説明

コンクリート床構造体の施工方法

【課題】屋外環境下での施工において、水勾配の形成が容易で、作業性に優れ、施工効率が高く、表面仕上りが良好で、半硬化時の鏝押さえによる表面手直しが可能であり、耐久性に優れ、平滑な勾配面を有するコンクリート床構造体の施工方法を提供する。
【解決手段】コンクリート床上面12に、アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を含むレベリング材を用いて調製したモルタル14を厚さ0.5〜30mmの厚さに流し込む工程と、流し込んだモルタル表面をコテを用いて均す工程と、半硬化状態のモルタル硬化体表面を、コテ押さえを行ってモルタル硬化体表面を平滑に仕上る工程とを含むコンクリート床構造体の施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物に施工することができ、作業性と速硬性と寸法安定性とに優れる水硬性組成物を用いて得られるコンクリート床構造体の施工方法に関する。
さらに本発明は、勾配を有する各種建築物のコンクリート床に施工でき、作業性と速硬性と寸法安定性とに優れ、微妙な段差を修正する際のすり合わせ施工が可能な水硬性組成物を用いて得られる勾配を有するコンクリート床構造体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に付設されているバルコニーや共有廊下などは、屋外に位置しているため風雨に曝されることから耐候性が求められるとともに、コンクリート床面に雨水が溜まるのを防止するために、一般的にコンクリート床表面には左官鏝などを用いてモルタル材を施工して緩やかな水勾配が形成される。
【0003】
耐透水性、耐凍結融解性ならびに耐薬品性などの耐久性と、基材付着性とに優れるセメント系塗装剤に関し、特許文献1にはセメント、微粒子無機粉末、分散剤及び乳化重合体を用い、さらに必要に応じて細骨材および水を含んで成る、水硬性のセメント系被覆組成物が開示されている。
【0004】
また、建物の床面や屋上面及びテニスコート、バレーコート等の運動場の床面に流して固化させて平坦な表層を形成する弾性表層材として、特許文献2には、セメント系のセルフレベリング性床面モルタル仕上げ材にカチオン系合成樹脂エマルジョンを添加してなる弾性表層仕上げ材が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−65427号公報
【特許文献2】特開昭62−187187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マンションの共用廊下・バルコニー等の外部床は、コンクリート直押えで水勾配の所要精度が得られないため、左官用補修材等で補修が行なわれ、溝及び壁際にウレタン系等の塗布防水を施した上に塩化ビニル等の長尺シートによる仕上げが多くなっている。
この場合、床補修は微妙な勾配の調整に熟練度が要求されるが、左官職人の高齢化・就業者数の減少により、短期間の工期での大量施工が困難になってきている。
また、廊下やバルコニーは作業通路として用いられるため、通行禁止期間の短縮が望まれるが、左官用補修材の低温時の硬化遅延、硬化前の他業者の立入りや施工中、養生中の風雨による再補修と相俟って、工事期間が長くなる事が多い。
このような背景のもと、近年、省力化を目的として、高流動タイプのモルタルが普及しているが、硬化速度が遅く、工期短縮に至っていないのが現状である。
また、日光や風が当たる場所での施工となるため、モルタル表面の乾燥によるシワや気泡跡、硬化体にひび割れが発生し易いなどの問題がある。
【0007】
本発明は、屋外環境下での施工において、水勾配の形成が容易で、作業性に優れ、施工効率が高く、表面仕上りが良好で、半硬化時の鏝押さえによる表面手直しが可能であり、耐久性に優れ、平滑な勾配面を有するコンクリート床構造体の施工方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究開発に取組んだ結果、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分と、特定のアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末とを含むレベリング材を用いることによって、好適な流動性を有して流し込み施工性に優れるとともに、鏝塗り作業性にも優れ、ハンドリング性(可使時間)が長く、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、早期強度発現が良好であり、勾配を有する床面の形成が可能な水硬性組成物を用いたコンクリート床構造体の施工方法を見出した。また、流し込み施工したモルタルの半硬化状態を長く保つことによって、鏝押さえによる表面の手直し及び施工面の微妙な段差を補正してスムースな仕上がり面を容易に形成できる水硬性組成物を見出して本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の第1は、コンクリート床上面に、アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を含むレベリング材を用いて調製したモルタルを厚さ0.5〜30mmの厚さに流し込む工程と、流し込んだモルタル表面をコテを用いて均す工程と、半硬化状態のモルタル硬化体表面を、コテ押さえを行ってモルタル硬化体表面を平滑に仕上る工程とを含むことを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法である。
本発明の第2は、前記本発明の施工方法により得られるコンクリート床構造体の上面が、0/1000を超えて50/1000以下の勾配を有するコンクリート床構造体である。
【0010】
本発明の表面の平滑性に優れたコンクリート床構造体の施工方法について好ましい様態を以下に示す。これらは複数組合せることができる。
1)半硬化状態のモルタル硬化体表面は、ショア硬度が1〜20であること。
2)レベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むこと。
3)レベリング材は、水硬性成分とアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末とを含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むこと。
4)アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末は、アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化形樹脂粉末であること。
5)アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、1〜50質量部の割合で配合されること。
6)レベリング材を用いたモルタル硬化体表面のショア硬度は、モルタルを流し込み施工したのち4時間後に1以上であること。
コンクリート床上面は、0/1000を超えて50/1000以下の勾配を有すること。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法は、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分と、特定の樹脂粉末とを含むレベリング材を選択して用いる。レベリング材を用いて調製したモルタルは、好適な流動性を有して流し込み施工性に優れるとともに、優れた鏝塗り作業性を有し、ハンドリング性(可使時間)が長く、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、良好な早期強度発現性を提供するものである。さらに、レベリング材を用いることで、鏝塗り作業が容易に行うことができ、かつ平滑な表面を形成することができる。
また、本発明は、半硬化状態のモルタル硬化体表面をコテを用いてコテ押さえを行うことで、モルタルの施工厚みの薄い部分、すり合せ部分及び打ち継ぎ部分などの表面を手直し処理してより平滑性を向上させることができ、勾配を有するコンクリート床構造体の表面全体をスムースな仕上がり面に仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のレベリング材を用いたコンクリート床構造体の施工方法及びその施工方法によって得られるコンクリート床構造体について、図1a〜図1eに示す図面にしたがって実施形態の一例を説明する。
【0013】
図1aは、勾配を有するコンクリート床構造体11を示す部分断面図である。
本発明では、まず図1bに示すように、勾配を有するコンクリート床構造体11の凹部や欠損部等の非平滑部13表面に、レベリング材用プライマー14を塗布施工する。
レベリング材用プライマー14が乾燥して造膜したのち、その上面にレベリング性モルタル15を流し込み、左官鏝、トンボ、スパイクローラーなどを用いてコンクリート床構造体11の非平滑部13にレベリング材モルタル15を押し広げ、左官鏝などで表面を床勾配面に沿ってほぼ平滑に均す。
【0014】
尚、レベリング性モルタルの調製および施工は、レベリング材を袋物の形態で施工現場に搬入し、施工場所の近傍で現場設置型の混合・混練装置やハンドミキサー等の混合機を用いて、所定量の水とレベリング材とを混合・混練してレベリング材モルタルを調製することができる。
【0015】
次に、コンクリート床面に供給・打設されたレベリング材モルタル15が硬化を開始し、図1cに示すように、ショア硬度1〜20の半硬化状態16になった時に、図1dに示すように、半硬化状態のレベリング材16の表面を左官鏝を用いて押さえて均し、半硬化状態のレベリング材16の表面を平滑に仕上げることによって、図1eに示すように、コンクリート床表面の平滑性及び仕上り性に優れた勾配を有するコンクリート床構造体11を得ることができる。したがって、レベリング材モルタル15を施工した勾配を有するコンクリート床構造体11は、床表面全体が平滑性及び仕上り性に優れたものとなる。
【0016】
一方、高い水平レベル性を得ることができることから、セルフレベリング材(自己流動性組成物)は、床下地調整材として優れた性能を有している。
しかしながら、図2に示すように、勾配を有する床上面の凹部や欠損部の補修にセルフレベリング材(自己流動性組成物)を使用した場合、セルフレベリング材19を流し込み、モルタル表面部を左官鏝などで均した直後には、勾配面に対して平滑な面を形成することができるが、セルフレベリング材(自己流動性組成物)は、その優れた流動性のために自己流動を起こして、水平レベルを形成してしまい、勾配を有する床上面に平滑な勾配面を形成することが困難である。
【0017】
特に、速硬性に優れるセルフレベリング材(自己流動性組成物)を用いた場合には、その優れた速硬性によって施工作業時間を短縮でき、施工効率を高めることができる反面、硬化開始後に急速に硬化が進行してしまい、左官こて等を用いて手直しが可能な半硬化状態にある時間がほとんどなく、図2に示すような勾配面に発生したセルフレベリング材(自己流動性組成物)の硬化体の段差部21を手直しすることが困難である。
【0018】
次に、本発明で用いるレベリング材用プライマー、レベリング材、貼り床仕上げ材について説明する。
【0019】
本発明で使用するレベリング材用プライマーは、コンクリート床とレベリング材モルタル硬化体とを強固に接着するため、及び、レベリング材モルタルを打設した際に、モルタル中の水分がコンクリート床に浸透する作用を防止するために用いる。
レベリング材用プライマーとしては、アクリル−スチレン共重合体樹脂やエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする市販のプライマーが使用でき、特にアクリル−スチレン共重合樹脂を主成分とするものを好適に使用できる。
プライマーの塗布量は、好ましくは80〜240g/m、さらに好ましくは90〜225g/m、より好ましくは100〜200g/m、特に好ましくは120〜180g/mを塗布することが良好な接着強度を安定して得るために好ましい。
プライマー塗布後の乾燥時間は、温度条件や通風条件に応じて適宜乾燥時間をとることができ、通常夏季には3時間〜8時間、冬季には5時間〜12時間乾燥することが好ましい。
【0020】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法に用いるレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むものである。
【0021】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0022】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0023】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0024】
本発明で用いるレベリング材は、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いる。
水硬性成分は、好ましくはアルミナセメント20〜80質量部、ポルトランドセメント5〜70質量部及び石膏5〜45質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント25〜70質量部、ポルトランドセメント10〜60質量部及び石膏10〜40質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、より好ましくはアルミナセメント30〜60質量部、ポルトランドセメント20〜50質量部及び石膏15〜35質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)、特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント30〜40質量部及び石膏20〜30質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成を用いることにより、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少なく、クラックの発生を抑制した硬化体が得られやすいために好ましい。
【0025】
本発明に用いるレベリング材では、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましい。このため樹脂粉末については、粉末状の再乳化形樹脂粉末を使用する。
本発明に用いるレベリング材は、屋外でレベリング材のモルタルを施工した場合の硬化体表面の乾燥による皺や気泡跡の発生、又は、材料分離によるブリージング水の発生を防止して、硬化体表面の仕上りを大幅に向上させる効果とともに、硬化体の弾性を高めてひび割れの発生を防止する効果とを付与するために再乳化形樹脂粉末を使用する。
【0026】
また、再乳化形樹脂粉末は、速硬性を有する水硬性組成物の半硬化状態を長く保つ役割を付与するとともに、その保水性の向上により、半硬化状態での鏝押さえによる硬化体表面の手直しを可能にすることができる。
【0027】
再乳化形樹脂粉末の製造方法については特にその種類・プロセスは限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また再乳化形樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂粉末の表面に付着しているものを用いることができる。
再乳化形樹脂粉末は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で溶媒を除去し乾燥したものを好適に用いることができる。
【0028】
本発明では、再乳化形樹脂粉末として保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を好適に用いることができ、特に、保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化形樹脂粉末を好適に用いることができる。
【0029】
アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末の1次粒子(エマルジョンの粒子)の平均粒径は、好ましくは0.2〜0.8μmの範囲であり、さらに好ましくは0.25〜0.75μmの範囲であり、より好ましくは0.3〜0.7μmの範囲であり、特に好ましくは0.35〜0.65μmの範囲のものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
1次粒子の平均粒径が前記範囲のアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を用いたレベリング材モルタルでは、モルタル表面を左官鏝などを用いて適正な勾配を持たせつつ表面を平滑に仕上げる鏝作業を行う過程で、良好な鏝送り性と鏝放れ性とを得ることができる。
再乳化形樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が前記範囲より大きい場合、モルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性が低下するため好ましくなく、再乳化形樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が前記範囲より小さい場合、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性は良好であるが、モルタル施工時の鏝送り性と鏝放れ性が低下して作業性が悪くなることから好ましくない。
【0030】
本発明に用いるレベリング材では、アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末100質量%中に再乳化形樹脂粉末の1次粒子の粒径が、好ましくは0.1〜1μmの粒子を97質量%以上含み、さらに好ましくは、0.15〜0.9μmの粒子を95質量%以上含み、より好ましくは0.2〜0.8μmの粒子を90質量%以上含み、特に好ましくは0.3〜0.7μmの粒子を75質量%以上含むものを選択して用いることによって、良好な施工性と、緻密なポリマーフィルムの形成によって得られる優れた接着性や耐久性・耐候性とを併せて得られることから好ましい。
前記範囲の粒径の1次粒子を前記の範囲で含む場合、アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を用いたレベリング材モルタルでは、モルタル表面を左官鏝などを用いて適正な勾配を持たせつつ表面を平滑に仕上げる鏝作業を行う過程で、良好な鏝送り性と鏝放れ性とを得ることができる。
再乳化形樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が前記範囲より大きい場合、モルタル施工時の作業性は良好なものの、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性が低下するため好ましくなく、再乳化形樹脂粉末の1次粒子の平均粒径が前記範囲より小さい場合、モルタル硬化体の接着性や耐久性・耐候性は良好であるが、モルタル施工時の鏝送り性と鏝放れ性が低下して作業性が悪くなることから好ましくない。
【0031】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末は、その1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることが好ましい。
再乳化形樹脂粉末の1次粒子表面が、ポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることによって、再乳化の過程で速やかに且つ均一にもとのエマルジョンの状態(樹脂粉末化前の状態)、すなわち、レベリング材モルタル中に1次粒子が均一に分散した状態を実現することができる。
【0032】
本発明では、前記範囲の1次粒子径を前記範囲で含み、且つ、1次粒子の表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されているアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を選択して用いることによって、モルタル施工時に優れた作業性が得られるとともに、モルタル硬化体おいては接着性や耐候性、耐水性及び耐アルカリ性に優れた特性を得ることができる。
【0033】
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末は、噴霧乾燥処理などの工程を経て、1次粒子が凝集した2次粒子の形態で用いられる。
本発明で用いるアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末の2次粒子の粒子径は、好ましくは20〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは30〜90μmの範囲であり、より好ましくは45〜85μmの範囲であり、特に好ましくは50〜80μmの範囲であることが、再乳化形樹脂粉末を含むレベリング材と水とを混練してモルタル化する過程で、再乳化形樹脂粉末の2次粒子がレベリング材に含まれている細骨材によって解砕されて容易に再分散し、1次粒子が均一に分散した状態になりやすいことから前記範囲の2次粒子径を有する再乳化形樹脂粉末を用いることが好ましい。
再乳化形樹脂粉末の2次粒子径が前記範囲より大きくなるとモルタル化の過程で再分散されにくくなり、1次粒子が均一に分散した状態になり難くなることから好ましくなく、2次粒子径が前記範囲より小さくなると、工場においてプレミックスしてレベリング材を製造する際に、再乳化型樹脂粉末が飛散して作業環境が悪化するなどのハンドリング性が悪くなることから好ましくない。
【0034】
本発明で使用するレベリング材では、再乳化形樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは2〜18質量部、さらに好ましくは3〜16質量部、特に好ましくは4〜15質量部の範囲で配合することによって、良好な作業性と高耐久な硬化体特性を併せて得ることができる。
再乳化形樹脂粉末の配合割合が、前記範囲よりも大きい場合、レベリング材に水を加えて得られるモルタルの粘度が高くなり、施工性および鏝作業性が低下し、表層の乾燥による皺や気泡跡が発生し易くなるとともに、硬化体の圧縮強度が低下する傾向がある。また、配合割合が前記範囲より小さい場合には、モルタルのチクソトロピック性が低下して緩やかな傾斜面を安定して形成することが困難になる傾向にあり、さらにモルタル硬化体の弾性向上によるひび割れ抑制効果が小さくなり、モルタル硬化体の表面仕上りも悪くなる傾向があるため好ましくない。
【0035】
屋外において勾配を有するコンクリート床構造体を施工する場合に用いるレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分およびアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤を含むことが好ましい。
【0036】
本発明に用いるレベリング材は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることや、低コストで長期強度を増進させることができる。
レベリング材において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜180質量部、さらに好ましくは30〜150質量部、特に好ましくは40〜120質量部とするのが好ましい。
【0037】
レベリング材において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜180質量部、さらに好ましくは30〜150質量部、特に好ましくは40〜120質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなることや長期強度が十分得られないことがあり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0038】
レベリング材は、必要に応じてさらに細骨材を含むことができる。
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは100〜300質量部、特に好ましくは150〜250質量部の範囲が好ましい。
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.075〜1.5mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.1〜1mmの骨材、特に好ましくは0.15〜0.6mmの骨材を主成分としていることが好ましい。
細骨材の種類は、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒、石灰石などの無機材料、ウレタン砕、EVAフォーム、発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができる。
特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0039】
レベリング材は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いる。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が好ましい。
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、さらに好ましくは0.02〜1.0質量部、特に好ましくは0.05〜0.5質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、チクソトロピック性の低下により勾配面の形成が困難になることが考えられる。
【0040】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分やレベリング材の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、レベリング材の可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、レベリング材としての使用が非常に容易になるため好ましい。
【0041】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類や、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0042】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムやL−酒石酸二ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0043】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.2〜1.0質量部、特に好ましくは0.25〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0044】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることが出来、例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩を用いることが好ましい。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
また、上記リチウム塩に硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、アルミン酸ナトリウム等の凝結促進成分を併用することが、更に促進効果が発揮されることから、特に好ましい。
【0045】
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0046】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部であり、より好ましくは0.01〜1質量部、さらに好ましくは0.02〜0.5質量部、特に好ましくは0.02〜0.3質量部の範囲で用いることによって、レベリング材の可使時間を確保したのち好適な速硬性・速乾性が得られることから好ましい。
【0047】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、スターチエーテル等の加工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることができる。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0048】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、レベリング材の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0049】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は鉱物油系、植物由来の天然物質など、公知のものを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、1種類の消泡剤を用いる場合、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜3.0質量部、さらに好ましくは0.005〜2.5質量部、より好ましくは0.01〜2.0質量部、特に0.05〜1.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
また、2種類以上の消泡剤を併用する場合の消泡剤の添加量は、それぞれの消泡剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1.3質量部、特に0.02〜1.0質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0050】
本発明に用いるレベリング材を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末、無機成分、珪砂などの細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤を含むものである。
【0051】
本発明では、水硬性成分及びアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末、無機成分、細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤などを混合機で混合し、レベリング材のプレミックス粉体を得ることができる。
【0052】
レベリング材のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、レベリング性を有するモルタルを製造することができ、そのモルタルを硬化させてレベリング材の硬化体を得ることができる。
なお、本発明では、レベリング性を有するモルタルとは、セルフレベリング性(自己流動性)を有さず、施工器具を用いて容易にモルタルを押し広げることができる良好な流動性を有するモルタルを意味する。
【0053】
レベリング材は、水と混合・攪拌してモルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、モルタルの流動性、可使時間、材料分離性、モルタル硬化体の強度などを調整することができる。
本発明で用いるレベリング材モルタルは、レベリング材(S)と水(W)とを質量比(W/S)が、好ましくは0.14〜0.34の範囲、さらに好ましくは0.16〜0.32の範囲、より好ましくは、0.18〜0.30の範囲、特に好ましくは0.20〜0.28の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0054】
本発明で使用するレベリング材は、水と混合して調製したレベリング性を有するモルタルのフロー値が、好ましくは140〜209mm、さらに好ましくは160〜208mm、特に好ましくは180〜207mmに調整されていることが、レベリング材モルタルが自己流動することなく、施工の容易さ及び適正な勾配を形成しつつ平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0055】
レベリング材モルタルの施工厚さは、コンクリート床表面の凹凸状態やコンクリート床表面の勾配状態によって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができ、コンクリート床面の最も凸部分上面を基準にして、好ましくは施工厚さ0.5mm〜30mmの範囲、さらに好ましくは施工厚さ1mm〜20mmの範囲、より好ましくは施工厚さ1.5mm〜15mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ2mm〜10mmの範囲で流し込み施工することが好ましい。
レベリング材モルタルをコンクリート床面の最も凸部分上面を基準にして0.5mm〜10mmの高さまで薄く施工する場合は、前記モルタルを流し込み施工しながら、スパイクローラー、とんぼ、コテなどを用いてモルタルを均等に広げる操作を行い、コンクリート床面に薄層に前記モルタル層を形成し、レベリング材モルタルが半硬化状態になった時点で左官鏝にて押さえを行うことによって平滑な勾配面を有するコンクリート床面に仕上げることが好ましい。
【0056】
本発明で用いるレベリング材モルタルは、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有している。
レベリング材モルタルの可使時間は、モルタル調製から好ましくは60分間であり、さらに好ましくは40分間であり、特に好ましくは30分間である。
【0057】
レベリング材モルタルは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工終了後1時間〜4時間の間に硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体表面のショア硬度が上昇し、ショア硬度1〜20の半硬化状態を経由し、その後、硬化体表面のショア硬度と、硬化体強度とが上昇して、硬化体表面の含水量が低下する。
レベリング材モルタル硬化体表面のショア硬度は、モルタルの打設(施工)から好ましくは4時間後に1以上、且つ5時間後に10以上、さらに好ましくは3時間後に1以上、且つ4時間後に10以上、より好ましくは2時間後に1以上、且つ3時間後に10以上、特に好ましくは1時間後に1以上であり、且つ2時間後に10以上であることが好ましい。
レベリング材モルタルは、このような適正な速硬性を有することによって、モルタル施工(打設・表面仕上げ)が終了した後、速やかにショア硬度1〜20の半硬化状態に硬化が進行し、レベリング材モルタルが半硬化状態において鏝押さえを行って表面を平滑に仕上げることによりレベリング材モルタルの施工が完了する。
【0058】
本発明で使用するレベリング材は、速硬性・速乾性に優れた特性を有しており、鏝押さえ処理に適したショア硬度1〜20の半硬化状態を所定時間有しながら、その後は優れた速硬性を発揮して、良好な硬化状態と表面乾燥状態を得ることができ、次工程であるシート仕上げ材や貼り床材の敷設工程への移行が翌日〜3日後には可能となる。
【0059】
本発明で用いるレベリング材モルタルの硬化体表面は、好ましくは0/1000を超えて50/1000以下の勾配を有すること、さらに好ましくは0/1000を超えて〜40/1000以下の勾配を有すること、特に好ましくは0/1000を超えて〜30/1000以下の勾配を有することによって、勾配を有する床下地調整に対して使用することができる。
【0060】
レベリング材モルタル硬化体の長さ変化率の膨張は、好ましくは0〜0.08%、さらに好ましくは0〜0.06%、特に好ましくは0〜0.05%の範囲であり、長さ変化率の収縮が好ましくは−0.08〜0%、さらに好ましくは−0.06〜0%、特に好ましくは−0.05〜0%の範囲であり、前記の膨張または収縮の特性を有するレベリング材が、硬化体自体のクラック発生を防止でき、さらに下地となるコンクリート床との間で高い接着力を保持できることから好ましい。また、上記の長さ変化率の範囲を外れた場合には、レベリング性モルタルの硬化体の硬化収縮によってクラックが生じることがあり、そのクラックを介して下地のコンクリート床の離脱水分が拡散して、レベリング性モルタルの硬化体上面にシート仕上げ材層などを敷設している場合に膨れが生じることがあるため好ましくない。
【0061】
本発明で使用するレベリング材のモルタル硬化体上面には、各種樹脂製タイルやシート仕上げ材などの仕上げ層を適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0063】
(特性の評価方法)
(1)レベリング材モルタルの流動性評価:
・フロー値の測定法:
JASS・15M−103に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの樹脂製パイプ(内容積100ml)を設置し、練り混ぜたレベリング材モルタルを樹脂製パイプの上端まで充填した後、パイプを鉛直方向に引き上げる。モルタルの広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とし、モルタルの流動性を評価した。
・SL値の測定方法:
SL値は、図3に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のモルタルを所定量満たして成形した。成形直後に堰板を引き上げて、モルタルの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からモルタル流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とした。
【0064】
(2)レベリング材モルタルの施工性評価:
・モルタル流し込み時のコテ作業性:
屋外条件下で、1m×0.5mの区画の硬化コンクリート下地にレベリング材用プライマーの3倍液(原液150g/mに水を300g/m加える)を塗布して自然乾燥させた。プライマーが造膜後、レベリング材モルタルを平均施工厚さが1〜6mmになるよう流し込んだ後、勾配が10/1000となるように左官鏝を用いてモルタル表面を成形し(1000mmスパンにおいて、最低施工厚さは1mm、最高施工厚さ11mmとなる)、コテ作業性を評価した。
鏝作業性は、鏝放れ性、鏝切れ性を評価し、評価の高い順より、優>良>可>不可の4段階で評価し、可以上を合格とした。
・勾配形成性:
モルタルが硬化した後、モルタル硬化体の表面の勾配を測定し、左官鏝を用いて形成した勾配(10/1000)が保持されているか評価した。評価指標は、勾配Xが(9.5≦X≦10)/1000の場合は良、勾配Xが(9≦X<9.5)/1000の場合は可、勾配Xが(X<9)/1000の場合は不可とした。
【0065】
(3)レベリング材モルタル硬化体の表面特性の評価:
・ショア硬度の測定法:
レベリング材モルタルを流し込み施工した後、所定の経過時間において、硬化した表面にスプリング式硬度計タイプD型(上島製作所製)を用いて任意の6カ所に垂直に押し付け、その時のスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間のショア硬度とし表面硬度を評価した。
・鏝押さえ評価:
レベリング材モルタルを流し込んだ後、左官鏝によるモルタル表面仕上げの均しを行わずそのまま半硬化状態まで硬化させ、半硬化状態であるショア硬度1〜20の時点にて鏝押さえを行い、その表面仕上がり状態を評価した。
鏝押さえによる表面仕上がり性の評価は、さらに硬化が進行した材齢24時間時点の硬化体表面の平滑性を、目視及び触覚により評価を行い、評価の高い順より、優>良>可>不可の4段階で評価し、可以上を合格とした。
・硬化体表面の性状:
モルタル硬化体表面の性状は、硬化後(ショア硬度測定可能時点)、材齢24時間時点でシワ及び気泡の有無を目視で観察することで評価した。クラックは、材齢28日にて評価を行った、評価基準は以下の通りとする。
○:無し、×:有り。
【0066】
(使用材料):以下の材料を使用した。
1)レベリング材用プライマー : 宇部興産社製、UプライマーG。
2)レベリング材 : 下記の原材料を表1に示す配合割合で混合したレベリング材を使用した。
・アルミナセメント : フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g。
・ポルトランドセメント : 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g。
・石膏 : II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・細骨材 : 珪砂:6号珪砂。
・無機成分 : 高炉スラグ微粉末、リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g。
・樹脂A : アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステルの共重合体、1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆された再乳化形樹脂粉末、ニチゴー・モビニール社製、DM7000P。
・樹脂B : エチレン/酢酸ビニル共重合体、再乳化形樹脂粉末、旭化成ケミカルズ社製、RE5044N。
・樹脂C : スチレン/アクリル酸エステル/メタクリル酸共重合体のエマルジョン、宇部興産社製、UプライマーG。
・凝結遅延剤a : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
・凝結遅延剤b : L−酒石酸二ナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結促進剤a : 炭酸リチウム、本荘ケミカル社製。
・凝結促進剤b : 硫酸アルミニウム、大明化学工業社製。
・凝結促進剤c : アルミン酸ナトリウム、北陸化成社製。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系流動化剤、花王社製。
・増粘剤 : ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤、マーポローズMX−30000、松本油脂社製。
・消泡剤 : ポリエーテル系消泡剤、サンノプコ社製。
【0067】
(レベリング材のモルタル調製)
表1に示す、条件及び配合割合で調製したレベリング材と水とを、レベリング材100質量部に対して水25質量部の割合で配合し、回転数1100rpmのハンドミキサーを用いて3分間混練して、レベリング材モルタルを調製した。
【0068】
[実施例1、比較例1〜4]
表1に示す成分を配合したレベリング材を用いてレベリング材モルタルを調製した。モルタルの流動性(フロー値、SL値、モルタル移動速度)の測定結果を表2に示す。
【0069】
モルタルのコテ施工性、勾配形成性、ショア硬度及び硬化体表面状態を評価した結果を表2に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
(1)樹脂成分を配合していない比較例1のレベリング材の場合、良好な勾配形成性が得られず、鏝押さえによる表面仕上り状態も悪く、さらに硬化体の表面にはクラックが発生した。
(2)樹脂成分としてアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化形樹脂粉末を用いた実施例1の場合、勾配の形成性およびコテ作業性が良好であり、鏝押さえによる表面仕上り状態、及び硬化体の表面状態についても良好であった。
また、実施例2及び実施例3に示すように、温度が21℃の場合、5℃の場合においても良好な施工性、勾配形成性、鏝押さえによる良好な表面仕上り状態、並びに優れた硬化体表面状態を得ることができた。
(3)樹脂成分としてエチレン/酢酸ビニル共重合体の再乳化形樹脂粉末を用いた比較例2の場合、コテ作業性は優れているものの、勾配の形成性及びコテ押さえによる仕上り性は、実施例1と比較して劣っていた。また、硬化体表面にはシワが発生し、平滑で良好な仕上り面は得られなかった。
(4)樹脂成分として、再乳化形樹脂粉末ではなく、スチレン/アクリル酸エステル/メタクリル酸共重合体のエマルジョンを用いた比較例3の場合、施工性については実施例1と同等の特性が得られたが、硬化体表面には気泡が認められ、平滑で良好な仕上り面は得られなかった。
【0073】
本発明の勾配を有するコンクリート床構造体の施工方法は、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分と、1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステルの共重合体の再乳化形樹脂粉末とを含むレベリング材を用いることによって、適度なモルタル粘性とチクソトロピックな性状を有していて、勾配を有する平滑な床面の形成が可能であり、また、半硬化状態での鏝押さえによる手直し補修により平滑で勾配を有する床面の形成が可能であり、速硬性・速乾性に優れるとともに低収縮特性、及び、ひびわれ抵抗性を有し、屋外環境下で施工しても良好な表面仕上りが得られ、耐候性にも優れた勾配を有するコンクリート床構造体を得ることができる。
また、本発明の勾配を有するコンクリート床構造体の施工方法は、勾配を有するコンクリート床構造体の欠損部などを平滑に補修する、勾配を有するコンクリート床構造体の補修方法としても優れた効果を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の勾配を有するコンクリート床構造体の施工方法について、施工手順の概要を示す模式図である。
【図2】セルフレベリング材を用いて勾配を有するコンクリート床構造体を形成した場合の模式図である。
【図3】SL測定器を用いて水硬性モルタルのレベリング性を評価する概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0075】
11 : バルコニーなどのコンクリート床構造体
12 : コンクリート床表面
13 : 凹部や欠損部等の非平滑部
14 : プライマー層
15 : レベリング材モルタル(未硬化状態)
16 : レベリング材モルタルの半硬化体
17 : レベリング材モルタルの硬化体
18 : 左官鏝
19 : レベリング材モルタル(未硬化状態)
20 : レベリング材モルタルの硬化体
21 : セルフレベリング材スラリーの自己流動によって発生した非平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート床上面に、アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を含むレベリング材を用いて調製したモルタルを厚さ0.5〜30mmの厚さに流し込む工程と、流し込んだモルタル表面をコテを用いて均す工程と、半硬化状態のモルタル硬化体表面を、コテ押さえを行ってモルタル硬化体表面を平滑に仕上る工程とを含むことを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項2】
半硬化状態のモルタル硬化体表面は、ショア硬度が1〜20であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項3】
レベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項4】
レベリング材は、水硬性成分とアクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末とを含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項5】
アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末は、アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化形樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項6】
アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、1〜50質量部の割合で配合されることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項7】
レベリング材を用いたモルタル硬化体表面のショア硬度は、モルタルを流し込み施工したのち4時間後に1以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項8】
コンクリート床上面は、0/1000を超えて50/1000以下の勾配を有すること
を特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法によって得られる、コンクリート床構造体の上面が、0/1000を超えて50/1000以下の勾配を有するコンクリート床構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77753(P2010−77753A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249948(P2008−249948)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】