説明

コンクリート剥落防止用ネット、及び該ネットを用いたコンクリート剥落防止方法

【課題】軽量性、作業性、段差部や湧水部での施工性、及び価格等に問題が解決できるコンクリート剥落防止用ネットを提供すること。
【解決手段】未硬化状複合線状物を編網後に硬化した、目合い30〜150mmの角目状の無結節網からなるFRPネット本体と、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)前記芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維を複数本集束し、それらの鞘成分同士を融合させた海島型複合糸を織網してなる目合いが1〜30mmの二軸メッシュ状物とを備え、前記二軸メッシュ状物を前記FRPネット本体のコンクリート構造物側となる面に固着させてなる、ことを特徴とするコンクリート剥落防止用ネットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などのコンクリート構造物からのコンクリート片剥落を防止するためのネット、及びそれを用いたコンクリート構造物のコンクリート剥落防止方法に関するものである。
【0002】
近年、海岸又はその付近にある鉄筋コンクリート構造物が海塩粒子によって塩害を受けたり、海水と接触する鉄筋コンクリート構造物に塩分が侵入したりすることによる鉄筋の腐食、膨張によりそれらの構造物が劣化することや、酸性雨や工場の薬品等コンクリートに有害な物質により表層が脆弱化することなどによるコンクリートの劣化、あるいは、車両通行量の増大、積載量の増大、高速化等による構造物への過負荷などから、コンクリート構造物の表面部分が剥落したり、コンクリート構造物自体が劣化してきていることが大きな問題となっている。
【0003】
その劣化したコンクリートの剥落を防止する工法や、剥落した部分を補修する各種工法やその材料等が種々検討されている。その中で、予め表面層となる保護層とコンクリート構造物への貼着層とを有する積層体とし、これらの層間に繊維基材からなる補強層を介在させた補修又は補強用シートにおいて、繊維基材として、有機繊維や無機繊維等を不織布、織布加工したシート状物を用いたものが、施工の容易化、品質の安定化を図られるとして提案されている。(特許文献1参照)
また、コンクリート塊が剥離して落下するのを防ぐネットとして、金属板の枠体に金網を挟持した剥落防止ネットが提案されている(特許文献2参照)。
さらに、合成繊維網の周囲にロープを挿通し縫製した網体を、支持金具に挿通した連結ワイヤーに、ロープを介して結束して張設する工法(特許文献3参照)が提案されている。
【0004】
さらに、上記問題に鑑み、軽量で鉄筋同様の補強硬化があり腐食も少ないFRP格子筋をアンカーボルト、接着樹脂等でコンクリート構造物に取付ける方法も提案されており、さらにその改良された取付け方法が提案されている(特許文献4)。
【0005】
一方、本出願人は、各種土木工事において内部に石塊等を中詰めして用いる、ふとん篭、じゃ篭等の篭マットのメッシュ体として、未硬化状熱硬化性樹脂が含浸された長繊維の外周を、固化した熱可塑性樹脂によって被覆した、長尺状の繊維強化合成樹脂製線状物の中間体(未硬化状物)を用いて、任意の目合いを有するメッシュ体を作成し、このメッシュ体を加熱硬化させたものを提案している(特許文献5参照)。このメッシュ体によれば、従来の金属線による欠点を克服できる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−256707号公報
【特許文献2】実用新案登録第3068973号公報
【特許文献3】特開2005−179938号公報
【特許文献4】特開2006−9266号公報
【特許文献5】特開2003−184048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の補修方法は、下地ケレン、プライマー処理、不陸修正、強化繊維シートの含浸接着と多くの工程がかかり、工事費が嵩む等の問題点がある。また、樹脂(接着剤)を用いるため、特に補修箇所に湧き水がある場合や、トンネルの繋ぎ目のように大きな段差がある場合には、応用できない。さらに、コンクリート表面全面を覆って貼り付けるために、施工後のひび割れ状況の確認が難しく、また、補修後にコンクリート隙間等の水分が外部に抜けずに溜まってしまい、コンクリートの耐久性の点でも問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の剥落防止ネットは、金属製であり錆びの発生の問題があること、四角平面状であるため、曲面を有するコンクリート構造物には使用し難いこと、金属枠ユニットであるため、固定に際して、取付け孔と固定部位との自由度が少ないことなどの問題がある。
さらに、特許文献3の張設工法は、道路高架橋下面のコンクリート片剥落物の防止を対象とするものであって、トンネル上面や壁面などには適用できない。
また、この特許文献4に記載のFRP格子筋は、補強筋が互いに30〜150mm離間して格子状に配置され、幅が3〜10mm、厚さが1〜5mmで、面状の剛性を有する比較的剛直なものであるため、トンネルのつなぎ目など段差のある部分に張設するには適していない。また、重量も比較的重く、高価であり、作業性に課題が残る。
【0009】
一方、特許文献5に記載のメッシュ体は、繊維強化合成樹脂製線状物の中間体が未硬化状態であるため、熱加工時等に液ダレ等が起こり、熱硬化後の熱硬化性樹脂の物性が制御できずに物性が変動しやすく、また半硬化状態となることで長期間にわたっての所望の物性を維持できずに中間体(未硬化状物)の保存安定性に欠けるという問題があった。
【0010】
以上述べたように、従来のコンクリート構造物の剥落防止用ネットにおいては、軽量性、作業性、段差部や湧水部での施工性、及び価格等に問題がある。
また、軽量性や耐腐食性、取扱い及び作業の優位性から篭マット等に使用されているFRPのネット体を応用しようとしても、未硬化線状物の液だれや保存安定性に問題があり、抗張力物性が変動する等の問題があった。
【0011】
そこで、本発明では、上記の問題が解決できるコンクリート剥落防止用ネットを提供することを目的として鋭意検討した結果、未硬化状複合線状物を編網後に硬化した、目合い(升目ともいう。)30〜150mmの角目状の無結節網からなるFRPネット本体と、海島型複合糸を織網してなる目合いが1〜30mmの二軸メッシュ状物とを固着させてなるコンクリート剥落防止用ネットとすることで、上記課題を解決できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)コンクリート構造物の剥落を防止するためのコンクリート剥落防止用ネットであって、該ネットは、(i)未硬化状熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維の外周を熱可塑性樹脂で被覆してなる未硬化状複合線状物を編網後に硬化した、目合い30〜150mmの角目状の無結節網からなるFRPネット本体と、(ii)(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)前記芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維を複数本集束し、前記鞘成分同士を融合させた海島型複合糸を織網してなる目合いが1〜30mmの二軸メッシュ状物とを備え、(iii)前記二軸メッシュ状物を前記FRPネット本体のコンクリート構造物側となる面に固着させてなる、ことを特徴とするコンクリート剥落防止用ネット、
(2)前記長繊維の外周を被覆する熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である未硬化状複合線状物を子糸として、2子の網糸の子糸を互いに交叉させ、網糸が連接部を貫通して直線的に伸びる貫通型(普通型)無結節状に編網して硬化してなるFRPネット本体と、前記二軸メッシュ状物とが、少なくともFRPネット本体の連接部との接触部において熱融着してなる、前記(1)に記載のコンクリート剥落防止用ネット、
(3)前記未硬化状複合線状物の未硬化状熱硬化性樹脂に、さらに、アクリル酸エステル系化合物、メタクリル酸エステル系化合物、及びビニル化合物から選ばれる少なくともいずれかを重合単位とする樹脂からなる増粘剤(A)と、アクリル酸エステル系化合物、メタクリル酸エステル系化合物、及びビニル化合物の少なくともいずれかから選ばれる重合単位とする樹脂からなる浸透増粘剤(B)とを配合してなり、かつ、前記増粘剤(A)の配合量が前記未硬化状熱硬化性樹脂と前記浸透増粘剤(B)5〜50質量部との合計量100質量部に対して、0.5〜50質量部である前記(1)又は(2)に記載のコンクリート剥落防止用ネット、
(4)前記二軸メッシュ状物の経糸、緯糸の交点を熱融着してなる前記(1)〜(3)のいずれか1に記載のコンクリート剥落防止用ネット、
(5)前記FRPネット本体を構成する硬化した複合線状物の破断荷重(引張耐力)が400N以上である前記(1)〜(4)のいずれか1に記載のコンクリート剥落防止用ネット、及び
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1に記載のコンクリート剥落防止用ネットを、コンクリート構造物に固定することを特徴とするコンクリート剥落防止方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコンクリート剥落防止用ネットは、未硬化状複合線状物を編網後に硬化した、無結節網からなるFRPネット本体とし、該FRP本体に所定の目合いの二軸メッシュ状物を固着させているので、コンクリート剥落防止用ネットとして、柔軟性を有し、且つ充分な抗張力を有しているので、トンネルの繋ぎ目などの段差がある部分に使用できる。また、湧水のある部分に用いても所定の目合いの二軸メッシュ状物であるため透水性があり、且つFRPを芯成分とする複合線状物は、熱可塑性樹脂被覆を有し、二軸メッシュ状物はポリオレフィン系海島型複合糸なので、水による加水分解や強度低下がなく、二軸メッシュ状物の目合いを適宜選択すれば、細かいコンクリート剥落片をも捕捉できる、低価格のコンクリート剥落防止用ネットとして有効に使用できる。
また、薄いFRPを多数積層してFRPの格子状物を製造する場合と比較して、未硬化状の未硬化状複合線状物を通常の編網機を用いてネット化できるので、コストダウンを図ることができる。また、本発明に使用する二軸メッシュ状物は、高強度で特殊構造のポリオレフィン系海島型複合糸を二軸メッシュ状に構成し、二軸の交点を熱融着により目止めすれば、軽量で、高強度の二軸メッシュ状物を構成でき、この二軸メッシュ状物をFRPネット本体と熱融着すれば、コンクリート剥落片の落下防止の機能を有効に発現できる。
また、未硬化状複合線状物の未硬化状熱硬化性樹脂に、特定の増粘剤と、浸透増粘剤とを配合すれば、未硬化状複合線状物の液ダレを防止することができ、物性変動のすくない、安定した物性のFRPネット本体を製造することができる。
本発明のコンクリート剥落防止方法によれば、前記の本発明のコンクリート剥落防止用ネットは適宜の固定手段でコンクリート構造物に固定できるので、段差や湧水を有する部位にも使用でき、安価にして有効なコンクリート剥落防止方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
本発明のコンクリート剥落防止用ネットは、未硬化状熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維の外周を熱可塑性樹脂で被覆してなる未硬化状複合線状物を編網後に硬化した、所定の角目状の無結節網からなるFRPネット本体と、ポリオレフィン系樹脂からなる鞘芯型複合繊維を複数本集束し、その鞘成分同士を融合させた海島型複合糸を織網してなる二軸メッシュ状物とを備え、さらに前記二軸メッシュ状物を前記FRPネット本体のコンクリート構造物側となる面に固着させてなることを特徴とする。
また、未硬化状複合線状物の未硬化状熱硬化性樹脂に、さらに、所定の増粘剤と浸透増粘剤とを所定量含有させれば、液ダレ防止の点でさらに好ましい。
図1は、本発明のコンクリート剥落防止用ネットの概要を示す図であり、コンクリート剥落防止用ネット1は、FRPネット本体2と二軸メッシュ状物3とから構成される。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0016】
〔FRPネット本体〕
図2は、本発明に係るFRPネット本体2を構成する硬化後の複合線状物(以下、単に「複合線状物」という。)の断面模式図である。図2の符号20は、繊維強化合成樹脂から成る複合線状物を示している。該複合線状物20は、長繊維21と、必要に応じて配合する増粘剤と浸透増粘割とを含む場合がある未硬化状熱硬化性樹脂22'と、固化された熱可塑性樹脂23と、からなる未硬化状複合線状物20'を、熱硬化処理したものである。長繊維21には、未硬化状熱硬化性樹脂22'が含浸されており、その外周を熱可塑性樹脂23で被覆されている。
FRPネット本体2は、例えば、未硬化状熱硬化性樹脂22'に増粘剤と浸透増粘剤とを含有させる工程と、長繊維21を未硬化状熱硬化性樹脂22'に含浸させる工程と、この含浸された長繊維21の外周を熱可塑性樹脂23によって被覆して未硬化状複合線状物20'とし、これをボビン等に巻取る工程と、巻取られた未硬化状複合線状物20'を用いて無結節網を編網し、未硬化状複合線状物20'の未硬化状熱硬化性樹脂を熱硬化処理する工程と、を少なくとも経て、複合線状物20とすることで、所定形状、物性を備えたFRPネット本体2とすることができる。
複合線状物20の外径は、1.5〜5mmであることが好ましく、1.8〜2.5mmであることがさらに好ましい。1.5mm未満では、コンクリート剥落防止用ネットとしての十分な抗張力が得られず、5mmを超えると、編網がし難くなり、得られるFRPネット本体2も柔軟性に欠け、かつ重量も増して、施工性の問題が生じる。
また、前記FRPネット本体2を構成する複合線状物20の破断荷重(引張耐力)が、400N以上であることがコンクリート剥落防止用ネットとしての性能上好ましく、500N以上であることが更に好ましく、600N以上であることが特に好ましい。
【0017】
増粘剤や浸透増粘剤を含有させないまま上記工程を行ってしまうと、未硬化状複合線状20'を熱処理する際に、液状である未硬化状熱硬化性樹脂22'が染み出す場合があるので、この未硬化状熱硬化性樹脂22'に増粘剤や浸透増粘剤を含有させることで適度に増粘させることができ、端部からの液ダレを防止することができる。
【0018】
増粘剤に用いるアクリル酸エステル系化合物とは、アクリル酸エステル構造を有する化合物とその誘導体をいい、例えば、メチルアタリレート、エチルアグリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレ−ト、sec−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−へキシルアクリレート、シクロへキシルメタアクリレート等が挙げられる。
【0019】
増粘剤に用いるメタクリル酸エステル化合物とは、メタクリル酸エステル構造を有する化合物とその誘導体をいい、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−へキシルメタクリレート、シクロへキシルメタクリレート等が挙げられる。
【0020】
増粘剤に用いるビニル化合物とは、重合可能なビニル構造を有する化合物をいい、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン及びこれらの芳香環にアルキル基やハロゲン原子等の種々の官能基で置換された化合物が挙げられる。
【0021】
また、増粘剤は、メタクリル酸エステル系化合物、アクリル酸エステル系化合物、ビニル系化合物の1種類あるいは複数種類の重合単位からなる重合体であってもよく、構造の異なる複数種類の樹脂を混合した樹脂であってもよい。更に、(1)アクリル酸エステル系化合物またはメタクリル酸エステル系化合物またはジエン系化合物の少なくともいずれかからなる重合体と、(2)アクリル酸エステル系化合物またはメタクリル酸エステル系化合物とラジカル重合性不飽和カルボン酸とからなる重合体と、に、(3)金属イオンを添加することでイオン架橋させた複合樹脂であってもよい。
【0022】
そして、増粘剤は粉末樹脂として用いることができる。増粘剤として用いる樹脂粉末の粒径等については特に限定されないが、好適には、0.5μm〜2.0μmであることが望ましい。
【0023】
本発明のFRPネット本体に係る複合線状物20において、未硬化状複合線状物20'が加熱処理される際には、未硬化状熱硬化性樹脂22'は高粘度であるとともに、ゲル化しないことが望ましい。未硬化状硬化性樹脂22'がゲル化してしまうことで、時間が経過するにつれて物性が変化しやすくなる。
【0024】
浸透増粘剤の種類については、特に限定されないが、好適にはメタクリル酸ベンジルを用いることが望ましい。未硬化状熱硬化性樹脂22'は、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂が用いられる。この熱硬化性樹脂への増粘剤の浸透効果を高めるために、浸透増粘剤を配合する。特に、メタクリル酸ベンジルは、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂への浸透効果が高い点で好適である。
【0025】
浸透増粘剤を添加することで、増粘剤を未硬化状熱硬化性樹脂22'によく浸透させるとともに、均一に混合させることができる。即ち、増粘剤の分散不良による過剰な増粘を抑制することができ、所望の増粘速度とすることができ液ダレ現象を防止することができる。
このように、増粘剤だけでなく浸透増粘剤も用いることで、液ダレ現象が起こらず実用に適した未硬化状複合線状物20'とすることができる。
【0026】
増粘剤と浸透増粘剤の配合量については特に限定されないが、好適には、以下の配合量とすることが望ましい。未硬化状熱硬化性樹脂と浸透増粘剤5〜50質量部との合計量100質量部に対して、増粘剤を0.5〜50質量部含有させることが望ましい。これにより、液ダレ量の抑制効果をより向上させることができる。
【0027】
浸透増粘剤の添加量が多すぎると樹脂の増粘速度が早くなりすぎることや、例えば、長繊維内等に含有されるバインダー成分が浸透増粘剤の影響により含浸樹脂中に溶出し、増粘性を過剰に促進させてしまう場合がある。この場合には、本発明の範囲内においては、浸透増粘剤の添加量をより少なくしたり、増粘剤の添加量を少なくすることで、増粘速度を調節することもできる。
【0028】
本発明において用いられる補強繊維としての長繊維21の種類については、特に限定されず、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維等の合成樹脂繊維、ガラス繊維等の無機繊維、金属繊維等を用いることができるが、好適には、合成樹脂繊維であることが望ましく、より好適には、ポリエステル長繊維であることが望ましい。
【0029】
また、長繊維21の繊度についても特に限定されず、使用目的や加工容易性等を考慮して、適宜選択することができる。また、繊維の体積含有率も特に限定されないが、概ね30〜70vol.%である。なお、補強繊維としての長繊維の体積含有率は、ネットの使用目的(剥落防止用ネットの使用部位)による所望の物性を考慮して、適宜選択することができる。
【0030】
本発明において用いられる未硬化状熱硬化性樹脂22'については、加熱により硬化するものであればよく、その種類は特に限定されないが、好適には、硬化後の性能安定性に優れた不飽和ポリエステル樹脂、不飽和アルキド樹脂、エポキシ樹脂等が望ましく、より好適には架橋性物質を含有することが望ましく、更に好適には、不飽和ポリエステル樹脂、不飽和アルキド樹脂、またはエポキシアタリレートの少なくともいずれかと、架橋性モノマー等の架橋性物質と、ジアシルパーオキサイド等の重合開始剤と、を含有することが望ましい。かかる配合とすることで、熱加工処理時の熱等によって重合反応を促進させることができる。
【0031】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂23の種類については、特に限定されないが、柔軟性に優れた物質であることが望ましく、好適には、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。また、未硬化状熱硬化性樹脂22'に架橋性物質を含有させている場合には、架橋性物質等によって侵食されにくい性質を持つものが望ましい。更に好適には、磨耗しにくい物質を用いることで耐久性を向上させることができる。また、本発明において、長繊維21、未硬化状熱可塑性樹脂22'、熱可塑性樹脂23との組合せについても特に限定されない。
【0032】
図3は、前記複合線状物を用いたFRPネット本体2を示す。同図に示すFRPネット本体2は、連接部24に結び目のない無結節網である。未硬化状複合線状物20'からなる網糸を2子糸として、無結節網を編網すれば、網目が正確で、連接部24が平面的であり、コンクリート剥落防止用ネットとして、コンクリート構造体の表面に取付けても平面的で見栄えがよい。
無結節網には、2子の網糸の子糸を互いに交叉させ、網糸が連接部を貫通して直線状に伸びる貫通型(普通型)、2子の網糸の子糸を2〜3回交叉させ、網糸がジグザグに伸びる千鳥型、2子の網糸の子糸を3〜4回交叉させ網糸は連接部を経て直線的に伸び、網目を開いたときの形が六角形になる亀甲型が挙げられるが、特に、軽量で網目が一定であることから、貫通型(普通型)無結節ネットとすることが好ましい。
【0033】
編網機により無結節網を作製した段階では、網目は、菱目状や角目状に開くことが可能であるが、本願に使用するFRPネット本体2は、編網後角目状に開いた状態で真空釜中に供給して、未硬化状熱硬化性樹脂の硬化と角目状ネット形態の熱セット(固定)を行う。
【0034】
本発明に用いるFRPネット本体2の目合いに関し、本発明では、網目を構成する対向する網糸の中心間距離Wを目合いと定義する。FRPネット本体の目合いW(25)は、30〜150mmの大きさであることを要し、目合いは、この範囲において、複合線状物の強度、組み合わせて使用する二軸メッシュ状物3の強度等と勘案して決定されるが、外径2.1mmの複合線状物20を用いる場合は、50mm角目が、FRPネット本体2の柔軟性とのバランス等から特に好ましい。
また、FRPネット本体の幅は、原反とするFRPネットが編網機との関係で決定され、最大4m、FRPネット本体の長さは18m程度なので、それらを上限として、対象となるコンクリート剥落防止箇所の工事方法等に対応して、適宜の幅や長さとして供給することができる。
【0035】
〔二軸メッシュ状物〕
本発明のコンクリート剥落防止用ネットを構成する二軸メッシュ状物3は、図4(A)に示す、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分31と(b)前記芯成分32の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維33の鞘成分を融合させた、図4(B)に示す海島型複合糸30を織網してなるものである。本発明において、二軸メッシュ状物の目合いとは、図5に示すように、隣り合う経糸、又は隣り合う緯糸の中心部間の距離Y(mm)と定義する。係る定義による二軸メッシュ状物の目合いは、1〜30mmであることが好ましく、1〜20mmであることがさらに好ましく、2〜10mmであることが特に好ましい。目合いが1mm未満では、剥落した小片で目詰まりが生じ、透水不良となる危惧があり、30mmを超えると、剥落片を有効に捕捉できない。
なお、本発明に使用される二軸メッシュ状物は、海島型複合糸が扁平であるため、これをボビン等に巻取る過程や、織りの工程で自然撚りが加わり、部分的に捩れた部分が存在することは避けられないが、ほぼ扁平状の経糸及び緯糸からなる平織の二軸メッシュ状物である。
海島型複合糸の繊度は、二軸メッシュ状物への織網のし易さと、メッシュ状物の強度の観点から、1000〜2000dtex、好ましくは1500〜2000dtex、より好ましくは1700〜1900dtexとすることが望ましい。
【0036】
(ポリオレフィン系樹脂)
本発明の二軸メッシュ状物3に使用できるポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィンの2元共重合体、又は3元共重合体等が挙げられる。
【0037】
本発明の二軸メッシュ状物3は、海島型複合糸30を、図5に示すように平織等で織網した目合いが1〜30mmのメッシュ、いわゆる角目状開口部を有している。また海島型複合糸からなる経糸及び緯糸の交点を熱融着したものが、目ずれがなく、好適である。
海島型複合糸30は、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分31と(b)該芯成分31の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分32とからなる鞘芯型複合繊維33を多数本集束し、それらの鞘成分32同士を融合させたものであり、芯成分と鞘成分の好適な組み合わせとしては、例えば、芯成分としてアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分として直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を用いる組み合わせが挙げられる。
かかる、海島型複合糸30は、例えばスピンドロー方式により、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズルを用い、所定の鞘/芯断面比となるように紡糸し、直結する延伸装置に導いて、飽和水蒸気圧下で延伸し、延伸と共に鞘成分で繊維間を融合して得ることができる。また、特開2003−326609号公報に記載の方法により製造することができる。
海島型複合糸の交点34の熱融着は、二軸メッシュ状物の海(鞘)成分32の融点以上に加熱されたローラー押圧などの方法で達成できる。
【0038】
〔二軸メッシュ状物とFRPネット本体との固着〕
本発明のコンクリート剥落防止用ネット1は、図6に1つの目合いを拡大して示すように、二軸メッシュ状物3とFRPネット本体2とが、FRPネット本体2の連接部24の二軸メッシュ状物との接触側において固着されていることを要する。固着する目的は、先ずFRPネット本体2と二軸メッシュ状物3とを一体とすることによって、製造後、保管時、施工時の取扱い性を向上させると同時に、FRPネット本体2の開口部25を覆う二軸メッシュ状物3に万一コンクリートの剥落が生じた場合に、コンクリート剥落片による荷重を、FRPネット本体2を構成する当該負荷部近傍の目合いの複合線状物20を介してFRPネット本体2に負荷し、さらにその負荷を、FRPネット本体2を固定する部材を介してコンクリート構造体に分担させることが出来るようにするためであり、当該負荷部の二軸メッシュ状物3が、FRPネット本体2の目合い(開口部)25から膨出したりするのを極力抑制するためである。
具体的な固着の手段としては、接着剤を用いる方法や、熱融着による方法を挙げることができる。
【0039】
(二軸メッシュ状物とFRPネット本体との熱融着)
前記固着の手段としては、熱融着が簡便である。FRPネット本体2を構成する複合線状物20は、熱可塑性樹脂被覆23を有しているので、当該熱可塑性樹脂被覆23を、二軸メッシュ状物3を構成する海島型複合糸30の海成分34のポリオレフィン系樹脂と熱融着可能なものを選択し、FRPネット本体2と二軸メッシュ状物3を重ねて、融点近傍の温度に加熱された熱ローラー間に通す方法等で熱融着することができる。
この方法によるときは、接着剤による方法と比較して、接着剤が不要で、塗布や硬化の装置や手間が要らず、経済的にも有利である。
【0040】
本発明のコンクリート剥落防止用ネットは、FRPネット本体の製造段階、二軸メッシュ状物の製造段階、あるいはこれらを複合した後に、必要に応じて適宜各種処理を施しても良い。
例えば酸化防止処理、耐候性処理、抗菌処理、難燃処理、帯電防止処理、表面凹凸処理、酸化処理、微粒子付与処理、撥水処理、撥油処理、吸着処理、多孔質処理、蓄光・蛍光処理等を施すことができる。表面凹凸処理としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。また、密着性向上処理としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理が上げられる。
難燃処理としては、非ハロゲン系難燃剤や、臭素系化合物などで処理するものが挙げられ、具体的には、芳香族系臭素化合物、脂環族系臭素化合物、脂肪族系臭素化合物や、無機金属水酸化物、無機金属酸化物、無機金属炭酸塩、ホウ酸系化合物、硫黄系化合物、リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、(イソ)シアヌル酸誘導体化合物、シアナミド化合物、尿素系化合物などを含有する薬剤が挙げられる。
【0041】
本発明は、上記のコンクリート剥落防止用ネットを用いるコンクリート剥落防止方法をも提供する。
本発明のコンクリート剥落防止方法は、前記のコンクリート剥落防止用ネット1のFRPネット本体2の連接点や、複合線状物20をワッシャーや専用治具で抑えた状態でコンクリート構造物に固設されたアンカーボルト等によりコンクリート構造物側に固定する方法が挙げられる。さらに、比較的長尺の金属製固定フレーム等で固定してもよい。また、コンクリート構造物に予め、フック状の固定具を布設しておいて、当該固定具にFRPネット本体の複合線状物を掛けるようにして施工することもできる。FRPネット本体はある程度変形するので、掛けるための変形等には追随できる。
また、固定金具等に固定するためには、当該部位の二軸メッシュ状物は、作業の障害となるが、二軸メッシュ状物の経糸、緯糸の交点を熱融着して目止めしておけば、FRPネット本体との固着と相俟って、二軸メッシュ状物の糸が抜けたり脱落したりすることがなく施工できる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお製造例の未硬化状複合線状物について、以下の方法で、液ダレ及び物性を測定した。
【0043】
(1.液ダレ試験の評価方法)
試料長は50cmとし、試料本数2本に束ねたものを用いた。2本の試料を30回ねじらせて、それによって搾り出される含浸樹脂を計量瓶に採取し、その採取量を計量した。
その際、繊維強化合成繊維製線状物を保管する条件として20℃雰囲気下(低温条件下)と30℃雰囲気下(高温条件下)のそれぞれについて検証を行った。
【0044】
評価は以下の手順で行った。2本の試料(試料直径2.1〜2.18mm)を並列した状態で鉄治具により固定する。その際、試料の上部1.0cm、下部4.0cmをはみ出した状態で鉄治具により固定し、固定締め付けの際はクリアランス間隔として1.8mmの間隔をあけた状態で固定した。
【0045】
続いて、固定された2本の試料束を30回回転させ、アームに固定した。なお、アームの固定時には、強いテンションをかけすぎないように注意し、ねじられた試料束が垂直に伸びていることを確認した。この試料束を30回ねじらせて、それによって搾り出された含浸樹脂を計量瓶に採取して、その採取量を液ダレ量として計測した。測定は、試料試験開始後から所定の経過日数おきに測定を行った。なお、特に記載がない限り、液ダレ量は20分間あたりの液ダレ量(mg/20min)である。
【0046】
(2.物性測定)
作製した未硬化状複合線状物を20℃雰囲気下(低温条件下)と30℃雰囲気下(高温条件下)でそれぞれ28日間保管しその間の液ダレ量を測定した。
そして、液ダレ量が停止した後に、98℃の熱湯槽で15分間、浸漬して硬化させた。その後、引張強力と曲げ強力を測定し、得られた各物性と未硬化状複合線状物作製直後に硬化処理したものとの各物性を対比し、保持率を求めた。なお、引張速度200mm/min、支点間距離150mm、曲げ速度5mm/min、支点間距離30mmである。
【0047】
(未硬化状複合線状物の製造)
製造例1
1100dtex/本を13本無撚合糸した14300総dtexのポリエステル長繊維(東洋紡績(株)製、商品名「E1100T190−H02」)に、増粘剤としてポリメタクリル酸メチル樹脂粉末(日本ゼオン(株)製、商品名「ゼブイアックF320」、粒子径1μm)と、浸透増粘剤としてメタクリル酸ベンジルと、を含む不飽和ポリエステル樹脂(日本ユピカ(株)製、商品名「ユピカ9001」)を未硬化状熱硬化性樹脂として含浸させ、外径1.05mmに絞り成形した未硬化状物とし、引き続いてこの未硬化状物を溶融押出機のヘッド部に導いて、その外周をポリエチレン系熱可塑性樹脂(日本ユニカー社製、商品名「NUCG5350」)で環状に被覆して、水冷却槽に導いて、熱可塑性樹脂被覆層を冷却固化して、未硬化状複合線状物をボビンに巻き取った。なお、未硬化状複合線状物の未硬化状熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂75質量部に対して、増粘剤としてポリメタクリル酸メチル1質量部、浸透増粘剤としてメタクリル酸ペンジル25質量部を配合するものである。得られた未硬化状複合線状物の直径は2.11mmであった。
【0048】
製造例1において得られた未硬化状複合線状物の熱硬化性樹脂の液ダレ量は、製造直後84mgであったのに対し、低温下で14日後,高温下で2日後に0mgとなり全く液ダレしていなかった。また、未硬化状複合線状物の低温下で保管したものを硬化した試料の引張強力は、1091N(保持率100%)、曲げ強力は9.4N(保持率100%)であり、高温下で保管したものを硬化した試料の引張強力は1,089N(保持率99.9%)、曲げ強力は9.1N(保持率98.9%)であった。即ち、液ダレ量の停止後において引張強力と曲げ強力共に殆ど低下していないことが示された。
【0049】
参考製造例1
増粘剤を含まない他は製造例1と同一の条件で未硬化状複合線状物を得た。液ダレ量ついては、28日後においても低温下で45mg、高温下で10mgの液ダレ量が認められた。また、液ダレ量の停止後において曲げ強力の保持率が、低温下で97.9%、高温下で92.6%であり、製造例1のものより保持率が低下していた。
【0050】
〔FRPネット本体の製造〕
製造例1で得られた未硬化状複合線状物〔製造後24℃で保管し、1日(24時間)経過したもの〕を用い、目合い50mmの無結節網を編網し、次いでこれを、50mmの角目状になるように両端を緊張して100〜120℃の真空釜で硬化しつつ熱セットして、FRPネット本体を得た。
得られたFRPネット本体は、単位重量が640g/m2で、見かけ厚みが4.8mmのものであった。
なお、FRPネット本体を構成する複合線状物は、ネット本体からほぐしてサンプルを測定したところ、外径2.11mm、単位重量4g/m、破断荷重1080Nであった。
【0051】
〔海島型複合糸の製造〕
芯成分にアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分にメタロセン触媒による直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を使用し、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズル(240ホール)を用い、鞘/芯断面比が35/65となるように260℃で紡糸し、直結する延伸装置に導いて、0.42MPa、145℃の飽和水蒸気圧下で、延伸倍率13倍で延伸を行い、延伸と共に鞘成分で繊維間を融合したトータル繊度1850dtex、フィラメント数240本の、芯成分のポリプロピレンを島成分、鞘の直鎖状低密度ポリエチレンを海成分とする海島型複合糸を得た(スピンドロー方式)。この海島型複合糸は、延伸をローラー間で行っているので、240本の繊維が集束された形態であって、糸は扁平状を呈していた。
この有機繊維強化熱可塑性樹脂複合材である海島型複合糸の引張強度は、6.5cN/dtex、伸度は、15%、ヤング率は、92.0cN/dtex、140℃で測定した熱収縮率は、6.8%であった。
【0052】
〔二軸メッシュ状物の製造〕
得られた海島型複合糸を、織機を用いて、経,緯糸の打ち込みを、それぞれ糸の中心距離が3mmとなるようにして(打ち込み密度:7〜9本/2.5cm)で平織の二軸メッシュ状物を得た。この平織り二軸メッシュ状物を表面温度150℃の加熱ローラーで接触加熱して複合糸の海部樹脂を溶融し経緯の海島型複合糸が熱融着した二軸メッシュ状物を得た。熱融着後得られたメッショ状物は、目合いは、3mmであり、約2mm角の開口部を有し、交点は熱融着しており、目ずれがすることはなかった。なお、JIS規格 R3420: ガラス繊維一般試験方法7.4に準じて測定した、交点の接着強力は、7.3N/50mmであった。
【0053】
実施例1
前記により得られたFRPネット本体の上面と、上記二軸メッシュ状物の下面とをそれぞれ表面温度150℃の加熱ローラーで接触加熱して、FRPネット本体の複合線状物被覆部樹脂の表面と、二軸メッシュ状物の海島型複合糸の海部樹脂の表面部分をそれぞれ溶融し、これらを重ね合わせて、加圧ローラーに通して、FRPネット本体と二軸メッシュ状物とを熱融着して、コンクリート剥落防止用ネットを得た。
熱融着は、FRPネット本体の連接部(網糸の交叉部)において行われていた。
【0054】
〔コンクリート剥落防止用ネットの物性測定〕
得られたコンクリート剥落防止用ネットについて、剛性、メッシュ状物とFRPネット本体の接着力を次の方法で測定し、結果を得た。
【0055】
(1.コンクリート剥落防止用ネットの剛軟性測定)
図7(A)に示すように、4升目が含むようにして24cm×5.5cmのサンプルを準備し、(A)表面及び(B)裏面の状態でJIS L 1096のカンチレバー法に準じて、剛軟性をたわみ量により測定した。
具体的には、図8に示すように、45°の傾斜部を有する台42の端部43から、サンプルSが15cm飛び出すように固定具44で押さえ、サンプルの先端に荷重45を負荷したときのたわみ量X(mm)を金尺46で測定した。測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
メッシュ状物を上面として測定した場合の方が、たわみ量が少ない結果が得られた。これは、曲げ荷重に対する引張り応力作用面がメッシュ状物の面となって、FRPネット本体に対する補強効果が発現されているためと考えられる。
コンクリート剥落防止ネットとして、実際に施工する場合も、その使用態様からコンクリート構造物側にメッシュ状物を介在させる方向で準備(仮設)して、コンクリート構造物に固定するので、よりたわみの少ない状態は、好都合で、作業の効率化が図られる。
【0058】
(2.メッシュ状物とFRPネット本体の接着力)
i)接着剥離強力
FRPネット本体の複合線状物とメッシュ状物の海島型複合糸との接着剥離強度を、以下の様にして測定した。本発明のコンクリート剥落防止用ネット1から、図9のアの点線範囲のように、ネットの1個の連接部を含むようにサンプルを切り出し、図10(a)に略示する、2本の複合線状物からなる網糸(複合線状物)の1本と、その連接部の表面で熱融着されている海島型複合糸が1本のみとなるように、それに交わる糸はカットして、図10(b)のような試験サンプルを準備し、これを同図(c)に示すように、万能型引張り試験機(オリエンテック社製:TENSILON万能試験機RTA−100)のチャック41で把持して、速度200mm/min引張り力を負荷して、剥離強度を測定した。剥離強度は、4サンプルの平均で1.5Nであった。
ii)剪断接着強度
FRPネット本体の複合線状物とメッシュ状物の海島型複合糸との剪断接着強度を、以下の様にして測定した。本発明のコンクリート剥落防止用ネット1から、図9のイの点線範囲のように、ネットの4個の連接部が含むようにサンプルを切り出し、図11(a)正面図、(b)側面図に示すように、4点の連接点を含む状態で、上部チャック41では、メッシュ状物3のみを把持し、下部のチャックではFRPネット本体2のみを把持して、前記と同速度で引張り力を負荷して剪断接着強度を測定した。4サンプルの平均値で23.7Nであった。
【0059】
(3.コンクリート剥落防止用ネットの耐荷重試験)
実施例1で得られたコンクリート剥落防止用ネット1について、ネットの耐力を、下記の「はく落防止の押抜き試験方法」を参考にして測定した。
すなわち、日本道路公団規格、JHS424:2004、「はく落防止の押抜き試験方法」を参考にして、コンクリート構造物の表面に設置されたコンクリート剥落防止用ネット(単に「ネット」という。)にコンクリート構造物側から剥落片による荷重が負荷された場合のネットの耐荷重及びネットの変位量を測定しネットの性能を評価した。
JIS A5372に規定されている上ぶた式U形側溝(ふた)の呼び名300(400×600×60mm)(以下、「U形ふた」という。)を使用した。
このU形ふた50の中央部をφ100mmの形状でコンクリート用コアカッターによりコア抜き(穿孔)した。コア抜き方向は、裏面(二軸メッシュ状物3側の反対面)より貫通させコア51を形成した。
次いで、40cm×30cmの大きさのネットサンプルを準備し、Φ100mmのコアの中央側にネット本体の2升が対峙するようにU型ふた上に配置し、ネットサンプルの40cm側の両端側に、幅5×60mm×300mmの鉄板(押え具)52を載置し、その鉄板とUふたの下面とに各3個のシャコ万力53(最大開口:150mm)をセットして、ネット1をUふた表面に固定した。
次いで、これを図12に示すように逆さまの状態で測定装置の架台(図示省略)にセットし、先端がΦ100mmの荷重子54により、穿孔コア51を貫通させて、ネットサンプルに荷重がかかるように載荷した。
速度2mm/minで載荷して、押抜き荷重を負荷し、押抜き最大荷重(最大耐荷力)および変位をチャートに記録した。
n=1の測定を行い、最大耐荷重の平均が3813N、そのときの変位は、53mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のコンクリート剥落防止用ネットは、未硬化状複合線状物を編網後に硬化した、無結節網からなるFRPネット本体とし、該FRP本体に所定の目合いの二軸メッシュ状物を固着させているので、コンクリート剥落防止用ネットとしているので、柔軟性を有し、且つ充分な抗張力を有しており、トンネルの繋ぎ目などの段差がある部分の剥落防止用ネットとして利用できる。所定の目合いの二軸メッシュ状物を組み合わせて使用しているので、透水性があり、湧水のある部分の剥落防止用ネットとして利用できる。
FRP線状物は、熱可塑性樹脂被覆を有し、二軸メッシュ状物はポリオレフィン系海島型複合糸なので、水による加水分解や強度低下がなく、二軸メッシュ状物の目合いを適宜選択すれば、細かいコンクリート剥落片をも捕捉できる、低価格のコンクリート剥落防止用ネットとして有効に利用できる。
本発明のコンクリート剥落防止方法によれば、前記の本発明のコンクリート剥落防止用ネットは適宜の固定手段でコンクリート構造物に固定できるので、段差や湧水を有する部位にも使用でき、安価にして有効なコンクリート剥落防止方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明のコンクリート剥落防止用ネットの説明図である。
【図2】(A)本発明を構成するFRPネット本体を構成する複合線状物である。
【図3】(A)本発明を構成するFRPネット本体の説明図である。
【図4】本発明の二軸メッシュ状物を構成する、(A)鞘芯型複合繊維、(B)海島型複合糸の説明図である。
【図5】本発明を構成する二軸メッシュ状物の説明図である。
【図6】本発明のコンクリート剥落防止用ネットの1升分の拡大説明図である。
【図7】剛軟性測定用サンプルの、(A)表面、(B)裏面を示す写真である。
【図8】剛軟性測定装置及び測定方法の説明図である。
【図9】メッシュ状物とFRPネット本体の接着力測定用サンプルの採取部位を示す図である。
【図10】接着剥離強力の測定手順の説明図である。
【図11】剪断接着強度の測定方法の説明図である。
【図12】耐荷重試験の説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 コンクリート剥落防止用ネット
2 FRPネット本体
3 二軸メッシュ状物
4 固着点
20 複合線状物
20' 未硬化状複合線状物
20" 網糸(複合線状物の2子糸)
21 長繊維
22 硬化した熱硬化性樹脂
22' 未硬化熱硬化性樹脂
23 熱可塑性樹脂
24 連接部
25 目合い(升目、開口部)
30 海島型複合糸
31 芯成分
32 鞘成分
33 鞘芯型複合繊維
34 交点
35 二軸メッシュ状物の目合い(開口部)
41 測定チャック
42 測定台
43 測定台端部
44 固定具
45 荷重
46 金尺
W FRPネット本体の目合い
Y 二軸メッシュ状物の目合い
50 Uふた
51 穿孔コア
52 鉄板(押さえ具)
53 シャコ万力
54 荷重子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の剥落を防止するためのコンクリート剥落防止用ネットであって、該ネットは、
(i)未硬化状熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維の外周を熱可塑性樹脂で被覆してなる未硬化状複合線状物を編網後に硬化した、目合い30〜150mmの角目状の無結節網からなるFRPネット本体と、
(ii)(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)前記芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維を複数本集束し、前記鞘成分同士を融合させた海島型複合糸を織網してなる目合いが1〜30mmの二軸メッシュ状物とを備え、
(iii)前記二軸メッシュ状物を前記FRPネット本体のコンクリート構造物側となる面に固着させてなる、
ことを特徴とするコンクリート剥落防止用ネット。
【請求項2】
前記長繊維の外周を被覆する熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である未硬化状複合線状物を子糸として、2子の網糸の子糸を互いに交叉させ、網糸が連接部を貫通して直線的に伸びる貫通型(普通型)無結節状に編網して硬化してなるFRPネット本体と、前記二軸メッシュ状物とが、少なくともFRPネット本体の連接部との接触部において熱融着してなる、請求項1に記載のコンクリート剥落防止用ネット。
【請求項3】
前記未硬化状複合線状物の未硬化状熱硬化性樹脂に、さらに、アクリル酸エステル系化合物、メタクリル酸エステル系化合物、及びビニル化合物から選ばれる少なくともいずれかを重合単位とする樹脂からなる増粘剤(A)と、アクリル酸エステル系化合物、メタクリル酸エステル系化合物、及びビニル化合物の少なくともいずれかから選ばれる重合単位とする樹脂からなる浸透増粘剤(B)とを配合してなり、かつ、前記増粘剤(A)の配合量が前記未硬化状熱硬化性樹脂と前記浸透増粘剤(B)5〜50質量部との合計量100質量部に対して、0.5〜50質量部である請求項1又は2に記載のコンクリート剥落防止用ネット。
【請求項4】
前記二軸メッシュ状物の経糸、緯糸の交点を熱融着してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート剥落防止用ネット。
【請求項5】
前記FRPネット本体を構成する硬化した複合線状物の破断荷重(引張耐力)が400N以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート剥落防止用ネット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート剥落防止用ネットを、コンクリート構造物に固定することを特徴とするコンクリート剥落防止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−144376(P2010−144376A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321346(P2008−321346)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】