説明

コンクリート床の仕上げ方法及び仕上げ構造

【課題】微細なひび割れ、細孔などの空隙が多く存在するコテによる押え込みが不十分なコンクリート床においても、塗り床やシート等による床仕上げ層(床材)の膨れを防止できるようにする。
【解決手段】コンクリート床1の表面に、ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤と粒径が約0.1μm〜約10μmの無機系微粉末との混合液を塗布して、コンクリート床1の表面に硬く緻密でコンクリート床1と強く結合した透水性・透湿性のない下地処理層2を形成した後、当該下地処理層2の上に、塗り床3aやシート3b等による床仕上げ層4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床に直接施工する床材(塗り床やシート等による床仕上げ層)の膨れ防止対策に関する。
【背景技術】
【0002】
塗り床やシート等による床仕上げ層(床材)の膨れの原因は、現在でも明確になっていないが、大きな要因として、コンクリートに含まれる水分を挙げることができる。このアルカリ性の水分が床材成分や床材用接着剤の成分を溶解し、さらにコンクリートの半透性によって水分を引き寄せて生じる浸透圧が床仕上げ層(床材)に膨れを生じさせると考えられている。この浸透圧の発生はコンクリートの水セメント比に大きく影響されることが解っており、水セメント比が大きなコンクリートほど浸透圧が大きいことが報告されている。また、膨れによる故障事例の検討では、下地コンクリートの含水率がさほど大きくなく、土間の土も乾燥している状態でも、塗り床やシート等による床仕上げ層の膨れは発生しており、少量の水分があれば膨れ故障は生じ得ることが確認されている。
【0003】
そのため、従来より、塗り床やシート等による床仕上げ層(床材)の膨れ防止対策として、(1)〜(3)のような方法が採られてきたが、何れの方法にも、解決困難な問題があり、膨れによる故障事例の発生を皆無とするには至っていないのが実情である。
(1)コンクリート床1と床仕上げ層(床材)4との接着強度を高くする(図3参照)。(2)コンクリート床1と床仕上げ層(床材)4との間に、透水・透気層6を形成し、水分の蒸発による圧力を脱気筒7などにより大気に開放する(図4参照)。
(3)床仕上げ層(床材)4自体に透気性を持たす(図5参照)。
【0004】
上記(1)の方法では、コンクリートに含まれるアルカリ性水分によって床材成分や床材用接着剤の成分が溶解することがある。(2)の方法では、透水・透気層6の厚みの確保、脱気筒7の設置間隔などが問題となり、(3)の方法では、床仕上げ層4を薄肉に形成する必要があるため、床仕上げ層4の耐久性を確保し難い。
【0005】
尚、特許文献1には、コンクリート床の表面に、親水性エポキシ樹脂混合物、セメント及び水、必要に応じて細骨材を配合したエポキシ樹脂セメント混合物を塗布して、コンクリート床と強固に結合した耐水性及び塗装材料に対する付着性の良好な三次元網目構造の下地処理層を形成し、当該下地処理層の上に、塗り床による床仕上げ層を形成する方法が提案されている。
【0006】
これは、原理的に(1)の方法の一つであると考えられるが、下地処理層を三次元網目構造とすることで塗装材料との付着性を高めたとしても、三次元網目構造の下地処理層を透過したコンクリート中のアルカリ性水分が塗り床の接着成分を溶解する虞がある。
【0007】
特許文献2には、コンクリート床の表面に、ポリオール、水、イソシアネート化合物、水硬性セメント並びに必要により配合される骨材、充填材を含む床用調整材を塗布して、下地処理層を形成し、当該下地処理層の上に、熱硬化性樹脂と繊維強化材からなる強化樹脂層、トップコート層を重層して床仕上げ層とする技術が提案されている。
【0008】
これは、下地コンクリートと下地処理層との密着を高めて、下地コンクリートの含水率が高い状態にあっても、水分の蒸発による突き上げ応力を封じ込めるようにした点で、原理的に(1)の方法の一つであると考えられる。しかしながら、特許文献2にも記載されている通り、この方法は、コンクリート床の表面にひび割れがないことが施工の条件とさ
れているが、ひび割れ、細孔などの空隙がないコンクリート床を形成することは非常に困難である。
【0009】
【特許文献1】特開平7−187859号公報
【特許文献2】特開2004−183388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を踏まえてなされたものであって、その目的とするところは、微細なひび割れ、細孔などの空隙が多く存在するコテによる押え込みが不十分なコンクリート床などにおいても、塗り床やシート等による床仕上げ層(床材)の膨れを防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術的手段は、次のとおりである。即ち、請求項1に記載の発明によるコンクリート床の仕上げ方法は、コンクリート床の表面に、ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤と粒径が約0.1μm〜約10μmの無機系微粉末との混合液を塗布して、下地処理層を形成した後、当該下地処理層の上に、塗り床やシート等による床仕上げ層を形成することを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載の発明によるコンクリート床の仕上げ構造は、コンクリート床の表面に、ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤と粒径が約0.1μm〜約10μmの無機系微粉末との混合液を塗布することによって形成された下地処理層を設け、当該下地処理層の上に、塗り床やシート等による床仕上げ層を形成してあることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、2に記載の発明によれば、コンクリート床の表面に、ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤と粒径が約0.1μm〜約10μmの無機系微粉末との混合液を塗布するので、コンクリート床の表面に、微細なひび割れ、細孔など多くの空隙が存在しても、それらの空隙に無機系微粉末が充填されると同時に浸透型反応硬化剤が深く浸透することになる。
【0014】
そして、浸透型反応硬化剤の主成分であるケイ酸塩とコンクリート中の遊離石灰が反応してコンクリート中の水分が中性となると同時に硬質の生成物を形成し、コンクリート床の表面に硬く緻密でコンクリート床と強く結合した透水性・透湿性のない下地処理層が形成されることになる。
【0015】
従って、塗り床やシート等による床仕上げ層(床材)との界面に水分が集まることやアルカリ性水分によって床材成分や床材用接着剤の成分が溶解することを防止でき、微細なひび割れ、細孔などの空隙が多く存在するコテによる押え込みが不十分なコンクリート床などにおいても、塗り床やシート等による床仕上げ層(床材)の膨れを防止できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1の(A)〜(C)は、本発明に係るコンクリート床の仕上げ方法及び仕上げ構造の一例を示す。図1の(A)は、コンクリート打設後の養生により、少なくとも歩行可能なコンクリート強度が発現した下地処理前のコンクリート床1を示す。コンクリート床1としては、図示の実施形態においては、例えば、コテによる押え込みが不十分なコンクリート床などのように、微細なひび割れ、細孔などの空隙が多く存在するコンクリート床であることを前提としているが、機械ゴ
テによる鏡面仕上げを行ったものでも構わない。
【0017】
図1の(B)は、下地処理を行った状態、図1の(C)は、仕上げが完了した状態を示す。下地処理の工程においては、前記コンクリート床1の表面に、ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤(水溶液)と粒径が約0.1μm〜約10μmの無機系微粉末との混合液を塗布して、コンクリート床1の表面に硬く緻密でコンクリート床1と強く結合した透水性・透湿性のない下地処理層2を形成する。
【0018】
即ち、コンクリート床1の表面に、ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤と粒径が約0.1μm〜約10μmの無機系微粉末との混合液を塗布すると、コンクリート床1の表面に存在する多数の空隙(ひび割れ、細孔、骨材の剥がれた跡など)に、無機系微粉末が充填されると同時に浸透型反応硬化剤が深く浸透することになる。そして、浸透型反応硬化剤の主成分であるケイ酸塩とコンクリート中の遊離石灰が反応してコンクリート中の水分が中性となると同時に硬質の生成物を形成し、コンクリート床1の表面に硬く緻密でコンクリート床1と強く結合した透水性・透湿性のない下地処理層2を形成することになる。
【0019】
この場合、無機系微粉末は、粒径が小さいほど空隙への充填性が良好であるが、粒径が0.1μm以下の無機系微粉末は製造が困難であり、粒径が大きすぎると、空隙への充填性が発揮されないので、無機系微粉末の粒径は、約0.1μm〜約10μmの範囲とする必要がある。
【0020】
ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤としては、例えば、株式会社エービーシー商会のセラキュア、シリケートハードナーUSA等が好適に用いられる。無機系微粉末としては、シリカヒューム、ケイ砂粉末等が単独で又は混合して用いられるが、シリカヒュームは平均粒径0.1μmであるから、最も好適である。
【0021】
ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤とそれに混入する無機系微粉末との割合は、ケイ酸塩溶液100重量部に対して無機系微粉末(シリカヒューム単独およびケイ砂との混合物)1〜50重量部の範疇で適応可能であるが、コンクリート表面の仕上がり状況や塗布時の作業性等により、無機系微粉末の混合比率やケイ酸塩溶液への配合割合を適宜変更する必要がある。コンクリートの仕上りが一般的なレベルであれば配合割合は2〜10重量部が望ましい。
【0022】
仕上げ工程においては、図1の(C)に示すように、前記下地処理層2の上に、直接、塗り床用の塗料を塗布して、塗り床3aによる床仕上げ層(床材)4を形成する。
【0023】
上記の構成によれば、塗り床3aによる床仕上げ層(床材)4との界面に水分が集まることやアルカリ性水分によって塗り床3aの成分が溶解することを防止でき、微細なひび割れ、細孔などの空隙が多く存在するコテによる押え込みが不十分なコンクリート床においても、塗り床3aによる床仕上げ層(床材)4の膨れを防止できるのである。
【0024】
図2は、本発明の他の実施形態を示し、前記下地処理層2の上に、シート3bを接着して、シート3bによる床仕上げ層(床材)4を形成した点に特徴がある。5は接着剤である。
【0025】
この構成によれば、シート3bによる床仕上げ層(床材)4との界面に水分が集まることやアルカリ性水分によってシート3bの成分やシート3b用の接着剤5の成分が溶解することを防止でき、微細なひび割れ、細孔などの空隙が多く存在するコテによる押え込みが不十分なコンクリート床においても、シート3bによる床仕上げ層(床材)4の膨れを
防止できる。その他の構成、作用は、図1の実施形態と同じであるから、説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す縦断側面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す縦断側面図である。
【図3】従来例を示す縦断側面図である。
【図4】従来例を示す縦断側面図である。
【図5】従来例を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 コンクリート床
2 下地処理層
3a 塗り床
3b シート
4 床仕上げ層(床材)
5 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート床の表面に、ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤と粒径が約0.1μm〜約10μmの無機系微粉末との混合液を塗布して、下地処理層を形成した後、当該下地処理層の上に、塗り床やシート等による床仕上げ層を形成することを特徴とするコンクリート床の仕上げ方法。
【請求項2】
コンクリート床の表面に、ケイ酸塩を主成分とする浸透型反応硬化剤と粒径が約0.1μm〜約10μmの無機系微粉末との混合液を塗布することによって形成された下地処理層を設け、当該下地処理層の上に、塗り床やシート等による床仕上げ層を形成してあることを特徴とするコンクリート床の仕上げ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−68277(P2009−68277A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238832(P2007−238832)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】