説明

コンクリートひび割れセンサ

【課題】 繊維含有プラスチックの白化現象を利用することにより、ひび割れの部分に簡単に取りけられて、また、定期的な巡回点検時などでも、離れたところから誰でも簡単に観測できるような、コンクリートひび割れセンサを提供する。
【解決手段】 マトリックス樹脂6にシート状繊維5を浸潤させて形成した繊維含有プラスチックプレート1であって、接着材4でコンクリート2のひび割れ3を跨ぐように貼付して、その後のひび割れ3の成長を検出するもので、ひび割れ幅の拡大に対応して増大する白化部分の面積に基づいてひび割れの拡大を推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物に発生したひび割れの成長を監視するために使用するコンクリートひび割れセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートにひび割れは付きもので、コンクリート構造物からひび割れを無くすることは難しい。コンクリートのひび割れが直ちに大きな不都合をもたらすものではないが、ひび割れが成長すると、鉄筋の腐食等によるコンクリート構造物の弱体化などに発展して、場合によっては大きな事故が発生する可能性があることが問題である。
このため、コンクリートの剥落を防ぎトンネルや道路橋などのコンクリート構造物を安全に維持するためには、覆工のひび割れを適正に管理する必要がある。コンクリートひび割れの管理は、ひび割れの存在よりひび割れの成長を感知することが重要である。特に、幅1mm程度のひび割れが3〜5mm程度に進展するところを検知できることが好ましい。
【0003】
従来、たとえば、トンネルのコンクリートひび割れ検査は、作業者がトンネル内を徒歩または高所作業車で移動して目視観察による調査を行う方法を中心に行ってきた。また、発見されたひび割れの成長の有無については、クラックゲージや歪みゲージあるいはπ型変位計等を、ひび割れ部分を挟んで設置して、これらセンサや計器で検出されるひび割れ幅の値を読み取って記録し、ひび割れの変化を算定することにより判定する場合もある。これらの検査作業に使うセンサや計器の設置工事および目視観察は、検査対象部分に接近しやすくする足場を組み上げて行う必要があったり、作業員に熟練を要求する煩雑な作業を要求するものであった。
【0004】
なお、最近では、CCDビデオカメラによりコンクリート表面を撮影し画像処理によりひび割れを測定する手法や、コンクリート表面にレーザ光を照射し反射光を検出してひび割れを認識する手法なども開発されているが、これら手法はいずれも、高価な測定機器を使って複雑な処理をするため、現場の作業者が簡単に操作できるものとなっていない。
なお、コンクリートのひび割れ検査は、トンネルばかりでなく、橋梁の床版や橋脚など、各種のコンクリート構造物において、同様に実施されている。
このように、コンクリート構造物を適切に予防保全するために、コンクリートのひび割れを対象とする実施容易なモニタリング技術が求められている。特に、コンクリート構造物に発生したひび割れをモニタリングして、剥落等の重大な事故に発展するか否かを判断できるデータを収集するために使う簡便なセンサが求められている。
【0005】
コンクリートのひび割れセンサとして、特許文献1に、トンネル内の壁面に発生した複数のひび割れを順次に跨ぐようにして光ファイバを貼り付け、ひび割れの拡大に伴って発生する光ファイバの歪みに応じて光ファイバの端部に表れる信号を受信し演算処理して、ひび割れの進行状況を感知するようにした遠隔監視システムが開示されている。特許文献1に開示された遠隔監視システムでは、光ファイバの始端部にたとえば光ファイバ損失分布測定器や歪み分布測定器などを接続して、光ファイバ内の任意の位置における歪みを測定し、予め対応づけておいた歪み変化量とひび割れ幅変化量の関係を使って、ひび割れの成長量を推定する。
【0006】
特許文献1に開示された遠隔監視システムは、コンクリートのひび割れの成長を監視するために、光ファイバをひび割れ部分に装着する精密な現場工事と施工後の光ファイバの姿勢保持を必要とし、また、高度な計測器を必要とする。また、観察期間中に新しくひび割れが発現した場合などには、新しいひび割れを監視対象に含ませるためのセンサ再施工が容易でない。
【0007】
さらに、特許文献2には、黒鉛粉末と炭素繊維等の短繊維を分散させた棒状のセメント硬化体を検知対象のコンクリートに埋め込んで、セメント硬化体の端部間の抵抗値を測定することにより検知対象のコンクリートのひび割れ状態を推定するセンサが開示されている。特許文献2により開示されたセメント硬化体の両端間抵抗値を計測する方法は、常時あるいは適宜モニタすることができるが、予めセメント硬化体を埋め込んだ部分におけるひび割れ状態しか検知しない。また、ひび割れによりセメント硬化体が切断された後は測定信号が得られないので、ひび割れの成長を検知しようとする場合には適用できない。
【0008】
また、特許文献3には、コンクリート構造物の表面に貼り付けるとコンクリートひび割れの拡大に追従して伸びるゴム板上に複数の金属板を配列したもので、検知したいひび割れの幅に応じて金属板をオーバーラップさせて配置したセンサが開示されている。コンクリートのひび割れが金属板のオーバーラップ幅より大きくなると金属板を通る検出用電気回路が切断されるので、所定幅以上に成長したひび割れを検知することができる。ただし、特許文献3に開示されたセンサは、監視対象のひび割れが所定幅以上に発達したときに報知するが、その幅に達する前には特別な信号を提供しないので、途中の状況を把握することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−066117号公報
【特許文献2】特開平10−238139号公報
【特許文献3】特開2005−043220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コンクリートのひび割れは、従来方法により検出し監視することができる。しかし、作業員による目視観察では、ひび割れを経時的に観察するためたびたび高所作業車などを使ってひび割れ部分に直接アクセスする必要があり、測定のための負担が大きい。また、π型ゲージなどの変位計を設置してひび割れ幅を電気計測する方法では、ひび割れ毎に比較的高価なセンサを設置するため測定費用が膨大なものになる。また、センサを精密に設置する作業もコストが掛かる。さらに、CCDカメラなどで取得した画像を画像処理してひび割れおよびひび割れ幅を算定する方法では、高価な測定機器を使用して専門家により解析する必要があるので、簡単に利用することができない。
【0011】
ところで、本発明に係る発明者らは、従前からコンクリート構造物の補強工法を開発してきたが、その開発過程において、ある種の繊維含有プラスチックが過剰な引張り力により延伸するときに、延伸部分が白化することを見出した。この繊維含有プラスチックの板をコンクリート表面に貼付したときに、コンクリート補強機能は弱いけれど、コンクリートひび割れが成長して繊維含有プラスチックに引張り応力が働くと繊維含有プラスチックが白化して、コンクリートのひび割れ状態を表示するようになる。このときの繊維含有プラスチックの白化部分は、コンクリートひび割れ幅の増加量より大きくなる。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、このような繊維含有プラスチックの白化現象を利用することにより、ひび割れの部分に簡単に取り付けられて、また、センサ周りに足場などを組むこと無く、巡回点検のおりに、アクセス容易なら目視でまた離れたところからなら双眼鏡などを用いて、誰でも簡単に白化状態を観測してひび割れの状態を推定することができるような、取り扱いが簡単で安価なコンクリートひび割れセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のコンクリートひび割れセンサは、マトリックス樹脂にシート状繊維を浸潤させて形成した繊維含有プラスチックプレートと接着材で構成され、接着材で繊維含有プラスチックプレートをコンクリートのひび割れを跨ぐように貼付して、その後のひび割れの成長を検出するもので、コンクリートのひび割れ幅の拡大に対応して生じる繊維含有プラスチックプレートの白化部分に基づいてコンクリートひび割れの拡大状態を推定することができるようになっている。
【0014】
本発明のコンクリートひび割れセンサは、繊維含有プラスチックプレートをコンクリート構造物の表面に発生したひび割れを跨ぐように貼付しておくと、その後、ひび割れ幅が拡大したときに拡大量に応じてセンサの白化部分の面積が増大するので、白化部分の大きさを観察して、記録しておいた前の観測値と比較することにより、コンクリートひび割れの成長を検知することができる。
なお、ここで、繊維含有プラスチックプレートをコンクリート構造物の表面に発生したひび割れを跨ぐように貼付するとは、すなわち、ひび割れを挟むコンクリート構造物表面同士を繋ぐように繊維含有プラスチックプレートを貼付することである。本発明のコンクリートひび割れセンサは、対象とするひび割れ部分に貼付するときに、ひび割れ部分に接着材が付着したりひび割れ内部に接着材がはみ出ていたりしても、機能上に差し障りがない。
【0015】
本発明のコンクリートひび割れセンサにおける繊維含有プラスチックプレートの白化部分は顕著であるから、離れたところからでも双眼鏡などを使って観察することができる。したがって、ひび割れ位置に直接アクセスしてセンサを貼付した後は、離れたところから白化部分の面積を観察し、過去の記録と比較することで、ひび割れの成長の如何を知ることができる。このように、コンクリートひび割れ成長の監視作業は、ひび割れが手の届かないところにある場合でも足場などを使わずに地上から、特殊な技能持たない作業員が簡単に行うことができる。
【0016】
白化現象には、センサとなる繊維含有プラスチックプレート自体が白化する基材内白化現象と、コンクリート表面と接着材の接着面が剥離して白化する接着面白化現象の2つの現象が観察される。
基材内白化現象では、白化部分は含有されるシート状繊維を伝わって拡大し、白化部分の面積はひび割れ幅の拡大量と対応して増大する。センサの白化は、センサに閾値を超えた引張り応力が作用するとシート状繊維とマトリックス樹脂の伸びに差が出ることにより部分的に剥離し、シート状繊維とマトリックス樹脂の境界部分にできる剥離面、細かい傷、破砕面などで光が乱反射して白色を呈するようになることが原因と考えられる。
また、接着面白化現象は、コンクリート表面に繊維含有プラスチックプレートを接着材で貼付したときに、コンクリートに生じたひび割れが拡大すると、接着材とコンクリートの接着面が剥離することにより白色を呈する現象である。接着面白化現象でも、接着面が剥離した白化部分の面積がひび割れの拡大につれて増大する。なお、本明細書において、白化とはプレート色が白く変化することであるが、白濁する場合も含むものとする。
【0017】
センサの白化は、繊維含有プラスチックプレートの構成や接着材の組成により、いずれかの現象がより強く発現することがある。また、上記2つの現象が同時に発生することにより白化が生じることもある。いずれを原因とする白化現象も、ひび割れ幅の増大に伴って白化面積が増大するので、センサを貼付した後のコンクリートひび割れの成長を検出するために利用することができる。また、ひび割れを跨ぐ所定の部分は接着材により接着させず、繊維強化プラスチックプレート両端部を接着固定させる場合は、FRPプレート自体が白化することによりひび割れを検出する。
【0018】
本発明のコンクリートひび割れセンサでは、マトリックス樹脂が不飽和ポリエステル(UP)で、シート状繊維がガラス繊維であると、コンクリートひび割れの拡大を安定的に検知することができる。なお、マトリックス樹脂としては、UP樹脂の他にメタクリル酸メチル(MMA)樹脂、エポキシ(EP)樹脂、ビニルエステル(VE)樹脂などが例示される。
また、接着材は破断伸びが大きいMMA樹脂であることが好ましい。コンクリートひび割れの幅が拡大したときに、ひび割れを跨いで貼付された繊維含有プラスチックプレートのマトリックス樹脂と繊維に応力を良く伝えて、白化部分面積を増大させる。接着材は、ひび割れ幅が拡大したときに繊維含有プラスチックプレートが局所的な伸びで破断しないように、ひび割れ幅変化による変位を緩和して繊維含有プラスチックプレートに伝達する。コンクリートひび割れ幅はひび割れ部分に貼付した繊維含有プラスチックプレートにおける局所的な変形率を大きくするので、接着材の破断伸びは60%など繊維含有プラスチックプレート基板の破断伸びより大きな値にすることが好ましい。
【0019】
このように、ガラス繊維含有不飽和ポリエステル樹脂製のプラスチックプレートをメタクリル酸メチル樹脂でコンクリートひび割れ部に貼付して利用する、コンクリートひび割れセンサは、センサ自体が白化する基材内白化現象に基づいたコンクリートひび割れ拡大の検出について、感度が高い。
なお、繊維含有プラスチックプレートの基材は、引張り弾性率が2〜6GPaの範囲にあり、引張り強度が28〜68MPaの範囲にあり、破断伸びが9〜11%の範囲にあることが好ましく、前述のUP樹脂、MMA樹脂、EP樹脂、VE樹脂の種類を選択することで、上記範囲の基材とすることが好ましい。
【0020】
シート状繊維は、例えば連続繊維からなる複数本のガラス繊維の繊維方向をセンサ軸に対して所定の角度傾けて引き揃えてシート状に保形し、連続繊維含有プラスチックプレートがひび割れの上に貼付されたときに、連続繊維の繊維方向(引き揃え方向)がひび割れと交差するようにすることが好ましい。基材内白化現象は白化部分が連続繊維に沿って拡大するので、連続繊維の繊維方向がひび割れを横切るようになっていると、ひび割れ幅が拡大したときに白化部分が連続繊維を伝わって連続繊維含有プラスチックプレートの端部に向かって広がり、ひび割れ幅の増加を強調して表示することができる。
【0021】
繊維含有プラスチックプレートの厚みは、0.3〜1.5mm程度であることが好ましい。繊維含有プラスチックプレートに含まれるマトリックス樹脂が過大であっても材料が無駄であるばかりでなく、検出感度が低下する可能性があり、また、可撓性が無くなるため取扱い性が低下する。また、マトリックス樹脂が少なすぎるときには樹脂と繊維の歪み差が小さくなって樹脂と繊維の間が剥離しにくかったり剥離する前に破断したりして、白化現象が生じにくくなるおそれがある。
【0022】
また、コンクリート表面の色と繊維含有プラスチックプレートの色が近似していると、測定者がセンサを見逃したり、変色部分の面積を正確に測定しにくかったりするので、マトリックス樹脂に着色材を混合して適宜の色彩を付与して、簡単に見逃さずに観察できるようにすることができる。なお、マトリックス樹脂に埋もれた繊維の周りに生じる白化現象を観察できるように、マトリックス樹脂は透明もしくは半透明の状態を保持したまま着色することが求められる。
【0023】
さらに、センサ表面に目盛りを印刷あるいは貼付しておくことができる。コンクリートひび割れの幅が拡大したときにもセンサ自体の変形は小さくひび割れ幅拡大後の目盛りの誤差は小さいので、目盛りを使って白化部分を測定することにより拡大したひび割れ幅を推定することができる。なお、ひび割れ部分の目盛りが変形しても、センサのうちで変形しない部分に設けられた目盛りを使って白化部分を測定できるので、ひび割れ幅を正確に推定することができる。
【0024】
本発明のコンクリートひび割れセンサでは、センサをコンクリート表面に貼付するための接着材は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂などのいずれかであることが好ましい。また、接着面の剥離を原因とする接着面白化現象も一緒に利用する場合には、上記いずれかの透明あるいは半透明の接着材を用いて接着した場合に繊維含有プラスチックプレートを透して白化現象を観察できるので、より感度良くコンクリートひび割れ幅の拡大を検出することができる。
【0025】
本発明のコンクリートひび割れセンサは、ひび割れを跨ぐように配置し適宜な接着材を使って貼付すると、その後は、適宜な時間経過後に白化部分の面積を測定して記録することにより利用することができる。測定の結果、以前の記録と比較して白化部分の面積が所定量より増大した場合は、そのひび割れが成長しているので、ひび割れ部分が剥落あるいは崩落などの危険な状況を発現しうると見なして、適切な予防的管理をすることができる。
【0026】
本発明のコンクリートひび割れセンサの製造コストは比較的小さく、センサの貼付は接着材で簡単にすることができ、また、ひび割れ幅の拡大を反映して変化するセンサの白化部分面積は、足場や高所作業車など特殊な施設を用いることなく、また離れたところからも双眼鏡などを用いて測定することができるため、普通の作業員による定期的な巡回監視などによって計測を行うことができる。
【0027】
このように、本発明のコンクリートひび割れセンサを用いることにより、低価格なセンサをひび割れ部分に簡単にセットして、通常の作業員が簡単に観察することによって、的確なひび割れ監視を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明第1実施例のコンクリートひび割れセンサの適用状況を説明する側面断面図である。
【図2】第1実施例のコンクリートひび割れセンサの適用状況を説明する平面図である。
【図3】第1実施例のコンクリートひび割れセンサによるひび割れ拡大検出状況を説明する斜視図である。
【図4】±45°の直交する2方向に引き揃えられた連続繊維からなるシート状繊維が含有される第1実施例のコンクリートひび割れセンサの白化現象を説明する図面である。
【図5】45°の1方向に引き揃えられた連続繊維からなるシート状繊維が含有される第1実施例のコンクリートひび割れセンサの白化現象を説明する図面である。
【図6】第1実施例のコンクリートひび割れセンサの白化現象発生位置を説明するグラフである。
【図7】第1実施例のコンクリートひび割れセンサにおける第1のサンプルについてひび割れ幅の拡大と白化面積の関係を示すグラフである。
【図8】第1実施例のコンクリートひび割れセンサにおける第2のサンプルについてひび割れ幅の拡大と白化面積の関係を示すグラフである。
【図9】第1実施例のコンクリートひび割れセンサの組成と検出性能を表した表である。
【図10】第1実施例のコンクリートひび割れセンサのセンサ適性とセンサ特性の関係を示す表である。
【図11】本発明第2実施例のコンクリートひび割れセンサの白化現象を説明する図面である。
【図12】第2実施例のコンクリートひび割れセンサのサンプルについてひび割れ幅の拡大と白化面積の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明のコンクリートひび割れセンサについて詳細に説明する。
図1から図8は、本発明の第1実施例のコンクリートひび割れセンサに係る図面、図9と図10は、本実施例のコンクリートひび割れセンサの性能について説明する表、図11と図12は、本発明の第2実施例に係るコンクリートひび割れセンサに係る図面である。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明に係る第1実施例のコンクリートひび割れセンサの適用状況を説明する側面断面図、図2は、第1実施例のコンクリートひび割れセンサを適用している状態を示す平面図である。
本発明の第1実施例のコンクリートひび割れセンサは、図1および図2に示すように、繊維含有プラスチックプレート1をコンクリート構造物2の監視したいひび割れ3を跨ぐように接着材4で貼付して使用する。第1実施例のセンサは、コンクリート構造物2のひび割れ3の幅が拡大するとコンクリートひび割れセンサを構成する繊維含有プラスチックプレート1の基材中の白化部分が拡大する現象すなわち基材内白化現象を利用する。
【0031】
繊維含有プラスチックプレート1は、ガラス繊維5をマトリックス樹脂6に含浸させて形成したもので、0.5〜1.5mm程度の厚さを有し、長方形のカード状をなしている。なお、形状は長方形に限定されるものではなく、ダンベル形状等の異形状であってもよい。また、カードの大きさは、名刺大、はがき大、切手大など、対象に適した寸法を適宜に選択することができる。
【0032】
複数本の連続繊維からなるガラス繊維5は、繊維含有プラスチックプレート1の軸方向に対して45°傾いて引き揃えられることが好ましい。また、ガラス繊維5の層が複数あって、連続繊維が相互に直交して繊維方向が繊維含有プラスチックプレート1の軸に対して±45°になるように配置され、それぞれの層が、例えばポリエステル糸、ナイロン糸、ガラス糸などのステッチ糸にてシート状に保形されることが好ましい。なお、繊維方向は、繊維含有プラスチックプレート1の軸に対して45°になるように配置された場合に、ひび割れの拡大に対する白化部分面積の増大率が大きいと評価されるが、たとえば30〜60°など、適宜の傾きを有すればセンサとしての機能を果たし得ることは言うまでもない。
【0033】
なお、図示しないが、繊維含有プラスチックプレート1の表面には、センサ軸の方向に距離目盛りを印刷しておいても良い。距離目盛りは、白化現象による白化面積の増大を目視で計測する際に、白化部分の増加量を測る目安に利用することができる。なお、距離目盛りは、繊維含有プラスチックプレート1の表面に印刷されていれば、ひび割れ幅が変化するときに、伸びて不正確になるおそれがあるが、ひび割れ以外のコンクリート面に貼付された変形しない部分を利用することで十分効用がある。
【0034】
図3は、コンクリートひび割れセンサの繊維含有プラスチックプレート1を、検知対象とするコンクリートひび割れ3に適用した状態を示す斜視図で、図3(a)は、繊維含有プラスチックプレート1を観察対象とするひび割れ3に貼付した状態を示し、図3(b)は観察対象となるひび割れ3が発達してひび割れ幅が拡大した場合について、繊維含有プラスチックプレート1内部に観察される白化部分の現れ方の例を示す。
【0035】
コンクリート構造物2のひび割れ3を跨いで貼付された繊維含有プラスチックプレート1は、ひび割れ3の幅が広がり接着材4を介して繊維含有プラスチックプレート1に所定以上の引張り応力が印加されると、ひび割れ3を挟んで白化部分11を出現させる。
ガラス繊維5にマトリックス樹脂6を浸潤させて固化し平板に形成した繊維含有プラスチックプレート1は、そのままでは光線が透過して透明に見える。ところが、繊維含有プラスチックプレート1に所定以上の引張り応力が印加されると、ガラス繊維5とマトリックス樹脂6の弾性率が異なるため歪み量に差が生じて境界面が剥離する。すると、入射する光線が境界部分で乱反射して不透明になり白色を呈するようになって、白化する。白化現象は、所定の値を超えた応力が掛かるとガラス繊維5に沿って進行し、白化した部分は元に戻らない。
【0036】
図4と図5は、第1実施例のコンクリートひび割れセンサの白化現象を説明する図面である。
図4に示す繊維含有プラスチックプレート1は、センサ軸に対して45°傾いた複数本の連続繊維からなるガラス繊維5を互いに直交するように±45°に引き揃えて透明のマトリックス樹脂6を浸潤させて板状に形成したものである。
作業者は、コンクリート構造物の表面に現れたひび割れ3を観察対象として選ぶと、片面に接着樹脂4を塗った繊維含有プラスチックプレート1を、接着樹脂の面がコンクリート表面に向くようにして、選択したコンクリートひび割れ3を跨ぐように貼付する。
【0037】
コンクリートひび割れ3の上に貼付された繊維含有プラスチックプレート1は、初めは白化部分を有せず透明色あるいは半透明色を呈している。しかし、経時にしたがってひび割れ3が拡大すると、ひび割れ3を挟んでコンクリート表面の変位が生じるので、この変位が接着樹脂4を介して繊維含有プラスチックプレート1に伝搬して、マトリックス樹脂6とガラス繊維5に引張り応力が印加される。引張り応力が印加されると、引張弾性率が異なるガラス繊維5とマトリックス樹脂6の接合面にずれが生じ、接合面で剥がれて断層面や細かい傷を生成するため入射光が乱反射して、いわゆる白化現象が発生する。
【0038】
白化部分11は、繊維含有プラスチックプレート1に埋め込まれたガラス繊維5に沿って筋状に広がる。繊維が±45°に配置されたコンクリートひび割れセンサの繊維含有プラスチックプレート1では、白化部分11は多くがひび割れ3を挟んで対称に広がった蝶形を形成した。さらに、ひび割れ3が参照番号7の点線で示すように拡大するにつれて、白化部分11の面積も参照番号12の点線で示すように拡大する。
したがって、白化部分の面積が以前の値より大きければ、コンクリートひび割れ幅が拡大したと判断できる。
【0039】
一方、図5に示す繊維含有プラスチックプレート1は、センサ軸に対して45°傾いたガラス繊維5を1方向に配置したものに、マトリックス樹脂6を浸潤させて板状に形成したものである。図4と同じようにコンクリートひび割れ3の上に貼付しておくと、ひび割れ3が発達するにつれて、白化部分11はガラス繊維5に沿って広がり、繊維含有プラスチックプレート1を斜めに横断する帯形を形成した。
さらに、ひび割れ3が参照番号7の点線で示すように拡大するにつれて、白化部分11の面積も参照番号12の点線で示すように拡大するので、図4に示したコンクリートひび割れセンサと同様に、白化部分の面積を比較することにより、コンクリートひび割れ幅の拡大を検知することができる。
【0040】
図6は、ガラス繊維をマトリックス樹脂に浸潤して板状に固めた繊維含有プラスチックプレートについて、引張り試験機にかけて試料を定速で引っ張りながら応力の変化を測定して得た応力歪み線図に、基材内白化現象が生じる位置を表示したグラフである。
図6は、横軸に伸び率をとり縦軸に応力をとった線図で、45°に傾いたガラス繊維を繊維方向が交差するように引き揃え(±45°配置)、MMAをマトリックス樹脂として浸潤させた繊維含有プラスチックプレート(A,B,C)と、ガラス繊維を含まないマトリックス樹脂のみのプラスチックプレート(D)について、基材内白化現象を観測した領域を点線で囲って示してある。
【0041】
ガラス繊維を含まないプラスチックプレート(D)では白化現象が発生しなかった。
一方、繊維含有プラスチックプレートは、マトリックス樹脂の量を抑えて0.7mmの厚さにしたもの(A)と、マトリックス樹脂を増やして1.5mmの厚さにしたもの(B)と、ガラス繊維をさらに繊維含有プラスチックプレートの軸方向と直交する方向(ひび割れと平行な方向)に埋め込み、ガラス繊維を3方向に配置してマトリックス樹脂を含浸させて厚さを2.0mmにしたもの(C)について、基材内白化現象を確認している。
この結果、薄いガラス繊維含有プラスチックプレート(A)では弾性限界を超えて伸び率が2〜3%になるあたりで白化すること、厚いガラス繊維含有プラスチックプレート(B,C)では弾性変化中の伸び率が1%程度で白化することが分かった。
【0042】
したがって、ガラス繊維を含有しないプラスチックプレートでは基材内白化現象を利用したひび割れセンサを構成しない。また、ガラス繊維含有プラスチックプレート(A,B,C)は基材内白化現象を利用したひび割れセンサを構成することができるが、基材内白化現象が弾性限界を超えて安定した領域で生じる薄いガラス繊維含有プラスチックプレート(A)のほうが、厚いガラス繊維含有プラスチックプレート(B,C)より基材内白化現象が安定的に発現すると考えられる。
【0043】
図7と図8は、繊維含有プラスチックプレートと接着樹脂を組み合わせたコンクリートひび割れセンサ試料について、実験により得られたひび割れ幅の拡大と白化部分の面積の関係を示すグラフである。図は、横軸にひび割れ幅、縦軸に白化部分面積をとっている。
実験は、2つのコンクリートブロックを突き合わせて、その側面に突き合わせ面を跨いで繊維含有プラスチックプレートを接着樹脂で貼付し、引張試験機にかけてコンクリートブロックを所定間隔ずつ引き離しては繊維含有プラスチックプレートの白化状態や破断、剥離の様子を観察する方法で行った。
【0044】
図7と図8に白化特性を示した繊維含有プラスチックプレートは、それぞれ試験番号8と試験番号7の試料であって、ガラス繊維を±45°に配置してマトリックス樹脂として不飽和ポリエステル(UP)を染み込ませて0.5mm厚、30mm幅、250mm長の板状にしたもので、いずれも実験の結果センサとして利用できる性能を呈したものである。繊維含有プラスチックプレートは、コンクリート表面にメタクリル酸メチル(MMA)樹脂で接着した。図7の試験番号8ではコンクリート表面にプライマを使用していないのに対して、図8の試験番号7ではプライマを使用して接着しているところが異なる。
【0045】
図7と図8によれば、ひび割れセンサを貼付した状態ではひび割れが僅かに拡大するだけで白化部分面積が大きく増加する初期現象があるが、この初期現象を除くと、ひび割れ幅が拡大するにつれて白化部分面積がほぼ一定の割合で増大していることが分かる。たとえば、図7ではひび割れ幅が拡大する間に白化部分の面積がほぼ330mm/mmの割合(白化部分拡大面積2000mm/ひび割れ拡大幅6mm)で増大することが期待される。また、図8においても同様に、ひび割れ幅が拡大する間に白化部分の面積がほぼ330mm/mmの割合で増大することが期待される。
【0046】
したがって、本実施例の繊維含有プラスチックプレート1を適用することにより、適宜の期間をおいて測定した白化部分の面積増大量から、その期間中のひび割れ拡大量を大まかに評価することができる。少なくとも、ひび割れ幅が大きく拡大した場合は、白化部分面積がそれなりに増大するので、白化面積増加量を評価することによりひび割れの成長を検知することができる。
【0047】
白化部分は顕著であって、測定対象のコンクリートひび割れ部分に適用した繊維含有プラスチックプレートに直接アクセスしなくても、離れたところからも双眼鏡などを使って観察して評価することができる。したがって、ひび割れ評価のためにセンサにアクセスするための足場を準備したりする必要が無く、日常的な保守点検作業の一貫として普通の作業者が簡単に測定することができる。また、繊維含有プラスチックプレートは、材料費も安く加工も簡単で、安価に供給を受けることができる。
【0048】
(本実施例のセンサ評価)
図9と図10は、いくつかの材料を組み合わせて構成したいくつかのプラスチックプレートについてセンサ性能を評価した結果を示す表である。センサ性能の評価に基づいて取捨選択し、本発明のコンクリートひび割れセンサを選定することができた。
図9は、実験対象とした試料の特性とセンサとしての評価結果を表す表である。表は、コンクリートひび割れセンサとして使う、繊維含有プラスチックプレートの形態・厚み、また、ガラス繊維の方向とマトリックス樹脂の種類、プライマの有無と接着樹脂の種類との組み合わせを変えることにより、各種試料を生成して、各試料について2つのコンクリートブロックを突き合わせた側面に貼付して、コンクリートブロックの突き合わせ面を引き離していって試料の白化現象を観察してセンサ性能を評価した結果を示している。
図9の表は、基材内白化現象について評価したものである。
【0049】
表には、マトリックス樹脂の力学特性と繊維含有プラスチックプレート基板の力学特性、および接着樹脂の伸び特性も記載されている。
評価結果は、各試料について、基材内白化現象を利用したひび割れセンサとして最適に利用できるものから利用不可能なものまで順に、◎、○、△、×の符号を付けて判別し、コメント欄に実験時の状態を記入してある。
【0050】
センサ形状として、繊維束に樹脂を含浸して固化した繊維含有プラスチック板と、マトリックス樹脂に光硬化型樹脂あるいは熱硬化型樹脂などを用いて現場に適用した後で硬化させるプリプレグ板が選択された。繊維含有プラスチックプレートは全て、幅30mm、長さ250mmの長方形に形成した。繊維含有プラスチックプレートの厚さは、0.5mmと0.6mmのものが選択された。ガラス繊維の繊維方向は、センサ軸に対して±45°のものと、90°のものが準備された。
【0051】
繊維含有プラスチックプレートのマトリックス樹脂は、メタクリル樹脂(MMA)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、硬い不飽和ポリエステル樹脂(UP(硬))、さらにプリプレグ板用にビニルエステル樹脂(VE)から選択された。
接着樹脂には、MMAとエポキシ樹脂(EP)、プリプレグ板用にVEが選択できるようにした。
また、コンクリート表面にプライマを使用する場合と使用しない場合が選択された。
【0052】
これらの要素について組成を適宜選択して構成したいくつかのコンクリートひび割れセンサについてセンサ適性を確認する試験を行った。
試験の結果から、基材内白化現象を利用する場合について、試験番号2,7,8の試料がコンクリートひび割れセンサとして利用可能と判定された。
なお、試験番号1,3は、白化現象が目立ちにくいが、条件によってセンサに利用できる可能性がある。他の試料については、それぞれ、変色があっても変化が小さすぎたり、白化現象が発生しないうちに破断したり、白化せずに剥離したり、ひび割れを挟んだ片側のコンクリート表面で剥がれる片端剥がれが生じたりして、良質なセンサとすることができないと判定された。
【0053】
試験番号7,8のものは、±45°のガラス繊維とUPのマトリックス樹脂で形成された繊維含有プラスチックプレートを、MMAで接着するようにしたものである。試験番号8,7の構成は、先の図7,図8に表示したひび割れ幅の増加と白化面積の増加の関係に基づいて、ひび割れ拡大を検知するコンクリートひび割れセンサとして十分に利用できることが裏付けられている。
【0054】
試験番号2のものは、±45°のガラス繊維とMMAのマトリックス樹脂で形成された繊維含有プラスチックプレートを、プライマを使わずにMMAで接着するようにしたものである。試験番号7,8のものと比較すると、マトリックス樹脂が異なるため、マトリックス樹脂と基材の引張弾性率差が小さく白化しにくく、また、繊維含有プラスチックプレート基材の引張強度が小さく破断しやすいが、プライマを用いていないため、コンクリート表面との接着力が弱くなり、結果として基材及び樹脂の特性とコンクリート表面との接着力のバランスがとれ、センサ性能が発揮されたものと思われる。
【0055】
図10はコンクリートひび割れセンサとしての適性とセンサを構成する部材の力学特性との関係を表す表である。表には、先の性能試験において基材内白化現象を評価した結果に基づいて、センサとしての適性の高さをランク順に、◎、○、△、×の符号を付けて判定したそれぞれのランクに属する組み合わせについて、繊維含有プラスチックプレート基材と接着樹脂の力学特性を表示してある。
【0056】
なお、プリプレグ型の繊維含有プラスチックプレートは、ガラス繊維にUV硬化型樹脂や熱硬化型樹脂を含浸させることにより構成され、対象物に貼り付ける場合はプリプレグ板の未硬化樹脂により接着して硬化させるので、施工が容易であることを利点としてセンサの可能性を検討した。試験の結果、基材内白化現象を利用する場合には、プリプレグ型の繊維含有プラスチックプレートはいずれも芳しい評価を受けなかった。しかし、センサ適性のランク別には、試験番号の欄に括弧に囲って示したプリプレグ型試料のデータも含めてある。
【0057】
図10の表から、センサ適性が高い方の2つのランク(◎、○)とセンサ適性がない方の2つのランク(△、×)では、力学特性の傾向が異なることが読み取れる。
すなわち、センサ適性のある方は、繊維含有プラスチックプレート基材の引張弾性率が2〜6GPa、引張強度が28〜68MPa、破断伸びが9〜11%、接着樹脂の引張弾性率が0.1〜0.2GPa、引張強度が10〜13MPa、破断伸びが60%である。
適性のない方の組み合わせと比較すると、繊維含有プラスチックプレート基材と接着樹脂の引張弾性率と引張強度が小さく、破断伸びが大きい傾向がある。
【0058】
図9と図10を参照することにより、マトリックス樹脂を不飽和ポリエステル(UP)またはメタクリル酸メチル樹脂(MMA)で、シート状繊維をセンサ軸方向に対して±45°で交差する繊維軸を持ったガラス繊維で構成したコンクリートひび割れセンサであれば、コンクリートひび割れの拡大を安定的に検知することができることが分かる。
また、接着材は破断伸びが大きいMMAであることが好ましい。ただし、マトリックス樹脂にMMAを使用したものでは、基材の特性とコンクリート表面との接着性のバランスに応じてプライマの有無を検討する必要があり、例えば、試験番号1と2においては、基材の力学特性に応じ、プライマを用いることなくコンクリート表面との接着性を低く設定したものが好ましくなっている。
【0059】
本実施例のコンクリートひび割れセンサは、繊維含有プラスチックプレートをコンクリートひび割れを跨ぐように貼付して使用することにより、コンクリートひび割れの幅が拡大したときに、繊維含有プラスチックプレートのマトリックス樹脂と繊維に応力を伝えて、白化部分面積を増大させることを利用してコンクリートひび割れ幅の拡大を検知することができる。
接着材は、ひび割れ幅が拡大したときに局所的伸び率が増大して繊維含有プラスチックプレートが破断しないように、ひび割れ幅変化による変位を緩和して繊維含有プラスチックプレートに伝達する。接着材の破断伸びは60%など繊維含有プラスチックプレート基板の破断伸び(たとえば8〜12%)より大きな値であることが好ましい。
【実施例2】
【0060】
本発明の第2実施例のコンクリートひび割れセンサは、接着面白化現象を利用するものである。
コンクリート構造物のひび割れの幅が拡大すると、繊維含有プラスチックプレートをコンクリート面に接着する接着材がコンクリート表面から徐々に剥離することにより、繊維含有プラスチックプレートの表面から観察される白化部分が拡大する。この白化現象は、基材中の白化部分が拡大する基材内白化現象と異なるので、接着面白化現象と呼んで区別している。
【0061】
図9における試験番号5の構成は、基材内白化現象の発現程度で評価するとセンサ適性が十分でないが、接着面白化現象は顕著に発現するので、接着面白化部分を観察するようにしたコンクリートひび割れセンサとして利用可能と判定することができる。
図11は、第2実施例のコンクリートひび割れセンサ21における接着面白化現象の発生状況を説明する平面図である。
【0062】
第2実施例のコンクリートひび割れセンサ21は、基材内白化現象を抑えて接着面白化現象をより純粋に発現させるため、図9においてガラス繊維の傾きを90°と表示している通り、ガラス繊維の繊維方向をひび割れに対して直交方向に、すなわちセンサ軸に対して平行する方向に、配置してある。
また、繊維含有プラスチックプレートはMMA樹脂をガラス繊維で強化することで基材の引張り強度を360MPa程度と比較的大きくすると共に、コンクリート表面と接着する接着樹脂は破断伸びが約60%と大きいMMA樹脂を使って、ひび割れ拡大に対して、プレート端部の剥がれ等が生じないようにしている。
【0063】
第2実施例のコンクリートひび割れセンサも、第1実施例のセンサと同じく、図1および図2に示すように、繊維含有プラスチックプレート21を監視したいコンクリート構造物のひび割れ3を跨ぐように接着材で貼付して使用する。プライマは使用しないで、コンクリートとの接着面で剥離しやすくしている。
センサを貼付した後、適宜の時間が経過してひび割れ3が発達すると、接着材がコンクリート表面から剥がれて、剥離面で入射光が乱反射して白色に見える白化部分22が観察される。白化部分22は、ひび割れ3とほぼ平行に生成する。さらに、ひび割れ3の幅が参照番号7の点線で示すように拡大すると、接着面白化現象によりさらに剥離面が増加して、当初の白化部分22が参照番号23の点線で示すようにひび割れ3とほぼ平行に拡大する。
【0064】
図12は、試験番号5のコンクリートひび割れセンサ21について、第1実施例で利用した試験により得られた、ひび割れ幅の拡大と繊維含有プラスチックプレートにおける接着面白化現象を呈した白化部分の面積との関係の1例を示すグラフである。図12は、横軸にひび割れ幅、縦軸に接着面白化現象による白化部分面積をとって、両者の関係を表示したものである。
【0065】
第2実施例に対する上記試験は、2つのコンクリートブロックを突き合わせて、その側面に接合面を跨ぐようにコンクリートひび割れセンサ21の繊維含有プラスチックプレートを接着樹脂を使って貼付し、コンクリートブロックを所定間隔ずつ引き離してはコンクリートひび割れセンサ21の白化状態を繊維含有プラスチックプレートの層を透して観察するもので、接着面白化現象に起因する白化部分を抽出して、ひび割れ幅の拡大と繊維含有プラスチックプレート21の接着面における白化部分の面積との関係を知るために利用することができる。
【0066】
図12によれば、ひび割れセンサを貼付したときの初期現象を除くと、たとえば、ひび割れ幅が拡大する間に白化部分の面積がほぼ500mm/mmの割合で増大することが期待される。
したがって、第1実施例と同様、試験番号5の構成など、本実施例のコンクリートひび割れセンサ21を適用することにより、適宜の期間をおいて測定した白化部分の面積増大量から、所定の期間におけるコンクリートひび割れ3の成長の有無を検知することができる。
【0067】
なお、第1実施例の構成と第2実施例の構成を混合して、基材内白化現象と接着面白化現象を同時に発現させて、白化部分面積の拡大状況を観察してひび割れの発達状態を感知するコンクリートひび割れセンサとすることもできる。図7、図8、図12などに示されるように、基材内白化現象と接着面白化現象はいずれも、ひび割れ幅の拡大に対応して白化部分の面積が増大するものだからである。
【0068】
基材内白化現象と接着面白化現象を同時に発現させるコンクリートひび割れセンサは、ガラス繊維の方向を繊維含有プラスチックプレートの軸に対して90°の直交の向きとたとえば45°などの傾斜角を有する向きに配置して、マトリックス樹脂を含浸させて作成する。このとき、ガラス繊維の密度とマトリックス樹脂の種類を選択して、基材の引張強度や破断伸びを適度な値に調整して、ひび割れ幅の拡大に伴い、繊維含有プラスチックプレート基材内部でガラス繊維とマトリックス樹脂との剥離が生じると共に、接着樹脂とコンクリート面の剥離が生じるようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のコンクリートひび割れセンサは、入手の容易な材料で比較的簡単に作成することができ、コンクリート構造物に対する施工も接着樹脂で監視対象になるコンクリートひび割れ部分に簡単に設置することができる上、ひび割れ幅が拡大したときにはセンサの変色を簡単に検知することができるので、特殊な技能を持たない作業者による適宜な巡回点検により簡単にひび割れ状況を把握して、コンクリート構造物の予防保全を的確に実施させることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 繊維含有プラスチックプレート
2 コンクリート構造物
3 コンクリートのひび割れ
4 接着材
5 ガラス繊維
6 マトリックス樹脂
7 拡大したひび割れ
11 白化部分
12 拡大した白化部分
21 コンクリートひび割れセンサ
22 白化部分
23 拡大した白化部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状繊維にマトリックス樹脂を含浸させて形成した繊維含有プラスチックプレートと、該繊維含有プラスチックプレートをコンクリート表面に貼付するための接着材とで構成されるセンサで、該繊維含有プラスチックプレートを該接着材で被測定コンクリートのひび割れを跨ぐように貼付して、ひび割れ幅の拡大に対応して生じる白化部分に基づいて該ひび割れの成長を検出できるようにしたことを特徴とするコンクリートひび割れセンサ。
【請求項2】
前記マトリックス樹脂は不飽和ポリエステルであり、前記シート状繊維はガラス繊維であり、前記ひび割れ幅の拡大に対応して前記シート状繊維と前記マトリックス樹脂の間にずれが生じることにより白化部分が生じる、請求項1記載のコンクリートひび割れセンサ。
【請求項3】
前記接着材はメタクリル酸メチル樹脂である、請求項1または2記載のコンクリートひび割れセンサ。
【請求項4】
前記繊維含有プラスチックプレートは、引張り弾性率が2〜6GPaの範囲に属し、引張り強度が28〜68MPaの範囲に属し、破断伸びが9〜11%の範囲に属し、前記接着材の破断伸びが60%程度である、請求項1記載のコンクリートひび割れセンサ。
【請求項5】
前記シート状繊維は、繊維方向をセンサ軸に対して傾けて配置される、請求項2から4のいずれか1項記載のコンクリートひび割れセンサ。
【請求項6】
前記シート状繊維は、繊維方向をセンサ軸に対して垂直の方向にさらに配置される、請求項5項記載のコンクリートひび割れセンサ。
【請求項7】
前記マトリックス樹脂はメタクリル酸メチル樹脂であり、前記シート状繊維はガラス繊維であり、前記接着材はメタクリル酸メチル樹脂であって、前記ひび割れ幅の拡大に対応して前記コンクリート表面と前記接着材の間に剥離が生じることにより白化部分が生じる、請求項1記載のコンクリートひび割れセンサ。
【請求項8】
前記繊維含有プラスチックプレートは、引張り弾性率が19GPa程度、引張り強度が356MPa程度、破断伸びが3%程度で、前記接着材の破断伸びが60%程度である、請求項7記載のコンクリートひび割れセンサ。
【請求項9】
前記マトリックス樹脂は着色した、請求項1から8のいずれか1項に記載のコンクリートひび割れセンサ。
【請求項10】
前記繊維含有プラスチックプレートは、表面に距離目盛りを備える、請求項1から9のいずれか1項に記載のコンクリートひび割れセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−93260(P2012−93260A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241380(P2010−241380)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)