コンクリートまたはモルタルの設計方法および装置
【課題】硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計する方法および装置を提供する。
【解決手段】コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき(ステップS1)、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数を想定し(ステップS2)、これらと相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計するようにする(ステップS3)。
【解決手段】コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき(ステップS1)、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数を想定し(ステップS2)、これらと相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計するようにする(ステップS3)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートまたはモルタルの設計方法および装置に関し、特に、下水道施設などの硫酸雰囲気で用いられる耐硫酸性のコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道施設などにおいて、硫化水素に細菌が作用して硫酸が発生することが知られている。こうした環境下に設置されるコンクリートまたはモルタルは、硫酸によって腐食劣化するものである。このようなコンクリートまたはモルタルの設計方法としては、例えば、非特許文献1に示す方法が知られている。
【0003】
一方、硫酸による腐食劣化に対して耐久性を有する耐硫酸性コンクリートまたはモルタルの開発が進められている。例えば、本発明者らは、既に特願2009−120407に示す耐硫酸性に優れたコンクリートおよびモルタルを提案している。このコンクリートおよびモルタルは、下水道施設などの硫酸性雰囲気に晒される環境で使用するのに好適な材料である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「2007年制定 コンクリート標準示方書 設計編」、社団法人土木学会、2008年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、下水道施設などの硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルは、硫酸によって侵食劣化してゆくが、この侵食がやがて内部の鉄筋に及んで構造的な性能を消失すると耐用年数を迎えるようになる。このようなコンクリートまたはモルタルの設計では、硫酸による侵食速度を予めできるだけ正確に予測し、設定した耐用年数に見合うように鉄筋のかぶり厚を設計するほうが経済的で好ましい。このため、硫酸による侵食速度をより正確に予測し、設定した耐用年数に見合う経済的で合理的なコンクリートまたはモルタルの設計方法の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計することができるコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法は、上述した請求項1において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係るコンクリートまたはモルタルの設計装置は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係の情報とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する設計手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係るコンクリートまたはモルタルの設計装置は、上述した請求項3において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する。
【0012】
つまり、浸漬期間を耐用年数としてこれと設置環境の硫酸の濃度との積を求め、この積の値に対応する侵食深さを相関関係により求めれば、この侵食深さに基づいて鉄筋かぶり厚を設定することができる。したがって、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置の実施例を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの相関関係の一例を示すグラフ図である。
【図3】図3は、鉄筋かぶり厚を説明する断面図である。
【図4】図4は、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置による設計例を説明する図である。
【図5】図5は、コンクリートの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【図6】図6は、モルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法は、硫酸雰囲気で用いるケイ酸カルシウム系材料を用いたコンクリートまたはモルタルの設計方法である。具体的な手順としては、予めコンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を把握しておく(ステップS1)。
【0016】
次に、コンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数とを想定し(ステップS2)、これらと相関関係とに基づいてコンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する(ステップS3)という手順による。
【0017】
ここで、本発明者らは、図2に示すように、ケイ酸カルシウム系材料を用いた普通コンクリートの硫酸による侵食深さと、硫酸の平均濃度に浸漬時間を乗じた値(積)との間には線形の相関関係が成り立つことを確認している(詳細については後述する)。この図2は、水セメント比(W/C)が25%であるコンクリートと60%であるコンクリートについて、上記の積に応じた侵食深さ測定値のプロットと、各プロットから求めた回帰直線の一例を示したものである。なお、このような線形関係はモルタルの場合にも成り立つ。
【0018】
したがって、浸漬期間を耐用年数としてこれと設置環境の硫酸の濃度との積を求め、この積の値に対応する侵食深さをこの線形関係により求めれば、この侵食深さに基づいて図3に示すような鉄筋かぶり厚を最適な寸法に設定することができる。例えば、鉄筋かぶり厚を、対応する侵食深さよりも若干大きい値に設定することができる。
【0019】
このように、本発明によれば、設置予定のコンクリートまたはモルタルの侵食速度を線形関係により予測しておくことで、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計することができる。これにより、これまで性能照査型設計に基づく設計が困難であった下水道施設などの硫酸環境下におけるコンクリートまたはモルタルの設計を、簡便に行うことができる。
【0020】
また、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計装置は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と相関関係の情報とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する設計手段とを備えるものである。この設計手段による演算処理はコンピュータを用いて行う。具体的な処理手順および内容については上記の本発明の設計方法の手順および内容と同様である。
【0021】
次に、本発明による具体的な設計例について、図4を参照しながら説明する。
図4に示すように、コンクリートまたはモルタルの硫酸による侵食速度係数(線形関係の比例係数)を3mm/(%・年)とし、耐用年数を50年と設定した場合には、かぶり厚の設計値d(mm)は、設置環境の硫酸濃度に応じて次のように算定することができる。
【0022】
(設置環境の硫酸濃度を0.4%と想定した場合)
d=3mm/(%・年)×0.4%×50年=60mm
【0023】
(設置環境の硫酸濃度を0.7%と想定した場合)
d=3mm/(%・年)×0.7%×50年=105mm
【0024】
このように、設置環境の硫酸濃度が高いほど侵食速度は大きくなり、必要なかぶり厚dが増大することが分かる。
【0025】
次に、硫酸による侵食深さと、硫酸濃度と浸漬期間との積との間の相関関係を把握するために行った実験について説明する。
【0026】
本実験に用いたセメントペースト、モルタルおよびコンクリートの配合を表1に示す。表1に示すように、結合材(B)には、普通ポルトランドセメント(C)(密度:3.15g/cm3、ブレーン値:3400cm2/g)および高炉スラグ微粉末(密度:2.89g/cm3、ブレーン値:4150cm2/g)を用いた。細骨材には、川砂(表乾密度:2.60g/cm3、吸水率:2.00%)および高炉スラグ細骨材(表乾密度:2.73g/cm3、吸水率:0.40%)を用いた。粗骨材には、砕石(表乾密度:2.75g/cm3、吸水率:0.38%)を用いた。混和剤には、ポリカルボン酸系高性能減水剤を用いた。コンクリート二次製品を想定し、空気量は2.0%で設定した。
【0027】
【表1】
【0028】
モルタルの硫酸浸漬試験には、φ50×100mmの円柱供試体を、コンクリートの硫酸浸漬試験には。φ100×200mmの円柱供試体をそれぞれ用いた。供試体は、打設から7日間水中養生を行った後、質量パーセント濃度で5%、10%の硫酸に浸漬させた。7日毎に水で洗浄し、劣化した箇所を除去した後、質量を測定した。また、供試体を乾式コンクリートカッターで切断し、切断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧した後、呈色域の直径を測定し、硫酸による侵食深さを求めた。
【0029】
図5および図6は、それぞれ、コンクリートおよびモルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの関係を示したものである。
【0030】
図5および図6中の●は、結合材に普通ポルトランドセメントおよび高炉スラグ微粉末を質量比で40:60の割合で混合したものを用い、細骨材に高炉スラグ細骨材を用いたコンクリート(以下、耐硫酸性水和固化体コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、耐硫酸性水和固化体モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0031】
図5および図6中の黒□は、結合材に普通ポルトランドセメントのみを用い、細骨材に川砂を用いたコンクリート(以下、普通コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、普通モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0032】
図5および図6から、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの間には、直線関係が成り立つことが分かる。すなわち、コンクリートおよびモルタルの硫酸による侵食は、硫酸浸漬期間に比例するとともに、硫酸濃度にも比例することが分かる。また、図5中に示される直線の傾きは、2.9mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体コンクリートは、普通コンクリートの6倍の耐硫酸性があるといえる。また、図6中に示される直線の傾きは、3.5mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体モルタルは、普通モルタルの7倍の耐硫酸性があるといえる。
【0033】
表2に、図6の耐硫酸性水和固化体モルタルおよび普通モルタルの配合を、表3に、図5の耐硫酸性水和固化体コンクリートおよび普通コンクリートの配合を示す。また、参考として表4に、図5のプロット・データを示す。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する。したがって、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートまたはモルタルの設計方法および装置に関し、特に、下水道施設などの硫酸雰囲気で用いられる耐硫酸性のコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道施設などにおいて、硫化水素に細菌が作用して硫酸が発生することが知られている。こうした環境下に設置されるコンクリートまたはモルタルは、硫酸によって腐食劣化するものである。このようなコンクリートまたはモルタルの設計方法としては、例えば、非特許文献1に示す方法が知られている。
【0003】
一方、硫酸による腐食劣化に対して耐久性を有する耐硫酸性コンクリートまたはモルタルの開発が進められている。例えば、本発明者らは、既に特願2009−120407に示す耐硫酸性に優れたコンクリートおよびモルタルを提案している。このコンクリートおよびモルタルは、下水道施設などの硫酸性雰囲気に晒される環境で使用するのに好適な材料である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「2007年制定 コンクリート標準示方書 設計編」、社団法人土木学会、2008年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、下水道施設などの硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルは、硫酸によって侵食劣化してゆくが、この侵食がやがて内部の鉄筋に及んで構造的な性能を消失すると耐用年数を迎えるようになる。このようなコンクリートまたはモルタルの設計では、硫酸による侵食速度を予めできるだけ正確に予測し、設定した耐用年数に見合うように鉄筋のかぶり厚を設計するほうが経済的で好ましい。このため、硫酸による侵食速度をより正確に予測し、設定した耐用年数に見合う経済的で合理的なコンクリートまたはモルタルの設計方法の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計することができるコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法は、上述した請求項1において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係るコンクリートまたはモルタルの設計装置は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係の情報とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する設計手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係るコンクリートまたはモルタルの設計装置は、上述した請求項3において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する。
【0012】
つまり、浸漬期間を耐用年数としてこれと設置環境の硫酸の濃度との積を求め、この積の値に対応する侵食深さを相関関係により求めれば、この侵食深さに基づいて鉄筋かぶり厚を設定することができる。したがって、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置の実施例を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの相関関係の一例を示すグラフ図である。
【図3】図3は、鉄筋かぶり厚を説明する断面図である。
【図4】図4は、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置による設計例を説明する図である。
【図5】図5は、コンクリートの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【図6】図6は、モルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法および装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計方法は、硫酸雰囲気で用いるケイ酸カルシウム系材料を用いたコンクリートまたはモルタルの設計方法である。具体的な手順としては、予めコンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を把握しておく(ステップS1)。
【0016】
次に、コンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数とを想定し(ステップS2)、これらと相関関係とに基づいてコンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する(ステップS3)という手順による。
【0017】
ここで、本発明者らは、図2に示すように、ケイ酸カルシウム系材料を用いた普通コンクリートの硫酸による侵食深さと、硫酸の平均濃度に浸漬時間を乗じた値(積)との間には線形の相関関係が成り立つことを確認している(詳細については後述する)。この図2は、水セメント比(W/C)が25%であるコンクリートと60%であるコンクリートについて、上記の積に応じた侵食深さ測定値のプロットと、各プロットから求めた回帰直線の一例を示したものである。なお、このような線形関係はモルタルの場合にも成り立つ。
【0018】
したがって、浸漬期間を耐用年数としてこれと設置環境の硫酸の濃度との積を求め、この積の値に対応する侵食深さをこの線形関係により求めれば、この侵食深さに基づいて図3に示すような鉄筋かぶり厚を最適な寸法に設定することができる。例えば、鉄筋かぶり厚を、対応する侵食深さよりも若干大きい値に設定することができる。
【0019】
このように、本発明によれば、設置予定のコンクリートまたはモルタルの侵食速度を線形関係により予測しておくことで、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計することができる。これにより、これまで性能照査型設計に基づく設計が困難であった下水道施設などの硫酸環境下におけるコンクリートまたはモルタルの設計を、簡便に行うことができる。
【0020】
また、本発明に係るコンクリートまたはモルタルの設計装置は、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と相関関係の情報とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する設計手段とを備えるものである。この設計手段による演算処理はコンピュータを用いて行う。具体的な処理手順および内容については上記の本発明の設計方法の手順および内容と同様である。
【0021】
次に、本発明による具体的な設計例について、図4を参照しながら説明する。
図4に示すように、コンクリートまたはモルタルの硫酸による侵食速度係数(線形関係の比例係数)を3mm/(%・年)とし、耐用年数を50年と設定した場合には、かぶり厚の設計値d(mm)は、設置環境の硫酸濃度に応じて次のように算定することができる。
【0022】
(設置環境の硫酸濃度を0.4%と想定した場合)
d=3mm/(%・年)×0.4%×50年=60mm
【0023】
(設置環境の硫酸濃度を0.7%と想定した場合)
d=3mm/(%・年)×0.7%×50年=105mm
【0024】
このように、設置環境の硫酸濃度が高いほど侵食速度は大きくなり、必要なかぶり厚dが増大することが分かる。
【0025】
次に、硫酸による侵食深さと、硫酸濃度と浸漬期間との積との間の相関関係を把握するために行った実験について説明する。
【0026】
本実験に用いたセメントペースト、モルタルおよびコンクリートの配合を表1に示す。表1に示すように、結合材(B)には、普通ポルトランドセメント(C)(密度:3.15g/cm3、ブレーン値:3400cm2/g)および高炉スラグ微粉末(密度:2.89g/cm3、ブレーン値:4150cm2/g)を用いた。細骨材には、川砂(表乾密度:2.60g/cm3、吸水率:2.00%)および高炉スラグ細骨材(表乾密度:2.73g/cm3、吸水率:0.40%)を用いた。粗骨材には、砕石(表乾密度:2.75g/cm3、吸水率:0.38%)を用いた。混和剤には、ポリカルボン酸系高性能減水剤を用いた。コンクリート二次製品を想定し、空気量は2.0%で設定した。
【0027】
【表1】
【0028】
モルタルの硫酸浸漬試験には、φ50×100mmの円柱供試体を、コンクリートの硫酸浸漬試験には。φ100×200mmの円柱供試体をそれぞれ用いた。供試体は、打設から7日間水中養生を行った後、質量パーセント濃度で5%、10%の硫酸に浸漬させた。7日毎に水で洗浄し、劣化した箇所を除去した後、質量を測定した。また、供試体を乾式コンクリートカッターで切断し、切断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧した後、呈色域の直径を測定し、硫酸による侵食深さを求めた。
【0029】
図5および図6は、それぞれ、コンクリートおよびモルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの関係を示したものである。
【0030】
図5および図6中の●は、結合材に普通ポルトランドセメントおよび高炉スラグ微粉末を質量比で40:60の割合で混合したものを用い、細骨材に高炉スラグ細骨材を用いたコンクリート(以下、耐硫酸性水和固化体コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、耐硫酸性水和固化体モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0031】
図5および図6中の黒□は、結合材に普通ポルトランドセメントのみを用い、細骨材に川砂を用いたコンクリート(以下、普通コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、普通モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0032】
図5および図6から、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの間には、直線関係が成り立つことが分かる。すなわち、コンクリートおよびモルタルの硫酸による侵食は、硫酸浸漬期間に比例するとともに、硫酸濃度にも比例することが分かる。また、図5中に示される直線の傾きは、2.9mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体コンクリートは、普通コンクリートの6倍の耐硫酸性があるといえる。また、図6中に示される直線の傾きは、3.5mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体モルタルは、普通モルタルの7倍の耐硫酸性があるといえる。
【0033】
表2に、図6の耐硫酸性水和固化体モルタルおよび普通モルタルの配合を、表3に、図5の耐硫酸性水和固化体コンクリートおよび普通コンクリートの配合を示す。また、参考として表4に、図5のプロット・データを示す。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する。したがって、硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルを、経済的で合理的に設計することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計方法であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計することを特徴とするコンクリートまたはモルタルの設計方法。
【請求項2】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートまたはモルタルの設計方法。
【請求項3】
硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計装置であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、
想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係の情報とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する設計手段とを備えることを特徴とするコンクリートまたはモルタルの設計装置。
【請求項4】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項3に記載のコンクリートまたはモルタルの設計装置。
【請求項1】
硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計方法であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計することを特徴とするコンクリートまたはモルタルの設計方法。
【請求項2】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートまたはモルタルの設計方法。
【請求項3】
硫酸雰囲気で用いるコンクリートまたはモルタルの設計装置であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、
想定したコンクリートまたはモルタルの設置環境の硫酸の濃度と耐用年数と前記相関関係の情報とに基づいて、コンクリートまたはモルタルの鉄筋かぶり厚を設計する設計手段とを備えることを特徴とするコンクリートまたはモルタルの設計装置。
【請求項4】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項3に記載のコンクリートまたはモルタルの設計装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−157760(P2011−157760A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21462(P2010−21462)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本材料学会 コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集(第9巻) 2009年10月30日 社団法人日本コンクリート工学協会 コンクリート工学(Vol.48 No.1) 2010年1月1日
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000211237)ランデス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本材料学会 コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集(第9巻) 2009年10月30日 社団法人日本コンクリート工学協会 コンクリート工学(Vol.48 No.1) 2010年1月1日
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000211237)ランデス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]