説明

コンクリート並びにコンクリート養生方法

【課題】コンクリートの製造とはまったく別個の材料や手間を必要とすることなく、セメント水和物の溶脱並びにコンクリートから溶出した成分によるコンクリート周辺のpHの上昇を抑制する。
【解決手段】コンクリート表面に重炭酸イオンを供給しながら養生するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート並びにコンクリート養生方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分施設の建造に用いて好適なコンクリート並びにコンクリート養生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低レベル放射性廃棄物処理における長期に亘る安全性確保のため、低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分施設の設計検討が進められている。処分施設に使用されるモルタルやコンクリートといったセメント系材料については、地下水との接触によってセメント水和物の溶脱が徐々に進行して放射性物質の漏洩に対するバリア性能が低下してしまうことが懸念されている。また、溶脱に伴うカルシウム(Ca)を含んだ高pH溶液の作用によって、放射性核種の漏洩防止目的で設けられるベントナイト系人工バリアの性能を低下させることも憂慮されている。このような背景のもと、処分施設の設計・安全性評価における最重要課題の一つとしてセメント系材料の溶脱に関する評価及び対策が検討されている。
【0003】
セメント水和物の溶脱やコンクリートの腐食を防止する従来の方法としては、エポキシ樹脂等の合成樹脂にギ酸カルシウムのようなギ酸化合物を配合したコーティング材をコンクリート構造物の表面にコーティングするものがある(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−211982号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のコンクリート腐食防止方法では、コンクリートとは別にコーティング材を製造することが必要となると共に、さらに、コンクリート構造物の建造に加えてコーティング材をコーティングする作業が必要となり、施工に手間がかかると共にコストアップにつながる。
【0006】
本発明はかかる要望に応えるもので、コンクリートの製造とはまったく別個の材料や手間を必要とすることなく、セメント水和物の溶脱並びにコンクリートから溶出した成分によるコンクリート周辺のpHの上昇を抑制することができるコンクリート並びにコンクリート養生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、請求項1記載のコンクリートは、コンクリート表面に重炭酸イオンが供給された状態で養生が施されるようにしている。
【0008】
また、請求項2記載のコンクリートは、重炭酸イオンを含む溶液中又は該溶液によって湿潤状態で養生が施されるようにしている。
【0009】
また、請求項5記載のコンクリート養生方法は、コンクリート表面に重炭酸イオンを供給しながら養生するようにしている。
【0010】
また、請求項6記載のコンクリート養生方法は、重炭酸イオンを含む溶液中又は該溶液を用いて湿潤状態で養生するようにしている。
【0011】
したがって、このコンクリート並びにコンクリート養生方法によると、養生中のコンクリート表面に重炭酸イオン(HCO)が供給され、この重炭酸イオンがセメント系材料中の細孔溶液からコンクリート表面に供給される水酸化物イオン(OH)による高pH条件下で解離反応によって炭酸イオン(CO2−)に変化する。そして、この炭酸イオンがセメント系材料中の細孔溶液からコンクリート表面に供給されるカルシウムイオン(Ca2+)と反応することによってコンクリート表面にカルサイト(CaCO)の沈殿層が生成される。さらに、重炭酸イオンから変化した水素イオン(H)とセメント系材料中の細孔溶液から供給される水酸化物イオンとが反応して水(HO)が生成される。
【0012】
なお、本発明が適用可能なコンクリートには、セメント系材料と細骨材と粗骨材と水とを含むコンクリートに加えて、粗骨材を含まずにセメント系材料と細骨材と水とからなるセメントモルタル、及び、細骨材も粗骨材も含まずにセメント系材料と水とからなるセメントペーストを含む。ここで、セメント系材料とは、セメント、並びに、一般に混和材や混合材とも呼ばれる材料であってフライアッシュや高炉スラグ微粉末や石灰石微粉末等のセメントに混合させる粉体材料のことをいう。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載のコンクリートにおいて、前記コンクリート表面に更にカルシウムイオンが供給されるようにしている。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、請求項2記載のコンクリートにおいて、前記溶液が更にカルシウムイオンを含むようにしている。
【0015】
また、請求項7記載の発明は、請求項5記載のコンクリート養生方法において、前記コンクリート表面に更にカルシウムイオンを供給するようにしている。
【0016】
また、請求項8記載の発明は、請求項6記載のコンクリートにおいて、前記溶液が更にカルシウムイオンを含むようにしている。
【0017】
したがって、このコンクリート並びにコンクリート養生方法によると、セメント系材料中の細孔溶液から供給されるカルシウムイオンに加えて養生に用いられる溶液(以下、養生溶液と呼ぶ)からもカルシウムイオンが供給され、カルサイト(CaCO)の沈殿層の生成が促進される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコンクリート並びにコンクリート養生方法によれば、養生中のコンクリート表面に重炭酸イオンが供給され、この重炭酸イオンから変化した炭酸イオンがセメント系材料から供給されるカルシウムイオンと反応することによってコンクリート表面にカルサイトの沈殿層が生成されるので、セメント系材料からのカルシウムイオンの溶出を抑制することが可能であり、放射性物質の漏洩に対するコンクリートのバリア性能の低下を防止することができる。また、コンクリート表面にカルサイトの沈殿層が生成されるので、養生後コンクリートの中性化抵抗性や塩害抵抗性を向上させることができる。
【0019】
さらに、本発明のコンクリート並びにコンクリート養生方法によれば、重炭酸イオンから変化した水素イオンとセメント系材料から供給される水酸化物イオンとが反応して水が生成されるので、コンクリート周辺のpHの上昇を抑制することが可能であり、溶脱に伴うカルシウムを含んだ高pH溶液の作用を抑止し、放射性核種の漏洩防止目的で設けられるベントナイト系人工バリアの性能の低下を防止することができる。また、養生溶液のpHの上昇を抑制することができるので、養生溶液を廃棄する際に中性化させる等の特別な処理を行う必要がなく、養生溶液の廃棄が簡便になる。
【0020】
また、本発明のコンクリート並びにコンクリート養生方法によれば、セメント系材料中の細孔溶液から供給されるカルシウムイオンに加えて養生溶液からもカルシウムイオンが供給されてカルサイトの沈殿層の生成が促進されるので、放射性物質の漏洩に対するバリア性能の低下をより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の構成を最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明のコンクリート養生方法は、コンクリート表面に重炭酸イオンを供給しながら養生するものであって、重炭酸イオンを含む溶液中又は該溶液を用いて湿潤状態で養生することを特徴とするものである。そして、本発明のコンクリートは、このコンクリート養生方法によって養生が施されたことを特徴とするものである。
【0023】
本発明が適用されるコンクリートは特に限定されず、従来のセメントペースト、セメントモルタル、コンクリートのいずれであっても良い。
【0024】
本発明が適用されるコンクリートに用いられるセメントは特に限定されるものではなく、当業者の間で広く用いられているコンクリート材料用の一般的なセメントが用いられる。具体的には例えば低熱ポルトランドセメントや普通ポルトランドセメントが用いられる。なお、一種類のセメントが用いられるようにしても良いし、複数種類のセメントが組み合わされて用いられるようにしても良い。
【0025】
また、本発明が適用されるコンクリートに用いられる細骨材並びに粗骨材は特に限定されるものではなく、当業者の間で広く用いられているコンクリート材料用の一般的な細骨材や粗骨材が用いられる。具体的には例えば、細骨材としてはケイ砂が用いられ、粗骨材としては砕石が用いられる。
【0026】
コンクリートの養生には、重炭酸イオンを少なくとも含む溶液が用いられる。具体的には例えば、コンクリートの一般的な養生に用いられる水道水に重炭酸イオンを少なくとも含む溶液が用いられる。重炭酸イオンの含有量は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは4mg/L以上、更に好ましくは40mg/L以上、最も好ましくは400mg/L以上である。
【0027】
コンクリートの養生に用いられる養生溶液は、カルシウムイオンを更に含むことが望ましい。カルシウムイオンの含有量は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは10mg/L以上、更に好ましくは100mg/L以上、最も好ましくは1000mg/L以上である。
【0028】
コンクリートの養生期間は、好ましくは1日以上、より好ましくは50日以上、更に好ましくは100日以上、最も好ましくは150日以上である。
【0029】
コンクリートの養生の態様は、コンクリートの表面に養生溶液が供給されて養生溶液に含まれる重炭酸イオン並びにカルシウムイオンが供給される態様であればどのような態様であっても良い。例えば、混練したコンクリート(又は、セメントペースト、セメントモルタル)を型枠に投入し、硬化の程度を確認して脱型した後、養生溶液中に浸漬させて養生させるようにしても良い。または、混練したコンクリートを型枠に打設し、硬化の程度を確認して脱型した後、養生溶液を含ませた布等をコンクリートに被せると共に、養生溶液がコンクリート全体に十分に供給されるように必要に応じて養生溶液を散布等によって布等に補給しながら養生するようにしても良い。
【0030】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、コンクリートの養生の態様の説明において、コンクリートの硬化の程度を確認して脱型した後の即ち新設のコンクリートを養生する場合を例に挙げて説明しているが、既存のコンクリートに適用しても良い。この場合も、養生中のコンクリート表面に重炭酸イオンが供給され、この重炭酸イオンがセメント系材料中の細孔溶液からコンクリート表面に供給される水酸化物イオンによる高pH条件下で解離反応によって炭酸イオンに変化する。そして、この炭酸イオンがセメント系材料中の細孔溶液からコンクリート表面に供給されるカルシウムイオンと反応することによってコンクリート表面にカルサイトの沈殿層が生成される。
【実施例1】
【0031】
本発明のコンクリート養生方法を用いたコンクリートの作製及び性能評価試験の実施例を図1〜図18を用いて説明する。
【0032】
本実施例では、セメントペーストであってセメント及び混和材の種類が異なる配合1−1,1−2,1−3,1−4(以下、配合1−1〜1−4と表記する)、並びに、セメントモルタルであってセメントの種類及び混和材の有無が異なる配合1−5,1−6,1−7(以下、配合1−5〜1−7と表記する)の合計七種類の配合条件(以下、配合1−1〜1−7と表記する)を設定した。各配合種類のコンクリート材料の配合割合は表1に示す通りとした。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の配合1−1〜1−7のコンクリート材料として、具体的には、セメントは、配合1−1,1−2,1−5,1−6は低熱ポルトランドセメント(密度3.22g/cm、比表面積3290cm/g、太平洋セメント株式会社製)を使用し、配合1−3,1−4,1−7は研究用普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm、比表面積3310cm/g、社団法人セメント協会製)を使用した。
【0035】
混和材は、配合1−1,1−6,1−7はフライアッシュ(密度2.42g/cm、比表面積3700cm/g、東北電力能代火力発電所産・II種)、配合1−2,1−3は高炉スラグ微粉末(密度2.91g/cm、比表面積4230cm/g、新日鉄高炉セメント株式会社製・エスメント 4000種)、配合1−4は石灰石微粉末(密度2.71g/cm、比表面積約6000cm/g、太平洋セメント株式会社製・TM−1)を用いた。
【0036】
配合1−5〜1−7の細骨材は、石灰石砕砂(表乾密度2.66g/cm、粗粒率2.44、青森県下北郡尻屋産)を用いた。また、水は水道水を使用した。
【0037】
セメントペーストである配合1−1〜1−4のコンクリート材料の混練は、セメント及び混和材をミキサーに投入して低速回転で30秒間撹拌混合した後に水を投入して低速回転で60秒間混練し、その後90秒間ミキサー内部の掻き落としを行って静置し、さらに、低速回転で90秒間混練してから10秒間手練りをすることにより行った。なお、配合1−1〜1−7のコンクリート材料の混練には、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に定めるミキサーを用いた。
【0038】
また、セメントモルタルである配合1−5〜1−7のコンクリート材料の混練は、セメント及び混和材をミキサーに投入して低速回転で30秒間撹拌混合した後に水を投入して低速回転で30秒間混練し、細骨材を更に投入しながら低速回転で30秒間混練してから高速回転で30秒間混練し、その後90秒間ミキサー内部の掻き落としを行って静置し、さらに、高速回転で60秒間混練してから10秒間手練りをすることにより行った。
【0039】
配合1−1〜1−7のそれぞれについて、混練完了後、試料を20mm×20mm×80mmの供試体型枠に投入した。そして、供試体中の水分が逸散しないように底面に水を張って湿空状態にした容器中に保存した。
【0040】
型枠投入から概ね24時間後に供試体を脱型し、セメント上澄み溶液中で13週間に亘って硬化養生を行った。硬化養生の温度は、セメントの水和や混和材の反応を促進するために50℃とした。セメント上澄み溶液は、研究用セメントとイオン交換水とを質量比で1:10の割合で混合し、ハンドミキサーで10分間撹拌した後、24時間静置して作製した。なお、本実施例では、本発明に係る養生を施す前に13週間に亘る硬化養生を行うようにしているが、本発明に係る養生を施す前に行う硬化養生の期間はこれに限られるものではなく、コンクリートの硬化状況に合わせて適宜調整するようにすれば良い。さらに、硬化養生を施さないで、そのまま本発明に係る養生を施すようにしても良い。
【0041】
硬化養生後、角柱供試体全面をエポキシ樹脂系の塗布材によってコーティングすると共に軸方向の一端を10mm程度切断して一面のみ曝露された状態とした。
【0042】
そして、本実施例では、硬化養生後、配合1−1〜1−7のそれぞれについて、重炭酸イオンを含まない養生溶液1aに浸漬させた養生と、重炭酸イオンを含む養生溶液1bに浸漬させた養生とを行った。
【0043】
重炭酸イオンを含まない養生溶液1aとしてはイオン交換水を用いた。具体的には、純水製造装置(日本ミリポア社製・ElixUV5)によって作製し、脱気装置(日京テクノス社製・NT−DO100)によって脱気処理した純水であるイオン交換水を用いた。なお、養生溶液1aのpHは7.0であった。
【0044】
重炭酸イオンを含む養生溶液1bとしては、重炭酸イオンを400mg/L含む溶液を用いた。なお、養生溶液1bのpHは8.4であった。
【0045】
養生溶液に浸漬させての養生(以下、浸漬養生と呼ぶ)は、環境温度を20℃に保ちながらグローブボックス内で行った。グローブボックスには炭酸ガス除去装置を設けると共にグローブボックス内に窒素を充填し、コンクリート並びに養生溶液の炭酸化を防止する雰囲気とした。また、浸漬養生開始から一週間後、その後は四週又は五週間隔で養生溶液の交換を行った。
【0046】
(1)pHと水酸化物イオン溶出量の分析
配合1−1〜1−7のそれぞれについて、養生溶液1aと養生溶液1bとを用いて52週間に亘って養生を施したときの養生溶液のpH及び水酸化物イオンの累積溶出量の測定を行い、図1〜図6に示される結果が得られた。
【0047】
なお、図1〜図6について、横軸は養生期間を表し、折れ線グラフは水酸化物イオンの累積溶出量を表し(数値軸は右縦軸)、棒グラフは養生溶液のpHを表す(数値軸は左縦軸)。また、水酸化物イオンの累積溶出量は浸漬養生開始から各養生期間までの溶出量の合計を表す。一方、養生溶液のpHは、横軸の養生期間の各時点で養生溶液を交換したため、養生溶液交換から四週又は五週の期間における養生溶液の初期pHからの変化を表す。
【0048】
配合1−1及び1−2を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図1に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−1で約140mg/L、配合1−2で約270mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1aの初期pHである7.0を大きく上回り、概ね10.5〜11.5の範囲となった。
【0049】
これに対し、配合1−1及び1−2を養生溶液1bを用いて養生した場合については、図2に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−1で約0.7mg/L、配合1−2で約0.8mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1bの初期pHである8.4から大きく変化せず、概ね8.5〜9.0の範囲となった。
【0050】
この結果から、低熱ポルトランドセメントベースのセメントペーストについて、混和材としてフライアッシュを用いても高炉スラグ微粉末を用いても、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって、水酸化物イオンの溶出量を、重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いた場合の0.5%以下に抑制できることが確認された。また、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって養生溶液のpHの上昇を抑制できることが確認された。
【0051】
また、配合1−3及び1−4を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図3に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−3で約290mg/L、配合1−4で約780mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1aの初期pHである7.0を大きく上回り、概ね11〜12の範囲となった。
【0052】
これに対し、配合1−3及び1−4を養生溶液1bを用いて養生した場合については、図4に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−3で約0.9mg/L、配合1−4で約1.0mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1bの初期pHである8.4から大きく変化せず、概ね8.5〜9.0の範囲となった。
【0053】
この結果から、研究用普通ポルトランドセメントベースのセメントペーストについて、混和材として高炉スラグ微粉末を用いても石灰石微粉末を用いても、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって、水酸化物イオンの溶出量を、重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いた場合の0.5%以下に抑制できることが確認された。また、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって養生溶液のpHの上昇を抑制できることが確認された。
【0054】
さらに、配合1−5〜1−7を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図5に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの溶出量が、52週経過時に、配合1−5で約340mg/L、配合1−6で約70mg/L、配合1−7で約90mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1aの初期pHである7.0を大きく上回り、概ね10.0〜11.5の範囲となった。
【0055】
これに対し、配合1−5〜1−7を養生溶液1bを用いて養生した場合については、図6に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの溶出量が、52週経過時に、約0.7mg/L〜0.8mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1bの初期pHである8.4から大きく変化せず、概ね8.5〜9.0の範囲となった。
【0056】
この結果から、低熱ポルトランドセメントベースのセメントモルタルについて混和材としてフライアッシュを用いても用いなくても、また、研究用普通ポルトランドセメントベースのセメントモルタルについて混和材としてフライアッシュを用いても、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって、水酸化物イオンの溶出量を、重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いた場合の1.5%以下に抑制できることが確認された。また、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって養生溶液のpHの上昇を抑制できることが確認された。
【0057】
これらの結果から、イオン交換水であって重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いて養生した場合には水酸化物イオンの溶出量が非常に多くなると共に養生溶液のpHが大きく上昇する一方で、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらず水酸化物イオンの溶出量を大幅に抑制できると共に養生溶液のpHの上昇を抑制できることが確認された。
【0058】
また、これらの結果から、コンクリートの養生溶液のpHは養生中のセメント系材料からの水酸化物イオンの溶出量に影響を受け、水酸化物イオンの溶出量が多いほどpHが高くなり、水酸化物イオンの溶出量が抑制されればpHは大きくは変化しないことが確認された。すなわち、養生溶液のpH上昇を抑制するには水酸化物イオンの溶出の抑制が有効であることが確認された。
【0059】
(2)カルシウムイオン溶出量の分析
配合1−1〜1−7のそれぞれについて、養生溶液1aと養生溶液1bとを用いて52週間に亘って養生を施したときの養生溶液中のカルシウムイオンの累積溶出量の測定を行い、図7〜図12に示される結果が得られた。
【0060】
なお、図7〜図12について、横軸は養生期間を表し、折れ線グラフはカルシウムイオンの累積溶出量を表し(数値軸は右縦軸)、棒グラフは養生溶液のカルシウムイオン濃度を表す(数値軸は左縦軸)。また、カルシウムイオンの累積溶出量は浸漬養生開始から各養生期間までの溶出量の合計を表す。一方、養生溶液のカルシウムイオン濃度は、横軸の養生期間の各時点で養生溶液を交換したため、養生溶液交換から四週又は五週の期間における養生溶液の初期濃度からの変化を表す。なお、養生溶液1aの初期のカルシウムイオン濃度は0mg/Lであり、養生溶液1bは5mg/Lであった。
【0061】
配合1−1及び1−2を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図7に示される通り、養生溶液中のカルシウムイオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−1で約200mg/L、配合1−2で約290mg/Lとなった。
【0062】
これに対し、配合1−1及び1−2を養生溶液1bを用いて養生した場合については、図8に示される通り、養生溶液中のカルシウムイオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−1で約44mg/L、配合1−2で約43mg/Lとなった。
【0063】
この結果から、低熱ポルトランドセメントベースのセメントペーストについて、混和材としてフライアッシュを用いても高炉スラグ微粉末を用いても、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって、カルシウムイオンの溶出量を、重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いた場合のおよそ2割以下に抑制できることが確認された。
【0064】
また、配合1−3及び1−4を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図9に示される通り、養生溶液中のカルシウムイオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−3で約320mg/L、配合1−4で約670mg/Lとなった。
【0065】
これに対し、配合1−3及び1−4を養生溶液1bを用いて養生した場合については、図10に示される通り、養生溶液中のカルシウムイオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−3で約39mg/L、配合1−4で約24mg/Lとなった。
【0066】
この結果から、研究用普通ポルトランドセメントベースのセメントペーストについて、混和材として高炉スラグ微粉末を用いても石灰石微粉末を用いても、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって、カルシウムイオンの溶出量を、重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いた場合のおよそ1割以下に抑制できることが確認された。
【0067】
さらに、配合1−5〜1−7を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図11に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの溶出量が、52週経過時に、配合1−5で約360mg/L、配合1−6で約130mg/L、配合1−7で約150mg/Lとなった。
【0068】
これに対し、配合1−5〜1−7の養生溶液1bを用いて養生した場合については、図12に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの溶出量が、52週経過時に、配合1−5で約29mg/L、配合1−6で約35mg/L、配合1−7で約33mg/Lとなった。
【0069】
この結果から、低熱ポルトランドセメントベースのセメントモルタルについて混和材としてフライアッシュを用いても用いなくても、また、研究用普通ポルトランドセメントベースのセメントモルタルについて混和材としてフライアッシュを用いても、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いることによって、カルシウムイオンの溶出量を、重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いた場合の1割弱〜3割弱に抑制できることが確認された。
【0070】
これらの結果から、イオン交換水であって重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いて養生した場合にはカルシウムイオンの溶出量が非常に多くなる一方で、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらずカルシウムイオンの溶出量を大幅に抑制できることが確認された。
【0071】
(3)供試体表層部分のカルシウム濃度の分析
配合1−1及び1−4について、養生溶液1aと養生溶液1bとを用いて26週間に亘って養生を施したときの供試体表層のカルシウム濃度の測定を行い、図13〜図16に示される結果が得られた。
【0072】
なお、カルシウム濃度の測定は、元素の二次元分布を観測するEPMA(Electron Probe Micro Analyzerの略)を用いて行った。図13〜図16の横軸は角柱供試体軸方向の長さを表し、図13〜図16は供試体を含む1mm四方の範囲のカルシウムの濃度分布を表している。そして、図13〜図16は供試体の軸方向断面のカルシウム濃度分布を明暗によって表している。また、図13〜図16中の折れ線3はカルシウム元素の検出カウント数を表す(数値軸は左縦軸)。また、矢印1で示した位置が供試体の曝露面の位置であり、矢印1の右側の部分が供試体である。
【0073】
配合1−1を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図13の明暗の具合と折れ線3のカルシウム元素の検出カウント数の変化とに示される通り、供試体の曝露面近傍の範囲2においてカルシウム濃度が低下しており、曝露面から供試体中のカルシウムが養生溶液中に溶出したことが確認された。なお、図13においては、カルシウム濃度が低い部分ほど暗くなっている。
【0074】
これに対し、配合1−1を養生溶液1bを用いて養生した場合については、図14の明暗の具合と折れ線3のカルシウム元素の検出カウント数の変化とに示される通り、カルシウムの溶出に伴ってカルシウム濃度が低下している範囲2が、養生溶液1aを用いて養生した場合と比べて三分の一から四分の一程度となった。
【0075】
また、図14の折れ線3の変化から、範囲2においては供試体の曝露面に近くなるほどカルシウム元素の検出カウント数が減少している一方で、曝露面において検出カウント数が急激に増加しており、曝露面ではカルシウム濃度が高くなっていることが確認された。そして、この現象は、養生溶液1aで養生した場合の結果である図13では見られないことも確認された。
【0076】
さらに、配合1−4を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図15の明暗の具合と折れ線3のカルシウム元素の検出カウント数の変化とに示される通り、供試体の中央側から曝露面に向かってカルシウム濃度が減少しており、矢印4の向きにセメント水和物であるカルシウムの溶脱が進行していることが確認された。なお、図15においては、曝露面左側及び曝露面近傍のカルシウム濃度が極端に低い部分が暗くなっていると共に、曝露面右側の供試体内部についてはカルシウム濃度が高い部分ほど暗くなっている。
【0077】
これに対し、配合1−4を養生溶液1bを用いて養生した場合については、図16の明暗の具合と折れ線3のカルシウム元素の検出カウント数の変化とに示される通り、配合1−1の供試体に見られたカルシウムの溶出に伴ってカルシウム濃度が低下している範囲2は見られず、供試体曝露面からカルシウムが殆ど溶出していないことが確認された。
【0078】
この結果からも、イオン交換水であって重炭酸イオンを含まない養生溶液1aを用いて養生した場合にはカルシウムイオンの溶出量が非常に多くなる一方で、重炭酸イオンを含む養生溶液1bを用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらずカルシウムイオンの溶出量を大幅に抑制できることが確認された。
【0079】
(4)供試体表層部分の含有鉱物の分析
配合1−1について、養生溶液1aと養生溶液1bとを用いて52週間に亘って養生を施したときの供試体表層の含有鉱物の分析を行い、図17及び図18に示される結果が得られた。
【0080】
なお、含有鉱物の分析は、X線が結晶格子によって回折する現象を利用して物質の結晶構造を調べるX線回折法を用いて行った。また、図17及び図18について、横軸は入射方向と反射方向との角度である2θ°を表し、縦軸はX線の強度を表す。
【0081】
配合1−1を養生溶液1aを用いて養生した場合については、図17に示される通り、珪酸カルシウム水和物(CaO−SiO−HO;C−S−H、図中の記号●)並びにフライアッシュ成分のムライト(Mulite、図中の記号□)及び石英(SiO;Quartz、図中の記号◆)に対応するピークが確認された。
【0082】
これに対し、配合1−1を養生溶液1bを用いて養生した場合については、図18に示される通り、主要な鉱物としてカルサイト(CaCO;Calcite、図中の記号○)に対応する顕著なピークが確認された。
【0083】
この結果から、養生溶液1bを用いて養生することによって、養生溶液1aを用いて養生した場合には見られない現象として、供試体表層部分にカルサイト層を生成できることが確認された。
【0084】
(5)実施例1の結果
以上の実施例1の結果から、重炭酸イオン(HCO)を含む養生溶液を用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらず、養生溶液中の重炭酸イオンとセメント中のカルシウムイオン(Ca2+)及び水酸化物イオン(OH)とをコンクリート表面において反応させることによってカルサイト(CaCO)と水(HO)とを生成させ、このカルサイトによってコンクリート表面に層を形成させ、このカルサイト層によってセメント中のカルシウムイオン及び水酸化物イオンの溶出を抑制できることが確認された。すなわち、重炭酸イオンを含む養生溶液を用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらず、セメント水和物の溶脱を抑制できると共に養生溶液のpH上昇を抑制できることが確認された。
【実施例2】
【0085】
本発明のコンクリート養生方法を用いたコンクリートの作製及び性能評価試験の他の実施例を図19〜図26を用いて説明する。
【0086】
本実施例では、実施例1と同じ配合1−1〜1−7の配合条件を設定し、実施例1と同じコンクリート材料を用いると共に、実施例1と同様の手順によって供試体を作製した。
【0087】
実施例2では、硬化養生後の浸漬養生用の養生溶液として、1L当たり400mgの重炭酸イオンに加え、1L当たり1100mgのカルシウムイオンを更に含む養生溶液1cを用いた。なお、浸漬養生の条件や手順は実施例1と同様とした。
【0088】
(1)pHと水酸化物イオン溶出量の分析
配合1−1〜1−7のそれぞれについて、養生溶液1cを用いて52週間に亘って養生を施したときの養生溶液のpH及び水酸化物イオンの累積溶出量の測定を行い、図19〜図21に示される結果が得られた。なお、図19〜図21の表示内容や表示方法等は図1〜図6と同じである。
【0089】
配合1−1及び1−2を養生溶液1cを用いて養生した場合については、図19に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量が、52週経過時に、どちらの配合も約0.013mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1cの初期pHである7.4から大きく変化せず、概ね7.5〜8.0の範囲となった。
【0090】
また、配合1−3及び1−4を養生溶液1cを用いて養生した場合については、図20に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量が、52週経過時に、配合1−3で約0.012mg/L、配合1−4で約0.015mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1cの初期pHである7.4から大きく変化せず、概ね7.5〜8.0の範囲となった。
【0091】
さらに、配合1−5〜1−7を養生溶液1cを用いて養生した場合については、図21に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの溶出量が、52週経過時に、配合1−5で約0.01mg/L、配合1−6で約0.013mg/L、配合1−7で約0.006mg/Lとなった。また、養生溶液のpHが、養生溶液1cの初期pHである7.4から大きく変化せず、概ね7.5〜8.0の範囲となった。
【0092】
これらの結果から、重炭酸イオンに加えてカルシウムイオンを更に含む養生溶液1cを用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらず、養生溶液1bを用いて養生した場合と比べて水酸化物イオンの溶出量を更に大幅に抑制できると共に養生溶液のpHの上昇を抑制できることが確認された。
【0093】
(2)供試体表層部分のカルシウム濃度の分析
配合1−1及び1−4について、養生溶液1cを用いて26週間に亘って養生を施したときの供試体表層のカルシウム濃度の測定を行い、図22及び図23に示される結果が得られた。なお、カルシウム濃度の測定方法は実施例1と同様であり、図22及び図23の表示内容や表示方法等は図13〜図16と同じである。
【0094】
配合1−1を養生溶液1cを用いて養生した場合については、図22に示される通り、濃度分布を表す明暗の具合からは、養生溶液1aや1bを用いて養生した場合に見られたカルシウムの溶出に伴って供試体の曝露面近傍においてカルシウム濃度が低下している範囲2は見られなかった。また、折れ線3の変化からも、曝露面近傍における検出カウント数の顕著な減少傾向は見られず、また、曝露面において検出カウント数の増加のピークがあり、曝露面ではカルシウム濃度が高くなっていることが確認された。
【0095】
さらに、配合1−4を養生溶液1cを用いて養生した場合については、図23の明暗の具合と折れ線3のカルシウム元素の検出カウント数の変化とに示される通り、カルシウムの溶出に伴って供試体の曝露面近傍においてカルシウム濃度が低下している範囲2は見られず、供試体曝露面からカルシウムが殆ど溶出していないことが確認された。
【0096】
この結果から、重炭酸イオンに加えてカルシウムイオンを更に含む養生溶液1cを用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらず、養生溶液がカルシウムイオンを含まない場合と比べてカルシウムイオンの溶出量を更に大幅に抑制できることが確認された。
【0097】
(3)供試体表層部分の含有鉱物の分析
配合1−1について、養生溶液1cを用いて52週間に亘って養生を施したときの供試体表層の含有鉱物の分析を行い、図24に示される結果が得られた。なお、含有鉱物の分析方法は実施例1と同様であり、図24の表示内容や表示方法等は図17及び図18と同じである。
【0098】
配合1−1を養生溶液1cを用いて養生した場合については、図24に示される通り、他の鉱物と比べて際だって突出したカルサイト(CaCO;Calcite、図中の記号○)に対応するピークが確認された。
【0099】
この結果から、重炭酸イオンに加えてカルシウムイオンを更に含む養生溶液1cを用いて養生することによって、養生溶液がカルシウムイオンを含まない場合と比べてより多くのカルサイトを生成して供試体表層部分により強固なカルサイト層を生成できることが確認された。
【0100】
(4)供試体曝露面微小領域のカルシウム濃度及び炭素濃度の分析
配合1−1及び1−6について、養生溶液1cを用いて52週間に亘って養生を施したときの供試体曝露面微小領域のカルシウム濃度及び炭素濃度の測定を行い、図25及び図26に示される結果が得られた。
【0101】
なお、カルシウム濃度及び炭素濃度の測定はEPMAを用いて行った。また、図25及び図26は、供試体曝露面微小領域の厚さ方向即ち角柱供試体軸方向100μm、幅500μmの範囲について角柱供試体軸方向断面の濃度分布を明暗によって表している。また、矢印1で示した位置が供試体の曝露面の位置であり、矢印1の右側の部分が供試体である。
【0102】
配合1−1を養生溶液1cを用いて養生した場合については、図25の明暗の具合に示される通り、曝露面で層状にカルシウム濃度が高くなっていると共に炭素濃度が高くなっており、曝露面にカルシウム濃縮層5(図25(A))及び炭素濃縮層6(図25(B))が生成されていることが確認された。
【0103】
また、配合1−6を養生溶液1cを用いて養生した場合についても、図26の明暗の具合に示される通り、曝露面で層状にカルシウム濃度が高くなっていると共に炭素濃度が高くなっており、曝露面にカルシウム濃縮層5(図26(A))及び炭素濃縮層6(図26(B))が生成されていることが確認された。
【0104】
ここで、供試体曝露面にカルシウム(Ca)濃縮層5や炭素(C)濃縮層6が見られるのは、前述の含有鉱物の分析結果において突出したピークが見られたカルサイト(CaCO)に対応するものである。これらのことから、重炭酸イオンやカルシウムイオンを含む養生溶液を用いて養生することによって、供試体曝露面にカルサイトの層を形成できることが確認された。
【0105】
(5)実施例2の結果
以上の実施例2の結果から、重炭酸イオンに加えてカルシウムイオンを更に含む養生溶液を用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらず、カルシウムイオンを含まない養生溶液を用いて養生する場合と比べ、コンクリート表面により多くのカルサイトを生成させてより強固なカルサイト層を形成させ、セメント中のカルシウムイオン及び水酸化物イオンの溶出をより確実に抑制できることが確認された。すなわち、重炭酸イオンに加えてカルシウムイオンを更に含む養生溶液を用いて養生することによって、セメントや混和材の種類並びに骨材の有無によらず、セメント水和物の溶脱をより確実に抑制できると共に養生溶液のpH上昇をより確実に抑制できることが確認された。
【実施例3】
【0106】
本発明のコンクリート養生方法を用いたコンクリートの作製及び性能評価試験の更に他の実施例を図27〜図30を用いて説明する。
【0107】
本実施例では、セメントの種類が異なる配合2−1及び2−2の二種類のセメントペーストを用いた。
【0108】
配合2−1及び2−2のコンクリート材料として、具体的には、セメントは、配合2−1は研究用普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm、比表面積3310cm/g、社団法人セメント協会製)を使用し、配合2−2は低熱ポルトランドセメント(密度3.22g/cm、比表面積3290cm/g、太平洋セメント株式会社製)を使用した。
【0109】
混和材は、フライアッシュ(密度2.42g/cm、比表面積3700cm/g、東北電力能代火力発電所産・II種)、高炉スラグ微粉末(密度2.91g/cm、比表面積4230cm/g、新日鉄高炉セメント株式会社製・エスメント 4000種)、石灰石微粉末(密度2.71g/cm、比表面積約6000cm/g、太平洋セメント株式会社製・TM−1)を用いた。
【0110】
コンクリート材料の混練は、セメント及び混和材をミキサーに投入して低速回転で30秒間撹拌混合した後に水を投入して低速回転で60秒間混練し、その後90秒間ミキサー内部の掻き落としを行って静置し、さらに、低速回転で90秒間混練してから10秒間手練りをすることにより行った。
【0111】
配合2−1及び2−2のそれぞれについて、混練完了後、試料を20mm×20mm×80mmの供試体型枠に投入した。そして、供試体中の水分が逸散しないように底面に水を張って湿空状態にした容器中に保存した。
【0112】
型枠投入から概ね24時間後に供試体を脱型し、セメント上澄み溶液中で13週間に亘って硬化養生を行った。硬化養生の温度は、セメントの水和や混和材の反応を促進するために50℃とした。
【0113】
硬化養生後、角柱供試体全面をエポキシ樹脂系の塗布材によってコーティングすると共に軸方向の一端を10mm程度切断して一面のみ曝露された状態とした。
【0114】
そして、本実施例では、硬化養生後、配合2−1及び2−2のそれぞれについて、重炭酸イオンの濃度が異なる三種類の養生溶液に浸漬させた養生を行った。各養生溶液の重炭酸イオン濃度は、養生溶液2aは400mg/L,養生溶液2bは40mg/L,養生溶液2cは4mg/L,養生溶液2dは0mg/L(純水)とした。
【0115】
(1)水酸化物イオン溶出量の分析
配合2−1及び2−2のそれぞれについて、養生溶液2a,2b,2c及び2dを用いて26週間に亘って養生を施したときの養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量の測定を行い、図27及び図28に示される結果が得られた。なお、図27及び図28について、横軸は養生期間を表し、縦軸は浸漬養生開始から各養生期間までの水酸化物イオンの溶出量の合計を表す。
【0116】
配合2−1を各養生溶液を用いて養生した場合については、図27に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量が、26週経過時に、養生溶液中に重炭酸イオンを含まない養生溶液2dを用いて養生した場合には約390mg/Lとなると共に、養生溶液中の重炭酸イオン濃度が低い養生溶液2cを用いて養生した場合には約260mg/Lとなったのに対し、養生溶液2cよりも重炭酸イオン濃度が高い養生溶液2bや重炭酸イオン濃度が更に高い養生溶液2aを用いた場合には溶出量はごく僅かとなった。。
【0117】
また、配合2−2を各養生溶液を用いて養生した場合については、図28に示される通り、養生溶液中の水酸化物イオンの累積溶出量が、26週経過時に、養生溶液中に重炭酸イオンを含まない養生溶液2dを用いて養生した場合には約300mg/Lとなると共に、養生溶液中の重炭酸イオン濃度が低い養生溶液2cを用いて養生した場合には約160mg/Lとなったのに対し、養生溶液2cよりも重炭酸イオン濃度が高い養生溶液2bや重炭酸イオン濃度が更に高い養生溶液2aを用いた場合には溶出量はごく僅かとなった。
【0118】
これらの結果から、セメントの種類によらず、養生溶液の重炭酸イオン濃度が高ければ高いほど水酸化物イオンの溶出量を抑制できることが確認された。
【0119】
(2)カルシウムイオン溶出量の分析
配合2−1及び2−2のそれぞれについて、養生溶液2a,2b,2c及び2dを用いて26週間に亘って養生を施したときの養生溶液中のカルシウムイオンの累積溶出量の測定を行い、図29及び図30に示される結果が得られた。なお、図29及び図30について、横軸は養生期間を表し、縦軸は浸漬養生開始から各養生期間までのカルシウムイオンの溶出量の合計を表す。
【0120】
配合2−1を各養生溶液を用いて養生した場合については、図29に示される通り、養生溶液中のカルシウムイオンの累積溶出量が、26週経過時に、養生溶液中に重炭酸イオンを含まない養生溶液2dを用いて養生した場合には約450mg/Lとなると共に、養生溶液中の重炭酸イオン濃度が最も低い養生溶液2cを用いて養生した場合には約330mg/Lとなったのに対し、養生溶液2cよりも重炭酸イオン濃度が高い養生溶液2bや重炭酸イオン濃度が更に高い養生溶液2aを用いた場合には溶出量はごく僅かとなった。
【0121】
また、配合2−2を各養生溶液を用いて養生した場合については、図30に示される通り、養生溶液中のカルシウムイオンの累積溶出量が、26週経過時に、養生溶液中に重炭酸イオンを含まない養生溶液2dを用いて養生した場合には約330mg/Lとなると共に、養生溶液中の重炭酸イオン濃度が最も低い養生溶液2cを用いて養生した場合には約210mg/Lとなったのに対し、養生溶液2cよりも重炭酸イオン濃度が高い養生溶液2bや重炭酸イオン濃度が更に高い養生溶液2aを用いた場合には溶出量はごく僅かとなった。
【0122】
これらの結果から、セメントの種類によらず、養生溶液の重炭酸イオン濃度が高ければ高いほどカルシウムイオンの溶出量を抑制できることが確認された。
【0123】
(3)実施例3の結果
以上の実施例3の結果から、セメントの種類によらず、養生溶液中に重炭酸イオンを含ませることにより水酸化物イオン及びカルシウムイオンの溶出を抑制することができると共に養生溶液の重炭酸イオン濃度が高ければ高いほど水酸化物イオン及びカルシウムイオンの溶出をより一層抑制できることが確認された。すなわち、重炭酸イオン濃度が高い養生溶液を用いて養生することによって、セメントの種類によらず、セメント水和物の溶脱をより確実に抑制できると共に養生溶液のpHの上昇をより確実に抑制できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−1及び1−2の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図2】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−1及び1−2の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図3】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−3及び1−4の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図4】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−3及び1−4の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図5】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−5〜1−7の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図6】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−5〜1−7の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図7】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−1及び1−2の養生溶液カルシウムイオン濃度及びカルシウムイオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図8】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−1及び1−2の養生溶液カルシウムイオン濃度及びカルシウムイオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図9】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−3及び1−4の養生溶液カルシウムイオン濃度及びカルシウムイオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図10】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−3及び1−4の養生溶液カルシウムイオン濃度及びカルシウムイオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図11】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−5〜1−7の養生溶液カルシウムイオン濃度及びカルシウムイオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図12】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−5〜1−7の養生溶液カルシウムイオン濃度及びカルシウムイオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図13】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−1の供試体表層カルシウム濃度分布の測定結果を示す図である。
【図14】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−1の供試体表層カルシウム濃度分布の測定結果を示す図である。
【図15】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−4の供試体表層カルシウム濃度分布の測定結果を示す図である。
【図16】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−4の供試体表層カルシウム濃度分布の測定結果を示す図である。
【図17】実施例1の養生溶液1aを用いた場合の配合1−1の供試体表層含有鉱物の分析結果を示す図である。
【図18】実施例1の養生溶液1bを用いた場合の配合1−1の供試体表層含有鉱物の分析結果を示す図である。
【図19】実施例2の養生溶液1cを用いた場合の配合1−1及び1−2の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図20】実施例2の養生溶液1cを用いた場合の配合1−3及び1−4の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図21】実施例2の養生溶液1cを用いた場合の配合1−5〜1−7の養生溶液pH及び水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図22】実施例2の養生溶液1cを用いた場合の配合1−1の供試体表層カルシウム濃度分布の測定結果を示す図である。
【図23】実施例2の養生溶液1cを用いた場合の配合1−4の供試体表層カルシウム濃度分布の測定結果を示す図である。
【図24】実施例2の養生溶液1cを用いた場合の配合1−1の供試体表層含有鉱物の分析結果を示す図である。
【図25】実施例2の養生溶液1cを用いた場合の配合1−1の供試体曝露面微小領域元素分布の測定結果を示す図である。(A)はカルシウム濃度分布の測定結果を示す図である。(B)は炭素濃度分布の測定結果を示す図である。
【図26】実施例2の養生溶液1cを用いた場合の配合1−6の供試体曝露面微小領域元素分布の測定結果を示す図である。(A)はカルシウム濃度分布の測定結果を示す図である。(B)は炭素濃度分布の測定結果を示す図である。
【図27】実施例3の配合2−1の養生溶液種類別の水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図28】実施例3の配合2−2の養生溶液種類別の水酸化物イオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図29】実施例3の配合2−1の養生溶液種類別のカルシウムイオン累積溶出量の測定結果を示す図である。
【図30】実施例3の配合2−2の養生溶液種類別のカルシウムイオン累積溶出量の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面に重炭酸イオンが供給された状態で養生が施されることを特徴とするコンクリート。
【請求項2】
重炭酸イオンを含む溶液中又は該溶液によって湿潤状態で養生が施されることを特徴とするコンクリート。
【請求項3】
前記コンクリート表面に更にカルシウムイオンが供給されることを特徴とする請求項1記載のコンクリート。
【請求項4】
前記溶液が更にカルシウムイオンを含むことを特徴とする請求項2記載のコンクリート。
【請求項5】
コンクリート表面に重炭酸イオンを供給しながら養生することを特徴とするコンクリート養生方法。
【請求項6】
重炭酸イオンを含む溶液中又は該溶液を用いて湿潤状態で養生することを特徴とするコンクリート養生方法。
【請求項7】
前記コンクリート表面に更にカルシウムイオンを供給することを特徴とする請求項5記載のコンクリート養生方法。
【請求項8】
前記溶液が更にカルシウムイオンを含むことを特徴とする請求項6記載のコンクリート養生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−56538(P2008−56538A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236720(P2006−236720)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】