説明

コンクリート剥落防止シート及びこれを用いたコンクリート剥落防止工法

【課題】新規な保護シートを用いることにより、補強強度を高めかつ工期を短くし施工コストを安価にできるコンクリート剥落防止シート及びこれを用いた工法を提供する。
【解決手段】本発明のコンクリート剥落防止シート(10)は、コンクリート表面を被覆するためのシートであって、繊維糸ネット(4)と不織布(3)が貼り合わされて一体化されている。本発明のコンクリート剥落防止工法は、コンクリート表面にコンクリート剥落防止シートを被覆固定する工法であって、コンクリート表面に第1層としてプライマー兼接着剤を塗布し、その上から第2層としてコンクリート剥落防止シート(10)を繊維糸ネット(4)がコンクリート面となるように貼り合わせ、その上から第3層として接着剤を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道、道路等の橋梁、トンネル、高架道路、建築物等のコンクリート構造物からコンクリート片の剥落を防止する保護シート及びこれを用いたコンクリート剥落防止工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、自然環境の下で、時間の経過に従い、外部からの雨水等の浸入や、塩分や中性化等の劣化因子により内部の鉄筋が腐食することによって、コンクリートが剥落してしまうという現象を生じることがある。コンクリート構造物の劣化によるコンクリートの剥落防止対策として、ビニロン繊維やポリプロピレン繊維等で製造されたメッシュ繊維を、エポキシ樹脂やウレタン樹脂、又はポリエステル樹脂等の接着剤により接着する工法が普及している。
【0003】
特許文献1には特定の樹脂組成物を、二軸メッシュ、三軸メッシュ及び繊維層状体から選ばれる一種以上に含浸させたコンクリート剥落防止用硬化性材料をプライマー処理したコンクリート面に貼り付け、又はプライマー処理したコンクリート面に樹脂組成物を塗布した後に、二軸メッシュ、三軸メッシュ及び繊維層状体から選ばれる一種以上を貼付して更に該樹脂組成物を塗布することによりプライマー処理したコンクリート面に形成し、硬化させる方法が開示されている。特許文献2には、コンクリートの表面にプライマー層と主材層とコンクリート剥落防止用シートと水性ポリウレタン塗料からなる主材層及び上塗り塗膜層を順次積層する方法が開示されている。特許文献3には、エポキシ系ひび割れ含浸材で施工後、ポリマーセメントモルタルで繊維メッシュを張り込む工法が提案されている。特許文献4には、コンクリート構造物をメッシュ繊維シートで覆い、モルタルで固定し、その上からアクリル樹脂系ポリマーセメントモルタル等の被覆材で覆う方法が提案されている。
【0004】
しかし、上記従来の工法は施工日数が長くかかり、施工コストが高いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−18719号公報
【特許文献2】特開2007−247290号公報
【特許文献3】特開2008−57146号公報
【特許文献4】特開2011−32694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するため、新規な保護シートを用いることにより、補強強度を高め、かつ工期を短くし、施工コストを安価にできるコンクリート剥落防止シート及びこれを用いたコンクリート剥落防止工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコンクリート剥落防止シートは、コンクリート表面を被覆するためのコンクリート剥落防止シートであって、繊維糸ネットと不織布が貼り合わされて一体化されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のコンクリート剥落防止工法は、コンクリート表面にコンクリート剥落防止シートを被覆固定する工法であって、コンクリート表面に第1層としてプライマー兼接着剤を塗布し、その上から第2層として前記のコンクリート剥落防止シートを前記繊維糸ネットがコンクリート面となるように貼り合わせ、その上から第3層として接着剤を塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート剥落防止シートはコンクリート表面と面接触するため、接着強度が高く、コンクリートからシートに向けて応力がかかった場合、ネットを構成する繊維糸の動きを不織布が抑制し、相乗的補強効果を発揮し、剥落防止性能を高くできる。加えて本発明のシートは、繊維糸ネットと不織布が貼り合わされて一体化されており、全体として薄いシートであるため、コンクリート面に施工する際、含浸させる接着剤の量を少なくできる。このため、接着剤の塗布回数も塗布量も少なくでき、工期を短くし、施工コストを安価にできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは本発明の一実施例におけるコンクリート剥落防止シートの模式的平面図、図1Bは図1AのI−I線の模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の別の実施例におけるコンクリート剥落防止シートに使用する繊維糸ネットの模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の一実施例におけるコンクリート剥落防止シートの製造工程を示す説明図である。
【図4】図4A−Cは本発明の一実施例の施工方法を示し、図4Aはコンクリート表面に第1層のプライマー兼接着剤を塗布する工程、図4Bは第2層のシートを貼り合わせる工程、図4Cは第3層の接着剤を塗布する工程を示す。
【図5】図5A−Cは本発明の実施例で使用する剥落防止の押し抜き試験の測定方法を示す説明図である。
【図6】図6は本発明の実施例1における保護シートのコンクリート剥落防止押抜き試験の結果を示すチャートである。
【図7】図7は比較例1における保護シートのコンクリート剥落防止押抜き試験の結果を示すチャートである。
【図8】図8は比較例2における保護シートのコンクリート剥落防止押抜き試験の結果を示すチャートである。
【図9】図9は比較例3における保護シートのコンクリート剥落防止押抜き試験の結果を示すチャートである。
【図10】図10は本発明の実施例1と比較例1の保護シートのコンクリート剥落防止押抜き試験の結果を比較するチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、繊維糸ネットと不織布が貼り合わされて一体化されているコンクリート剥落防止シートを使用する。コンクリート剥落防止シートは保護シートともいう。この保護シートは、繊維糸ネットと不織布とで構成され、両者は一体化されている。一体化は、接着剤による接着、熱融着及び繊維の交絡から選ばれる少なくとも一つの手段が好ましい。前記において交絡は、水流による交絡又はニードルパンチによる交絡を含む。熱融着させる場合は、不織布に低融点繊維を加えておき、これを熱融着させることにより、繊維糸ネット及び/又は不織布の強度を低下させないで一体化できる。前記の一体化手段の中でも接着剤による接着が、保護シートの強度を高く維持し、一体化加工も効率がよいことからも好ましい。繊維糸ネットと不織布が貼り合わされて一体化された保護シートは、コンクリート表面と面接触する。また、この保護シートは、繊維糸ネットと不織布が貼り合わされて一体化されており、全体として薄いシートとすることができる。
【0012】
図面を用いて説明する。以下の図面において同一符号は同一物を示す。図1Aは本発明の一実施例におけるコンクリート剥落防止シートの模式的平面図、図1Bは同I−I線の模式的断面図である。保護シート10は不織布1と繊維糸ネット4で構成され、両者は一体化されている。繊維糸ネット4はタテ糸2a,2bとヨコ糸3で構成され、タテ糸2a,2bで上下交互にヨコ糸3を挟んでいる。別の例としては、図2に示すように上下タテ糸5a,5bでヨコ糸6を挟んだ繊維糸ネット7としてもよい。これらは2軸配列体である。ネットを構成する各繊維糸はマルチフィラメントが扁平状に配列されたテープ糸であることが好ましい。マルチフィラメントが扁平状に配列されたテープ糸であるとコンクリート面との面接着が可能となり、接着強力が高くなる。好ましい扁平形状は、幅Wと厚みHの関係がW:H=2〜20:1である。
【0013】
繊維糸ネットはタテ糸とヨコ糸が直線的に配列されており、織物のようにタテ糸とヨコ糸の入れ替えによる交錯がないため、繊維が本来持っている強度を殆ど損なうことはない。加えて、織物のような織製工程がないため、毛羽立ちや目ずれもないものが得られるというメリットもある。
【0014】
繊維糸ネットの材料は、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維(PBO)、炭素繊維、ガラス繊維等が好ましい。ビニロン繊維は従来からコンクリート補強繊維として実用化されている。中でも高強度ポリエチレン繊維又は高強度ビニロンが好ましい。特に、高強度ポリエチレン繊維は、賦形性(コンクリートの凹凸形状に沿って曲がったままになる性質)があり、10mPa・s〜20,000mPa・s、かつチクソトロピー指数7以下の粘度の低い接着剤を使用できることから好ましい。例えば図4Bの保護シート層24のように、コンクリート21の凹凸形状に沿って曲がったままになる性質があると、その上から接着剤を塗布するのに便利である。
【0015】
高強度ポリエチレン繊維は分子量50万以上の直鎖状高密度ポリエチレンを原料にして準希薄溶液を調整し、ゲル紡糸することで、分子の絡み合いの非常に少ないゲル状の糸とし、それを高倍率に延伸することで得られる(本宮達也ら編著「繊維の百科事典」、2002年3月25日、丸善、521-522頁)。現在では強度24〜60cN/dtex、弾性率880〜2200cN/dtexの繊維が市販されている。市販品としては、東洋紡社製、製品名“ダイニーマ”(dyneema)、アライド シグナル(Allied Signal)社製、製品名“スペクトラマ”、三井化学社製、製品名“テクミロン”等がある。
【0016】
繊維糸ネットの糸間隔は、タテ、ヨコともに0.5〜3本/10mmであるのが好ましい。さらに好ましくは0.5〜1.5本/10mmである。前記の範囲であれば強度的には十分であり、接着剤の含浸性(浸透性)も良好である。タテ糸とヨコ糸の好ましい繊度は500〜3000deci texの範囲である。また、繊維糸ネットの単位面積当たりの重量(目付)は10〜400g/m2の範囲が好ましい。
【0017】
不織布は単位面積当たりの重量(目付)が10〜50g/m2であることが好ましい。さらに好ましくは15〜30g/m2である。前記の範囲であれば強度と接着剤の含浸性(浸透性)を両立できる。前記目付の不織布は透けて見えるほど薄い。
【0018】
不織布はスパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布及びメルトブロー不織布から選ばれる少なくとも一つの不織布であることが、強度と接着剤の含浸性(浸透性)を両立できることから好ましい。これらの中でもスパンボンド不織布が薄くて強度もあることから好ましい。スパンボンド不織布の中には低融点繊維を混合しておき、前記低融点繊維を融着させることにより、薄くても繊維のまとまり性がよく、強度も高い不織布とすることができる。
【0019】
本発明の保護シートの単位面積当たりの重量(目付)は20〜450g/m2の範囲が好ましい。さらに好ましくは30〜400g/m2の範囲である。前記の範囲であれば強度と接着剤の含浸性(浸透性)を両立できる。
【0020】
本発明の保護シートの一実施例の製造工程を図3に示す。まず、タテ糸とヨコ糸を積層した積層シート8を作成し、ガイドロール9を通過させて、含浸槽11内のバインダー液12に含浸させる。その後、一対のマングル(絞りロール)13,14で接着剤樹脂液の量が所定量となるように絞り、乾燥シリンダー17,18に送る。マングル13,14と乾燥シリンダー17,18の間のガイドロール16の上流側から不織布15を供給し、積層シート8と貼り合わせ、乾燥シリンダー17,18に供給して乾燥し、得られた保護シート10を巻き取り体19とする。この保護シートをコンクリート表面に被覆する際には、適宜の大きさにカットして使用する。バインダー液12としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、オレフィン樹脂等が好ましい。この場合の接着剤(バインダー)の好ましい乾燥重量は5〜50g/m2である
【0021】
次に、本発明の工法について説明する。本発明の工法は次の工程を含む。
(1)第1工程
第1工程として、コンクリート表面に第1層となるプライマー兼接着剤を塗布する。この工程の前には予めコンクリート表面を清浄にしたり、亀裂を塞ぐ、不陸、段差を修正し平滑にする等の手当てをしておいても良い。第1層となるプライマー兼接着剤としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリマーセメントからなる群の中から選ばれる1液または反応硬化型の合成樹脂接着剤を使用することが好ましい。また、接着剤には揺変剤、顔料、消泡剤、希釈剤等を加えることもできる。この中でも施工性、強度等の物性を考慮するとエポキシ樹脂を使うのが好ましい。第1層のプライマー兼接着剤の好ましい塗布量の範囲は0.1〜1.0kg/m2であり、さらに好ましくは0.2〜0.5kg/m2である。前記の範囲であれば、第2層の保護シートを強力に接着できる。第1層のプライマー兼接着剤の塗装の手段は特に限定されたものでなく、例えば、ローラー、刷毛、こて、ヘラ等を用いることができる。
【0022】
(2)第2工程
第2工程として、第1層の上から第2層の保護シートの表面が不織布面、繊維糸ネットがコンクリート面となるように貼り合わせる。繊維糸ネットをコンクリート面に向けて貼り合わせると、コンクリート面からの応力がかかった場合、その応力はまず繊維糸ネットが受けるが、繊維糸ネットは不織布によって裏打ちされて補強されているので、ネットを構成する繊維糸の動きは不織布によって抑制され、剥落防止性能は高くなる。なお、第2層の保護シート貼り付けは、第1層のプライマー兼接着剤の塗装直後から樹脂が乾燥する前に行う。第2層の保護シートを均一に含浸、接着させるために、ヘラやローラーなどを用いて、第2層の保護シートの上から転圧しながら貼り付ける。
【0023】
(3)第3工程
第3工程として、保護シートの上から第3層の接着剤を塗布する。第3層の接着剤を塗布することにより、保護シートに第3層の接着剤を塗布すると保護シート内に第3層の接着剤が含浸し、第1層のプライマー兼接着剤とも接着する。したがって、第1層から第3層までが一体となり、強度の高い被膜が形成される。第3層の接着剤の好ましい塗布量の範囲は0.05〜0.5kg/m2であり、さらに好ましくは0.1〜0.3kg/m2である。前記の範囲であれば、第2層の保護シートへの含浸は十分なものとなる。第3層に用いる接着剤は、第1層のプライマー兼接着剤と同一の樹脂を使用することが好ましい。同一の樹脂であれば、第1層との付着性も良く、第2層の保護シートを樹脂と一体化するのに都合が良い。また、乾燥硬化前に塗布することができるため、塗装効率が良く、施工時間も短縮することができる。なお、第3層の接着剤は第2層の保護シート貼り付け直後から塗布でき、第2層の保護シート貼り付け硬化後に塗装しても良い。塗装の手段は特に限定されたものでなく、例えば、ローラー、刷毛、こて、ヘラ等を用いることができる。
【0024】
図4A−Cは本発明の一実施例の施工方法を示す。図4Aはコンクリート21の表面に第1層22のプライマー兼接着剤をローラー23により形成する工程である。図4Bは第1層22の上に第2層の保護シート10をヘラ24等を用いて貼り合わせる工程である。図4Cは第2層の保護シート10の上に第3層25の接着剤をローラー23により形成する工程である。
【0025】
本発明は屋外、屋内を問わずコンクリート面であればどのようなものにでも適用できる。コンクリート面が屋外に存在する場合は、第1層〜第3層から形成する剥落防止層に耐候性、防汚性などの機能を付与するために、さらに前記第3層の上に第4層として仕上げ材を塗布しても良い。仕上げ材としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ふっ素樹脂、アクリルシリコン樹脂およびシリコーン樹脂からなる群の中から選ばれる1液または反応硬化型の合成樹脂塗料を使用することが好ましい。仕上げ材は用途により中塗り材と上塗り材を塗り重ねても良い。また、仕上げ材には紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、希釈剤等を加えることもできる。仕上げ材の好ましい塗布量の範囲は0.05〜0.5kg/m2であり、さらに好ましくは0.1〜0.3kg/m2である。塗装の手段は特に限定されたものでなく、例えば、ローラー、刷毛、スプレー等を用いることができる。
【0026】
第1層と第3層の接着剤は同一の接着剤を使用することもできる。同一の接着剤であれば、両接着剤をコンクリート剥落防止シートに含浸させ、一体化するのに都合が良い。また、第1層、第3層及び第4層の塗装剤はローラー又はスプレーにより塗布するのが、塗装効率の点から好ましい。
【0027】
第2層で用いる保護シートは賦形性(コンクリートの凹凸形状に沿って曲がったままになる性質)があるため、コーナー部、水切り部等での浮きがでにくく、粘度の低い接着剤を使用できる。粘度10mPa・s〜20,000mPa・s、かつ、チクソトロピー指数1〜7の範囲に調整した接着剤を使用することができ、前記の範囲であれば、ローラーで第2層の保護シートを貼布するのに十分な塗布量を均一に塗布することができ、かつ均一に含浸、接着させることができる。
【0028】
なお、粘度測定は、23 ℃ 、かつ50%RHの環境下で、JIS K 7117−1に定められるブルックフィールド形回転粘度計を使用した。なお、10,000mPa・s未満のものについては、BL型回転粘度計、4 号ローター、60min-1 、10,000〜100,000mPa・sのものについては、BH型回転粘度計、6号ローターまたは7号ローター、20min-1で測定した。また、チクソトロピー指数は、粘度測定同様に、JIS K 7117−1に定められるブルックフィールド形回転粘度計を使用し、2種の異なるローター回転数における粘度の比を求めた。なお、10,000mPa・s未満のものについては、BL型回転粘度計、4 号ローター、6min-1 /60min-1 、10,000〜100,000mPa・sのものについては、BH型回転粘度計、6号ローターまたは7号ローター、2min-1/20min-1で測定した。
【実施例】
【0029】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0030】
<コンクリート剥落防止の押抜き試験の測定方法>
NEXCO構造物施工管理要領、試験法424−2009にしたがって測定した。まず、図5Aに示すように、縦400mm、横600mm、高さ60mmのコンクリートブロック31の中央に、コンクリート用エアカッターにより内径100mm、溝幅5mm、深さ55mmの押し抜き部32を形成した。33は溝部(コア抜き部)である。このコンクリートブロック31の押し抜き部32と反対の面に保護シート30を接着した。施工面積は縦400mm、横600mmとした。次いで、図5B−Cに示すように、コンクリートブロック31の押し抜き部32を矢印のように押圧し、1mm/minの速度で押し抜き部32が破壊するまで押圧し、破壊後は5mm/minで押圧した。保護シート30には押し抜き部32の押圧力がかかる。これをチャートに示したのが図6である。図6においてストローク長10mmの部分で試験力が低下しているのは、シリンダーの押圧を一時ストップし、保護シートの破壊程度を目視により観察することが決められているからである。
【0031】
(実施例1)
(1)保護シート
繊維糸ネットは東洋紡社製、製品名“ダイニーマ”、繊度1320deci tex(フィラメント数1170本)を使用し、糸間隔はタテ、ヨコともに1本/10mmとした。繊維糸ネットの目付は26g/m2であった。不織布はポリエステル製スパンボンド不織布(ユニチカ社製、商品名“エルベス”、目付15g/m2)を使用した。前記繊維糸ネットと前記不織布は図3に示す方法で一体化した。接着剤はウレタン系接着剤を使用し、付着量は24g/m2とした。得られた保護シートを図1A−Bに示す。この保護シートの単位面積当たりの重量(目付)は65g/m2であった。なお、得られた保護シートにおける、繊維糸ネット1本の糸の形状は扁平であり、幅2.5mm、厚み0.2mmのテープ状であった。
【0032】
(2)コンクリート表面への施工と押抜き試験の測定方法
図5Aに示すコンクリートブロック31に保護シートを接着した。プライマー兼接着剤はエポキシ樹脂(アトミクス社製、商品名“ライフテックス♯750”、粘度300〜1,000mPa・s、チクソトロピー指数1〜2)を使用した。下記表1に示す方法で施工し、標準養生7日後に押抜き試験を実施した。押抜き試験の結果は図6及び表3にまとめて示す。また、本発明の実施例1と比較例1の保護シートのコンクリート剥落防止押抜き試験の結果を比較するチャートを図10に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
(比較例1)
実施例1の保護シートに換えて、東洋紡社製、製品名“ダイニーマ”1320deci texからなる繊維糸を使用し、糸間隔はタテ、ヨコともに1本/10mmの2軸配列体を使用した以外は、実施例1と同一の実験をした。これは実施例1における不織布がない例である。押抜き試験の結果は図7及び表3にまとめて示す。
【0035】
(比較例2)
実施例1の保護シートに換えて、ユニチカ社製、製品名“トリオネTSS-1810-Y”(ビニロン繊維糸を使用した3軸ネット)を使用した以外は、実施例1と同一の実験をした。押抜き試験の結果は図8及び表3にまとめて示す。
【0036】
(比較例3)
比較例2のユニチカ社製、製品名“トリオネTSS-1810-Y”(ビニロン繊維糸を使用した3軸ネット)を使用し、従来工法(アトミクス社製、工法名“ライフテックスV−FRP工法”、NEXCO構造物施工管理要領 剥落防止 性能照査完了工法)で実験をした。ここで従来工法とは、プライマー塗装工程、接着剤塗装工程、保護シート貼布工程、接着剤塗装工程、中塗り材塗装工程、上塗り材塗装工程の6工程が必須である。なお、従来工法の接着剤はエポキシ樹脂(アトミクス社製、商品名“ライフテックスV−SE(16)”、粘度30,000〜100,000mPa・s、チクソトロピー指数5〜15)を使用した。この比較例3の各工程は表2に示すとおりである。押抜き試験の結果は図9及び表3にまとめて示す。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
表3及び図10から明らかなとおり、保護シートとしてダイニーマ2軸配列体のみ(比較例1)と比べて、ダイニーマ2軸配列体と不織布を一体化させた保護シート(実施例1)は、耐荷力が約4倍に向上した。不織布自体の耐荷力は測定不能な程度に低い。このことから、本発明の実施例1の保護シートはコンクリート表面と面接触するため、接着強度が高く、コンクリートからシートに向けて応力がかかった場合、ネットを構成する繊維糸の動きを不織布が抑制し、相乗的補強効果を発揮し、破断強度を高くできることが確認できた。
【0040】
また、実施例1の保護シートは比較例1〜3のシートに比較して最も高い最大耐荷重を示し、変位も規格を合格した値であった。加えて、実施例1の保護シートはきわめて薄く、接着剤含浸量を少なくできるため、工程の簡素化と施工の容易性が可能となり、施工効率が向上し、工期の短縮が図れることがわかった。表4に実施例1と比較例3(従来工法)の比較をまとめて示す。
【0041】
【表4】

【符号の説明】
【0042】
1,15 不織布
2a,2b,5a,5b タテ糸
3,6 ヨコ糸
4,7 繊維糸ネット
8 積層シート
9,16 ガイドロール
10,30 保護シート(コンクリート剥落防止シート)
11 含浸槽
12 バインダー液
13,14 マングル(絞りロール)
17,18 乾燥シリンダー
19 巻き取り体
21 コンクリート
22 第1層(プライマー兼接着剤層)
23 ローラー
24 ヘラ
25 第3層(接着剤層)
31 コンクリートブロック
32 押し抜き部
33 溝部(コア抜き部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面を被覆するためのコンクリート剥落防止シートであって、
繊維糸ネットと不織布が貼り合わされて一体化されていることを特徴とするコンクリート剥落防止シート。
【請求項2】
前記繊維糸ネットはポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維(PBO)、炭素繊維及びガラス繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維で構成されている請求項1に記載のコンクリート剥落防止シート。
【請求項3】
前記繊維糸ネットの糸間隔はタテ、ヨコともに0.5〜3本/10mmであり、単位面積当たりの重量(目付)は10〜400g/m2である請求項1又は2に記載のコンクリート剥落防止シート。
【請求項4】
前記不織布の単位面積当たりの重量(目付)は10〜50g/m2である請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート剥落防止シート。
【請求項5】
前記コンクリート剥落防止シートの単位面積当たりの重量(目付)は20〜450g/m2である請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート剥落防止シート。
【請求項6】
コンクリート表面にコンクリート剥落防止シートを被覆固定する工法であって、
コンクリート表面に第1層としてプライマー兼接着剤を塗布し、
その上から第2層として請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート剥落防止シートを前記繊維糸ネットがコンクリート面となるように貼り合わせ、
その上から第3層として接着剤を塗布することを特徴とするコンクリート剥落防止工法。
【請求項7】
前記第1層と第3層の接着剤は同一の接着剤であり、前記両接着剤をコンクリート剥落防止シートに含浸させる請求項6に記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項8】
前記第1層と第3層の接着剤がエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリマーセメントからなる群の中から選ばれる接着剤である請求項6又は7に記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項9】
前記第1層と第3層の接着剤が粘度10〜20,000mPa・s、かつ、チクソトロピー指数1〜7である請求項6〜8のいずれか1項に記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項10】
前記第1層、第3層の接着剤をローラーにより塗布する請求項6〜9のいずれか1項に記載のコンクリート剥落防止工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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