説明

コンクリート床版防水用の積層シート

【課題】アスファルトとの接着性に優れたコンクリート床版防水用の積層シートを提供すること。
【解決手段】下層、中間層および上層からなる3層構造であり、下層が熱可塑性ポリウレタンのシートであり、中間層がエチレン−酢酸ビニル共重合体のシートであり、上層がエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布であり、JIS L 1096−A(フラジール法):1990に基づいて測定される前記エチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布の通気度が100〜550cm/cm/sの範囲である、コンクリート床版防水用の積層シート。かかる積層シートは、アスファルトに対して充分な接着性を示すコンクリート床版防水用の防水層として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版防水用の積層シートおよび該積層シートを用いるコンクリート床版の防水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等のコンクリート床版には、一般に、舗装材としてアスファルトが積層される。さらに、コンクリート床版への水の浸入を防止するために、コンクリート床版とアスファルト層との間に防水層を設けることが一般的である。この防水層として、これまで、様々なものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ウレタン系防水材層および熱可塑性樹脂シートから構成される防水層が提案され、熱可塑性樹脂シートとして発泡シートが記載されている。また、特許文献2では、ウレタン系防水材層および多孔性の熱可塑性樹脂シートから構成される防水層が提案されている。特許文献1および2のいずれの防水層も、熱可塑性樹脂シートがアスファルトと接触するように用いられる。
【0004】
なお、特許文献1および2の出願人は同一であり、これらの文献では、いずれも、ウレタン系防水材層として熱硬化性ポリウレタンを使用することしか記載していない。熱硬化性ポリウレタンを使用する理由としては、特許文献2の段落[0002]にて、熱可塑性樹脂からなるシートは、防水層として耐久性に問題がある旨が記載されている。熱硬化性ポリウレタンを使用する特許文献1および2では、コンクリート床版/熱硬化性ポリウレタン層/熱可塑性樹脂シート/アスファルトという床版防水構造を形成するために、コンクリート床版上に熱硬化性ポリウレタンを塗布した後、これを架橋・硬化させ、次いで架橋して得られたウレタン系防水材層に接着剤を塗布してから、熱可塑性樹脂シートを積層するという方法を採用している。しかし、この方法では、熱硬化性ポリウレタンの塗布および架橋・硬化、並びに熱可塑性樹脂シートを積層するための接着剤の塗布などに、時間および手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−313817号公報
【特許文献2】特開2005−113376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、アスファルトとの接着性に優れたコンクリート床版防水用の積層シートを提供することにある。本発明の別の目的は、従来技術よりも簡便なコンクリート床版の防水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性ポリウレタンのシート、エチレン−酢酸ビニル共重合体のシート、および特定のエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布からなる3層構造の積層シートをコンクリート床版の防水層として用いれば、防水層とアスファルトとの充分な接着性を確保でき、且つコンクリート床版の防水工法をより簡便に実施し得ることを見出した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0008】
[1] 下層、中間層および上層からなる3層構造であり、
下層が熱可塑性ポリウレタンのシートであり、中間層がエチレン−酢酸ビニル共重合体のシートであり、上層がエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布であり、
JIS L 1096−A(フラジール法):1990に基づいて測定される上層のエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布の通気度が100〜550cm/cm/sの範囲である、コンクリート床版防水用の積層シート。
[2] 下層および中間層が、熱可塑性ポリウレタンおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体の共押出によって製造されたものである、前記[1]に記載の積層シート。
[3] 熱可塑性ポリウレタンがポリエーテルジオール成分を含むものである、前記[1]または[2]に記載の積層シート。
[4] JIS K 7121:1987に基づいて測定される中間層のエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点が40〜110℃である、前記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の積層シート。
[5] JIS K 7121:1987に基づいて測定される上層のエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点が40〜110℃である、前記[1]〜[4]のいずれか一つに記載の積層シート。
[6] コンクリート床版上に前記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の積層シートを、その上層が上となるように積層し、次いで前記上層とアスファルトとが接触するようにアスファルトを積層する、コンクリート床版の防水工法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート床版防水用の積層シートは、アスファルトに対して充分な接着性を示す。本発明の積層シートを用いれば、コンクリート床版上に積層シートを敷設し、この上にアスファルトを積層するだけでコンクリート床版の防水工法を実施できる。すなわち、本発明の防水工法は、熱硬化性ポリウレタンの塗布および架橋・硬化等が不要となり、より簡便に実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。なお、本発明において「コンクリート床版防水用の積層シート」とは、コンクリート床版の防水層として用いられ、その上層とアスファルトが接触するように、アスファルトが積層される積層シートを意味する。また、「コンクリート床版の防水工法」とは、コンクリート床版とアスファルトとの間に防水層を設けることによって、コンクリート床版への水の浸入を防止するために実施される方法を意味する。
【0011】
本発明のコンクリート床版防水用の積層シートは、下層、中間層および上層からなる3層構造であり、下層が熱可塑性ポリウレタンのシートであり、中間層がエチレン−酢酸ビニル共重合体のシートであり、上層がエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布である。
【0012】
本発明のコンクリート床版防水用の積層シートは、下層として熱可塑性ポリウレタンのシートを用いることを特徴の一つとする。本発明では、予め成形した熱可塑性ポリウレタンのシートを下層として使用することで、コンクリート床版の防水層に求められる充分な耐久性を確保することができる。
【0013】
熱可塑性ポリウレタンは、市販品を使用してもよく、また、市販の原料から製造してもよい。熱可塑性ポリウレタンは、一般に、ジイソシアネートおよび高分子ジオール並びに必要に応じて鎖伸長剤のウレタン化反応で製造される。ウレタン化反応では、必要に応じてウレタン化触媒を使用してもよい。
【0014】
ジイソシアネートは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ジイソシアネートなどを挙げることができる。これらの中でもMDIが好ましい。
【0015】
熱可塑性ポリウレタン中のジイソシアネートに由来する窒素原子の含有量は、好ましくは1.5質量%以上(より好ましくは2質量%以上)、好ましくは6質量%以下(より好ましくは5質量%以下)である。窒素原子の含有量が1.5質量%未満であると、熱可塑性ポリウレタン中のハードセグメントの含有量が低く、成形性、耐摩耗性、力学物性等の諸性能が不充分となることがある。また窒素原子の含有量が6質量%を超えると、熱可塑性ポリウレタンの硬度が高くなり、柔軟性、力学物性等の諸性能が不充分になることがあり、しかも押出成形時に未溶融物が発生し易くなる。なお、上記の窒素原子の含有量は元素分析、NMR等の手段により測定することができる。
【0016】
高分子ジオールは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。高分子ジオールとしては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオール、共役ジエン系高分子ジオール、ポリオレフィンジオールなどを挙げることができる。これらの中でも、ポリエーテルジオールが好ましい。ポリエーテルジオール成分を含む熱可塑性ポリウレタンは、その入手容易性および価格、並びに防水層の耐水性の観点から好ましい。
【0017】
ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等を挙げることができる。これらの中でも、力学物性、耐熱性、成形性に優れた熱可塑性ポリウレタンが得られることから、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。
【0018】
ポリエステルジオールとしては、例えば、(1)ジオールとジカルボン酸(またはその誘導体)とのエステル化反応によって得られるもの;(2)ラクトンを開環重合することによって得られるもの;などを挙げることができる。
【0019】
ジオールは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ジオールとしては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノール等の脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族ジオール;が挙げられる。
【0020】
ジカルボン酸は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ジカルボン酸としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;が挙げられる。
【0021】
ラクトンは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等を挙げることができる。
【0022】
ポリカーボネートジオールとしては、例えば、ジオールとカーボネート化合物との反応により得られるものを挙げることができる。ポリカーボネートジオールを構成するジオールとしては、上述したものが挙げられる。また、カーボネート化合物としては、例えば、ジアルキルカーボネート(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等)、アルキレンカーボネート(エチレンカーボネート等)、ジアリールカーボネート(ジフェニルカーボネート等)を挙げることができる。
【0023】
ポリエステルポリカーボネートジオールとしては、例えば、(1)ジオール、ジカルボン酸(またはその誘導体)およびカーボネート化合物を、同時に反応させて得られるもの;(2)まずポリエステルジオールを合成し、次いでこれをカーボネート化合物と反応させて得られるもの;(3)まずポリカーボネートジオールを合成し、次いでこれをジカルボン酸成分と反応させて得られるもの;を挙げることができる。
【0024】
共役ジエン系高分子ジオールは、例えば、共役ジエン(ブタジエン、イソプレン等)および必要に応じて他のモノマーを重合して得られたポリマーの重合性末端に、水酸基含有化合物によって水酸基を導入することによって製造することができる。共役ジエン系高分子ジオールとしては、例えば、ポリイソプレンジオール、ポリブタジエンジオール、ブタジエン/イソプレンコポリマージオール、ブタジエン/アクリロニトリルコポリマージオール、ブタジエン/スチレンコポリマージオール等が挙げられる。
【0025】
ポリオレフィンジオールは、例えば、上記共役ジエン系高分子ジオールを水素添加することによって製造することができる。
【0026】
高分子ジオールの分子量(数平均分子量)は、通常、500〜5,000、好ましくは1,000〜3,000である。この分子量が500以上であると、成形性、耐摩耗性、強度などの諸性能に優れた熱可塑性ポリウレタンを得ることができる。一方、この分子量が5,000以下であると、得られる熱可塑性ポリウレタンの成形性(特に押出成形性)および引張強度が良好となる。なお、高分子ジオールの分子量は、JIS K 1557:1970に基いて測定される水酸基価から算出される分子量である。
【0027】
熱可塑性ポリウレタンを製造するウレタン化反応では、必要に応じて、1種または2種以上の鎖伸長剤を使用してもよい。鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール等の芳香族ジオール;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンあるいはその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコール等のアミノアルコール類;などが挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールがより好ましい。
【0028】
熱可塑性ポリウレタンを製造するウレタン化反応では、必要に応じて、1種または2種以上のウレタン化触媒を使用してもよい。本発明においてウレタン化触媒には特に限定は無いが、例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス(3−メルカプトプロピオン酸エトキシブチルエステル)塩等の有機スズ系化合物;チタン酸、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンアセチルアセトネート等の有機チタン系化合物;トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン系化合物;などが挙げられる。
【0029】
熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度は、好ましくは100〜6000Pa・s、より好ましくは500〜4000Pa・sである。好ましい範囲の溶融粘度を有する熱可塑性ポリウレタンは、溶融成形性および力学的特性に優れる。なお、本明細書において、溶融粘度は、80℃および1.3×10Pa(10Torr)以下で2時間減圧乾燥した熱可塑性ポリウレタンを、荷重:490.3N(50kgf)、ノズル寸法:直径1mm×長さ10mm、温度:190℃の条件下で高化式フローテスター(株式会社島津製作所製)を使用して測定した値である。
【0030】
熱可塑性ポリウレタンは、3官能以上である多官能性化合物、例えば、ポリイソシアネート、高分子ポリオールに由来する成分を含んでいてもよい。但し、熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度を上記好ましい範囲とする観点からは、3官能以上であるポリイソシアネートの量は、ジイソシアネートに対して5モル%以下、好ましくは3モル%以下である。同様に、3官能以上である高分子ポリオールの量は、ジオールに対して5モル%以下、好ましくは3モル%以下である。
【0031】
下層である熱可塑性ポリウレタンのシートの厚さは、通常、0.05〜5mm、好ましくは0.5〜2mmである。なお、厚さは、本発明の積層シートに荷重を与えていない条件下で測定した値である。中間層の厚さおよび上層の厚さも同様である。この厚さが0.05mmより小さいと、例えば車両等の荷重により、下層が破損し、防水性が損なわれるおそれがある。一方、この厚さが5mmを超えると、例えば本発明の積層シートをロール形状にした際に、カールが発生し、作業性が損なわれるおそれがある。
【0032】
次に中間層について説明する。本発明の積層シートは、中間層としてエチレン−酢酸ビニル共重合体のシートを使用することを特徴の一つとする。上述の特許文献1および2では、ウレタン系防水材層と発泡または多孔性の熱可塑性樹脂シートとを接着させるために液状の接着剤を使用している。しかし、液状の接着剤は上層である発泡または多孔性の熱可塑性樹脂シートの孔の中に浸透して孔をふさいでしまい、その結果、発泡または多孔性の熱可塑性樹脂シートとアスファルトとの接着性に悪影響を及ぼす。この点、本発明のように、熱可塑性ポリウレタンのシート(下層)とエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布(上層)との間にエチレン−酢酸ビニル共重合体のシート(中間層)を使用することで、上述の悪影響を防ぐことができる。
【0033】
中間層で使用するエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点は、好ましくは40〜110℃、より好ましくは50〜90℃である。この融点が40℃未満であると、本発明の積層シートを保存する際に、外気温によっては中間層が溶融して上層の不織布へ移行し、不織布の通気度に悪影響を及ぼすおそれがある。また、この融点が110℃を超えると、中間層と上層の不織布とを接着させる際に、不織布の融点以上の温度で熱ラミネートする必要があるため、不織布が溶融して、その通気度に悪影響を及ぼすおそれがある。なお、本発明においてエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点は、JIS K 7121:1987に基づいて測定される値である。後述の上層で使用するエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点も同様である。
【0034】
中間層であるエチレン−酢酸ビニル共重合体のシートの厚さは、通常、0.01〜2mm、好ましくは0.1〜1mmである。
【0035】
本発明の積層シートは、下層および中間層を、それぞれ熱可塑性樹脂、即ち熱可塑性ポリウレタンおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体から製造する。これらの下層および中間層は共押出によって製造でき、熱可塑性ポリウレタンのシート(下層)とエチレン−酢酸ビニル共重合体のシート(中間層)とが良好に接着した共押出シートを簡便に製造できる。なお、共押出の方法および条件は、熱可塑性樹脂の分野で周知であり、当業者であれば、以下の実施例および常法に基づき、適宜行うことができる。
【0036】
次に上層について説明する。本発明の積層シートは100〜550cm/cm/sの範囲の通気度を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布を使用することを特徴の一つとする。なお、本発明において通気度は、JIS L 1096−A(フラジール法):1990に基づいて測定される値である。後述する実施例および比較例で示すように、通気度がこの範囲外であると、上層とアスファルトとの充分な接着性を確保することができない。通気度は、好ましくは150〜350cm/cm/sである。
【0037】
上層であるエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布の厚さは、通常、0.1〜5mm、好ましくは1〜3mmである。この厚さが0.1mm未満であると、アスファルトとの充分な接触面積が確保できず、接着強度が不充分となる傾向がある。一方、この厚さが5mmを超えると、アスファルトが不織布下部まで浸透しにくく、不織布の一部に未浸透部分が生じ、充分な接着強度が得られなくなる傾向がある。
【0038】
上層であるエチレン−酢酸ビニル共重合体の前記不織布の通気度をQ(cm/cm/s)とし、その厚さをt(mm)とした場合、Q/tの値は、好ましくは50〜500cm/cm/s/mm、より好ましくは100〜400cm/cm/s/mmである。Q/tの値が50cm/cm/s/mm未満であると、アスファルトが不織布下部まで浸透しにくく、不織布の一部に未浸透部分が生じ、充分な接着強度が得られなくなる傾向がある。一方、Q/tの値が500cm/cm/s/mmを超えると、アスファルトとの接触面積が減少し、充分な接着強度が得られなくなる傾向がある。
【0039】
上層で使用するエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点は、好ましくは40〜110℃、より好ましくは50〜70℃である。この融点が40℃未満であると、本発明の積層シートを保存する際に、外気温によっては不織布が溶融して、通気度に悪影響を及ぼすおそれがある。一方、この融点が110℃を超えると、アスファルト(特に110℃付近の比較的低温で施工される場合)に対する充分な接着強度が得られなくなるおそれがある。
【0040】
上層であるエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布と、中間層であるエチレン−酢酸ビニル共重合体のシートとの接着は、例えば、これらを積層した後、熱ラミネートする方法が挙げられる。なお、熱ラミネートの方法および条件は、熱可塑性樹脂の分野で周知であり、当業者であれば、以下の実施例および常法に基づき、適宜行うことができる。
【0041】
本発明の積層シートを構成する熱可塑性ポリウレタンのシート、エチレン−酢酸ビニル共重合体のシート、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布はいずれも、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で添加剤、老化防止剤、可塑剤等を含有していてもよい。
【0042】
本発明は、コンクリート床版の防水工法も提供する。本発明の防水工法は、コンクリート床版上に前記積層シートを、その上層が上となるように敷設し、次いで前記上層にアスファルトを積層することによって行う。本発明の防水工法は、熱硬化性ポリウレタンの塗布および架橋・硬化などが不要であり、簡便に実施することができる。
【0043】
本発明の防水工法では、コンクリート床版上に積層シートを敷設する前に、常法に従って、コンクリート床版の前処理を行うことが好ましい。前処理としては、例えばコンクリート床版の表面の平滑化処理およびプライマー塗布などが挙げられる。また、コンクリート床版上に積層シートを敷設する際には、積層シートを固定するために接着剤を使用することが好ましい。接着剤としては、下層との親和性の高いウレタン系接着剤が好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
(1)原料
実施例および比較例において、下層および中間層の製造に使用した原料、並びに上層に使用したエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布を、以下に列挙する。
【0046】
(1−1)熱可塑性ポリウレタンのシート(下層)の原料
TPU−1:下記方法で得られた熱可塑性ポリウレタン(溶融粘度:1300Pa・s、ジイソシアネートに由来する窒素原子の含有量:2.1質量%)
【0047】
(TPU−1の製造)
20質量ppmのウレタン化触媒(ジブチルスズジアセテート)を含むポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量2000)、1,4−ブタンジオール(BD)および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、PTMG:BD:MDI=1.0:0.9:1.9のモル比で、且つこれらの合計供給量が200g/分となるようにして、同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンを前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続供給して、260℃で連続溶融重合させて、ウレタン化反応を行い、得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出し、次いでペレタイザーで切断して、得られたペレットを60℃で4時間乾燥することによって、TPU−1を製造した。
【0048】
(1−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体のシート(中間層)の原料
EVA−1:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV150」(融点60℃)
EVA−2:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV40LX」(融点40℃)
【0049】
(1−3)上層に使用したエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布
U−1:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV150」(融点60℃)から下記方法で得られた不織布(目付け300g/m、通気度323cm/cm/s、厚さ1.6mm)
U−2:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV40LX」(融点40℃)から下記方法で得られた不織布(目付け470g/m、通気度260cm/cm/s、厚さ1.5mm)
U−3:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV560」(融点90℃)から下記方法で得られた不織布(目付け280g/m、通気度350cm/cm/s、厚さ1.3mm)
U−4:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV150」(融点60℃)から下記方法で得られた不織布(目付け100g/m、通気度540cm/cm/s、厚さ1.3mm)
U−5:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV150」(融点60℃)から下記方法で得られた不織布(目付け740g/m、通気度180cm/cm/s、厚さ2.3mm)
U−6:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV150」(融点60℃)から下記方法で得られた不織布(目付け30g/m、通気度800cm/cm/s、厚さ0.5mm)
U−7:三井デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV150」(融点60℃)から下記方法で得られた不織布(目付け1200g/m、通気度95cm/cm/s、厚さ3.7mm)
【0050】
(U−1の製造)
エバフレックスEV150を、押出機にて押し出して、幅が1mであり、1000個のホール(孔径φ0.4mm)を有するノズルを備えたメルトブローン不織布製造装置に供給し、単孔吐出量0.4g/min、樹脂温度270℃、熱風温度285℃、風量11Nm/min/mおよびノズルと成形機との距離30cmの条件にて、溶融させたエバフレックスEV150を、成形機の金網上に巻き出したPET系サーマルボンド(シンワ(株)製、目付け18g/m)上に直接吹き付けて、U−1を得た。
(U−2の製造)
原料としてエバフレックスEV40LXを用い、不織布製造装置の条件を樹脂温度250℃および熱風温度265℃に変更した以外はU−1と同様にして、U−2を得た。
(U−3の製造)
原料としてエバフレックスEV560を用い、不織布製造装置の条件を樹脂温度300℃および熱風温度310℃に変更した以外はU−1と同様にして、U−3を得た。
(U−4〜U−7の製造)
U−1と同様にして、通気度が異なるU−4〜U−7を得た。
【0051】
(2)アスファルト接着性の評価
実施例および比較例で製造した2層または3層構造の積層シートとアスファルトとの接着性を以下のようにして評価した。
【0052】
(2−1)試験片の作製
市販のJIS規格の舗道板(30cm×30cm×6cm)のコンクリート表面を、ショットブラスト処理して平滑化した。次いでエポキシ樹脂を主成分とするプライマーをローラー塗布した(厚さ0.2mm)。プライマーの乾燥後に、ウレタン系接着剤をローラー塗布し(厚さ2.5mm)、その上に、実施例1〜7並びに比較例1、2および4で得られた積層シートを、下層がウレタン系接着剤と接触するようにして配置し、ウレタン系接着剤を硬化させた。次いで、積層シート上に、110℃に加熱されたアスファルト舗装(厚さ10cm)を施して、積層シートの上層(比較例4のみ中間層)とアスファルトとが直接接触した試験体を作製した。この試験体のアスファルト表面の中央部から、8×8cmのサイズの試験片を切り出した。
【0053】
(2−2)アスファルト接着性の測定
上記のようにして得られた試験片の積層シートとアスファルトとの接着面に対し垂直方向に荷重を加え、積層シートとアスファルトとが剥がれるまで(即ち、接着面が剥離するか、または材料が破壊されるまで)試験を行い、最大荷重(N)を測定した。この最大荷重を接着面積で除した値を、アスファルト接着性(引張接着強度)(N/mm)として算出した。
【0054】
実施例1
TPU−1およびEVA−1から、熱可塑性ポリウレタン用の単軸混練押出機(φ=30mm、L/D=38)およびエチレン−酢酸ビニル共重合体用の単軸混練押出機(φ=25、L/D=25)の合計2台の単軸混練押出機を使用するフィードブロック方式の共押出製膜によって、下層および中間層の共押出シートを製造した(下層の厚さ1.0mm、中間層の厚さ0.2mm、共押出シート全体の厚さ1.2mm)。詳細には、TPU−1およびEVA−1を、それぞれの単軸混練押出機のホッパー口から連続的に供給して共押出し、Tダイ(ダイ幅300mm、リップ幅1.2mm)から流出した樹脂をキャスティングロールで引き取ることによって、共押出シートを製造した。各押出機の温度は170℃〜200℃を保持し、引き取り速度は0.3m/minとした。キャスティングロールは鏡面のものを使用し、冷水循環装置でロール温度を35℃に保った。
【0055】
得られた共押出シートのエチレン−酢酸ビニル共重合体面に、上層(エチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布)としてU−1を積層し、これらに120℃の熱ラミネートを施して、3層構造のシート1を得た。シート1の構成およびアスファルト接着性の結果を表1に示す。
【0056】
実施例2〜7、比較例1および2
表1および2に記載する原料および不織布を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、3層構造のシート2〜9を得た。シート2〜9の構成およびアスファルト接着性の結果を表2に示す。
【0057】
比較例3
熱可塑性ポリウレタン(TPU−1)を、単軸押出機(φ=30mm、L/D=38)のホッパー口から連続的に供給して押出し、Tダイ(ダイ幅300mm、リップ幅1.0mm)から流出した熱可塑性ポリウレタンをキャスティングロールで引き取ることによって、TPU−1の単層シート(厚さ1mm)を得た。この際、押出機の温度は170℃〜200℃を保持し、引き取り速度は0.3m/minとした。キャスティングロールは鏡面のものを使用し、冷水循環装置でロール温度を35℃に保った。
【0058】
得られた単層シートに、上層(エチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布)としてU−1を積層し、これらに120℃の熱ラミネートを施したが、TPU−1とU−1とは充分に接着せず、積層シートを得ることができなかった。
【0059】
比較例4
TPU−1およびEVA−1から、熱可塑性ポリウレタン用の単軸混練押出機(φ=30mm、L/D=38)およびエチレン−酢酸ビニル共重合体用の単軸混練押出機(φ=25、L/D=25)の合計2台の単軸混練押出機を使用するフィードブロック方式の共押出製膜によって、下層および中間層の共押出シートを製造した(下層の厚さ1.0mm、中間層の厚さ0.2mm、共押出シート全体の厚さ1.2mm)。詳細には、TPU−1およびEVA−1を、それぞれの単軸混練押出機のホッパー口から連続的に供給して共押出し、Tダイ(ダイ幅300mm、リップ幅1.2mm)から流出した樹脂をキャスティングロールで引き取ることによって、共押出シートを製造した。各押出機の温度は170℃〜200℃を保持し、引き取り速度は0.3m/minとした。キャスティングロールは鏡面のものを使用し、冷水循環装置でロール温度を35℃に保った。得られた2層の共押出シートをシート10として、そのアスファルト接着性を評価した。シート10の構成およびアスファルト接着性の結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1に示すように、実施例1〜7(シート1〜7)では、アスファルト接着性が高く、上層(エチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布)のアスファルト浸透部分で破壊が生じた。一方、比較例1(シート8)、比較例2(シート9)および比較例4(シート10)では、いずれもアスファルト接着性が不充分であった。これらの原因としては、比較例1(シート8)では、上層の不織布の通気度が大きすぎる(即ち、不織布の目付けが小さすぎる)ため、比較例2(シート9)では、上層の不織布の通気度が小さすぎて(即ち、不織布の目付けが大きすぎて)、アスファルトが上層に充分に浸透できなくなるため、および比較例4(シート10)では、アスファルトが中間層のシートと直接接触するため、いずれもアスファルトと積層シートとの接触面積が小さくなることが推定される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のコンクリート床版防水用の積層シートは、アスファルトに対して充分な接着性を示す。また、本発明の積層シートを用いれば、コンクリート床版の防水工法をより簡便に実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層、中間層および上層からなる3層構造であり、
下層が熱可塑性ポリウレタンのシートであり、中間層がエチレン−酢酸ビニル共重合体のシートであり、上層がエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布であり、
JIS L 1096−A(フラジール法):1990に基づいて測定される上層のエチレン−酢酸ビニル共重合体の不織布の通気度が100〜550cm/cm/sの範囲である、コンクリート床版防水用の積層シート。
【請求項2】
下層および中間層が、熱可塑性ポリウレタンおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体の共押出によって製造されたものである、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
熱可塑性ポリウレタンがポリエーテルジオール成分を含むものである、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
JIS K 7121:1987に基づいて測定される中間層のエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点が40〜110℃である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項5】
JIS K 7121:1987に基づいて測定される上層のエチレン−酢酸ビニル共重合体の融点が40〜110℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項6】
コンクリート床版上に請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層シートを、その上層が上となるように積層し、次いで前記上層とアスファルトとが接触するようにアスファルトを積層する、コンクリート床版の防水工法。

【公開番号】特開2013−40514(P2013−40514A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178845(P2011−178845)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000133342)株式会社ダイフレックス (24)
【Fターム(参考)】