説明

コンクリ―トセンサ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、生コンクリートやモルタルなど、セメント成分を含んだ泥土を検出するためのセンサに関するもので、特に水と上記泥土を識別することが可能なコンクリートセンサに係るものである。
【0002】
【従来の技術】コンクリート構造物を構築するときには、たとえば木製の型枠間や、型枠と掘削壁面、またはこれに覆工した覆工壁との間に生コンクリートを打ち込むのが一般的であるが、品質の良いコンクリートを施工するためには生コンクリートの充填状況を確認しながら締め固める必要がある。
【0003】しかし、充填状況は型枠のせき板や支保工に遮られて実際に目で確認することが困難なので、従来は熟練者が木槌などで型枠を打ち、その打撃音によって判断するというように、勘と経験に負うところが大きかった。
【0004】また実際にコンクリートを締め固める場合には、打診によってコンクリートが充填されていると判断された場所を木槌で本打ちし、あるいは振動機によって型枠を振動させてコンクリートを充填させるというような工法が利用されているが、打診が不正確であれば空打ちになって型枠に損傷を与えることになったり、ひいてはコンクリートの充填が不十分になるという原因にもなる。
【0005】このように、生コンクリートの打設確認を目視することが困難な場合には打診によって勘と経験に基づいて行われているだけなので、あいまいなものであり、引き続く作業である締め固め時に無駄な労力を余儀なくされるにかかわらず、コンクリートの充填が不十分になるという問題がある。また、過酷な作業にもかかわらず若年作業者には不向きであるという作業環境上での問題がある。
【0006】そこで、近年ではコンクリートの打設状況を電気的に判断するためのセンサとして、実開昭63−101823号や特公昭64−1621号のような技術が提案されている。これらの技術では、一対の電極を用い、型枠に取り付けた電極間に生コンクリートが充填されればその水分を導体として両電極間に電流が流れるので、これを検出要素としたものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述した従来技術では、センサが検出要素としているのは水であり、実際には生コンクリートではない。即ち、生コンクリートには水が含まれているから、その水を検出すれば生コンクリートを検出したことと等価であるという仮定の上に成立した検出であるから、厳密にいえば絶対的な信頼性はない。
【0008】ところで、生コンクリートを打設する際にはその準備として、木製の型枠に十分な散水が行われる。これは、型枠表面を清浄すること、および生コンクリートに含まれる水分を型枠が吸水すればコンクリートの含水率が低下し、コンクリートの硬化不良を引き起こすので、これを防止するために事前に型枠に十分に水を含ませておくことを目的としている。また、降雨や掘削壁面からの漏水によって余分な水が型枠に付着することも考えられる。従って、打設前に一切水を使用しないならばともかく、現状では従来のセンサのように水を検出してそれを生コンクリートの検出であると判断することは何の意味も持たないという致命的な問題もある。
【0009】本発明ではこれら従来の欠点に鑑み、水と生コンクリートを異なる検出要素として確実に両者を識別し、生コンクリートの存在を的確に検出することができるコンクリートセンサを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明では上述した課題を解決するために、先ず第1には2つの電極のうちの一方の電極に補助電極を並設し、この一方の電極と補助電極の接合点からリード線を導出すると共に、他方の電極から別のリード線を導出し、これらの電極は水への浸漬と生コンクリートへの浸漬で上記2本のリード線に生じる極性が逆転する金属の組合にするという手段を用いた。
【0011】次に第2には請求項2に示すように、2つの電極のうちの一方の電極にこれとほぼ等しい面積の補助電極を接合し、この補助電極からリード線を導出すると共に、他方の電極から別のリード線を導出し、これらの電極は水への浸漬と生コンクリートへの浸漬で上記2本のリード線に生じる極性が逆転する金属の組合せにするという手段を用いた。
【0012】さらに第3には請求項3に示すように、電極とアルミニウム電極のそれぞれからリード線を導出したコンクリートセンサであって、これらの電極は水への浸漬と生コンクリートへの浸漬で上記2本のリード線に生じる電圧値が異なり、これらの異なる電圧値の間にしきい値を設けるという手段を用いることとした。
【0013】
【実施例】以下、本発明の一実施例を添付した図面に従って詳述すると、図1の構成は請求項1に記載した発明に基づくコンクリートセンサ1の一実施例で、2aは一方側の電極、2bは反対側の電極、2cは電極2bと電気的に接合された補助電極である、3は絶縁体からなるハウジング、4はこのコンクリートセンサ1を固定し、かつ後述する検出装置に電気的に接続するためのソケットで、底面にはそれぞれの電極から延長された2本のリード線をソケット孔に臨ませている。そして、このコンクリートセンサ1を複数個用いてそれぞれ型枠の必要箇所に固定し、生コンクリートを打設することによって発生する電圧を検出し、診断を行うのである。
【0014】図2はコンクリートセンサ1の電極2a・2bおよび補助電極2cの関係を模式的に示したもので、電極2aからリード線5aを導出すると共に、電極2bと補助電極2cの接合点6からも別のリード線5bを導出し、それぞれをソケット孔の金具に接続している。ここで、電極2a・2bおよび補助電極2cに用いる金属はそれぞれ異なる3種類の金属を用いる。これらの金属の組合せには複数あるが、以下に電極2aとして亜鉛、電極2bとしてアルミニウム、補助電極2cとしてスズを用いた例について説明する。
【0015】先ずこのコンクリートセンサ1について電極2bと補助電極2cの関係を電気的に断絶した状態で、PH7の中性である水に浸漬した場合にそれぞれの電極に生じる起電力について測定したところ、スズの補助電極2cをプラス、亜鉛電極2aをマイナスとして0.5Vの電圧が発生した。このときの電極2a・2bの面積は、各々約3平方cm、補助電極の面積はその1/10程度である。また、亜鉛電極2aとアルミニウム電極2bの間には起電力が生じなかった。続いてアルミニウム電極2bと補助電極2cを接合点6によって電気的に一体化し、ここからリード線5bを導出して本来のコンクリートセンサ1の構造とし、リード線5a・5b間の電圧を測定したところ、同様にリード線5aをマイナス、リード線5bをプラスとして0.5Vの電圧が発生した。
【0016】次に、同じコンクリートセンサ1をアルカリの性質である生コンクリート(PH13程度)に浸漬し、起電力を測定した。このときには亜鉛電極2aとスズの補助電極2cの間には水の場合とは極性が一致して亜鉛電極2aをマイナス、補助電極2cをプラスとして0.3V程度の起電力が発生した。さらに、亜鉛電極2aとアルミニウム電極2b間では、亜鉛電極2aをプラス、アルミニウム電極2bをマイナスとして0.8Vの起電力が発生した。そして、水の場合と同様にアルミニウム電極2bと補助電極2cを接合して電気的に一体化し、ここから導出したリード線5bと亜鉛電極2aから導出したリード線5aの間の電圧を測定したところ、水の場合とは極性が逆転してリード線5aをプラス、リード線5bをマイナスとして0.5Vの電圧が発生した。この数値は、アルミニウム電極2bと補助電極2cを電気的に短絡させているので、接合点6においてはそれぞれの電圧が打ち消し合い、アルミニウム電極2bの電圧(マイナス0.8V)と補助電極の電圧(プラス0.3V)の合計値になったものである。
【0017】ちなみに、このコンクリートセンサ1をPH値3程度の希塩酸に浸漬したところ、リード線5a・5b間の極性は水の場合と同じであり、その起電力は0.2V程度であった。
【0018】上述のように、本実施例のコンクリートセンサ1を用いると、水に浸漬したときとアルカリの生コンクリートに浸漬したときでは2本のリード線5a・5bに発生する電圧の絶対値は同じものの、極性が逆転することになる。これは、浸漬する溶液のPH値と、3種類の金属のイオン化傾向に依存したものと考えられる。従って、このコンクリートセンサ1で発生した電圧を後段の電気回路である検出装置に入力すれば、水の場合と生コンクリートの場合では出力電圧の極性が逆転するので、水の場合には検出回路が働かず、生コンクリートの場合には検出回路が働くように、またその逆にすることも自由であり、確実な判断を行うことができる。また、近年問題となっている酸性雨でも中性の水と同一の極性になるから、検出結果が逆転することはない。
【0019】なお、本実施例では亜鉛電極2a、およびスズの補助電極2cとして説明しているが、表面の金属素材が亜鉛またはスズであれば十分であり、たとえば亜鉛電極2aには亜鉛鉄板(トタン)を、補助電極にはスズ鋼板(ブリキ)を利用することもある。いずれにしても本発明では水に浸漬した場合と生コンクリートに浸漬した場合とではリード線に生ずる電流の極性が逆転するような金属の組合せは全て含むものとする。
【0020】さらに、このコンクリートセンサ1では生コンクリートに浸漬した後に、その生コンクリートとの接触を絶たれた場合でも起電力が変化する。即ち、生コンクリートに浸漬しているときにはリード線5aをプラス、リード線5bをマイナスとして0.5Vの電圧が発生しているが、これを生コンクリートから引き上げた場合には一定時間が経過すれば再び両リード線の間の極性が逆転し、水の場合と同様になるのである。この原因は、生コンクリートから引き上げた場合には一定量のアルカリ溶液がコンクリートセンサ1の周囲、即ち電極に付着しているので、生コンクリートに浸漬していると同じ化学反応が持続するが、付着しているアルカリ溶液は限られた量であるから時間の経過によって化学反応が飽和してしまい、それ以降は中性の水に浸漬したと同様の状態に復帰するからである。そして、極性が変化するまでに要する時間は、アルミニウム電極2bと補助電極2cの面積比に依存している。即ち、電圧自体の大きさは変わらないものの、補助電極2cの面積が大きい程アルミニウム電極2bと亜鉛電極2aの起電力を引き下げる作用が強くなるので、化学反応の飽和に至る時間が短くなるのである。従って、補助電極2cの面積を調節することによって自由に変化時間を設定することができる。なお、これらの作用を積極的に利用すれば、たとえばコンクリートセンサに対応する部分に一旦生コンクリートが打設された後に、何らかの原因でこの部分の生コンクリートが移動した場合でも確実に検出することができる。
【0021】さらに、図3は請求項2に記載した発明に基づいた第2の実施例を模式的に示したものである。この実施例では亜鉛電極2aについては第1の実施例と同じであるが、アルミニウム電極2bとスズの補助電極2cの面積比をほぼ対等にし、リード線5bを補助電極2cから導出するようにした。この場合にはアルミニウム電極2bと補助電極2cは境界線7を介して電気的に短絡されているが、起電力の関係は第1実施例と同一になる。アルミニウム電極2bの面積と補助電極2cの面積をほぼ対等にし、第1実施例よりも補助電極2cの面積比率を高めたのは、両者が短絡していることから水に浸漬した場合のスズの補助電極2cに対するアルミニウム電極2bの影響を相殺する必要があるためである。また、この場合でも生コンクリートとの接触を絶たれたときの極性の復帰時間の調整は、アルミニウム電極2bと補助電極2cの面積比を調節することによって行うことができる。
【0022】なお、電極に使用する金属としては、たとえば補助電極2cにスズに替えて鉛でも上述の結果とほぼ変わらない。これは、スズと鉛とはイオン化列でとなり合っており、かつ近接しているからである。
【0023】次に請求項3に示した第3の構成として、2つの電極、即ち一対の電極を用いて補助電極を省略したものがある。本実施例としては2つの電極に銅電極とアルミニウム電極を用いたが、この場合には電極の実効面積をそれぞれ2平方cmとして銅電極をプラス、アルミニウム電極をマイナスとして水に浸漬すれば0.45V、生コンクリートに浸漬すれば1.10Vの起電力を得た。この実施例ではリード線に生じる極性の逆転は見られないものの、たとえば0.6V程度を「しきい値」としてこれを越えれば作動する検出回路に電気的に接続すれば、コンクリートセンサが浸漬している媒体が水であるか、生コンクリートであるか、識別を行うことができる。なお、電極に用いる金属はこの実施例の銅電極とアルミニウム電極に限られず、両者を水に浸漬した場合と生コンクリートに浸漬した場合では識別できる程度に起電力の相違がある金属の組合せであれば、同様の機能は達成できる
【0024】また、コンクリートセンサの形状としては、図4に示す変形例もある。ここでは説明を容易にするため、図1と同じ機能を行なう部分は同一番号を付すことにする。要は、絶縁体のハウジング3の外周に電極2a・2bおよび補助電極2cを形成したものである。このような構成にすれば、図5に示したようにハウジング3を延長して円筒状にし、適宜間隔をおいて電極を設け、それぞれからリード線を引き出してハウジング3の内部に導出すれば、複数のコンクリートセンサが設置された棒状のセンサとすることが可能である。なお、図5において8は型枠、9はセンサを型枠に取り付けるための取り付け具、10は型枠8への取り付け用のねじである。
【0025】続いて、本実施例のコンクリートセンサを用いて生コンクリートの存在を検出するには、図6に示すような構成が用いられる。図において、点線で囲んだ11は図5の棒状のセンサであり、型枠8の適宜箇所に固定されている。そして、検知出力ケーブル12によってそれぞれの信号が検出装置13に入力され、この検出装置13で各コンクリートセンサの検出状況が判定されるのである。検出装置13には各コンクリートセンサの動作状態を表示する表示灯14と、この動作状態を外部に出力するための通信ケーブル15と、各コンクリートセンサのチェックを行なうためのテストボタン16と、電源スイッチ17、電源表示灯18などが装備されている。
【0026】なお、検出装置1の一実施例を図7に示すと、100Vまたは200Vの商用交流電源に接続される電源コネクタ19と、100Vと200Vとを選択するための電圧切り替えスイッチ20と、電源コネクタ19に入力された交流を低電圧の直流に整流する整流回路21と、負荷の変動に対して出力電圧が大きく変化せずに検出装置内の全回路に直流電圧を供給する定電圧回路22と、コンクリートセンサ1の数に見合った数の検知回路23と、テストボタン16に接続された試験回路24と、検知回路23の電圧を増幅するための増幅出力部25と、この増幅出力部25によって制御され、点灯する上記表示灯14、ブザー回路26、およびブザー27、さらにこのブザーを停止するスイッチ28を備えている。また、増幅出力部25の信号を外部に出力するために、通信出力部29および通信出力用コネクタ30が設けられている。
【0027】このように構成された検出装置13では、各検知回路23は増幅出力部25に接続され、検知電圧はこの出力部25で増幅された後に表示灯14を点灯させる。また、検出装置13に接続された全コンクリートセンサが生コンクリートの存在を検知すると、ブザー回路26が動作してブザー27を駆動し、作業者の注意を喚起する。なお、遠方の作業者の注意を喚起する必要がある時には、ケーブルによって別のブザーを駆動するために、遠隔用ブザー端子31が設けられている。また、表示灯14には発光ダイオードを使用して色分けをしておけば、より目視確認が容易である。
【0028】
【発明の効果】本発明では電極のイオン化傾向およびPH値に影響されて水に浸漬した場合と生コンクリートに浸漬した場合ではリード線に発生する電圧の極性が逆転することになる。従って、このコンクリートセンサの検出信号を後段の検出装置に入力すれば、極性の正負に伴って水の場合では回路を動作させず、生コンクリートの場合では検出装置を作動させることが可能となり、極めて確実な生コンクリートの打設状況の判定を行うことができた。また、このセンサは一旦生コンクリートに浸漬した後に接触が絶たれた場合には極性が再逆転するので、打設からある程度時間が経過して生コンクリートが移動した場合でもその検出が可能となるなど、安全性および信頼性の高いコンクリートセンサとなる。
【0029】さらに、第2の発明では一方の電極と補助電極とを接合し、かつ表面積をほぼ対等とする構成であるから、一方の電極を倍の面積で構成し、その半分に補助電極に採用する金属のメッキを施すという簡単な作業で電極を製造することができるので、性能は第1の発明と変わらずにコストの削減をすることができ、量産に有効である。
【0030】さらにまた、第3の発明では補助電極を必要とせずに銅とアルミニウムという2つの電極を用いただけであるので、第2の発明と同様に製造が容易である。また、水の場合と生コンクリートの場合では起電力にも大きい開きがあるので、両者の関係を識別するための「しきい値」も比較的容易に設定することができるというように、安価で確実な検出を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のコンクリートセンサの一実施例を示す斜視図、
【図2】第1の発明の電極を示す模式図、
【図3】第2の発明の電極を示す模式図、
【図4】本発明のコンクリートセンサの変形例を示す斜視図、
【図5】第4図の変形例を複数個連結したところを示す断面図、
【図6】第5図のコンクリートセンサを型枠に取り付けたところを示す概略図、
【図7】コンクリートセンサを接続する検出装置の概略ブロック図である。
【符号の説明】
1 コンクリートセンサ
2a・2b 電極
2c 補助電極
5a・5b リード線
6 接合点

【特許請求の範囲】
【請求項1】2つの電極のうちの一方の電極に補助電極を並設し、この一方の電極と補助電極の接合点からリード線を導出すると共に、他方の電極から別のリード線を導出し、これらの電極は水への浸漬と生コンクリートへの浸漬で上記2本のリード線に生じる極性が逆転する金属の組合せとしたことを特徴とするコンクリートセンサ。
【請求項2】2つの電極のうちの一方の電極にこれとほぼ等しい面積の補助電極を接合し、この補助電極からリード線を導出すると共に、他方の電極から別のリード線を導出し、これらの電極は水への浸漬と生コンクリートへの浸漬で上記2本のリード線に生じる極性が逆転する金属の組合せとしたことを特徴とするコンクリートセンサ。
【請求項3】銅電極とアルミニウム電極のそれぞれからリード線を導出したコンクリートセンサであって、これらの電極は水への浸漬と生コンクリートへの浸漬で上記2本のリード線に生じる電圧値が異なり、これらの異なる電圧値の間にしきい値を設けたことを特徴とするコンクリートセンサ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【特許番号】第2514176号
【登録日】平成8年(1996)4月30日
【発行日】平成8年(1996)7月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−22913
【出願日】平成3年(1991)1月22日
【公開番号】特開平4−212088
【公開日】平成4年(1992)8月3日
【出願人】(000156204)株式会社淺沼組 (26)
【参考文献】
【文献】特開昭63−44159(JP,A)