説明

コンクリートのひび割れ抑制方法

【課題】本発明は、コンクリートの硬化過程におけるエネルギー状態を勘案することでコンクリートに対するひび割れ対策を高精度に、かつ一般的に適用しうる方法で講じ得るコンクリートのひび割れ抑制方法の提供を目的にしている。
【解決手段】本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法は、拘束状態下にあるコンクリート硬化体において、コンクリートから外界に放出される発熱エネルギー、化学的作用で拘束力を発揮する力学エネルギー及びコンクリート自体に機能する内部エネルギーから成る総エネルギーが一定値とすることに基づく解析結果でひび割れ対策を構成することで、コンクリートのひび割れ形状を高精度に予測して的確なひび割れ対策を効果的に講じることを可能にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの硬化過程におけるエネルギー状態を勘案することでコンクリートに対するひび割れ対策を高精度に講じるコンクリートのひび割れ抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、セメントと水との反応によって生成される水和物として構成された硬化体であるが、セメントと水が反応する際に発生する水和熱は、コンクリート内部の温度を上昇させ外界の温度変化に追随しながらコンクリート硬化体に膨張ならびに収縮の挙動を呈させると共に、コンクリート内部に在っては水分の移動に伴った自己収縮と大気中に水分が逸散することによる乾燥収縮を発生させている。
【0003】
このようなコンクリート硬化体において呈される膨張ならびに収縮の挙動は、コンクリート内部での分布が一様でないためと外界からそれらの挙動が拘束されるためにコンクリート硬化体に対する応力として機能することになって、コンクリート硬化体に対する圧縮応力と引張応力として追加的に作用することになる。ところが、コンクリート硬化体は圧縮形態には強いものの引張に対する抵抗力は小さい特性を有しているために、引張応力がコンクリート硬化体の引張強度を超えた場合には結果的にコンクリート硬化体にひび割れを発生させることになる。
【0004】
コンクリート硬化体に発生したひび割れは、コンクリートにおける安全性、水密性などの使用性、耐久性などを損なうために、コンクリート硬化体のひび割れを抑制することがコンクリート構造物の設計・施工を行う上で重要な問題になっていたので、コンクリート硬化体のひび割れを抑制する上からコンクリート構造物の施工前にシミュレーションを行ってコンクリート硬化体に発生するひび割れを予測して、有害なひび割れが予測される場合には、そのようなひび割れを抑制するための対策を立案する必要があった。
【0005】
従来は、コンクリート構造物における膨張・収縮挙動によるひび割れを抑制するために、コンクリート硬化体における発生ひずみ、発生応力、発生ひび割れの位置および発生ひび割れの幅について、経験的な方法、あるいは数値解析の一般的手法である有限要素解析(FEM解析)においては、温度、湿度あるいは膨張材混入量などに基づいて自由膨張ひずみを直接初期ひずみとして入力して変形や応力解を算定する方法などによって施工されてきた。(非特許文献1)
しかし、膨張材を混入させたコンクリートにおいて、予め、実験などで測定しておいた自由膨張ひずみを直接、FEM解析の初期ひずみとして入力する方法による実験例では、角柱状のコンクリート試験体にあってその断面中央の位置に両側に配置した2枚の鋼板を拘束する鉄筋を配置して成り、コンクリート試験体としては、鉄筋の無いものから鉄筋径を6mm、13mm及び19mmにした4ケースにして鋼板の間を膨張コンクリートで充填する場合のケミカルプレストレス効果を定量的に評価していた。しかしながら、膨張コンクリートの打設後に測定された膨張量の経時変化では、図15に示した鉄筋径6mmでの計算値曲線20に対して、鉄筋の無いものの実測値21、鉄筋径6mmの実測値22、13mmの実測値23及び19mmの実測値24の各実測値が示すように何れの場合も計算値曲線と実測値とが大きく乖離しており、自由膨張ひずみを初期ひずみとして用いる「仕事量一定則」では企画したコンクリートにおける安全な目標形状の再現は不可能であることを明らかにしている。
【0006】
このような現象は、部分拡大図で表現された図16の精度を比較している場合においても初期ひずみを用いる計算値曲線25と実測値26のいずれの場合においても膨張コンク
リートにおける計算値と実験値においてもその一致度が乖離状態にあることが確認されているものであり、上述した自由膨張ひずみを直接初期ひずみとして入力する膨張硬化解析の方法は懐疑的に成らざるを得ないものであった。
【0007】
従って、自由膨張量を実験などで予め測定しておいたデータを構造解析において直接入力データとして与えることで、拘束が異なっていても自由膨張ひずみを一定にして変形や応力解を算定する考え方は、計算値と実測値とが大きく乖離することから膨張材混入量を特定にする場合においてのみ適用可能であって、膨張材を多く混入したい場合などにあっては採用不可能な方式であり、予測される結果に大きな変動が伴うために的確な対策の選定が困難な状況に立ち至るので実際に適用する上では躊躇されるという重大な問題点を提起していた。また、膨張効果を初期ひずみ法によらずに、いわゆる「仕事量一定則」に基づく解析もなされているが、その場合の解析方法は一般性に乏しく、有限要素の定式化も不可能であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】辻幸和:ケミカルプレストレスおよび膨張分析の推定方法、コンクリート工学、Vol、19、No.6、pp99−105、1981.6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コンクリートの硬化過程におけるエネルギー状態を勘案することでコンクリートに対するひび割れ対策を高精度に、かつ一般的に適用しうる方法で講じられるコンクリートのひび割れ抑制方法の提供を目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法は、ひび割れ幅の予測方法なのであるが、各種工法におけるひび割れ幅の予測すなわちひび割れ抑制方法となるものであって、予測方法としては、拘束状態下にあるコンクリート硬化体において、コンクリートから外界に放出される発熱エネルギー、化学的作用で拘束力を発揮する力学エネルギー及びコンクリート自体に機能する内部エネルギーから成る総エネルギーが一定値とすることに基づく解析結果でひび割れ対策を構成することで、コンクリートのひび割れ形状を高精度に、かつ一般的に適用しうる方法で的確なひび割れ対策を効果的に講じることを可能にしている。
【0011】
本発明による第2のコンクリートのひび割れ抑制方法は、上記のコンクリートのひび割れ抑制方法において、コンクリート硬化体をメッシュ分割したうえで、コンクリートにおける温度解析、湿気移動解析及び応力解析をするために関係データを入力した後に、膨張材がなす力学的な総エネルギーが一定値とすることに基づいて算出し、その結果に基づいてコンクリート応力を主体にしたひび割れ対策をより精密にして的確に構成している。
【0012】
本発明による第3のコンクリートのひび割れ抑制方法は、上記のコンクリートのひび割れ抑制方法において、コンクリート硬化体をメッシュ分割したうえで、コンクリートにおける温度解析、湿気移動解析及びひび割れ形状解析をするために関係データを入力した後に総エネルギーが一定値とすることに基づいて算出し、その結果に基づいてコンクリートのひび割れ形状を主体にしたひび割れ対策をより精密にして的確に構成している。
【0013】
本発明による第4のコンクリートのひび割れ抑制方法は、上記のコンクリートのひび割れ抑制方法において、コンクリート硬化体をメッシュ分割したうえで、コンクリートにおける温度解析、湿気移動解析、応力解析及びひび割れ形状解析をするために関係データを
入力した後に、膨張材がなす力学的な総エネルギーが一定値とすることに基づいて算出し、その結果に基づいて全面的なひび割れ対策をより精密にして的確に構成している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法は、コンクリート硬化体の内部温度、発生ひずみ、発生応力および発生ひび割れ形状をコンクリート硬化体中の膨張材がなす力学的な総エネルギーが一定値とすることに基づく解析結果で精密に分析することで、コンクリート構造物の膨張・収縮挙動によるひび割れ形状を的確にして高精度に抑制し得る対策を構成できる効果を奏している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のコンクリートのひび割れ抑制方法による実験モデル
【図2】本発明のコンクリートのひび割れ抑制方法による計算値と実測値を示す図表
【図3】本発明のコンクリートのひび割れ抑制方法における体積変化図
【図4】本発明のコンクリートのひび割れ抑制方法における実験の解析モデル図
【図5】本発明のコンクリートのひび割れ抑制方法における解析経過図
【図6】解析経過における解析条件表
【図7】解析経過における外気温度図
【図8】解析経過における温度解析
【図9】解析経過における湿気移動解析
【図10】解析経過における最大主歪解析
【図11】解析経過における最大主応力解析
【図12】解析経過におけるひび割れ幅解析
【図13】解析経過におけるクラック相当ひずみ分布解析
【図14】解析経過におけるひび割れ形状
【図15】従来の「仕事量一定則」による計算値と実測値を示す図
【図16】従来の「仕事量一定則」による計算値と実測値の部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法は、拘束状態下にあるコンクリート硬化体において、コンクリートから外界に放出される発熱エネルギー、化学的作用で拘束力を発揮する力学エネルギー及びコンクリート自体に機能する内部エネルギーから成る総エネルギーが一定値とすることに基づく解析結果でひび割れ対策を構成することによって、コンクリートのひび割れ形態を高精度に、かつ一般的な方法で的確なひび割れ対策を効果的に講じることを可能にしている。
【0017】
〔実施例1〕
本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法は、拘束状態下にあるコンクリート硬化体において、コンクリートから外界に放出される発熱エネルギー、化学的作用で拘束力を発揮する力学エネルギー及びコンクリート自体に機能する内部エネルギーから成る総エネルギーが一定値とすることに基づく解析結果でひび割れ対策を構成しているので、本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法で実施する際の実験例を示す図1と同実験例におけるコンクリートひび割れの計算値と実測値を示す図2に基づいて以下に説明する。
【0018】
コンクリート構造体は、任意の拘束鋼材を適宜に配置されながらセメントと水との反応によって生成される水和物として構成された硬化体であり、初期ひずみを発生させずに構造体の内部領域のみで体積膨張を生じさせながら拘束鋼材などの他の領域に一定の仕事量を発揮すると共に外界に熱放散しながらそこからの拘束力も受ける亜弾性体である。
【0019】
これらのエネルギー関係を熱力学第一法則やニュートンの第三法則を適用して整理する
と、コンクリート硬化体において、内部から熱的に外界へ放出された熱量をΔH、化学作用によって力学的な外的環境に作用する力学的エネルギーをΔM及び内部で自ら貯えた内部エネルギーをΔQとして、コンクリート硬化体から外界へエネルギー移動する方向を正の符号として変化させた場合には、熱力学第一法則によって一般的に次式が成立する。
【0020】
【数1】

次に、コンクリート硬化体において力学的な拘束度が異なるが、他の条件は全く同じである2つのケースを考えると、2つそれぞれのケース1、2については式(1)より次式が成立する。
【0021】
【数2】

【0022】
【数3】

ここで、式(2)から式(3)を差し引くと、次式となる。
【0023】
【数4】

又、ケース1およびケース2の過程において、膨張あるいは収縮作用などの化学的な内部エネルギー変化ならびに発熱から放熱する過程が、現実的にはほぼ同じであると仮定できる場合には、
【0024】
【数5】

【0025】
【数6】

が成立する。
【0026】
これらの関係は、コンクリート硬化過程における膨張材の膨張作用あるいは骨材のアルカリ骨材反応などの典型的な例と考えられるので、式(4)から、
【0027】
【数7】

が成立する。
【0028】
式(7)は、拘束の程度に依らず、化学作用によって力学的な外的環境へコンクリート硬化体が作用する力学的エネルギーが一定であることを示しており、結果的にコンクリート硬化体では「総エネルギー一定則」が成立することを証明している。
【0029】
一方、上述した力学的エネルギーΔMについて更に吟味すると、作用・反作用の法則である ニュートンの第三法則からΔMをエネルギーとして展開すると、一般的に応力テンソルと自由膨張ひずみを除いた全ひずみテンソルとの積に対する体積積分の形で表現されるところの膨張するコンクリート硬化体自身の内部になす仕事量ΔξAと膨張するコンク
リート硬化体を拘束する材料になす仕事量ΔξBとは、コンクリート硬化体における仕事
量の和として一般的に応力テンソルと化学作用による自由膨張あるいは収縮としてひずみテンソルの積に対する体積積分の形で表現される化学エネルギーΔξcheとなるので、結
局はコンクリート硬化体における仕事量の和として表現される力学的エネルギーΔMは、化学エネルギーΔξcheと等しくなって次式のように表現することが出来る。
【0030】
【数8】

式(7)で表わされた「総エネルギー一定則」と式(8)によって、いかなる拘束条件下においても、化学エネルギーΔξcheは一定になることが明らかである。この考え方は、
化学的に膨張あるいは収縮する物質で構成される構造体の膨張量あるいは収縮量を決定する上での根幹となる考えである。
【0031】
以上の見解から、コンクリートひび割れを抑制するためにもコンクリート硬化体に対して「総エネルギー一定則」の考えを適用することが可能であり、これによって、アルカリシリカ反応をする骨材の膨張によるひび割れや静的破砕剤によるひび割れを定量的に予測可能になって、総合的にコンクリート硬化体に化学的に圧縮力を導入する膨張材のひび割れ抑制効果を定量的に予測可能にしたものであるから、本発明はコンクリートのひび割れ抑制を広範囲にして確実に出来る対策を構成し得るものである。
【0032】
次に、「総エネルギー一定則」の考えに基づいて実施した本発明のコンクリートのひび割れ抑制方法の正当性を検証するための実験モデルを示す図1と同モデルの実験結果として立証された計算値と実測値との関連性を示す図2とで明らかにする。
【0033】
実験に採用した試験体の形状ならびに検証に使用した実験モデルは、図1に示すように角柱状のコンクリート試験体1を形成するために試験対象であるコンクリート2の断面中央の位置に両側に配置した2枚の鋼板3、3を拘束するための鉄筋4を配置して鉄筋4と鋼板3とは溶接で一体化した形態で構成されている。コンクリート試験体1は、鉄筋の無いものを始めとして鉄筋径を6mm、13mm及び19mmにした4ケースを準備しており、コンクリート試験体1における夫々の鉄筋比は0.00%、0.22,0.88及び1.99に構成され、コンクリート試験体1の保存状態は濡らした布で湿布したビニール袋中に温度40℃、湿度100%の状態で維持されている。
【0034】
本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法の検証結果は、図2に示す計算値と実測値との比較を以って立証されている。
【0035】
本検証結果では、横軸に経過時間(日数)を採って縦軸にはコンクリート試験体の膨張量(%)を記録しており、実線にて計算値を示しながら各表示形態で実測値を示している。
【0036】
鉄筋を採用せずに拘束力の無い試験体の場合には、計算値においても膨張量が一番大きく変化して初期の50日から100日までは大きく拡張しているがそれ以降はなだらかに経緯している。これに対して、実測値にあってもなだらかになる傾斜は異なっていても略同様の傾向を示している。又、採用した鉄筋径が6mmのケースでは計算値と実測値とが無鉄筋の場合より早期に傾斜を早めているが、鉄筋径13mmの場合には膨張量は少なくて100日では収束状態に入っており、このような傾向は鉄筋径19mmにおいて更に顕著になるが、計算値と実測値との一致度は高まっている。
【0037】
以上のように、本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法の検証結果は、従来から数多く実施されてきた初期ひずみ代入法で行われる計算値と実測値との乖離状態とは全く異なって、図示したように何れのケースにあっても計算値と実測値とは乖離することなく良く合致しており、構造解析に化学エネルギーを入力データとして与える「総エネルギー一定則」の考え方は適切であって、本発明のコンクリートのひび割れ抑制方法が適正なものであるとの確認ができている。
【0038】
この検証内容は、膨張材料を含んだコンクリート構造物における劣化や補強効果に関する予測精度が格段に向上するもので、本発明によるコンクリートのひび割れ抑制方法によると膨張コンクリートによるケミカルプレストレスの効果あるいはアルカリ骨材反応によるコンクリート部材の変形劣化の予測を従前の手法よりも明らかに合理的かつ高精度に行なえることを立証している。
【0039】
本発明による他のコンクリートのひび割れ抑制方法は、上述したコンクリートのひび割れ抑制方法において、コンクリート硬化体をメッシュ分割したうえで、コンクリートにおける温度解析、湿気の移動解析及び応力解析とひび割れの形状解析を夫々単独乃至は同時に実施するために関係データを入力した後に総エネルギーが一定値とすることに基づいて算出する結果に基づいて、実際の配筋を考慮しながらひび割れ対策の効果を定量的に評価して適切な対策をより精密にして的確に構成している。
【0040】
〔実施例2〕
本発明による他のコンクリートのひび割れ抑制方法は、上述したコンクリートのひび割れ抑制方法において、コンクリート硬化体をメッシュ分割したうえで、コンクリートにおける温度解析、湿気の移動解析及び応力解析とひび割れの形状解析を夫々単独乃至は同時に実施するために関係データを入力した後に、膨張材がなす力学的な総エネルギーが一定値とすることに基づいて算出し、その結果に基づいてコンクリートのひび割れ抑制対策を的確に構成するために適切なソフトウエアを作成しているので、その内容を図3〜5に従って説明する。
【0041】
前述したように、コンクリートは、セメントと水との反応によって生成される水和物として構成された硬化体であって、セメントと水が反応する際に発生する水和熱は、コンクリート内部の温度を上昇させ外界の温度変化に追随しながらコンクリート硬化体に膨張ならびに収縮の挙動を呈させると共に、コンクリート内部に在っては水分の移動に伴った自己収縮と大気中に水分が逸散することによる乾燥収縮を発生させているので、これらの関係をコンクリートの体積変化およびひび割れに至る経過として表現すると図3のようにな
る。
【0042】
即ち、セメントと水とにおける水和反応では、その発熱によって温度を上昇させ、外界の温度変化に追随しながら上昇した後に降下することで従前と同様に温度ひずみを生成してクリープに至り、同様に自己乾燥によって自己収縮ひずみを生成すると共にセメントに混入される膨張材の作用によって膨張ひずみを喚起してクリープに至る。又、コンクリート中に於いて行われる水分移動は乾燥状態を経過してコンクリート硬化体に乾燥収縮ひずみを生じており、これらの各ひずみは総じてコンクリート硬化体にクリープを発生させるので、結果的にこれらの各クリープによる引張応力が自体の引張強度を上回る関係に至る場合にはコンクリート硬化体にひび割れ現象を生じるものである。
【0043】
本発明による他のコンクリートのひび割れ抑制方法では、以上のようなコンクリート構造物における建設時から供用までの硬化時にコンクリートに生じる初期の各ひずみによって発生する応力・変形状態を総合的に解析して、その解析結果を定量的に解明することで発生するかもしれないひび割れを巧妙に制御しながら確実に抑制できる対策を適用可能にしている。
【0044】
本発明による他のコンクリートのひび割れ抑制方法における解析手法を説明するために、図4に示す簡易な解析モデル5を採用して基本的な解析経過を図5に基づいて以下に説明する。
【0045】
本解析モデル5は、図示のように基礎コンクリートの上に壁コンクリートが載置しているようなコンクリート硬化体の実相構造物27に対して、実相構造物全体を解析モデルとして採用することは解析に必要とする入力データの膨大な量やそれらの解析に要するコンピューターの稼働時間の増大等を考慮すると余り適切な選択ではなく、解析対象である実相構造物27を構造的に勘案してこれを対称的な1/4モデルにしても性能的に解析可能である場合には、解析モデルを全体モデルから実相構造物27の長さと幅が夫々半分に相当している長方形の基礎コンクリート6の一方側に同様に実相構造物27の長さと幅が夫々半分に相当する小幅の壁コンクリート7を配置して構成されている形態にしても何らの遜色が無いので、本実施例では解析モデル5をそのような形状にしている。本例ではコンクリートの内部に何らの鉄筋も配置しない場合を採用しているが、判断するコンクリート試験体が鉄筋を使用している場合には本解析モデル5にも予め鉄筋を採用した条件を入力することで解析が行われるものである。又、実相構造物27が異なる形状の場合には解析結果から全体値を推計できる形態に細分化した解析モデルを選択することも可能である。
【0046】
本実施例に於ける解析経過の全体像としては、上述した解析モデル5の作成ゾーン8から開始されている。次いで、作成された解析モデル5に関する解析条件の入力データ9が温度解析ゾーン10、湿気移動解析ゾーン12、応力解析ゾーン14及びひび割れ幅解析ゾーン15に対して行われている。又、温度解析ゾーン10の解析出力である温度11は、湿気移動解析ゾーン12、応力解析ゾーン14及びひび割れ幅解析ゾーン15に対して供給され、同様に湿気移動解析ゾーン12の解析出力である相対湿度13が、応力解析ゾーン14とひび割れ幅解析ゾーン15に対して供給されている。更に、応力解析ゾーン14の解析出力群16とひび割れ幅解析ゾーン15からの解析出力群17は、先の温度解析ゾーン10の解析出力11、湿気移動解析ゾーン12の解析出力13と共に集積ゾーン18に集められている。そして、ひび割れ幅解析ゾーン15からの解析出力群17からはクラック相当ひずみという解析結果を活用することによってひび割れ幅19を本解析経過の出力にしている。
【0047】
以上の各種解析結果の出力は、個別に活用することも一括して活用することも可能であって、これらを以って解析経過の終結にしている。
【0048】
解析条件の入力データ9は、図6の表に示すように解析モデル5に関して基礎コンクリート6及び壁コンクリート7に対する熱伝導率以下の物性値毎に必要な値を供給しており、解析モデル5が置かれている環境の外気温に関しても解析時間毎に図7のように条件の一つとしてその経緯を提供されている。
【0049】
個々の解析ゾーンにおいては、供給された解析の入力条件に基づいて必要な解析計算を実施しており、温度解析ゾーン10においては、コンクリートにおける熱伝導率、比熱及び発熱量等の熱特性値、密度、単位セメント量、打込み温度、発熱特性値等の入力によって非定常熱伝道解析を行っており、その結果として解析モデル5の各部位に関して図8のような温度履歴(a)と温度濃淡図(b)を出力している。この出力は、温度に関しては図示のように解析された計算値と実相構造物27に置いて実際に測定された実測値とが経過時間毎に対比できるように設定されており、温度濃淡に関しては適宜に視覚的対比が可能な出力形態になっている。
【0050】
温度履歴における実線で提示した実測値は、細線で表示している計算値と経過時間の前半において温度上昇時には一致しており、高温から降下に転じる時点で若干の相違温度を示しているが、温度降下を続ける経過時間4時間以降の後半にあっては計算値と実測値は殆ど一致した温度勾配を示している。一方、この様な解析モデル5での温度推移は、図示のように温度の濃淡状態として基礎コンクリート6の20℃から壁コンクリート7に向かって30℃、35℃と壁コンクリート7の上端位置における温度と同様値まで温度上昇しており、壁コンクリートの中間位置にあって65℃という最高温度に至るまで視覚的な解析出力によっても確認が可能である。
【0051】
又、温度解析ゾーン10における解析出力の温度11は、以下の湿気移動解析ゾーン12、応力解析ゾーン14及びひび割れ幅解析ゾーン15における解析の入力条件として解析条件の入力データ9と共に加味されるものであって、夫々の解析において随時に活用されている。
【0052】
湿気移動解析ゾーン12における解析は、解析条件の入力データ9からのコンクリートの透湿量、湿気容量及び湿気密度に関する入力条件と温度解析ゾーン10からの出力温度11に基づいて湿気移動の解析を実施しており、その出力値は図9に示す経過時間(日数)における基礎コンクリートの底版中、底版外と壁コンクリートの側壁外、側壁中、頂版外、頂版中等の各部位での相対湿度(%)を以って表示している。
【0053】
相対湿度の値は、基礎コンクリートの底版中と壁コンクリートの側壁中及び頂版中における相対湿度がなだらかに降下した後に95%近辺の値を示しているが、壁コンクリートの頂版外では急速に低下した後に63%程度の値で推移して頂版中の値と近似な値で定着している。
【0054】
コンクリートの解析モデル5内の湿度分布を表示しているこの解析出力値は、乾燥収縮量の計算に役立つものであるから応力解析ゾーン14とひび割れ幅解析ゾーン15とに解析の入力条件として解析条件の入力データ9と共に加味されており、各解析ゾーンにおいてJCI−TC911の推定式やCEB式に対応した乾燥収縮ひずみの算定や土木学会コンクリート標準仕方書及びJCIひび割れ制御指針に準拠した自己収縮ひずみの算定を可能にするという具合に夫々の解析ゾーンにおいて有意義に活用されることになる。
【0055】
応力解析ゾーン14における解析は、解析条件の入力データ9からの熱膨張率、圧縮強度、引張強度、ヤング係数、ポアソン比に加えて、コンクリートにおける水和反応や水分移動に基づく温度ひずみ、自己収縮ひずみ、膨張ひずみと乾燥収縮ひずみから発生するク
リープを入力して、JCI−TC911の推定式とCEB式に対応した乾燥収縮ひずみの算定、土木学会コンクリート標準仕方書及びJCIひび割れ制御指針に準拠した自己収縮ひずみの算定を可能にする非定常の温度応力解析を実施している。
【0056】
この際に採用される膨張材によって導入される膨張ひずみは、本発明におけるコンクリートのひび割れ抑制方法の特長である「総エネルギー一定則」の考えに従って解析されるものであって、その結果として解析モデル5における変位、ひずみ、応力及びひび割れ指数と共に最大主歪や最大主応力が出力されている。
【0057】
解析結果である図10に示されている最大主歪について検証してみると、膨張材導入の仕様に関してJCIひび割れ制御指針に準拠して初期ひずみ法の考えに従った場合と「総エネルギー一定則」の考えに沿った混入量20kgの場合とでは両者とも略同様の歪値を以って経過して品質管理上の問題は発生しないと考えられる。しかしながら、膨張材の導入に非考慮の場合とJCIひび割れ制御指針に準拠する初期ひずみ法の考えに沿って混入量40kgの場合とでは大いに乖離した経緯を示しており、これらの相違状況はコンクリート構造物の施工時に在っても品質管理の観点からは疑問を呈しかねない状態にある。
【0058】
同様に、図11に示されている最大主応力についての結果においても、膨張材の導入に非考慮の場合には最大主応力が大きめに算出されており、逆に膨張材の混入量40kgの場合には経過日数18日までは最大主応力はマイナス表示になって21日からは最大主応力が大きめに算出されている。
【0059】
いずれにしても上述した傾向は類似であって、大きな応力を発生させる状況はコンクリート構造物の施工時においては大いに問題視されるところであり、本発明におけるコンクリートのひび割れ抑制方法の特長である「総エネルギー一定則」の考えの正当性は明確に成っても、従来からの初期ひずみ法の考えに則ったコンクリート構造物における施工管理は膨張材混入量20kgの場合という特定の範囲以外では適用困難であると言える。
【0060】
ひび割れ幅解析ゾーン15における解析は、応力解析ゾーンでの解析と同様に熱膨張率、圧縮強度、引張強度、ヤング係数、ポアソン比を入力して、JCI−TC911の推定式やCEB式に対応した乾燥収縮ひずみの算定や土木学会コンクリート標準仕方書及びJCIひび割れ制御指針に準拠した分布ひび割れモデルによって実施しており、応力解析ゾーンでの結果と異なって解析モデル5における変位、クラック相当ひずみ、応力及びひび割れ指数の出力と、これらの出力とは別にクラック相当ひずみが発生している範囲での積分によってクラック相当ひずみから分離したひび割れ幅19を単独に算出している。
【0061】
解析結果として示されるものは、視覚に訴えているコンクリートのひび割れに関連するクラック相当ひずみであり、その一つが図12に示すクラック相当ひずみ濃淡図と図13に開示するクラック相当ひずみ分布図である。
【0062】
クラック相当ひずみ濃淡図12では、色の識別によってコンクリートのひび割れ度を認識可能な視覚に訴えることによって、色濃度の強弱によって想定されるひび割れの緊迫程度を提示するクラック相当ひずみとして出力されており、クラック相当ひずみの表示−5.00E−05から0.00E+00を経て1.00E―04から2.50E―04、4.50E―04へと変化してクラック相当ひずみの存在とその程度を視覚的に提示している。これによると実相構造物27の中央部位に相当する解析モデル5の位置に2箇所の大きなクラック相当ひずみが存在することを解析結果として算出している。同様の解析結果は、クラック相当ひずみ分布表である図13においても明確であり、解析モデル5に発生する強烈なクラック相当ひずみの程度とそれが存在する分布状態を明らかにしており、結果として解析モデル5の特定端部からの距離と併せることによってひび割れが現出する位
置を含めたコンクリートのひび割れの形態を感覚的に認識出来るようにしている。
【0063】
ひび割れ幅解析ゾーン15からの出力としては、上述したようにクラック相当ひずみの出力から分離させた形態で、鉄筋の効果を鉄筋比という形で考慮して非線形構成則をコンクリート及び鉄筋に導入することによって想定されるひび割れ幅やひび割れパターンの状態を図14に示す表において解析結果として算出している。この表では、図13において示した特定端部からの距離と併せて長手方向クラック相当ひずみの程度とひずみ長さ座標(mm)とから算出される積分値の和として最初のひび割れ幅0.18(mm)と更に実相構造物の中央部位に発生する大きなひび割れ幅0.29(mm)を特定することが解析可能になっている。
【0064】
本解析経過における出力は、解析結果ゾーン18において温度解析ゾーン10の解析出力(温度)11、湿気移動解析ゾーン12の解析出力(相対湿度)13及び応力解析ゾーン14からの「変位、ひずみ、応力及びひび割れ指数」の解析出力群16とひび割れ幅解析ゾーン15からの「変位、クラック相当ひずみ、応力及びひび割れ指数」の解析出力群17を夫々単独乃至は同時に集計する形態で解析の結果として提示され、これに加えて上述したようにひび割れ幅19も解析出力が提示可能になっている。
【0065】
以上の解析ゾーンで具体化されたように、上述した図3のクリープによるひずみの増加分は、従来のStep by Step法(重ね合せ法)において全ステップにおける情報を必須にする故に多くの記憶容量と計算時間とを必要としていた状況と異なっており、実相構造物から離れて論理的にして適正な解析モデルの採用による入力データの縮小化やコンピューターの稼働時間の短縮によってコストの低減及び解析時間の短縮を始めとして、これに加算したDirichlet級数によるRate type理論の導入によって直前のステップにおける情報のみで計算することが可能になったことから極めて適正にして迅速に計算されると共に、コンクリート硬化体内での膨張材の使用と骨材本来の膨張等によって発生する総合現象を定量的に解明できることで、コンクリート硬化体において発生するひび割れ形態を高精度に解明できると共にそのひび割れ形状を的確に制御する対策の効能を定量的に評価できることが可能になるという優れた効果を発揮している。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、コンクリートの硬化過程におけるエネルギー状態を勘案することでコンクリートに対するひび割れ対策を高精度に、かつ一般的に適用しうる方法で講じられるコンクリート構造体の施工を安全、確実に達成できるコンクリートのひび割れ抑制方法に関するものである。
【符号の説明】
【0067】
1…コンクリート試験体、2…コンクリート、3…鋼板、4…鉄筋、5…解析モデル、6…基礎コンクリート、7…壁コンクリート、8…解析モデルの作成ゾーン、9…解析条件の入力データ、10…温度解析ゾーン、11…温度解析ゾーンの解析出力(温度)、12…湿気移動解析ゾーン、13…湿気移動解析ゾーンの解析出力(相対湿度)、14…応力解析ゾーン、15…ひび割れ幅解析ゾーン、16…応力解析ゾーンの解析出力群、17…ひび割れ幅解析ゾーンの解析出力群、18…解析出力の集積ゾーン、19…ひび割れ幅の解析出力(ひび割れ幅)、20…鉄筋径6mmの計算値曲線、21…鉄筋無拘束の実測値、22…鉄筋径6mmの実測値、23…鉄筋径13mmの実測値、24…鉄筋径19mmの実測値、25…「仕事量一定則」による計算値曲線、26…「仕事量一定則」の場合の実測値、27…実相構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拘束状態下にあるコンクリート硬化体においてコンクリートから外界に放出される発熱エネルギー、化学的作用で拘束力を発揮する力学エネルギー及びコンクリート自体に機能する内部エネルギーから成る総エネルギーが一定値とすることに基づく解析結果でひび割れ対策を構成するコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項2】
コンクリート硬化体をメッシュ分割したうえでコンクリートにおける温度解析、湿気移動解析及び応力解析をするために関係データを入力した後に総エネルギーが一定値とすることに基づいて算出しその結果に基づいてひび割れ対策を構成することを特徴とする請求項1に記載のコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項3】
コンクリート硬化体をメッシュ分割したうえでコンクリートにおける温度解析、湿気移動解析及びひび割れ形状解析をするために関係データを入力した後に総エネルギーが一定値とすることに基づいて算出しその結果に基づいてひび割れ対策を構成することを特徴とする請求項1に記載のコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項4】
コンクリート硬化体をメッシュ分割したうえでコンクリートにおける温度解析、湿気移動解析、応力解析及びひび割れ形状解析をするために関係データを入力した後に総エネルギーが一定値とすることに基づいて算出しその結果に基づいてひび割れ対策を構成することを特徴とする請求項1に記載のコンクリートのひび割れ抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−2904(P2013−2904A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133172(P2011−133172)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(511145823)公益社団法人日本コンクリート工学会 (1)
【Fターム(参考)】