説明

コンクリート基礎の保護方法

【課題】 コンクリート基礎の中性化を防止し、コンクリートの硬化時における、その時に収縮のない鉄筋との間で歪みが発生しひび割れを生じたり、硬化後に地盤の不等沈下の影響を受け、コンクリート基礎が歪みひび割れ発生することもあった。これらを防止することをある。
【解決手段】 建物のコンクリート基礎表面にひび割れ追従性及び水蒸気透過性をもつ保護被覆層を形成すること、保護被覆層の水蒸気透過性が100g/m・24hr以上であること、更に中性化防止性能を有することを特徴とする。
【効果】コンクリート基礎のひび割れが表面に表れることを防ぎ、外部から浸透した水分の放散も支障なく行われることとなり、コンクリート基礎の耐久性を大きく向上させることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物のコンクリート基礎のひび割れ防止及び膨れ発生のない化粧層の形成についてのものであり、例えば、戸建て住宅における現場打ちコンクリートによる布基礎の保護方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物のコンクリート基礎は、建築現場において鉄筋を配筋し、成形型枠を組み立て、型枠内にコンクリートを打設し、型枠を取り外し、モルタルが塗布されて仕上となる。
【0003】
従来のコンクリート基礎は、コンクリート硬化後に空気中の炭酸ガスがコンクリート中に浸透し、コンクリートあるいはモルタルのセメント成分であるケイ酸カルシウム水和物(5CaO・6SiO・6HO)と反応し、炭酸カルシウム(CaCO)、シリカ(SiO)が生成する。
【0004】
コンクリートの水和そのもののうち、主成分であるエーライト(3CaO・SiO:CS)あるいはベーライト(2CaO・SiO:CS)は以下のように水和している。この水和反応は、コンクリートを混練打設後、数週間で有る程度終了するものの、その後も数年あるいは数十年に亘って進行するものと考えられている。
【0005】
エーライトでは、
3CaO・SiO+2HO→2CaO・SiO・HO+Ca(OH)
2CaO・SiO・HO+HO→2CaO・SiO・HO+Ca(OH)
【0006】
ベーライトでは、
2CaO・SiO+2HO→CaO・SiO・HO+Ca(OH)
【0007】
また、別の文献では、
2CS+6HO→3CaO・2SiO・3HO+3Ca(OH)
2CS+4HO→3CaO・2SiO・3HO+Ca(OH)
とある。
【0008】
コンクリートを高アルカリに保っている水酸化カルシウムは、炭酸ガスの働きにより炭酸カルシウムと水とに変化する。
Ca(OH)+CO→CaCO+H
【0009】
コンクリートは中性化に伴い若干の微細クラックが発生することがある。微細クラックによるコンクリートの物理的な強度の劣化の程度は小さいが、中性化によりコンクリート中の鉄筋は強アルカリ雰囲気から弱アルカリ雰囲気となり、発錆し、発錆による鉄筋の体積膨張がコンクリートのひび割れ、かぶりコンクリートの剥離へと繋がることとなる。
【0010】
コンクリート基礎表面に塗付されたモルタルは、一般に伸びが小さく、可撓性も小さいために中性化(=炭酸化)によりひび割れの発生へと繋がった。
【0011】
コンクリート基礎は、他の要因としてコンクリートは硬化時の収縮により、その時に収縮のない鉄筋との間で歪みが発生しひび割れを生じたり、硬化後に地盤の不等沈下の影響を受け、コンクリート基礎が歪みひび割れ発生することもあった。
【0012】
従来技術として、特許文献ではコンクリート基礎の保護は、炭酸化防止を主題とする技術が有った。特許文献1として開示する特開平4−16573においては、炭酸化防止のために基礎コンクリート表面に防水被膜を形成させることにより、炭酸ガスの透過を防止しようとするものであった。従来技術特許の調査範囲はFターム2D046、BA01,BA24とした。
【特許文献1】特開平4−16573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
コンクリート基礎は、降雨等により表面からの浸透あるいは地中の水分の移動によって、コンクリート自身が水分を含むことがある。このコンクリート中の水分は、外部雰囲気との関係により吸放出されることとなる。
【0014】
炭酸化防止のみを主題とする防水塗膜あるいはひび割れ防止を塗膜の伸びにより吸収しようとするものにあっては、コンクリート基礎が打設後数週間ないし数ヶ月後において含水率が5〜10%あること、そして、土中水分は毛細管現象によりコンクリート基礎の立ち上がり部分に吸い上げられこの部分を通して、気中に放散されることについての考慮が不足している。なぜなら、塗膜に伸びのある防水塗膜あるいは単層弾性塗料と呼ばれる化粧用の仕上塗材をコンクリート基礎の表面に塗装する際に下地の含水率が大きい時には、所期の性能が得られなかったり、部分的に密着の弱いところがあると土中水分の放散を行うのに防水性のある塗膜は内側の水分の放散も妨げることとなり、塗膜の膨れとなって表れることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、建物のコンクリート基礎表面にひび割れ追従性及び水蒸気透過性をもつ保護被覆層を形成することを要旨としている。
【0016】
請求項2に記載の発明では、請求項1における保護被覆層の水蒸気透過性が100g/m・24hr以上であることを要旨としている。
【0017】
同様に、請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2における保護被覆層が、更に中性化防止性能を有することを要旨としている。
【0018】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれかにおける保護被覆層が保護被覆層が水和反応性を持つ、以下の(1)、(2)、(3)を主成分とし、適宜量の(4)骨材を配合した組成物からなることを要旨としている。
(1)ポルトランドセメント、
(2)ポルトランドセメントに対して0.1〜1.0重量倍のアルミナセメント
(3)ポルトランドセメント及びアルミナセメントの和に対してポリマー成分として、0.15〜1.0重量倍のポリマーディスパージョン
【0019】
この発明のコンクリート基礎とは、独立基礎、布基礎、べた基礎あるいはこれらの複合基礎のことを言い、地中に埋設される部分を含むが、保護対象となる部分は立ち上がり部分のことを指す。特に、外部に露出することで美観が重視される部分を言い、通常は立ち上がり部分を指す。立ち上がり部分の全てが外部露出するわけではないが、塗装工程がコンクリート基礎打設後且つ基礎の埋め戻しの前に行われるため、美観を問題にしない部分となる地中に埋め戻される部分を含めた立ち上がり部分が塗装される。
【0020】
ひび割れ追従性能としては、発生初期のひび割れは0.5mmまでの大きさであることが殆どであるため、ゼロスパンテンション試験において、0.5mm以上有ることが必要である。
【0021】
ゼロスパンテンション試験は、50mm×100mmの厚手の粘着テープ上に、50mm×50mm×厚さ5mmのフレキシブルボードを隙間ができないように貼り付け、試験用の被覆材を厚み1mmとなるように塗り付け、20℃、65%RH条件下に2週間置いた後、試験に供した。試験は、被覆材に対して負荷が掛からないように注意して粘着テープを剥がし、長手方向の両端を固定し、毎分5mmの速度で引張り、被覆材が破断したときの引張り距離を測定値とした。
【0022】
水蒸気透過性としては、透湿度が80g/m・24hr以上、更には100g/m・24hr以上であることが望ましい。水蒸気透過性を有することにより、コンクリート基礎中の水分および保護被覆層中の余剰の水分を保護被覆層外に放散することができる。この値より小さい水蒸気透過性の時には、コンクリート基礎の含水率が大きくなった時の水分放散性能として十分なものとならない。そして、保護被覆層の膨れ、剥がれ発生の原因へと繋がる。
【0023】
水蒸気透過性試験は、JIS Z0208に規定されるカップ法による透湿度試験を、温度25℃±0.5℃、相対湿度90%±2%の条件のもと行って測定した。試験に用いる被覆材の厚みは約1mmとし、前もってテフロン(登録商標)板の上に1.1mm塗布し、硬化させ24時間後に台紙の上から剥がし、20℃、65%RH条件下に2週間置いた後、試験片となる大きさに切り取って、試験に供した。
【0024】
中性化防止性能としては、中性化促進試験において4週間後のフェノールフタレイン1%溶液噴霧による非赤変領域深さが0.3mm以下であることが望ましい。コンクリートがその表面に何も被覆材を有しない時、その中性化の進行する速度は一年間で約1mmと言われている。
【0025】
中性化促進試験は、100mm×100mm×100mmの立方体形状の供試用コンクリート塊を前もって作成し、その一面と対面となる2面に被覆材を1.2Kg/mとなるように塗り付け、20℃、65%RH条件下に2週間置いた後、他の4面をエポキシ樹脂によりシールした。この供試体を30℃、60%RH、CO濃度5%の中性化促進槽内に置き、その2週間後、4週間後、8週間後における中性化深さを測定した。中性化深さの測定は、供試体の被覆材塗布面に垂直となるように割裂し、フェノールフタレイン1%溶液を噴霧し、割裂面のそれぞれにおける任意の5点における赤変線までの距離の平均値を中性化深さとした。
【0026】
尚、供試用コンクリート塊は粗骨材の最大寸法25mm、スランプ18cm、水セメント比60%、細骨材率42%、空気量4.5%となる、単位量として、水181(Kg/m)、セメント302(Kg/m)、細骨材715(Kg/m)、粗骨材1006(Kg/m)、AE剤91(g/m)である生コンクリートを使用し、100mm×100mm×100mmの型枠中に打設、24時間後に脱型し、材令2週まで水中養生、材令4週まで気中養生(20℃、80%RH)したものである。
【0027】
保護被覆層形成に利用される組成物は、合成樹脂を結合材にするもの、合成樹脂とセメントあるいは石膏、水ガラス、コロイダルシリカなどの無機結合材を結合材とするもの、そのどちらも利用可能であるが、下地となるコンクリート基礎の含水率が性能発現に影響の小さい、セメントを結合材に含むものを使用するのが望ましい。このセメントを結合材の一部とするときには、セメントの硬化に水分を消費することになり、その消費が初期の数週間だけでなく、その後も消費量が小さくはなるものの数十年も続くことになる。
【0028】
結合材以外の配合成分では、有機質または無機質の各種充填材や骨材、各種体質顔料及び添加剤が適宜用いられ、被覆層形成後に水分子より小さく水蒸気分子より大きな多量の微細孔が形成できるもので有れば良い。あるいは、各種結合材及び被覆層形成物の水蒸気拡散抵抗が小さくなる被覆層形成物、各種結合材に多孔質の微細充填材を混合したものが利用される。
【0029】
合成樹脂とセメントを結合材とする組成物として、例えばその1として(1)、(2)、(3)を主成分とし、適宜量の(4)骨材を配合した組成物Aがある。
(1)ポルトランドセメント、
(2)ポルトランドセメントに対して0.1〜1.0重量倍のアルミナセメント
(3)ポルトランドセメント及びアルミナセメントの和に対してポリマー成分として、0.15〜1.0重量倍のポリマーディスパージョン
【0030】
上記(3)のポリマー成分の配合割合は、水蒸気透過性の性能に影響を与え、好ましくは0.2〜0.5重量倍のとき透湿度が80g/m・24hr以上が得られることとなる。
【0031】
その2として、(1)、(2)、(3)、(4)を主成分とし、適宜量の(5)骨材を配合した組成物Bがある。
(1)ポルトランドセメント、
(2)ポルトランドセメントに対して1.5〜7重量倍のアルミナセメント
(3)ポルトランドセメントに対して0.3〜3重量倍の半水石膏
(4)ポルトランドセメント、アルミナセメント及び石膏の和に対してポリマー成分として、0.15〜1.5重量倍のポリマーディスパージョン
【0032】
上記した、その1またはその2の合成樹脂とセメントを結合材とする組成物を用いたときには、請求項1に規定するひび割れ追従性及び水蒸気透過性を確保することができる。
【発明の効果】
【0033】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
請求項1に記載のコンクリート基礎の保護方法によれば、コンクリート基礎のひび割れが表面に表れることを防ぎ、外部から浸透した水分の放散も支障なく行われることとなり、コンクリート基礎の耐久性を大きく向上させることとなる。
【0034】
請求項2に記載のコンクリート基礎の保護方法によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、コンクリート基礎が含む水分の放散を、保護被覆層形成後も効果的に行うことができる。この為、保護層の膨れ、剥がれの発生を確実に防止することができる。また、この保護層のひび割れの原因が除かれることにより、コンクリート基礎の美観も維持されることとなる。
【0035】
請求項3に記載のコンクリート基礎の保護方法によれば、請求項1または請求項2に記載の発明の効果に加え、炭酸ガスの透過を制限することとなり、コンクリート基礎の中性化防止を確実なものとすることができる。
【0036】
請求項4に記載のコンクリート基礎の保護方法によれば、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加え、保護被覆層形成時にコンクリート基礎の含水率が一般的な塗装下地に要求されるものより大きい場合であっても、問題なく保護被覆層の形成が可能となる。また、保護被覆層の形成後においても、土中から供給されるコンクリート基礎の立ち上がり部分への水分を水和反応に消費することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、この発明の実施形態を示すとともに詳細に説明する。
実施例では、戸建て住宅の布基礎の立ち上がり部分及び天端部分に対して、保護被覆層を設けた。布基礎のコンクリート断面形状は、150mm×600mmであり、SD13mmの鉄筋がフーチング部分より30cm間隔にループを作る形で直立し配され、長手方向には天端及び基礎の根本部分の隅、立ち上がりの中間位置にSD10mmの鉄筋が平行に配筋されている。コンクリートは、かぶり厚4cmとし、4週間後圧縮強度が、240Kg/cmとなる生コンクリートを使用して打ち込みを行っている。コンクリートの打設後、14日後に、保護被覆層となる合成樹脂とセメントを結合材とする組成物を、大凡厚み1mmにて塗り付けた。
【0038】
保護被覆層形成のために用いた組成物1の配合は、以下の通りである。
粉体部分
セメント 30重量%
アルミナセメント 3.5重量%
体質顔料 15.8重量%
骨材 50重量%
添加剤 0.7重量%
液状部分
合成樹脂エマルション 39.0重量%
水 57.7重量%
添加剤 3.3重量%
【0039】
上記、粉体部分と液状部分を100:53の重量割合にて混合し、適宜添加水を加えてペースト状とし、コテ塗りに適した粘度とした。なお、液状部分の合成樹脂エマルションは樹脂固形分のみの数値である。
【0040】
次に、保護被覆層形成のために用いた組成物2の配合は、以下の通りである。
粉体部分
セメント 30.5重量%
アルミナセメント 2.7重量%
骨材 66重量%
添加剤 0.5重量%
液状部分
合成樹脂エマルション 44.0重量%
水 52.7重量%
添加剤 3.3重量%
【0041】
上記、粉体部分と液状部分を100:75の重量割合にて混合し、適宜添加水を加えてペースト状とし、コテ塗りに適した粘度とした。なお、液状部分の合成樹脂エマルションは樹脂固形分のみの数値である。
【0042】
比較例では、下地となる布基礎は同じであり、保護被覆層のないもの(比較例1)、セメント:砂(容積)が1:3となるモルタルに対し、重量比で10%の酢酸ビニル系合成樹脂エマルションを加えたもの(比較例2)を実施例と同様、大凡厚み5mmにて塗り付けた。
【0043】
実施例及び比較例の比較は、実際の布基礎に塗り付けたもの以外では、ゼロスパンテンション試験、水蒸気透過性試験、中性化促進試験を行った。試験結果は、下記表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
試験結果では、実際の布基礎に塗り付けたものでは、2年間の屋外暴露の結果、実施例1、実施例2では異常を認めなかったものの、比較例1の無処理としたものでは1ヶ月でひび割れが発生し、比較例2の樹脂入りの1:3モルタルによる被覆層を形成したものでも1ヶ月から2ヶ月の間にひび割れの発生が有った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物のコンクリート基礎表面にひび割れ追従性及び水蒸気透過性をもつ保護被覆層を形成することを特徴とするコンクリート基礎の保護方法。
【請求項2】
保護被覆層の水蒸気透過性が100g/m・24hr以上であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート基礎の保護方法。
【請求項3】
保護被覆層が、更に中性化防止性能を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート基礎の保護方法。
【請求項4】
保護被覆層が水和反応性を持つ、以下の(1)、(2)、(3)を主成分とし、適宜量の(4)骨材を配合した組成物からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のコンクリート基礎の保護方法。
(1)ポルトランドセメント、
(2)ポルトランドセメントに対して0.1〜1.0重量倍のアルミナセメント
(3)ポルトランドセメント及びアルミナセメントの和に対してポリマー成分として、0.15〜1.0重量倍のポリマーディスパージョン