説明

コンクリート処理方法

本発明は、不必要な汚れ又はマーキングの影響を受け難くするためのコンクリート面の処理方法であって、コンクリート面を、一価又は二価の陽イオンの水溶性ポリ燐酸塩を含む水溶液に接触させる処理を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート面が不必要な汚れ又はマーキングに対して耐性を持つようにするためのコンクリート面の処理方法、及び、それによって得られるコンクリート面に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘキサメタ燐酸塩(HMP)は、様々な使途を有する材料として知られており、例えば、水設備における剥離を抑えるための軟化剤又は耐食剤、及び、(例えば、粘土処理、油井の掘削泥水、及び、顔料の生産における)水中に分散した細分割された固形物のための分散剤のような水処理剤として用いられる。
【0003】
コンクリート面は、不必要な汚れの影響を受けやすいことが知られている。これは、例えば、落書きの形で故意に塗られた汚れ、又は、ワインやコーヒーのような物質が誤ってこぼれた結果として生じる汚れによるものである。被膜又は保護製品が市販されているとともに、汚れ、特に、(例えば、落書きとしての)水性又は油性物質による汚れ、又は、公害のための埃による汚れに対する保護が図られている。
【0004】
特に、落書きの抑制に努める多くの製品がある。これまでウレタン樹脂製品が用いられてきた。それらは防水性の堅固な表面被膜を形成する。メタクリル酸メチルを用いて形成されたアクリル樹脂フィルムも知られている。シラン及びシロキサンも、不透過性の面を与えるために用いられてきた。先行文献は、温度の上昇に対応し、及び/又は、より耐性のある保護膜をもたらす配合物のように、少なくとも2つの作用物質を含む配合物を用いることが有利であることも教えてくれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既知のコーティング及び保護コーティングは多くの不利益により徐々に傷つく。
【0006】
コーティング及び保護コーティングは、処理された面を幾分光沢のあるものとし、その外観を変える。
【0007】
コーティング及び保護コーティングは、水を浸透させないだけでなくガス交換も遮り、それ故水蒸気が、処理された面を通って放出するのを妨げるバリヤーを生成する表面膜を形成する。
【0008】
生成された表面膜は、紫外線照射や機械的又は科学的侵蝕によって劣化しやすい。
【0009】
本発明は、既知の汚れ防止製品の使用に伴う1つ以上の欠点を克服しようとしている。特に、コンクリート面に種々のタイプの汚れに対する耐性を持たせるような方法を提供し、汚れ又はマーキングをより浄化しやすくし、及び/又は、不必要な汚れ又はマーキングに対する耐性をより長持ちさせようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コンクリート面を、一価又は二価の陽イオンの水溶性ポリ燐酸塩を含む水溶液に接触させる処理を含む、不必要な汚れ又はマーキングの影響を受け難くするためのコンクリート面の処理方法を提供する。
【0011】
付随する請求項を含む本明細書において水溶性という語は、室温で少なくとも10g/lの水に対する溶解性を指す。
【0012】
付随する請求項を含む本明細書においてポリ燐酸塩という語は、線状及び環状のポリ燐酸塩を含むと解釈されている。線状のポリ燐酸塩は、メタ燐酸塩群(MPOの鎖を含んでいて、Mは一価又は二価の陽イオンであり、且つ、xは1以上であり、MPOによって終端されている。xの値が大きくなるほど、上記化学式は、化学式(MPO(n=x+2)により一層密に近似する。この化学式は、環状のポリ燐酸塩を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
陽イオンMは、ナトリウムを表すが、例えば、カリウムといったアルカリ金属陽イオン、及び、例えば、マグネシウムといったアルカリ土類金属を用いてもよい。また、Mは、アンモニウムイオンも示す。陽イオンの混合物でもよい。
【0014】
ポリ燐酸ナトリウムは、燐酸一ナトリウム(NaHPO)が加熱されて溶解したときに得られる。ポリ燐酸塩の混合物を生成するために、脱水を生じる縮合反応が行われる。製造されたポリ燐酸塩の鎖の長さ及び結晶度は、加熱温度及び期間、溶融以上の水蒸気圧、及び、工程の最期の冷却率を含むいくつかのプロセス・パラメータによって決まる。
【0015】
同様の方法で得られた水溶性ポリ燐酸塩は、メタ燐酸塩、グラハムの塩、燐酸塩ガラス(ガラス質燐酸塩)及びヘキサメタ燐酸塩(HMP)を含む様々な名称の下、知られ且つ販売されている。メタ燐酸塩という語は、しばしばヘキサメタ燐酸塩の同義語として用いられる。ヘキサメタ燐酸ナトリウムは、化学式(NaPOを有する環状化合物である。
【0016】
市販のメタ燐酸ナトリウム製品は、一般的に、ポリ燐酸塩の混合物を含み、且つ、一般的な化学式(NaPOにおけるn(重合度)の概算又は平均の値によるその組成の表示を伴って、売られている。
【0017】
水溶性は、ポリマー鎖長の増加とともに、nが増加するほど減少する。nの上限は、本発明に用いられるポリ燐酸塩は水に溶けるという要求によって設定される。nの値は、例えば、6〜100である。
【0018】
また、市販のポリ燐酸ナトリウムも、そのNaO/Pの比率、又は、そのPの含有量によって識別される。他のポリ燐酸塩のNaO/Pのモル比は、xが約2であるテトラポリ燐酸ナトリウムでは約1.3:1であり、xが、例えば、13〜18であるグラハムの塩(ヘキサメタ燐酸ナトリウムとも称される)では約1.1:1であり、xが、例えば、20〜100かそれ以上である高分子量のポリ燐酸ナトリウムでは約1.1:1である。本発明に用いられる水溶性アルカリ金属(例えば、ナトリウム)ポリ燐酸塩では、一般的に、五酸化燐に対するアルカリ金属のモル比は0.9:1〜1.7:1である。Pの含有量は、一般に60〜71重量%である。
【0019】
約1.3:1のNaO/Pのモル比、1500〜2000の分子量、及び約15〜20の重合度を有するポリ燐酸塩は、カルゴンという名称で販売されている。同様の市販の材料は、僅かに高いNaO/Pの比率と、6〜8及び12〜14の重合度とを有している。
【0020】
nが25であるポリ燐酸ナトリウムは、本発明の処理において良好な結果をもたらす。
【0021】
本発明の処理が施されるコンクリートは、一般的に、14%未満、好ましくは12%未満、例えば、(Compte−Rendue Journees Techniques、AFPC−AFREM、1997年12月、121〜124頁に記載された方法によって算出されるように)10%未満の含水率を有している。
【0022】
上記処理が施されるコンクリートは、一般的に、多くとも約0.3、好ましくは0.20〜0.27の水セメント(w/c)重量比を有している。
【0023】
コンクリートは、一般的に、50MPa〜250MPa、例えば、80〜250MPaの圧縮強度を有している。コンクリートは、超高強度コンクリート(UHPC)、例えば、繊維を含むものであることが望ましい。本処理方法は、EP−B−1034148及びEP−B−1080049に記載されるようなコンクリートに適用されるのが望ましい。
【0024】
超高強度コンクリートは、繊維を含むセメントマトリックスを有するコンクリートである。超高強度コンクリートは、道路及び自動車道路についての技術研究業務(Setra)及びフランス土木工学協会(AFGC)による「超高強度繊維補強コンクリート」という表題の文献に記載されている。これらのコンクリートの圧縮強度は、一般的に150MPaよりも高く、例えば、250MPaである。繊維は、金属繊維、有機繊維又はそれらの混合物である。
【0025】
セメントマトリックスは、一般に、(ポルトランド)セメント、ポゾラン材料(例えば、シリカフューム)及び細砂を含んでいる。構成成分の相対的な寸法及び量は、用いられる個々の材料を配慮しながら選択される。例えば、セメントマトリックスは、ポルトランドセメントと、細砂と、シリカフュームタイプのポゾラン材料と、場合によって石英粉末とを含むことができる。
【0026】
粒子の寸法は、最大寸法が概ね5mmを超えず、ミリメートルの範囲でサブミクロンからミクロンまで変化する。高性能減水剤は、一般的に練混ぜ水に添加される。
【0027】
セメントマトリックスの例は、公開特許出願EP−A−518777、EP−A−934915、WO−A−9501316、WO−A−9501317、WO−A−9928267、WO−A−9958468、WO−A−9923046、WO−A−0158826の中に記載されている。
【0028】
繊維含有率は、一般的に低く、例えば、1〜8体積%である。
【0029】
セメントマトリックスの例は、反応性粉末コンクリート(RPC)であり、UHPFCの例は、エファージュ社によるBSIコンクリート、ラファージュ社によるダクタル(登録商標)、イタルチェメンティ社によるCimax(登録商標)及びヴィカー社によるBCVである。
【0030】
上記処理は、一般に、はけ塗り、吹付け塗り又は浸し塗りによって行われ、例えば、吹付け塗りによって行われる(特に、処理されるコンクリート構造物が大きい場合)。
【0031】
本発明の処理方法で用いられる水溶液は、一般に1〜50%、好ましくは5〜20%、例えば、10〜15%のポリ燐酸塩を含んでいる。
【0032】
溶液を吹付け塗りによってコンクリート面に塗布するときは、塗布される液体の量は、当該面を飽和させるに足りることが望ましい(例えば、吹付け塗りによって、液体が当該面から流れ落ち始めるまで)。上述の処理をした面を乾燥させた後に、例えば、補助的な処理を適用してもよい。
【0033】
HMPによる処理は、一般に、コンクリート面の脱型から2、3日以内、例えば、3日目に行われる。処理法は、脱型してから2、3時間以内、例えば、2時間で行われるのが望ましく、脱型直後に行われるのがより望ましい。
【0034】
本発明の処理方法で用いられるHMPの水溶液は、HMP及び当該水溶液が塗布されるコンクリート面と親和性のある水混和性溶剤を含んでいてもよい。
【0035】
処理すべきコンクリートは、一般に白又は灰色である。
【0036】
本発明の方法により処理されたコンクリート面の汚れ又はマーキングに対する耐性とは、概して、汚された又はマークされた面が、水又は洗浄剤を含有した水によって、汚れ又はマーキングの濃さが減少するまで、好ましくは概ね減少するまで、より好ましくは汚れ又はマーキングが除去するまで、洗浄できるというものである。
【0037】
コンクリート面の汚れ又はマーキングに対する耐性の評価は、汚れ又はマークが室温で2時間乾燥され、次いで通常の食器洗い用液体洗剤を用いて布又はスポンジで拭かれた、汚された又はマーキングされた面によって行われる。本発明の処理方法の効果がある、汚れ又はマークの例は、以下の説明例で与えられる。それらは、例えば、茶、コーヒー、炭酸飲料及びワインといった水性液、ひまわり油のような植物油、例えば、アクリル塗料といったペンキ及びインク、マーカー及びフェルトペン、メチレンブルー及びメチルバイオレットを原因とする1以上の汚れ又はマークを含んでいる。
【0038】
本発明に従って処理されたコンクリート面が不必要な汚れ又はマーキングをこうむると、汚れ又はマーキングの色の濃さを除去又は減少するための洗浄は、通常、水を用いて実施される。当該水は、例えば、1つ以上の界面活性物質を含む界面活性剤といった洗浄剤を含有してもよい。ポリ燐酸塩を含む水溶液を用いることによって、洗浄が行われてもよい。
【0039】
本発明は、当該発明に基づく方法で処理されたコンクリート面を含む、例えば、ビルや彫像のような芸術作品といった、オブジェや建造物も提供する。
【0040】
付随する請求項を含む本明細書では、パーセントは、別段の定めがないかぎり、重量パーセントである。
【0041】
以下の例は、本発明を実証するが限定はしない。
【実施例】
【0042】
供試体の準備
ラファージュ社によって商品化されているダクタル(登録商標)タイプのコンクリート構成物を混ぜ合わせた。成分及び比率は以下の通りである(比率は重量による)。
【0043】
SB 52.5(Le Teil) :1
シリカフューム(MST) :0.3
シリカフィラー(C400:Sifraco) :0.24
珪砂(BE01:Sifraco) :1.43
繊維(APV 12mm) :0.079
高性能減水剤(Chryso F2) :0.046
硬化促進剤(Chryso:CaClをベースとする)A2 :0.0175
水セメント比 :0.26
【0044】
上記混合物は、bakelised木鋳型に注ぎ込まれた。コンクリート混合物の解放された面は、保守段階の間(約18時間)ずっと水飽和したシートで覆われた。
【0045】
供試体を脱型してから1時間後、各供試体の一部が、ポリ燐酸塩(メタ燐酸ナトリウム:CAS番号10361−03−2;未精製の一般化学式(NaPO、n=約25)の10%W/Wの溶液に浸された。各供試体は、溶液に5秒間浸され、30分間室温で放置され、次いで、再び5秒間浸された。処理された供試体は、浸し塗りの後、拭かれなかった。
【0046】
7日後、脱型され且つポリ燐酸塩で処理された供試体は汚れ試験に供せられた(汚れ又はマーキング各々に対して処理されていない面とHMP処理された面の両方が用いられた)。用いられた汚染製品は以下の通りである。
【0047】
メチレンブルー;
ひまわり油;
コーヒー;
ココア;
赤ワイン;
フランスのカローラックステクニックから入手できるアクリル塗料;
フランスのマラブから入手できるエアゾール塗料;
レモンジュース;
牛乳;
及び水。
【0048】
汚された供試体は、室温で4時間放置された。マーキングされた面の写真が撮られた。次いで、表面が、濡れたスポンジ及び通常の食器洗い用液体洗剤を用いて洗浄され、洗浄された面の新たな写真が撮られた。2枚の写真の目視比較の結果を下記の表に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
HMPを用いた処理は、不必要な汚れやマーキングに対する、特に、不変色アクリル塗料に対するコンクリート面の保護に効果的であることが上記結果から明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不必要な汚れ又はマーキングの影響を受け難くするためのコンクリート面の処理方法であって、
コンクリート面を、一価又は二価の陽イオンの水溶性ポリ燐酸塩を含む水溶液に接触させる処理を含むことを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート処理方法において、
上記ポリ燐酸塩は、ポリ燐酸ナトリウムであることを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンクリート処理方法において、
上記ポリ燐酸塩は、燐に対するアルカリ金属のモル比が0.9:1〜1.7:1であることを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のコンクリート処理方法において、
上記コンクリートは、Pの含有率が60〜71重量%であることを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のコンクリート処理方法において、
上記コンクリートは、間隙率が12%未満であることを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のコンクリート処理方法において、
上記コンクリートは、水セメント比が0.20〜0.27であることを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のコンクリート処理方法において、
上記コンクリートは、超高強度繊維補強コンクリートであることを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載のコンクリート処理方法において、
上記水溶液は、5〜20重量%のポリ燐酸塩を含むことを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載のコンクリート処理方法において、
上記コンクリート面は、コンクリート構造物の表面であり、且つ当該面は脱型してから2時間以内に処理されることを特徴とするコンクリート処理方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載のコンクリート処理方法によって処理された面を含むことを特徴とするコンクリート構造物。

【公表番号】特表2010−510155(P2010−510155A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536819(P2009−536819)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004258
【国際公開番号】WO2008/059379
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(599002870)ラファルジュ (19)
【Fターム(参考)】