説明

コンクリート床版端部の遊間内面の補修工法

【課題】従来困難とされていた、橋梁におけるコンクリート床版端部に形成される遊間内面の削り作業を伴う補修を適切に行うことができる補修工法を提供する。
【解決手段】橋梁におけるコンクリート床版端部に形成された遊間6の上部開口6aから高圧水噴射ノズル22を挿入し、該高圧水噴射ノズルによる高圧水噴射にて遊間内面8のコンクリート表層部を削って縦方向削り空間9を削成し、該削り作業時に遊間内面の下端8aを削らずに残存して上記縦方向削り空間を制限する張り出し10を形成し、該張り出しの端面を基準として型枠を立設し、該型枠と上記張り出しとによって画成された上記縦方向削り空間内に補修材を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば河川橋、陸橋、高架橋等の橋梁におけるコンクリート床版端部に形成された橋幅方向に延びる遊間の内面の補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁におけるコンクリート床版端部に形成された遊間の内面は、雨水の漏水により湿潤し易いことと、風通しが悪いことが重なって同所の劣化が進行し易く、同所の局部的な補修工事が必要となる。
【0003】
然しながら上記遊間は非常に幅が狭いため、該遊間内面のコンクリート削り作業を伴う補修工事は困難とされ、従来は遊間の上部開口を止水材等で塞ぐ止水工事が主流となっていた。このような止水工事によっても上記遊間内面への漏水とコンクリート劣化を有効に防止することは困難であった。
【0004】
そこで、上記遊間内面のコンクリート表層部の削り作業と、該削り作業により削った箇所に補修材を充填する作業とを適切に実行する補修手段の提供が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のようにコンクリート床版端部に形成された遊間内面、即ちコンクリート床版端面又は橋台の立ち上がり面の劣化を放置することは、該コンクリート床版端面又は橋台の立ち上がり面のコンクリート表層部の劣化のみではなく、コンクリート床版内部又は橋台内部に埋設された補強鉄筋の腐食をも誘発し、ひいては橋梁全体の強度低下を来たしてしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は従来困難とされていた、上記コンクリート床版端部に形成される遊間内面の削り作業を伴う補修を適切に行うことができる補修工法を提供するものである。
【0007】
要述すると、橋梁におけるコンクリート床版端部に形成された遊間の上部開口から高圧水噴射ノズルを挿入し、該高圧水噴射ノズルによる高圧水噴射にて上記遊間内面のコンクリート表層部を削って縦方向削り空間を削成し、該削り作業時に上記遊間内面の下端を削らずに残存して上記縦方向削り空間を制限する張り出しを形成し、該張り出しの端面を基準として型枠を立設し、該型枠と上記張り出しとによって画成された上記縦方向削り空間内に補修材を充填する補修工法であり、上記遊間内面を適切に削りつつ上記張り出しにより縦方向削り空間内への補修材の充填を確実に実行する。
【0008】
好ましくは上記縦方向削り空間内へ充填する補修材を補強繊維入りポリマーセメントモルタルとし、高靱性且つ高強度の補修構造を実現する。
【0009】
更に好ましくは上記コンクリート床版端部の下面を補強繊維入りポリマーセメントモルタルで補修し、該補強繊維入りポリマーセメントモルタルで高靱性且つ高強度の上記張り出しを形成する。上記補強繊維入りポリマーセメントモルタルは自ら表層部に微細なひび割れを続発することにより曲げ、引張、圧縮破壊時の靱性が大幅に向上する材料であり、充填箇所の高靭性化、高強度化に貢献する。
【0010】
適例として、上記型枠を透視材にて形成し、該型枠を通して上記縦方向削り空間内への補修材の充填を確認する構成とし、確実な充填を図る。
【0011】
又上記遊間内でチューブを膨張させて上記型枠を上記張り出しの端面に押し付けて立設姿勢を保持する構成とし、迅速且つ的確な型枠の立設を実現する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は削りを伴う補修が困難とされていたコンクリート床版端部の遊間内面を適切に補修し、橋梁を健全に保全する補修工事を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Aは橋台に支持されたコンクリート床版端部の遊間の上部開口に配置された伸縮継手を一部切欠して概示する斜視図、Bは橋脚に支持されたコンクリート床版端部の遊間の上部開口に配置された伸縮継手を一部切欠して概示する斜視図。
【図2】Aは橋台に支持されたコンクリート床版端部の遊間における伸縮継手の除去工程を示す断面図、Bは橋脚に支持されたコンクリート床版端部の遊間における伸縮継手の除去工程を示す断面図。
【図3】Aは橋台に支持されたコンクリート床版端部の遊間内面における削り工程を示す断面図、Bは橋脚に支持されたコンクリート床版端部の遊間内面における削り工程を示す断面図。
【図4】Aは橋台に支持されたコンクリート床版端部の遊間内面に削成した縦方向削り空間内への補修材の充填工程を示す断面図、Bは橋脚に支持されたコンクリート床版端部の遊間内面に削成した縦方向削り空間内への補修材の充填工程を示す断面図。
【図5】Aは橋台に支持されたコンクリート床版端部の遊間における新たな伸縮継手の設置工程を示す断面図、Bは橋脚に支持されたコンクリート床版端部の遊間における新たな伸縮継手の設置工程を示す断面図。
【図6】本発明に係る補修工法の削り工程で使用する削り装置の斜視図。
【図7】上記削り装置の据付台の正面図。
【図8】上記削り装置の据付台の側面図。
【図9】上記据付台の橋幅方向架構体の平面図。
【図10】上記橋幅方向架構体の垂直断面図。
【図11】上記据付台の上下方向架構体の水平断面図。
【図12】上記削り装置のパイプ支持体、高圧水供給パイプ及び高圧水噴射ノズルを一部切欠して概示する説明図。
【図13】上記高圧水噴射ノズルの拡大断面図。
【図14】上記高圧水噴射ノズルの他例を示す拡大断面図。
【図15】上記高圧水噴射ノズルの扇形軌跡の揺動の説明図。
【図16】Aは上記削り装置に設ける飛散防止装置の蓋体の要部拡大断面図、Bは同要部拡大平面図、Cは上記飛散防止装置の蓋体の他例を示す要部拡大断面図、Dは同要部拡大平面図、Eは上記飛散防止装置の蓋体の更に他例を示す要部拡大断面図、Fは同要部拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明に係るコンクリート床版端部の遊間内面の補修工法における最良の形態を図1乃至図5に基づいて説明する。
【0015】
コンクリート床版1の端部が橋梁の支間長の両端に配された橋台2の床版支持座面4に支持されている橋梁においては、図1Aに示すように、上記コンクリート床版1端部の端面1aと上記橋台2の床版支持座面4内端の立ち上がり面5間に形成された橋幅方向に延び且つ垂直方向に貫通する遊間6の上部開口6aに伸縮継手3が配置されている。
【0016】
同様に、コンクリート床版1が橋梁の支間長の中間に配された橋脚2´の床版支持座面4に支持されている橋梁においては、図1Bに示すように、上記コンクリート床版1端部の端面1aと隣接コンクリート床版1´端部の端面1´a間に形成された橋幅方向に延び且つ垂直方向に貫通する遊間6の上部開口6aに伸縮継手3が配置されている。尚図中3aは上記伸縮継手3直下の上記遊間6の上部開口6aに間込めされた発泡スチロール等から成る止水材である。
【0017】
付言すると、本願においてコンクリート床版1とは現場打ちコンクリートにて成形されるコンクリート床版、又は工場で成形されるPCコンクリート床版、又は鋼桁(H形鋼桁等)と打設コンクリート床版又はPCコンクリート床版で形成した複合橋等におけるコンクリート製の床版を全て包含する。又本願においてコンクリート床版1とは路面をアスファルト等の舗装材で舗装した床版を含む。
【0018】
又上記補修工法は上記遊間6の上部開口6aに伸縮継手3が配置されていない場合の該遊間6の内面8の補修を包含する。
【0019】
以下、本発明の具体例を工程を追って説明する。
【0020】
<図1A,図2A参照>
コンクリート床版1端部が橋台2に支持されている場合には、該橋台2の床版支持座面4に支持されたコンクリート床版1端部の端面1aと、該端面1aと対向する同床版支持座面4内端の立ち上がり面5間に形成された遊間6の上部開口6aに配置された伸縮継手3を周囲の取付部コンクリート16と一緒に除去して上記上部開口6aを拡張する凹部空間7を形成する。
【0021】
<図1B,図2B参照>
コンクリート床版1が橋脚2´に支持されている場合には、該橋脚2´の床版支持座面4に支持されたコンクリート床版1端部の端面1aと、該端面1aと対向する同床版支持座面4に支持された隣接コンクリート床版1´端部の端面1´a間に形成された遊間6の上部開口6aに配置された伸縮継手3を周囲の取付部コンクリート16と一緒に除去して上記上部開口6aを拡張する凹部空間7を形成する。
【0022】
上記のように形成された凹部空間7内に露出した上記コンクリート床版1又は上記橋台2に埋設の補強鉄筋(縦筋)15の立ち上がり部は一定長残して切除し、補修後に後記する打設コンクリート13内に埋設する。
【0023】
<図3A参照>
次にコンクリート床版1の端部が橋台2に支持されている場合には、上記遊間6の上部開口6aから後記する削り装置21の高圧水噴射ノズル22を垂直(コンクリート床版の上面1bに対し垂直)に挿入し、該高圧水噴射ノズル22による上記遊間6内における高圧水噴射にて上記遊間6の内面8、即ち上記コンクリート床版端面1a又は/及び上記橋台2の立ち上がり面5(コンクリート床版端面1aと対向する立ち上がり面)のコンクリート表層部を削って縦方向削り空間9を削成し、該削り作業時に上記遊間6の内面8の下端8aを削らずに残存して上記縦方向削り空間9を制限する張り出し10を形成する。
【0024】
再述すると、後述する高圧水供給パイプ23を上記遊間6内に垂直に挿入した姿勢を保持しながら、該高圧水供給パイプ23及び同パイプ23下端の高圧水噴射ノズル22を橋幅方向に移動し上記遊間6の内面8の削り作業を行う。従って、上記縦方向削り空間9は上記遊間6の橋幅方向の両端に亘って削成され、同縦方向削り空間9の下端が上記張り出し10により制限され且つ上記張り出し10の端面10aに形成された下部開口6bによって開放されている。又上記張り出し10は上記遊間6の橋幅方向の両端に亘って形成される。
【0025】
<図3B参照>
同様にコンクリート床版1の端部が橋脚2´に支持されている場合には、上記遊間6の上部開口6aから後記する削り装置21の高圧水噴射ノズル22を垂直に挿入し、該高圧水噴射ノズル22による高圧水噴射にて上記遊間6の内面8、即ち上記コンクリート床版端面1a又は/及び上記隣接コンクリート床版端面1´aのコンクリート表層部を削って縦方向削り空間9を削成し、該削り作業時に上記遊間6の内面8の下端8aを削らずに残存して上記縦方向削り空間9を制限する張り出し10を形成する。
【0026】
再述すると、後述する高圧水供給パイプ23を上記遊間6内に垂直に挿入した姿勢を保持しながら、該高圧水供給パイプ23及び同パイプ23下端の高圧水噴射ノズル22を橋幅方向に移動し上記遊間6の内面8の削り作業を行う。従って、上記縦方向削り空間9は上記遊間6の橋幅方向の両端に亘って削成され、同縦方向削り空間9の下端が上記張り出し10により制限され且つ上記張り出し10の端面10aに形成された下部開口6bによって開放されている。又上記張り出し10は上記遊間6の橋幅方向の両端に亘って形成される。
【0027】
好ましくは、図3Bに示すように、上記削り作業前に上記コンクリート床版1端部の下面1c又は/及び上記隣接コンクリート床版1´端部の下面1´cを補強繊維入りポリマーセメントモルタル12´で補修することにより、上記張り出し10を該補強繊維入りポリマーセメントモルタル12´で形成し、該張り出し10を高靱性且つ高強度にして後記する型枠11の確実な立設を図ると共に、後記する縦方向削り空間9に充填する補修材12を適切に保持することができる。
【0028】
上記高圧水噴射ノズル22は上記高圧水供給パイプ23の軸線方向を中心として扇形軌跡で揺動しつつ上記遊間6内で上下方向(垂直方向)及び橋幅方向(水平方向)に往復動し、ムラなく上記遊間6の内面8のコンクリート表層部を削り、上記縦方向削り空間9を削成する。
【0029】
<図4A,図4B参照>
次に上記張り出し10の端面10aを基準として型枠11を立設し、該型枠11と上記張り出し10とによって画成された上記縦方向削り空間9内に補修材たるセメントモルタル12を充填する。即ち、上記型枠11と上記張り出し10の協働により充填するセメントモルタル12の漏洩を有効に防止し適切な充填作業が実行できる。
【0030】
上記セメントモルタル12はセメントとモルタルと水の混合物であり、これにポリマー樹脂を追加したポリマーセメントモルタル、又はこれに砂、砂利等の骨材を追加したコンクリート、又はこれに樹脂製や金属製や有機質製の補強繊維を混入した補強繊維入りセメントモルタル若しくは補強繊維入りポリマーセメントモルタルを含む。本願においてセメントモルタルとはこれらを総称する用語である。
【0031】
好ましくは上記縦方向削り空間9内に補強繊維入りポリマーセメントモルタル12´を充填して、高靱性且つ高強度の補修構造を付与する。
【0032】
上記補強繊維入りポリマーセメントモルタル12´には補強繊維としてビニロン繊維、又はポリエチレン繊維、又はビニロン繊維とポリエチレン繊維の混合繊維を混入し、所謂高靱性セメント複合材料(DFRCC: Ductile Fiber Reinforced Cementitious Composites)とする。
【0033】
上記補強繊維入りポリマーセメントモルタル12´たる高靱性セメント複合材料は硬化後の外力に対して自ら表層部に微細なひび割れを続発することにより曲げ、引張、圧縮破壊時の靱性が大幅に向上する材料であり、補修箇所の高靭性化、高強度化に貢献する。
【0034】
上記型枠11を立設する際の適例として、上記型枠11の外面側に橋幅方向に延びるチューブ14を添設し、該チューブ14を上記遊間6内で膨張させて型枠11を張り出し10の端面10aに押し付けて立設姿勢を保持する構成とする。好ましくは上記チューブ14を型枠11における張り出し10の端面10aと対峙する部分の外面側に添設する。
【0035】
更に適例として、上記型枠11を透視材にて形成し、該型枠11を通して上記縦方向削り空間9内へのセメントモルタル12、補強繊維入りポリマーセメントモルタル12´等の補修材の充填を確認する構成とし、確実に充填作業を遂行する。
【0036】
<図5A,図5B参照>
次に上記縦方向削り空間9内に充填したセメントモルタル12、補強繊維入りポリマーセメントモルタル12´等の補修材の硬化後、上記凹部空間7内にコンクリート13を打設して新たな伸縮継手3を埋設する。
【0037】
この際には上記凹部空間7の底面に孔を穿設して差し筋17を立設し、該差し筋17に上記新たな伸縮継手3を連結し、上記差し筋17及び新たな伸縮継手3を上記打設コンクリート13内に埋設し、補修作業を終了する。
【0038】
上記実施例は、削り作業時に上記遊間6の内面8の下端8aを削らずに残存して上記縦方向削り空間9を制限する張り出し10を形成し、該張り出し10の端面10aを基準として型枠11を立設し、該型枠11と上記張り出し10とによって画成された上記縦方向削り空間9内に補修材12を充填する補修工法としたが、上記縦方向削り空間9を制限する張り出し10を形成せずに上記遊間6の上部開口6aから下部開口6bに亘って内面8を削り、上記縦方向削り空間9の側面と下面に型枠を立設し該型枠によって画成された上記縦方向削り空間9内に補修材12を充填する補修工法を前提として思考したものである。
【0039】
続けて図6乃至図16に基づいて、本発明に係る補修工法の削り工程で使用する上記遊間6の内面8を削る削り装置21について説明する。
【0040】
該削り装置21は、図6に示すように、下端に高圧水噴射ノズル22を有する高圧水供給パイプ23を垂設し、該高圧水供給パイプ23を上下動して上記高圧水噴射ノズル22を上記遊間6内に挿抜可にすると共に、上記高圧水供給パイプ23を橋幅方向に往復動して上記高圧水噴射ノズル22を上記遊間6内に沿って往復動可にし、上記高圧水供給パイプ23を垂設しつつ上下動と橋幅方向往復動を可能に支持する据付台24を上記コンクリート床版1の上面1b(隣接コンクリート床版1´の上面1´b又は橋台2の上面2a)に据え付け、上記コンクリート床版1の上方から上記高圧水噴射ノズル22を上記遊間6内に差し入れつつ橋幅方向に移動して上記遊間6の内面を削る構成を有している。
【0041】
図7,図8にも示すように、上記据付台24は上記高圧水供給パイプ23を垂直に支持しつつ橋幅方向(図中X方向)、即ち水平方向に移動可能に支持する橋幅方向に延びる橋幅方向架構体24Aと、該橋幅方向架構体24Aを架構体支持体24Cを介して上下方向(図中Y方向)、即ち垂直方向に移動可能に支持する上下方向に延びる上下方向架構体24Bとを備える構成となっており、上記高圧水供給パイプ23下端の高圧水噴射ノズル22による高圧水噴射の反動と上記橋幅方向架構体24Aの重量に耐えるように据え付けられる。
【0042】
尚上記据付台24は上記高圧水供給パイプ23を垂直に支持しつつ該高圧水供給パイプ23を橋幅方向(図中X方向)と上下方向(図中Y方向)に移動可能に支持することができれば、上記の構成に限定されない。例えば上下方向架構体24Bに上記高圧水供給パイプ23を垂直に支持しつつ上下方向に移動可能に支持し、該上下方向架構体24Bを橋幅方向架構体24Aに橋幅方向に移動可能に支持することを排除しない。
【0043】
上記橋幅方向架構体24Aは、図9,図10に示すように、上記高圧水供給パイプ23を垂直に支持するパイプ支持体25と、該パイプ支持体25が備える複数の上部ローラー26に上下側から挾持され該上部ローラー26を橋幅方向に案内する一対の上部橋幅方向ガイドレール27と、同パイプ支持体25が備える複数の下部ローラー28に前後側から挾持され該下部ローラー28を橋幅方向に案内する下部橋幅方向ガイドレール29とを備える。
【0044】
又橋幅方向移動用油圧モータ30を備え、該油圧モータ30を動力源として橋幅方向移動用ピニオンギヤ31を回転し該ピニオンギヤ31と噛合する橋幅方向移動用ラック32を介して上記パイプ支持体25を橋幅方向に往復動させ、もって上記高圧水供給パイプ23を垂直姿勢のまま橋幅方向(図中X方向)に往復動させる。
【0045】
上記上下方向架構体24Bは、図11に示すように、上記架構体支持体24Cの複数の後部ローラー33に前後側及び左右側から挾持され該後部ローラー33を上下方向に案内する一対の上下方向ガイドレール34を備え、上記架構体支持体24Cが備える上下方向移動用油圧モータ35を動力源として上下方向移動用ピニオンギヤ36を回転し該ピニオンギヤ36と噛合する上下方向移動用ラック37を介して上記橋幅方向架構体24Aを上下方向に往復動させ、もって上記高圧水供給パイプ23を垂直姿勢のまま上下方向(図中Y方向)に往復動させる。
【0046】
尚上記した橋幅方向架構体24Aの橋幅方向移動機構及び上下方向架構体24Bの上下方向移動機構は既知の移動機構を応用することを排除しない。
【0047】
上記パイプ支持体25は、図12に示すように、高圧水供給パイプ23に水を供給する高圧水ホースと繋がるスイベルジョイント38を備えると共に、揺動用油圧モータ39を備え、該油圧モータ39を動力源とし既知のリンク機構40を介して上記高圧水供給パイプ23をその軸線方向を中心として扇形揺動(図中Z方向の揺動)させ、該高圧水供給パイプ23と共にその下端の高圧水噴射ノズル22を揺動させる。
【0048】
上記高圧水供給パイプ23及び上記高圧水噴射ノズル22の扇形揺動角度は好ましくは90度とし、該揺動により狭小空間における削り作業を有効に実施し削りムラのない縦方向削り空間9を削成できる。
【0049】
上記した据付台24はコンクリート床版1の上面1b上に直接据え付ける。又は隣接コンクリート床版1´の上面1´b上又は橋台2の上面2a上に直接据え付けてもよい。
【0050】
又は上記した据付台24は自走可能な車輌50上に据え付けて上記コンクリート床版1の上面1b(又は隣接コンクリート床版1´の上面1´b又は橋台2の上面2a)上を移動し、据え付け箇所を自在に変えることができる。この場合、自走の動力源として既知のエンジン、又は油圧モータを動力源とすることができる。
【0051】
特に自走の動力源を油圧モータとすれば、上記橋幅方向移動用油圧モータ30、上記上下方向移動用油圧モータ35及び上記揺動用油圧モータ39と電源を共有でき、排ガスが全く出ず環境負荷の少ない装置とすることができる。
【0052】
好ましくは既知のリモートコントローラを介して有線又は無線で上記自走用油圧モータ、上記橋幅方向移動用油圧モータ30、上記上下方向移動用油圧モータ35及び上記揺動用油圧モータ39を制御し無人で操作できるようにする。
【0053】
尚図6中の41は上記自走車輛50の後方に支持され上記据付台24の転倒を防止するカウンターウェイトである。該カウンターウェイト41はコンクリート床版1の上面1bから間隔を置いて上方で支持され、上記据付台24のバランスを保つと共に、上記高圧水噴射ノズル22からの高圧水噴射の反動による揺れを軽減する。
【0054】
上記高圧水供給パイプ23は、図12に示すように、外パイプ23Aと内パイプ23Bとを備える二重管構造とし、該内パイプ23Bはボールベアリング、ニードルベアリング等のベアリング42により複数個所で支持され、軸線方向を中心とした揺動(図中Z方向の揺動)を許容されつつ強固に支持されている。
【0055】
上記外パイプ23Aの外径は上記遊間6の橋長方向の幅よりも僅かに小さく設定し、上記遊間6内での上記外パイプ23Aの移動を可能とする。例えば、上記遊間6の橋長方向の幅が70mmの場合には50mm程度に設定する。
【0056】
上記高圧水噴射ノズル22は上記高圧水供給パイプ23の下端、具体的には内パイプ23Bの下端に設けられ、図13に示すように、噴射口22aを有するノズルユニット22bと該ノズルユニット22bを保護する金属製の円筒状のノズルユニット保護部22cを備え、該ノズルユニット保護部22cに切削したネジ孔22dに上記ノズルユニット22bを螺合して設け、上記噴射口22aにより高圧水を噴射しつつ上記高圧水供給パイプ23の内パイプ23Bと一緒に揺動する。
【0057】
上記ノズルユニット保護部22cの外径は上記高圧水供給パイプ23の外パイプ23Aと同様に上記遊間6の橋長方向の幅よりも僅かに小さく設定し、上記遊間6内での上記高圧水噴射ノズル22の移動を可能とする。更に上記ノズルユニット22bの先端面は上記ノズルユニット保護部22cから突出しないように設け、確実に上記遊間6内での上記高圧水噴射ノズル22の移動を可能とする。
【0058】
上記高圧水噴射ノズル22は上記ネジ孔22dの切削角度を可変することにより、上記ノズルユニット22bが有する噴射口22aの開口角度を可変することができ、該噴射口22aからの高圧水の噴射角度を可変することができる。
【0059】
上記高圧水噴射ノズル22は必要な場合には上記上下方向架構体24Bによる下動により上記遊間6の下端、即ち上記遊間6の下部開口6bより突出し、上記コンクリート床版端面1aと同下面1cとが交差する出隅角を削ることができる。
【0060】
又上記高圧水噴射ノズル22の噴射口22aを上記遊間6内で下向きに開口するよう配置し、上記遊間6内に突出部が形成されている場合には、該突出部を削って上記遊間6の橋長方向の幅を上記高圧水噴射ノズル22が挿入可能な幅に拡張することができる。同様に上記噴射口22aを上記遊間6内で下向きに開口するよう配置する場合には上記遊間6内に既設された発泡スチロール等から成る止水材を除去することもできる。
【0061】
又図14に示すように、上記高圧水供給パイプ23の下端に上記遊間6を形成する一方の内面8を削る高圧水を噴射する噴射口22aと、同遊間6を形成する他方の内面8を削る高圧水を噴射する噴射口22aとを有する高圧水噴射ノズル22を備えることができる。
【0062】
換言すると、上記高圧水供給パイプ23の下端に互いに噴射口22aによる噴射方向が逆向きの一対のノズルユニット22bを有する高圧水噴射ノズル22を備え、上記遊間6を形成する両内面8を同時に削ることができる。
【0063】
又上記削り装置21は、図6,図16に示すように、上記高圧水噴射ノズル22によって削られたコンクリート片の上記コンクリート床版1の上面1b(又は隣接コンクリート床版1´の上面1´b又は橋台2の上面2a)への飛散を防止する装置43を上記遊間6の上部開口6aに沿って設置する。高速道路の橋梁のように、補修工事の際に全面通行止めが不可能な場合には上記削り装置21の脇を通過する車輛にコンクリート片が当たると重大事故につながりかねず、該コンクリート片の上記コンクリート床版1の上面1bへの飛散を確実に防止する。
【0064】
上記飛散防止装置43はコンクリート床版1の上面1b上から橋台2の上面2a上、又はコンクリート床版1の上面1b上から隣接コンクリート床版1´の上面1´b上に亘り敷設する鉄板等の金属製板から成る設置板44を備え、該設置板44に上記高圧水噴射ノズル22及び上記高圧水供給パイプ23を挿通する第一スリット45を穿設し、該第一スリット45に上記高圧水噴射ノズル22及び上記高圧水供給パイプ23を挿通して削り作業を行いつつ裏面により上記高圧水噴射ノズル22によって削られたコンクリート片の上記コンクリート床版1の上面1bへの飛散を防止する。
【0065】
更に図16A,図16Bに示すように、上記設置板44の第一スリット45を跨いで設置される断面U字状又は断面コ字状の蓋体46を設け、該蓋体46に上記第一スリット45から所要の高さを介して開口し上記高圧水噴射ノズル22及び上記高圧水供給パイプ23を挿通する第二スリット47を穿設する。該蓋体46の内側壁面及び内天面で上記設置板44の第一スリット45から飛び出たコンクリート片の飛散を防止する。
【0066】
好ましくは、図16C,図16Dに示すように、上記蓋体46の第二スリット47の橋幅方向に延びる縁部47aに沿ってブラシ48を設けるか、又は図16E,図16Fに示すように、上記蓋体46の第二スリット47の橋幅方向に延びる縁部47aに沿ってゴム片等からなる可撓片49を設け、より確実にコンクリート片の飛散を防止する。
【0067】
以上のように、本発明に係る補修工法は従来困難とされていた橋梁におけるコンクリート床版端部に形成された遊間内面の補修を適切に行うことができ、もって橋梁の健全な保全に貢献することができる。
【0068】
又上記削り装置21により上記高圧水噴射ノズル22を高圧水供給パイプ23の軸線方向を中心に揺動(図中Z方向に揺動)しながら上下方向(図中X方向)及び橋幅方向(図中Y方向)に自在に移動し、上記遊間6の内面8をムラなく削ることができると共に、上記削り装置21に飛散防止装置43を設けることにより、作業者と橋梁の利用者の安全を確保しつつ適切な補修作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0069】
1…コンクリート床版、1a…コンクリート床版端部端面、1b…コンクリート床版端部上面、1c…コンクリート床版端部下面、1´…隣接コンクリート床版、1´a…隣接コンクリート床版端部端面、1´b…隣接コンクリート床版端部上面、1´c…隣接コンクリート床版端部下面、2…橋台、2´…橋脚、3…伸縮継手、4…床版支持座面、5…立ち上がり面、6…遊間、6a…上部開口、6b…下部開口、7…凹部空間、8…遊間内面、8a…遊間内面の下端、9…縦方向削り空間、10…張り出し、10a…張り出し端面、11…型枠、12…セメントモルタル(補修材)、12´…補強繊維入りポリマーセメントモルタル(補修材)、13…打設コンクリート、14…チューブ、15…補強鉄筋、16…取付部コンクリート、17…差し筋、21…削り装置、22…高圧水噴射ノズル、22a…噴射口、22b…ノズルユニット、22c…ノズルユニット保護部、22d…ネジ孔、23…高圧水供給パイプ、23A…外パイプ、23B…内パイプ、24…据付台、24A…橋幅方向架構体、24B…上下方向架構体、24C…架構体支持体、25…パイプ支持体、26…上部ローラー、27…上部橋幅方向ガイドレール、28…下部ローラー、29…下部橋幅方向ガイドレール、30…橋幅方向移動用油圧モータ、31…橋幅方向移動用ピニオンギヤ、32…橋幅方向移動用ラック、33…後部ローラー、34…上下方向ガイドレール、35…上下方向移動用油圧モータ、36…上下方向移動用ピニオンギヤ、37…上下方向移動用ラック、38…スイベルジョイント、39…揺動用油圧モータ、40…リンク機構、41…カウンターウェイト、42…ベアリング、43…飛散防止装置、44…設置板、45…第一スリット、46…蓋体、47…第二スリット、47a…橋幅方向に延びる縁部、48…ブラシ、49…可撓片、50…自走車輛。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁におけるコンクリート床版端部に形成された遊間の上部開口から高圧水噴射ノズルを挿入し、該高圧水噴射ノズルによる高圧水噴射にて上記遊間内面のコンクリート表層部を削って縦方向削り空間を削成し、該削り作業時に上記遊間内面の下端を削らずに残存して上記縦方向削り空間を制限する張り出しを形成し、該張り出しの端面を基準として型枠を立設し、該型枠と上記張り出しとによって画成された上記縦方向削り空間内に補修材を充填することを特徴とするコンクリート床版端部の遊間内面の補修工法。
【請求項2】
上記縦方向削り空間内へ充填する補修材が補強繊維入りポリマーセメントモルタルであることを特徴とする請求項1記載のコンクリート床版端部の遊間内面の補修工法。
【請求項3】
上記コンクリート床版端部の下面が補強繊維入りポリマーセメントモルタルで補修され、上記張り出しを該補強繊維入りポリマーセメントモルタルで形成することを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載のコンクリート床版端部の遊間内面の補修工法。
【請求項4】
上記型枠を透視材にて形成し、該型枠を通して上記縦方向削り空間内への補修材の充填を確認する構成としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のコンクリート床版端部の遊間内面の補修工法。
【請求項5】
上記遊間内でチューブを膨張させて上記型枠を上記張り出しの端面に押し付けて立設姿勢を保持する構成としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載のコンクリート床版端部の遊間内面の補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−100700(P2013−100700A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246001(P2011−246001)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名…ハイウェイテクノフェア2011 高速道路を支える最先端技術 主催者名…財団法人高速道路調査会 開催日…平成23年10月27日
【出願人】(509264268)中日本ハイウェイ・メンテナンス北陸株式会社 (4)
【出願人】(308029600)株式会社デーロス・ジャパン (2)
【Fターム(参考)】