説明

コンクリート中鋼材の腐食検知素子

【課題】簡単な構成で、正確にコンクリート中の鋼材の腐食を判断することができるコンクリート中鋼材の腐食検知素子を提供する。
【解決手段】絶縁基板20上に配線された金属製のセンサ配線26と、センサ配線26が接続されているとともに外部の配線につながれた電極24,28と、コンクリート12中の鋼材表面の保護皮膜と同様の組成でセンサ配線26を被覆した保護皮膜38とを備える。保護皮膜38は、鉄または鋼の薄膜を強酸化剤が存在する環境下や強アルカリ環境下に置いて形成した不動態膜(FeOOH)である。センサ配線26上の保護皮膜38を、コンクリート12中に露出させて埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート構造物中の鉄筋や鉄骨等の鋼材の腐食状態を検知するコンクリート中鋼材の腐食検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、コンクリート中の鉄筋は、コンクリート中の水酸化カルシウムと若干の水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを含む強アルカリ環境下にあり、鉄筋の表面は水酸化鉄から成る薄い酸化皮膜の不動態膜で覆われ安定している。しかし、大気中の炭酸ガスやその他の酸性物質がコンクリートに作用し、長年の間にコンクリート中のアルカリ性は失われ中性化してしまう。この状態のコンクリート中では、元々存在していた塩化物イオン(Cl)や外部から侵入する塩化物イオンにより、鋼材表面の不動態皮膜が破壊され、鋼材が活性態に変化し、徐々に腐食が始まる。特に近年、除塩処理が不十分な海産骨材を使用したり、潮風によって運ばれる海塩粒子が雨水に溶解してコンクリート中に浸透蓄積し、予想よりも早くコンクリート中の鋼材が腐食するケースが多数報告されている。
【0003】
この腐食の態様である鉄のいわゆる赤錆(Fe)層は多孔質であるため、鉄表面に赤錆層が形成されても、腐食を抑制する効果が小さく、下地の鉄面では腐食が絶えず進行する。また、赤錆は鉄の約2.5倍の体積を占めるため、その膨張圧がコンクリートのひび割れと剥離を引き起こし、これらが腐食の進行を一層加速し、ついにはコンクリート構造物の強度の低下という重大な問題を引き起こす。従って、コンクリート中の鋼材の腐食状況を正確に検知する方法が要求されている。
【0004】
従来、コンクリート中鋼材の腐食検知素子としては、例えば特許文献1に開示されているように、コンクリート中に鋼材と同質材料の細線を埋設し、この細線の両端の電位差を測定して、腐食による断線を検知しコンクリート中の鋼材の腐食状態を予測する方法が提案されている。また、特許文献2に開示されているように、細線状の貴金属被覆チタンワイヤを鉄筋に接続し、このワイヤと鉄筋との電位を測定してコンクリート中の鉄筋等の劣化を検出する方法も提案されている。その他、特許文献3に開示されているように、一端がコンクリート中の鉄筋に接続され、電気信号により振動するセンサ素子が鉄筋電極と鉄筋との間に挟持され、センサ素子の振動で鉄筋電極が鉄筋に接続され、鉄筋電極とコンクリート表面の照合電極の間で電圧を測定して、鉄筋の腐食程度を判定するものもある。
【特許文献1】特許第3205291号公報
【特許文献2】特許第3397722号公報
【特許文献3】特開2003−262631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1の腐食検知装置の場合、鋼材と同質材料の細線の腐食による断線または電位変化を検知するものであり、細線の酸化進行度合いにばらつきが大きく、正確な予測が難しいものである。さらに、コンクリート工事施工時に細線を切断してしまうなど、センサとしての信頼性に欠ける等の欠点もある。また、特許文献2、3の場合も、電極間の電位から鉄筋の状態を予測するものであり、ばらつきの幅が大きいものである。
【0006】
この発明は、上記従来の技術に鑑みて成されたもので、簡単な構成で、正確にコンクリート中の鋼材の腐食を判断することができるコンクリート中鋼材の腐食検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、コンクリート中に埋設して、コンクリート中の鋼材の腐食を検知する腐食検知素子であって、絶縁基板上に配線された金属製のセンサ配線と、このセンサ配線が接続されているとともに外部の配線につながれた電極と、前記コンクリート中の鋼材表面の保護皮膜と同様の組成で前記センサ配線を被覆した保護皮膜とを備え、前記センサ配線上の保護皮膜を前記コンクリート中に露出させて埋設するコンクリート中鋼材の腐食検知素子である。
【0008】
前記保護皮膜は、鉄または鋼の薄膜を強酸化剤の存在する環境や強アルカリ環境下において形成した水酸化鉄から成る不動態膜(FeOOH)、またはこの不動態膜と同様の防錆防蝕機能を有する薄膜である。前記絶縁基板は、開口部を有したセラミックや硬質樹脂、その他硬質材料のケース中に密封され、前記ケースに形成された開口部に、前記センサ配線を被覆した保護皮膜が露出して成る。
【発明の効果】
【0009】
この発明のコンクリート中鋼材の腐食検知素子は、鋼材と同一組成または同程度の強度や耐久性を備えた金属薄膜回路と、鋼材表面を被覆して保護している皮膜と同様の保護皮膜とにより、コンクリート中の腐食状態を検知するもので、鋼材と同様の条件で、正確に腐食またはその可能性を検知することができる。また、素子の構造も簡単であり、強度も高いので、コンクリート中に埋設して、長期間のモニタリングも可能である。また、コストも安価に製造可能であり、コンクリート構造物中に多数埋設して、正確な腐食予測及び検知が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態について説明する。この実施形態のコンクリート中鋼材の腐食検知素子10は、図1に示すように、平板状のチップ型素子であって、コンクリート12中に埋設して使用する。この腐食検知素子10は、平板状セラミックスや硬質樹脂等の下ケース14と、同様の厚さ及び大きさの上ケース16に挟まれて構成されている。上ケース16には、平面開口部18が設けられ、下ケースと等しい大きさに形成されている。
【0011】
下ケース14の表面には、シリコン基板20が取り付けられている。シリコン基板20の表面には、図1に示すように、外側に四角形状に基準配線22が形成され、両端部がシリコン基板20の一端縁部に位置して各電極24に各々接続されている。基準配線22の材料は、銅や鉄または鋼、アルミニウム等適宜選択可能である。
【0012】
基準配線22の中央部には、センサ配線26がつながっている。センサ配線26は、鋼材と同様の鋼、または銅や鉄等の金属薄膜による配線であり、基準配線22と同材料の場合同時に形成すると良い。特に、コンクリート12中の鋼材と同材料の鋼製の薄膜とすることにより、条件が鋼材と同様になりより好ましい。センサ配線26の形状は、基準配線22の中央部で1本につながった形状でシリコン基板20の中央部では3本に分かれ、シリコン基板20の一端縁部で1本にまとまり、2つの電極28に分かれてセンサ配線26の基端部と電極28が接続している。これにより、センサ配線26を挟んで、電極24と電極28が位置し、電極24,28は、各々同電位で一対ずつ設けられている。
【0013】
センサ配線26は、3本に分かれた部分が上ケース16の開口部18から露出し、コンクリート12中に露出して埋設される。開口部18の外側に位置した、センサ配線26、基準配線22、電極24,28、及びシリコン基板20の表面部分は、上ケース16により密閉状態で覆われている。また、電極24,28には、下ケース14上に配線された接続配線30に各々つながれ、下ケース14の一端部に設けられたコネクタ32の図示しない端子に接続されている。
【0014】
上ケース16から露出したセンサ配線26の表面には、コンクリート12中の鋼材表面の不動態膜である保護皮膜と同様の保護皮膜38により覆われている。保護皮膜38は、鋼材表面の不動態膜(FeOOH)である。この保護皮膜38の形成は、シリコン基板20表面に、真空蒸着やスパッタリング等により鉄または鋼の薄膜によるセンサ配線26を形成した後、シリコン基板20表面のセンサ配線26を、強酸化剤の存在する環境や強アルカリ環境下において形成する。
【0015】
コネクタ32には、コンクリート12内に配管された導管34の一端がつながれ、コンクリート12の表面のコネクタ36に、導管34の他端が接続されている。導管34内には、コネクタ32に接続された二対の各電極24,28に接続された図示しない配線が挿通されている。コンクリート12表面のコネクタ36には、図示しないコネクタにより、検知用の配線コネクタが接続され、測定装置39を介してコンピュータ40等により信号が送信されるとともに、測定データが解析される。
【0016】
次に、この実施形態の腐食検知素子10による、コンクリート中鋼材の腐食検知の原理について以下に説明する。
【0017】
コンクリート中の鉄筋や鉄骨等の鋼材は、上述のように強アルカリ性の環境で埋設されている。これは、建設時のコンクリートは以下のように、
Ca(OH)=Ca2++2OH
となり、コンクリート内で水酸基(OH)が電離していることによる。しかし、コンクリートは外部から二酸化炭素(CO)を吸収し、時間の経過とともにコンクリートの中は中性化が進行する。この反応は、以下の通りである。
【0018】
CO+HO→HCO→2H+CO2−
この水素イオンHがコンクリート中の水酸基OHと中和して、水(HO)になる。この結果アルカリを示す水酸基(OH)がどんどん減少し、コンクリートの中は徐々に中和していく。さらに、コンクリート中の塩化物イオン(Cl)は、鋼材表面の不動態膜(FeOOH)を破壊し、徐々に酸化による腐食が始まる。ここで生じる酸化鉄は赤錆が主体であり、条件によっては黒錆の発生もある。しかし、鉄または鋼と比較して黒錆の電気抵抗値はかなり大きく(10〜10Ω)、赤錆にいたってはほぼ絶縁物であると言える。
【0019】
そこで、この腐食検知素子10においては、鉄または鋼のセンサ配線26の表面に、不動態膜(FeOOH)から成る保護被膜38を形成した状態で、コンクリート12中に腐食検知素子10を埋設する。この後、コネクタ36に測定装置39を介してコンピュータ40からの配線を接続し、センサ配線26の状態を検知する。このとき、電極24,28に測定装置39及びコンピュータ40からの配線を接続する。対になった電極24,28が二対設けられているのは、腐食以外の要因による断線で、検知不能になることを防止するための安全策である。また、電極24,28間にかける電圧は、交流電圧を印加して、微小断線による容量の形成を検知する方が、直流電圧により単に断線を検知するよりも高精度に腐食を検知することができる。
【0020】
この腐食検知素子10は、検知対象であるコンクリート中に埋設してコンクリート中の鋼材表面の保護皮膜と同様の保護皮膜38をセンサ表面の開口部18に露出させ、その下に鉄や鋼によるセンサ配線26を配置し、保護皮膜38が破られると、鉄等のセンサ配線26が直接腐食され、抵抗値が変化しついには断線する。さらに、断線後も腐食の程度により、断線箇所の間隔が異なり、この隙間による静電容量が異なることから、交流電圧を電極24,28間に印加して検知することにより、腐食の程度を知ることができる。
【0021】
この実施形態の腐食検知素子10の使用方法は、コンクリート12の打設時に、適宜の箇所にこの腐食検知素子10を固定し、コンクリート12中に埋設する。埋設深さは、コンクリート中鋼材のコンクリートかぶり深さと同じ程度にする。また、コンクリート中鋼材のコンクリートかぶり深さより浅い位置に埋設して、表面側のコンクリート状態を検知しても良く、この腐食検知素子10を深さ方向に複数用意し、コンクリート構造物中の鋼材のコンクリートかぶり深さよりも浅い位置から順次深い位置に埋設して、コンクリート状態の深さ方向の変化を検知するようにしても良い。
【0022】
この実施形態の腐食検知素子10によれば、コンクリート12中の鋼材と同様の保護皮膜38をコンクリート12中に露出させてコンクリート12中に埋設させ、鋼材の保護皮膜38の破壊を直接的に検知するのと同様の精度で、腐食を検知することができるものである。
【0023】
なお、この発明のコンクリート中鋼材の腐食検知素子は上記実施形態に限定されるものではなく、センサ配線は、鉄や鋼以外に銅やその他の金属でも良く、コンクリート中で腐食が進行可能なものであればよい。さらに基準配線の形状およびセンサ配線の形状も図示した形状にこだわる必要はなく、状況や用途に応じて適宜の形状を選択し得るものである。また、センサ配線等を形成する基板はシリコンに限定されるものではなく、ガラス等の絶縁物であれば良い。その他、鋼材とセンサ配線の保護皮膜は、水酸化鉄の保護皮膜以外に、薄い樹脂被膜でも良く、測定対象の鋼材の保護皮膜と同様の機能、耐久性を有した保護皮膜をセンサ配線に形成したものであれば良く、その形成方法や、保護皮膜の種類は適宜測定対象の鋼材に合わせて選択可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態のコンクリート中鋼材の腐食検知素子の上ケース取り付け前の平面図である。
【図2】この発明の一実施形態のコンクリート中鋼材の腐食検知素子の図1に上ケースを取り付けた状態のA−A断面図である。
【図3】この発明の一実施例のコンクリート中鋼材の腐食検知素子の使用状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0025】
10 腐食検知素子
12 コンクリート
14 下ケース
16 上ケース
18 開口部
20 シリコン基板
22 基準配線
24,28 電極
26 センサ配線
38 保護皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート中に埋設して、コンクリート中の鋼材の腐食を検知する腐食検知素子において、絶縁基板上に配線された金属製のセンサ配線と、このセンサ配線が接続されているとともに外部の配線につながれた電極と、前記コンクリート中の鋼材表面の保護皮膜と同様の組成で前記センサ配線を被覆した保護皮膜とを備え、前記センサ配線上の保護皮膜を前記コンクリート中に露出させて埋設することを特徴とするコンクリート中鋼材の腐食検知素子。
【請求項2】
前記保護皮膜は、鉄または鋼の水酸化鉄から成る不動態膜、またはこの不動態膜と同様の機能を有する薄膜から成ることを特徴とする請求項1記載のコンクリート中鋼材の腐食検知素子。
【請求項3】
前記絶縁基板は、開口部を有した硬質のケース中に密封され、前記ケースに形成された開口部に、前記センサ配線を被覆した保護皮膜が露出して成る請求項2記載のコンクリート中鋼材の腐食検知素子。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−128734(P2008−128734A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311924(P2006−311924)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(591020445)立山科学工業株式会社 (71)
【Fターム(参考)】