説明

コンクリートの養生方法および養生設備

【課題】トンネルやボックスカルバートの連続体で施工するコンクリートのひび割れを防止する対策方法として移動式で散水設備を有したコンクリート養生設備・方法を提供する。
【解決手段】本体構造物コンクリート面から100〜300ミリメートル離れた位置に支保部材を組み立て、この脚部に移動するための車輪を取り付け、散水器具3を設置し支保部材を防水シート2で覆い、コンクリート打設型枠取り外し後、直ぐに本発明設備を設置して散水を開始して24時間〜72時間連続散水する。散水が終了すると、このままの状態でコンクリート打設1スパン毎に移動できる。また散水温度を調節するための水を暖める装置を装着することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルやボックスカルバート等の連続体で施工する新設コンクリートのひび割れを防止するためのコンクリート養生設備・方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの養生方法は、一般にマット養生、散水養生、湛水養生、ムシロ養生、シート養生、養生剤散布等が実施されている。一般コンクリート構造物は、コンクリート打設型枠取り外し後に72時間から168時間程度実施され、コンクリートのひび割れ発生を防いでいる。しかしながら、トンネル二次覆工コンクリートやボックスカルバート等の連続体で施工する構造物は、型枠取り外し後に、その坑内の空間を材料搬出入や掘削土砂・岩の積み出し等で使用するため コンクリートの養生は行われていないのが現状である。その結果、これらのコンクリートにはひび割れが発生している。このひび割れは、施工引渡し時には、ひび割れ幅が増大してエポキシ樹脂等で補修を実施しており、この工程や費用が多く必要となっている。またひび割れ幅0.2ミリメートル以下は補修を実施しないで完成引渡しを行い、そのひび割れが進行さらにひび割れ幅が増大して、コンクリートの剥離・剥落の原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−248398号公報(審査時引用文献)
【特許文献2】特開2000−73696号公報(審判時引用文献)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したトンネル二次覆工コンクリートやボックスカルバートのひび割れを防止する方法としてコンクリート養生を行うに当たり次のような問題点がある。
「イ」坑内は、コンクリート養生中も通路として開放しなければならない。
「ロ」コンクリート養生設備は、その組み立て設置取り外しが簡便でなければならない。
「ハ」コンクリート表面からの覆い位置は、400mm以内でなければならない。
「ニ」散水した水は、坑内の通路に落としてはいけない。
「ホ」養生の覆いは、コンクリート表面を湿潤に保つことができなければならない。
「ヘ」冬季においては、散水温度を調節できることが必要である。
【0005】
本発明は上記したような問題を解決するためになされたもので、トンネル二次覆工コンクリートやボックスカルバートのひび割れを防止する方法として移動式のコンクリート養生設備・方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような目的を達成するために、本発明のコンクリート養生設備・方法は、コンクリート打設型枠を取り外し後、直ぐにトンネルリング方向でコンクリート表面から100〜300ミリメートル離れた位置に支保部材を組み立て、その脚部に車輪を取り付ける。次に支保部材に散水設備を設け、この支保部材の全面をコンクリート面側に防水シートで覆い、スプリンクラー方式で散水を開始し24時間〜72時間連続散水することにより、コンクリートのひび割れを防止するものである。この設備は移動式車輪を設置しているため、このままの状態で次の1スパンに移動させることができる。
また、本発明設備は散水温度を調節するための水を温める装置を装着することもできる。
[コンクリートの初期ひび割れ対策]
【0007】
コンクリートは、水とセメントが水和反応を起こし、この水和熱が発生することにより硬化が始り材齢28日で所要の強度に達する。コンクリートの硬化過程の極く初期の段階において水和熱が発生し、コンクリート表面と中心部で温度差が生じ、この温度差による温度応力とコンクリートそのものが持っているその時の引張応力と比べて、コンクリートの引張応力が小さい時にひび割れが発生する。この極く初期においてコンクリート表面を外気に触れないように、さらに散水することにより乾燥しないようにすればコンクリート表面と中心部の温度差が小さくなりひび割れの発生する確率が小さくなる。
また、コンクリート表面が乾燥状態となった場合には、乾燥によるひび割れが発生する。このひび割れを防止するためコンクリートの表面に散水を実施している。
これらの散水養生は、一般のコンクリート構造物で実施されている。しかしながら、これまでトンネル二次覆工コンクリートやボックスカルバート等の連続体で施工を継続する構造物は、養生として何も実施していない。このためコンクリートにひび割れが発生している。本発明は、「コンクリートは養生を行うこと」この基本に基づき、コンクリートの表面を乾燥させないように極く初期の一定期間、スプリンクラー方式で水を霧状にし、それぞれの個所で回転させながら散水することによりひび割れを防止するものである。
[本発明の設備]
【0008】
本発明の設備は、トンネル坑内の覆工コンクリート表面から100〜300ミリメートルの空間に支保部材でフレームを組む。この間隔が100ミリメートルより狭いと散水用の器具の設置間隔が狭くなり散水器具の材料費取り付け費等が多く必要となり不経済となる。また300ミリメートルより間隔を拡大するとトンネル坑内を作業車等が通過するために必要なコンクリート表面より400ミリメートルの車両限界を守れなくなる。フレームに散水用のスプリンクラーを1〜3m間隔で設ける。フレームのコンクリート面側を防水シートで覆い。(トンネル打設毎のトンネル方向の妻部にも防水シートで覆い)セメントの水和熱によりこのシート中の湿度は90%以上保たれ、さらにこの空間には風も入らないようにする。コンクリート表面に散水し当たった水は、防水シートを伝わり下部に流れ落ちる。本発明の1回当たりの長さは、トンネル覆工コンクリートのフォーマー長さに随時合わせて行うことができ、長さ調整は容易に実施できる。また、曲線部の対応は、トンネルリング方法において1本毎の支保部材位置を曲線に合わせることにより可能となる。
支保部材の下部には、レール式の車輪またはタイヤ式の車輪を装着し、1スパン毎に簡便に移動できる設備を有している。
[散水時間]
【0009】
散水する水は、コンクリートの品質に悪影響を及ぼさない水であれば工業用水、地下水、水道水等いずれも適用できる。また、冬季施工でコンクリート温度が低く、散水用水の温度が低い場合は、この散水温度を10〜20℃の温水にする設備を有することもできる。
表1に実トンネルにおける試験の散水時間とひび割れ長さ合計比率の関係を示す。この試験結果から明らかなように、従来の養生時間が無い場合100%に比べて、散水時間が24時間でひび割れ長さ合計は約20%、48時間で11%、72時間で4%、96時間で4%。別の試験結果図1では、24時間で10%、48時間で3%、72時間と96時間はひび割れが発生していない。
通常のトンネル二次覆工コンクリートの打設サイクルは2日に1回である。このサイクルを踏まえて、二次覆工コンクリート打設後、翌日に型枠を取り外し、直ぐに本発明設備を設置して散水を開始し連続72時間実施するのがよい。
散水量はスプリンクラー方式で回転しながら0.1〜5リットル/分/個所が望ましい。
【表1】

図1にA試験およびB試験の本発明方法とトンネル二次覆工コンクリートひび割れ長さ合計の関係図を示す。
[発明の効果]
【0010】
本発明の移動式で散水設備を有したコンクリート養生方法は、以上説明したようになるから次の効果を得ることができる。
「イ」トンネルやボックスカルバート等の連続体で施工するコンクリートのひび割れを防止することができる
「ロ」移動式でかつトンネル坑内の空間を確保できるため他の工事に影響を与えないで実施できる。
「ハ」組み立てや取り外しが簡単で容易であるため、その時間や費用が少なくなる。
「ニ」部材や器具は別工事にも数回にわたり使用でき、廃棄するものがないため環境に優しい工法になる。
「ホ」従来のひび割れ補修に比べて工期が短く、費用がコストダウンできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】A試験およびB試験の本発明方法とトンネル二次覆工コンクリートひび割れ長さ合計の関係図
【図2】本発明の設備図
【図3】トンネル二次覆工コンクリートの実施例
【図4】ボックスカルバートコンクリートの実施例
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
[支保部材]
【0013】
トンネルリング方向の支保部材1aは、H鋼材またはアルミ軽金属等でもよくトンネル構造物の形状に合わせて、工場で加工し現場に搬入する。トンネル方向の支保部材1bもH鋼材またはアルミ軽金属等でもよい。コンクリート表面から100〜300ミリメートル離れた位置に設置する。1回当たりのトンネル方向長さは、トンネルリング方向の支保部材に合わせて随時調整できるように鋼棒等で合わせる。
[防水シート]
【0014】
防水シート2は、散水した水がトンネル坑内に落ちなければよく、この材質は一般に用いられているポリエチレンシート系(トンネルの防水シート)、通常のオレフィン系化学合成シート、ゴム系シート等いずれでもよい。
[散水器具]
【0015】
散水器具3について、スプリンクラー方式はコンクリート表面に均一散水できるため最も適している。回転は360度行えるものがよい。散水量はコンクリートの厚さやコンクリートの温度により適切な量が異なるが、コンクリート厚さが300mmでコンクリート温度が10℃と低い場合には0.1〜2リットル/分の範囲、コンクリート厚さが500mmでコンクリート温度が30℃と高い場合には1〜5リットル/分の範囲がよい。
[移動式車輪]
【0016】
移動するための車輪4は、レールに合わせた鋼材式の丸型でその直径は10〜15cmがよい。タイヤ式の場合はゴム系でその直径はレール式と同様に10〜15cmが適している。
以下図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
[本発明方法によるひび割れ対策効果]
【0017】
図1に本発明方法によるひび割れ対策効果の一例を示す。トンネル二次覆工コンクリートにおいて、本発明方法により散水時間を24時間から96時間実施したことによりトンネル二次覆工コンクリートのひび割れは極めて減少していることが明らかになった。その散水時間は24時間〜72時間が適している結果であった。
【実施例】
【0018】
以下図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
[トンネル二次覆工コンクリートに設置する例]
【0019】
トンネル二次覆工コンクリート5の内側に、支保部材1aおよび支保部材1bを組み立て下側に車輪4aを取り付ける。次に支保部材に散水器具3を設置する。この後に防水シート2で覆う。コンクリートを打設し、型枠を取り外した後に直ぐに散水を開始する。散水時間は24時間〜72時間継続する。
[ボックスカルバートに設置する例]
【0020】
ボックスカルバートコンクリート6の内側に、支保部材1aおよび支保部材1bを組み立て下側に車輪4bを取り付ける。次に支保部材に散水器具3を設置する。この後に防水シート2で覆う。コンクリートを打設し、型枠を取り外した後直ぐに散水を開始する。散水時間は24時間〜72時間継続する。
【符号の説明】
【0021】
1・・・支保部材
2・・・防水シート
3・・・散水器具
4・・・車輪
5・・・トンネル二次覆工コンクリート
6・・・ボックスカルバートコンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルやボックスカルバート等の連続体で施工するコンクリートにおいて、
ンクリート打設型枠取り外し後、直ぐにそのコンクリート表面から100〜300ミリメートル離れた位置に支保部材を組み立て、その脚部に車輪を取り付け、この支保部材に散水設備を設置し、同支保部材のコンクリート面側全面シートで覆い、コンクリート表面に散水を開始して24時間〜72時間連続散水すること及びこの設備が移動できることを特徴とするコンクリートの養生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−235894(P2009−235894A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140723(P2009−140723)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【分割の表示】特願2003−119078(P2003−119078)の分割
【原出願日】平成15年3月20日(2003.3.20)
【出願人】(503151188)
【出願人】(505356491)株式会社マシノ (10)
【Fターム(参考)】