説明

コンクリートの補修材及び補修方法

【課題】 水中で養生を行わなくても、被補修コンクリートとの付着強度に優れたコンクリートの補修材及び該補修材を用いた補修方法を提供する。
【解決手段】 セメント、骨材、水を含有するコンクリートの補修材において、前記骨材が内部に空隙を有し且つ24時間吸水率が3.5%を超える人工軽量骨材であることを特徴とするコンクリートの補修材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築構造物等のコンクリート部分を補修するための補修材及びコンクリートの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは建築構造物等、様々な構造物(以下、コンクリート構造物と称す)で使用されているが、使用期間中に種々の要因によって亀裂や割れが生じることがある。このような亀裂や割れは、本来コンクリートが持つべき構造的性能を低下させ、安全性に重要な影響を及ぼすこともある。
そのため、亀裂や割れが生じたコンクリートを補修する必要が生じる。コンクリートを補修することにより、コンクリートの機能的特性を向上させ、耐久性を向上させることができる。
【0003】
コンクリートの補修方法としては、セメントと骨材と水を含有する補修材を用いる方法を挙げることができる(例えば、下記特許文献1参照)。具体的には、補修の対象となるコンクリート(以下、被補修コンクリートと称す)の補修すべき部分の表面に当該補修材を塗布したり、亀裂や割れの内部に注入したりした後、養生させることにより行う。
なお、骨材としては、砂、砕砂、砂利、砕石等の天然骨材を挙げることができる。
【0004】
また、補修材を用いて被補修コンクリートの補修を行う場合、被補修コンクリートと補修材の付着強度を向上させることが重要である。被補修コンクリートと補修材の付着強度を向上させることにより、補修材を被補修コンクリートから剥離しにくくすることができ、補修後のコンクリート構造物の耐久性を向上させることができるからである。
【0005】
ここで、当該付着強度を向上させるためには、補修材と被補修コンクリートとの界面に水分を供給する必要がある。水分を供給することにより、界面でセメントの水和反応が生じ、補修材と被補修コンクリートの付着強度が向上する。
【0006】
補修材と被補修コンクリートとの界面に水分を供給する方法としては、補修材の骨材内部に水分を含有させた状態で使用する方法を挙げることができる。具体的には、骨材にセメントと水を混合する前に、骨材を水に浸しておくことで、骨材に予め水分を含有させておく。ここで、天然骨材とは、JIS規格において24時間吸水率が3.5%以下ものと定められている。24時間吸水率が3.5%を超えた場合、補修材自体の強度が低下するからである。
しかしながら、24時間吸水率が3.5%以下である場合、天然骨材を水に浸したとしても、天然骨材内部に十分な水分を含有させることができないので、天然骨材を含有した補修材は被補修コンクリートとの界面に水分を十分に供給することができない。そのため、被補修コンクリートとの付着強度の向上という効果を十分に奏することができず、補修後のコンクリート構造物の耐久性も向上させることができなかった。
なお、24時間吸水率とは、絶乾状態から24時間水に浸した後の骨材に含まれている全水分の質量の、絶乾状態の骨材の質量に対する割合であり、細骨材についてはJIS A 1134に、粗骨材についてはJIS A 1135に規定する方法で測定した値をいう。
【0007】
一方、補修材を塗布・注入した後の養生を水中で行うことで、補修材と被補修コンクリートの界面に水分を供給し、両者の付着強度を向上させる方法も挙げることができる。
しかしながら、コンクリート構造物によっては、水中に浸すことができない場合も多く、そのような場合、水中での養生を行うことができない。
このように水中で養生を行うことができないコンクリート構造物に対しては、補修材と被補修コンクリートの界面に水分を供給することが困難であり、結局、補修材と被補修コンクリートの付着強度の向上という効果を十分に奏することはできなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2000−327392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、水中で養生を行わなくても、被補修コンクリートとの付着強度に優れたコンクリートの補修材及び該補修材を用いた補修方法を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、セメント、骨材、水を含有するコンクリートの補修材において、前記骨材が内部に空隙を有し且つ24時間吸水率が3.5%を超える人工軽量骨材であることを特徴とするコンクリートの補修材に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記骨材の24時間吸水率が7%以上であることを特徴とする請求項1記載のコンクリートの補修材に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記骨材が細骨材であることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリートの補修材に関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記骨材の24時間吸水率が7〜13%であり、絶乾密度が1.60〜1.75kg/Lであり、粗粒率が2.50〜2.90であり、実積率が52〜58%であることを特徴とする請求項3記載のコンクリートの補修材に関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、鋼繊維又は合成樹脂繊維を含有することを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載のコンクリートの補修材に関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、空隙を有し且つ24時間吸水率が3.5%を超える人工軽量骨材にセメントと水を加えて混合し補修材とする工程と、該補修材を補修の対象となるコンクリートに塗布又は注入する工程と、該補修材を塗布又は注入したコンクリートを養生する工程を順に行うことを特徴とするコンクリートの補修方法に関する。
【0016】
請求項7に係る発明は、前記コンクリートを養生する工程において、養生を前記補修材が塗布又は注入された部分を養生シートで覆うことで行うことを特徴とする請求項6記載のコンクリートの補修方法に関する。
【0017】
請求項8に係る発明は、前記コンクリートを養生する工程において、養生を水中で行うことを特徴とする請求項6記載のコンクリートの補修方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、骨材が内部に空隙を有し且つ24時間吸水率が3.5%を超える人工軽量骨材であることにより、空隙に多くの水分が含有されることとなる。そのため、補修材と補修の対象となるコンクリート(被補修コンクリート)との界面に人工軽量骨材内部の水分が供給され、セメントの水和反応が生じる。そのため、水中での養生を行わなくても、補修材と被補修コンクリートの付着強度を高くすることができる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、骨材の24時間吸水率が7%以上であることにより、人工骨材内部にさらに多くの水分を含有することができ、セメントの水和反応が生じるだけの水分を、補修材と被補修コンクリートとの界面に確実に供給することができる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、骨材が細骨材であることにより、人工軽量骨材が多量の水分を含有することができるため、コンクリートとの付着強度をさらに向上させることができる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、骨材が細骨材のとき、骨材の24時間吸水率が7〜13%であり、絶乾密度が1.60〜1.75kg/Lであり、粗粒率が2.50〜2.90であり、実積率が52〜58%であることにより、人工軽量骨材内部の水分が補修材と被補修コンクリートの界面に供給されやすい状態とすることができ、セメントの水和反応も生じやすくなる。そのため、補修材と被補修コンクリートの付着強度を確実に向上させることができる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、鋼繊維又は合成樹脂繊維を含有することにより、補修材自体の強度を向上させることができる。つまり、人工軽量骨材を有することによる補修材自体の強度の低下を補うことができる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、空隙を有し且つ24時間吸水率が3.5%を超える人工軽量骨材にセメントと水を加えて混合し補修材とする工程と、該補修材を補修の対象となるコンクリートに塗布又は注入する工程と、該補修材を塗布又は注入したコンクリートを養生する工程を順に行うことにより、人工骨材内部に多くの水分を含有させることができるので、補修材とコンクリートとの界面に人工軽量骨材内部の水分が供給され、セメントの水和反応を生じさせることができる。それにより、補修後のコンクリートにおいて、補修材と被補修コンクリートの付着強度を向上させることができる。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、補修材が塗布又は注入された部分を養生シートで覆うことで養生を行うことにより、水中での養生を行うことができない場合でも容易に養生することができる。また、補修材が人工軽量骨材を含有することにより、養生シートを用いて養生を行ったとしても、被補修コンクリートとの付着強度を高いものとすることができる。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、養生を水中で行うことにより、補修材と被補修コンクリートとの界面に多くの水分を供給することができ、セメントの水和反応を確実に生じさせることができる。それにより、補修材と被補修コンクリートの付着強度をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るコンクリートの補修材について説明する。但し、下記実施形態は本発明を何ら限定するものではない。
【0027】
本実施形態に係るコンクリートの補修材は、セメント、骨材、水を含有するコンクリート又はモルタルであり、骨材として人工軽量骨材を用いている。
【0028】
セメントとしては普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメントを挙げることができる。中でも、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントは、補修材を塗布又は注入後、短時間で大きな強度を得ることができるため好ましい。
但し、本実施形態に係る補修材に用いられるセメントは例示したものに限定されるわけではない。
【0029】
本実施形態の骨材である人工軽量骨材は、膨張性頁岩、膨張性粘度、膨張スレート、焼成フライアッシュ等の天然の岩石鉱物を原料とし、これを人工的に焼成・発泡して得られる骨材であり、骨材内部に空隙を有している。そして、24時間吸水率が3.5%を超えている。加えて、天然の骨材に比して軽くて強いといった性質を有する。
また、人工軽量骨材は内部に水分を含ませた状態で、セメントや水と混合される。ここで、人工軽量骨材は内部に空隙を有しており、且つ24時間吸水率が3.5%を超えるため、内部に大量の水分を含むことができる。つまり、天然骨材(24時間吸水率3.5%以下)に比して高い吸水率を得ることができる。
このような人工軽量骨材を含有する補修材を用いて補修の対象となるコンクリート(被補修コンクリート)の補修をした場合、補修材と被補修コンクリートとの界面に補修材の水分が十分に供給されることとなる。そのため、当該界面においてセメントの水和反応が生じ、補修材と被補修コンクリートの付着強度を向上させることができる。それにより、補修材が被補修コンクリートから剥離することを防止することができ、補修後のコンクリートの耐久性を十分に高いものとすることができる。
【0030】
また、人工軽量骨材は水分を多く含んでいるため、養生する際に補修材が乾燥することを防ぐことができ、補修材が収縮することを抑制することができる。
さらに、コンクリートの補修後、長時間が経過したとしても、人工軽量骨材内部から水が放出されるため、コンクリート内部の湿度の低下を抑えることができる。それにより、新たに亀裂や割れを生じることを防ぐこともできる。
【0031】
また、人工軽量骨材は24時間吸収率が7%以上であるのが好ましく、さらには9%以上であることがより好ましい。これにより、人工骨材内部により多くの水分を含有することができ、セメントの水和反応が生じるのに十分な水分を、補修材と被補修コンクリートとの界面に確実に供給することができるからである。
【0032】
加えて、人工軽量骨材の24時間吸水率と他の物性の関係について述べると、人工軽量骨材が細骨材のとき、24時間吸水率が7〜13%の場合は、絶乾密度が1.60〜1.75kg/L、粗粒率が2.50〜2.90、実積率が52〜58%であることが好ましく、特に、24時間吸水率が9〜11%の場合は、絶乾密度が1.65〜1.75kg/L、粗粒率が2.50〜2.80、実積率が52〜54%であることが好ましい。また、人工軽量骨材が粗骨材のとき、24時間吸水率が7〜13%の場合は、絶乾密度が1.20〜1.34kg/L、粗粒率が6.05〜6.65、実積率が60〜65%であることが好ましく、特に24時間吸水率が9〜11%の場合は、絶乾密度が1.20〜1.30kg/L、粗粒率が6.05〜6.65、実積率が63〜65%であることが好ましい。人工軽量骨材が上記したような範囲にあることにより、人工軽量骨材内部の水分が補修材と被補修コンクリートの界面に供給されやすい状態となるため、セメントの水和反応も生じやすくなり、補修材と被補修コンクリートの付着強度を確実に向上させることができるからである。
なお、絶乾密度とは絶乾状態の質量を骨材の絶対容積で除した値であり、細骨材についてはJIS A 1109に、粗骨材についてはJIS A 1110に規定する方法で測定された値をいう。また、租粒率とは80,40,20,10,5,2.5,1.2,0.6,0.3,0.15mmの各ふるいでふるい分けたとき,夫々のふるいにとどまった量の重量百分率の和を100で割った値をいう。実積率とは人工軽量骨材が実際に占める容積の割合、即ち空隙の部分を除いた容積の割合であり、JIS A 1104に規定する方法で測定した値をいう。
【0033】
また、人工軽量骨材は細骨材(粒径範囲が0.05mm以上、4mm未満)と粗骨材(粒径範囲が4mm以上)に分類することができるが、細骨材の方が粗骨材より吸水率が高く、被補修コンクリートとの付着強度の向上の効果を顕著に奏するため好ましい。また、細骨材は吸収率が高いため、養生時の乾燥による収縮の抑制や、コンクリート内部の湿度の低下による亀裂や割れの発生の低減等の効果も顕著に奏することができる。
また、市販の人工軽量骨材としては、日本メサライト工業株式会社製のメサライトや太平洋マテリアル株式会社のアサノライト等を挙げることができる。
【0034】
また、水の量は、セメントの容積に対して80〜100%の容積であることが好ましい。セメントの容積に対して水の容積が80%未満の場合は、補修材の流動性や作業性が低下し、セメントの容積に対して水の容積が100%を超えた場合は、硬化後の強度が低下するため、いずれの場合も好ましくないからである。
【0035】
また、本実施形態に係る補修材はセメント、人工軽量骨材、水の他に、鋼繊維や合成樹脂繊維等を含んでもよい。本実施形態に係る補修材に含有される人工軽量骨材は空隙を有しているため(吸水率が高いため)、補修材自体の強度が低下する恐れがあるが、鋼繊維や合成樹脂繊維等を含むことにより、補修材自体の強度を向上させることができる。なお、鋼繊維と合成樹脂繊維を両方含んでいるものも本発明には当然含まれる。
【0036】
次いで、本発明の実施形態に係る補修材を用いた補修方法について説明する。
【0037】
本実施形態に係る補修材は、混合用のミキサー等を用いてセメント、人工軽量骨材、水等を混合させることによって得ることができる(工程1)。
このとき、人工軽量骨材は予め水に浸しておき、内部に水分を含有させておく。人工軽量骨材は内部に空隙を有し、且つ24時間吸水率が3.5%を超えているため、天然骨材(24時間吸水率が3.5%以下)に比して多くの水分を内部に含有させることができる。
【0038】
そして、補修の対象となるコンクリート(被補修コンクリート)の補修したい部分(例えば、亀裂や割れの生じている部分)に、工程1で得られた補修材を塗布又は注入する(工程2)。具体的には、被補修コンクリートの補修したい部分のごみや汚れを除去し、必要に応じてその周辺部分も除去した後、補修材を表面に直接塗布したり、亀裂や割れの内部に注入したりする。
【0039】
補修材を塗布又は注入した後、コンクリートを養生する(工程3)。
ここで、補修材は多くの水分を含有する人工軽量骨材を有しているため、被補修コンクリートとの界面に人工軽量骨材内部の水分を十分に供給することができる。そのため、当該界面においてセメントの水和反応を生じさせることができ、補修材と被補修コンクリートの付着強度を向上させることができる。それにより、補修材が被補修コンクリートから剥離することを防止することができ、補修後のコンクリートの耐久性を十分に高いものとすることができる。
【0040】
養生の方法としては、水の中で養生する方法(水中養生)や補修材が塗布又は注入された部分を養生シートで覆い、養生する方法(封緘養生)を挙げることができる。
但し、水中養生は補修材が塗布又は注入された部分を水中に浸す必要があるが、コンクリート構造物によって、水中養生を行うことができない場合も多い。そのような場合、工程3における養生は封緘養生を行う必要がある。封緘養生を行った場合、一般的には水中養生よりもコンクリートとの付着強度が低くなるが、本実施形態の場合、骨材として人工軽量骨材を使用しているため、封緘養生でも十分な付着強度を得ることができる。つまり、人工軽量骨材が多量の水分を含有しているため、補修材と被補修コンクリートとの界面に人工軽量骨材内部の水分が供給され、当該界面でセメントの水和反応を生じさせることができ、十分な付着強度を得ることができる。
但し、コンクリート構造物によっては、水中養生を行うことも当然可能である。水中養生では補修材が塗布又は注入された部分を水中に浸すため、補修材と被補修コンクリートの界面により多くの水分を供給することができ、当該界面でのセメントの水和反応をより確実に生じさせることができる。そのため、補修材と被補修コンクリートの付着強度をさらに向上させることができる。
【0041】
(試験例)
以下、試験例を示すことにより本発明の効果をより明確なものとする。但し、下記試験例は本発明を何ら限定するものではない。
【0042】
(試験例A)
まず、試験例Aとして、水中養生を行った場合と封緘養生を行った場合の付着強度の差について検証する。
【0043】
試験例Aでは、図1(a)に示すように、円柱状の第一供試体(11)に同じ大きさの第二供試体(12)を打ち込んだものを供試体(以下、付着供試体(10)と称す)として用いた。
具体的には、第一供試体(11)に、普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)、天然骨材(粗骨材と細骨材を容積比61:39で混合したものであり、粗骨材として石灰石砕石を、細骨材として石灰石砕砂と海砂を容積比8:2で混合したものを使用)、水を、骨材容積比68%、水セメント容積比143%で配合したものを用いた。第二供試体(12)に、普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)、天然骨材(石灰石砕砂と海砂を容積比8:2で混合したもの)、水を、骨材容積比45%、水セメント容積比100%で配合したものを用いた。また、ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤であるSP−8SB(BASFポゾリス株式会社製)をセメントの重量に対して1.7%含有させた。そして、封緘養生を行った場合と水中養生を行った場合について、第一供試体(11)及び第二供試体(12)の夫々に、供試体(10)の長さ方向に延びる中心線(C)上で且つ反対方向の力(図1(a)の矢印方向の力)を付加することにより、付着強度を測定した。
【0044】
付着強度を測定するための力(図1(a)の矢印方向の力)を付加する方法としては、図2に示すように、供試体の上下に有底円筒状の治具(J)を嵌合させて、矢印方向に引張り、第一供試体(11)と第二供試体(12)が離れるときの力を測定することで付着強度を測定した。なお、有底円筒状の治具(J)は内部にチャック機能を有しており、供試体の外周面を締付け固定している。
【0045】
加えて、図1(b)に示すような打ち継ぎ目のない供試体(以下、一体供試体(20)と称す)について、水中養生を三日間行った場合の引張り強度及び封緘養生を三日間行った場合の引張り強度を測定した。一体試供体(20)には、第二試供体(12)と同様に、普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)、天然骨材(石灰石砕砂と海砂を容積比8:2で混合したもの)、水を、骨材容積比45%、水セメント容積比100%で配合したものを用いた。また、ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤であるSP−8SB(BASFポゾリス株式会社製)もセメントの重量に対して1.7%含有させた。測定方法はJIS A 1113の「コンクリートの割裂引張強度試験方法」に準拠して行った。
【0046】
試験例Aの結果を図3に示す。なお、図3中、(10a)が封緘養生を行った付着供試体の付着強度、(10b)が水中養生を行った付着供試体の付着強度、(20a)が封緘養生を行った一体供試体の引張り強度、(20b)が水中養生を行った一体供試体の引張り強度を示す。また、縦軸は引張り強度又は付着強度(単位:N/mm)を示す。
【0047】
図3で示すように、一体供試体(20)では、水中養生を行った場合と封緘養生を行った場合で引張り強度にあまり差が生じないことが分かる。それに対し、付着供試体(10)では、封緘養生を行った場合より水中養生を行った場合のほうが優れた付着強度を有することが分かる。
当該結果より、コンクリート同士を付着させる場合、封緘養生より水中養生の方が付着強度は高くなることが分かる。その理由は、水中養生の場合、コンクリート同士の界面に水分が供給されることで、セメントの水和反応が生じるからである。
このことから、被補修コンクリートを補修材にて補修した場合の被補修コンクリートと補修材の付着強度も同様のことがいえる。即ち、封緘養生より水中養生の方が、被補修コンクリートと補修材の付着強度が高くなるといえる。
【0048】
(試験例B)
次いで、本発明に係る補修材の被補修コンクリートとの付着強度について検証する。
【0049】
試験例Bでも、図1(a)に示すような供試体(10)を用いて、付着強度を測定した。
具体的には、実施例1として、第一供試体(11)に、普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)、天然骨材(粗骨材と細骨材を容積比61:39で混合したものであり、粗骨材として石灰石砕石を、細骨材として石灰石砕砂と海砂を容積比8:2で混合したものを使用)、水を、骨材容積比68%、水セメント容積比143%で配合したものを用いた。
第二供試体(12)に、普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)、細骨材であるアサノライト(太平洋マテリアル株式会社製の人工軽量骨材)、水を、細骨材容積比45%、水セメント容積比80%で配合したものを用いた。また、ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤であるSP−8SB(BASFポゾリス株式会社製)をセメントの重量に対して1.7%含有させた。
そして、三日間封緘養生を行い、図1(a)の矢印方向に力を付加することにより、付着強度を測定した。力の付加の方法は試験例Aと同様である(図2参照)。なお、実施例1における第二供試体(12)は本発明に係る補修材に該当する。
【0050】
また、本試験例に用いたアサノライト(人工軽量骨材)は、24時間吸水率が9〜11%以上、絶乾密度が1.65〜1.75kg/L、粗粒率が2.50〜2.80、実積率が52〜54%である。
【0051】
さらに、比較例として、第二供試体(12)に普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)、天然骨材(石灰石砕砂と海砂を容積比8:2で混合したもの)、水を、細骨材容積比45%、水セメント容積比80%で配合したものを用いた。また、ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤であるSP−8SB(BASFポゾリス株式会社製)をセメントの重量に対して1.7%含有させた。そして、封緘養生を行ったものを比較例1、水中養生を行ったものを比較例2とし、実施例1と同様の試験を行った。
【0052】
図4は、実施例1及び比較例1,2についての付着強度を示した図であり、縦軸に付着強度(単位:N/mm)を示している。また、図4には標準偏差も示している。
具体的には、実施例1の平均付着強度が3.02N/mm(標準偏差0.34N/mm)、比較例1の平均付着強度が1.16N/mm(標準偏差0.05N/mm)、比較例2の平均付着強度が2.19N/mm(標準偏差0.12N/mm)であった。
図4より、実施例1は比較例1,2よりも優れた付着強度を有することが分かる。つまり、人工軽量骨材を用いた補修材は、付着強度が弱い封緘養生を行ったとしても、従来の補修材(天然骨材を用いた補修材)を用いて水中養生を行ったときよりも高い付着強度を有することが分かる。
【0053】
試験例Bの結果より、人工軽量骨材を用いた補修材は、封緘養生を行った場合でも被補修コンクリートとの付着強度を十分に高いものにすることができるといえる。コンクリートを補修する場合、コンクリート構造物によっては水中養生を行うことのできない場合も多々ある。しかし、その場合でも、封緘養生を行うことで高い付着強度を有することができるので、好適に利用可能である。
なお、試験例Aを考慮すると、人工軽量骨材を用いた補修材も、水中養生を行った場合、封緘養生を行うよりもさらに高い付着強度を得ることができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るコンクリートの補修材及び補修方法は、水中養生を行うことのできない構造物に対しても、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】引張り強度及び付着強度を測定するために用いた供試体を示す図である。
【図2】引張り強度及び付着強度を測定するための試験を説明するための説明図である。
【図3】封緘養生を行った場合と水中養生を行った場合の付着強度及び引張り強度を比較した図である。
【図4】骨材として人工軽量骨材を用いた場合と天然骨材を用いた場合の付着強度を比較した図である。
【符号の説明】
【0056】
10 付着供試体
11 第一供試体
12 第二供試体
10a 封緘養生を行った付着供試体の付着強度
10b 水中養生を行った付着供試体の付着強度
20 一体供試体
20a 封緘養生を行った一体供試体の引張り強度
20b 水中養生を行った一体供試体の引張り強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、水を含有するコンクリートの補修材において、
前記骨材が内部に空隙を有し且つ24時間吸水率が3.5%を超える人工軽量骨材であることを特徴とするコンクリートの補修材。
【請求項2】
前記骨材の24時間吸水率が7%以上であることを特徴とする請求項1記載のコンクリートの補修材。
【請求項3】
前記骨材が細骨材であることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリートの補修材。
【請求項4】
前記骨材の24時間吸水率が7〜13%であり、絶乾密度が1.60〜1.75kg/Lであり、粗粒率が2.50〜2.90であり、実積率が52〜58%であることを特徴とする請求項3記載のコンクリートの補修材。
【請求項5】
鋼繊維又は合成樹脂繊維を含有することを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載のコンクリートの補修材。
【請求項6】
空隙を有し且つ24時間吸水率が3.5%を超える人工軽量骨材にセメントと水を加えて混合し補修材とする工程と、
該補修材を補修の対象となるコンクリートに塗布又は注入する工程と、
該補修材を塗布又は注入したコンクリートを養生する工程
を順に行うことを特徴とするコンクリートの補修方法。
【請求項7】
前記コンクリートを養生する工程において、養生を前記補修材が塗布又は注入された部分を養生シートで覆うことで行うことを特徴とする請求項6記載のコンクリートの補修方法。
【請求項8】
前記コンクリートを養生する工程において、養生を水中で行うことを特徴とする請求項6記載のコンクリートの補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−46336(P2009−46336A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212445(P2007−212445)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】