説明

コンクリートの耐久性改善法

【課題】 アルカリ骨材反応等によってコンクリートにひび割れが発生しても,コンクリ
ート中への水の浸透を抑制できるようにする。
【解決手段】 コンクリートの表面にセメント系材料の下地層を形成してからその上に吸水防止材を塗布するコンクリートの耐久性改善法において,前記のセメント系材料として材齢28日の硬化体の引張試験にて引張ひずみ1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料を使用し,前記の吸水防止材としてシラン・シロキサン系の浸透性吸水
防止材を使用することを特徴とするコンクリートの耐久性改善法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えばアルカリ骨材反応等によってコンクリートにひび割れが発生しても,コンクリート中への水の浸透を抑制できるようにしたコンクリートの耐久性の改善法に関
する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の耐久性を向上させるには,新設時もしくは補修時に,コンクリート表面に対して水の浸透を抑制する手段を講ずるのが有効である。コンクリート中への水の浸透を抑制する方法として,セメント系モルタルやポリマーセメントモルタル等を覆工
する表面被覆工法や,撥水材などの吸水防止材塗布工法が適用されている。
【0003】
特許文献1には,コンクリートに浸透性を有するシラン・シロキサン系撥水剤をプライマーとして下塗りしてから,その上にセメント系モルタルやポリマーセメントモルタル等の被覆材を被覆する表面被覆工法が記載されている。特許文献1に記載のようなシラン・シロキサン系撥水材は,コンクリートに浸透してシリコーンを形成するので,接着強度の高い撥水層を形成でき,したがって,この上に被覆材を被覆することで,コンクリートの
耐久性を向上させることができる。
【0004】
アルカリ骨材反応によって劣化したコンクリート構造物の補修においては,躯体内部のの水分を水蒸気として放出する機能をもつ浸透性吸水防水材などを塗布することが行われ
ている。
【特許文献1】特開2003−48790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シラン・シロキサン系撥水材は,コンクリートへの浸透性を有するので接着性に優れ,長期にわたってコンクリート中への水の浸透を抑制することができるが,このような浸透性吸水防止材を塗布しておいてもコンクリートにひび割れが発生すると,そのひび割れの程度によっては,その割れを通じてコンクリート内に水が浸透することになる。例えば,アルカリ骨材反応に伴う膨張などによってコンクリート躯体に幅の大きなひび割れが生じる場合には,このような浸透性吸水防止材が施されていても,ひび割れ中に水が侵入するようになる。本発明は,このような場合でもコンクリートへの吸水防止効果が発現できる
ようにすることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決すべく,コンクリート表面に対してセメント系材料からなる下地層を形成してから吸水防止材を塗布してコンクリートの耐久性を改善するのであるが,そのさい,本発明によれば,前記のセメント系材料として,材齢28日の硬化体の引張試験にて引張ひずみ1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料を使用し,また,前記の吸水防止材として,シラン・シロキサン系の浸透性吸水防止材を使用することを特
徴とする。
【0007】
ここで,クラック分散型の繊維補強セメント複合材料は,下記〔M1〕の条件を満たすセメント調合材料に,下記〔F1〕の条件を満たすPVA短繊維(ビニロン繊維)を1〜
3vol.%の配合量で配合したものである。
〔M1〕(セメント系調合材料)
水結合材比:25%以上
細骨材と結合材の重量比:1.5以下(0を含む)
単位水量:250〜450Kg/m3
高性能AE減水剤:30Kg/m3未満
〔F1〕(ビニロン繊維)
繊維径:50μm以下
繊維長:5〜20mm
繊維引張強度:1500〜2400MPa
【0008】
また,シラン・シロキサン系浸透性吸水防止材は下記のA〜Dの成分からなり且つA/Bの重量比が50/1〜10/1で,A+Bの合計量が全組成物中の60〜90重量%である。A:アルキルアルコキシシラン,B:ポリオルガノシロキサン,C:乳化剤,およ
びD:水。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
コンクリート構造物の耐久性向上方法として,シラン・シロキサン系撥水材のように浸透性吸水防止材を用いることが有効であるが,幅の大きなひび割れが生じてしまう場合にはその効果を期待できず,特にアルカリ骨材反応による膨張などによってひび割れが発生
する場合には,十分な効果を期待することができない。
【0010】
このような浸透性吸水防止材をコンクリート構造物の表面に塗布した場合に,コンクリートに発生するひび割れが0.2mm未満の小さな幅を有するものであるときには,後記の実験結果例のように,吸水防止効果を十分に発揮できる。すなわち,コンクリートにひび割れが発生しても,それが微小クラックの状態に維持されているのであれば,塗布され
た浸透性吸水防止材の吸水防止効果は維持される。
【0011】
本発明は,この点に着目し,コンクリート構造物に発生したひび割れが浸透性吸水防止材の下地層では微小クラックの状態に維持されるようにひび割れを人工的にコントロールする点に特徴がある。すなわち,幅の大きなクラックにまでは発展しないクラック分散型の高靭性のモルタルを下地層としてコンクリート表面に被覆し,その上に浸透性吸水防止
材を塗布するのである。
【0012】
このようなクラック分散型の高靭性モルタルが最近開発されている。例えば特開2000−7395号公報には,補強繊維として適切なPVA(ポリビニールアルコール)の短繊維(ビニロン短繊維)を使用し,これを適切なセメント系調合材料に配合してなるクラック分散型の繊維補強セメント複合材料が記載されている。このクラック分散型の繊維補強セメント複合材料は,配合するPVA短繊維の強度,寸法および配合量と,セメント系マトリックスの材料配合とを適切に組み合わせることによって,硬化体に初期クラックが生じても,そのクラックに架橋した繊維が引張張力を負担し,その間に別の箇所でクラックが生じ,そのクラックが架橋繊維で伝播が防止されている間に次のクラックが発生するという具合に,繊維で架橋された微細なクラックが順次発生するというメカニズムによって,みかけ上は非常に大きな引張ひずみが生じても(曲げ変形が生じても)荷重に耐える
ことができるものである。
【0013】
このようなクラック分散型のPVA補強セメント複合材料を,例えば吹付け等によって増厚工法や断面修復工法として,コンクリート表面に被覆したあと,この被覆層の上に浸透性吸水防止材を塗布すると,コンクリートにひび割れが発生することがあっても,該被覆層では微細なクラックが発生したとしても大きなクラックには至らず,そのクラックの幅は前記のように浸透性吸水防止材が効果を示す0.2mm以内に収めることができる。したがって,アルカリ骨材反応等によってコンクリート内部が膨張してひび割れが発生したとしても,下地層では大きなクラックには至らないから浸透性吸水防止材の吸水防止効
果が維持される。
【0014】
本発明で使用するクラック分散型のPVA補強セメント複合材料は,下記〔M1〕の条件を満たすセメント調合材料に,下記〔F1〕の条件を満たすPVA短繊維(ビニロン繊維)を1〜3vol.%(重量換算では13〜39Kg/m3)の配合量で配合したものであ
る。
〔M1〕(セメント系調合材料)
水結合材比:25%以上
細骨材と結合材の重量比:1.5以下(0を含む)
単位水量:250〜450Kg/m3
高性能AE減水剤:30Kg/m3未満
〔F1〕(ビニロン繊維)
繊維径:50μm以下
繊維長:5〜20mm
繊維引張強度:1500〜2400MPa
【0015】
ここで,M1のセメント系調合材料のうち,結合材としては,普通ポルトランドセメントを使用することができ,この普通ポルトランドセメントに加えてシリカ系粉末(人工ポゾラン)を使用することができる。シリカ系粉末としては,シリカフューム,フライアッシュ,各種スラグ粉などが適用できる。したがって,前記M1において,水結合材比≧25%,細骨材と結合材の重量比≦1.5と規定する「結合材」は,シリカ系粉末を含む場
合には「ポルトランドセメント+シリカ系粉末」を意味する。
【0016】
細骨材としては,最大粒径0.8mmの細粒体を使用するのが好ましく,とくに平均粒径が0.4mm以下のものがよい。この条件を満たす細粒体であれば硅砂や石灰石粉等の任意のものを骨材成分として使用できる。この細粒体と結合材との重量比(S/C)が1
.5以下となるようにこれらを配合するのがよい。
【0017】
混和剤としては,高性能AE減水剤,増粘剤,収縮低減剤などが使用でき,このうち,高性能AE減水剤の使用は本発明において重要である。高性能AE減水剤としては,ポリカルボン酸系,ポリエーテル系,ナフタレン系,メラミン系,アミノスルホン酸系等のものが使用できる。この中でもポリカルボン酸系またはポリエーテル系のものが好ましい。増粘剤としてはコンクリート用増粘剤として公知の水溶性高分子系のものが使用できるが,とくに微生物醗酵によるバイオサッカライド系の増粘剤例えばウエランガムやデュータンガム等を使用することが好ましい。このようなバイオポリマーを使用する場合には,その添加量としては,単位水量に対して0.01〜10%程度(単位重量としては0.04〜40Kg/m3程度)を配合すればよい。市場で入手し得るウエランガムとして例えばデュータンKT(三晶株式会社製)があり,これを使用する場合には20Kg/m3程度
を配合すればよい。また,収縮低減剤や膨張材も必要に応じて使用できる。
【0018】
〔F1〕の条件を満たすPVA(ビニロン)短繊維としては,ポリビニールアルコール樹脂を原料として製造されたコンクリートと同等以上の弾性係数を有する短繊維であるのが好ましく,代表的なものとして,引張強度が1600N/mm2級,弾性係数(ヤング率)が40000(4.0×104)N/mm2級で,比重が約 1.3で形状が0.04mmφ×12mmの公知のもの(株式会社クラレ製)が使用できる。ビニロン短繊維の配合量が1vol.%未満ではクラック発生後の耐力が十分ではない。他方,ビニロン短繊維の配合量が3.0vol.%を超えるような多量となると,施工上必要な流動性を満たすことが困難なる。単位重量でのビニロン繊維の配合量としては13〜39Kg/m3の範囲とすれ
ばよい。
【0019】
〔M1〕の条件を満たすセメント系調合材料と〔F1〕の条件を満たすPVA短繊維とをミキサーを用いて混練する場合には,下記(1) 〜(4) および(5) の手順を経て練り混ぜた場合に,目標とする引張ひずみ1%以上のクラック分散型の高靭性FRC材料を得るこ
とができる。
【0020】
〔練り混ぜ手順〕
(1) 結合材,骨材成分および配合水の一部を練り混ぜる。
(2) 高性能AE減水剤および配合水の残部を添加して練り混ぜ,J14ロート流下時間が
5〜30秒の流動物とする。
(3) 増粘剤を添加して練り混ぜる。
(4) PVA短繊維を添加して練り混ぜる。
【0021】
練り混ぜ手順(4) のあとに,さらに(5) 高性能AE減水剤を添加して練り混ぜることもできる。セメント系調合材料にはさらに膨張材を含ませることができ,この場合には,膨張材を手順(1) で配合することができる。セメント系調合材料にはさらに収縮低減剤を含
ませることができ,この場合には,収縮低減剤を手順(1) で配合することができる。
【0022】
すなわち,まず(1) 結合材,骨材成分および配合水の一部を投入して練り混ぜる。この場合,結合材および膨張材などの粉体成分を該ミキサーに全量投入し配合水の一部(例えば2/3程度)を添加して混練するのがよい。ついで,(2) 高性能AE減水剤および配合
水の残部を添加して練り混ぜ,J14ロート流下時間が5〜30秒の流動体とする。
【0023】
この手順(2) においては,高性能AE減水剤の目標添加量の一部を使用し,残部は以後
の手順(5) で添加することができる。このように高性能AE減水剤を手順(2) と手順(5)
で分割添加する場合,手順(2) ではその2/3程度を添加し,手順(5) では残部とするのがよく,しかも,手順(2) の段階では,先ず配合水の残部を添加して所定の時間練り混ぜてから,分割された高性能AE減水剤を添加して練り混ぜるのが好ましい。いずれにしても,手順(2) ではJ14ロート試験において,流下時間が5〜30秒を示すような流動性の良い混練物とすることが肝要である。すなわち,増粘剤およびPVA短繊維を添加する前の段階においては,粉体の全体が均一に混練物中に分散しており(乾いた粉状のものが
偏在していない),ロート中をゆっくり流れるような流動性を示すことが必要である。
【0024】
この条件が満たされると,増粘剤およびPVA短繊維を添加して混練すれば,繊維が均一に分散した混練物を得ることができる。しかし,増粘剤を添加して混練したあと繊維を添加して混練することがより好ましく,この順序が逆の場合には)すなわち繊維を添加して混練したあと増粘剤を添加して混練すると),繊維の分散性が前者より若干劣るようになる。したがって,まず手順(3) により増粘剤を添加して練り混ぜ,ついで,手順(4) に
よりPVA短繊維を添加して練り混ぜることが好ましい。
【0025】
最後に,流動性の調整のために高性能AE減水剤を投入して練り混ぜる手順(5) を採用することが好ましく,これにより,スランプフロー300〜700mmの範囲で,その流動性を自由に調整できる。得られた混練物は通常の吹付け装置を用いて吹付け施工が可能である。もちろん,吹付け施工に代えて塗工を採用することができるし,場合によっては
コンクリート表面への打設であってもよい。
【0026】
このようにして得られるクラック分散型の高靭性FRC材料(モルタル)を用いて,所要のコンクリート表面を被覆し,これを下地層としその上に浸透性吸水防止材を塗布するのであるが,この浸透性吸水防止材としては,下記のA〜Dの成分からなり且つA/Bの重量比が50/1〜10/1で,A+Bの合計量が全組成物中の60〜90重量%であるシラン・シロキサン系のエマルジョンを使用するのが好ましい。A:アルキルアルコキシ
シラン,B:ポリオルガノシロキサン,C:乳化剤およびD:水。
【0027】
ここで,A成分であるアルキルアルコキシシランは,下記の一般式(1)で表されるも
のが好ましい。
1xSi(OR2)4-x ・・(1)
式中,R1は同一または異なっていてもよい炭素数1〜20のアルキル基,R2は同一または異なっていてもよい炭素数1〜6のアルキル基または水素原子,Xは1または2の
整数を表す。
【0028】
式(1)中のR1の例は,メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基, tert-プチル基, n−ペンチル基,イソペンチル基,ネオペンチル基, tert-ペンチル基,n−ヘキシル基のようなヘキシル基,n−ヘプチル基のようなヘプチル基,n−オクチル基および2,2,4−トリメチルペンチルのようなオクチル基,n−ノニル基のようなノニル基,n−デシル基のようなデシル基およびn−ドデシル基のようなドデシル基などのアルキル基,シクロペンチル基,シクロへキシル基,4−エチルシクロへキシル基,シクロへプチル基,ノルボルニル基及びメチルシクロヘキシル基のようなシクロアルキル基であり,分子中で同一または異なっていてもよい。好ましい
1は炭素数4〜10のアルキル基である。
【0029】
式(1)中のR2の例は,メチル基,エチル基,n −プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基, tert-ブチル基,n −ペンチル基,イソペンチル基,ネオペンチル基, tert-ペンチル基,n −ヘキシル基のようなへキシル基であり,分子中で同一または異なっていてもよい。これらのなかでも好ましいR2は炭素数1又は2のアルキル
基である。
【0030】
B成分であるポリオルガノシロキサンは下記の平均組成式(2)で表わされるものが好
ましい。
3a (OR4)b Si(OH)c O(4-a-b-c) ・・(2)
式中,R3は炭素数1〜20のアルキル基,R4は炭素数1〜6のアルキル基,a,b,cは各々 0.5<a≦2.0 , 0≦b<2.0 , 0≦c<2.0 の任意の値であり,a+b+c
は3以下である。
【0031】
式(2)中のR3の例は,メチル基,エチル基,b−プロピル基,イソプロピル基,n
−ブチル基,イソブチル基, tert-プチル基,n−ペンチル基,イソペンチル基,ネオペンチル基, tert-ペンチル基,n−へキシル基のようなへキシル基,n−へプチル基のようなへプチル基,n−オクチル基及び2,2,4−トリメチルペンチル基のようなオクチル基,n−ノニル基のようなノニル基,n−デシル基のようなデシル基及びn−ドデシル基のようなドデシル基などのアルキル基,シクロペンチル基,シクロへキシル基,4−エチルシクロへキシル基,シクロへプチル基,ノルボルニル基及びメチルシクロへキシル基
のようなシクロアルキル基であり,分子中で同一または異なっていてもよい。
【0032】
式(2)中のR4の例は,メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基, tert-ブチル基,n−ペンチル基,イソペンチル基,ネオペンチル基, tert-ペンチル基,n−へキシル基のようなへキシル基であり,分子中で同一または異なっていてもよい。これらのなかでも好ましいR4は,炭素数1又は2のアルキル基である。式(2)においての平均組成としては,各々0.5 <a≦2.0, 0 ≦b<2.0,
0≦c<2.0 の値であって,好ましくは,0.8 <a≦2.0, 0 ≦b<1.7, 0 ≦c<0.5
で,1.0 <a+b+c<3.0 である。
【0033】
B成分の粘度は,25℃で10 mPa・S 〜2000 mPa・S であることが好ましい。10 mPa・S 未満,または2000 mPa・S より高いとシラン/シロキサン成分の多孔質材料の細孔への浸透が不均一となり好ましくない。特に好ましい粘度は10 mPa・S 〜1000 mPa・S である。B成分のポリオルガノシロキサンは,当業者にとっては,公知の方法によって製造することができる。例えば,メチルトリクロロシランとジメチルジクロロシランとの混合物をアルコールの存在下に加水分解縮合を行う方法,メチルトリアルコキシシランとジメチルジアルコキシシランとをアルカリ触媒下に加水分解縮合を行う方法な
どがある。このポリオルガノシロキサンの2種以上を混合して使用することができる。
【0034】
使用するシラン・シロキサン系のエマルジョン中,成分AとBの合計量は60〜90重量%であることが必要である。60重量%未満では,エマルジョンの粘度が低くてクリーム状とならず,90重量%を超えると,エマルジョンの粘度が高すぎて塗布の作業性が劣ることとなる。好ましい成分AとBのの合計量は70〜85重量%である。またエマルジョン中,A成分とB成分との重量比A/Bは50 /1 〜10/1であるのがよく,重量比範囲外では下地層であるクラック分散型の繊維補強セメント複合材料への高い浸透性が得
られない。
【0035】
C成分の乳化剤としては各種公知の乳化剤を使用することができる。アニオン乳化剤としては,炭素原子数8〜18の鎖長を有するアルキルスルフェート,疎水性基中に8〜18個の炭素原子数を有し,かつ1〜40個のエチレンオキシド(EO)又はプロピレンオキシド(po)単位を有するアルキル及びアルカリールエーテルスルフェート,8 〜18個の炭素原子数を有するアルキルスルホネート,アルキルアリールスルホネート,一価アルコール又はアルキルフェノールとのスルホコハク酸のエステル及び半エステルを挙げることができる。非イオン乳化剤としてはポリビニルアルコール,3〜40個のエチレンオキシド(EO)単位及び8〜20個の炭素原子数を有するアルキルとからなるアルキルポリグリコールエーテル,エチレンオキシド/プロピレンオキシド(EO/PO)ブロック共重合体,アルキルアミンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシドとの付加生成物などを挙げることができる。カチオン乳化剤としては炭素原子数8〜24個を有する第一級,第二級及び第三級脂肪アミンの塩,第四級アルキル及びアルキルべンゾールアンモニウム塩,アルキルピリジニウム塩,アルキルイミダゾリニウム塩及びアルキルオキサゾリニウム塩,長鎖の置換アミノ酸,ベタインなどを挙げることができる。好ましい乳化剤は,非イオン乳化剤,特にアルキルポリグリコールエーテル,エチレンオキシド又はプロピレンオキシドとのアルキルアミンの付加生成物,及びポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールは,酢酸ビニル単位を5〜20%含有し,500〜3000の重合度を有するものが好ましい。乳化剤の量は,エマルジョンに対して通常0.1〜10重量%であり,好ましく
は0.1〜5重量%である。
【0036】
エマルジョンには,A成分のシランが加水分解に対して安定になるように,pH値を5〜8の範囲内に安定化させる緩衝剤を含有させることが有効である。緩衝剤としては,エマルジョンの他の成分に対して化学的に不活性である各種の有機及び無機の酸及び塩基を用いることができ,カルボン酸,リン酸,炭酸及び硫酸のアルカリ塩,アルカリ土類塩及びアンモニウム塩などが適当である。炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,リン酸水素ナトリウム及び酢酸とアンモニア水とからなる混合物がより好ましい。緩衝剤の使用量は,エマルジョンに対して3 重量%以下である。また,エマルジョンには,殺カビ剤,殺菌剤,殺藻剤,殺微生物剤,香料,防食剤及び消泡剤を添加することができる。これらの添
加物は,エマルジョンに対して0.01〜2重量%の範囲であることが適当である。
【0037】
このエマルジョンは,下地層であるクラック分散型の繊維補強セメント複合材料に対して刷毛塗り又は吹付け塗装で塗布することができ,そのさいの塗布量は400g/m2以下,特に100〜250g/m2であるのがよい。このエマルジョンはクリーム状であるために一度の塗装で所要量を塗布することが可能だが,重ね塗りすることもできる。また
クリーム状であると垂直面へ塗布しても流れ落ちることがない点で有利である。
【実施例】
【0038】
〔試験1〕
表1に示したセメント調合材料とPVA短繊維を,表2に示す配合のもとで練り混ぜ,厚みが mmのプレートに成形して硬化させた。得られたクラック分散型の繊維補強セメント複合材料(材齢28日)の片面に,表3に示す配合のシラン・シロキサン系の浸透性吸水防止材エマルジョンを刷毛を用いてほぼ200g/m2の塗布量となるように塗布し,温度20℃,湿度60%の雰囲気中で3日間気乾養生した。表3のエマルジョンの各成
分と量比は次のとおりである。
iC8:アルキルアルコキシシラン成分としてのイソオクチルトリエトキシシラン=38
重量部,
MS1:組成式がCH3Si(OC250.81.1のポリオルガノシロキサン(25
℃における粘度≒30mPa・s)=2重量部
E1:乳化剤成分としてのイソトリデシルアルコールグリコールエーテル=0.13重量
部,
水:10重量部
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
得られた塗布済プレートに対し,板面に平行な方向にゆっくりと引張応力を加えることにより,応力方向とはほぼ垂直な方向に多数のクラックが発生させた。これにより,平均的なひび割れ幅が0.1mmのクラックが分散した引張試験材と,0.05mmのクラックが分散した引張試験材が得られた。次いで,このクラックが発生したままの試験材を底板とした水密な水槽を構成し,この水槽内に水を入れて所定高さの水面を維持させ,その作用水頭(水面高さ=mm)と,水槽内の水が該プレートの底板を通じて流出した水量(低下水量=mm)との関係を調べた。その結果を,該プレートのひび割れ幅について整理したうえで,図1に示した。なお,図1において,ひび割れ幅が0.2mmのものは,繊維を配合しない普通モルタルに0.2mm幅の傷を入れることによって作成した比較例を
示している。
【0043】
図1の結果から,本発明に従うクラック分散型の繊維補強セメント複合材料に浸透性吸水防止材を塗布した場合には,クラックが発生しても,そのクラックが0.2mm未満に維持され,この場合には,浸透性吸水防止材の浸透防止効果が十分に維持されることがわかる。また0.2mmのクラックが発生すると,浸透性吸水防止材であっても,作用水頭
に応じて浸水が生じ,十分な吸水防止効果を示さないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】浸透性吸水防止材を塗布したクラック分散型の繊維補強セメント複合材料に対する作用水頭と浸水量(低下水位)との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの表面にセメント系材料の下地層を形成してからその上に吸水防止材を塗布するコンクリートの耐久性改善法において,前記のセメント系材料として材齢28日の硬化体の引張試験にて引張ひずみ1%以上を示すクラック分散型の繊維補強セメント複合材料を使用し,前記の吸水防止材としてシラン・シロキサン系の浸透性吸水防止材を使用
することを特徴とするコンクリートの耐久性改善法。
【請求項2】
クラック分散型の繊維補強セメント複合材料は,下記〔M1〕の条件を満たすセメント調合材料に,下記〔F1〕の条件を満たすPVA短繊維(ビニロン繊維)を1〜3vol.%
の配合量で配合したものである請求項1に記載のコンクリートの耐久性改善法。
〔M1〕(セメント系調合材料)
水結合材比:25%以上
細骨材と結合材の重量比:1.5以下(0を含む)
単位水量:250〜450Kg/m3
高性能AE減水剤:30Kg/m3未満
〔F1〕(ビニロン繊維)
繊維径:50μm以下
繊維長:5〜20mm
繊維引張強度:1500〜2400MPa
【請求項3】
シラン・シロキサン系浸透性吸水防止材は下記のA〜Dの成分からなり且つA/Bの重量比が50/1〜10/1で,A+Bの合計量が全組成物中の60〜90重量%である請
求項1または2に記載のコンクリートの耐久性改善法。
A:アルキルアルコキシシラン
B:ポリオルガノシロキサン
C:乳化剤
D:水

【図1】
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【公開番号】特開2006−36586(P2006−36586A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218472(P2004−218472)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】