説明

コンクリートの脱型時期判定方法

【課題】山岳トンネルの覆工コンクリートのように硬化途中の若材齢のコンクリートの脱型時強度を非破壊で簡易に正確に推定することができるコンクリートの脱型時期判定方法を提供する。
【解決手段】トンネル1の覆工コンクリート2打設時にセントルのクラウン部3妻部で内部温度を測定し(工程1)、現場コンクリートと同一材料の立方体供試体と円柱供試体を作製し、前記の測定温度を与えた恒温養生室で養生し(工程2)、16時間〜24時間の経過時に、立法体供試体の振り子式ハンマー試験機による反発度測定と、円柱供試体の一軸圧縮試験を同時に行い、反発度と一軸圧縮強度曲線を得(工程3)、妻部の型枠を一部取り外し、振り子式ハンマー試験機で現場コンクリートの反発度を測定し、前記曲線を用いてその圧縮強度を推定し(工程4)、予め定めた脱型可能強度に達していればセントル全体を下げて脱型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルの覆工コンクリート等の脱型時期を非破壊で推定するコンクリートの脱型時期判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの覆工コンクリート等の打設施工においては、品質確保のためにも、セントル(移動式の鋼製型枠)の脱型時期を見極める必要がある。この脱型時強度を推定する方法として、解析もしくは経験的に必要脱型強度を定め、試験練りによって作成した円柱供試体を一軸圧縮試験機により破壊検査して得た一軸圧縮強度と材齢から、原位置での必要養生時間を推定し、必要養生時間の経過を確認した後に脱型を行っていた。
【0003】
しかしながら、トンネル坑内は路盤からクラウン部(アーチの頂部)にかけて一定の雰囲気温度ではなく、また供試体の養生温度とも同一ではない。このため、上記の従来方法は、実際には異なる養生履歴によって硬化したコンクリートの推定強度から脱型時間を定めており、実際に打設した覆工コンクリートの脱型時の強度は不明である。
【0004】
一方、コンクリートの簡易な一般的な強度推定方法として、非破壊式コンクリート圧縮強度ハンマー試験機(商品名:シュミットコンクリートテストハンマー)のハンマー反発度による推定方法があるが、この方法は硬化したコンクリートに対して有効な方法であり、一般に2〜3N/mm程度で脱型される覆工コンクリートのような若材齢のコンクリートには適用できない。
【0005】
上記のハンマー試験機のうちで、振り子式のハンマー試験機は、前述の0.2〜5N/mmの低強度コンクリートの反発度を測定することが可能である。測定された反発度を読み、同試験機付帯の強度相関グラフから圧縮強度を簡易に得ることができる。
【0006】
しかしながら、それでも、若材齢のコンクリートは硬化途中でもあることから、打設形状や使用材料等の違いによって強度が異なり、普遍的な反発度−一軸圧縮強度曲線を得ることができず、実用的な強度推定は困難であった。
【0007】
また、本発明に関連する先行技術文献としては、特許文献1〜3がある。特許文献1の発明は、供試体を覆工コンクリートの圧縮強度を正確に推定する方法であり、トンネル一次覆工コンクリートの硬化時の温度履歴を測定する工程と、測定した温度履歴を与えながら養生させることで供試体を作成し、該供試体に圧縮強度試験を行う工程と、この試験結果により積算温度と圧縮強度の関係を求める工程と、以降の施工の際は、覆工コンクリートの打設後の温度履歴を測定して積算温度を算出する工程、この算出した積算温度と先に供試体を用いて求めた積算温度と圧縮強度との関係より、現在養生中のコンクリートの圧縮強度を推定するものである。
【0008】
特許文献2の発明は、打設されたコンクリートの温度を温度センサにより測定し、測定したコンクリートの温度から積算温度を演算装置によって算出すると共に、該積算温度と予め設定されたコンクリートの配合条件に対応した算出式によりコンクリートの圧縮強度を算出し推定するものである。
【0009】
特許文献3の発明は、反発硬度測定手段(シュミットハンマ)を用い、簡単な数式を用いて、精度の高い硬化コンクリート強度を測定するものである。
【0010】
【特許文献1】特開平11−271301号公報
【特許文献2】特開2003−279512号公報
【特許文献3】特開2004−233372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、低強度コンクリートの反発度を測定可能な振り子式のハンマー試験機を用いる推定方法では、若材齢のコンクリートは硬化途中でもあることから、打設形状や使用材料の違い等によって強度が異なり、普遍的な反発度−一軸圧縮強度曲線を得ることができず、実用的な強度推定は困難であるという課題があった。
【0012】
本発明は、このような課題を解消すべくなされたものであり、山岳トンネルの覆工コンクリートのように硬化途中の若材齢のコンクリートの脱型時強度を非破壊で簡易に正確に推定することができるコンクリートの脱型時期判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1は、型枠を用いて打設したコンクリートの脱型時期を判定する方法であり、現場(原位置)において打設コンクリートの硬化中の内部温度を測定する工程(工程1)と、この測定した温度で養生することにより供試体を作成する工程(工程2)と、この供試体の試験結果により反発度と一軸圧縮強度の相関関係を得る工程(工程3)と、この相関関係を用いて現場(原位置)における打設コンクリートの反発度から現場(原位置)における打設コンクリートの一軸圧縮強度を推定して脱型の可否を判定する工程(工程4)からなることを特徴とするコンクリートの脱型時期判定方法である。
【0014】
本発明の請求項2は、型枠(セントル等)を用いて打設したトンネル覆工コンクリートの脱型時期を判定する方法であり、現場(原位置)において打設トンネル覆工コンクリートの硬化中の内部温度を測定する工程(工程1)と、この測定した温度で養生することにより供試体を作成する工程(工程2)と、この供試体の試験結果により反発度と一軸圧縮強度の相関関係を得る工程(工程3)と、この相関関係を用いて現場(原位置)におけるトンネル覆工コンクリートの反発度から現場(原位置)におけるトンネル覆工コンクリートの一軸圧縮強度を推定して脱型の可否を判定する工程(工程4)からなることを特徴とするトンネル覆工コンクリートの脱型時期判定方法である。
【0015】
本発明の請求項3は、請求項2に記載のトンネル覆工コンクリートの脱型時期判定方法において、トンネル覆工コンクリートのクラウン部(アーチ部の頂部)の妻部で、内部温度の測定と反発度の測定を行うことを特徴とするトンネル覆工コンクリートの脱型時期判定方法である。
【0016】
本発明は、建築物や構造物の打設コンクリートあるいはトンネル覆工コンクリート(図1参照)などにおける、硬化途中の若材齢のコンクリートの脱型時強度の推定すなわち脱型時期の判定に有効に適用される。
【0017】
工程1では、現場の原位置において、打設養生中のコンクリート中にコンクリート温度計を挿入し、内部温度を測定し、設定時間内の内部温度の平均値を求める。
【0018】
工程2では、現場の原位置でのコンクリートと同一材料を用いて、コンクリート厚さに対応した振り子式ハンマー試験用の立方体供試体及び一軸圧縮試験用の円柱供試体(図2参照)を作製し、恒温養生室において養生する。
【0019】
工程3では、所定の時間(例えば16時間〜24時間)が経過すると、低強度コンクリートの反発度を測定可能な振り子式ハンマー試験機による立方体供試体の反発度測定と、円柱供試体の一軸圧縮試験を同時に行い、反発度−一軸圧縮強度曲線を得る(図3参照)。
【0020】
工程4では、現場の原位置における養生中のコンクリートの型枠の一部を外し、上記の振り子式ハンマー試験機を用いて反発度を測定する。工程3で得られた反発度−一軸圧縮強度曲線を用いて現場打設コンクリートの圧縮強度を推定し、予め定めた脱型可能強度に達していることを確認して脱型を行う。
【0021】
若材齢のコンクリートは硬化途中でもあることから、打設形状や使用材料の違い等によって強度が異なり、さらに養生温度にも影響を受ける。また、例えば覆工コンクリートは厚さ300mm以上のコンクリートであり、内部温度と雰囲気温度は大きく異なる。このため、雰囲気温度での養生では、打設されたコンクリートと同様の硬化過程が得られない。また、コンクリート材料が異なれば、内部発熱温度も異なる。そのため、本発明では、実際に打設したコンクリート内部での発熱温度を測定し、その温度で同一コンクリート材料の供試体を養生することにより、現場打設されたコンクリートと同様の硬化過程が得られる。
【0022】
このような実際の打設コンクリートと同様の硬化過程で養生された供試体に対して、振り子式ハンマー試験と一軸圧縮試験を行うことにより、実際の打設コンクリートと同様の反発度−一軸圧縮強度曲線が得られる。さらに、実際の打設コンクリートの反発度を前記の振り子式ハンマー試験機を用いて測定し、上記の反発度−一軸圧縮強度曲線を用いて、実際の打設コンクリートの圧縮強度を推定することにより、硬化途中の若材齢のコンクリートの脱型時強度を非破壊で簡易に正確に推定することができる。
【0023】
トンネル覆工コンクリートにおいては、内部温度の測定と反発度の測定をトンネル覆工コンクリートのクラウン部(アーチ部の頂部)の妻部で行えばよい(図1参照)。即ち、覆工コンクリートのクラウン妻部は最後にコンクリートが充填される部位であり、この位置での強度を確認すれば、その他の部位の強度はそれ以上であると推定できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果を奏することができる。
【0025】
(1) 山岳トンネルの覆工コンクリートなどのように硬化途中の若材齢のコンクリートの脱型時強度を非破壊で正確に推定することができ、信頼性の高い施工管理・品質確保が可能となる。
【0026】
(2)コンクリート温度計、従来のハンマー試験機及び一軸圧縮試験機等を用いることができ、低コストで正確な脱型時期の判定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明のコンクリートの脱型時期判定方法が適用される山岳トンネルの一例を示す断面図である。山岳トンネル1のアーチ部の覆工コンクリート2がセントル(移動式の鋼製型枠)によって打設される。この覆工コンクリート2のクラウン部(アーチ部の頂部)3に本発明の脱型時期判定方法が適用される。
【0028】
図2は、本発明で用いられる供試体の一例を示す斜視図と正面図である。供試体は、現場の覆工コンクリートと同一材料を用いて製作される。図2(a)は、0.2〜5N/mmの低強度コンクリートの反発度を測定可能な振り子式ハンマー試験機(商品名:シュミットコンクリートテストハンマー)10の立方体供試体20であり、覆工コンクリート2の厚さに対応した30cm×30cm×30cmあるいはこの寸法以上の立方体コンクリートが用いられる。この立方体供試体20の表面には測定点がけがきされている。なお、振り子式ハンマー試験の反発度は、対象供試体の寸法や境界条件に影響を受けるため、この影響を無視し得る供試体として立方体供試体を固定して用いる。図2(b)は一軸圧縮試験に供する円柱供試体30である。
【0029】
本発明の脱型時期判定方法を次のような手順で実施する。
【0030】
(1) 工程1:第1回目の覆工コンクリート打設時にセントルのクラウン妻部からコンクリート温度計を覆工コンクリート2中に挿入し、内部温度を測定し、設定時間内の内部温度の平均値を求める。
【0031】
(2) 工程2:現場における原位置での覆工コンクリート2と同一材料を用いて立方体供試体20と円柱供試体30を作製し、これらを、工程1で測定したコンクリート温度を与えた恒温養生室において養生する。
【0032】
(3) 工程3:16時間〜24時間の各時間経過時に、立法体供試体20に対する振り子式ハンマー試験機10による反発度測定と、円柱供試体30の一軸圧縮試験を同時に行い、反発度と一軸圧縮強度の相関関係を得る。図3に、得られた反発度−一軸圧縮強度曲線の一例を示す。
【0033】
(4) 工程4:第2回目以降の覆工コンクリートの打設のための脱型に先立って、セントルのクラウン妻部の型枠を一部取り外し、振り子式ハンマー試験機10を用いて原位置における養生中の覆工コンクリート2の反発度を所定の範囲にわたって複数点測定する。工程3で得られた反発度−一軸圧縮強度曲線を用いて養生中の覆工コンクリート2の圧縮強度を推定し、予め定めた脱型可能強度に達していることを確認した後に、セントル全体を下方に下げて脱型する。
【0034】
覆工コンクリート2のクラウン妻部は最後にコンクリートが充填される部位であり、この位置での強度を確認すれば、その他の部位の強度はそれ以上であると推定できる。
【0035】
以上のような脱型時期判定方法を移動式セントルによるコンクリート打設ごとに繰り返す。
【0036】
なお、以上はトンネル覆工コンクリートの脱型時期の判定に適用した例を示したが、これに限らず、その他の打設コンクリートの脱型時期の判定にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のコンクリートの脱型時期判定方法が適用される山岳トンネルの一例を示す断面図である。
【図2】本発明で用いられる供試体の一例であり、(a)は立方体供試体の斜視図と正面図、(b)は円柱供試体の斜視図である。
【図3】本発明における反発度と一軸圧縮強度の相関関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1…山岳トンネル
2…覆工コンクリート
3…クラウン部
10…振り子式ハンマー試験機
20…立方体供試体
30…円柱供試体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠を用いて打設したコンクリートの脱型時期を判定する方法であり、
現場において打設コンクリートの硬化中の内部温度を測定する工程と、この測定した温度で養生することにより供試体を作成する工程と、この供試体の試験結果により反発度と一軸圧縮強度の相関関係を得る工程と、この相関関係を用いて現場における打設コンクリートの反発度から現場における打設コンクリートの一軸圧縮強度を推定して脱型の可否を判定する工程からなることを特徴とするコンクリートの脱型時期判定方法。
【請求項2】
型枠を用いて打設したトンネル覆工コンクリートの脱型時期を判定する方法であり、
現場において打設トンネル覆工コンクリートの硬化中の内部温度を測定する工程と、この測定した温度で養生することにより供試体を作成する工程と、この供試体の試験結果により反発度と一軸圧縮強度の相関関係を得る工程と、この相関関係を用いて現場におけるトンネル覆工コンクリートの反発度から現場におけるトンネル覆工コンクリートの一軸圧縮強度を推定して脱型の可否を判定する工程からなることを特徴とするトンネル覆工コンクリートの脱型時期判定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のトンネル覆工コンクリートの脱型時期判定方法において、トンネル覆工コンクリートのクラウン部の妻部で、内部温度の測定と反発度の測定を行うことを特徴とするトンネル覆工コンクリートの脱型時期判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−2721(P2009−2721A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162137(P2007−162137)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【Fターム(参考)】