説明

コンクリートの補修方法

【課題】ひび割れの生じたコンクリート表面が化粧されるとともに、補修された箇所の強度が良好で、紫外線劣化し難いコンクリートの補修方法を提供する。
【解決手段】コンクリート表面に生じたひび割れを補修するコンクリートの補修方法であって、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる下地処理剤を塗布して前記ひび割れの内部に浸入させてから、ケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したパテ材を前記ひび割れの内部に充填して補修することを特徴とするコンクリートの補修方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの補修方法に関する。特に、コンクリート表面に生じたひび割れを補修するコンクリートの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物や建築構造物等のコンクリート表面が劣化してひび割れが生じた場合、エポキシ樹脂に代表される有機系補修材料や超硬セメント、超微粒子セメント、ケイ酸ナトリウムを主成分とする無機系補修材料などを用いてコンクリート表面を補修する方法が知られている。
【0003】
例えば、特開昭63−310781号公報(特許文献1)には、コンクリート建築物の保護および化粧工法において、一般式MO・xSiO・aq(式中Mは周期律表第1A族に属するアルカリ金属を表し、xは2.0〜4.5の正の値、aqは水溶液を示す。)で表わされる水溶液珪酸塩の単独の水溶液あるいは2種以上の混合水溶液(A)と合成樹脂エマルション又は/および水溶性樹脂溶液の単独あるいは2種以上の混合物(B)、撥水剤あるいは防水剤(C)、顔料(D)とを含み、更に必要に応じ造膜助剤として溶剤(E)を含んだ塗料組成物を劣化した建築物の外表面に塗布することを特徴とする旧劣化表面の強化化粧方法について記載されている。これによれば、劣化表面より浸透強化することは勿論、他に撥水性、防水性、耐水生の良い化粧面あるいは防水形仕上塗材等の下塗面を提供できるとされている。
【0004】
また、特開平5−86354号公報(特許文献2)には、珪酸ソーダを主成分とした材料と無機系微粉末とを混合したペースト状の組成物と、アルカリ剤とが別々に容器に収納されていることを特徴とする無機系補修材料について記載されている。これによれば、びび割れ箇所に充填する際に、水を使用しないので取扱が簡単であり、紫外線による劣化もなく十分な耐久性を有するとされている。
【0005】
更に、特開平8−301637号公報(特許文献3)には、高炉水砕スラグ、超微粉、分散剤、硬化刺激剤、水を含有してなるセメントコンクリート類用接着剤について記載されている。これによれば、セメントコンクリート類に生じた割れやひび割れの補修剤として使用したり、種々のセメントコンクリート材料を加工し、小さな材料から大きな材料や単純な形状の材料から複雑な形状の材料を製造するのに極めて有用であるとされている。しかしながら、ひび割れが生じたコンクリート表面を補修した後の強度が必ずしも良好ではなく改善が望まれていた。特に、細かいひび割れ部分を補修することが困難であった。
【0006】
また、特開2001−294461号公報(特許文献4)には、水ガラスに多価カルボン酸又はその誘導体を配合してなるコンクリート改質剤について記載されている。これによれば、クラック発生などによる劣化を防止又は抑止することができるとされている。しかしながら、コンクリート表面に生じた細かい空隙には有効であるが、ひび割れを必ずしも補修することができるわけではなく改善が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−310781号公報
【特許文献2】特開平5−86354号公報
【特許文献3】特開平8−301637号公報
【特許文献4】特開2001−294461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、ひび割れの生じたコンクリート表面が化粧されるとともに、補修された箇所の強度が良好で、紫外線劣化し難いコンクリートの補修方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、コンクリート表面に生じたひび割れを補修するコンクリートの補修方法であって、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる下地処理剤を塗布して前記ひび割れの内部に浸入させてから、ケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したパテ材を前記ひび割れの内部に充填して補修することを特徴とするコンクリートの補修方法を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、前記ひび割れの内部に塗布された下地処理剤が乾燥する前にパテ材を充填することが好適であり、下地処理剤が不溶成分を実質的に含有しない均一な水溶液であることが好適である。また、下地処理剤がカルボン酸を含有することが好適であり、無機フィラーが炭酸カルシウムを含むことが好適である。また、無機フィラーが炭酸カルシウム及び酸化ケイ素を含むことが好適であり、無機フィラーが、平均粒径が30〜500μmの無機粒子(A)及び平均粒径が1〜50μmの無機粒子(B)を含むことも好適である。
【0011】
更に上記課題は、下地処理剤とパテ材とからなるコンクリート補修用キットであって、下地処理剤がアルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなり、パテ材がケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したものからなることを特徴とするコンクリート補修用キットを提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンクリートの補修方法によれば、ひび割れの生じたコンクリート表面が化粧されるとともに、細かいひび割れが補修され、補修された箇所の強度が良好となる。また、ひび割れの生じたコンクリート表面が補修されることによりコンクリート内部が中性化されるのを抑制することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のコンクリートの補修方法は、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる下地処理剤を塗布してコンクリート表面に生じたひび割れの内部に浸入させてから、ケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したパテ材を前記ひび割れの内部に充填して補修することを特徴とするものである。
【0014】
本発明で用いられる下地処理剤は、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなるものである。ひび割れの生じたコンクリート表面に予め下地処理剤を塗布することにより、コンクリート表面の脆弱部分である微細なひび割れの内部に下地処理剤が侵入して固まるため、コンクリート表面の強度が向上する効果を有するとともに、次いで塗布されるパテ材中の水分がコンクリート表面に浸透するのを防ぐことができる。
【0015】
ここで、アルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等が例示され、本発明では、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム又はケイ酸リチウムの少なくとも1種を含有する水溶液からなる下地処理剤が好適に用いられる。下地処理剤をコンクリート表面に生じた微細なひび割れ内部に侵入させた際に、コンクリート内部に存在するカルシウム分との反応性が良好である観点から、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムの少なくとも1種を含有する水溶液からなる下地処理剤がより好適に用いられる。
【0016】
アルカリ金属ケイ酸塩のアニオン種としては特に限定されず、オルトケイ酸アニオン[SiO4−]やメタケイ酸アニオン[SiO2−]などのアニオン種のみならず、ケイ酸[SiO]単位が複数個連結してアニオン種を形成したものであっても良い。
【0017】
アルカリ金属ケイ酸塩の具体的な化合物としては、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウム、オルトケイ酸リチウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、メタケイ酸リチウム、水ガラスなどが例示される。
【0018】
中でも本発明で好適に使用されるのは水ガラスであり、水ガラスはアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液であって、ケイ酸[SiO]単位が複数個連結してアニオン種を形成したものである。ここで使用されるカチオン種はナトリウムであることが好ましく、ケイ酸ナトリウムの場合の固形分の一般式はNaO・nSiOで示される。また、ケイ酸カリウムの場合の固形分の一般式はKO・nSiOで示され、ケイ酸リチウムの場合の固形分の一般式はLiO・nSiOで示される。
【0019】
アルカリ金属ケイ酸塩中の金属原子数とケイ素原子数の比[金属/ケイ素]は0.1〜2の範囲であることが好ましい。前記比[金属/ケイ素]が0.1未満の場合には、水溶性が低下するおそれがあり、より好適には0.2以上であり、更に好適には0.3以上である。一方、前記比[金属/ケイ素]が2を超える場合には、硬化のために大量のカルシウム分が必要となり、硬化性が低下するおそれがあり、より好適には1.5以下であり、更に好適には1以下である。
【0020】
本発明で用いられる下地処理剤の比重は、アルカリ金属ケイ酸塩の濃度が高いほど大きくなる。下地処理剤の好適な比重は1.02〜1.5である。このような濃度とすることによって、ひび割れが生じたコンクリート表面に十分な量のアルカリ金属ケイ酸塩を浸透させることができる。下地処理剤の比重は、より好適には1.03以上である。一方、下地処理剤の比重は、より好適には1.4以下であり、更に好適には1.3以下である。本発明で用いられる下地処理剤の濃度は比較的低いことが好ましく、このことによりコンクリート表面に浸透しやすい利点を有するため好ましい。
【0021】
本発明で用いられる下地処理剤は、カルボン酸を含有することが好ましい。このことにより前記アルカリ金属ケイ酸塩の一部が中和され、下地処理剤のpHが高くなりすぎない。中和されることによって、水溶液のpHが高くなりすぎず、ひび割れ内のコンクリート表面に生成している炭酸カルシウムが溶出しやすくなり、コンクリート表面に強く接着したケイ酸カルシウムが形成されやすくなると考えられる。
【0022】
用いられるカルボン酸は特に限定されず、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などのモノカルボン酸;グリコール酸、乳酸、グルコン酸などのオキシモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、ピメリン酸、アジピン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テレフタル酸などの多価カルボン酸;リンゴ酸、クエン酸などのヒドロキシ多価カルボン酸;アクリル酸重合体、無水マレイン酸重合体などの多価カルボン酸重合体などを使用することができる。これらの中でも揮発性が低く、水溶性の良好なオキシカルボン酸や多価カルボン酸が好適であり、多価カルボン酸がより好適である。マレイン酸、フマル酸のような不飽和多価カルボン酸も好適である。
【0023】
本発明で用いられる下地処理剤にカルボン酸を配合する場合、アルカリ金属ケイ酸塩中の金属原子数とカルボン酸中のカルボキシル基の数との比[金属/カルボキシル基]は1〜200であることが好適である。前記比[金属/カルボキシル基]が1未満の場合には、ケイ酸成分が水に溶解しにくくなり、ケイ酸塩とカルボン酸を水の存在下で混合する際に、不溶物が発生して均一に混合できないおそれがあり、より好適には2以上であり、更に好適には5以上であり、最適には10以上である。一方、前記比[金属/カルボキシル基]が200を超えると、硬化のために大量のカルシウム分が必要となり、硬化性が低下するおそれがあり、より好適には100以下であり、更に好適には50以下である。
【0024】
本発明で用いられる下地処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の成分を含有しても構わない。しかしながら、不溶成分を実質的に含有しない均一な水溶液であることが好ましい。これによって、細かいひび割れの深い部分まで下地処理剤が浸透し、結果として強度が良好となる。
【0025】
本発明で用いられるパテ材は、ケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したものである。ケイ酸リチウムのアニオン種としては特に限定されず、上述のアルカリ金属ケイ酸塩のアニオン種と同様に、オルトケイ酸アニオン[SiO4−]やメタケイ酸アニオン[SiO2−]などのアニオン種のみならず、ケイ酸[SiO]単位が複数個連結してアニオン種を形成したものであっても良い。ケイ酸リチウムの具体的な化合物としては、オルトケイ酸リチウム、メタケイ酸リチウム、ケイ酸リチウムを含む水ガラスなどが例示される。中でも本発明で好適に使用されるのは、ケイ酸リチウムの水溶液からなる水ガラスであり、ケイ酸[SiO]単位が複数個連結してアニオン種を形成したものである。
【0026】
ケイ酸リチウム中の金属原子数とケイ素原子数の比[金属/ケイ素]は0.1〜2の範囲であることが好ましい。前記比[金属/ケイ素]が0.1未満の場合には、水溶性が低下するおそれがあり、より好適には0.15以上であり、更に好適には0.2以上である。一方、前記比[金属/ケイ素]が2を超える場合には、硬化のために大量のカルシウム分が必要となり、硬化性が低下するおそれがあり、より好適には1.5以下であり、更に好適には1以下である。
【0027】
本発明で用いられる無機フィラーを除いたケイ酸リチウム水溶液の比重は、ケイ酸リチウムの濃度が高いほど大きくなる。無機フィラーを除いたケイ酸リチウム水溶液の好適な比重は1.02〜2である。このような濃度とすることによって、接着性が良好となる。無機フィラーを除いたケイ酸リチウム水溶液の比重は、より好適には1.03以上である。一方、無機フィラーを除いたケイ酸リチウム水溶液の比重は、より好適には1.3以下である。
【0028】
本発明で用いられるパテ材は、上述のケイ酸リチウムが溶解し、更に無機フィラーが分散してなるものである。このようなパテ材を用いることにより、コンクリート表面に生じたひび割れの内部に先に塗布された下地処理剤との接着性が良好になるとともに、約0.5mm程度のひび割れに対する補修が可能となる。無機フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、石英、タルク、カオリン、マイカ、クレー、ケイ藻土等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上が好適に用いられる。中でも、粒径が制御されたものが比較的入手しやすい観点から、無機フィラーが炭酸カルシウムを含むことがより好ましく、炭酸カルシウム及び酸化ケイ素を含むことが更に好ましい。
【0029】
上記無機フィラーの含有量は特に限定されず、20〜80重量%であることが好ましい。無機フィラーの含有量が20重量%未満の場合、補修後の強度が不十分となるおそれがあり、30重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることが更に好ましい。一方、無機フィラーの含有量が80重量%を超える場合、ひび割れの内部にパテ材を充填することが困難となるおそれがあり、75重量%以下であることがより好ましく、70重量%以下であることが更に好ましい。
【0030】
また本発明では、無機フィラーが、平均粒径が30〜500μmの無機粒子(A)及び平均粒径が1〜50μmの無機粒子(B)を含むことが好ましい。このように、粒度分布が一定の範囲内にある無機粒子(A)及び無機粒子(B)を含むパテ材を用いることにより、ひび割れ部分のパッキングが良好となるため好ましい。また、ひび割れの内部に充填されたパテ材の収縮が小さく、付着強度も高くなるため好ましい。無機粒子(A)及び無機粒子(B)としては特に限定されず、上述の無機フィラーの説明のところで例示された1種又は2種以上が好適に用いられ、同種であっても異種であっても構わない。
【0031】
本発明で用いられる無機粒子(A)の平均粒径は、35μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることが更に好ましい。一方、無機粒子(A)の平均粒径は、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが更に好ましい。
【0032】
また、本発明で用いられる無機粒子(B)の平均粒径は、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましい。一方、無機粒子(B)の平均粒径は、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。
【0033】
本発明で用いられるパテ材は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の成分を含有しても構わない。例えば、パテ材に含まれる無機フィラー等の分離を防ぐ観点から、分散剤を含有していることが好ましい。分散剤としては特に限定されないが、コロイダルシリカ、コロイダルチタニア、コロイダルアルミナなどが分散した水性分散液が好適に用いられる。分散剤の含有量としては特に限定されないが、0.1〜10重量%であることが好ましい。
【0034】
また、コンクリート表面の色とひび割れの内部に充填されたパテ材との色を合わせる観点から、パテ材に化粧剤を含有させることも好適な実施態様である。用いられる化粧剤としては特に限定されず、無機顔料であっても有機顔料であってもよいが、パテ剤に含まれる他の無機材料との相性を考慮すると、無機顔料が好適に用いられる。中でも青萩、白萩、乳白、緑萩、志野、紅志野、天目、黄瀬戸、織部、鉄赤、銅青磁、灰釉などの釉薬や、酸化鉄、酸化アルミニウムなどの金属酸化物がより好適に用いられる。
【0035】
以上、本発明で用いられる下地処理剤及びパテ材について説明した。以下、この下地処理剤及びパテ材を用いてコンクリートを補修する方法について説明する。
【0036】
本発明の方法によって補修されるコンクリート表面に生じたひび割れの寸法は特に限定されないが、比較的微細なひび割れ、具体的にはひび割れの幅が約0.5mm以下のものが好適な補修対象である。本発明は、このようなコンクリート表面に生じたひび割れに下地処理剤及びパテ材を塗布して補修することにより、ひび割れが生じたコンクリート表面が化粧されるとともに、補修された箇所の強度が良好となる。
【0037】
本発明のコンクリートの補修方法では、ひび割れが生じたコンクリート表面に前記下地処理剤を塗布するが、前記下地処理剤を塗布する前にひび割れが生じたコンクリート表面を洗浄することが好ましい。このことにより、コンクリート表面に付着したゴミ、土埃、苔等を除去することができ、下地処理剤をコンクリート表面に塗布した際に、下地処理剤がコンクリート表面から内部に浸透しやすいため好ましい。洗浄する方法は特に限定されず、高圧洗浄機やワイヤーブラシ等を用いることができる。
【0038】
上記下地処理剤を塗布する際のひび割れが生じたコンクリートの表面状態については特に限定されず、コンクリート表面が湿潤状態であってもよいし、表面乾燥状態であってもよいし、完全に乾燥していてもよいが、浸透性が良好となる観点からは、ひび割れが生じたコンクリート表面が表面乾燥状態であるときに下地処理剤を塗布することが好ましい。ここで、表面乾燥状態とは、コンクリート内部の空隙に水が満たされているが、触っても濡れない程度にコンクリート表面が乾燥している状態(表面乾燥飽水状態ということもある)をいう。なお、下地処理剤を塗布する際に、コンクリート表面が乾燥し過ぎている場合には、水を噴霧して表面乾燥状態にしてから下地処理剤を塗布することが好ましい。
【0039】
本発明において、上記下地処理剤を塗布する方法は特に限定されず、ハケ、スプレー、ブラシ、ローラー、噴霧等により塗布することができる。ひび割れ内部に浸透させることが重要であり、このことにより、下地処理剤を塗布した後にケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したパテ材を充填した際に、コンクリート表面と前記パテ材との接着性が良好となる。コンクリート表面がひび割れを有しているのでひび割れ内部に浸透させるためには、ハケ塗りにより塗布することが好ましい。また、上記下地処理剤を塗布する回数は特に限定されず、1回塗布してもよいし、複数回塗布してもよい。また、下地処理剤を塗布した後に散水してもよい。このことにより、コンクリート内部の水和反応を進行させることができる。
【0040】
上記下地処理剤の塗布量は、ひび割れが生じたコンクリート表面及びひび割れ内部に十分に浸透する量であれば特に限定されず、上記下地処理剤を1回の塗布操作につき0.01〜1.0kg/m塗布することが好ましい。塗布量が0.01kg/m未満の場合、コンクリート表面及びひび割れ内部に浸透させる操作が困難となるとともに、コンクリート表面と上記パテ材との接着強度が低下するおそれがあり、より好適には0.02kg/m以上であり、更に好適には0.03kg/m以上である。一方、塗布量が1.0kg/mを超える場合、コンクリート表面に下地処理剤の溜まりが生じてコンクリート表面と上記パテ材との接着強度が低下するおそれがあり、より好適には0.8kg/m以下であり、更に好適には0.6kg/m以下である。
【0041】
また、本発明のコンクリートの補修方法では、上記下地処理剤を固形分換算で3〜300g/m塗布することが好ましい。このような範囲にあることにより、コンクリート表面と上記パテ材との接着強度が良好となる。塗布量は、より好適には5g/m以上であり、更に好適には10g/m以上である。一方、塗布量は、より好適には200g/m以下であり、更に好適には150g/m以下であり、特に好適には100g/m以下である。
【0042】
以上のようにして、ひび割れが生じたコンクリート表面に上記下地処理剤を塗布して前記ひび割れの内部に侵入させてから上記パテ材をひび割れの内部に充填する。このように、予め下地処理剤を塗布することにより、コンクリート表面の脆弱部分である微細なひび割れの内部に下地処理剤が侵入して固まるため、コンクリート表面の強度が向上する効果を有するとともに、次いで塗布されるパテ材中の水分がコンクリート表面に浸透するのを防ぐことができるため、パテ材がドライアウトして強度低下したりひび割れたりすることを防止することができる。このとき、下地処理剤が塗布されたコンクリート表面に微粒子セメントを塗布した場合には、後述する実施例における引っ張り強度試験の結果から分かるように、下地処理剤が塗布されたコンクリート表面にパテ材をひび割れの内部に充填した場合と比べて、引っ張り強度が良好ではないことを本発明者は確認している。
【0043】
本発明において、上記パテ材をコンクリート表面に生じたひび割れ内部に充填する方法は特に限定されず、ヘラ、スポンジ、ウエス、注入器具等を用いて行うことができる。均一に充填されていることが重要であり、このことにより、ひび割れの生じたコンクリート表面が化粧されるとともに、補修された箇所の強度が良好となる。パテ材を充填する回数は特に限定されず、1回充填してもよいし、複数回充填してもよい。
【0044】
また、パテ材をひび割れの内部に充填する際のコンクリート表面の乾燥状態については特に限定されず、コンクリート表面が湿潤状態であってもよいし、表面乾燥状態であってもよいし、完全に乾燥していてもよいが、パテ材との接着性が良好となる観点からは、コンクリート表面が表面乾燥状態でひび割れ内部が湿潤状態であるときにパテ材をひび割れの内部に充填することが好ましい。なお、パテ材を充填する際に、コンクリート表面が乾燥し過ぎている場合には、水を噴霧等して表面乾燥状態としてからパテ材をひび割れの内部に充填することが好ましい。
【0045】
本発明のコンクリートの補修方法は、ひび割れの内部にパテ材を充填して補修することを特徴とする。本発明において、ひび割れの内部にパテ材を充填して補修するとは、パテ材が充填されたひび割れ部とコンクリート表面とが概ね同一平面となるように補修するものである。このことにより、ひび割れの生じたコンクリート表面が化粧されるとともに、補修された箇所の強度が良好となる。ここで、ひび割れ内部に充填した際にコンクリート表面からはみ出したパテ材は、パテ材が固化する前に適宜スクレーパー等で取り除くことが好ましい。特に、コンクリート表面からのパテ材の塗り厚が一定以上、具体的には約1mmを超える場合、塗布されたパテ材がひび割れる場合があり、塗り厚としては、0.6mm以下であることが好ましい。また、パテ材が固化した後は、適宜サンドペーパー等によりコンクリート表面を清掃することが好ましい。
【0046】
本発明のコンクリートの補修方法では、パテ材を充填して補修した後に補修されたひび割れ部を覆うように、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる表面保護剤を塗布することが好ましい。表面保護剤を塗布することにより、パテ材中の水分を保持することができるため好ましく、このことにより、ひび割れ内部に充填されたパテ材が、過度に乾燥してしまうことによるひび割れや剥離等の発生を防止することができる。
【0047】
上記アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる表面保護剤としては特に限定されないが、上述の下地処理剤と同様のものを用いることができる。
【0048】
上記表面保護剤を塗布する方法は特に限定されず、ハケ、スプレー、ブラシ、ローラー、噴霧等により塗布してもよいが、均一に塗布されていることが重要であり、このことにより補修後のコンクリート強度が良好となる。また、上記表面保護剤を塗布する回数は特に限定されず、1回塗布してもよいし、複数回塗布してもよい。
【0049】
上記表面保護剤の塗布量は、補修されたひび割れ部を含むコンクリート表面に十分に浸透する量であれば特に限定されず、上記表面保護剤を1回の塗布操作につき0.01〜1.0kg/m塗布することが好ましい。本発明で用いられる表面保護剤の濃度は比較的低いことが好ましく、このことにより補修されたひび割れ部を含むコンクリート表面に浸透しやすい利点を有するため好ましい。塗布量が0.01kg/m未満の場合、コンクリート表面に均一に塗布する操作が困難となるおそれがあり、より好適には0.02kg/m以上であり、更に好適には0.03kg/m以上である。一方、塗布量が1.0kg/mを超える場合、浸透不良により表面に残った表面保護剤によって白く変色するおそれがあり、より好適には0.8kg/m以下であり、更に好適には0.6kg/m以下であり、特に好適には0.4kg/m以下である。
【0050】
また、本発明では、上記表面保護剤を固形分換算で1〜300g/m塗布することが好ましい。塗布量が1g/m未満の場合、パテ材中の水分を保持したり、水和反応を促進させたりする効果が得られないおそれがあり、より好適には3g/m以上であり、更に好適には5g/m以上である。一方、塗布量が300g/mを超える場合、浸透不良による剥離が発生するおそれがあり、より好適には200g/m以下であり、更に好適には150g/m以下であり、特に好適には100g/m以下である。
【0051】
上記表面保護剤を塗布する際の補修されたひび割れ部を含むコンクリート表面は、パテ材が水をかけても流れない程度に固まっている状態であれば特に限定されず、表面が湿潤状態であってもよいし、表面乾燥状態であってもよいし、完全に乾燥していてもよい。浸透性が良好となる観点からは、表面乾燥状態であることが好ましい。本発明において、パテ材をひび割れ内部に充填してから表面保護剤を塗布するまでの時間は、パテ材の乾燥状態により変動するため特に限定されないが、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。また、パテ材をひび割れ内部に充填してから表面保護剤を塗布するまでの時間は、特に限定されないが通常、1日以下である。また、表面保護剤を塗布した後に散水してもよい。
【0052】
本発明のコンクリートの補修方法は、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる下地処理剤を塗布してコンクリート表面に生じたひび割れの内部に浸入させてから、ケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したパテ材を前記ひび割れの内部に充填して補修することを特徴するため、前記下地処理剤及び前記パテ材がセットで用いられることとなる。すなわち、下地処理剤とパテ材とからなるコンクリート補修用キットであって、下地処理剤がアルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなり、パテ材がケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したものからなることを特徴とするコンクリート補修用キットであることも本発明の実施態様の一つである。
【0053】
本発明のコンクリートの補修方法は、ひび割れが生じた様々なコンクリート表面に対して適用することができ、特にコンクリート表面の化粧が要求される箇所に対して好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0055】
[下地処理剤の調製]
水温60℃の水15kgを入れた容器に、フマル酸120gを投入し、撹拌して溶解させた。引き続き、撹拌を継続しながら、東曹産業株式会社製水ガラス「JIS3号珪酸ソーダ」25kgを加えた。このとき、水ガラスを加えた部分では一時的に粘度が大きく上昇するが、撹拌することによって全体が均質化された。この操作を繰り返して水ガラスの全量を加えて、全体として均一な不溶物のない水溶液を調製した。なお、ここで使用した水ガラスは、酸化ナトリウム(NaO:MW=61.98)成分を9〜10重量%、二酸化ケイ素(SiO:MW=60.09)成分を28〜30重量%含有するものである。中央値を採用して、酸化ナトリウム成分を9.5重量%、二酸化ケイ素成分を29重量%含有するとした場合、比[金属/ケイ素]の値は0.64である。ナトリウム原子数と、2価の酸であるフマル酸(C:MW=116.07)中のカルボキシル基の数との比[金属/カルボキシル基]の値は、37であった。このようにして得られた水溶液を更に水で4倍希釈することにより下地処理剤を得た。下地処理剤の比重は1.05であった。
【0056】
[パテ材の調製]
(シルバーホワイト)
容器内に本荘ケミカル株式会社製のケイ酸リチウム水溶液(SiO/LiO=4.0、比重1.19)1.25kgを投入し、攪拌しながら日本アエロジル株式会社製のアエロジル300を75g加え、更に上記ケイ酸リチウム水溶液を1.25kg加えて攪拌した。次いで株式会社テラダ製の炭酸カルシウム粉末(製品名「タンカルB」、平均粒径15〜17μm)を1kg加えて攪拌し、更に炭酸カルシウム粉末を2kg加えて攪拌した。丸二陶料株式会社製の青萩を1kg加え、酸化ケイ素粉末としてトーヨーマテラン株式会社製の平均粒径が約75〜150μmの8号けい砂を1kg加えて攪拌することによりシルバーホワイトのパテ材を得た。
【0057】
(シルバー)
上記シルバーホワイトのパテ材の作成において、炭酸カルシウム粉末を1kg加えた後に、株式会社尾関製の酸化鉄を15g加えた以外は、上記と同様にしてシルバーのパテ材を得た。
【0058】
(グレイ)
上記シルバーホワイトのパテ材の作成において、炭酸カルシウム粉末を1kg加えた後に、株式会社尾関製の酸化鉄を52.5g加えた以外は、上記と同様にしてグレイのパテ材を得た。
【0059】
(実施例1)
ひび割れが生じたコンクリート表面の汚れを洗浄した。コンクリート表面が乾いてきたところで、下地処理剤をハケ塗りにより0.4kg/m塗布した。下地処理剤を塗布してからひび割れ内部が湿潤状態で、コンクリート表面が乾きかけた時に、ひび割れ内部にシルバーホワイトのパテ材をゴムヘラやスポンジを用いて充填した。次いで、充填した際にコンクリート表面からはみ出したパテ材が完全に固化する前にスクレーパーで削り落とし、パテ材が固化した後にサンドペーパーを用いてコンクリート表面を清掃した。
【0060】
このようにして補修されたコンクリート表面に対して、アタッチメント(縦40mm×横40mm(断面積1600mm))をエポキシ樹脂系接着剤で強固に貼り付け、電動ベビーサンダーでアタッチメントの周囲を下地に達するまでカットした。接着剤の養生時間である4時間経過後、ジョイントをアタッチメントにねじ込み、引っ張り試験機(オックスジャッキ株式会社製)が正しい位置に合うように調節しながらジョイントと連結した。測定部のゼロ調整を行い、ハンドルを時計回りに3秒で1回転くらいの速さより速くならないように回して荷重を加えていき、負荷がなくなった時点でハンドルの回転を終了した。最大値表示を読み取り、引っ張り強度の測定値とした。測定は3箇所で行い、それぞれの測定値の平均値を引っ張り強度とした。実施例1におけるコンクリート表面の引っ張り強度は、0.639N/mmであった。得られた結果を表1にまとめて示す。また、下地処理剤と同じ化学組成を有する表面保護剤を0.2kg/m塗布したところ、パテ材の水分が保持されてひび割れの発生を防止することができた。
【0061】
(比較例1)
実施例1において、パテ材を用いる代わりに微粒子セメントと水を含むペーストを用いて補修した以外は実施例1と同様にしてコンクリート表面を補修し、引っ張り強度の測定を行った。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0062】
(比較例2)
実施例1において、下地処理剤を塗布せず、パテ材を用いる代わりに微粒子セメントと水を含むペーストを用いて補修した以外は実施例1と同様にしてコンクリート表面を補修し、引っ張り強度の測定を行った。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から分かるように、下地処理剤を塗布せず補修材料に微粒子セメントを用いた比較例2では、平均引っ張り強度が0.179N/mmであり、また下地処理剤を塗布し補修材料に微粒子セメントを用いた比較例1では、平均引っ張り強度が0.349N/mmであったが、下地処理剤を塗布し補修材料にパテ材を用いた実施例1では、平均引っ張り強度が0.639N/mmと強度が大きく向上していることが分かる。
【0065】
[中性化促進試験]
中央部に直径12.7mmの異形鉄筋(D13)が配筋されたタテ100(mm)×ヨコ100(mm)×長さ400(mm)の曲げ試験用コンクリート供試体に対して、アムスラー試験機により曲げ試験を行って中央部にひび割れを作成し、続いてひび割れにくさびを打ち込んで最大ひび割れ巾を0.3mm程度に固定した。前記ひび割れ部を下地処理剤及びパテ材を用いて実施例1と同様の手法により補修した。次いで、未処理の供試体と下地処理剤及びパテ材により補修された供試体を5%炭酸ガスにて10週間、中性化促進試験を行った。その後、ひび割れに対して直角方向に割りフェノールフタレイン溶液を用いて中性化された範囲を確認した。下地処理剤及びパテ材により補修された供試体の中性化促進試験後の写真を図1に、未処理の供試体の写真を図2に示す。図1及び図2から分かるように、未処理の供試体は、ひび割れに沿って中性化が進んでいるのに対し、下地処理剤及びパテ材により補修された供試体は、ひび割れ内部の中性化が抑制されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のコンクリート補修方法により補修された供試体の中性化促進試験後の写真である。
【図2】未処理の供試体の中性化促進試験後の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面に生じたひび割れを補修するコンクリートの補修方法であって、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる下地処理剤を塗布して前記ひび割れの内部に浸入させてから、ケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したパテ材を前記ひび割れの内部に充填して補修することを特徴とするコンクリートの補修方法。
【請求項2】
前記ひび割れの内部に塗布された下地処理剤が乾燥する前にパテ材を充填する請求項1記載のコンクリートの補修方法。
【請求項3】
下地処理剤が不溶成分を実質的に含有しない均一な水溶液である請求項1又は2記載のコンクリートの補修方法。
【請求項4】
下地処理剤がカルボン酸を含有する請求項1〜3のいずれか記載のコンクリートの補修方法。
【請求項5】
無機フィラーが炭酸カルシウムを含む請求項1〜4のいずれか記載のコンクリートの補修方法。
【請求項6】
無機フィラーが炭酸カルシウム及び酸化ケイ素を含む請求項1〜5のいずれか記載のコンクリートの補修方法。
【請求項7】
無機フィラーが、平均粒径が30〜500μmの無機粒子(A)及び平均粒径が1〜50μmの無機粒子(B)を含む請求項1〜6のいずれか記載のコンクリートの補修方法。
【請求項8】
下地処理剤とパテ材とからなるコンクリート補修用キットであって、下地処理剤がアルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなり、パテ材がケイ酸リチウムが溶解し無機フィラーが分散したものからなることを特徴とするコンクリート補修用キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−1195(P2010−1195A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162595(P2008−162595)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(592199102)株式会社アストン (9)
【Fターム(参考)】