説明

コンクリート剥落防止用織物、及びそれを用いたコンクリート構造体の剥落防止方法

【課題】コンクリート構造体のコンクリート剥離自体を防止するのでなく、剥離したコンクリート塊の落下を防止することを目的とし、施工後もコンクリート構造物の目視検査を充分容易に行うことの出来る繊維織物、及びそれを用いたコンクリート構造体の剥落防止方法を提供する。
【解決手段】強化繊維糸を用いたメッシュ状の織物であって、開口部の面積が30%以上80%未満であり、縦横の一方の糸又は両方の糸が低融点糸を鞘糸としてカバリングし、製織後に加熱し、糸の交錯部を溶融した鞘部で融着して目ズレを防止したコンクリート剥落防止用織物。コンクリート構造体の表面に当着し使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造体の剥落防止の基材として使用される補強用織物に関し、特にハンドレイアップ成形によりコンクリート構造体の表面に貼り付けるのに最適なコンクリート剥落防止用織物、及びそれを用いたコンクリート構造体の剥落防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、コンクリートの中性化等によりコンクリート表面が劣化し、トンネル内等のコンクリート壁面が剥落する事故が起きている。
【0003】
そして、その対策として、例えばコンクリート面の炭素繊維を含む繊維強化プラスチックを接着する補強方法が採られ、補強効果も高く、耐久性にも優れ、また補強作業も簡単であることから広く用いられている。
【0004】
繊維強化プラスチックは低目付の炭素繊維織物が要求されているために非常に高価な織物となり、補強工事費が高くなる問題がある。
一方、安価な太い炭素繊維糸で低目付織物を得ようとすると、織糸間隔の大きなメッシュ織物となるためにたて糸とよこ糸の交錯による拘束力が無く、非常にルーズな織物で取扱い性が悪く、真っ直ぐな状態で接着させることが出来ず高強度を十分に発揮させることができないし、また貼り付け作業に時間を要する問題がある。
【0005】
そこで、例えば特開2001−226849では、補強繊維糸からなるたて糸とよこ糸がメッシュ状に配列され、前記配列された補強繊維糸間にたて糸補助糸およびよこ糸補助糸が配列されて組織した補強用織物が提案されている。
また、前記補助糸に低融点熱可塑性ポリマーが付着して、補助糸と交錯するたて糸および/またはよこ糸の交点で接着して拘束力を得るものとしている。
【0006】
さらに、特開2002−348749では、複数本の強化繊維糸条が長さ方向と幅方向のそれぞれにおいて互いに並行に配列されてなり、1つまたは2つ以上の開口部を有し、長さ方向と幅方向の強化繊維糸条が目止め剤で互いに固着したものが開示されている。
【特許文献1】特開2001−226849
【特許文献2】特開2002−348749
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のこの種繊維シートの目的は、剥離面の補修に重点が置かれかつ再剥離を防止するために、コンクリート面を全面的に被覆することとなり、施工後の構造物の目視検査に支障をきたすのであり、上記2002−348749では開口部を形成してその対処しているけれど全面的で充分な開口部を得られないのである。
【0008】
そこで、本発明はコンクリート構造体のコンクリート剥離自体を防止するのでなく、剥離したコンクリート塊の落下を防止することを目的とし、施工後もコンクリート構造物の目視検査を充分容易に行うことの出来る繊維織物、及びそれを用いたコンクリート構造体の剥落防止方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1のコンクリート剥落防止用織物は、強化繊維糸を用いたメッシュ状の織物であって、開口部の面積が30%以上80%未満であり、縦横の一方の糸又は両方の糸が低融点糸を鞘糸としてカバリングし、製織後に加熱し、糸の交錯部を溶融した鞘部で融着して目ズレを防止したことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2のコンクリート剥落防止用織物は、請求項1において、強化繊維糸がバサルト繊維糸であることを特徴とするものであり、また、請求項3のコンクリート剥落防止用織物は、請求項1又は2において、鞘部がダブルカバリングされて形成され、熱融着により目ズレを防止すると共に、糸の収束性と織物の剛性を高めたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の発明は、コンクリート構造体の剥落防止方法であり、請求項1乃至3のいずれかに記載のコンクリート剥落防止用織物をコンクリート構造体の表面に当着することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明は、コンクリート剥落防止用織物を、メッシュ状の織物とし、開口部の面積が30%以上80%未満のものとしたため、メッシュ状の織物を透してコンクリート壁面が全面的に充分に目視できる作用を奏し、信頼性の高い剥離予知を得られる効果を有するものである。
【0013】
また、開口部の面積が広く開いていても、強化繊維糸を用いた織物であるため、剥離したコンクリート塊を受け止め道路上等に落下するのを阻止する作用効果を発揮できるのであり、目を通過するような微細片は落下しても大事とはならないのである。
そして、縦横の一方の糸又は両方の糸が低融点糸を鞘糸としてカバリングしてあるため、熱溶融により織物の糸の交錯部が融着して拘束力を強化し目ズレを防止すると共に、芯糸の収束性を良好とし、折れ、劣化や毛羽立ちも防止し、剥離したコンクリート塊を確実に受け止める効果を発揮するのである。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の効果に加えて、強化繊維糸がバサルト繊維糸であるため、コンクリートとは素材や物性に共通性を有し、特に施工時の接着剤の選択や、接着性の問題を回避でき良好な接着を期待できる効果を有する。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1及び請求項2の効果に加えて、目ズレ防止や芯糸の収束性並びに折れ、劣化や毛羽立ち防止の効果を一層高め、剛性も付与し取り扱いが良好となる効果を発揮する。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のコンクリート剥落防止用織物を用いて、コンクリート構造体の表面に当着することで、コンクリート構造物の目視検査を容易に行なえることと、コンクリート構造体の剥落を防止するものであり、その施工方法も簡単容易となる効果を有するのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本願発明のコンクリート剥落防止用織物は、強化繊維糸を用いたメッシュ状の織物であって、開口部の面積が30%以上80%未満、縦横の一方の糸又は両方の糸が低融点糸を鞘糸としてカバリングし、製織後に加熱し、糸の交錯部を溶融した鞘部で融着して目ズレを防止したことを特徴とするものである。
【0018】
強化繊維糸は、例えばバサルト繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエステル繊維やポリプロピレン繊維等から得たものが考えられ、特にバサルト繊維は素材が岩石でありコンクリートとは素材に共通性があり接着が良好となるものである。
また、強化繊維糸の経緯糸の一方又は両方を低融点糸でカバリングしてあり、低融点糸とし、例えば低融点ナイロン糸がある。
カバリングはシングル或いはダブルでも良く、ダブルカバリングの場合は捲きつけ方向を異ならして二重に捲きつけるものとする。
【0019】
織り組織は平織、模紗織或いはカラミ織から選択し、メッシュ状に開口部の面積が30%以上80%未満となるようにするのが好ましい。
30%以下になるとコンクリート壁面の保持力をより強化できるけれど、開口部からの透過性が劣り壁面の目視がし難くなる。
一方、80%を越えると壁面の目視は一層容易となるけれど開口部が大きすぎてコンクリート壁面の保持力や強度が低下し、また、強度保持のため糸を太くすれば取り扱いや経済性に問題が生じる。
【0020】
そして、織物にした後、ヒーター等で前記カバリングした低融点糸の融点以上に加熱することにより、織糸の交錯点を簡単に接着させることが出来る。
接着させることにより、織物としての剛性が付与され、また、織物の取扱い時に経緯糸が曲ったり、目ずれを起こすことがなく、経緯糸を真っ直ぐに配向させた状態でコンクリート壁面に当着施工することができる。
【0021】
次に、コンクリート剥落防止用織物をコンクリート構造体の表面に当着するには、コンクリート壁面全体に接着剤を塗布し、当該コンクリート剥落防止用織物を貼り付ける方法があり、視認性を向上させるため透明性の接着剤が好ましい。
或いは、コンクリート壁面にアンカー留めすることも可能であるけれど、アンカーを繊維シートの目に挿入すると目ズレを起こす虞がありそれを防止するため、例えばザグリにエポキシ樹脂等の接着剤を塗布してシート面を押えてナット締めするのが好ましい。
【0022】
表1は、はく落防止押抜き試験方法による試験結果であり、旧日本道路公団で設定された規格で、コンクリート片剥落対策に用いる連続繊維シート接着のはく落防止性能を評価するための試験である。
芯糸をバサルト繊維糸の90テックス番手とし、ポリエステル系低融点繊維糸のメルセット(ユニチカ株式会社製:登録商標)250デニールを、上糸はZ300t/m、下糸はS300t/mでダブルカバリングをした糸を用いて、密度/寸を経3組(計12本)、緯4本同口(計12本)の3組×3組でカラミ織し、低融点繊維糸を加熱溶融させて組織の交叉部を融着したシートを使用した。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維糸を用いたメッシュ状の織物であって、開口部の面積が30%以上80%未満であり、縦横の一方の糸又は両方の糸が低融点糸を鞘糸としてカバリングし、製織後に加熱し、糸の交錯部を溶融した鞘部で融着して目ズレを防止したことを特徴とするコンクリート剥落防止用織物。
【請求項2】
強化繊維糸がバサルト繊維糸であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート剥落防止用織物。
【請求項3】
鞘部が低融点糸でダブルカバリングされて形成され、熱融着により目ズレを防止すると共に、糸の収束性と織物の剛性を高めたことを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート剥落防止用織物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のコンクリート剥落防止用織物をコンクリート構造体の表面に当着することを特徴とするコンクリート構造体の剥落防止方法。

【公開番号】特開2010−53487(P2010−53487A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221095(P2008−221095)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(506166468)青木織布株式会社 (2)
【出願人】(594082604)真柄建設株式会社 (8)
【出願人】(598036768)中部地質株式会社 (1)
【出願人】(397070624)株式会社国土開発センター (1)
【Fターム(参考)】