説明

コンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法

【課題】コンクリートから発生するアンモニアガスを抑制する有効な方法を提供する。
【解決手段】コンクリートからなる基材の表面に下塗層、及びアクリル系樹脂層を順次配設するコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法であって、前記アクリル系樹脂層は、アクリル系樹脂と、架橋剤と、水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物を用いて形成され、前記水膨潤性合成無機層状珪酸塩の含有量は、前記アクリル系樹脂の質量を100質量部としたときに、1〜50質量部であることを特徴とするコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートから発生するアンモニアガスの抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、打設後微量であるが長期間にわたりアンモニアガスが発生する。このアンモニアガスは美術館、博物館などにおいて貯蔵品を変色させるなどの悪影響を与えることが知られており、美術館や博物館の建設工事ではコンクリート打設後アンモニアガスの影響が少なくなるまで1年から2年程度の長期にわたり放置しているのが一般的であり、この期間を短縮できる対策が求められている。
この対策として、特許文献1には、アンモニアガス吸着剤を含有するシートをコンクリート表面に貼り付けて、コンクリートから発生するアンモニアガスの室内への放散を抑制する検討がされている。また、特許文献2には、アンモニアガス吸着剤と光触媒のマイクロカプセルを組み合わせて、コンクリートからのアウトガスを抑制する方法が記載されている。
一方、特許文献3には、コンクリート打設時にアンモニアガスの発生源である骨材を処理し、コンクリート自体から発生するアンモニアガスの量を削減した低アウトガス性セメントモルタル・コンクリートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−187341号公報
【特許文献2】特開平11−157960号公報
【特許文献2】特開平10−287462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されるような吸着剤含有シートは、吸着剤が飽和になってしまうとその後はアンモニアガスが室内に放散されてしまう問題点がある。また、特許文献2に開示されるようなアンモニアガス抑制方法は、照度の低い美術館や博物館では光触媒効果が十分に発揮されないために、その効果が限定される。更に、特許文献3に開示されるような低アウトガス性セメントモルタル・コンクリートは、セメントの種類が限られ、汎用性に劣るという問題があり、アンモニアガス抑制効果の面でも不十分である。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、コンクリートから発生するアンモニアガスを抑制する有効な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、コンクリートからなる基材の表面に下塗層、及び特定のアクリル系樹脂層を順次配設することにより、アンモニアガスの放散を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.コンクリートからなる基材の表面に下塗層、及びアクリル系樹脂層を順次配設するコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法であって、
前記アクリル系樹脂層は、アクリル系樹脂と、架橋剤と、水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物を用いて形成され、
前記水膨潤性合成無機層状珪酸塩の含有量は、前記アクリル系樹脂を100質量部としたときに、1〜50質量部であることを特徴とするコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法。
2.上記アクリル系樹脂のガラス転移温度は、20℃以下であることを特徴とする上記1に記載のコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法。
3.上記水膨潤性合成無機層状珪酸塩は、合成フッ素ヘクトライト、及び合成フッ素マイカから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記2又は3に記載のコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコンクリートから発生するアンモニアガスの抑制方法は、以上のように、コンクリートからなる基材の表面に下塗層、及び特定のアクリル系樹脂層を順次配設する。そのため、コンクリート打設後の比較的早い時期からアンモニアガスの放散量を少なくすることが可能で、今までに行っていた長期にわたる放置期間を設けることなく、コンクリート構造物の使用が可能となる。
なお、本発明において、コンクリートからのアンモニアガス抑制性能を、アンモニアガス遮蔽性という。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法は、コンクリートからなる基材の表面に下塗層、及びアクリル系樹脂層を順次配設するコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法であって、前記アクリル系樹脂層は、アクリル系樹脂と、架橋剤と、水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物を用いて形成され、前記水膨潤性合成無機層状珪酸塩の含有量は、前記アクリル系樹脂を100質量部としたときに、1〜50質量部であることを特徴とする。
【0008】
上記下塗層、及びアクリル系樹脂層は、この順に基材の表面(上面)に配設されればよい。すなわち、基材の表面に下塗層が配設され、そして、下塗層の表面にアクリル系樹脂層が配設されるように、順次連続するように配設されてもよく、下塗層とアクリル系樹脂層の間に、更に他層(中間層)を介して配設さていてもよい。すなわち、下塗層の配設(工程)とアクリル系樹脂層の配設(工程)との間、中間層を形成する工程を備えてもよい。
【0009】
(1)基材
上記基材はコンクリートである。コンクリートとは、セメントと水との水和反応により得られる硬化物であれば特に限定されない。このコンクリートとしては、例えば、セメントに水、砂利、砂等を混合し、セメントの水和反応により硬化して得られたコンクリート、プレキャストコンクリート、軽量気泡コンクリート及びオートクレーブ養生の軽量気泡コンクリート、砂利を含まないモルタル、セメントと無機質繊維等とを原料とするスレート並びにセメント系の押出し成形体等が挙げられる。また、上記コンクリートには、内部に鉄筋等を備えたコンクリートや表面に塗材が塗工されたコンクリートも含まれる。
本発明の方法は、コンクリートからのアンモニアガス放散の抑制に優れることから、内部に鉄筋等を備えた鉄筋コンクリート造及びプレキャストコンクリート造等の構造物の内壁に対して効果的に使用することができる。
【0010】
(2)下塗層の形成
上記下塗層は、基材の表面に形成される。この下塗層は、施工用表面であるコンクリートからなる基材等の表面を平滑にし、更に、アクリル系樹脂と、架橋剤と、水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物層を塗布する上で、当該アクリル系樹脂組成物の塗工性及び基材とアクリル系樹脂組成物との密着性を発現させる役目を果たすものである。
下塗層は、基材の表面に下塗層用組成物を塗布し、下塗層用組成物からなる塗膜を形成させ、その後、その塗膜を乾燥させて、媒体を除去して硬化膜を形成させる(あるいは、下塗層用組成物からなる塗膜を硬化させ、硬化膜を形成させる)ことにより、基材の表面に形成することができる。また、上記乾燥は、加熱乾燥であってもよいし、自然乾燥でもよい。
【0011】
上記下塗層の形成において用いられる下塗層用組成物は、基材の表面を構成する材料との親和性に優れるものであれば、特に限定されない。この下塗層用組成物としては、公知の組成物を用いることができ、例えば、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、アクリルウレタン樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物、不飽和ポリエステル樹脂組成物、ビニルエステル樹脂組成物等が挙げられる。これらのうち、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、アクリルウレタン樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物等が好ましい。また、上記組成物としては、硬化型(常温硬化型、湿気硬化型、熱硬化型、光硬化型等)とすることができ、得られる下塗層が該組成物による硬化皮膜であることが好ましい。
また、この下塗層用組成物は、水系組成物、有機溶剤系組成物及び無溶剤系組成物のいずれでもよい。
【0012】
上記エポキシ樹脂組成物としては、例えば、エポキシ化合物と、硬化剤(ポリアミン化合物等)とを含有する組成物を用いることができる。
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ポリアミン化合物としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、ポリアミドポリアミン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記エポキシ樹脂組成物は、通常、エポキシ化合物を含有する主剤液、及び、硬化剤を含有する硬化剤液の2液型組成物として、各液の粘度を所望の範囲(例えば、5〜3000mPa・s)に調整して使用される。粘度が上記の範囲であれば、基層(下地)への塗工性(濡れ性)に優れる。
【0013】
上記アクリルウレタン樹脂組成物としては、例えば、ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和化合物を含む単量体、及び/又は、該単量体を用いてなる重合体と有機ポリイソシアネートとを含有する組成物を用いることができる。
上記ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和化合物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の多価アルコールのモノ又はポリ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は、2以上。)のモノ(メタ)アクリル酸エステル;シクロヘキセンオキシドと(メタ)アクリル酸との付加物等のエポキシドと、(メタ)アクリル酸との付加物;ヒドロキシスチレン、ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ビニルベンジルアルコール、イソプロペニルフェノール、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N、N−ビス(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和化合物を含む単量体を用いてなる重合体としては、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル重合体が挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0014】
上記有機ポリイソシアネートとしては、2個以上のイソシアネート基を有するものであれば、脂肪族化合物、脂環族化合物及び芳香族化合物のいずれでもよい。
上記有機ポリイソシアネートの含有量は、このイソシアネートのイソシアネート基のモル数と、上記エチレン性不飽和化合物のヒドロキシル基のモル数、上記単量体を用いてなる重合体のヒドロキシル基のモル数、必要に応じて用いられるポリオール等のヒドロキシル基のモル数の和との比NCO/OHが、通常、0.5〜2となるように選択される。
上記アクリルウレタン樹脂組成物は、必要に応じて、多価アルコール等のポリオール、シランカップリング剤、希釈剤等、上記添加剤を含有したものとすることができる。
上記多価アルコールは、飽和化合物及び不飽和化合物のいずれでもよく、更に、脂肪族化合物、脂環族化合物及び芳香族化合物のいずれでもよい。
【0015】
上記アクリルウレタン樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂組成物と同様、通常、有機ポリイソシアネート以外の原料成分を含有する主剤液及び有機ポリイソシアネートを含有する硬化剤液の2液型組成物として、下塗層形成用組成物の使用前に、十分に混合して使用される。
【0016】
上記下塗層用組成物として、エポキシ樹脂組成物及びアクリルウレタン樹脂組成物を用いる場合のいずれにおいても、各組成物の固形分濃度は、特に限定されないが、通常、10〜60質量%である。
【0017】
上記下塗層用組成物は、公知の添加剤、例えば、分散剤、成膜助剤、硬化促進剤、凍結安定剤、防腐剤、防かび剤、シランカップリング剤、消泡剤、着色顔料、希釈剤、無機質充てん材、無機や有機質の繊維等を含有することができる。
特に、上記エポキシ樹脂組成物を下塗層用組成物に使用する場合には、必要に応じて、シランカップリング剤、希釈剤等、上記添加剤を含有したものが好ましい。
上記シランカップリング剤としては、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシラン化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
上記下塗層形成においては、上記下塗層用組成物を基材表面に塗工し、その後、乾燥することにより、下塗層が形成される。上記下塗層用組成物の塗布方法(塗工)としては、特に限定されない。例えば、刷毛、ローラー刷毛、レーキ、コテ及び吹付けによる塗布(塗装)等が挙げられる。塗工は複数回行ってもよい。
その後、下塗層用組成物からなる塗膜の乾燥が行われ、下塗層(硬化膜)が得られる。
【0019】
下塗層用組成物の塗膜を形成させる場合の塗膜の厚さは、乾燥時における下塗層の厚さ(得られる下塗層の膜厚)が、好ましくは0.1〜500μmであり、より好ましくは5〜300μmであり、更に好ましくは20〜200μmとなるように塗布される。下塗層の膜厚が、上記範囲にあると、コンクリートとの密着性に優れる。
また、下塗層用組成物による塗膜の形成は、1層塗りでもよく、2層塗り、3層塗り等の多層塗りでもよく、斑点状のスパッタ塗装であってもよい。
【0020】
ただし、基材が多孔質である場合、下塗層用組成物が基材の内部に浸透するために基材表面に設計された厚さの被膜を形成しない場合もある。
上記下塗層用組成物の塗布に要する時間は、通常、1〜5分間/m2程度であり、乾燥のために放置する時間は、通常、0.5〜48時間程度である。
上記下塗層用組成物の塗膜の乾燥を、指触等により確認した後、アクリル系樹脂組成物を用いたアクリル系樹脂層の形成へと進められる。
【0021】
(3)アクリル系樹脂層の形成
アクリル系樹脂層は、アクリル系樹脂と、架橋剤と水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物を用いて、コンクリートからなる基材に、上述の下塗層を形成させた上面に形成される。
【0022】
アクリル系樹脂層の形成は、アクリル系樹脂と、架橋剤と、水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物を基材に塗布して塗膜を形成させ、その後、その塗膜を乾燥させて、媒体を除去して硬化膜を形成させる(あるいはアクリル系樹脂と、架橋剤と水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物からなる塗膜を硬化させ、硬化膜を形成させる)ことにより、コンクリートからなる基材上の下塗層の上面に形成される。また、上記乾燥は、加熱乾燥であってもよいし、自然乾燥でもよい。
【0023】
上記アクリル系樹脂と、架橋剤と水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物としては、分散媒体中にアクリル系樹脂粒子、架橋剤及び水膨潤性合成無機層状珪酸塩が分散されたエマルションである分散体(以下、「分散体(X)」という)を用いることができる。この分散体(X)の分散媒体は水系媒体が好ましい。
また、上記アクリル系樹脂粒子とは、固体、半固体(ゲル状)及び液体のうちの少なくとも1種の状態で、粒状となった重合体である(以下、同様)。
【0024】
上記アクリル系樹脂としては、アクリル系樹脂粒子が水系媒体に分散されたエマルションである分散体(以下、「分散体(Y)」という)を好適に用いることができる。この分散体(Y)は、上記アクリル系樹脂粒子が水系媒体中に分散している乳濁液である。
分散体(Y)において、水系媒体に分散されているアクリル系樹脂粒子の平均粒径は、動的光散乱法 周波解析式の装置(ナノトラックUPA−250、日機装製)で測定することができ、0.5μm以下が好ましく、より好ましくは0.01〜0.3μmであり、更に好ましくは0.02〜0.2μmである。アクリル系樹脂粒子の平均粒径が、0.5μmより大きいと、得られるアクリル系樹脂層のアンモニアガス遮蔽性が低下する場合がある。
【0025】
上記アクリル系樹脂としては、疎水性樹脂が好ましい。この疎水性樹脂とは、水を分散媒として、疎水性樹脂が分散質とされるエマルションを形成することができる樹脂である。
疎水性樹脂は、疎水性単量体由来の構成単位を有する。また、疎水性樹脂は、疎水性以外の親水性単量体由来の構成単位を含有することができる。疎水性単量体由来の構成単位及び親水性単量体由来の構成単位の含有量は、疎水性樹脂の全構成単位を100質量%とした場合に、好ましくは50〜99.9質量%及び0.1〜50質量%であり、より好ましくは60〜99.8質量%及び0.2〜40質量%であり、更に好ましくは70〜99.5質量%及び0.5〜30質量%である。疎水性単量体由来の構成単位の含有量(割合)が、50質量%未満であると、形成されたアクリル系樹脂層の耐水性が劣る場合がある。一方、疎水性単量体由来の構成単位の含有量が、多すぎるとアクリル系樹脂と、水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有する組成物の分散安定性が不十分となる場合がある。
なお、疎水性単量体とは、20℃における水への溶解度が2質量%以下の単量体を意味し、親水性単量体とは20℃における水への溶解度が2質量%を超える単量体を意味する。
【0026】
アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル共重合体、スチレン−アクリル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のビニル系重合体が挙げられる。これらのうち、コンクリートのひび割れ追従性、及び耐候性の点から、アクリル共重合体が好ましい。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記アクリル共重合体としては、芳香環を有する単量体由来の構成単位、シクロヘキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位、炭素数1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位、及び炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位からなる群から選ばれる単量体由来の構成単位を有する共重合体であることが好ましい。
また、芳香環を有する単量体由来の構成単位、シクロヘキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位、炭素数1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位、及び炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位からなる群から選ばれる単量体単位のアクリル共重合体における含有量は、全構成単位を100質量%としたときに、30〜99質量%が好ましく、60〜98質量%がより好ましい。また、上記の群に含まれないその他の単量体由来の構成単位のアクリル共重合体における含有量は、全構成単位を100質量%としたときに、1〜70質量%であることが好ましく、2〜40質量%がより好ましい。
【0028】
芳香環を有する単量体としては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2、4−ジメチルスチレン、2、4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、tert−ブトキシスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ハロゲン化スチレン、スチレンスルホン酸及びその塩、α−メチルスチレンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
シクロヘキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、2−エチル(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
炭素数1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メチルペンチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、上記の群に含まれないその他の単量体としては、上記の群に含まれる単量体と重合可能なビニル系の不飽和化合物であれば、特に限定されない。例えば、エチレン性不飽和カルボン酸、酸無水物、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、共役ジエン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
酸無水物単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
また、これらの酸(エチレン性不飽和カルボン酸及び酸無水物単量体)は、無機アルカリ剤、有機アミン類あるいはアンモニア等により中和されていてもよい。
上記無機アルカリ剤としては、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
また、上記有機アミン類としては、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等が挙げられる。
【0034】
ビニルエーテル単量体としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
ビニルエステル単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
アクリル系樹脂組成物に含まれるアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、20℃以下であることが好ましく、より好ましくは−40℃〜18℃の範囲内であり、特に好ましくは−20〜15℃の範囲である。Tgが高すぎる(20℃を超える)場合には、コンクリートのひび割れに対する追従性が劣る場合がある。コンクリートのひび割れに対する追従性は、ゼロスパンテンション伸び量で評価することができ、当該伸び量が0.3mm未満の場合は、ひび割れに追従しない。その結果、コンクリートから発生するアンモニアガスを抑制することができない。
また、Tgが低すぎる(−40℃未満である)場合には、アンモニアガスを十分に遮蔽することができない場合があり、コンクリートのアンモニアガス抑制性能が発揮されない場合がある。
ここでアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、アクリル系樹脂を構成する単量体の単一重合体の既知のTgから、下式により算出したものである。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+…・・+Wn/Tgn
ここで、アクリル系樹脂は、n種類の単量体より重合された共重合体とし、Tg1とは共重合体を構成する単量体1のTgであり、Tgnは単量体nのTgである。また、W1は共重合体を構成する単量体1の、共重合体を構成する全単量体における質量分率であり、Wnは単量体nの単量体の質量分率である。
なお、上記単一重合体のTgとしては、POLYMER HANDBOOK(JOHN WILLY&SONNS、INC)に記載の値を採用した。
【0037】
上記分散体(Y)において、アクリル系樹脂粒子は、水系分散体にアニオン型乳化剤もしくはノニオン型乳化剤で分散されていることが好ましい。特にアニオン型乳化剤が好ましい。乳化剤としては一般の低分子乳化剤の他に、高分子乳化剤、反応性乳化剤でもよく、自己乳化型樹脂でも構わない。
上記アニオン型乳化剤としては、脂肪酸塩、アルキルアルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ロジン酸塩等が挙げられる。また、ノニオン型乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル型、ソルビタン脂肪酸エステル型、グリセリン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレンアルキルアミン型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、アルキルアルカノールアミド型等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
アクリル系樹脂組成物に含まれるアクリル系樹脂の含有量は、アクリル系樹脂組成物の全体量に対して、30〜99質量%であることが好ましく、40〜95質量%であることがより好ましい。前記アクリル樹脂の含有量がこの範囲内であれば、基材への付着性が良好で、作業性に優れるアクリル系樹脂組成物とすることができる。
【0039】
本発明に使用されるアクリル系樹脂組成物は、架橋剤を含有する。架橋剤は、疎水性樹脂が反応性の官能基を有するものである場合、該官能基と反応して架橋構造をつくることができる成分である。架橋剤を含有するアクリル系樹脂組成物は、アンモニアガスの遮蔽性や吸水白化性に優れた被膜を形成することができる。
【0040】
架橋剤としては、疎水性樹脂が有する反応性官能基と反応または配位し得る官能基を1分子中に2個以上有する化合物が使用でき、具体的には、メチロール基を有するメラミン−ホルムアルデヒド縮合物、アルデヒド基を有するグリオキザール、エポキシ基を有するポリグリシジルエーテル、多価金属を有し疎水性樹脂が有する反応性の官能基と配位結合及び共有結合を形成するもの(炭酸ジルコニウムなど)、水溶液中でカチオン性を示しアニオン性官能基とイオン結合を形成するもの(ポリアミドアミンポリ尿素樹脂など)、カルボキシ基と付加反応を起こすオキサゾリン基を有するもの等があげられる。
架橋される皮膜の性能の面からはメラミンが架橋剤として好ましく、低温での架橋性、保存安定性、更に有害なホルマリンが発生しないことを考慮すればオキサゾリン基含有重合体が架橋剤として好ましい。
架橋剤の配合は、アクリル系樹脂100質量部に対して、0.01〜30質量部が好ましく、0.1〜20質量部であることがより好ましく、0.5〜10質量部であることが更に好ましい。
【0041】
本発明に使用されるアクリル系樹脂組成物は、更に、水膨潤性合成無機層状珪酸塩(以下、「層状珪酸塩」ともいう)を含有する。この層状珪酸塩は、アンモニアガス遮蔽性を付与するものである。
上記層状珪酸塩は、2層の珪酸四面体層が、マグネシウム又はアルミニウムを含む八面体層を間にはさんだ、サンドイッチ型の3層構造となって1枚の板状結晶層を形成し、この板状結晶層が積層されて層状となったものである。
上記板状結晶層の大きさは、通常、1枚の厚さが1nm程度であり、また、厚さ方向に対して垂直方向に形成される面の大きさ(長さ)が、縦方向と横方向との平均値として100nm〜100μm程度である。
また、面の平均長さに対する厚みであるアスペクト比(面の平均長さ/厚み)としては、通常、10〜100,000であり、好ましくは100以上であり、より好ましくは1,000以上である。
【0042】
上記珪酸四面体層は、負の電荷を有しているが、この負の電荷は、通常、板状結晶層の間に存在するナトリウムイオン及びリチウムイオン等の金属カチオンにより中和されている。
また、層状珪酸塩は、上記のように珪酸層が有する負の電荷に由来するカチオンを有し、このカチオンは容易に他のカチオンと交換することができる。このカチオンの交換容量が、30〜150meq/100g(層状珪酸塩100gあたりのミリ当量数)であるものが好ましい。カチオン交換容量が小さすぎても大きすぎても後述する膨潤が不十分になる場合がある。また、金属カチオンとしては、ナトリウムイオンが好ましく、カリウムイオンや多価の金属カチオンの割合が多い場合はイオン交換性や水膨潤性が著しく低いので好ましくない。
【0043】
また、水膨潤性とは、結晶層内に水分子を引き入れることにより、水を吸って膨潤する性質をいう。この水膨潤性の大きさは、日本ベントナイト工業会標準試験方法 JBAS−104−77に準じた方法で測定することができる。
層状珪酸塩の水膨潤性の値としては、好ましくは10ml/2g〜80ml/2gであり、より好ましくは15ml/2g〜70ml/2gである。層状珪酸塩の水膨潤性の値が、上記範囲内にあると、水中で板状結晶層の各層間が効率よく広がり、単層または数層にまで水を分散することができる。即ち、数μmの大きさの層状珪酸塩粒子が、結晶層内に水分子を引き入れることにより、厚さ1〜数nm程度の薄片にまで分散(膨潤)することができる。水膨潤性の値が小さすぎても大きすぎても、層状珪酸塩が疎水性樹脂に均一に分散(膨潤)されない場合がある。
【0044】
水膨潤性合成無機層状珪酸塩としては、合成スメクタイト類、合成ベントナイト類、合成雲母類等が挙げられる。これらの中でもアンモニアガス放散の抑制性能及びアクリル系樹脂との混合安定性等の点から、水膨潤性の合成フッ素ヘクトライト、合成フッ素化マイカ等を主成分とするものが好ましく、更に、合成フッ素ヘクトライトが特に好ましい。このような層状珪酸塩は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、層状珪酸塩としては、市販品を用いることができる。この市販品としては、例えば、合成フッ素ヘクトライト主成分としては、ラポート社製のラポナイトシリーズ、トピー工業社製のNHTシリーズ等が挙げられる。また、合成フッ素化マイカ主成分としては、トピー工業社製のNTSシリーズ、コープケミカル社製ソマシフシリーズ等が挙げられる。
【0045】
水中で分散した状態における層状珪酸塩の平均粒子径は、好ましくは1〜50μmであり、より好ましくは3〜50μmであり、更に好ましくは3〜20μmである。平均粒子径が、1μm未満の場合には、層状珪酸塩同士が凝集する割合が多くなる場合があり、アクリル系樹脂組成物中に均一に分散されず、得られる塗膜がアンモニアガス遮蔽性の不十分なものとなる場合がある。また、50μmを超える場合は、平滑性が失われ、塗膜の外観が悪くなる場合がある。
【0046】
上記平均粒子径の測定方法としては、回折/散乱法による方法、動的光散乱法による方法、電気抵抗変化による方法、液中顕微鏡撮影後画像処理による方法等が挙げられる。これらのうち回折/散乱法による方法が好ましい。この回折/散乱法による粒度分布・平均粒子径測定は、膨潤してへき開した層状珪酸塩をイオン交換水中に分散した液について、光を透過させたときに得られる回折/散乱パターンをミー散乱理論などを用いてパターンに最も矛盾の無い粒度分布を計算することによりなされる。
【0047】
上記回折/散乱による粒度分布・平均粒子測定ができる市販の装置としては、レーザー回折・光散乱による粒度測定装置(LS230コールター社製)、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD3000、島津製作所製)、レーザー回折・光散乱式粒度分布測定装置(LA910、LA700、LA500、堀場製作所瀬尾、及びマイクロトラックSPA、日機装製MT3000)等が挙げられる。
【0048】
層状珪酸塩の質量割合は、アクリル系樹脂100質量部に対して、1〜50質量部であり、好ましくは2〜30質量部であり、2〜20質量部がより好ましい。
層状珪酸塩の質量割合が1質量部未満では、アンモニアガスの遮蔽性が不十分であり、アンモニアガスの放散を抑制することができない。一方、前記の質量割合が50質量部を超えると、アクリル系樹脂組成物の粘度が非常に高くなり、作業性に劣る場合がある。
【0049】
アクリル系樹脂組成物としては、アクリル系樹脂を含有する分散体(Y)と層状珪酸塩とを混合して得られた分散体(X)を用いることができる。また、層状珪酸塩としては、層状珪酸塩が水系媒体に分散された分散体を用いることもできる。
【0050】
また、アクリル系樹脂組成物の固形分濃度は、好ましくは15〜85質量%であり、より好ましくは20〜75質量%であり、更に好ましくは25〜65質量%である。固形分濃度が上記範囲内にある場合、得られるアクリル系樹脂組成物の乾燥硬化性及び施工作業性に優れる。
【0051】
アクリル系樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されない。例えば、刷毛、ローラー刷毛、レーキ、コテ及び吹付けによる塗布(塗装)等が挙げられる。
また、塗膜を形成させる場合の塗膜の厚さは、乾燥時におけるアクリル系樹脂層の厚さ(得られるアクリル系樹脂層の膜厚)が、50μm以上、好ましくは55〜700μm、より好ましくは55〜500μmとなるように塗布される。膜厚が、上記範囲にあると、コンクリートのひび割れ追従性及びコンクリートのアンモニアガス抑制に優れる。また、塗膜の形成は、1層塗りでもよく、2層塗り、3層塗り等の多層塗りでもよく、斑点状のスパッタ塗装であってもよい。
その後、アクリル系樹脂組成物からなる塗膜の乾燥が行われ、アクリル系樹脂層(硬化膜)が得られる。乾燥温度は、通常−10℃〜50℃である。
【0052】
アクリル系樹脂組成物には、上記のアクリル系樹脂、架橋剤及び層状珪酸塩以外のその他添加剤を含有することができる。この添加剤としては、乳化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、成膜助剤、増粘剤、レベリング剤、分散剤、着色剤(顔料等)、消泡剤、成膜助剤、水性シラン系浸透性吸水防止剤、付着性付与剤、防かび剤、無機質充填材、フィラー(珪砂、ゴムチップ等)等が挙げられる。
【0053】
(4)上塗層の形成
上記アクリル系樹脂層の上面に、上塗層を形成することもできる。この上塗層は、アクリル系樹脂層表面に直接形成してもよく、更に他層(中間層)を介して形成してもよい。
【0054】
上塗層の形成は、アクリル系樹脂層の上面に上塗層用組成物を塗布し、上塗層用組成物からなる塗膜を形成させ、その後、乾燥させ媒体を除去して硬化膜を形成させる。また、上記乾燥は、加熱乾燥であってもよいし、自然乾燥でもよい。
【0055】
上塗層の形成において用いられる上塗層用組成物は、アクリル系樹脂層と同等あるいはそれよりも硬い皮膜を形成するものであり、土木・建築分野においてトップコート用組成物として用いられている公知の組成物を用いることができる。例えば、アクリル系樹脂を含有するアクリル系樹脂組成物が挙げられる。このアクリル系樹脂組成物としては、具体的には、アクリルシリコン樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、アクリルウレタン樹脂組成物等が挙げられる。これらのうち、アクリルシリコン樹脂組成物及びアクリルウレタン樹脂組成物が好ましい。更に、フッ素樹脂系組成物、無機質の結合材を使用する無機系組成物、光触媒を配合した塗料組成物などがある。
なお、この上塗層用組成物は、水系組成物、有機溶剤系組成物及び無溶剤系組成物のいずれでもよく、体質顔料や着色顔料を添加した着色組成物やこれらを含有しないクリア組成物も使用することができる。
【0056】
上記上塗層用組成物は、公知の添加剤、例えば、硬化促進剤、紫外線吸収剤、成膜助剤、光安定剤、可塑剤、増粘剤、着色剤(顔料等)、消泡剤、分散剤、付着性付与剤、防かび剤、フィラー(珪砂、ゴムチップ等)、無機質充填材等を含有することができる。
【0057】
上塗層用組成物の固形分濃度は、特に限定されないが、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは30〜70質量%である。
【0058】
上塗層用組成物を用いて得られた硬化膜の伸び率は、JIS A 6021−2000「建築用塗膜防水材 6.3引張性能」に準拠した方法で測定し、温度20℃の条件において、好ましくは30〜400%である。
【0059】
この上塗層及び上塗層用組成物におけるアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以下(通常、−100℃以上)であり、より好ましくは40℃以下であり、更に好ましくは35℃以下である。ガラス転移温度が上記範囲内にあると、コンクリートのひび割れに対する追従性に優れる。
また、アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、アクリル系樹脂を構成する単体体の既知のTgから、上述の式により算出することができる。
【0060】
また、上塗層用組成物としては、市販品を用いることができる。この市販品としては、東亞合成社製 商品名「アロン水性スーパーカラーSi」、東亞合成社製 商品名「アロン水性(DX)スーパーカラー」、東亞合成社製 商品名「クリアウオールCT−300[上塗用]」等が挙げられる。
【0061】
上塗層用組成物の基材上面への塗布方法は、特に限定されない。例えば、刷毛、ローラー刷毛、レーキ、コテ及び吹付けによる塗布(塗装)等が挙げられる。
また、上塗層用組成物の塗膜を形成させる場合の塗膜の厚さは、乾燥時における上塗層の厚さ(得られる上塗層の膜厚)が、50μm以上、好ましくは60〜700μm、より好ましくは70〜500μmとなるように塗布される。上塗層の膜厚が、上記範囲にあると、コンクリートのひび割れ追従性に優れる。
また、上塗層用組成物による塗膜の形成は、1層塗りでもよく、2層塗り、3層塗り等の多層塗りでもよく、斑点状のスパッタ塗装であってもよい。
その後、上塗層用組成物からなる塗膜の乾燥が行われ、上塗層(硬化膜)が得られる。乾燥温度は、通常、−10℃〜50℃である。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0063】
基材には、普通コンクリートと比較してアンモニア放散量が非常に高い高炉スラグ粉末入り既調合モルタルを用いた。高炉スラグ粉末入り既調合モルタルは、二瀬窯業社の製品(ブリックモルタル DS−08、25kg/1袋)を使用し、上水道水3.2Lを練り混ぜ水とした。練り混ぜた高炉スラグ粉末入り既調合モルタルを内径寸法149×φ65mmのPS容器内に成型し、蒸気養生(練混直後に恒温恒湿槽内に設置し、23℃、60%から60℃、98%に2時間かけて昇温度し、60℃、98%に6時間保持した後、4時間かけて23℃、60%に戻してから、23℃、60%で7日間保持した)して基材とした。なお、PS容器はシール材とするため、脱型せずにそのまま使用した。なお、ゼロスパンテンション伸び量の測定については、裏面中央部に切込みの入ったフレキシブル板を用いた。
【0064】
下塗層用組成物としては、水性のプライマー組成物である東亞合成社製、商品名「アロン水性プライマー」(エポキシ樹脂組成物、固形分濃度55%)を用いた。
【0065】
アクリル系樹脂組成物の原料としては、下記のものを使用した。
(1)下記アクリル樹脂Aが水に分散された分散体A(固形分濃度40%)
(2)下記アクリル樹脂Bが水に分散された分散体B(固形分濃度40%)
(3)下記アクリル樹脂Cが水に分散された分散体C(固形分濃度40%)
【0066】
(1−1)アクリル樹脂Aは、スチレン、アクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸からなる単量体を重合して得られた共重合体であり、各単量体由来の構成単位の質量割合(スチレン:アクリル酸2−エチルヘキシル:及びメタクリル酸)は、45:50:5である。また、このアクリル樹脂AのTgは−9℃であり、平均粒子径は0.10μmである。
(2−1)アクリル樹脂Bは、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸からなる単量体を重合して得られた共重合体であり、各単量体由来の構成単位の質量割合(メタクリル酸メチル:アクリル酸2-エチルヘキシル:及びメタクリル酸)は、61:34:5である。また、このアクリル樹脂BのTgは、20℃であり、平均粒子径は0.11μmである。
(3−1)アクリル樹脂Cは、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸からなる単量体を重合して得られた共重合体であり、各単量体由来の構成単位の質量割合(スチレン:メタクリル酸メチル:アクリル酸2−エチルヘキシル:メタクリル酸)は、45:25:25:5である。また、このアクリル樹脂CのTgは、38℃であり、平均粒子径は0.11μmである。
【0067】
架橋剤としては、オキサゾリン基含有重合体(日本触媒社製 商品名「エポクロスWS−500」)を用いた。
【0068】
層状珪酸塩としては、平均粒子径11μm、厚み5nm(アスペクト比約2、200)の合成フッ素ヘクトライトの8%水分散ゾル(トピー工業社製 商品名「NHT−8」)を用いた。
【0069】
養生後の高炉スラグ粉末入り既調合モルタルおよびフレキシブル板の表面に実施例および比較例に示す水準を塗布し、23℃、60%の恒温恒湿室にて7日間養生して試験体とした。
【0070】
実施例1
(1)下塗層の形成
下記評価方法に従って、養生後の基材の表面に、上記下塗層用組成物「アロン水性プライマー」を、刷毛を用いて塗布し、90μmの厚さ(塗布厚)で塗膜を形成し、その後、20℃で24時間乾燥させて、厚さ40μmの下塗層を形成した。
(2)アクリル系樹脂組成物層の形成
上記アクリル樹脂A分散体、架橋剤及び層状珪酸塩を混合し、アクリル系樹脂組成物とした。また、アクリル系樹脂組成物における架橋剤と層状珪酸塩の配合量は、アクリル樹脂A分散体に含有されているアクリル樹脂A100部に対して、架橋剤を2.0部及び層状珪酸塩を4.0部とした。そして、上記(1)で形成した下塗層の表面に、上記のアクリル系樹脂組成物を、刷毛を用いて塗布し、130μmの厚さ(塗布厚)で塗膜を形成し、その後、20℃で24時間乾燥させて、厚さ65μmのアクリル系樹脂層を形成した。
【0071】
実施例2
実施例1におけるアクリル系樹脂組成物の層状珪酸塩の配合量をアクリル樹脂A分散体に含有されているアクリル樹脂A100部に対して、層状珪酸塩を10.0部とした以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0072】
実施例3
実施例1におけるアクリル系樹脂組成物の層状珪酸塩の配合量をアクリル樹脂A分散体に含有されているアクリル樹脂A100部に対して、層状珪酸塩を45.0部とした以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0073】
実施例4
実施例1で使用したアクリル系樹脂組成物に代えて、上記アクリル樹脂B分散体、架橋剤及び層状珪酸塩を混合しアクリル系樹脂組成物とし、このアクリル系樹脂組成物における層状珪酸塩の配合量をアクリル樹脂B分散体に含有されているアクリル樹脂B100部に対して4.0部とした以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
以上、実施例1〜5に使用した下塗層用組成物、及びアクリル系樹脂組成物の含有量を表1に記載する。
【0074】
実施例5
上記アクリル樹脂C分散体、架橋剤及び層状珪酸塩を混合し、アクリル系樹脂組成物とし、このアクリル系樹脂組成物における層状珪酸塩の配合量をアクリル樹脂C分散体に含有されているアクリル樹脂B100部に対して4.0部とした以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0075】
【表1】

【0076】
比較例1
実施例1で形成させた下塗層を形成させず、基材の表面に実施例1におけるアクリル系樹脂組成物による塗膜を形成させて試験体を作製した。
【0077】
比較例2
実施例1におけるアクリル系樹脂の架橋剤の配合量をアクリル樹脂A分散体に含有されているアクリル樹脂A100部に対して、架橋剤を0とした以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0078】
比較例3
実施例1におけるアクリル系樹脂組成物の層状珪酸塩の配合量をアクリル樹脂A分散体に含有されているアクリル樹脂A100部に対して、層状珪酸塩を0部とした以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0079】
比較例4
実施例1におけるアクリル系樹脂組成物の層状珪酸塩の配合量をアクリル樹脂A分散体に含有されているアクリル樹脂A100部に対して、層状珪酸塩を0.5部とした以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0080】
比較例5
実施例1におけるアクリル系樹脂組成物の層状珪酸塩の配合量をアクリル樹脂A分散体に含有されているアクリル樹脂A100部に対して、層状珪酸塩を55.0部とした以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0081】
比較例6
実施例1におけるアクリル系樹脂組成物層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
以上、比較例1〜6に使用した下塗層用組成物、及び中塗層用組成物の含有量を表2、3に記載する。
【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
上記のようにして得られた試験体を用いて以下の評価方法に従って、作業性、吸水白化性、付着性、基材からのアンモニアガス放散量及びゼロスパンテンション伸び量を評価した。実施例1〜5及び比較例1〜6における下記評価の評価結果を表1〜3に併記する。
【0085】
(1)作業性
基材表面に上記実施例1〜5及び比較例1〜5を、ローラー刷毛を用いて塗布し、平滑に塗装できる場合を○、凹凸ができる場合を×として評価した。
【0086】
(2)吸水白化性評価
基材表面に上記実施例1〜5及び比較例1〜5により、硬化膜を成膜させた試験体を用いて、吸水白化性を評価した。上記により得られた養生後の試験体を水温23℃の水中に1日間浸漬した後の試験体の外観を目視により観察した。外観変化のないものを○、わずかな濁りがあるものを△、白色に変化しているものを×として評価した。なお、△の評価であっても、本発明に係るコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法は、主に室内側である内部のコンクリート部位に適用され、白化の原因である水分の影響を受け難いため、実用上は許容される。
【0087】
(3)付着性評価
基材表面に上記実施例1〜5及び比較例1〜5により、硬化膜を形成させた試験体を用いて、硬化膜の付着性を評価した。上記により得られた養生後の試験体及び養生後に水温23℃の水中に7日間浸漬した後の試験体について、JIS K 5600−5−6の付着性、クロスカット法に準拠して、付着性試験を行った。硬化膜に対するクロスカットは縦横2mm間隔で25個の四角(正方形)を形成し、クロスカットされた硬化膜に対して、セロテープ(登録商標)を付着させて、セロテープに付着させた硬化膜の剥離を行い、剥がれた硬化膜の個数を測定し、付着性の評価をした。剥がれがない場合は「25/25」であり、全て剥がれた場合には「0/25」である。剥がれが少ないもの程、付着性に優れていることを示す。
【0088】
(4)アンモニアガス放散量評価
基材表面に上記実施例1〜5及び比較例1〜6により、硬化膜を形成させた試験体を用いて、硬化膜のアンモニアガス放散量を測定した。上記により得られた養生後の試験体について、アンモニアガス放散量の測定をした。具体的には、試験体をガラスデシケーターに入れて密閉し、デシケータ内に2L/分の流量で窒素ガスを流入させ、試験体表面から放出されるガスをポンプを用いて1L/分で吸引した。吸引したガスはインピンジャーに入れた純水に5時間バブリングさせて、アンモニアを純水中に溶解させた。アンモニアガスを溶解させた液体はイオンクロマトグラフ法(ICS−3000,Dionex社製、分離カラム:IonPac CS14、ガードカラム・濃縮カラム:IonPac CG14、サプレッサ:CSRS ULTRAII 4mm、カラム温度:30℃、溶離液
:10mmol/Lメタンスルホン酸、流量:1.0mL/分、検出器:電気伝導度検出器)によって定量分析した。
なお、コンクリート基材のみの場合(基材表面に下塗層及びアクリル系樹脂層を配設しない場合)のアンモニアガス放散量は3,128μg/h/m2であった。
【0089】
(5)ゼロスパンテンション伸び量評価
フレキシブル板の表面に上記実施例1〜5及び比較例1〜5により、硬化膜を形成させた試験体を用いて、硬化膜のゼロスパンテンション伸び量を評価した。上記により得られた養生後の試験体について、ポリマーセメント系塗膜防水工事施工指針(案)・同解説(日本建築学会)に準拠して、フレキシブル板の塗膜が形成されていない裏側の中央部に切込みを入れ、フレキシブル板の両端を引張試験機に固定し、5mm/minの速度で引張り、塗膜にピンホールなどが発生した時のフレキシブル板の開き幅をゼロスパンテンション伸び量として測定した。なお、このゼロスパンテンション伸び量が大きいもの程、ひび割れ追従性に優れていることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートからなる基材の表面に下塗層、及びアクリル系樹脂層を順次配設するコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法であって、
前記アクリル系樹脂層は、アクリル系樹脂と、架橋剤と、水膨潤性合成無機層状珪酸塩とを含有するアクリル系樹脂組成物を用いて形成され、
前記水膨潤性合成無機層状珪酸塩の含有量は、前記アクリル系樹脂を100質量部としたときに、1〜50質量部であることを特徴とするコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法。
【請求項2】
上記アクリル系樹脂のガラス転移温度は、20℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法。
【請求項3】
上記水膨潤性合成無機層状珪酸塩は、合成フッ素ヘクトライト、及び合成フッ素マイカから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2又は3に記載のコンクリートからのアンモニアガス放散の抑制方法。

【公開番号】特開2012−206900(P2012−206900A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74435(P2011−74435)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】