説明

コンクリートの脱枠時期判定方法

【課題】物質移動抵抗性が高いかぶりコンクリートを形成する。
【解決手段】型枠が付された養生中のコンクリートの脱枠時期を判定するコンクリートの脱枠時期判定方法であって、脱枠時におけるコンクリート表層部の温度低下とコンクリートの物質移動抵抗性と相関のある空隙量との対応関係に基づいて、脱枠時のコンクリート表層部の温度低下量を測定し、前記測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、前記測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠が付された養生中のコンクリートの脱枠時期を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄筋コンクリート構造物の劣化原因の一つとして、塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子が外部より浸入し、鋼材腐食を促進させ、耐荷力が損なわれることが知られている。これらの劣化因子の浸入には、かぶりコンクリートの物質移動抵抗性が大きく影響する。表層コンクリートは周辺環境の影響を受けやすいので、型枠存置時から初期の養生が重要である。
【0003】
特許文献1には、コンクリート型枠取り外し時期確認装置が開示されている。このコンクリート型枠取り外し時期確認装置では、温度センサが気温を感知し、その検知信号がマイクロプロセッサに入力される。その際、気温がマイナスになる温度の日は、警告ブザーにより警告がなされ、また、ディスプレー表示がなされる。さらに、このマイナス温度の検知信号はすべて入力されず、プラスの気温の日の気温の検知信号のみがマイクロプロセッサに入力される。マイクロプロセッサにより積算温度を算出し、さらに実験式により圧縮強度を算出して、積算温度と圧縮強度との関係を基準のグラフと比較する。これにより、同じ圧縮強度となるまでの材齢日数、すなわち、型枠取外し予定時期を、ディスプレーで視認するか、または、報告ブザーの音により察知する。このようにして、型枠取外し時期を確認した後、その時期が来たところでコンクリート型枠の取外しを行なう。
【特許文献1】特開平11−141125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来は、鉄筋コンクリートの初期養生における型枠の脱枠時期は、テストピースの圧縮強度をもとに決定されており、物質移動抵抗性については何ら考慮がされていなかった。鉄筋コンクリート構造物の耐久性を考慮すれば、コンクリート表面から鉄筋までの表層部いわゆる、かぶりコンクリートが塩化物イオンや二酸化炭素などの浸入に対する抵抗性を高く保つ必要がある。かぶりコンクリートの物質移動抵抗性と圧縮強度とは、必ずしも相関がないので、鉄筋コンクリート構造物の耐久性を高く確保するためには、かぶりコンクリートの物質移動抵抗性を高く保つように初期養生条件を管理する必要がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、物質移動抵抗性が高いかぶりコンクリートを形成することができるコンクリートの脱枠時期判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明のコンクリートの脱枠時期判定方法は、型枠が付された養生中のコンクリートの脱枠時期を判定するコンクリートの脱枠時期判定方法であって、脱枠時におけるコンクリート表層部の温度低下とコンクリートの物質移動抵抗性と相関のある空隙量との対応関係に基づいて、脱枠時のコンクリート表層部の温度低下量を測定し、前記測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、前記測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定することを特徴としている。
【0007】
コンクリートは、初期養生において型枠を脱枠したときに、表層部の水分が急速に気化することが、空隙構造の形成に影響を与える。これは、コンクリートが十分に水和する前に水分が気化してしまうことによる。従って、水分の気化が少なければ、充分に水和し、空隙が少なく、緻密なコンクリートを形成することができる。空隙が少ないということは、物質移動抵抗性が高いということであり、空隙が少なくなるように初期養生を行なうことによってコンクリートの耐久性が向上することとなる。本発明では、脱枠時におけるコンクリート表層部の温度低下とコンクリートの物質移動抵抗性と相関のある空隙量との対応関係に基づいて、脱枠時のコンクリート表層部の温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、測定した温度低下量が閾値以内となったときに、脱枠可能と判定する。これにより、コンクリートが十分に水和し、緻密な構造となったときに脱枠を行なうことができるため、塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子が浸入し難いコンクリートを形成することができる。その結果、コンクリートの耐久性を向上させることが可能となる。
【0008】
(2)また、本発明のコンクリートの脱枠時期判定方法において、前記閾値は、前記型枠が付された養生中のコンクリートにおいて、0.05〜30μmの径を有する空隙量が設定した物質移動抵抗性に相当する空隙量まで減少するのに必要な養生期間を、前記養生期間経過時に脱枠した場合のコンクリート表層部の温度低下量との対応関係に基づいて定められることを特徴としている。
【0009】
塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子の浸入には、コンクリートの0.05〜30μmの径を有する空隙量が影響し、空隙量が減少すると抵抗性が向上することが知られている。本発明では、型枠が付された養生中のコンクリートにおいて、0.05〜30μmの径を有する空隙量が閾値(または、設定した物質移動抵抗性)に相当する空隙量まで減少するのに必要な養生期間を、前記養生期間経過時に脱枠した場合のコンクリート表層部の温度低下量との対応関係に基づいて定められるので、劣化因子の浸入に最も影響を与える空隙量が減少する。これにより、コンクリートの耐久性を向上させることが可能となる。
【0010】
(3)また、本発明のコンクリートの脱枠時期判定方法において、コンクリートの施工現場におけるコンクリートの打設時に、複数のテストピースを作製し、コンクリートの養生期間中の異なる時期に、前記テストピースを順次脱枠し、各テストピースにおけるコンクリート表層部の温度低下量を測定し、前記測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、前記測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定することを特徴としている。
【0011】
このように、コンクリートの養生期間中の異なる時期に、テストピースを順次脱枠し、各テストピースにおけるコンクリート表層部の温度低下量を測定し、測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、測定した温度低下量が閾値以内となったときに、脱枠可能と判定するので、コンクリートが十分に水和し、緻密な構造となったときに脱枠を行なうことができる。その結果、塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子が浸入し難いコンクリートを形成することができる。その結果、コンクリートの耐久性を向上させることが可能となる。
【0012】
(4)また、本発明のコンクリートの脱枠時期判定方法において、コンクリートの施工現場におけるコンクリートの打設時に、複数の開口部および前記各開口部を覆う複数の蓋部が設けられた型枠を用い、コンクリートの養生期間中の異なる時期に、前記蓋部を一時的に順次取り外し、各開口部におけるコンクリート表層部の温度低下量を測定し、前記測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、前記測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定することを特徴としている。
【0013】
このように、コンクリートの養生期間中の異なる時期に、蓋部を一時的に順次取り外し、各開口部におけるコンクリート表層部の温度低下量を測定し、測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定するので、コンクリートが十分に水和し、緻密な構造となったときに脱枠を行なうことができる。その結果、塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子が浸入し難いコンクリートを形成することができる。その結果、コンクリートの耐久性を向上させることが可能となる。ここで、「蓋部を一時的に取り外す」とは、温度低下量の測定が終了すれば、蓋部を戻して開口部を閉じることを意味する。例えば、この温度低下量の測定は、12時間以内に終了するものとする。なお、複数の開口部は、型枠全体に対して十分に小さいことが望ましく、例えば、開口部の開口幅を5〜15cm程度とすればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脱枠時におけるコンクリート表層部の温度低下とコンクリートの物質移動抵抗性と相関のある空隙量との対応関係に基づいて、脱枠時のコンクリート表層部の温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、測定した温度低下量が閾値以内となったときに、脱枠可能と判定する。これにより、コンクリートが十分に水和し、緻密な構造となったときに脱枠を行なうことができるため、塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子が浸入し難いコンクリートを形成することができる。その結果、コンクリートの耐久性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明者らは、かぶりコンクリートの空隙構造の形成は、初期養生において型枠を脱枠しときに、表層部の水分が急速に気化することが影響し、水分の気化が少なければ、空隙の少なく緻密な、従って物質移動抵抗性の高いかぶりコンクリートが形成されることを見出した。さらに、脱枠時の水分気化量の評価は、気化熱、すなわちコンクリート表層部の温度低下量を測定することにより、行なうことができることを見出し、発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明のコンクリートの脱枠時期判定方法は、型枠が付された養生中のコンクリートの脱枠時期を判定するコンクリートの脱枠時期判定方法であって、脱枠時におけるコンクリート表層部の温度低下とコンクリートの物質移動抵抗性と相関のある空隙量との対応関係に基づいて、脱枠時のコンクリート表層部の温度低下量を測定し、前記測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、前記測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定することを特徴としている。
【0017】
これにより、本発明者らは、塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子が浸入し難いコンクリートを形成することを可能とし、その結果、コンクリートの耐久性を向上させることが可能とした。以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
鉄筋コンクリート構造物の劣化原因の一つとして、塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子が外部より浸入し、鋼材腐食を促進させ、耐荷力が損なわれることがある。これらの劣化因子の浸入には、かぶりコンクリートの物質移動抵抗性が大きく影響する。表層コンクリートは周辺環境の影響を受けやすいので、型枠存置時から初期の養生が重要である。しかし多くの施工現場では、脱枠時の品質を確認する手法として最も汎用的に用いられているのは圧縮強度試験であり、脱枠後の構造物は気中養生状態にさらされることも多い。
【0019】
既往の研究によると、養生方法による圧縮強度への影響は小さいが、耐久性に関する物質移動抵抗性は大幅に向上すると報告されており、物質移動抵抗性は必ずしも圧縮強度により評価できるものでは無いことが報告されている。鉄筋コンクリート構造物の早期劣化問題は依然として解決されておらず、高耐久なRC構造物を構築するひとつの対策として、脆弱なかぶりコンクリートを生じさせないような初期養生の確保が重要であると考えられる。本発明者らは、各種コンクリートを用いたコンクリート供試体を用いて、環境温度や脱枠時期が、供試体の強度発現や表層部の空隙構造の変化に及ぼす影響を検討した。
【0020】
図1は、供試体の概要を示す図である。また、以下の表は、試験水準を示す。図1に示す供試体は、φ10×20cmの円柱の型枠を用い形成されている。図1(a)は、供試体の平面図である。図1(a)に示すように、表層から深さ1.5cm以内に熱電対が埋め込まれている。また、図1(b)に示すように、この供試体は、高さが20cmで、上端部および下端部からそれぞれ5cmの箇所を除く中央部を含む上下方向の10cmの範囲を分析試料の採取範囲としている。試験は、水セメント比(W/C=50%)を一定にした各種コンクリート{普通ポルトランド(記号N)・早強ポルトランド(記号H)・低熱ポルトランド(記号L)・高炉セメントB種(記号BB)}を対象として、コンクリートの違いによる表層部の物性変化への影響を検討した。また、脱枠材齢をN、BB、Lでは2、4、8日、Hでは1、2、4日とし、環境温度を20℃および10℃(湿度60%)とした場合の影響をそれぞれ評価した。
【0021】
【表1】

各供試体は、それぞれの環境下に置き、脱枠時までは封緘養生、脱枠後は気中養生とし、脱枠時および材齢28日において表層部の物性を評価するための各種試験を行なった。分析用の試験片は分析試料の採取範囲から円柱供試体を短軸方向に厚さ7〜10mm程度でスライスし、直ちにアセトンに浸漬して水和反応を停止させた。水和を停止した試験片の表層部15mmの範囲から5mm角の試料を採取し試験を行なった。
【0022】
(各種試験)
表層部の物性を評価するために行なった各試験を下記に示す。
(1)圧縮強度試験
圧縮強度試験はφ100×200mmの円柱供試体を用いてJIS A 1108に準じて行なった。
(2)温度履歴
円柱供試体表層部に設置した熱電対により、表層部の温度履歴を打設時から材齢28日まで計測した。脱枠時の温度低下量は、脱枠から温度低下が終了するまでの温度変化量として計測した。概ね3〜8時間で計測を終了した。
(3)空隙構造
試料の細孔径分布は、水銀圧入式ポロシメータにより測定した。測定は各試料について2回行ない、その平均値により評価を行なった。
【0023】
(試験結果)
図2は、環境温度20℃における圧縮強度試験結果を示す図である。図2に示すように、材齢28日の圧縮強度は、脱枠時期が遅いほど高くなった。材齢28日強度において、Nでは脱枠材齢が4日から8日、Hでは2日から4日にかけての強度増加が小さくなった。一方、BBおよびLでは、脱枠材齢8日までは、存置期間に比例して強度が増加した。なお、環境温度10℃における圧縮強度試験結果を示す図は省略してある。
【0024】
2002年制定コンクリート標準示方書に記載されている、スラブおよびはりの底面に対する型枠および支保工の取外しに必要なコンクリートの圧縮強度の参考値は14.0MPaである。本実験においてこれを満たす脱枠時期をコンクリート種類で比較すると次の表のようになる。養生期間の標準値と比較すると、次の表2の方が2〜3日程度早い。圧縮強度のみに着目すると初期養生期間が充分でない可能性がある。
【0025】
【表2】

図3は、材齢28日、環境温度20℃における温度低下と0.05〜30μmの径を有する空隙量の関係を示す図である。図3に示すように、0.05〜30μmの径を有する空隙量と温度低下とは比例関係が見られる。空隙量が12%程度で4℃、9%程度で1℃の温度低下を起こす水分移動が生じたと考えられる。水分移動を小さくするためには、表層部の空隙構造を緻密にすることが必要であり、コンクリートの種類に応じた十分な初期養生が必要であると考えられる。
【0026】
図4は、コンクリートの材齢28日における0.05μm〜30μmまでの空隙量を示す図である。コンクリートの種類に関わらず、脱枠時期が遅いほど、空隙量が小さくなる傾向にある。従って、脱枠時期が遅いほど、イオン透過性に対する抵抗が向上していると考えられる。特に、特にNとBBは脱枠時期の影響が大きい。Hは早期に空隙量が減少している。Lは脱枠時期による変動が小さく、空隙量が大きい。また,養生期間は圧縮強度以上に、空隙量に影響している。
【0027】
以上の試験により、以下のことが明らかとなった。
(1)脱枠時期が材齢28日強度におよぼす影響はコンクリートの種類によって異なり、早強、普通、高炉B、低熱の順に、脱枠期間による強度増進への影響が小さくなる。
(2)脱枠によりコンクリート表層部に温度低下が生じた。これは表層から逸脱する水分の気化熱による影響と考えられ、環境温度が20℃の場合、普通と高炉Bとは、脱枠時期が遅いほど温度低下の度合いが小さくなったが、早強と低熱は異なる挙動を示した。
(3)0.05μm〜30μm空隙量が増加すると温度が低下しているため、水分移動のしやすさと空隙量とには比例傾向がある。
(4)イオン透過性と相関の高い空隙径の総量と圧縮強度とは等価ではなく、コンクリートの種類により傾向が異なった。
【0028】
以上の検討に基づいて、本実施形態に係るコンクリートの脱枠時期判定方法について説明する。本実施形態では、上記のような脱枠時におけるコンクリート表層部の温度低下とコンクリートの0.05〜30μmの径を有する空隙量との対応関係に基づいて、脱枠時のコンクリート表層部の温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定する。そして、測定した温度低下量が閾値以内となったときに、脱枠可能と判定する。この閾値の決定方法は、以下のような手法で行なう。
【0029】
(塩化物イオンについて)
閾値を鉄筋腐食発生限界とすると、以下の表3の潜伏期の鋼材かぶり位置における塩化物イオン濃度が腐食発生限界濃度(1.2kg/m)に達するまでの期間となる。
【0030】
【表3】

本実施形態で想定するかぶりは35mmとする(橋梁上部工の塩害S地区では70mm)。また、表面における塩化物イオン濃度は以下の表4による。なお、「塩害S地区」とは、道路橋示方書コンクリート橋編に示される「塩害の影響が特に激しい地域」のことをいう。
【0031】
【表4】

また、空隙量と拡散係数の関係は既往の文献を用いる。
【0032】
上記の各表に基づいて、パラメータを設定すると、以下の表5のようになる。
【0033】
【表5】

なお、図5は、拡散係数と粗大毛細管空隙量との関係を示す図である。以上のように設定されたパラメータから、以下に示す解を用いて鉄筋腐食発生限界を算出する。
【0034】
【数1】

ここで、C(x,t)は、深さx(cm)、時刻t(年)における塩化物イオン濃度(kg/m)、Cは、表面における塩化物イオン濃度(kg/m)、Dは、塩化物イオンのもかけの拡散係数(cm/年)、および、erfは、誤差関数を表す(2001年度制定 コンクリート標準仕方書[維持管理編])。この算出結果に基づいて、脱枠時期、温度低下量、空隙量、腐食因子(劣化因子)透過係数、および鉄筋腐食発生限界を関連付けて、判定基準とすべき温度低下量を決定する。
【0035】
(出典)
田野原 孝之・五十嵐 心一:セメント硬化体の物質透過性に及ぼす粗大毛細管空隙構造の影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.27,No.1,pp.823-828,2005
以上により計算された管理温度低下は、以下の表の通りである。この表は、管理温度低下と耐用年数(海岸からの距離250mと仮定)を示す。
【0036】
【表6】

これにより、コンクリート表層部の温度を測定し、脱枠時の温度低下が、例えば、1℃であれば、かぶりが35mmの場合であれば、鉄筋腐食発生限界は2.4年になり、かぶりが70mmの場合であれば、鉄筋腐食発生限界は9.6年になることが分かる。すなわち、そのときの0.05〜30μmの空隙量は、約9.3%であり、そのような鉄筋腐食発生限界を得るための脱枠時期は、8日であることが分かる。一方、脱枠時の温度低下が、例えば、4℃であれば、かぶりが35mmの場合であれば、鉄筋腐食発生限界は1.2年になり、かぶりが70mmの場合であれば、鉄筋腐食発生限界は4.8年になることが分かる。すなわち、そのときの0.05〜30μmの空隙量は、約12.4%であり、そのような鉄筋腐食発生限界を得るための脱枠時期は、2日であることが分かる。
【0037】
なお、以上の説明では、イオン透過性に着目してきたが、中性化(透気性)の閾値についても、同様に算定することが可能である。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、コンクリートが十分に水和し、緻密な構造となったときに脱枠を行なうことができるため、塩化物イオンおよび二酸化炭素ガスなどの劣化因子が浸入し難いコンクリートを形成することができる。その結果、コンクリートの耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】供試体の概要を示す図である。
【図2】環境温度20℃における圧縮強度試験結果を示す図である。
【図3】材齢28日、環境温度20℃における温度低下と0.05〜30μmの空隙量の関係を示す図である。
【図4】コンクリートの材齢28日における0.05μm〜30μmまでの空隙量を示す図である。
【図5】拡散係数と粗大毛細管空隙量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠が付された養生中のコンクリートの脱枠時期を判定するコンクリートの脱枠時期判定方法であって、
脱枠時におけるコンクリート表層部の温度低下とコンクリートの物質移動抵抗性と相関のある空隙量との対応関係に基づいて、脱枠時のコンクリート表層部の温度低下量を測定し、前記測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、前記測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定することを特徴とするコンクリートの脱枠時期判定方法。
【請求項2】
前記閾値は、前記型枠が付された養生中のコンクリートにおいて、0.05〜30μmの径を有する空隙量が設定した物質移動抵抗性に相当する空隙量まで減少するのに必要な養生期間を、前記養生期間経過時に脱枠した場合のコンクリート表層部の温度低下量との対応関係に基づいて定められることを特徴とする請求項1記載のコンクリートの脱枠時期判定方法。
【請求項3】
コンクリートの施工現場におけるコンクリートの打設時に、複数のテストピースを作製し、コンクリートの養生期間中の異なる時期に、前記テストピースを順次脱枠し、各テストピースにおけるコンクリート表層部の温度低下量を測定し、前記測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、前記測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定することを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンクリートの脱枠時期判定方法。
【請求項4】
コンクリートの施工現場におけるコンクリートの打設時に、複数の開口部および前記各開口部を覆う複数の蓋部が設けられた型枠を用い、コンクリートの養生期間中の異なる時期に、前記蓋部を一時的に順次取り外し、各開口部におけるコンクリート表層部の温度低下量を測定し、前記測定した温度低下量が予め定められた閾値を超えたかどうかを判定し、前記測定した温度低下量が前記閾値以内となったときに、脱枠可能と判定することを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンクリートの脱枠時期判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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