説明

コンクリート剥落防止方法

【課題】混合直後から充分な粘度が付与されているためにコテやヘラによる塗布作業性に優れ、かつ、指触乾燥時間が数時間以内である樹脂組成物を用いた、補強材を用いなくてもコンクリート塊の剥落を防止できるコンクリート剥落防止方法、及び、補修必要箇所を容易に発見し補修することができるコンクリー卜補修方法を提供する。
【解決手段】コンクリート表面に対して、樹脂組成物を塗布することによって高強度樹脂膜を形成する工程(1)を含んでいるコンクリート剥落防止方法であって、上記樹脂組成物は、ポリオールと脂肪族性ポリアミンとを含む成分Aと、ポリイソシアネートを含む成分Bとを混合したものであり、上記樹脂組成物の上記混合直後の粘度が15Pa・s以上であり、かつ上記混合から10分経過後の粘度が1000Pa・s以下であり、かつ温度20℃の環境下での指触乾燥時間が1〜4時間であり、上記高強度樹脂膜が、温度20℃、湿度65%の環境下での抗張力10MPa以上、かつ、伸び率30%以上であることを特徴とするコンクリート剥落防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート剥落防止方法及びコンクリートの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは塩害、中性化、アルカリ骨材反応及び凍害等により劣化することが一般に知られている。このような劣化の進行程度によると考えられるコンクリートの強度低下、ひいてはコンクリート塊の剥落等の問題が近年顕在化してきており、特に道路や鉄道の高架等のコンクリート構造物からのコンクリート塊の剥落事故を契機に、その防止対策が図られている。
【0003】
コンクリート塊の剥落肪止方法としては、コンクリート構造物の外壁面に、補強材としてガラスクロスやビニロン三軸メッシュをエポキシ樹脂積層膜の中間に挟み込むライニング工法(例えば、非特許文献1及び2参照)が知られている。しかしながら、これらの方法はコンクリート構造物の形状に合わせガラスクロスやビニロン三軸メッシュ補強材を切断する手間が必要であり、また、コンクリー卜構造物の凹凸や角部分では、その形状に合わせて補強材を曲げてコンクリート表面に充分密着させることが困難になるという施工上の問題点があった。更に、上記補強材を挟み込むための多積層工程が必要となり、工期が長くなり、それに伴う経済上の損失も問題点であった。
【0004】
これらの問題点を解決するために、近年では補強材を用いない工法が開発されている。例えば、超速硬化型のウレタン樹脂あるいはウレア樹脂を特殊な塗布装置を用いスプレー塗布ライニングすることにより、コンクリート表面に高強度樹脂膜を短工期で形成させるというものである。しかしながら、特殊な塗布装置が必要であること、及び、スプレー塗布工法のため塗布時の飛散ダストの完全養生が必要であること等の課題が残っていた。
【0005】
一方、このようなコンクリート構造物の外壁面に、指触乾燥性の高い2液反応硬化型のウレタン樹脂をコテやヘラによって塗布するコンクリート剥落防止方法が検討されている。この樹脂は、充填材の配合量によって、混合直後の樹脂の塗布作業可能な粘性を確保している場合がある。しかしながら、得られた樹脂膜の物性が低下するため、混合直後の塗布作業可能な粘性確保、充分な可使時間の確保、塗布後数時間での指触乾燥性の確保及び剥落防止材料に要求される膜物性の確保という塗布作業性と速硬化性及び膜物性を並立させることは非常に困難であった。
【非特許文献1】里 隆幸、宮下 剛、“コンクリートはく落防止工法”、[online]、2002年10月、大日本塗料、DNTコーティング技報、10−15頁、[平成15年5月28日検索]、インターネット<URL:http://www.dnt.co.jp/japanese/imagepdf/giho2−10.pdf>
【非特許文献2】アルファ工業株式会社、“コンクリート片はく落防止工法 アルファVネットシステム”、[online]、2002年4月15日、[平成15年5月28日検索]、インターネット<URL:http://www.alpha−kogyo.co.jp/methods/alphav.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、混合直後から充分な粘度が付与されているためにコテやヘラによる塗布作業性に優れ、かつ、指触乾燥時間が数時間以内である樹脂組成物を用いた、補強材を用いなくてもコンクリート塊の剥落を防止できるコンクリート剥落防止方法、及び、補修必要箇所を容易に発見し補修することができるコンクリー卜補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、コンクリート表面に対して、樹脂組成物を塗布することによって高強度樹脂膜を形成する工程(1)を含んでいるコンクリート剥落防止方法であって、上記樹脂組成物は、ポリオールと脂肪族性ポリアミンとを含む成分Aと、ポリイソシアネートを含む成分Bとを混合したものであり、上記樹脂組成物の上記混合直後の粘度が15Pa・s以上であり、かつ上記混合から10分経過後の粘度が1000Pa・s以下であり、かつ温度20℃の環境下での指触乾燥時間が1〜4時間であり、上記高強度樹脂膜が、温度20℃、湿度65%の環境下での抗張力10MPa以上、かつ、伸び率30%以上であることを特徴とするコンクリート剥落防止方法である。ここで、例えば、上記成分Aに含まれる上記ポリオールの水酸基当量に対する上記脂肪族性ポリアミンのアミン当量の割合は、5〜20%であることが好ましい。また、上記脂肪族性ポリアミンは、アミン当量が80〜300の分子内に少なくとも2個の脂肪族性アミノ基を有するポリアミンであることが好ましい。
【0008】
また、上記コンクリート表面は、下塗り材、又は、素地調整材及び下塗り材が塗布されていてもよく、上記素地調整材は、樹脂モルタルであってもよい。
更に、本発明のコンクリート剥落防止方法は、上記工程(1)の後に、上塗り塗料を塗布する工程(2)を含んでいてもよい。
また、本発明は、上記のコンクリート剥落防止方法によって形成された高強度樹脂膜又は上塗り塗膜の変位発生部分に対して、コンクリート補修を行うことを特徴とするコンクリート補修方法である。
更に、本発明は、上記のコンクリート剥落防止方法に用いられることを特徴とする樹脂組成物である。
【0009】
本発明のコンクリート剥落防止方法は、混合直後から充分な粘度が付与されているものであり、すぐに使用したとしてもタレの発生が充分に抑制される方法である。このようにタレが抑制される理由は明らかではないが、ポリオールと特定構造のポリアミンとを含む成分Aと、ポリイソシアネートを含む成分Bとを混合した樹脂組成物を用いることによって、比較的反応が緩やかなウレタン反応系中で非常に反応の速いウレア反応が起き、その結果として、構造粘性が発現して樹脂組成物の粘度がすぐに高くなるためであると推察される。
【0010】
本発明は、コンクリート表面に対して、樹脂組成物を塗布することによって高強度樹脂膜を形成する工程(1)を含んでいるコンクリート剥落防止方法である。
本発明のコンクリート剥落防止方法に用いられる高強度樹脂膜は、温度20℃、湿度65%の環境下での抗張力が10MPa以上、かつ、伸び率が30%以上であることを特徴とする。上記抗張力が10MPa未満、又は、上記伸び率が30%未満であると、得られた高強度樹脂膜がコンクリートの劣化に伴う剥離や変位に耐えることができず、容易に破断してしまう。好ましくは上記抗張力が15MPa以上、又は、上記伸び率が45%以上である。上記抗張力及び伸び率は引っ張り試験器によって求めることができる。このような引っ張り試験器としては、例えば、オートグラフAG−100KNE(島津製作所社製)等を挙げることができる。
【0011】
なお、本発明における抗張力、伸び率は、より詳細には以下のようにして測定して得られる値である。樹脂組成物をポリプロピレン板に膜厚が約1mmとなるようにコテにて延伸塗布し、20℃の環境下で7日間養生して物性評価板を作成し、得られた物性評価板をJIS K 6301−3に準じ、2号ダンベル形状に切断して試料を作成する。引っ張り試験器を使用して、温度20℃、湿度65%の環境下で、作成した試料を伸長スピード:100mm/分で引っ張り試験を行うことにより、抗張力(MPa)及び伸び率(%)を測定値を得る。
【0012】
上記高強度樹脂膜を形成するための樹脂組成物としては、ポリオールと脂肪族性ポリアミンとを含む成分Aと、ポリイソシアネートを含む成分Bとを混合したものである。上記ポリオール、上記脂肪族性ポリアミン及びポリイソシアネートは、上記抗張力及び伸び率を満たすものであれば特に限定されない。一般に、抗張力及び伸び率は、互いに密接に関連していると考えられる。通常、抗張力が大きいと伸び率が小さくなり、その樹脂膜は堅くて脆い性質を有する。逆に、伸び率が大きいと抗張力が小さくなり、その樹脂膜は柔らかくて弱い性質になる。上記抗張力と伸び率とは、樹脂組成物の硬化性及び得られる樹脂膜の架橋間分子量等によって調節することができる。すなわち、上記硬化性を高くすると、一般に抗張力が大きくなり、伸び率が小さくなる。一方上記架橋間分子量を大きくすると、一般に伸び率が大きくなり、抗張力が小さくなる。この考えに基づいて、上記樹脂組成物の構成成分の変更を行うことができる。
【0013】
上記成分Aに含まれるこのようなポリオールとしては特に限定されず、例えば、1分子内に2個以上の水酸基を有するものを挙げることができる。上記ポリオールの分子量は、300以上、10000以下であることが好ましい。また、上記ポリオールの水酸基当量は、100以上、5000以下であることが好ましい。上記分子量及び水酸基当量が下限値未満であると得られる樹脂膜の伸び率が低下する恐れがあり、上限値を超えると抗張力が低下する恐れがある。
【0014】
上記ポリオールとして、具体的には、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールを挙げることができる。上記ポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキシルグリコール、1,10−デカンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,1,1−トリメチロールエタン、1,1,1−トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のエポキシドの1種又は2種以上を付加重合して得られるものを挙げることができる。また、上記ポリエステルポリオールとしては、上記多価アルコールと、コハク酸、グルタル酸及びアジピン酸又はそれらのジメチルエステル、セバシン酸、無水フタル酸等のポリカルボン酸とを反応させたものを挙げることができる。また、カプロラクトン等のラクトンである環状エステルをポリオールと一緒に重合させることによって得られるポリエステルも挙げることができる。これらのポリオールは、1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
また、上記成分Aに含まれるこのような脂肪族性ポリアミンとしては特に限定されず、1分子内に脂肪族的に2個以上のアミノ基を有するものを挙げることができる。なお、上記脂肪族性ポリアミンには、分子中に芳香族環を有する脂肪族ポリアミンも含まれる。上記脂肪族性ポリアミンの重量平均分子量は、例えば、160以上、1000以下である。また、上記脂肪族性ポリアミンのアミン当量は、80以上、300以下であることが好ましい。上記アミン当量が上記範囲以外であると、上記樹脂組成物のタレ性や塗布作業性が低下する恐れがある。
【0016】
上記脂肪族性ポリアミンとして、具体的には、少なくとも2個以上の水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールの末端水酸基を、水素化−脱水素化触媒を用いて、高温高圧下にアンモニアと反応させる等の方法によって得られるポリオキシアルキレンポリアミンを挙げることができる。混合直後の粘度の観点から、上記脂肪族性ポリアミンは脂肪族性ジアミンであることが好ましい。このような脂肪族性ジアミンとして市販されているものとしては、例えば、ジェファーミンD−230(サン・テクノケミカル社製、アミン当量約120)、ジェファーミンD−400(サン・テクノケミカル社製、アミン当量約200)等を挙げることができる。
【0017】
上記成分A中に含まれるポリオールと脂肪族性ポリアミンとの組み合わせで好ましいものとしては、具体的には、得られる高強度膜の性能及び樹脂組成物の粘性の観点から、ポリエーテルポリオールと脂肪族性ジアミンとの組み合わせを挙げることができる。これにより、成分Aと成分Bとの混合直後においてより充分な粘性を付与することができる。
【0018】
上記成分Aにおいて、上記成分Aに含まれる上記ポリオールの水酸基当量に対する上記脂肪族性ポリアミンのアミン当量の割合は、5〜20%であることが好ましい。5%未満であると、混合直後の粘度が低くなり、タレが発生しやすくなり、塗布作業性が低下する恐れがある。20%を超えると、混合直後の粘度が高くなり、塗布が困難になったり、塗布作業可能時間が短くなり、塗布作業性が低下する恐れがある。上記割合は、7〜15%であることがより好ましい。
【0019】
上記成分Aは、得られる高強度樹脂膜の性能を低下させない範囲で顔料を含むことができる。
上記顔料としては特に限定されず、具体的には、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタン、マイカ等の無機系顔料、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等の有機系顔料等の着色顔料や、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルク等の体質顔料を挙げることができる。
【0020】
上記B成分に含まれるポリイソシアネートとしては特に限定されず、公知のポリイソシアネート等を挙げることができ、具体的には、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0021】
上記芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、カルボジイミド変性することにより得られる液状ジフェニルメタンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネートの部分プレポリマー、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、粗製トリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート及びこれらのカルボジイミド化変性物、ビュレット化変性物、プレポリマー化変性物等を挙げることができる。なかでも、硬化性の点から、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート若しくはこれらのプレポリマー又は変性品が好ましい。
【0022】
上記脂肪族ポリイソシアネート化合物及び脂環族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、これらのイソシアヌレート化変性物、カルボジイミド化変性物、プレポリマー化変性物等を挙げることができる。
【0023】
上記ポリイソシアネートとして市販されているものとしては、例えば、ミリオネートMLT(日本ポリウレタン工業社製)、ミリオネートMTL−S(日本ポリウレタン工業社製)、コロネートMX(日本ポリウレタン工業社製)等を挙げることができる。
【0024】
上記樹脂組成物は、工期の短縮という観点から、20℃における指触乾燥時間は1〜4時間である。なお、指触乾燥時間は、塗布後の樹脂膜を指触した際に、樹脂膜に指紋が付かなくなる時間をいう。上記指触乾燥時間の測定時の温度は特に限定されず、それぞれの作業時の温度とすることができる。本発明のコンクリート剥落防止方法に用いられる樹脂組成物は、10〜30℃の温度範囲においても上記の指触乾燥時間を有しており、作業時の温度に対してタレ性や塗布作業性の低下は見られない。
【0025】
本発明のコンクリート剥落防止方法は、上記工程(1)を行う前に、上記成分Aと上記成分Bとを混合して上記樹脂組成物を得る。上記混合直後の樹脂組成物の粘度は、15Pa・s以上である。上記混合直後の粘度が15Pa・s未満であると、塗布時のタレ性が低下する。上記混合直後の粘度は18Pa・s以上であることが好ましく、30Pa・s以上であることが更に好ましい。
【0026】
また、上記混合から10分間経過後の樹脂組成物の粘度は、1000Pa・s以下である。上記混合から10分間経過後の粘度が1000Pa・sを超えると、塗布作業性が困難になる。上記混合から10分間経過後の粘度は900Pa・s以下であることが好ましく、500Pa・s以下であることが更に好ましい。なお、本明細書において、混合直後及び混合から10分間経過後とは、各々、上記成分Aと上記成分Bとを、卓上ディスパーで1500rpmの条件で1分間の混合撹拌終了後から1分後及び11分後と定義する。
【0027】
上記粘度の測定方法としては特に限定されず、コーンプレート型回転式粘度計等、当業者によってよく知られている粘度計を用いる方法を挙げることができる。
なお、本発明における樹脂組成物の粘度は、より詳細には、樹脂組成物の混合撹拌1分後、11分後の粘度をコーンプレート型回転式粘度計を使用して、25℃、3度コーン、回転速度0.5rpm、25℃の測定条件で測定して得られる値である。
【0028】
上記成分Aと上記成分Bの配合比は、水酸基当量/イソシアネート当量=1/1〜1/1.5であることが好ましい。配合比が上記範囲内であることにより、優れた物性を有する樹脂膜を得ることができる。1/1.1〜1/1.3であることがより好ましい。
【0029】
本発明のコンクリート剥落防止方法は、コンクリート表面に対して、上記樹脂組成物を塗布して上記高強度樹脂膜を形成する工程(1)を含んでいるものである。上記コンクリートとしては特に限定されず、例えば、水、セメント、細骨材及び粗骨材を混練したものを打設して硬化させた、当業者によってよく知られているものを挙げることができる。本発明のコンクリート剥落防止方法は、剥落が発生することにより、事故が生じる恐れが高いと考えられる道路や線路の高架部分、建築物の外壁面上部等の上記コンクリート部分に適用されることが好ましい。
上記塗布方法としては、ヘラやコテによる延伸塗布等を挙げることができる。
【0030】
上記塗布における樹脂膜の膜厚又は塗布量は特に限定されず、塗布される部分によって適宜設定することができる。なお、本発明の効果を充分に発揮させるためには、上記樹脂膜厚は、0.75〜2mmと設定することが好ましい。
上記塗布後の上記樹脂組成物の充分な膜特性が得られるまでの硬化時間としては、通常、16時間以上であり、例えば、温度20℃環境下では、16時間である。
【0031】
本発明のコンクリート剥落防止方法において、上記コンクリート表面は下塗り材が塗布されているものであることが好ましい。上記コンクリート表面に下塗り材を塗布することによって、上記コンクリート表面と上記高強度樹脂膜との付着性を向上することができる。上記下塗り材としては上記コンクリート表面との付着性に優れたものを挙げることができ、市販されているものとしては、タフガードR−Mプライマー(日本ペイント社製湿気硬化型ウレタン樹脂系プライマー)、タフガードR−Wプライマー(日本ペイント社製水性エポキシ樹脂系プライマー)等を挙げることができる。
【0032】
上記下塗り材の塗布方法としては特に限定されず、例えば、ハケ、ローラー、スプレー塗布等を挙げることができる。また、上記塗布における下塗り材の膜厚又は塗布量、及び、乾燥時間としては、特に限定されず、上記下塗り材の種類等によって適宜設定することができる。例えば、タフガードR−Mプライマーを用いた場合は、ローラー塗布にて、塗布量0.15kg/m、20℃における乾燥時間30分とすることができる。
【0033】
また、本発明のコンクリート剥落防止方法において、上記コンクリート表面は素地調整材及び下塗り材が塗布されていたものであってもよい。上記コンクリート表面に上記素地調整材及び下塗り材とを塗布することによって、上記コンクリート表面の凹凸を調整して、上記コンクリート表面と上記高強度樹脂膜との付着性を更に向上させることができる。また、コンクリート表面に対して素地調整材を塗布することにより、ピーリング強度を向上させることができる。上記素地調整材としては上記コンクリート表面及び下塗り材との付着性に優れたものを挙げることができ、具体的には、セメント、骨材及び樹脂等を含んだ樹脂モルタル等を挙げることができる。このような素地調整材として市販されているものとしては、タフガードE−Wフィラー(日本ペイント社製エポキシ樹脂系ポリマーセメントモルタル素地調整材)等を挙げることができる。
【0034】
上記素地調整材の塗布方法としては特に限定されず、例えば、上記樹脂組成物の塗布方法と同様の方法を挙げることができる。また、上記塗布における素地調整材の膜厚又は塗布量、及び、乾燥時間としては、特に限定されず、上記素地調整材の種類等によって適宜設定することができる。例えば、タフガードE−Wフィラーを用いた場合は、コテによる延伸塗布にて、塗布量1.0kg/m、20℃における乾燥時間18時間とすることができる。
【0035】
上記下塗り材の塗布方法、膜厚又は塗布量、及び、乾燥時間としては、特に限定されず、上述の下塗り材で述べたものを挙げることができる。
このようにして、コンクリート表面に対して、上記高強度樹脂膜を形成することによってコンクリートの剥落を防止することができる。
【0036】
更に、本発明のコンクリート剥落防止方法は、上記工程(1)の後に、上塗り塗料を塗布して上塗り塗膜を形成する工程(2)を含むことができる。上記上塗り塗料を塗布することによって、紫外線劣化を防止したり景観を向上させたりすることができる。上記上塗り塗料としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料及びフッ素樹脂系塗料等、当業者によってよく知られているものを挙げることができる。これらのうち、コンクリートのひずみ等に追従できるように、柔軟形と呼ばれる弾性を有するものを用いることが好ましい。このような上塗り塗料で市販されているものとしては、例えば、タフガードUD上塗り(ウレタン樹脂系上塗り塗料、日本ペイント社製)等を挙げることができる。
【0037】
上記上塗り塗料の塗布方法としては特に限定されず、例えば、上記下塗り材の塗布方法と同様の方法を挙げることができる。また、上記塗布における上塗り塗料の膜厚又は塗布量、及び、乾燥時間としては、特に限定されず、上記上塗り塗料の種類等によって適宜設定することができる。例えば、タフガードUD上塗りを用いた場合は、ローラー塗布にて、塗布量0.12kg/m、20℃における乾燥時間18時間とすることができる。
【0038】
本発明のコンクリート補修方法は、上記コンクリート剥落防止方法によって形成された高強度樹脂膜又はその上に更に形成された上塗り塗膜の変位発生部分に対して、コンクリート補修を行うことを特徴とするものである。
【0039】
上記変位の発生は、上記高強度樹脂膜又は上塗り塗膜表面を目視により点検することによって確認されるものである。ここで、変位とは塗膜面に対する鉛直方向への変化量をいうものであり、例えば、変化量が10mmであれば、変位が10mm発生していると判断される。変位の発生部分に対して行われる上記コンクリート補修は、上記樹脂膜又は上記上塗り塗膜に変位が確認された部分の樹脂膜又は塗膜を切除した後、修復モルタルによる補修等、当業者によってよく知られた方法によって補修する。
【0040】
なお、上記補修は上記変位が30mm以下で行うことが好ましい。30mmを超えるとコンクリートの劣化が進行し過ぎてしまい、補修による補強が困難になる恐れがある。
【0041】
上記コンクリート補修方法によって補修されたコンクリートは、その表面に対して、必要な処理を行った後、再度、上記のコンクリート剥落防止方法を行っておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明のコンクリート剥落防止方法は、ポリオールと特定構造のポリアミンとを含む成分Aと、ポリイソシアネートを含む成分Bとを混合した樹脂組成物を用いて、特定の膜物性値を有する高強度樹脂膜をコンクリート表面に対して形成する方法であるので、混合初期から粘度が高く、すぐに使用してもタレの発生がない。これは、比較的反応が緩やかなウレタン反応系中で非常に反応の速いウレア反応が起きるため構造粘性が発生し、樹脂組成物の粘度がすぐに高くなるためであると考えられる。
【0043】
また、本発明のコンクリート剥落防止方法で用いられる樹脂組成物は、硬化反応が早く、従来のガラスクロスや三軸メッシュを用いた方法よりも簡便で、かつ、短工期の施工を行うことができる。
更に、本発明のコンクリート補修方法は、上記コンクリート剥落防止方法によって形成された高強度樹脂膜又はその上に塗布して得られた上塗り塗膜の変位発生部分に対して、コンクリート補修を行うものであるので、点検作業及び補修作業を簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下において「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0045】
製造例1 成分A−1の製造
ミゼロンB−500グレー塗料液(三井金属塗料化学社製、水酸基当量が625g/eqかつ平均官能基数が2.7のポリオール成分54部、二酸化チタン、二酸化珪素、マイカ及びカーボンブラックからなる顔料40部、及び、添加剤3部からなる塗料液、固形分100%)97部にジェファーミンD−230(サン・テクノケミカル社製脂肪族ジアミン、アミン当量が126g/eqかつ平均官能基数が2.0、有効成分100%)1部を混合し、充分撹拌して成分A−1を得た。
【0046】
製造例2 成分A−2〜成分A−3の製造
表1の配合に従い、ミゼロンB−500グレー塗料液とジェファーミンD−230を混合したこと以外は、製造例1と同様にして、成分A−2〜成分A−3を得た。
【0047】
製造例3 成分A−4の製造
表1の配合に従い、ミゼロンB−500グレー塗料液とジェファーミンD−230、及び、二酸化チタンを混合したこと以外は、製造例1と同様にして、成分A−4を得た。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1
製造例1で得られた成分A−1を98部とミゼロンA−5000硬化剤(三井金属塗料化学社製ポリイソシアナート、イソシアナート基当量が135、官能基数が2.7及び固形分100%)33部を卓上ディスパーにて1500ppmの条件で1分間混合撹拌することによって樹脂組成物1を得た。この樹脂組成物1をスレート板にヘラにて延伸塗布した後、20℃における指触乾燥時間を測定したところ、2時間であった。
【0050】
得られた樹脂組成物1をポリプロピレン板に膜厚が約1mmとなるようにコテにて延伸塗布し、20℃の環境下で7日間養生して物性評価板を作成した。
また、得られた樹脂組成物1を以下の要領で作成した基材試験体1及びU形ふた試験体に、塗布量1.4kg/mでコテにて塗布し、3時間養生した。更に、タフガードUD上塗り(日本ペイント社製ウレタン樹脂系上塗り塗料)を塗布量0.12kg/mでハケにて塗布し、20℃環境下で7日間養生して、評価試験体1及び評価U形ふたを作成した。
【0051】
[試験体作成要領]
基材としてモルタル基材1、2(JISモルタル、70×150×20mm)及びJIS A 5334に規定するU形ふたの表面(平滑面)をディスクサンダーで研磨した。上記JISモルタルとU形ふたを20℃の水中に24時間浸漬した後、水中から取り出し、表面の水分をウエスで除去した。
得られた基材1、基材2及びU形ふたの表面に対して、タフガードE−Wフィラー(日本ペイント社製セメントモルタル含有エポキシ樹脂系素地調整材)を塗布量1.0kg/mでコテにて延伸塗布し、20℃環境下で16時間養生した。
更に、タフガードR−Mプライマー(日本ペイント社製湿気硬化型ウレタン樹脂系プライマー)を塗布量0.15kg/mでハケにて塗布し、20℃環境下で2時間養生して基材試験体1、2及びU形ふた試験体を得た。
【0052】
実施例2及び比較例1、2
表2の配合に従って、製造例2〜4で得られた成分A−2〜4とミゼロンA−5000硬化剤とを混合したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物2〜4を得た後、更に物性評価板、評価試験体1及び評価U形ふたを作成した。なお、指触乾燥時間はいずれも2時間であった。
【0053】
なお、実施例2に関しては、更に、モルタル基材1に代えて、モルタル基材2(モルタル基材1の短辺側の片端部50mmをマスキングテープにてマスクしたもの)を用いて実施例1の試験体作成要領と同様にして得られた基材試験体2に対しても、実施例1の評価試験体1の作成方法と同様の方法で樹脂組成物2を塗布して、評価試験体2を作成した。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例3
試験体の作成において、タフガードR−Mプライマーの代わりにタフガードR−Wプライマー(日本ペイント社製水性エポキシ樹脂系プライマー)を塗布量0.04kg/mでハケ塗りしたこと以外は実施例2と同様にして、評価試験体1、評価試験体2及び評価U形ふたを作成した。
【0056】
実施例4
試験体の作成において、タフガードE−Wフィラーを塗布しなかったこと以外は実施例2と同様にして、評価試験体1、評価試験体2及び評価U形ふたを作成した。
【0057】
実施例5
試験体の作成において、タフガードR−Mプライマーに代えてタフガードR−Wプライマーを使用した以外は実施例4と同様にして、評価試験体1、評価試験体2及び評価U形ふたを作成した。
【0058】
評価試験
得られた樹脂組成物1〜4及び各物性評価板、評価基材1、評価基材2及び評価U形ふたについて、以下の評価試験を行った。得られた評価結果は表3に示した。
【0059】
(1)粘度
得られた樹脂組成物1〜4について、混合撹拌終了後から1分後、及び、11分後の粘度をEH型粘度計(トキメック社製コーンプレート型回転式粘度計、測定条件は3度コーン、回転速度0.5rpm、25℃)にて測定した。
【0060】
(2)塗布作業性
(a)タレ性
得られた樹脂組成物1〜4について、垂直に立てたJISモルタルに対して厚さが5mmになるように10×100mmの面積を塗布し各樹脂組成物のタレの発生の有無を評価した。
(b)塗布作業可能時間
得られた樹脂組成物1〜4について、スレート板に対してヘラにて延伸塗布を行い、延伸作業が困難になるまでの時間を測定した。
【0061】
(3)樹脂膜物性
実施例1、2及び比較例1、2で得られた各物性評価板をJIS K 6301−3に準じ、2号ダンベル形状に切断して試料を作成した後、20℃、湿度65%の環境下において、テンシロンUTM−10T(東洋ボールドウィン社製引っ張り試験器、伸長スピード:100mm/分)にて引っ張り試験を実施し、抗張力(MPa)及び伸び率(%)を測定した。
【0062】
(4)接着性
(a)接着力
実施例2及び3〜5で得られた各評価試験体1に対して、20℃、湿度65%の環境下において、JIS A 6916 5.6項に準じて、建研式接着力試験器で接着力(MPa)を測定した。
(b)ピーリング強度
実施例2及び3〜5で得られた各評価試験体2に対して、20℃、湿度65%の環境下において、テンシロンUTM−10T(伸長スピード:100mm/分)にて90度ピーリング強度(kg/mm)を測定した。
【0063】
(5)押抜き試験評価
実施例1〜5及び比較例1、2で得られた各評価U形ふたを日本道路公団試験研究所規格「連続繊維シート接着の押抜き試験方法」に準じて、荷重−変位測定及び剥離範囲を測定した。
【0064】
【表3】

【0065】
表3の結果から明らかなように、本発明のコンクリート剥落防止方法は、混合直後の粘度が高く、すぐに塗布してもタレの発生がなく、指触乾燥時間も短く、かつ、得られた膜物性も良好であり、基材との接着性にも優れている(実施例1〜5)。また、基材表面に素地調整材を塗布した場合はピーリング性が高くなり、押し抜き試験による剥離形状も円形になることがわかった(実施例4及び5)。また、硬化時間も短かった。しかしながら、混合直後の粘度が低いと混合直後すぐに塗布するとタレが発生したり(比較例1)、膜物性が不充分であると、得られた樹脂膜は日本道路公団試験研究所規格に不合格となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のコンクリート剥落防止方法は、道路や線路の高架等の構造物等のコンクリート構造物に対して有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面に対して、樹脂組成物を塗布することによって高強度樹脂膜を形成する工程(1)を含んでいるコンクリート剥落防止方法であって、
前記樹脂組成物は、ポリオールと脂肪族性ポリアミンとを含む成分Aと、ポリイソシアネートを含む成分Bとを混合したものであり、
前記樹脂組成物の前記混合直後の粘度が15Pa・s以上であり、かつ前記混合から10分経過後の粘度が1000Pa・s以下であり、かつ温度20℃の環境下での指触乾燥時間が1〜4時間であり、
前記高強度樹脂膜が、温度20℃、湿度65%の環境下での抗張力10MPa以上、かつ、伸び率30%以上である
ことを特徴とするコンクリート剥落防止方法。
【請求項2】
前記成分Aに含まれる前記ポリオールの水酸基当量に対する前記脂肪族性ポリアミンのアミン当量の割合は、5〜20%である請求項1記載のコンクリート剥落防止方法。
【請求項3】
前記脂肪族性ポリアミンは、アミン当量が80〜300の分子内に少なくとも2個の脂肪族性アミノ基を有するポリアミンである請求項1又は2記載のコンクリート剥落防止方法。
【請求項4】
前記コンクリート表面は、下塗り材が塗布されている請求項1、2又は3記載のコンクリート剥落防止方法。
【請求項5】
前記コンクリート表面は、素地調整材及び下塗り材が塗布されている請求項1、2又は3記載のコンクリート剥落防止方法。
【請求項6】
前記素地調整材は、樹脂モルタルである請求項5記載のコンクリート剥落防止方法。
【請求項7】
前記工程(1)の後に、上塗り塗料を塗布する工程(2)を含んでいる請求項1、2、3、4、5又は6記載のコンクリート剥落防止方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のコンクリート剥落防止方法によって形成された高強度樹脂膜又は上塗り塗膜の変位発生部分に対して、コンクリート補修を行うことを特徴とするコンクリート補修方法。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のコンクリート剥落防止方法に用いられることを特徴とする樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−1812(P2006−1812A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181363(P2004−181363)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000174932)日本ペイント防食コーティングス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】