説明

コンクリートの補修・改質剤。

【課題】コンクリートに速やかに浸透し、短い作業時間で経年劣化したコンクリートの補修、改質を行えるコンクリートの補修・改質剤の提供。
【解決手段】水溶性珪酸塩50重量%、コロイド状珪酸塩1.5重量%、及びチオ尿酸0.04重量%を純水に混合してコンクリートの補修・改質剤を得る。少量の界面活性剤、多価アルコール、あるいはキレート剤を混合する。このコンクリートの補修・改質剤は、短時間で速やかに深部まで浸透する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経年劣化により中性化や亀裂を生じたコンクリートを補修し、更なる劣化の進行を防ぐためにコンクリートを改質するコンクリートの補修・改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
道路、橋梁、あるいは建築物の外壁等に使用されるコンクリートには、地震や重量物の移動等の荷重による亀裂や、酸性雨及び空気中に含まれる炭酸ガス等による中性化が生じ、これによって、コンクリートの劣化や鉄筋の腐食や漏水等が引き起こされるという問題がある。
【0003】
この対策として、珪酸塩類を主成分とする防水剤や改質材を塗布又は注入し、劣化したコンクリートの補修、改質を行う方法が提案されている。
【0004】
例えば珪酸ナトリウムを主成分とした無機質浸透性防水剤を塗布又は注入して、乾燥後に散水を数回繰り返すことによってコンクリートに浸透させ、浸透防水保護層を形成する手段が提案されている(例えば特許文献1参照。)。また珪酸ソーダと珪酸カリをモル比で1:1で混合し、水酸化ナトリウムを添加した改質材が提案されており、水酸化ナトリウムの添加量を調節することによってゲル化の速度を調節し、コンクリートの劣化の状態に応じ適切に浸透させることができると記載してある(例えば特許文献2参照。)。
【特許文献1】特許第2937309号公報
【特許文献2】特開2002−239523号公報(1〜5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに上記特許文献1に記載の手段において、珪酸ナトリウムを主成分とした無機質浸透性防水剤は、コンクリートに浸透させるため、塗布又は注入して乾燥させたのち、乾燥と散水を5〜7時間待ちながら3回繰り返す必要があり、作業が非常に煩雑で、長時間を要するという問題がある。
【0006】
また特許文献2記載の改質材は、その技術的意義は、塗布または注入した改質材をコンクリートの深部まで浸透させるために珪酸塩のゲル化を遅くしたことにあり、改質材のコンクリートへの浸透速度については改良されておらず、又、コンクリートとカルシウムとの反応を促進させるために散水を行う必要があり、作業性が良いとは言えない。
【0007】
すなわち珪酸塩類は、経年劣化により中性化や亀裂を生じたコンクリートの補修、改質に広く用いられているが、コンクリートへの浸透性が悪く、深部まで浸透させることが難しい上、作業も煩雑で長時間を要するという問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、経年劣化したコンクリートに短時間で速やかに深部まで浸透して作業性良く補修、改質できるコンクリートの補修・改質剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、水とコロイド状珪酸塩と還元剤とを添加した組成物が、中性化や亀裂を生じたコンクリートに速やかに深部まで浸透することを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明によるコンクリートの補修・改質剤の特徴は、水とコロイド状珪酸塩と還元剤とを含むことにある。上記コンクリートの補修・改質剤には、更に一種以上の水溶性珪酸塩を含むことが望ましい。
【0010】
また上記水溶性珪酸塩とコロイド状珪酸塩とを構成するアルカリ金属は、ナトリウム、カリウム又はリチウムのいずれかの1であることが望ましい。そして上記還元剤は、チオ尿素またはチオ硫酸塩のいずれかであることが、なお望ましい。
【0011】
ここで「水溶性珪酸塩」とは、下記一般式(I)で表されるものを意味する。
2O・XSiO2 (I)
なお上記式(I)において、Mは周期律表第1A族に属するアルカリ金属を表し、Xは正数である。さらに上記「アルカリ金属M」は、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチュウム(Li)のいずれかの1が好ましい。また「X」は、2.0〜5.0が好ましい。
【0012】
「水溶性珪酸塩」としては、例えば市販品の日本化学工業株式会社社製のJ珪酸ソーダ1号,2号,3号、珪酸ソーダ4号、1K珪酸カリ、C珪酸カリ、B珪酸カリ、A珪酸カリ、2K珪酸カリ、珪酸リチウム30、珪酸リチウム40、珪酸リチウム45、珪酸リチウム75などがあるが、これらに限らず一般式(I)で示されるものであれば、他のものも含む。
【0013】
上記「コロイド状珪酸塩」とは、水を分散媒とし、無水珪酸の超微粒子を分散させたコロイド溶液を意味し、粒子径が6〜120nmで、安定化させるために周期律表第1A族に属するアルカリ金属を含む。コロイド状珪酸塩のサイズは、6〜50nmの範囲が好ましいが、特にこの範囲に限定されない。また安定化させる為のアルカリ金属は、例えばナトリウム、カリウムあるいはリチウムのいずれかの1が好ましい。
【0014】
コロイド状珪酸塩としては、例えば日産化学工業株式会社のスノーテックスXS、S、20、30、40、50、N、CM、20L、XL、ZL、L、MP、UP、PS−Mなどがあるが、特にこれらに限定されない。
【0015】
本発明のコンクリートの補修・改質剤は、ロイド状珪酸塩と二種以上の水溶性珪酸塩とのいずれか、または双方を合計した固形分の含有率は、5〜40重量%が好ましく、10〜25重量%がさらに好ましい。5重量%未満では補修・改質剤としての効果が弱く、40重量%を超えると製品がゲル化しやすくなる。
【0016】
上記「還元剤」としては、硫酸第一鉄、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸リチウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリ、ヒドロキシメタンスルホン酸ナトリウム、チオ尿素、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリ、チオ硫酸アンモン、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、還元糖(オリゴ糖、果糖、ぶとう糖)、またはベンズアルデヒド等が該当するが、これらに限定するものではない。
【0017】
「還元剤」として好ましいのは、チオ尿素、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、亜硫酸リチウム、または還元糖(オリゴ糖、果糖若しくはぶとう糖)であり、添加量は、0.001〜2.0重量%が好ましく、0.01〜1.0重量%がさらに好ましい。
【0018】
なおコンクリートには、酸化マグネシウムや酸化鉄、酸化アルミニウム等の金属が含まれており、珪酸塩類はこれらの含有金属と反応して酸化劣化する。還元剤を加えると、この酸化劣化を抑制し、浸透速度が速くなると推測されるが、その作用機構は必ずしも明確でない。
【0019】
本発明のコンクリートの補修・改質剤には、製品の流動性や安定性を高めるため、界面活性剤、多価アルコール、キレート剤、防腐剤等を添加してもよい。なお「界面活性剤」としてはアルキルエーテル型非イオン界面活性剤、及びグリコールエーテル型非イオン界面活性剤が好ましく、多価アルコールとしてはグリセリン、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコールが好ましく、キレート剤としてはEDTA−4Na、及びNTAが好ましい。
【0020】
本発明のコンクリートの補修・改質剤を使用する際には、どのような機材を用いて塗布してもよいが、噴霧器を使用して均一に噴霧することが好ましい。また、ノズル等を使用した注入も可能である。通常、原液で使用するが、必要に応じて希釈して使用することもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るコンクリートの補修・改質剤によれば、経年劣化したコンクリートに短時間で速やかに深部まで浸透して作業性良く補修、改質できる。また従来の珪酸塩類を主成分とするコンクリート改質剤は、塗布後にコンクリートに浸透させるため、散水養生作業を行う必要があり、散水のタイミングは熟練者でないと難しかったが、本発明ではその必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明によるコンクリートの補修・改質剤の含有成分、含有率(重量%)、および入手先等を図1に示す。なお図1には、含有成分の配合比率等を変えた配合A、配合B、及び配合Cを示してある。また本発明との比較のため、従来例としてコロイド状珪酸塩と還元剤とを含有しないものを配合D、還元剤を含有しないものを配合Eとして示す。
【0023】
これらの配合A〜配合Eのコンクリートの補修・改質剤の効果を確認した結果を、実施例1及び2に示す。
【実施例1】
【0024】
施工後3ヶ月経過した平坦で日の当たらないコンクリート面において、100cm×100cmの区画に、図1に示す配合A〜配合Eのコンクリートの補修・改質剤を、それぞれ噴霧器で300m?/m塗付し、乾いて色が変わるまでの時間を目視測定した。この試験は、気象条件を考慮し、外気温度が8℃と15℃とで、二度行った。外気温度が8℃、無風状態での試験の結果を図2に示す。また外気温度が15℃、無風状態での試験の結果を図3に示す。
【0025】
上記図2及び図3に示すように、本願発明によるコンクリートの補修・改質剤(配合A、配合B、及び配合C)は、いずれも従来技術(配合D及び配合E)に較べて、コンクリートへの浸透速度が約2倍に増加することが確認できた。
【実施例2】
【0026】
コンクリートを直径10cm、高さ10cmの円柱に打設し、2日後に脱型し7日間湿布養生した。その後60日間20℃の恒温室内で静置し、円柱コンクリート試験体を作成した。このコンクリート試験体の成分を図4に示す。
【0027】
次にこの円柱コンクリート試験体を、20℃の恒温室内にて、直径10cm高さ15cmのアクリル製円柱ケースに入れ、アクリルケースとコンクリート試験体との隙間をエポキシ樹脂系接着剤により接合した。次いでコンクリートの補修・改質剤を392.5m?入れて密閉し、60分、120分後の液の減少量を測定した。この液の減少量の測定結果を図5に示す。なお図5に示す「浸透量(m?/m)」とは、液の減少量(m?)を円柱コンクリート試験体の断面積(m)で割った値、すなわち1平方メートル当たりのm?に換算した値である。
【0028】
上記図5に示すように、本願発明によるコンクリートの補修・改質剤(配合A、配合B、及び配合C)は、いずれも従来技術(配合D及び配合E)に較べて、コンクリートへの浸透量が約2倍に増加することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
コンクリートへの浸透性に優れ、中性化、亀裂等を生じたコンクリートを効果的に補修・改質して漏水、及び鉄筋の腐食を防止でき、コンクリート及び土木建築に関する産業等に広く利用することができる。また、従来の珪酸塩類を主成分とするコンクリート改質剤は塗布後、コンクリートに浸透させるため、散水養生を行う必要があったが、この作業手間を無くした。散水のタイミングを決めるのは熟練者でないと難しかったがその必要がなくなり、幅広い業者が作業できるためコンクリート及び土木建築に関する産業等に、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本願発明の含有成分等の1例を示す表である。
【図2】本願発明の効果の確認試験結果を示す表である。
【図3】本願発明の効果の他の確認試験結果を示す表である。
【図4】本願発明の効果の確認試験に使用したコンクリートの成分を示す表である。
【図5】本願発明の効果の他の確認試験結果を示す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とコロイド状珪酸塩と還元剤とを含むことを特徴とするコンクリートの補修・改質剤。
【請求項2】
請求項1において、更に一種以上の水溶性珪酸塩を含むことを特徴とするコンクリートの補修・改質剤。
【請求項3】
請求項1または2において、上記水溶性珪酸塩とコロイド状珪酸塩とを構成するアルカリ金属は、ナトリウム、カリウムまたはリチウムのいずれかの1であることを特徴とするコンクリートの補修・改質剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの1において、上記還元剤は、チオ尿素またはチオ硫酸塩のいずれかであることを特徴とするコンクリートの補修・改質剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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