説明

コンクリートの体積抵抗率の測定方法及びその装置

【課題】測定対象のコンクリートの体積抵抗率を、このコンクリートを破壊せず、且つ容易な方法で測定し、この測定結果より、コンクリートの塩害による劣化のしやすさの診断を行うことができるコンクリートの体積抵抗率の測定方法及びその装置を提供する。
【解決手段】測定対象のコンクリート10に対して、交流電流を流す2つの電流電極2Aと、前記電流電極2Aの間で交流電位差を測定する2つの電位差電極2Bを、直線状に且つ等間隔に設置し、前記コンクリート10の体積抵抗率を測定する測定方法において、電流電極2A及び電位差電極2Bの端部を、コンクリート10に接触する接触ステップと、端部に設置した、導電性を有し且つ多孔質性を有する電極材料3に、電解質の溶液を供給する電解質溶液供給ステップと、電流電極2Aに電流を流し、電位差電極2Bで交流電位差を測定する測定ステップを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象のコンクリートの体積抵抗率を、このコンクリートを破壊せず、且つ容易な方法で測定し、この測定結果より、コンクリートの塩害による劣化のしやすさの診断を行う、コンクリートの体積抵抗率の測定方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半永久的な剛体であると信じられていたコンクリートは、劣化するという事実がある。このコンクリートの劣化の原因は、主なものとして塩害があげられる。コンクリート内に塩分が浸透すると、コンクリートの劣化が進むことが明らかになっている。
【0003】
そのため、コンクリート内部の塩化物イオンの濃度や、塩化物イオン拡散係数の測定により、コンクリートの塩害による劣化のしやすさを評価することが可能となる。この塩化物イオンの濃度や、塩化物イオン拡散係数を測定する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、被検査コンクリート表面の同一部位にパルスレーザ光を連続的に照射して、アブレーションによるプラズマを発生させながら穿孔し、このプラズマ発光のスペクトル強度分布中のナトリウム成分及び塩素成分の強度に基づき、コンクリートの塩害の影響度を検査する方法が記載されている。
【0005】
他方で、コンクリートに電気を流し、このコンクリートにおける電気抵抗を測定して、塩害の影響度を検査する方法もある(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1には、コンクリート構造物から供試体を切り出し、この供試体の両端から電気を流し、供試体上に決定した2点間の電圧を測定して、体積抵抗率を測定する4電極法が記載されている。
【0006】
以下に、4電極法について説明する。図6に、4電極法による測定の様子を示す。4電極法による測定装置1Xは、測定対象の構造物等からコンクリートを切り出し、このコンクリートを成型した供試体10Xの電気抵抗を測定する。供試体10Xの両端に、電流電極2AXを設置し、交流電源11から電流を流すように構成している。また、12は交流電流計、14は電線、15はスイッチを示している。また、供試体10Xの2点間の電圧を測定するために、電位差電極2BXを介して、交流電位計13を設置している。
【0007】
この測定装置1Xにより、コンクリート(供試体)10Xの体積抵抗率を測定し、コンクリートの塩害による劣化のしやすさを評価することができる。ここで、体積抵抗率とは、交流電圧を印加した供試体10Xの内部を流れる電流と平行方向の電位の傾き(単位長さ当たりの電位差)を、その電流密度で除した値である。この数値は各辺1mの立方体の相対する2表面を電極とする2つの電極間の体積抵抗に等しくなる。この体積抵抗率を算出する式を数式1に示す。
【0008】
【数1】

【0009】
ここに、ρは単位体積あたりの電気抵抗率(体積抵抗率)(Ω・m)、Vは電位差電極間の電位差(V)、Aは供試体の断面積(m)、Iは供試体に流れる電流値(A)、Lは電位差電極間の距離(m)を示す。この体積抵抗率ρから、コンクリート内の塩化物イオンの濃度や、塩化物イオン拡散係数を推定し、コンクリートの塩害による劣化のしやすさを評価することができる。
【0010】
しかしながら、この4電極法は、いくつかの問題点を有している。第1に、電気抵抗を測定しようとするコンクリートの一部を切り出して、成型の後、両端とその表面部に電極を設ける必要があるため、実質的に非破壊の測定手法とは言えないという問題を有している。
【0011】
第2に、供試体の成型作業及び、成型後の養生期間等が必要となるため、測定準備に手間がかかるという問題を有している。
【0012】
第3に、構造物からコンクリートを切り出せる部位が限られているため、測定を計画する場所の一部の体積抵抗率しか測定することができないという問題を有している。
【0013】
第4に、切り取ったコンクリートの供試体の養生を確実に行い、コンクリートの性状を変化させないように保管することが困難であるという問題を有している。
【0014】
この問題を解決するために、4電極法を改良した4プローブ法という測定方法がある。この4プローブ法は、構造物のコンクリートに対して直接、体積抵抗率の測定を行うことができる。以下に、この4プローブ法について説明する。
【0015】
図7に、4プローブ法による測定の様子を示す。4プローブ法による測定装置1Yは、測定対象のコンクリート10Yに4つの穿孔部20を形成し、この穿孔部20に2つの電流電極2AYと、2つの電位差電極2BYを挿入して、コンクリート10Yの電気抵抗を測定する。電流電極2AYに、交流電源11、交流電流計12及びスイッチ15を、電線14で接続している。同様に、電位差電極2BYに、交流電位計13を、電線14で接続している。
【0016】
また、電流電極2AY及び電位差電極2BYは、コンクリート10Yの表面での抵抗を低減するため、穿孔部20の内部に挿入し、導電性の高い接着剤21で接着、固定している。なお、各電極間の電極間間隔dは、一定にする必要がある。
【0017】
この測定装置1Yにより、コンクリート10Yを、構造物等から切り出し、供試体を成型する作業等が不要となり、4電極法より効率的に、コンクリート10Yの体積抵抗率を
測定することができる。この体積抵抗率を算出する式を数2に示す。
【0018】
【数2】

【0019】
ここに、ρは単位体積あたりの電気抵抗率(体積抵抗率)(Ω・m)、dは電極間間隔、Vは電位差電極間の電位差(V)、Iはコンクリートに流れる電流値(A)を示す。この体積抵抗率ρから、コンクリート内の塩化物イオンの濃度や、塩化物イオン拡散係数を推定し、コンクリートの塩害による劣化のしやすさを評価することができる。
【0020】
しかしながら、この4プローブ法は、いくつかの問題点を有している。第1に、各プローブ(電極)を設置するために、コンクリートを穿孔する必要があるため、実質的に非破壊の測定手法とは言えないという問題を有している。
【0021】
第2に、垂直の壁や柱等を測定する場合、電解質や導電性の高い接着剤をプローブに十分浸透させることが困難となり、測定値のばらつきが発生しやすいという問題を有している。
【0022】
第3に、4つのプローブの電極間間隔dを、精密に一定に保つ必要があり、この作業に手間がかかるという問題を有している。
【0023】
第4に、コンクリート内部に鉄筋が入っている場合、この鉄筋の存在位置を十分に把握して測定を行わないと、鉄筋の影響により、低すぎる体積抵抗率が得られるという問題を有している。
【0024】
第5に、4つのプローブを凹凸のあるコンクリートに一定の方法で接触させる必要があるため、予め4つのプローブを連結し固定した組電極を使用することができず、プローブの設置に手間がかかるという問題を有している。
【0025】
更に、前述した4電極法及び4プローブ法を用いた測定は、直線状の1次元的な測定である。そのため、測定対象の構造物のコンクリートにおいて、平面的に体積抵抗率の分布を把握しようとした場合、測定を行う作業者は、1次元的な各測定値をプロットし、2次元のデータに展開する。このデータの処理により、体積抵抗率の分布を把握する方法では、測定値の正確性、及び再現性に欠けるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特許3985936号公報
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】土木学会論文集E Vol.64(2008)、No.3 427−434 土木学会規準「四電極法による断面修復材の体積抵抗率測定方法(案)(JSCE−K562−2008)の制定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、測定対象のコンクリートの体積抵抗率を、このコンクリートを破壊せず、且つ容易な方法で測定し、この測定結果より、コンクリートの塩害による劣化のしやすさの診断を行うことができるコンクリートの体積抵抗率の測定方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記の目的を達成するための本発明に係るコンクリートの体積抵抗率の測定方法は、測定対象のコンクリートに対して、交流電流を流す2つの電流電極と、前記電流電極の間で交流電位差を測定する2つの電位差電極を、直線状に設置し、前記コンクリートの体積抵抗率を測定する測定方法において、前記電流電極及び前記電位差電極の端部を、前記コンクリートに接触する接触ステップと、前記端部に設置した、多孔質性を有する電極材料に、電解質の溶液を供給する電解質溶液供給ステップと、前記電流電極に電流を流し、前記電位差電極で交流電位差を測定する測定ステップを有することを特徴とする。
【0030】
この構成により、コンクリートと、電流電極及び電位差電極との良好な電気的接触を実現することができ、精度の高い測定を実現することができる。また、良好な電気的接触を容易に実現できるため、測定作業が簡易化でき、測定作業に必要となる時間を短縮することができる。更に、供試体の成型や、電極を埋め込むための穿孔等の作業が不要となり、非破壊検査を実現することができる。
【0031】
上記の目的を達成するための本発明に係るコンクリートの体積抵抗率の測定方法は、測定対象のコンクリートに対して、交流電流を流す2つの電流電極と、前記電流電極の間で交流電位差を測定する2つの電位差電極を、直線状に且つ等間隔に設置し、前記コンクリートの体積抵抗率を測定する測定方法において、前記電流電極及び前記電位差電極の端部を、前記コンクリートに接触する接触ステップと、前記端部に設置した、多孔質性を有する電極材料に、電解質の溶液を供給する電解質溶液供給ステップと、前記電流電極に電流を流し、前記電位差電極で交流電位差を測定する測定ステップを有することを特徴とする。
【0032】
電極間間隔を全て等間隔とする構成により、コンクリートの体積抵抗率を算出する式に、前述の数2の式を利用できる。そのため、計算が容易となり、体積抵抗率の測定作業及びその解析作業を短時間で行うことができる。
【0033】
上記のコンクリートの体積抵抗率の測定方法において、前記測定方法が、2つの前記電流電極と、前記電流電極の間に設置する2つの前記電位差電極の電極間間隔を、等間隔であることを維持したまま、前記電極間間隔の長さを変更する電極間間隔変更ステップを有することを特徴とする。
【0034】
この構成により、電流電極と電位差電極を設置する際の位置合わせ等の作業が不要となり、測定作業を簡易化することができる。また、電流電極と電位差電極の電極間間隔を、等間隔に維持したまま、電極間間隔の長さを変更することができるため、必要となるデータ密度に応じた測定値を容易に得ることができる。
【0035】
上記のコンクリートの体積抵抗率の測定方法において、前記測定方法が、前記2つの電
流電極と前記2つの電位差電極からなる電極の組を、第1の軸方向に複数列配置し、前記電極の組ごとに順次測定を行う第1の軸方向測定ステップと、前記電極の組を、第2の軸方向に複数配置し、前記電極の組ごとに順次測定を行う第2の軸方向測定ステップと、前記第1及び第2の軸方向測定ステップで得た測定値を合成し、2次元の体積抵抗率分布を示すデータマップ生成ステップを有することを特徴とする。
【0036】
この構成により、直線的な測定範囲を、平面的な測定範囲に拡張することができるため、コンクリートの面としての、塩害による劣化のしやすさの状態等を容易に把握することが可能となる。また、測定誤差を抑えることができる。
【0037】
上記のコンクリートの体積抵抗率の測定方法において、前記測定方法が、第1の軸方向の前記電極の組の電極間間隔の長さを、変更しながら測定する第1の軸方向電極間間隔変化測定ステップと、第2の軸方向の前記電極の組の電極間間隔の長さを、変更しながら測定する第2の軸方向電極間間隔変化測定ステップと、前記第1の軸方向測定ステップと、前記第2の軸方向測定ステップと、前記第1の軸方向電極間間隔変化測定ステップと、前記第2の軸方向電極間間隔変化測定ステップで得た測定値を合成し、3次元の体積抵抗率分布を示すデータマップ生成ステップを有することを特徴とする。
【0038】
この構成により、平面的な測定範囲を、立体的な測定範囲に拡張することができるため、コンクリートの立体としての、塩害による劣化のしやすさの状態等を容易に把握することが可能となる。また、測定誤差を抑えることができる。
【0039】
上記の目的を達成するための本発明に係るコンクリートの体積抵抗率の測定装置は、測定対象のコンクリートに対して、交流電流を流す2つの電流電極と、前記電流電極の間で交流電位差を測定する2つの電位差電極を、直線状に且つ等間隔に設置し、前記コンクリートの体積抵抗率を測定する測定装置において、前記電流電極及び前記電位差電極の端部に設置した、導電性を有し且つ多孔質性を有する電極材料と、前記電極材料に、電解質の溶液を供給する電解質供給装置を有することを特徴とする。
【0040】
この構成により、コンクリートと、電流電極及び電位差電極との良好な電気的接触を実現することができ、精度の高い測定を実現することができる。また、良好な電気的接触を容易に実現できるため、測定作業が簡易化でき、測定作業に必要となる時間を短縮することができる。更に、供試体の成型や、電極を埋め込むための穿孔等の作業が不要となり、非破壊検査を実現することができる。
【0041】
上記のコンクリートの体積抵抗率の測定装置において、測定対象のコンクリートに対して、交流電流を流す2つの電流電極と、前記電流電極の間で交流電位差を測定する2つの電位差電極を、直線状に且つ等間隔に設置し、前記コンクリートの体積抵抗率を測定する測定装置において、前記電流電極及び前記電位差電極の端部に設置した、導電性を有し且つ多孔質性を有する電極材料と、前記電極材料に、電解質の溶液を供給する電解質供給装置を有することを特徴とする。
【0042】
電極間間隔を全て等間隔とする構成により、コンクリートの体積抵抗率を算出する式に、前述の数2の式を利用できる。そのため、計算が容易となり、体積抵抗率の測定作業及びその解析作業を短時間で行うことができる。
【0043】
上記のコンクリートの体積抵抗率の測定装置において、前記測定装置が、前記2つの電流電極と、前記電流電極の間に設置する2つの前記電位差電極の電極間間隔を、等間隔であることを維持したまま、前記電極間間隔の長さを変更する固定冶具を有することを特徴とする。
【0044】
この構成により、電流電極と電位差電極を設置する際の位置合わせ等の作業が不要となり、測定作業を簡易化することができる。また、電流電極と電位差電極の電極間間隔を、等間隔に維持したまま、電極間間隔の長さを変更することができるため、必要となるデータ密度に応じた測定値を容易に得ることができる。
【0045】
上記のコンクリートの体積抵抗率の測定装置において、前記測定装置が、平面上に等間隔に配置した複数の電極と、前記複数の電極と前記交流電源又は前記交流電位差計の接続を切換える接続制御装置と、前記複数の電極で得た測定値を合成し、2次元の体積抵抗率分布を示すデータマップを生成する演算装置を有することを特徴とする。
【0046】
この構成により、直線的な測定範囲を、平面的な測定範囲に拡張することができるため、コンクリートの面としての、塩害による劣化のしやすさの状態等を容易に把握することが可能となる。また、測定誤差を抑えることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係るコンクリートの体積抵抗率の測定方法、及びその装置によれば、測定対象のコンクリートの体積抵抗率を、非破壊で且つ簡易に測定することができる。そのため、容易、且つ正確にコンクリートの塩害による劣化のしやすさの診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る実施の形態のコンクリートの体積抵抗率の測定装置を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態のコンクリートの体積抵抗率の測定装置を示した図である。
【図3】本発明に係る異なる実施の形態のコンクリートの体積抵抗率の測定装置を示した図である。
【図4】本発明の測定装置で得られるデータマップの例を示した図である。
【図5】本発明に係る異なる実施の形態のコンクリートの体積抵抗率の測定装置を示した図である。
【図6】従来のコンクリートの体積抵抗率の測定装置を示した図である。
【図7】従来のコンクリートの体積抵抗率の測定装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本発明に係る実施の形態のコンクリートの体積抵抗率の測定方法及びその装置について、図面を参照しながら説明する。図1に本発明に係る実施の形態のコンクリートの体積抵抗率の測定装置1Aの構成を示す。
【0050】
測定装置1Aは、2つの電流電極2Aと2つの電位差電極2Bを直線状に設置している。この電流電極2Aに、交流電源11及び交流電流計12を接続し、電位差電極2Bに交流電位計13を接続している。また、電極2(電流電極2A及び電位差電極2B)の下方の端部に電極材料3を設置している。この電極材料3には、電解質供給装置4から伸びる配液管5を接続している。なお、電流電極2Aから供給する電気は、電極間の距離等により適宜決定することができるが、1例としてあげるならば、電流を1A程度、電圧を30V以下とする。
【0051】
この電極材料3は、導電性を有し且つ多孔質性を有しており、例えば、全体の体積に対して10〜40%の空隙を有するように構成する。そして、この空隙は、毛細管現象により電解質溶液等の液体を保持することが可能な性質(保水性)を有するように構成する。具体的には、金属材料や、電解質溶液を供給したウレタン等で構成したスポンジ部材等を
利用することができる。なお、この多孔質性を有する金属材料は、発泡体金属と呼ばれることもある。
【0052】
以下に、電極材料3に利用する発泡体金属に関して具体的に説明する。まず、多孔質性を有する金属部材である発泡体金属の製造方法の1例を説明する。発泡体金属の製造では、中心粒径が10から70μm程度の鉄または鉄合金粉末を出発原料とする。型に混合粉末を充填し、5から100MPaの面圧力を加えながら250から400℃に加熱するいわゆる焼結加工を行い相対密度で60から90%の範囲の連続気孔を持つ多孔質性を有した金属材料を得る。
【0053】
もしくは冷間等方圧プレスを含むプレス成形体を配置した状態で250から400℃にヒーター加熱などで焼結加工を行い相対密度で60から90%の範囲の連続気孔を持つ多孔質性を有した金属材料を得る。
【0054】
焼結方法の選択、温度の選択などの製造条件は原料粉末の粒度、電極材料3の吸水性、吸湿性、により適宜選択することが望ましい。なお、電極材料3は、軽石より密であり、一見すると空隙を有さない金属材料と大差のないイメージである。
【0055】
この電解質溶液を保持することのできる電極材料3の利用により、電極材料3とコンクリート10の接触面における電気抵抗を、抑制することができ、コンクリート10の体積抵抗率の測定精度を向上することができる。
【0056】
なお、電極材料3は、ウレタン製のスポンジ等を使用することができるが、前述の発泡体金属を利用することが望ましい。この発泡体金属の利用により、例えば、測定装置1Aをコンクリート10に強く押しつけた場合であっても、電極材料3が変形しない。そのため、電極材料3の内部に浸透している電解質溶液が、電極材料3から流れ出し、コンクリート10の表面に電気の通り道を形成するような問題が発生しない。
【0057】
つまり、電極材料3は、測定装置1Aとコンクリート10の間の電気的接触を良好に保つことができ、且つ、電気をコンクリート10の内部に流すことができるため、体積抵抗率を高い精度で計測することが可能となる。
【0058】
また、固定冶具7は、電流電極2Aと電位差電極2Bのそれぞれの電極間間隔d1、d3を等しく保ちながら、長さを変更することが可能な機構を有している。各電極間間隔のd1とd3が等しい長さの場合は、前述した数2の式により体積抵抗率を容易に算出することが可能となる。
【0059】
しかし、電極間間隔d1とd3が異なる長さの場合であっても、体積抵抗率を算出することは可能である。具体的には、複数の場所、及び複数のパターンの電極間間隔で、電位差を測定し、得られた電位分布をFEM解析で、逆解析する等の手法により、電気抵抗率を測定することができる。以下は、電極間間隔をdとして、d1、d2、d3が等しい場合に関して説明する。
【0060】
なお、測定装置1Aの主要部分のみ図示しているが、実際には、測定装置1Aを筐体等の中に収容する。この測定装置1Aは、筐体ごと作業者や油圧可動式の重機等に把持され、コンクリート上を自在に動かされながら、測定を行うことができる。
【0061】
図2に、固定冶具7の機構の1例を示す。固定冶具7は、様々な機構により構成することができるが、例えば、図2に示す様に、ギア比の異なる2つのギアを有したギア軸16と、歯切りをしたラック18を組み合わせたラックアンドピニオン式で構成することがで
きる。他にも、クレーン等に利用されるワイヤと滑車を組み合わせた構造でも、固定冶具7を構成できる。
【0062】
また、電極2(電流電極2A及び電位差電極2B)は、電極材料3と伸縮機構(シリンダ機構6)で構成している。シリンダ機構6は、コンクリート10の凹凸を吸収するように動作することができる。また、電極材料3は、シリンダ機構6に対して、傾動自在に設置しているため、コンクリート10の傾きを吸収するように傾動することができる。
【0063】
そのため、図2に示す様に、曲面を有するコンクリート10に対しても、電極材料3の接触を良好に維持することができる。そのため、あらゆるコンクリート構造物に対して、測定装置1Aを使用することができる。特に、従来では、非常に困難であった曲面を有するコンクリート10や、構造物の天井等にあたるコンクリートの体積抵抗率を、容易に測定することができる。電極材料3とコンクリート10の接触を良好に維持することができるため、体積抵抗率の測定誤差を抑制することができる。
【0064】
図3に、本発明に係る異なる実施の形態の測定装置1Bの平面図を示す。測定装置1Bは、前述の測定装置1A(電極の組)を、あたかも4つ組み合わせたような形状をしている。以下に、この測定装置1Bによる測定方法(2次元測定)に関して説明する。
【0065】
まず、測定装置1Bを、測定対象となるコンクリート10に接触させる(接触ステップ)。次に、電極材料3に電解質の溶液を供給する(電解質溶液供給ステップ)。その後、体積抵抗率の測定を行う(測定ステップ)。
【0066】
次に、測定ステップの具体的な中身について説明する。まず、第1の軸方向(x軸方向)に配置した、電流電極30、33と電位差電極31、32からなる電極の組を利用して体積抵抗率の測定を行う(第1の軸方向測定ステップ)。同様に、電流電極34、37と電位差電極35、36からなる電極の組を利用して測定を行う(第1の軸方向測定ステップ)。
【0067】
次に、第2の軸方向(y軸方向)に配置した、電流電極38、39と電位差電極31、35からなる電極の組を利用して体積抵抗率の測定を行う(第2の軸方向測定ステップ)。同様に、電流電極40、41と電位差電極32、36からなる電極の組を利用して測定を行う(第2の軸方向測定ステップ)。
【0068】
最後に、測定ステップで得られた測定値を演算装置で合成し、コンクリートの体積抵抗率の測定結果としてデータマップを得る(データマップ生成ステップ)。
【0069】
また、電極間間隔dを変更する場合には、4つのギア軸16を、それぞれ等しい回数だけ回転させれば、測定装置1B全体の電極間間隔dを、等しい長さだけ、同時に変更することができる。また、4つのギア軸16を、ベルト17等でリンクし、一度に電極間間隔dを広げる、又は縮めるように構成することが望ましい。
【0070】
なお、図3には、x軸方向及びy軸方向に、2系統ずつの電極を設置した例を示したが、本発明は、これに限らず、系統の数を任意に決定した測定装置とすることができる。また、説明のため、測定する順序を記載したが、体積抵抗率を測定する順序は、任意に変更することができる。
【0071】
加えて、測定装置1Bで、第1の軸方向(x軸方向)の電極間間隔dを変化させながら測定し(第1の軸方向電極間間隔変化測定ステップ)、同様に第2の軸方向(y軸方向)の電極間間隔dを変化させながら測定する(第2の軸方向電極間間隔変化測定ステップ)
ことができる。
【0072】
この測定方法により得られた測定値と、第1の軸方向測定ステップ及び第2の軸方向測定ステップで得られた測定値を演算装置で合成して、3次元の体積抵抗率分布を示すデータマップを生成する(データマップ生成ステップ)ことができる。この測定方法(3次元測定方法)により、コンクリート10の深さ方向の塩害による劣化のしやすさの状態も、同時に把握することが可能となる。
【0073】
図4に、コンクリートの体積抵抗率を測定する測定装置1(測定装置1A、1B等)により得られたデータマップDを示す。データマップDは、測定装置1で、コンクリート10上の複数のポイントにおいて、体積抵抗率を測定し、その結果を図示したものである。
【0074】
ハイポイントHは、電気抵抗の高い場所を示しており、同様にミドルポイントM、ローポイントLの順番に電気抵抗が低くなるように示している。コンクリート10は、塩害による劣化のしやすさが高いほど、電気抵抗が低くなるため、図4では中心部から左下にかけて、コンクリート10が塩害により劣化のしやすい状態である様子がわかる。
【0075】
なお、コンクリートに大きな亀裂等が発生している場合には、電気抵抗が高くなるため、この亀裂の存在を推定することもできる。また、鉄筋を含んでいるコンクリートの場合には、電気抵抗が極めて低くなるため、この鉄筋の存在を推定することもできる。
【0076】
図5に、本発明に係る異なる実施の形態の測定装置1Cの平面図を示す。測定装置1Cは、前述の測定装置1Aを、あたかも9つ組み合わせたような形状をしている。以下に、この測定装置1Cによる測定方法(2次元測定)に関して説明する。
【0077】
まず、測定装置1Cを、コンクリート10上に設置し、測定の準備を行う(接触ステップ、電解質溶液供給ステップ)。その後、体積抵抗率の測定を行う(測定ステップ)。
【0078】
次に、測定ステップの具体的な中身について説明する。まず、第1の軸方向(x軸方向)に配置した、電極50、53と電位差電極51、52からなる電極の組を利用して体積抵抗率の測定を行う(第1の軸方向測定ステップ)。同様に、電流電極54、57と電位差電極55、56の電極の組、電流電極58、61と電位差電極59、60の電極の組、電流電極62、65と電位差電極63、64の電極の組の順に測定を行う(第1の軸方向測定ステップ)。
【0079】
次に、第2の軸方向(y1軸方向)に配置した、電流電極50、64と電位差電極55、59の電極の組、電流電極51、65と電位差電極56、60の電極の組の順に測定を行う(第2の軸方向測定ステップ)。
【0080】
次に、第3の軸方向(y2軸方向)に配置した、電流電極51、62と電位差電極55、58の電極の組、電流電極52、63と電位差電極56、59の電極の組、電流電極53、64と電位差電極57、60の電極の組の順に測定を行う(第3の軸方向測定ステップ)。
【0081】
ここで、測定装置1Cは、1つの電極を、電流電極と電位差電極の両方として利用するために、交流電源及び交流電位計等との接続をスイッチによって切換える接続制御機構を有している。
【0082】
なお、この測定装置1Cにおいても、電極間間隔dを変化させながら測定し、3次元の体積抵抗率の分布を示すデータマップを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
コンクリート構造物に、例えば鉄心等の導電性物質を予め埋設して、コンクリート材料の塩害による劣化のしやすさを、常時モニタリングすることができる、コンクリート構造物を提供することができる。つまり、導電性物質をコンクリート材料の表面に露出するように設置し、この露出部と、本発明の検査装置の電極材料を接触して、体積抵抗率を極めて高い精度で測定できるコンクリート構造部を提供することが可能となる。
【0084】
例えば、原子力発電所内におけるコンクリートの基礎など、コンクリートの劣化のしやすさを、高い精度でモニタリングする必要のある場合に、最適である。特に、地震により亀裂等が発生した場合、即座に、この亀裂を発見することが可能となる。
【符号の説明】
【0085】
1、1A、1B、1C 測定装置
2 電極
2A 電流電極
2B 電位差電極
3 電極材料
4 電解質供給装置
5 配液管
6 伸縮機構(シリンダ機構)
7 固定冶具
10 コンクリート
11 交流電源
12 交流電流計
13 交流電位計
d、d1、d2、d3 電極間間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象のコンクリートに対して、交流電流を流す2つの電流電極と、前記電流電極の間で交流電位差を測定する2つの電位差電極を、直線状に設置し、前記コンクリートの体積抵抗率を測定する測定方法において、
前記電流電極及び前記電位差電極の端部を、前記コンクリートに接触する接触ステップと、
前記端部に設置した、多孔質性を有する電極材料に、電解質の溶液を供給する電解質溶液供給ステップと、
前記電流電極に電流を流し、前記電位差電極で交流電位差を測定する測定ステップを有することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
測定対象のコンクリートに対して、交流電流を流す2つの電流電極と、前記電流電極の間で交流電位差を測定する2つの電位差電極を、直線状に且つ等間隔に設置し、前記コンクリートの体積抵抗率を測定する測定方法において、
前記電流電極及び前記電位差電極の端部を、前記コンクリートに接触する接触ステップと、
前記端部に設置した、多孔質性を有する電極材料に、電解質の溶液を供給する電解質溶液供給ステップと、
前記電流電極に電流を流し、前記電位差電極で交流電位差を測定する測定ステップを有することを特徴とする測定方法。
【請求項3】
前記測定方法が、2つの前記電流電極と、前記電流電極の間に設置する2つの前記電位差電極の電極間間隔を、等間隔であることを維持したまま、前記電極間間隔の長さを変更する電極間間隔変更ステップを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記測定方法が、前記2つの電流電極と前記2つの電位差電極からなる電極の組を、第1の軸方向に複数列配置し、前記電極の組ごとに順次測定を行う第1の軸方向測定ステップと、
前記電極の組を、第2の軸方向に複数配置し、前記電極の組ごとに順次測定を行う第2の軸方向測定ステップと、
前記第1及び第2の軸方向測定ステップで得た測定値を合成し、2次元の体積抵抗率分布を示すデータマップ生成ステップを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の測定方法。
【請求項5】
前記測定方法が、第1の軸方向の前記電極の組の電極間間隔の長さを、変更しながら測定する第1の軸方向電極間間隔変化測定ステップと、
第2の軸方向の前記電極の組の電極間間隔の長さを、変更しながら測定する第2の軸方向電極間間隔変化測定ステップと、
前記第1の軸方向測定ステップと、前記第2の軸方向測定ステップと、前記第1の軸方向電極間間隔変化測定ステップと、前記第2の軸方向電極間間隔変化測定ステップで得た測定値を合成し、3次元の体積抵抗率分布を示すデータマップ生成ステップを有することを特徴とする請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
測定対象のコンクリートに対して、交流電流を流す2つの電流電極と、前記電流電極の間で交流電位差を測定する2つの電位差電極を、直線状に設置し、前記コンクリートの体積抵抗率を測定する測定装置において、
前記電流電極及び前記電位差電極の端部に設置した、多孔質性を有する電極材料と、
前記電極材料に、電解質の溶液を供給する電解質供給装置を有することを特徴とする測
定装置。
【請求項7】
測定対象のコンクリートに対して、交流電流を流す2つの電流電極と、前記電流電極の間で交流電位差を測定する2つの電位差電極を、直線状に且つ等間隔に設置し、前記コンクリートの体積抵抗率を測定する測定装置において、
前記電流電極及び前記電位差電極の端部に設置した、導電性を有し且つ多孔質性を有する電極材料と、
前記電極材料に、電解質の溶液を供給する電解質供給装置を有することを特徴とする測定装置。
【請求項8】
前記測定装置が、前記2つの電流電極と、前記電流電極の間に設置する2つの前記電位差電極の電極間間隔を、等間隔であることを維持したまま、前記電極間間隔の長さを変更する固定冶具を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の測定装置。
【請求項9】
前記測定装置が、平面上に等間隔に配置した複数の電極と、
前記複数の電極と前記交流電源又は前記交流電位差計の接続を切換える接続制御装置と、
前記複数の電極で得た測定値を合成し、2次元の体積抵抗率分布を示すデータマップを生成する演算装置を有することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1つに記載の測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−22032(P2011−22032A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167914(P2009−167914)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人日本コンクリート工学協会 刊行物名:コンクリート工学年次論文集 第31巻 巻数:第31巻 号数:31 発行年月日:2009年6月15日 研究集会名:コンクリート工学年次大会2009(札幌) 主催者名:社団法人日本コンクリート工学協会 開催日:2009年7月8日〜2009年7月10日
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】