説明

コンクリートまたはモルタルの維持管理方法および装置

【課題】硫酸による将来の侵食状況を使用初期段階で予測することができるコンクリートまたはモルタルの維持管理方法および装置を提供する。
【解決手段】コンクリートまたはモルタル(以下、コンクリート等という。)を所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリート等の侵食深さとの相関関係を予め把握しておく(ステップS1)。相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリート等と維持管理用のコンクリート等とを同じ現場環境に設置して、所定期間経過後に各侵食深さを測定する(ステップS2〜S5)。濃度測定用の侵食深さと所定期間と相関関係とに基づいて現場環境の硫酸の濃度を推定する(ステップS6)。推定した濃度と維持管理用の侵食深さと所定期間と相関関係とに基づいて現場環境のコンクリート等の将来の侵食状況を予測評価する(ステップS7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートまたはモルタルの維持管理方法および装置に関し、特に、下水道施設などの硫酸雰囲気で用いられるコンクリートまたはモルタルの維持管理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道施設などにおいて、硫化水素に細菌が作用して硫酸が発生することが知られている。こうした硫酸雰囲気の環境下に設置されるコンクリートまたはモルタルは、硫酸によって腐食劣化するものである。このコンクリートまたはモルタルを維持管理するためには、硫酸による侵食劣化をできるだけ正確に予測する必要があるが、このような侵食劣化を予測する方法としては、例えば、特許文献1に示す方法が知られている。
【0003】
一方、硫酸による腐食劣化に対して耐久性を有する耐硫酸性コンクリートまたはモルタルの開発が進められている。例えば、本発明者らは、既に特願2009−120407に示す耐硫酸性に優れたコンクリートおよびモルタルを提案している。このコンクリートおよびモルタルは、下水道施設などの硫酸性雰囲気に晒される環境で使用するのに好適な材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−164256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、硫酸雰囲気の環境下に設置されたコンクリートやモルタルが、少なくとも耐用年数の期間は設計どおりの機能を維持可能であることを確認するには、実際に耐用年数経過後にその機能が維持されているかの確認をすればよい。しかしながら、通常のコンクリートやモルタルの耐用年数は50年といった長期間であり、この期間の経過を待って確認するのは現実的ではない。このため、硫酸による将来の侵食状況を、コンクリートやモルタルの使用の初期段階でより正確に予測することができる維持管理技術の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、硫酸による将来の侵食状況を使用初期段階で予測することができるコンクリートまたはモルタルの維持管理方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの維持管理方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、前記相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルと、現場環境に設置されるものと同種であって前記相関関係が把握された維持管理用のコンクリートまたはモルタルとを同じ現場環境に設置して、所定期間経過後にこの現場環境の硫酸による侵食深さをそれぞれ測定し、前記硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、前記所定期間と、前記相関関係とに基づいて、前記現場環境の硫酸の濃度を推定し、推定した前記現場環境の硫酸の濃度と、前記維持管理用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、前記所定期間と、前記相関関係とに基づいて、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測評価することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法は、上述した請求項1において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法は、上述した請求項1または2において、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルが、設計耐用期間について所定の性能を維持可能であるか否かを前記耐用期間に達する前に予測評価することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記現場環境の設計硫酸濃度が適正であったか否かを評価することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法は、上述した請求項1〜4のいずれか一つにおいて、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの実際の品質が適正であったか否かを評価することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法は、上述した請求項1〜5のいずれか一つにおいて、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの計画者および製造者の責任の度合いを評価することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項7に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理装置は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの維持管理装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、前記相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルを現場環境に設置して、所定期間経過後に測定することによって得られるこの現場環境の硫酸による侵食深さと、前記所定期間と、前記相関関係の情報とに基づいて、前記現場環境の硫酸の濃度を推定する推定手段と、前記推定手段で推定した前記現場環境の硫酸の濃度と、前記現場環境に設置されるものと同種であって前記相関関係が把握された維持管理用のコンクリートまたはモルタルを前記現場環境に設置して、前記所定期間経過後に測定することによって得られるこの現場環境の硫酸による侵食深さと、前記所定期間と、前記相関関係の情報とに基づいて、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測評価する予測評価手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項8に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理装置は、上述した請求項7において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの維持管理方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、前記相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルと、現場環境に設置されるものと同種であって前記相関関係が把握された維持管理用のコンクリートまたはモルタルとを同じ現場環境に設置して、所定期間経過後にこの現場環境の硫酸による侵食深さをそれぞれ測定し、前記硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、前記所定期間と、前記相関関係とに基づいて、前記現場環境の硫酸の濃度を推定し、推定した前記現場環境の硫酸の濃度と、前記維持管理用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、前記所定期間と、前記相関関係とに基づいて、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測評価する。
【0016】
つまり、硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルを用いて、この侵食深さと所定期間(浸漬期間)に対応する硫酸の濃度を相関関係から求めることで、現場環境の硫酸の濃度を推定する。そして、維持管理用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さを用いて、この侵食深さと推定した硫酸の濃度と所定期間の積との関係を求め、これと相関関係とから、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測する。予測時点としては、耐用期間よりも短い使用初期の段階(所定期間経過時)とすることができる。したがって、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルについて、硫酸による将来の侵食状況を使用初期段階で予測することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法および装置の実施例を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの相関関係の一例を示すグラフ図である。
【図3】図3は、将来の侵食状況を予測するための図である。
【図4】図4は、本発明による維持管理方法の具体例を示す図である。
【図5】図5は、コンクリートの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【図6】図6は、モルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法および装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
図1に示すように、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理方法は、硫酸雰囲気で用いるケイ酸カルシウム系材料を用いたコンクリートまたはモルタルの維持管理方法である。具体的な手順としては、予めコンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておく(ステップS1)。
【0020】
次に、相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルを現場環境に設置する(ステップS2)。また、現場環境に設置されるものと同種であって相関関係が把握された維持管理用のコンクリートまたはモルタルとを同じ現場環境に設置する(ステップS3)。そして、所定期間経過後にこの現場環境の硫酸による侵食深さをそれぞれ測定する(ステップS4、S5)。
【0021】
次に、硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、所定期間と、相関関係とに基づいて、現場環境の硫酸の濃度を推定する(ステップS6)。
【0022】
そして最後に、推定した現場環境の硫酸の濃度と、維持管理用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、所定期間と、相関関係とに基づいて、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測評価する(ステップS7)という手順による。
【0023】
ここで、本発明者らは、図2に示すように、ケイ酸カルシウム系材料を用いた普通コンクリートの硫酸による侵食深さと、硫酸の平均濃度に浸漬時間を乗じた値(積)との間には線形の相関関係が成り立つことを確認している(詳細については後述する)。この図2は、水セメント比(W/C)が25%であるコンクリートと60%であるコンクリートについて、上記の積に応じた侵食深さ測定値のプロットと、各プロットから求めた回帰直線の一例を示したものである。なお、このような線形関係はモルタルの場合にも成り立つ。
【0024】
したがって、硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルを用いて、この侵食深さと所定期間(浸漬期間)に対応する硫酸の濃度を相関関係から求めることで、現場環境の硫酸の濃度を推定することができる。
【0025】
そして、図3に示すように、維持管理用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さを用いて、この侵食深さと推定した硫酸の濃度と所定期間の積との関係を求め、これと相関関係とから、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測する。予測時点としては、耐用期間よりも短い使用初期の段階(所定期間経過時)とすることができる。したがって、本発明によれば、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルについて、硫酸による将来の侵食状況を使用初期段階で予測することができる。
【0026】
この場合、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルが少なくとも設計耐用期間(設計耐用年数)について所定の性能を維持可能であるか否かを、この耐用期間に達する前に予測評価することができる。
【0027】
例えば、下水道施設のコンクリートの設計耐用年数が50年の場合には、図3に示すように、使用開始から3年、6年、10年の各経過時に侵食深さを測定して、プロットをする。図中、小さい○は3年、6年経過時の測定値を示し、大きい○は10年経過時の測定値を示している。これらの測定値から回帰直線を求めて、現場環境のコンクリートの将来の侵食劣化具合を予測し、残り40年について構造的に機能を維持できるか否かの評価を行ってもよい。
【0028】
また、設計硫酸濃度が適正であったか否かを使用初期段階で評価することもできる。この場合、硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルを用いて、所定期間経過時の現場環境の平均の硫酸の濃度を推定し、推定された硫酸の濃度と現場環境の設計した硫酸の濃度とを比較することで、この設計硫酸濃度が適正であったか否かを評価する。
【0029】
また、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの計画者および製造者の責任の度合いを評価することもできる。この場合、図3に示すように、維持管理用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さと、推定した硫酸の濃度と所定期間の積との関係を求め、これと相関関係との位置関係から評価する。
【0030】
例えば、図3に示すように、予め把握してある線形の相関関係を示す回帰直線(性能線)に対して、当初想定した硫酸濃度を示す線(硫酸濃度線)と、所定期間経過時(例えば10年経過時)に想定される侵食深さを示す線(侵食深さ線)を引く。そして、推定硫酸濃度と所定期間との積に対応して実際に測定された侵食深さを示す点(図中の○)をプロットする。このプロットした点の位置によって責任の所在を明確にすることができる。
【0031】
プロットした点が侵食深さ線よりも上側にある場合には、想定された侵食深さを超えて侵食されていることになる。この場合、プロットした点が硫酸濃度線よりも左側にあるときには、設計硫酸濃度よりも実際の硫酸濃度が低く、かつ、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの実際の品質が設計品質より良好ではなかったことを示すものである。このように、設計硫酸濃度よりも低い濃度で予想以上に侵食された場合には、製造者側の責任と考えることができる。
【0032】
プロットした点が硫酸濃度線よりも右側かつ性能線よりも下側にあるときには、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの実際の品質が設計品質より良好であったにもかかわらず、設計硫酸濃度よりも実際の硫酸濃度が高いことから、現場環境の硫酸濃度を実際よりも低く見積もった計画者側の責任と考えることができる。一方、プロットした点が硫酸濃度線よりも右側かつ性能線よりも上側にあるときには、設計硫酸濃度よりも実際の硫酸濃度が高く、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの実際の品質が設計品質より良好ではなかったことを示すものであり、プロットした点の位置によって計画者と製造者の各責任の度合いを把握することができる。
【0033】
なお、プロットした点が侵食深さ線よりも下側にある場合には、製品としての性能は満足していると言える。この場合、性能線の上側にあるときには、製品の品質は良好ではないが、実際の硫酸濃度は設計硫酸濃度よりも低かったことが分かる。性能線の下側にあるときには、製品の品質は良好であることが分かる。硫酸濃度線よりも右側にあるときには、実際の硫酸濃度は設計硫酸濃度よりも高かったことが分かる。
【0034】
また、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの維持管理装置は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの維持管理装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルを現場環境に設置して、所定期間経過後に測定することによって得られるこの現場環境の硫酸による侵食深さと、所定期間と、相関関係の情報とに基づいて、現場環境の硫酸の濃度を推定する推定手段と、推定手段で推定した現場環境の硫酸の濃度と、現場環境に設置されるものと同種であって相関関係が把握された維持管理用のコンクリートまたはモルタルを現場環境に設置して、所定期間経過後に測定することによって得られるこの現場環境の硫酸による侵食深さと、所定期間と、相関関係の情報とに基づいて、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測評価する予測評価手段とを備えるものである。ここで、推定手段および予測評価手段による演算処理はコンピュータを用いて行う。具体的な処理手順および内容については上記の本発明の維持管理方法の手順および内容と同様である。
【0035】
次に、本発明による具体的な維持管理例について、図4を参照しながら説明する。
図4に示すように、まず、実験室にて相関関係把握用のモルタル(W/C=25%)を濃度5%および10%の硫酸に浸漬させ、硫酸侵食深さを測定する。これは、硫酸の温度5℃、20℃、35℃について行う。測定値に基づいて各温度毎の線形の相関関係を把握しておく。
【0036】
続いて、現場環境にて、硫酸濃度推定用のモルタル(W/C=25%)と、維持管理用のコンクリート(現場環境のコンクリートと同じ品質であり、設計耐用年数50年とする。)とを現場環境に設置し、3年、6年、10年経過時にそれぞれの侵食深さと現場環境の平均温度とを測定する。この測定の結果、例えば3年経過時の硫酸濃度推定用のモルタルの侵食深さが10mmで、平均温度が25℃であったとする。
【0037】
上記で把握しておいた相関関係から温度25℃の侵食深さ10mmに対する硫酸濃度×浸漬期間の値を読み取る。この値は1.05であることから、現場環境の平均の硫酸濃度は1.05/3年=0.35%と推定される。
【0038】
一方、維持管理用のコンクリートの線形の相関関係を示す性能線を描くとともに、測定した維持管理用のコンクリートの侵食深さを、推定硫酸濃度×浸漬期間の値1.05に対してプロットする。6年経過時、10年経過時についても同様に、測定した侵食深さをプロットする。
【0039】
10年後の計測値のプロットが右下側の位置Aになった場合には、実際の硫酸濃度が設計硫酸濃度とほぼ等しいこと、現場環境のコンクリートはあまり侵食しなかったことが分かる。一方、プロットが右上側の位置Bになった場合には、設計硫酸濃度よりも実際の濃度がはるかに高かったことになる。この場合には、この後40年について機能の維持が難しいことが分かる。したがって、被覆施工などの対策を施す必要があることが分かる。このように、10年経過時点で、その後の40年、つまり耐用年数50年の製品性能を確認することができる。
【0040】
次に、硫酸による侵食深さと、硫酸濃度と浸漬期間との積との間の相関関係を把握するために行った実験について説明する。
【0041】
本実験に用いたセメントペースト、モルタルおよびコンクリートの配合を表1に示す。表1に示すように、結合材(B)には、普通ポルトランドセメント(C)(密度:3.15g/cm、ブレーン値:3400cm/g)および高炉スラグ微粉末(密度:2.89g/cm、ブレーン値:4150cm/g)を用いた。細骨材には、川砂(表乾密度:2.60g/cm、吸水率:2.00%)および高炉スラグ細骨材(表乾密度:2.73g/cm、吸水率:0.40%)を用いた。粗骨材には、砕石(表乾密度:2.75g/cm、吸水率:0.38%)を用いた。混和剤には、ポリカルボン酸系高性能減水剤を用いた。コンクリート二次製品を想定し、空気量は2.0%で設定した。
【0042】
【表1】

【0043】
モルタルの硫酸浸漬試験には、φ50×100mmの円柱供試体を、コンクリートの硫酸浸漬試験には。φ100×200mmの円柱供試体をそれぞれ用いた。供試体は、打設から7日間水中養生を行った後、質量パーセント濃度で5%、10%の硫酸に浸漬させた。7日毎に水で洗浄し、劣化した箇所を除去した後、質量を測定した。また、供試体を乾式コンクリートカッターで切断し、切断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧した後、呈色域の直径を測定し、硫酸による侵食深さを求めた。
【0044】
図5および図6は、それぞれ、コンクリートおよびモルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの関係を示したものである。
【0045】
図5および図6中の●は、結合材に普通ポルトランドセメントおよび高炉スラグ微粉末を質量比で40:60の割合で混合したものを用い、細骨材に高炉スラグ細骨材を用いたコンクリート(以下、耐硫酸性水和固化体コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、耐硫酸性水和固化体モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0046】
図5および図6中の黒□は、結合材に普通ポルトランドセメントのみを用い、細骨材に川砂を用いたコンクリート(以下、普通コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、普通モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0047】
図5および図6から、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの間には、直線関係が成り立つことが分かる。すなわち、コンクリートおよびモルタルの硫酸による侵食は、硫酸浸漬期間に比例するとともに、硫酸濃度にも比例することが分かる。また、図5中に示される直線の傾きは、2.9mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体コンクリートは、普通コンクリートの6倍の耐硫酸性があるといえる。また、図6中に示される直線の傾きは、3.5mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体モルタルは、普通モルタルの7倍の耐硫酸性があるといえる。
【0048】
表2に、図6の耐硫酸性水和固化体モルタルおよび普通モルタルの配合を、表3に、図5の耐硫酸性水和固化体コンクリートおよび普通コンクリートの配合を示す。また、参考として表4に、図5のプロット・データを示す。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
以上説明したように、本発明によれば、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの維持管理方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、前記相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルと、現場環境に設置されるものと同種であって前記相関関係が把握された維持管理用のコンクリートまたはモルタルとを同じ現場環境に設置して、所定期間経過後にこの現場環境の硫酸による侵食深さをそれぞれ測定し、前記硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、前記所定期間と、前記相関関係とに基づいて、前記現場環境の硫酸の濃度を推定し、推定した前記現場環境の硫酸の濃度と、前記維持管理用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、前記所定期間と、前記相関関係とに基づいて、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測評価する。したがって、現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルについて、硫酸による将来の侵食状況を使用初期段階で予測することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの維持管理方法であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、
前記相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルと、現場環境に設置されるものと同種であって前記相関関係が把握された維持管理用のコンクリートまたはモルタルとを同じ現場環境に設置して、所定期間経過後にこの現場環境の硫酸による侵食深さをそれぞれ測定し、
前記硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、前記所定期間と、前記相関関係とに基づいて、前記現場環境の硫酸の濃度を推定し、
推定した前記現場環境の硫酸の濃度と、前記維持管理用のコンクリートまたはモルタルの侵食深さの測定値と、前記所定期間と、前記相関関係とに基づいて、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測評価することを特徴とするコンクリートまたはモルタルの維持管理方法。
【請求項2】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートまたはモルタルの維持管理方法。
【請求項3】
前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルが、設計耐用期間について所定の性能を維持可能であるか否かを前記耐用期間に達する前に予測評価することを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリートまたはモルタルの維持管理方法。
【請求項4】
前記現場環境の設計硫酸濃度が適正であったか否かを評価することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のコンクリートまたはモルタルの維持管理方法。
【請求項5】
前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの実際の品質が適正であったか否かを評価することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のコンクリートまたはモルタルの維持管理方法。
【請求項6】
前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの計画者および製造者の責任の度合いを評価することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のコンクリートまたはモルタルの維持管理方法。
【請求項7】
硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの維持管理装置であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、
前記相関関係が把握された硫酸の濃度測定用のコンクリートまたはモルタルを現場環境に設置して、所定期間経過後に測定することによって得られるこの現場環境の硫酸による侵食深さと、前記所定期間と、前記相関関係の情報とに基づいて、前記現場環境の硫酸の濃度を推定する推定手段と、
前記推定手段で推定した前記現場環境の硫酸の濃度と、前記現場環境に設置されるものと同種であって前記相関関係が把握された維持管理用のコンクリートまたはモルタルを前記現場環境に設置して、前記所定期間経過後に測定することによって得られるこの現場環境の硫酸による侵食深さと、前記所定期間と、前記相関関係の情報とに基づいて、前記現場環境に設置されたコンクリートまたはモルタルの将来の侵食状況を予測評価する予測評価手段とを備えることを特徴とするコンクリートまたはモルタルの維持管理装置。
【請求項8】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項7に記載のコンクリートまたはモルタルの維持管理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−158397(P2011−158397A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21524(P2010−21524)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集 第9巻 発行日 2009年10月30日 コンクリート工学(Vol.48 No.1) 発行日 2010年1月1日
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000211237)ランデス株式会社 (35)