)やシグナル認識粒子(SRP)にも、保存された要素が存在する。細菌は、絶対的に必要とされる遺伝子の共通する組み合わせを有する。約250遺伝子が、すべての細菌種において存在し(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1996, 93, 10268;Science, 1995, 270, 397)、これには、Mycoplasma、UreaplasmaおよびRickettsiaなどの小ゲノムが含まれる。これらの遺伝子は、翻訳、複製、組換え、および修復、転写、ヌクレオチド代謝、アミノ酸代謝、脂質代謝、エネルギー産生、取り込み、分泌などに関与するタンパク質をコードする。これらのタンパク質の事例は、DNAポリメラーゼIIIβ、エロンゲーション因子TU、ヒートショックタンパク質groEL、RNAポリメラーゼβ、ホスホグリセレートキナーゼ、NADHデヒドロゲナーゼ、DNAリガーゼ、DNAトポイソメラーゼおよびエロンゲーション因子Gである。本発明の方法を使用して、オペロンを標的化することもできる。オペロンの一例は、腸管病原性E. coli由来のbfpオペロンである。複数コア染色体遺伝子を使用して、属または属種レベルで細菌を分類し、生物が脅威となる可能性のあるものであるかどうかを決定することができる。この方法を使用して、病原性マーカー(プラスミド性または染色体性)および抗生物質耐性遺伝子を検出し、生物の脅威となる可能性を確認し、そして対策を講じることができる。
【0039】
C.“病原体同定用アンプリコン”の選択
遺伝的データは、本発明の方法により病原体を同定するための裏付けとなる基礎を提供するため、理想的には各々の個別の病原体を識別するために十分な多様性を提供し、そしてその分子量が分子量決定になじみやすい、核酸の部分を選択することが必要である。本発明の一態様において、少なくとも1つのポリヌクレオチド部分を増幅して、病原体を同定するプロセスにおいて、検出および解析を容易にする。このように、各々の個別の病原体を識別するために十分な多様性を提供しそしてその分子量が分子量決定になじみやすい核酸部分を、本明細書中では、“病原体同定用アンプリコン”として記載する。本明細書中で使用する場合の用語“アンプリコン”は、増幅反応で増幅されるポリヌクレオチドの部分のことをいう。
【0040】
一態様において、病原体同定用アンプリコンは、約45核酸塩基〜約150核酸塩基の長さのものである。
前-病原体同定用アンプリコンは、約45〜約150核酸塩基の長さを大きく超えていてもよく、そして所定の前-病原体同定用アンプリコンの断片であり分子量分析になじみやすい病原体同定用アンプリコンを得るための切断部位(例えば、制限エンドヌクレアーゼによる)のための部位を含有する、アンプリコンである。
【0041】
本明細書中で使用する場合、“インテリジェントプライマー”は、介在性可変領域に隣接し、理想的には各々の個別の病原体を識別するために十分な多様性を提供し、そして分子量解析になじみやすい増幅産物を得る、病原体同定用アンプリコンの非常に保存的な配列領域に結合するように設計されるプライマーである。用語“非常に保存的な”により、配列領域が、約80〜100%の同一性、または約90-100%の同一性、または約95-100%の同一性を示すことを意味する。所定の増幅産物の分子量により、可変領域の多様性のため、それを得た由来の病原体を同定する手段が提供される。このように、インテリジェントプライマーの設計には、適切な多様性を有する可変領域を選択し、所定の病原体の正体を解決することが必要とされる。病原体同定用アンプリコンは、病原体の正体について理想的には特異的である。インテリジェントプライマーの同一の対の、ハイブリダイゼーションのための同一の保存配列を含有する異なる病原体のために平行して選択された複数の病原体同定用アンプリコンは、本明細書中で、“相関的な病原体同定用アンプリコン”として定義される。
【0042】
一態様において、病原体同定用アンプリコンは、リボゾームRNA(rRNA)遺伝子配列の部分である。現在利用可能な多数の最小の微生物ゲノムの完全な配列を用いて、“最小の生命”を規定する一組の遺伝子を同定し、そして各遺伝子および生物を唯一のものとして同定する組成物の特徴を同定することができる。DNA複製、転写、リボソーム構造、翻訳、および輸送などの中心的な生命機能をコードする遺伝子は、細菌ゲノム中に幅広く分布しており、そして病原体同定用アンプリコンの選択のために適した領域である。リボゾームRNA(rRNA)遺伝子は、有用な塩基組成の特徴を提供する領域を含む。中心的な生命機能に関与する多くの遺伝子と同様に、rRNA遺伝子は、それぞれの種に対して、より特異的な高い多様性の領域が点在する微生物ドメインにわたって非常に保存されている配列を含有する。可変領域を利用して、塩基組成の特徴についてのデータベースを構築することができる。このストラテジーは、rRNA遺伝子の小サブユニット(16S)および大サブユニット(23S)の配列の構造ベースのアラインメントを作製することに関連する。たとえば、Robin Gutell(University of Texas at Austin)により作成されそして維持されて、そしてInstitute for Cellular and Molecular Biologyのウェブページで、インターネットのワールドワイドウェブを介して、たとえば、“rna.icmb.utexas.edu/”で公衆に利用可能である、リボゾームRNAデータベース中には、現在のところ13,000以上の配列が存在する。University of Antwerp(Belgium)により作成されそして維持され、インターネットのワールドワイドウェブを介して、たとえば、“rrna.uia.ac.be”で公開される公衆に利用可能なrRNAデータベースも存在する。
【0043】
これらのデータベースを解析して、病原体同定用アンプリコンとして有用な領域を決定した。そのような領域の特徴としては:a)配列増幅プライマー部位として機能する上流のヌクレオチド配列、および下流のヌクレオチド配列の、目的とする特定の病原体の種の間での、約80〜100%のあいだ、または約95%より高い同一性;b)上記種との間で約5%以下の同一性を示す介在性可変領域;およびc)保存された領域との間で、約30〜1000ヌクレオチド、またはわずか約50〜250ヌクレオチド、またはわずか約60〜100ヌクレオチドの分離;が含まれる。
【0044】
限定的ではない例として、Bacillus種の同定のため、選択された病原体同定用アンプリコンの保存的な配列領域は、すべてのBacillus種間で非常に保存的なものに違いなく、一方、Bacillusのすべての種の増幅産物の分子量を識別できるように、病原体同定用アンプリコンの可変領域は十分に多様である。
【0045】
分子量決定になじみやすい病原体同定用アンプリコンは、分子量決定の特定の様式に適合性の長さの予測可能な断片を得るため、分子量決定の特定の様式と適合性のまたは予測可能な断片化パターンを得る手段と適合性の長さ、サイズ、または質量のいずれかを有するものである。増幅産物の予測可能な断片化パターンを得るためのそのような方法には、たとえば、制限酵素による切断またはプライマーによる切断が含まれるが、それらには限定されない。
【0046】
病原体の同定は、各々個別のレベルの同定の解像度に適したインテリジェントプライマーを使用して、異なるレベルで達成することができる。“広範囲サーベイ”インテリジェントプライマーは、特定の区分の病原体の構成物として、病原体を同定する目的で設計される。“病原体の区分”は、種レベル以上の病原体の群として定義され、そして:目、科、綱、分岐群(clade)、属、または種レベル以上のその他の病原体のグループ化が含まれるが、これらには限定されない。限定的ではない例として、Bacillus/Clostridia群またはγ-プロテオバクテリア群の構成生物を、16Sまたは23SリボゾームRNAを標的とするプライマーなどの広範囲サーベイインテリジェントプライマーを使用することにより、同定することができる。
【0047】
いくつかの態様において、広範囲サーベイインテリジェントプライマーは、種レベルで、病原体を同定することを可能にする。本発明の検出方法の一つの主要な利点は、広範囲サーベイインテリジェントプライマーが、特定の細菌種またはBacillusまたはStreptomycesなどの特定の細菌属に対してまでも特異的であることを必要としない点である。その代わり、プライマーは、本明細書中に記載される種を含む(しかしこれらには限定されない)、数百種の細菌種にわたる非常に保存的な領域を認識する。このように、同一の広範囲サーベイインテリジェントプライマー対を使用して、いずれかの所望の細菌を特定することができる。単一種に特異的な可変領域に隣接するか、または数種の細菌種に共通する可変領域に隣接する保存された領域に結合することができ、それにより介在性配列の無作為の核酸増幅およびその分子量および塩基組成の決定が可能になるからである。たとえば、16S_971〜1062、16S_1228〜1310および16S_1100〜1188領域は、約900種の細菌において98〜99%保存されている(16S=16S rRNA、数字は、ヌクレオチド位置を示す)。本発明の一態様において、本発明の方法において使用されたプライマーは、一またはそれ以上のこれらの領域またはその部分に結合する。
【0048】
それらが全体的に保存されているため、隣接するrRNAプライマー配列は、良好なインテリジェントプライマー結合部位として機能し、すべてではないにしても、ほとんどの細菌種の目的とする核酸領域を増幅する。プライマーの組み合わせ間の介在性領域は、長さおよび/または組成が異なり、そしてしたがって、独特の塩基組成の特徴を提示する。16Sおよび23S rRNAの領域を増幅するインテリジェントプライマーの例は、図1A〜1Hに示される。16S rRNA中の典型的なプライマー増幅領域は、図2に示される。矢印は、16S rRNAドメインIIIにおける可変領域に隣接するこれらの領域をコードするDNAの非常に保存的な領域に結合するプライマーを示す。増幅領域は、“1100〜1188”ではステム-ループ構造に対応する。解析に必要とされるプライマー数を最小にし、そして1つの組み合わせのプライマーを使用して病原体区分の複数の構成物の検出を可能にする広範囲サーベイインテリジェントプライマーを設計することが好ましい。広範囲サーベイインテリジェントプライマーを使用することの利点は、一旦病原体が幅広く同定されれば、種レベルおよび亜種レベルでさらに同定するプロセスが、追加的なインテリジェントプライマーを選択することにより促進される、という点である。
【0049】
“ディビジョン-ワイド”インテリジェントプライマーを、種レベルで病原体を同定することを目的として設計する。限定的ではない例として、Bacillus anthracis、Bacillus cereusおよびBacillus thuringiensisを、ディビジョン-ワイドインテリジェントプライマーを使用して、互いに識別することができる。ディビジョン-ワイドインテリジェントプライマーは、種レベルでの同定に必ずしも必要という訳ではない。というのも、広範囲サーベイインテリジェントプライマーにより、目的とするこの同定を達成する程度の十分な同低解像度が得られる場合があるからである。
【0050】
“ドリル-ダウン”インテリジェントプライマーは、病原体の亜種の特徴を同定することを目的として設計される。“亜種の特徴”は、核酸の特定の部分の存在または不存在の結果、亜種レベルの同定で、病原体に付与される特性として同定される。そのような亜種の特徴には、系統、亜型、ならびに抗生物質耐性遺伝子、病原性島、トキシン遺伝子およびビルレンス因子などの病原性マーカーが含まれるが、これらには限定されない。このような亜種の特徴の同定は、病原体感染の適切な臨床的治療を決定するために、しばしば重要である。
【0051】
D.インテリジェントプライマーの選択と最適化
プライマー選択および確認方法のために使用される代表的なプロセスフロー図は、図6に概説する。生物兵器物質として最大の関心を持たれている生物を含む多数の重要な病原体が、完全に配列決定された。この努力により、細菌の検出のためのプライマーおよびプローブの設計が非常に促進された。225以上の細菌ゲノムから部分配列または完全長配列が得られ、そしてすべての生物間で幅広く保存されているか、または特定の関連する系統発生群の構成物中で保存されている重要な遺伝子について、配列アラインメントが作成された。例えば、細菌においては、ほとんどすべての主要な細菌門において存在する170種以上のハウスキーピング遺伝子から、アラインメントを作成した。これらの遺伝子は、広範囲診断用プライマーの同定のために使用された。PCRプライマーの選択および最適化は、多くは自動化された。16S rRNAに加えて、多数の遺伝子が、“広範囲”プライマーの標的であり、したがって検出および分類の冗長性が増大するが、一方間違った同定の可能性を最小にする。これらの遺伝子の多くが、期待されている様に、情報プロセッシングに対して重要なものであり、半分以上のものは、伸長因子、リボソームタンパク質、およびtRNA合成酵素などの翻訳装置に関連したものである。保存的タンパク質をコードする遺伝子のその他のクラスには、RNAポリメラーゼなどの転写関連遺伝子およびDNAジャイレースおよびDNAポリメラーゼ等のDNA複製に関連する遺伝子が含まれる。広範囲プライミングと分岐群(clade)特異的なおよび種特異的なプライミングとのこの組み合わせは、生物戦争に脅威を与える物質についての環境サーベイランスおよび医学的に重要な病原体に対する臨床的なサンプル解析を含む、当該技術のいくつかの用途において、非常にうまく利用された。
【0052】
理想的には、インテリジェントプライマーのハイブリダイゼーション部位は、プライマーのハイブリダイゼーションを容易にするために、非常に保存的である。配列の保存性がより低いレベルであるためにプライマーハイブリダイゼーションがあまり効率的では無い場合、インテリジェントプライマーを化学的に修飾して、ハイブリダイゼーションの効率を向上させることができる。
【0053】
本発明のいくつかの態様において、インテリジェントプライマーは、1またはそれ以上のユニバーサル塩基を含有していてもよい。種間でのその保存的領域におけるいずれかの変異(3番目位置でのコドンの揺らぎによる)が、DNAトリプレットの3番目位置で生じやすいため、この位置に対応するヌクレオチドが、本明細書中では“ユニバーサル核酸塩基”と呼ぶ、1より多いヌクレオチドに結合することができる塩基となるように、オリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。たとえば、この“揺らぎ”対合の下では、イノシン(I)は、U、CまたはAと結合し;グアニン(G)はUまたはCと結合し、そしてウリジン(U)はUまたはCと結合する。ユニバーサル核酸塩基のその他の事例には、5-ニトロインドールまたは3-ニトロピロールなどのニトロインドール類(Loakes et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14, 1001-1003)、縮重ヌクレオチドdPまたはdK(Hill et al.)、5-ニトロインダゾールを含有する非環式ヌクレオシド類似体(Van Aerschot et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14, 1053-1056)またはプリン類似体1-(2-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-イミダゾール-4-カルボキサミド(Sala et al., Nucl. Acids Res., 1996, 24, 3302-3306)が含まれる。
【0054】
本発明の別の態様においては、“揺らぎ”塩基によるいくらか弱い結合を補償するため、オリゴヌクレオチドプライマーを、各トリプレットの1番目および2番目の位置が非修飾ヌクレオチドよりも高い親和性で結合するヌクレオチド類似体により占有される様に、設計する。これらの類似体の例には、チミンに結合する2,6-ジアミノプリン、アデニンに結合する5-プロピニルウラシル、およびGに結合するG-クランプを含むフェノキサジン類、および5-プロピニルシトシンが含まれるが、これらには限定されない。プロピニル化ピリミジンは、U.S.特許Nos. 5,645,985、5,830,653および5,484,908に記載され、そのそれぞれは、共有されそして本明細書中に全体を参考文献として援用される。プロピニル化プライマーは、U.SシリアルNo. 10/294,203(これも共有されそして本明細書中に全体を参考文献として援用される)のクレームに記載される。フェノキサジン類は、U.S.特許Nos. 5,502,177、5,763,588、および6,005,096中に記載され、そのそれぞれは、本明細書中に全体を参考文献として援用される。G-クランプは、U.S.特許Nos. 6,007,992および6,028,183中に記載され、そのそれぞれは、本明細書中に全体を参考文献として援用される。
【0055】
その他の態様において、非-鋳型プライマータグを使用して、増幅効率を向上させるため、プライマー-鋳型二重鎖の溶融温度(Tm)を上昇させる。非-鋳型タグは、鋳型に相補的なプライマー上の少なくとも3個の連続したAまたはTヌクレオチド残基にハイブリダイズするように設計する。いずれかの所定の非-鋳型タグにおいて、AをCまたはGにより置換することができ、そしてTもまた、CまたはGにより置換することができる。A-T対と比較してG-C対における1つ余分の水素結合により、プライマー-鋳型二重鎖の安定性が増加し、そして増幅効率が向上する。
【0056】
その他の態様において、非-鋳型タグと同様な方法で、プロピニル化タグを使用することができる。ここで、2またはそれ以上の5-プロピニルシチジンまたは5-プロピニルウリジン残基を、プライマー上の鋳型適合残基に置換する。
【0057】
その他の態様において、プライマーは、たとえばホスホロチオエート結合などの修飾ヌクレオシド間結合を含有している。
E.病原体同定用アンプリコンの特性決定
理論的に理想的な病原体検出装置は、センサに到達したすべての病原体の完全な核酸配列を同定し、定量し、そして報告するものである。病原体の核酸構成成分の完全な配列は、その正体や薬剤耐性マーカーまたは病原性マーカーの存在を含む脅威についてのすべての対応する情報を提供するだろう。この理想は、未だ完成されていない。しかしながら、本発明は、分子量決定による病原体同定用アンプリコンの解析に基づく同一の実際値を用いて情報を得るための、簡便な戦略を提供する。
【0058】
いくつかの場合において、所定の病原体同定用アンプリコンの分子量のみでは、所定の病原体を明確に同定するためには十分な解像度を提供しない。たとえば、インテリジェントプライマー対“16S_971”を使用して得られた病原体同定用アンプリコンの分子量は、E. coliおよびSalmonella typhimuriumの両方について、55622 Daであろう。しかしながら、追加的なインテリジェントプライマーを使用して、追加的な病原体同定用アンプリコンを解析する場合には、“三角法的(triangulation)同定”プロセスが可能になる。たとえば、“16S_1100”インテリジェントプライマー対により、E. coliおよびSalmonella typhimuriumについて、それぞれ、55009および55005 Daの分子量を得る。さらに、“23S_855”インテリジェントプライマー対により、E. coliおよびSalmonella typhimuriumについて、それぞれ、42656および42698 Daの分子量を得る。この基本的な例において、第2および第3のインテリジェントプライマー対は、2種の病原体を識別するための、追加的な“フィンガープリンティング”能力または解像度を提供した。
【0059】
別の態様において、三角法的(triangulation)同定プロセスは、複数のコア遺伝子内で選択される複数の病原体同定用アンプリコンに由来するシグナルを測定することにより、追跡される。このプロセスを使用して、偽陰性または偽陽性のシグナルを減少させ、そしてハイブリッドの起源の再構築を可能にし、そうでなければ操作された病原体の起源の再構築を可能にする。このプロセスにおいて、複数のコア遺伝子の同定の後、アラインメントを核酸配列データベースから作成する。次いで、このアラインメントを、保存領域または変異領域について解析し、病原体同定用アンプリコンを、特異的なゲノム相違に基づいて病原体を識別するために選択する。たとえば、B. anthracisのゲノムから予想される特徴を持たない、B. anthracisに典型的な3つの部分のトキシン遺伝子の同定(Bowen et al., J. Appl. Microbiol., 1999, 87, 270-278)は、遺伝子操作現象を示唆するだろう。
【0060】
三角法的(triangulation)同定プロセスを、多重PCRなどのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)や質量分析(MS)法を使用して、実質的に並行的様式で病原体同定用アンプリコンを同定することにより、追求することができる。十分な量の核酸が、MSによる病原体の検出のためには存在すべきである。大量の精製核酸またはその断片を調製するための非常に幅広い技術が、当業者に周知である。PCRは、増幅される(1または複数の)標的配列に隣接する領域に結合する、一またはそれ以上の対のオリゴヌクレオチドプライマーを必要とする。これらのプライマーは、一方のプライマーから他方のプライマーの方向に生じる合成により、DNAの異なる鎖の合成を開始する。プライマー、増幅されるDNA、耐熱性DNAポリメラーゼ(たとえば、Taqポリメラーゼ)、4種のデオキシヌクレオチド三リン酸、およびバッファーを組み合わせて、DNA合成を開始する。溶液を加熱することにより変性させ、その後冷却して新たに添加されたプライマーのアニーリングを可能にし、その後さらにDNA合成を行う。このプロセスを、典型的には、約30サイクル繰り返し、結果として標的配列の増幅を行う。
【0061】
PCRを使用することが適切ではあるが、リガーゼ連鎖反応(LCR)および鎖置換増幅(SDA)を含む、その他の核酸増幅技術もまた使用することができる。高解像度のMS技術により、非常に不明瞭な環境において、バックグラウンドスペクトル線から、病原体スペクトル線を分離することが可能になる。
【0062】
別の態様において、(1または複数の)病原体から生成されたPCR産物についての検出スキームは、少なくとも3つの特徴を取り込む。第一に、この技術は、複数(一般的には約6〜10)のPCR産物を同時に検出しそして分離する。第二に、この技術は、可能性のあるプライマー部位由来の病原体を、ただ一つに同定する分子量を提供する。最後に、この検出技術は迅速であり、複数のPCR反応を同時並行的に可能にする。
【0063】
F.病原体同定用アンプリコンの質量分析による特性決定
PCR産物の質量分析法(MS)に基づく検出により、いくつかの利点を有するBCSの決定のための手段が提供される。MSは、放射性標識または蛍光標識を使用することのない、本質的には、同時並行的な検出スキームである。というのも、すべての増幅産物を、その分子量で同定するためである。マススペクトロメトリーの分野の現状は、フェムトモル量以下の物質を、容易に解析し、サンプルの分子含量についての情報を得ることができる、というものである。物質の分子量の正確な評価は、サンプルの分子量が数百であっても、100000原子質量単位(amu)またはDaltonsを超える場合であっても関係なく、迅速に得ることができる。無傷の分子イオンは、様々なイオン化技術の一つを使用してサンプルをガス相に転換することにより、増幅産物から生成することができる。これらのイオン化方法には、エレクトロスプレイイオン化(ES)、マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、および高速原子衝撃(FAB)が含まれるが、これらには限定されない。たとえば、核酸のMALDIは、核酸のMALDIにおいて使用するためのマトリクスの例と共に、WO 98/54751中に記載される。
【0064】
いくつかの態様において、大型のDNAやRNA、またはそれ由来の大型の増幅産物を、制限エンドヌクレアーゼで消化してから、イオン化することができる。このように、たとえば、10 kDaであった増幅産物を、一連の制限エンドヌクレアーゼにより消化して、たとえば、100 Da断片のパネルを生成することができる。制限エンドヌクレアーゼおよびそれらの活性部位は、当業者に周知である。この方法において、マススペクトロメトリーを、制限酵素マッピングの目的で行うことができる。
【0065】
イオン化に際して、異なる電荷を持つイオンが形成されるため、いくつかのピークが1サンプルから得られる。1回のマススペクトルから得られた分子量の複数の読み取り値を平均することにより、病原体の分子量の推定が可能になる。エレクトロスプレイイオン化マススペクトロメトリー(ESI-MS)は、10 kDa以上の分子量を有するタンパク質および核酸などの非常に高分子量のポリマーについては特に有用である。というのも、それにより、顕著な量の断片化を引き起こすことなく、サンプルの多価荷電分子の分布がえられるからである。
【0066】
本発明の方法において使用される質量検出器には、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴マススペクトロメトリー(FT-ICR-MS)、イオン捕捉、四極子、磁気セクタ、飛行時間(TOF)、Q-TOF、三対四極子が含まれるが、これらには限定されない。
【0067】
一般的には、本発明において使用することができる質量分析技術には、タンデムマススペクトロメトリー、赤外線多光子解離および熱分解ガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(PGC-MS)が含まれるが、これらには限定されない。本発明の一態様において、病原体検出システムは、バイオマスの増加(たとえば、飲料水または細菌兵器剤の糞便汚染の増加)の迅速な検出のためのPCRを行うことなく、熱分解GC-MSを使用して、病原体検出モードにおいて継続的に操作する。潜伏期を最小にするため、連続的サンプル流が、直接的にPGC-MS燃焼チャンバー中に流れ込む。バイオマスの増加が検出される場合、PCRプロセスが自動的に開始される。病原体の存在は、たとえば、PGC-MSスペクトルで観察される約100〜7,000 Daに由来する大型の分子断片のレベルの上昇を生み出す。観察されたマススペクトルを、閾値レベルと比較し、そしてバイオマスレベルがあらかじめ設定された閾値を超えることが検出される場合、以下に記載する病原体の分類プロセス(PCRとMSの組み合わせ、たとえばFT-ICR MS)を開始する。場合により、警告またはその他のプロセスは(換気流の停止、物理的単離)、この検出されたバイオマスレベルによっても開始される。
【0068】
大型のDNAについての分子量の正確な測定は、各鎖に対するPCR反応由来のカチオンの提示、天然存在量13Cおよび15N同位体由来の同位体ピークの分析、そして荷電状態のいずれかのイオンへの割り当て、により制限される。PCR産物を含有する溶液を、酢酸アンモニウムを含有する溶液に、流れに対して直交する電場勾配の存在下にて接触させるフロースルーチップを用いて、カチオンを、直列的透析により取り除く。後者の2つの問題には、>100,000の解像度で操作することにより、そして同位体的に劣化したヌクレオチド三リン酸をDNA中に取り込ませることにより、対処する。装置の解像度もまた、考慮すべき事柄である。10,000の解像度では、[M-14H+]14-の荷電状態の84merのPCR産物由来のモデル化シグナルは、あまり特定されておらず、そして荷電状態または正確な質量の割り当ては不可能である。33,000の解像度では、個別の同位体構成成分由来のピークを見ることができる。100,000の解像度では、同位体ピークが、ベースラインから分離され、そしてイオンについての荷電状態の割り当ては、直接的なものである。たとえば、枯渇培地上で微生物を増殖させ、そしてヌクレオチドを回収することにより、[13C,15N]-枯渇三リン酸が、得られる。(Batey et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20, 4515-4523)。
【0069】
無傷核酸領域の質量測定は、ほとんどの病原体を調べるために適していると考えられるが、一方、タンデムマススペクトロメトリー(MSn)技術により、分子の正体または配列に関連する、より明確な情報を提供することができる。タンデムMSは、分離工程および検出工程の両方がマススペクトロメトリーに基づいている場合の、2またはそれ以上の質量解析段階と組み合わせて使用されることに関連する。第一段階を使用して、さらなる構造情報を得ることになるサンプルのイオンまたは構成成分を選択する。次いで、選択されたイオンを、たとえば、黒体放射(blackbody irradiation)、赤外多光子解離、または衝突活性化を用いて、断片化する。たとえば、エレクトロスプレイイオン化(ESI)により生成されるイオンを、IR多光子解離を用いて断片化することができる。この活性化により、グリコシド結合およびホスフェート骨格の解離が引き起こされ、w系列(内部切断の後、無傷3'末端および5'ホスフェートを有する)およびa-Base系列(無傷5'末端および3'フランを有する)と呼ばれる、2系列のフラグメントイオンが生成される。
【0070】
次いで、質量解析の第二段階を使用して、生成物イオンのこれらの得られた断片の質量を検出しそして測定する。このようなイオンの選択の後、断片化の一般的作業を複数回行うことにより、サンプルの分子配列を本質的に完全に詳細に分析することができる。
【0071】
同様の分子量の2またはそれ以上の標的が存在する場合、または1回の増幅反応で、2またはそれ以上の病原体参照標準と同一の質量を有する生成物が得られる場合、それらは、質量修飾性の“タグ”を使用することにより識別することができる。本発明のこの態様において、非修飾塩基とは異なる分子量を有し、その結果、質量の相違を改善する、ヌクレオチド類似体または“タグ”(たとえば、5-(トリフルオロメチル)デオキシチミジン三リン酸)を、増幅の間に取り込ませる。このようなタグは、たとえば、PCT WO97/33000(その全体が、本明細書中に参考文献として援用される)中に記載される。このことは、いずれかの質量と一致する可能性のある塩基組成の数をさらに限定する。たとえば、5-(トリフルオロメチル)デオキシチミジン三リン酸を、別の核酸増幅反応中でdTTPの代わりに使用することができる。従来からの増幅産物とタグ付け生成物との間の質量シフトの測定を使用して、各一本鎖におけるチミジンヌクレオチドの数を定量する。鎖が相補的であるため、各鎖におけるアデノシンヌクレオチドの数もまた、決定される。
【0072】
別の増幅反応において、各鎖におけるG残基およびC残基の数は、たとえば、シトシン類似体5-メチルシトシン(5-meC)または5-プロピニルシトシンを用いて、決定される。A/T反応およびG/C反応を組み合わせ、次いで、分子量決定を行うことにより、独自の塩基組成が得られる。この方法を、図4および表1にまとめる。
【0073】
【表1】
【0074】
質量タグホスホロチオエートA(A*)を使用して、Bacillus anthracisのクラスターを識別した。ESI-TOF MSで測定した場合、B. anthracis(A14G9C14T9)は、14072.26の平均MWを有し、そしてB. anthracis(A1A*13G9C14T9)は、14281.11の平均分子量を有し、そしてホスホロチオエートAは、+16.06の平均分子量を有した。逆重畳化(deconvoluted)スペクトルを、図5中に示す。
【0075】
別の例において、各鎖の測定分子量がそれぞれ、30,000.115 Daおよび31,000.115 Daであると仮定し、そしてdTおよびdA残基の測定数は、(30、28)および(28、30)である。分子量が正確に100 ppmである場合、各鎖に対して可能性のあるdG+dCの組み合わせには7種の可能性が存在する。しかしながら、測定分子量が正確に10 ppmである場合、dG+dCの組み合わせはわずか2種しか存在せず、そして1 ppmの正確さの場合、各鎖についての塩基組成はわずか1つの可能性しか存在しない。
【0076】
質量分析器からのシグナルを、レーダーシグナルプロセッシングにおいて広く使用されているものなどの、最尤(maximum-likelihood)検出および分類アルゴリズムに入力することができる。検出プロセッシングは、質量-塩基カウント数空間(mass-basecount space)において観察されたBCSの適合性フィルタリングを使用し、そして既知の無害の生物由来の特徴の検出および差し引き、および未知の病原体の脅威の検出、を可能にする。脅威のレベルを推定するために、それらのBCSを既知生物のものと比較し、そして抗生物質耐性遺伝子またはトキシン遺伝子の挿入などの既知の形の病原性亢進と比較することにより、新たに観察された病原体と既知の病原体との比較もまた、可能である。
【0077】
プロセッシングは、観察シグナルおよび平均バックグラウンドレベルから展開された対数尤度比を使用するベイズ識別器(Bayesian classifier)で終了することができる。プログラムは、天然に存在する生物と環境汚染物質の複合バックグラウンドに関する条件について、最終的に検出確率vs擬陽性確率プロットとなる性能予測を強調する。病原体それぞれについて使用されるプライマーのセットが与えられれば、適合したフィルターは、シグナル値の推測的な予測からなる。ゲノム配列データベース(例えばGenBank)を使用して、質量塩基カウント数適合性フィルターを規定する。このデータベースは、既知の脅威を与える因子および良性のバックグラウンド生物を含有する。後者を使用して、バックグラウンド生物により生成される特徴を推定しそして差し引く。既知のバックグラウンド生物の最大尤度検出は、適合性フィルターおよびノイズ共分散の累計(running-sum)推定を使用することにより実行される。バックグラウンドシグナル強度は、適合性フィルターと共に推定されそして使用され、特徴を形成し、次いでそれが差し引かれる。最大尤度プロセスは、生物についての適合性フィルターおよび整理されたデータについてのノイズ共分散の累計(running-sum)推定を使用する、同様の方法におけるこの“整理された”データに対して適用される。
【0078】
G.病原体同定用アンプリコンの指標としての塩基組成特性
インテリジェントプライマーを使用して得られた増幅産物の分子量により、病原体の同定の手段が提供されるが、分子量データを塩基組成の特徴に変換することは、特定の解析に有用である。本明細書中で使用する場合、“塩基組成の特徴”(BCS)は、病原体同定用アンプリコンの分子量から決定された正確な塩基組成決定である。一態様において、BCSにより、特定の生物中の特定の遺伝子の指標を提示する。
【0079】
塩基組成は、配列と同様に、種内の単離物ごとに少しずつ変化する。それぞれの種についての組成物の拘束性の周辺に“塩基組成確率雲”を構築することにより、この多様性を保持することができる。このことにより、配列解析に類似する様式で、生物の同定が可能になる。“偽4次元プロット”を使用して、塩基組成確率雲の概念を可視化することができる。最適なプライマー設計のためには、病原体同定用アンプリコンの最適な選択が必要とされ、そしてそれは個々の病原体の塩基組成の特徴のあいだでの分離を最大にする。雲が重複する範囲は、結果として誤判別を引き起こす可能性がある領域を示すが、これの問題は、異なる病原体同定用アンプリコンから情報を得るプライマーを選択し、理想的には塩基組成の分離を最大にすることにより、解消される問題である。このように、塩基組成確率雲の解析の有用性の一つの側面は、BCSおよび病原体の正体についての可能性のある誤判別を避けるために、スクリーニングプライマーセット用の手段を提供することである。
【0080】
塩基組成確率雲の有用性の別の側面は、その核酸配列内に進化的な遷移が存在するために、正確な測定BCSが以前には観察されておらずおよび/またはBCSデータベース中に載せられていない、病原体の正体を予想するための手段をそれらが提供する、というものである。
【0081】
ただ結果を解釈するためには、プローブベースの技術と比較して、塩基組成のマススペクトロメトリー測定は、測定を行うために、組成についての事前の知見を必要としないことは、注目すべき重要なことである。この点では、本発明は、所定の病原体を検出し同定するために十分なレベルで、DNA配列決定および系統発生的解析と同様の病原体分類用情報を提供する。さらに、所定の病原体についてのそれまで未知のBCSについての測定のプロセス(たとえば、配列情報が利用できない場合)は、BCSデータベースに移植される追加的な病原体掲載情報を提供することにより、下流の有用性を有する。より多くのBCS指標がBCSデータベース中で利用可能になるにつれて、将来的な病原体同定のプロセスが大幅に改善される。
【0082】
本発明の別の態様は、12個の広範囲インテリジェントPCRプライマーを使用して、配列情報が利用可能なすべての細菌の検出および同定を可能にする病原体サンプルを調べる方法である。12個のプライマーのうち6個は、細菌(たとえば、Bacillus/Clostridia群あるいはγ-プロテオバクテリア)の広範囲の門(division)を標的とするプライマーとして本明細書中で定義される“広範囲サーベイプライマー”である。12個のプライマーの群のその他の6個のプライマーは、より焦点を絞った適用範囲およびより高い解像度を提供するプライマーとして本明細書中では定義される、“ディビジョン-ワイド”プライマーである。この方法により、種レベルで既知の細菌のほぼ100%の同定が可能になる。本発明のこの態様のさらなる例は、“サーベイ/ドリル-ダウン”と本明細書中では示す方法であり、ここで検出された病原体についての亜種の特徴は、追加的なプライマーを使用して得られる。そのような亜種の特徴の事例には、抗生物質耐性、病原性島、ビルレンス因子、系統型、亜種型、および分岐群(clade group)が含まれるが、これらには限定されない。サーベイ/ドリル-ダウン法を使用して、病原体の検出、確認および亜種の特徴を、数時間以内に提示することができる。さらに、サーベイ/ドリル-ダウン法は、通常はトキシンを製造していない細菌種中へのトキシン遺伝子の挿入など、生物工学的現象を同定することに焦点を絞ることができる。
【0083】
H. RNAウィルスの同定のための病原体同定用アンプリコンの使用
コロナウィルスは、本発明の方法により同定することができる病原体のRNAウィルスの例を代表する。
【0084】
(-)鎖RNAウィルス属の例には、アレナウイルス、ブニヤウィルス、およびモノネガウィルス(mononegavirales)が含まれる。アレナウイルス属の種には、サビア(sabia)ウィルス、ラッサ熱ウイルス、マクポウイルス、アルゼンチン出血熱ウィルス、およびフレクサル(flexal)ウィルスが含まれるが、これらに限定されない。ブニヤウィルス属の種には、ハンタ(hanta)ウィルス、ナイロ(nairo)ウィルス、フレボ(phlebo)ウィルス、ハンタン(hantaan)ウィルス、コンゴ‐クリミヤ出血熱ウィルス、およびリフトバレー熱ウィルスが含まれるが、これらに限定されない。モノネガウィルス(mononegavirales)属の種には、フィロウィルス、パラミクソウィルス、エボラウィルス、マールブルグウィルス、およびウマ麻疹ウイルスが含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
(+)鎖RNAウィルス属の例には、ピコルナウィルス、アストロウイルス、カリシウィルス、ニド(nido)ウィルス、フラビウィルス、およびトガウィルスが含まれる(しかし、それらに限定されない)。ピコルナウィルス属の種には、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、ヒトコクサッキーウイルスA、ヒトエコーウイルス、ヒトエンテロウィルス、ヒトポリオウィルス、A型肝炎ウィルス、ヒトパーエコー(parecho)ウィルス、およびヒトライノウィルスが含まれるが、これらに限定されない。アストロウイルス属の種には、ヒトアストロウイルスが含まれるが、これには限定されない。カリシウィルス属の種には、チバ(chiba)ウィルス、ヒトカリシウィルス、ノーウォークウィルスが含まれるが、これらに限定されない。ニド(nido)ウィルス属の種には、コロナウィルス、トロウィルスが含まれるが、これらに限定されない。フラビウィルス属の種には、Alfuyウィルス、Alkhurmaウィルス、アポイウィルス、Aroaウィルス、Bagazaウィルス、バンジウィルス、Batu caveウィルス、Boubouiウィルス、Bukalasaコウモリウィルス、Bussliquaraウィルス、Cacipacoreウィルス、Carey島ウィルス、カウボーンリッジウィルス、ダカールコウモリウィルス、シカダニウィルス、デングウィルス1、デングウィルス2、デングウィルス3、デングウィルス4、エッジヒルウィルス、エンテベコウモリウィルス、フラビウィルスsp.、Gadgets gullyウィルス、C型肝炎ウィルス、Iguapeウィルス、イルヘウスウィルス、イスラエル七面鳥髄膜脳炎ウィルス、日本脳炎ウィルス、Jugraウィルス、Jutiapaウィルス、Kadamウィルス、Kedougouウィルス、ココベラウィルス、Koutangoウィルス、クンジンウィルス、キャサヌール森林疾患ウィルス、ランガトウィルス、跳躍病ウィルス、Maeban ウィルス、モドックウィルス、モンタナ筋炎白質脳炎ウィルス、マーレーバレー脳炎ウィルス、Naranjalウィルス、ネギシウィルス、ウンタヤウィルス、オムスク出血性熱ウィルス、Phnom-Penhコウモリウィルス、Potiskumウィルス、ポワサンウィルス、リオブラボーウィルス、ロシオ(Rocio)ウィルス、Royal farmウィルス、ロシア春夏脳炎ウィルス、Saboyaウィルス、セントルイス脳炎ウィルス、Sal viejaウィルス、San perlitaウィルス、Saumarez reefウィルス、Sepikウィルス、Sitiawanウィルス、Sokulukウィルス、Spondweniウィルス、ストラトフォードウィルス、Tembusuウィルス、ダニ媒介性脳炎ウィルス、Tyulenlyウィルス、ウガンダ5ウィルス、ウスツウィルス、西ナイルウィルス、および黄熱ウィルスが含まれるが、これらに限定されない。トガウィルス属の種には、チクングンヤ熱ウィルス、東部ウマ脳炎ウィルス、マヤロウィルス、オニョン-ニョンウィルス、ロスリバーウィルス、ベネズエラウマ脳炎ウィルス、風疹ウィルス、E型肝炎ウィルスが含まれるが、これらに限定されない。C型肝炎ウィルスは、340ヌクレオチドの5'-非翻訳領域、3010アミノ酸を有する9タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム、そして240ヌクレオチドの3'-非翻訳領域を有する。5'-UTRおよび3'-UTRは、C型肝炎ウィルスにおいて99%保存されている。
【0086】
レトロウィルスの種には、ヒト免疫不全ウィルスおよびB型肝炎ウィルスが含まれるが、これらには限定されない。
本発明の一態様において、標的遺伝子は、RNA-依存性RNAポリメラーゼまたは(+)鎖RNAウィルスによりコードされるヘリカーゼ、または(-)鎖RNAウィルス由来のRNAポリメラーゼである。(+)鎖RNAウィルスは、二本鎖RNAであり、そしてRNA依存性RNAポリメラーゼおよび鋳型としての(+)鎖を使用するRNA指向性RNA合成により複製する。ヘリカーゼは、RNA二重鎖を巻き戻し、一本鎖RNAの複製を可能にする。これらのウィルスには、ピコルナウィルス属、トガウィルス属、フラビウィルス属、アレナウィルス属、コロナウィルス科(たとえば、ヒト呼吸器ウィルス)およびA型肝炎ウィルス由来のウィルスが含まれる。これらのタンパク質をコードする遺伝子は、可変領域および可変領域に隣接する非常に保存的な領域を含む。この遺伝子を使用して、このウィルス種を同定することができ、そして必要であれば、ウィルス種の系統を同定することができる。
【0087】
本発明のいくつかの態様において、RNAウィルスは、まずRNAウィルスからRNAを取得し、逆転写によりRNAから対応するDNAを取得し、ゲノムの可変領域に隣接するRNAウィルスゲノムの保存的領域に結合する1またはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対を使用してDNAを増幅して1またはそれ以上の増幅産物を取得し、1またはそれ以上の増幅産物の分子量または塩基組成を決定し、そしてその分子量または塩基組成を、計算して決定したかまたは実験的に決定した既知RNAウィルスの分子量または塩基組成と比較すること(ここで、少なくとも1つの適合により、RNAウィルスを同定する)により、同定される。
【0088】
本発明の一態様において、RNAウィルスは、コロナウィルスである。別の態様において、コロナウィルスには、以下の群のコロナウィルスの構成物:トリ伝染性気管支炎、ウシコロナウィルス、イヌコロナウィルス、ネコ感染性腹膜炎ウィルス、ヒトコロナウィルス229E、ヒトコロナウィルスOC43、マウス肝炎ウィルス、ブタ流行性下痢ウィルス、ブタ赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ラット唾液腺涙腺炎コロナウィルス、SARSコロナウィルス、伝染性胃腸炎ウイルスおよび七面鳥コロナウィルス、が含まれるが、これらには限定されない。
【0089】
本発明のその他の態様において、インテリジェントプライマーは、コロナウィルスのゲノムの安定でそして高度に保存的な領域中に、病原体同定用アンプリコンを生成する。高度に保存的な領域中のアンプリコンの特徴を明らかにする利点は、この領域がプライマー認識の時点の後に進化しうる可能性が低い、という点であり、この場合、増幅工程が生じないだろう。そのようなプライマーセットは、したがって、広範囲サーベイ-型プライマーとして有用である。本発明の一態様において、コロナウィルスの高度に保存的な領域の例としては、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)をコードする遺伝子がある。本発明の別の一態様において、インテリジェントプライマーは、上述した安定な領域よりも素早く進化する領域中に病原体同定用アンプリコンを生成する。進化性のゲノム領域に対応する病原体同定用アンプリコンの特徴を明らかにする利点は、発生する系統変異株を識別するために有用である、という点である。別の態様においては、コロナウィルス進化性のゲノム領域の例としては、nsp11をコードする遺伝子がある。
【0090】
本発明は、発生するコロナウィルスにより引き起こされる疾患を同定するためのプラットフォームとして、顕著な利点もまた有する。本発明により、ハイブリダイゼーションプローブを生成するために、配列を事前に知っておく必要がなくなる。このように、別の態様においては、本発明は、コロナウィルスの同定のプロセスを臨床的設定において行う場合、およびコロナウィルスが以前に全く見いだされたことがない新しい種である場合においても、コロナウィルス感染の病因を決定する手段を提供する(本明細書で使用する場合、“病因”という用語は、疾患または異常な生理学的症状の原因または起源のことをいう)。この方法が、病原体同定用アンプリコンの生成のための鋳型として作用する配列中で生じる天然に存在する進化性の変異株(素早く進化するウィルスの特徴付けのための主要な関心事)により、混乱されるため、このことが可能になる。分子量の測定および塩基組成の決定は、配列についての先入観なしに、バイアスのない方法において達成することができる。
【0091】
本発明の別の態様は、異なる場所から入手した複数のサンプルを、疫学的設定において上述した方法により解析する場合、コロナウィルスのいずれかの種または系統の拡大を追跡する手段もまた提供する。一態様において、複数の異なる場所から入手した複数のサンプルを、病原体同定用アンプリコンを生成するプライマーにより解析するが、そのサブセットは、特定のコロナウィルスを含有する。コロナウィルス-含有サブセットの構成物の対応する場所は、特定のコロナウィルスの対応する場所への拡大を示す。
【0092】
別の態様において、本発明は、本明細書中で記載する方法を実行するためのキットもまた提供する。いくつかの態様において、このキットは、病原体由来の標的ポリヌクレオチドに対する増幅反応を行って、病原体同定用アンプリコンを形成するため、十分な量の1またはそれ以上のプライマー対を含んでいてもよい。いくつかの態様において、このキットは、1〜50種のプライマー対、1〜20種のプライマー対、1〜10種のプライマー対、または1〜5種のプライマー対を含んでいてもよい。いくつかの態様において、このキットは、表2に記載する1またはそれ以上のプライマー対を含んでいてもよい。いくつかの態様において、このキットは、広範囲サーベイプライマー、ディビジョン-ワイドプライマー、またはドリル-ダウンプライマー、またはそれらのいずれかの組み合わせを含んでいてもよい。キットは、特定の病原体の同定のための特定のプライマー対を含むように設計することができる。例えば、広範囲サーベイプライマーキットを最初に使用して、未知の病原体をコロナウィルスと同定することができる。別のキットを使用して、いずれかのコロナウィルスを、何か他のコロナウィルスと識別することができる。いくつかの態様において、これらのキットのいずれかを、未知の病原体の種を同定することができるように、広範囲サーベイプライマーとディビジョン-ワイドプライマーの組み合わせを含むように組み合わせることができる。
【0093】
このキットは、上述した増幅プロセスのため、十分量の逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、適切なヌクレオシド三リン酸(上述したもののいずれかを含む)、DNAリガーゼ、および/または反応バッファー、あるいはこれらのいずれかの組み合わせを含んでいてもよい。キットはさらに、キットの特定の態様に関連する指示書を含んでいてもよく、そのような指示書には、方法の操作のためのプライマー対および増幅条件を記載する。キットはまた、マイクロ遠心チューブなどの増幅反応容器を含んでもよい。キットはまた、例えば界面活性剤を含む、病原体核酸を単離するための試薬を含んでもよい。キットは、キットのプライマー対を使用して、測定されたかまたは計算された病原体の分子量および/または塩基組成表を含んでもよい。
【0094】
本発明はまた:被検体から得たサンプル由来の核酸を、コロナウィルスの保存された配列にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーの第一の対と接触させること(ここでコロナウィルスの前記保存された配列は、可変核酸配列に隣接する);サンプル由来の核酸を、推定される第2の(1または複数の)病原体の保存された配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーの第二の対と接触させること(ここで推定される第2の病原体の配列は、可変配列に隣接する);第一のプライマー対と第二のプライマー対との間の可変核酸配列を増幅して、コロナウィルス増幅産物および第2の病原体増幅産物を生成すること;増幅産物のそれぞれの塩基組成の特徴を決定すること;増幅産物のそれぞれの塩基組成の特徴を使用して、SARS-関連コロナウィルスおよび第2の病原体の組み合わせを、SARSの少なくとも1つの症候の推定原因として特定すること;を含む、SARSの少なくとも1つの症候を提示する被検体の2つの病因を特徴づけるための方法にも関する。いくつかの態様において、第2の病原体はSARSの少なくとも1つの症候の重症度の増加と関連する。いくつかの態様において、第2の病原体は、SARSの少なくとも1つの症候を提示している被検体の死亡率の指標が増加することと相関する。いくつかの態様において、SARSの少なくとも1つの症候は、高熱(>38℃)、空咳、息切れ、頭痛、筋肉の凝り、食欲喪失、倦怠、錯乱、発疹、または下痢、またはこれらのいずれかの組み合わせである。いくつかの態様において、二重の病因は、SARS-関連コロナウィルスと第2のウィルスとの相乗的ウィルス感染を含む。いくつかの態様において、第2のウィルスは、アデノウィルス、パラインフルエンザウィルス、呼吸器合包体ウイルス、麻疹ウイルス、ニワトリポックスウィルス、またはインフルエンザウィルス、またはこれらのいずれかの組み合わせである。いくつかの態様において、二重の病因は、SARS-関連コロナウィルスと第2の細菌病原体の相乗的ウィルス/細菌感染を含む。いくつかの態様において、第2の細菌病原体は、Streptococcus pneumoniae、Mycoplasma pneumoniae、またはChlamydia trachomatis、またはこれらのいずれかの組み合わせを含む。いくつかの態様において、複数の接触工程を平行して行う。いくつかの態様において、複数の接触工程を同時に行う。
【0095】
本発明は:上述した方法を使用して、サンプル中のSARS-関連コロナウィルスの存在を除外すること(ここで第一のプライマー対によりSARS-関連コロナウィルスの増幅がないことがSARS-関連コロナウィルスが存在しないことを示唆し、そしてここで、第二のプライマー対の増幅産物の塩基組成の特徴が第2の病原体を同定する);それによりSARSの少なくとも1つの症候の病因が示される、ことを含むSARSの少なくとも1つの症候を提示する被検体の病因を特定する方法にも関する。いくつかの態様において、第2の病原体は、急性呼吸器感染の原因である。いくつかの態様においては、第2の病原体は、例えばStreptococcus pneumoniae、Mycoplasma pneumoniaeまたはChlalmydia trachomatisなどの細菌性物質である。いくつかの態様においては、第2の病原体は、例えばアデノウィルス、パラインフルエンザ、呼吸器合胞体ウィルス、麻疹ウィルス、ニワトリポックスウィルス、またはインフルエンザウィルスなどのウィルス性物質である。
【実施例】
【0096】
実施例1:コロナウィルスサンプル、核酸単離および増幅
HRT-18およびMRC5細胞株に、HCoV-OC43およびHcoV-229E(University of Colorado and Naval Health Research Center, San Diego, CA)、HcoV-229Eを接種した。SARS RNAは、TRIzol抽出バッファー中での1 mLのSARSコロナウィルス抽出物として、CDC(Atlanta, GA)から得た。SARS CoV-Tor2系統は、感染Vero-E6細胞からの細胞培養上清としてUniversity of Manitobaから得た。
【0097】
RNAは、250μLのコロナウィルス感染細胞または培養上清から、TrizolまたはTrizol LS(Invitrogen Inc., Carlsbad, CA)をそれぞれ製造者のプロトコルにしたがって使用して単離した。5μgの剪断poly A DNAをRNAの沈殿のために添加した。ペレットになった核酸を70%エタノール中で洗浄し、そして20 unitsのSuperase・InTM(Ambion, Austin, TX)を含有する100μLのDEPC処理水中に再懸濁した。再懸濁したRNAを、Qiagen RNAeasyミニキットを製造者のプロトコルにしたがって使用して精製した。RNAを30μLのDEPC処理水中でRNAeasyTMカラムから溶出し、そして-70℃にて保存した。
【0098】
精製RNAを、10μLの精製RNAを500 ngのランダムプライマー、1μgの剪断poly-A DNAおよび10 unitsのSuperase・InTMを含有する5μLのDEPC処理水と混合することにより、逆転写のためにプライミングした。混合物を60℃で5分間加熱し、そしてその後4℃に冷却した。ランダムプライマーをRNAに対してアニーリングした後、15μLのファーストストランド反応混合物(2×ファーストストランドバッファー(Invitrogen Inc., Carlsbad, CA)、10 mM DTT、500μM dNTP、および75 unitsのSuperScript IIからなる)を、RNAプライマー混合物に対して添加した。RNAを45℃にて45分間、逆転写処理した。逆転写反応混合物の種々の希釈物をPCR反応において直接使用した。
【0099】
すべてのPCR反応は、96-ウェルマイクロタイタープレートおよびM.J. Dyadサーモサイクラー(MJ research, Waltham, MA)を使用して50μL中で行った。PCR反応バッファーは、4 unitsのAmplitaq Gold、1×バッファーII(Applied Biosystems, Foster City, CA)、2.0 mMのMgCl2、0.4 Mのベタイン、800μMのdNTPミックス、およびPCRプライマーを含有する250 nMのプロピンからなる。以下のPCR条件を使用して、コロナウィルス配列を増幅した:95℃にて10分間、その後、95℃にて30秒間、50℃にて30秒間、および72℃にて30秒間のサイクルを50サイクル。
【0100】
20μLの各PCR粗生成物を96-ウェルプレート中に移した。前処理したアニオン交換ZipTipsTM(Millipore)を96-チップのEvolution P3(Perkin Elmer)のヘッドにロードし、その後20μLのPCR粗生成物の一部を繰り返し吸引・放出することにより、20μLのPCR粗生成物の一部を各チップ上にロードした。サンプルのローディングの後、40 mM NH4HCO3の一部分を使用して、各サンプルを6回洗浄し、消費されなかったプライマーおよびdNTPを除去した。この工程の後、20%MeOH溶液の10μLの部分を使用してすすぎ、ポリメラーゼまたはPCRバッファーに由来するすべての残存するポリマー性物質を除去した。最終的な精製/脱塩PCR生成物の溶出物を、各チップを10μL容量の0.4 M NH4OHですすぎ、そして10μLの溶出液を96-ウェルプレートのウェル中に入れることにより達成する。ESI-MSによる解析の前に、溶出液を50%MeOHおよび50 mMピペリジン/イミダゾールを含有する溶液で1:1に希釈した。SH2(CGTGCATGGCGG;SEQ ID NO: 105, Synthetic Genetics, San Diego, California)と呼ばれる低分子のオリゴヌクレオチドを、内部質量標準として、最終濃度50 nMで添加した。
【0101】
実施例2:分子量決定
質量分析器は、積極的にシールドされた7 Tesla超伝導マグネットを使用するBruker Daltonics(Billerica, MA)Apex II 70eエレクトロスプレイイオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析器(ESI-FTICR-MS)に基づく。パルス配列コントロールおよびデータ取得のすべての側面は、Bruker's Xmassソフトウェアを実行する1.1 GHz Pentium IIデータステーションで行った。20μL容量のサンプルを、96-ウェルマイクロタイタープレートから、データステーションにより制御されているCTC HTS PAL自動サンプリング装置(LEAP Technologies, Carrboro, NC)を使用して直接抽出した。サンプルを、75μL/時間の流速でESI供給源中に直接的に注入した。イオンは、ガラス脱溶媒和キャピラリの金属被覆末端から約1.5 cmの所に位置する軸外のアースされたエレクトロスプレイプローブを使用して、改変Analytica(Branford, CT)供給源中でエレクトロスプレイイオン化を介して形成された。ガラスキャピラリの気圧末端は、データ取得の間、ESI針に対して6000 Vのバイアスをかける。乾式N2/O2の逆流を使用して、脱溶媒和プロセスに助力した。イオンは、質量分析が行われる捕捉イオンセル中に注入される前に、rf-のみの六重局、スキマーコーン(skimmer cone)、および補助ゲート電極を含む外部イオン貯蔵容器中で蓄積された。スペクトル取得は、連続的負荷サイクルモードで行い、それによりイオンは六重局イオン貯蔵容器中に蓄積され、そして同時に捕捉イオンセル中でイオン検出された。イオンが捕捉イオンセルに移動される1.2 msの移動現象の後、イオンを8000〜500 m/zに対応する1.6 msの周波数掃引励起(chirp excitation)に供した。データを500〜5000のm/z範囲にわたって取得した(225K Hz帯域幅にわたって、1Mデータポイント)。各スペクトルは、同時に付加した32の過渡電流の結果であった。過渡電流を、振幅モード(magnitude mode)フーリエ変換の前、そして内部質量標準を使用した較正後に、いったんゼロ詰めした。ICR-2LSソフトウェアパッケージ(G.A. Anderson, J.E. Bruce. (Pacific Northwest National Laboratory, Richland, WA, 1995))を使用して、質量スペクトルを解析し、そしてDNA用に改変した“平均化”調整ルーチンを使用して、単一モノアイソトピック種の質量を計算した(M.W. Senko, S.C. Beu, F.W. McLafferty, Journal of the American Society for Mass Spectrometry 6, 229 (1995))。このアプローチを使用して、モノアイソトピック分子量を計算した。
【0102】
実施例3:プライマーの選択
すべての既知のコロナウィルス種を増幅するプライマーを設計するため、そして新たな構成物を同定するため、完全なゲノムおよび個別の遺伝子を含むGenBankから入手可能なすべてのコロナウィルス配列を使用してアラインメントを行い、そしてPCRプライマー対が約150またはそれよりも少ない核酸塩基の長さの病原体同定用アンプリコンを生成しうる領域についてスキャンした。約150核酸塩基という現在の長さの制限は、エレクトロスプレイ質量分析により、十分な正確性でPCR増幅産物の質量を決定し、塩基組成を明瞭に決定する能力により、決定される。当業者は、この制限は、核酸の分子量決定の分野における改良にしたがって、増大する可能性があることを理解するだろう。
【0103】
2つの標的領域を、コロナウィルスorf-1b中に選択した。その一つは、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)中のものであり、そしてもう一方はNsp11中のものである(図7)。これらの領域内部のプライマーの場所は、複数の多様なコロナウィルスの限界希釈を行うことにより、感度および広範囲プライミング能力について同時的に最適化した。表2中に示されるプライマー対の名前は、所定の領域のためのフォワードプライマーおよびリバースプライマーのことである。各プライマーを、5'末端にチミジン(T)ヌクレオチドを含み、PCRのあいだに非-鋳型アデノシン(A)の追加を最小限にするように設計した。
【0104】
表2は、本発明の方法を使用してコロナウィルスを同定する様に設計されたインテリジェントプライマー(SEQ ID NO: 5〜11)のコレクションを示す。フォワードプライマーまたはリバースプライマーの名前は、参照配列、この場合には、ヒトコロナウィルス229E配列、に関して、プライマーがハイブリダイズするコロナウィルスゲノムの遺伝子領域を示す。SEQ ID NO: 5および6により示されるプライマーは、GenBankアクセションNo: NC_002645(本明細書中ではSEQ ID NO: 30として援用される)を参照して、コロナウィルスnsp11遺伝子から作製したアンプリコンを生じる様に設計した。SEQ ID NO: 7〜11により示されるプライマーは、GenBankアクセッションNo: AF304460(本明細書中ではSEQ ID NO: 31として援用される)を参照して、コロナウィルスRNA-依存性RNAポリメラーゼ遺伝子から作製したアンプリコンを生じる様に設計した。表2中において、@は5-プロピニルウラシル(これは、Tを化学的に修飾したもの);&は5-プロピニルシトシン(これは、Cを化学的に修飾したもの)を示す。
【0105】
【表2】
【0106】
実施例4:コロナウィルス用の病原体同定用アンプリコンのデータベース
病原体同定用アンプリコンの予想分子量および予想塩基組成のデータベースを、電気的PCR検索アルゴリズム(ePCR)を使用して作成した。存在するRNA構造検索アルゴリズム(T. Macke et al., Nuc. Acids Res. 29, 4724 (2001))は、ハイブリダイゼーション条件、ミスマッチ、および熱力学的計算などのPCRパラメータを含むように修飾した(J. SantaLucia, Proc. Natl. Acad.Sci. U.S.A 95, 1460 (1998))。ePCRは、最初、プライマー特異性をチェックするために使用され、そして選択されたプライマー対を、プライマー配列に対する適合性についてGenBankヌクレオチド配列データベースに関して検索した。コロナウィルスプライマーは、GenBank中のすべての既知のコロナウィルスをプライミングしたが、細菌、ウィルス、またはヒトDNA配列をプライミングしないことが、ePCRにより示された。それぞれの適合性に関して、予想アンプリコン配列のA塩基、G塩基、C塩基、およびT塩基のカウント数を計算し、そしてコロナウィルス病原体同定用アンプリコンのデータベースを作成した(表3)。
【0107】
プライマーセットCV_NC002645_18190_18215P_F(nsp11プライマーセット、SEQ ID NO: 5および6)およびVPOL_AF304460_1737_1755P_F(RdRpプライマーセット、SEQ ID NO: 9および10)を使用して得た一連の異なるコロナウィルスについての病原体同定用アンプリコンの両方の鎖の分子量および塩基組成が、表3に示される。
【0108】
【表3−1】
【0109】
【表3−2】
【0110】
【表3−3】
【0111】
【表3−4】
【0112】
【表3−5】
【0113】
【表3−6】
【0114】
“社内で配列決定”という記載は、GenBankの記録が表3のデータベースのアッセンブリの時には存在しなかったことを意味している。実験的に測定された塩基組成を確認するため、本研究で使用される各標的領域に隣接する約500塩基対(bp)の領域を配列決定した。標的領域を取り巻く領域(nsp11について615 bp、そしてRdRpについて454 bp)を、5'M13配列決定用タグを含有するプライマーを使用して増幅した。配列決定の方法は、当業者に周知である。
【0115】
実施例5:コロナウィルス用の病原体同定用アンプリコンの特性決定
すべてのコロナウィルスについての広範囲の検出のため、orf-1b中の2種類のPCRプライマー標的領域(一方は、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)中の領域、および他方はNsp11中の領域)を、実施例3および4に記載の解析に基づいて同定した。これらの領域中のプライマーの場所を、複数の多様なコロナウィルスの限界希釈を行うことにより、感度および広範囲プライミング能力の両方に関して同時的に最適化した。GenBankヌクレオチドデータベース配列のePCRによる、最終的なプライマー対の解析により、これらのプライマーがすべての既知のコロナウィルスを増幅するが、その他のウィルス、細菌、またはヒトのDNAは増幅しないことが期待されうることが、示された。表4に列挙された各ウィルスについてのPCR生成物が生成され、脱塩され、そして実施例1および2において示されたエレクトロスプレイイオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析法(FTICR-MS)により解析された。スペクトルシグナルを、アルゴリズムにより処理して、塩基組成データを得た。図8は、エレクトロスプレイイオン化、鎖分離、および分離されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の実際の電荷状態分布、およびSARSコロナウィルスに対するRdRpプライマー対由来のPCR生成物の分子量および塩基組成の決定についてのスキーム図である。
【0116】
FTICR-MSの正確性のおかげで(質量測定誤差、±1 ppm)、すべての検出された質量を、センス鎖およびアンチセンス鎖の塩基組成に対して明瞭にマッピングすることができた。14種のコロナウィルス単離株の解析に基づく結果を、表4中に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
両方のプライマー領域について、測定されたシグナルは、GenBank中の既知のコロナウィルス配列から予想された組成と一致した。この研究で使用されたいくつかの単離株は、GenBank中にゲノム配列記録を有していなかった。それにもかかわらず、病原体同定用アンプリコンがすべての試験ウィルスについて得られ、そしてそれらの塩基組成を実験的に決定した。これらの実験的に決定された塩基組成を、配列決定により確認した。したがって、ここで記載したストラテジーにより、事前に配列を知る必要なく、ウィルスの同定が可能になる。
【0119】
同一サンプル中の複数のウィルスを検出する能力を示すため、同時-感染のあいだに生じる可能性がある様に、3種のヒトコロナウィルス、HCoV-229E、HCoV-OC43、およびSARS CoV由来のウィルス抽出物を蓄積し、そして混合物を本発明の方法により解析した。3種類すべてのウィルス由来のシグナルは、質量スペクトルにおいて明瞭に検出され、そして分離されたことから(図9)、1種以上のコロナウィルス種の同時-感染を同定することができることが示された。このシステムにおける信頼性のある複数種検出についてのダイナミック・レンジは、104である(それぞれの方向で100:1、データは示していない)。この実施例は、コロナウィルス感染の病因が、本発明の方法を用いて解析できることを示す。さらに、コロナウィルスの同定方法は、細菌の広範囲かつドリル-ダウン同定の一般的方法と組み合わせて、ウィルスおよび細菌の同時-感染を含むより複雑な病因を解析することができる。
【0120】
RdRpおよびnsp11病原体同定用アンプリコンについての5種の異なるコロナウィルスの塩基組成の空間表示を、図10に示す。各塩基組成のG含量は、円錐系の傾斜角により示され、それは、実験的に決定した塩基組成を示す。計算された塩基組成は、標識された球面により示される。図10は、実験的に決定された塩基組成が計算された塩基組成と一般的には適合することを示す。一つの例外は、イヌコロナウィルスの解析であり、それは、1箇所のTからCへの置換(1ヌクレオチド多型)がアンプリコン中に存在することを示した。
【0121】
病原体同定用アンプリコンの特性決定は、配列を事前に知っておく必要がない。この特徴は、nsp11プライマーセットを用いて得られた病原体同定用アンプリコンについて例示される。5種のウィルス種のうち3種(FIPV、CcoVおよびHcoV OC43)に関しては、nsp11領域中に利用可能な配列がなかった。それにもかかわらず、3種の病原体同定用アンプリコンの塩基組成が決定され、それはコロナウィルスnsp11病原体同定用アンプリコンの塩基組成の予想された境界の十分内部にあった。したがって、これら3種のコロナウィルスの正体は未知であったし、そしてもしそれらが同一のプライマーセットを用いて試験された場合には、それらは新たに発見されたコロナウィルスとして同定されるだろう。
【0122】
実施例6:内部較正化PCRによる、SARSコロナウィルスの定量
SARSコロナウィルスは、強制換気呼吸装置を装着した研究者により、P3施設中で取り扱われた。施設および補給品は、10%次亜塩素酸漂白溶液で少なくとも30分間、または10%ホルマリン中に少なくとも12時間浸漬することにより除染し、そしてウィルスを具体的なScripps Research Institute指針に厳密にしたがって取り扱った。SARS CoVを、最終濃度10%ウシ胎仔血清(Hyclone)、292μg/mL L-グルタミン、100 U/mLペニシリンGナトリウム、100μg/mL硫酸ストレプトマイシン(Invitrogen)、および10 mM HEPES(Invitrogen)を添加した完全DMEM中で、まだコンフルエントになっていない状態のVero-E6細胞上で、37℃、5%CO2にて培養した。ウィルス含有培養液は、ウィルス細胞変性作用のピークのあいだ、2回継代のストックウィルスから約10 PFU/cellのSARS CoVを接種してから48時間後に、回収した。感染性ウィルスプラークアッセイにより力価測定した。Vero-E6細胞の単層を組織培養プレート中で70〜80%コンフルエントで調製した。ウィルスの10倍連続希釈物を、完全DMEM中で調製した。培養液を、細胞から吸引し、200μLの接種物により置換し、そして細胞を37℃、5%CO2にて1時間インキュベートした。細胞に2〜3 mL/ウェルの0.7%アガロースを重層させ、2%ウシ胎児血清を含有する1×DMEMを重層させた。アガロースを室温で凝固させ、その後、37℃、5%CO2にて72時間インキュベートした。プレートを、一晩ホルマリン浸漬することにより除染し、アガロースプラグを取り除き、そして細胞を0.1%クリスタルバイオレットで染色して、ウィルス斑を目立たせた。
【0123】
臨床的に対応する液体中におけるSARSコロナウィルスの検出を示すため、力価測定したSARSウィルスの様々な希釈物を、ヒト血清に対して添加した。SARSウィルスの10倍連続希釈物(100〜10-15)を、完全DMEM中で調製した。ウィルスの50μLの各希釈物を200μLヒト血清に添加し、ウェルを混合し、そして0.75 mLのTrizol Reagent LS(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用して、室温にて10分間処理した。その後、内容物をきれいなチューブに移し、それを10%漂白液で外側を滅菌し、そしてP2設備に移した。RNAを上述したプロトコルにしたがって抽出した。単離RNAの100%を逆転写した。PCR反応当たり1/40倍のRT反応を使用した。RT-PCRを、実施例2に記載する様に行った。
【0124】
PFUと核酸標的のコピー数との関係を決定するため、SARSコロナウィルスストック溶液を、内部較正化PCRを使用して解析した。各アンプリコンの内部に5塩基の欠失がある以外は、SARS CoV由来の各PCR標的領域のすべてに関して同一な核酸配列を伴う合成DNA鋳型を、pCR-Bluntベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中にクローニングした。較正プラスミドをOD260測定を使用して定量し、連続希釈し(10倍希釈)、そして固定量のウィルスストックの逆転写酵素後cDNA調製物と混合し、そして競合的PCRおよびエレクトロスプレイ質量分析法により解析した。各PCR反応により、2セットのアンプリコンが生成され、一つは較正DNAに対応し、もう一方はSARS cDNAに対応した。合成DNA較正物上のプライマー標的およびウィルスDNA上のプライマー標的がほぼ同一であったため、2種の生成物の増幅については類似のPCR効率が存在していると考えられた。較正物の各希釈物について、結果として得られた合成DNAおよびウィルスcDNAの質量スペクトルのピーク高の比の解析を使用して、逆転写酵素処理後のPFU当たりに存在する核酸コピー量(較正分子により測定される)を決定した。PFU(プレート形成ユニット)は、各感染性ウィルス粒子が細菌の連続的“芝生”または培養細胞の連続的シートの感染に際して、一つのきれいなプラークを生じさせることができるため、所定のサンプル中の感染性ウィルス粒子数の定量的測定値として定義される。抽出RNAのすべてを逆転写酵素工程で使用して、ウィルスcDNAを生成したため、元々のウィルス調製物中の感染性ウィルス粒子に関連する核酸のおよその量が推定された。
【0125】
PFUと核酸のコピー数との関係を調べるため、ウィルスストックを、内部較正化PCRを使用して解析した。各アンプリコンの内部に5塩基の欠失を有する以外はSARS CoV由来の各PCR標的領域のすべてに関して同一な核酸配列を有する合成DNA鋳型を、pCR-Bluntベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中にクローニングした。較正プラスミド OD260測定を使用して定量し、連続希釈し(10倍希釈)、そして固定量のウィルスストックの逆転写酵素後cDNA調製物と混合し、そして競合的PCRおよびエレクトロスプレイ質量分析法により解析した。各PCR反応により、2セットのアンプリコンが生成され、一つは較正DNAに対応し、もう一方はSARS cDNAに対応した。合成DNA較正物(較正アンプリコン)から生成されたアンプリコンおよびウィルスcDNAから生成されたアンプリコン(病原体同定用アンプリコン)はほぼ同一であったため、2種の生成物の増幅についてのPCR効率は、同様であると考えられた。較正物の各希釈物について、結果として得られた合成DNAおよびウィルスcDNAの質量スペクトルのピーク高の比の解析を使用して、逆転写酵素後のPFU当たりに存在する核酸コピーの量(較正用分子により測定された)を決定した。抽出されたRNAのすべてを逆転写酵素工程で使用して、ウィルスcDNAを生成したため、もとのウィルス調製物中の感染性ウィルス粒子と関連するおよその核酸量を推定することができた。質量分析法解析により、3×104コピー数の希釈物での較正ピークとRdRpプライマーセットについての病原体同定用アンプリコンピークとの間で、約1:1のピーク発生量が示された(図11)。このように、PFUと核酸のコピー数の間の関係は、1 PFU = 300コピー数の核酸と計算された。
【0126】
本明細書中に記載されているものに加えて、上述の記載から、当業者にとって、本発明の様々な修飾は明らかなものである。そのような修飾はまた、添付した特許請求の範囲の範囲内のものであることが意図される。本明細書において言及されまたは引用されたそれぞれの特許、特許出願、印刷物、およびその他の参考文献は、その全体を参考文献として本明細書中に援用する。当業者は、多数の改変および修飾を本発明の態様に対して行うことができ、そしてそのような改変および修飾を本発明の概念から離れることなく行うことができることを理解するだろう。したがって、添付される請求の範囲が、本発明の文言的な概念または範囲に収まるものとして、すべてのそのような均等なバリエーションをカバーすることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1A】図1Aは、16S rRNA由来の保存的領域(図1A-1、1A-2、1A-3、1A-4、および1A-5)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1B】図1Bは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1C】図1Cは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1D】図1Dは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1E】図1Eは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1F】図1Fは、23S rRNA由来の保存的領域(3'-側半分、図1B、1C、および1D;5'-側半分、図1E〜F)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1G】図1Gは、23S rRNAドメインI由来の保存的領域(図1G)の事例を示す、コンセンサス図である。
【図1H】図1Hは、23S rRNAドメインIV由来の保存的領域(図1H)の事例を示す、コンセンサス図である。これらの領域をコードするDNA部分は、病原体同定用アンプリコンの生成のための鋳型として使用するために適している。矢印は、PCR用のインテリジェントプライマー対を設計した領域(DNAに対応させた場合)の例である。それぞれのプライマー対用の標識は、コンセンサス図上の増幅領域の最初の塩基番号および最後の塩基番号を示す。大文字の塩基は、95%より高く保存されているものである;小文字の塩基は、90〜95%保存されているものである;黒丸は80〜90%保存されているものである;そして白丸は80%未満保存されているものである。それぞれのプライマー対の標識は、コンセンサス図上の増幅領域の最初の塩基番号および最後の塩基番号を示す。16S rRNAコンセンサス配列のヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 3であり、そして23S rRNAコンセンサス配列のヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 4である。
【図2】図2は、図1A-1において示された16S rRNAドメインIII由来の典型的なプライマー増幅領域を示す。
【図3】図3は、RNase Pにおける保存領域を示すスキーム図である。大文字の塩基は、90%より高く保存されているものである;小文字の塩基は、80〜90%保存されているものである;黒丸は、70〜80%保存されている塩基を示す;そして白丸は、70%未満保存されている塩基を示す。
【図4】図4は、ヌクレオチド類似体“タグ”を使用して塩基組成の特徴を決定した、塩基組成の特徴決定のスキーム図である。
【図5】図5は、質量タグホスホロチオエートA(A*)を有するBacillus anthracis領域および質量タグホスホロチオエートA(A*)を有しないBacillus anthracis領域の簡略化マススペクトルを示す。2種のスペクトルは、質量タグ含有配列の測定分子量が、被修飾配列と比べて大きい点で異なる。
【図6】図6は、プライマー選択プロセスを説明するプロセス図である。各群の生物に関して、候補標的配列を同定し(200)、そこからヌクレオチドアラインメントを作成し(210)、そして解析する(220)。その後、適切なプライミング領域を選択することによりプライマーを設計し(230)、そしてそれにより候補プライマー対の選択が可能になる(240)。次いで、プライマー対を電子的PCR(ePCR)によるin silico解析に供し(300)、ここでは病原体同定用アンプリコンをGenBankまたはその他の配列コレクションなどの配列データベースから入手し(310)、そして特異性につきin silicoでチェックする(320)。GenBank配列から入手した病原体同定用アンプリコン(310)を、所定のアンプリコンが未知の病原体を同定する能力を予測する確率モデルにより解析することができ、その結果、その後、好ましい確率スコアを有するアンプリコンの塩基組成を、塩基組成データベース中に保存する(325)。あるいは、プライマーおよびGenBank配列から入手した病原体同定用アンプリコンの塩基組成を、直接的に塩基組成データベース中に入力することができる(330)。候補プライマー対(240)は、生物のコレクション由来の核酸(410)のPCR解析などの方法によるin vitro増幅により確認される(400)。このようにして入手された増幅生成物を解析して、増幅産物を入手するために使用されたプライマーの感度、特異性、および再現性を確認する(420)。
【図7】図7は、コロナウィルスについての病原体同定用アンプリコンを生成するために使用された2種のコロナウィルスゲノム領域を示す。2つのプライマー対領域は、SARS CoV(TOR2、NC_004718.3:SEQ ID NO: 85)ゲノム位置にマッピングされる。RdRpアンプリコンは、位置15,132〜15,218に対応し、そしてnsp11アンプリコンは、同一配列の位置19,098〜19,234に対応する。これら2種の増幅領域に対応するさらに利用可能なコロナウィルス配列の複数配列アラインメントが示される。本研究の一部として配列決定されたコロナウィルス単離株を、アスタリスクを付して示す。すべてのその他の配列を、GenBankから入手した。PHEVおよびTCoVについてのnsp11配列は利用することができず、点線で示される。フォワードおよびリバースプライマー領域を目立たせてある。すべてのプライマーの5'末端を、PCRのあいだに非-鋳型化A残基の付加を最小限にするように作用するチミジン(T)ヌクレオチドにより設計した。それぞれの具体的なコロナウィルスについて、プライマー配列と比較してミスマッチである位置が示される。実際のプライマーの相補物が、リバースプライマーについて示される。各ウィルスについてのフォワードプライマーとリバースプライマーとの間の領域は、異なるコロナウィルスごとに異なり(示していない)、そして分子量または塩基組成によりそれらを解析するための特徴を提供する。プロピン基により化学的に修飾されたプライマー位置を目立たせてある。プライマー中で使用した5-プロピニルデオキシシチジンヌクレオチドおよび5-プロピニルデオキシウリジンヌクレオチドの構造を示す。
【図8】図8は、プロピニル化RdRpプライマー対を使用して取得されたSARSコロナウィルス由来のPCRアンプリコンのESI-FTICR質量スペクトル測定値である。エレクトロスプレイイオン化条件により、PCR生成物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を分離する(500)。複数の荷電状態は、(510)に示されるm/z範囲を通じて観察され、そこから(M-27H+)27-種の同位体エンベロープの拡張された観点が得られる(520)。センスアンプリコン鎖についての誘導された分子量(530)は、27298.518であり、そこからセンス鎖についてA27G19C14T28の明確な塩基組成が計算される(540)(表4にも示される)。この塩基組成は、SARSコロナウィルスのゲノム配列の病原体同定用アンプリコンに基づいて計算された塩基組成に対応する。
【図9】図9は、混合物中の3種のヒトコロナウィルスを同定するために使用された一連の質量スペクトルを示す。個別にそして混合物中で試験した3種のヒトコロナウィルス、HCoV-229E、HCoV-OC43およびSARS CoVについて、RdRpプライマーのために取得された、解析された(中性質量)質量スペクトルが示される。フォワードおよびリバースアンプリコンが、各鎖についてのモノアイソトピック質量測定値を伴って示される。
【図10】図10は、RdRpプライマーセットおよびnsp11プライマーセットを使用して取得されたコロナウィルスの病原体同定用アンプリコンに関する、実験的に決定された塩基組成(黒円錐)および計算された塩基組成(丸)の三次元プロットを示す。塩基組成の位置は、各塩基組成中のA、C、およびT含量の切片を示し、G含量は円錐の回転角により示される“偽-第四”次元で示される。RdRpセットに関して、実験的に決定された塩基組成は、1箇所のTからCへの置換(点線により示される)により、利用可能な配列情報に基づいて計算された組成と異なる組成を有することが見いだされたイヌコロナウィルス単離株(CcoV)以外は、計算された塩基組成と一致していた。
【図11】図11は、3×104の核酸コピー数に対応する希釈でのPCR内部標準較正アンプリコン、およびSARSコロナウィルス病原体同定用アンプリコンに対応する質量ピークを含有する質量スペクトルを示す。2つのピークのピーク存在度の比較により、1 PFUのSARSコロナウィルス = 300 コピー数の核酸と決定することが可能になる。
【図1A−1】
【図1A−2】
【図1A−3】
【図1A−4】
【図1A−5】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の1またはそれ以上の未知のコロナウィルスを同定する方法であって、以下の工程:
a)前記サンプルからコロナウィルスRNAを得る工程;
b)前記RNAから対応するDNAを得る工程;
c)コロナウィルスゲノムの保存的領域であって前記コロナウィルスゲノムの可変領域に隣接する領域に結合する1対またはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、前記DNAを増幅する工程;
d)工程c)において得られた1またはそれ以上の増幅産物の分子量または塩基組成を決定する工程;そして
e)前記分子量または塩基組成を、計算で決定された分子量または塩基組成または実験的に決定された分子量または塩基組成と比較する工程、ここで1またはそれ以上の適合により、前記未知のコロナウィルスを特定する;
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記保存的領域が、異なるコロナウィルスとのあいだで、約80〜100%同一である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可変領域が、異なるコロナウィルスとの間で約5%より大きい同一性を示さない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
コロナウィルスゲノムの前記保存的領域および可変領域が、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)またはnsp11をコードする遺伝子内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コロナウィルスが、イヌコロナウィルス、ネココロナウィルス、ヒトコロナウィルス229E、ヒトコロナウィルスOC43、ブタ流行性下痢ウィルス、伝染性胃腸炎ウイルス、ウシコロナウィルス、マウス肝炎ウィルス、ブタ赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ラットコロナウィルス、シチメンチョウコロナウィルス、トリ伝染性気管支炎ウイルス、またはSARSコロナウィルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ウィルスゲノム配列のアラインメントを使用して、前記保存的領域を同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記対応するDNAを、逆転写酵素-触媒反応において前記RNAから得る、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記増幅産物を、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して得る、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基組成を、前記増幅産物の両方ともの鎖の分子量を測定することにより決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記塩基組成の決定が、鎖適合性(matching)のプロセスをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1の方法を行うことを含む、コロナウィルス感染の病因を診断する方法であって、ここで、前記サンプルはコロナウィルス感染の症候を示すヒトから得られた生物学的サンプルであり、特定のコロナウィルスの結果としての同定が、前記コロナウィルス感染の病因を規定する、前記方法。
【請求項12】
前記病因が、複数のコロナウィルス種による感染を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複数のコロナウィルス種が、SARSコロナウィルスを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記病因が、細菌病原体同定用アンプリコンの分子量を決定することにより同定される細菌種による感染をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
特定のコロナウィルスの拡大(spread)を追跡する方法であって、以下の工程:
複数の異なる場所由来の前記特定のコロナウィルスを含有する複数のサンプルを得る工程;そして
請求項1の方法を用いて前記複数のサンプルのサブセット中で前記特定のコロナウィルスを同定する工程、ここで、前記サブセットの構成物の対応する場所が、前記対応する場所に対する前記特定のコロナウィルスの拡大を示す、
を含む、前記方法。
【請求項16】
前記コロナウィルスが、イヌコロナウィルス、ネココロナウィルス、ヒトコロナウィルス229E、ヒトコロナウィルスOC43、ブタ流行性下痢ウィルス、伝染性胃腸炎ウイルス、ウシコロナウィルス、マウス肝炎ウィルス、ブタ赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ラットコロナウィルス、七面鳥コロナウィルス、トリ伝染性気管支炎ウイルス、またはSARSコロナウィルスである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プライマー対であって、対の各構成物が、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか一つの対応する構成物の配列と少なくとも70%の配列同一性を有する、前記プライマー対。
【請求項18】
少なくとも1つの核酸塩基類似体をさらに含む請求項17に記載のプライマー対であって、前記核酸塩基類似体が、天然の核酸塩基と比較して、その相補的核酸塩基に対して増大された親和性で結合する、前記プライマー対。
【請求項19】
前記核酸塩基類似体が、5-プロピニルウラシル、5-プロピニルシトシン、2,6-ジアミノプリン、フェノキサジン、またはG-クランプを含む、請求項18に記載のプライマー対。
【請求項20】
プライマー対を用いてコロナウィルスゲノム由来の核酸を増幅するプロセスにより生成した、長さ約45個〜約150個の核酸塩基の単離ポリヌクレオチドを含むコロナウィルスを同定するための病原体同定用アンプリコンであって、前記各プライマー対が、約12個〜約35個の核酸塩基の長さのものであり、そして病原体同定用アンプリコンがコロナウィルスについての同定用情報を提供する、前記病原体同定用アンプリコン。
【請求項21】
前記プライマー対の各構成物が、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか1対の対応する構成物の配列と、少なくとも70%の配列同一性を有する、請求項20に記載の病原体同定用アンプリコン。
【請求項22】
前記コロナウィルスゲノムの配列が、SEQ ID NO: 12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、または101のいずれか1つにより示される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
サンプル中の未知のコロナウィルスの正体と量を同時に決定するための方法であって、以下の工程:
前記サンプルを、プライマー対および較正配列を含む既知量の較正ポリヌクレオチドと接触させる工程;
前記未知のコロナウィルス由来の核酸を、前記プライマー対を用いて増幅する工程と、前記サンプル中の前記較正ポリヌクレオチド由来の核酸を、前記プライマー対を用いて増幅する工程とを同時に行い、病原体同定用アンプリコンを含む第一の増幅産物および較正アンプリコンを含む第二の増幅産物を得る工程;
前記サンプルを、分子量分析に供する工程であって、ここで前記質量分析の結果が、前記病原体同定用アンプリコンおよび前記較正アンプリコンについての分子量データおよび存在度(abundance)データを含む;そして
分子量に基づいて、前記較正アンプリコン由来の前記病原体同定用アンプリコンを識別する工程、ここで前記病原体同定用アンプリコンの分子量は、前記コロナウィルスを同定し、そして病原体同定用アンプリコン存在度データと較正アンプリコン存在度データとの比較により前記サンプル中のコロナウィルスの量が示される、
を含む前記方法。
【請求項24】
前記較正配列は、前記標準配列の約2〜8個の連続したヌクレオチド残基が欠失している点を除き、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列の配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記較正配列は、前記標準配列の約2〜8個の連続したヌクレオチド残基が挿入されている点を除き、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列の配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記較正配列が、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列と、少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記較正配列が、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列と、少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記較正配列が、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列と、少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記標準配列が、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)またはnsp11をコードする遺伝子配列の部分である、請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記較正ポリヌクレオチドが、プラスミド上に存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記分子量分析が、FTICRまたはMALDI-TOF質量分析法を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
サンプル中の病原体の量を決定するための、SEQ ID NO: 102を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項33】
サンプル中の病原体の量を決定するための、SEQ ID NO: 103を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項34】
SEQ ID NO: 102またはSEQ ID NO: 103の較正ポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【請求項35】
SEQ ID NO: 104の較正ポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【請求項36】
1またはそれ以上のプライマー対を含むキットであって、各対の各構成物が、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか1つの対応する構成物の配列と、少なくとも70%の配列同一性を有する、前記キット。
【請求項37】
逆転写酵素およびヌクレオチド三リン酸をさらに含む、請求項36に記載のキット。
【請求項38】
DNAポリメラーゼおよびヌクレオチド三リン酸をさらに含む、請求項36に記載のキット。
【請求項1】
サンプル中の1またはそれ以上の未知のコロナウィルスを同定する方法であって、以下の工程:
a)前記サンプルからコロナウィルスRNAを得る工程;
b)前記RNAから対応するDNAを得る工程;
c)コロナウィルスゲノムの保存的領域であって前記コロナウィルスゲノムの可変領域に隣接する領域に結合する1対またはそれ以上のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、前記DNAを増幅する工程;
d)工程c)において得られた1またはそれ以上の増幅産物の分子量または塩基組成を決定する工程;そして
e)前記分子量または塩基組成を、計算で決定された分子量または塩基組成または実験的に決定された分子量または塩基組成と比較する工程、ここで1またはそれ以上の適合により、前記未知のコロナウィルスを特定する;
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記保存的領域が、異なるコロナウィルスとのあいだで、約80〜100%同一である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可変領域が、異なるコロナウィルスとの間で約5%より大きい同一性を示さない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
コロナウィルスゲノムの前記保存的領域および可変領域が、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)またはnsp11をコードする遺伝子内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コロナウィルスが、イヌコロナウィルス、ネココロナウィルス、ヒトコロナウィルス229E、ヒトコロナウィルスOC43、ブタ流行性下痢ウィルス、伝染性胃腸炎ウイルス、ウシコロナウィルス、マウス肝炎ウィルス、ブタ赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ラットコロナウィルス、シチメンチョウコロナウィルス、トリ伝染性気管支炎ウイルス、またはSARSコロナウィルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ウィルスゲノム配列のアラインメントを使用して、前記保存的領域を同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記対応するDNAを、逆転写酵素-触媒反応において前記RNAから得る、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記増幅産物を、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して得る、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基組成を、前記増幅産物の両方ともの鎖の分子量を測定することにより決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記塩基組成の決定が、鎖適合性(matching)のプロセスをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1の方法を行うことを含む、コロナウィルス感染の病因を診断する方法であって、ここで、前記サンプルはコロナウィルス感染の症候を示すヒトから得られた生物学的サンプルであり、特定のコロナウィルスの結果としての同定が、前記コロナウィルス感染の病因を規定する、前記方法。
【請求項12】
前記病因が、複数のコロナウィルス種による感染を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複数のコロナウィルス種が、SARSコロナウィルスを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記病因が、細菌病原体同定用アンプリコンの分子量を決定することにより同定される細菌種による感染をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
特定のコロナウィルスの拡大(spread)を追跡する方法であって、以下の工程:
複数の異なる場所由来の前記特定のコロナウィルスを含有する複数のサンプルを得る工程;そして
請求項1の方法を用いて前記複数のサンプルのサブセット中で前記特定のコロナウィルスを同定する工程、ここで、前記サブセットの構成物の対応する場所が、前記対応する場所に対する前記特定のコロナウィルスの拡大を示す、
を含む、前記方法。
【請求項16】
前記コロナウィルスが、イヌコロナウィルス、ネココロナウィルス、ヒトコロナウィルス229E、ヒトコロナウィルスOC43、ブタ流行性下痢ウィルス、伝染性胃腸炎ウイルス、ウシコロナウィルス、マウス肝炎ウィルス、ブタ赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ラットコロナウィルス、七面鳥コロナウィルス、トリ伝染性気管支炎ウイルス、またはSARSコロナウィルスである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プライマー対であって、対の各構成物が、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか一つの対応する構成物の配列と少なくとも70%の配列同一性を有する、前記プライマー対。
【請求項18】
少なくとも1つの核酸塩基類似体をさらに含む請求項17に記載のプライマー対であって、前記核酸塩基類似体が、天然の核酸塩基と比較して、その相補的核酸塩基に対して増大された親和性で結合する、前記プライマー対。
【請求項19】
前記核酸塩基類似体が、5-プロピニルウラシル、5-プロピニルシトシン、2,6-ジアミノプリン、フェノキサジン、またはG-クランプを含む、請求項18に記載のプライマー対。
【請求項20】
プライマー対を用いてコロナウィルスゲノム由来の核酸を増幅するプロセスにより生成した、長さ約45個〜約150個の核酸塩基の単離ポリヌクレオチドを含むコロナウィルスを同定するための病原体同定用アンプリコンであって、前記各プライマー対が、約12個〜約35個の核酸塩基の長さのものであり、そして病原体同定用アンプリコンがコロナウィルスについての同定用情報を提供する、前記病原体同定用アンプリコン。
【請求項21】
前記プライマー対の各構成物が、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか1対の対応する構成物の配列と、少なくとも70%の配列同一性を有する、請求項20に記載の病原体同定用アンプリコン。
【請求項22】
前記コロナウィルスゲノムの配列が、SEQ ID NO: 12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、または101のいずれか1つにより示される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
サンプル中の未知のコロナウィルスの正体と量を同時に決定するための方法であって、以下の工程:
前記サンプルを、プライマー対および較正配列を含む既知量の較正ポリヌクレオチドと接触させる工程;
前記未知のコロナウィルス由来の核酸を、前記プライマー対を用いて増幅する工程と、前記サンプル中の前記較正ポリヌクレオチド由来の核酸を、前記プライマー対を用いて増幅する工程とを同時に行い、病原体同定用アンプリコンを含む第一の増幅産物および較正アンプリコンを含む第二の増幅産物を得る工程;
前記サンプルを、分子量分析に供する工程であって、ここで前記質量分析の結果が、前記病原体同定用アンプリコンおよび前記較正アンプリコンについての分子量データおよび存在度(abundance)データを含む;そして
分子量に基づいて、前記較正アンプリコン由来の前記病原体同定用アンプリコンを識別する工程、ここで前記病原体同定用アンプリコンの分子量は、前記コロナウィルスを同定し、そして病原体同定用アンプリコン存在度データと較正アンプリコン存在度データとの比較により前記サンプル中のコロナウィルスの量が示される、
を含む前記方法。
【請求項24】
前記較正配列は、前記標準配列の約2〜8個の連続したヌクレオチド残基が欠失している点を除き、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列の配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記較正配列は、前記標準配列の約2〜8個の連続したヌクレオチド残基が挿入されている点を除き、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列の配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記較正配列が、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列と、少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記較正配列が、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列と、少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記較正配列が、病原体同定用アンプリコンの選択された標準配列と、少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記標準配列が、RNA-依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)またはnsp11をコードする遺伝子配列の部分である、請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記較正ポリヌクレオチドが、プラスミド上に存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記分子量分析が、FTICRまたはMALDI-TOF質量分析法を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
サンプル中の病原体の量を決定するための、SEQ ID NO: 102を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項33】
サンプル中の病原体の量を決定するための、SEQ ID NO: 103を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項34】
SEQ ID NO: 102またはSEQ ID NO: 103の較正ポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【請求項35】
SEQ ID NO: 104の較正ポリヌクレオチドを含む、プラスミドベクター。
【請求項36】
1またはそれ以上のプライマー対を含むキットであって、各対の各構成物が、以下のインテリジェントプライマー対配列:SEQ ID NO: 5:6、7:8、9:8、9:10、11:8、11:10、または9:10のいずれか1つの対応する構成物の配列と、少なくとも70%の配列同一性を有する、前記キット。
【請求項37】
逆転写酵素およびヌクレオチド三リン酸をさらに含む、請求項36に記載のキット。
【請求項38】
DNAポリメラーゼおよびヌクレオチド三リン酸をさらに含む、請求項36に記載のキット。
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−523629(P2007−523629A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532460(P2006−532460)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/012671
【国際公開番号】WO2004/111187
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PENTIUM
【出願人】(595104323)アイシス ファーマシューティカルズ, インコーポレーテッド (53)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/012671
【国際公開番号】WO2004/111187
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PENTIUM
【出願人】(595104323)アイシス ファーマシューティカルズ, インコーポレーテッド (53)
【Fターム(参考)】
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